以下、発明の実施の形態を説明する。
図2は、本実施形態における燃料電池用のセパレータ20、及びセパレータ20を備える固体高分子型燃料電池の単位セルの構造の概略を示す。単位セルは、セパレータ20、ガスケット12、並びに膜−電極複合体5が重ねられることで構成されている。膜−電極複合体5は、酸化剤電極31、燃料電極32、及び電解質4から構成される。
セパレータ20には、燃料ガス、酸化剤ガス又は冷却水を流通させるための溝2が形成されている。本実施形態では、一つの単位セルは、セパレータ20として、カソード側セパレータ21とアノード側セパレータ22とを備える。カソード側セパレータ21とアノード側セパレータ22の各々は、その厚み方向の第一の面と、この第一の面とは反対側にある第二の面とを有する。
単位セル内においては、カソード側セパレータ21の第一の面は酸化剤電極31と重なるように配置され、アノード側セパレータ22の第一の面は燃料電極32と重なるように配置される。アノード側セパレータ22は、燃料ガスを流通させるための溝2(202)が形成されている領域と、この領域を取り囲む外周部分とを有する。燃料ガスを流通させるための溝2(202)は、アノード側セパレータ22の第一の面に形成されている。また、カソード側セパレータ21は、酸化剤ガスを流通させるための溝が形成されている領域と、この領域を取り囲む外周部分とを有する。酸化剤ガスを流通させるための溝は、図示はされていないが、カソード側セパレータ21の第一の面に形成されている。また、カソード側セパレータ21の第二の面には、冷却水を流通させるための溝2(203)が形成されている。
また、二つの単位セルが重ねられる際には、一方の単位セルにおけるカソード側セパレータ21の第二の面と、他方の単位セルにおけるアノード側セパレータ22の第二の面とが、重ねられる。このカソード側セパレータ21と、アノード側セパレータ22との間には、溝2(203)から構成される流路が形成される。この流路は、冷却水を流通させるための流路である。
尚、本実施形態では、上記の通り冷却水を流通させるための溝203がカソード側セパレータ21の第二の面に形成されているが、冷却水を流通させるための溝がアノード側セパレータ22の第二の面に形成されていてもよい。また、カソード側セパレータ21の第二の面に冷却水を流通させるための溝が形成され、且つアノード側セパレータ22の第二の面にも冷却水を流通させるための溝が形成されていてもよい。
各セパレータ20には、このセパレータ20を貫通する孔からなるマニホールド13が形成されている。本実施形態では、各セパレータ20には、六個のマニホールド13が形成されている。これらのマニホールド13は、各セパレータ20の第一の面と第二の面の各々の外周部分で開口している。六個のマニホールド13は、二つの燃料用マニホールド131、二つの酸化剤用マニホールド132、及び二つの冷却用マニホールド133を含んでいる。カソード側セパレータ21における二つの酸化剤用貫通孔131,131は、カソード側セパレータ21の第一の面における溝に連通する。アノード側セパレータ22における二つの燃料用貫通孔132,132は、アノード側セパレータ22の第一の面における溝202に連通する。また、カソード側セパレータ21における二つの冷却用マニホールド133は、カソード側セパレータ21の第二の面における溝203に連通する。
本実施形態では、図2に示されるように、セパレータ20にはストレートタイプの溝2が形成されている。一般に、セパレータ20における溝2としては、屈曲を有するサーペンタインタイプの溝と屈曲を有さないストレートタイプの溝とがある。勿論、図2に示されるセパレータ20において、このセパレータ20にサーペンタインタイプの溝2が形成されてもよい。
セパレータ20の厚みは例えば0.5〜3.0mmの範囲に形成される。セパレータ20のガス供給排出用の溝2の幅は例えば1.0〜1.5mm、深さは例えば0.5〜1.5mmの範囲に形成される。また、溝2の幅(A)と深さ(B)との比(A/B)が1以上であることが好ましい。この場合、後述する親水化処理の効率が高くなる。また、マニホールド13の開口面積は例えば0.5〜5.0cm2の範囲に形成される。
ガスケット12は、カソード側セパレータ21の第一の面とアノード側セパレータ22の第一の面との各々における外周部分上に重ねられる。これにより、燃料ガス及び酸化剤ガスのガスリークが抑制される。ガスケット12には、その略中央部に、膜−電極複合体5における酸化剤電極31又は燃料電極32を収容するための開口15が形成されている。この開口15において、セパレータ20の溝2が露出する。また、ガスケット12には、セパレータ20の酸化剤用貫通孔131、燃料用貫通孔132及び冷却用貫通孔133と合致する位置に、酸化剤用貫通孔141、燃料用貫通孔142及び冷却用貫通孔143が、それぞれ形成されている。
また、二つの単位セルが重ねられる場合の、一方の単位セルにおけるカソード側セパレータ21の第二の面と、他方の単位セルにおけるアノード側セパレータ22の第二の面との間にも、ガスケット12が介在する。このガスケット12によって、冷却水の漏出が抑制される。このガスケット12の略中央部にも、開口15が形成されている。この開口15において、セパレータ20の溝2が露出する。また、このガスケット12にも、セパレータ20の酸化剤用貫通孔131、燃料用貫通孔132及び冷却用貫通孔133と合致する位置に、酸化剤用貫通孔141、燃料用貫通孔142及び冷却用貫通孔143が、それぞれ形成されている。
尚、カソード側セパレータ21の第二の面と、アノード側セパレータ22の第二の面との間は、接着剤で接着されてもよく、この場合はカソード側セパレータ21の第二の面と、アノード側セパレータ22の第二の面との間にガスケットが介在しなくても、冷却水の漏出が抑制される。接着剤としては、特に限定されないが、オレフィン系樹脂接着剤が用いられることが好ましい。この場合、接着剤からの不純物の溶出が抑制され、また、燃料電池の耐久性が高くなる。
膜−電極複合体5における電解質4の外周部分には、セパレータ20の酸化剤用貫通孔131、燃料用貫通孔132及び冷却用貫通孔133と合致する位置に、酸化剤用貫通孔161、燃料用貫通孔162及び冷却用貫通孔163がそれぞれ形成されている。
この単位セル構造では、セパレータ20、ガスケット12、及び電解質4の各酸化剤用貫通孔131,141,161が連通することで、酸化剤電極への酸化剤の供給及び排出のための酸化剤用流路が構成される。また、各燃料用貫通孔132,142,162が連通することで、燃料電極への燃料の供給及び排出のための燃料用流路が構成される。また、各冷却用貫通孔133,143,163が連通することで、冷却水等が流通する冷却用流路が構成される。
酸化剤電極31と燃料電極32、並びに電解質4は、燃料電池のタイプに応じた公知の材料で形成される。固体高分子型燃料電池の場合、酸化剤電極31及び燃料電極32は例えばカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の基材が触媒を担持することで構成される。酸化剤電極31における触媒としては例えば白金触媒、白金・ルテニウム触媒、コバルト触媒等が挙げられ、燃料電極32における触媒としては白金触媒、銀触媒等が挙げられる。また、固体高分子型燃料電池の場合、電解質4は例えばプロトン伝導性の高分子膜から形成され、特にメタノール直接型燃料電池の場合は例えばプロトン伝導性が高く、電子導電性やメタノール透過性を殆ど示さないフッ素系樹脂等から形成される。
図3は、セパレータ20と膜−電極複合体5とを備える複数の単位セルから構成される、燃料電池40(セルスタック)の一例を示す。この燃料電池40は、酸化剤用流路に連通する酸化剤の供給口171及び排出口172と、燃料用流路に連通する燃料の供給口181及び排出口182と、冷却用流路に連通する冷却水の供給口191及び排出口192とを有する。
本実施形態では、燃料電池用ガスケット付きセパレータを製造する。燃料電池用ガスケット付きセパレータ30は、セパレータ20と、このセパレータ20に積層しているガスケット12とを備える。本実施形態に係る燃料電池用ガスケット付きセパレータでは、セパレータ20の表面の親水性が充分に高いものである。通常、セパレータ20にガスケットを積層する場合には、セパレータ20の表面にガスケットを形成するための材料に由来する成分が付着しやすい。このため、セパレータ20に親水化処理を施しても、前記の成分が親水化処理の作用を阻害してしまい、このためにセパレータ20の親水性が充分に向上しないことがある。しかし、本実施形態では、セパレータ20にガスケットが積層されてから、セパレータ20及びガスケットにブラスト処理が施される。そのため、セパレータ20の表面における不純物の量が低減し、これにより、セパレータ20の表面におけるガスケットを形成するための材料に由来する成分の量が低減する。このために、本実施形態に係る燃料電池用ガスケット付きセパレータ30では、セパレータ20に予めガスケット12が積層されているにもかかわらず、セパレータ20の表面が優れた親水性を発揮する。
以下、本実施形態に係る燃料電池用ガスケット付きセパレータの製造方法について、更に詳しく説明する。
本実施形態において、セパレータを製造するために用いられるセパレータ成形材料(以下、成形材料という)は、黒鉛及び熱硬化性樹脂成分を含有する。
成形材料中の黒鉛粒子は、セパレータの電気比抵抗の低減によるセパレータの導電性向上のために使用される。成形材料中の黒鉛粒子の割合は、成形材料中の固形分全量に対して70〜90質量%の範囲であることが好ましい。黒鉛粒子の割合が70質量%以上であることでセパレータに充分に優れた導電性が付与されるようになり、この割合が90質量%以下であることで成形材料に充分に優れた成形性が付与されると共にセパレータに充分に優れたガス透過性が付与される。この黒鉛粒子の割合は、70質量%以上81質量%以下の範囲であれば更に好ましい。
高い導電性を示すのであれば、各種の黒鉛粒子が制限なく用いられる。例えば、メソカーボンマイクロビーズなどの炭素質を黒鉛化して得られる黒鉛粒子、石炭系コークスや石油系コークスを黒鉛化して得られる黒鉛粒子、黒鉛電極や特殊炭素材料の加工粉、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛等の、適宜の黒鉛粒子が用いられる。このような各種の黒鉛粒子は、一種単独で用いられ、或いは複数種が併用される。
黒鉛粒子は、人造黒鉛粉、天然黒鉛粉のいずれであってもよい。天然黒鉛粉には導電性が高いという利点があり、人造黒鉛粉には天然黒鉛粉に比べて導電性は多少劣るものの、異方性が少ないという利点がある。
黒鉛粒子は、天然黒鉛粉、人造黒鉛粉のいずれの場合であっても、精製されていることが好ましい。この場合は、黒鉛粒子中の灰分やイオン性不純物の含有量が低くなるため、セパレータからの不純物の溶出が抑制される。黒鉛粒子中の灰分の含有量は特に0.05質量%以下であることが好ましい。この灰分が0.05質量%を超えると、セパレータを備える燃料電池の特性低下が引き起こされるおそれがある。
