図1を参照して、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS1」)の構成について説明する。
EPS1は、EPS本体10、アシスト装置20、制御装置30、補助電源装置40、およびトルクセンサ50を有する。EPS1においては、主電源4および車速センサ5が制御装置30に電気的に接続されている。EPS1は、主電源4となるバッテリおよび補助電源装置40から制御装置30を介してアシスト装置20に電力が供給される構成を有する。EPS1は、アシスト装置20により操舵部品2の操作をアシストする。なお、操舵部品2として、例えばステアリングホイールが用いられている。
EPS本体10は、コラムシャフト11、インターミディエイトシャフト12、ピニオンシャフト13、ラックシャフト14、ラックアンドピニオン機構15、および2個のタイロッド16を有する。EPS本体10は、操舵部品2の回転にともないコラムシャフト11、インターミディエイトシャフト12、およびピニオンシャフト13を一体に回転させる。EPS本体10は、ピニオンシャフト13の回転によりラックシャフト14を往復動させることにより車輪3の転舵角を変化させる。
ラックアンドピニオン機構15は、ピニオンシャフト13のピニオンギヤ13Aおよびラックシャフト14のラックギヤ14Aが互いに噛み合わせられた構成を有する。ラックアンドピニオン機構15は、ピニオンギヤ13Aおよびラックギヤ14Aの噛み合いによりピニオンシャフト13の回転をラックシャフト14の往復動に変換する。
アシスト装置20は、3相ブラシレスモータとしての電動モータ21およびウォームギヤとしての減速機構22を有する。アシスト装置20は、減速機構22を介して電動モータ21の回転をコラムシャフト11に伝達することによりコラムシャフト11を回転させる力(以下、「アシストトルクTA」)をコラムシャフト11に付与する。このようにEPS1は、コラムアシスト型の構成を有する。
トルクセンサ50は、車載通信ネットワークを通じてトルク信号を制御装置30に送信する。
車速センサ5は、車載通信ネットワークを通じて車速信号を制御装置30に送信する。
制御装置30は、トルクセンサ50のトルク信号に基づいてコラムシャフト11の中間部分に接続されたトーションバー11Aのねじれ、すなわち操舵部品2の操作にともないコラムシャフト11に付与されたトルク(以下、「操舵トルクτ」)の大きさおよび方向を算出する。制御装置30は、車速センサ5の車速信号に基づいて車両の走行速度(以下、「車速VS」)を算出する。制御装置30は、電動モータ21の動作を制御することにより操舵をアシストするアシスト制御を実行する。
図2を参照して、制御装置30および補助電源装置40の構成について説明する。
制御装置30は、マイクロコンピュータ(以下、「マイコン31」)、モータ駆動回路34、電流センサ35、および電圧センサ36を有する。制御装置30は、モータ駆動回路34に印加される電圧(以下、「モータ駆動電圧VMD」)を制御する。
電流センサ35は、電動モータ21に供給される実電流(以下、「モータ電流IM」)の大きさに応じた信号をマイコン31のモータ制御部33に送信する。
電圧センサ36は、補助電源装置40とモータ駆動回路34との間の電圧、すなわちモータ駆動電圧VMDの大きさに応じた信号をマイコン31の電源管理部32に送信する。
マイコン31は、電源管理部32およびモータ制御部33を有する。マイコン31は、電源管理部32において補助電源装置40の充放電の動作を制御する。マイコン31は、モータ制御部33においてモータ駆動回路34の動作を制御する。
電源管理部32は、補助電源装置40のリレー41、昇圧回路43、および充放電回路44の動作を制御する。電源管理部32は、リレー41の動作を制御するためのリレー信号SRをリレー41に出力する。電源管理部32は、昇圧回路43の動作を制御するための昇圧信号SB1,SB2を昇圧回路43に出力する。電源管理部32は、充放電回路44の動作を制御するための充放電信号SCD1,SCD2を充放電回路44に出力する。
モータ制御部33は、アシスト制御を実行するためのモータ制御信号SMを生成する。詳細には、モータ制御部33は、操舵トルクτおよび車速VSに基づいて目標アシストトルクを演算する。モータ制御部33は、モータ電流IMが目標アシストトルクに対応する電流指令値に一致するように電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号SMを生成する。そしてモータ制御部33は、モータ制御信号SMをモータ駆動回路34に出力する。なお、目標アシストトルクは、操舵トルクτの絶対値が大きくなるにつれて、または車速VSの絶対値が小さくなるにつれて大きくなる。
