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JP5822309B2 - 統合プロテオーム解析用データ群の生成方法ならびに同生成方法にて生成した統合プロテオーム解析用データ群を用いる統合プロテオーム解析方法、およびそれを用いた原因物質同定方法 - Google Patents

統合プロテオーム解析用データ群の生成方法ならびに同生成方法にて生成した統合プロテオーム解析用データ群を用いる統合プロテオーム解析方法、およびそれを用いた原因物質同定方法 Download PDF

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Description

本発明は、統合プロテオーム解析用データ群の生成方法ならびに同生成方法にて生成した統合プロテオーム解析用データ群を用いる統合プロテオーム解析方法、およびそれを用いた原因物質同定方法に関する。更に詳細には、本発明は、タンパク質などの活性物質の網羅的な発現変動量データ群と、遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とに基づいて、統合プロテオーム解析に供するデータ群を生成する統合プロテオーム解析用データ群の生成方法ならびに当該データ群を用いる統合プロテオーム解析方法、および同統合プロテオーム解析方法を用いたタンパク質などの原因物質同定方法に関する。
2003年にヒトゲノムの全塩基配列の解析が完成して以来、様々な生物のゲノムの全塩基配列の解析が進められ、現在ではヒトを含め数種類の生物の全塩基配列が解析されている。特にヒトゲノムの全塩基配列の解析が完成すると、癌などの様々な疾患の原因遺伝子群が解明され、疾患に対する合理的な治療法や予防法などが開発されるものと大いに期待されていた。しかし、疾患原因遺伝子群に関わるゲノムについての研究が進むにつれて、ゲノム情報は疾患の治療や予防などに直接結びつくものではなく、またゲノム情報だけでは癌などの疾患に対する合理的な治療法や予防法などを開発できないことが認識される結果となった。
つまり、そのためには、疾患の原因遺伝子だけではなくて、細胞中に存在する全ての遺伝子転写産物(mRNAおよび一次転写産物)を要素とする集合について、シークエンス解析によるDNA配列上での遺伝子部分の細胞レベルでのmRNA発現量を測定し解析することによって、生体細胞内における遺伝子の発現状況を網羅的に把握する必要があることが理解されてきた。
また、長年に亘る疾患関連遺伝子の探索研究の結果、ある組織のある特定の細胞内でのみ特に重要であり、その欠失や変異でその機能が破綻することが、特定の組織・細胞の癌化の原因となる、いわゆるゲートキーパー(門番)と呼ばれる疾患関連遺伝子群や細胞周期チェックポイント調節分子群が発見されている。これらの遺伝子が作るタンパク質は、一般的にリン酸化やプロテオリシスのような翻訳後修飾や断片化などによって、活性化されたり、不活性化されたりして、その機能が制御されていることが知られている。さらに、そのタンパク質は、細胞内で様々な別の疾患関連タンパク質、生理活性タンパク質群、核酸群らとシークエンシャルな結合・相互作用等の複雑なクロストークネットワークによって機能制御されていることも知られている。
したがって、生物の生命現象、例えば疾患の原因を解明するためには、その原因物質であるタンパク質などの発現に関与する遺伝子のトランスクリプトーム解析ばかりではなく、原因物質のプロテオーム解析によって、病態等の機能発現メカニズム、対象となる生物学的な個性、その時点での病態、その進行状況などの詳細を網羅的にかつ正確に把握する必要があることが分かってきた。
さらに、近年のプロテオーム解析の技術革新により、転写因子など微量で変化の激しいタンパク質や翻訳後修飾分子など今まで困難とされていた生体内微量タンパク質の情報が、高感度で定量的に、かつハイスループットに得られるようになってきた。そこで、このようなプロテオーム解析技術とデータベース情報を駆使しながら、病態サンプルなどから得られる種々のタンパク質群のプロテオーム解析情報を、DNAマイクロアレイや定量的PCR等を用いて遺伝子発現の変動を網羅的に解析するトランスクリプトーム解析データと統合することによって、病態発症・進展・薬剤感受性などに最も関連する細胞内分子シグナルネットワーク情報を客観的に抽出できるようになった。
しかしながら、これまでのプロテオーム解析は、適当な網羅的なタンパク質解析装置やDNAアレイ法などの遺伝子レベルにおける解析法にて分離・解析・検索されたタンパク質について、主にディファレンシャルディスプレイによる検出とデータベース検索による同定を行って、スタンドアロン的にターゲットタンパク質を絞り出し、様々な疾患における病態・進行状況等をタンパク質レベルで探索する方法が一般的であった。
さらに、これまでのプロテオーム解析では、研究者の技術的背景をもとにした手動レベルの方法に頼る部分も多く、ハイスループットな臨床検査に適用できる状況ではなかったことから、このような状況を解決するための1つの手段として、プロテインチップのようなアレイシステムが開発された。しかしながら、かかるアレイシステムでも、多量のプロテオーム解析をするためには、高精度化、迅速化、自動化ならびにオンライン化などの点で未だ充分ではなかった。
そこで、かかる要求に応えるべく、本発明者らは、プロテオーム解析にはハイスループットなオンライン分析システムが必須であるとの考えに基づいて、種々の検出系や反応系をオンライン化できる利点がある高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography: HPLC)を主軸としたオンラインシステムからなるタンパク構造解析システムを構築した(特許文献1)。このシステムは、タンパク質をペプチドレベルで同定することができるとともに、分析精度を格段に向上させることが可能になった。
上記のようなハイスループットな網羅的解析は、癌などの疾患などの研究、診断等の高速化や、ゲノム創薬市場に飛躍的に貢献したにもかかわらず、二次元電気泳動を用いたディファレンシャルディスプレイ解析やLC−ショットガン法を用いたディファレンシャルディスプレイ解析だけでは、すべての組織細胞内のタンパク質情報を網羅することができないことも明らかになってきた。
また、従来の解析に用いられているペプチドのアミノ酸配列情報を得ることの出来る質量分析計は、ペプチド種によっては同定が得意・不得意とする分野を有する特徴をもつ様々なイオン化法(MALDI法やESI法など)や異なる分離・検出法を利用していて、一種類の質量分析計による分析方法だけでは、また一つの解析方法論では、すべての組織・細胞内のタンパク質を網羅できないことから、複数の質量分析器を用いて複数の解析方法を利用して解析する必要があった。
さらに、組織や細胞内などのタンパク質を網羅的に解析する場合、複数の分析装置から大量のデータが出力されるとともに、出力されるデータにしても画像データやHTMLなどのインターネットファイルのデータといった多種多様の形式のデータがある上に、複数の分析装置からのデータがそれぞれ異なる独立した言語で出力されることから、これらの異なる言語をそれぞれ用いて一元的にかつハイスループットで網羅的解析をするには大きな障壁があった。
このように従来のプロテオーム解析技術では、複数の解析装置からの解析データを共通言語で統合して解析することができなかった。したがって、例えば病態プロテオーム解析で最も重要とされる細胞内タンパク質ネットワークや翻訳後修飾、細胞内タンパク質の分解産物などの相互作用機能を再現することが困難であった。その上、トランスクリプトーム研究で用いられるDNAアレイ解析、リアルタイムPCR解析などによって得られるタンパク質情報に大きく関連している、mRNA情報は、同一サンプルからのプロテオーム解析情報と統合して解析することが非常に困難であった。そのために、複数の装置によって異なる概念で解析をそれぞれ行い、タンパク質のより多くの情報を得たとしても、それを有機的に結びつけて解釈することがひじょうに困難であり、本来の網羅的解析を実行できなかったのが実情であった。したがって、プロテオーム解析に要求される翻訳後修飾や、細胞内タンパク質の分解産物などの相互作用機能の評価や再現性を確認するにも大きな困難が伴っていた。さらに、新しい概念の手法や装置が開発されたとしても、それらのデータを結びつけて解析することが困難であった。
