JP6268578B2 - アルミニウム合金、およびアルミニウム合金の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、アルミニウム合金、およびその製造方法に関するものである。特に、高温において耐クリープ性および疲労強度に優れるアルミニウム合金に関するものである。
自動車や航空機の構成部品などといった種々の部品の素材にアルミニウム合金が使用されている。例えば、特許文献1には、Si、Fe、Ni、Zr、およびMM(ミッシュメタル)を、それぞれ適当な量含有したアルミニウム合金が記載されている。このアルミニウム合金は、これらの元素を適当な量含有することで、機械的特性、具体的には、耐熱性および耐クリープ性を向上させている。それを示すものとして、実施例には300℃における耐クリープ性についての試験結果が開示されている。
近年、アルミニウム合金の使用環境下における要求特性の向上に伴って、アルミニウム合金のさらなる機械的特性の改善が望まれている。しかし、上述したアルミニウム合金では、300℃を超えるような高温、特に400℃程度において、機械的特性、具体的には耐クリープ性、及び疲労強度が十分ではない。そのため、上記の温度のような高温での耐クリープ性および疲労強度の更なる向上が望まれている。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、高温において耐クリープ性および疲労強度に優れるアルミニウム合金を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記本発明のアルミニウム合金の製造方法を提供することにある。
本発明のアルミニウム合金は、Si、Fe、Ni、Zr、およびMMを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。上記各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1とするとき、0.185≦β≦0.235、0.145≦γ≦0.184、0.110≦δ≦0.140、0.370≦ε≦0.470を満たす。
本発明のアルミニウム合金の製造方法は、添加元素としてSi、Fe、Ni、Zr、およびMMを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミ合金を製造する方法で、以下の工程を備える。
準備工程:各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1のとき、以下の式を満たす添加元素およびAlからなる原料粉末を用意する。
成形工程:上記原料粉末を圧粉成形して予備成形体を作製する。
加熱保持工程:得られた予備成形体を、380℃以上450℃以下の温度で加熱し、その加熱温度で30分以上5時間以下保持する。
塑性加工工程:加熱した予備成形体に温間塑性加工を施す。
0.185≦β≦0.235
0.145≦γ≦0.184
0.110≦δ≦0.140
0.370≦ε≦0.470
準備工程:各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1のとき、以下の式を満たす添加元素およびAlからなる原料粉末を用意する。
成形工程:上記原料粉末を圧粉成形して予備成形体を作製する。
加熱保持工程:得られた予備成形体を、380℃以上450℃以下の温度で加熱し、その加熱温度で30分以上5時間以下保持する。
塑性加工工程:加熱した予備成形体に温間塑性加工を施す。
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本発明のアルミニウム合金は、高温において耐クリープ性および疲労強度に優れる。
本発明のアルミニウム合金の製造方法は、高温において耐クリープ性および疲労強度に優れるアルミニウム合金を製造できる。
《本発明の実施形態の説明》
本発明者らは、アルミニウム合金における添加元素および合金組成を種々検討した結果、特定の合金組成とすることで、高温でも耐クリープ性と疲労強度に優れるアルミニウム合金が得られるとの知見を得た。
本発明者らは、アルミニウム合金における添加元素および合金組成を種々検討した結果、特定の合金組成とすることで、高温でも耐クリープ性と疲労強度に優れるアルミニウム合金が得られるとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたもので、添加される元素の質量%における組成比を規定することで上述の目的を達成する。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)実施形態に係るアルミニウム合金は、Si、Fe、Ni、Zr、およびMMを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。上記各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1とするとき、0.185≦β≦0.235、0.145≦γ≦0.184、0.110≦δ≦0.140、0.370≦ε≦0.470を満たす。
上記のアルミニウム合金によれば、上記各元素を添加する際に、上記の組成比の範囲を満たすように添加することで、高温において耐クリープ性および疲労強度を向上できる。
(2)上記アルミニウム合金の一形態として、上記Siが10質量%以上20質量%以下含有されていることが挙げられる。
上記の構成によれば、Siの含有量が上記の範囲であることにより、高温での強度(例えば、疲労強度)を向上できる上に、耐摩耗性も向上できる。また、上記組成比からその他の添加元素の含有量が決まる。それにより、高温において優れた耐クリープ性および疲労強度を効果的に達成できる。
(3)上記アルミニウム合金の一形態として、上記α:β:γ:δ:ε=1:0.20:0.16:0.12:0.41であることが挙げられる。