モータ駆動回路34は、電動モータ21の各相に対して2個のスイッチング素子(MOSFET)が直列に接続された周知の構成を有する。モータ駆動回路34においては、モータ制御部33のモータ制御信号SMに基づいてモータ駆動回路34の各相の2個のスイッチング素子のオン状態およびオフ状態が交互に切り替えられる。モータ駆動回路34は、各スイッチング素子のオン状態およびオフ状態の切り替えによりモータ駆動電圧VMDをPWM駆動として電動モータ21に印加する。
補助電源装置40は、主電源4とは個別に形成されている。補助電源装置40は、主電源4と直列に接続されている。補助電源装置40は、リレー41、電流センサ42、昇圧回路43、充放電回路44、および補助電源としてのキャパシタ45を有する。補助電源装置40は、キャパシタ45により制御装置30を介して電動モータ21に放電する。
リレー41は、主電源4と昇圧回路43との間に配置されている。リレー41は、主電源4によりモータ駆動回路34に電力が供給されるオン状態と、主電源4によりモータ駆動回路34に電力が供給されないオフ状態とを切り替える。
電流センサ42は、リレー41と昇圧回路43との間に配置されている。電流センサ42は、主電源4の出力電流(以下、「バッテリ電流IB」)の大きさに応じた信号を電源管理部32に送信する。
昇圧回路43は、主電源4の電圧に基づく出力電圧、すなわち主電源4と補助電源装置40との接続点P1における出力電圧(以下、「出力電圧V1」)を昇圧してキャパシタ45の出力端子である接続点P2に印加することによりキャパシタ45を充電可能にしている。
昇圧回路43は、一対のスイッチング素子43A,43Bおよび昇圧コイル43Cを有する。昇圧回路43は、昇圧コイル43Cの一端が直列に接続された一対のスイッチング素子43A,43Bの接続点P3に接続される構成を有する。昇圧回路43は、昇圧コイル43Cの他端において出力電圧V1が印加される。
一対のスイッチング素子43A,43Bは、MOSFETが用いられている。上段側のスイッチング素子43Aは、一端においてキャパシタ45の出力端子(接続点P2)に接続されている。スイッチング素子43Aは、他端において下段側のスイッチング素子43Bに接続されている。下段側のスイッチング素子43Bは、一端において接地されている。各スイッチング素子43A,43Bは、電源管理部32の昇圧信号SB1,SB2に基づいてオン状態およびオフ状態を切り替える。
スイッチング素子43A,43Bは、電源管理部32により同時にオン状態とならないように動作が制御されている。スイッチング素子43Aは、オン状態のとき、昇圧コイル43Cからキャパシタ45への給電が可能な状態となる。スイッチング素子43Aは、オフ状態のとき、昇圧コイル43Cからキャパシタ45への給電が不能な状態となる。スイッチング素子43Bは、オン状態のとき、昇圧コイル43Cが接地される。スイッチング素子43Bは、オフ状態のとき、昇圧コイル43Cが接地されない。
充放電回路44は、昇圧回路43と直列に接続されている。充放電回路44は、一対のスイッチング素子44A,44Bが直列に接続された構成を有する。充放電回路44は、各スイッチング素子44A,44Bの接続点P4においてモータ駆動回路34と接続されている。
一対のスイッチング素子44A,44Bは、MOSFETが用いられている。上段側のスイッチング素子44Aは、一端においてキャパシタ45の出力端子(接続点P2)に接続されている。スイッチング素子44Aは、他端において下段側のスイッチング素子44Bに接続されている。下段側のスイッチング素子44Bは、一端において電流センサ42およびリレー41を介して主電源4に電気的に接続されている。
各スイッチング素子44A,44Bは、電源管理部32の充放電信号SCD1,SCD2に基づいて導通状態であるオン状態および非導通状態であるオフ状態を周期的に切り替える。スイッチング素子44Aは、オン状態のとき、キャパシタ45からモータ駆動回路34(電動モータ21)への放電が可能な状態となる。スイッチング素子44Aは、オフ状態のとき、キャパシタ45からモータ駆動回路34(電動モータ21)への放電が不能な状態となる。スイッチング素子44Bは、オン状態のとき、主電源4からスイッチング素子44Bを介してモータ駆動回路34(電動モータ21)への給電が可能な状態となる。スイッチング素子44Bは、オフ状態のとき、主電源4からスイッチング素子44Bを介してモータ駆動回路34(電動モータ21)への給電が不能な状態となる。
キャパシタ45は、昇圧回路43および充放電回路44の間において、昇圧回路43および充放電回路44と並列に接続されている。キャパシタ45は、一端において接続点P2に接続されている。キャパシタ45は、他端において電流センサ42およびスイッチング素子44Bの間の接続点P5に接続されている。キャパシタ45としては、電気二重層コンデンサが用いられている。
