JP6155829B2 - 転がり部材及びその製造方法並びに転がり軸受 - Google Patents
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Description
高清浄度鋼は、鋼中酸素量を減少させることで、酸化物系非金属介在物の含有量が抑制された鋼材であり、この高清浄度鋼を用いることで、き裂の起点となる非金属介在物を減少させることができ、表面はく離の発生が抑制されることで疲労寿命を向上させることができる。
また、材料自身を強化して非金属介在物が存在していたとしてもき裂の発生やその進展を抑制しうる程度に高強度化された合金鋼を用いることもある。
一方、中間層を介して設けられている表面層及び母材層は、中間層よりも残留オーステナイト量が少なくかつ転がり接触によるせん断応力も小さいことから、中間層ほど応力誘起マルテンサイトが生成せず体積膨張も顕著に表れない。中間層は、体積膨張しようとしているにも関わらず、体積膨張が顕著に生じない表面層と母材層との間に介在しているので、その体積膨張が制限される。このため、中間層には圧縮応力が生じる。
この結果、素材中に非金属介在物等の不純物が存在していたとしても、中間層における硬さの向上及び圧縮応力によって、不純物を起点としたき裂の発生又はその伸展が抑制され、当該中間層に転がり接触による最大せん断応力が継続的に作用したとしても、転がり疲労に対して長寿命を確保することができる。
この場合、中間層は、相手部材との間で転がり接触したときに生じる最大せん断応力が作用する深さ領域に存在することになる。これにより、当該中間層に含まれる残留オーステナイトを、転がり接触によるせん断応力によってより積極的に応力誘起マルテンサイトに変態させることができる。
この場合、中間層を、相手部材との間で転がり接触したときに生じる最大せん断応力が作用する深さ領域に形成することができる。
この場合、各層の残留オーステナイト量を適切とすることができるとともに、転がり疲労に対する長寿命化を確実とするために必要な断面硬さを確保することができる。
上記構成の転がり軸受によれば、上述のように、低コストで、転がり疲労に対して長寿命を確保することができる。
よって、脱窒層及び母材層は、焼入れによって、残留オーステナイト量が比較的少ない表面層及び母材層となり、高窒素濃度層は、焼入れによって、表面層及び母材層に比べて残留オーステナイトを多く含んだ中間層となる。
玉軸受1は、内輪2と、内輪2の外周側に同心に配置された外輪3と、内外輪2,3の間に配列された複数の転動体としての複数の玉4とを備えている。
外輪3も、内輪2同様、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼を用いて形成された環状の部材であり、その内周には、内輪軌道面2aに対向しているとともに、複数の玉4が転動する外輪軌道面3aが形成されている。
玉4は、その表面である転動面4aが内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとに接触しており、両軌道面2a,3aの間に転動自在に介在している。玉4も、内外輪2,3と同様、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼を用いて形成されている。
なお、以下の説明では、外輪3に前記浸炭窒化処理が施された場合について説明する。
図2に示すように、外輪軌道面3aには、本実施形態による浸炭窒化処理によって複数の処理層が形成されている。
表面層L1は、少なくとも、外輪軌道面3aの表面Sから、当該表面Sからの深さが0.05mmである位置までの範囲に亘って形成されている。
また、中間層L2は、少なくとも、表面Sからの深さが0.1mmである位置から、0.3mmである位置までの範囲に亘って形成されている。
母材層L3は、中間層L2の下層として形成されている。
表面層L1及び母材層L3は、高炭素クロム軸受鋼を焼入したときに得られる一般的な断面硬さの値である。中間層L2は、マルテンサイトよりも硬さの低いオーステナイト(残留オーステナイト)を表面層L1及び母材層L3よりも多く含んでいるため、表面層L1及び母材層L3よりも硬さの値が低く現れている。
玉軸受等の転がり軸受の軌道面において、転がり接触によって生じる最大せん断応力は、一般に、軌道面表面からの断面深さが0.1〜0.2mm程度の深さ領域に作用する。
