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JP5960951B2 - 疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents

疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP5960951B2 JP2011076068A JP2011076068A JP5960951B2 JP 5960951 B2 JP5960951 B2 JP 5960951B2 JP 2011076068 A JP2011076068 A JP 2011076068A JP 2011076068 A JP2011076068 A JP 2011076068A JP 5960951 B2 JP5960951 B2 JP 5960951B2
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Description

本発明は、疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関する。特に、使用中に圧力変動のある自動車用燃料タンク用に使用される疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関する。
フェライト系ステンレス鋼板は、厨房機器、家電機器、自動車など広く利用されている。特に、C、Nの含有量を極力減少させ、微量のTi、Nbを添加し、C、NをTiおよびNbの炭窒化物として固定させた高純度フェライト系ステンレス鋼板は、その耐食性、加工性が、SUS304を代表とするオーステナイト系ステンレス鋼板と遜色ないレベルに達していることから、その用途は大幅に拡大している。そして、近年では、その優れた耐食性、加工性から、各種容器用としても使用され、さらに、自動車用燃料タンクとしてもその使用が検討され始めている。
高純度フェライト系ステンレス鋼板は、主として、0.2mm〜2.5mm程度の薄鋼板として使用されることが多い。この場合、疲労特性が課題となる用途はほとんどなく、これまで疲労特性について重要視されることはなかった。
しかし、このような高純度フェライト系ステンレス鋼板を自動車用燃料タンク等の容器用として適用する場合、使用中にタンクに繰り返し応力がかかるため、優れた疲労特性が要求されることが想定される。
一方、高純度フェライト系ステンレス鋼板へ、Bを添加することにより、二次加工性を改善する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、Bを0.0003〜0.0050質量%、また特許文献2には、Bを0.0002〜0.005質量%含有させる方法が開示されている。
また、特許文献3には、Bを添加するとともに、高純度フェライト系ステンレス鋼板を製造する際に、各工程条件、特に冷延板の焼鈍工程の最適化を図ることにより、二次加工性を向上させる技術が開示されている。
特開平8−333639号公報 特開平11−236650号公報 特開2004−323957号公報
本発明者らが、高純度フェライト系ステンレス鋼板を容器用として適用したところ、加工性は良好であるものの、疲労特性が想定よりも良くないことが判明した。疲労特性の改善が解決すべき課題として認識された。しかし、特許文献1〜3の何れも、B添加による二次加工性の向上を図るものであり、疲労特性の改善には言及されておらず、従来技術で製造されたフェライト系ステンレス鋼板では、良好な疲労特性を確保することは困難であった。また、添加したBの析出挙動と疲労特性との関係について明らかにしたものはこれまで存在しなかった。
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、良加工性を有する高純度フェライト系ステンレス鋼板において、B添加量を調整するとともに、粒界上へのボライドの析出を抑制することにより疲労特性を向上させた容器用フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、高純度フェライト系ステンレス鋼板の自動車用燃料タンク等の容器材料への適用検討を進めてきた。上述したように、自動車用燃料タンク等に代表される容器では、その使用中に、正圧〜負圧領域にわたる繰り返し応力が負荷されることから、高純度フェライト系ステンレス鋼板の疲労特性が重要である。しかし、本発明者らは、高純度フェライト系ステンレス鋼板の疲労特性が想定よりも低いことを見出し、その改善検討に取り組んだ。そして、種々の検討を重ねた結果、高純度フェライト系ステンレス鋼板の疲労特性が低い原因が、疲労による破断面に粒界割れが起きることであることを解明した。高純度フェライト系ステンレス鋼板では、不純物が少ないため、粒界が清浄となりやすく、そのために、粒界強度が低下し、粒界割れが生じたものと考えられる。この対策として、粒界に偏析することにより粒界強度の向上に寄与するBおよびNb、Vの微量添加による粒界強化を検討した。
