以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる。
図1(A)(B)(C)は、本実施形態に係るレーザー溶接装置10を示す概略構成図であり、図1(A)(B)は前処理工程の状態を示し、図1(B)は、図1(A)のスパッタを含む部分拡大図を示し、図1(C)は本溶接工程の状態を示している。
図1を参照して、レーザー溶接装置10は、複数の金属部材を重ね合わせた部位にレーザー光51を照射して複数の金属部材同士を溶接して溶接部材100を製造する。複数の金属部材のうち少なくとも1つの金属部材は、母材よりも融点の低い被覆材によって母材が被覆されたメッキ鋼板から形成されている。メッキ鋼板は、自動車用の金属部材において多用されている、例えば、耐食性に優れた亜鉛を主成分とする被覆材によって母材が被覆された亜鉛メッキ鋼板を例示できる。
レーザー溶接装置10は、概説すれば、第1と第2の金属部材21、22(複数の金属部材に相当する)同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置(図1(A))と、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置(図1(B))とに移動自在な治具部40と、レーザー光51を照射するレーザー照射部50と、治具部40およびレーザー照射部50の作動を制御する制御部60と、を有している。制御部60は、治具部40を第1位置に移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持するように制御する。次いで、制御部60は、第1の金属部材21(一の金属部材に相当する)の表面21a(一の側面に相当する)にレーザー照射部50からレーザー光51を照射して裏面21b(反対側の他の側面に相当する)からスパッタ23を生成させ、生成したスパッタ23を第1の金属部材21と第2の金属部材22との間の空間30内に保持させるように制御する(図1(A)(B))。次いで、制御部60は、治具部40を第1位置から第2位置に移動させ、スパッタ23を介在させて第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態になるように制御する。次いで、制御部60は、レーザー照射部50からレーザー光51を照射して本溶接するように制御する(図1(C))。以下、詳述する。
図1は、上下に配置された2枚の第1と第2の金属部材21、22を溶接する部位を示している。下方側の第2の金属部材22は図示しない溶接ダイの上に載置されている。
治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士の間に挿入自在な爪部材41と、爪部材41を第1と第2の金属部材21、22同士の間に対して進退移動する駆動部材42とを有している。爪部材41は、挿入側の端面をテーパ形状に形成している。駆動部材42は、エアシリンダーなどから構成する。図1(A)に示すように、駆動部材42によって爪部材41を前進移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士の間に挿入する。治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する。図1(C)に示すように、駆動部材42によって爪部材41を後退移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士の間から引き抜く。治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する。
第1の金属部材21の上方にレーザー照射部50が配置されている。レーザー照射部50は、公知のレーザー照射装置から構成する。レーザー照射部50は、第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射する。レーザー照射部50は、揺動自在なミラーを備え、直線形状、曲線形状、円形状、あるいは円弧形状などの任意の軌跡に沿ってレーザー光51を走査することができる。走査することなく点状にもレーザー光51を照射することができる。レーザー照射部50は、レーザー出力、走査速度、およびスポット径の拡大縮小など、溶接対象物への入熱量の調整も自由にできる。
レーザー溶接装置10は、複数(図示例では2個)のクランプ部材70を、第1と第2の金属部材21、22の面方向に離間して配置している。クランプ部材70は、本溶接時に第1と第2の金属部材21、22をクランプする。クランプ部材70は、適宜の構成を採用できる。図示例のクランプ部材70は、第1の金属部材21の上方に配置された上方押え部71と、第2の金属部材22の下方に配置された下方押え部72とを有している。2つの上方押え部71は上方クランプアーム73に取り付けられ、2つの下方押え部72は下方クランプアーム74に取り付けられている。上方押え部71および上方クランプアーム73は、レーザー光51の走査範囲の外側に配置されている。上方クランプアーム73および下方クランプアーム74は、図示しない例えば油圧シリンダーなどの流体圧シリンダーによって駆動される。流体圧シリンダーによって、上方クランプアーム73を第1の金属部材21に向けて移動し、下方クランプアーム74を第2の金属部材22に向けて移動する。上方押え部71および下方押え部72は第1と第2の金属部材21、22を挟持してクランプする。
