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JP6097174B2 - ロボット制御装置 - Google Patents

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Description

本発明の実施形態は、ロボット制御装置に関する。
多リンクロボットのアーム先端の振動を抑制するためには、各軸を駆動するモータ内蔵エンコーダで計測したモータ角速度から軸ねじれ角速度、すなわちリンク角速度とモータ角速度の差を推定し、モータ角速度制御系にフィードバックしなければならない。その推定には、弾性関節やリンク間の非線形干渉力を考慮に入れた非線形動力学モデルに基づく非線形のオブザーバが必要である。
上記のような多入出力かつ非線形のオブザーバの実現においては、正確な動力学モデルの構築や、先端負荷および摩擦力の変動へのロバスト性を要求される。従来は、制御の演算量削減の観点から「1リンク毎の弾性関節モデルにおいて他リンクからの外乱推定と補償」を行う1入出力線形モデルにおいて+αの処理を行うことに基づく近似的なオブザーバが主であった。
また、近年のCPUやメモリの性能向上によれば、ロボット制御装置においても豊富な演算能力や記憶容量の恩恵にあずかることができるようになってきた。
ところが、上記のようなオブザーバでは、近似に基づいているので振動抑制効果がロバストでない上に、かえって制御則の実装や制御ゲインの調整にかかるエンジニアリングコストが多大であった。
また、最近では角速度センサの入手が容易になりつつあるため、この角速度センサをロボットアームの各リンクに搭載し、軸ねじれ角速度を直接計測してフィードバックすることによって振動抑制することも考えられる。しかし、この手法では配線が増えることによるコスト面などの問題が生じることもある。
さらには、状態オブザーバによる推定にせよ、直接計測にせよ、軸ねじれ角速度をフィードバックする振動抑制制御系では、アーム先端の負荷質量が軽いとき、すなわち低慣性時に振動抑制制御の減衰効果が小さくなってしまう、という課題がある。
特公平7−120212号公報 特許第4289275号公報 特許第2772064号公報
小林、他:ロボット制御の実際、第3章ロボットの同定、コロナ社、1997年、p.62−85 杉本、他:ACサーボシステムの理論と設計の実際、第7章速度制御系および位置制御系の設計、総合電子出版社、1990年、p.153−179 武居、他:二慣性系の慣性比と振動減衰性に関する一考察、電気学会論文誌D、121巻、2号、2001年、p.283−284
本実施形態は、簡易な構成でロボットアーム先端の振動抑制効果を高めることができるロボット制御装置を提供する。
本実施形態のロボット制御装置は、モータの回転軸とリンクの回転軸との間に弾性機構を有するロボットアームを制御対象とし、前記モータの角速度を比例積分制御して前記モータへ電流指令値を出力する角速度制御系を有するロボット制御装置である。このロボット制御装置は、前記モータの角速度と前記電流指令値とを入力とし、前記ロボットアームの非線形動力学モデルを持ち、前記角速度制御系と等価なゲインを用いて比例積分制御される前記モータの角速度制御系のシミュレーションモデルから前記リンクの角加速度と、前記リンクの角速度と、前記モータの角速度とを推定するオブザーバと、前記オブザーバによって推定された前記リンクの角速度と、前記オブザーバによって推定された前記モータの角速度との差から軸ねじり角速度を算出し、前記角速度制御系にフィードバックする第1フィードバック部と、前記オブザーバによって推定された前記リンクの角加速度を前記角速度制御系にフィードバックする第2フィードバック部と、前記第2フィードバック部において、前記非線形動力学モデルで先端負荷が低慣性の場合に先端負荷質量を補償して高慣性化する第1フィードバック定数算出部と、を備えている。
第1実施形態によるロボット制御装置の制御対象の一例であるロボットアームの断面図。 図1に示すロボットアームの1リンク分を示す模式図。 一般的な位置および速度制御系を示すブロック図。 非線形最適化を用いた物理パラメータのファインチューニングを示す図。 第1実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを示すブロック図。 第1実施形態によるロボット制御装置を示すブロック図。 第1実施形態による振動抑制制御の一例を示す図。 第1実施形態による振動抑制制御の一例を示す図。 第1実施形態による振動抑制制御の効果を示す図。 第2実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを示すブロック図。 第3実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを示すブロック図。 第4実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを示すブロック図。 第5実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを示すブロック図。
