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JP6171968B2 - 圧縮自己着火エンジンの制御装置 - Google Patents

圧縮自己着火エンジンの制御装置 Download PDF

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JP6171968B2
JP6171968B2 JP2014021009A JP2014021009A JP6171968B2 JP 6171968 B2 JP6171968 B2 JP 6171968B2 JP 2014021009 A JP2014021009 A JP 2014021009A JP 2014021009 A JP2014021009 A JP 2014021009A JP 6171968 B2 JP6171968 B2 JP 6171968B2
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  • Output Control And Ontrol Of Special Type Engine (AREA)
  • Electrical Control Of Air Or Fuel Supplied To Internal-Combustion Engine (AREA)

Description

ここに開示する技術は、圧縮自己着火エンジンの制御装置に関する。
特許文献1には、幾何学的圧縮比εを18≦ε≦40に設定した高圧縮比エンジンが記載されている。このエンジンは、低負荷及び中負荷の運転領域では、空気過剰率λを2.5以上のリーンにして圧縮自己着火燃焼させることで、排気エミッション性能を向上させると共に、熱効率の向上を図っている。
特開2013−53607号公報
本願発明者等の検討によれば、混合気の空気過剰率λを2.5以上にしたときには、燃焼温度の低減によりRawNOxの発生を抑制することが可能であるものの、エンジンの負荷の増大に伴い燃料噴射量が増えたときには、空気過剰率λを2.5以上に維持することが困難になる。そのため、前記特許文献1にも記載されているように、高負荷側の領域では、三元触媒を利用してNOxの排出を抑制すべく、空気過剰率λを1に設定することになる。しかしながら、空気過剰率λを1にする高負荷側の領域においても、低負荷側の領域と同じように、排気エミッション性能を維持しつつ、燃費の向上を図りたいという要求がある。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧縮自己着火エンジンにおいて、特に負荷の高い領域での燃費の向上を図ることにある。
ここに開示する技術は、圧縮自己着火エンジンの制御装置に係り、この制御装置は、幾何学的圧縮比が20以上に設定された気筒を有して構成されたエンジン本体と、前記気筒内に、排気ガスの一部を冷却した上で還流させるよう構成されたコールドEGR手段と、前記気筒内の混合気を圧縮自己着火燃焼させることにより、前記エンジン本体を運転するよう構成された制御器と、前記気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、を備える。
そして、前記制御器は、前記エンジン本体の運転状態が、中負荷に相当する所定の切替負荷よりも低い第1領域にあるときには、前記気筒内の混合気の空気過剰率λを2.5以上にして圧縮自己着火燃焼させる一方、前記エンジン本体の運転状態が前記切替負荷以上の第2領域にあるときには、前記空気過剰率λを1にして圧縮自己着火燃焼させ、前記制御器はまた、前記第1領域及び第2領域で、前記気筒に連通する吸気通路上に設けたスロットル弁の開度を全開に設定すると共に、前記第1領域内における所定の低負荷側領域では、前記コールドEGR手段による排気ガスの還流を行わない一方、全開負荷を除く前記第2領域では、前記コールドEGR手段を通じて冷却した排気ガスを還流することにより、前記空気過剰率λを1にする。
また、前記制御器は、前記第1領域では、圧縮上死点前に、全量の燃料噴射を前記燃料噴射弁に実行させ、前記第2領域では、圧縮上死点前に、熱炎反応に至らずに酸化反応をする量の燃料を噴射することにより、圧縮上死点以降に、気筒内の温度の変動が所定の温度幅に収まる温度維持期間を設ける前段噴射と、当該前段噴射よりも後に燃料を噴射して、圧縮上死点以降であって、前記温度維持期間内に燃料を圧縮自己着火燃焼させる主噴射と、を前記燃料噴射弁に実行させ、前記制御器はまた、前記第2領域では、前記エンジン本体の負荷の高低に応じてEGR率を変化させると共に、前記第1領域内において、前記第2領域に隣接する所定の高負荷側領域では、前記第2領域の前記切替負荷において設定されているEGR率に近づくように、前記エンジン本体の負荷が高まるに従いEGR率を高くする。
さらに、前記制御器は、前記第1領域における前記所定の高負荷側領域と前記所定の低負荷側領域との間の負荷領域では、EGR率を、前記第2領域において変化するEGR率の中間値となるように設定する。
ここで、EGR率は、気筒内の全ガスに対する排気ガスの体積比(排気ガス量/気筒内の全ガス量)で定義することが可能である。
幾何学的圧縮比を20以上の高圧縮比に設定することにより、熱効率の向上に有利になる上に、圧縮上死点における気筒内の温度及び圧力(圧縮端温度及び圧力)がそれぞれ高くなる。これは、エンジン本体の負荷が比較的低いときに、圧縮自己着火による着火性を良好にして、圧縮自己着火燃焼の安定性を向上させる。幾何学的圧縮比の上限は、例えば40としてもよい。
前記の構成では、中負荷に相当する所定の切替負荷よりも低い第1領域にあるときには、気筒内の混合気の空気過剰率λを2.5以上にして圧縮自己着火燃焼させる。空気過剰率λを2.5以上にすることで、燃焼温度が低減し、RawNOxの発生を抑制することが可能になる。空気過剰率λの上限は、例えば8としてもよい。空気過剰率λが8を超えると、図示熱効率が低下するためである。
第1領域ではまた、吸気通路上に設けたスロットル弁の開度を全開に設定する。このことにより、ポンプ損失が低減する。従って、第1領域では、高圧縮比でかつ、空気過剰率λを2.5以上にした圧縮自己着火燃焼により、排気エミッション性能が向上する上に、燃費の向上が図られる。また、第1領域内における所定の低負荷側領域では、排気ガスの還流を行わないことにより、エンジン本体の負荷が低いときに、圧縮自己着火燃焼の安定性を確保することが可能になる。
第1領域よりも負荷の高い領域では、エンジン本体の負荷の増大に伴い、空気過剰率λを2.5以上にすることが困難になることから(つまり、燃料噴射量が増えることに伴い大量の空気を気筒内に導入しなければならなくなるから)、空気過剰率λを1にして圧縮着火燃焼を行う。
空気過剰率λを1にするためには、燃料量に対応して気筒内への新気の導入量を調整する必要があるが、スロットル弁の開度を絞って新気の導入量を調整したのでは、ポンプ損失が増大して燃費の悪化を招くことになる。前記の構成では、第2領域でも、第1領域と同様に、スロットル弁の開度を全開に維持する。こうすることで、ポンプ損失の増大が回避され、燃費の悪化が回避される。ここで、「スロットル弁の開度を全開に設定する」ことは、スロットル弁の開度を全開すること以外に、スロットル弁の開度を実質的に全開にすることを含む。つまり、コールドEGR手段を通じた排気ガスの還流が可能になる程度の吸気負圧が得られるようにスロットル弁を絞ることは、スロットル弁の開度を実質的に全開にすることに相当する。
そうして、前記の構成では、第2領域においてはスロットル弁の開度を全開に設定しつつ、コールドEGR手段を通じて気筒内に導入する排気ガス量を調整する。つまり、排気ガスの還流量を増やすと、気筒内に導入される新気は減り、排気ガスの還流量を減らすと、気筒内に導入される新気量は増える。こうして、排気ガスの還流量の調整を通じて、気筒内に導入する新気量、より正確には気筒内の酸素量を調整して、空気過剰率λを1にする。その結果、相対的に高負荷側の領域である第2領域においても、ポンプ損失が低減して燃費の向上に有利になると共に、空気過剰率λを1にすることで三元触媒が利用可能になり、排気エミッション性能を良好にすることが可能になる。また、コールドEGR手段によって、冷却した排気ガスを気筒内に導入することは、高圧縮比エンジンを高負荷側で運転するときに、燃焼温度の低下を図り、RawNOxの抑制にも有利である。