よって、本実施形態の玉軸受1を所定時間使用させると、外輪軌道面3aにおいて、玉4との間の転がり接触によって生じる最大せん断応力は、主として中間層L2に作用する。
このため、図2(b)に示すように、中間層L2に含まれている残留オーステナイト量は、玉軸受1の使用前と比較して減少している。残留オーステナイトは、減少した分だけ応力誘起マルテンサイトに変態している。
中間層L2には、残留オーステナイトが他の層より多く含まれており、使用後の玉軸受1の中間層L2には、残留オーステナイトが変態した応力誘起マルテンサイトが比較的多く含まれている。
つまり、応力誘起マルテンサイトが中間層L2ほど生じない表面層L1及び母材層L3では、応力誘起マルテンサイトに伴う体積膨張が顕著ではないが、中間層L2では、残留オーステナイトをより多く含むことでより多くの応力誘起マルテンサイトが生じるため、体積膨張も表面層L1及び母材層L3と比較して顕著に表れる。
このように本実施形態では、意図的に中間層L2に残留オーステナイトを多く残し、転がり接触時に作用するせん断応力を利用して、中間層L2を二次硬化させつつ圧縮応力を付与し、転がり接触による疲労寿命を向上させている。
その理由は、浸炭窒化処理において、鋼中に拡散した窒素濃度が高ければ、焼入れ時の残留オーステナイト量を増加させることができるからである。このため、中間層L2の窒素濃度は、表面層L1及び母材層L3と比較して大きい値である0.15〜0.6重量%とされている。
また、上記実施形態において、表面層L1に含まれる残留オーステナイト量を15体積%未満としたが、残留オーステナイト量が15体積%以上となると、応力誘起マルテンサイト変態が無視できない程度に生じ、中間層L2の体積膨張を制限する効果を低減させてしまう。このため、表面層L1に含まれる残留オーステナイト量は、15体積%未満とすることが好ましい。
また、表面層L1の窒素濃度を0.1重量%未満としたのは、上記残留オーステナイト量に関連しており、窒素濃度を0.1重量%以上とすると、残留オーステナイト量を15体積%未満に抑制することが困難となるからである。
また、上記実施形態において、母材層L3に含まれる残留オーステナイト量を15体積%未満としたが、表面層L1と同様、残留オーステナイト量が15体積%以上となると、応力誘起マルテンサイト変態が無視できない程度に生じ、中間層L2の体積膨張を制限する効果を低減させてしまう。このため、母材層L3に含まれる残留オーステナイト量は、15体積%未満とすることが好ましい。
また、母材層L3の窒素濃度を0.1重量%未満としたのは、上記残留オーステナイト量に関連しており、上記表面層L1と同様、窒素濃度を0.1重量%以上とすると、残留オーステナイト量を15体積%未満に抑制することが困難となるからである。
また、上記実施形態において、中間層L2に含まれる残留オーステナイト量を25体積%以上、50体積%未満としたが、残留オーステナイト量を25体積%未満とすると、十分な応力誘起マルテンサイトが得られないおそれがある。また、残留オーステナイト量を50体積%以上とすると、応力誘起マルテンサイトに変態せずにさらに残留するオーステナイトの量が多くなり、断面硬さの値を低下させるおそれがある。このため、中間層L2に含まれる残留オーステナイト量を25体積%以上、50体積%未満とすることが好ましい。
また、中間層L2の窒素濃度を0.15〜0.6重量%の範囲としたのは、上記残留オーステナイト量に関連しており、窒素濃度を0.15重量%未満とすると、残留オーステナイト量を25体積%以上とすることが困難となり、窒素濃度を0.6重量%より大きくすると、残留オーステナイト量を50体積%未満とすることが困難になるとともに、脆化するからである。
図3(a)は、外輪3の製造方法の一例を示す工程図である。
まず、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなる素材を外輪3としての所定形状に形成し外輪3の中間素材を得る(ステップS1)。
その後、上記各熱処理を終えた中間素材に対して研磨等の仕上げ加工が行われ(ステップS4)、外輪3の完成品が得られる。
浸炭窒化処理においては、まず、ステップS1で得た中間素材を浸炭窒化炉内に配置する。そして、中間素材が配置された炉内を、カーボンポテンシャル1.1(CP=1.1)、及びアンモニア濃度3体積%とされた浸炭窒化雰囲気に調整し、830℃、3時間以上加熱保持する(浸炭窒化工程(第1工程))。
これによって、中間素材の表面には、窒素が拡散され、芯部よりも窒素濃度が高い高窒素濃度層が形成される。
