<第1実施形態>
以下、本発明における過給機付きエンジンの制御装置を具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
図1に、この実施形態におけるエンジンの排気還流装置(EGR装置)を含む過給機付エンジンシステムを概略構成図により示す。このエンジンシステムは、レシプロタイプのエンジン1を備える。エンジン1の吸気ポート2には、吸気通路3が接続され、排気ポート4には、排気通路5が接続される。吸気通路3の入口には、エアクリーナ6が設けられる。エアクリーナ6より下流の吸気通路3には、排気通路5との間に、吸気通路3における吸気を昇圧させるための過給機7が設けられる。
過給機7は、吸気通路3に配置されたコンプレッサ8と、排気通路5に配置されたタービン9と、コンプレッサ8とタービン9を一体回転可能に連結する回転軸10とを含む。過給機7は、排気通路5を流れる排気によりタービン9を回転させて回転軸10を介してコンプレッサ8を一体的に回転させることにより、吸気通路3における吸気を昇圧させる、すなわち過給を行うようになっている。
過給機7に隣接して排気通路5には、タービン9を迂回する排気バイパス通路11が設けられる。この排気バイパス通路11には、排気バイパス弁としてのウェイストゲートバルブ(以下「WGV」という。)12が設けられる。WGV12を開閉することにより、排気バイパス通路11を流れる排気が調節され、タービン9へ供給される排気流量が調節される。これにより、タービン9及びコンプレッサ8の回転速度が調節され、過給機7による過給圧が調節されるようになっている。
図1に示すように、WGV12は、排気バイパス通路11に設けられた弁座41に着座可能に設けられた搖動式の弁体42を含む。WGV12を開閉駆動するために、WGV12にリンク43を介して接続されたダイアフラム式のアクチュエータ44と、電動式の負圧切替弁45と、負圧ポンプ46とが設けられる。アクチュエータ44には、負圧ポンプ46から負圧ライン47を介して負圧が供給可能に設けられる。負圧切替弁45は、負圧ライン47を開閉可能に設けられる。
図2に、開弁状態のWGV12とアクチュエータ44を一部断面で正面図により示す。図3に、閉弁状態のWGV12とアクチュエータ44を一部断面で正面図により示す。図2、図3に示すように、アクチュエータ44は、ハウジング61と、ハウジング61の中に設けられたダイアフラム62と、ダイアフラム62により区画された負圧室63及び大気室64と、ダイアフラム62に基端が固定されたロッド65と、負圧室63に設けられたスプリング66とを備える。ロッド65の先端にリンク43が連結される。この実施形態では、負圧切替弁45を閉じることにより、アクチュエータ44の負圧室63への負圧の供給が遮断される。これにより、アクチュエータ44では、図2に示すように、スプリング66の付勢力によりダイアフラム62がロッド65と共に下方へ変位し、これによりWGV12が搖動してその弁体42が弁座41から離れて開く。一方、負圧切替弁45を開くことにより、負圧室63へ負圧が供給される。これにより、アクチュエータ44では、図3に示すように、スプリング66の付勢力に抗してダイアフラム62がロッド65と共に上方へ変位し、これによりWGV12が搖動してその弁体42が弁座41に着座して閉じる。
吸気通路3において、過給機7のコンプレッサ8とエンジン1との間には、インタークーラ13が設けられる。このインタークーラ13は、コンプレッサ8により昇圧されて高温となった吸気を適温に冷却するためのものである。インタークーラ13とエンジン1との間の吸気通路3には、サージタンク3aが設けられる。また、インタークーラ13より下流であってサージタンク3aより上流の吸気通路3には、電動式のスロットル弁である電子スロットル装置14が設けられる。この電子スロットル装置14は、吸気通路3に配置されるバタフライ形のスロットル弁21と、そのスロットル弁21を開閉駆動するためのDCモータ22と、スロットル弁21の開度(スロットル開度)TAを検出するためのスロットルセンサ23とを備える。この電子スロットル装置14は、運転者によるアクセルペダル26の操作に応じてスロットル弁21がDCモータ22により開閉駆動され、開度が調節されるように構成される。この電子スロットル装置14の構成として、例えば、特開2011−252482号公報の図1及び図2に記載される「スロットル装置」の基本構成を採用することができる。タービン9より下流の排気通路5には、排気を浄化するための触媒コンバータ15が設けられる。
