ところで、過給機のコンプレッサ下流の吸気通路内の圧力である過給圧に応じた出力値を出力する過給圧センサを備えた内燃機関に適用され、同センサからの出力値と同出力値の時間変化率とに基づいて同出力値の所定時間後における値を予測し、この予測した値に基づいて定まる過給圧を現時点における実際の過給圧(以下「実過給圧」とも称呼する。)として推定する推定部を備えた過給圧推定装置が知られている。同装置において、実過給圧が「吸気脈動又は過給サージ現象」により所定期間内に上下に大きく変動している場合に、前記所定時間を一定の時間に固定したまま、過給圧の推定が実施されると、推定された過給圧が実過給圧に一致しない可能性がある。
そこで、本発明の目的は、上述したように過給圧を推定する過給圧推定装置であって、実過給圧が所定期間内に上下に大きく変動している場合に推定される過給圧の実過給圧からの偏差が小さい過給圧推定装置を提供することにある。
本発明は、過給機を備えた内燃機関に適用される過給圧推定装置に関する。当該装置は、前記過給機のコンプレッサ下流の吸気通路内の圧力である過給圧に応じた出力値を出力する過給圧センサと、前記出力値と前記出力値の時間変化率とに基づいて予測される前記出力値の所定時間後における値に基づいて定まる過給圧を現時点における実際の過給圧として推定する推定部と、を備える。
前記推定部は、前記過給圧の所定期間内における変動幅が第1の値よりも大きい第2の値であると推定される場合の前記所定時間を、前記変動幅が前記第1の値であると推定される場合の前記所定時間よりも短い時間に設定するように構成されている。
本発明にあるように、過給圧センサの出力値(以下「センサ出力値」とも称呼する。)と同出力値の時間変化率とに基づいて予測される同出力値の所定時間後における値に基づいて過給圧を推定せずに、センサ出力値に基づいて過給圧を推定した場合、推定される過給圧(以下「推定過給圧」とも称呼する。)には、実過給圧に対して応答遅れが生じる。更に、センサ出力値からノイズ成分を除去するために、同出力値に「なまし処理」が施されることが一般的に行われる。この場合、推定過給圧には、実過給圧に対して、より大きな応答遅れが生じる。
本発明によれば、所定時間後におけるセンサ出力値が予測され、同予測されたセンサ出力値(以下「予測センサ出力値」とも称呼する。)に基づいて過給圧が推定される。従って、実過給圧に対する推定過給圧の応答遅れが小さくなる。このため、実過給圧に精度良く一致する過給圧が推定される。
ところが、所定時間が一定時間に固定されている場合、所定期間内における過給圧の変動幅が大きいと、所定期間内の過給圧の変動幅が小さい場合に比べて、予測センサ出力値が実過給圧に対応する出力値から大きく乖離してしまう可能性がある。この場合、予測センサ出力値に基づいて過給圧が推定されると、推定過給圧が実過給圧から大きく乖離した過給圧になってしまう。
しかしながら、本発明においては、所定期間内における過給圧の変動幅が第1の値よりも大きい第2の値であると推定される場合の前記所定時間は、前記変動幅が前記第1の値であると推定される場合の前記所定時間よりも短い時間に設定される。つまり、過給圧の変動幅が比較的大きいときには、所定時間が短くされる。これによれば、実過給圧に対応する出力値からの予測センサ出力値の乖離が小さくなる。このため、過給圧の変動幅が比較的大きいときであっても、実過給圧に精度良く一致する過給圧が推定される。
更に、前記内燃機関が前記コンプレッサ下流の前記吸気通路にスロットル弁を備える場合、前記過給圧は、前記コンプレッサ下流であって前記スロットル弁上流の前記吸気通路内の圧力である。この場合、前記推定部は、前記スロットル弁の開度が第1の開度であるときに前記変動幅が前記第1の値であると推定し、前記スロットル弁の開度が前記第1の開度よりも大きい第2の開度であるときに前記変動幅が前記第2の値であると推定する。
内燃機関がコンプレッサ下流の吸気通路にスロットル弁を備える場合、スロットル弁下流の吸気通路内の空気の脈動がスロットル弁上流の吸気通路内の空気に伝播する。このため、スロットル弁上流の吸気通路内の空気も脈動する。これにより、過給圧も脈動する。この脈動に起因する過給圧の変動幅は、スロットル弁の開度が大きいほど大きい。従って、スロットル弁の開度が比較的小さい第1の開度であるときには、変動幅が比較的小さい値(即ち、前記第1の値)であると推定することができ、スロットル弁の開度が比較的大きい(即ち、第1の開度よりも大きい)第2の開度であるときには、変動幅が比較的大きい値(即ち、前記第2の値)であると推定することができる。