キャパシタ45は、マイコン31と電気的に接続されている。キャパシタ45の端子間電圧(以下、「キャパシタ電圧V2」)は、マイコン31のA/D変換を用いて測定される。キャパシタ電圧V2は、マイコン31により常時モニタされている。
昇圧回路43の動作について説明する。
昇圧回路43は、下段側のスイッチング素子43Bがオン状態からオフ状態に切り替えられることにより生じる昇圧電圧V3をキャパシタ45の出力端子(接続点P2)に印加する。具体的には、昇圧回路43においては、スイッチング素子43Bがオン状態により導通して昇圧コイル43Cの一端を接地する。そして、昇圧回路43は、スイッチング素子43Bがオフ状態からオン状態に切り替えられたことにより昇圧コイル43Cに生じる誘起電圧を出力電圧V1に重畳して出力する。なお、上段側のスイッチング素子43Aは、キャパシタ45側から昇圧回路43側への電流の回り込み(逆流)を防止する機能を有する。
充放電回路44の動作について説明する。
充放電回路44は、各スイッチング素子44A,44Bのオン状態およびオフ状態の組合せに基づいて、主電源4からモータ駆動回路34に電力を供給する第1電源形態、および主電源4およびキャパシタ45からモータ駆動回路34に電力を供給する第2電源形態を切り替える。なお、各スイッチング素子44A,44Bは、電源管理部32により同時にオン状態にならないように動作が制御される。
第1電源形態は、上段側のスイッチング素子44Aがオフ状態かつ下段側のスイッチング素子43Bがオン状態となる。第1電源形態においては、主電源4のバッテリ電流IBがキャパシタ45に供給されかつ下段側のスイッチング素子44Bを介してモータ駆動回路34に供給される。第1電源形態においては、上段側のスイッチング素子44Aがオフ状態のため、キャパシタ45からモータ駆動回路34に放電されない。
第2電源形態は、上段側のスイッチング素子44Aがオン状態かつ下段側のスイッチング素子44Bがオフ状態となる。第2電源形態は、主電源4およびキャパシタ45が互いに直列に接続された状態となる。第2電源形態においては、主電源4によるモータ駆動回路34への給電に加え、キャパシタ45がモータ駆動回路34に放電される。
また、第2電源形態においては、スイッチング素子44Aの1周期におけるオン状態の比率であるDUTY比およびスイッチング素子44Bの1周期におけるオン状態の比率であるDUTY比のそれぞれが0%および100%以外の値も採用される。各スイッチング素子44A,44BのDUTY比が変更されることによりモータ駆動電圧VMDが変更される。具体的には、スイッチング素子44AのDUTY比が大きくなるにつれてモータ駆動電圧VMDが大きくなる。スイッチング素子44AのDUTY比が100%のとき、モータ駆動電圧VMDが最大値となる。スイッチング素子44AのDUTY比が50%のとき、モータ駆動電圧VMDが最大値の半分の値となる。また、スイッチング素子44BのDUTY比は、スイッチング素子44AのDUTY比が大きくなるにつれて小さくなる。
制御装置30は、アシスト制御以外に、EPS1に供給する電源の動作を制御する電源制御と、電源制御におけるキャパシタ45の放電タイミングを変更する閾値変更制御とを実行する。以下、各制御の詳細について説明する。
図3および図4を参照して、電源制御の内容について説明する。なお、図3および図4を参照する以下の説明において、符号が付されたEPS1に関する各構成要素は、図1または図2に記載された各構成要素を示す。
なお、「電源電力PS」は、EPS1のアシスト制御により主電源4が補助電源装置40に供給する実電力を示す。電源電力PSは、バッテリ電流IBに基づいて算出される。また、「充放電閾値KE」は、主電源4からキャパシタ45への充電およびキャパシタ45からモータ駆動回路34(電動モータ21)への放電の切り替えの基準値を示す。充放電閾値KEは、試験等により予め設定される。
図3において、EPS1のアシスト制御により主電源4に要求される電力(以下、「EPS要求電力」)は、充放電閾値KE以上となる期間(以下、「放電期間」)と充放電閾値KE未満の期間に区分される。
電源電力PSは、EPS要求電力が充放電閾値KE未満の期間において、充放電閾値KE未満となる。電源電力PSは、放電期間において、充放電閾値KE以上となる。電源電力PSは、例えば時刻t11,t12,t13から充放電回路44が第1電源形態から第2電源形態に切り替えられるまでの期間において充放電閾値KEよりも大きくなる。なお、電源電力PSが充放電閾値KE以上となる場合として車両の車庫入れ時または駐車時において運転者が操舵部品2の据切り操舵を実行することが挙げられる。