黒鉛粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲であることが好ましい。この平均粒径が10μm以上であることで成形材料の成形性が優れたものとなり、この平均粒径が100μm以下となることでセパレータの表面平滑性が更に向上する。成形材料の成形性が特に向上するためには前記平均粒径が30μm以上であることが好ましい。また、セパレータの表面平滑性が特に向上して後述するようにセパレータの表面の算術平均高さSaが0.4〜1.2μmの範囲となるためには、前記平均粒径が70μm以下であることが好ましい。
特に薄型のセパレータが得られる場合には、黒鉛粒子は100メッシュ篩(目開き150μm)を通過する粒径を有することが好ましい。この黒鉛粒子中に100メッシュ篩を通過しない粒子が含まれていると、成形材料中に粒径の大きい黒鉛粒子が混入してしまい、特に成形材料が薄型のシート状に成形される際の成形性が低下してしまう。
黒鉛粒子のアスペクト比は10以下であることが好ましい。この場合、セパレータに異方性が生じることが抑制されると共に、セパレータの反りなどの変形も抑制される。
尚、セパレータの異方性の低減に関しては、セパレータにおける、成形時の成形材料の流動方向と、この流動方向と直交する方向との間での接触抵抗の比が、2以下となることが好ましい。
黒鉛粒子は、特に2種以上の粒度分布を有することが好ましい。すなわち、黒鉛粒子が、平均粒径の異なる2種以上の粒子群を含んでいることが好ましい。この場合、特に黒鉛粒子は平均粒径1〜50μmの範囲の粒子群と、平均粒径30〜100μmの粒子群とを含んでいることが好ましい。このような粒度分布を有する黒鉛粒子が用いられると、平均粒径の大きい粒子群は表面積が小さいため、この粒子群により、樹脂量が少量であっても成形材料の混練が可能となる。更に平均粒径の小さい粒子群によって、黒鉛粒子同士の接触性が高まると共に、成形品の強度が向上する。これにより、セパレータの嵩密度の向上、導電性の向上、ガス不透過性の向上、強度の向上等といった、性能の向上が図られる。平均粒径1〜50μmの粒子群と平均粒径30〜100μmとの粒子群の混合比は、適宜調整されるが、特に前者対後者の混合質量比が40:60〜90:10、特に65:35〜85:15であることが好ましい。
尚、黒鉛粒子の平均粒径は、レーザ回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)でレーザ回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
熱硬化性樹脂成分には、エポキシ樹脂とフェノール樹脂のうち少なくとも一方を含む熱硬化性樹脂が含まれていることが好ましい。エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂は良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。この熱硬化性樹脂成分中には、必要に応じて使用される硬化剤や触媒(硬化促進剤)も含まれる。成形材料中の熱硬化性樹脂成分の含有量は、固形分全量に対して15〜28質量%の範囲とされる。
熱硬化性樹脂成分中の熱硬化性樹脂全体に対するエポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂の含有量は50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂のみ、熱硬化性フェノール樹脂のみ、或いはエポキシ樹脂と熱硬化性フェノール樹脂のみであれば特に好ましい。
エポキシ樹脂は固形状であることが好ましく、特に融点が70〜90℃の範囲であることが好ましい。これにより、材料の変化が少なくなり、成形時の成形材料の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形材料中で凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。また、エポキシ樹脂として溶融粘度が低粘度の樹脂が選択されれば、成形性用組成物の良好な成形性が維持されつつ、成形材料及びセパレータ中に黒鉛粒子が高充填されることが可能となる。尚、前記作用が発揮される範囲内でエポキシ樹脂の一部が液状であってもよい。
エポキシ樹脂としては、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等が使用されることが好ましい。このオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂は、良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
特にエポキシ樹脂としてオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂からなる成分、或いはオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種とからなる成分が使用されることが好ましい。これらの成分の、成形材料中の熱硬化性樹脂全量に対する割合は、50〜100質量%の範囲にあることが好ましい。
オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が必須の成分であると、成形材料が成形性に優れたものになると共に、セパレータが耐熱性に優れたものとなる。また、製造コストの低減も可能になる。エポキシ樹脂全体に対するオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の割合は、前記成形性の向上、セパレータの耐熱性の向上、製造コストの低減の観点から、50〜100質量%の範囲であることが好ましく、特に50〜70質量%の範囲であることが好ましい。
オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と共に、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及びビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種が併用されることも好ましい。この場合、成形材料の溶融粘度が更に低減し、特に薄型のセパレータが作製される場合にはこのセパレータの靱性が向上する。
特にビスフェノールF型エポキシ樹脂が使用されると、成形材料の粘度が低減し、成形性の特に高い成形材料が得られる。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビスフェノールF型エポキシ樹脂の割合は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
また、ビフェニル型エポキシ樹脂が使用されると、このビフェニル型樹脂は溶融粘度が低いため、成形材料の流動性が著しく向上し、薄型成形性が特に向上する。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビフェニル型エポキシ樹脂の割合は30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
また、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂が使用されると、セパレータの強度及び靱性が更に向上し、更にセパレータの吸湿性が低減する。このため、セパレータの機械的特性、導電性、長期使用時の特性の安定性が優れたものとなる。この場合のエポキシ樹脂全体に対するビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の割合は、30〜50質量%の範囲であることが好ましい。
エポキシ樹脂として、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が用いられ、或いは更にビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種が用いられる場合に、更にこれら以外の熱硬化性樹脂が併用されてもよい。例えば前記列挙されたエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂が用いられてもよい。但し、エステル結合を含む樹脂は耐酸性環境下で加水分解するおそれがあるため、使用されないことが望ましい。また、熱硬化性樹脂として、セパレータの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂が用いられることも適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などが好ましい。特に4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが用いられると、セパレータの耐熱性が更に向上する。
エポキシ樹脂が使用される場合、成形材料はエポキシ樹脂の硬化剤を含有する。硬化剤は、成形材料が含有するエポキシ樹脂を硬化させる能力を有するのであれば特に限定されないが、フェノール系化合物を必須成分とすることが好ましい。このフェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等の各種多価フェノール樹脂が挙げられる。
硬化剤全量に対するフェノール系化合物の含有量は、エポキシ樹脂の使用量に依存して決定される。また、硬化剤がフェノール系化合物のみであれば特に好ましい。特に、フェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲となることが好ましい。
フェノール系化合物以外の他の硬化剤が併用される場合、他の硬化剤は非アミン系の化合物であることが好ましく、この場合、セパレータの電気伝導度が高い状態に維持されると共に、燃料電池の触媒の被毒が抑制される。また硬化剤として酸無水物系の化合物も用いられないことが好ましい。酸無水物系の化合物が使用される場合は硫酸酸性環境下等の酸性環境下で加水分解して、セパレータの電気伝導度の低下が引き起こされたり、セパレータからの不純物の溶出が増大してしまうおそれがある。
熱硬化性樹脂として熱硬化性フェノール樹脂が用いられる場合は、特に開環重合により重合反応が進行するフェノール樹脂が用いられることが好ましい。このようなフェノール樹脂としては、例えばベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。この場合は、成形工程で脱水によるガスが発生しないので成形品中にボイドが発生しにくくなり、セパレータのガス透過性の低下が抑制される。また、レゾール型フェノール樹脂が用いられることも好ましく、例えば13C−NMR分析の結果、オルト−オルト結合割合25〜35%、オルト−パラ結合割合60〜70%、パラ−パラ結合割合5〜10%である構造を有するレゾール型フェノール樹脂が用いられることが好ましい。レゾール樹脂は通常液状であるが、レゾール型フェノール樹脂は軟化点を容易に調整され、融点が70〜90℃のレゾール型フェノール樹脂も容易に得られる。これにより、成形材料の変化が少なくなり、成形時の取り扱い性が向上する。この融点が70℃未満であると、成形材料中で成分の凝集が生じやすくなって、取り扱い性が低下するおそれがある。
熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂及び熱硬化性フェノール樹脂以外の他の樹脂が併用されてもよい。例えばポリイミド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等から選択される一種又は複数種の樹脂が用いられる。但し、エステル結合を含む樹脂は、耐酸性環境下で加水分解する恐れがあるため、使用されないことが好ましい。
また、熱硬化性樹脂として、セパレータの耐熱性や耐酸性の向上に寄与する点で、ポリイミド樹脂も適している。このようなポリイミド樹脂としては、特にビスマレイミド樹脂などが挙げられる。その具体例として例えば、4,4−ジアミノジフェニルビスマレイミドが挙げられる。このような他の樹脂が併用されるとセパレータの耐熱性が更に高まる。
熱硬化性樹脂成分には上記のとおり必要に応じて触媒(硬化促進剤)が含まれる。触媒としては、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
特に触媒として、測定開始温度30℃、昇温速度10℃/分、保持温度120℃、保持温度での保持時間30分の条件で加熱された場合の重量減少が5%以下である、2位に炭化水素基を有する置換イミダゾールが使用されることが好ましい。このような置換イミダゾールが使用されると、特に液状(ワニス状又はスラリー状)の成形材料の保存安定性、成形材料からシートが形成される際の揮発性、前記シートの平滑性などが良好となる。この置換イミダゾールとしては、特に2位の炭化水素基の炭素数が6〜17の置換イミダゾールが好ましい。
この置換イミダゾールの具体例としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。このうち、2−ウンデシルイミダゾール及び2−ヘプタデシルイミダゾールが好適である。これらの化合物は一種単独で用いられ、或いは二種以上が併用される。
触媒として、前記のような置換イミダゾールと共に、他の化合物が併用されてもよい。特にトリフェニルホスフィン等のリン系化合物(有機ホスフィン類)が併用されると、セパレータからの塩素イオンの溶出が更に抑制される。
成形材料中の触媒の含有量は適宜調整され、それにより成形材料の成形硬化時間が適宜調整される。特に成形材料中の触媒の含有量が、成形材料中の熱硬化性樹脂と硬化剤の合計量に対して0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。
成形材料は、更に内部離型剤を含有してもよい。内部離型剤としては適宜のものが用いられるが、特に120〜190℃において、成形材料中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と相溶せずに相分離する内部離型剤が好ましい。このような内部離型剤として、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、および長鎖脂肪酸系のワックスから選ばれる少なくとも一種が用いられることが好ましい。このような内部離型剤が成形材料の成形過程で熱硬化性樹脂及び硬化剤と相分離することで、離型性向上作用が良好に発揮される。
内部離型剤の使用量は、セパレータの形状の複雑さ、溝深さ、抜き勾配など金型面との離形性の容易さなどが考慮されて、適宜設定される。特に成形材料全量に対する内部離型剤の割合が0.1〜2.5質量%の範囲であることが好ましい。この割合が0.1質量%以上であると金型成形時に十分な離型性が発現し、この割合が2.5質量%以下であると内部離型剤によってセパレータの表面の親水性が阻害されることが、十分に抑制される。この内部離型剤の割合は0.1〜1質量%の範囲であれば更に好ましく、0.1〜0.5質量%の範囲であれば特に好ましい。
成形材料は、必要に応じてカップリング剤等の添加剤を含有してもよい。カップリング剤としては、シリコン系のシラン化合物、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤などが挙げられる。特にシリコン系のカップリング剤のうち、エポキシランカップリング剤が適している。カップリング剤は黒鉛粒子の表面に予め噴霧等により付着されていてもよい。エポキシランカップリング剤の使用量は、成形材料の固形分全体に対して、0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。この範囲において、カップリング剤がセパレータ表面にブリードすることが、充分に抑制される。
成形材料は溶媒を含有してもよい。特に薄型のセパレータが作製される場合には、成形材料が溶媒を含有することで、この成形材料が液状(ワニス状及びスラリー状を含む)に調製されてもよい。溶媒としては、たとえばメチルエチルケトン、メトキシプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が好ましい。溶媒は一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。溶媒の使用量は、成形材料からシート状のセパレータを作製する際の成形性を考慮して適宜設定される。特に、成形材料の粘度が1000〜5000cPの範囲となるように、溶媒の使用量が設定されることが好ましい。尚、溶媒は必要に応じて使用されればよく、熱硬化性樹脂として液状樹脂が使用されるなどにより成形材料が液状に調製されるならば、溶媒が使用されなくてもよい。
セパレータ中のイオン性不純物の含有量は少ないことが好ましく、特に質量比率でナトリウム含量が5ppm以下、塩素含量が5ppm以下であることが好ましい。そのためには、成形材料中のイオン性不純物の含有量が低いことが好ましく、特に成形材料の固形分全量に対する質量比率で、ナトリウム含量が5ppm以下、塩素含量が5ppm以下であることが好ましい。この場合、セパレータからのイオン性不純物の溶出が抑制され、不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下が抑制される。
セパレータ及び成形材料のイオン性不純物の含有量が上記のように低減されるためには、成形材料を構成する熱硬化性樹脂、硬化剤、黒鉛、その他添加剤等の各成分それぞれのイオン性不純物の含有量が低いことが好ましく、特に各成分に対する質量比率で、ナトリウム含量が5ppm以下、塩素含量が5ppm以下であることが好ましい。
尚、イオン性不純物の含有量は、対象物の抽出水中のイオン性不純物の量に基づいて導出される。前記抽出水は、対象物10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中に対象物を投入し、90℃で50時間処理することで得られる。抽出水中のイオン性不純物は、イオンクロマトグラフィにて評価される。この抽出水中のイオン性不純物量に基づいて、対象物中のイオン性不純物の量が、対象物に対する質量比に換算して導出される。
成形材料は、この成形材料から形成されるセパレータのTOC(total organic carbon)が100ppm以下となるように調製されることが好ましい。
TOCは、セパレータの質量10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中にセパレータが投入され、90℃で50時間処理された後の水溶液を用いて測定される数値である。TOCは、例えばJIS K0102に準拠して、株式会社島津製作所製の全有機炭素分析装置「TOC−50」などで測定される。測定にあたっては、サンプルの燃焼により発生するCO2濃度が非分散型赤外線ガス分析法で測定され、サンプル中の炭素濃度が定量される。この炭素濃度の測定によって、有機物質濃度が間接的に測定され、サンプル中の無機炭素(IC)、全炭素(TC)が測定され、全炭素と無機炭素の差(TC−IC)から全有機炭素(TOC)が計測される。
セパレータのTOCが100ppm以下となると、燃料電池の特性低下が更に抑制される。
TOCの値は、成形材料を構成する各成分として高純度の成分が選択されたり、更に樹脂の当量比が調整されたり、成形時に後硬化処理がおこなわれたりすることで、低減される。
成形材料は、上記のような各成分が適宜の手法で混合され、必要に応じて混練・造粒等されることで調製される。
この成形材料が成形されることで、セパレータが得られる。
ワニス状に調製された成形材料から薄型のセパレータが得られる場合には、成形材料は特に、100メッシュ篩(目開き150μm)を通過する粒径を有し、且つ平均粒径30〜70μmの黒鉛粒子;オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂から成り、或いはこのオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂から選択される少なくとも一種とからなるエポキシ樹脂成分;硬化剤であるフェノール樹脂;並びに、測定開始温度30℃、昇温速度10℃/分、保持温度120℃、保持温度での保持時間30分の条件で加熱した場合の重量減少が5%以下である、2位に炭化水素基を有する置換イミダゾールを、含有することが好ましい。この場合、まず成形材料がシート状に成形されることで、セパレータ成形用シート(成形用シート)が得られる。成形材料は、例えばキャスティング(展進)成形によりシート状に成形される。この成形の際には、複数種の膜厚調節手段が適用され得る。このような複数種の膜厚調節手段が適用されるキャスティング法は、例えばすでに実用化されているマルチコータによって実現される。キャスティングのための膜厚調節手段としては、スリットダイとともに、ドクターナイフおよびワイヤーバーの少なくとも一方が用いられることが好ましい。
成形用シートの厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であれば更に好ましい。また、この厚みは0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であれば更に好ましい。成形用シートの厚みが0.5mm以下であればセパレータの薄型化や軽量化、並びにそれによる低コスト化が充分に達成され、特に厚みが0.3mm以下であれば溶媒が使用される場合の成形用シート内部の溶媒の残存が効果的に抑制される。またこの厚みが0.05mm未満の場合にはセパレータの製造にあたっての有利さが充分に発揮されなくなり、特に成形性を考慮すると、この厚みは0.1mm以上であることが好ましい。
この成形用シートが、キャスティングにともなう乾燥によって半硬化(Bステージ)状態とされ、必要に応じて所定の平面寸法にカット(切断)もしくは打ち抜かれた後、成形されることで、両面に複数個の凸部(リブ)21が形成されると共にこの凸部(リブ)21間にガス供給排出用溝2が形成される。これにより、セパレータが得られる。このセパレータが波板状に形成され、且つその一方の面の凸部21の裏側に、他方の面のガス供給排出用溝2が形成されると、薄型でありながら両面に複数個の凸部(リブ)21を有すると共にこの凸部(リブ)21間にガス供給排出用溝2を有するセパレータが得られる。
セパレータの作製にあたっては、1枚の成形用シートからセパレータが作製されてもよく、複数枚の成形用シートからセパレータが作製されてもよい。このように成形用シートが使用されることで、薄型のセパレータの製造が可能となり、特に厚み0.2〜1.0mmの範囲のセパレータの製造も可能となる。また、セパレータの製造時に成形用シートが使用されることで、薄型のセパレータが製造される場合でも成形材料を薄く且つ均一に配置して成形することが容易となり、成形性や厚み精度が高くなる。
