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JP5978009B2 - 絶縁被膜形成用処理液および絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

絶縁被膜形成用処理液および絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、電磁鋼板の表面に絶縁皮膜を形成するための処理液と、それを用いて形成された絶縁皮膜を有する電磁鋼板とに関する。本発明の絶縁皮膜形成用処理液は、6価クロム等の有害な化合物を含まない。
現在一般に使用されている無方向性電磁鋼板用の絶縁皮膜は以下の3種に大別される:(1)耐熱性が重視され、歪取り焼鈍可能な無機皮膜、(2)打抜き性と溶接性の両立を目指した、歪取り焼鈍可能な、無機有機混合型の半有機皮膜、(3)打抜き性が重視され、歪取り焼鈍不可の有機皮膜。
この中で汎用されているのは、歪取り焼鈍可能な(1)および(2)の無機成分を含む絶縁皮膜である。特に、(2)の半有機皮膜が、無機皮膜に比較して打抜き性が格段に優れるため、主流となっている。
これまで上記(1)、(2)の絶縁皮膜中の無機成分を形成するための材料としては、重クロム酸塩が広く用いられてきた。重クロム酸塩を使用した絶縁皮膜は、6価クロムと多価金属塩を含む水溶液にエチレングリコールやグリセリンなどの有機還元剤を混合して得た処理液を電磁鋼板に塗布した後、加熱して塗膜を焼付け、6価クロムを3価クロムに還元して造膜させることにより形成される。焼付けは200℃から330℃の温度で1分以内の短時間で終了する。しかし、昨今の環境負荷低減の社会的要請から、クロムを全く使用しないノンクロム型の絶縁皮膜が求められるようになってきた。
重クロム酸塩と同様に絶縁皮膜の形成に利用可能な無機成分として、縮合反応により造膜する多価金属リン酸塩がある。多価金属リン酸塩水溶液は、無機成分として数少ない造膜可能な系であり、かつ比較的安価に得られるため、従来より無機および半有機の絶縁皮膜用無機成分として検討されてきた(例えば、下記特許文献1を参照)。
下記特許文献2には、クロムを含まないリン酸アルミニウム系の無方向性電磁鋼板用表面処理剤が提案されている。この被膜特性に優れていると記載されている表面処理剤は、水中に第一リン酸アルミニウムに加えて、エマルジョン樹脂と少量のOH基含有有機化合物とを含有する。
また、下記特許文献3〜6には、重クロム酸塩系なみの低い焼付け温度で成膜でき、その場合でも優れた耐水性や、密着性、絶縁性等の電磁鋼板用絶縁皮膜に必要な諸性能を備える、リン酸塩系の処理液が開示されている。
特公昭53−28375号公報 特開平11−152579号公報 特開2001−107261号公報 特開2002−47576号公報 特開2002−249881号公報 特開2008−303411号公報
多価金属リン酸塩系の非クロム絶縁被膜を備える電磁鋼板は、実用化されているものも多いが、使用環境によって、以下の問題点を指摘されることがある。
(1)製造直後の白化
製品製造直後から、外観が白っぽくなることがある。これは、絶縁被膜形成のための処理液が酸性であるため、処理液の塗布によって鋼板表面のFeが溶出し、塗布された処理液中のリン酸イオンと結合してリン酸鉄を形成するためであると考えられる。
(2)保管時の白化
コイルの運搬、保管期間に、皮膜表面が白化することがある。これは環境が高温多湿の場合に生じやすいことから、コイル内部で結露等が生じ、これに起因する変色であると考えられる。
(3)ブルーイング処理後の密着性劣化
切断又は打ち抜きされた電磁鋼板からモータやトランス等の製品に加工する際、端面短絡の抑制ならびに切断/打抜き端面の防錆性向上のため、表面が干渉色を呈する程度にまで鋼板を酸化処理(これをブルーイング処理ともいう)させることがある。このようなブルーイング処理を行うと、絶縁被膜の密着性が劣化することがある。
本発明の課題は、上記問題点が改善された、クロムを使用しない絶縁皮膜を電磁鋼板の表面に形成することができる絶縁皮膜形成用処理液およびこのような絶縁被膜を備える電磁鋼板を提供することである。
本発明によれば、上記課題は、下記の絶縁皮膜形成用処理液により解決される:
(1)ブルーイング処理後の密着性が良好であるとともに被膜の白化が抑制された電磁鋼板の絶縁被膜形成用処理液であって、水性媒体中に、Alおよび/またはMgを主成分とする多価金属の第一リン酸塩と、硝酸および多価金属硝酸塩から選ばれた硝酸化合物と、ホスホン酸化合物およびピロリン酸から選ばれたキレート剤と、を含有することを特徴とする、電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