さらに、B添加を行う場合、粒界上へのボライドの析出を抑制することが疲労特性向上に有効であることを見出し、その制御方法の検討を行った。その中で、Mo無添加か、もしくはMo添加量が少ない場合には、ボライドの粒界への析出が特に促進されることが明らかとなり、その析出抑制方法の検討も行った。
その結果、ボライドの粒界への析出に大きく影響する因子は、冷延板の焼鈍温度および焼鈍温度から600℃までの平均冷却速度にあることを見出した。焼鈍温度が850℃以上900℃以下と比較的低い場合は、焼鈍温度から600℃までの平均冷却速度が10℃/s以上であれば、ボライドが析出する600℃までの温度帯を通過する時間が短く、ボライドの析出を抑制できる。しかし、焼鈍温度が900℃を超えると、焼鈍温度が比較的低い場合と比較して、600℃までの温度帯を通過する時間が相対的に長くなるため、より速い冷却速度が必要となる。そして、本発明者らは、焼鈍温度が900℃を超える場合には、平均冷却速度を15℃/s以上とすることで、ボライド析出を抑制できることを明らかにした。また、600℃以下での平均冷却速度はボライド析出にほとんど影響を与えないことも明らかとなった。
ここで、上述したような、疲労特性に及ぼすB添加量または平均冷却速度の影響について詳細に説明する。
図1は、加減圧耐久試験での耐久寿命(破断寿命)を示したものである。使用した材料は、一般的である、製鋼−熱間圧延−酸洗−冷間圧延―焼鈍・酸洗の工程を経て作製した、板厚0.8mmのフェライト系ステンレス鋼板である。また、その組成は17Cr−0.2Ti鋼で、Bの添加量のみ変化させて試験を行った。なお、本発明において重要なパラメータである焼鈍温度は920℃とし、600℃までの平均冷却速度は、25℃/sを主とし、一部10℃/sとした。
図1より明らかなように、Bを添加していない鋼板と比較して、Bを5ppm、12ppm程度添加した鋼板は、その耐久寿命が30%以上向上していることが分かる。しかし、Bを同じ12ppm添加した鋼でも、焼鈍の平均冷却速度が10℃/sと遅い場合は、耐久寿命は低い値となっている。これは、焼鈍温度を920℃と高温にした一方、平均冷却速度が遅かったため、粒界へのボライド析出が進行してしまい、結果、耐久寿命が低下し疲労特性が劣化したものと考えられる。
また、平均冷却速度を25℃/sとした場合において、耐久寿命は、Bの添加量が12ppm程度までは上昇しているが、それ以降は低下している。これは、Bの添加量が多すぎたため、ボライドの析出を十分に抑制することができず、結果、耐久寿命が低下してしまったと考えられる。
以上の検討結果および知見から、疲労特性に優れた容器用のフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法を発明するに至った。その発明の要旨は以下の通りである。
[1] 質量%で、
C:0.01%以下、
Si:1%以下、
Mn:1%以下、
P:0.04%以下、
S:0.005%以下、
Mo:0.05%以下、
Cr:11%〜19%、
Ti:10×(C+N)以上0.3%以下、
Al:0.02〜0.2%、
N:0.015%以下、
B:0.0004%〜0.0015%、
をそれぞれ含有し、かつ固溶Bを0.0003%以上含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、
JIS G0571規定のシュウ酸電解エッチングを行った際に、ボライド起因のエッチピットが、粒界上に2×10−5個/μm以下であり、正圧40kPa、負圧−40kPaを繰り返す加減圧耐久試験での破断寿命が2万回以上の疲労特性であることを特徴とする疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板。
[2] さらに、質量%で、
V:0.005〜0.2%、
Nb:0.005〜0.2%、
の1種以上を含むことを特徴とする上記[1]に記載の疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板。
[3] さらに、質量%で、
Ni:0.005〜0.5%、
Cu:0.005〜0.5%、
Sn:0.005〜0.3%、
の1種以上を含むことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板。
[4] 上記[1]から[3]の何れか一項に記載の鋼組成を有するフェライト系ステンレス鋼を製造する際に、冷延板の焼鈍温度を850℃以上950℃以下とし、600℃までの平均冷却速度を、前記焼鈍温度850℃以上900℃以下の場合は10℃/s以上、前記焼鈍温度が900℃超950℃以下の場合は15℃/s以上として冷却することを特徴とする疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板の製造方法