図2は、レーザー溶接方法の手順を説明する模式図であり、図2(A1)(A2)は、前処理工程の様子を示す斜視図および図2(A1)のA2−A2線に沿う断面図、図2(B1)(B2)は、本溶接工程の様子を示す平面図および図2(B1)のB2−B2線に沿う断面図である。図2(C1)(C2)は、本溶接工程の他の様子を示す平面図および図2(C1)のC2−C2線に沿う断面図である。
まず、図2(A1)(A2)に示すように、第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射して溶融させて溶融部21cを形成し、裏面21bからスパッタ23を生成させる。次に、生成したスパッタ23を第1の金属部材21と第2の金属部材22との間の空間30内に保持させる(前処理工程)。生成したスパッタ23の寸法dは、ブローホールの発生を抑制する目的に合致する範囲において適宜選択できるが、例えば、0.05mm〜0.3mmである。
次いで、図2(B1)(B2)または図2(C1)(C2)に示すように、スパッタ23を生成した第1の金属部材21を、スパッタ23を介在させて、第2の金属部材22と重ね合わせた状態にする。そして、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた部位にレーザー光51を照射して第1と第2の金属部材21、22同士を本溶接する(本溶接工程)。
本溶接工程において、重ね合わせた第1と第2の金属部材21、22同士の間には、スパッタ23が挟まることによって隙間31を確保できる。この隙間31を通って、本溶接時のレーザー光51の照射によって発生する被覆材蒸気である亜鉛ガスが逃がされる。その結果、ブローホールの発生を抑制して、良好な溶接部を得ることができる。
このようなレーザー溶接技術は、亜鉛メッキ鋼板が多用されている自動車用の金属部材を溶接接合する場合に適したものとなる。
前処理工程においては、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持して、スパッタ23を生成する(図1(A)、図2(A1)(A2))。そして、本溶接工程において、第1と第2の金属部材21、22を前処理工程における状態から重ね合わせた状態に移行させて、本溶接することが好ましい(図1(B)、図2(B1)(B2)または図2(C1)(C2))。前処理工程において第1と第2の金属部材21、22同士の空間30は、第1の金属部材21から生成したスパッタ23が第2の金属部材22に接合されない寸法、および本溶接時に移動される寸法を考慮して適宜決定することができる。空間30の寸法例として、0.5mm〜5mmを挙げることができる。なお、空間30の寸法を調整することで、スパッタ23の生成を調整することができる。
前処理工程においては、第1と第2の金属部材21、22同士の間に空間30を開けているので、スパッタ23を確実に生成することができる。本溶接工程においては、第1と第2の金属部材21、22をすでに組み合わせている前処理工程における状態から重ね合わせた状態に移行させることから、スパッタ23を生成した後、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせるまでの作業を迅速に行うことができる。その結果、レーザー溶接作業に要する一連の時間を短縮することができる。
前処理工程において、スパッタ23を保持させる位置は、第1と第2の金属部材21、22同士をクランプする位置よりも本溶接工程においてレーザー光51を照射する位置に近い側であることが好ましい。
スパッタ23を保持させる位置を上記位置にすることにより、本溶接のときの第1と第2の金属部材21、22同士の間の隙間寸法は、スパッタ23の大きさに規制することができるからである。
前処理工程において、電磁的な力(電磁部材80の電磁力)によってスパッタ23を吸引することによって、空間30内に保持させることが好ましい。
電磁部材80は、例えば電磁石であり、電流を流すと磁力が発生する。電磁部材80は、図1(A)などに示すように、例えば第2の金属部材22の裏面22bに着脱可能に設けられる。前処理工程において、電磁部材80に電流を流して磁力が発生すると、レーザー光51の照射により第1の金属部材21から発生したスパッタ23は、当該電磁力により第2の金属部材22の表面22aに保持される。このため、スパッタ23は、生成時に第1と第2の金属部材21、22の間の空間30から飛び出ることなく、空間30内で保持することができる。したがって、重ね合わせた金属部材同士の間には、確実にスパッタが挟まることによって隙間を確保でき、その結果、良好な溶接部を得ることができる。なお、電磁部材80は、本溶接工程時には、通電を停止して第2の金属部材22の裏面22bから退避している。
前処理工程において、機械的な機構によって、向かい合った第1と第2の金属部材21、22の第1の金属部材21を第2の金属部材22に対して離間させ、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて向かい合わせることが好ましい。
第1と第2の金属部材21、22同士の間に空間30を確実に開けて、スパッタ23を生成させることができるからである。
本溶接工程において、第1と第2の金属部材21、22を前処理工程における状態からスパッタ23を介在させて重ね合わせた状態に移行させて、打点ごとにクランプすることが好ましい。