また、前記の構成によると、第1領域では、圧縮上死点前に、全量の燃料噴射を燃料噴射弁に実行させる。燃料噴射は、圧縮行程を初期、中期及び終期に3分割したときの終期に行うとしてもよい。また、圧縮行程中に噴射する燃料は、一括で噴射してもよいし、分割して噴射してもよい。圧縮上死点前の燃料噴射によって気筒内に形成されるリーン混合気は、圧縮上死点付近において圧縮自己着火し、燃焼する。
これに対し、第2領域では、エンジン本体の負荷が相対的に高いと共に、空燃比も相対的にリッチであるため、第1領域と同様に圧縮上死点付近において圧縮自己着火燃焼をしたのでは、燃焼時の圧力上昇率が高くなりやすい。特にこのエンジン本体は幾何学的圧縮比が20以上に高く設定されているため、圧力上昇率が高くなると燃焼騒音のレベルが高くなりやすい。
そこで、第2領域では、圧縮自己着火のタイミングを、圧縮上死点以降の適宜の時期に遅らせることにより、燃焼時の圧力上昇率を低くする。具体的には、圧縮自己着火燃焼の燃焼期間が、モータリング時(つまり、エンジンのクランク軸をモータで回したときの燃焼を伴わない状態時)の圧力上昇率が負の最大値となる時点と重複するまで、又は、圧縮自己着火燃焼の燃焼中心が負の圧縮上昇率が大きい期間(つまり、圧縮上死点後10〜20°CA)と重複するまで、圧縮自己着火燃焼を遅角させる。
しかしながら、膨張行程が進むにつれて筒内温度は次第に低下するため、圧縮自己着火燃焼を遅角させようとしても、失火を生じる虞がある。この点につき、前記の構成では、圧縮上死点前に前段噴射を行う。この前段噴射によって気筒内に噴射される燃料は、比較的少量であり、熱炎反応に至らずに酸化反応をする。本明細書では、燃料が熱炎反応に至らずに酸化反応をすることを「部分酸化反応」と称する場合がある。これにより、圧縮上死点での気筒内の温度が調整される。つまり、前段噴射の噴射量が多くなるほど、圧縮端温度は高くなる。圧縮端温度が高くなる結果、圧縮上死点以降に、気筒内の温度が所定の温度幅に収まる期間を設けることが可能になる。
そうして、前段噴射の後の主噴射により噴射した燃料を、その温度維持期間内で圧縮自己着火燃焼させる。その結果、遅角させた圧縮自己着火燃焼を、安定的に行うことが可能になり、第2領域では、圧縮自己着火燃焼を行いつつも、燃焼騒音の低減が図られる。
ここで、前段噴射は、膨張行程期間内での気筒内の温度の低下を抑制するだけでなく、気筒内の温度が高くなりすぎることを防止する。筒内温度が高くなり過ぎると、主噴射を行ったときに燃料が適切に混ざり切る前に局所的に着火して、煤が発生してしまう虞がある。つまり、筒内温度の変動を所定の温度幅に収めることによって、煤の発生を低減することができる。
また、第2領域では、コールドEGR手段を通じて、エンジン本体の負荷に対応した量の、冷却した排気ガスを気筒内に還流させる。このことは、気筒内の温度調整に寄与し、遅角した圧縮自己着火燃焼の安定化に有利になると共に、その圧縮自己着火燃焼の緩慢化により、燃焼騒音レベルを上げない範囲で主噴射の時期をできるだけ進角させることを
可能にする。これは、圧縮自己着火燃焼の燃焼期間をできるだけ進角させることになるから、燃費の向上に有利になる。
ここで、第1領域と第2領域とを比較したときに、第2領域では空気過剰率λを1にしかつ、圧縮自己着火燃焼の期間を遅角させているため、第1領域よりも熱効率は低下し得る。前記の構成では、第1領域内において、第2領域に隣接する高負荷側領域では、冷却した排気ガスを還流させるため、その分、気筒内の温度状態を低くすることが可能になる。これは、第1領域をできるだけ高負荷側に広げる上で有利になり、ひいては燃費の向上に有利になる。
さらに、第1領域内における高負荷側領域では、エンジン負荷が高まるに従い、EGR率を高くして、第1領域と第2領域との境界である切替負荷において、EGR率が同じになるようにしている。これは、エンジン負荷が連続的に変化をして、第1領域から第2領域へと移行する場合、又は、第2領域から第1領域へと移行する場合のいずれにおいても、EGR率が連続的に変化することになる。これは、領域間の移行をスムースにして、トルクショック等の発生や、排気エミッション性能の低下を回避する上で有効である。
加えて、第1領域では、前述の通り、空気過剰率λを1にするために、エンジン本体の負荷に対応して、排気ガスの還流量が調整される。つまり、エンジン本体の負荷に応じてEGR率が変化する。その一方で、コールドEGR手段を通じてEGR率を変化させることの応答性は低い。そのため、エンジンの運転状態が変化し、第1領域から第1領域へと移行した直後は、そのエンジン本体の負荷に見合うEGR率からずれてしまう可能性がある。EGR率のずれが大きいと排気エミッション性能が低下すると共に、EGR率のずれが無くなるまでに要する時間も長くなってしまう。
このことに関し、前記の構成では、第1領域における所定の高負荷側領域(前述の通り、切替負荷において設定されているEGR率に近づくようなEGR率に設定されている領域)と所定の低負荷側領域(前述の通り、燃焼安定性の観点から排気ガスの還流を行わない(EGR率がゼロ)領域)との間の負荷領域では、第2領域において変化するEGR率の中間値に、EGR率を設定する。こうすることで、第1領域から第2領域へと移行したときに、EGR率のずれが生じたとしても、そのずれ量の最大が所定値以下に規制されるようになる。つまり、EGR率のずれを、できるだけ小さくすることが可能になると共に、第2領域への移行後、EGR率のずれが無くなるまでに要する時間も短くなるから、排気エミッション性能の低下が抑制される。
前記制御器は、前記第2領域では、前記エンジン本体の負荷が高くなるに従いEGR率を低くし、前記制御器はまた、前記第2領域における所定の高負荷側領域では、前記前段噴射と前記主噴射との間で、熱炎反応に至らずに酸化反応をする量の燃料を噴射して、前記温度維持期間の長さを調整する第2の前段噴射を行うと共に、前記主噴射の時期を、前記所定の高負荷側領域よりも負荷の低い領域での主噴射の時期に対し遅角させる、としてもよい。
第2領域において、エンジン本体の負荷が高くなるに従ってEGR率を低くすることにより、エンジン本体の負荷が高くなるに従って、気筒内に導入される新気量が増える。従って、エンジン本体の負荷が高くなるに従って増える燃料量に対し、空気過剰率λを1にする上で必要な新気量が確保されることになる。
その一方で、エンジンの負荷が高くなるに従い、冷却された排気ガスの還流量が少なくなる上に、燃料量が増えることから、第2領域内における所定の高負荷側領域では、燃焼騒音を低減するために、圧縮自己着火燃焼の期間を、第2領域内における低負荷側の領域よりも、さらに遅角させる必要が生じる。
前記の構成では、第2領域における所定の高負荷側領域では、前段噴射と主噴射との間で第2の前段噴射を行う。第2の前段噴射により噴射された燃料は、熱炎反応に至ることなく酸化反応をして小さな熱量を発生し、膨張行程の進行に伴う筒内温度の低下を抑制しつつ、筒内温度が高くなり過ぎるのを防止する。燃料が熱炎反応すると、大きな熱量が発生し、筒内温度が高くなり過ぎる可能性がある。それに対し、燃料が熱炎反応に至ることなく酸化反応すれば、小さな熱量しか発生せず、筒内温度の過度な上昇を抑制することができる(つまり、部分酸化反応)。
こうして第2の前段噴射を行うことにより、圧縮上死点以降の気筒内の温度の変動が所定の温度幅に収まる期間(つまり、温度維持期間)をさらに長くすることが可能になる。その結果、圧縮自己着火燃焼の期間をさらに遅角させても、その安定化が図られ、第2領域における所定の高負荷側領域において、燃焼騒音の増大が回避される。圧縮自己着火燃焼の期間をさらに遅角させるために、所定の高負荷側領域における主噴射の時期は、この高負荷側領域よりも負荷の低い領域での主噴射の時期に対し、遅角させる。
また、この高負荷側領域を含む第2領域では、前述の通り、冷却した排気ガスを気筒内に還流させることで、燃焼を緩慢にして、燃焼騒音の低減には有利になる。従って、第2の前段噴射が必要となる高負荷側領域は、冷却した排気ガスを還流させる分だけ、高負荷側に縮小し得る(領域が小さくなり得る)。高負荷側領域では、第2の前段噴射を実行することにより、主噴射の時期は遅くなるため、燃費は低下し得るが、高負荷側領域を縮小することは、燃費に不利な領域が縮小するから、燃費の向上に有利になる。