本発明によれば、B添加量を調整し、ボライドの析出を抑制することにより、粒界強度を高め、良好な加工性を維持できるとともに、疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。特に、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板を自動車用燃料タンクのような、使用中に圧力変動を受けるような容器の用途に適用することにより、部品寿命の延長や、薄肉化によるコスト低減が可能となり、産業上、非常に有益である。
17Cr−0.2Ti鋼における疲労特性に及ぼすB添加量または平均冷却速度の影響を示すグラフである。
以下に、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板について詳細に説明する。
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.01%以下、Si:1%以下、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.005%以下、Mo:0.1%以下、Cr:11%〜19%、Ti:10×(C+N)以上0.3%以下、Al:0.02〜0.2%、N:0.015%以下、B:0.0004%〜0.0015%、をそれぞれ含有し、かつ固溶Bを0.0003%以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、JIS G0571規定のシュウ酸電解エッチングを行った際に、ボライドを起因とするエッチピットが、粒界上に2×10−5個/μm以下である。
以下に、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の鋼組成を限定した理由について詳細に説明する。なお、ここで、下限のないものについては、不可避的不純物レベルまで含むことを示す。また、%は特に断りがない場合は質量%を意味する。
C:0.01%以下
Cは加工性と耐食性を劣化させるため、その含有量は少ないほど良いため、その上限を0.01%とする。ただし、Cの過度の低減は精錬コストを増大させるため、その下限は、0.003%が望ましい。
Si:1%以下
Siは脱酸材として有用な元素であるが、多量に添加すると加工性が低下するため、その含有量は少ないほど好ましい。そのため、Siの上限は1%とする。なお、加工性を重視する場合、0.2%以下が好ましい。
Mn:1%以下
MnもSiと同様に脱酸材として有用な元素であるが、多量に添加すると加工性が低下するため、その含有量は少ないほど好ましい。そのため、Mnの上限は1%とする。なお、加工性を重視する場合、0.2%以下が好ましい。
P:0.04%以下
Pは、鋼中に不可避的に含まれる成分であるが、0.04%を越えて含有すると靭性および加工性が低下するために、その含有量は可能な限り少ないほうが好ましい。そのため、Pの含有量は、0.04%を上限とする。
S:0.005%以下
Sは、鋼中に不可避的に含まれる成分であるが、本発明では0.005%を越えて含有すると、加工性が低下するだけでなく、CaSが生成しやすくなり、耐食性を劣化させるため、その含有量は可能な限り少ないほうが好ましい。そのため、Sの含有量は、0.005%を上限とする。また、Sを0.0005%未満とすることは製鋼コストの非常な増大を招くため、0.0005%を下限とすることが好ましい。
Cr:11〜19%
Crは耐食性を発現するための必須な元素である。その効果を発現するためには、11%以上の添加が必要である。しかし、過度の添加は加工性が低下するため、19%を上限とする。耐食性と加工性のバランスを考慮すると、好ましくは、16〜18.5%である。
Mo:0.05%以下
Moは耐食性を向上させる元素であり、また、本実施形態においては、ボライドの析出を抑制する効果を持つ元素である。一方で、Moは非常に高価であり、加工性を低下させるおそれがあるため、本発明ではMo含有量を抑制し、上限を0.05%とする
Al:0.002〜0.2%
Alは脱酸元素として非常に有用であるため、0.002%以上添加する。しかし、多量に添加すると加工性が低下するため、その上限は0.2%とする。
Ti:10×(C+N)以上0.3%以下
Tiは、C、Nを炭窒化物として固定し、耐食性、加工性を向上させる元素である。そのため、10×(C+N)以上を添加する。しかし、Tiの過剰の添加は、粗大析出物により表面欠陥が増大したり、加工性が低下したりするため、その上限を0.3%とする。
N:0.015%以下
Nは、Cと同様に加工性と耐食性を劣化させるため、その含有量は少ないほど良いため、その上限を0.015%とする。ただし、過度に低減することは精錬コストを増大させるため、その下限は、0.002%%が望ましい。
B:0.0004%〜0.0015%
固溶B:0.0003%以上
Bは本発明において、疲労特性を向上させるために非常に重要な元素である。Bを固溶Bとして粒界に偏析させることにより粒界強化を図ることができる。その結果として、疲労特性が向上する。その効果を発現させるためには、0.0004%以上の添加が必要である。しかし、0.0015%を超えて添加すると、粒界上へのボライド析出が抑制できず、疲労特性向上の効果が消滅するため、上限を0.0015%とする。