上記の構成によれば、上記添加元素の組成比を上記の値とすることで、結晶組織を微細にでき、高温において耐クリープ性および疲労強度がより優れたものとすることができる。
(4)上記アルミニウム合金の一形態として、上記Siが13.4質量%以上17.2質量%以下含有されていることが挙げられる。
上記の構成によれば、強度(例えば、疲労強度)の向上をより効果的に達成でき、高温において耐クリープ性および疲労強度に優れるものとすることができる。
(5)上記アルミニウム合金の一形態として、上記各添加元素が質量%で、Si:Fe:Ni:Zr:MM=15.3:3.2:2.5:1.9:6.4含有されていることが挙げられる。
上記の構成によれば、上記添加元素の含有量を上記の値とすることで、高温において耐クリープ性および疲労強度がより一層優れるものとすることができる。
(6)上記アルミニウム合金の一形態として、上記Siが10.6質量%以上13.4質量%未満含有されていることが挙げられる。
上記の構成によれば、上記添加元素の含有量を上記の値とすることで、高温において耐クリープ性および疲労強度が優れるものとすることができる。
(7)上記アルミニウム合金の一形態として、上記添加元素の組成比が質量%で、Si:Fe:Ni:Zr:MM=12.0:2.5:2.0:1.5:5.0であることが挙げられる。
上記の構成によれば、上記添加元素の含有量を上記の値とすることで、高温において耐クリープ性および疲労強度が優れるものとすることができる。
(8)上記アルミニウム合金の一形態として、さらにMgを含み、上記Mgは0.1質量%以上0.5質量%以下含有していることが挙げられる。
上記の構成によれば、Mgは、微量添加すると、原料粉末を所定の温度に加熱した際、粉末の表面に出てきて、粉末表面の酸化皮膜を破壊して、アルミニウムの新生面を露出させる。そのため、温間押出や温間鍛造などの温間塑性加工を行う際、原料粉末の接合性を高められる。その結果、塑性加工品の靭性を向上できる。また、Mgは、固溶することによって合金の機械的特性(特に高温での破断伸び)を高められる。そのため、Mgを含有することで、強度と靭性との双方に優れるアルミニウム合金とすることができる。
(9)実施形態に係るアルミニウム合金の製造方法は、添加元素としてSi、Fe、Ni、Zr、およびMMを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミ合金を製造する方法で、以下の工程を備える。
準備工程:各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1のとき、以下の式を満たす添加元素およびAlからなる原料粉末を用意する。
成形工程:上記原料粉末を圧粉成形して予備成形体を作製する。
加熱保持工程:得られた予備成形体を、380℃以上450℃以下の温度で加熱し、その加熱温度で30分以上5時間以下保持する。
塑性加工工程:加熱した予備成形体に温間塑性加工を施す。
0.185≦β≦0.235
0.145≦γ≦0.184
0.110≦δ≦0.140
0.370≦ε≦0.470
準備工程:各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1のとき、以下の式を満たす添加元素およびAlからなる原料粉末を用意する。
成形工程:上記原料粉末を圧粉成形して予備成形体を作製する。
加熱保持工程:得られた予備成形体を、380℃以上450℃以下の温度で加熱し、その加熱温度で30分以上5時間以下保持する。
塑性加工工程:加熱した予備成形体に温間塑性加工を施す。
0.185≦β≦0.235
0.145≦γ≦0.184
0.110≦δ≦0.140
0.370≦ε≦0.470
上記の製造方法によれば、加熱保持工程において、上記の加熱温度で保持時間であれば、作製工程を経て作製された予備成形体に生じた結晶水を十分に除去できる。また、Siの結晶粒などが成長することを抑制でき、微細な組織を維持できる。そのため、靭性や強度の低下を抑止できる。したがって、高温において耐クリープ性および疲労強度に優れるアルミニウム合金を製造できる。
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。ここでは、アルミニウム合金の製造方法を説明しつつ、高温において耐クリープ性および疲労強度に優れるアルミニウム合金について説明する。
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。ここでは、アルミニウム合金の製造方法を説明しつつ、高温において耐クリープ性および疲労強度に優れるアルミニウム合金について説明する。
〔アルミニウム合金の製造方法〕
本実施形態のアルミニウム合金の製造方法は、下記の工程a〜dに従って行う。
(工程a)アルミニウム合金の原料粉末を用意する工程。
(工程b)原料粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する工程。
(工程c)予備成形体を加熱保持する工程。
(工程d)加熱した予備成形体に温間塑性加工を施す工程。
以下、工程a〜dごとに詳細に説明する。
本実施形態のアルミニウム合金の製造方法は、下記の工程a〜dに従って行う。
(工程a)アルミニウム合金の原料粉末を用意する工程。
(工程b)原料粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する工程。
(工程c)予備成形体を加熱保持する工程。
(工程d)加熱した予備成形体に温間塑性加工を施す工程。
以下、工程a〜dごとに詳細に説明する。
[工程a:原料粉末の用意]
(組成)