本溶接の打点ごとにクランプすることによって、本溶接のときの第1と第2の金属部材21、22同士の間の隙間を、打点ごとに確保あるいは矯正できるからである。
本溶接工程において、レーザー光51を照射する位置は、スパッタ23を生成させたレーザー光51の照射位置を囲む位置であることが好ましい(図2(B1)(B2))。
本溶接のときにレーザー光51を照射する位置とスパッタ23との間の距離がほぼ等しく、レーザー光51を照射する位置に拘わらず、隙間31の大きさが均一になる。その結果、より良好な溶接部を得ることができるからである。
ただし、本発明は、本溶接工程におけるレーザー光51の軌跡を限定するものではない。図2(C1)(C2)に示したように、直線状であっても支障なく適用することができる。
図3(A)(B)(C)は、前処理工程におけるレーザー光の走査の軌跡の形状の例を示す斜視図である。
前処理工程において、スパッタ23を生成するために、第1の金属部材21に対するレーザー光51の走査は、直線形状または曲線形状を含む形状、あるいは点形状の軌跡に沿ってレーザー光51を照射してスパッタ23を生成させる。具体的には、直線形状(図3(A))、曲線形状を含む円弧形状(図3(B))、曲線形状を含む円形状、点形状(図3(C))など適宜の形状を選択することができる。
これによって、本溶接のスペースに適した形状のスパッタ23を生成することができる。
図4(A)(B)は、傾斜しているレーザー溶接装置10における前処理工程の様子を示す図である。
前処理工程において、水平面から傾斜した第1の金属部材21にレーザー光51を照射させることができる。
図4に示すように、レーザー溶接装置10が傾いた状態で第1の金属部材21にレーザー光51を照射してスパッタ23を生成した場合でも、生成したスパッタ23は、電磁部材80からの電磁力により第2の金属部材22の表面22aに保持することができる。このため、第1と第2の金属部材21、22が水平面から傾斜していても、発生したスパッタ23が第1と第2の金属部材21、22から滑り落ちることがない。したがって、レーザー溶接装置10を傾けて使用する場合においても、本溶接のときに安定した隙間を確保することができる。
上述した実施形態に係るレーザー溶接方法により以下の作用効果を奏する。
本実施形態のレーザー溶接方法は、前処理工程と、本溶接工程と、を有し、前処理工程においては、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持して、第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射して裏面21bからスパッタ23を生成させ、生成したスパッタ23を第1の金属部材21と第2の金属部材22との間の空間30内に保持させる。次いで、本溶接工程においては、スパッタ34を生成した第1の金属部材21を、スパッタ23を介在させて、第2の金属部材22と重ね合わせた状態にし、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた部位にレーザー光51を照射して第1と第2の金属部材21、22同士を本溶接する。
かかる方法によれば、本溶接工程において、重ね合わせた第1と第2の金属部材21、22同士の間には、スパッタ23が挟まることによって隙間31を確保できる。この隙間31を通って、本溶接時のレーザー光51の照射によって発生する亜鉛ガスが逃がされる。その結果、ブローホールの発生を抑制して、良好な溶接部を得ることができる。また、前処理工程においては、第1と第2の金属部材21、22同士の間に空間30を開けているので、スパッタ23を確実に生成することができる。したがって、本溶接工程においては、第1と第2の金属部材21、22同士をすでに組み合わせている前処理工程における状態から重ね合わせた状態に移行させることから、スパッタ23を生成した後、第1と第2の金属部材21、22同士を重ね合わせるまでの作業を迅速に行うことができる。その結果、レーザー溶接作業に要する一連の時間を短縮することができる。
さらに、本レーザー溶接方法は、本溶接工程において、第1と第2の金属部材21、22を前処理工程における状態からスパッタ23を介在させて重ね合わせた状態に移行させて、打点ごとにクランプすることが好ましい。
かかる方法によれば、本溶接の打点ごとにクランプすることによって、本溶接のときの第1と第2の金属部材21、22同士の間の隙間を、打点ごとに確保あるいは矯正できる。
さらに、本レーザー溶接方法は、前処理工程において、スパッタ23を保持させる位置は、第1と第2の金属部材21、22同士をクランプする位置よりも本溶接工程においてレーザー光51を照射する位置に近い側であることが好ましい。
かかる方法によれば、スパッタ23を保持させる位置を上記位置にすることにより、本溶接のときの第1と第2の金属部材21、22同士の間の隙間寸法は、スパッタ23の大きさに規制することができる。
さらに、本レーザー溶接方法は、本溶接工程において、レーザー光51を照射する位置は、スパッタ23を生成させたレーザー光51の照射位置を囲む位置であることが好ましい。
かかる方法によれば、本溶接のときにレーザー光51を照射する位置とスパッタ23との間の距離がほぼ等しく、レーザー光51を照射する位置に拘わらず、隙間31の大きさが均一になる。その結果、より良好な溶接部を得ることができる。
さらに、本レーザー溶接方法は、前処理工程において、電磁的な力(電磁部材80の電磁力)によってスパッタ23を吸引することによって、空間30内に保持させることが好ましい。