電源制御は、電源電力PSおよび充放電閾値KEの比較に基づいてキャパシタ45の動作を制御する。キャパシタ45は、放電期間においてモータ駆動回路34(図2参照)に放電する。キャパシタ45は、充放電閾値KE未満の期間かつキャパシタ45が満充電ではない期間(以下、「充電期間」)において主電源4により充電される。
図4を参照して、電源制御の処理手順について説明する。本処理は、所定時間毎に繰り返し実行されている。
制御装置30は、ステップS11において、電源電力PSが充放電閾値KE以上か否かを判定する。制御装置30は、ステップS11において肯定判定のとき、ステップS12において充放電回路44を第2電源形態に設定する。そして、制御装置30は、ステップS13においてキャパシタ45の放電を制御する放電制御を実行する。このため、EPS要求電力は、電源電力PSに加え、充放電閾値KEを超えるEPS要求電力の電力量をキャパシタ45の放電により補われる。したがって、電源電力PSが充放電閾値KE以上のとき、電源切替制御により電源電力PS(バッテリ電流IB)が充放電閾値KEにおいてピークカットされる。このため、主電源4の負荷が小さくなる。
一方、制御装置30は、ステップS11において否定判定のとき、ステップS14において充放電回路44を第1電源形態に設定する。このため、EPS要求電力は、電源電力PSにより供給される。
そして、制御装置30は、ステップS15においてキャパシタ45が満充電か否かを判定する。制御装置30は、ステップS15において肯定判定のとき、キャパシタ45を充電する必要がないと判断する。そして制御装置30は、一旦処理を終了する。一方、制御装置30は、ステップS15において否定判定のとき、キャパシタ45を充電する必要があると判断する。そして制御装置30は、ステップS16においてキャパシタ45を充電するための充電制御を実行する。制御装置30は、充電制御において昇圧回路43の昇圧電圧V3をキャパシタ45に印加することによりキャパシタ45を充電する。
放電制御の詳細な内容について説明する。
制御装置30は、放電制御において、充放電回路44を第1電源形態から第2電源形態に変更するとき、キャパシタ45の容量不足となることを抑制することを目的として、キャパシタ45の放電を次のように制御する。
制御装置30は、電源電力PSと充放電閾値KEとの差が大きくなるにつれてモータ駆動電圧VMDを大きくする。詳細には、制御装置30は、電源電力PSと充放電閾値KEとの差が大きくなるにつれてスイッチング素子44AのDUTY比を大きくする。
また、制御装置30は、放電制御において、充放電回路44を第1電源形態から第2電源形態に変更するとき、モータ駆動電圧VMDの急激な変化に起因するアシストトルクTAの急激な変化を抑制することを目的として、キャパシタ45の放電を次のように制御する。
制御装置30は、キャパシタ45からモータ駆動回路34に放電が開始されるとき、キャパシタ45の放電を指示する指示信号に遅れを入れる。詳細には、制御装置30は、スイッチング素子44AのDUTY比が0%の状態からスイッチング素子44AのDUTY比を所定の増加幅により徐々に増加する。これにともない、制御装置30は、スイッチング素子44BのDUTY比が100%の状態からスイッチング素子44BのDUTY比を所定の減少幅により徐々に減少する。これにより、モータ駆動電圧VMDが徐々に高くなる。
スイッチング素子44AのDUTY比の増加幅は、PID制御となる電力フィードバック制御における伝達関数の時定数に基づいて決定される。スイッチング素子44AのDUTY比の増加幅は、時定数が大きくなるにつれて小さくなる。なお、時定数は予め設定されている。また、電力フィードバック制御は、電源電力PSが充放電閾値KEよりも大きいとき、電源電力PSを充放電閾値KEに一致させるようにモータ駆動電圧VMDを変更する制御を示す。
図5および図6を参照して、閾値変更制御の詳細な内容について説明する。なお、図5および図6を参照する以下の説明において、符号が付されたEPS1に関する各構成要素は、図1または図2に記載された各構成要素を示す。
また、「モータトルクMT」は、モータ電流IMに基づいて算出される電動モータ21のトルクを示す。「モータ回転数MR」は、電動モータ21内の回転センサ(図示略)に基づいて算出される電動モータ21の回転数を示す。
制御装置30は、閾値変更制御において図5に示される電動モータ21のトルク回転数特性のマップ(以下、「モータ特性マップMP」)を用いて充放電閾値KEの値を変更する。詳細には、制御装置30には、充放電閾値KEとして第1閾値KE1および第1閾値KE1よりも小さい第2閾値KE2が記憶されている。制御装置30は、モータトルクMTおよびモータ回転数MRと、モータ特性マップMPとに基づいて充放電閾値KEを第1閾値KE1から第2閾値KE2に変更する。これにより、キャパシタ45の放電タイミングが変更される。