したがって、既存のプロテオーム解析技術では、様々なトランスクリプトーム解析ならびにプロテオーム解析の手法により得られる生データであるタンパク質の発現変動量データ群を個別に機能解析に用いることから、その結果の解釈と活用に問題を残し、特に生体内タンパク質分子の発現変動の全体像を効率的かつ柔軟に把握し、解析することが甚だ困難であった。
その理由の一つとして、トランスクリプトーム解析ならびに各種のプロテオーム解析の手法を用いたそれぞれの解析結果の情報の意味や質と、解析結果の出力様式が異なるために、それら網羅的解析結果の全体像を俯瞰し同一の次元で統一して解析できる状態でなかったことが挙げられる。
つまり、タンパク質は、遺伝子が転写され翻訳されることにより発現するものであり、更に翻訳後もリン酸化、メチル化、アセチル化、糖鎖付加、特異的部位における切断などの修飾を受けるなどして、様々な生体内分子挙動を呈して多種多様な状態で生体内に存在し、変動している。
ところで、トランスクリプトーム解析はタンパク質の翻訳前の生体内発現の状態を示しているのに対し、各種プロテオーム解析は、タンパク質の発現状態や、その翻訳後における修飾の状態を反映していて、それぞれの解析法に特化した性質の異なる生体内分子挙動の情報を提示するものである。ところが、実際は、遺伝子の発現変動量とタンパク質の発現変動量、またその翻訳後修飾の状態は生体内で必ずしも一致しているとは限らない。したがって、上記それぞれの網羅的解析法を個別に評価、解析した場合、それは生体内分子の偏った発現情報に依存することとなり、生体内分子機能やネットワークの全容解明にはほど遠いものと言わざるを得ない。
例えば、多くの生命現象の研究で行われている様な遺伝子解析による遺伝子発現変動量の情報のみでタンパク質機能解析を行った場合、ノイズの多い解析結果や、実際の細胞内の発現タンパク質とは異なる的外れな解析結果が導かれる場合が多々あったことも事実である。
さらに、遺伝子の発現変動量と各種プロテオーム解析結果を別個に解析する場合も考えられるが、そのためには数万に及ぶ遺伝子の解析結果とタンパクの解析結果をそれぞれ見比べて考察する必要があった。したがって、重要な結果の見落としや誤解を生ずる危険性も高く、また正しい結果を推定するためには膨大な時間と、データ解析に関する熟練や知識を要していた。
そこで、本発明者らは、プロテオーム解析を効率的に進めることができるために、データの信頼性を確保しながら、分子機能分析を高精度に実施でき、かつ迅速に、短期間に解析が可能な解析プログラムをすでに開発している(特許文献2)。この解析プログラムは、プロテオーム解析研究分野で使用されている様々な分析装置、解析ソフトウェアから得られた大量かつ多種多様のデータ形式のタンパク質情報データおよびゲノミクスやトランスクリプトーム解析研究分野から導き出されたタンパク質分子データをプロテオーム解析データベースとして統合集中管理し、データマイニングにより機能分析した結果を機能分析データベースとして格納することができる。これにより、研究者の経験や自動計算により分類された統合化タンパク質情報を実験から得られた信頼性の高いRAWデータ(生データ)と区別することが可能になり、信頼性の高いデータを確保しながら、高精度な分子機能分析を迅速にかつ短期間に進めることを可能にした(特許文献2)。
この先行技術のプロテオーム解析システムは、各種病態を示す患者や疾患モデル動物由来の組織、細胞および培養細胞を用いたプロテオーム解析方法によって得られた、電気泳動画像や各種異なる特徴をもつ質量分析器による質量分析シグナルパターンを少なくとも含む種々のデータを格納したプロテオーム解析用データベースに格納されたデータを同一言語、同一形式に変換し、統合させるとともに、ネットワークを介してアクセス可能な他の公開データベースを検索して、特異的タンパク質群、および特異的細胞内シグナルネットワークを抽出することができる。これらの得られた結果から、タンパク質の機能を予測し、独自のプロテインチップによる検証を行うことによって、病態を解析するとともに最も確実な治療や創薬への情報を得ることが可能である。
また、複数の分子に関する統合的な機能予測(functional annotation)や分類(classification)を行うことができるウェブ−アクセッシブルプログラム(Web-accessible program)として、DAVID (The Database for Annotation、 Visualization and Integrated Discovery)が存在する。しかしながら、このDAVIDは、本発明に係る統合プロテオーム解析用データ群の生成方法に比して次に様な不利な問題を有している。
すなわち、(1)DAVIDを用いたデータマイニングでは、様々な研究手法で得られた結果の意味(質)の相違、すなわち、本明細書にて掲げる課題に対する配慮が十分になされていない。そのため各種の網羅的発現変動解析で得られた結果の解釈が、発現が変動した分子のID(各分子に与えられた固有番号)と発現量のみに依存にした既存のデータベース上での情報解析になってしまう。(2)また、詳細な数値情報などを含む解析結果の生データー(raw data)を残したままの利用も出来ない。(3)更に質量分析や2D-DIGEなどの結果から得られるタンパク質の翻訳後修飾に関する情報も解析に活用することができない。という点が挙げられる。
しかしながら、この先行技術のプロテオーム解析システムにしても、例えばある疾患に関連する機能を有する分子群を網羅的に解析することは可能であるが、その分子群に共通する機能に関連する原因分子を特定するには至っていない。
しかも、疾患の研究においては、細胞・組織内における一つ一つの分子の生理現象を個別に調べて分子の側から説明するだけではなく、互いに関連する全ての細胞内発現タンパク質を網羅的に時間軸に従って解析すること、即ちプロテオーム解析によって網羅的な情報を得ることが重要になっている。そこで、プロテオーム解析によって、例えば、如何なる細胞内タンパク質がどの様な発現変動を起こし、正常の細胞活動が破綻し、疾患が形成されていくのか、という網羅的な情報を得るとともに、その情報を疾患の臨床医学に応用すること、即ちこれらを全て含むプロテオーム解析とその実用化を目指した方法論の開発が、疾患の研究および疾患の治療・予防・診断に最も重要な課題となっている。
さらに、解析プログラムによって特定のタンパク質分子を、たとえどんなに高い信頼できるデータとして探索できたとしても、再度生体内で再現させてその再現性を確認する必要がある。さらに、特定の疾病への罹患性、医薬に対する感受性や副作用などに関与する所定遺伝子変異の検出・診断などの用途を開発するには、如何なるプローブを搭載すれば何が分かるかというコンテンツを整備する必要があり、単一ではなく複数のプローブの組み合わせにより初めて解析できる事象も多く存在している。
特開2003−149223号公報 特開2006−294014号公報
そこで、本発明者らは、細胞・組織内において、ある分子の生理現象に互いに関連する全ての細胞内発現タンパク質をプロテオーム解析によって時間軸に従って解析して網羅的な情報を得るために、遺伝子発現の変動を網羅的に解析するトランスクリプトーム解析学的手法と、かかる遺伝子発現により生成されるタンパク質を網羅的に解析および同定を行うプロテオーム解析学的手法とを組み合わせて統合した統合プロテオーム解析システムを用いて、生体内分子の発現解析手法を疾病などの原因究明や創薬に応用する研究戦略を見出して、本発明を完成した。
つまり、本発明は、例えば、疾患などの病理学的な所見が同一であるにもかかわらず、薬剤などに対する動態・挙動などが異なる2つのサンプル群に対し、DNAマイクロアレイや定量的PCRなどを用いて遺伝子発現の変動を網羅的に解析するトランスクリプトーム解析学的手法と、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や2次元電気泳動などに質量分析(Mass spectrometry: MS)を組み合わせて網羅的にタンパク質の解析および同定を行うプロテオーム解析学的手法とを統合した統合プロテオーム解析用データ群の生成方法ならびに統合プロテオーム解析方法を提供するとともに、生成されたその統合プロテオーム解析システムを用いて、かかる疾患に関与する生体内分子群を探索・同定することにより、その疾病などの原因究明や創薬に応用する研究戦略を提供することを目的としている。