エンジン1には、燃焼室16に燃料を噴射供給するためのインジェクタ25が設けられる。インジェクタ25には、燃料タンク(図示略)から燃料が供給されるようになっている。また、エンジン1には、各気筒に対応して点火プラグ29が設けられる。各点火プラグ29は、イグナイタ30から出力される高電圧を受けて点火動作する。各点火プラグ29の点火時期は、イグナイタ30による高電圧の出力タイミングにより決定される。
この実施形態において、大量EGRを実現するためのEGR装置は、エンジン1の燃焼室16から排気通路5へ排出される排気の一部をEGRガスとして吸気通路3へ流して燃焼室16へ還流させる排気還流通路(EGR通路)17と、EGR通路17におけるEGRガス流量を調節するためにEGR通路17に設けられた排気還流弁(EGR弁)18とを備える。EGR通路17は、タービン9より上流の排気通路5と、サージタンク3aとの間に設けられる。すなわち、排気通路5を流れる排気の一部をEGRガスとしてEGR通路17を通じて吸気通路3へ流して燃焼室16へ還流させるために、EGR通路17の出口17aが、スロットル弁21より下流にてサージタンク3aに接続される。また、EGR通路17の入口17bは、タービン9より上流の排気通路5に接続される。
EGR通路17の入口17bの近傍には、EGRガスを浄化するためのEGR用触媒コンバータ19が設けられる。また、EGR用触媒コンバータ19より下流のEGR通路17には、同通路17を流れるEGRガスを冷却するためのEGRクーラ20が設けられる。この実施形態で、EGR弁18は、EGRクーラ20より下流のEGR通路17に配置される。
図1に示すように、EGR弁18は、ポペット弁として、かつ、電動弁として構成される。すなわち、EGR弁18は、ステップモータ31により駆動される弁体32を備える。弁体32は、略円錐形状をなし、EGR通路17に設けられた弁座33に着座可能に設けられる。ステップモータ31は直進的に往復運動(ストローク運動)可能に構成された出力軸34を備え、その出力軸34の先端に弁体32が固定される。出力軸34は軸受35を介してEGR通路17を構成するハウジングに支持される。そして、ステップモータ31の出力軸34をストローク運動させることにより、弁座33に対する弁体32の開度が調節されるようになっている。EGR弁18の出力軸34は、弁体32が弁座33に着座する全閉状態から、弁体32が軸受35に当接する全開状態までの間でストローク運動可能に設けられる。この実施形態では、大量EGRを実現するために、従前の技術に比べて弁座33の開口面積が拡大されている。それに合わせて、弁体32が大型化されている。
この実施形態では、エンジン1の運転状態に応じて燃料噴射制御、吸気量制御、EGR制御及び過給制御をそれぞれ実行するために、インジェクタ25、電子スロットル装置14のDCモータ22、EGR弁18のステップモータ34及びWGV12の負圧切替弁45がそれぞれエンジン1の運転状態に応じて電子制御装置(ECU)50により制御されるようになっている。ECU50は、中央処理装置(CPU)と、所定の制御プログラム等を予め記憶したり、CPUの演算結果等を一時的に記憶したりする各種メモリと、これら各部と接続される外部入力回路及び外部出力回路とを備える。ECU50は、本発明の制御手段の一例に相当する。外部出力回路には、インジェクタ25、DCモータ22、ステップモータ34及び負圧切替弁45が接続される。外部入力回路には、スロットルセンサ23をはじめエンジン1の運転状態を検出するための運転状態検出手段に相当する各種センサ27,51〜55が接続され、各種エンジン信号が入力されるようになっている。
ここで、各種センサとして、スロットルセンサ23の他に、アクセルセンサ27、吸気圧センサ51、回転速度センサ52、水温センサ53、エアフローメータ54及び空燃比センサ55が設けられる。アクセルセンサ27は、運転者によるエンジン1の出力要求量としてのアクセルペダル26の操作量であるアクセル開度ACCを検出する。アクセルペダル26は、エンジン1の出力を操作するための操作手段に相当する。吸気圧センサ51は、サージタンク3aにおける吸気圧PMを検出する。すなわち、吸気圧センサ51は、EGR通路17から吸気通路3へEGRガスが流れ込む位置より下流の吸気通路3(サージタンク3a)における吸気圧PMを検出するようになっている。回転速度センサ52は、エンジン1のクランクシャフト1aの回転角(クランク角)を検出するとともに、そのクランク角の変化をエンジン1の回転速度(エンジン回転速度)NEとして検出する。水温センサ53は、エンジン1の冷却水温THWを検出する。エアフローメータ54は、エアクリーナ6の直下流の吸気通路3を流れる吸気流量Gaを検出する。空燃比センサ55は、触媒コンバータ15の直上流の排気通路5に設けられ、排気中の空燃比AFを検