工程aでは、アルミニウム合金の原料粉末を用意する。その用意する原料粉末は、Si、Fe、Ni、Zr、およびMM(ミッシュメタル)が含有され、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。各添加元素をAlマトリクスに含有させる理由は次の通りである。なお、ここで用意された原料粉末の組成は、最終的に得られる(例えば、後述する温間塑性加工工程を経て得られる)アルミニウム合金の組成として維持される。
(組成)
工程aでは、アルミニウム合金の原料粉末を用意する。その用意する原料粉末は、Si、Fe、Ni、Zr、およびMM(ミッシュメタル)が含有され、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。各添加元素をAlマトリクスに含有させる理由は次の通りである。なお、ここで用意された原料粉末の組成は、最終的に得られる(例えば、後述する温間塑性加工工程を経て得られる)アルミニウム合金の組成として維持される。
Siは、アルミニウム合金を作製した際に、アルミニウム合金を低比重に維持した状態で強度の向上に寄与する。特に、高温での強度の向上に効果があるうえに、Alマトリクス中にSi結晶として晶出し、耐摩耗性の向上に寄与する。
FeおよびNiは、Alマトリクス中でAl−Fe−Niの3元系金属間化合物の微細な粒子として晶出される。このような微細な金属間化合物が晶出することで、アルミニウム合金に温間塑性加工を施す際に割れや破壊などの起点となるAlマトリクスの結晶粒の粗大化を抑制できる。したがって、上記金属間化合物などの粗大化を抑制することで、合金の靭性を高められる。また、このような微細な金属間化合物がAlマトリクス中に存在することで、耐熱性も高められる。
Zrは、Alとの間で微細な金属間化合物(Al3Zr(非平衡相L12型金属間化合物))を形成し、結晶生成の優先核となることで、Alの結晶粒を微細にし、合金組織の微細化を図ることができる。組織の微細化により、高強度を維持しながら、靭性を向上し易い。また、Zrは、耐熱性の向上に効果がある。
MMはとしては、Ce、La、Pr、Nd、Yなどの希土類元素から選択される複数種の元素からなるものが挙げられる。MMに含まれる希土類元素は、AlやAlとSiとの間で微細な金属間化合物を形成し、Alマトリクスの結晶粒界に晶出して、Alの結晶粒の粗大化を抑制する効果がある。また、MMはAl−遷移金属系金属間化合物を小さくしたり、Si結晶を微細にしたりして室温から高温までの引張強さを向上する働きを有する。このような微細な金属間化合物がAlマトリクス中に存在することで、アルミニウム合金の耐熱性も高められる。
以上に述べた、各添加元素をAlマトリクスに含有させることで得られる効果は、後述する所定量を添加することで好適に得られる。
(組成比)
これらの各添加元素を組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εが質量%で、α=1とするとき、0.185≦β≦0.235、0.145≦γ≦0.184、0.110≦δ≦0.140、0.370≦ε≦0.47を満たすように含有する。この組成比を満たすことで、上述した各添加元素を添加することにより得られる効果を高めることができ、耐クリープ性および疲労強度に優れるアルミニウム合金とすることができる。より上記効果を高めるために好ましい上記組成比として、α=1とするとき、β=0.20、γ=0.16、δ=0.12、ε=0.41であることが挙げられるが、この組成比は、小数点第三位以下を切り捨てた場合においての値である。つまり、α=1とするとき、0.200≦β<0.210、0.160≦γ<0.170、0.120≦δ<0.130、0.410≦ε<0.420であればよい。もちろん、小数点第三位以下であってもより正確であることの方が好ましいので、より具体的には、β=0.2092、γ=0.1634、δ=0.1242、ε=0.4183であればなお一層好ましい。この組成比は、後述するSiの含有量が15.3質量%のときの特に好適な比率である。また、α=1とするとき、β=0.2083、γ=0.1667、δ=0.125、ε=0.4167であってもよい。この組成比は、後述するSiの含有量が12.0質量%のときの特に好適な比率である。
これらの各添加元素を組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εが質量%で、α=1とするとき、0.185≦β≦0.235、0.145≦γ≦0.184、0.110≦δ≦0.140、0.370≦ε≦0.47を満たすように含有する。この組成比を満たすことで、上述した各添加元素を添加することにより得られる効果を高めることができ、耐クリープ性および疲労強度に優れるアルミニウム合金とすることができる。より上記効果を高めるために好ましい上記組成比として、α=1とするとき、β=0.20、γ=0.16、δ=0.12、ε=0.41であることが挙げられるが、この組成比は、小数点第三位以下を切り捨てた場合においての値である。つまり、α=1とするとき、0.200≦β<0.210、0.160≦γ<0.170、0.120≦δ<0.130、0.410≦ε<0.420であればよい。もちろん、小数点第三位以下であってもより正確であることの方が好ましいので、より具体的には、β=0.2092、γ=0.1634、δ=0.1242、ε=0.4183であればなお一層好ましい。この組成比は、後述するSiの含有量が15.3質量%のときの特に好適な比率である。また、α=1とするとき、β=0.2083、γ=0.1667、δ=0.125、ε=0.4167であってもよい。この組成比は、後述するSiの含有量が12.0質量%のときの特に好適な比率である。
(含有量)
