以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< §1.本発明に用いるホログラム記録媒体 >>>
はじめに、本発明の一実施形態に係る投射型映像表示装置の構成要素として用いるホログラム記録媒体の特徴を説明する。図1は、このホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。この光学系により、散乱板の像が記録されたホログラム記録媒体が作成される。
図の右上に示されているコヒーレント光源10は、コヒーレントな光ビームL10を生成する光源であり、実際には、断面が円形をした単色レーザ光を発生するレーザ光源が用いられている。このレーザ光源で生成されたコヒーレントな光ビームL10は、ビームスプリッタ20で2本のビームに分けられる。すなわち、光ビームL10の一部は、そのままビームスプリッタ20を透過して図の下方へと導かれ、残りの一部は、ビームスプリッタ20で反射して光ビームL20として図の左方へと導かれる。
ビームスプリッタ20を透過した光ビームL10は、散乱板の物体光Lobj を発生させる役割を果たす。すなわち、図の下方へと進んだ光ビームL10は、反射鏡11で反射して光ビームL11となり、更に、ビームエキスパンダー12によって径が広げられ、平行光束L12を構成し、散乱板30の右側の面の全領域に照射される。散乱板30は、照射された光を散乱する性質をもった板であり、一般に光学的拡散板とも呼ばれている。ここに示す実施例の場合、内部に光を散乱するための微小粒子(光の散乱体)が練り込まれた透過型散乱板(たとえば、オパールガラス板)を用いている。したがって、図示のとおり、散乱板30の右側の面に照射された平行光束L12は、散乱板30を透過して、左側の面から散乱光L30として射出する。この散乱光L30は、散乱板30の物体光Lobj を構成する。
一方、ビームスプリッタ20で反射した光ビームL20は、参照光Lref を発生させる役割を果たす。すなわち、ビームスプリッタ20から図の左方へと進んだ光ビームL20は、反射鏡21で反射して光ビームL21となり、更に、ビームエキスパンダー22によって径が広げられ、平行光束L22を構成し、点Cを焦点とする凸レンズ23で屈折された後にホログラム感光媒体40に照射される。なお、平行光束L22は、必ずしも厳密な平行光線の集合でなくても、ほぼ平行な光線の集合であれば、実用上は問題ない。ホログラム感光媒体40は、ホログラム像を記録するために用いる感光性の媒体である。このホログラム感光媒体40への照射光L23は、参照光Lref を構成する。
結局、ホログラム感光媒体40には、散乱板30の物体光Lobj と、参照光Lref とが照射されることになる。ここで、物体光Lobj および参照光Lref は、いずれもコヒーレント光源10(レーザ光源)で生成された同一波長λをもったコヒーレント光であるから、ホログラム感光媒体40には、両者の干渉縞が記録されることになる。別言すれば、ホログラム感光媒体40には、散乱板30の像がホログラムとして記録される。
図2は、図1に示す参照光L23(Lref )の断面S1とホログラム感光媒体40との位置関係を示す平面図である。ビームエキスパンダー22によって径が広げられた平行光束L22は円形断面を有しているため、凸レンズ23で集光された参照光Lref は、レンズの焦点Cを頂点とする円錐状に収束する。ただ、図1に示す例では、ホログラム感光媒体40が、この円錐の中心軸に対して斜めに配置されているため、参照光L23(Lref )をホログラム感光媒体40の表面で切断した断面S1は、図2に示すように楕円になる。
このように、図2に示す例では、参照光Lref は、ホログラム感光媒体40の全領域のうち、図にハッチングを示す領域内にのみ照射されるので、散乱板30のホログラムは、このハッチングを施した領域内にのみ記録されることになる。もちろん、ビームエキスパンダー22によって径がより大きな平行光束L22を生成し、径がより大きな凸レンズ23を用いれば、図3に示す例のように、参照光Lref の断面S2内に、ホログラム感光媒体40がそっくり含まれるようにすることもできる。この場合、図にハッチングを施したように、ホログラム感光媒体40の全面に散乱板30のホログラムが記録される。本発明に用いるホログラム記録媒体を作成する上では、図2,図3のいずれの形態で記録を行ってもかまわない。
続いて、散乱板30の像が、ホログラム感光媒体40上に記録される光学的なプロセスを、より詳しく見てみよう。図4は、図1に示す光学系における散乱板30およびホログラム感光媒体40の周囲の部分拡大図である。上述したように、参照光Lref は、円形断面を有する平行光束L22を、焦点Cをもつ凸レンズ23で集光したものであり、焦点Cを頂点とする円錐状に収束する。そこで、以下、この焦点Cを収束点と呼ぶことにする。ホログラム感光媒体40に照射される参照光L23(Lref )は、図示のとおり、この収束点Cに収束する光ということになる。
一方、散乱板30から発せられる光(物体光Lobj )は散乱光であるから、様々な方向に向かうことになる。たとえば、図示のように、散乱板30の左側面の上端に物体点Q1を考えると、この物体点Q1からは、四方八方に散乱光が射出される。同様に、任意の物体点Q2やQ3からも、四方八方に散乱光が射出される。したがって、ホログラム感光媒体40内の任意の点P1に着目すると、物体点Q1,Q2,Q3からの物体光L31,L32,L33と収束点Cへ向かう参照光Lref との干渉縞の情報が記録されることになる。もちろん、実際には、散乱板30上の物体点は、Q1,Q2,Q3だけではないので、散乱板30上のすべての物体点からの情報が、同様に、参照光Lref との干渉縞の情報として記録される。別言すれば、図示の点P1には、散乱板30の全情報が記録されることになる。また、全く同様に、図示の点P2にも、散乱板30の全情報が記録される。このように、ホログラム感光媒体40内のいずれの部分にも、散乱板30の全情報が記録されることになる。これがホログラムの本質である。
さて、このような方法で、散乱板30の情報が記録されたホログラム感光媒体40を、以下、ホログラム記録媒体45と呼ぶことにする。このホログラム記録媒体45を再生して、散乱板30のホログラム再生像を得るためには、記録時に用いた光と同一波長のコヒーレント光を、記録時の参照光Lref に応じた方向から、再生用照明光として照射すればよい。
図5は、図4に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45を用いて、散乱板の像35を再生するプロセスを示す図である。図示のとおり、ホログラム記録媒体45に対して、下方から再生用照明光Lrep が照射されている。この再生用照明光Lrep は、収束点Cに位置する点光源から球面波として発散するコヒーレント光であり、その一部分は、図示のように円錐状に広がりながらホログラム記録媒体45を照射する光になる。また、この再生用照明光Lrep の波長は、ホログラム記録媒体45の記録時の波長(すなわち、図1に示すコヒーレント光源10が発生するコヒーレント光の波長)に等しい。
ここで、図5に示すホログラム記録媒体45と収束点Cとの位置関係は、図4に示すホログラム感光媒体40と収束点Cとの位置関係と全く同じである。したがって、図5に示す再生用照明光Lrep は、図4に示す参照光Lref の光路を逆進する光に対応する。このような条件を満たす再生用照明光Lrep をホログラム記録媒体45に照射すると、その回折光L45(Ldif )によって、散乱板30のホログラム再生像35(図では、破線で示す)が得られる。図5に示すホログラム記録媒体45と再生像35との位置関係は、図4に示すホログラム感光媒体40と散乱板30との位置関係と全く同じである。
このように、任意の物体の像をホログラムとして記録し、これを再生する技術は、古くから実用化されている公知の技術である。ただ、一般的な用途に利用するホログラム記録媒体を作成する場合、参照光Lref として平行光束が用いられる。平行光束からなる参照光Lref を用いて記録したホログラムは、再生時にも、平行光束からなる再生用照明光Lrepを利用すればよいので、利便性に優れている。
これに対して、図4に示すように、収束点Cに収束する光を参照光Lref として利用すると、再生時には、図5に示すように、収束点Cから発散する光を再生用照明光Lrep として用いる必要がある。実際、図5に示すような再生用照明光Lrep を得るためには、特定の位置にレンズなどの光学系を配置する必要がある。また、再生時のホログラム記録媒体45と収束点Cとの位置関係が、記録時のホログラム感光媒体40と収束点Cとの位置関係に一致していないと、正確な再生像35が得られなくなるので、再生時の照明条件が限定されてしまう(平行光束を用いて再生する場合であれば、照明条件は照射角度だけが満足されていればよい)。
このような理由から、収束点Cに収束する参照光Lrefを用いて作成したホログラム記録媒体は、一般的な用途には不向きである。それにもかかわらず、ここに示す実施形態において、収束点Cに収束する光を参照光Lref として用いる理由は、再生時に行う光ビーム走査を容易にするためである。すなわち、図5では、説明の便宜上、収束点Cから発散する再生用照明光Lrep を用いて散乱板30の再生像35を生成する方法を示したが、本発明では、実際には、図示のように円錐状に広がる再生用照明光Lrep を用いた再生は行わない。その代わりに、光ビームを走査するという方法を採る。以下、この方法を詳しく説明する。
図6は、図4に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱板30の像35を再生するプロセスを示す図である。すなわち、この例では、収束点Cから媒体内の1点P1に向かう1本の光ビームL61のみが再生用照明光Lrep として与えられる。もちろん、光ビームL61は、記録時の光と同じ波長をもったコヒーレント光である。既に図4を参照して説明したとおり、ホログラム記録媒体45内の任意の点P1には、散乱板30全体の情報が記録されている。したがって、図6の点P1の位置に対して、記録時に用いた参照光Lref に対応した条件で再生用照明光Lrep を照射すれば、この点P1の近傍に記録されている干渉縞のみを用いて、散乱板30の再生像35を生成することが可能である。図6には、点P1からの回折光L45(Ldif )によって、再生像35が再生された状態が示されている。
一方、図7は、収束点Cから媒体内の別な点P2に向かう1本の光ビームL62のみを再生用照明光Lrep として与えた例である。この場合も、点P2には、散乱板30全体の情報が記録されているので、点P2の位置に対して、記録時に用いた参照光Lref に対応した条件で再生用照明光Lrep を照射すれば、この点P2の近傍に記録されている干渉縞のみを用いて、散乱板30の再生像35を生成することが可能である。図7には、点P2からの回折光L45(Ldif )によって、再生像35が再生された状態が示されている。図6に示す再生像35も、図7に示す再生像35も、同じ散乱板30を原画像とするものであるから、理論的には、同じ位置に生成される同じ再生像ということになる。
図8は、図6および図7に示す再生プロセスにおける光ビームの照射位置を示す平面図である。図8の点P1は、図6の点P1に対応し、図8の点P2は、図7の点P2に対応する。A1,A2は、それぞれ再生用照明光Lrep の断面を示している。断面A1,A2の形状および大きさは、光ビームL61,L62の断面の形状および大きさに依存する。また、ホログラム記録媒体45上の照射位置にも依存する。ここでは、便宜上、円形の断面A1,A2を示しているが、実際には、円形断面をもつ光ビームL61,L62を用いた場合、断面形状は照射位置に応じて扁平した楕円になる。