出する。
この実施形態において、ECU50は、エンジン1の全運転領域において、エンジン1の運転状態に応じてEGRを制御するために、EGR弁18を開閉制御するようになっている。また、ECU50は、エンジン1の減速運転時及び加速運転時に、EGRを遮断するためにEGR弁18の全閉に制御するようになっている。更に、ECU50は、触媒コンバータ15の暖機後のアイドル運転時又は加速運転時に、WGV12を閉弁制御するようになっている。
ここで、エンジン1の加速運転時には、エンジン1の出力を急増させるために、WGV12を直ちに閉弁させる必要がある。WGV12の閉弁が遅れると、過給レスポンスが悪化して加速レスポンスを悪化させるからである。この実施形態では、過給を行わない運転領域(非過給領域)でも、エンジン1の排圧を下げてエンジン1の燃費を向上させるために、WGV12を開弁するようになっている。しかし、非過給領域でWGV12を開弁すると、過給機7による過給圧が低下することから、加速運転時にWGV12の開弁状態からの閉弁が遅れると、加速レスポンスが悪化するおそれがある。そこで、この実施形態では、加速運転時に加速を早期に判定してWGV12を速やかに閉弁するために、ECU50が以下のような過給制御を実行するようになっている。
図4に、ECU50が実行する過給制御の処理内容の一例をフローチャートにより示す。処理がこのルーチンへ移行すると、先ず、ステップ100で、ECU50は、吸気圧センサ51及び回転速度センサ52の検出値に基づきエンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLをそれぞれ取り込む。
次に、ステップ110で、ECU50は、アクセル操作速度ΔTAACCを取り込む。ここで、アクセル操作速度ΔTAACCは、アクセルペダル26が踏み込み操作又は踏み戻し操作されるときの速度(開かれるときの速度又は閉じられるときの速度)を意味し、アクセルセンサ27の検出値に基づいてECU50が別途演算するようになっている。すなわち、ECU50は、このアクセル操作速度ΔTAACCを、アクセルペダル26が操作されるときにアクセルセンサ27により検出される今回の検出値と前回の検出値との差から求めることができる。ここで、エンジン1を加速するためにアクセルペダル26が踏み込み操作されたときのアクセル操作速度ΔTAACCは、正の値として求めることができ、エンジン1を減速するためにアクセルペダル26が踏み戻し操作されたときのアクセル操作速度ΔTAACCは、負の値として求めることができる。
次に、ステップ120で、ECU50は、アクセル操作速度ΔTAACCが所定の急加速判定値K1(正の値)よりも小さいか否かを判断する。この急加速判定値K1は、エンジン1に急加速運転が要求されているか否かを判断するための閾値であり、発明における第1判定値の一例に相当する。この判断結果が否定となる場合、エンジン1に急加速運転が要求されているものとして、ECU50は処理をステップ230へ移行する。この判断結果が肯定となる場合、エンジン1に急加速運転が要求されていないものとして、ECU50は処理をステップ130へ移行する。
ステップ120から移行してステップ230では、ECU50は、WGV12に急加速強制閉弁を指令する。すなわち、ECU50は、急加速運転に対応してWGV12を強制的に閉弁するように負圧切替弁45へ指令する。
次に、ステップ240で、ECU50は、加速運転時の閉弁指令フラグXCWGVKを「1」に設定する。この閉弁指令フラグXCWGVKは、加速運転時にWGV12が強制閉弁指令される場合に「1」に設定され、それ以外の場合に「0」に設定される。その後、ステップ250で、ECU50は、WGV12の目標開度TUGVを「0」に設定する。
そして、ステップ150で、ECU50は、WGV12を目標開度TUGVに制御する、すなわちWGV12を全閉に制御する。そのために、ECU50は、負圧切替弁45の開度を制御する。その後、ECU50は、処理をステップ100へ戻す。
一方、ステップ120から移行してステップ130では、ECU50は、閉弁指令フラグXCWGVKが「0」であるか否かを判断する。この判断結果が否定となる場合、WGV12が強制閉弁指令されていることから、ECU50は処理をステップ160へ移行する。この判断結果が肯定となる場合、ECU50は処理をステップ140へ移行する。