以下、図面を参照しながら実施形態を詳細に説明する。
各実施形態を説明するまえに、実施形態に至った経緯について説明する。
図1は、各実施形態に係るロボット制御装置の制御対象の一例である2リンクロボットアームの断面図である。このロボットアームは、架台1、第1リンク3、第1モータ4、第1減速機5、第1エンコーダ6、第2リンク8、第2モータ9、第2減速機10、第2エンコーダ11を有する。架台1の上部に第1リンク3の一端が取り付けられており、第1リンク3の他端には第2リンク8が取り付けられている。第2リンク8の先端に負荷12が付加される。
制御装置13は、第1モータ4及び第1エンコーダ6と、バネ特性を持つ第1減速機5との組合せにより、第1軸2を中心として架台1に対して第1リンク3を水平旋回させる。また、制御装置13は、第2モータ9及び第2エンコーダ11と、バネ特性を持つ第2減速機10との組合せにより、第2軸7を中心として第1リンク3に対して第2リンク8を水平旋回させる。
図2は、このロボットアームの1リンク分を示す模式図である。これは、2慣性系と呼ばれる。図1及び図2を参照して、このロボットアームは、弾性関節を持つシリアル2リンクアームとして非線形動力学モデル化することができる。図2では、1リンク分の非線形動力学モデルの記述に必要な物理パラメータ、慣性モーメント、摩擦係数、およびバネ係数などについて第1軸を代表として示す。この図2においては、モータ20によってリンク30が減速機25を介して駆動制御される。第1軸に関する物理パラメータとしては、モータ20のトルク入力がuで表され、モータ20の慣性モーメントがmM1で表され、モータ20の回転角、すなわちエンコーダによって検出された出力がθM1で表され、モータ20の粘性摩擦係数がdM1で表され、モータ20のクーロン動摩擦係数がfM1で表され、減速機25の減衰係数がdG1で表され、減速機25のバネ係数がkG1で表され、リンク30の慣性モーメントがmL1で表され、リンク30の粘性摩擦係数がdL1で表され、リンク30の回転角がθL1で表される。
弾性関節を持つシリアル2リンクアームの非線形動力学モデルは、次のようなモータ側が式(1)で与えられ、リンク側が式(2)で与えられる。
ただし、
θ=[θM1,θM2]:モータの回転(サフィックス1、2は軸番号)
θ=[θL1,θL2]:リンクの回転
α=[α,α]:リンクの並進加速度
(θ)εR2×2:リンク慣性行列
(dθ/dt,θ)εR2×1:遠心力およびコリオリ力ベクトル
=diag(mM1,mM2):モータおよび減速機高速段慣性
=diag(dM1,dM2):モータ軸粘性摩擦係数
=diag(dL1,dL2):リンク軸粘性摩擦係数
=diag(kG1,kG2):減速機バネ係数
=diag(dG1,dG2):減速機減衰係数
=diag(nG1,nG2):減速比(nG1,nG2≦1)
=[fM1,fM2]:モータ軸のクーロン動摩擦トルク
E=diag(e,e):トルク/電圧(電流指令値)定数
u=[u,u]:入力電圧(モータの電流制御系への指令値)である。ここで,式(1)中のsgn(a)は符号関数を表し、aが正、負、零の値に応じてsgn(a)はそれぞれ1、−1、0の値を取る。また、diag(a、b)は、aおよびbを対角要素とする対角行列を表す。
ここで、α、β、γをリンクの長さ、重心位置、質量、慣性より構成される基底パラメータとすると、リンクの慣性行列は式(3)のように表される。
上記基底パラメータの詳細は、以下の式(4)にように表される。
α=mg1 +Iz1+m
β=mg2 +lz2 (4)
γ=mg1
ただし、
:各リンクの長さ(iは軸番号)
:各リンクの質量
gi:各リンクの重心位置(リンクは長手方向に左右対称)
zi:各リンクの重心周りの慣性モーメント
である。先端負荷12が変化すると、この先端負荷が付加されているリンクの質量mが変化し、基底パラメータα、β、γがともに変化する。
遠心力およびコリオリ力ベクトルについては、式(5)のようになる。
モータ角速度制御系については、PI(比例および積分)制御をFF−I−P(フィードフォワード−積分−比例)制御として2自由度PI制御にした式(6)を基本構成とする。
ただし、
dθMRi/dt:モータの角速度目標値(iは軸番号)
dθMi/dt:モータの角速度
FVi:モータの角速度目標値フィードフォワード制御ゲイン