尚、セパレータの作製時には、成形用シートと適宜の導電性基材とが積層されてもよい。導電性基材が用いられると、セパレータの機械的強度が向上する。導電性基材が用いられる場合には、例えば導電性基材の両側にそれぞれ成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)が積層された積層物が圧縮・熱硬化成形され、或いは成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)の両側にそれぞれ導電性基材を積層された積層物が圧縮・熱硬化成形される。
導電性基材としては、たとえば、カーボンペーパー、カーボンプリプレグ、カーボンフェルト等が挙げられる。これらの導電性基材は、導電性を損なわない範囲で、ガラス、樹脂等の基材成分を含有してもよい。導電性基材の厚みは、0.03〜0.5mmの範囲が好ましく、0.05〜0.2mmの範囲がより好ましい。
ワニス状の成形材料は、成形用シートの作製を経て薄型のセパレータが製造される場合だけでなく、成形用シートの作製を経ることなくセパレータが製造される場合にも有用である。この場合、成形材料の保存安定性や成形性が優れたものになる。
成形材料(成形材料から形成された成形用シートを含む)からセパレータを得るためには、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形が採用されることが好ましい。上述のような組成を有する成形材料から、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形によりセパレータが作製されることで、密度ばらつきが少なく、且つ厚み精度の高いセパレータが得られる。
減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形においては、成形材料が金型内に充填された後、金型内或いは金型内を含む金型の周囲が減圧されて、金型内が減圧条件下又は真空条件下に維持される。この状態で、金型が加熱されると共に所定の圧縮力でプレスされることで、圧縮成形がされる。その後、金型が冷却装置により常温になるまで冷却された後、金型からセパレータが取り出される。
この圧縮成形時には、金型内或いは金型内を含む金型の周囲の真空度が80kPa以上であることが好ましく、特に真空度が95kPa以上であることが好ましい。この真空度の上限は特に制限されないが、実用上は100kPaまでである。
圧縮成形時の加熱温度及び圧縮圧力は、成形材料の組成、導電性基材の有無及び種類、成形厚みなどにもよるが、例えば加熱温度120〜190℃の範囲、圧縮圧力1〜40MPaの範囲で設定されることが好ましい。また、成形時間が15秒〜600秒の範囲で設定されることが好ましい。
減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形にあたっては、任意の構造の成形装置が用いられる。例えば真空吸引のための微小な開口を有する金型を備える成形装置が用いられる。また、真空吸引可能な機構を有する成形機を備える成形装置が用いられてもよい。特に成形機が真空吸引可能な機構を備えている場合、金型設計の自由度が高くなり、更に金型のメンテナンスも容易となる点で、好ましい。このような成形機としては、大竹機械工業製の真空エアー抜きゴム成形機が挙げられる。一方、真空吸引のための小孔を有する金型が使用される場合には、減圧時間の短縮化が可能になるという利点がある。
減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形における圧縮方法としては、機械式の圧縮方法や、油圧、空圧、水圧などを利用した機構による圧縮方法などが採用される。圧縮成形に要する成形時間は適宜設定されるが、金型の冷却時間を含めても1分前後から5分程度で充分である。
圧縮成形に用いられる金型は、例えば加熱手段を内蔵し、下型及び上型を備えている。下型と上型の双方には、セパレータの凸部に対応する凹部が形成される。真空吸引可能な機構を備えている成形機が用いられる場合には、例えばまず金型が開かれた状態で上型と下型とが予備加熱された後、下型上に篩などから成形材料が落下して載せられる。これにより下型の上に成形材料が均一に載せられる。成形材料から成形用シートが形成されている場合には、成形用シート、或いは成形用シートと導電性基材とが、下型の上に載せられる。続いて、金型を収容する真空チャンバーが閉じられ、真空チャンバー内が減圧される。真空チャンバー内が所定の真空度となったら、上型が下型に向けて降下して型締めがされる。これにより成形材料が所定の金型温度及び圧縮力により加熱圧縮され、金型内でセパレータが形成される。続いて、金型が冷却装置により常温まで冷却された後、この金型からセパレータが取り出される。
真空吸引のための微小な開口を有する金型が用いられる場合には、例えばまず金型が開かれた状態で上型と下型とが予備加熱された後、下型の上に成形材料が篩から落下させられる。これにより下型の上に成形材料が均一に載せられる。成形材料から成形用シートが形成されている場合には、成形用シート、或いは成形用シートと導電性基材とが、下型の上に載せられる。続いて、上型が下型に向けて降下して型締めがされると共に、金型の開口を通じて金型内が真空吸引されて、金型内が減圧される。この状態で、所定の金型温度及び圧縮力により成形材料が加熱圧縮され、金型内でセパレータが形成される。この金型が冷却装置により常温まで冷却された後、この金型からセパレータが取り出される。
更に、圧縮成形により得られたセパレータに、加熱処理が施されることが好ましい。この加熱処理における加熱温度は150〜180℃の範囲であることが好ましく、加熱時間は30秒〜1時間の範囲であることが好ましい。
セパレータの厚みは、3mm以下であることが好ましい。特にセパレータにおける最も厚み寸法の大きい箇所の厚み寸法が0.5〜3.0mmの範囲であり、最も厚み寸法の小さい箇所の厚み寸法が0.3〜0.7mmの範囲であることが好ましい。このような薄型のセパレータを作製するにあたり、本実施形態によれば、上記のような組成を有する成形性の高い成形材料から、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形によりセパレータが作製されることで、成形時に成形材料中からボイドが速やかに取り除かれることで、厚み精度の高いセパレータが得られる。
セパレータの密度ばらつき幅は0.02g/cm3以下であることが好ましい。密度ばらつき幅とは、セパレータにおける密度が最も高い部位における密度の値と、密度が最も低い部位における密度の値との差のことである。本実施形態によれば、上記のような組成を有する成形性の高い成形材料から、減圧条件下又は真空条件下での圧縮成形によりセパレータが作製されることで、成形時に成形材料中からボイドが速やかに取り除かれる。これにより、成形材料が均一化し、密度ばらつき幅の小さいセパレータの製造が可能となる。このようにセパレータの密度ばらつきが0.02g/cm3以下であると、セパレータが薄型であっても割れが生じにくくなって生産性が向上すると共に、セパレータの電気伝導度、ガス透過性及び機械的強度が向上する。このセパレータの密度ばらつき幅は、0.015g/cm3以下であればより好ましく、0.01g/cm3以下であれば更に好ましい。
セパレータが作製されてから、このセパレータにブラスト処理が施される前に、このセパレータにガスケットが積層される。単位セルがセパレータとしてカソード側セパレータとアノード側セパレータとを備える場合には、ガスケットとしては、カソード側セパレータの第一の面に重ねられるガスケット、カソード側セパレータの第二の面に重ねられるガスケット、カソード側セパレータの第一の面に重ねられるガスケット、及びカソード側セパレータの第二の面に重ねられるガスケットが、挙げられる。燃料電池用ガスケット付きセパレータが備えるガスケットは、前記四種のガスケットから選ばれる一種以上であってよい。
図1(a)は、セパレータ20としてカソード側セパレータ21を備える燃料電池用ガスケット付きセパレータ30(31)の一例を示す。また図1(b)は、セパレータ20としてアノード側セパレータ22を備える燃料電池用ガスケット付きセパレータ30(32)の一例を示す。図1(a)に示される燃料電池用ガスケット付きセパレータ31は、カソード側セパレータ21と、カソード側セパレータ21の第一の面に重ねられているガスケット12と、カソード側セパレータ2120の第二の面に重ねられているガスケット12とを備える。また、図1(b)に示される燃料電池用ガスケット付きセパレータ32は、アノード側セパレータ22と、アノード側セパレータ22の第一の面に重ねられているガスケット12とを備える。
ガスケットは、例えば天然ゴム、シリコーンゴム、SIS共重合体、SBS共重合体、SEBS、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素系ゴム等などから選択されるゴム材料から形成される。このゴム材料には粘着付与剤が配合されてもよい。
セパレータにガスケットが積層されるにあたっては、例えば予めシート状又は板状に形成されたガスケットがセパレータに接着や融着されるなどして接合される。
また、セパレータの表面上でガスケットを形成するための材料が成形されることで、ガスケットが形成されてもよい。この場合、例えばセパレータの表面上でガスケットを形成するための材料がスクリーン印刷法等により塗布され、続いてこの材料が硬化されることで、セパレータ上にガスケットが形成されてもよい。例えば未加硫のゴム材料がスクリーン印刷等によりセパレータの表面上の所定位置に塗布され、このゴム材料の塗膜が加硫されることで、セパレータの表面上の所定位置に所望の形状のガスケットが形成されてもよい。前記加硫にあたっては、加熱、電子線などの放射線の照射、或いはその他適宜の加硫方法が採用される。この場合、薄型のセパレータに対してもガスケットが容易に積層される。
また、セパレータが金型内にセットされ、このセパレータの表面上の所定位置に未加硫のゴム材料が射出されると共にこのゴム材料が加熱されるなどして加硫されることで、セパレータの表面上の所定位置に所望の形状のガスケットが形成されてもよい。このように金型成形によりガスケットが形成されるにあたっては、トランスファー成形のほか、コンプレッション成形、インジェクション成形等の成形法が採用され得る。
金型成形によりガスケットが形成される場合には、ガスケットが積層されたセパレータが金型から取り出されてから、ガスケットが更に加熱されることが好ましい。この場合、ガスケットの硬化反応が更に進行し、これにより、ガスケットからの不純物の溶出が抑制される。
セパレータにガスケットが積層されてから、このセパレータにブラスト処理が施される。このため、ガスケットがセパレータに重ねられる際に、ガスケットを形成するための材料に由来する成分がセパレータに付着しても、この成分がブラスト処理によってセパレータから除去される。このため、ガスケットを形成するための材料に由来する成分が後述する親水化のための表面処理の作用を阻害することが、抑制される。これにより、セパレータの表面の良好な親水性が維持される。