本発明に係る統合プロテオーム解析システムは、試料中に混在する多くの分子の挙動を、短時間にかつ正確に網羅的に解析することを可能とするとともに、各種タンパク質の発現解析・探索・同定を統合して解析することにより医学・創薬の分野をはじめ、生化学や農学などの分野においても、所定分子の生体内での動態・挙動や機能などを把握する上に極めて有用に活用することが可能である。
また、本発明に係る統合プロテオーム解析方法は、例えば、ヒトの生命現象の一つである疾患の起因となると考えられる原因物質の発現量を網羅的に解析して予測することを可能にする。また、本発明の統合プロテオーム解析方法は、例えば、同じ疾患に罹患した2つの患者群において、一方の患者群に対してはある薬剤が効果を示すが、他方の患者群に対しては効果を示さないというような場合がしばしばおこるけれども、本発明の統合プロテオーム解析方法は、その原因となっていると考えられる原因物質を網羅的に解析し予測することが可能となり、疾患に対する治療、予防ならびに予後の処置などに有用に適用可能である。
さらに、本発明の統合プロテオーム解析方法においては、それぞれのサンプル群の分析結果から、各タンパク質の発現変動量データ群を統計学的に生成し、これを遺伝子機能解析(Gene Ontology:GO解析)や、生体内シグナル伝達に関する経路解析、代謝経路解析などのネットワーク解析に供することにより、各患者群の生体内における薬剤の挙動や関連する特定のタンパク質の機能や違いなどを推定することができ、これにより、かかる特定のタンパク質の機能などを促進または欠失などさせることにより当該タンパク質に関連する疾患などの治療や予防などに供することができることになる。このような手法を用いて新規の腫瘍マーカーを同定する試みなどが数多くなされている(例えば、特開特許文献2010−014689号公報参照)。
したがって、本発明は、タンパク質と遺伝子との両者の発現変動量の網羅的解析結果を総合的に加味して俯瞰し理解することができ、また、従来のタンパク質または遺伝子の発現変化量を単独で解析した場合に比して、より精度良く適切な解析結果を導くとともに、疾病の原因究明や創薬に応用することを可能とする統合プロテオーム解析用データ群の生成方法、および特に疾病の原因究明や創薬などに有用な統合プロテオーム解析方法を提供することを目的としている。
また、本発明は、上記統合プロテオーム解析により、それぞれのサンプル群の分析結果から、各タンパク質の発現変動量データ群を統計学的に生成し、これを遺伝子機能解析(GO解析)や、生体内シグナル伝達に関する経路解析、代謝経路解析などのネットワーク解析することにより、各患者群の生体内における薬剤の挙動や関連する特定のタンパク質を探索することからなる原因タンパク質探索・同定方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、本発明は、1つの形態として、2つの異なるサンプル群間のタンパク質の網羅的な発現変動量データ群と、前記2つの異なるサンプル群間の遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とに基づいて、タンパク質機能解析や創薬に応用可能なタンパク質機能解析に供するデータ群を生成する統合プロテオーム解析用データ群の生成方法であって、前記タンパク質の網羅的な発現変動量データ群を構成する各タンパク質毎の発現変動量データに、そのタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号と、そのタンパク質をコードする遺伝子の第2のデータベースにおける固有番号と、そのタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号と同タンパク質をコードする遺伝子の第2のデータベースにおける固有番号との両者に紐付けされた共通固有番号と、を付与するタンパク質固有番号共通化ステップと、前記遺伝子の網羅的な発現変動量データ群を構成する各遺伝子毎の発現変動量データに、その遺伝子の第3のデータベースにおける固有番号と、その遺伝子より発現するタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号と、その遺伝子の第3のデータベースにおける固有番号と同遺伝子より発現するタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号との両者に紐付けされた共通固有番号と、を付与する遺伝子固有番号共通化ステップと、前記タンパク質固有番号共通化ステップを経たタンパク質の網羅的な発現変動量データ群と、前記遺伝子固有番号共通化ステップを経た遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とを結合して、各タンパク質毎の発現変動量データと各遺伝子毎の発現変動量データの合成により構成される結合データ群を生成するデータ結合ステップと、結合データ群を構成する各発現変動量データのうち、2つの異なるサンプル群間のタンパク質の発現変動量または遺伝子の発現変動量の統計的有意差検定により得られたp値が所定値以上、または分散分析(analysis of variance; ANOVA)によるF値が所定値以下のデータを棄却するデータ棄却ステップと、前記データ棄却ステップを経た結合データ群のうち、タンパク質発現変動量データと遺伝子発現変動量データとで同じ共通固有番号が付与されているデータに対し、所定の条件に基づいていずれかのデータを採用して、タンパク質機能解析に供するデータ群を生成するデータ採用ステップと、からなる統合プロテオーム解析用データ群の生成方法を提供する。
また、本発明は、その好ましい態様として、上記統合プロテオーム解析用データ群の生成方法において、前記タンパク質の網羅的な発現変動量データ群は、液体クロマトグラフィー(HPLC)とマススペクトロメトリー(MS)とによる網羅的タンパク質発現解析により得られたデータ群および/または蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動(2-Dimensional Fluorescence Difference Gel Electrophoresis: 2D-DIGE)とマススペクトロメトリーとにより得られた翻訳後修飾情報を含むタンパク質の発現変動データ群であることからなる統合プロテオーム解析用データ群の生成方法を提供する。
また、本発明は、その別の好ましい態様として、上記統合プロテオーム解析用データ群の生成方法において、前記遺伝子の網羅的な発現変動量データ群は、DNAマイクロアレイ解析により得られたデータ群であることからなる統合プロテオーム解析用データ群の生成方法を提供する。
また、本発明は、その別の好ましい態様として、上記統合プロテオーム解析用データ群の生成方法において、前記データ採用ステップにおける前記所定の条件は、タンパク質発現変動量データであることからなる統合プロテオーム解析用データ群の生成方法を提供する。
また、本発明は、その別の形態として、上記統合プロテオーム解析用データ群の生成方法にて生成した統合プロテオーム解析用データ群を、統合プロテオーム解析に供して解析を行うことからなる統合プロテオーム解析方法を提供する。
また、本発明は、その別の好ましい態様として、上記統合プロテオーム解析方法において、前記統合プロテオーム解析用データ群を構成する各発現変動量データの発現変動量の値に応じて、統合プロテオーム解析にて可視化された前記各発現変動量データに対応する分子表示の色を変更することにより、生体内で重要な分子ネットワークの把握を行うことからなる統合プロテオーム解析方法を提供する。
本発明は、さらに別の形態として、上記統合プロテオーム解析用データ群の生成方法にて生成された統合プロテオーム解析用データ群を、遺伝子機能解析(GO解析)ならびに生体内シグナル伝達に関する経路解析、代謝経路解析などのネットワーク解析に供することにより、最大発現変動量のタンパク質もしくはそのタンパク質の翻訳後修飾されたタンパク質または上記ネットワーク解析により最大発現変動量のタンパク質に上流もしくは下流に近接して紐付けられるタンパク質を原因タンパク質として同定することからなる原因タンパク質同定方法を提供する。