また、このようなB添加による効果発現は、固溶B量に左右される。そのため、固溶Bを0.0003%以上含有する必要がある。なお、疲労特性の向上とボライド析出の抑制とのバランスを考慮すると、B含有量を0.0008〜0.0012%とすることが好ましい。
また、上述したように、粒界強化を図り、疲労特性を向上させるためには、Bを粒界に偏析させ、ボライドとしての析出を抑制する必要がある。その際、ボライドの析出抑制の確認方法として、ボライドを起因とするエッチピットを観察する方法がある。
まず、鋼板に対して、JIS G0571規定のシュウ酸電解エッチングを行ってから、光学顕微鏡で観察を行い、ボライドに起因するエッチピットを測定する。その結果、粒界上に観察されるエッチピット数が2×10−5個/μm以下であれば疲労特性に悪影響を及ぼさないことが分かったため、これを上限とする。なお、粒界上にエッチピットが2×10−5個/μm超観察される場合、つまり、ボライドが粒界上に2×10−5個/μm超析出している場合は、疲労特性が劣化した。これは、ボライドが疲労破壊の起点になっている可能性を示している。もちろん、粒界上にボライドが析出していない、つまり、エッチピットが生じないことが最も望ましい。しかし、本発明者らによると、ボライドが粒界ではなく、粒内に存在する場合は、疲労特性に影響をほとんど及ぼさないことも見いだしている。これは粒内に析出したボライドが破壊起点とならないことを示唆している。
また、本実施形態では、上記元素に加えて、さらに、以下の元素を1種以上添加することができる。
V:0.005〜0.2%
Vは、固溶Vとして粒界に偏析することにより、疲労特性を向上させる効果を有する。その効果は、0.005%以上の添加で発現する。しかし、過度に添加すると加工性が低下するため、Vの含有量を0.005〜0.2%とすることが好ましい。
Nb:0.005〜0.2%
Nbは、Vと同様に、固溶Nbして粒界に偏析することにより、疲労特性を向上させる効果を有する。その効果は、0.005%以上の添加で発現する。しかし、過度に添加すると加工性が低下するため、Nbの含有量を0.005〜0.2%とすることが好ましい。
また、本実施形態において、上記元素に加えて、Ni:0.005〜0.5%、Cu:0.005〜0.5%、Sn:0.005〜0.3%の一種以上を添加してもよい。
Ni、Cu、Snはそれぞれ、耐食性を向上させる元素であり、耐食性の向上が必要な場合添加できる。その効果を発現させるためには、0.005%以上の添加が望ましい。しかし、Ni、Cu、Snは多量に添加すると、加工性を著しく低下させるため、その上限を、Ni、Cuは0.5%、Snは0.3%とすることが望ましい。
また、本実施形態におけるフェライト系ステンレス鋼板は、上記した元素以外の残部は実質的にFeからなり、不可避不純物をはじめ、本発明の作用効果を害さない元素を微量に添加することができる。
次に、本実施形態におけるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法について説明する。本発明のステンレス鋼板の製造方法は、一般的である、製鋼−熱間圧延−酸洗−冷間圧延―焼鈍・酸洗の各工程よりなる。
具体的に説明すると、製鋼においては、上記鋼組成を有するフェライト系ステンレス鋼を転炉にて溶製し、続いて二次精錬を行って得る方法が望ましい。
次に、溶製した鋼を、連続鋳造等の公知の鋳造方法でスラブとする。そしてこのスラブを熱間圧延により所定板厚まで圧延する。なお、その後、必要に応じて、熱延板焼鈍を行っても良い。熱間圧延後、酸洗した後、冷間圧延を行い、最終板厚とする。そして、焼鈍を施し、酸洗して最終製品とする。なお、必要に応じて、冷間圧延と焼鈍・酸洗は繰り返し行っても良い。
本実施形態では、この冷延後の焼鈍において、その焼鈍温度を850℃以上950℃以下とする。また、このような焼鈍温度から600℃までの平均冷却速度を、焼鈍温度850℃以上900℃以下の場合は、10℃/s以上、焼鈍温度が900℃超950℃以下の場合は、15℃/s以上の冷却速度で冷却する。
以下に、本実施形態における焼鈍温度および冷却速度の限定理由について説明する。
上述したように、本実施形態においては、冷延後の焼鈍における焼鈍温度を850℃以上950℃以下とする。焼鈍温度をこのような範囲内とすることにより、ボライドの析出を抑制することができる。
しかし、焼鈍温度が850℃未満では鋼板の再結晶が不十分となり、加工性が低下するおそれがある。一方、焼鈍温度が950℃を超えると、ボライドの粒界への偏析が顕著となり、粒界へのボライド析出を抑制できなくなるおそれがある。従って、本実施形態において、焼鈍温度を850℃以上950℃以下とする。
また、上記焼鈍温度から600℃まで冷却する際、平均冷却速度を、焼鈍温度が850℃以上900℃以下の場合は、10℃/s以上、焼鈍温度が900℃超950℃以下の場合は、15℃/s以上とする。このように、冷却速度を限定することにより、ボライドの析出を防ぐことができる。