ブラスト処理により、セパレータの表層のスキン層が除去されると共にセパレータの表面粗さが調整される。ブラスト処理によって、セパレータの表面の、ISO 25178−2:2012で規定される算術平均高さSa(arithmetical mean height of the scale limited surface; Sa)が、0.4μm以上1.2μm以下の範囲に調整されることが好ましい。この場合、後述する親水化処理によって、セパレータの表面の親水性が特に向上する。また、セパレータにガスケットが重ねられる場合には、セパレータとガスケットとの間のリークが抑制される。このセパレータの表面の算術平均高さSaが0.6〜1.0μmの範囲であれば、更に好ましい。
特に、ブラスト処理によって、セパレータにおける、燃料ガスを流通させるための溝又は酸化剤ガスを流通させるための溝が形成されている面の算術平均高さSaが、0.4μm以上1.2μm以下の範囲に調整されることが、好ましい。すなわち、本実施形態では、カソード側セパレータ21の第一の面の算術平均高さSa、並びにアノード側セパレータ22の第一の面の算術平均高さSaが、0.4μm以上1.2μm以下の範囲に調整されることが好ましい。この場合、セパレータからスキン層が充分に除去される。また、セパレータの表面の親水性が特に向上することで、燃料ガス及び酸化剤ガスの流路が水滴によって閉塞されることが、効果的に抑制される。この算術平均高さSaは、特に0.8〜1.2μmの範囲であることが好ましい。
また、セパレータにおける、燃料ガス又は酸化剤ガスを流通させるための溝が形成される面とは反対側の面(以下、水路面という)の算術平均高さSaが、0.4μm以上1.2μm以下の範囲に調整されることが好ましい。この水路面は、冷却水を流通させるための流路を構成する面であり、本実施形態では、アノード側セパレータ22の第二の面及びカソード側セパレータ21の第二の面が、水路面である。水路面の算術平均高さSaが前記のように調整されると、水路面にガスケットが重ねられる場合の、水路面とガスケットとの間からの冷却水の漏出が、効果的に抑制される。特に、燃料電池用ガスケットセパレータが水路面に重なっているガスケットを備えず、この燃料電池用ガスケットセパレータから単位セルが構成される場合に水路面にガスケットが重ねられる場合に、水路面とガスケットとの間からの冷却水の漏出が、効果的に抑制される。このため、本実施形態では、アノード側セパレータ22の第二の面の算術平均高さSaが、前記のように調整されることが、特に好ましい。水路面の算術平均高さSaが0.5〜0.7μmの範囲であれば、更に好ましい。
また、セパレータにブラスト処理が施される際に、同時にガスケットにもブラスト処理が施されてもよい。この場合、ガスケットをマスクする必要がなく、このためブラスト処理の処理効率が高くなる。
また、ガスケットにブラスト処理が施されることで、ガスケットの表面の、ISO 25178−2:2012で規定される算術平均高さSa(arithmetical mean height of the scale limited surface; Sa)が、0.3〜0.6μmの範囲に調整されることが好ましい。
尚、セパレータ及びガスケットの算術平均高さSaは、レーザ顕微鏡によるセパレータ及びガスケットの三次元表面性状の測定結果から導出される。レーザ顕微鏡としては、例えば株式会社島津製作所製の3D測定レーザー顕微鏡(型番OLS4000)を用いることができる。
上記のようにセパレータ及びガスケットの表面粗さを評価するにあたって、レーザ顕微鏡により三次元表面性状を測定し、その結果から導出される算術平均高さSaを利用すると、通常の接触式粗さ計によって二次元輪郭曲線を測定する場合と比べて、セパレータ及びガスケットのより微細かつ正確な形状が測定される。セパレータの表面は非常に微細な凹凸を有しているため、レーザ顕微鏡による測定結果に基づく算術平均高さSaを利用することで、セパレータの表面性状が、より正確に特定される。また、砥粒の粒径などのブラスト処理の条件を設定するにあたっても、ブラスト処理条件とレーザ顕微鏡による測定結果に基づく算術平均高さSaとの関係を調査することで、より適切なブラスト処理の条件を設定することが可能となる。また、レーザ顕微鏡による測定は非接触の測定であるので、軟質なガスケットの表面性状を測定する場合であっても、それが正確に測定され、このためガスケットの算術平均高さSaが正確に導出される。
セパレータ及びガスケットに施されるブラスト処理として、ウエットブラスト処理が採用されることが好ましい。この場合、ブラスト処理の程度、並びにブラスト処理後のセパレータ及びガスケットの表面の粗さに、ばらつきが生じにくくなる。このため燃料電池用ガスケット付きセパレータの品質の安定性が高くなる。
ブラスト処理のために用いられる砥粒の材質としては、特に制限されないが、アルミナ、炭化ケイ素等が、挙げられる。また、砥粒の平均粒径は、適宜設定されるが、例えば3〜200μmの範囲である。
特に砥粒の平均粒径が、7.8〜43.6μmの範囲であることが好ましい。このように砥粒の平均粒径が43.6μm以下であることで、ブラスト処理時のスラリーの噴射圧の変動に対する、セパレータ及びガスケットの表面の算術平均高さSaの変動が小さくなる。このため、ブラスト処理によって、セパレータの表面の算術平均高さSaが、安定して制御される。また、ブラスト処理による衝撃によってセパレータから黒鉛粒子が脱落することが抑制され、このため、セパレータの接触抵抗が低く維持される。更に、このような砥粒によって、セパレータ及びガスケットの表面に非常に細かい凹凸が形成され、更に、セパレータの表面に露出する黒鉛粒子にも凹凸が形成され得る。尚、このようにセパレータが細かい凹凸を有していても、セパレータ及びガスケットの算術平均高さSaは、レーザ顕微鏡による測定結果によって正確に導出される。また、砥粒の平均粒径が7.8μm以上であることで、ブラスト処理によってセパレータのスキン層が充分に除去され、このためセパレータの接触抵抗が充分に低くなる。
尚、砥粒の平均粒径は、累積高さ50%点の粒子径(d50)である。
セパレータ及びガスケットにブラスト処理が施されるにあたっては、セパレータの第一の面と第二の面に、同時にブラスト処理が施されてもよい。すなわち、ウエットブラスト処理が採用される場合には、セパレータの第一の面と第二の面に、同時に砥粒を含有するスラリーが吹き付けられてもよい。この場合、ブラスト処理の効率が向上する。
セパレータ及びガスケットにウエットブラスト処理が施される際には、砥粒を含むスラリーから金属成分が、磁石を用いて除去されてから、このスラリーを用いてウエットブラスト処理が施されることが、好ましい。ブラスト処理に用いられる砥粒には不純物として金属成分が混入していることがある。またブラスト処理時に砥粒を含むスラリーに金属成分が混入することもある。このような金属成分を含むスラリーがウエットブラスト処理に用いられると、セパレータ及びガスケットの表面に金属成分が付着してしまう。しかし、前記のようにスラリーから金属成分が除去されてから、このスラリーを用いてウエットブラスト処理が施されると、ブラスト処理時にセパレータに金属成分が付着しにくくなる。ウエットブラスト処理にあたって、スラリーを循環させながら繰り返し使用する場合には、ウエットブラスト処理に使用されたスラリーから金属成分が除去されてから、再度このスラリーがウエットブラスト処理に使用されることが好ましい。
ブラスト処理後のセパレータに、親水化処理が施される。尚、ブラスト処理の後、親水化処理の前に、セパレータ及びガスケットに洗浄処理が施され、或いは更に乾燥処理が施されることが、好ましい。洗浄処理では、例えばセパレータ及びガスケットが、イオン交換水等により洗浄される。乾燥処理では、セパレータ及びガスケットがエアブローなどにより風乾されることが好ましい。この場合、必要に応じて常温若しくは温風によるエアブローが採用され、或いは常温でのエアブローの後に温風によるエアブローを追加的に施されてもよい。また、乾燥処理にあたっては、セパレータ及びガスケットをシリカゲル等の乾燥剤を入れたデシケータ中に静置する方法、セパレータ及びガスケットを室温以上(例えば50℃)の温度の乾燥機中に静置する方法、真空乾燥機を使用してセパレータ及びガスケットから水分を除去する方法等が採用されてもよい。この乾燥処理により、セパレータ及びガスケットが、その吸湿率が0.1%以下になるまで乾燥されることが好ましい。
親水化処理は、セパレータの表面の親水性を向上させるための処理である。これによりセパレータの表面に高い親水性が付与されると、セパレータにおける溝2が結露水で閉塞されにくくなる。このため燃料電池の高い発電効率が長期間維持される。
親水化処理としては、セパレータの表面の親水性を向上させることが可能な処理であれば、特に制限されない。親水化処理は、例えばセパレータをプラズマに曝露するプラズマ処理、セパレータをオゾンガスに曝露するオゾンガス処理、セパレータをSO3に曝露するSO3処理、セパレータをフッ素を含有するガスに曝露させるフッ素処理、ケイ素化合物又はアルミニウム化合物を含む改質剤化合物を含む気体を燃焼させながらセパレータに吹き付けるフレイム処理、並びにセパレータにオゾン水を接触させるオゾン水処理から、一種以上が選択される。特に、プラズマ処理が採用されることが好ましい。
プラズマ処理としては、大気圧プラズマ処理が施されることが好ましく、特にリモート方式でのプラズマ処理が施されることが好ましい。このリモート方式での大気圧プラズマ処理では、例えば吹き出し口を有する放電空間と、この放電空間に電界を発生させるための放電用電極とを備えるプラズマ処理装置が用いられる。このプラズマ処理装置では、放電空間にプラズマ生成用ガスが供給されると共にこの放電空間内の圧力が大気圧近傍に維持され、更に放電用電極間に電圧が印加されることで放電空間に放電を発生すると、放電空間内でプラズマが生成する。このプラズマを含むガス流が吹き出し口から吹き出されて成形体に吹き付けられることによって、成形体にプラズマ処理が施される。このようなプラズマ処理装置としては、例えば積水化学工業株式会社製のAPTシリーズが挙げられるが、パナソニック株式会社、ヤマトマテリアル株式会社などから提供されている適宜のプラズマ処理装置が用いられてもよい。
このようなリモート方式のプラズマ処理が採用されると、成形体の表面に向けてプラズマが吹き付けられ、このため成形体の溝の内面まで充分に処理がなされる。またプラズマ処理時に成形体が放電に曝されず、このため成形体がプラズマ処理時に損傷しにくくなる。
大気圧プラズマ処理は、成形体の表面に所望の親水性が付与されるように適宜設定された条件でおこなわれる。この大気圧プラズマ処理におけるプラズマ生成用ガスは、窒素ガスであることが好ましく、特にこの窒素ガス中の酸素含有量が2000ppm以下であることが好ましい。この場合、大気圧プラズマ処理によってセパレータに特に高い親水性が付与される。
また、成形材料中のフェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲であると、プラズマ処理によってセパレータの表面の親水性が特に高くなる。