IVi:モータの角速度偏差積分フィードバック制御ゲイン
PVi:モータの角速度比例フィードバック制御ゲイン
:入力電圧(モータの電流制御系への指令値(トルク入力))
である。
この2自由度PI速度制御系は、図3に示すように、位置制御系(P制御)の内側にカスケード接続された制御系として構成される。なお、図3においては、第1軸に関する2自由度PI速度制御系を示している。
以下においては、位置制御系を除いたモータの角速度制御系に焦点を当てて、制御周期が十分短いものと仮定しこれによりモータの角度制御系が連続系であるとして説明を行う。
まず、図1に示す2リンクアームの先端負荷12を例えば5kgとし、式(1)に現れる物理パラメータ(以下においては、基底パラメータα、β、γも含むものとする)を公知の同定法を用いて推定する。この同定法としては、例えば非特許文献1に記載の同定法またはロボットモデルの関節剛性を考慮した特許文献3などの同定法が用いられる。
次に、これらの推定された物理パラメータをモータ速度制御ゲインと共に、動力学モデルを表す式(1)および速度フィードバック制御則を表す式(6)に代入する。これにより、シリアル2リンクアームの速度制御系の時間応答シミュレータを構築し、ロボット実機の時間応答と良く合うかどうかを確認する。
上記の同定法によって物理パラメータが精度よく推定されていれば、これらの時間応答は良く合うはずである。もし、少しずれているようであれば、上記時間応答シミュレータを用いた非線形最小2乗法(レーベンバーグ−マルカート法など)による最適化計算を用いて、物理パラメータをファインチューニングする。例えば、図4(a)に最適化前、図4(b)に最適化後の角速度ステップ応答を示す。図4(a)、4(b)において、横軸は時間を示し、縦軸は角速度を示し、実線はロボット実機の応答を示し、破線はシミュレータによる応答結果を示す。図4(b)からわかるように、物理パラメータを最適化することで、シミュレータとロボット実機の角速度ステップ応答を良く合わせることができる。
そこで、本実施形態においては、上記エンコーダで計測したモータの角速度からリンクの角速度を推定するオブザーバを構成し、モータの角速度の計測値だけでなく、リンクの角速度の推定値もフィードバックすることによってロボットアーム先端の振動を抑制しながら精度良く動作させる。
ここで、オブザーバの推定値を用いた状態フィードバックの場合、オブザーバ自体のフィードバックゲインと、状態フィードバックのゲインの設計および調整が必要になる。オブザーバにおいて状態変数を再現してから、フィードバック制御するという順番から、通常、オブザーバの極は状態フィードバックの極より複素平面上でずっと左半平面(実数部が負の領域)寄りに配置する、というのが現代制御理論の立場である。
しかし、実際のところ種々のノイズやモデル化誤差があるオブザーバでは、そのようなハイゲインにはできない。実機の応答を見ながらオブザーバの極の配置を調整すると、結局、状態フィードバックの極の配置に近くなることもある。
ここで、カルマンフィルタを用いれば、オブザーバの設計をシステマティックに行える。しかしこの場合、仮定するノイズモデルのパラメータの設定が必要である。さらに、オブザーバおよび状態フィードバックを無くしたH制御(H無限大制御)などのロバスト制御では、ノイズやモデル化誤差を実際に考慮した制御系の設計ができる。しかし、いずれの方法にせよ、CAE(Computer-Aided Engineering)ツールが不可欠なので現場での手調整は難しい。
そこで、以下の実施形態では、上述したように、速度制御されたロボット実機とシミュレーションの時間応答とが良く合うことに着目し、物理パラメータの推定精度の良さを生かしたオブザーバを構成する。以下、各実施形態に係るオブザーバを説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを図5に示す。この第1実施形態のオブザーバ200は、第1および第2軸のPI制御器201、202と、2リンクアームの非線形動力学モデル203と、非線形動力学モデル203の出力を積分する積分器204a、204b、204c、204d、205a、205b、205c、205dとを有する。PI制御器201は、第1軸を駆動するモータの速度dθM1/dtと第1軸を駆動するモータの回転の推定値との偏差に基づいてPI制御する。PI制御器202は、第2軸を駆動するモータの速度dθM2/dtと第2軸を駆動するモータの回転の推定値との偏差に基づいてPI制御する。2リンクアームの非線形動力学モデル203は、PI制御器201の出力と第1軸の操作量uとの和となる第1入力τおよびPI制御器202の出力と第2軸の操作量uとの和となる第2入力τに基づいて非線形動力学モデルに基づいて第1および第2リンクの角加速度の推定を行うとともに第1および第2リンクをそれぞれ駆動するモータの角加速度の推定を行い、推定した角加速度を出力する。