このように、図8に示す点P1近傍と、点P2近傍では、それぞれ記録されている干渉縞の内容は全く異なるものであるが、いずれの点に再生用照明光Lrep となる光ビームを照射した場合でも、同じ位置に同じ再生像35が得られることになる。これは、再生用照明光Lrep が収束点Cから各点P1,P2に向かう光ビームであるため、いずれの点についても、図4に示す記録時の参照光Lref の向きに応じた向きの再生用照明光Lrep が与えられるためである。
図8には、2つの点P1,P2のみを例示したが、もちろん、ホログラム記録媒体45上の任意の点についても同様のことが言える。したがって、ホログラム記録媒体45上の任意の点に光ビームを照射した場合、当該光ビームが収束点Cからの光である限り、同一位置に同一の再生像35が得られることになる。もっとも、図2に示すように、ホログラム感光媒体40の一部分の領域(図にハッチングを施して示す領域)にのみホログラムを記録した場合、再生像35が得られるのは、当該領域内の点に光ビームを照射した場合に限られる。
結局、ここで述べたホログラム記録媒体45は、特定の収束点Cに収束する参照光Lref を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている媒体であり、この収束点Cを通る光ビームを再生用照明光Lrep として任意の位置に照射すると、散乱板30の再生像35が生成される、という特徴を有している。したがって、再生用照明光Lrep として、収束点Cを通る光ビームを、ホログラム記録媒体45上で走査すると、個々の照射箇所から得られる回折光Ldif によって、同一の再生像35が同一位置に再生されることになる。
<<< §2.本発明の基本的実施形態に係る投射型映像表示装置 >>>
本発明の特徴は、投射型映像表示装置に、スペックル抑制機能をもった特有の照明ユニットを採用した点にある。そこで、まず、本発明の基本的実施形態に係る投射型映像表示装置が採用する照明ユニット100の構成を、図9の側面図を参照しながら説明する。図示のとおり、この照明ユニット100は、ホログラム記録媒体45、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。
ここで、ホログラム記録媒体45は、§1で述べた特徴を有する媒体であり、散乱板30の像35が記録されている。また、コヒーレント光源50は、ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源である。
一方、光ビーム走査装置60は、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を、所定の走査基点Bで屈曲させてホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームL50の屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する装置である。このような装置は、一般に、走査型ミラーデバイスとして公知の装置である。図には、説明の便宜上、時刻t1における屈曲態様を一点鎖線で示し、時刻t2における屈曲態様を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてホログラム記録媒体45の点P(t1)に照射されるが、時刻t2では、光ビームL50は、走査基点Bで屈曲し光ビームL60(t2)としてホログラム記録媒体45の点P(t2)に照射される。
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における屈曲態様しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームの屈曲方向は滑らかに変化し、光ビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置は、図の点P(t1)〜P(t2)へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL60の照射位置は、ホログラム記録媒体45上において点P(t1)〜P(t2)へと走査されることになる。
ここで、走査基点Bの位置を、図4に示す収束点Cの位置に一致させておけば(別言すれば、図9におけるホログラム記録媒体45と走査基点Bとの位置関係が、図4におけるホログラム感光媒体40と収束点Cとの位置関係に等しくなるようにしておけば)、ホログラム記録媒体45の各照射位置において、光ビームL60は、図4に示す参照光Lref に応じた向き(図4に示す参照光Lref の光路を逆進する向き)に照射されることになる。したがって、光ビームL60は、ホログラム記録媒体45の各照射位置において、そこに記録されているホログラムを再生するための正しい再生用照明光Lrep として機能する。
たとえば、時刻t1では、点P(t1)からの回折光L45(t1)によって、散乱板30の再生像35が生成され、時刻t2では、点P(t2)からの回折光L45(t2)によって、散乱板30の再生像35が生成される。もちろん、時刻t1〜t2の期間においても、光ビームL60が照射された個々の位置からの回折光によって、同様に散乱板30の再生像35が生成される。すなわち、光ビームL60が、走査基点Bからホログラム記録媒体45へ向かう光である限り、ホログラム記録媒体45上のどの位置に光ビームL60が照射されたとしても、照射位置からの回折光によって、同一の再生像35が同一位置に生成されることになる。
このような現象が起こるのは、図4に示すとおり、ホログラム記録媒体45には、特定の収束点Cに収束する参照光L23を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されており、光ビーム走査装置60が、この収束点Cを走査基点Bとして光ビームL60の走査を行うためである。もちろん、光ビーム走査装置60による走査を停止して、光ビームL60の照射位置をホログラム記録媒体45上の1点に固定したとしても、同じ再生像35が同一位置に生成され続けることに変わりはない。それにもかかわらず、光ビームL60を走査するのは、スペックルノイズを抑制するために他ならない。
図10は、図9に示す照明ユニット100を用いて、照明対象物70を照明している状態を示す側面図である。照明ユニット100は、ホログラム記録媒体45から得られる散乱板の像35の再生光を照明光として用いる装置である。ここでは、照明対象物70の左側面を照明ユニット100によって照明するために、図示のように、散乱板の再生像35の左側面に照明対象物70の左側面が一致するような位置に、照明対象物70を配置した場合を考えてみる。この場合、照明対象物70の左側面が受光面Rとなり、ホログラム記録媒体45からの回折光は、この受光面Rに照射されることになる。
そこで、この受光面R上に任意の着目点Qを設定し、この着目点Qに到達する回折光がどのようなものかを考えてみる。まず、時刻t1では、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、図に一点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)として点P(t1)に照射される。そして、点P(t1)からの回折光L45(t1)が着目点Qに到達する。一方、時刻t2では、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、図に二点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t2)として点P(t2)に照射される。そして、点P(t2)からの回折光L45(t2)が着目点Qに到達する。
結局、このような回折光によって、着目点Qの位置には、常に、散乱板30の着目点Qの位置に対応する再生像が生成されることになるが、着目点Qに対する回折光の入射角は、時刻t1と時刻t2とで異なる。別言すれば、光ビームL60を走査した場合、受光面R上に形成される再生像35に変わりはないものの、受光面R上の個々の点に到達する回折光の入射角度は時間とともに変化することになる。このような入射角度の時間変化は、スペックルを低減させる上で大きな貢献を果たす。
前述したとおり、コヒーレント光を用いるとスペックルが発生する理由は、受光面Rの各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うためである。ところが、本発明では、光ビームL60の走査により、受光面Rの各部への回折光の入射角度が時間的に変動するため、干渉の態様も時間的に変動し、多重度をもつことになる。このため、スペックルの発生要因は、時間的に分散し、生理的に悪影響を与える斑点状の模様が定常的に観察される事態を緩和することができる。これが図10に示す照明ユニット100のもつ有利な特徴である。
本発明に係る投射型映像表示装置は、このような特徴をもつ照明ユニット100を用いて、空間光変調器に対する照明を行い、スクリーン上に映像表示を行う装置である。以下、その構成および動作を、図11に示す上面図を参照しながら説明する。
図11に示すとおり、この投射型映像表示装置は、照明ユニット100、空間光変調器200、投射光学系300を備えており、スクリーン400上に映像表示を行う機能を有している。照明ユニット100は、図9および図10に示す照明ユニット100であり、図11では、空間光変調器200が照明対象物70に相当する。なお、図9,図10では、照明ユニット100を側面図として示したが、図11は、説明の便宜上、投射型映像表示装置の上面図を示している。したがって、図11に示す照明ユニット100は、図9,図10に示す照明ユニット100の各構成要素を、上面から見たときに図示の状態になるように配置したものである。
空間光変調器200は、この照明ユニット100からの照明を受けるのに適した位置に配置されている。より具体的に説明すれば、空間光変調器200が配置されている位置に、散乱板30のホログラム再生像35が生成されるように、照明ユニット100と空間光変調器200との位置関係が調整されている。したがって、空間光変調器200と再生像35とは、空間上で同一の位置を占めることになる。
空間光変調器200として、たとえば、透過型の液晶マイクロディスプレイを用いることにすれば、このディスプレイの画面上に変調画像が得られることになる。あるいは、透過型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)素子を空間光変調器200として用いてもよい。こうして得られた変調画像を、投射光学系300によってスクリーン400へ投射すれば、スクリーン400上に、拡大された変調画像が表示されることになる。これが、ここに示す投射型映像表示装置の基本動作原理である。
なお、空間光変調器200としては、反射型の液晶マイクロディスプレイや反射型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)素子を用いることも可能である。その場合、図11において、照明ユニット100が空間光変調器200の斜め上方から光を照射できるように、各構成要素の配置を変更し、空間光変調器200からの反射光が、投射光学系300によってスクリーン400へ投射されるようにすればよい。このような反射光を利用する場合、空間光変調器200としてDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:Digital Micromirror Device)などのMEMS素子を用いることも可能である。
既に述べたとおり、レーザなどのコヒーレント光源を利用した従来の一般的な投射型映像表示装置では、スクリーン上にスペックルが発生する問題が生じる。これに対して、図11に示す装置では、スクリーン上に発生するスペックルを大幅に抑制することが可能である。その第1の理由は、ホログラム記録媒体45に記録されている散乱板の像が、空間光変調器200の位置に重畳して、ホログラム再生実像35として生成されるためであり、第2の理由は、このホログラム再生実像35が、光ビーム走査によって生成された像であるためである。以下、これらの理由を詳細に説明する。