大気圧プラズマ処理は、成形体の表面に結露が生じないように成形体の温度及び雰囲気温度が調整された条件下で行われることが好ましい。この場合、成形体の表面に付着した水滴によりプラズマが消費されてしまうことが抑制され、処理効率が向上する。成形体の温度は、前記のとおりこの成形体の表面に結露が生じない温度(露点温度)以上であることが好ましく、安定した大気圧プラズマ処理のためには70℃以下であることが好ましい。大気圧プラズマ処理の安定化のためには、成形体の温度及び雰囲気温度が一定に保たれることも重要である。雰囲気温度の調節にあたっては、通常、プラズマ処理装置のプラズマユニット部分の温度が調節され、プラズマ処理装置の構成によってはプラズマ処理時に成形体を支える台の温度が調節される。
尚、大気圧プラズマ処理にあたり、リモート方式以外の方式のプラズマ処理、例えばダイレクト方式のプラズマ処理が採用されてもよい。
プラズマ処理後の成形体は、そのまま大気中に放置されてもよいが、成形体をイオン交換水などの水に浸漬させるなどしてこの成形体の表面と水と接触させる水接触処理が施されることが好ましい。
このようにして大気圧プラズマ処理を含む表面処理が成形体に施されると、成形体の表面の親水性が向上すると共に、この高い親水性が長期に亘って維持されるようになる。この親水化のメカニズムの詳細は不明であるが、成形体の表面に水酸基が分布することでこの表面に水分が吸着して官能基が生成しやすくなり、更に大気圧プラズマ処理により、成形体の表面から汚染物質が除去されて活性の高い状態となると共にこの活性化された表面に水酸基等の親水性の官能基が導入されて、成形体の表面に親水性の官能基が多く形成し、これが親水性向上に寄与していると考えられる。
特に成形体にプラズマ処理に先だって上記のような乾燥処理が施されると、成形体への大気圧プラズマ処理が水分子によって阻害されにくくなり、大気圧プラズマ処理の効率が向上する。
尚、大気圧プラズマ処理にあたっては、成形体でアークが発生しないことが好ましい。そのためには、たとえば、プラズマ処理装置の電極部にアース装置が設置されていることなどが望ましい
またプラズマ処理後の成形体に上記のような水接触処理が施されると、成形体の表面の親水性が更に向上する。その詳細なメカニズムは明らかではないが、大気圧プラズマ処理によって活性化された成形体の表面に水分子が吸着することに起因して成形体の表面の親水性が向上すると考えられる。
オゾンガス処理は、セパレータの表面にオゾンガスを接触させることでおこなわれる。オゾンガスを含むガスとしては、オゾンガスと酸素ガスや空気等とを含む混合ガスが挙げられる。この表面処理におけるオゾンガス濃度は、特に限定されず、例えば3.5〜8.0容量%の範囲の比較的低濃度であっても、8.0〜14.0容量%の範囲の比較的高濃度であってもよい。
このオゾンガス処理時の処理温度は、−50℃以上が好ましく、0℃以上であればより好ましく、室温以上であれば更に好ましい。また、セパレータの耐熱性の限界を考慮し、処理温度は200℃以下が好ましく、100℃以下であればより好ましく、50℃以下であれば更に好ましく、30℃以下が最も好ましい。すなわち、処理温度は−50℃〜200℃の範囲であることが好ましく、0℃〜100℃の範囲であれば更に好ましく、0℃〜50℃の範囲であれば更に好ましく、室温以上30℃以下の範囲が最も好ましい。
この表面処理の処理時間は、1秒以上が好ましく、数秒以上であればより好ましく、10秒以上であれば更に好ましく、0.1時間以上であれば更に好ましく、0.2時間以上が最も好ましい。またこの処理時間は、10日以下であることが好ましく、10時間以下であればより好ましく、5時間以下であれば更に好ましく、1時間以下であれば特に好ましい。実用的な処理時間は、長くても1〜4時間の範囲が好ましく、更に長時間処理を施す場合でも1日以下が好ましい。例えば0.1〜5時間の範囲が好ましく、0.2〜1時間の範囲が更に好ましい。
オゾンガス処理時の雰囲気圧力は常圧付近であることが好ましい。また雰囲気圧力は常圧よりも低い圧力又は高い圧力でもよいが、この場合でも雰囲気圧力は数hPa〜0.2MPaの範囲であることが好ましい。
これらの処理条件は、セパレータに十分な量のオゾンガスを効率良く導入することができると共に、オゾンガス処理によってセパレータの劣化、燃焼等が引き起こされないように、適宜設定される。
オゾンガス処理にあたっては、セパレータにオゾンガスを適宜の手法で接触させる。例えば処理容器内にセパレータを入れ、この処理容器内にオゾンガスを含むガスを供給することで、セパレータにオゾンガスを接触させることができる。
オゾンガス処理が施されたセパレータは、そのまま大気中に放置されてもよく、また水洗されてから乾燥されてもよい。
このようなオゾンガス処理によっても、セパレータの表面の親水性が向上する。これは、表面処理によりセパレータの表面でオゾンが反応することでセパレータの表面に親水性の官能基が導入されるためと考えられる。また、成形材料中のフェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲であると、オゾンガス処理によってセパレータの表面の親水性が特に高くなる。
セパレータにプラズマ処理が施され、続いてオゾンガス処理が施されてもよい。この場合、まずプラズマ処理によってセパレータの表面上から汚染物質が除去されることで、セパレータの表面が活性の高い状態となる。また、このプラズマ処理によって、セパレータの表面に水酸基等の官能基が導入される。これに続いてセパレータにオゾンガス処理が施されると、セパレータの表面でオゾンガスが更に反応しやすくなる。このため、セパレータの表面の親水性が更に長期に亘って維持されるようになる。オゾンガス処理の前に施されるプラズマ処理は、セパレータの表面に所望の官能基を導入できるように適宜設定された条件でおこなわれるが、例えば、ヤマトマテリアル株式会社製の型番「PDC210」を用い、プラズマ生成用ガスとして酸素を用い、印加電力150〜500W、処理時間30秒〜10分の条件でおこなわれる。
SO3処理は、例えばセパレータの表面にSO3を含有するガス(SO3含有ガス)を接触させることでおこなわれる。この場合、SO3含有ガスが、SO3ガスのみを含有してもよく、SO3ガスと、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、酸素、炭酸ガスなど含有してもよい。またSO3含有ガスが、ガス状のルイス塩基を含有していてもよい。SO3含有ガス中のSO3濃度は、限定されないが、0.1〜80体積%の範囲であることが好ましく、0.1〜10体積%であればより好ましく、0.1〜5体積%であれば更に好ましい。
SO3処理にあたっては、例えばセパレータが耐酸性の密閉容器に収容され、この密閉容器内にSO3含有ガスが流通された状態が、一定時間保持される。また、SO3含有ガスが内部を流通する室内にセパレータが連続的に通過させられてもよい。
SO3処理の処理条件は、適宜設定されるが、例えば密閉容器におけるSO3含有ガス中のSO3ガスのみの、1分間あたりの流量が、密閉容器の容量の0.5〜5倍量の範囲であることが好ましく、またこの流量が0.01〜10000ml/分の範囲であることが好ましい。また、処理温度は、20℃〜100℃の範囲が好ましく、30℃〜80℃であればより好ましく、40℃〜70℃であれば更に好ましい。また、処理時間は、0.1秒〜120分の範囲であることが好ましく、1〜60分の範囲であればより好ましい。
セパレータには、SO3処理に続いて、直ちにセパレータの表面上に付着している硫酸を除去するための後処理が施されることが好ましい。後処理としては、例えば水洗、重曹水溶液及び石灰水等のアルカリ溶液による処理等が挙げられる。特に後処理が、セパレータをアルカリ溶液で洗浄する処理と、それに続いてセパレータを10℃以上のイオン交換水で洗浄する処理とを含むことが、好ましい。
SO3処理が施されると、セパレータの表面にSO3が反応することでスルホン酸基が生成し、これがセパレータの表面に分布することで、セパレータの親水性が向上する。特にSO3処理前のセパレータの表面に水酸基が分布していると、SO3処理によってセパレータの表面でのスルホン酸基の生成が著しく促進される。また、成形材料中のフェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲であると、SO3処理によってセパレータの表面の親水性が特に高くなる。
セパレータの親水性の向上とその親水性の長期間の持続のためには、SO3処理がほどされることで、セパレータの表面における硫黄原子の量が0.1原子数%となることが好ましい。この硫黄原子の量は、エネルギー分散型X線分析法により測定される。この硫黄原子の量の値は、0.1〜4.0原子数%の範囲であれば、より好ましく、2.0〜4.0原子数%であれば、更に好ましい。
セパレータにプラズマ処理が施され、続いてSO3処理が施されてもよい。この場合、まずプラズマ処理によってセパレータの表面上から汚染物質が除去されることで、セパレータの表面が活性の高い状態となる。また、このプラズマ処理によって、セパレータの表面に水酸基等の官能基が導入される。これに続いてセパレータにSO3処理が施されると、セパレータの表面でSO3ガスが更に反応しやすくなる。このため、セパレータの表面の親水性が更に長期に亘って維持されるようになる。SO3処理の前に施されるプラズマ処理は、セパレータの表面に所望の官能基を導入できるように適宜設定された条件でおこなわれるが、例えば、ヤマトマテリアル株式会社製の型番「PDC210」を用い、プラズマ生成用ガスとして酸素を用い、印加電力150〜500W、処理時間30秒〜10分の条件でおこなわれる。
また、SO3処理の前処理として、セパレータに加熱処理、火炎処理、コロナ処理、紫外線照射処理等が施されてもよい。
フッ素処理は、例えばセパレータの表面にフッ素を含有するガス(フッ素含有ガス)を接触させることでおこなわれる。この場合、フッ素含有ガスが、フッ素ガスのみを含有してもよく、フッ素ガスと、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、酸素、炭酸ガスなど含有してもよい。フッ素含有ガス中のフッ素濃度は、限定されないが、0.01〜100体積%の範囲であることが好ましい。
フッ素処理にあたっては、例えばセパレータが密閉容器に収容され、この密閉容器内が減圧されてから、密閉容器内に窒素ガス等の不活性ガスが供給され、続いて密閉容器内にフッ素ガスが供給される。
フッ素処理の処理条件は、セパレータに充分な量のフッ素が効率良く導入され、且つセパレータの劣化、燃焼等が引き起こされないように設定される。例えば処理温度は、−50℃以上が好ましく、0℃以上であればより好ましく、室温以上であれば更に好ましい。また、セパレータの耐熱性の限界を考慮し、処理温度は200℃以下が好ましく、100℃以下であればより好ましく、50℃以下であれば更に好ましく、30℃以下が最も好ましい。また、処理時間は、1秒以上が好ましく、数秒以上であればより好ましく、10秒以上であれば更に好ましく、10秒以上が最も好ましい。またこの処理時間は、10日以下であることが好ましく、10時間以下であればより好ましく、5時間以下であれば更に好ましく、1時間以下であれば特に好ましく、30分間以下が最も好ましい。実用的な処理時間は、長くても1〜4時間の範囲が好ましく、更に長時間処理を施す場合でも1日以下が好ましい。また、雰囲気圧力は常圧付近であることが好ましい。また雰囲気圧力は常圧よりも低い圧力又は高い圧力でもよいが、この場合でも雰囲気圧力は数hPa〜0.2MPaの範囲であることが好ましい。