モータ特性マップMPの内容について説明する。
モータ特性マップMPは、モータトルクMTおよびモータ回転数MRにより区画された電動モータ21の出力領域(以下、「モータ出力領域MOR」)を示している。モータ出力領域MORは、基準モータ出力領域MRC、判定出力領域MRK、および拡大出力領域MREを有する。
基準モータ出力領域MRCは、充放電回路44が第1電源形態のときのモータトルクMTとモータ回転数MRとにより区画された領域を示している。すなわち基準モータ出力領域MRCは、モータ駆動電圧VMDが出力電圧V1のときのモータ出力領域MORを示している。
基準モータ出力領域MRCは、モータトルクMTが値MT1において上限値となる(以下、「トルク上限値MT1」)。基準モータ出力領域MRCは、図5中の実線により区画された領域として示される。基準モータ出力領域MRCは、モータトルクMTがトルク上限値MT1およびモータ回転数MRが「0」となる座標とモータトルクMTがトルク上限値MT1およびモータ回転数MRが値MR2となる座標とを互いに結ぶ直線において区画される。基準モータ出力領域MRCは、モータトルクMTがトルク上限値MT1およびモータ回転数MRが値MR2となる座標と、モータトルクMTが値MT2(MT2<MT1)およびモータ回転数MRが値MR4(MR4>MR2)となる座標とを互いに結ぶ直線において区画される。
判定出力領域MRKは、図5中の斜線の領域として示される。判定出力領域MRKは、基準モータ出力領域MRC内の領域として区画される。判定出力領域MRKは、モータトルクMTがトルク上限値MT1およびモータ回転数MRが値MR1(MR1<MR2)となる座標と、モータトルクMTが値MT2およびモータ回転数MRが値MR3(MR2<MR3<MR4)となる座標とを互いに結ぶ直線LSを有する。判定出力領域MRKは、直線LSを含み、かつ直線LSよりも基準モータ出力領域MRCのモータ回転数MRが増大側の領域により形成されている。
拡大出力領域MREは、充放電回路44が第2電源形態のときのモータトルクMTとモータ回転数MRとにより区画された領域を示している。すなわち、拡大出力領域MREは、モータ駆動電圧VMDが出力電圧V1およびキャパシタ電圧V2の合計のときのモータ出力領域MORを示している。拡大出力領域MREは、キャパシタ電圧V2の変化に起因してモータ駆動電圧VMDが増大するにつれてモータ回転数MRが増大する側に拡大する。拡大出力領域MREは、モータ回転数MRが値MR4よりも大きい値を有する。
制御装置30は、閾値変更制御においてアシスト制御に基づくモータトルクMTおよびモータ回転数MRの座標からなる電動モータ21の出力が基準モータ出力領域MRCを超えると予測されるとき、キャパシタ45を電動モータ21に放電するための制御として充放電閾値KEを第1閾値KE1から第2閾値KE2に変更する。
なお、アシスト制御に基づくモータトルクMTおよびモータ回転数MRが基準モータ出力領域MRCを超えると予測されるか否かの判定は、アシスト制御に基づくモータトルクMTおよびモータ回転数MRの座標が判定出力領域MRKの範囲内か否かに基づいて実行される。すなわち、アシスト制御に基づくモータトルクMTおよびモータ回転数MRの座標が判定出力領域MRKの範囲内のとき、アシスト制御に基づくモータトルクMTおよびモータ回転数MRが基準モータ出力領域MRCを超えると予測される。一方、アシスト制御に基づくモータトルクMTおよびモータ回転数MRの座標が判定出力領域MRKの範囲外のとき、アシスト制御に基づくモータトルクMTおよびモータ回転数MRが基準モータ出力領域MRCを超えないと予測される。
図6を参照して、閾値変更制御の処理手順について説明する。
制御装置30は、ステップS21においてモータ電流IMおよびモータ回転数MRを検出する。そして、制御装置30は、ステップS22において電動モータ21の出力を推定する。詳細には、制御装置30は、モータ電流IMに基づいてモータトルクMTを算出する。そして制御装置30は、電動モータ21の出力としてモータトルクMTおよびモータ回転数MRの座標を作成する。
次に、制御装置30は、ステップS23において電動モータ21の出力が判定出力領域MRK内か否かを判定する。
ステップS23において肯定判定のとき、モータトルクMTおよびモータ回転数MRの座標が基準モータ出力領域MRCの範囲外となると予測される。すなわち、基準モータ出力領域MRCの範囲内の電動モータ21の出力特性では、アシスト制御が適切に実行されないと予測される。そして、制御装置30は、ステップS24において充放電閾値KEを第2閾値KE2に設定する。