空間光変調器200は、液晶マイクロディスプレイ、DMD、LCOSなどの実在の装置であるのに対して、ホログラム再生実像35は光学的な再生像である。したがって、両者は同一空間上に重複して配置することが可能である。図11には、実在の空間光変調器200のみしか描かれていないが、この同じ空間位置に、ホログラム記録媒体45によって再生された散乱板のホログラム再生実像35が重なることになる。
もっとも、こうして得られたホログラム再生実像35の実体は、ホログラム記録媒体45上に形成された干渉縞によって回折させられたコヒーレント光であり、空間光変調器200は、このようなコヒーレント光による照明を受けながら、所定の変調画像を生成することになる。たとえば、空間光変調器200として、透過型の液晶マイクロディスプレイを用いた場合、ディスプレイを透過した照明光の濃淡パターンとして、変調画像が得られることになる。
投射光学系300は、こうして空間光変調器200上に得られた変調画像を、スクリーン400上に投射する機能を果たす。空間光変調器200として、透過型の液晶マイクロディスプレイを用いた場合であれば、このディスプレイ上に形成された変調画像が、スクリーン400上に拡大して投射され、映像表示が行われる。
投射光学系300は、空間光変調器200上に得られた変調画像を、スクリーン400上に投射する機能をもった光学系であれば、どのようなものを用いてもかまわない。図では、説明の便宜上、投射光学系300を1枚のレンズで示しているが、通常は、焦点距離を調節できるよう、複数枚のレンズによって構成される。なお、図示の例は、視点をスクリーン400の手前(図11におけるスクリーン400の下方)に置いて観察する前方投射型の装置であるが、視点をスクリーン400の向こう側(図11におけるスクリーン400の上方)に置いて観察する後方投射型の装置(いわゆる、リアプロジェクタ装置)として利用することも可能である。
一般に、投射型映像表示装置において生じるスペックルには、照明光の光源側に起因して生じるスペックルと、スクリーン側に起因して生じるスペックルとがある。前者は、空間光変調器上の照明光に既に含まれているスペックルであり、光源側の要因に基づいて発生したものである。一方、後者は、スクリーン上の散乱に起因して発生するスペックルである。
前掲の特開平6−208089号公報や特開2004−144936号公報に開示されている技術では、光源側で照明光を散乱板に照射し、この散乱板を回転駆動したり、振動させたりして、光源側のスペックルを低減させている。しかしながら、この方法では、光源側に起因して生じるスペックルは低減するが、スクリーン側に起因して生じるスペックルを低減させることはできない。また、散乱板を回転させたり、振動させたりするために、大掛かりな機械的な駆動系が必要になる問題があることも既に述べたとおりである。
本発明では、光源側に起因して生じるスペックルとスクリーン側に起因して生じるスペックルとの双方を低減することができる。まず、光源側に起因して生じるスペックルが低減する理由は、空間光変調器200に対する照明を、散乱板のホログラム再生実像35によって行ったためである。空間光変調器200によって生成される変調画像は、散乱板のホログラム像35による照明を受けることになる。もともとホログラム像35の各点は、ホログラム記録媒体45の様々な点からの光によって構成されることになるので、光の照射角度に関する多重化が行われている。よって、空間光変調器200に対する照明手段として、散乱板のホログラム再生実像35を採用したことによって、光源側に起因して生じるスペックルの低減が図れることになる。
本発明に用いる照明ユニット100では、図11に示すとおり、ホログラム記録媒体45に対して光ビームL60を走査して再生像35を得ているが、光源側に起因して生じるスペックルを低減する上では、必ずしも光ビームの走査を行う必要はない。すなわち、光ビームL65を静止させて、ホログラム記録媒体45の1箇所のみを照射し続けたとしても、光ビーム65の照射を受けるスポット領域(ここに示す例の場合、直径1mmの円形領域)に記録されている干渉縞の各部からの回折光によって多重化された再生像35が生成されるので、光源側に起因して生じるスペックルの低減効果が得られる。
それにもかかわらず、本発明において、わざわざ光ビームL65の走査を行う理由は、スクリーン側に起因して生じるスペックルを低減するためである。以下、この点を、図11を参照しながら説明しよう。
この図11においても、説明の便宜上、時刻t1における光の光路を一点鎖線で示し、時刻t2における光の光路を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてホログラム記録媒体45の点P(t1)に照射される。そして、この点P(t1)の近傍(光ビームのスポット内)に記録されている干渉縞に基づいて、空間光変調器200の位置に、散乱板の再生像35が形成される。図に一点鎖線で示す光L45(t1)は、このような再生像35の両端点E1,E2を形成するための回折光を示している。
この回折光L45(t1)は、空間光変調器200を透過した後、投射光学系300を通り、図に一点鎖線で示すように、投影光L300(t1)として、スクリーン400上へ照射される。図に示す点G1,G2は、それぞれ再生像35の両端点E1,E2に対応する投影点である。
続いて、時刻t2における光の挙動を考えてみよう。時刻t2では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、二点鎖線で示す光ビームL60(t2)としてホログラム記録媒体45の点P(t2)に照射される。そして、この点P(t2)の近傍(光ビームのスポット内)に記録されている干渉縞に基づいて、空間光変調器200の位置に、散乱板の再生像35が形成される。図に二点鎖線で示す光L45(t2)は、このような再生像35の両端点E1,E2を形成するための回折光を示している。
この回折光L45(t2)は、空間光変調器200を透過した後、投射光学系300を通り、図に二点鎖線で示すように、投影光L300(t2)として、スクリーン400上へ照射される。図に示す点G1,G2は、それぞれ再生像35の両端点E1,E2に対応する投影点である。図示のとおり、時刻t1における投影点G1,G2の位置と、時刻t2における投影点G1,G2の位置とは一致する。これは、投射光学系300が、空間光変調器200上の画像をスクリーン400上に拡大投影するように調整されており、再生像35が、空間光変調器200の位置に生成されることを考えれば当然である。すなわち、空間光変調器200をどのような方向から照明しても、スクリーン400上にその拡大像が形成されることに変わりはない。
結局、光ビーム走査装置60により光ビームL60を走査したとしても、再生像35の両端点E1,E2のスクリーン上の投影点G1,G2の位置に変わりはなく、空間光変調器200上の画像がスクリーン400上に拡大投影される位置に変わりはない。しかしながら、スクリーン400上の1点に着目すると、投射光の入射角度が多重化されていることがわかる。これは、図10に示す着目点Qに到達する回折光の入射角度が多重化される理由と同じである。すなわち、時刻t1における投射光の入射角度と時刻t2における投射光の入射角度との間には、投影点G1に関しては偏差θ1だけの差が生じ、投影点G2に関しては偏差θ2だけの差が生じる。
このように、ホログラム記録媒体45に照射する光ビームL60を走査することにより、スクリーン400上の個々の点に到達する投射光の入射角度は時間とともに変化することになる。こうして、入射角度を時間的に変化させると、スクリーン400の表面において生じる干渉の態様も時間的に変動し、多重度をもつことになる。このため、スペックルの発生要因は、時間的に分散し、生理的に悪影響を与える斑点状の模様が定常的に観察される事態を緩和することができる。これが、スクリーン側に起因して生じるスペックルが低減する理由である。
かくして、本発明に係る投射型映像表示装置では、光源側に起因して生じるスペックルとスクリーン側に起因して生じるスペックルとの双方を低減することができる。しかも、光ビーム走査装置60は、比較的小型の装置で実現することができるので、散乱板を回転させたり、振動させたりする従来装置に比べて、照明ユニット100を小型化することが可能であり、消費電力も低く抑えることができる。
<<< §3.照明ユニット各部の詳細な説明 >>>
図9に示す照明ユニット100は、§2で述べたとおり、ホログラム記録媒体45、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。ここでは、これら各構成要素について、より詳細な説明を行う。
<3−1> コヒーレント光源
まず、コヒーレント光源50としては、ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源を用いればよい。もっとも、コヒーレント光源50が発生させる光ビームL50の波長は、ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光の波長と完全に同一である必要はなく、近似する波長であれば、ホログラムの再生像を得ることができる。要するに、本発明に用いるコヒーレント光源50は、散乱板の像35を再生することが可能な波長をもったコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源であればよい。
実際には、図5に示すコヒーレント光源10と同一の光源を、そのままコヒーレント光源50として利用することができる。ここに示す実施形態の場合、波長λ=532nm(緑色)のレーザ光を射出することが可能なDPSS(Diode Pumped Solid State)レーザ装置をコヒーレント光源50として用いた。DPSSレーザは、小型でありながら比較的高出力の所望の波長のレーザ光を得ることができるため、本発明に係る照明ユニット100への利用に適したコヒーレント光源である。
このDPSSレーザ装置は、一般的な半導体レーザに比べてコヒーレント長が長いため、スペックルが発生しやすく、従来は、照明の用途には不適当と考えられていた。すなわち、従来は、スペックルを低減させるためには、レーザ光の発振波長に幅をもたせ、できるだけコヒーレント長を短くする努力が払われてきた。これに対して、本発明では、コヒーレント長が長い光源を用いたとしても、前述した原理により、スペックルの発生を効果的に抑制することができるので、光源としてDPSSレーザ装置を用いたとしても、実用上、スペックルの発生は問題にならなくなる。このような点において、本発明を利用すれば、光源の選択範囲をより広げる効果が得られる。
<3−2> 光ビーム走査装置
光ビーム走査装置60は、ホログラム記録媒体45上で、光ビームを走査する機能をもった装置である。ここでは、この光ビーム走査装置60によるビーム走査の具体的な方法を述べておく。図12は、図9に示す照明ユニット100におけるホログラム記録媒体45上の光ビームの走査態様の第1の例を示す平面図である。この例では、ホログラム記録媒体45として、横幅Da=12mm、縦幅Db=10mmの媒体を用い、この媒体上を走査する光ビームL60として、直径1mmの円形断面をもったレーザビームを用いている。図示のとおり、CRTにおける電子線の走査と同様に、光ビームL60の照射位置を、第1行目の開始領域A1Sから終了領域A1Eまで水平方向に走査し、続いて、第2行目の開始領域A2Sから終了領域A2Eまで水平方向に走査し、... 、最後に、第n行目の開始領域AnSから終了領域AnEまで水平方向に走査し、再び、第1行目の開始領域A1Sへ戻って、同様の作業を繰り返す方法が採られている。
この図12に示す走査方法では、ホログラム記録媒体45の全面が光ビームによる走査を受けることになるが、本発明では、必ずしもホログラム記録媒体45の全面を漏れなく走査する必要はない。たとえば、図13は、図12に示す走査方法における奇数行目の走査のみを行い、偶数行目の走査を省略した例である。このように、1行おきに走査を行うと、ホログラム記録媒体45の一部の領域に記録されているホログラム情報は、像の再生に全く寄与しないことになるが、それでも特に問題が生じることはない。図14は、更に極端な走査方法を示す例であり、縦幅Dbの中央位置において、開始領域A1Sから終了領域A1Eまで水平方向に1行だけ走査する作業を繰り返し行うものである。