積分器204aは、非線形動力学モデル203から出力される第1リンクの角加速度の推定値を積分し、角速度の推定値を出力する。積分器204bは、積分器204aの出力を積分し、第1リンクの回転角の推定値を出力する。積分器204cは、非線形動力学モデル203から出力される第1リンクを駆動するモータの角加速度の推定値を積分し、上記モータの角速度の推定値を出力する。積分器204dは、積分器204cの出力を積分し、第1リンクを駆動するモータの回転角の推定値を出力する。
積分器205aは、非線形動力学モデル203から出力される第2リンクの角加速度の推定値を積分し、角速度の推定値を出力する。積分器204bは、積分器204aの出力を積分し、第2リンクの回転角の推定値を出力する。積分器204cは、非線形動力学モデル203から出力される第2リンクを駆動するモータの角加速度の推定値を積分し、上記モータの角速度の推定値を出力する。積分器204dは、積分器204cの出力を積分し、第2リンクを駆動するモータの回転角の推定値を出力する。
これらの第1および第2リンクの角加速度の推定値、第1および第2リンクの角速度の推定値、第1および第2リンクを駆動するモータの角速度の推定値、およびモータの回転角の推定値は、それぞれオブザーバ200から出力される。
また、このオブザーバ200において、第1リンクの角速度の推定値、第1リンクとこの第1リンクを駆動するモータとの間に設けられる減速機の減速比nG1、および第1リンクを駆動するモータの角速度の推定値に基づいて、第1リンクのねじれ角速度の推定値を演算し、この推定値が出力される。同様に、第2リンクの角速度の推定値、第2リンクとこの第2リンクを駆動するモータとの間に設けられる減速機の減速比nG2、および第2リンクを駆動するモータの角速度の推定値に基づいて、第2リンクのねじれ角速度の推定値を演算し、この推定値が出力される。
この第1実施形態のオブザーバ200は、ロボットアームの非線形動力学モデル203を丸ごと内蔵し、PI制御器201、202のオブザーバゲインはロボットアームの各軸の既存の速度制御系のPI制御ゲインをそのまま使用する、というシミュレータそのものである。すなわち、PI制御器201、202のオブザーバゲインは速度制御と等価なオブザーバゲインである。また、積分制御が入っているので出力推定値の定常偏差を零にする機能も内蔵されている。そして、オブザーバの実装における近似、およびゲイン調整にかかるエンジニアリングコストが全くない。
非線形動力学モデルに基づくPI制御型オブザーバは、式(1)を変形した式(7)に示す2階微分形式で表される。なお、式(7)において、記号「^」は推定値を表す。
ただし、
dθ/dt=[dθM1/dt, dθM2/dt]:オブザーバへのモータ角速度入力
u=[u,u]:オブザーバへの入力(モータ電流指令値)
PV=diag(kPV1,kPV2):速度偏差比例制御ゲイン
IV=diag(kIV1,kIV2):速度偏差積分制御ゲイン
τ=[τ]:オブザーバへの入力(モータ電流指令値)
である。
ここで、PI制御系201、202のオブザーバゲインは、ロボット実機の速度ループのFF−I−P制御(2自由度PI制御)のPとIのゲインと同じものを選んでいる。この場合、オブザーバの追従性能の1自由度だけを考えれば良いので、FF=P、すなわちフィードフォワード系を比例系としたPI制御として設定する。このシステムは、ゲインが一定の非線形オブザーバの一種である。また、積分制御が入っているので出力推定値の定常偏差は零になり、外乱除去オブザーバとしての機能も内蔵されている。
式(7)で表される状態オブサーバをロボット制御装置13に実装し、リアルタイムで図5に示す積分器を用いて2回積分することによって状態の推定ができる。なお、実際の積分は数値積分によって行われる。
さて、2慣性系の角速度制御においては、モータの角速度とリンクの角速度、モータとリンクとの軸ねじれ角速度の3状態量をフィードバックすれば、任意の極の配置が可能となり、速応性(制御系の目標値に追従する速さ)と減衰率を自在に設定できる。しかし、既存のPI制御系の再調整を伴うので移行するのは困難である。そこで、PI制御系への入力として、まず、オブザーバ200から出力される軸ねじれ角速度(リンク角速度とモータ角速度の差)の推定値だけを状態フィードバックする。この軸ねじれ角速度のフィードバックでは、PI制御のゲイン交差周波数を変化させずに減衰率だけを増加させる効果が見込まれる(例えば、非特許文献2)。このため、現場での手調整が容易なので、特に産業用ロボットの制御装置には導入しやすい。