なお、上記保持時間は、必要な深さ範囲に高窒素濃度層が形成されるように、中間素材の大きさや形状に応じて適宜調整される。
浸炭窒化工程後の中間素材は、図5(a)に示すように、芯部側の母材層L13よりも窒素濃度が高くなっている高窒素濃度層L12が表面側に形成されている。
なお、このとき、高窒素濃度層L12は、少なくとも、中間素材表面から、深さが0.3mmである位置までの範囲に亘って形成されている。これによって、中間素材が完成品である外輪3とされたときに、中間層L2(図2)が形成される断面深さの範囲を適切な範囲とすることができるからである。
なお、上記保持時間は、必要な深さ範囲に脱窒層が形成されるように、中間素材の大きさや形状に応じて適宜調整される。
脱窒工程後の中間素材は、図5(b)に示すように、最表面側から順に脱窒層L11と、高窒素濃度層L12と、母材層L13とが形成されている。
脱窒層L11は、脱窒工程によって形成された層である。脱窒層L11は、脱窒工程によって、浸炭窒化工程後に形成された高窒素濃度層L12の表面側の一部の窒素濃度を低下させることで形成されている。
脱窒層L11は、少なくとも、中間素材の表面から、当該表面からの深さが0.05mmである位置までの範囲に亘って形成されている。これによって、中間素材が完成品である外輪3とされたときに、表面層L1及び中間層L2(図2)が形成される深さの範囲を適切な範囲とすることができるからである。
その後中間素材は、上述のように焼戻しされる(図3中、ステップS3)。焼戻しの条件としては、図4に示すように、焼入れ後の中間素材を190℃に保持された油槽に投入し、2時間保持する。
よって、脱窒層L11及び母材層L13は、焼入れによって、残留オーステナイト量が比較的少ない表面層L1(図2)及び母材層L3(図2)となり、高窒素濃度層L12は、焼入れによって、表面層L1及び母材層L3に比べて残留オーステナイトを多く含んだ中間層L2(図2)となる。
評価試験には、下記寸法に形成された環状の試験片を、上述の製造方法によって浸炭窒化処理を施し、転がり部材として製造したものを用いた。なお、下記試験片寸法は、後述する転動疲労寿命試験機に用いられる試験片寸法に合わせて形成した。
試験片寸法:外周径60mm,内周径20mm,厚み11mm
試験片材質:SUJ2
断面硬さは、上記試験片を樹脂等に埋包した後、試験片断面を鏡面研磨した上で、マイクロビッカース硬さ計を用いて、荷重300gfで表面から所定の深さ位置を測定した。
残留オーステナイト量は、試験片の表面側からX線回折による定量分析を行った。試験片の表面を、所定寸法まで電解研磨等によって削り取ることで、所定の深さ位置とし、所定の深さ位置ごとに、残留オーステナイト量の定量分析を行った。
窒素濃度は、樹脂に埋包した試験片を用い、EPMA(Electron Probe MicroAnalyser)を用いた検量線法によって、試験片断面における所定の深さ位置ごとに線分析(定量分析)を行った。
また、図中、横軸は表面からの深さを示しており、縦軸は断面硬さ及び残留オーステナイト量を示している。また、残留オーステナイト量の測定結果は、四角点と実線とで示しており、断面硬さの測定結果は、丸点と破線とで示している。
一方、表面からの深さが0.1〜0.3mmの範囲の位置(中間層L2(図2)に相当)での残留オーステナイト量は、25〜35体積%と、他の層と比較して多く含まれている。
この結果から、未使用の試験片においては、残留オーステナイト量が少ない表面層L1と、表面層L1よりも芯部側に位置するとともに残留オーステナイト量が少ない母材層L3と、表面層L1及び母材層L3に介在している残留オーステナイト量が比較的多い中間層L2とを有する処理層が形成されていることが確認できる。
また、中間層L2に相当する、表面からの深さが0.1〜0.3mmの範囲の位置での断面硬さは、620〜650Hvと、残留オーステナイト量が他の層よりも多いため、他の部分よりも断面硬さの値が低くなって現れている。
この結果から、中間層L2においては、転がり接触によるせん断応力が作用することで、未使用時には比較的多く含まれていた残留オーステナイトが応力誘起マルテンサイトに変態することで、大きく減少したものと考えられる。
このように、使用後の試験片の断面硬さ及び残留オーステナイト量の測定結果から、中間層L2に含まれていたオーステナイトが、転がり接触により作用するせん断応力によって応力誘起マルテンサイトに変態し、硬さが向上していることが確認できる。