もちろん、走査方向の設定も自由であり、1行目の走査を左から右へ行った後、2行目の走査を右から左へ行うようにしてもよい。また、走査方向は必ずしも直線に限定されるものではなく、ホログラム記録媒体45上で円を描くような走査を行うことも可能である。
なお、図2に示す例のように、ホログラム感光媒体40の一部の領域(ハッチングを施した領域)にのみ参照光Lref を照射して記録を行った場合は、他の領域(外側の白い領域)にはホログラムが記録されていない。このような場合、外側の白い領域まで走査を行うと再生像35が得られないため、照明が一時的に暗くなってしまう。したがって、実用上は、ホログラムが記録されている領域内のみを走査するようにするのが好ましい。
既に述べたとおり、ホログラム記録媒体45上における光ビームの走査は、光ビーム走査装置60によって行われる。この光ビーム走査装置60は、コヒーレント光源50からの光ビームL50を、走査基点B(ホログラム記録時の収束点C)で屈曲させてホログラム記録媒体45に照射する機能を有する。しかも、その屈曲態様(屈曲の方向と屈曲角度の大きさ)を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。このような機能をもった装置は、走査型ミラーデバイスとして種々の光学系で利用されている。
たとえば、図9に示す例では、光ビーム走査装置60として、便宜上、単なる反射鏡の図が描かれているが、実際には、この反射鏡を2軸方向に回動させる駆動機構が備わっている。すなわち、図示の反射鏡の反射面の中心位置に走査基点Bを設定し、この走査基点Bを通り、反射面上で互いに直交するV軸およびW軸を定義した場合に、この反射鏡をV軸(図の紙面に垂直な軸)まわりに回動させる機構と、W軸(図に破線で示す軸)まわりに回動させる機構とが備わっている。
このように、V軸およびW軸まわりに独立して回動可能な反射鏡を用いれば、反射した光ビームL60を、ホログラム記録媒体45上で水平方向および垂直方向に走査することが可能である。たとえば、上述の機構において、反射光をV軸まわりに回動すれば、図12に示すホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を水平方向に走査することができ、W軸まわりに回動すれば、垂直方向に走査することができる。
要するに、光ビーム走査装置60が、走査基点Bを含む平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能を有していれば、ホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を一次元方向に走査することができる。図14に示す例のように、光ビームを水平方向にのみ走査を行う運用をとるのであれば、光ビーム走査装置60は、ホログラム記録媒体45上での光ビームの照射位置を一次元方向に走査する機能を有していれば足りる。
これに対して、ホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を二次元方向に走査する運用をとるのであれば、光ビーム走査装置60に、走査基点Bを含む第1の平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能と(図9において、V軸まわりに反射鏡を回動させれば、光ビームL60は、紙面に含まれる平面上で揺動運動を行う)、走査基点Bを含み第1の平面と直交する第2の平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能と(図9において、W軸まわりに反射鏡を回動させれば、光ビームL60は、紙面に垂直な平面上で揺動運動を行う)、をもたせておけばよい。
光ビームの照射位置を一次元方向に走査するための走査型ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラーが広く利用されている。また、二次元方向に走査するための走査型ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラーを2組組み合わせたものを用いることもできるし、ジンバルミラー、ガルバノミラー、MEMSミラーなどのデバイスが知られている。更に、通常のミラーデバイス以外でも、全反射プリズム、屈折プリズム、電気光学結晶(KTN結晶など)等も、光ビーム走査装置60として利用可能である。
なお、光ビームL60の径が、ホログラム記録媒体45の寸法に近くなると、スペックルを抑制する効果が損なわれることがあるので留意する必要がある。図12〜図14に示す例の場合、上述したとおり、ホログラム記録媒体45の横幅はDa=12mm、縦幅はDb=10mmであり、光ビームL60は直径1mmの円形断面をもったレーザビームである。このような寸法条件であれば、スペックルを抑制する効果が十分に得られる。これは、ホログラム記録媒体45上のいずれの領域も、光ビームL60の照射を一時的に受けるだけであり、同一領域から継続して回折光が出ることはないためである。
ところが、たとえば、図15に示す例のように、ホログラム記録媒体45の寸法に近い径をもった光ビームを照射した場合、継続して回折光を出し続ける領域(図のハッチング部分)が形成されることになる。すなわち、光ビームL60の照射位置を、第1行目の開始領域A1Sから終了領域A1Eまで水平方向に走査したとしても、図にハッチングを施した領域a1は、常に光ビームの照射を受けることになる。同様に、第n行目の開始領域AnSから終了領域AnEまで水平方向に走査したとしても、領域a2は、常に光ビームの照射を受けることになる。また、垂直方向の走査を考えると、各行の開始領域に関しては領域a3が、各行の終了領域に関しては領域a4が、それぞれ重複した領域となるので、走査する行を変えても、常に光ビームの照射を受けることになる。
結局、これらハッチングを施した領域については、光ビーム走査の恩恵を受けることができず、継続して回折光が出ることになる。その結果、そのような領域から発せられた回折光は、照明対象物の受光面R上に同一角度で入射し続けることになり、スペックル発生の要因となる。したがって、光ビームL60の径は、ホログラム記録媒体45の寸法に近いほど大きくすべきではない。
このような弊害は、走査ピッチを光ビームL60の径より小さく設定した場合にも生じる。たとえば、図12は、縦方向の走査ピッチを光ビームL60の径に等しく設定した例であり、図13は、縦方向の走査ピッチを光ビームL60の径の2倍に設定した例である。このように、縦方向(副走査方向)の走査ピッチを光ビームの径以上に設定しておけば、第i行目の走査領域と第(i+1)行目の走査領域とが重複することはないが、走査ピッチが光ビームの径未満になると、重複領域が発生し、上述したようにスペックル発生の要因になる可能性がある。
また、遅い走査速度も、スペックル発生の要因になる。たとえば、1行の走査に1時間を要するような遅い速度で走査したとしても、人間の視覚的な時間分解能の観点からは、走査を行っていないのと同じであり、スペックルが認識されることになる。光ビームを走査することによりスペックルが低減するのは、前述したとおり、受光面Rの各部に照射される光の入射角度が時間的に多重化されるためである。したがって、ビーム走査によるスペックル低減の効果を十分に得るためには、スペックルを生じさせる原因となる同一の干渉条件が維持される時間が、人間の視覚的な時間分解能よりも短くなるようにすればよい。
一般に、人間の視覚的な時間分解能の限界は、1/20〜1/30秒程度とされており、1秒間に20〜30フレーム以上の静止画像を提示すれば、人間には滑らかな動画として認識される。このような点を考慮すれば、光ビームの直径をdとした場合、1/20〜1/30秒でd以上の距離を進む走査速度(秒速20d〜30dの速度)で走査を行えば、十分なスペックル抑制効果が得られることになる。
<3−3> ホログラム記録媒体
ホログラム記録媒体45については、既に§1において、詳細な製造プロセスを述べたとおりである。すなわち、本発明に用いるホログラム記録媒体45は、特定の収束点Cに収束する参照光を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている、という特徴を有している媒体であればよい。そこで、ここでは、本発明に利用するのに適した具体的なホログラム記録媒体の形態を述べておく。
ホログラムには、いくつかの物理的な形態がある。本願発明者は、本発明に利用するには、体積型ホログラムが最も好ましいと考えている。特に、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムを用いるのが最適である。
一般に、キャッシュカードや金券などに偽造防止用シールとして利用されているホログラムは、表面レリーフ(エンボス)型ホログラムと呼ばれており、表面の凹凸構造によってホログラム干渉縞の記録が行われる。もちろん、本発明を実施する上では、散乱板30の像を、表面レリーフ型ホログラムとして記録しているホログラム記録媒体45(一般に、ホログラフィック・ディフーザーと呼ばれている)を利用することも可能である。しかしながら、この表面レリーフ型ホログラムの場合、表面の凹凸構造による散乱が、新たなスペックル生成要因となる可能性があるため、スペックルを低減させる、という観点からは好ましくない。また、表面レリーフ型ホログラムでは、多次回折光が発生するため、回折効率が低くなり、更に、回折性能(回折角をどこまで大きくできるかという性能)にも限界がある。
これに対して、体積型ホログラムでは、媒体内部の屈折率分布としてホログラム干渉縞の記録が行われるため、表面の凹凸構造による散乱による影響を受けることはない。また、一般に、回折効率や回折性能も表面レリーフ型ホログラムより優れている。したがって、本発明を実施する際には、散乱板30の像を、体積型ホログラムとして記録している媒体をホログラム記録媒体45として利用するのが最適である。
ただ、体積型ホログラムでも、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプのものは、銀塩粒子による散乱が新たなスペックル生成要因となる可能性があるため、避けた方が好ましい。このような理由から、本願発明者は、本発明に利用するホログラム記録媒体45としては、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムが最適であると考えている。このようなフォトポリマーを用いた体積型ホログラムの具体的な化学組成は、たとえば、特許第2849021号公報に例示されている。
もっとも、量産性という点では、体積型ホログラムよりも表面レリーフ型ホログラムの方が優れている。表面レリーフ型ホログラムは、表面に凹凸構造をもった原版を作成し、この原版を用いたプレス加工により、媒体の量産を行うことができる。したがって、製造コストを低減させる必要がある場合には、表面レリーフ型ホログラムを利用すればよい。
また、ホログラムの物理的な形態としては、平面上に濃淡パターンとして干渉縞を記録した振幅変調型ホログラムも広く普及している。しかしながら、この振幅変調型ホログラムは、回折効率が低く、濃いパターン部分で光の吸収が行われてしまうため、本発明に利用した場合、十分な照明効率を確保することができない。ただ、その製造工程では、平面上に濃淡パターンを印刷する簡便な方法を採ることができるため、製造コストの点ではメリットが得られる。したがって、用途によっては、振幅変調型ホログラムを本発明に採用することも可能である。
