次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による無段変速機の制御装置を含む動力伝達装置20を搭載した自動車10の概略構成図である。同図に示す自動車10は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料と空気との混合気の爆発燃焼により動力を出力する原動機としてのエンジン(内燃機関)12や、エンジン12を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)14と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)16、エンジン12に接続されると共にエンジン12からの動力を左右の駆動輪DWに伝達する動力伝達装置20、当該動力伝達装置20に含まれる発進装置23やベルト式無段変速機(以下、「CVT」という)40を制御する変速用電子制御ユニット(以下、「変速用ECU」という)21等を含む。
エンジンECU14は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。図1に示すように、エンジンECU14には、アクセルペダル91の踏み込み量(操作量)を検出するアクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや、車速センサ99からの車速V、クランクシャフトの回転位置を検出する図示しないクランクシャフトポジションセンサといった各種センサ等からの信号、ブレーキECU16や変速ECU21からの信号等が入力され、エンジンECU14は、これらの信号に基づいて電子制御式のスロットルバルブ13や図示しない燃料噴射弁および点火プラグ等を制御する。
ブレーキECU16も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。図1に示すように、ブレーキECU16には、ブレーキペダル93が踏み込まれたときにマスタシリンダ圧センサ94により検出されるマスタシリンダ圧や、車速センサ99からの車速V、図示しない各種センサ等からの信号、エンジンECU14や変速ECU21からの信号等が入力され、ブレーキECU16は、これらの信号に基づいて図示しないブレーキアクチュエータ(油圧アクチュエータ)等を制御する。
図2は、本実施形態の自動車10に搭載された動力伝達装置20の概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、クランクシャフトと駆動輪DWに接続された左右の車軸89とが略平行をなすように横置きに配置されたエンジン12に接続されるトランスアクスルとして構成されている。図示するように、動力伝達装置20は、一体に結合されるコンバータハウジング22a、トランスアクスルケース22bおよびリヤカバー22cからなるトランスミッションケース22や、当該トランスミッションケース22の内部に収容される発進装置23、オイルポンプ30、前後進切替機構35、CVT40、油圧制御装置(油圧生成装置)50、ギヤ機構80、デファレンシャルギヤ(差動機構)88等を備える。
発進装置23は、ロックアップクラッチ付きの流体式発進装置として構成されており、コンバータハウジング22aの内部に収容される。図2に示すように、発進装置23は、入力部材としてのフロントカバーを介してエンジン12のクランクシャフトに接続されるポンプインペラ24や、CVT40のインプットシャフト41に固定されるタービンランナ25、ポンプインペラ24およびタービンランナ25の内側に配置されてタービンランナ25からポンプインペラ24への作動油(ATF)の流れを整流するステータ26、ステータ26の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ27、ダンパ機構28、ロックアップクラッチ29等を含む。
ポンプインペラ24、タービンランナ25およびステータ26は、ポンプインペラ24とタービンランナ25との回転速度差が大きいときにはステータ26の作用によりトルク増幅機(トルクコンバータ)として機能し、両者の回転速度差が小さくなると流体継手として機能する。ただし、発進装置23において、ステータ26やワンウェイクラッチ27を省略し、ポンプインペラ24およびタービンランナ25を流体継手のみとして機能させてもよい。また、ダンパ機構28は、例えば、ロックアップクラッチ29に連結される入力要素や、複数の第1弾性体を介して入力要素に連結される中間要素、複数の第2弾性体を介して中間要素に連結されると共にタービンハブに固定される出力要素等を含む。