図6に、図5に示すオブザーバ200を用いた状態フィードバック制御のブロック図を示す。オブザーバ200には、モータ角速度(エンコーダ差分)とモータドライバへの入力電圧(電流指令値)が入力される。このPI制御型のオブザーバ200による、第1および第2リンクに関する軸ねじれ角速度の推定値の状態フィードバック部301、302、303、304は、式(7)に示す2自由度PI制御(FF−I−P制御)にプラグインする形で実現可能であり、式(8)に示す制御則になる。
この軸ねじれ角速度の推定値の状態フィードバック制御ゲインkTVi(i=1,2)は、時間応答波形を見ながらの手調整が容易である。また、弾性関節を持つロボットアームの正確な非線形動力学モデルに基づいたオブザーバを用いているので、シリアルリンクで構成されるロボットアームの振動抑制制御では、第1軸だけの状態フィードバックだけでも十分な効果がある。なお、図6には、高慣性化のためのリンク角加速度のフィードバック定数算出部305が示されているが、このフィードバック定数算出部305の機能については、後述する。
まず、先端負荷12が5kgの場合の軸ねじれ角速度のフィードバック制御が無い場合および有る場合における第1軸の速度ステップ応答波形を図7(a)、7(b)にそれぞれ示す。なお、図7(a)、7(b)においては、リンクの応答とモータの応答の波形は、減速比を考慮して同じ時間軸となるように調整して表示している。また、オブザーバでは、先端負荷5kgでの動力学モデルを用いている。図7(a)からわかるように、PI制御のみ(オブザーバなし)の応答は、振動の振幅が大きく、減衰が遅い。これに対して、図7(b)からわかるように、軸ねじれ角速度のフィードバックを付加した制御(オブザーバあり)の応答は、振動の振幅が小さく、減衰が速くなる。すなわち、図7(a)に示すPI制御のみの応答に比べて、図7(b)に示す軸ねじれ角速度のフィードバックを付加した制御の応答は、リンク角速度の応答の改善が著しいことがわかる。
次に、無負荷すなわち先端負荷12が0kgの場合の軸ねじれ角速度のフィードバック制御が無い場合および有る場合における第1軸の速度ステップ応答波形を図8(a)、8(b)にそれぞれ示す。なお、図8(a)、8(b)においては、リンクの応答とモータの応答の波形は、減速比を考慮して同じ時間軸となるように調整して表示している。オブザーバでは、先端負荷12が0kgでの動力学モデルを用いている。図8(a)からわかるように、PI制御のみ(オブザーバなし)の応答は、振動の振幅が大きく、減衰が遅い。これに対して、図8(b)からわかるように、軸ねじれ角速度のフィードバックを付加した(オブザーバあり)応答は、振動の振幅が小さく、立ち上がりの減衰が悪くなる。すなわち、図8(a)のPI制御のみの応答に比べて、図8(b)に示す軸ねじれ角速度のフィードバックを付加した応答は、リンク角速度の応答の振幅は小さくなるが、立ち上がりの減衰が悪いことがわかる。
これは、アーム先端の負荷質量が軽いとき、すなわち低慣性時に軸ねじり角速度のフィードバックによる振動抑制制御の減衰効果が小さくなってしまうからである。つまり、2慣性系におけるリンク側とモータ側の慣性モーメントの比、すなわち慣性比が小さくなることによる減衰制御性能の劣化であると考えられる(非特許文献3)。
そこで本実施形態では、手先負荷が軽い場合にリンク側の慣性を大きく見せかけるための高慣性化制御について示す。その制御則は、式(8)にリンク角加速度の推定値のネガティブフィードバックを加えたものであり(図6の状態フィードバック部303、304)、式(9)に示すようになる。
ここで、角加速度の推定値の状態フィードバック制御ゲインkAViは、リンクの慣性モーメントの次元を持っており、ロボットアームの先端負荷の慣性変動分Δmを補償できると考えられる。例えば、式(3)の慣性行列がΔmの変動(減少)を受けると、基底パラメータα、β、γがそれぞれ式(10)に示すように、α’、β’、γ’に変化する。
α’=α―Δm
β’=β−Δm (10)
γ’=γ−Δm
ここで、式(3)の慣性行列の(1、1)成分に、式(10)に示すロボットアームの先端負荷の慣性変動後のα’、β’、γ’を代入し、減速比nG1を考慮すると、式(11)に示すようになる。
AV1=(2+2cos(θL2))Δm×nG1 (11)
この式(11)により、第1軸の角加速度の推定値の状態フィードバック制御ゲインを算出することができる。式(11)が、図6に示す高慣性化のためのリンク角加速度のフィードバック定数算出部305の機能である。