一方、ステップS23において否定判定のとき、モータトルクMTおよびモータ回転数MRの座標が基準モータ出力領域MRCの範囲内となると予測される。すなわち、基準モータ出力領域MRCの範囲内の電動モータ21の出力特性でアシスト制御が適切に実行されると予測される。そして、制御装置30は、ステップS25において充放電閾値KEを第1閾値KE1に設定する。
なお、制御装置30は、充放電閾値KEを第1閾値KE1から第2閾値KE2に変更した後、次のように充放電閾値KEを第2閾値KE2から第1閾値KE1に変更する。すなわち、制御装置30は、電源電力PSが第2閾値KE2以上となった後、所定時間を経過したと判断したとき、充放電閾値KEを第2閾値KE2から第1閾値KE1に変更する。なお、所定時間は、試験等により予め設定されている。
図7を参照して、本実施形態のEPS1の作用について説明する。
なお、「仮想EPS」は、EPS1から閾値変更制御を省略した構成を示す。「仮想モータ」は、閾値変更制御が実行されない電動モータの構成を示す。仮想モータの出力性能は、電動モータ21の出力性能と同等である。
図7のグラフは、時刻t21から時刻t24までの期間において操舵速度が大きい操舵が実行され、時刻t25から時刻t26までの期間において操舵速度が小さい操舵が実行されたときのEPS要求電力の推移を示している。
モータ回転数MRは、操舵速度が大きくなるにつれて大きくなる。仮想EPSにおいては、例えば時刻t21から時刻t22までの期間のように電源電力PSが充放電閾値KE未満かつ操舵速度が過度に大きくなるとき、モータ特性マップMPは基準モータ出力領域MRCのままであるため、モータ回転数MRが基準モータ出力領域MRCの範囲外となる場合がある。このとき、仮想EPSは、操舵速度に対してアシストするモータ回転数MRが小さいため、アシスト制御を適切に実行することができない。このため、仮想EPSは、操舵フィーリングが悪化してしまう。
一方、仮想EPSは、操舵速度の増大にともない電源電力PSも増大するため、電源電力PSが充放電閾値KE(第1閾値KE1)以上のとき(時刻t23)に充放電回路44が第2電源形態に変更される。これにより、キャパシタ45が放電されるため、モータ駆動電圧VMDが増大する。このため、仮想モータの出力性能は、基準モータ出力領域MRCから拡大出力領域MREに変更される。したがって、仮想EPSは、操舵速度に対してアシストするモータ回転数MRの不足が補われる。これにより、仮想EPSは、操舵フィーリングの悪化が改善される。
このように仮想EPSにおいては、電源電力PSが充放電閾値KE(第1閾値KE1)未満の状態において、操舵速度が過度に大きくなるときに操舵フィーリングの悪化を招いてしまう。そして、仮想EPSにおいては、操舵フィーリングの悪化が改善されるまでの時間が長い。
これに対して、本実施形態のEPS1は、閾値変更制御により電源電力PSが充放電閾値KE(第1閾値KE1)未満の状態において操舵速度が過度に大きいとき、充放電閾値KEを第1閾値KE1から第1閾値KE1よりも小さい第2閾値KE2に変更する。これにより、EPS1は、仮想EPSよりも速やかに充放電回路44が第2電源形態に変更される。すなわち、EPS1は、仮想EPSよりも速やかに電動モータ21の出力性能を基準モータ出力領域MRCから拡大出力領域MREに変更する。これにより、EPS1は、仮想EPSよりも操舵フィーリングが悪化することを抑制することができる。また、EPS1は、操舵フィーリングの悪化を招いたとしても仮想EPSよりも速やかに操舵フィーリングの悪化を改善することができる。
本実施形態のEPS1は以下の効果を奏する。
(1)EPS1は、電動モータ21の出力が基準モータ出力領域MRCを超えると予測されるとき、キャパシタ45を放電するための制御を実行する。この構成によれば、キャパシタ45を放電することにより基準モータ出力領域MRCから拡大出力領域MREに変更される。したがって、操舵速度が大きい場合においても電動モータ21により適切なアシストが実行される。したがって、操舵フィーリングの悪化が抑制される。
(2)EPS1は、閾値変更制御において充放電閾値KEを第1閾値KE1から第2閾値KE2に変更する。この構成によれば、操舵速度が大きいときにキャパシタ45がモータ駆動回路34に放電しやすくなる。したがって、仮想EPSと比較して、操舵フィーリングの悪化が抑制される。
(3)EPS1は、放電制御においてキャパシタ45の放電が開始されるとき、スイッチング素子44AのDUTY比が0%の状態からスイッチング素子44AのDUTY比を所定の増加幅により徐々に増加させる。この構成によれば、モータ駆動電圧VMDが徐々に上昇するため、キャパシタ45の放電の際にアシストトルクTAが急激に変化することが抑制される。
一方、このような放電制御が実行された場合、電源電力PSが充放電閾値KE以上になったとしてもモータ駆動電圧VMDが徐々に上昇するため、拡大出力領域MREの増加速度が緩やかとなる。このため、仮想EPSにおいては、操舵フィーリングの悪化が改善されるまでの時間がさらに長くなる。
