JP6264887B2 - 電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用導電部品及び端子 - Google Patents
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Description
また、コネクタなどの端子の場合、相手側の導電部材との接触の信頼性を高めるため、Cu−Zn合金からなる基材(素板)の表面に錫(Sn)めっきを施して使用することがある。Cu−Zn合金を基材としてその表面にSnめっきを施したコネクタなどの導電部品においては、Snめっき材のリサイクル性を向上させるとともに、強度を向上させるため、Cu−Zn―Sn系合金を使用する場合がある。
特許文献1には、Cu−Zn―Sn系合金にNiを含有させてNi−P系化合物を生成させることによって耐応力緩和特性を向上させることができるとされ、またFeの添加も耐応力緩和特性の向上に有効であることが示されている。
特許文献2においては、Cu−Zn―Sn系合金に、Ni、FeをPとともに添加して化合物を生成させることにより、強度、弾性、耐熱性を向上させ得ることが記載されており、上記の強度、弾性、耐熱性の向上は、耐応力緩和特性の向上を意味していると考えられる。
さらに、リードフレーム材を対象とした特許文献4においては、Cu−Zn―Sn系合金に、Ni、FeをPとともに添加し、(Fe+Ni)/Pの原子比を0.2〜3の範囲内に調整して、Fe―P系化合物、Ni―P系化合物、Fe―Ni―P系化合物を生成させることにより、耐応力緩和特性の向上が可能となる旨、記載されている。
しかしながら、特許文献1、2においては、Ni、Fe、Pの個別の含有量が考慮されているだけであり、このような個別の含有量の調整だけでは、必ずしも耐応力緩和特性を確実かつ十分に向上させることができなかった。
また、特許文献3においては、Ni/Sn比を調整することが開示されているが、P化合物と耐応力緩和特性との関係については全く考慮されておらず、十分かつ確実な耐応力緩和特性の向上を図ることができなかった。
さらに、特許文献4においては、Fe、Ni、Pの合計量と、(Fe+Ni)/Pの原子比とを調整しただけであり、耐応力緩和特性の十分な向上を図ることができない。
そこで、耐応力緩和特性のより一層の確実かつ十分な改善が強く望まれている。
また、特殊粒界長さ比率(Lσ/L)を15%以上に設定することで、結晶性の高い粒界(原子配列の乱れが少ない粒界)が増加することにより、曲げ加工時の破壊の起点となる粒界の割合を少なくすることが可能となり、曲げ加工性に優れることになる。
なお、ここでNi−P系析出物とは、Ni―Pの2元系析出物であり、さらにこれらに他の元素、例えば主成分のCu、Zn、Sn、不純物のO、S、C、Co、Cr、Mo、Mn、Mg、Zr、Tiなどを含有した多元系析出物を含むことがある。また、このNi−P系析出物は、リン化物、もしくはリンを固溶した合金の形態で存在する。
ここで、EBSDにより測定してOIMにより解析した測定点の組織が加工組織である場合、結晶パターンが明確ではないため結晶方位決定の信頼性が低くなり、CI値が低くなる。特にCI値が0.1以下の場合にその測定点の組織が加工組織であると判断される。
Sは、不可避的不純物として銅中に存在する。銅中に存在するSは、特殊粒界長さ比率(Lσ/L)を低下させる作用を有することから、Sの含有量を50massppm以下に限定することにより、特殊粒界長さ比率(Lσ/L)を確実に10%以上とすることができ、強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性を確実に向上させることが可能となる。
このような0.2%耐力が300MPa以上の機械特性を有する電子・電気機器用銅合金は、例えば電磁リレーの可動導電片あるいは端子のバネ部のごとく、特に高強度が要求される導電部品に適している。
このような構成の電子・電気機器用銅合金薄板は、コネクタ、その他の端子、電磁リレーの可動導電片、リードフレームなどに好適に使用することができる。
この場合、Snめっきの下地の基材は0.10mass%以上0.90mass%以下のSnを含有するCu−Zn―Sn系合金で構成されているため、使用済みのコネクタなどの部品をSnめっきCu−Zn系合金のスクラップとして回収して良好なリサイクル性を確保することができる。