或いは、前記推定部は、前記過給圧に対する前記スロットル弁下流の圧力である吸気圧の圧力比が第1の圧力比であるときに前記変動幅が前記第1の値であると推定し、前記圧力比が前記第1の圧力比よりも大きい第2の圧力比であるときに前記変動幅が前記第2の値であると推定してもよい。
スロットル弁の開度が大きくなると、吸気圧が過給圧に近づく。つまり、過給圧に対する吸気圧の圧力比が大きくなる。従って、圧力比が比較的小さい第1の圧力比であるときには、変動幅が比較的小さい値(即ち、前記第1の値)であると推定することができ、圧力比が比較的大きい(即ち、第1の圧力比よりも大きい)第2の圧力比であるときには、変動幅が比較的大きい値(即ち、前記第2の値)であると推定することができる。
更に、前記推定部は、前記コンプレッサ下流の前記吸気通路内において過給サージ現象が生じる条件が成立したと判断したときには、前記所定時間をゼロに設定するようにしてもよい。
過給サージ現象が生じると、過給圧が大きく変動する。この場合において、前記予測センサ出力値に基づいて過給圧が推定されると、推定過給圧が実過給圧から大きく乖離した過給圧になる可能性が高い。従って、過給サージ現象が生じる条件が成立したときには、前記所定時間をゼロに設定することにより、実過給圧からの推定過給圧の乖離を小さくすることができる。
更に、前記推定部は、例えば、大気圧に基づいて定まり且つ同大気圧よりも高い判定圧力値よりも高いときに前記過給サージ現象が生じる条件が成立したと判断する。
或いは、前記内燃機関が前記コンプレッサ下流の前記吸気通路内のガスを同吸気通路から同コンプレッサ上流の吸気通路に戻すためのガスバイパス通路と、同通路を流れるガスの流量を制御するガス流量制御弁と、を備える場合、前記推定部は、前記ガス流量制御弁が開弁されているときに前記過給サージ現象が生じる条件が成立したと判断してもよい。
或いは、前記推定部は、前記過給圧の上昇中に同過給圧の時間変化率が所定の値よりも大きいときに前記過給サージ現象が生じる条件が成立したと判断してもよい。
以下、本発明の内燃機関の過給圧推定装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態の過給圧推定装置を火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関に適用したシステムの概略構成を示している。尚、図1は、1つの気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
図1に示した内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20に燃料と空気とからなる混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50と、を備えている。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23及びクランク軸24を備えている。ピストン22は、シリンダ21内を往復動する。ピストン22の往復動は、コンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより、同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21、ピストン22及びシリンダヘッド部30は、燃焼室(気筒)25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むと共に同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38及び燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ39を備えている。
吸気系統40は、吸気ポート31に連通したインテークマニホールド41、同マニホールド41に連通したサージタンク42及び同タンク42に一端が接続された吸気ダクト43を備えている。吸気ダクト43は、吸気ポート31とインテークマニホールド41とサージタンク42と共に吸気通路を形成する。
更に、吸気系統40は、吸気ダクト43の他端から下流(サージタンク42)に向けて順に、吸気ダクト43に配設されたエアフィルタ44、過給機91のコンプレッサ91a、インタークーラ45、スロットル弁46及びスロットル弁アクチュエータ46aを備えている。加えて、吸気系統40は、「コンプレッサ91a下流であってインタークーラ45上流の吸気ダクト43」から「コンプレッサ91a上流の吸気ダクト43」に空気を戻すためのエアバイパス装置47を備えている。