ロックアップクラッチ29は、ポンプインペラ24とタービンランナ25、すなわちフロントカバーとCVT40のインプットシャフト41とを機械的に(ダンパ機構28を介して)連結するロックアップおよび当該ロックアップの解除を選択的に実行するものである。自動車10の発進後、所定のロックアップオン条件が成立すると、ロックアップクラッチ29によりポンプインペラ24とタービンランナ25とがロック(直結)され、エンジン12からの動力がインプットシャフト41に機械的かつ直接的に伝達されるようになる。この際、フロントカバーとインプットシャフト41との間では、ダンパ機構28により振動が減衰される。なお、ロックアップクラッチ29は、油圧式の単板摩擦クラッチとして構成されてもよく、油圧式の多板摩擦クラッチとして構成されてもよい。
オイルポンプ30は、発進装置23と前後進切替機構35の間に配置されるポンプボディ31およびポンプカバー32とからなるポンプアッセンブリ33と、外歯ギヤ34とを含む、いわゆるギヤポンプとして構成されている。ポンプボディ31およびポンプカバー32は、コンバータハウジング22aやトランスアクスルケース22bに固定される。また、外歯ギヤ34は、ハブを介してポンプインペラ24に連結される。従って、エンジン12からの動力により外歯ギヤ34が回転すれば、オイルポンプ30によってオイルパン58に貯留されている作動油(ATF)がストレーナ59(何れも図3参照)を介して吸引されると共に昇圧された作動油が吐出されることになる。これにより、オイルポンプ30から発進装置23や前後進切替機構35、CVT40等により要求される油圧を発生させたり、CVT40、ワンウェイクラッチ27、前後進切替機構35等の所定部位や各種軸受といった潤滑対象に潤滑媒体としての作動油を供給したりすることが可能となる。
前後進切替機構35は、トランスアクスルケース22bの内部に収容され、ダブルピニオン式の遊星歯車機構36と、油圧式摩擦係合要素であるブレーキB1およびクラッチC1とを含む。遊星歯車機構36は、CVT40のインプットシャフト41に固定されるサンギヤと、リングギヤと、サンギヤと噛合するピニオンギヤおよびリングギヤと噛合するピニオンギヤを支持すると共にCVT40のプライマリシャフト42に連結されるキャリヤとを有する。ブレーキB1は、遊星歯車機構36のリングギヤをトランスアクスルケース22bに対して回転自在にすると共に、油圧制御装置50から油圧が供給された際に遊星歯車機構36のリングギヤをトランスアクスルケース22bに固定することができるものである。また、クラッチC1は、遊星歯車機構36のキャリヤをインプットシャフト41(サンギヤ)に対して回転自在にすると共に、油圧制御装置50から油圧が供給された際に遊星歯車機構36のキャリヤをインプットシャフト41に固定することができるものである。これにより、ブレーキB1を解放すると共にクラッチC1を係合させれば、インプットシャフト41に伝達された動力をそのままCVT40のプライマリシャフト42に伝達して自動車10を前進させることが可能となる。また、ブレーキB1を係合させると共にクラッチC1を解放すれば、インプットシャフト41の回転を逆方向に変換してCVT40のプライマリシャフト42に伝達し、自動車10を後進させることが可能となる。更に、ブレーキB1およびクラッチC1を解放すれば、インプットシャフト41とプライマリシャフト42との接続を解除することが可能となる。