上記原料粉末は、上記各添加元素の組成比を保ったままで、Siの含有量を10質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。そうすれば、上述した各添加元素を添加することにより得られる効果をより高めることができる。つまり、Siの含有量と上記組成比から、その他の添加元素の含有量が決まり、Siが10質量%以上20質量%以下含有することが、その他の添加元素もそれぞれ上述した効果を高めるための好ましい範囲を満たす。さらに上記効果を高めるためには、上記Siの含有量は13.4質量%以上17.2質量%以下、特に13.8質量%以上17.0質量%以下であることが好ましく、15.3質量%である場合がより一層好ましい。Siの含有量が15.3質量%のとき、上述したβ=0.2092、γ=0.1634、δ=0.1242、ε=0.4183がより一層好ましい組成比なので、その他の添加元素のより一層好ましい含有量はそれぞれ、Fe=3.2質量%、Ni=2.5質量%、Zr=1.9質量%、MM=6.4質量%となるが、これらの値における前後10%の範囲に含まれていれば十分好ましい。
上記原料粉末は、上記各添加元素の組成比を保ったままで、Siの含有量を10質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。そうすれば、上述した各添加元素を添加することにより得られる効果をより高めることができる。つまり、Siの含有量と上記組成比から、その他の添加元素の含有量が決まり、Siが10質量%以上20質量%以下含有することが、その他の添加元素もそれぞれ上述した効果を高めるための好ましい範囲を満たす。さらに上記効果を高めるためには、上記Siの含有量は13.4質量%以上17.2質量%以下、特に13.8質量%以上17.0質量%以下であることが好ましく、15.3質量%である場合がより一層好ましい。Siの含有量が15.3質量%のとき、上述したβ=0.2092、γ=0.1634、δ=0.1242、ε=0.4183がより一層好ましい組成比なので、その他の添加元素のより一層好ましい含有量はそれぞれ、Fe=3.2質量%、Ni=2.5質量%、Zr=1.9質量%、MM=6.4質量%となるが、これらの値における前後10%の範囲に含まれていれば十分好ましい。
また、上記Siの含有量は、10.6質量%以上13.4質量%未満であっても構わない。この場合であっても、上述した各元素を添加することで得られる効果を相当程度達成する。Siの含有量は、10.6質量%以上13.4質量%未満の場合、10.8質量%以上13.2質量%以下がより好ましく、Siの含有量が12.0質量%である場合がさらに好ましい。Siの含有量が12.0質量%のとき、上述したβ=0.2083、γ=0.1667、δ=0.125、ε=0.4167がさらに好ましい組成比なので、その他の添加元素のさらに好ましい含有量はそれぞれ、Fe=2.5質量%、Ni=2.0質量%、Zr=1.5質量%、MM=5.0質量%となるが、これらの値における前後10%の範囲に含まれていれば十分好ましい。
(その他)
上記原料粉末はさらにMgが添加されてもよい。Mgは、原料粉末を所定の温度に加熱した際、Mgが粉末の表面に出てきて、粉末表面の酸化皮膜を破壊し、アルミニウムの新生面を露出させる。そのため、後工程において温間押出や温間鍛造などの温間塑性加工を行う際、原料粉末の接合性を高められる。その結果、塑性加工品の靭性を向上できる。また、Mgは、固溶強化によって合金の強度を高められる。そのため、Mgを含有することで、強度と靭性との双方に優れるアルミニウム合金とすることができる。これらの効果を好適に達成するため、Mgの含有量を0.1質量%以上0.5質量%以下、特に、0.2質量%以上0.4質量%以下とすることが好ましい。特にMgは、0.3質量%であることがなお一層好ましい。例えば、Mgの質量%における組成比をζと置くと、Siが15.3質量%の場合、Siの組成比α=1に対して、Mgが0.3質量%のとき、組成比で表すとζ=0.0196となり、この値の前後10%程度の値でも十分好ましいので、その値を比率で表すと、おおよそ0.017≦ζ≦0.022となる。また、Siが12.0質量%の場合、Siの組成比α=1に対して、Mgが0.3質量%のとき、組成比で表すとζ=0.025となり、この値の前後10%程度の値でも十分好ましいので、その値を比率で表すと、おおよそ0.0225≦ζ≦0.0275となる。
上記原料粉末はさらにMgが添加されてもよい。Mgは、原料粉末を所定の温度に加熱した際、Mgが粉末の表面に出てきて、粉末表面の酸化皮膜を破壊し、アルミニウムの新生面を露出させる。そのため、後工程において温間押出や温間鍛造などの温間塑性加工を行う際、原料粉末の接合性を高められる。その結果、塑性加工品の靭性を向上できる。また、Mgは、固溶強化によって合金の強度を高められる。そのため、Mgを含有することで、強度と靭性との双方に優れるアルミニウム合金とすることができる。これらの効果を好適に達成するため、Mgの含有量を0.1質量%以上0.5質量%以下、特に、0.2質量%以上0.4質量%以下とすることが好ましい。特にMgは、0.3質量%であることがなお一層好ましい。例えば、Mgの質量%における組成比をζと置くと、Siが15.3質量%の場合、Siの組成比α=1に対して、Mgが0.3質量%のとき、組成比で表すとζ=0.0196となり、この値の前後10%程度の値でも十分好ましいので、その値を比率で表すと、おおよそ0.017≦ζ≦0.022となる。また、Siが12.0質量%の場合、Siの組成比α=1に対して、Mgが0.3質量%のとき、組成比で表すとζ=0.025となり、この値の前後10%程度の値でも十分好ましいので、その値を比率で表すと、おおよそ0.0225≦ζ≦0.0275となる。
Alの結晶粒は、平均粒径が0.2μm以上2μm以下であると、超塑性が発現し易く、後工程において塑性加工性に優れる。Si結晶粒は、平均粒径が2μm以下であると、塑性加工の際、割れなどの起点が存在し難く、塑性加工性に優れる。金属間化合物(例えば、Al−Fe−Ni、Al3Zr、Al−MM)は、平均粒径が1μm以下であると、超塑性が発現し易く、塑性加工性に優れる。また、このような微細組織を有することで、靭性を向上し易い。