さらに、本発明は、その好ましい態様として、例えば、発癌性、薬剤感受性、薬剤耐性、転移性、免疫不全などの細胞増殖、細胞分化ならびに細胞死に関わる異常に起因する疾患もしくは病態に関与する原因タンパク質を同定することからなる原因タンパク質同定方法を提供する。
さらにまた、本発明は、上記原因タンパク質を、例えば、発癌性、薬剤感受性、薬剤耐性、転移性、免疫不全などの細胞増殖、細胞分化ならびに細胞死に関わる異常に起因する疾患もしくは病態に関与する原因タンパク質に対するマーカーとして使用することからなる原因タンパク質の使用方法を提供する。さらにまた、本発明は、上記原因タンパク質の発現を抑制することによって上記原因タンパク質に起因して発生する事象の処理もしくは予防、例えば疾患や病態の治療もしくは予防をすることからなる原因タンパク質の発現抑制方法を提供する。
さらに、本発明は、その好ましい態様として、上記原因タンパク質が、ビメンチン、リン酸化ビメンチン、エフリン、ハイポキシア関連タンパク質(hypoxia-inducibe factor-1: HIF-1)などであることからなる原因タンパク質の同定方法ならびに使用方法および発現抑制方法を提供する。
本発明によれば、タンパク質と遺伝子との両者の発現変動量を総合的に加味して生体内分子挙動の全体像を解析することができ、しかも、従来のタンパク質または遺伝子の発現変化量を単独で解析した場合に比して、より高効率かつ高精度で適切な解析結果を導くことのできる統合プロテオーム解析用データ群の生成方法、および、統合プロテオーム解析方法を提供することができる。
また、本発明に係る原因タンパク質探索方法は、生体内における薬剤などの動態に関連する特定のタンパク質を探索することができることから、当該タンパク質またはそれに関与する遺伝子を標的とした薬剤の開発を促進することが可能となるという大きな効果がある。
本実施形態に係るトランスクリプトーム解析および各種のプロテオーム解析のスキームを示した説明図である。 本実施形態に係るタンパク質の網羅的な発現変動量データ群を示した説明図である。 本実施形態に係る遺伝子の網羅的な発現変動量データ群を示した説明図である。 本実施形態に係る統合プロテオーム解析用データ群の生成過程を示した概念図である。 タンパク質固有番号共通化ステップにおけるタンパク質の網羅的な発現変動量データ群を示した説明図である。 遺伝子固有番号共通化ステップにおける遺伝子の網羅的な発現変動量データ群を示した説明図である。 データ結合ステップにおける結合データ群を示した説明図である。 データ棄却ステップおよびデータ採用ステップにおける結合データ群を示した説明図である。 iPEACH/MANGOによる統合プロテオミクスデータ・マイニングシステムを示す模式図である。 統合プロテオミクスデータ・マイニングシステムを用い、統合プロテオーム解析した結果を示す説明図である。図中、DNAマイクロアレイで発現変動量の値がLOH-/LOH+ > 1.5であった分子には紫ならびに発現変動量の値がLOH-/LOH+ < 1.5であった分子には青、またiTRAQもしくは2D-DIGEで発現変動量の値がLOH-/LOH+ > 1.2であった分子には赤で表示した。ただし、紙面の関係上、各分子の色付けは、濃淡で示している。 iPEACHにより抽出した化学療法剤耐性グリオーマにおいて発現増加した分子ネットワークを示すネットワーク図である。 LOH患者とLOHのAO患者の組織におけるビメンチン量を示す図である。 グリオーマ組織中のビメンチンのウエスタンブロット図である。 LOHとLOHのAO患者の組織およびグリオーマ細胞株におけるエフリン(EphA4)発現を示す図である。 AO/AOA患者全体の生存率(上図)および非進行性患者の生存率(下図)を示す表である。 2D−DIGEで分離同定されたLOH組織中のビメンチンスポットの一次構造を示す図である。 化学療法耐性グリオーマ中のビメンチン活性化ループの仮説を示す模式図である。 グリオーマ細胞中におけるDNAアルキル化化学療法剤テモゾロミド (Temozolomide : TMZ) の代謝で得られる代謝産物を説明する説明図である。 1p/19q LOHグリオーマ患者からの組織サンプルを、iTRAQ解析法で同定されたもののうち、発現増加した上位30位のタンパク質をリストアップした表である。 1p/19q LOHグリオーマ患者からの組織サンプルを、2D-DIGE解析法で同定されたもののうち、発現増加した上位30位のタンパク質をリストアップした表である。 リン酸化タンパク質のプロファイルを示す図である。 2D-DIGE解析により分離されたLOH患者からの組織中に同定されたビメンチンスポットを示す電気泳動図である。 AO患者の組織とグリオーマ細胞株におけるビメンチン発現を示すビメンチン抗体による免疫組織化学的解析結果を示す図である。 AO組織中のビメンチンのウエスタンブロット図である。 グリオーマ細胞(U373およびA172)の生長におけるsiRNAを用いたビメンチンのサイレンシングの効果を示す図である。 グリオーマ細胞株(U373およびA172)の薬剤(TMZ(Temozolomide))抵抗性の差異を示す図である。(A)はTMZ の濃度変化に対する薬剤抵抗性を示していて、(B)はTMZとコントロールとのTMZに対する抵抗性を示している。 グリオーマ細胞中におけるビメンチンの分子ネットワークを示す図である。 PAKインヒビターでグリオーマ細胞U373を処理した図である。左図はPAKインヒビターでグリオーマ細胞U373を処理した図であり、右図はNegative controlの図である。 PAKインヒビターがグリオーマ細胞U373の薬剤感受性に対する発現増加をしていることを示す図である。 グリオーマ細胞株U373中でのビメンチンの断片化を示す図である。 抗ビメンチン抗体を用いた1D−Western blotting分析における各ビメンチン強度の定量的解析結果を示す図である。 ビメンチンの断片化がグリオーマ細胞株U373の薬剤抵抗性に対する発現増加をしていることを示す図である。 グリオーマ細胞U373およびA172中でのビメンチンの細胞局在を示す図である。 ビメンチンのN末端断片がグリオーマ細胞A172の核中へ移行していることを示す図である。 ビメンチンのN末端断片が悪性グリオーマ細胞の核に局在していることを示す図である。 ビメンチンのN末端断片がグリオーマ細胞の核に移行していることを示す図である。 エフリンが、エフリンとビメンチンのmRNAを上昇することを示す図である。 ビメンチンのN末端断片がエフリンのmRNAを上昇することを示す図である。 エフリンとセロトニンがグリオーマ細胞U373の薬剤抵抗性に対する発現増加をしていることを示す図である。 HIFシグナルに関連するネットワークを示すネットワーク図である。 HIFシグナルに関連するネットワークを示すネットワーク図である。 3DCCシステムでの舌癌細胞(SQUU-A細胞およびSQUU-B細胞)の経時的発育状態を示す図である。 3DCCシステムでの舌癌細胞の経時的発育状態を示す図である。 3DCCシステムでのSQUU-B細胞塊のSQUU-A細胞に対する体積率を示す図である。 GFP レポータージーン(HIF response element: HRE)を組み込んだSQUU-B細胞中でのHIF発現状態を示す図である。 1p/19q LOH/LOHのAO/AOA組織ならびにグリオーマ細胞株中でのエフリンA4、cdc42ならびにビメンチンの発現増加の状態を示す図である。 PAK1ならびにカルパインの活性化による1p/19q LOH/LOHのAO/AOA組織ならびにグリオーマ細胞株中でのビメンチンのリン酸化ならびに断片化を示す図である。 1p/19q LOH/LOHのAO/AOA組織のタンパク質リン酸化の解析結果を示す図である。 GBM組織ならびにAO/AOA組織についての質量分析解析とN末端アミノ酸配列分析の解析結果を示す図である。 ビメンチン上に同定されたリン酸化部位を示す表である。 エドマン分解によるGBM組織ならびにAO/AOA組織中のビメンチンのN末端アミノ酸配列を示す表である。 N末端ビメンチンフラグメントの1p/19q LOHAO/AOAグリオーマ細胞の細胞核への移行を示す図である。 AO/AOA患者の全体の余命期間ならびに非進行性の余命期間の減少に対するグリオーマ組織中のN末端ビメンチンフラグメントの核内蓄積を示す図である。 N末端ビメンチンフラグメントがエフリンA4に対する転写因子候補となることを示す図である。