また、本発明の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴とする。
さらに、本発明の電子・電気機器用導電部品は、上述の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする。
また、本発明の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする。
これらの構成の電子・電気機器用導電部品及び端子によれば、特に耐応力緩和特性に優れているので、経時的に、もしくは高温環境で、残留応力が緩和されにくく、相手側導電部材との接触圧を保つことができる。また、電子・電気機器用導電部品及び端子の薄肉化を図ることができる。
本実施形態である電子・電気機器用銅合金は、Znを2.0mass%超えて36.5mass%以下、Snを0.10mass%以上0.90mass%以下、Niを0.15mass%以上1.00mass%未満、Pを0.005mass%以上0.100mass%以下含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
また、本実施形態では、不可避的不純物の中でも、Sの含有量が50massppm以下に限定されている。
3.00<Ni/P<100.00 ・・・(1)を満たし、さらにSnの含有量とNiの含有量との比Sn/Niが、原子比で、次の(2)式
0.10<Sn/Ni<5.00 ・・・(2)を満たすように定められている。
Cu、ZnおよびSnを含有するα相を、EBSD法により1000μm2以上の測定面積を測定間隔0.1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定間の方位差が15°を超える測定点間を結晶粒界とし、全ての結晶粒界長さLに対するΣ3、Σ9、Σ27a、Σ27bの各粒界長さの和Lσの比率である特殊粒界長さ比率(Lσ/L)が10%以上とされている。
なお、EBSD装置の解析ソフトOIMにより解析したときのCI値(信頼性指数)は、測定点の結晶パターンが明確ではない場合にその値が小さくなり、CI値が0.1以下ではその解析結果を信頼することが難しい。よって、本実施形態では、CI値が0.1以下である信頼性の低い測定点を除いた。
Znは、本実施形態で対象としている銅合金において基本的な合金元素であり、強度およびばね性の向上に有効な元素である。また、ZnはCuより安価であるため、銅合金の材料コストの低減にも効果がある。Znが2.0mass%以下では、材料コストの低減効果が十分に得られない。一方、Znが36.5mass%を超えれば、耐食性が低下するとともに、冷間圧延性も低下してしまう。
したがって、Znの含有量は2.0mass%超えて36.5mass%以下の範囲内とした。なお、Znの含有量は、上記の範囲内でも5.0mass%以上33.0mass%以下の範囲内が好ましく、7.0mass%以上27.0mass%以下の範囲内がさらに好ましい。
Snの添加は強度向上に効果があり、Snめっき付きCu−Zn合金材のリサイクル性の向上に有利となる。さらに、SnがNiと共存すれば、耐応力緩和特性の向上にも寄与することが本発明者等の研究により判明している。Snが0.10mass%未満ではこれらの効果が十分に得られず、一方、Snが0.90mass%を超えれば、熱間加工性および冷間圧延性が低下し、熱間圧延や冷間圧延で割れが発生してしまうおそれがあり、導電率も低下してしまう。そこで、Snの含有量は0.10mass%以上0.90mass%以下の範囲内とした。なお、Snの含有量は、上記の範囲内でも特に0.20mass%以上0.80mass%以下の範囲内が好ましい。
Niは、Pとともに添加することにより、Ni−P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。このNi−P系析出物によって再結晶の際に結晶粒界をピン止めする効果により、平均結晶粒径を小さくすることができ、強度、曲げ加工性、耐応力腐食割れ性を向上させることができる。さらに、この析出物の存在により、耐応力緩和特性を大幅に向上させることができる。加えて、NiをSn,Pと共存させることで、固溶強化によっても強度を向上させることができる。ここで、Niの添加量が0.15mass%未満では、耐応力緩和特性を十分に向上させることができない。一方、Niの添加量が1.00mass%以上となれば、固溶Niが多くなって導電率が低下し、また高価なNi原材料の使用量の増大によりコスト上昇を招く。そこでNiの含有量は0.15mass%以上1.00mass%未満の範囲内とした。なお、Niの含有量は、上記の範囲内でも特に0.20mass%以上0.80mass%未満の範囲内とすることが好ましい。