なお、図1に示す記録方法では、いわゆるフレネルタイプのホログラム記録媒体が作成されることになるが、散乱板30をレンズを通して記録することにより得られるフーリエ変換タイプのホログラム記録媒体を作成してもかまわない。この場合、必要に応じて、回折光L45の光路上にレンズを設けて集光するようにし、照明効率を向上させるようにしてもよいが、レンズなしでも照明ユニット100としての機能を十分に果たすことができる。
<<< §4.本発明に用いる照明ユニットの変形例 >>>
これまで、本発明に係る投射型映像表示装置を、基本的な実施形態について述べてきた。この基本的な実施形態の特徴は、図9に示すような、固有の特徴を有する照明ユニット100を用いて、空間光変調器200に対する照明を行う点にある。
照明ユニット100を利用して照明を行う場合、まず、散乱板30の像35をホログラムとして記録用媒体40上に記録することによりホログラム記録媒体45を作成する準備段階を行い、この準備段階で作成したホログラム記録媒体45を用いて照明ユニット100を構成し、散乱板30の再生像35の生成位置に空間光変調器200を配置した状態で、ホログラム記録媒体45上にコヒーレントな光ビームL60を照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するようにこの光ビームL60をホログラム記録媒体45上で走査する照明段階を行うことになる。
この場合、準備段階では、図1に示すように、コヒーレントな照明光L12を散乱板30に照射し、散乱板30から得られる散乱光L30を物体光Lobj として用いる。また、所定光路に沿って記録用媒体40に照射され、照明光L12と同一波長のコヒーレントな光L23を参照光Lref として用いる。そして、物体光Lobj と参照光Lref とによって形成される干渉縞を記録用媒体40に記録することによりホログラム記録媒体45を作成する。また、照明段階では、図9に示すように、参照光Lref と同一波長(もしくは、ホログラムの再生が可能な近似波長)の光ビームL60が、参照光Lref の光路に沿った光路を通ってホログラム記録媒体45上の照射位置へ向かうように走査を行い(別言すれば、参照光Lref と光学的に共役になる方向から光ビームL60を与え)、ホログラム記録媒体45から得られる、散乱板30の像35の再生光を照明光とすることになる。
ここでは、上述した基本的な実施形態に係る照明ユニット100について、いくつかの変形例を述べておく。
<4−1> 一次元走査を前提としたホログラム記録媒体
図1に示すホログラム記録媒体の作成プロセスでは、平行光束L22を凸レンズ23(収束点Cの位置に焦点を有するレンズ)で集光して参照光Lref として媒体40に照射している。すなわち、収束点Cを頂点とした円錐(理論的には、互いに半径の異なる円錐が無限に存在する)の側面に沿って、収束点Cに三次元的に収束する参照光Lref を用いて散乱板30の像が記録されることになる。
このように三次元的に収束する参照光Lref を用いているのは、図9に示す照明ユニット100において、走査基点Bから三次元的に発散する光路をとるように、光ビームL60を三次元的に走査すること(反射鏡のV軸まわりの回動とW軸まわりの回動とを組み合わせてビームを走査すること)を前提としているためである。そして、光ビームL60を三次元的に走査する理由は、ホログラム記録媒体45上における光ビームの照射位置を二次元的に走査するため(図12において、横方向の走査と縦方向の走査とを行うため)である。
ただ、ホログラム記録媒体45上における光ビームの照射位置の走査は、必ずしも二次元的に行う必要はない。たとえば、図14には、光ビームを水平方向にのみ走査する例が示されている。このように、光ビームの照射位置を一次元的に走査することを前提とすれば、ホログラム記録媒体も、そのような前提で作成しておく方が合理的である。具体的には、一次元的な走査が前提であれば、図14に示すようなホログラム記録媒体45を作成する代わりに、図16に示すような帯状のホログラム記録媒体85を作成すれば足りる。
このホログラム記録媒体85を用いた場合、光ビーム走査装置60による走査は、左端の起点領域A1Sから右端の終点領域A1Eに至る1行分の走査を繰り返せばよい。この場合、左から右へと向かう1行分の走査を繰り返してもよいし、左から右へ走査したら、今度は右から左へ走査する、というような往復運動を行ってもかまわない。用いる光ビームL60が直径1mmの円形断面をもったレーザビームである場合、図16に示すホログラム記録媒体85の縦幅は、Db=1mmとすれば十分である。したがって、図14に示すホログラム記録媒体45を用いる場合に比べて省スペース化を図ることができ、装置全体を小型化することが可能になる。
このような一次元走査を前提としたホログラム記録媒体85は、図1に示す光学系を用いて作成することも可能であるが、その代わりに、図17に示す光学系を用いて作成することも可能である。この図17に示す光学系は、図1に示す光学系における凸レンズ23をシリンドリカルレンズ24に置き換え、矩形状の平面をもったホログラム感光媒体40を、細長い帯状の平面をもったホログラム感光媒体80に置き換えたものであり、その他の構成要素に変わりはない。ホログラム感光媒体80の横幅Daは、ホログラム感光媒体40の横幅と同じであるが、その縦幅Db(図17において、紙面に垂直方向の幅)は、光ビームの直径程度(前述の例の場合、1mm程度)である。
シリンドリカルレンズ24は、図17の紙面に垂直な中心軸を有する円柱の表面を有するレンズであり、図17において、収束点Cを通り紙面に垂直な集光軸を定義した場合に、平行光束L22を当該集光軸に集光する機能を果たす。ただ、シリンドリカルレンズの性質上、光の屈折は、紙面に平行な平面内においてのみ生じ、紙面に垂直な方向への屈折は生じない。別言すれば、収束点Cを含み、シリンドリカルレンズの円柱の中心軸に直交する平面(図17の紙面)に着目すれば、当該平面に沿って二次元的に収束する光L24が、参照光Lref として与えられることになる。
このように、本願において「光が収束点Cに収束する」と言った場合、図1の光学系に示す凸レンズ23による三次元的な収束のみならず、図17の光学系に示すシリンドリカルレンズ24による二次元的な収束も意味するものである。そして、図16に例示するような一次元走査を前提としたホログラム記録媒体85を作成する場合は、図17の光学系に示すように、収束点Cを通る所定の集光軸(図の例の場合、収束点Cを通り紙面に垂直な軸)に平行な中心軸をもつ円柱面を有するシリンドリカルレンズ24を用いて、ほぼ平行なコヒーレント光の光束L22を当該集光軸上に集光し、収束点Cに二次元的に収束する光L24を参照光Lref として用いて、散乱板30のホログラム像を記録すればよい。
<4−2> CGHからなるホログラム記録媒体
これまで述べたホログラム記録媒体の作成プロセスは、ホログラム感光媒体に実際に光を照射し、そこに生じる干渉縞を感光媒体の化学変化によって固定する、という純然たる光学的な方法をとるものである。これに対して、最近では、このような光学的なプロセスをコンピュータ上でシミュレーションし、演算によって干渉縞の情報を計算し、その結果を何らかの物理的な方法で媒体上に固定する、という手法が確立している。このような手法で作成されたホログラムは、一般に計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)と呼ばれている。
本発明に用いるホログラム記録媒体に記録されているホログラムは、このような計算機合成ホログラムであってもかまわない。すなわち、§1で述べた光学的なプロセスでホログラム記録媒体を作成する代わりに、仮想の散乱板からの仮想物体光と仮想の参照光とを用いたシミュレーション演算を実行し、仮想の記録面上に生じる干渉縞の情報を求め、この情報を物理的な方法で媒体上に記録して計算機合成ホログラムを作成すればよい。
図18は、本発明に係る照明ユニットの構成要素であるホログラム記録媒体を、CGHの手法で作成する原理を示す側面図であり、図4に示す光学的な現象を、コンピュータ上でシミュレートする方法を示すものである。ここで、図18に示す仮想の散乱板30′は、図4に示す実在の散乱板30に対応し、図18に示す仮想の記録面40′は、図4に示す実在のホログラム感光媒体40に対応する。図示の物体光Lobj は、仮想の散乱板30′から発せられる仮想の光であり、図示の参照光Lref は、この物体光Lobj と同一波長の仮想の光である。参照光Lref が、収束点Cに収束する光である点は、これまで述べた方法と全く同じである。記録面40′上の各点では、この仮想の物体光Lobj と参照光Lref との干渉縞の情報が演算される。
なお、仮想の散乱板30′としては、たとえば、ポリゴンなどで表現された微細な三次元形状モデルを用いることも可能であるが、ここでは、平面上に多数の点光源Dを格子状に配列した単純なモデルを用いている。図19は、図18に示されている仮想の散乱板30′の正面図であり、小さな白丸は、それぞれ点光源Dを示している。図示のとおり、多数の点光源Dが、横方向ピッチPa,縦方向ピッチPbで格子状に配列されている。ピッチPa,Pbは、散乱板の表面粗さを定めるパラメータとなる。
本願発明者は、点光源DのピッチPa,Pbをそれぞれ10μm程度の寸法に設定して記録面40′上に生じる干渉縞の情報を演算し、その結果に基づいて、実在の媒体表面に凹凸パターンを形成し、表面レリーフ型のCGHを作成した。そして、このCGHをホログラム記録媒体45として用いた照明ユニット100を構成したところ、スペックルを抑制した良好な照明環境が得られた。
図20は、本発明によりスペックルの低減効果が得られた実験結果を示す表である。一般に、スクリーン上に生じたスペックルの程度を示すパラメータとして、スペックルコントラスト(単位%)という数値を用いる方法が提案されている。このスペックルコントラストは、本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン映像を表示した際に、スクリーン上に実際に生じる輝度のばらつきの標準偏差を、輝度の平均値で除した値として定義される量である。このスペックルコントラストの値が大きければ大きいほど、スクリーン上のスペックル発生程度が大きいことを意味し、観察者に対して、斑点状の輝度ムラ模様がより顕著に提示されていることになる。
図20の表は、図11に示す照明ユニット100もしくはこれに対比するための従来の照明ユニットを利用して、スクリーン400上に本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン映像を表示した場合のスペックルコントラストを測定した結果を示すものである。測定例1〜3は、いずれも、緑色のレーザ光を射出することが可能な同一のDPSSレーザ装置を照明ユニット100内のコヒーレント光源50として用いた結果である。なお、測定例2,3で用いるホログラム記録媒体の拡散角(ホログラム記録媒体上の点から再生像35を望む最大角度)は、いずれの場合も20°に設定されている。
まず、測定例1として示す測定結果は、図11に示す照明ユニット100を用いる代わりに、コヒーレント光源50からの光ビームL50をビームエキスパンダーで広げて平行光束とし、この平行光束(レーザ平行光)をそのまま空間光変調器200に照射する測定系を用いて得られた結果である。この場合、表に示すとおり、スペックルコントラスト20.1%という結果が得られた。これは、スクリーン400を肉眼観察した場合に、斑点状の輝度ムラ模様がかなり顕著に観察できる状態であり、実用的な映像鑑賞には不適当なレベルである。
一方、測定例2および3として示す測定結果は、いずれも図11に示す照明ユニット100を利用して照明を行った結果である。ここで、測定例2は、ホログラム記録媒体45として、光学的な方法で作成された体積型ホログラムを利用した結果であり、測定例3は、ホログラム記録媒体45として、上述した表面レリーフ型CGHを利用した結果である。いずれも4%に満たないスペックルコントラストが得られており、これは肉眼観察した場合に、輝度ムラ模様がほとんど観察できない極めて良好な状態である(一般に、スペックルコントラスト値が5%以下であれば、観察者に不快感が生じないとされている)。したがって、ホログラム記録媒体45として、光学的な方法で作成された体積型ホログラムを利用した場合も、表面レリーフ型CGHを利用した場合も、実用的に十分な投射型映像表示装置を構成することができる。測定例2の結果(3.0%)が、測定例3の結果(3.7%)よりも良好になった理由は、原画像となる実在の散乱板30の解像度が、仮想の散乱板30′(図19に示す点光源の集合体)の解像度よりも高いためと考えられる。