本発明は、統合プロテオーム解析用データ群の生成方法ならびに同生成方法にて生成した統合プロテオーム解析用データ群を用いる統合プロテオーム解析方法、およびそれを用いた原因物質同定方法に関する。
まず、本発明に係る統合プロテオーム解析用データ群の生成方法について、図1を参照して簡単に説明する。図示するように、本発明の統合プロテオーム解析用データ群の生成方法は、2つの異なるサンプル群間のタンパク質の網羅的な発現変動量データ群と、遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とに基づいて、タンパク質機能解析に供するデータ群を生成する統合プロテオーム解析用データ群の生成することからなっている。
ここでサンプルとは、例えば、動物、植物、微生物等の細胞や、細胞から抽出した細胞抽出物を言い、DNAや遺伝子転写産物、遺伝子から発現したタンパク質、翻訳後修飾を受けたタンパク質が含まれているものである。
また、2つの異なるサンプル群とは、動物、植物、微生物等の生物種にかかわらず、状態の異なる個体や生体から得られたサンプルのことをいう。また、サンプル群の元となる固体や生体は、単数であっても良く、また、複数であっても良い。
タンパク質の網羅的な発現変動量データ群とは、2つの異なるサンプル群をそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や2次元電気泳動に質量分析機器(マススペクトロメトリー:MS)、DNA マイクロアレイを組み合わせた統合プロテオーム解析学的手法により分析し、得られた一群のサンプル中に含まれる複数のタンパク質の定量値を元にして、他方の群のサンプル中に含まれる複数のタンパク質の定量値の変化量を算出したデータ群である。
具体的には、図2(a)および(b)に示すようなデータ群であり、図2(a)は、2つの異なるサンプルを、それぞれ蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)に供し、各スポットを質量分析することにより定量し、変化量を求めることにより作成したデータ群である。
また、図2(b)は、2つの異なるサンプル群を、Applied Biosystems社製iTRAQ(R) 試薬 にて処理し、nanoLC/MS/MSにより個々のタンパク質を分離し質量分析することにより定量し、変化量を求めることにより作成したデータ群である。なお、図中において「Method」は分析方法を示し、「Entrez Gene ID」は後述する共通固有番号を示し、「Fold change」は発現変動量を示し、「p-value」は発現変動量の有意差検定の結果であるp値を示し、「Regulation」はタンパク質の変動方向(増減)を示し、「Spot No。」は2D-DIGE法にて同定されたスポットの個数を示し、「Modification」は予想される翻訳後修飾の種類を示し、「Total fold change」は2D-DIGE法にて修飾が異なるが同じタンパク質であると同定されたスポットの発現変動量の総和を示し、「Gene title」は遺伝子名およびその機能に関する定義を示し、「SwissProt」はタンパク質のデータベースである第1のデータベースとしてのSwiss-Protにおけるアクセッションナンバー(固有番号)を示し、「GO」は遺伝子オントロジー(Gene ontology)分類を示している。また、Swiss-Protは、スイスバイオインフォマティクス研究所(SIB、 Swiss Institute of Bioinformatics)と、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI、 European Bioinformatics Institute)とが共同で提供するタンパク質のアミノ酸配列データベースである。また、「Modification」の欄に記載の略号は、「P」はリン酸化を示し、「Ac」はアセチル化を示し、「F」は断片化(fragmentation)を示している。
このように、タンパク質の網羅的な発現変動量データ群に、同定されたタンパク質の翻訳後修飾のデータが含まれているため、生成した統合プロテオーム解析用データ群(後述)を用いて統合プロテオーム解析を行った際に、遺伝子の発現変動、タンパク質の発現変動に加えて翻訳後修飾をも反映させた解析結果を導くことができる。
本実施形態において、遺伝子の網羅的発現変動量データ群はDNA microarrayにより得ることとし、タンパク質の網羅的な発現変動量データ群は、2D-DIGE法やLC/MS(iTRAQ法)により得ることとしたが、これに限定されるものではなく、2つの異なるサンプル群間のタンパク質の網羅的な発現変動量データ群を得ることのできる解析手法、たとえば様々なトランスクリプトーム的手法、あるいはプロテオーム解析学的手法によるもので統合プロテオーム解析学的手法に用いことのできるによるものであれば良い。
遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とは、2つの異なるサンプル群をそれぞれDNAマイクロアレイ等の手法により分析し、得られた一方のサンプル群中に含まれる複数の遺伝子の発現量を元にして、他方のサンプル群中に含まれる複数の遺伝子の発現量を算出した変化量のデータ群である。具体的には、図3に示すようなデータ群であり、図中において「Method」は分析方法を示し、「Entrez Gene ID」は後述する共通固有番号を示し、「Probe set ID」はDNAマイクロアレイに固定されたプローブの固有番号を示し、「Fold change」は発現変動量を示し、「p-value」は発現変動量の有意差検定の結果であるp値を示し、「Regulation」はタンパク質の変動方向(増減)を示し、「Gene title」は遺伝子名およびその機能に関する定義を示し、「GO」は遺伝子オントロジー(Gene ontology)分類を示している。
このような2つの異なるサンプル群間のタンパク質の網羅的な発現変動量データ群(以下、「タンパク変動量データ群」という。)と、同上の2つの異なるサンプル群間の遺伝子の網羅的な発現変動量データ群(以下、「遺伝子変動量データ群」という。)に基づいて、統合プロテオーム解析的タンパク質機能解析に供するデータ群を生成することとなる。
具体的には、図4に示すように、タンパク質固有番号共通化ステップと、遺伝子固有番号共通化ステップと、データ結合ステップと、データ棄却ステップと、データ採用ステップとを経てタンパク質機能解析に用いるための統合プロテオーム解析用データ群を生成することに特徴を有している。
タンパク質固有番号共通化ステップは、タンパク質の網羅的な発現変動量データ群を構成する各タンパク質毎の発現変動量データに、そのタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号と同タンパク質をコードする遺伝子の第2のデータベースにおける固有番号とに紐付けされた共通固有番号を付与する。
ここで、タンパク質の第1のデータベースは、例えば2D-DIGE解析にて使用した質量分析計や、LC/MSに付属する質量分析計に予め備えられたタンパク質同定用のデータベースと解釈することができる。特に近年の質量分析計とデータ解析用計算機に備えられたデータベースには、同定したタンパク質のデータに、一般に広く知られているSwiss-Prot等のIDを付与可能としたものも多く、図1にも示したように、各タンパク質毎の発現変動量データには第1のデータベースにおける固有番号として、Swiss-ProtのIDが付与されている。