CVT40は、駆動側回転軸としてのプライマリシャフト42に設けられたプライマリプーリ43と、プライマリシャフト42と平行に配置された従動側回転軸としてのセカンダリシャフト44に設けられたセカンダリプーリ45と、プライマリプーリ43の溝とセカンダリプーリ45の溝とに掛け渡されたベルト46と、プライマリプーリ43の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるプライマリシリンダ47と、セカンダリプーリ45の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるセカンダリシリンダ48とを備える。プライマリプーリ43は、プライマリシャフト42と一体に形成された固定シーブ43aと、プライマリシャフト42にボールスプラインを介して軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ43bとから構成され、セカンダリプーリ45は、セカンダリシャフト44と一体に形成された固定シーブ45aと、セカンダリシャフト44にボールスプラインを介して軸方向に摺動自在に支持されると共に圧縮ばねであるリターンスプリング49により軸方向に付勢される可動シーブ45bとから構成される。
プライマリシリンダ47は、プライマリプーリ43の可動シーブ43bの背後に形成され、セカンダリシリンダ48は、セカンダリプーリ45の可動シーブ45bの背後に形成される。プライマリシリンダ47とセカンダリシリンダ48とには、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ45との溝幅を変化させるべく油圧制御装置50から作動油が供給され、それにより、エンジン12から発進装置23および前後進切替機構35を介してプライマリシャフト42に伝達された動力を無段階に変速してセカンダリシャフト44に出力することができる。そして、セカンダリシャフト44に出力された動力は、ギヤ機構80、デファレンシャルギヤ88および車軸89を介して左右の駆動輪DWに伝達されることになる。
ギヤ機構80は、軸受を介してトランスアクスルケース22bにより回転自在に支持されるカウンタドライブギヤ81と、セカンダリシャフト44や車軸89と平行に延在すると共に軸受を介してトランスアクスルケース22bにより回転自在に支持されるカウンタシャフト82と、当該カウンタシャフト82に固定されると共にカウンタドライブギヤ81に噛合するカウンタドリブンギヤ83と、カウンタシャフト82に形成(あるいは固定)されたドライブピニオンギヤ(ファイナルドライブギヤ)84と、ドライブピニオンギヤ84に噛合すると共にデファレンシャルギヤ88に連結されるデフリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)85とを含む。
本実施形態において、CVT40のセカンダリシャフト44は、図示しないブッシュを介してカウンタドライブギヤ81の中空部により回転自在に支持される。そして、本実施形態のCVT40は、セカンダリシャフト44とカウンタドライブギヤ81との連結および両者の連結を解除することができる嵌め合い係合要素としてのドグクラッチC2を含む。ドグクラッチC2は、例えば、カウンタドライブギヤ81に形成された固定側嵌合部と、セカンダリシャフト44により軸方向に移動自在に支持されると共に固定側嵌合部と嵌合可能な可動側嵌合部とを有し、油圧制御装置50からの油圧とスプリングといった弾性体の付勢力との一方により固定側嵌合部と可動側嵌合部とを嵌合させると共に、油圧と弾性体の付勢力との他方により両者の嵌合を解除するように構成される。
上述のような動力伝達装置20を制御する変速ECU21も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を備える。図1に示すように、変速ECU21には、アクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや、車速センサ99からの車速V、複数のシフトポジションの中から所望のシフトポジションを選択するためのシフトレバー95の操作位置を検出するシフトポジションセンサ96からのシフトポジションSP、油圧制御装置50の作動油の油温Toilを検出する油温センサ、CVT40の入力回転数(インプットシャフト41またはプライマリシャフト42の回転速度)Ninを検出する回転数センサ、CVT40の出力回転数(セカンダリシャフト44の回転速度)Noutを検出する回転数センサといった各種センサ等からの信号、エンジンECU14やブレーキECU16からの信号等が入力され、変速ECU21は、これらの信号に基づいて発進装置23やCVT40、すなわち油圧制御装置50を制御する。