(原料粉末の製造方法)
この原料粉末は、エアアトマイズ法(大気アトマイズ法)や水アトマイズ法といったアトマイズ法などで製造された急冷凝固粉末が好適に利用できる。急冷凝固粉末は、Alの結晶粒、Siの結晶粒、金属間化合物が微細に形成されており、この微細組織を利用した超塑性的な加工を行うことで、得られたアルミニウム合金の組織も微細組織とすることができる。
この原料粉末は、エアアトマイズ法(大気アトマイズ法)や水アトマイズ法といったアトマイズ法などで製造された急冷凝固粉末が好適に利用できる。急冷凝固粉末は、Alの結晶粒、Siの結晶粒、金属間化合物が微細に形成されており、この微細組織を利用した超塑性的な加工を行うことで、得られたアルミニウム合金の組織も微細組織とすることができる。
[工程b:予備成形体の作製工程]
工程bでは、工程aで用意された原料粉末を圧縮して予備成形体を作製する。原料粉末を圧縮して予備成形体を作製するに当たり、上記原料粉末に圧粉成形を施す際、圧粉成形を加熱状態で行うと、粉末がべとつきハンドリング性が低下する。従って、ハンドリング性を考慮すると、圧粉成形は、冷間で行うことが好ましい。例えば、CIP(静水圧プレス)や冷間金型成形が挙げられる。
工程bでは、工程aで用意された原料粉末を圧縮して予備成形体を作製する。原料粉末を圧縮して予備成形体を作製するに当たり、上記原料粉末に圧粉成形を施す際、圧粉成形を加熱状態で行うと、粉末がべとつきハンドリング性が低下する。従って、ハンドリング性を考慮すると、圧粉成形は、冷間で行うことが好ましい。例えば、CIP(静水圧プレス)や冷間金型成形が挙げられる。
[工程c:加熱保持工程]
工程cでは、工程bで作製された予備成形体の相対密度を高めて固化するために加熱して、その加熱温度で保持する。予備成形体は、相対密度が低く、結晶水を吸着した状態である。結晶水が存在すると、結晶水がAlと反応して水素などのガスを発生させ、靭性を低下させる恐れがある。そこで、相対密度を高め、結晶水などを除去して固化するために予備成形体を加熱する。
工程cでは、工程bで作製された予備成形体の相対密度を高めて固化するために加熱して、その加熱温度で保持する。予備成形体は、相対密度が低く、結晶水を吸着した状態である。結晶水が存在すると、結晶水がAlと反応して水素などのガスを発生させ、靭性を低下させる恐れがある。そこで、相対密度を高め、結晶水などを除去して固化するために予備成形体を加熱する。
加熱を行う際は、例えば、不活性ガス(例えば、窒素)雰囲気炉で行うことが挙げられる。このときの加熱温度を380℃以上450℃以下とし、この温度範囲内の所定の温度に到達した後、その到達温度を30分以上5時間以下保持して行うことが好ましい。加熱温度が380℃以上で、保持時間が30分以上であれば、結晶水などを十分に除去できる。そして、加熱時間が450℃以下で、保持時間が5時間以下であれば、Siの結晶粒などが成長して粗大化するのを抑制でき、結晶の微細組織を維持できる。そのため、粗大な結晶粒などが存在しないので、靭性や強度が低下しない。特に加熱温度を390℃以上420℃以下、保持時間を30分以上3時間以下とすることが好ましく、2時間以下がさらに好ましい。また、雰囲気炉は、予備成形体全体を均一的に加熱し易いことから、温度のばらつきによる不具合(結晶水の除去が不十分である箇所が存在するなど)の発生を抑制できる。
この加熱は、誘導加熱により行うこともできる。このとき、予備成形体が450℃以上550℃以下の温度に曝される時間を15秒以上30分未満とすることが好ましく、加熱温度は、460℃以上520℃以下であることがより好ましい。誘導加熱では、主として予備成形体の表面を加熱する。従って、熱伝導により内部の温度も十分に高められるように、加熱温度を雰囲気炉の場合よりも高めにする。
[工程d:温間塑性加工工程]
工程dでは、工程cで加熱保持された予備成形体に温間塑性加工を施す。温間塑性加工を施すことで、実施形態に係るアルミニウム合金が得られる。得られたアルミニウム合金は、更に緻密化され、結晶水などがほぼ完全に除去されている。温間塑性加工は、予備成形体に圧縮とせん断とを加えて原料粉末の活性な面を露出させ、粉末同士が十分に接合できるような条件(温度、時間、圧力)で行うとよい。このような温間塑性加工として、例えば、温間押出や温間鍛造などが挙げられる。特に、温間押出は、温間鍛造よりも圧力が加え易く、粉末同士を接合させ易く好ましい。また、温間押出を行う場合、押出比を6以上とすることが好ましい。押出比が6以上とすることで、粉末同士が十分に接合され、高強度で高靭性であるアルミニウム合金が得られる。押出比が高いほど接合性を高められるが、設備などを考慮すると、押出比は35以下が好ましく、更に生産性を考慮すると、10以下がより好ましい。
工程dでは、工程cで加熱保持された予備成形体に温間塑性加工を施す。温間塑性加工を施すことで、実施形態に係るアルミニウム合金が得られる。得られたアルミニウム合金は、更に緻密化され、結晶水などがほぼ完全に除去されている。温間塑性加工は、予備成形体に圧縮とせん断とを加えて原料粉末の活性な面を露出させ、粉末同士が十分に接合できるような条件(温度、時間、圧力)で行うとよい。このような温間塑性加工として、例えば、温間押出や温間鍛造などが挙げられる。特に、温間押出は、温間鍛造よりも圧力が加え易く、粉末同士を接合させ易く好ましい。また、温間押出を行う場合、押出比を6以上とすることが好ましい。押出比が6以上とすることで、粉末同士が十分に接合され、高強度で高靭性であるアルミニウム合金が得られる。押出比が高いほど接合性を高められるが、設備などを考慮すると、押出比は35以下が好ましく、更に生産性を考慮すると、10以下がより好ましい。
[その他]
上記製造方法により得られたアルミニウム合金は、そのまま利用してもよいし、所望の部材を得るための材料として利用してもよい。所望の部材とするために、別途、温間塑性加工(例えば、鍛造)や切削加工を施すとよい。