ここに開示する圧縮自己着火エンジンの制御装置はまた、幾何学的圧縮比が20以上に設定された気筒を有して構成されたエンジン本体と、前記気筒内に、排気ガスの一部を冷却した上で還流させるよう構成されたコールドEGR手段と、前記気筒内の混合気を圧縮自己着火燃焼させることにより、前記エンジン本体を運転するよう構成された制御器と、を備え、前記制御器は、前記エンジン本体の運転状態が、中負荷に相当する所定の切替負荷よりも低い第1領域にあるときには、前記気筒内の混合気の空気過剰率λを2.5以上にして圧縮自己着火燃焼させる一方、前記エンジン本体の運転状態が前記切替負荷以上の第2領域にあるときには、前記気筒内全体の前記空気過剰率λを1にして圧縮自己着火燃焼させ、前記制御器はまた、前記第1領域及び第2領域で、前記気筒に連通する吸気通路上に設けたスロットル弁の開度を全開に設定すると共に、前記第1領域内における所定の低負荷側領域では、前記コールドEGR手段による排気ガスの還流を行わない一方、全開負荷を除く前記第2領域では、前記コールドEGR手段を通じて冷却した排気ガスを還流することにより、前記空気過剰率λを1にする。
以上説明したように、前記の圧縮自己着火エンジンの制御装置によると、高負荷側の第2領域では、スロットル弁の開度を全開に維持しつつ、冷却した排気ガスを還流することで空気過剰率λを1にして圧縮自己着火燃焼を行うことにより、ポンプ損失が低減して燃費の向上に有利になると共に、三元触媒を利用して排気エミッション性能を良好にすることが可能になる。
圧縮自己着火エンジンの構成を示す概略図である。 圧縮自己着火エンジンの制御に係る構成を示すブロック図である。 エンジンの運転制御に係るマップである。 エンジンの負荷に対する、燃料の噴射時期及び噴射期間の変化を示す図、気筒内の温度変化を例示する図(上図)、及びエンジンの負荷に対する、EGR率の変化を示す図(右図)である。 エンジン制御に係るフローチャートである。
以下、圧縮自己着火エンジンの制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明は例示である。
(エンジンシステムの全体構成)
図1、2は、実施形態に係るエンジンシステム1の構成を示している。このエンジンシステム1は、車両に搭載されるシステムである。エンジンシステム1は、エンジン本体(以下、単に「エンジン」という)10と、エンジン10に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、及び、該センサからの信号に基づきアクチュエータを制御するPCM(Powertrain Control Module、制御器)100を含む。
エンジン10の出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン10の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。エンジン10は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部に複数の気筒11が形成されている(図1では、1つのみ示す)。シリンダブロック12及びシリンダヘッド13の内部には、図示は省略するが冷却水が流れるウォータージャケットが形成されている。
各気筒11内には、ピストン15が摺動自在にそれぞれ嵌挿されており、ピストン15は、気筒11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室を区画している。本実施形態では、燃焼室は所謂ペントルーフ型であり、その天井面(シリンダヘッド13の下面)は吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。ピストン15の冠面は、前記天井面に対応した凸形状をなしていて、冠面の中心部には、凹状のキャビティ15aが形成されている。尚、前記天井面及びピストン15の冠面の形状は、後述の高い幾何学的圧縮比が可能であれば、どのような形状であってもよく、例えば、天井面及びピストン15の冠面(キャビティ15aを除く部分)の両方が、気筒11の中心軸に対して垂直な面で構成されていてもよく、天井面が前記のように三角屋根状をなす一方、ピストン15の冠面(キャビティ15aを除く部分)が気筒11の中心軸に対して垂直な面で構成されていてもよい。
図1には1つのみ示すが、気筒11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(燃焼室の天井面における吸気側の傾斜面)に開口することで燃焼室に連通している。同様に、気筒11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(燃焼室の天井面の排気側の傾斜面)に開口することで燃焼室に連通している。
シリンダヘッド13には、吸気弁21及び排気弁22が、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、気筒11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフトに駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフトの回転と同期して回転する。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、この例では、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)23を、少なくとも含んで構成されている(図2参照)。尚、VVT23と共に、弁リフト量を変更可能なリフト可変機構を備えるようにしてもよい。リフト可変機構は、リフト量を連続的に変更可能なCVVL(Continuous Variable Valve Lift)としてもよい。
各気筒11の吸気ポート18は、図1において明示されない吸気マニホールドを介して吸気通路30に連通している。また、各気筒11の排気ポート19は、同様に明示されない排気マニホールドを介して排気通路40に連通している。
吸気通路30には、エアクリーナー31と、ターボ過給機8のコンプレッサ81と、該コンプレッサ81により圧縮された空気を冷却するインタークーラ32と、各気筒11への吸入空気量を調節するスロットル弁33とが、上流から下流に向かって順に配設されている。
排気通路40には、ターボ過給機8のタービン82と、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とが、上流側から下流側に向かって順に配設されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した三元触媒とを備えて構成されている。
吸気通路30におけるコンプレッサ81の下流側部分(より正確には、スロットル弁33の下流側部分)と、排気通路40におけるタービン82の上流側部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための高圧EGR通路510によって接続されている。高圧EGR通路510には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための高圧EGR弁511及び排気ガスを冷却するための、水冷式のEGRクーラ512が配設されている。高圧EGR通路510、高圧EGR弁511及びEGRクーラ512を含んで、高圧EGRシステム51が構成される。
また、吸気通路30におけるコンプレッサ81の上流側部分と、排気通路40におけるタービン82の下流側部分(より正確には、直キャタリスト41と、後述の排気シャッター弁43との間)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための低圧EGR通路520によって接続されている。この低圧EGR通路520には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための低圧EGR弁521及び排気ガスを冷却するための、空冷式のEGRクーラ522が介設されている。