(2)固形分換算の含有量で、前記リン酸塩100質量部に対して、前記硝酸化合物を5〜50質量部、前記キレート剤を5〜100質量部の量で含有する、上記(1)記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
(3)前記多価金属硝酸塩が、Zn、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種の金属の硝酸塩である上記(1)または(2)記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
(4)前記多価金属硝酸塩が硝酸亜鉛である上記(3)記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
(5)さらに多価金属水酸化物を含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
(6)前記多価金属水酸化物が水酸化ストロンチウムである上記(6)に記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
(7)前記水酸化ストロンチウムの量が、固形分換算で、前記リン酸塩100質量部に対して5〜50質量部である上記(6)記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
(8)さらに水性樹脂を含む上記(1)〜(7)のいずれかに記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
(9)前記水性樹脂の量が、固形分換算で、前記リン酸塩100質量部に対して3〜100質量部である上記(9)記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
別の側面において、本発明は、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の処理液を用いて前記電磁鋼板の表面に絶縁皮膜を形成することを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法である。
本発明によれば、前述した問題点、すなわち、製造直後の白化、保管時の白化、およびブルーイング処理後の密着性劣化、が抑制または解消された、ノンクロム型絶縁皮膜を備えた電磁鋼板を提供することが可能となる。
本発明の処理液により表面に絶縁皮膜が形成される電磁鋼板の種類は、特に限定されない。電磁鋼板は無方向性と方向性のいずれでもよく、また熱延鋼板と冷延鋼板のいずれでもよい。一般的な電磁鋼板はSiを0.1〜5質量%程度含む低炭素鋼板であるが、Siをほとんど含まない普通鋼の鋼板も電磁鋼板として使用可能である。
本発明に従って、電磁鋼板に絶縁皮膜を形成するのに用いる処理液は、水性媒体中に、Al及び/又はMgを主成分とする多価金属のリン酸塩と、無機化合物である硝酸および多価金属硝酸塩から選ばれた硝酸化合物と、キレート剤であるホスホン酸化合物および/またはピロリン酸とを含有する。この処理液はホウ酸またはホウ酸塩を含有しないことが好ましい。
溶媒である水性媒体は水のみからなるものでよいが、水と水混和性有機溶媒(例、アルコール、ケトン等)との混合溶媒も使用することができる。処理液の固形分濃度は、塗布が可能な稠度が得られ、1回の塗布で必要な膜厚の絶縁皮膜を形成でき、かつ塗布液の安定性が保持できるように調整することが好ましい。
Al及び/又はMgを主成分とする多価金属のリン酸塩の水溶液に、多価金属硝酸塩を含有させることで処理液の成膜性や絶縁皮膜の密着性が得られると共に、キレート剤としてホスホン酸化合物及び/又はピロリン酸を含有させることにより、塗装時の白化が抑制される。
多価金属の第一リン酸塩のうち、第一リン酸アルミニウムと第一リン酸マグネシウムは、高濃度の処理液が得られやすく、また工業的に安価であることから、これらの1種又は2種を多価金属第一リン酸塩の主成分として用いる。主成分とは、多価金属第一リン酸塩の50質量%以上を占めること意味する。従って、多価金属第一リン酸塩の50質量%以上がAl及び/又はMgの第一リン酸塩である。
本発明の処理液は、上記以外の他の多価金属第一リン酸塩を含有していてもよい。その場合、他の多価金属の第一リン酸塩の量は合計でリン酸塩全体の50質量%未満であり、好ましくは30質量%未満、より好ましくは20質量%未満である。使用可能な他の多価金属の第一リン酸塩としては、Ca、Sr、BaおよびZnの第一リン酸塩から選ばれた1種または2種以上が挙げられる。