最後の測定例4として示す測定結果は、照明ユニット100を用いる代わりに、緑色のLED光源からの光をそのまま空間光変調器200に照射する測定系を用いて得られた結果である。そもそもLED光源は、コヒーレント光源ではないので、スペックルの発生という問題を考慮する必要はなく、表に示すとおり、スペックルコントラスト4.0%という良好な結果が得られた。非コヒーレント光を用いた測定例4の結果が、コヒーレント光を用いた測定例2,3の結果に劣る理由は、LED光源が発する光自体に輝度ムラが生じていたためと考えられる。
<4−3> カラー画像の表示
これまで述べてきた実施形態は、いずれも単色のレーザ光源をコヒーレント光源として用いた投射型映像表示装置の例であり、スクリーン400上に得られる映像は、このレーザの色に対応するモノクロ映像ということになる。しかしながら、一般的な投射型映像表示装置では、カラー画像を表示できることが望ましい。そこで、ここでは、カラー画像を提示可能な投射型映像表示装置の構成例をいくつか説明する。いずれも照明ユニットの部分の基本構成は、これまで述べた実施形態と同じである。
(1) 第1の構成例
カラー画像を提示するには、R(赤)、G(緑)、B(青)の三原色を定め、これら各原色の個別画像をスクリーン上で重畳して表示すればよい。ここに示す第1の構成例では、図11に示す照明ユニット100におけるコヒーレント光源50として、R,G,Bの三原色の成分を合成した合成光ビームを生成する光源を採用し、三原色の成分を含む照明光を空間光変調器200に照射する方法を採る。
図21は、そのようなコヒーレント光源50の一例を示す構成図である。この装置は、赤,緑,青の三原色を合成して白色の光ビームを生成する機能を有する。すなわち、赤色レーザ光源50Rが発生する赤色レーザビームL(R)と、緑色レーザ光源50Gが発生する緑色レーザビームL(G)とを、ダイクロイックプリズム15で合成し、更に、青色レーザ光源50Bが発生する青色レーザビームL(B)をダイクロイックプリズム16で合成することにより、白色の合成光ビームL(R,G,B)を生成することができる。
一方、図11に示す光ビーム走査装置60は、こうして生成された合成光ビームL(R,G,B)を屈曲させてホログラム記録媒体45上で走査すればよい。ホログラム記録媒体45には、予め、上記3台のレーザ光源50R,50G,50Bが発生するレーザビームL(R),L(G),L(B)と同一波長(もしくは近似波長)の光をそれぞれ用いて、散乱板30の像35を3通りのホログラムとして記録しておくようにする。そうすれば、ホログラム記録媒体45からは、R,G,Bの各色成分についてそれぞれ回折光が得られ、R,G,Bの各色成分についての再生像35が同じ位置に生成されることになり、白色の再生像が得られる。
なお、R,G,Bの3色の光を用いて散乱板30の像が記録されたホログラム記録媒体を作成するには、たとえば、R色の光に感光する色素、G色の光に感光する色素、B色の光に感光する色素が一様に分布したホログラム感光媒体と、上記合成光ビームL(R,G,B)とを用いてホログラムを記録するプロセスを行えばよい。また、R色の光に感光する第1の感光層、G色の光に感光する第2の感光層、B色の光に感光する第3の感光層を積層した3層構造からなるホログラム感光媒体を用いてもよい。あるいは、上記3つの感光層をそれぞれ別々の媒体として用意しておき、それぞれ対応する色の光を用いてホログラムの記録を別個に行い、最後に、この3層を貼り合わせて、3層構造をもつホログラム記録媒体を構成してもよい。
結局、図11に示す空間光変調器200には、R,G,Bの各色成分を含んだ照明光が供給されることになる。そこで、空間光変調器200に、空間上に配置された画素配列を定義しておき、個々の画素に三原色R,G,Bのいずれかの原色を対応づけ、画素ごとに独立して光の変調を行う機能をもたせておく。たとえば、図22の左側に示す空間光変調器200は、平面上に二次元画素配列を定義し、三原色R,G,Bの画素を一様に分散配置した例である。たとえば、この空間光変調器200を、液晶ディスプレイによって構成した場合、図示の各画素は、液晶の配向性によって透光度を独立して制御することが可能な素子として機能する。
一方、この空間光変調器200には、図22の右側に示すようなカラーフィルタ250を重ね合わせておく。カラーフィルタ250は空間光変調器200と同じサイズのフィルタであり、空間光変調器200上に定義された画素配列と全く同じ画素配列が定義されている。しかもカラーフィルタ250上の各画素の位置には、それぞれ空間光変調器200の同位置の画素に対応する原色のフィルタが設けられている。すなわち、図22において、カラーフィルタ250上の画素Rには原色Rを透過するフィルタが設けられ、画素Gには原色Gを透過するフィルタが設けられ、画素Bには原色Bを透過するフィルタが設けられている。
このカラーフィルタ250を空間光変調器200に重ね合わせた状態で、R,G,Bの各色成分を含んだ照明光を供給すれば、原色Rが対応づけられた画素については原色Rの成分のみが透過し、原色Gが対応づけられた画素については原色Gの成分のみが透過し、原色Bが対応づけられた画素については原色Bの成分のみが透過することになる。かくして、スクリーン400上には、空間光変調器200上に形成されたカラー画像が表示されることになり、カラー画像の表示機能をもった投射型映像表示装置が実現できる。
(2) 第2の構成例
カラー画像を表示するための第2の構成例は、照明ユニットおよび空間光変調器を原色ごとに用意し、最後に投射光学系によって、各原色の画像を合成してスクリーン上に投射するものである。
図23は、この第2の構成例を示す配置図である。この第2の構成例は、基本的には、図11に示す構成要素のうち、投射光学系300を除いた部分を、三原色R,G,Bのそれぞれについて用意し、三原色R,G,Bのそれぞれについての変調画像を独立して生成し、これらを合成してスクリーン400上に投射するものである。図23の中央部に示されているクロスダイクロイックプリズム350は、広義の投射光学系の一構成要素であり、三原色R,G,Bのそれぞれについての変調画像を合成する機能を有する。こうして合成された画像は、投射光学系300によってスクリーン400上に投射される。
図23において、第1の空間光変調器200Rは、第1の原色Rの成分をもった第1の映像に基づいて変調を行う空間光変調器であり、第1の照明ユニット100Rは、この第1の空間光変調器200Rに対して第1の原色Rに対応する波長をもった第1の照明光を供給するユニットである。
同様に、第2の空間光変調器200Gは、第2の原色Gの成分をもった第2の映像に基づいて変調を行う空間光変調器であり、第2の照明ユニット100Gは、この第2の空間光変調器200Gに対して第2の原色Gに対応する波長をもった第2の照明光を供給するユニットである。
また、第3の空間光変調器200Bは、第3の原色Bの成分をもった第3の映像に基づいて変調を行う空間光変調器であり、第3の照明ユニット100Bは、この第3の空間光変調器200Bに対して第3の原色Bに対応する波長をもった第3の照明光を供給するユニットである。
各空間光変調器200R,200G,200Bの基本構成は、これまで述べた基本的実施形態に係る空間光変調器200の構成と同じであり、相互の相違は、それぞれが異なる原色の映像情報に基づいて光の変調を行う点のみである。また、各照明ユニット100R,100G,100Bの基本構成も、これまで述べた基本的実施形態に係る照明ユニット100の構成と同じであり、相互の相違は、それぞれが異なる原色のレーザビームを発生させるコヒーレント光源を有している点のみである。
結局、クロスダイクロイックプリズム350と投射光学系300とによって構成される広義の投射光学系が、第1の空間光変調器200Rにより変調された照明光と、第2の空間光変調器200Gにより変調された照明光と、第3の空間光変調器200Bにより変調された照明光と、をスクリーン400へ導き、R色からなる第1の映像、G色からなる第2の映像、B色からなる第3の映像をスクリーン400上に重畳して投射する。かくして、スクリーン400上には、カラー画像が表示されることになる。
(3) 第3の構成例
ここに述べる第3の構成例は、上述した第1の構成例と第2の構成例との折衷案であり、図23に示す第2の構成例における照明ユニット100R,100G,100Bを、図21に示す合成光ビームL(R,G,B)を生成する光源を用いた第1の構成例における照明ユニットに置き換えたものである。
すなわち、図23に示す第1の空間光変調器200R、第2の空間光変調器200G、第3の空間光変調器200B、クロスダイクロイックプリズム350、投射光学系300はそのまま残し、照明ユニットとして、1台の共通照明ユニット(図21に示す合成光ビームL(R,G,B)を生成するコヒーレント光源50を用いたユニット)のみを用いるようにしたものである。
このように、照明ユニットを共通化したため、若干の工夫が必要になる。すなわち、共通の照明ユニット100内では、光ビーム走査装置60が、この合成光ビームL(R,G,B)をホログラム記録媒体45上で走査することになるので、ホログラム記録媒体45には、図21に示す3台のレーザ光源50R,50G,50Bが発生するレーザビームと同一波長(もしくは近似波長)の光をそれぞれ用いて、散乱板30の像35を3通りのホログラムとして記録しておくようにする(前述した第1の構成例と同様)。
また、共通の照明ユニット100には、ホログラム記録媒体45から得られる照明光を、第1の期間は第1の空間光変調器200Rに供給し、第2の期間は第2の空間光変調器200Gに供給し、第3の期間は第3の空間光変調器200Bに供給する時分割供給動作を行う切替装置を更に設けておく。このような切替装置は、たとえば可動式反射鏡によって構成することができる。
一方、図21に示す構成要素において、第1のレーザ光源50Rは第1の期間に第1のレーザビームL(R)を発生し、第2のレーザ光源50Gは第2の期間に第2のレーザビームL(G)を発生し、第3のレーザ光源50Bは第3の期間に第3のレーザビームL(B)を発生するような間欠動作が行われるようにしておく。
そうすると、第1の期間には、コヒーレント光源50から第1のレーザビームL(R)のみが照射され、第1の空間光変調器200Rに供給され、第2の期間には、コヒーレント光源50から第2のレーザビームL(G)のみが照射され、第2の空間光変調器200Gに供給され、第3の期間には、コヒーレント光源50から第3のレーザビームL(B)のみが照射され、第3の空間光変調器200Bに供給されることになり、時分割動作ではあるが、前述した第2の構成例と同等の動作が可能になる。
(4) 第4の構成例
最後に述べる第4の構成例は、上述した第3の構成例において用いられている第1〜第3の空間光変調器200R,200G,200Bを、1台の空間光変調器200に共通化したものである。この場合、もちろん、クロスダイクロイックプリズム350は不要になる。空間光変調器200を共通化するためには、この共通の空間光変調器200に時分割動作を行わせればよい。すなわち、空間光変調器200は、第1の期間は第1の原色成分Rをもった第1の映像に基づいて変調を行い、第2の期間は第2の原色成分Gをもった第2の映像に基づいて変調を行い、第3の期間は第3の原色成分Bをもった第3の映像に基づいて変調を行う時分割変調動作を行えばよい。