エアバイパス装置47は、エアバイパス管(ガスバイパス通路)47a及びエアバイパスバルブ(ガス流量制御弁)47bを備えている。エアバイパス管47aは、「コンプレッサ91a下流であってインタークーラ45上流の吸気ダクト43」と「コンプレッサ91a上流の吸気ダクト43」とを互いに接続している。エアバイパスバルブ47bは、エアバイパス管47aに配設されている。
エアバイパスバルブ47bが開弁されると、空気が「コンプレッサ91a下流の吸気ダクト43」からエアバイパス管47aを介して「コンプレッサ91a上流の吸気ダクト43」に流れる。エアバイパスバルブ47bの開度を調整することにより、エアバイパス管47a内を流れる空気の流量が制御される。
インタークーラ45は、水冷式であって、吸気通路を流れる空気を冷却水(冷媒)により冷却するようになっている。
スロットル弁46は、吸気ダクト43に回転可能に支持され、スロットル弁アクチュエータ46aにより駆動されることにより開度が調整されるようになっている。これにより、スロットル弁46は、吸気ダクト43の通路断面積を可変とするようになっている。スロットル弁46の開度(以下「スロットル開度」)は、通路断面積を最小とする状態におけるスロットル弁46の位置から回転した角度により定義される。
スロットル弁アクチュエータ46aは、DCモータからなり、後述する電子制御装置(以下「ECU」)70が後述する電子制御スロットル弁ロジックの機能を達成することにより送出される駆動信号に応じて、実際のスロットル開度θtaが目標スロットル開度θttとなるように、スロットル弁を駆動するようになっている。
スロットル弁46上流であってコンプレッサ91a下流の吸気通路は、インタークーラ部を構成し、スロットル弁46下流の吸気通路は、吸気管部を構成する。
排気系統50は、排気ポート34に連通するエキゾーストマニホルードを含む排気管51、同排気管51内に配設された過給機91のタービン91b、同タービン91b下流の排気管51に配設された三元触媒装置52及び排ガスにタービン91bをバイパスさせるための排気バイパス装置53を備えている。排気管51は、排気ポート34と共に排気通路を形成する。
タービン91bは、排ガスのエネルギにより回転する。更に、タービン91bは、シャフトを介してコンプレッサ91aに連結されている。これにより、タービン91bが回転すると、コンプレッサ91aは、タービン91bと一体となって回転して吸気通路内の空気を圧縮する。即ち、過給機91は、排ガスのエネルギを利用して機関10に空気を過給するようになっている。
排気バイパス装置53は、排気バイパス管53a及び排気バイパス制御弁(ウエストゲートバルブ)53bを備えている。排気バイパス管53aは、「タービン91b上流の排気管51」と「タービン91b下流であって三元触媒装置52上流の排気管51」とを互いに接続している。排気バイパス制御弁53bは、排気バイパス管53aに配設されている。
排気バイパス制御弁53bが開弁されると、「排ガスがタービン91b上流の排気管51」から排気バイパス管53aを介して「タービン91b下流の排気管51」に流れる。排気バイパス制御弁53bの開度を調整することにより、排気バイパス管53a内を流れる排ガスの流量(即ち、タービン91bをバイパスする排ガスの流量)が制御される。
一方、図1に示したシステムは、圧力センサ61、温度センサ62、コンプレッサ回転速度センサ63、カムポジションセンサ64、クランクポジションセンサ65、アクセル開度センサ66、過給圧センサ68及びECU70を備えている。
圧力センサ61は、エアフィルタ44とコンプレッサ91aとの間の吸気ダクト43に配設されている。同センサ61は、吸気ダクト43内の空気の圧力を検出し、コンプレッサ91a上流の吸気通路内の空気の圧力(大気圧)Paを表す出力値を出力するようになっている。温度センサ62も、エアフィルタ44とコンプレッサ91aとの間の吸気ダクト43に配設されている。同センサ62は、吸気ダクト43内の空気の温度を検出し、コンプレッサ91a上流の吸気通路内の空気の温度(大気温度)Taを表す出力値を出力するようになっている。