なお、本実施形態では、シフトレバー95のシフトポジションSPとして、駐車時に選択される駐車レンジに対応したPポジション、後進走行用のリバースレンジに対応したRポジション、中立のニュートラルレンジに対応したNポジション、通常の前進走行用のドライブレンジ(Dレンジ)に対応したDポジションに加えて、運転者に予め定められた複数の変速段の中から任意の変速段の選択を許容する前進走行用のスポーツポジション(Sポジション)、アップシフト指示ポジションおよびダウンシフト指示ポジションが用意されている。
図3は、油圧制御装置50の概要を示す系統図である。同図に示すように、油圧制御装置50は、エンジン12からの動力により駆動されてオイルパン58からストレーナ59を介して作動油を吸引して吐出する上述のオイルポンプ30に接続されるものである。油圧制御装置50は、図3に示すように、オイルポンプ30からの作動油を調圧してプライマリシリンダ47やセカンダリシリンダ48等に供給される油圧の元圧となるライン圧PLを生成するプライマリレギュレータバルブ51と、ライン圧PLを減圧して一定のモジュレータ圧Pmodを生成するモジュレータバルブ52と、モジュレータバルブ52からのモジュレータ圧Pmodを調圧してブレーキB1またはクラッチC1への油圧を生成する調圧バルブ(リニアソレノイドバルブ)53と、シフトレバー95と連動して調圧バルブ53からの作動油をシフトポジションSPに応じてブレーキB1およびクラッチC1の何れか一方に供給したり、両者に対する油圧の供給を遮断したりするマニュアルバルブ54とを含む。
更に、油圧制御装置50は、CVT40の変速に要する油圧を生成するために、第1リニアソレノイドバルブSLP、第2リニアソレノイドバルブSLS、プライマリプーリ圧制御バルブ55およびセカンダリプーリ圧制御バルブ56を含む。第1リニアソレノイドバルブSLPは、例えばモジュレータバルブ52からのモジュレータ圧Pmodを調圧して信号圧としてのプライマリソレノイド圧Pslpを生成する。第2リニアソレノイドバルブSLSは、例えばモジュレータバルブ52からのモジュレータ圧Pmodを調圧して信号圧としてのセカンダリソレノイド圧Pslsを生成する。また、プライマリプーリ圧制御バルブ55は、第1リニアソレノイドバルブSLPからのプライマリソレノイド圧Pslpを信号圧としてライン圧PLを調圧し、プライマリプーリ43すなわちプライマリシリンダ47へのプライマリプーリ圧(プライマリシーブ圧)Ppを生成する。セカンダリプーリ圧制御バルブ56は、第2リニアソレノイドバルブSLSからのセカンダリソレノイド圧Pslsを信号圧として用いてライン圧PLを調圧し、セカンダリプーリ45すなわちセカンダリシリンダ48へのセカンダリプーリ圧(セカンダリシーブ圧)Psを生成する。
上述の調圧バルブ53や第1リニアソレノイドバルブSLP、第2リニアソレノイドバルブSLSは、何れも変速ECU21により制御される。すなわち、変速ECU21は、ブレーキB1やクラッチC1への油圧が自動車10の状態に応じた目標圧となるように調圧バルブ53を制御する。また、変速ECU21は、プライマリプーリ圧制御バルブ55からのプライマリプーリ圧Ppが例えばアクセル開度Accと車速Vとエンジン12の回転数Neとに応じて定まるCVT40の目標変速比に応じた値になるように第1リニアソレノイドバルブSLPを制御する。更に、変速ECU21は、セカンダリプーリ圧制御バルブ56からのセカンダリプーリ圧PsによりCVT40のベルト46の滑りが抑制されるように第2リニアソレノイドバルブSLSを制御する。これらのバルブの制御に際して、変速ECU21は、図示しない補機バッテリから各バルブのソレノイド部に油圧指令値に応じた電流が印加されるように図示しない駆動回路を制御する。そして、本実施形態では、自動車10が停車した状態からの発進性能(再発進性能)を確保するために、自動車10の停車に際して、すなわち自動車10が停車した際や自動車10が急減速した際に、CVT40の変速比を最大減速比に設定するための(最減速側に戻すための)ベルト戻し処理が適宜実行される。
次に、上述のCVT40におけるベルト戻し処理について説明する。
図4は、変速ECU21により実行されるベルト戻しルーチンの一例を示すフローチャートであり、図5は、図4のベルト戻しルーチンが実行される際に車速V、入力回転数Ninおよび出力回転数Nout、変速比γ、クラッチC1への油圧Pc1、並びにCVT40のプライマリシャフト42に伝達される入力トルクTinが変化する様子を示すタイムチャートである。図4に示すベルト戻しルーチンは、運転者のブレーキ操作により自動車10が停車した際や自動車10が急減速した際に実行されるものであるが、ここでは、まず、シフトポジションSPがDポジションあるいはSポジションといった前進走行用ポジションである状態で運転者のブレーキ操作により自動車10が停車した際に実行されるものとして、図4に示すベルト戻しルーチンを説明する。