排気シャッター弁43は、排気通路40において低圧EGR通路520の接続部よりも下流側に配設されている。排気シャッター弁43は、その開度を調整することが可能な流量調整弁であり、排気シャッター弁43を閉じ側にすることによって、通過する流量が低減して、低圧EGR通路520の排気通路40側の圧力を、吸気通路30側の圧力に対して相対的に高めることが可能になる。低圧EGR通路520と低圧EGR弁521とEGRクーラ522と排気シャッター弁43とを含んで、低圧EGRシステム52が構成される。
ターボ過給機8は、吸気通路30に配設されたコンプレッサ81と、排気通路40に配設されたタービン82とを有し、コンプレッサ81とタービン82とは互いに連結されている。タービン82が排気ガス流により回転し、それによって、コンプレッサ81が作動する。この例においてターボ過給機は、可変ノズル83を有するVGT(Variable Geometry Turbo)である。但し、ターボ過給機の構成は、VGTに限るものではない。
エンジン10において、シリンダヘッド13における気筒11の中心軸上には、気筒内(燃焼室内)に燃料を直接噴射するインジェクタ34が配設されている。このインジェクタ34は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造でシリンダヘッド13に取付固定されている。インジェクタ34の先端は、燃焼室の天井部の中心に臨んでいる。
インジェクタ34は、この例では外開弁式のインジェクタである。つまり、その構成の詳細な図示は省略するが、気筒11内に燃料を噴射するノズル口を開閉する外開弁を有し、外開弁が気筒11側にリフトすることで、ノズル口を開放する。このとき、ノズル口から気筒11内に燃料が、気筒11の中心軸を中心とするコーン状(詳しくはホローコーン状)に噴射される。外開弁のリフト量が大きいほど、ノズル口の開度が大きくなってノズル口から気筒11内に噴射される燃料噴霧のペネトレーションが大きくなる(長くなる)と共に、単位時間当たりに噴射される燃料量が多くなりかつ燃料噴霧の粒径が大きくなる。但し、インジェクタ34は、外開弁式に限らず、多噴孔型のインジェクタとしてもよい。
燃料供給システム35は、外開弁を駆動するための電気回路と、インジェクタ34に燃料を供給する燃料供給系とを備えている。PCM100は、所定のタイミングで、リフト量に応じた電圧を有する噴射信号を前記電気回路に出力することで、該電気回路を介して外開弁を作動させて、所望量の燃料を、気筒11内に噴射させる。前記噴射信号の非出力時(噴射信号の電圧が0であるとき)には、外開弁によりノズル口が閉じられた状態となる。こうしてPCM100は、外開弁の作動を制御して、インジェクタ34のノズル口からの燃料噴射及び該燃料噴射時におけるリフト量を制御する。
燃料供給系には、図示省略の高圧燃料ポンプやコモンレールが設けられており、その高圧燃料ポンプは、低圧燃料ポンプを介して燃料タンクより供給されてきた燃料をコモンレールに圧送し、コモンレールは、その圧送された燃料を、所定の燃料圧力で蓄える。そして、インジェクタ34が作動することによって、コモンレールに蓄えられている燃料がノズル口から噴射される。
ここで、エンジン10の燃料は、本実施形態ではガソリンであるが、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよく、少なくともガソリンを含む燃料(液体燃料)であれば、どのような燃料であってもよい。
また、このエンジン10の燃焼室内には、オゾン発生器36が配設されている。このオゾン発生器36は、例えばねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に固定されている。オゾン発生器36の先端部は燃焼室の天井部に臨んでいる。このオゾン発生器36の先端部は、インジェクタ34のノズル口の近傍に位置する。オゾン発生器36は、互いに絶縁され且つ対向して配置された2つの電極を有している。オゾン発生器36は、オゾン発生システム37によって駆動される。オゾン発生システム37は、オゾン発生回路を有している。オゾン発生システム37は、PCM100からの制御信号を受けて、高圧の高周波電圧をオゾン発生器36に出力する。オゾン発生器36は、高周波電圧が印加されると、2つの電極間にオゾンを発生させる。オゾン発生器36に印加する高周波電圧の大きさ又は周波数を変更することによって、オゾンの濃度を調整することができる。尚、オゾン発生器36の配置及び構成は、これに限定されるものではない。
PCM100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
PCM100には、車速を検出する車速センサ71、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ72、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサ73の各センサが接続されている。
吸気通路30上には、吸気通路30を流れる新気の流量(及び温度)を検出するエアフローセンサ74が配設されており、エアフローセンサ74は、検出した流量及び外気温度をPCM100に出力する。
また、サージタンク38には、燃焼室に供給される空気の圧力を検出する吸気圧センサ(過給圧センサ)75が取り付けられると共に、排気通路40には、タービン上流の圧力を検出する排気圧センサ76が配設されている。各センサ75、76は、PCM100に接続されており、その検出値をPCM100に出力する。
そして、PCM100は、前述した各センサ等からの信号に基づいて、エンジン10の運転状態を判断し、それに対応するエンジン10の制御パラメータを設定する。そして、PCM100は、各制御パラメータに対応する信号を、スロットル弁33、燃料供給システム35、VVT23、排気シャッター弁43、高圧EGR弁511、低圧EGR弁521、及び、オゾン発生システム37等に出力する。
(エンジン本体の構成)
次に、エンジン本体の構成についてさらに詳細に説明をする。このエンジン10の幾何学的圧縮比εは、20以上40以下とされている。幾何学的圧縮比εは、特に25以上35以下が好ましい。エンジン10は圧縮比=膨張比となる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン10でもある。尚、圧縮比≦膨張比となる構成(例えばアトキンソンサイクルや、ミラーサイクル)を採用してもよい。また、吸気弁の遅閉じ等を行う場合には、エンジン10の有効圧縮比は、12以上に設定される。好ましくは、エンジン10の有効圧縮比は、18以上に設定される。
燃焼室は、気筒11の壁面と、ピストン15の冠面と、シリンダヘッド13の下面(天井面)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されている。そして、冷却損失を低減するべく、これらの各面に、断熱層が設けられることによって、燃焼室が断熱化されている。断熱層は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。また、燃焼室を直接区画する壁面ではないが、吸気ポート18や排気ポート19における、燃焼室の天井面側の開口近傍のポート壁面に断熱層を設けてもよい。
燃焼室の断熱構造について、さらに詳細に説明する。燃焼室の断熱構造は、上述の如く、燃焼室を区画する各区画面に設けた断熱層によって構成されるが、これらの断熱層は、燃焼室内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。ここで、気筒11の壁面に設けた断熱層については、シリンダブロック12が母材であり、ピストン15の冠面に設けた断熱層についてはピストン15が母材であり、シリンダヘッド13の天井面に設けた断熱層については、シリンダヘッド13が母材であり、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッド面に設けた断熱層については、吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ母材である。したがって、母材の材質は、シリンダブロック12、シリンダヘッド13及びピストン15については、アルミニウム合金や鋳鉄となり、吸気弁21及び排気弁22については、耐熱鋼や鋳鉄等となる。