コンプレッサ回転速度センサ63は、コンプレッサ91aの回転軸が360°回転する毎に信号を出力するようになっている。この信号は、コンプレッサ回転速度Ncmpを表す。カムポジションセンサ64は、インテークカムシャフトが90°回転する毎(即ち、クランク軸24が180°回転する毎)に1つのパルスを有する信号を発生するようになっている。クランクポジションセンサ65は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有すると共にクランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、機関回転速度NEを表す。
アクセル開度センサ66は、運転者により操作されるアクセルペダル67の操作量を検出し、同ペダル67の操作量(以下「アクセルペダル操作量」)Accpを表す出力値を出力するようになっている。
過給圧センサ68は、コンプレッサ91aとスロットル弁46との間の吸気ダクト43に配設されている。同センサ68は、吸気ダクト43内の空気の圧力を検出し、コンプレッサ91a下流であってスロットル弁46上流の吸気通路(インタークーラ部)内の空気の圧力(以下「過給圧」)Pcmpaを表す出力値を出力するようになっている。
ECU70は、双方向バスにより互いに接続されたCPU71、ROM72、RAM73、バックアップRAM74及びインターフェース75等からなるマイクロコンピュータである。ROM72は、CPU71が実行するプログラム、テーブル(ルックアップテーブル、マップ等)、定数等を予め記憶している。RAM73は、CPU71が必要に応じてデータを一時的に記憶する。バックアップRAM74は、電源が投入された状態においてデータを記憶すると共に、同記憶したデータを電源が遮断されている間も保持する。
インターフェース75は、ADコンバータを含んでいる。更に、インターフェース75は、前記センサ61〜66及び68に接続され、これらセンサ61〜66及び68からの出力値及び信号をCPU71に供給すると共に、CPU71の指示に応じて可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、インジェクタ39、スロットル弁アクチュエータ46a、エアバイパスバルブ47b及び排気バイパス制御弁53bに駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
次に、図1に示したシステムにおける筒内空気量推定装置について説明する。この筒内空気量推定装置は、図2に示した電子制御スロットル弁モデルM1、スロットルモデルM2、吸気弁モデルM3、コンプレッサモデルM4、インタークーラモデルM5、吸気管モデルM6、エアバイパスバルブモデルM7、吸気弁モデルM8及び電子制御スロットル弁ロジックA1を用いて、筒内空気量を推定する。
次に、各種モデルM1〜M8及びロジックA1について説明する。尚、これらモデル及びロジックの詳細については、例えば、特許文献2及び特許文献3を参照されたい。
電子制御スロットル弁ロジックA1は、アクセルペダル操作量Accpに基づいて目標スロットル開度θttを設定し、スロットル開度が目標スロットル開度θttとなるようにスロットル弁アクチュエータ46aに駆動信号を送出する。
電子制御スロットル弁モデルM1は、「電子制御スロットル弁ロジックA1により設定された目標スロットル開度θtt」及び「アクセルペダル操作量Accp」に基づいてスロットル開度θtを推定するモデルである。
スロットルモデルM2は、「電子制御スロットル弁モデルM1において推定されるスロットル開度θt」、「インタークーラモデルM5において推定される過給圧(以下「モデル推定過給圧」)Pcmpe並びにインタークーラ部内の空気の温度(以下「インタークーラ部内温度」)Tic」及び「吸気管モデルM6において推定される吸気管部内の空気の圧力(以下「吸気圧」)Pm」等に基づいて、スロットル弁46の周囲を通過する空気の流量(以下「スロットル弁通過空気流量」)mtを推定するモデルである。
吸気弁モデルM3は、「温度センサ62により検出される大気温度Ta」及び「吸気管モデルM6において推定される吸気圧Pm並びに吸気管部内の空気の温度(以下「吸気温度」)Tm」等に基づいて、吸気弁32の周囲を通過して気筒内(燃焼室25内)に流入する空気の流量(以下「筒内流入空気流量」)mcを推定するモデルである。
コンプレッサモデルM4は、「温度センサ62により検出される大気温度Ta」、「圧力センサ61により検出される大気圧Pa」、「コンプレッサ回転速度センサ63により検出されるコンプレッサ回転速度Ncmp」及び「インタークーラモデルM5において推定されるモデル推定過給圧Pcmpe」等に基づいて、コンプレッサ91aから流出する空気の流量(以下「コンプレッサ流出空気流量」)mcmp及び空気がコンプレッサ91aを通過するときに単位時間当たりにコンプレッサ91aにより同空気に与えられるエネルギ(以下「コンプレッサ付与エネルギ」)Ecmpを推定するモデルである。