上記製造方法により得られたアルミニウム合金は、そのまま利用してもよいし、所望の部材を得るための材料として利用してもよい。所望の部材とするために、別途、温間塑性加工(例えば、鍛造)や切削加工を施すとよい。
[作用効果]
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
上述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)各添加元素を含有することにより得られる特性をより効果的に作用できるため、結晶粒の粗大化を抑制し、金属間化合物の結晶組織を微細化できる。そのため、高温において耐クリープ性および疲労強度を向上できる。
(2)高温において耐クリープ性および疲労強度に優れたアルミニウム合金を製造できる。
《試験例1》
試験例1として、図1に示すアルミニウム合金からなるダンベル状の試験片10を上述の工程a〜工程dに基づいて作製し、機械的特性を調べる。試験片10の具体的な製造条件は以下の通りである。その後、試験片10において、耐クリープ性および疲労強度についての試験を行う。
試験例1として、図1に示すアルミニウム合金からなるダンベル状の試験片10を上述の工程a〜工程dに基づいて作製し、機械的特性を調べる。試験片10の具体的な製造条件は以下の通りである。その後、試験片10において、耐クリープ性および疲労強度についての試験を行う。
(工程a)
以下の表1に示す添加元素(質量%)を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成のアルミニウム合金溶湯を用意し、大気アトマイズ法により、急冷凝固粉末を作製する。大気アトマイズ法による粉末の製造条件は、公知の条件とする。試験例において、試料3の添加元素の質量%における組成比は、特許文献1の合金組成比に相当する。また、表中のMMは、質量%で、La:25%、Ce:50%、Pr:5%、Nd:20%の組成のミッシュメタルである。
以下の表1に示す添加元素(質量%)を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成のアルミニウム合金溶湯を用意し、大気アトマイズ法により、急冷凝固粉末を作製する。大気アトマイズ法による粉末の製造条件は、公知の条件とする。試験例において、試料3の添加元素の質量%における組成比は、特許文献1の合金組成比に相当する。また、表中のMMは、質量%で、La:25%、Ce:50%、Pr:5%、Nd:20%の組成のミッシュメタルである。
(工程b)
工程aで得られた各組成の急冷凝固粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する。具体的には、φ170×300mmの形状の予備成形体が得られるようにCIP(静水圧プレス、加圧:150MPa)により作製する。得られた各予備成形体の相対密度は、約70%である。所定の形状の金型を利用し、冷間金型成型により予備成形体を形成してもよい。
工程aで得られた各組成の急冷凝固粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する。具体的には、φ170×300mmの形状の予備成形体が得られるようにCIP(静水圧プレス、加圧:150MPa)により作製する。得られた各予備成形体の相対密度は、約70%である。所定の形状の金型を利用し、冷間金型成型により予備成形体を形成してもよい。
(工程c)
工程bで形成された各組成の予備成形体を表1に示す製造条件(加熱温度、保持時間)で加熱する。加熱は、雰囲気炉(不活性雰囲気)を用いて行い、表1に示す加熱温度に到達した後、その到達温度を表1に示す時間保持して行う。
工程bで形成された各組成の予備成形体を表1に示す製造条件(加熱温度、保持時間)で加熱する。加熱は、雰囲気炉(不活性雰囲気)を用いて行い、表1に示す加熱温度に到達した後、その到達温度を表1に示す時間保持して行う。
(工程d)
工程cで加熱保持した各組成の予備成形体に温間押出を行い、図1の下段図に示すφ40mmの丸棒状の押出加工材100を作製する。押出は、押出温度を410℃にて表1に示す押出比で行う。得られた各組成の押出加工材100に切削加工を施し、図1の上段図に示す試験片10を作製する。試験片10は、図1の下段図に示すように押出加工材100の中間部から削り出して作製した平滑試験片である。試験片10の形状は、長さL=30mmの棒状体で両端が太径、中間部が細径の部材である。太径部分は掴み部で、直径がM8mm(ねじ切り)、細径部分は、直径Roがφ3mmで、評点距離Lo=5mmである。各試験片について、Al及びSiの結晶粒の平均粒径(μm)と、金属間化合物の平均粒径(μm)とを測定した。その結果を表1に示す。各平均粒径は、各試験片の断面を顕微鏡観察し、「鋼−結晶粒度の顕微鏡試験方法 JIS G 0551」に準じて行った。
工程cで加熱保持した各組成の予備成形体に温間押出を行い、図1の下段図に示すφ40mmの丸棒状の押出加工材100を作製する。押出は、押出温度を410℃にて表1に示す押出比で行う。得られた各組成の押出加工材100に切削加工を施し、図1の上段図に示す試験片10を作製する。試験片10は、図1の下段図に示すように押出加工材100の中間部から削り出して作製した平滑試験片である。試験片10の形状は、長さL=30mmの棒状体で両端が太径、中間部が細径の部材である。太径部分は掴み部で、直径がM8mm(ねじ切り)、細径部分は、直径Roがφ3mmで、評点距離Lo=5mmである。各試験片について、Al及びSiの結晶粒の平均粒径(μm)と、金属間化合物の平均粒径(μm)とを測定した。その結果を表1に示す。各平均粒径は、各試験片の断面を顕微鏡観察し、「鋼−結晶粒度の顕微鏡試験方法 JIS G 0551」に準じて行った。
[クリープ試験]