図4のベルト戻しルーチンの開始に際して、変速ECU21(図示しないCPU)は、CVT40の現変速比γを入力し(ステップS100)、現変速比γが予め定められた基準変速比(所定変速比)γref以下であるか否かを判定する(ステップS110)。ステップS100にて入力される現変速比γとしては、例えば、自動車10の停車直前に取得される入力回転数Ninと出力回転数Noutとから算出されて変速ECU21の図示しないRAMに格納されたCVT40の変速比を用いることができる。また、基準変速比γrefは、CVT40の最大減速比に比較的近く、かつ絶対値が比較的大きい正の値に定められる。そして、現変速比γが基準変速比γrefよりも大きく、最大減速比に比較的近いと判断した場合、変速ECU21は、以降の処理を実行することなく、本ルーチンを終了させる。すなわち、現変速比γが基準変速比γrefよりも大きい場合には、CVT40の現変速比γが自動車10の再発進性能を確保する上で充分に大きいとみなし、ベルト戻し処理の実行が省略される。
これに対して、ステップS110にて現変速比γが基準変速比γref以下であると判断した場合、変速ECU21は、クラッチC1の減圧制御(ステップS120)を開始する(図5における時刻t0)。ステップS120の減圧制御は、油圧制御装置50から前後進切替機構35のクラッチC1に供給される油圧Pc1が速やかに低下するように予め定められた制御態様に従って油圧Pc1の目標値を設定すると共に当該目標値に基づいて調圧バルブ53を制御するものである。そして、ステップS120の減圧制御は、ステップS130にて例えば油圧Pc1の目標値に基づいてクラッチC1への油圧Pc1が予め定められた基準圧(所定圧)Pref以下になったと判断されるまで継続される。ステップS130にて用いられる閾値としての基準圧Prefは、例えば、エンジン12がアイドル運転されると共にクラッチC1の油室(油圧サーボ)に基準圧Prefに一致する油圧が供給された状態でCVT40のプライマリプーリ43およびセカンダリプーリ45の溝幅を変化させた際にCVT40のベルト46の滑りを生じさせることなくクラッチC1に滑りを生じさせるように実験・解析を経て定められる。
ステップS130にてクラッチC1への油圧Pc1が基準圧Pref以下になったと判断すると、変速ECU21は、クラッチC1への油圧Pc1が基準圧Prefに保持されるように調圧バルブ53を制御すると共に、CVT40の変速比を最大減速比に設定するためのベルト戻し制御(ステップS140)を開始する(図5における時刻t1)。ステップS140のベルト戻し制御は、プライマリプーリ圧Ppを低下させることによりプライマリプーリ43の溝幅を増加させる(プライマリプーリ43の有効半径を減少させる)と共にセカンダリプーリ45の溝幅を減少させる(セカンダリプーリ45の有効半径を増加させる)ものである。本実施形態のステップ140では、予め定められた制御態様に従って油圧制御装置50からプライマリシリンダ47およびセカンダリシリンダ48に供給されるプライマリプーリ圧Pp、セカンダリプーリ圧Psの目標値が設定されると共に、プライマリプーリ圧Ppおよびセカンダリプーリ圧Psがそれぞれに対応した目標値になるように第1および第2リニアソレノイドバルブSLP,SLSが制御される。そして、ステップS140のベルト戻し制御は、ステップS150にてベルト戻し制御が開始されてから所定時間trefが経過したと判断されるまで継続される。ステップS150にて用いられる閾値としての所定時間trefは、例えば、自動車10が急制動により停車した状態からCVT40の変速比を最大変速比へと戻すのに要する時間よりも短く、所定時間trefが経過した時点で自動車10の発進性能をある程度充分に確保し得るように実験・解析を経て定められる。