なお、表面からの深さが0.05mmの位置での断面硬さの値も若干高くなっているが、これは、わずかに残留オーステナイトがマルテンサイトに変態したことに加え、加工硬化によるものと考えられる。
図7を見ると、中間層L2に相当する、表面からの深さが0.1〜0.3mmの範囲の位置での窒素濃度は、0.2〜0.5重量%の範囲であり、表面層L1及び母材層L3に相当する、表面からの深さが0〜0.05mmの範囲、及び表面からの深さが0.5mm以上の範囲それぞれの窒素濃度は、0.1重量%未満であることが確認できる。
また、炭素濃度は、分析した範囲において、SUJ2の炭素濃度と一致する約1重量%程度で安定していることが確認できる。
図8は、転動疲労寿命試験に用いた試験機を示す断面図である。
この転動疲労寿命試験機50は、試験片60が固定されるケーシング51と、試験片60に対向配置される環状部材52と、試験片60の軌道面60aと、環状部材52の軌道面52aとの間に介在して転動する複数の玉53と、試験片60に対して環状部材52を相対回転させる駆動軸54とを備えており、スラスト方向に荷重を加えながら試験片60の軌道面60a上で玉53を転動させるように構成されている。
そして、試験片60にはく離が発生するか、応力繰り返し数100×106サイクルに到達するまで行った。なお試験条件は、以下の通り設定した。
荷重 :3920N
最大接触応力:5230MPa
応力繰り返し速度:30Hz
潤滑油:マシン油VG8相当
この結果から、本発明による転がり部材が、従来の一般的な熱処理品と比較して、転がり疲労に対して長寿命を確保できることを確認できた。
4 玉 4a 転動面 L1 表面層 L2 中間層
L3 母材層 L11 脱窒層 L12 高窒素濃度層 L13 母材層
Claims (6)
- 軸受鋼からなる素材により形成され、相手部材との間で転がり接触する転がり接触面を有する転がり部材であって、
前記転がり接触面には、浸炭窒化処理による処理層が形成されており、
前記処理層は、
前記転がり接触面の表面に形成されている、残留オーステナイト量が15体積%未満である表面層と、
前記表面層よりも芯部側に位置している残留オーステナイト量が15体積%未満である母材層と、
前記表面層と前記母材層との間に介在している残留オーステナイト量が25体積%以上である中間層と、を有していることを特徴とする転がり部材。 - 前記中間層は、前記相手部材との間で転がり接触したときに生じる最大せん断応力が作用する深さ領域に形成されている請求項1に記載の転がり部材。
- 前記表面層は、前記転がり接触面の表面から、当該表面からの深さが0.05mmである位置までの範囲に亘って形成されており、
前記中間層は、少なくとも、前記転がり接触面の表面からの深さが0.1mmである位置から、0.3mmである位置までの範囲に亘って形成されている請求項1又は2に記載の転がり部材。 - 前記表面層及び前記母材層の窒素濃度が0.1重量%未満であり、
前記中間層の窒素濃度が0.15〜0.6重量%であり、
前記表面層及び前記母材層のマイクロビッカース硬さが700Hv以上であり、前記中間層のマイクロビッカース硬さが600Hv以上であり、
前記中間層のマイクロビッカース硬さは、前記表面層及び前記母材層のマイクロビッカース硬さよりも低い
請求項1に記載の転がり部材。 - 内輪軌道面を有する内輪と、前記内輪の外周側に同心に配置され前記内輪軌道面に対向している外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面との間に転動自在に介在している複数の転動体と、を備えた転がり軸受であって、
前記外輪、前記内輪、及び転動体の少なくとも一つが請求項1に記載の転がり部材であることを特徴とする転がり軸受。 - 相手部材との間で転がり接触する転がり接触面を有する転がり部材の製造方法であって、
軸受鋼からなる素材に対して、浸炭窒化雰囲気中で加熱保持することで、窒素拡散によって得られる高窒素濃度層を素材表面側に設ける第1工程と、
前記第1工程における浸炭窒化雰囲気を水素雰囲気に変更し、前記素材を水素雰囲気中で保持することで、前記高窒素濃度層の芯部側の一部を残しつつ前記高窒素濃度層の表面側の一部の窒素濃度を低下させる第2工程と、
前記第2工程を経た前記素材に焼入れ処理を行う第3工程と、を含むことを特徴とする転がり部材の製造方法。
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