Pは、Niとの結合性が高く、Niとともに適量のPを含有させれば、Ni−P系析出物を析出させることができ、この析出物の存在によって耐応力緩和特性を向上させることができる。ここで、P量が0.005mass%未満では、十分にNi−P系析出物を析出させることが困難となり、十分に耐応力緩和特性を向上させることができなくなる。一方、P量が0.100mass%を超えれば、P固溶量が多くなって、導電率が低下するとともに圧延性が低下して冷間圧延割れが生じやすくなってしまう。そこで、Pの含有量は、0.005mass%以上0.100mass%以下の範囲内とした。Pの含有量は、上記の範囲内でも特に0.010mass%以上0.080mass%以下の範囲内が好ましい。
なお、Pは、銅合金の溶解原料から不可避的に混入することが多い元素であることから、Pの含有量を上述のように規制するためには、溶解原料を適切に選定することが望ましい。
Sは、単体、金属間化合物及び複合硫化物などの形態で結晶粒界に存在する。母相中に存在するSは、上述した特殊粒界長さ比率(Lσ/L)を低下させる作用を有する。また、単体のS、金属間化合物及び複合硫化物は、熱間加工時に溶融して粒界割れを起こし、加工割れの原因となる。さらに、複合硫化物は、破壊の起点となるため、冷間圧延性や曲げ加工性が劣化する。また、Sは、Ni等と反応することから、結果としてNi−P系析出物を十分に確保できなくなり、耐応力緩和特性及び機械的特性が劣化するおそれがある。そこで、本実施形態では、不純物元素であるSの含有量を50massppm以下に規定している。なお、Sの含有量は、上記の範囲内でも特に40massppm以下が好ましく、30massppm以下がさらに好ましい。
Ni/P比が3.00以下では、固溶Pの割合の増大に伴って耐応力緩和特性が低下し、また同時に固溶Pにより導電率が低下するとともに、圧延性が低下して冷間圧延割れが生じやすくなり、さらに曲げ加工性も低下する。一方、Ni/P比が100.00以上となれば、固溶したNiの割合の増大により導電率が低下するとともに高価なNiの原材料使用量が相対的に多くなってコスト上昇を招く。そこで、Ni/P比を上記の範囲内に規制することとした。なお、Ni/P比の上限値は、上記の範囲内でも、50.00以下、好ましくは40.00以下、さらに好ましくは20.00以下、さらには15.00未満、最適には12.00以下とすることが望ましい。
Sn/Ni比が0.10以下では、十分な耐応力緩和特性向上効果が発揮されず、一方、Sn/Ni比が5.00以上の場合、相対的にNi量が少なくなって、Ni−P系析出物の量が少なくなり、耐応力緩和特性が低下してしまう。そこで、Sn/Ni比を上記の範囲内に規制することとした。なお、Sn/Ni比の下限は、上記の範囲内でも、特に0.20以上、好ましくは0.25以上、最適には0.30超えとすることが望ましい。また、Sn/Ni比の上限は、上記の範囲内でも、3.00以下、好ましくは2.50以下、さらに好ましくは1.50以下とすることが望ましい。
特殊粒界は、結晶学的にCSL理論(Kronberg et al:Trans.Met.Soc.AIME,185,501(1949))に基づき定義されるΣ値で3≦Σ≦29に属する対応粒界であって、かつ、当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ1/2(D.G.Brandon:Acta.Metallurgica.Vol.14,p.1479,(1966))を満たす結晶粒界であるとして定義される。
まず、前述した成分組成の銅合金溶湯を溶製する。銅原料としては、純度が99.99mass%以上の4NCu(無酸素銅等)を使用することが望ましいが、スクラップを原料として用いてもよい。また、溶解には、大気雰囲気炉を用いてもよいが、添加元素の酸化を抑制するために、真空炉、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気とされた雰囲気炉を用いてもよい。
次いで、成分調整された銅合金溶湯を、適宜の鋳造法、例えば金型鋳造などのバッチ式鋳造法、あるいは連続鋳造法、半連続鋳造法などによって鋳造して鋳塊を得る。