次に、先端負荷12が0kgの場合の軸ねじれ角速度のフィードバックおよびリンク角加速度のフィードバックが無い場合および有る場合の第1軸の速度ステップ応答波形を図9(a)、9(b)にそれぞれ示す。なお、図9(a)、9(b)においては、リンクの応答とモータの応答の波形は、減速比を考慮して同じ時間軸となるように調整して表示している。また、オブザーバでは、先端負荷12が0kgでの動力学モデルを用いている。図9(a)からわかるように、PI制御のみ(オブザーバなし)の応答は、振動の振幅は小さく、立ち上がりの減衰が悪い。これに対して、図9(b)からわかるように、軸ねじれ角速度のフィードバックおよびリンク角加速度のフィードバックが有る場合の波形は、振動の振幅が小さく減衰も速くなる。すなわち、図8(a)に示すPI制御のみの場合は当然のこと、図8(b)に示す軸ねじれ角速度のフィードバックだけを付加した場合と比較しても、図9(b)に示す軸ねじれ角速度のフィードバックおよびリンク角加速度のフィードバックを付加した制御の場合は、リンク角速度の応答の改善が著しく、高慣性化制御の効果は明らかである。
(第2実施形態)
第2実施形態によるロボット制御装置を図10に示す。この第2実施形態の制御装置は、高慣性化および定慣性化によるリンク角加速度のフィードバック制御およびそのゲイン算出機能を備えている。
上述した慣性の低下は、アーム先端の負荷の質量が軽いときだけでなく、ロボットアームの姿勢変化でも生じる。2リンクロボットアームでは、例えば、第2軸の角度が大きくなると第1軸の周りの慣性が低下することになる。そこで、姿勢変化による慣性の低下についても、リンク角加速度のフィードバックによって補償することを考える。
2リンクロボットアームの場合、式(3)に示す慣性行列の(1、1)成分の最大値からの慣性低下分を考慮すると、式(12)に示すようになる。
AV1=2γ(1−cos(θL2))nG1 (12)
この式(12)により、第1軸のリンク角加速度のフィードバック制御ゲインを算出できる。このフィードバックによって、アームの姿勢によらずに慣性を一定に保つこと、すなわち、定慣性化制御が実現され、上述の高慣性化制御と同等の振動抑制効果が得られる。
この定慣性化制御と、第1実施形態の高慣性化制御は併用することが可能であり、式(11)と式(12)を融合すると、式(13)に示すようになる。
AV1=[(2+2cos(θ2L))Δm+2γ(1−cos(θL2))]nG1 (13)
この式(13)により、第1軸の高慣性化および定慣性化制御によるリンク角加速度のフィードバック制御ゲインを算出することができる。これが、図10に示す高慣性化および定慣性化制御によるリンク角加速度のフィードバック定数算出部305Aの機能である。
さらに、式(3)に示す慣性行列の非対角要素に注目すると、(1、2)成分と(2、1)成分についても、高慣性化および定慣性化制御によるリンク角加速度のフィードバック制御ゲインkBV1、kBV2はそれぞれ、式(14)、(15)のように算出することができる。
BV1=[(1+cos(θ2L))Δm+γ(1−cos(θL2))]nG1 (14)
BV2=[(1+cos(θ2L))Δm+γ(1−cos(θL2))]nG1 (15)
これらkBV1、BV2を用いて、第1軸に第2軸の角加速度のフィードバック、第2軸に第1軸の角加速度のフィードバックを式(9)に加えると、式(16)に示すようになる。
このようにして、一般化した高慣性化および定慣性化制御を加えた振動抑制制御系が得られる。図10は、高慣性化および定慣性化制御を加えた振動抑制制御系全体のブロック図である。
(第3実施形態)
第3実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを図11に示す。この第3実施形態のオブザーバ200Aは、図5に示す第1実施形態のオブザーバ200において、物理パラメータ切り替え部206を新たに設けた構成を有している。この第3実施形態のオブザーバ200Aは、先端負荷の変動とそれに伴う摩擦力の変動に対しては、図11に示すように、物理パラメータ切り替え部206によって非線形動力学モデル203の物理パラメータセットの切り替え(ゲインスケジューリング)を行い、振動抑制性能がロボットの先端負荷および摩擦力の変動によらずにロバストになるようにする。物理パラメータセットを陽に切り替えるためには、例えば、“Payload(5kg)”のようなロボット言語を実装し、先端負荷が変化するタイミングで用いれば良い。なお、物理パラメータセットとしては、例えば質量、慣性モーメント、摩擦係数、バネ係数等が挙げられる。
図11に示す例では、物理パラメータ切り替え部206は、先端負荷が5、4、3、2、1、0kg、つまり6通りの物理パラメータセットを必要とする。しかし、5kgの物理パラメータセットさえ精度よく推定しておけば、上述した非線形最小2乗法による最適化の手法によって、先端負荷4kgの物理パラメータセットを生成することができる。同じ要領で4kgから3kg、3kgから2kg、2kgから1kg、2kgから0kgの物理パラメータセットを生成することができる。