いうまでもないが、第一リン酸塩とは、リン酸二水素金属塩のことであり、例えば、第一リン酸マグネシウムはMg(H2PO3)2、第一リン酸アルミニウムはAl(H2PO3)3なる化学式で表される。しかし、第一リン酸塩は工業的にはリン酸(オルトリン酸)に適量の金属水酸化物を反応させることにより製造されているため、金属水酸化物の量を変動させることにより金属/Pの原子比を変動させたリン酸塩を製造することができる。本発明では、2価金属の第一リン酸塩(例、リン酸第一Mg)とは金属/Pの原子比が0.7/2〜1.2/2のものを意味し、3価金属の第一リン酸塩(例、リン酸第一Al)は金属/Pの原子比が0.7/3〜1.2/3のものを意味する。
本発明に従って多価金属硝酸塩を添加することにより、絶縁被膜の密着性が向上し、特にブルーイング処理後の密着性が向上する。好ましい硝酸塩としては、Zn、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種以上の金属の硝酸塩を挙げることができる。多価金属硝酸塩の代わりに、またはそれに加えて、硝酸それ自体を使用することもできる。特に好ましい硝酸塩は硝酸亜鉛である。従って、多価金属硝酸塩は、少なくとも主成分として硝酸亜鉛を使用し、場合によりその50質量%未満の量で他の多価金属硝酸塩または硝酸を含有することが好ましい。より好ましくは、多価金属硝酸塩は硝酸亜鉛単独である。しかし、硝酸化合物として、硝酸あるいは硝酸亜鉛以外の金属硝酸塩を単独で使用することも可能である。
本発明の処理液を電磁鋼板の表面に塗布し、乾燥することにより形成された絶縁皮膜を分析すると、処理液がFe成分を含有しなくても、形成された絶縁皮膜中にFeの存在が確認される。Feの存在量は、表面からのGDSによる測定によれば、製造機会により変動があるものの、皮膜中のFeとPのモル比(強度より換算)で、概ね0.1以上となっている。このFeは無論、鋼板に由来する。すなわち、多価金属硝酸塩および硝酸から選ばれた硝酸化合物を含有する本発明の処理液は、鋼板表面を強くエッチングしており、これが密着性向上に寄与していると考えられる。
本発明の処理液中における硝酸化合物の含有量は、固形分換算で、多価金属第一リン酸塩100質量部に対して5〜50質量部の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは10〜30質量部である。この含有量が5質量部未満であると、絶縁被膜の密着性の改善が十分でないことがあり、50質量部を超えると、塗装後の白化が生じやすくなることがある。
処理液が、ホスホン酸化合物及びピロリン酸から選ばれた少なくとも1種からなるキレート剤を含有することで、処理液中に溶出したFeイオンをこのキレート剤が捕捉すると考えられる。そのため、前述のように硝酸化合物を含有する処理液によって鋼板表面が強くエッチングされても、製造直後の白化が抑えられる。これに対し、例えば、エチレンジアミンといった他のキレート剤では、酸基を有しないため、処理液中の第一リン酸イオンと反応して、キレート形成能あるいは金属捕捉能力を失ってしまう。
さらに、ホスホン酸化合物及び/又はピロリン酸からなるキレート剤が縮合リン酸皮膜に組み込まれることにより、捕捉されたFe(多価金属)の効果と相まって、より緻密な絶縁皮膜が形成される可能と推定される。
キレート剤として作用するホスホン酸化合物の例としては、ヒドロキシエチリデンモノ−およびジ−ホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸等が挙げられる。以上はいずれも例示にすぎず、他の化合物も使用することができる。ピロリン酸もキレート剤として好適である。
これらキレート剤の含有量は、固形分換算で、多価金属第一リン酸塩100質量部に対して5〜100質量部の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは10〜70質量部である。この含有量が5質量部未満であると、処理液の安定性が保てないことがあり、100質量部を超えると鋼板表面の白化現象が生じやすくなることがある。
本発明の絶縁被膜を形成するための処理液は、上述したAl及び/又はMgを主成分とする多価金属の第一リン酸塩、多価金属硝酸塩、ホスホン酸化合物及び/又はピロリン酸からなるキレート剤に加え、他の成分をさらに含有することができる。
本発明の処理液にさらに含有させることが好ましい他の成分としては、多価金属水酸化物および水溶性樹脂が挙げられる。
処理液がさらに多価金属水酸化物を含有していると、リン酸イオンに対する多価金属の比率を高めることが可能となり、低温での焼付けにおいてより成膜性が向上するという効果を得ることができる。この効果を効率よく得るには、多価金属水酸化物が水酸化ストロンチウムであることが好ましい。水酸化ストロンチウムは、酸に溶解しやすく、容易に溶液とすることができ、また低温での焼付けでの成膜性の向上効果が大きい。なお、多価金属水酸化物は、金属酸化物の形態で処理液に配合することもできる。