その後、必要に応じて、鋳塊の偏析を解消して鋳塊組織を均一化するために均質化熱処理を行う。または晶出物、析出物を固溶させるために溶体化熱処理を行う。この熱処理の条件は特に限定しないが、通常は600℃以上1000℃以下において1秒以上24時間以下加熱すればよい。熱処理温度が600℃未満、あるいは熱処理時間が5分未満では、十分な均質化効果または溶体化効果が得られないおそれがある。一方、熱処理温度が1000℃を超えれば、偏析部位が一部溶解してしまうおそれがあり、さらに熱処理時間が24時間を超えることはコスト上昇を招くだけである。熱処理後の冷却条件は、適宜定めればよいが、通常は水焼入れすればよい。なお、熱処理後には、必要に応じて面削を行う。
次いで、粗加工の効率化と組織の均一化のために、前述の加熱工程S02の後に、鋳塊に対して熱間加工を行ってもよい。この熱間加工の条件は特に限定されないが、通常は、開始温度600℃以上1000℃以下、終了温度300℃以上850℃以下、加工率10%以上99%以下程度とすることが好ましい。なお、熱間加工開始温度までの鋳塊加熱は、前述の加熱工程S02と兼ねてもよい。すなわち、加熱工程S02で加熱した後に室温近くまで冷却せずに、上述の熱間加工開始温度において熱間加工を開始してもよい。熱間加工後の冷却条件は、適宜定めればよいが、通常は水焼入れすればよい。なお、熱間加工後には、必要に応じて面削を行う。熱間加工の加工方法については、特に限定されないが、最終形状が板や条の場合は熱間圧延を適用して、0.5mm以上50mm以下程度の板厚まで圧延すればよい。また、最終形状が線や棒の場合には押出や溝圧延を、最終形状がバルク形状の場合には鍛造やプレスを適用すればよい。
次に、加熱工程S02で均質化処理を施した鋳塊、あるいは熱間圧延などの熱間加工工程S03を施した熱間加工材に対して、粗加工を施す。この粗加工における温度条件は特に限定はないが、冷間又は温間加工となる−200℃から+200℃の範囲内とすることが好ましい。粗加工の加工率も特に限定されないが、通常は50%以上99%以下程度とする。加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は、圧延を適用すればよい。また、最終形状が線や棒の場合には、押出や溝圧延、さらに最終形状がバルク形状の場合には、鍛造やプレスを適用することができる。なお、溶体化の徹底のために、S02〜S04を繰り返してもよい。
冷間もしくは温間での粗加工工程S04の後に、再結晶処理と析出処理を兼ねた中間熱処理を施す。ここで、中間熱処理においては、バッチ式の加熱炉を用いてもよいし、連続焼鈍ラインを用いてもよい。そして、バッチ式の加熱炉を用いて中間熱処理を実施する場合には、200℃以上800℃以下の温度で5分以上24時間以下加熱することが好ましい。また、連続焼鈍ラインを用いて中間熱処理を実施する場合には、加熱到達温度を350℃以上800℃以下とし、かつこの範囲内の温度で、保持なし、若しくは1秒以上5分以下程度保持することが好ましく、加熱到達温度を400℃以上800℃以下とし、かつこの範囲内の温度で、保持なし、若しくは1秒以上5分以下程度保持することがさらに好ましい。以上のように、中間熱処理工程S05における熱処理条件は、熱処理を実施する具体的手段によって異なることになる。
また、中間熱処理の雰囲気は、非酸化性雰囲気(窒素ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、あるいは還元性雰囲気)とすることが好ましい。
中間熱処理後の冷却条件は、特に限定しないが、通常は2000℃/秒〜100℃/時間程度の冷却速度で冷却すればよい。
次に、中間熱処理工程S05を施した中間熱処理材に対して、中間加工を施す。この中間加工工程S06は、次工程の仕上熱処理工程S07で、ひずみ誘起粒界移動による特殊粒界を形成させるために実施される工程であり、加工率は1%以上40%以下が好ましく、更に好ましくは1%以上30%以下であり、特に好ましくは1%以上25%以下である。加工率が40%を超えると次工程の仕上熱処理工程S07にて、ひずみ誘起粒界移動が起こりにくく、一般的な(核生成・成長機構による)再結晶が生じ、ランダム粒界の割合が増加する。ここで、加工方法は特に限定されないが、最終形態が板や条である場合、圧延を採用する。他には鍛造やプレス、溝圧延を採用しても良い。加工温度も特に限定されないが、析出が起こらないように、冷間または温間となる−200〜200℃とすることが好ましい。
