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JP6270275B2 - 医療用注射器に適用されるガスケットおよび医療用シリンジ - Google Patents

医療用注射器に適用されるガスケットおよび医療用シリンジ Download PDF

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Description

この発明は、医療用注射器に適用されるガスケットおよび医療用シリンジに関する。
医療用途に用いられる注射器は、通常、シリンジバレルと、シリンジバレル内を往復移動し得るプランジャと、プランジャの先端に取り付けられるガスケットとを含んでいる。
注射器に使用されるガスケットに求められる特性として、気密性および低摺動性が挙げられる。気密性とは、薬液が外部へ漏れることなく使用でき、外部からの異物の進入を防ぐことができることを示す。低摺動性とは、注射器使用時に、使用者が片手で無理なくプランジャでガスケットを移動させることができることを示す。
従来の注射器は、シリンジバレル内にシリコーンオイルを塗布することで、低摺動性を確保するとともに、気密性の確保も図っていたが、薬液によってはシリコーンが悪影響を及ぼすことがあるため、シリンジバレルにシリコーンを塗布しない構成が望まれている。
このような観点から、医療用注射器においては、ゴム製ガスケットの表面を摺動性の良いフィルム、たとえばフッ素樹脂フィルムでラミネートしたラミネートガスケットと呼ばれる製品が使用されることが多くなっている。
特許第2892617号公報 国際公開WO2008/078467号公報
ところで、ラミネートガスケットをシリンジバレルに挿入すると、ガスケットの最大径の部分(ピーク部分)は、シリンジバレル内面からの反力を受けて収縮し、その部分のフッ素樹脂フィルムに皺や弛みが生じることがある。皺や弛みが生じると、ガスケットのピーク部分とシリンジバレル内面とに隙間が発生し、ガスケットの気密性が低下して、液漏れや異物の混入を誘発する虞れがある。
先行技術文献のうち、特許文献1では、ガスケット先端部の周囲断面の曲率半径Rを0.1mm以下にすることで気密性を上げ、かつ、ガスケットの接液部と反対側の周囲径を小さくすることで、摺動性を向上させている。
ところが、ガスケット先端部の周囲断面の曲率半径Rを小さくし過ぎると、ラミネートフィルムが成形時に破れる可能性が高まる。また、ガスケットを製造する様々な工程中で、ガスケットが傾く危険性も高まる。
逆に、特許文献2では、ガスケット先端部の周囲断面の曲率半径Rを0.7mm以上とすることで、ガスケットが傾いた際にも気密性を確保できるようにされている。ところが、先端部の周囲断面の曲率半径Rを大きくすると、摺動性は改善されるものの、気密性が低下するという欠点がある。
この発明は、このような背景のもとになされたもので、ガスケットに求められる気密性および低摺動性の両方を満足し得る新規な構成のガスケットを提供することを主たる目的とする。
また、この発明は、そのようなガスケットを用いた医療用シリンジを提供することを他の目的とする。
請求項1記載の発明は、接液部およびシリンジバレル内面と接する摺動部を有するゴム製本体と、このゴム製本体の表面に積層されたラミネートフィルムとを有する医療用注射器に適用されるガスケットであって、前記摺動部には、接液部である先端側から後方へ向かって、環状に突設された第1凸部、環状に凹設された谷部および環状に突設された第2凸部が少なくとも形成されており、前記第1凸部の前記先端側の縁部の曲率半径が、1.2mm〜0.75mmであり、シリンジバレル内に装着された状態において、前記第1凸部には、先端側ピークと、後端側ピークというガスケットの最大径部分である2つのピークが生じるものであり、前記第1凸部の前記先端側に現れる先端側ピークのFEMで解析された面圧P1f(Mpa)および周方向に直交方向の幅D1f(mm)の積α(Mpa・mm)が、0.4≦α≦1.0に設計され、前記第2凸部のFEMで解析された面圧P2(Mpa)および周方向に直交方向の幅D2(mm)の積β(Mpa・mm)は、0.2≦β≦0.6に設計されていることを特徴とする、ガスケットである。
請求項2記載の発明は、前記ラミネートフィルムは、PTFEで形成されていることを特徴とする、請求項1記載のガスケットである
求項記載の発明は、医療用シリンジであって、筒状をしたシリンジバレルと、前記シリンジバレルに組み合わされ、シリンジバレル内を移動し得るプランジャと、前記プランジャの先端に装着された請求項1または2に記載のガスケットとを含むことを特徴とする、医療用シリンジである。