かかる方法によれば、電磁部材80の電磁力によって、スパッタ23は、生成時に第1と第2の金属部材21、22の間の空間30から飛び出ることなく、空間30内で保持することができる。したがって、重ね合わせた金属部材同士の間には、確実にスパッタが挟まることによって隙間を確保でき、その結果、良好な溶接部を得ることができる。
さらに、本レーザー溶接方法は、前処理工程において、水平面から傾斜した第1の金属部材21にレーザー光51を照射させることができる。
かかる方法によれば、レーザー溶接装置10が傾いた状態で第1の金属部材21にレーザー光51を照射してスパッタ23を生成した場合でも、生成したスパッタ23は、電磁部材80からの電磁力により第2の金属部材22の表面22aに保持することができる。このため、第1と第2の金属部材21、22が水平面から傾斜していても、発生したスパッタ23が第1と第2の金属部材21、22から滑り落ちることがない。したがって、レーザー溶接装置10を傾けて使用する場合においても、本溶接のときに安定した隙間を確保することができる。
さらに、本レーザー溶接方法は、前処理工程において、機械的な機構によって、向かい合った第1と第2の金属部材21、22の第1の金属部材21を第2の金属部材22に対して離間させ、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて向かい合わせることが好ましい。
かかる方法によれば、第1と第2の金属部材21、22同士の間に空間30を確実に開けて、スパッタ23を生成させることができるからである。
さらに、本レーザー溶接方法は、メッキ鋼板が亜鉛メッキ鋼板である。亜鉛メッキ鋼板を適用して、ブローホールの発生を抑制した良好な溶接部を得ることができる。
上述した実施形態に係るレーザー溶接装置10により以下の作用効果を奏する。
本実施形態のレーザー溶接装置10は、治具部40と、レーザー照射部50と、制御部60と、を有し、制御部60は、治具部40を第1位置に移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持するように制御する。次いで、制御部60は、第1の金属部材21の表面21aにレーザー光51を照射して裏面21bからスパッタ23を生成させ、生成したスパッタ23を第1の金属部材21と第2の金属部材22との間の空間30内に保持させるように制御する。次いで、制御部60は、治具部40を第1位置から第2位置に移動させ、スパッタ23を介在させて第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする。次いで、制御部60は、レーザー照射部50からレーザー光51を照射して本溶接する。
かかる構成によれば、重ね合わせた第1と第2の金属部材21、22同士の間には、スパッタ23が挟まることによって隙間31を確保できる。この隙間31を通って、本溶接時のレーザー光51の照射によって発生する亜鉛ガスが逃がされる。その結果、ブローホールの発生を抑制して、良好な溶接部を得ることができる。治具部40は、第1位置では、第1と第2の金属部材21、22同士の間に空間30を開けているので、スパッタ23を確実に生成することができる。治具部40が第1位置から第2位置に移動することによって、スパッタ23を生成した後、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせるまでの作業を迅速に行うことができる。その結果、レーザー溶接作業に要する一連の時間を短縮することができる。
上述した実施形態に係る溶接部材100により以下の作用効果を奏する。
本実施形態の溶接部材100は、レーザー光51を照射することによってスパッタ23を生成した第1の金属部材21を、スパッタ23を介在させて、第2の金属部材22と重ね合わせた形状を有し、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた部位が溶接接合されている。
かかる溶接部材によれば、重ね合わせた第1と第2の金属部材21、22同士の間には、スパッタ23が挟まることによって隙間31を確保できる。この隙間31を通って、溶接接合時のレーザー光51の照射によって発生する亜鉛ガスが逃がされる。その結果、ブローホールの発生を抑制して、良好な溶接部を備える溶接部材100となる。
(改変例)
次に、実施形態のレーザー溶接装置10および第1と第2の金属部材21、22(複数の金属部材)の改変例について説明する。なお、上述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付して説明し、重複した説明は省略する。
図5(A)(B)(C)は、レーザー溶接装置10が溶接する第1と第2の金属部材21、22(複数の金属部材)の改変例を示す概略構成図であり、図5(A)(B)は前処理工程時の状態を示し、図5(B)は、図5(A)のスパッタ23を含む部分拡大図を示し、図5(C)は本溶接工程時の状態を示している。
図5に示すように、改変例のレーザー溶接装置10は、前処理工程において、第2の金属部材22の空間30に臨む面に形成したくぼみ部22dにスパッタ23を留めることによって空間30内に保持させる。