フッ素処理後のセパレータは、そのまま大気中に放置されてもよく、また水洗されてから乾燥されてもよい。
このようなフッ素処理により、セパレータの表面の親水性が向上する。これは、フッ素処理によって、セパレータの表面にフッ素が結合し、更にこれが水と反応することで、セパレータの表面に−COOH基が分布するためであると、考えられる。また、成形材料中のフェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲であると、フッ素処理によってセパレータの表面の親水性が特に高くなる。
セパレータにプラズマ処理が施され、続いてフッ素処理が施されてもよい。この場合、まずプラズマ処理によってセパレータの表面上から汚染物質が除去されることで、セパレータの表面が活性の高い状態となる。また、このプラズマ処理によって、セパレータの表面に水酸基等の官能基が導入される。これに続いてセパレータにフッ素処理が施されると、セパレータの表面でフッ素ガスが更に反応しやすくなる。このため、セパレータの表面の親水性が更に長期に亘って維持されるようになる。フッ素処理の前に施されるプラズマ処理は、セパレータの表面に所望の官能基を導入できるように適宜設定された条件でおこなわれるが、例えば、ヤマトマテリアル株式会社製の型番「PDC210」を用い、プラズマ生成用ガスとして酸素を用い、印加電力150〜500W、処理時間30秒〜10分の条件でおこなわれる。
フレイム処理では、セパレータの表面に、改質剤化合物を含有する燃焼性ガスが、燃焼させられながら吹き付けられる。このフレイム処理により、セパレータの表面に微細な酸化ケイ素の粒子が付着し、このためセパレータの表面に優れた親水性が付与される。特にセパレータの表面に水酸基が分布していると、この水酸基によって、酸化ケイ素の粒子がセパレータに強固に結合する。このため、セパレータからの酸化ケイ素の粒子の脱落しにくくなり、このため、セパレータの表面の親水性が長期に亘って高く維持される。また、成形材料中のフェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.8〜1.2の範囲であると、フレイム処理によってセパレータの表面の親水性が特に高くなる
フレイム処理は、例えば燃焼性ガスをバーナー等で燃焼させ、更にこの燃焼性ガスをセパレータに向けてカーテン状に吹き付けながら、セパレータを移動させることで、おこなわれる。この場合、セパレータの表面に均一且つ効率的にフレイム処理が施される。
フレイム処理に用いられる改質剤化合物は、ケイ素化合物又はアルミニウム化合物を含有する。ケイ素化合物及びアルミニウム化合物としては、一般的なガスバーナーの火炎中で燃焼され得るならば、特に制限はない。入手のし易さや取り扱いの容易さを考慮すると、ケイ素化合物は、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましい。また、アルミニウム化合物は、アルキルアルミニウム化合物及びアルコキシアルミニウム化合物から選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましい。アルキルシラン化合物としては、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジフェニルシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリフェニルシラン、ジメチルジエチルシランなどの置換基を有していてもよいモノシラン化合物、ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、クロロヘプタメチルジシランなどの置換基を有していても良いジシラン化合物、オクタメチルトリシランなどの置換基を有していても良いトリシラン化合物などが挙げられる。アルコキシシラン化合物としては、メトキシシラン、ジメトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、エトキシシラン、ジエトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等が挙げられる。シロキサン化合物としては、テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどが挙げられる。シラザン化合物としては、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。アルキルアルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウムなどが挙げられる。アルコキシアルミニウム化合物としては、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシドなどが挙げられる。これらの改質剤化合物は一種単独で用いられても、複数種が併用されてもよい。改質剤化合物の具体的な一例としては、ケイ素化合物を含む株式会社イトロ製のイトロ処理剤が挙げられる。
燃焼性ガス中の改質剤化合物の割合は、特に制限されないが、1×10-10〜10モル%の範囲であることが好ましい。また、燃焼性ガスは、空気を含有することが好ましい。この空気によって火炎5の温度を制御したり、この空気がキャリア効果を発揮したりすることができ、更に、表面処理の均一性が高くなる。燃焼性ガスが、燃焼用燃料として炭化水素ガスを含有することも好ましい。炭化水素ガスは、プロパンガスとLPG(液化石油ガス)のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合、プロパンガス及びLPGは安価であると共に、所定温度で燃焼して改質剤化合物を安定的に熱分解させることができ、表面処理の均一性が更に高くなる。LPGとしては、ブタン(ノルマルブタン、イソブタン)、ブタン/プロパンの混合ガス、エタン、ペンタン(ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン)等が挙げられる。
フレイム処理時の、燃焼ガスの燃焼温度は、適宜設定されるが、例えば500〜1500℃の範囲に設定される。セパレータへの燃焼性ガスの吹きつけ時間も、適宜設定されるが、例えばセパレータの面積100cm2あたり、0.1〜100秒の範囲に設定される。
セパレータにプラズマ処理が施され、続いてフレイム処理が施されてもよい。この場合、まずプラズマ処理によってセパレータの表面上から汚染物質が除去されることで、セパレータの表面が活性の高い状態となる。また、このプラズマ処理によって、セパレータの表面に水酸基等の官能基が導入される。これに続いて、セパレータにフレイム処理が施されると、官能基を介してセパレータの表面に酸化ケイ素や酸化アルミニウムの粒子が強固に固定されやすくなる。このため、セパレータの表面の親水性が更に長期に亘って維持されるようになる。フレイム処理の前に施されるプラズマ処理は、セパレータの表面に所望の官能基を導入できるように適宜設定された条件でおこなわれるが、例えば、ヤマトマテリアル株式会社製の型番「PDC210」を用い、プラズマ生成用ガスとして酸素を用い、印加電力150〜500W、処理時間30秒〜10分の条件でおこなわれる。
オゾン水処理では、セパレータにオゾン水が接触させられる。これにより、セパレータの表面の親水性が向上する。これは、オゾンによってセパレータの表面が酸化されることで、カルボキシル基や水酸基等の官能基が生成するためであると、考えられる。オゾン水の濃度は、50ppmよりも大きいことが好ましく、80ppm以上であれば更に好ましい。また、このオゾン水の濃度は110ppm以下であることが好ましい。
オゾン水処理にあたっては、セパレータをオゾン水中に浸漬するなど、適宜の手法が採用される。処理条件は、適宜設定されるが、オゾン水の温度は常温以下であることが好ましく、特に0〜4℃の範囲が好ましい。また、セパレータとオゾン水との接触時間(処理時間)は10時間以上であることが好ましい
以上のようにして、燃料電池用ガスケット付きセパレータが製造される。
この燃料電池用ガスケット付きセパレータの製造工程においては、セパレータにガスケットが積層されてから、このセパレータ及びガスケットに、ブラスト処理、親水化処理が、順次施される。このため、上述の通り、セパレータにガスケットが積層される際にガスケットを形成するための材料に由来する成分がセパレータに付着しても、この成分がブラスト処理によってセパレータから除去されることで、セパレータの表面における不純物の付着量が非常に低くなっている。このため、セパレータの低い表面抵抗が維持され、且つ、上述の通り親水性が高くなる。
また、上記のようにセパレータの親水性が高くなる結果、燃料電池用ガスケット付きセパレータにおけるセパレータの表面の水との静的接触角は、40°以下であることが好ましい。この場合、セパレータの表面の親水性が高いため、セパレータにおけるガス供給排出用溝2が水滴により閉塞されにくくなる。このため、本実施形態に係る燃料電池用ガスケット付きセパレータを備える燃料電池の発電効率が低下しにくくなる。この水との静的接触角は、0°〜40°の範囲であればより好ましく、0°〜30°の範囲であれば更に好ましい。尚、セパレータの表面の水との静的接触角は、親水化処理の条件が適宜設定されることにより、調整される。
また、セパレータの接触抵抗が、15mΩcm2以下であることが好ましい。この場合、燃料電池で発電した電気エネルギーを外部へ伝達するというセパレータの機能が高いレベルで発揮される。尚、セパレータの接触抵抗も、親水化処理の条件が適宜設定されることにより、調整される。
また、燃料電池用ガスケット付きセパレータから金属成分が磁石によって吸引除去されてもよい。この場合、例えば燃料電池用ガスケット付きセパレータが一対の磁石の間に配置されることで、セパレータ及びガスケットから金属成分が吸引除去される。尚、磁石を用いた吸引除去以外の適宜の方法でセパレータ及びガスケットから金属成分が除去されてもよい。但し、強酸性溶液によって洗浄する方法ではセパレータ及びガスケットを構成する樹脂が溶解してしまうおそれがあり、また超音波洗浄ではセパレータから黒鉛粒子が脱離してしまうおそれがあるため、好ましくない。
また、セパレータにおける、金属成分の付着の程度は、セパレータを90℃の温水で1時間洗浄し、更に90℃の温度で1時間加熱乾燥する処理を施した後に、セパレータの表面を観察することで確認される。セパレータに金属成分が付着していると、前記処理によりセパレータの表面に金属酸化物(錆)が生成する。前記処理後のセパレータの表面が目視で観察されても前記金属酸化物(錆)の存在が確認されないことが好ましい。特に、前記処理後のセパレータの表面に、直径100μmより大きい金属酸化物が存在しないことが好ましく、直径50μmより大きい金属酸化物が存在しなければ更に好ましい。また、直径30μmより大きい金属酸化物が存在しなければ特に好ましい。