インタークーラモデルM5は、「当該モデルM5における前回のモデル演算により推定されたモデル推定過給圧Pcmpe’並びにインタークーラ部内温度Tic’」、「温度センサ62により検出される大気温度Ta」、「過給圧センサ68の出力値に基づいて後述するように推定される過給圧(以下「センサ推定過給圧」)Pcmpd」、「スロットルモデルM2において推定されるスロットル弁通過空気流量mt」、「コンプレッサモデルM4において推定されるコンプレッサ流出空気流量mcmp並びにコンプレッサ付与エネルギEcmp」及び「エアバイパスバルブモデルM7において推定されるエアバイパスバルブ47bの周囲を通過する空気の流量(以下「ABV通過空気流量」)mabv」等に基づいて、モデル推定過給圧Pcmpe及びインタークーラ部内温度Ticを推定するモデルである。
インタークーラモデルM5において、センサ推定過給圧Pcmpdは、同モデルM5により推定されるモデル推定過給圧Pcmpeに含まれる演算誤差を補償するために用いられる。即ち、各モデル演算時点にてモデルM5において推定されるモデル推定過給圧Pcmpeは、各モデル演算時点から所定時間後の過給圧である。従って、各モデル演算時点から前記所定時間前にモデルM5において推定されたモデル推定過給圧Pcmpeは、現時点の過給圧の推定値である。一方、センサ推定過給圧Pcmpdは、現時点の過給圧の推定値である。従って、「前記所定時間前にモデルM5において推定されたモデル推定過給圧Pcmpe」と「現時点におけるセンサ推定過給圧Pcmpd」との差は、モデルM5における演算誤差に相当する。
そこで、本例においては、モデルM5において、下の式1に示したように、「現時点におけるセンサ推定過給圧Pcmpd」に対する「前記所定時間前にモデルM5において推定されたモデル推定過給圧Pcmpe」の偏差ΔPが算出される。
ΔP=Pcmpd−Pcmpe …(1)
そして、各モデル演算において、下の式2に示したように、「現時点においてモデルM5において推定されるモデル推定過給圧Pcmpe」に「前記偏差ΔP」を加算することにより得られる値が「現時点におけるモデル推定過給圧Pcmpe」としてモデルM5から出力される。これにより、モデルM5における演算誤差が補償される。
Pcmpe=Pcmpe+ΔP …(2)
吸気管モデルM6は、「当該モデルM6における前回のモデル演算により推定された吸気圧Pm’並びに吸気温度Tm’」、「スロットルモデルM2において推定されるスロットル弁通過空気流量mt」、「吸気弁モデルM3において推定される筒内流入空気流量mc」及び「インタークーラモデルM5において推定されるインタークーラ部内温度Tic」等に基づいて、吸気圧Pm及び吸気温度Tmを推定するモデルである。
エアバイパスバルブモデルM7は、「圧力センサ61により検出される大気圧Pa」、「エアバイパスバルブ47bの開度θabv」及び「インタークーラモデルM5において推定されるモデル推定過給圧Pcmpe」等に基づいて、ABV通過空気流量mabvを推定するモデルである。
吸気弁モデルM8は、吸気弁モデルM3と同様に、「温度センサ62により検出される大気温度Ta」及び「吸気管モデルM6において推定される吸気圧Pm並びに吸気温度Tm」等に基づいて、筒内流入空気流量mcを推定し、この推定した筒内流入空気流量mcに「機関回転速度NE」及び「吸気弁32の開閉弁タイミングVTから算出される吸気弁32の開弁期間」を乗じることにより、筒内空気量KLを求めるモデルである。
次に、本実施形態の過給圧推定装置について説明する。同装置は、過給圧センサの出力値(以下「センサ出力値」)を用いて、以下のようにして、現時点における過給圧を推定(検出)する。尚、本実施形態において、過給圧推定装置は、ECU70により構成される。
ECU70のCPU71は、下の式3に従って、今回の演算時点において過給圧センサから出力される出力値(センサ出力値)Vcmpa(i)に「なまし処理(フィルタ処理)」を施すことにより、なまし出力値Vcmps(i)を算出する。
Vcmps(i)=K1×Vcmpa(i)+(1−K1)×Vcmps(i-1) …(3)
式3において、Vcmps(i-1)は「前回の演算により算出されたなまし出力値」であり、K1は、「0以上であって1以下の係数(0≦K1≦1)」である。