本実施形態では、生成したスパッタ23を第2の金属部材22の裏面22bに着脱自在に取り付けられた電磁部材80からの磁力により空間30内に保持されるとして説明したが、この限りではない。例えば、図5(A)(B)に示すように、第2の金属部材22の表面22aに形成したくぼみ部22dにおいてスパッタ23を保持してもよい。このような構成の場合、スパッタ23は、生成時に第1と第2の金属部材21、22の間の空間30から飛び出ることなく、空間30内で保持することができる。したがって、重ね合わせた第1と第2の金属部材21、22同士の間には、確実にスパッタ23が挟まることによって隙間を確保でき、その結果、良好な溶接部を得ることができる(図5(C))。
図6(A)(B)は、傾斜しているレーザー溶接装置10における第1と第2の金属部材21、22(複数の金属部材)の改変例の溶接時の様子を示す図である。
図6に示すように、レーザー溶接装置10が傾いた状態で第1の金属部材21にレーザー光51を照射してスパッタ23を生成した場合でも、生成したスパッタ23は、第2の金属部材22の表面22aに形成されたくぼみ部22dに保持することができる。このため、第1と第2の金属部材21、22が水平面から傾斜していても、発生したスパッタ23が第2の金属部材22から滑り落ちることがない。したがって、レーザー溶接装置10を傾けて使用する場合においても、本溶接のときに安定した隙間を確保することができる。
図7(A)(B)(C)は、機械的な機構を備える治具部40の改変例を示す図である。
治具部40は、複数の金属部材同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置と、複数の金属部材を重ね合わせた状態にする第2位置とに移動自在である限りにおいて適宜改変できる。
図7に示す治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士の間に挿入自在な爪部材111と、爪部材111を第1と第2の金属部材21、22同士の間に対して進退移動する駆動機構112とを有している。駆動機構112は、クランプ部材113をクランプまたはアンクランプする流体圧などによって作動するシリンダー114と、シリンダー114の作動ロッド115に連結され作動ロッド115の動きに連動して爪部材111を進退させるリンク機構116とを有している。リンク機構116は、作動ロッド115とともに移動する作動バー117と、作動バー117に設けられ爪部材111の基端が接触するカム部118と、爪部材111の基端をカム部118に押し付ける方向の弾発力を爪部材111に付勢するスプリング119とを有している。
下側の第2の金属部材22をセットするときには、クランプ部材113はアンクランプされ、爪部材111を後退移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士の間から引き抜いている(図7(A))。前処理工程では、シリンダー114の作動ロッド115を途中まで伸長し、作動ロッド115とともに移動した作動バー117のカム部118を爪部材111の基端に接触させる。爪部材111をスプリング119の弾発力に抗して前進移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士の間に挿入する。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する(図7(B))。本溶接工程では、シリンダー114の作動ロッド115を伸長してクランプ部材113によって第1と第2の金属部材21、22をクランプする。作動ロッド115とともに移動した作動バー117のカム部118は爪部材111の基端を越える。爪部材111をスプリング119の弾発力によって後退移動させ、第1と第2の金属部材21、22同士の間から引き抜く。治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する(図7(C))。
図8(A)(B)は、機械的な機構を備える治具部40の他の改変例を示す図である。
図8に示す治具部40は、下側の第2の金属部材22に形成した貫通孔121に挿通自在なピン122と、ピン122とベース123との間に設けられピン122を上方に押し上げる弾発力をピン122に付勢するスプリング124とを有している。ピン122は、上側の第1の金属部材21を押し上げるために設置している。スプリング124の弾発力は、クランプ部材125が第1の金属部材21を押圧する力よりも弱く設定されている。
前処理工程では、スプリング124の弾発力が付勢されたピン122は、第2の金属部材22の貫通孔121を挿通して第1の金属部材21を押し上げる。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する(図8(A))。本溶接工程では、クランプ部材125によって第1の金属部材21が押圧され、ピン122は、スプリング124の弾発力に抗して押し下げられる。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する(図8(B))。
図9(A)(B)は、機械的な機構を備える治具部40のさらに他の改変例を示す図である。
図9に示す治具部40は、第1と第2の金属部材21、22のそれぞれに形成した位置決め用のロケート孔131に挿通自在なロケートピン132と、ロケートピン132とベース133との間に設けられロケートピン132を上方に押し上げる弾発力をロケートピン132に付勢するスプリング134と、ロケートピン132に設けられ上側の第1の金属部材21のみに当接自在な突起135とを有している。スプリング134の弾発力は、クランプ部材136が第1の金属部材21を押圧する力よりも弱く設定されている。