一方、コヒーレント光源は、第3の構成例と同様に、図21に示すように、第1の原色Rに対応する波長をもった第1のレーザビームL(R)を発生する第1のレーザ光源50Rと、第2の原色Gに対応する波長をもった第2のレーザビームL(G)を発生する第2のレーザ光源50Gと、第3の原色Bに対応する波長をもった第3のレーザビームL(B)を発生する第3のレーザ光源50Bと、これら3台のレーザ光源が発生したレーザビームを合成して合成光ビームL(R,G,B)を生成する光合成器15,16によって構成しておく。
また、光ビーム走査装置60は、光合成器15,16が生成した合成光ビームL(R,G,B)をホログラム記録媒体45上で走査すればよい。ホログラム記録媒体45には、図21に示す3台のレーザ光源50R,50G,50Bが発生するレーザビームと同一波長(もしくは近似波長)の光をそれぞれ用いて、散乱板30の像35を3通りのホログラムとして記録しておくようにする(前述した第1および第3の構成例と同様)。ただ、第3の構成例とは異なり、空間光変調器200は単一であるから、ホログラム記録媒体45から得られる照明光は、そのまま、この単一の空間光変調器200に供給すればよい。
そして、第3の構成例と同様に、図21に示す構成要素において、第1のレーザ光源50Rは第1の期間に第1のレーザビームL(R)を発生し、第2のレーザ光源50Gは第2の期間に第2のレーザビームL(G)を発生し、第3のレーザ光源50Bは第3の期間に第3のレーザビームL(B)を発生するような間欠動作が行われるようにしておく。
そうすると、第1の期間には、コヒーレント光源50から第1のレーザビームL(R)のみが照射され、これに基づくR色の照明光を受けた空間光変調器200は、第1の原色成分Rをもった第1の映像に基づいて変調を行う。続く第2の期間には、コヒーレント光源50から第2のレーザビームL(G)のみが照射され、これに基づくG色の照明光を受けた空間光変調器200は、第2の原色成分Gをもった第2の映像に基づいて変調を行う。そして第3の期間には、コヒーレント光源50から第3のレーザビームL(B)のみが照射され、これに基づくB色の照明光を受けた空間光変調器200は、第3の原色成分Bをもった第3の映像に基づいて変調を行う。かくして、時分割動作ではあるが、カラー画像の表示が可能になる。
<4−4> ホログラム記録媒体作成の幾何学的バリエーション
§1では、図1を参照して、ホログラム感光媒体40に散乱板30のホログラム像を記録する方法を説明した。この方法は、収束点Cに収束する参照光を用いて反射型のホログラム記録媒体を作成する方法であり、必要な構成要素の幾何学的な配置は、図24の側面図に示すとおりである。
図24に示す例の場合、凸レンズ23によって、収束点Cに向かう収束参照光Lref が生成され、媒体40は、凸レンズ23と収束点Cとの間に配置される。また、媒体40は図示のとおり斜めに配置され、その下面側に、散乱板30からの物体光Lobj が照射される。このような方法で作成されたホログラム記録媒体は、反射型の媒体となる。すなわち、再生時には、図25に示すように、再生用照明光Lrep として機能する光ビームが媒体45の下面側に照射され、点Pからの反射回折光Ldif によって再生像35が生成されることになる。
このように、これまで説明した例は、ホログラム記録媒体45に記録されているホログラムが、反射型ホログラムであり、光ビームの反射回折光を照明光として用いる例である。これに対して、ホログラム記録媒体45に記録されているホログラムを、透過型ホログラムとし、光ビームの透過回折光を照明光として用いるようにしてもかまわない。
図26は、このような透過型ホログラムを作成する場合の幾何学的な配置を示す側面図である。図24に示す配置との相違点は、媒体40の向きである。図24に示す反射型ホログラムの作成方法では、参照光Lref を媒体の上面から照射し、物体光Lobj を媒体の下面から照射している。このように、参照光と物体光とを逆側の面に照射すると反射型のホログラムが記録できる。これに対して、図26に示す方法では、参照光Lref および物体光Lobj の双方が媒体40の上面に照射されている。このように、参照光と物体光とを同じ側から照射すると透過型のホログラムが記録できる。すなわち、再生時には、図27に示すように、再生用照明光Lrep として機能する光ビームが媒体45の下面側に照射され、点Pからの透過回折光Ldif によって再生像35が生成されることになる。
また、これまで述べてきた例は、いずれも収束点Cに収束する参照光を用いて反射型もしくは透過型のホログラム記録媒体を作成する方法であるが、その代わりに、収束点Cから発散する参照光を用いて反射型もしくは透過型のホログラム記録媒体を作成することも可能である。ただ、そのためには、予め、準備用ホログラム記録媒体を作成しておく必要がある。以下、この方法を行うためのプロセスを順に説明しよう。
まず、図28に示すように、準備用ホログラム感光媒体90と散乱板30とを配置し、媒体90に対して、図示のとおり、斜め右上から平行な参照光Lref を照射する。そして、散乱板30からの物体光Lobj と参照光Lref とによって生じる干渉縞を媒体90に記録する。このように、記録時に、物体光と参照光とを同じ側から照射すると、透過型のホログラムが記録される。ここでは、このような記録が行われた媒体90を、準備用ホログラム記録媒体95と呼ぶことにする。
図29は、この準備用ホログラム記録媒体95の再生プロセスを示す側面図である。図示のとおり、媒体95に対して、斜め左下から平行な再生用照明光Lrep を照射すると、透過回折光Ldif によって、図の右方に再生像35が生成される。ここで、再生用照明光Lrep の方向は、その延長線が図28に示す参照光Lref の方向に一致する方向であり、再生像35の生成位置は、図28に示す散乱板30の配置位置に一致する。
続いて、準備用ホログラム記録媒体95による再生像35を実物の散乱板30の代用として、ホログラム感光媒体40へ散乱板30の像を記録するプロセスを行う。すなわち、図30に示すように、準備用ホログラム記録媒体95の右方にホログラム感光媒体40を配置し、媒体95に対して、斜め左下から平行な再生用照明光Lrep を照射して、図の右方に再生像35を生成する。この場合、媒体95から右方へと射出する光は、再生像35を再生するための透過回折光Ldif であると同時に、媒体40に対しては、物体光Lobj としての機能を果たす。
一方、図の下方から、媒体40に対して、発散参照光Lref を照射する。この発散参照光Lref は、収束点Cから発散する光(収束点Cに点光源が存在する場合に、この点光源から発せられる光)であり、媒体40に対しては、円錐状に広がる光線束が照射されることになる。図示の例では、収束点Cの位置に焦点をもつ凸レンズ25によって、平行光束L10を収束点Cに集光して点光源を生成することにより、発散参照光Lref を発生させている。凸レンズ25として、たとえば、直径1mm程度のマイクロレンズを用いれば、レーザ光源から発せられる断面径1mm程度のレーザビームを、そのまま平行光束L10として利用して、発散参照光Lref を発生させることができる。
この図30に示す方法では、物体光Lobj は媒体40の上面に照射され、参照光Lref は媒体40の下面に照射される。このように、参照光と物体光とを逆側の面に照射すると反射型のホログラムが記録できる。したがって、図30に示す方法で作成されたホログラム記録媒体45は、実質的に、図24に示す方法で作成されたホログラム記録媒体45と同じ反射型ホログラムになる。したがって、再生時には、図25に示す幾何学的配置をとればよい。
これに対して、図31は、発散参照光Lref を用いて透過型ホログラムを作成する例を示す側面図である。図30に示す配置との相違点は、媒体40の向きである。図30に示す反射型ホログラムの作成方法では、物体光Lobj を媒体の上面から照射し、参照光Lref を媒体の下面から照射している。これに対して、図31に示す方法では、物体光Lobj および参照光Lref の双方が媒体40の下面に照射されている。このように、参照光と物体光とを同じ側から照射すると透過型のホログラムが記録できる。この図31に示す方法で作成されたホログラム記録媒体45は、実質的に、図26に示す方法で作成されたホログラム記録媒体45と同じ透過型ホログラムになる。したがって、再生時には、図27に示す幾何学的配置をとればよい。
なお、図30および図31に示す記録プロセスでは、準備用ホログラム記録媒体95として、図28に示す方法で作成された透過型ホログラムを用いたが、準備用ホログラム記録媒体95として、図32に示す方法で作成された反射型ホログラムを用いることも可能である。図32に示す方法では、準備用ホログラム感光媒体90の左側から参照光Lref を照射し、右側から物体光Lobj を照射しているため、作成された準備用ホログラム記録媒体95は反射型ホログラムになる。
この反射型の準備用ホログラム記録媒体95を用いて再生を行う場合は、図33に示すように、媒体95の右側から再生用照明光Lrep を照射し、得られる反射回折光Ldif によって再生像35を生成することになる。したがって、図30,図31に示すプロセスでは、再生用照明光Lrep を左側から照射する代わりに、右側から照射することになる。
<4−5> 光ビームの平行移動走査
これまで述べた実施形態では、照明ユニット100内の光ビーム走査装置60が、光ビームを所定の走査基点Bで屈曲させ、この屈曲態様(屈曲の方向と屈曲角度の大きさ)を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームを走査する方式をとっていたが、光ビーム走査装置60の走査方法は、光ビームを走査基点Bで屈曲させる方法に限定されるものではない。
たとえば、光ビームを平行移動させるような走査方法を採ることも可能である。ただ、その場合は、ホログラム記録媒体45に対する散乱板30の記録方法も変更する必要がある。すなわち、図34に示す例のように、ホログラム感光媒体40に対して、平行光束からなる参照光Lref を照射し、散乱板30からの物体光Lobj との干渉縞の情報を記録するようにする。別言すれば、こうして作成されたホログラム記録媒体46には、平行光束からなる参照光Lref を用いて散乱板30の像35がホログラムとして記録されていることになる。
図35は、図34に示す方法で作成されたホログラム記録媒体46を用いた照明ユニット110の側面図である。図示のとおり、この照明ユニット110は、ホログラム記録媒体46、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置65によって構成されている。
ここで、ホログラム記録媒体46は、図34に示す方法で作成された媒体であり、平行光束からなる参照光Lref を利用して、散乱板30の像35がホログラムとして記録されている。また、コヒーレント光源50は、ホログラム記録媒体46を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長(もしくは、ホログラムの再生が可能な近似波長)をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源である。
一方、光ビーム走査装置65は、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50をホログラム記録媒体46に照射する機能を有するが、このとき、図34に示す作成プロセスで用いた参照光Lref に平行になる方向から光ビームL65がホログラム記録媒体46に照射されるように走査を行う。より具体的には、光ビームL65を平行移動させながらホログラム記録媒体46に照射することにより、光ビームL65のホログラム記録媒体46に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