また、断熱層は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、燃焼室内のガス温度は燃焼サイクルの進行によって変動するが、燃焼室の断熱構造を有しない従来のエンジンは、シリンダヘッドやシリンダブロック内に形成したウォータージャケット内を冷却水が流れることにより、燃焼室を区画する面の温度は、燃焼サイクルの進行にかかわらず、概略一定に維持される。
一方で、冷却損失は、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−区画面の温度)によって決定されることから、ガス温度と壁面の温度との差温が大きくなればなるほど冷却損失は大きくなってしまう。冷却損失を抑制するためには、ガス温度と区画面の温度との差温は小さくすることが望ましいが、冷却水によって燃焼室の区画面の温度を概略一定に維持した場合、ガス温度の変動に伴い差温が大きくなることは避けられない。そこで、断熱層の熱容量を小さくして、燃焼室の区画面の温度が、燃焼室内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。
前記断熱層は、例えば、母材上にZrO等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングして形成すればよい。このセラミック材料の中には、多数の気孔を含んでいてもよい。このようにすれば、断熱層の熱伝導率及び容積比熱をより低くすることができる。
また、本実施形態では、図1に示すように、熱伝導率が非常に低くて断熱性に優れかつ耐熱性にも優れたチタン酸アルミニウム製のポートライナ181を、シリンダヘッド13に一体的に鋳ぐるむことによって、吸気ポート18に断熱層を設けている。この構成は、新気が吸気ポート18を通過するときに、シリンダヘッド13から受熱して温度が上がることを抑制乃至回避し得る。これによって気筒11内に導入する新気の温度(初期のガス温度)が低くなるため、燃焼時のガス温度が低下し、ガス温度と燃焼室の区画面との差温を小さくする上で有利になる。燃焼時のガス温度を低下させることは熱伝達率を低くし得るから、そのことによる冷却損失の低減にも有利になる。尚、吸気ポート18に設ける断熱層の構成は、ポートライナ181の鋳ぐるみに限定されない。
本実施形態では、前記の燃焼室及び吸気ポート18の断熱構造に加えて、気筒内(燃焼室内)においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減するようにしている。
具体的には、PCM100は、エンジン10の気筒内(燃焼室内)の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程以降においてインジェクタ34のノズル口から気筒内に燃料を噴射させるべく、燃料供給システム35の電気回路に噴射信号を出力する。すなわち、圧縮行程以降においてインジェクタ34により気筒内に燃料を噴射させかつその燃料噴霧のペネトレーションを、燃料噴霧が気筒内の外周部まで届かないような大きさ(長さ)に抑えることで、気筒内の中心部に混合気層が形成されかつその周囲に新気を含むガス層が形成されるという、成層化が実現する。このガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(EGRガス)を含んでいてもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっても問題はなく、ガス層が断熱層の役割を果たせるように混合気層よりも燃料リーンであればよい。
前記のようにガス層と混合気層とが形成された状態で燃料が自己着火すれば、混合気層と気筒11の壁面との間のガス層により、混合気層の火炎が気筒11の壁面に接触することがなく、そのガス層が断熱層となって、気筒11の壁面からの熱の放出を抑えることができるようになる。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン10では、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、エンジン10は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
(エンジンの燃料噴射制御)
エンジン10は、全運転領域において、インジェクタ34により気筒内に噴射された燃料を自己着火燃焼させる。より詳しくは、エンジン10は、エンジン負荷が、図3に実線で示す所定の負荷(つまり、切替負荷)よりも低い低負荷及び中負荷の運転領域であって、通常の自己着火燃焼を行う通常運転領域Aと、通常運転領域Aよりも高負荷側の運転領域であって、リタードさせた自己着火燃焼を行うリタード運転領域Bとを有している。リタード運転領域Bは、切替負荷以上の運転領域と言い換えることが可能である。通常運転領域Aは、後述するように、負荷の高低について領域A1と領域A2とに分割され、リタード運転領域Bは、負荷の高低について領域B1と領域B2とに分割される。
図4は、通常運転領域A及びリタード運転領域Bにおける燃料噴射時期及び燃焼期間を例示している。図4にはまた、通常運転領域A及びリタード運転領域BにおけるEGR率の変化を例示している(右図)。図4はさらにリタード運転領域B内の所定負荷における、気筒11内の温度変化を例示している(上図)。
図4に示すように、通常運転領域Aでは、圧縮上死点前に、複数回(図例では4回)の燃料噴射(つまり、主噴射)を行うと共に、圧縮上死点付近で燃料を自己着火燃焼させる。PCM100は、エンジン回転数、エンジン負荷及び有効圧縮比に応じて、燃料量、燃料の噴射タイミング、燃料の噴射形態を調整する。燃料噴射は、ATDC−15°〜−5°CAの範囲で行うようにしてもよい。こうすることで、煤の発生を回避しつつ、圧縮上死点付近で主燃焼を開始することが可能になる。
通常運転領域Aでは、気筒内(燃焼室内)全体の空気過剰率λが2.5以上(又は、気筒内におけるガスの燃料に対する重量比G/Fが35以上)に設定される。これにより、断熱層による断熱化を図って図示熱効率を向上させながら、RawNOxを低減することができる。空気過剰率λ=8で図示熱効率がピークになることから、空気過剰率λの範囲としては、2.5≦λ≦8が好ましい。通常運転領域Aは、空気過剰率λを2.5以上にすることから、リーン領域(つまり、第1領域)と呼ぶことが可能である。
また、通常運転領域Aでは、スロットル弁33の開度を全開に設定する。これは、ポンプ損失の低減による図示熱効率の向上に寄与する。
このように通常運転領域Aでは、空気過剰率λを2.5以上に設定するが、エンジン10の負荷が高まって燃料量が増えたときには、空気過剰率λを2.5以上にすることが困難になり得る。そこで、このエンジン10では、エンジン10の負荷が相対的に高いリタード運転領域Bでは、空気過剰率λを1にする。リタード運転領域Bにおいては、三元触媒を利用して排気エミッション性能を良好に維持することが可能になる。リタード運転領域Bは、空気過剰率λを1にすることから、λ=1領域(つまり、第2領域)と呼ぶことができる。
リタード運転領域Bは、エンジン10の負荷の高低について、低負荷側の領域B1と高負荷側の領域B2とに区分される。このうち、低負荷側の領域B1では、圧縮上死点前の前段噴射と、その前段噴射後、より正確には圧縮上死点後の主噴射とを実行する。
前段噴射は、図4に例示するように、圧縮上死点前の、例えば20°CA程度の時期に行う。これは、図4に示す煤の発生領域から外れた時期である。前段噴射によって気筒11内に噴射する燃料量は、熱炎反応に至らずに酸化反応をする程度の、比較的少量である。この前段噴射によって噴射された燃料は、熱炎反応に至らずに酸化反応をすることにより(つまり、部分酸化反応により)、圧縮上死点での気筒11内の温度が調整される。前段噴射の噴射量が多くなるほど、圧縮端温度は高くなる。従って、圧縮端温度が所望の温度となるような量の燃料が、前段噴射によって気筒11内に噴射される。