前処理工程では、スプリング134の弾発力が付勢されたロケートピン132は、第1と第2の金属部材21、22のロケート孔131に挿通され、突起135が第1の金属部材21を押し上げる。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する(図9(A))。本溶接工程では、クランプ部材136によって第1の金属部材21が押圧され、ロケートピン132は、スプリング134の弾発力に抗して押し下げられる。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する(図9(B))。
図10(A)(B)は、電磁的な力を利用した治具部40を示す図である。
治具部40は、機械的な機構のほか、電磁的な力によって治具部40の状態を移動させることができる。
図10に示す治具部40は、磁力を持たせたクランプ部材141から構成されている。磁力は、第1と第2の金属部材21、22を本溶接した接合力よりも弱く設定されている。
前処理工程では、クランプ部材141は第1の金属部材21を磁力によって吸着したまま、第1の金属部材21を第2の金属部材22の上方位置において固定する。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する(図10(A))。本溶接工程では、クランプ部材141を押し切る。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する(図10(B))。本溶接後は、クランプ部材141を持ち上げれば、第1の金属部材21から外れる。
上記の電磁的な力によっても、治具部40は、前処理工程においては、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持し、本溶接工程においては、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にすることができる。
図11(A)(B)は、電磁的な力を利用した治具部40の改変例を示す図である。
図11に示す治具部40は、第1と第2の金属部材21、22に同極性の電荷を持たせることによって構成されている。電荷による反力は、クランプ部材151が第1の金属部材21を押圧する力よりも弱く設定されている。
前処理工程では、第1の金属部材21と第2の金属部材22との間には電荷による反力が作用する。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する(図11(A))。本溶接工程では、クランプ部材151を押し切る。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する(図11(B))。
図12(A)(B)は、空圧的な力を利用した治具部40を示す図である。
治具部40は、機械的な機構、電磁的な力のほか、空圧的な力によって治具部40の状態を移動させることができる。
図12に示す治具部40は、クランプ部材161と、第1の金属部材21を吸着する吸着パッド162とを有している。吸着パッド162は、負圧の供給と、大気開放とが切り替えられる。
前処理工程では、吸着パッド162は第1の金属部材21を負圧によって吸着したまま、第1の金属部材21を第2の金属部材22の上方位置において固定する。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する(図12(A))。本溶接工程では、クランプ部材161を押し切る。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する(図12(B))。本溶接後は、吸着パッド162を持ち上げれば、第1の金属部材21から外れる。
上記の空圧的な力によっても、治具部40は、前処理工程においては、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持し、本溶接工程においては、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にすることができる。
図13(A)(B)は、空圧的な力を利用した治具部40の改変例を示す図である。
図13に示す治具部40は、クランプ部材171と、第1と第2の金属部材21、22同士の間に圧縮エアーを供給するエアー供給部172とを有している。エアー供給部172は、圧縮エアーの供給と、供給停止とが切り替えられる。
前処理工程では、エアー供給部172から、第1と第2の金属部材21、22同士の間に圧縮エアーを供給し、第1と第2の金属部材21、22を離反させる。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22同士を空間30を開けて組み合わせた状態に保持する第1位置に移動する(図13(A))。本溶接工程では、エアー供給部172からの圧縮エアーの供給を停止し、クランプ部材171を押し切る。これによって、治具部40は、第1と第2の金属部材21、22を重ね合わせた状態にする第2位置に移動する(図13(B))。
複数の金属部材をメッキ鋼板から形成した場合について説明したが、溶接する鋼板のいずれかの面に被覆材が被覆されている限り、被覆材蒸気が発生し得る。したがって、複数の金属部材のうち少なくとも1つの金属部材の母材の両面または片面が被覆されたメッキ鋼板を溶接する場合に本発明を適用できる。