以上の工程を経て得られた試料1〜5の各試験片についてクリープ試験を行い、耐クリープ性を評価する。耐クリープ性に関して、試験片に負荷される歪が1%に到達する時間を測定することで評価する。その試験条件および結果をまとめて表2に示し、中でも試料1、2に関しては図2、3にも示す。
以上の工程を経て得られた試料1〜5の各試験片についてクリープ試験を行い、耐クリープ性を評価する。耐クリープ性に関して、試験片に負荷される歪が1%に到達する時間を測定することで評価する。その試験条件および結果をまとめて表2に示し、中でも試料1、2に関しては図2、3にも示す。
[疲労試験]
上記の工程を経て得られた試料1〜5の各試験片について疲労試験を行い、疲労強度を評価する。疲労強度に関しては、小野式回転曲げ疲労試験を行い、107回繰り返し曲げを行った際の応力振幅を測定することで評価する。その試験条件および結果をまとめて表3に示し、中でも試料1、2に関しては図4、5にも示す。
上記の工程を経て得られた試料1〜5の各試験片について疲労試験を行い、疲労強度を評価する。疲労強度に関しては、小野式回転曲げ疲労試験を行い、107回繰り返し曲げを行った際の応力振幅を測定することで評価する。その試験条件および結果をまとめて表3に示し、中でも試料1、2に関しては図4、5にも示す。
[結果]
上記クリープ試験より、試料1、2が試料3〜5に比べて、400℃という高温において耐クリープ性に優れることがわかった。特に試料1は、図2からも明らかなように、試料2(図3)よりもクリープ歪曲線の傾きが緩やかである。そのため、1%歪に到達するまでに時間をより要する。つまり、試料2と比較しても耐クリープ性により優れていると言える。したがって、試料1の方が試料2よりもクリープ強度に優れるので、長寿命であることがわかった。
上記クリープ試験より、試料1、2が試料3〜5に比べて、400℃という高温において耐クリープ性に優れることがわかった。特に試料1は、図2からも明らかなように、試料2(図3)よりもクリープ歪曲線の傾きが緩やかである。そのため、1%歪に到達するまでに時間をより要する。つまり、試料2と比較しても耐クリープ性により優れていると言える。したがって、試料1の方が試料2よりもクリープ強度に優れるので、長寿命であることがわかった。
上記回転曲げ疲労試験より、試料1、2が試料3〜5に比べて、400℃という高温において疲労強度に優れることがわかった。特に試料1は、図4に示すように、試料2(図5)と比較しても、107回繰り返し曲げを行った際の応力振幅が高いので、疲労強度により優れている。
ここで、試料2と試料3の結晶組織を光学顕微鏡で観察した。試料2と試料3の光学顕微鏡写真を図6、7に示す。図6、7では、白色がAlマトリクス、薄い灰色がSi、濃い灰色が金属間化合物である。図6に示すように、アルミニウム合金の添加元素、添加元素の組成比、および添加元素の含有量を制御した試料2は、図7に示す試料3に比べて、Al、Si、及び金属間化合物のいずれの結晶組織をも微細にでき、全体的に結晶組織を微細にできたことが分かる。
一方で、試料1と試料2の結晶組織をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した。試料1と試料2のSEM(走査型電子顕微鏡)で撮像した顕微鏡写真(上段:5000倍、下段:10000倍)を図8、9に示す。図8、9では、白色が金属間化合物、黒色がAlマトリクス、灰色がSiである。図8と図9とを比較すると、試料1と試料2の結晶組織の大きさは、同等程度であることが分かる。例えば、図8下段の楕円で囲む領域と、図9下段の楕円で囲む領域とを比べると、白色、灰色、及び黒色の大きさがいずれも同程度の大きさであることが分かる。このように試料1と試料2の結晶組織の大きさが同程度であることから、試料1のAl、Si、及び金属間化合物のいずれの結晶組織も、試料3よりも小さいと考えられる。
試料1と試料2が、試料3〜試料5に比べて、耐クリープ性及び疲労強度に優れる結果となったのは、アルミニウム合金の添加元素、添加元素の組成比、および添加元素の含有量を制御することで、特に結晶粒の粗大化をより効果的に抑制でき、金属間化合物の結晶組織の微細化をより達成できたからだと考えられる。これは、アルミニウム合金の構成元素の組成比によりこの組成比が多元共晶点となっており、見かけの冷却速度を速くできたためである。
《試験例2》
試験例2として、添加元素の含有量を変化させたこと以外は、試験例1と同様の工程を経て試料6、7を作製し、両試料に対して、試験例1と同様の疲労試験を施した。各添加元素、Alの結晶粒の平均粒径、及びSiの結晶粒の平均粒径を表4に示し、試験条件および試験結果を表5に示す。
試験例2として、添加元素の含有量を変化させたこと以外は、試験例1と同様の工程を経て試料6、7を作製し、両試料に対して、試験例1と同様の疲労試験を施した。各添加元素、Alの結晶粒の平均粒径、及びSiの結晶粒の平均粒径を表4に示し、試験条件および試験結果を表5に示す。
[結果]
試料6、7に対して回転曲げ疲労試験を行った結果、いずれの試料も400℃という高温において、試料3〜5よりも疲労強度に優れることがわかった。その結果から、試験例1を踏まえて鑑みると、試料6、7は、試料3〜5よりも耐クリープ性にも優れると推測できる。
試料6、7に対して回転曲げ疲労試験を行った結果、いずれの試料も400℃という高温において、試料3〜5よりも疲労強度に優れることがわかった。その結果から、試験例1を踏まえて鑑みると、試料6、7は、試料3〜5よりも耐クリープ性にも優れると推測できる。
《試験例3》
試験例3として、添加元素の含有量を変化させたこと以外は、試験例1と同様の工程を経て、表6に示す組成の試料8を作製した。試料8のAlの結晶粒の平均粒径は1.8μm、Siの結晶粒の平均粒径は1.5μmであり、金属間化合物の結晶粒の平均粒径は0.3μmであった。表6には、試料8の組成と併せて試料2の組成を示す。そして、試料2と8に対して、以下に示す引張試験を施した。