この発明の創作過程において、ガスケットに求められる気密性および低摺動性は、ガスケットがシリンジバレルを押す面圧が関係することが見い出された。すなわち、シリンジバレル内にガスケットが挿入された状態でのFEM(有限要素法)解析を行うことで、気密性および低摺動性は、ガスケットがシリンジバレルを押す面圧が影響することがわかった。
また、気密性は、ガスケット先端側の凸部(第1凸部)の面圧が大きく影響することがわかった。特に、第1凸部の先端寄りに現れるピークの面圧(P1f)とその幅(軸方向の幅:D1f)の積が気密性にとって非常に重要なファクターであることがわかった。
そして、面圧と幅の積が小さ過ぎると、気密性が悪化し、その積を大きくし過ぎると、摺動性が悪化することが確認された。
さらに、摺動部には、先端側から後方へ向かって、第1凸部に加えて環状の第2凸部が備えられていることが、摺動および打栓をスムーズに行う上で好ましいことも確認された。
第2凸部に関しても、その面圧(P2)とその軸方向の幅(D2)との積が大き過ぎると摺動性が悪化し、逆に小さ過ぎると、ガスケットが斜めに傾いたり、外気が入り込み易い等の不具合が発生し易くなることが確認された。
さらに、第1凸部の形状は、FEM解析による面圧形状がダブルピークになることが望ましいことがわかった。かかる形状とすることにより、ガスケットの気密性が向上することに加え、作業時にガスケットが斜めに傾いても、気密性が確保できることがわかった。
この発明によれば、ガスケットの気密性が向上するので、プレフィルド注射器に用いることにより、薬液の保管安定性が向上する。
また、ガスケットの摺動性を低下させないので、注射器使用者の負担を軽くすることができる。
さらに、ガスケットの製造工程において、FEM解析によって、ガスケットの気密性および摺動性を推測することが可能になり、より安全なガスケットの設計を短期間に行うことが可能となる。
図1は、この発明の一実施形態に係る医療用シリンジを分解状態で示す図である。 図2は、この発明の一実施形態に係るラミネートガスケットの半分を断面で示す図である。 図3は、FEM解析の位置を示す図である。 図4は、気密性試験および摺動性試験を説明する図である。
以下には、図面を参照して、この発明の一実施形態について具体的に説明をする。
図1は、この発明の一実施形態に係る医療用シリンジ、いわゆるプレフィルドシリンジと呼ばれるシリンジを分解状態で示す図である。図1において、シリンジバレル11およびガスケット13は、半分が断面で示されている。
図1を参照して、プレフィルドシリンジ10は、円筒形状のシリンジバレル11と、シリンジバレル11と組み合わされ、シリンジバレル11内を往復移動し得るプランジャ12と、プランジャ12の先端に装着されるガスケット13とを含んでいる。ガスケット13は、弾性材(ゴムまたはエラストマ等)で構成された本体14と、本体14の表面に積層されたラミネートフィルム15とを含むいわゆるラミネートガスケットである。ガスケット13にはシリンジバレル11の内周面16と気密的・液密的に接する摺動部としての2つの円周面部、すなわち第1凸部17Aおよび第2凸部17Bが備えられている。
プランジャ12は、たとえば横断面が十文字状の樹脂製板片で構成され、その先端にはガスケット13が取り付けられるヘッド部18が備えられている。ヘッド部18は、プランジャ11と一体に形成された樹脂製で、雄ねじ形状に加工されている。
ガスケット13は、短軸の略円柱形状で、その先端面は、たとえば軸中心部が突出する鈍角の山形形状をしている。そして後端面から軸方向に彫り込まれた雌ねじ形状の嵌合凹部21が形成されている。プランジャ12のヘッド部18が、ガスケット13の嵌合凹部21にねじ込まれることにより、プランジャ12の先端にガスケット13が装着される。
図2は、図1に示すガスケット13だけを拡大して描いた図で、ガスケット13の半分が断面で示されている。
図2を参照して、この実施形態に係るガスケット13の構成について、より詳細に説明をする。
ガスケット13は、本体14と、本体14の表面に積層されたラミネートフィルム15とを含む。本体14は、弾性材であるゴム(架橋ゴム)で構成されている。
本体14の表面に積層するラミネートフィルム15は、架橋ゴム(本体14)からの成分の移行を阻止でき、かつ、ゴムよりも摺動性の優れるもの、すなわちゴムより摩擦係数の小さいフィルムであれば、その種類は特に限定されない。
一例として、以下に、本体14とラミネートフィルム15の成分を例示する。
<ゴムについて>
本体14の原料となるゴムには、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等のニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴムまたは1,2−ポリブタジエン等が使用される。
これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。
本体14に使用されるゴムは、上記に限定されないが、ブチル系ゴムまたは/およびエチレン−プロピレン−ジエンゴム(以下、EPDMゴムという)が好ましい。
ブチル系ゴムは耐気体透過性および耐水蒸気透過性に優れることから好ましい。
ブチル系ゴムとしては公知の化合物を用いてよいが、例えばイソブチレン−イソプレン共重合ゴム、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(以下、「ハロゲン化ブチルゴム」という)、またはその変性物が挙げられる。変性物としては、イソブチレンとp−メチルスチレンの共重合体の臭素化物等が挙げられる。なかでも、架橋の容易さからハロゲン化ブチルゴムがより好ましく、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムが更に好ましい。
また、EPDMゴムは加工性に優れているため好ましい。EPDMゴムにはゴム成分のみからなる非油展タイプのEPDMゴムとゴム成分とともに伸展油を含む油展タイプのEPDMゴムとが存在するが、本発明ではいずれのタイプのものも使用可能である。EPDMゴムにおけるジエンモノマーの例としては、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエンまたはシクロオクタジエンなどが挙げられる。
さらに、ハロゲン化ブチルゴムとEPDMゴムの組み合わせは相性が良く、耐気体透過性および耐水蒸気透過性に優れるとともに加工性も優れることからより好ましい。
この実施形態では、本体14はシリンジ用のガスケットという医療用ゴム製品であり、ゴムの主成分として気体透過性の低いブチルゴムが好ましい。架橋剤としては、清浄性の観点から、トリアジン誘導体架橋の使用が好ましい。
<ラミネートフィルム15について>
ラミネートフィルム15は、不活性フィルムであればよく、特に限定されないが、良好な耐薬品性が得られるという点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE;4Fモノマーと微量のパーフルオロアルコキシドとの共重合体)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE))、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、及び/又はオレフィン系樹脂が好ましい。
<ラミネートガスケット13の成型工程について>
この実施形態のラミネートガスケット13は、密封式混練機、オープンロール混練機などを用いて、所定配合比で配合材料を混練した混練物を、カレンダーまたはシート成型機で未加硫ゴムシートを作製し、次に、一定重量、サイズの未加硫ゴムシートと不活性フィルムを重ねて金型に置き、真空プレスで成型することにより、積層ガスケットの成型シートを得ることができる。
成型条件は特に限定されず、適宜設定すればよいが、成型温度は、好ましくは155〜200℃、より好ましくは165〜180℃であり、成型時間は、好ましくは1〜20分間、より好ましくは3〜15分間、さらに好ましくは5〜10分間である。使用する金型は、摺動面形成部の鏡面仕上げにより、該当部のカットオフ値0.08mmで測定した算術平均粗さRaが0.03μm以下の平滑な金型表面が形成されていることが好ましい。このような金型を使用することによって、積層成型されたゴム部材は、元のフィルムの表面粗さより小さい成型品を得ることができる。Raは、好ましくは0.02μm以下、より好ましくは0.015μm以下である。
この後、ガスケットの成型品から不要部分を、切断・除去した後、洗浄、滅菌、乾燥および外観検査を行ってガスケットの一次完成品を得る。
この実施形態に係るガスケット13の特徴は、シリンジバレル11の内周面16に気密的、液密的に接する摺動部として第1凸部17Aおよび第2凸部17Bを備えていることであり、かつ、第1凸部17Aは、FEMで解析された面圧P1fおよび幅D1fの積αが、0.4≦α≦1.0となるように設計されていることである。
より具体的に説明すると、第1凸部17Aには、先端側ピークと後端側ピークとの2つのピークが生じるようにされ、その先端側ピークの面圧Plfと幅D1fとの積が、0.4≦α≦1.0に設計されている。
さらに、第1凸部17Aの先端側縁部の曲率半径Rは、1.2mm以下とされている。
このように設計することにより、この実施形態に係るガスケット13を、気密性および低摺動性を満たす製品とすることができる。