(第4実施形態)
第4実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを図12に示す。この第4実施形態のオブザーバ200Bは、図5に示す第1実施形態のオブザーバ200において、物理パラメータ切り替え部206Aを新たに設けた構成を有している。この第4実施形態のオブザーバ200Bは、先端負荷の取り付け位置にオフセットがある場合を考慮する。この場合、先端負荷の慣性モーメントが大きく変化するので、図12に示すように、物理パラメータ切り替え部206Aは、オフセット量(例えば、0.0m、0.1m、0.2mの3種類など)を加味した物理パラメータのスケジューリングを行う。例えば、“Payload(5kg、0.1m)”のようなロボット言語を実装し、先端負荷が変化するタイミングで用いれば良い。物理パラメータとしては、図11に示す第3実施形態と同様に、例えば質量、慣性モーメント、摩擦係数、バネ係数等が挙げられる。
(第5実施形態)
第5実施形態によるロボット制御装置のオブザーバを図13に示す。この第5実施形態のオブザーバ200Cは、図5に示す第1実施形態のオブザーバ200において、テーブル記憶部207と、ステップ応答比較部208と、物理パラメータ最適化部209とを新たに設けた構成を有している。この第5実施形態のオブザーバ200Cは、先端負荷が5kg、4kg、3kg、2kg、1kg、0kgといった数値からずれていても良い。図13では、予め取得しておいた先端負荷の質量毎(5kg、4kg、3kg、2kg、1kg、0kg)の速度ステップ応答データと、その時の物理パラメータセットを格納するテーブル記憶部207が用意されている。
まず、未知の先端負荷を持つ実機の速度ステップ応答データを取得する。次に、取得した速度ステップ応答データと、テーブル記憶部207に格納された、先端負荷毎の速度ステップ応答データとをステップ応答データ比較部において比較する。そして、この比較結果に基づいて、実機の速度ステップ応答データに対応する先端負荷が、テーブル記憶部207に格納された先端負荷、例えば5kg、4kg、3kg、2kg、1kg、0kgのうちから最も近い先端負荷を選択し、この選択した先端負荷に対応する物理パラメータセットを初期値として選択する。実機の速度ステップ応答データに対応する先端負荷に最も近い先端負荷の選択は、例えば、実機の速度ステップ応答データと、テーブル記憶部207に格納された各先端負荷の速度ステップ応答データとの差の2乗の和が最小となる先端負荷を選択する。
さらに、上記初期値として選択された物理パラメータセットを用いて物理パラメータ最適化部209によって最適化計算を行う。この最適化計算は、上述した非線形最小2乗法による手法と全く同様である。以上によって、未知の先端負荷に対しても、精度の良い物理パラメータセットが得られるので、精度の良いオブザーバを構築でき、効果的な振動抑制制御を供することができる。
以上述べたように、各実施形態によれば、多リンクロボットアーム先端の振動抑制制御技術において、モータ角速度からリンク角速度を推定するオブザーバのエンジニアリングコストを大きく削減することが可能となる。さらに、ロボットの先端負荷および摩擦力の変動があってもロバストな振動抑制性能を発揮させることができる。
既存の速度PI制御系を再チューニングしなくて良く、振動抑制制御や高慣性化制御などの付加フィードバックを切り離せば、元のPI制御系に戻るという仕様は、現場のニーズに良くマッチしている。
本実施形態の非線形動特性モデルに基づくシミュレータを丸ごと制御装置に内蔵するという構成は、時間軸がロボットの100倍以上のプロセス制御の分野で用いられることがある。しかし、この方法は未来の(液面や圧力、温度などの)セットポイント制御を省エネルギーなどの観点から最適に行うことを目的としていて、ロボットなどリアルタイムでの目標値追従性能を出すためのサーボ制御には適さない。
特許文献1などに記載された手法は、非線形動力学モデルにおいて何らかの近似に基づいたオブザーバを用いているため、チャンピオンデータは出せても、広い動作範囲でロバストな振動制御性能は得られない。また、演算量削減やオブザーバゲインの調整など、エンジニアリングコストがかさむ。
その他、モータドライブメーカーも振動抑制制御方式やその適応制御およびオートチューニング方式など、多くの提案がされている。しかし、モータの負荷として考えた1リンク毎の弾性関節モデル+外乱推定とした汎用的なオブザーバに基づいているため、多リンクロボットアームの動力学モデルを陽に考慮した方式からは性能が劣ることになるのは当然である。