これに対して、本実施形態のEPS1は、閾値変更制御により電動モータ21の出力が基準モータ出力領域MRCを超えると予測されるとき、充放電閾値KEを第1閾値KE1から第1閾値KE1よりも小さい第2閾値KE2に変更する。このため、仮想EPSよりもキャパシタ45の放電タイミングが早くなる。したがって、モータ駆動電圧VMDが徐々に上昇してもキャパシタ45の放電タイミングを早くしているため、操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。また操舵フィーリングが悪化したとしても短時間にて改善することができる。
(4)EPS1は、放電制御において電源電力PSが充放電閾値KE以上となるとき、電源電力PSと充放電閾値KEとの差が大きくなるにつれてキャパシタ45の放電量を多くする。この構成によれば、電源電力PSと充放電閾値KEとの差が小さいとき、キャパシタ45の放電量が少ない。このため、キャパシタ45の蓄電量の低下が抑制される。
一方、このような放電制御が実行された場合、電源電力PSが充放電閾値KE以上になったとしても電源電力PSと充放電閾値KEとの差が小さいときにはキャパシタ45の放電量が少ないため、拡大出力領域MREの増加量が少なくなる。このため、仮想EPSにおいては、電源電力PSが充放電閾値KE以上になったとしても操舵速度に基づくモータ回転数MRに達することができない場合がある。したがって、操舵フィーリングが悪化するおそれがある。
これに対して、本実施形態のEPS1は、閾値変更制御により電動モータ21の出力が基準モータ出力領域MRCを超えると予測されるとき、充放電閾値KEを第1閾値KE1から第1閾値KE1よりも小さい第2閾値KE2に変更する。このため、仮想EPSと比較して、電源電力PSと充放電閾値KEとの差が大きくなる。したがって、電源電力PSが充放電閾値KE(第2閾値KE2)以上のとき、電動モータ21が操舵速度に基づくモータ回転数MRに達することができないことが抑制される。したがって、操舵フィーリングの悪化が抑制される。
本電動パワーステアリング装置は、上記実施形態とは別の実施形態を含む。以下、本電動パワーステアリング装置のその他の実施形態としての上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の各変形例は、互いに組み合わせることもできる。
・実施形態の制御装置30は、閾値変更制御において充放電閾値KEを予め設定された第1閾値KE1および第2閾値KE2の2つの閾値の切り替えを実行している。ただし、充放電閾値KEの変更の方法は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例の制御装置30は、電動モータ21の出力が判定出力領域MRK内のとき、モータ回転数MRの増加速度に基づいて充放電閾値KEの第2閾値KE2を可変に制御する。詳細には、変形例の制御装置30は、モータ回転数MRの増加速度が大きくなるにつれて第1閾値KE1に対して第2閾値KE2をより小さい値に変更する。すなわち、モータ回転数MRの増加速度が大きい場合の第2閾値KE2は、モータ回転数MRの増加速度が小さい場合の第2閾値KE2より小さい値に変更される。また、別の変形例の制御装置30は、電動モータ21の出力が判定出力領域MRK内のとき、操舵速度に基づいて充放電閾値KEの第2閾値KE2を可変に制御する。詳細には、別の変形例の制御装置30は、操舵速度が大きくなるにつれて第1閾値KE1に対して第2閾値KE2をより小さい値に変更する。すなわち、操舵速度が大きい場合の第2閾値KE2は、操舵速度が小さい場合の第2閾値KE2がより小さい値に変更される。要するに、電動モータ21の出力が判定出力領域MRK内のとき、電動モータ21の出力が基準モータ出力領域MRCを超える可能性が高くなるにつれて第2閾値KE2をより小さい値に変更する構成であればよい。
・実施形態の制御装置30は、モータ特性マップMPにおいて1つの判定出力領域MRKを有する。ただし、判定出力領域MRKの個数は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例の制御装置30は、モータ特性マップMPにおいて複数の判定出力領域MRKを有する。そして変形例の制御装置30は、各判定出力領域MRKに対応した充放電閾値KEを有する。詳細には、変形例の制御装置30は、判定出力領域MRKにおけるモータ回転数MRの上限値がより大きい判定出力領域MRKの充放電閾値KEは、第1閾値KE1からの減少幅が大きい値を有する。