試験例3として、添加元素の含有量を変化させたこと以外は、試験例1と同様の工程を経て、表6に示す組成の試料8を作製した。試料8のAlの結晶粒の平均粒径は1.8μm、Siの結晶粒の平均粒径は1.5μmであり、金属間化合物の結晶粒の平均粒径は0.3μmであった。表6には、試料8の組成と併せて試料2の組成を示す。そして、試料2と8に対して、以下に示す引張試験を施した。
[引張試験]
試料2と8に対して、「金属材料引張試験方法 JIS Z 2241(1998)」に準拠して、汎用の引張試験機を用いて引張強さ及び破断伸びを測定した。その試験条件および試験結果を、表7にまとめて示す。
試料2と8に対して、「金属材料引張試験方法 JIS Z 2241(1998)」に準拠して、汎用の引張試験機を用いて引張強さ及び破断伸びを測定した。その試験条件および試験結果を、表7にまとめて示す。
[結果]
引張試験を行ったところ、試料2の方が試料8よりも破断伸びに優れる結果となった。これは、試料2はMgを適量添加しているため、原料粉末同士がより強固に接合されたからであると考えられる。
引張試験を行ったところ、試料2の方が試料8よりも破断伸びに優れる結果となった。これは、試料2はMgを適量添加しているため、原料粉末同士がより強固に接合されたからであると考えられる。
試験例3の結果からMgの適量添加で破断伸びに差が出ることが判明したが、Mgは他の添加元素に比べて、疲労強度および耐クリープ性に与える影響は小さいと考えられる。というのも、試験例1における試料2と5を比較してみると、Mgは含有量および組成比が同じで、それ以外の添加元素の含有量および組成比は近似しているが、試料2と試料5の疲労試験結果およびクリープ試験結果に大きく差があるからである。このことから、Mg以外の添加元素の含有量および組成比が試料2と同様である試料8は、試料2と同等の疲労強度および耐クリープ性を有すると考えられる。したがって、試料2が試料3〜5よりも疲労強度および耐クリープ性に優れることを考慮すれば(表2、3参照)、同様に試料8も試料3〜5よりも疲労強度および耐クリープ性に優れると考えられる。
なお、以上の試験例(特に、試料1,2,8)の結果から、アルミニウム合金の各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1とするとき、0.185≦β≦0.235、0.145≦γ≦0.184、0.110≦δ≦0.140、0.370≦ε≦0.470を満たせば、疲労強度および耐クリープ性に優れることが分かる。試料1や試料2は、上述のように構成元素の組成比が多元共晶点となって結晶組織を微細にしており、共晶点近傍の結晶組織も共晶点と同様の結晶組織となると考えられるからである。
本発明アルミニウム合金は、自動車の内燃機関用部材や航空部品などで高温となる箇所の材料に好適に利用できる。
10 試験片 100 押出加工材
Claims (8)
- 添加元素としてSi、Fe、Ni、Zr、およびMMを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金であって、
前記Siを10質量%以上20質量%以下含み、
各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1とするとき、以下の式を満たすアルミニウム合金。
0.185≦β≦0.235
0.145≦γ≦0.184
0.110≦δ≦0.140
0.370≦ε≦0.470
ただし、MMはミッシュメタルである。 - 前記α:β:γ:δ:ε=1:0.20:0.16:0.12:0.41である請求項1に記載のアルミニウム合金。
- 前記Siが13.4質量%以上17.2質量%以下含有されている請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金。
- 前記各添加元素が質量%で、Si:Fe:Ni:Zr:MM=15.3:3.2:2.5:1.9:6.4含有されている請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金。
- 前記Siが10.6質量%以上13.4質量%未満含有されている請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金。
- 前記各添加元素が質量%で、Si:Fe:Ni:Zr:MM=12.0:2.5:2.0:1.5:5.0含有されている請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金。
- さらにMgを含み、
前記Mgは0.1質量%以上0.5質量%以下含有されている請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金。 - 添加元素としてSi、Fe、Ni、Zr、およびMMを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を製造するアルミニウム合金の製造方法であって、
前記Siを10質量%以上20質量%以下含み、各添加元素の質量%における組成比Si:Fe:Ni:Zr:MM=α:β:γ:δ:εがα=1とするとき、以下の式を満たす添加元素およびAlからなる原料粉末を用意する工程と、
前記原料粉末を圧粉成形して、予備成形体を作製する工程と、
前記予備成形体を380℃以上450℃以下の温度で加熱し、その加熱温度で30分以上5時間以下保持する工程と、
加熱した前記予備成形体に温間塑性加工を施す工程とを備えるアルミニウム合金の製造方法。
0.185≦β≦0.235
0.145≦γ≦0.184
0.110≦δ≦0.140
0.370≦ε≦0.470
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