これに対し、本実施形態では、非線形動力学モデルにも基づく近似のないオブザーバを用いており、先端負荷および摩擦力の変動に対応した物理パラメータのゲインスケジューリングも行っているので、広い動作範囲でロバストな振動制御性能が得られる。さらに、先端負荷変動に伴う摩擦力の変動も考慮に入れており、質量や慣性に加えて摩擦係数もセットでゲインスケジューリングする。また、オブザーバゲインの設計が不要なので、エンジニアリングコストがかからないという大きな利点を有する。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
1…架台、2…第1軸、3…第1リンク、4…第1モータ、5…第1減速機、6…第1エンコーダ、7…第2軸、8…第2リンク、9…第2モータ、10…第2減速機、11…第2エンコーダ、12…先端負荷、13…制御装置、200…オブザーバ、201、202…PI制御器、203…2リンクアーム非線形動力学モデル、204a、204b、204c、204d、205a、205b、205c、205d…積分器、301、302、303、304…状態フィードバック部。

Claims (6)

  1. モータの回転軸とリンクの回転軸との間に弾性機構を有するロボットアームを制御対象とし、前記モータの角速度を比例積分制御して前記モータへ電流指令値を出力する角速度制御系を有するロボット制御装置であって、
    前記モータの角速度と前記電流指令値とを入力とし、前記ロボットアームの非線形動力学モデルを持ち、前記角速度制御系と等価なゲインを用いて比例積分制御される前記モータの角速度制御系のシミュレーションモデルから前記リンクの角加速度と、前記リンクの角速度と、前記モータの角速度とを推定するオブザーバと、
    前記オブザーバによって推定された前記リンクの角速度と、前記オブザーバによって推定された前記モータの角速度との差から軸ねじり角速度を算出し、前記角速度制御系にフィードバックする第1フィードバック部と、
    前記オブザーバによって推定された前記リンクの角加速度を前記角速度制御系にフィードバックする第2フィードバック部と、
    前記第2フィードバック部において、前記非線形動力学モデルで先端負荷が低慣性の場合に先端負荷質量を補償して高慣性化する第1フィードバック定数算出部と、
    を備えたロボット制御装置。
  2. 前記第2フィードバック部において、前記ロボットアームの姿勢変化で生じる慣性の低下を補償して前記姿勢変化に依らず定慣性化する第2フィードバック定数算出部を更に備えた請求項1記載のロボット制御装置。
  3. 前記非線形動力学モデルに設定する慣性モーメント、摩擦係数およびバネ係数を含む物理パラメータセットを前記ロボットアームの先端負荷の質量の区分によって切り替える物理パラメータ切り替え部を更に備えた請求項1または2記載のロボット制御装置。
  4. 前記非線形動力学モデルに設定する慣性モーメント、摩擦係数およびバネ係数を含む物理パラメータセットを、前記ロボットアームの先端負荷の質量の区分と、前記先端負荷の位置のオフセット量の区分とに基づいて切り替える物理パラメータ切り替え部を更に備えた請求項1乃至3のいずれかに記載のロボット制御装置。
  5. 前記物理パラメータ切り替え部は、
    予め用意しておいた先端負荷の質量毎の速度ステップ応答データと、前記速度ステップ応答データを得た時の前記物理パラメータとを格納するテーブル記憶部と、
    前記ロボットアームの速度ステップ応答データと、前記テーブル記憶部に格納された前記速度ステップ応答データとを比較し、この比較結果に基づいて前記物理パラメータの初期値を選択するステップ応答データ比較部と、
    前記ロボットアームの速度ステップ応答データを取得して、この取得した速度ステップ応答データと、前記テーブル記憶部に格納された、先端負荷の質量毎の前記速度ステップ応答データとを比較し、この比較結果に基づいて物理パラメータの初期値を推定し、この推定した物理パラメータを初期値として用いて前記ロボットのシミュレーションステップ応答波形が前記ロボットの実ステップ応答波形に合うように非線形最適化計算を行い、物理パラメータの最適化を行う物理パラメータ最適化部と、
    を更に備えた請求項1乃至4のいずれかに記載のロボット制御装置。
  6. 前記物理パラメータ最適化部は、前記テーブル記憶部に格納された先端負荷のなかから、前記取得した速度ステップ応答データと前記先端負荷の質量毎の前記速度ステップ応答データとの差の2乗の和が最小となる先端負荷を選択し、この選択した先端負荷に対応する物理パラメータを前記物理パラメータの初期値として推定する請求項5記載のロボット制御装置。
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