ここで、ステップ120の判断結果が一旦否定(急加速運転要求)となった場合でも、その直後にアクセル操作速度ΔTAACCが変動してステップ120の判断結果が肯定に切り換わることがある。この場合、直前に閉弁指令フラグXCWGVKが「1」に設定されていることから、ステップ130の判断結果が否定となり、ECU50は、処理をステップ160へ移行することになる。
そして、ステップ160で、ECU50は、アクセル操作速度ΔTAACCが所定の緩加速判定値K2(正の値:K2<K1)よりも小さいか否かを判断する。この緩加速判定値K2は、上記した急加速判定値K1とは異なり、エンジン1に緩加速運転等が要求されていることを判断するための閾値であり、本発明における第1判定値の一例に相当する。この判断結果が否定となる場合、直前よりもエンジン1への急加速運転の要求が若干弱くなったものの依然として急加速運転の要求が継続しているものとして、ECU50は、処理をステップ250へ移行し、上記と同様にステップ250及びステップ150の処理を実行する。すなわち、ECU50は、WGV13に対して急加速強制閉弁指令及び全閉指令を継続することになる。
一方、ステップ160の判断結果が肯定となる場合、エンジン1への緩加速運転の要求がなくなったものとして、ステップ170で、ECU50は、エンジン回転速度NEに応じた加速判定値D2を求める。ECU50は、例えば、図5に示すような加速判定値マップを参照することによりこの加速判定値D2を求めることができる。このマップでは、エンジン回転速度NEが高くなるに連れて加速判定値D2が曲線的に増大するように設定される。この加速判定値D2は、エンジン1への加速運転の要求がなくなり、加速運転以外の運転(緩加速運転又は定常運転又は減速運転を含む。)が要求されていることを判断するための閾値であり、本発明における第2判定値の一例に相当する。
次に、ステップ180で、ECU50は、アクセル開度ACCを取り込む。その後、ステップ190で、ECU50は、アクセル開度ACCが加速判定値D2よりも小さいか否かを判断する。この判断結果が否定となる場合、直前よりもエンジン1への加速運転の要求が弱くなったものの依然として緩加速運転の要求が継続しているものとして、ECU50は、処理をステップ250へ移行し、上記と同様にステップ250及びステップ150の処理を実行した後、処理をステップ100へ戻す。
一方、ステップ190の判断結果が肯定となる場合、運転者による急加速運転の要求がなくなり、急加速運転から他の運転(定常運転又は減速運転を含む。)へ切り換わったものとして、ステップ200で、ECU50は、閉弁指令フラグXCWGVKを「0」に設定する。
次に、ステップ210で、ECU50は、WGV12の実開度EUGVを取り込む。ECU50は、WGV12をある開度に制御するために負圧切替弁45へ出力する指令値に基づきWGV12の実開度EUGVを求めることができ、その値を取り込むことができる。
その後、ステップ220で、ECU50は、実開度EUGVをWGV12の目標開度TUGVとして設定する。そして、ステップ150で、ECU50は、目標開度TUGVに基づきWGV12を制御する。
一方、ステップ130の判断結果が肯定となる場合、ステップ140で、ECU50は、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLに応じたWGV12の目標開度TUGVを求める。ECU50は、この目標開度TUGVを、所定の目標開度マップ(図示略)を参照することにより求めることができる。
そして、ステップ150で、ECU50は、WGV12を目標開度TUGVに制御した後、処理をステップ100へ戻す。この場合、ECU50は、WGV12が目標開度TUGVへ開弁又は閉弁するように負圧切替弁45を制御することになる。
この実施形態の上記過給制御によれば、ECU50は、アクセルセンサ27により検出されるアクセル開度ACCの単位時間当たりの正の変化量としてのアクセル操作速度ΔTAACCを所定の急加速判定値K1と比較し、その比較結果によりエンジン1に加速運転が要求されていると判断したときにWGV12に全閉を指令し、加速運転の要求が継続していると判断したときに全閉の指令を継続し、加速運転の要求がなくなったと判断し、かつ、アクセル開度ACCが所定の加速判定値D2より小さいと判断したときに全閉の指令を解除するようにしている。また、ECU50は、WGV12の全閉の指令を解除するためのアクセル開度ACCの範囲を、検出されるエンジン回転速度NEに応じて設定するようにしている。詳しくは、ECU50は、検出されるエンジン回転速度NEに応じて加速判定値D2を設定するようにしている。