ステップS150にてベルト戻し制御が開始されてから所定時間trefが経過したと判断すると(図5における時刻t2)、変速ECU21は、上述のようなベルト戻し制御を継続しつつ、クラッチC1の係合制御を開始する(ステップS160)。クラッチC1の係合制御は、油圧制御装置50から前後進切替機構35のクラッチC1に供給される油圧Pc1が速やかに増加して前後進切替機構35のクラッチC1が係合するように予め定められた制御態様に従って油圧Pc1の目標値を設定すると共に当該目標値に基づいて調圧バルブ53を制御するものである。そして、ステップS160の処理は、ステップS170にてCVT40の変速比が最大減速比に設定された(ベルト戻しが完了した)と判断されるまで継続される。ステップS170にてCVT40の変速比が最大減速比に設定されたと判断すると(図5における時刻t3)、変速ECU21は、上述のクラッチC1の係合制御のみを継続し(ステップS180)、ステップS190にてクラッチC1が完全に係合したと判断した段階で(図5における時刻t4)、本ルーチンを終了させる。これにより、図5における時刻t0にて自動車10が急制動により停車した場合であっても、図5における時刻t5にて自動車10が再発進する際には、自動車10の発進性能を良好に確保することが可能となる。
以上説明したように、CVT40を制御する変速ECU21は、シフトポジションSPがDポジション等の前進走行用ポジションである状態での前記車両の停車に際して、すなわち、シフトポジションSPがDポジション等の前進走行用ポジションである状態で自動車10が停車した際に、CVT40の変速比が基準変速比γrefよりも減速側にないと判定すると(ステップS110)、油圧制御装置50から前後進切替機構35のクラッチC1に供給される油圧Pc1を低下させる減圧制御(ステップS120)を実行する。更に、変速ECU21は、減圧制御を開始した後に、プライマリプーリ43の溝幅を増加させると共にセカンダリプーリ45の溝幅を減少させてCVT40の変速比を最減速側に移行させるベルト戻し制御(ステップS140)を実行し、ベルト戻し制御を開始した後に、油圧制御装置50から前後進切替機構35のクラッチC1に供給される油圧Pc1を増加させて当該クラッチC1を係合させる係合制御(ステップS160,S180)を実行する。
このように、シフトポジションSPがDポジション等の前進走行用ポジションである状態で自動車10が停車した際に、油圧制御装置50から前後進切替機構35のクラッチC1に供給される油圧Pc1を低下させる減圧制御(ステップS120)の開始後にベルト戻し制御(ステップS140)を実行すれば、エンジン12からプライマリシャフト42に伝達されるトルクを大幅に低下させた状態、すなわちエンジン12とプライマリシャフト42とを実質的に切り離した状態でプライマリプーリ43の溝幅を増加させると共にセカンダリプーリ45の溝幅を減少させることが可能となる。これにより、ベルト戻し制御の実行に際して、特にプライマリシャフト42側でベルト46の滑りを生じないようにして当該ベルト46の耐久性が悪化するのを抑制することができる。従って、CVT40を含む動力伝達装置20を搭載した自動車10では、CVT40のベルト46の耐久性を悪化させることなく、CVT40の変速比を最減速側に移行させるベルト戻し制御をより適正に実行することが可能となる。更に、上記実施形態のように、自動車10の停車後にベルト戻し制御を実行することで、CVT40を介してトルクが伝達される自動車10の停車前にベルト戻し制御を実行する場合に比べて当該ベルト戻し制御の実行に際してオイルポンプ30に要求される油圧が低下することから、オイルポンプ30の大型化を抑制することができる。
また、上記実施形態では、減圧制御(ステップS120)によって前後進切替機構35のクラッチC1への油圧Pc1が基準圧Prefまで低下した段階(ステップS130)でベルト戻し制御(ステップS140)が開始される。これにより、減圧制御(ステップS120)が開始されてから係合制御(ステップS160,S180)が完了するまでに要する時間をより短縮化することが可能となる。そして、上記実施形態のように、クラッチC1への油圧Pc1が基準圧Prefまで低下した段階から当該クラッチC1への油圧Pc1を基準圧Prefに保持することで、その後に実行される係合制御(ステップS160,S180)に要する時間をより短縮化することができる。