次いで、CPU71は、下の式4に従って、今回の演算により算出されたなまし出力値Vcmps(i)に「応答補償処理」を施すことにより、応答補償出力値Vcmpp(i)を算出する。
Vcmpp(i)=K2×(Vcmps(i)−Vcmps(i-1))+Vcmps(i-1) …(4)
式4において、Vcmps(i-1)は「前回の演算により算出されたなまし出力値」である。更に、式4において、K2は、「1よりも大きい係数(K2>1)」であって、「下の式5に従って算出される係数」である。
式5において、dTは「CPU71がセンサ出力値をサンプリングする周期(即ち、センサ推定過給圧を演算する周期)」であり、τは「時定数」である。
次いで、CPU71は、「応答補償出力値Vcmpp」及び「図3(A)に示した応答補償出力値Vcmppとセンサ推定過給圧Pcmpdとの関係」に基づいて、センサ推定過給圧Pcmpdを算出する。
次に、上述したようにセンサ出力値に「なまし処理」及び「応答補償処理」を施して得られる値に基づいて、過給圧を推定する理由について、図4を用いて説明する。尚、図4(A)は、実過給圧PcmpaがラインLpaに沿って変化する場合における「なまし出力値に対応した過給圧Pcmpsの変化(ラインLps)を示しており、図4(B)は、図4(A)に示したように実過給圧が変化する場合における「実過給圧に対応するセンサ出力値Vcmpaの変化(ラインLva)」及び「なまし出力値Vcmppの変化(ラインLvp)」を示している。
なまし処理は、センサ出力値に含まれるノイズ成分を除去するために実施される処理である。式3によるなまし処理においては、係数K1が小さいほど(フィルタリング時定数が大きいほど)、ノイズ成分をより多く除去することができる。従って、ノイズ成分をより多く除去するためには、係数K1をより小さい値に設定することが好ましい。
一方、図4(A)に示したように、時刻t2における実過給圧が「Pcmpa(t2)」である場合、図4(B)に示したように、時刻t2において、「式3によるなまし処理」を施して得られるなまし出力値は「Vcmps(i)」である。この場合、このなまし出力値Vcmps(i)に基づいて過給圧を推定すると、センサ推定過給圧は、図4(A)に示したように、「Pcmps(i)」となる。このセンサ推定過給圧Pcmps(i)は、時刻t2における実過給圧Pcmpa(t2)よりも低く、時刻t2よりも一定時間Δtだけ前の実過給圧Pcmpa(t2−Δt)に等しい。つまり、このセンサ推定過給圧Pcmps(i)には、一定時間Δtの応答遅れが生じている。式3によるなまし処理においては、係数K1が大きいほど、応答遅れ時間Δtが短くなる。従って、応答遅れ時間Δtを短くするためには、係数K1をより大きい値に設定することが好ましい。
一般に、過給圧の推定(検出)においては、センサ出力値に含まれるノイズ成分をより多く除去すると共に、応答遅れ時間をより短くすることが望まれる。しかしながら、上述したように、係数K1が小さいほどノイズ成分をより多く除去することができるが、係数K1が小さいほど応答遅れ時間が長くなってしまう。このため、ノイズ成分の除去と応答遅れ時間の短縮とを係数K1の設定により同時に達成することはできない。
そこで、本実施形態においては、センサ出力値に含まれるノイズ成分をより多く除去するために、式3の係数K1を比較的小さい値に設定する(即ち、フィルタリング時定数を比較的大きい値に設定する)。そして、式3によるなまし処理を施して得られたなまし出力値に「式4による応答補償処理」を施すことにより、応答遅れ時間を短縮するようにしている。
即ち、本実施形態の「式4による応答補償処理」においては、図4(B)に示したように、「時刻t2において算出されたなまし出力値Vcmps(i)」と「時刻t1において算出されたなまし出力値Vcmps(i-1)」との偏差ΔV(=Vcmps(i)−Vcmps(i-1))が算出される。次に、この算出された偏差ΔVに「係数K2(>1)」を乗算した値K2×ΔVが算出される。次に、この算出された値K2×ΔVを「時刻t1において算出されたなまし出力値Vcmps(i-1)」に加算することにより得られる値Vcmpp(i)(=K2×ΔV+Vcmpp(i-1))が時刻t2におけるセンサ出力値(即ち、応答補償出力値)として算出される。
このセンサ出力値Vcmpp(i)は、図4(B)から分かるように、「時刻t2におけるなまし出力値Vcmps(i)」と「時刻t2におけるなまし出力値の時間変化率(=Vcmps(i)−Vcmps(i-1))」とに基づいて予測される「センサ出力値の時間Δt後の値」である。