しかし、焼鈍温度から600℃までの平均冷却速度が、焼鈍温度850℃以上900℃以下の場合、10℃/s未満、および焼鈍温度が900℃超950℃以下の場合、15℃/s未満では、粒界へのボライド析出を抑制できなくなるおそれがある。従って、本実施形態において、平均冷却速度を、焼鈍温度が850℃以上900℃以下の場合は、10℃/s以上、焼鈍温度が900℃超950℃以下の場合は、15℃/s以上とする。
以上のように、冷延後の焼鈍を施す際の焼鈍条件を最適範囲に制御することにより、粒界上へのボライド析出を抑制することが可能となり、優れた疲労特性を有するフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
なお、焼鈍雰囲気は特に限定しないが、好ましい条件としては、燃焼ガス雰囲気とするか、又は水素と窒素の混合雰囲気とすることが望ましい。
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の最終板厚に、特に制限はなく、一般的な上述の製造方法で製造可能な0.2mm厚から3mm厚に適用可能である。しかし、板厚の厚い鋼板では、本発明に必要な最終焼鈍の冷却速度を得るためには特別の設備を要する可能性が高いため、板厚1.5mm以下が好ましい。また、本発明を燃料タンクのような容器用に適用する場合は、板厚としては、0.3mm〜1.2mmが望ましい。
また、本発明にかかるフェライト系ステンレス鋼板は、裸で使用することはもちろん、必要に応じて、各種めっき、例えば、Sn−Znめっき、Alめっき等を施すことも可能である。このように、めっきを施した場合は、耐食性向上等の効果を得ることができ、さまざまな用途に適用可能である。
以上のように、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板によれば、Bを固溶Bとして粒界に偏析させ、ボライドの析出を抑制することにより、粒界割れを防ぐことができる。その結果、粒界強度が向上し、良好な加工性を維持できるとともに、優れた疲労特性を得ることができる。
また、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板の製造方法によれば、冷延後の焼鈍において、焼鈍温度及び冷却速度を最適化することにより、疲労特性を劣化させる原因とされるボライドの析出を抑制することができる。その結果、加工性が良好であるとともに、疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を製造することが可能となる。
また、優れた疲労特性を得ることができるため、自動車用燃料タンクのような、使用中に圧力変動を受けるような容器等に適用することができ、部品寿命の延長や、薄肉化によるコスト低減が可能となる。
以下、実施例により本発明の効果を説明するが、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
本実施例では、まず、表1及び表2に示す成分組成の鋼を溶製してスラブに鋳造し、スラブを熱間圧延して4mm厚の熱延コイルとした。その後、この熱延コイルを酸洗し、0.8mm厚まで冷間圧延を行い冷延板とした。次いで、水素−窒素混合雰囲気にて焼鈍した後、酸洗を行い、製品板とした。なお、このときの冷延板の焼鈍条件は、表3に示すように、焼鈍温度920℃、そして600℃までの平均冷却速度を25℃/sを主とし、実施例34〜38においては、焼鈍温度を820〜970℃、平均冷却速度を5〜25℃/sの範囲で変化させて行った。なお、表1及び表2に示す成分組成において、本発明範囲から外れる数値にはアンダーラインを付している。
次に、このようにして得られた製品板から、各種試験片を採取し、評価・測定した。
まず、ボライドの析出状態を測定した。
ボライドの析出は、得られた製品板より圧延方向に平行な断面を観察面として試験片を採取し、JIS G0571規定のシュウ酸電解エッチングを行った後に、光学顕微鏡で観察を行った。観察結果より、粒界上のエッチピットを測定し、線密度を算出した。
次に、加工性の評価を行った。
加工性の評価は、JIS Z2201に規定されるJIS13B号試験片を使用し、JIS Z2241に準拠した引張試験を行い、その全伸び値を指標とした。また、引張方向は圧延方向と平行である。なお、本発明はプレス成型を行う容器用途を想定しているため、加工性は重要な特性であり、全伸び値30%を合格基準として評価した。
また、疲労特性は、模擬タンクを用いた加減圧耐久試験で評価した。
まず、模擬タンクの作製方法を説明する。1辺400mmのブランクからプレスにて1辺200mm、成形高さ30mmの角筒を2個形成した。この時、1個の角筒の稜の1つはR(曲率半径):2mm、その他はR:15mmで成形し、もう1個の角筒の稜は全てR:15mmとした。この2個を拝み形状に合わせて、フランジ部のシーム溶接を行い、タンク形状とした。さらに、タンク底面に空気の出入り口を取り付け、内圧を変動できるようにした。次に、加減圧耐久試験の条件を、正圧40kPa、負圧−40kPaの繰り返しとして試験を行い、破断寿命を評価した。なお、破断部は、応力集中部となるR:2mmで形成した稜となる。この評価法において疲労特性を評価し、破断寿命2万回以上を合格とした。