また、同タンパク質をコードする遺伝子の第2のデータベースにおける固有番号とは、米国生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)が提供するGenBankや、欧州分子生物学研究所(European Molecular Biology Laboratory)が提供するEMBLや、日本の国立遺伝学研究所が提供するDDBJで付与される固有番号や、これらのデータベースから冗長性を廃しつつ統合管理する戦略で運用されているアメリカ国立医学図書館 (NIM: National Library of Medicine)およびNCBIによる統合型データベースEntrezの固有番号と解釈することができる。後に詳述するが、本実施形態では、図2に空欄で示したように、Entrezの固有番号を第2のデータベースにおける固有番号として付与する。なお、この図2におけるタンパク質の網羅的な発現変動量データ群のEntrezの固有番号は、次に述べる共通固有番号としての機能も兼ねている。
共通固有番号は、前述の第1のデータベースにおける固有番号と、前述の第2のデータベースにおける固有番号とに紐付けされた固有番号である。
例えば、第1のデータベースのおける固有番号をSwiss-Protの固有番号とし、第2のデータベースにおける固有番号をDDBJの固有番号とした場合、両者の固有番号は直接的には紐付けがなされていない。それゆえ、ある所定の遺伝子→タンパク質発現系にある対応する遺伝子とタンパク質であるのに、これらのデータを統合して検討するのは困難であった。そこで、本実施形態では、第1のデータベースにおける固有番号と、第2のデータベースにおける固有番号とに紐付けされた固有番号を付与することで、同じ発現系にある遺伝子の発現変動量データとタンパク質の発現変動量データとを容易に統合可能としている。
この共通固有番号は、データベースにおける固有番号と、前述の第2のデータベースにおける固有番号とに紐付けされたものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、Entrezの固有番号とすることができる。
次に、遺伝子固有番号共通化ステップについて説明する。遺伝子固有番号共通化ステップは、遺伝子の網羅的な発現変動量データ群を構成する各遺伝子毎の発現変動量データに、その遺伝子の第3のデータベースにおける固有番号と同遺伝子より発現するタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号とに紐付けされた共通固有番号を付与するステップである。
ここで、遺伝子の第3のデータベースにおける固有番号は、例えば、DNAマイクロアレイのProbe set IDと解釈することができる。
また、同遺伝子より発現するタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号とは、前述したSwiss-Protの固有番号と解釈することができる。
また、第3のデータベースにおける固有番号と、第1のデータベースにおける固有番号と、に紐付けされた共通固有番号は、前述のタンパク質固有番号共通化ステップと同様に、例えば、Entrezの固有番号とすることができる。
次に、データ結合ステップについて説明する。このデータ結合ステップは、前述のタンパク質固有番号共通化ステップを経たタンパク質の網羅的な発現変動量データ群と、前述の遺伝子固有番号共通化ステップを経た遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とを結合して、各タンパク質毎の発現変動量データと各遺伝子毎の発現変動量データとにより構成される結合データ群を生成するステップである。
すなわち、このデータ結合ステップによって、2D-DIGE法やLC/MS等の統合プロテオーム解析学的手法により得られた解析データと、DNAマイクロアレイ等のトランスクリプトーム解析学的手法により得られた解析データとが統合されることとなる。つまり、具体的には、iTRAQ法ならびに2D-DIGE法によるタンパク質についての解析結果、およびDNAマイクロアレイによるmRNAについての解析結果の全ての結果をパールスクリプト(Perl Script)を用いて同一書式の一行区切りのテキスト形式に変換して統合した統合プロテオーム解析用データ群(iPEACH: integrated Protein Expression Analysis Chart)を作成する。
具体的には、上記各種の解析法で得られたタンパク質の網羅的な発現変動量データ群と、遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とを結合して、各タンパク質毎の発現変動量データと各遺伝子毎の発現変動量データとを共通固有番号順に並び替えを行うことで、結合データ群とする。
このようにして得た結合データ群は、次に、データ棄却ステップにて処理を行う。このデータ棄却ステップでは、結合データ群を構成する各発現変動量データのうち、2つの異なるサンプル群間のタンパク質の発現変動量または遺伝子の発現変動量の有意差検定により得られたp値が所定値以上のデータを棄却する。
次に、データ棄却ステップを経た結合データ群を、データ採用ステップにて処理する。このデータ採用ステップでは、タンパク質発現変動量データと遺伝子発現変動量データとで同じ共通固有番号が付与されているデータに対し、所定の条件に基づいていずれか一方のデータを採用して、タンパク質機能解析に供するデータ群を生成するステップである。
ここで、所定の条件は、例えば、タンパク質発現変動量データと遺伝子発現変動量データとで同じ共通固有番号が付与されている場合、生体内タンパク質の直接的挙動を反映するものとして、タンパク質発現変動量データを採用する条件とするのが好ましい。また、タンパク質発現変動データの内でも、翻訳後修飾を受け分子の機能調節が行われている可能性のあるものは注目すべき分子として採用することが好ましい。
このような構成とすることにより、実際の細胞内でのタンパク質の発現変動の重要性に即した統合的なタンパク質の発現解析結果を得ることができる。
このように、本発明に係る統合プロテオーム解析用データ群の生成方法によれば、上述してきたステップを踏まえることによって、タンパク質と遺伝子との両者の発現変動量を総合的に加味することができ、しかも、従来のタンパク質または遺伝子の発現変化量を単独で解析した場合に比して、より精度良く適切な解析結果を導くことのできる統合プロテオーム解析用データ群を生成することができる。
以下、タンパク質機能解析に供するデータ群の生成について、図面を参照しながら更に具体的に説明する。
本実施形態に係る統合プロテオーム解析用データ群の生成方法では、まず、図2に示したタンパク変動量データ群を構成する各タンパク質毎の発現変動量データに、そのタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号、ここではSwiss-Protの固有番号と、同タンパク質をコードする遺伝子の第2のデータベースにおける固有番号、ここではEntrez Gene IDとに紐付けされた共通固有番号を付与するタンパク質固有番号共通化ステップを行う。
特に、本実施形態では、2D-DIGEとLC/MS(iTRAQ法)との2種類の分析方法によるタンパク変動量データ群を得ているため、これらを結合させた上で共通固有番号の付与を行う。
具体的には、図2(a)および(b)にて示した2つのタンパク変動量データ群を結合させて、図5(a)に示す1つのタンパク変動量データ群を作成する。図2(a)および(b)の2つのタンパク質発現変動データには、予め2D-DIGE法によって得られた同一タンパク質の生体内分子状態変化の情報(Spot No.)と、質量分析計による解析結果から得られた翻訳後修飾の情報(modification)を付与しており、その結果も統合データに反映される。
次に、この変動量データ群を構成する各タンパク質毎の発現変動量データに対して、図5(b)にて太線の黒枠で示すように、同タンパク質をコードする遺伝子の第2のデータベースにおける固有番号、本実施形態では、Entrez Gene IDを付与する。
このEntrez Gene IDの付与は、2D-DIGE解析にて使用した質量分析計や、LC/MSに付属する質量分析計が有するタンパク同定用のデータベースによって付与されたGene Titleや、Swiss ProtのIDに基づいて付与を行うことができる。
また、Entrez Gene IDの付与は、手作業で行っても良いが、2D-DIGEやLC/MSにて同定されるタンパク質の数は数千〜数万と膨大な数にのぼるため、コンピュータ等によりEntrez Geneのデータベースをインターネットを介して参照しながら付与を行うようにしても良い。このような構成とすることにより、膨大な数の各タンパク質毎の発現変動量データに対し、人為的な入力ミスと労力を飛躍的に削減しながら第2のデータベースにおける固有番号を付与することができる。