従って、このセンサ出力値Vcmpp(i)に対応する過給圧を時刻t2におけるセンサ推定過給圧として算出すれば、算出されたセンサ推定過給圧Pcmpd(i)は、図4(A)に示したように、時刻t2における実過給圧Pcmpa(t2)に一致する。つまり、算出されたセンサ推定過給圧Pcmpd(i)には、応答遅れがない。
このため、上述したように「式3によるなまし処理」及び「式4による応答補償処理」を施すことにより、ノイズ成分の除去と応答遅れ時間の短縮とを同時に達成することができる。
ところで、機関10の運転中、吸気ポート31から燃焼室25に空気が吸入される。この空気の吸入に起因して、スロットル弁46下流の吸気通路内の空気が脈動する。この空気の脈動は、スロットル弁46上流の吸気通路内の空気にも伝播する。従って、スロットル弁46上流の吸気通路内の空気も脈動する。
上述したように、本実施形態によるセンサ推定過給圧の演算においては、各演算時点におけるなまし出力値の時間変化率に基づいて、所定時間後のなまし出力値を予測している。しかしながら、スロットル弁46上流の吸気通路内の空気が脈動すると、過給圧も脈動する。このため、各演算時点におけるなまし出力値の時間変化率が大きくなる可能性がある。しかしながら、各演算時点におけるなまし出力値の時間変化率が大きいとしても、数回の演算に亘る期間におけるなまし出力値の平均時間変化率は、各演算時点におけるなまし出力値の時間変化率よりも小さいこともある。この場合において、各演算時点におけるなまし出力値の時間変化率に基づいて過給圧を推定すると、推定された過給圧は、実過給圧から乖離した過給圧となる。
一方、、前記所定時間Δtは、式4における係数K2が小さいほど短くなる。更に、、係数K2は、式5における時定数τが小さいほど小さくなる。つまり、式5における時定数τが小さいほど、前記所定時間Δtが短くなる。前記所定時間Δtが短ければ、脈動の影響により各演算時点におけるなまし出力値の時間変化率が大きくなっていても、式4による応答補償処理により算出される応答補償出力値は、各演算時点におけるなまし出力値から過剰に乖離しない。従って、同応答補償出力値に対応する過給圧をセンサ推定過給圧としても、同センサ推定過給圧は、実過給圧から大きくは乖離しない。
上述した実過給圧からのセンサ推定過給圧の乖離は、過給圧の変動幅が大きいほど大きくなる。過給圧の変動幅は、スロットル弁46下流の吸気通路内の空気の脈動がスロットル弁46上流の吸気通路内の空気に与える影響が大きいほど大きくなる。更に、同影響は、スロットル開度が大きいほど大きくなる。
ここで、スロットル開度が大きいほど、吸気圧が過給圧に近い値になる。つまり、過給圧に対する吸気圧の比(=吸気圧/過給圧)が「1」に近くなる。つまり、同比(以下「圧力比」)が「1」に近いほど、過給圧の変動幅が大きくなる。そして、上述したように、過給圧の変動幅が大きいほど、実過給圧からのセンサ推定過給圧の乖離が大きくなる。
そこで、本実施形態においては、圧力比Rppに応じた適切な時定数τを予め求め、図5に示したように、これら圧力比Rppと時定数τとの関係を示したルックアップテーブルをROM72に記憶しておく。図5に示したルックアップテーブルにおいては、時定数τは、圧力比Rppが大きいほど小さくなる。
そして、CPU71は、機関10の運転中、図5に示したルックアップテーブルから圧力比Rppに対応する時定数τを取得する。次いで、CPU71は、この取得した時定数τを式5に適用して、係数K2を算出する。次いで、CPU71は、この算出した係数K2に適用して、センサ推定過給圧Pcmpdを算出する。
これによれば、過給圧の変動幅が大きいと推定される場合、前記所定時間が短くされる。このため、実過給圧からのセンサ推定過給圧の乖離が小さい。従って、図6に参照符号Lpaにより示したように、実過給圧が変化したときに、参照符号Lpdにより示したように、センサ推定過給圧が算出される。一方、なまし出力値に対応する過給圧がセンサ推定過給圧として算出される場合、センサ推定過給圧は、参照符号Lpsにより示したように算出される。このように、本実施形態の過給圧推定装置によるセンサ推定過給圧の算出によれば、実過給圧を精度良く推定することができる。
ところで、コンプレッサ91a下流の吸気通路内において、過給サージ現象が生じると、過給圧が大きく変動する。この場合の過給圧の変動幅は、脈動に起因する過給圧の変動幅よりも大きい。このため、上述したように、圧力比Rppに応じて式5の時定数τを設定したとしても、センサ推定過給圧が実過給圧から大きく乖離してしまう可能性がある。