図2に示す形状、すなわち外周面に、シリンジバレル11の内周面16と接する摺動部として第1凸部17Aおよび第2凸部17Bが備えられている形状のガスケットにおいて、FEM(Finite Element Method(有限要素法))の解析を行った。解析は、静的陰解法を用い、解析ソフトには、marc&mentatを使用した。
解析対象のガスケットは、本体14を硬度60のゴムで作成し、ラミネートフィルム15はPTFE(引っ張り弾性率が485Mpa、ポアソン比が0.46)を使用した。
解析位置は、図3に示す位置とし、その位置において、シリンジバレル11内に装着されたガスケット13の第1凸部17Aの先端側ピークにおける面圧P1fと、そのピークの幅D1fとの積を計算した。
また、第2凸部17BにおけるFEM解析された面圧P2とその幅D2との積についても計算した。
さらに、気密性試験として、図4(A)(B)に示す試験をした。
図4(A)に示すように、シリンジバレル11に純水Wを満たしガスケット13で封栓し、放置する試験を行った。
テスト液には、上述のように純水を使用し、シリンジバレル11はCOP社製の100mLサイズを使用した。放置温度は40℃で、1週間放置した。
ガスケット13の先端側(図では上側)の第1凸部17Aを超えて、第1凸部17Aと第2凸部17Bとの間の凹部までテスト液が浸入したか否かを観察した。観察の結果は、
〇:液無
△:小さな液滴(1mm以下)
×:大きな液滴(1mmを超える)
である。
また、図4(B)に示すように、摺動性試験を行った。
試験機:オートグラフ(島津製作所製)
試験温度:室温
試験速度5mm/s
とした。
評価方法は、加圧時の荷重を計測することにより行った。
〇:最大荷重40N以下
×:最大荷重40Nを超える
とした。
以上の結果をまとめたものが、下記の表1である。
Figure 0006270275
表1により、第1凸部17Aの先端側に現れる第1ピークの面圧P1fおよび幅D1fの積αが、
0.4≦α≦1.0
であることが、気密性および摺動性の良いガスケットであることが理解できる。
上記範囲外の場合、すなわち第1凸部17Aのピーク部の面圧および幅の積が1.0を超える場合は、比較例2の結果から、摺動性が損なわれることが判明した。
また、第1凸部17A先端の曲率半径Rは、1.2mm以下のもの、すなわち第1凸部17A先端が、いわゆるC面形状等の曲率半径Rが大きなものは、気密性の点で好ましくないという結果になった(比較例1を参照)。
この発明は、以上説明した実施形態や実施例の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
10 プレフィルドシリンジ
11 シリンジバレル
12 プランジャ
13 ガスケット
14 本体
15 ラミネートフィルム
16 シリンジバレルの内周面
17A 第1凸部
17B 第2凸部

Claims (3)

  1. 接液部およびシリンジバレル内面と接する摺動部を有するゴム製本体と、このゴム製本
    体の表面に積層されたラミネートフィルムとを有する医療用注射器に適用されるガスケッ
    トであって、
    前記摺動部には、接液部である先端側から後方へ向かって、環状に突設された第1凸部
    、環状に凹設された谷部および環状に突設された第2凸部が少なくとも形成されており、
    前記第1凸部の前記先端側の縁部の曲率半径が、1.2mm〜0.75mmであり、
    シリンジバレル内に装着された状態において、前記第1凸部には、先端側ピークと、後端側ピークというガスケットの最大径部分である2つのピークが生じるものであり、
    前記第1凸部の前記先端側に現れる先端側ピークのFEMで解析された面圧P1f(Mpa)および周方向に直交方向の幅D1f(mm)の積α(Mpa・mm)が、
    0.4≦α≦1.0
    に設計され、
    前記第2凸部のFEMで解析された面圧P2(Mpa)および周方向に直交方向の幅D2(mm)の積β(Mpa・mm)は、
    0.2≦β≦0.6
    に設計されていることを特徴とする、ガスケット。
  2. 前記ラミネートフィルムは、PTFEで形成されていることを特徴とする、請求項1記
    載のガスケット。
  3. 医療用シリンジであって、
    筒状をしたシリンジバレルと、
    前記シリンジバレルに組み合わされ、シリンジバレル内を移動し得るプランジャと、
    前記プランジャの先端に装着された請求項1または2に記載のガスケットと
    を含むことを特徴とする、医療用シリンジ。
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