更に、上記実施形態では、ステップS150にてベルト戻し制御が開始されてから所定時間trefが経過したと判断された段階、すなわちベルト戻し制御(ステップS140)によってCVT40の変速比が最大減速比になる前に係合制御(ステップS160)が開始される。これにより、減圧制御(ステップS120)が開始されてから係合制御(ステップS160,S180)が完了するまでに要する時間をより一層短縮化することが可能となる。
図6は、図示しない第1の変形態様に係るベルト戻しルーチンが実行される際に車速V、入力回転数Ninおよび出力回転数Nout、変速比γ、クラッチC1への油圧Pc1、並びにCVT40のプライマリシャフト42に伝達される入力トルクTinが変化する様子を示すタイムチャートである。第1の変形態様に係るベルト戻しルーチンは、図4に示すベルト戻しルーチンにおいて、ステップS130の処理を減圧制御により前後進切替機構35のクラッチC1が完全に解放されたか否かを判定する処理に置き換えたものに相当する。すなわち、第1の変形態様に係るベルト戻しルーチンが実行された際には、図6における時刻t0においてクラッチC1に対する減圧制御が開始された後、前後進切替機構35のクラッチC1が完全に解放されたと判断された以降(図6における時刻t10)に上述のようなベルト戻し制御が開始されることになる。これにより、減圧制御が開始されてから係合制御が完了するまでに要する時間が若干長くなるものの、エンジン12からプライマリシャフト42にトルクが伝達されない状態、すなわちエンジン12とプライマリシャフト42とを完全に切り離した状態でプライマリプーリ43の溝幅を増加させると共にセカンダリプーリ45の溝幅を減少させることができるので、CVT40のベルト46の滑りの発生をより良好に抑制することが可能となる。
図7は、図示しない第2の変形態様に係るベルト戻しルーチンが実行される際に車速V、入力回転数Ninおよび出力回転数Nout、変速比γ、クラッチC1への油圧Pc1、並びにCVT40のプライマリシャフト42に伝達される入力トルクTinが変化する様子を示すタイムチャートである。第2の変形態様に係るベルト戻しルーチンは、図4に示すベルト戻しルーチンにおいて、ステップS130の処理を減圧制御により前後進切替機構35のクラッチC1が完全に解放されたか否かを判定する処理に置き換えると共に、ステップS150およびS160の処理を省略してステップS170にてCVT40の変速比が最大減速比に設定された(ベルト戻しが完了した)と判断されるまでステップS140のベルト戻し制御を継続するものに相当する。
すなわち、第2の変形態様に係るベルト戻しルーチンが実行された際には、図7における時刻t0においてクラッチC1に対する減圧制御が開始された後、前後進切替機構35のクラッチC1が完全に解放されたと判断された以降(図7における時刻t100)に上述のようなベルト戻し制御が開始され、ベルト戻し制御によってCVT40の変速比が最大減速比になった以降(図7における時刻t200)に係合制御が開始されることになる。これにより、CVT40のベルト46の滑りの発生をより良好に抑制しつつ、CVT40の変速比を最大減速比へと移行させることが可能となる。かかる第2の変形態様に係るベルト戻しルーチンは、自動車10の停車中にエンジン12からのトルクを増加させることがある坂路停車時に実行されると好ましく、それにより、CVT40のベルトの滑りの発生をより良好に抑制しつつ、坂路において自動車10を良好に再発進させることができる。なお、このようなベルト戻し制御を登坂路において行う場合には、いわゆるヒルホールド制御等により自動車10の電子制御式油圧ブレーキユニットを作動させればよい。
なお、図4のベルト戻しルーチンや第1および第2の変形態様に係るベルト戻しルーチンは、シフトポジションSPがDポジションあるいはSポジションといった前進走行用ポジションである状態で運転者のブレーキ操作により自動車10が停車した際だけではなく、上述のように、シフトポジションSPが前進走行用ポジションである状態で自動車10が急減速した際、すなわち運転者のブレーキ操作により自動車10が急減速して停車する(と判定される)際にも実行(開始)される。図8に、自動車10の急減速に伴って上述の第2の変形態様に係るベルト戻しルーチンが実行される際に車速V、入力回転数Ninおよび出力回転数Nout、変速比γ、クラッチC1への油圧Pc1、並びにCVT40のプライマリシャフト42に伝達される入力トルクTinが変化する様子を示す。