なお、この際のユーザインターフェイス用のプログラムとしては、上記機能を有するソフトウエアを各使用者のコンピュータにインストールするよう構成してもよく、また、上記機能を有するプログラムをインターネット上のサーバに格納し、使用者のコンピュータに予めインストールされたブラウザソフトウェアを用いてインターネットを介して処理可能に構成しても良い。
次に、図3にて示した遺伝子変動量データ群を構成する各遺伝子毎の発現変動量データに、その遺伝子の第3のデータベースにおける固有番号、ここではDNAマイクロアレイのProbe set IDと、同遺伝子より発現するタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号、ここではSwiss-Protの固有番号とに紐付けされた共通固有番号を付与する遺伝子固有番号共通化ステップを行う。
具体的には、図3にて示した遺伝子変動量データ群を構成する各遺伝子毎の発現変動量データに対して、図6にて太線の黒枠で示すように、本実施形態では、Entrez Gene IDを付与する。
このEntrez Gene IDの付与は、DNAマイクロアレイのProbe set IDに基づいて付与を行うことができる。
また、Entrez Gene IDの付与は、手作業で行っても良いが、DNAマイクロアレイにて分析される遺伝子の数は数千〜数万と膨大な数にのぼるため、コンピュータ等によりEntre Geneのデータベースをインターネットを介して参照しながら付与を行うようにしても良い。このような構成とすることにより、膨大な数の各タンパク質毎の発現変動量データに対し、労力を飛躍的に削減しながら共通固有番号を付与することができる。
なお、この際のユーザインターフェイス用のプログラムとしては、上記機能を有するソフトウェアを各使用者のコンピュータにインストールするよう構成してもよく、また、上記機能を有するプログラムをインターネット上のサーバに格納し、使用者のコンピュータに予めインストールされたブラウザソフトウェアを用いてインターネットを介して処理可能に構成しても良い。
次に、タンパク質固有番号共通化ステップを経たタンパク質の網羅的な発現変動量データ群(図5(b)参照)と、遺伝子固有番号共通化ステップを経た遺伝子の網羅的な発現変動量データ群(図6参照)とを結合して、結合データ群を生成する。
具体的には、図7に示すように、各タンパク質毎の発現変動量データと各遺伝子毎の発現変動量データとを共通固有番号にて並び替えした結合データ群とする。
このような処理を行うことにより、2D-DIGE法やLC/MS等の統合プロテオーム解析学的手法により得られた解析データと、DNAマイクロアレイ等のトランスクリプトーム解析学的手法により得られた解析データとを統合した結合データ群を生成することができる。
また、結合データ群では共通固有番号にて並び替えを行っているため、例えば図7中黒枠で示すように、ある遺伝子からタンパク質が発現する発現系を分析方法別に一塊のデータとして目視することが可能となり、遺伝子やタンパク質の発現変動量を把握する上で有用である。
次に、結合データ群に対して、データ棄却ステップによる処理を行う。ここでは、結合データ群を構成する各発現変動量データのうち、p値が所定値以上の各発現変動量データを棄却する。
ここで、p値の閾値となる所定値は、例えば、0.05とすることができるが、これに限定されるものではなく、所望の精度に応じてさらに低い値(例えば、0.01や0.005等)としても良い。但し、この所定値を過剰に低く設定すると、棄却する発現変動量データが増加するため、正しい解析結果が得られなくなる可能性があり留意が必要である。なお、本実施形態では、p値が所定値以上の各発現変動量データを棄却することとしたが、分散分析によるF値が所定値以下のデータを棄却するようにしても良い。
このデータ棄却ステップを経ることで、結合データ群は、図8(a)に示すように、p値が所定値以上の各発現変動量データが棄却されたデータ群となる。
次に、データ棄却ステップを経た結合データ群に対して、データ採用ステップによる処理を行う。ここでは、結合データ群のうち、タンパク質発現変動量データと遺伝子発現変動量データとで同じ共通固有番号が付与されているデータに対し、所定の条件に基づいていずれか一方のデータを採用して、タンパク質機能解析に用いるための統合プロテオーム解析用データ群を生成する。
すなわち、図8(a)に黒枠で示すように、結合データ群中にタンパク質発現変動量データと遺伝子発現変動量データとで同じ共通固有番号が付与されているデータが存在する場合、例えば、タンパク質発現変動量データであることを条件として、タンパク質発現変動量データを結合データ群を構成するデータとして採用する。
これにより、図8(b)に黒枠で示すように、重複する共通固有番号が付されたデータはなくなり、タンパク質機能解析に供するデータ群が生成されることとなる。
このようにして生成された統合プロテオーム解析用データ群は、例えば、GO解析や生体内シグナル伝達に関する経路解析、代謝経路解析などのネットワーク解析に供することで、効率的かつ精度の高い機能解析を行うことができる。
つまり、本発明の統合プロテオーム解析用データ群は、遺伝子発現解析や各種のタンパク質発現解析結果の意味と詳細な情報(raw data)を損なうことなく統合し、更にタンパク質の翻訳後修飾に関する情報をも加味することで、生体内におけるタンパク質発現変動の全容が効果的かつ容易に把握できるように構築されている。そのため、本統合プロテオーム解析用データ群を用いることによって、より精度の高い生体内分子ネットワークの解析や、関連する新しい分子の機能解明が可能となる。
しかしながら、本発明の方法にて生成された統合プロテオーム解析用データ群を解析して同定された特定のタンパク質分子が、プログラム上で如何に高い信頼性の高いデータであったとしても、実際の生体サンプルに適用した場合、実際にどの程度信頼性の高い生物学的情報を得ることができるかは疑問が残るところである。
そのために、本発明においては、実際の疾患に関連する各種組織ならびに細胞サンプルを用いて、プロテオミクスデータベースの構築を行い、疾患の薬剤治療標的となる病態マーカーや創薬の標的となる細胞内異常シグナルネットワークの検索ならびに同定を行って病態プロテオミクスを展開することができるかどうかを検討する必要がある。
ただし、実際の病態サンプルを用いてかかる病態マーカーや細胞内異常シグナルネットワークを検索するためには、ゲノム解析やmRNA発現解析、タンパク質の発現解析や特異的翻訳後修飾/相互作用解析などの様々な分子解析結果を統合的に総合的に評価する事によってはじめて可能となると考えられる。しかし、前述したように、これらの解析方法論は元来個々に確立されているため、出力されるデータの言語やフォーマットや表示の概念がそれぞれ異なっており、これらを融合して統合的に評価することはこれまで困難であった。すなわち、これまでは、複数の装置によって異なる概念で解析され、病態組織細胞内の異常活性を示すタンパク質ネットワークや翻訳後修飾、細胞内タンパク質の相互作用機能等の多くの情報を得たとしても、それらを有機的に結びつけて解釈することが簡単にできなかった。そこで、本発明では、病態関連分子解析を効率的に進めることができる上記統合マイニング解析プログラムを用いて、腫瘍組織細胞の機能分子メカニズム解析、バイオマーカー探索等に応用可能かどうかを検討した。
本発明においては、脳腫瘍患者の脳腫瘍組織から採取したサンプルを用いて、iTRAQ法ならびに2D-DIGE法を用いたプロテオーム解析および DNAマイクロアレイ法を用いたトランスクリプトーム解析を融合的に用いて得られた全ての情報を、統合プロテオーム解析用データ群を用いて統合マイニングすることによって、病態等において異常に制御されている病態等の原因タンパク質やシグナル伝達経路などを特異的に抽出した。つまり、脳腫瘍患者の脳腫瘍組織から採取した同一サンプルを用いて同時進行で種々のディファレンシャル解析を行い、これらから得られた特異的変動分子群の定量的発現情報を統合し、新しい抗癌剤耐性に関与する分子シグナルネットワークの抽出をして一連の解析を行い、脳腫瘍に関与していると考えられるタンパク質を探索同定した後、このタンパク質が実際にその疾患の病態に関与しているかどうかの検証を行った。