以上の製造条件及び評価結果を表3に示す。
Figure 0005960951
Figure 0005960951
Figure 0005960951
表3から明らかなように、実施例1から実施例4は、17Cr−Ti鋼に対し、B量を変化させたものである。B無添加の実施例1およびB:20ppmの実施例4は比較鋼であり、耐久試験での破断寿命が15000回以下と低位となっている。また、実施例4では、粒界上のボライド析出が多いことも確認できる。これに対し、本発明鋼である実施例2、実施例3では、粒界上のボライド析出も少なく、破断寿命が20000回を超えており、優れた結果になっている。また、伸び値も30%を超えており、良好な加工性を示している。
実施例5から実施例15の本発明鋼は、ボライド析出も少なく、優れた破断寿命も示している。また、伸び値も十分である。
これに対し、実施例16から実施例33の比較鋼では、伸び値が十分でないか、破断寿命が短かった。
実施例34から実施例38は、実施例3と同じ成分の鋼を最終焼鈍の条件を変えて、試験したものである。実施例34は焼鈍温度880℃、400℃までの冷却速度が15℃/sとした本発明鋼であり、ボライド析出も少なく、優れた破断寿命を示している。これに対し、実施例35は、焼鈍温度は同じ880℃であるが、冷却速度が5℃/sと遅いため、ボライド析出が多く、破断寿命が劣化している。実施例36では、焼鈍温度920℃、冷却速度15℃/sとした鋼であり、冷却速度が遅いことから、ボライド析出多く、破断寿命が劣化している。さらに、実施例37は、焼鈍温度が830℃と低いため、再結晶が不十分で良好な加工性が得られない。実施例38は、反対に焼鈍温度が970℃と高いため、ボライド析出が多く、破断寿命が劣化している。
これらの結果から、上述した知見を確認することができ、また、上述した各鋼組成及び構成を限定する根拠を裏付けることができた。
以上の説明から明らかなように、本発明によれば疲労特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を比較的安価に提供することができ、特に燃料タンク部材のような容器材料に適用することにより、部品コストの低減や軽量化による環境対策など社会的寄与は格段に大きい。つまり、本発明は、産業上の利用可能性を十分に有する。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.01%以下、
    Si:1%以下、
    Mn:1%以下、
    P:0.04%以下、
    S:0.005%以下、
    Mo:0.05%以下、
    Cr:11%〜19%、
    Ti:10×(C+N)以上0.3%以下、
    Al:0.02〜0.2%、
    N:0.015%以下、
    B:0.0004%〜0.0015%、
    をそれぞれ含有し、かつ固溶Bを0.0003%以上含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、
    JIS G0571規定のシュウ酸電解エッチングを行った際に、ボライドを起因とするエッチピットが、粒界上に2×10−5個/μm以下であり、正圧40kPa、負圧−40kPaを繰り返す加減圧耐久試験での破断寿命が2万回以上の疲労特性であることを特徴とする疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板。
  2. 質量%で、さらに
    V:0.005〜0.2%、
    Nb:0.005〜0.2%、
    の1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板。
  3. さらに、質量%で、
    Ni:0.005〜0.5%、
    Cu:0.005〜0.5%、
    Sn:0.005〜0.3%、
    の1種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板。
  4. 請求項1から3の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板を製造する際に、冷延板の焼鈍温度を850℃以上950℃以下とし、600℃までの平均冷却速度を、前記焼鈍温度が850℃以上900℃以下の場合は10℃/s以上、前記焼鈍温度が900℃超950℃以下の場合は15℃/s以上として冷却することを特徴とする疲労特性に優れた自動車用燃料タンク用フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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