ここで、過給圧が過剰に高いとき、或いは、過給圧の変化率(>0)が過剰に大きいとき、或いは、エアバイパスバルブ47bが開弁しているときには、過給サージ現象が生じており、或いは、過給サージ現象が生じる可能性がある。
そこで、本実施形態においては、過給圧が大気圧の所定倍(本例においては、1.5倍)の値よりも大きいとき、或いは、過給圧の変化率が所定値(>0)よりも大きいとき、或いは、エアバイパスバルブ47bが開弁しているときには、CPU71は、「式4による応答補償処理」を実施せず、「式3によるなまし処理」のみを実施して、センサ推定過給圧を算出する。つまり、CPU71は、「なまし出力値Vcmps」及び「図3(B)に示したなまし出力値Vcmpsとセンサ推定過給圧Pcmpdとの関係」に基づいて、センサ推定過給圧Pcmpdを算出する。
以上説明した本実施形態の過給圧推定装置によるセンサ推定過給圧の算出について、図7に示したフローを用いて具体的に説明する。まず、CPU71は、ステップ10において、過給圧センサの出力値(センサ出力値)Vcmpa(i)、大気圧Pa、吸気圧Pm、本フローの前回の実行時に算出されたなまし出力値(以下「前回なまし出力値」)Vcmps(i-1)、本フローの前回の実行時に算出されたセンサ推定過給圧(以下「前回センサ推定過給圧」)Pcmpd(i-1)及び本フローの前々回の実行時に算出されたセンサ推定過給圧(以下「前々回センサ推定過給圧」)Pcmpd(i-2)を取得する。
尚、大気圧Paは、圧力センサ61により検出される圧力であり、吸気圧Pmは、吸気管モデルM6において算出される吸気圧Pmである。
次いで、ステップ11において、CPU71は、ステップ10において取得した前回センサ推定過給圧Pcmpd(i-1)」及び「前々回センサ推定過給圧Pcmpd(i-2)」に基づいて、過給圧変化率Rp(=Pcmpd(i-1)−Pcmpd(i-2))を算出する。
次いで、ステップ12において、CPU71は、前回センサ推定過給圧Pcmpd(i-1)が大気圧Paに係数(1よりも大きい値であって、本例においては、1.5)を乗算した値よりも高い(Pcmpd(i-1)>Pa×1.5)か否か、ステップ11において算出した過給圧変化率Rpが所定値Rpthよりも大きい(Rp>Rpth)か否か、及び、エアバイパスバルブ47bが開弁されているときにセットされるABVフラグFabvがセットされている(Fabv=1)か否か、を判定する。
ここで、Pcmpd(i-1)>Pa×1.5である場合、又は、Rp>Rpthである場合、又は、Fabv=1である場合には、フローは、ステップ18に進む。一方、Pcmpd(i-1)>Pa×1.5ではなく、且つ、Rp>Rpthではなく、且つ、Fabv=1ではない場合には、フローは、ステップ13に進む。
ステップ13においては、CPU71は、ステップ10において取得した前回センサ推定過給圧Pcmpd(i-1)」及び「吸気圧Pm」に基づいて、圧力比Rpp(=Pm/Pcmpd(i-1))を算出する。次いで、ステップ14において、CPU71は、ステップ13において算出した圧力比Rppと図5に示した関係とから、時定数τを取得する。
次いで、ステップ15において、CPU71は、ステップ10において取得した「センサ出力値Vcmpa(i)」及び「前回なまし出力値Vcmps(i-1)」とを用いて、上式3に従って、なまし出力値Vcmps(i)を算出する。
次いで、ステップ16において、CPU71は、「ステップ15において算出したなまし出力値Vcmps(i)」、「ステップ10において取得した前回なまし出力値Vcmps(i-1)」及び「ステップ14において取得した時定数τ」とを用いて、上式4及び上式5に従って、応答補償出力値Vcmpp(i)を算出する。
次いで、ステップ17において、CPU71は、「ステップ16において算出した応答補償出力値Vcmpp(i)」に対応する過給圧を図3(A)の関係からセンサ推定過給圧Pcmpd(i)として算出する。
一方、ステップ18においては、CPU71は、ステップ10において取得した「センサ出力値Vcmpa(i)」及び「前回なまし出力値Vcmps(i-1)」を用いて、上式3に従って、なまし出力値Vcmps(i)を算出する。
次いで、ステップ19において、CPU71は、「ステップ18において算出したなまし出力値Vcmps(i)」に対応する過給圧を図3(B)の関係からセンサ推定過給圧Pcmpd(i)として算出する。