圧縮上死点以降、膨張行程が進行するに従い、モータリング時には、気筒11内の温度は次第に低下するものの、前段噴射によって、圧縮端温度を適度に高めておくことで、圧縮上死点以降の筒内温度が所定以下に低下することを抑制することが可能になる。つまり、前段噴射は、筒内温度が高くなり過ぎることを防止しつつ、圧縮上死点以降の筒内温度を維持するためのものである。この前段噴射により、圧縮上死点以降の混合気は、温度変化が所定の温度幅内に抑制された状態で膨張、即ち、実質的に等温膨張する。本明細書では、この実質的な等温膨張のことを単に「等温膨張」という。
主噴射は、エンジントルクを生成する主燃焼(1サイクル中で最も大きな熱量を発生させる燃焼)を生じさせるための噴射である。前段噴射及び主噴射の全噴射量は、筒内全体の空気過剰率λが1となるように設定される。主噴射は、圧縮上死点後の所定の時期に行われる。これは煤の発生領域から外れた時期であると共に、圧縮上死点以降の気筒内の温度が所定の温度幅に収まる期間において燃料が圧縮自己着火し得る時期に相当する。ここで、着火とは、燃料の燃焼質量割合が10%以上となった時点を意味する。主噴射は、圧縮上死点以降であって、膨張行程中(より詳しくは、膨張行程を初期、中期、終期に3等分したときの初期)に実行される。主噴射は、トルクを発生させる主燃焼を生じさせるものであるので、必要なトルクに見合った燃料を噴射する必要がある。例えば、主噴射では、前段噴射による噴射量と主噴射による噴射量とを合わせた全噴射量のうち3/4以上の燃料を噴射することが好ましい。
こうして、リタード運転領域Bにおける低負荷側の領域B1では、図4に示すように、その圧縮自己着火燃焼の期間を、通常運転領域Aでの燃焼期間よりも遅角している。圧縮自己着火燃焼の燃焼期間は、モータリング時の圧力上昇率が負の最大値となる時点と重複するまで、又は、圧縮自己着火燃焼の燃焼中心が負の圧縮上昇率が大きい期間(つまり、圧縮上死点後10〜20°CA)と重複するまで、遅角させる。以下、着火時期をリタードさせる自己着火燃焼を「リタード自己着火燃焼」と称する場合がある。このリタード自己着火燃焼により、燃焼騒音が増大してしまうことが回避される。
このように主燃焼をリタードさせる場合、リタードできる期間には限界がある。つまり、膨張行程が進むと、筒内の容積の増大に伴って筒内温度が低下するので、主燃焼をリタードさせ過ぎると失火してしまう。膨張行程における筒内温度の低下速度は、圧縮比が高いほど速い。そのため、圧縮比が高いほど、リタード可能な期間が短くなる。しかしながら、前記前段噴射により圧縮上死点以降の筒内温度を維持することによって、主燃焼をリタードできる期間を拡大することができる。
ただし、圧縮上死点以降の筒内温度を高くする際に、筒内温度を高くし過ぎると、主噴射により噴射した燃料が筒内の空気と混ざり切る前に局所的に着火してしまい、煤を発生させる虞がある。しかし、前段噴射によれば、圧縮上死点以降の筒内温度の変動が所定の温度幅内に抑制されるので、筒内温度の過度な上昇も抑制される。その結果、主噴射による燃料が局所的に着火して煤が発生してしまうことを抑制することができる。
従って、前記「所定の温度幅」の上限値は、主噴射による燃料が筒内の空気に混合される前に着火してしまう温度未満の温度である。所定の温度幅の下限値は、圧縮上死点における筒内温度を、モータリングを行うことで低下させた温度よりも高い温度である。つまり、前段噴射によって、圧縮上死点から主燃焼が生じるまでの筒内温度は、主噴射による燃料が筒内の空気に混合される前に着火する温度未満であって、圧縮上死点における筒内温度を、モータリングを行うことで低下させた温度よりも高い温度に維持される。例えば、「所定の温度幅」は、100度である。より具体的には、圧縮上死点から主燃焼が生じるまでの筒内温度は、1000〜1100Kに維持される。
このような、前段噴射と主噴射とを行ってリタード自己着火燃焼を行う低負荷側の領域B1に対し、リタード運転領域B内における高負荷側の領域B2では、圧縮上死点前の前段噴射と、圧縮上死点後の主噴射との間に、第2の前段噴射を行った上で、リタード自己着火燃焼を行う。これは、高負荷側の領域B2では、燃焼騒音を回避する目的から、圧縮自己着火燃焼の期間を、低負荷側の領域B1よりもさらに遅角させる必要があるが、圧縮自己着火燃焼の期間が、圧縮上死点から大きく遅れてしまうと、前述した前段燃焼によって気筒内の温度を維持しようとしても、温度が維持しきれずに低下してしまい、失火が生じる虞があるためである。つまり、第2の前段噴射は、圧縮上死点から主噴射の燃料が自己着火するまでの筒内温度を実質的に圧縮上死点における筒内温度のまま維持するための熱量を発生させるものであり、それによって、温度維持期間を調整する。
第2の前段噴射もまた、噴射した燃料を部分酸化反応させる空燃比となる量だけ燃料を噴射するものであって、圧縮上死点以降の筒内温度を所定の期間、主噴射による燃料が自己着火可能な温度に維持するためのものである。第2の前段噴射では、燃料が酸化反応するものの熱炎反応には至らないので、圧縮上死点以降の筒内温度の低下を抑制する程度の熱量しか発生しない。第2の前段噴射は、筒内温度が高くなり過ぎることを防止しつつ、圧縮上死点以降の筒内温度を維持するためのものである。この第2の前段噴射により、高負荷側の領域B2では、低負荷側の領域B1と比較して、圧縮上死点以降の温度維持期間が長くなる。
そうして、高負荷側の領域B2では、主噴射の噴射時期を、低負荷側の領域B1での噴射時期よりも遅角する。但し、主噴射の時期は、膨張行程において筒内温度の変動が前記所定の温度幅内に収まっている間に燃料が着火するタイミングでかつ、主燃焼の燃焼期間がモータリング時の気筒内の圧力上昇率が負の最大値となる時点と重複するタイミングである。主噴射の時期を相対的に遅角することで、圧縮自己着火時期が遅れるようになり、その結果、圧縮自己着火燃焼の期間が、低負荷側の領域B1よりも遅角するようになる。こうして、高負荷側の領域B2においても、燃焼騒音を回避することが可能になる。
第2の前段噴射の噴射量は、エンジン10の負荷が高まるに従い増量する。負荷が高くなるほど、燃焼期間を遅らせるために主噴射のタイミングも遅くする必要があるため、第2の前段噴射の噴射量を増やすことによって、圧縮上死点後の、所定温度を維持する期間を長くする。これにより、第2の前段噴射の噴射開始時期はエンジン10の負荷の高低に対してほとんど変化しないものの、その噴射終了時期はエンジン10の負荷が高くなるほど遅くなる。
主噴射の噴射開始時期は、エンジン10の負荷が高まるに従い次第に遅角する。これは、圧縮自己着火燃焼の期間を遅角させること、及び、第2の前段噴射の噴射終了時期が遅くなることに対応している。また、エンジントルクに寄与する主噴射は、エンジン10の負荷が高まるに従い増量する。
これに対し、前段噴射は、その噴射量及び噴射時期共に、リタード運転領域Bの全域に亘って、エンジン10の負荷の高低に対し、ほぼ一定である。
尚、高負荷側の領域B2においても、前段噴射、第2の前段噴射及び主噴射の全噴射量は、筒内全体の空気過剰率λが1となるように設定されている。前段噴射による噴射量は、全噴射量の5%程度であり、第2の前段噴射による噴射量は、全噴射量の15%程度である。主噴射の噴射量は、全噴射量の80%程度である。
図4に示す上図は、前段噴射、第2の前段噴射及び主噴射を行う、高負荷側の領域B2での気筒11内の温度変化の一例を示している(実線を参照)。前述の通り、前段噴射によって気筒11内に噴射された燃料は圧縮端温度を調整すると共に、圧縮上死点後の第2の燃料噴射により気筒11内に噴射された燃料は部分酸化反応により、圧縮上死点後の気筒11内の温度を所定の範囲に維持する期間を延長する。尚、破線は、モータリング時における、圧縮上死点後の気筒11内の温度変化を示している。そうして、主噴射によって気筒内に噴射された燃料は、所定の時期に圧縮自己着火し、燃焼することになる。
尚、図4に一点鎖線で囲まれた、通常運転領域Aとリタード運転領域Bとの切替負荷に隣接する燃焼遷移領域では、前述した、通常運転領域Aにおける圧縮上死点前の複数回の燃料噴射と、リタード運転領域Bにおける低負荷側の領域B1での前段噴射及び主噴射とが、実行される。