中間加工工程S06の後に、再結晶処理のための仕上熱処理を施す。この仕上熱処理を実施することで、ひずみ誘起粒界移動が起こり多数の特殊粒界が形成される。このとき、保持温度及び到達温度は、一般的な再結晶温度と比較して低温のときにひずみ誘起粒界移動が起こり易いが、低温すぎるとひずみ誘起粒界移動が生じないため好ましくない。
仕上熱処理の具体的手法としては、バッチ式の加熱炉を用いてもよい。あるいは連続焼鈍ラインを用いて連続的に加熱してもよい。バッチ式の加熱炉を使用する場合は、300℃以上800℃以下の温度で、5分以上24時間以下加熱することが好ましく、350℃以上700℃以下の温度で、5分以上24時間以下加熱することがさらに好ましい。
また連続焼鈍ラインを用いる場合は、加熱到達温度を350℃以上800℃以下とし、かつその範囲内の温度で、保持なし、もしくは1秒以上5分以下程度保持することが好ましく、加熱到達温度を400℃以上800℃以下とし、かつその範囲内の温度で、保持なし、もしくは1秒以上5分以下程度保持することがさらに好ましい。
また、仕上熱処理の雰囲気は、非酸化性雰囲気(窒素ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気)とすることが好ましい。
さらに、昇温過程でのひずみの解放を抑制してひずみ誘起粒界移動を生じ易くし、特殊粒界を十分に形成させるためには、200℃から400℃の間の昇温速度を、200℃/min.以上とすることが好ましく、600℃/min.以上とすることがさらに好ましい。
なお、中間加工工程S06と仕上熱処理工程S07を繰り返すことにより、ひずみ誘起粒界移動が促進され、特殊粒界長さ比率(Lσ/L)が増加するため、中間加工工程S06と仕上熱処理工程S07を2回以上繰り返すことが好ましく、3回以上繰り返すことがさらに好ましい。
次に、仕上熱処理工程S07を施した材料に対して、最終寸法、最終形状まで仕上加工を行ってもよい。仕上加工における塑性加工方法は特に限定されないが、最終製品形態が板や条である場合には、圧延(冷間圧延)を適用すればよい。その他、最終製品形態に応じて、鍛造やプレス、溝圧延などを適用してもよい。加工率は最終板厚や最終形状に応じて適宜選択すればよいが、1%以上70%以下、特に5%以上65%以下の範囲内が好ましい。加工率が1%未満では、耐力を向上させる効果が十分に得られない。一方、加工率が70%を超えれば、再結晶組織が失われ、加工組織となることで曲げ加工性が低下してしまう。仕上加工後は、これをそのまま製品として用いてもよいが、通常は、さらに低温焼鈍を施すことが好ましい。
仕上加工後には、必要に応じて、耐応力緩和特性の向上および低温焼鈍硬化のために、または残留ひずみの除去のために、低温焼鈍を行う。この低温焼鈍は、150℃以上800℃以下の範囲内の温度で、0.1秒以上24時間以下行うことが望ましい。なお、熱処理温度が低い場合は長時間、熱処理温度が高い場合は短時間の熱処理をすればよい。熱処理の温度が50℃未満、または熱処理の時間が0.1秒未満では、十分な歪み取りの効果が得られなくなるおそれがあり、一方、熱処理の温度が800℃を超える場合は再結晶のおそれがあり、さらに熱処理の時間が24時間を超えることは、コスト上昇を招くだけである。なお、仕上加工工程S08を行わない場合には、低温焼鈍工程S09は省略してもよい。
また、加工方法として圧延を適用した場合、板厚0.05〜1.0mm程度の電子・電気機器用銅合金薄板(条材)を得ることができる。このような薄板は、これをそのまま電子・電気機器用導電部品に使用してもよいが、板面の一方、もしくは両面に、膜厚0.1〜10μm程度のSnめっきを施し、Snめっき付き銅合金条として、コネクタその他の端子などの電子・電気機器用導電部品に使用するのが通常である。この場合のSnめっきの方法は特に限定されない。また、場合によっては電解めっき後にリフロー処理を施してもよい。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、0.2%耐力が300MPa以上の機械特性を有するので、例えば電磁リレーの可動導電片あるいは端子のバネ部のごとく、特に高強度が要求される導電部品に適している。
また、表面にSnめっきを施した場合には、使用済みのコネクタなどの部品をSnめっきCu−Zn系合金のスクラップとして回収して良好なリサイクル性を確保することができる。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用導電部材及び端子は、上述の電子・電気機器用銅合金薄板によって構成されているので、耐応力緩和特性に優れており、経時的に、もしくは高温環境で、残留応力が緩和されにくい。