処理液が水酸化ストロンチウムを含有する場合、その含有量は、固形分換算で、多価金属第一リン酸塩100質量部に対して5〜50質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは10〜30質量部である。この含有量が5質量部未満であると、低温焼付けでの成膜性の改善効果が十分に得られない。一方、50質量部を超えると、処理液の安定性が保てなくなることがある。
本発明の処理液は、水性の合成樹脂をさらに含有することができる。合成樹脂を添加することにより、打抜き性のよい半有機皮膜を形成することができる。一方、合成樹脂を添加することにより、700℃〜800℃の焼鈍においては皮膜が劣化する傾向にあるため、添加量には留意が必要である。合成樹脂の添加量は、固形分換算で、多価金属第一リン酸塩100質量部に対し、3〜100質量部の範囲内とすることが好ましい。合成樹脂の量が3質量部より少ないと、打抜き性の向上がほとんど得られず、100質量部を超えると、歪取り焼鈍後の層間抵抗が低下することがある。この合成樹脂の添加量は、より好ましくは5〜70質量部、さらに好ましくは10〜50質量部である。
合成樹脂としては、処理液が水性であることから、水性の合成樹脂を使用する。水性合成樹脂は、エマルジョン型、水分散性型、水溶性型のいずれであってもよい。合成樹脂の具体例として、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。合成樹脂は、1種または2種以上添加することができる。
本発明の処理液にはまた、層間抵抗を向上させるため、コロイダルシリカを配合してもよい。コロイダルシリカの添加量は、第一リン酸塩のP換算100質量部あたりSi換算で50質量部以下(すなわち、Si/P質量比が50以下)とすることが好ましい。シリカ添加量が過多であると、処理液の安定性が失われたり、または表面性状が損なわれることがある。この添加量はより好ましくは2〜30質量部である。
上記以外にも、処理液中に、所望により、防錆剤、消泡剤、処理液安定化剤等の他の添加剤を適宜配合することができる。
例えば、本発明の絶縁皮膜形成用処理液に防錆剤を添加することにより、輸送、保管等に際して防錆性の優れた絶縁皮膜付き電磁鋼板を得ることができる。防錆剤としては、第4級イミダゾリウム化合物、ポリアミン化合物、キノリン化合物、チオカルボニル化合物、チアゾール化合物、メルカプト化合物、スルフィド化合物、チオカルバミン酸塩、ピリジニウム化合物、チオシアン酸塩およびイソチオシアン酸塩から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。このうち、第4級イミダゾリウム化合物およびポリアミン化合物が好ましい。
一方、本発明の処理液は、従来から広く用いられてきたホウ酸(又はその塩)を含有しないことが好ましい。ホウ酸は、クロムほどではないものの、環境面での規制対象の成分となり得るからである。本発明では、処理液中に硝酸塩を含有することで、従来はホウ酸(塩)が担ってきた皮膜の密着性に関する効果を備える。
本発明の処理液を使用し、これを基材の電磁鋼板の表面(通常は両面であるが、片面に塗布することも可能)に塗布し、加熱して塗膜を焼付けると、密着性と皮膜成分溶出起因による耐表面白化性に優れたリン酸塩系絶縁皮膜が形成される。
処理液の塗布方法は特に制限されず、工業的に一般に用いられる、ロールコーター、カーテンフローコーター、スプレー塗装、ナイフコーター、浸漬等の種々の塗布方法が適用できる。
皮膜の焼付けも、通常実施される、熱風式、赤外線式、誘導加熱式等の方法によって実施でき、従来の重クロム酸塩なみの焼付温度、即ち、200〜350℃の温度範囲で1分以内の短時間の焼付きによる成膜で、密着性と皮膜成分溶出起因による耐表面白化性に優れ、美麗外観、絶縁性も良好な絶縁皮膜が生成する。
電磁鋼板の絶縁皮膜の膜厚は、0.05μm以上、2μm以下の範囲が好ましい。膜厚が0.05μm未満であると、均一塗布が困難になるだけでなく、焼鈍時の耐焼付き性および耐食性、層間抵抗が不足する。膜厚が2μmを超えると、層間抵抗の向上しろが飽和する上、皮膜の密着性が低下するようになる。膜厚の上限は1.5μm以下とすることがより好ましい。絶縁皮膜は通常は電磁鋼板の両面に形成されるが、片面だけに形成することも可能である。
層間抵抗、即ち、絶縁性が主に要求される場合には、膜厚を0.5μm以上とするのがよい。逆に、例えば、鉄芯や回転機の生産時の生産性の向上のために溶接性の改善が要求される場合には、0.5μm未満、好ましくは0.25μm以下の薄膜とすることが要求される。このように、用途で重視される性能に応じて、膜厚を設定することができる。本発明の処理液は、薄膜塗装も可能であり、薄膜でも良好な諸性能を得ることが可能である。