この場合、変速ECU21は、自動車10が急減速して停車するか否かを判定する判定手段としても機能し、例えばブレーキECU16からブレーキオン信号が送信され、図示しない加速度センサ(Gセンサ)により検出されるか、あるいは計算により求められる減速加速度が所定加速度(負の値)以下であり、かつ車速Vが所定車速以下であるときに、運転者のブレーキ操作により自動車10が急減速して停車すると判定するように構成され得る。そして、変速ECU21により自動車10が急減速して停車すると判定された時点(図8における時刻t0)、すなわち自動車10の停車前から減圧制御を開始すれば、図8に示すように自動車10が停車するまでにクラッチC1を完全に解放させることも可能となり((図8における時刻t1000参照)、より早期にベルト戻し制御および係合制御を開始することができる(図8における時刻t1000、t2000)。この結果、自動車10が急減速して停車した後の速やかな再発進が可能となる。なお、図8の例において、減圧制御の実行中(クラッチC1が完全に解放されるまでの間)に、例えばクラッチC1への油圧Pc1が所定圧まで低下した時点からプライマリプーリ圧Ppを予め定められた比較的低い圧力まで低下させてもよい。これにより、急減速中にベルト46を戻すための変速速度が早まるので、自動車10の停車後におけるベルト戻し制御に要する時間を短縮化することができる。
また、図4のベルト戻しルーチンや第1および第2の変形態様に係るベルト戻しルーチンは、減圧制御により油圧制御装置50から前後進切替機構35のクラッチC1に供給される油圧Pc1を低下させるものであるが、これらのルーチンは、減圧制御により油圧制御装置50からCVT40のクラッチ(ドグクラッチ)C2に供給される油圧を低下させるものとされてもよい。これらのベルト戻しルーチンによっても、セカンダリシャフト44と車軸89とを実質的に(または完全に)切り離して当該セカンダリシャフト44の回転を許容した状態でプライマリプーリ43の溝幅を増加させると共にセカンダリプーリ45の溝幅を減少させることができるので、プライマリシャフト42側やセカンダリシャフト44側でベルト46の滑りの発生を良好に抑制することが可能となる。
ここで、上記実施形態等における主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施形態等では、プライマリシャフト42に設けられたプライマリプーリ43と、セカンダリシャフト44に設けられたセカンダリプーリ45と、両者に架け渡されたベルト46と、油圧Pc1が供給された際に自動車10のエンジン12から車軸89へと動力を伝達可能とするクラッチC1,C2と、オイルポンプ30からの油圧を調圧してプライマリプーリ43およびセカンダリプーリ45の溝幅を変更するための油圧とクラッチC1,C2への油圧Pc1等を生成する油圧制御装置50とを含み、エンジン12からプライマリシャフト42に伝達される動力を無段階に変速してセカンダリシャフト44に出力可能なCVT40が「無段変速機」に相当し、図4のステップS110の処理を実行してシフトポジションSPがDポジション等の前進走行用ポジションである状態での自動車10の停車に際して、CVT40の変速比が基準変速比γrefよりも減速側にあるか否かを判定する変速ECU21が「判定手段」に相当し、ステップS110にてCVT40の変速比が基準変速比γrefよりも減速側にないと判定された際に、ステップS120にて油圧制御装置50からクラッチC1等に供給される油圧Pc1等を低下させる減圧制御を実行する変速ECU21が「係合要素減圧手段」に相当し、減圧制御が開始された後に、ステップS140、S160にてプライマリプーリ43の溝幅を増加させると共にセカンダリプーリ45の溝幅を減少させてCVT40の変速比を最減速側に移行させるベルト戻し制御を実行する変速ECU21が「ベルト戻し制御手段」に相当し、ベルト戻し制御が開始された後に、ステップS160,S180にて油圧制御装置50からクラッチC1等に供給される油圧Pc1等を増加させて当該クラッチC1を係合させる係合制御を実行する変速ECU21が「係合要素係合手段」に相当する。ただし、上記実施形態における主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施形態はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。