例えば、製造方法の一例を挙げて説明したが、これに限定されることはなく、最終的に得られた電子・電気機器用銅合金が、本発明の範囲内の組成であり、Cu、ZnおよびSnを含有するα相の特殊粒界長さ比率(Lσ/L)が本発明の範囲内に設定されていればよい。
続いて各鋳塊について、均質化処理として、Arガス雰囲気中において、表4、5、6に記載した温度で所定時間(1〜4時間)保持後、水焼き入れを実施した。
次に、仕上圧延を表4、5、6に示す圧延率で実施した。
最後に、低温焼鈍を実施した。低温焼鈍は、表4、5、6に示す温度で所定時間(1秒〜24時間)保持後、水焼入れした。そして、切断および表面研磨を実施した後、厚さ0.2mm×幅約160mmの特性評価用条材を製出した。
圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD面(Transverse direction)を観察面として、EBSD測定装置及びOIM解析ソフトによって、次のように結晶粒界および結晶方位差分布を測定した。
耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上研磨を行った。そして、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.5.3)によって、電子線の加速電圧20kV、測定間隔0.1μmステップで1000μm2以上の測定面積で、各結晶粒の方位差の解析を行った。解析ソフトOIMにより各測定点のCI値を計算し、結晶粒径の解析からはCI値が0.1以下のものは除外した。結晶粒界は、二次元断面観察の結果、隣り合う2つの結晶間の配向方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界として結晶粒界マップを作成し、JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径とした。
上述のように、EBSD測定装置及びOIM解析ソフトによって、電子線の加速電圧20kV、測定間隔0.1μmステップで1000μm2以上の測定面積で、CI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とした。
そして、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、隣接する結晶粒の界面が特殊粒界を構成する結晶粒界の位置を決定するとともに、特殊粒界のうちΣ3、Σ9、Σ27a、Σ27b粒界の各長さの和Lσと、上記測定した結晶粒界の全粒界長さLとの粒界長さ比率Lσ/Lを求め、特殊粒界長さ比率(Lσ/L)とした。
特性評価用条材からJIS Z 2201に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、ヤング率E、0.2%耐力σ0.2を測定した。なお、試験片は、引張試験の引張方向が特性評価用条材の圧延方向に対して直交する方向となるように採取した。
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
耐応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準JCBA−T309:2004の片持はりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、Zn量が2.0mass%を超えて15.0mass%未満の試料(表5,6中の「2−15Zn評価」の欄に記入したもの)については、150℃の温度で500時間保持後、Zn量が15.0mass%以上36.5mass%以下の試料(表5,6中の「15−36.5Zn評価」の欄に記入したもの)については、120℃の温度で500時間保持後の残留応力率を測定した。
試験方法としては、各特性評価用条材から圧延方向に対して直交する方向に試験片(幅10mm)を採取し、試験片の表面最大応力が耐力の80%となるよう、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面最大応力(MPa)=1.5Etδ0/Ls 2
ただし、
E:ヤング率(MPa)