また、リタード運転領域Bでは、前述の通り、少なくとも前段噴射と主噴射とを行うことにより、圧縮着火燃焼の期間を遅角させているものの、必要に応じて、主噴射の後に、オゾン発生器36によって気筒11内にオゾンを添加してもよい(図4参照)。すなわち、PCM100は、前段噴射及び主噴射をインジェクタ34に行わせた後、オゾン発生器36にオゾンを発生させる。主噴射によって気筒11内に噴射された燃料は、オゾンによってエネルギが付与され、容易に自己着火燃焼する。つまり、オゾンは、燃料の自己着火燃焼をアシストする。
前段噴射(及び第2の前段噴射)によれば、圧縮上死点以降の筒内温度の低下を抑制できるため、自己着火燃焼をリタードできる期間を延長することができる。しかしながら、リタードできる期間を延長できたとしても限界がある。それに対し、オゾンを添加することによって、オゾンの添加が無ければ着火が困難又は着火が不可能な時点まで着火時期をリタードさせたとしても燃料を自己着火させることができる。オゾン添加は、自己着火燃焼をリタードさせる際のリタード期間を拡大することを可能にする。
オゾン添加は、常時行ってもよい。オゾン添加によって、前段噴射及び第2の前段噴射の噴射量を減らすことが可能になる。また、オゾン添加は、圧縮上死点以降の筒内温度が所定の温度を下回ったときに限り、実行してもよい。この所定の温度は、オゾン添加が無くても、燃料の自己着火燃焼が可能な温度である。つまり、前述したように、圧縮上死点から主噴射による燃料が着火するまでの筒内温度の変動を前段噴射によって所定の温度幅に維持する際の下限値に相当する温度である。つまり、圧縮上死点以降の筒内温度を前段噴射によって維持するだけでは主噴射による燃料の自己着火燃焼が困難な状況において、オゾンを添加してもよい。
オゾン添加はまた、リタード運転領域Bにおける高負荷側の領域B2においてのみ行うようにしてもよいし、リタード運転領域Bの全域に亘って行ってもよい。
また、オゾン発生器36によって発生するオゾンの濃度は、例えばエンジン10の負荷が高いほど高くしてもよい。オゾンの濃度が高いほど、自己着火燃焼のアシストは強くなり、気筒内の温度が低くても、自己着火が可能になる、又は、着火時期が早くなる。一方、オゾン濃度を高くすることは、燃費の悪化や、エンジン10の腐食には不利である。そこで、必要最低限のオゾンを添加するように、オゾンの濃度は、エンジン10の負荷が高いほど高くしてもよい。
オゾンの添加時期は、エンジン10の負荷が高いほど遅くしてもよい。図4の右図に示すように、オゾンの添加時期を遅くするほど、主燃焼の着火時期は遅くなる。そのため、圧縮自己着火燃焼の期間の遅角量に対応するように、オゾンの添加時期を遅らせてもよい。こうすることで、圧縮自己着火燃焼の期間を、エンジン10の負荷に対応した適切な時期に設定することが可能になる。
(エンジンのEGR制御)
次に、エンジン10のEGR制御(吸気充填量制御)について説明をする。先ず、通常運転領域Aは、エンジン負荷の高低に対して、低負荷側の領域A1と、高負荷側の領域A2とに区分される。低負荷側の領域A1(つまり、リーン領域内における所定の低負荷側領域に対応)では、エンジン10の負荷が低いことから燃焼安定性を確保するために、高圧EGRシステム51及び低圧EGRシステム52を通じた排気ガスの還流は行わない。一方、高負荷側の領域A2では、高圧EGRシステム51及び低圧EGRシステム52を通じて排気ガスの還流を行う。高圧EGRシステム51による排気ガスの還流量と、低圧EGRシステム52による排気ガスの還流量との割合は、エンジン10の運転状態に応じて適宜設定される。前述したように、高圧EGRシステム51及び低圧EGRシステム52はそれぞれ、EGRクーラ512、522を含むことから、いずれのシステム51、52を通じて還流した排気ガスも、冷却した排気ガスとなる。
図4の右図に実線で示すように、高負荷側の領域A2におけるEGR率は、所定の負荷までは所定値で一定にされる一方、所定の負荷から切替負荷までの間は、エンジン10の負荷が高まるに従い、EGR率が次第に高くなるように設定される。そうして、切替負荷においては、後述するように、リタード運転領域Bにおいて設定されるEGR率と一致する。但し、より正確には、高負荷側の領域A2においてEGR率は、切替負荷よりも低い負荷で、リタード運転領域Bにおいて設定されるEGR率と一致する。
リタード運転領域Bでは、空気過剰率λが1になるように、エンジン負荷の高低に対応してEGR率が連続的に変化するよう設定される。通常運転領域A内においても、リタード運転領域Bに隣接する領域では、EGR率を連続的に変化させる。このことで、エンジン10の負荷が連続的に増減して、通常運転領域Aからリタード運転領域Bへと移行するとき、又は、リタード運転領域Bから通常運転領域Aへと移行するときに、EGR率を連続的に変化させることが可能になる。高圧EGRシステム51及び低圧EGRシステム52の応答性は低いため、EGR率を連続的に変化させることは、エンジン負荷の変化に対する追従性を高めて、排気エミッション性能の低下や、トルクショック等の発生を回避する上で有効になる。
また、高負荷側の領域A2における、所定の負荷までの領域では、前述したように、EGR率が、所定値で一定にされる。このEGR率は、リタード運転領域Bにおいて変化するEGR率の中間値に相当する。こうすることで、詳しくは後述するが、エンジン10の運転状態が変化して、通常運転領域Aからリタード運転領域Bへと移行したときに、EGR率のずれを小さくすることが可能になる。ここで、中間値は、リタード運転領域Bにおいて設定されるEGR率の最大値と最小値との間の値であればよく、最大値と最小値との中央値としてもよいが、中央値でなくてもよい。中間値は、適宜の値に設定することが可能である。
尚、通常運転領域Aの高負荷側の領域A2においては、図4に二点鎖線で示すように、エンジン10の負荷が低下するに従い、EGR率を次第に低下させるようにしてもよい。
前述したように通常運転領域Aの全域に亘って、スロットル弁33の開度は全開に設定される。これにより、ポンプ損失が低減する。ここで、スロットル弁33の開度は全開にすることには、開度を実質的に全開にすることが含まれる。これは、高圧EGR通路510を通じて排気ガスを還流させることが可能となる程度の吸気負圧が発生するように、スロットル弁33を若干絞ることは許容するものである。
リタード運転領域Bでは空気過剰率λを1にするが、そのときに、スロットル弁33の開度を全開にしたまま、エンジン10の負荷に応じて排気ガスの還流量を調整することにより、気筒11内に導入する新気量(正確には酸素量)を調整し、空気過剰率λを1にする。つまり、エンジン10の負荷が高くなるに従い、燃料量が増えてそれに見合う空気量も増えることから、EGR率は、図4の右図に示すように、エンジン10の負荷が高くなるに従い次第に低くなり、全開負荷でEGR率は0になる。これにより、リタード運転領域Bにおいては、ポンプ損失を低減して、図示熱効率の向上に有利になる。
ここで、このエンジンシステム1では、高圧EGR通路510及び低圧EGR通路520のそれぞれにおいて、EGRクーラ512、522が介設しており、排気ガスを冷却した上で、気筒11内に還流させる。このため、気筒11内の温度状態が高くなりすぎることが回避される。これは、リタード運転領域Bでは、主噴射による圧縮自己着火燃焼を緩慢にし、燃焼騒音の低減に有利になる。その結果、リタード運転領域Bにおける低負荷側の領域B1及び高負荷側の領域B2のそれぞれにおいて、圧縮自己着火燃焼の期間をできるだけ進角させることを可能にする。つまり、当該領域Bにおいて、燃費の向上に有利になる。また、圧縮自己着火燃焼の期間をできるだけ進角させることは、高負荷側の領域B2では、第2の前段噴射の燃料量を少なくすることを可能にする。このこともまた、主噴射の時期を進角可能にして燃費の向上に有利になると共に、主噴射の噴射量を増やすことが可能になる。これは、トルクの発生に有利になる。また、第2の前段噴射の燃料量を少なくすることは、第2の前段噴射が必要となる領域を縮小すると言い換えることができる。低負荷側の領域B1と高負荷側の領域B2とを比較したときには、自己着火燃焼の期間が進角している低負荷側の領域B1の方が燃費には有利であるため、高負荷側の領域B2が縮小することは、燃費の向上に有利である。