・実施形態の制御装置30は、電動モータ21の出力が判定出力領域MRK内のとき、キャパシタ45を電動モータ21に放電するための制御として、充放電閾値KEを第1閾値KE1から第2閾値KE2に変更する。ただし、キャパシタ45を電動モータ21に放電するための制御は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例の制御装置30は、電動モータ21の出力が判定出力領域MRK内のとき、充放電回路44を第1電源形態から第2電源形態に変更する。
・実施形態の制御装置30は、電動モータ21の出力が判定出力領域MRK内のとき、充放電閾値KEを変更する。ただし、充放電閾値KEを変更する条件は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例の制御装置30は、モータ回転数MRがモータ閾値以上のとき、充放電閾値KEを変更する。なお、モータ閾値として、例えば図5のモータ回転数MRの値MR2が用いられる。
・実施形態の制御装置30は、モータトルクMTおよびモータ回転数MRの関係を示すモータ特性マップMPを用いて閾値変更制御を実行している。ただし、モータ特性マップMPは実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例の制御装置30は、モータ電流IMおよびモータ駆動電圧VMDの関係を示すモータ特性マップMPを用いて閾値変更制御を実行する。
・実施形態の補助電源装置40は、キャパシタ45を有する。ただし、補助電源装置40の構成は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例の補助電源装置40は、キャパシタ45に代えて、リチウムイオン電池等の二次電池を有する。
・実施形態のキャパシタ45は、電気二重層コンデンサが用いられている。ただし、キャパシタ45の種類は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例のキャパシタ45は、電気二重層コンデンサに代えて、リチウムイオンキャパシタが用いられる。
・実施形態の充放電回路44は、スイッチング素子44A,44BとしてMOSFETが用いられている。ただし、スイッチング素子44A,44Bの種類は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例の充放電回路44は、スイッチング素子44A,44BとしてIGBTが用いられる。要するに、スイッチング素子44A,44BはDUTY比を変更することが可能な構成であれば、MOSFET以外の構成であってもよい。
・実施形態の電動モータ21は、3相ブラシレスモータの構成を有する。ただし、電動モータ21の構成は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例の電動モータ21はブラシ付きモータの構成を有する。
・実施形態の補助電源装置40において、複数個のキャパシタ45を有してもよい。
・実施形態のEPS1は、コラムアシスト型の構成を有する。ただし、EPS1の構成は実施形態に例示された内容に限られない。例えば、変形例のEPS1は、ピニオンアシスト型、デュアルピニオンアシスト型、ラック同軸型、またはラックパラレル型の構成を有する。また、別の変形例のEPS1は、ステアバイワイヤ型の構成を有する。
次に、上記各実施形態から把握することができる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記補助電源から前記電動モータへの放電が開始されるとき、前記補助電源の放電を指示する指示信号に遅れを入れる請求項1〜4のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置。
上記電動パワーステアリング装置においては、制御装置が補助電源の放電を指示する指示信号に遅れを入れることにより、補助電源から電動モータへの放電が開始されるとき、電動モータに印加される電圧の増大速度が遅くなる。このため、電動モータに印加される電圧の増大にともなう電動モータの消費電力が急激に増大することが抑制される。したがって、電動モータが発生するアシストトルクが急激に変化することが抑制される。
(ロ)前記補助電源から前記電動モータへの放電が可能となるオン状態と前記補助電源から前記電動モータへの放電が不能となるオフ状態と周期的に切り替えるスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子は、1周期における前記オン状態の割合としてのDUTY比に基づいて動作し、前記指示信号は、前記スイッチング素子のDUTY比であり、前記制御装置は、前記指示信号の遅れとして前記スイッチング素子のDUTY比を徐々に増加させる付記(イ)に記載の電動パワーステアリング装置。