また、このセパレータの表面に表出しているFe、Co、及びNiの総量が0.01μg/cm2以下となっていることが好ましい。更に、このセパレータ20の表面に表出しているCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びZnの総量が0.01μg/cm2以下となっていることが好ましい。
このようにセパレータの製造時に原料成分、成形材料、或いはセパレータから金属成分が除去されると、セパレータにおける金属成分の含有量が少なくなる。また、そのため、セパレータが水洗されるなどしてから燃料電池に組み込まれても、セパレータの表面に金属酸化物(錆)が現れにくくなる。このため、燃料電池内でのセパレータからの金属イオンの脱離が抑制され、このような金属イオンの脱離による電解質のプロトン伝導性の低下や電解質の分解が抑制され、燃料電池の性能が長期に亘って維持される。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例には限定されない。
[実施例1〜15]
各実施例につき、後掲の表に示す原料成分を、攪拌混合機(ダルトン製「5XDMV−rr型」)に、後掲の表に示す組成となるように入れて攪拌混合した。これにより得られた混合物を整粒機で粒径500μm以下に粉砕することで、成形材料を得た。
この成形材料を用いて、次のようにしてセパレータを形成した。まず、真空チャンバー内で金型に成形材料を配置してから、5秒間経過した時点で、真空チャンバー内の減圧を開始し、10秒間かけて真空チャンバー内を97kPaの真空度まで到達させた。続いて、上型を下型に向けて降下させて型締めすることで、成形材料を圧縮成形した。圧縮成形条件は、金型温度170℃、成形圧力35.3MPa、成形時間3分とした。次に金型を閉じたまま除圧し、30秒間保持した後に金型を開き、続いて金型からセパレータを取り出した。
得られたセパレータの形状は、平面視200mm×250mmの矩形状であり、厚みは最も厚い箇所で1.5mm、最も薄い箇所で0.5mmであった。また、圧縮成形によって、セパレータの片側の面(第一の面)には長さ250mm、幅1mm、深さ0.5mmの溝を25本形成し、第一の面とは反対側の面(第二の面;水路面)には長さ250mm、幅0.5mm、深さ0.5mmの溝を25本形成した。
続いて、セパレータの第一の面の外周部分にエチレン−プロピレン−ジエンゴムをスクリーン印刷法により塗布した後、加熱加硫することでガスケットを形成した。
続いて、セパレータの第一の面と第二の面に、ウェットブラスト処理を同時に施した。このとき、同時にガスケットにもウエットブラスト処理を施した。ウェットブラスト処理にあたっては、マコー株式会社製のウエットブラスト処理装置(形式PFE−300T/N)を用い、砥粒としてアルミナ粒子を含むスラリー用いた。アルミナ粒子としては、昭和電工株式会社製のホワイトモランダム(登録商標)WAシリーズを用いた。このウエットブラスト処理に用いた砥粒の平均粒径(d50)を、後掲の表に示す。また、ウエットブラスト処理後のセパレータの第一の面、第二の面、及びガスケットの表面の三次元表面性状を3D測定レーザー顕微鏡で測定し、その結果に基づいて、セパレータ及びガスケットの、ISO 25178−2:2012で規定される算術平均高さSaを導出した。その結果は、後掲の表に示す通りである。
続いて、セパレータ及びガスケットをイオン交換水で洗浄し、更に温風乾燥した。
続いて、セパレータに対して、実施例1〜10,12〜15ではプラズマ処理を、実施例11ではオゾンガス処理を、施した。
実施例1〜10,12〜15におけるプラズマ処理にあたっては、セパレータに対して、リモート方式の大気圧プラズマ処理を施した。大気圧プラズマ処理にあたり、プラズマ処理装置としては積水化学工業株式会社製のAP−Tシリーズを使用した。処理条件は、処理幅:300mm、プラズマユニット数:1個、サンプル−電極間距離:3mm、プラズマ生成用ガス種:窒素、ガス中の酸素含有量:1000ppm、ガス流量:150L/分、サンプル搬送速度:0.25m/分、処理時温度:25℃とした。
また、実施例11では、まずプラズマ生成用ガスとして酸素を用い、印加電力300W、処理時間3分の条件で、成形体の表面にプラズマ処理を施した。続いて、岩谷産業株式会社製のオゾンガス発生装置(半導体用)と、住友精密工業株式会社製のオゾン発生装置とを組み合わせて使用することで、オゾンガス濃度を調整し、処理温度25℃、オゾンガス濃度3.5体積%、処理時間1時間の条件で、セパレータの表面をオゾンガスに曝露した。
[比較例1]
後掲の表に示す原料成分を、攪拌混合機(ダルトン製「5XDMV−rr型」)に、後掲の表に示す組成となるように入れて攪拌混合した。これにより得られた混合物を整粒機で粒径500μm以下に粉砕することで、成形材料を得た。
この成形材料を用いて、実施例1と同じ方法及び同じ条件で、セパレータを形成した。
続いて、セパレータの表面に、マコー株式会社製のウエットブラスト処理装置(形式PFE−300T/N)を用い、砥粒としてアルミナ粒子を含むスラリー用いて、ウエットブラスト処理を施した。アルミナ粒子としては、昭和電工株式会社製のホワイトモランダム(登録商標)WAシリーズを用いた。このウエットブラスト処理に用いた砥粒の平均粒径(d50)を、後掲の表に示す。また、ウエットブラスト処理後のセパレータ及びガスケットの表面の三次元表面性状を3D測定レーザー顕微鏡で測定し、その結果に基づいて、セパレータ及びガスケットの、ISO 25178−2:2012で規定される算術平均高さSaを導出した。その結果は、後掲の表に示す通りである。
続いて、セパレータをイオン交換水で洗浄し、更に温風乾燥した。
続いて、セパレータに対して、リモート方式の大気圧プラズマ処理を施した。大気圧プラズマ処理にあたり、プラズマ処理装置としては積水化学工業株式会社製のAP−Tシリーズを使用した。処理条件は、実施例1の場合のプラズマ処理と同じにした。
続いて、セパレータの第一の面の外周部分にエチレン−プロピレン−ジエンゴムをスクリーン印刷法により塗布した後、加熱加硫することでガスケットを形成した。
続いて、セパレータに対して、再びリモート方式の大気圧プラズマ処理を施した。大気圧プラズマ処理にあたり、プラズマ処理装置としては積水化学工業株式会社製のAP−Tシリーズを使用した。
[接触抵抗評価]
各実施例及び比較例において、二つの燃料電池用ガスケット付きセパレータにおけるセパレータの第一の面同士を、それらの間にカーボンペーパーを介在させて重ねた。このセパレータを、表面に金めっきが施された二つの電極で挟み、この電極間に面圧1MPaの圧力をかけた。この状態で、電極から二枚のセパレータ間に通電し、この場合のセパレータ間の電圧とセパレータ間に流れる電流との関係に基づいて、抵抗(平均値)を算出した。なお、使用したカーボンペーパーは、東レ社製のTGP−H−Mシリーズ(090M:厚さ0.28mm、120M:厚さ0.38mm)である。
[静的接触角評価]
各実施例及び比較例で得られた燃料電池用ガスケット付きセパレータを水平に配置し、セパレータの表面にスポイトでイオン交換水を垂らし、協和界面科学株式会社製の測定器(品番「CA−W150」)を用いて、水との静的接触角を測定した。
また、この燃料電池用ガスケット付きセパレータを90℃の温水中に投入して一定時間放置した後、乾燥した。放置時間は500時間、1000時間、1500時間及び2000時間とした。この処理後の燃料電池用ガスケット付きセパレータにおけるセパレータについて、前記と同様に水との静的接触角を測定した。
[曲げ強度評価]
各実施例及び比較例において、セパレータを作製する場合と同じ方法で80mm×10mm×4mmの寸法の曲げ強度測定用の成形品を作製し、JIS K6911に準拠し、支点間距離64mm、クロスヘッドスピード2mm/分の条件で曲げ強度を測定した。
[TOC評価]
JIS K0551−4.3に準拠し、まず各実施例及び比較例の燃料電池用ガスケット付きセパレータをメタノールで1分間洗浄した後、イオン交換水にて1分間洗浄した。次いで、ガラス製容器中に燃料電池用ガスケット付きセパレータとイオン交換水とを、セパレータの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水中に燐酸を添加してpH2以下に調整した後、湿式酸化−赤外線式TOC測定法(東レエンジニアリング社製「東レアストロTOC自動分析計MODEL1800」を使用)にて、有機炭酸量を測定した。
[水溶性イオン分析]
各実施例及び比較例における燃料電池用ガスケット付きセパレータをメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中に燃料電池用ガスケット付きセパレータとイオン交換水とを、セパレータの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)をイオンクロマトグラフィ(株式会社島津製作所製「CDD−6A」)で測定した。
[電気伝導度評価]
各実施例及び比較例における燃料電池用ガスケット付きセパレータをメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中に燃料電池用ガスケット付きセパレータとイオン交換水とを、セパレータの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)を導電率計で測定した。
尚、表中の成分の詳細は次の通りである。尚、表中の配合割合は、全ての成分を固形分に換算した割合である。
・エポキシ樹脂A:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製「EOCN−1020−75」、エポキシ当量199、融点75℃)
・エポキシ樹脂B:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「830CRP」、エポキシ当量171、25℃で液状)
・硬化剤A:ノボラック型フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製「PSM6200」、OH当量105)
・熱硬化性フェノール樹脂A:レゾール型フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製「サンプルA」、融点75℃、13C−NMR分析によるオルト−オルト結合割合25〜35%、オルト−パラ結合割合60〜70%、パラ−パラ結合割合5〜10%)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製「TPP」)
・天然黒鉛(株式会社中越黒鉛工業所製「WR50A」、平均粒径50μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン4ppm、塩化物イオン2ppm)
・人造黒鉛(SECカーボン株式会社製「SGP100」、平均粒径100μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン3ppm、塩化物イオン1ppm)
・カップリング剤:エポキシシラン(日本ユニカー株式会社製「A187」)
・ワックスA:天然カルナバワックス(大日化学工業株式会社製「H1−100」、融点83℃)
・ワックスB:モンタン酸ビスアマイド(大日化学工業株式会社製「J−900」、融点123℃)