ここで、図6に、上記過給制御に関する各種パラメータ、すなわち(a)アクセル開度ACCとスロットル開度TA、(b)アクセル操作速度ΔTAACC、(c)WGV12の開度、(d)閉弁指令フラグXCWGVK、(e)タービン9の回転速度、(f)エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLの挙動の一例をタイムチャートにより示す。このタイムチャートでは、図6(a)に太線で示すように、時刻t1〜t11の間で、アクセル開度ACCが微小変動を伴いながら比較的急速に増加し、時刻t11〜t15の間で、アクセル開度ACCが比較的緩やかに増加している。また、図6(a)に実線で示すように、スロットル開度TAは、アクセル開度ACCの動きに対し少し遅れてアクセル開度ACCとほぼ同じ挙動で増加している。
すなわち、図6において、(a)に示すように、時刻t1で、アクセル開度ACCがある開度から増加し始め、(b)に示すように、アクセル操作速度ΔTAACCが急加速判定値K1より大きい正の値へ急上昇すると、(d)に示すように、閉弁指令フラグXCWGVKが「1」へ切り換わり、(c)に破線で示すように、WGV12の目標開度TUGV(m)が直ちに「0」となり、(c)に太線で示すように、WGV12の実開度EUGV(m)が減少し始める。
その後、図6において、(a)に示すように、時刻t2で、アクセル開度ACCが一旦上げ止まると、(b)に示すように、アクセル操作速度ΔTAACCが「0」へ戻り、(d)に示すように、閉弁指令フラグXCWGVKが「0」へ戻り、(c)に示すように、目標開度TUGV(m)が一旦実開度EUGV(m)となり、実開度EUGV(m)が減少する。
その後、図6において、(a)に示すように、時刻t3で、アクセル開度ACCが再び増加し始め、(b)に示すように、アクセル操作速度ΔTAACCが再び急加速判定値K1より大きい正の値へ急上昇すると、(d)に示すように、閉弁指令フラグXCWGVKが再び「1」へ切り替わり、(c)に示すように、目標開度TUGV(m)が直ちに「0」となる。ここで、図6において、(c)に示すように、時刻t2〜t3の間では、目標開度TUGV(m)が、一旦実開度EUGV(m)となってからわずかに増大するので、実開度EUGV(m)も一旦増加することになる。
その後、図6において、(a)に示すように、時刻t4〜t9では、アクセル開度ACCの増加が緩やかとなり、(b)に示すように、アクセル操作速度ΔTAACCが一旦低下する。しかし、このときアクセル操作速度ΔTAACCは、急加速判定値K1より小さく緩加速判定値K2より大きい値であることから、図6において、(d)に示すように、閉弁指令フラグXCWGVKが「0」へ戻ることはなく、(c)に示すように、目標開度TUGV(m)は「0」を維持し、実開度EUGV(m)は全閉へ向けて減少を続ける。
その後、図6において、(a)に示すように、時刻t9〜t11にかけて、アクセル開度ACCが一旦減少して再び増加すると、(b)に示すように、アクセル操作速度ΔTAACCが一旦負の値へ低下してから急加速判定値K1より小さく緩加速判定値K2より大きい値へ戻る。しかし、このとき、図6において、(a)に示すように、アクセル開度ACCは加速判定値D2より大きいことから、(d)に示すように、閉弁指令フラグXCWGVKは「0」へ戻ることはなく、(c)に示すように、目標開度TUGV(m)は「0」を維持し、実開度EUGV(m)は減少を続けて時刻t12で全閉となる。
ここで、図6(c)において、実線は目標開度マップから求められる目標開度TUGV(マップ値)の挙動を示し、2点鎖線は従来例の実開度EUGV(b)の挙動を示す。従って、図6(c)における本実施形態の実開度EUGV(m)と従来例の実開度EUGV(b)との対比から、本実施形態では、エンジン1の加速運転に際してWGV12を速やかに全閉へ向けて閉弁できることがわかる。これにより、図6(e)に太線で示すように、時刻t13から、タービン9の回転速度が急上昇し始めることがわかる。この急上昇は、図6(e)に破線で示す従来例との対比から明らかであり、WGV12を速やかに全閉にしてエンジン1の排圧を速やかに上昇させられることによる。この結果、過給圧が急上昇し、図6(f)に示すように、時刻t13から、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLが急上昇することになる。この急上昇は、図6(f)に2点鎖線と破線で示す従来例との対比から明らかであり、タービン9の回転速度上昇により過給圧を速やかに上昇させられることによる。