本発明に係る処理液から形成された絶縁皮膜を有する電磁鋼板は、打ち抜き性にも優れているので、常法に従って容易に打ち抜き加工をすることができる。また、打ち抜き加工後に積層と溶接又は機械的な一体化により鉄心を形成した後、電気機器に組み込む前に、700〜800℃で歪取り焼鈍や、ブルーイング処理を実施してもよく、絶縁皮膜が歪み取り焼鈍後や、ブルーイング処理後も高い密着性を保持し、これら処理での絶縁皮膜の剥離が防止され、所定の特性を有する鉄心を確実に製作することができる。
ブルーイング処理とは、打ち抜き端面の防錆性向上のため、焼鈍炉の最終ゾーン(200〜300℃)またはバッチ式焼鈍炉の降温時に水蒸気を吹込み、鋼板表面に酸化膜を生成させる処理である。また、歪み取り焼鈍は、電磁鋼板の剪断および打ち抜き加工の際に発生した応力を除去して必要な磁気特性を得るために行われる処理であって、窒素ガスやアルゴンガス、ブタンガスなどを不完全燃焼させ発生させた一酸化炭素などの非酸化性雰囲気ガス中700〜800℃で2時間程度均熱した後、徐冷することにより行われる。
以下に示す実施例により本発明を具体的に例示するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。実施例中の%および部は、特に指定しない限り、固形分換算での質量%および質量部である。
下記成分を表1に示す割合で含有する処理液を調製した。処理液の全固形分濃度は10〜20%の範囲内であった。使用した成分は次の通りである:
・多価金属第一リン酸塩:第一リン酸アルミニウム(Al/P原子比=0.9/3)および第一リン酸マグネシウム(Mg/P原子比=0.85/2);
・硝酸塩成分:硝酸亜鉛または硝酸;
・キレート剤:1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)及び/又はピロリン酸;
・水性樹脂:水溶性アクリルスチレン樹脂(日本合成化学社製モビニール6551);
・多価金属水酸化物:水酸化ストロンチウム。
Figure 0005978009
上記処理液を、0.3%のSiを含む板厚0.5mmの無方向性電磁鋼板の片面に、焼付け後の絶縁皮膜の膜厚が0.05〜2.0μmとなるようにロールコーターで塗布した後、熱風炉で最高到達板温度が300℃となるように30秒間加熱して塗膜を焼付け、すぐに水冷、乾燥を行い、絶縁皮膜を形成した。
こうして得られた絶縁皮膜付き電磁鋼板の諸性能を下記に示す評価方法ならびに判定基準で評価した結果を表2に示す。
[処理液の安定性]
処理液を50℃で1ヶ月間保存した後、目視で観察した処理液の状態(固形物の発生の有無)により次のように評価をした:
○:固形物が発生しない、
×:固形物が発生。
[塗装外観(塗装後の白化)]
塗装により絶縁皮膜を形成した電磁鋼板の試験片の外観を目視により観察した。下記の3段階で評価を行い、○を合格とした:
○:クリアー皮膜(全面的に透明)、
×:部分的、全面的に白色ムラがある。
[絶縁被膜の密着性]
下記の3種類の密着性評価方法を実施。いずれの密着性試験でも○以上を合格とした。
(A)初期密着性
長さ50mm、幅25mmの絶縁皮膜付き電磁鋼板の試験片を、直径5mmの鉄棒に巻き付け、巻き付けた外側の部分についてテープ剥離試験を行って、鋼板に残存した絶縁皮膜の状況を調査した。下記の4段階で評価を行い、◎、○を合格とした:
◎:皮膜剥離なし、
○:皮膜剥離発生(面積率で5%以下)、
△:皮膜剥離発生(面積率で5%超、30%以下)、
×:皮膜剥離発生(面積率で30%超)。
(B)ブルーイング処理後の密着性
長さ50mm、幅25mmの絶縁皮膜付き電磁鋼板の試験片を、ブルーイング処理を模した熱処理(COを約2〜4%含有するDXガス(プロパンと空気とを一定の比率で混合し、燃焼室で燃焼させたガス)雰囲気中で、温度450℃〜500℃、露点35℃〜40℃で2時間加熱する処理)を受けさせた後、皮膜を外側に向けて直径10mmの鉄棒に巻き付け、巻き付けた外側の部分についてテープ剥離試験を行い、鋼板に残存した絶縁皮膜の状況を調査した。
下記の4段階で評価を行い、◎、○を合格とした:
◎:皮膜剥離なし、
○:皮膜剥離発生(面積率で5%以下)、
△:皮膜剥離発生(面積率で5%超、30%以下)、
×:皮膜剥離発生(面積率で30%超)。
(C)歪み取り焼鈍後の密着性
長さ50mm、幅25mmの絶縁皮膜付き電磁鋼板の試験片を、歪み取り焼鈍を模した熱処理(窒素雰囲気中750℃に2時間加熱後、窒素雰囲気下で室温まで放冷する処理)を受けさせた後、皮膜を外側に向けて直径10mmの鉄棒に巻き付け、巻き付けた外側の部分についてテープ剥離試験を行って、鋼板に残存した絶縁皮膜の状況を調査した。下記の4段階で評価を行い、◎、○を合格とした:
◎:皮膜剥離なし、
○:皮膜剥離発生(面積率で5%以下)、
△:皮膜剥離発生(面積率で5%超、30%以下)、
×:皮膜剥離発生(面積率で30%超)。
[保管時の耐表面白化性]
55mm×55mmに打ち抜いた絶縁皮膜付き電磁鋼板の試験片に対して、裏面ならびにおもて面(皮膜形成面)の端面に5mm幅でシールテープを施し(皮膜露出面積は50mm×50mmの正方形)、50℃のイオン交換水に浸漬して1時間超音波をかけた後、取り出し、皮膜を乾燥した際の外観ならびに、超音波浸漬後のP量/初期P量(被膜残存量)を測定し、それぞれ下記の4段階で評価をした。
外観:
○:白化、色むら無く、美麗外観、
×:部分的、全面的に白色ムラがある。
被膜残存量:
◎:98%以上残存、
○:95%以上残存、
△:90%以上95%未満残存、
×:90%未満残存。
Figure 0005978009
表2からわかるように、本発明に従った実施例の処理液から絶縁皮膜を形成した場合には、すべての試験項目が合格となる試験結果が得られた。これに対し、硝酸化合物とキレート剤の一方又は両方を含有しない比較例の処理液から絶縁皮膜を形成した場合には、少なくとも1つの試験項目が不芳となった。また、硝酸成分の代わりに、従来より使用されてきたが、環境面で懸念のあるホウ酸を用いたNo.31〜34の比較例の処理液に比べても、実施例の処理液は、特にブルーイング処理後の密着性において優れていた。
本発明によれば、重クロム酸化合物のようなクロム化合物のみならず、環境上の問題が懸念されるホウ酸化合物も使用せずに、代わりに、強酸性であってエッチング性の強い硝酸化合物を使用することで、ホウ酸化合物を使用する場合よりさらに優れた性能を示す絶縁皮膜を電磁鋼板表面に形成することが可能となる。

Claims (10)

  1. ブルーイング処理後の密着性が良好であるとともに被膜の白化が抑制された電磁鋼板の絶縁被膜形成用処理液であって、水性媒体中に、Alおよび/またはMgを主成分とする多価金属の第一リン酸塩と、硝酸および多価金属硝酸塩から選ばれた硝酸化合物と、ホスホン酸化合物およびピロリン酸から選ばれたキレート剤と、を含有することを特徴とする、電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液(ただし、非イオン界面活性剤を含む場合を除く)
  2. 固形分換算の含有量で、前記リン酸塩100質量部に対して、前記硝酸化合物を5〜50質量部、前記キレート剤を5〜100質量部の量で含有する、請求項1に記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
  3. 前記多価金属硝酸塩が、Zn、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種の金属の硝酸塩である請求項1または2に記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
  4. 前記多価金属硝酸塩が硝酸亜鉛である請求項3に記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
  5. さらに多価金属水酸化物を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
  6. 前記多価金属水酸化物が水酸化ストロンチウムである請求項5に記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
  7. 前記水酸化ストロンチウムの量が、固形分換算で、前記リン酸塩100質量部に対して5〜50質量部である、請求項6に記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
  8. さらに水性樹脂を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
  9. 前記水性樹脂の量が、固形分換算で、前記リン酸塩100質量部に対して3〜100質量部である、請求項8に記載の電磁鋼板の絶縁皮膜形成用処理液。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の処理液を用いて前記電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成
    することを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法。
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