このような走査を行う光ビーム走査装置65は、たとえば、可動反射鏡66と、この可動反射鏡66を駆動する駆動機構とによって構成することができる。すなわち、図35に示すように、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を受光可能な位置に可動反射鏡66を配置し、この可動反射鏡66を光ビームL50の光軸に沿って摺動させる駆動機構を設けておけばよい。なお、実用上は、MEMSを利用したマイクロミラーデバイスにより、上記機能と同等の機能をもった光ビーム走査装置65を構成することができる。あるいは、図9に示す光ビーム走査装置60によって走査基点Bの位置で屈曲された光ビームL60を、走査基点Bに焦点をもつ凸レンズに通すことによっても、平行に移動する光ビームを生成することができる。
図35に示す例の場合、可動反射鏡66で反射した光ビームL65の照射を受けたホログラム記録媒体46は、記録された干渉縞に基づく回折光を発生し、この回折光によって、散乱板30の再生像35が生成される。照明ユニット110は、こうして得られる再生像35の再生光を照明光として利用した照明を行うことになる。
図35では、説明の便宜上、時刻t1における光ビームの位置を一点鎖線で示し、時刻t2における光ビームの位置を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は、可動反射鏡66(t1)の位置で反射し、光ビームL65(t1)としてホログラム記録媒体46の点P(t1)に照射されるが、時刻t2では、光ビームL50は、可動反射鏡66(t2)の位置で反射し(図示の可動反射鏡66(t2)は、可動反射鏡66(t1)が移動したものである)、光ビームL65(t2)としてホログラム記録媒体46の点P(t2)に照射される。
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における走査態様しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL65は図の左右に平行移動し、光ビームL65のホログラム記録媒体46に対する照射位置は、図の点P(t1)〜P(t2)へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL65の照射位置は、ホログラム記録媒体46上において点P(t1)〜P(t2)へと走査されることになる。ここでは、光ビームL65を一次元方向(図の左右方向)に平行移動する例を述べたが、もちろん、光ビーム65を図の紙面に垂直な方向にも平行移動させる機構(たとえば、XYステージ上に反射鏡を配置した機構)を設けておけば、二次元方向に平行移動させることが可能になる。
ここで、光ビームL65は、図34に示す作成プロセスで用いた参照光Lref に常に平行になるように走査されるので、光ビームL65は、ホログラム記録媒体46の各照射位置において、そこに記録されているホログラムを再生するための正しい再生用照明光Lrep として機能する。
たとえば、時刻t1では、点P(t1)からの回折光L46(t1)によって、散乱板30の再生像35が生成され、時刻t2では、点P(t2)からの回折光L46(t2)によって、散乱板30の再生像35が生成される。もちろん、時刻t1〜t2の期間においても、光ビームL65が照射された個々の位置からの回折光によって、同様に散乱板30の再生像35が生成される。すなわち、光ビームL65が平行移動走査を受ける限り、ホログラム記録媒体46上のどの位置に光ビームL65が照射されたとしても、照射位置からの回折光によって、同一の再生像35が同一位置に生成されることになる。
結局、この図35に示す照明ユニット110は、図9に示す照明ユニット100と同様に、再生像35によって空間光変調器200を照明する機能を有している。要するに、本発明では、ホログラム記録媒体に、所定光路に沿って照射される参照光を用いて散乱板の像をホログラムとして記録しておき、光ビーム走査装置によって、このホログラム記録媒体に対する光ビームの照射方向が参照光の光路に沿った方向(光学的に共役な方向)になるように、光ビームの走査を行うようにすればよい。
<4−6> マイクロレンズアレイの利用
これまで述べた実施形態は、散乱板30のホログラム像が記録されたホログラム記録媒体を用意し、このホログラム記録媒体に対して、コヒーレント光を走査し、得られる回折光を照明光として利用するものであった。ここでは、このホログラム記録媒体の代わりに、マイクロレンズアレイを利用した変形例を述べる。
図36は、このマイクロレンズアレイを利用した変形例の側面図である。この変形例に係る照明ユニット120は、マイクロレンズアレイ48、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。コヒーレント光源50は、これまで述べてきた実施形態と同様に、コヒーレントな光ビームL50を発生させる光源であり、具体的には、レーザ光源を用いることができる。
また、光ビーム走査装置60は、これまで述べてきた実施形態と同様に、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50の走査を行う装置である。より具体的には、光ビームを走査基点Bで屈曲させてマイクロレンズアレイ48に照射する機能を有し、しかも、光ビームL50の屈曲態様を時間的に変化させることにより、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
一方、マイクロレンズアレイ48は、多数の個別レンズの集合体からなる光学素子である。このマイクロレンズアレイ48を構成する個別レンズは、それぞれが、走査基点Bから入射した光を屈折させ、所定位置に配置された空間光変調器200の受光面R上に所定の照射領域Iを形成する機能を有している。しかも、いずれの個別レンズによって形成される照射領域Iも、受光面R上において同一の共通領域となるように構成されている。このような機能をもったマイクロレンズアレイとしては、たとえば、「フライアイレンズ」と呼ばれるものが市販されている。
図37は、図36に示す照明ユニット100の動作原理を示す側面図である。ここでも、説明の便宜上、光ビームL60の時刻t1における屈曲態様を一点鎖線で示し、時刻t2における屈曲態様を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてマイクロレンズアレイ48の下方に位置する個別レンズ48−1に入射する。この個別レンズ48−1は、走査基点Bから入射した光ビームについては、これを広げて、空間光変調器200の受光面R上の二次元照射領域Iに照射する機能を有する。したがって、空間光変調器200の受光面Rには、図示のように照射領域Iが形成される。
また、時刻t2では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t2)としてマイクロレンズアレイ48の上方に位置する個別レンズ48−2に入射する。この個別レンズ48−2は、走査基点Bから入射した光ビームについては、これを広げて、空間光変調器200の受光面R上の二次元照射領域Iに照射する機能を有する。したがって、時刻t2においても、空間光変調器200の受光面Rには、図示のように照射領域Iが形成される。
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における動作状態しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームの屈曲方向は滑らかに変化し、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置は、図の下方から上方へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL60の照射位置は、マイクロレンズアレイ48上で上下に走査されることになる。もちろん、マイクロレンズアレイ48として、多数の個別レンズが二次元的に配置されたものを用いた場合は、光ビーム走査装置60によって、この二次元配列上で光ビームが走査されるようにすればよい。
上述したマイクロレンズアレイ48の性質から、光ビームL60がどの個別レンズに入射したとしても、受光面R上に形成される二次元照射領域Iは共通になる。すなわち、光ビームの走査状態にかかわらず、受光面Rには、常に同一の照射領域Iが形成されることになる。したがって、空間光変調器200の光変調面(たとえば、液晶マイクロディスプレイを空間光変調器200として用いた場合は、ディスプレイの表示面)が、上記照射領域I内に位置するようにすれば、光変調面には常に照明光が照射された状態になり、その投影像をスクリーン上に映し出すことができる。
なお、実用上は、個別レンズによって生じる照射領域Iが完全に同一でなく、多少ずれていたとしても、少なくとも光変調面の領域内に対して、常に照明光が照射された状態になっていれば、スクリーン上に投影像を得る上で問題は生じない。
結局、ここに示す照明ユニット120の場合、光ビーム走査装置60は、光ビームL60をマイクロレンズアレイ48に照射し、かつ、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置が時間的に変化するように走査する機能をもっている。一方、マイクロレンズアレイ48を構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置60から照射された光を屈折させ、空間光変調器200の受光面R上に所定の照射領域Iを形成する機能を有しており、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域Iも、受光面R上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されている。
この照明ユニット120の場合も、これまで述べてきた基本的実施形態に係る照明ユニット100と同様に、受光面Rの各部に照射される光の入射角度は、時間的に多重化されることになる。したがって、光源側に起因するスペックルの発生が抑制される。また、光ビームL60を走査しているため、スクリーン側に起因するスペックルの発生も抑制される。
<4−7> 光拡散素子の利用
これまで、基本的な実施形態として、散乱板30のホログラム像が記録されたホログラム記録媒体を用いて照明ユニットを構成した例を説明し、上記<4−6>では、ホログラム記録媒体の代わりにマイクロレンズアレイを用いて照明ユニットを構成した例を説明した。これらの照明ユニットにおいて、ホログラム記録媒体やマイクロレンズアレイは、結局のところ、入射した光ビームを拡散して所定の受光面上に所定の照射領域を形成する機能を有する光拡散素子の役割を果たしていることになる。しかも、当該光拡散素子は、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、受光面上において同一の共通領域となる、という特徴を有している。
したがって、本発明に係る投射型映像表示装置に用いられる照明ユニットを構成するには、必ずしも上述したホログラム記録媒体やマイクロレンズアレイを用いる必要はなく、一般的に、上記特徴を有する光拡散素子を用いて構成することができる。
要するに、本発明に係る投射型映像表示装置に用いられる照明ユニットは、本質的には、コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、この光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、を用いることによって構成することができる。
ここで、光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、当該光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査する機能を有していればよい。また、光拡散素子は、入射した光ビームを拡散して空間光変調器の受光面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、受光面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されていればよい。