以上説明したこの実施形態における過給機付きエンジンの制御装置によれば、エンジン1の加速運転時に次のような作用効果を得ることができる。すなわち、エンジン1の運転時に排気バイパス通路11における排気ガスの流れを調節するために、ECU50は、アクセルセンサ27、吸気圧センサ51及び回転速度センサ51等により検出されるエンジン1の運転状態に基づきWGV12を制御する。ここで、ECU50は、検出されるアクセル開度ACCの単位時間当たりの変化量であるアクセル操作速度ΔTAACCに基づいてWGV12に全閉を指令し、そのアクセル操作速度ΔTAACC及びアクセル開度ACCに基づいてその全閉の指令を解除する。詳しくは、ECU50は、アクセル操作速度ΔTAACCの正の値を所定の急加速判定値K1と比較する。そして、ECU50は、その比較結果によりエンジン1に加速運転が要求されていると判断したときに、WGV12に全閉を指令し、その後、加速運転の要求が継続していると判断したときに、その全閉の指令をそのまま継続する。また、ECU50は、上記比較結果により加速運転の要求がなくなったと判断し、かつ、アクセル開度ACCが所定の加速判定D2より小さいと判断したときは、それまでの全閉の指令を解除する。また、その時点のWGV12の実開度EUGVを目標開度TUGVとし、その目標開度TUGVに基づきWGV12を制御する。
ここで、アクセル操作速度ΔTAACC及びアクセル開度ACCは、エンジン1の出力に対する運転者の要求の強さ、すなわち加速運転の要求の強さを反映する。例えば、エンジン1に加速運転が強く要求されるときには、アクセル操作速度ΔTAACCが大きくなる。そこで、ECU50は、その大きいアクセル操作速度ΔTAACCに基づいて加速運転の要求が大きいことを判断し、WGV12に全閉を指令することになる。また、加速運転の要求が消滅するときは、アクセル操作速度ΔTAACCが小さくなり、かつアクセル開度ACCが大きいまま又は小さいままとなる。そこで、ECU50は、それらアクセル操作速度ΔTAACC及びアクセル開度ACCの状況に基づいて加速運転の要求が消滅したことを判断し、WGV12の全閉指令を解除する。
従って、この制御装置によれば、WGV12に全閉を指令するための判断が、その全閉指令の解除を前提に行われることから、全閉を指令するための判断の応答性がよくなる。詳しくは、WGV12に全閉を指令するための加速運転の要求の判断が、その要求の継続の判断と、その要求の消滅とを前提に行われることから、加速運転の要求が応答性よく判断される。これにより、WGV12に対する全閉の指令が早められる。また、その加速運転の要求の消滅の判断を受けてWGV12に対する全閉指令の解除が早められる。この結果、エンジン1の加速運転の要求時にはWGV12を早期に全閉にして過給機7による過給応答性(エンジン1の加速応答性)の悪化を防止することができると共に、加速運転の要求から他の運転の要求への復帰時にはWGV12の全閉を途中で速やかに中断することができる。
上記のように加速運転の要求を速やかに判断できるのは、最初にアクセル操作速度ΔTAACCを単に所定の急加速判定値K1と比較するようにしているからである。これができるのは、加速運転の要求があることを判断してから、その加速運転の要求の継続と、その加速運転の要求の消滅とを併せて判断するからである。また、これら加速運転の要求の継続と消滅を判断するために、アクセル操作速度ΔTAACCを、更に所定の緩加速判定値K2と比較し、そのときのアクセル開度ACCを、更に加速判定値D2と比較することで加速運転の要求の変化を監視するようにしているからである。
一般に、エンジン1の加速運転時における運転者のアクセル操作による出力(トルク)変化(要求)量は、エンジン回転速度NEが高くなるほど及びエンジン負荷KLが大きくなるほど小さくなる傾向がある。この実施形態では、運転者による加速運転の要求の消滅を判断するために、アクセル開度ACCと比較される加速判定値D2が、エンジン回転速度NEに応じて設定されるようになっている。従って、加速運転の要求の消滅がエンジン回転速度NEの違いに応じてより適切に判断される。このため、加速運転の要求を一旦判断し、WGV12を一旦全閉にした後でも、その加速運転の要求の消滅を精度よく判断することができ、WGV12の全閉を速やかに解除することができる。
<第2実施形態>
次に、本発明における過給機付きエンジンの制御装置を具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
なお、この実施形態において第1実施形態と同等の構成要素については同一の符号を付して説明を省略し、異なった点を中心に説明する。