一方、通常運転領域A内において、リタード運転領域Bに隣接する高負荷側の領域においては、通常運転領域Aとリタード運転領域Bとの間の遷移をスムースにする観点から排気ガスを還流させているが、この領域においても、冷却した排気ガスを還流させることにより、自己着火燃焼が緩慢になり、燃焼騒音の低減に有利になる。その結果、燃焼騒音の回避が可能な通常運転領域Aを、高負荷側に拡大することに有利になる。
また、通常運転領域A内における中負荷の領域では、EGR率を、リタード運転領域Bにおいて変化し得るEGR率の中間値に設定していることにより、例えば急加速等によって、エンジン10の負荷が急変して、図4の右図に破線の矢印で示すように、通常運転領域Aからリタード運転領域Bへと移行した直後に生じ得る、要求負荷に対応するEGR率との、ずれを小さくすることが可能になる。尚、EGR率のずれは、図4では、破線の矢印の先端と一点鎖線とのずれに相当する。エンジン10の負荷の変化に対し、高圧EGRシステム51及び低圧EGRシステム52の応答性は低い。リタード運転領域B内におけるEGR率のずれは、空気過剰率λのずれを招き、排気エミッション性能を低下させるものの、そのずれを小さくすることにより、排気エミッション性能の低下が、できるかぎり小さくなると共に、EGR率のずれがなくなるまでの時間を、できるだけ短くすることが可能になる。
次に、図5に示すフローチャートを参照しながら、PCM100が実行する、前述したエンジン制御について説明をする。スタート後のステップS1では、アクセル開度センサ72、エンジン回転数センサ73、エアフローセンサ74、及び車速センサ71の各信号を読み込み、続くステップ2においてPCM100は、読み込んだ各信号に基づいて、吸気弁21及び排気弁22の位相角を設定する。
ステップS3でPCM100は、読み込んだアクセル開度と、エンジン回転数とに基づいて、エンジン10の運転領域を判定し、当該運転領域と各信号値とに基づいて、燃料噴射量及び燃料噴射時期をそれぞれ決定する(ステップS4)。
また、ステップS5では、PCM100は、エンジン10の運転領域と各信号値とに基づいて、オゾンの発生量と、その時期とをそれぞれ決定し、続くステップS6で、PCM100は、エンジン10の負荷に基づいて設定される目標のEGR率を設定する。
こうして、前記のステップS2、S4〜S6において設定した、バルブ位相角、燃料噴射量及び燃料噴射時期、オゾン発生量及び発生時期、並びに、目標EGR率に従って、スロットル弁33、インジェクタ34、VVT23、排気シャッター弁43、高圧EGR弁511、低圧EGR弁521及びオゾン発生器36を制御することで、エンジン10を運転する。
尚、前記の構成では、燃焼室及び吸気ポート18の断熱構造を採用するとともに、気筒内(燃焼室内)にガス層による断熱層を形成するようにしたが、燃焼室及び吸気ポート18の断熱構造を採用しないエンジンや、ガス層による断熱層を形成しないエンジンにも本技術を適用することができる。
また、前記の構成では、ターボ過給機付きエンジンを例に、本技術を説明したが、ターボ過給機を備えない自然吸気エンジンに、本技術を適用することも可能である。自然吸気エンジンにおいては、低圧EGRシステム52は省略される。
また、圧縮上死点以降の筒内温度の変動が収められる温度幅は、100度に限られるものではない。燃料の異常燃焼を防止し且つリタードさせた自己着火燃焼を可能にする温度幅であれば、90度や110度等、それ以外の値であってもよい。
同様に、筒内温度の変動が所定の温度幅に収められている間の筒内温度は、1000〜1100Kに限られるものではない。燃料の異常燃焼を防止し且つリタードさせた自己着火燃焼を可能にする温度であれば、950〜1100K、1000〜1150K、1100〜1200K等、それ以外の値であってもよい。
1 エンジンシステム
10 エンジン(エンジン本体)
11 気筒
100 PCM(制御器)
30 吸気通路
33 スロットル弁
34 インジェクタ(燃料噴射弁)
51 高圧EGRシステム(コールドEGR手段)
52 低圧EGRシステム(コールドEGR手段)

Claims (3)

  1. 幾何学的圧縮比が20以上に設定された気筒を有して構成されたエンジン本体と、
    前記気筒内に、排気ガスの一部を冷却した上で還流させるよう構成されたコールドEGR手段と、
    前記気筒内の混合気を圧縮自己着火燃焼させることにより、前記エンジン本体を運転するよう構成された制御器と、
    前記気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、を備え、
    前記制御器は、前記エンジン本体の運転状態が、中負荷に相当する所定の切替負荷よりも低い第1領域にあるときには、前記気筒内の混合気の空気過剰率λを2.5以上にして圧縮自己着火燃焼させる一方、前記エンジン本体の運転状態が前記切替負荷以上の第2領域にあるときには、前記空気過剰率λを1にして圧縮自己着火燃焼させ、
    前記制御器はまた、前記第1領域及び第2領域で、前記気筒に連通する吸気通路上に設けたスロットル弁の開度を全開に設定すると共に、
    前記第1領域内における所定の低負荷側領域では、前記コールドEGR手段による排気ガスの還流を行わない一方、
    全開負荷を除く前記第2領域では、前記コールドEGR手段を通じて冷却した排気ガスを還流することにより、前記空気過剰率λを1にし、
    前記制御器は、
    前記第1領域では、圧縮上死点前に、全量の燃料噴射を前記燃料噴射弁に実行させ、
    前記第2領域では、圧縮上死点前に、熱炎反応に至らずに酸化反応をする量の燃料を噴射することにより、圧縮上死点以降に、気筒内の温度の変動が所定の温度幅に収まる温度維持期間を設ける前段噴射と、当該前段噴射よりも後に燃料を噴射して、圧縮上死点以降であって、前記温度維持期間内に燃料を圧縮自己着火燃焼させる主噴射と、を前記燃料噴射弁に実行させ、
    前記制御器はまた、前記第2領域では、前記エンジン本体の負荷の高低に応じてEGR率を変化させると共に、前記第1領域内において、前記第2領域に隣接する所定の高負荷側領域では、前記第2領域の前記切替負荷において設定されているEGR率に近づくように、前記エンジン本体の負荷が高まるに従いEGR率を高くし、
    前記制御器は、前記第1領域における前記所定の高負荷側領域と前記所定の低負荷側領域との間の負荷領域では、EGR率を、前記第2領域において変化するEGR率の中間値となるように設定する圧縮自己着火エンジンの制御装置。
  2. 請求項に記載の圧縮自己着火エンジンの制御装置において、
    前記制御器は、前記第2領域では、前記エンジン本体の負荷が高くなるに従いEGR率を低くし、
    前記制御器はまた、前記第2領域における所定の高負荷側領域では、前記前段噴射と前記主噴射との間で、熱炎反応に至らずに酸化反応をする量の燃料を噴射して、前記温度維持期間の長さを調整する第2の前段噴射を行うと共に、前記主噴射の時期を、前記所定の高負荷側領域よりも負荷の低い領域での主噴射の時期に対し遅角させる圧縮自己着火エンジンの制御装置。
  3. 幾何学的圧縮比が20以上に設定された気筒を有して構成されたエンジン本体と、
    前記気筒内に、排気ガスの一部を冷却した上で還流させるよう構成されたコールドEGR手段と、
    前記気筒内の混合気を圧縮自己着火燃焼させることにより、前記エンジン本体を運転するよう構成された制御器と、を備え、
    前記制御器は、前記エンジン本体の運転状態が、中負荷に相当する所定の切替負荷よりも低い第1領域にあるときには、前記気筒内の混合気の空気過剰率λを2.5以上にして圧縮自己着火燃焼させる一方、前記エンジン本体の運転状態が前記切替負荷以上の第2領域にあるときには、前記気筒内全体の前記空気過剰率λを1にして圧縮自己着火燃焼させ、
    前記制御器はまた、前記第1領域及び第2領域で、前記気筒に連通する吸気通路上に設けたスロットル弁の開度を全開に設定すると共に、
    前記第1領域内における所定の低負荷側領域では、前記コールドEGR手段による排気ガスの還流を行わない一方、
    全開負荷を除く前記第2領域では、前記コールドEGR手段を通じて冷却した排気ガスを還流することにより、前記空気過剰率λを1にする圧縮自己着火エンジンの制御装置。
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