t:試料の厚み(t=0.25mm)
δ0:初期たわみ変位(2mm)
Ls:スパン長さ(mm)
である。
また、残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1−δt/δ0)×100
ただし、
δt:120℃で500h保持後、もしくは150℃で500h保持後の永久たわみ変位(mm)−常温で24h保持後の永久たわみ変位(mm)
δ0:初期たわみ変位(mm)
である。
残留応力率が、70%以上のものを○、70%未満ものを×と評価した。
JCBA(日本伸銅協会技術標準)T307−2007の4試験方法に準拠して曲げ加工を行った。圧延方向と試験片の長手方向が直交するように、特性評価用条材から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、曲げ半径が0.2mmのW型の治具を用い、W曲げ試験を行った。
曲げ部の外周部を目視で観察して割れが観察された場合は「×」、破断や微細な割れが確認されなかった場合は「○」と判定した。
比較例102においては、中間加工および仕上熱処理が1回であるため、特殊粒界長さ比率(Lσ/L)が10%未満であり、曲げ加工性が「×」評価となった。このため、その他の特性は評価しなかった。
比較例104においては、Sn、Pの含有量が本発明の範囲外であることから、耐応力緩和特性が「×」評価となった。
比較例105においては、Ni、Sn、Pの含有量が本発明の範囲外であることから、耐応力緩和特性が「×」評価となった。
比較例106においては、Pの含有量が本発明の範囲外であることから、耐応力緩和特性が「×」評価となった。
Claims (9)
- Znを2.0mass%超えて36.5mass%以下、Snを0.10mass%以上0.90mass%以下、Niを0.15mass%以上1.00mass%未満、Pを0.005mass%以上0.100mass%以下含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、
Niの含有量とPの含有量との比Ni/Pが、原子比で、
3.00<Ni/P<100.00を満たし、
さらに、Snの含有量とNiの含有量との比Sn/Niが、原子比で、
0.10<Sn/Ni<5.00を満たすとともに、
Cu、ZnおよびSnを含有するα相を、EBSD法により1000μm2以上の測定面積を測定間隔0.1μmステップで測定して、データ解析ソフト(EDAX/TSL社製OIM Data Analysis ver.5.3)により解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定間の方位差が15°を超える測定点間を結晶粒界とし、全ての結晶粒界長さLに対するΣ3、Σ9、Σ27a、Σ27bの各粒界長さの和Lσの比率である特殊粒界長さ比率(Lσ/L)が15%以上であることを特徴とする電子・電気機器用銅合金。 - 請求項1に記載の電子・電気機器用銅合金において、
Sの含有量が、50massppm以下であることを特徴とする電子・電気機器用銅合金。 - 請求項1または請求項2に記載の電子・電気機器用銅合金において、
0.2%耐力が300MPa以上であることを特徴とする電子・電気機器用銅合金。 - 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金の圧延材からなり、厚みが0.05mm以上1.0mm以下の範囲内にあることを特徴とする電子・電気機器用銅合金薄板。
- 請求項4に記載の電子・電気機器用銅合金薄板において、
表面にSnめっきが施されていることを特徴とする電子・電気機器用銅合金薄板。 - 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴とする電子・電気機器用導電部品。
- 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴とする端子。
- 請求項4または請求項5に記載の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする電子・電気機器用導電部品。
- 請求項4または請求項5に記載の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする端子。
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