この実施形態では、過給制御の処理内容の点で第1実施形態と構成が異なる。図7に、この実施形態の過給制御の処理内容の一例をフローチャートにより示す。図7のフローチャートは、図4のフローチャートに対し、ステップ100とステップ110との間にステップ105の処理を加え、図4のフローチャートのステップ120及びステップ160の処理の代わりにステップ121及びステップ161の処理を設けた点で図4のフローチャートと異なる。
すなわち、このルーチンにおいて、ステップ100の処理を実行した後、ステップ105で、ECU50は、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLに応じた急加速判定値K3と緩加速判定値K4を求める。ここで、ECU50は、例えば、図8に示すような急加速判定値マップ、図9に示すような緩加速判定値マップを参照することにより、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLに応じた急加速判定値K3と緩加速判定値K4をそれぞれ求めることができる。図8及び図9のマップでは、加速応答性の影響が大きい運転条件(エンジン回転速度NEが低く、エンジン負荷KLが低い条件)からのエンジン1の加速ほど、急加速判定値K3、緩加速判定値K4がそれぞれ小さくなるように設定されている。これら加速判定値K3,K4は、本発明における第1判定値の一例に相当する。
その後、ステップ110を経てステップ121で、ECU50は、アクセル操作速度ΔTAACCが、上記求められた急加速判定値K3(正の値)よりも小さいか否かを判断する。この判断結果が否定となる場合、エンジン1に急加速運転が要求されているものとして、ECU50は処理をステップ230へ移行する。この判断結果が肯定となる場合、エンジン1に急加速運転が要求されていないものとして、ECU50は処理をステップ130へ移行する。
一方、ステップ130から移行してステップ161では、ECU50は、アクセル操作速度ΔTAACCが、上記求められた緩加速判定値K4(正の値:K4<K3)よりも小さいか否かを判断する。この判断結果が否定となる場合、直前よりもエンジン1への急加速運転の要求が若干弱くなったものの依然として緩加速運転の要求が継続しているものとして、ECU50は、処理をステップ250へ移行する。一方、この判断結果が肯定となる場合、エンジン1への急加速運転の要求が一旦なくなったものとして、ECU50は、処理をステップ170へ移行する。
以上説明した本実施形態における過給機付きエンジンの制御装置によれば、前記第1実施形態における作用効果に加えて次のような作用効果を有する。すなわち、ECU50は、アクセル操作速度ΔTAACCと比較される、加速判定のための急加速判定値K3及び緩加速判定値K4を、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLに応じて設定している。特に、この実施形態では、加速応答性への影響が大きい運転条件(エンジン回転速度NEが低く、エンジン負荷KLが低い条件)からのエンジン1の加速ほど、急加速判定値K3、緩加速判定値K4がそれぞれ小さくなるように設定される。従って、エンジン回転速度NEとエンジン負荷KLの違いに応じた応答性でWGV12に全閉が指令されることになる。このため、エンジン1の加速運転時に、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷KLの違いに応じてWGV12を速やかに全閉にすることができ、過給機7による過給応答性、延いてはエンジン1の加速応答性を向上させることができる。
なお、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して次のように実施することもできる。
(1)前記各実施形態では、アクセル開度ACCを運転者によるエンジン1の出力要求量とし、そのアクセル開度ACCを検出するアクセルセンサ27を出力要求量検出手段として使用した。これに対し、アクセル開度ACCに基づいて制御される電子スロットル装置14のスロットル開度TAをエンジンの出力要求量とし、そのスロットル開度TAを検出するスロットルセンサ23を出力要求量検出手段として使用することもできる。また、ハイブリッド自動車では、アクセル開度ACCに基づいて設定される目標トルクを出力要求量とし、その目標トルクを設定するコントローラを出力要求量検出手段として使用することができる。
(2)前記各実施形態では、本発明の制御装置をEGR装置を備えたエンジン1に具体化したが、本発明の制御装置をEGR装置を備えないエンジンに具体化することもできる。