この検証では、本発明による統合マイニングによる解析方法論が、例えば、腫瘍組織細胞内で抗がん剤抵抗性に関与して活性化しているシグナル分子キャスケードを抽出し、関与分子群の翻訳後修飾を含むいかなる発現変動と構造変化がその腫瘍の治療抵抗性に関与するかを明らかにすること、即ち、腫瘍の薬剤耐性メカニズムの一端を解明することの可能性、さらには、これらの統合的な解析によって、病態の治療方針や予後予測をより正しく診断するための臨床マーカーや、有効な治療薬を開発するための基礎情報のデータベース化の可能性の検証を行うことを目標とした。
なお、本明細書においては、脳腫瘍患者の脳腫瘍組織から採取したサンプルを例に挙げて説明したが、説明を簡略にするだけの意図で例示しただけであって、本発明は、かかる脳腫瘍に一切限定されるものではなく、本発明の目的を達成できるものであれば、医学分野ばかりではなく、あらゆる分野においても適用可能であることは当然のことである。
ここで、脳腫瘍サンプルを用いた統合マイニング法について具体的に説明する。脳腫瘍サンプルとしては、悪性グリオーマにおいて唯一化学療法に対して感受性を示す退形成乏突起膠腫 (Anaplastic oligodendroglioma/ astrosystoma:AO/AOA) 患者から摘出した脳腫瘍組織のサンプルを使用した。このAO/AOAは、現在のところ明確に予後を予測できる簡便な診断マーカーは存在せず、早期において患者の化学療法感受性を見極めるマーカーや治療ターゲットの開発は早急に取り組むべき重要な課題として近年注目されている。これまでに唯一、AO/AOA の染色体1番短腕部 (1p) と19番長腕部 (19q) の片アレル欠失 (Loss of Heterozygosity: LOH)と化学療法感受性の関連性が報告されているが、化学療法感受性との因果関係を詳細に説明できる特定の遺伝子などの情報は全く報告されていない。理由として、ゲノム上の欠失が必ずしも遺伝子の欠失と相関しない転座の可能性や、あるいは、欠失した遺伝子群を介して間接的に化学療法耐性メカニズムに作用している他の遺伝子の関与等が考えられ、詳細なAO/AOA の化学治療感受性のメカニズムをゲノムや遺伝子レベルのみで結論を出すには限界があった。
まず、AO/AOA 患者から摘出した脳腫瘍組織のサンプルは、病理学的チェック、染色体異常の有無、正常/異常、悪性度(グレード)の違い、抗癌剤感受性有無などを基にして分類をする。つまり、上記脳腫瘍サンプルを、病理学的チェックでは、1p/19q LOHを有するタイプ(1p/19q LOH) と、1p/19q LOHを持たないタイプ (1p/19q LOH) の2種類に分類する。このLOHとLOHとは、一般的に知られる所見として、いずれも病理学的には同様の所見を示すけれども、LOHは抗ガン剤や放射線治療に感受性で予後がよく、逆にLOHは、抗がん剤に非感受性で非常に予後が悪いという違いがあることが知られている。
次いで、1p/19q LOHサンプルと1p/19q LOHサンプルからそれぞれタンパク質とmRNAを抽出する。タンパク質は、2種類のプロテオーム解析、つまり、2次元電気泳動法による2D-DIGE法、および電気泳動を用いないLC-MASSによるiTRAQ法を同時進行で行って、タンパク質レベルで差異のあった分子群を質量分析解析によってタンパク質変動と翻訳後修飾などの解析を行って同定される。mRNAは、DNA マイクロアレイを用いてトランスクリプトーム解析に供してmRNAの発現変動などを解析する。
2D-DIGE法ならびにiTRAQ法によるプロテオーム解析、およびトランスクリプトーム解析による網羅的解析から得られるデータは、本発明の統合プロテオーム解析用データ群を解析するアプリケーションであるiPEACH (integrated Protein Expression Analysis Chart)を用いて整理・統合され、これを用いてGO解析 (Gene Ontology) および KeyMolnetソフトウエアによる分子間ネットワーク解析を行う(図8参照)。
上記のiPEACHを用いたGO解析および分子間ネットワーク解析によって、その結果、1p/19q LOHおよび1p/19q LOHの脳腫瘍組織において抗癌剤感受性に関連して変動している重要な分子群を特定し、脳腫瘍細胞内における抗癌剤感受性関連シグナルネットワークを抽出することが可能となる。予測された分子ネットワーク構成分子群に関しては、更にAO/AOA 検体サンプルすべてについてウエスタンブロッテイングおよび組織免疫染色にて検証を行うとともに、1p/19q LOHおよび1p/19q LOHのグリオーマ 培養細胞を用いて同様の検証と、さらにsiRNA、阻害剤ならびに活性化剤を融合的に用いた生化学的な活性測定、抗がん剤感受性阻害や活性化等の検証実験を行うことによって、悪性グリオーマにおける抗癌剤感受性に関わる分子機序を解明することができる。
ここで、本発明において、統合プロテオーム解析用データ群を作成するためのプロテオーム解析法の1つてあるiTRAQ法について簡単に説明する。iTRAQ法は、2〜4つの比較したいサンプルをそれぞれ異なる標識試薬でラベルした後、両者を混合して解析を行う。つまり、iTRAQ法は、4plexでも、8plexでも行うことができる。標識に用いる試薬としては、組成は全く同様でありながら、4〜8種類のリポーターイオンを持つisobaric Tag標識試薬を用いて、トリプシン処理によりフラグメント化した各サンプルのペプチド末端を標識したのち混合する。これらをイオン交換などにより分画し、nanoLCによる逆相クロマトを行い、オンラインでnanoESI-Qq-TOF、およびnanoMALDI-TOF-TOFによる質量分析を行う。nanoLCによって同じフラクションに分画された4つのiTRAQ標識ペプチドは、分子量の違いによって質量分析にてはじめて区別され、その量の差異が定量される。同時にMS/MS解析によりタンパク質の同定を行うことができる。
本発明において、統合プロテオーム解析用データ群を作成するためのプロテオーム解析法の別の1つてある2D-DIGE法は、基本的にはiTRAQ法と同様に、サンプルから抗癌剤感受性、非感受性、正常の3種類それぞれの可溶化タンパク質を蛍光試薬であるCy2、Cy3、またはCy5で標識し、それぞれを混合後、2次元電気泳動後、共焦点蛍光ゲルスキャナーによって解析する。さらに、特異的なリン酸化タンパク質染色液であるProQ Diamondを用いて、リン酸化タンパク質の発現の差異を同一の2次元電気泳動ゲルで行う。紫色に染まって見えるスポットが、非感受性のサンプルにおいてリン酸化が特異的に亢進しているタンパクスポットであり、また黄色に染まっているスポットが、正常のサンプルにおいてリン酸化が亢進した、すなわち、非感受性でリン酸化が減少しているタンパクスポット群であると判定することができる。
次に、本発明において、統合プロテオーム解析用データ群を作成するためのトランスクリプトーム解析法であるヒトDNAマイクロアレイ法について簡単に説明する。上記プロテオーム解析に用いたのと同一サンプルから抽出したmRNAを、ヒトcDNAオリゴチップを用いてトランスクリプトーム解析を行い、同時進行で行うプロテオーム解析の結果を比較する。この比較結果により、同一のサンプルから検出されたmRNAの発現分子の数が、プロテオーム解析手法によって特異的に発現が上昇および減少するものとして同定されるタンパク質群の発現パターンと大きく異なっている。これらの分子は、時として、タンパク質レベルでは上昇しているにもかかわらず、mRNAレベルでは逆に減少しているものも多く見受けられるところから、この違いは、細胞内におけるタンパク質とmRNAの発現と安定性の時間的ラグが反映されているものと考えられる。mRNAの発現の上昇は、タンパク質として充分に反映された時終了し、減少するのに対し、タンパク質がクリアランスされ不足するとmRNAの発現は誘導され上昇する。つまり、細胞内のある時間軸だけを切り取ってみると、あるタンパク質は上昇しているが、mRNAは減少していて、またあるタンパク質は減少しているが、mRNAは上昇している、ということは常に起こっていても不思議ではないと考えられる。
そして、差異のあったすべての分子群を同定後、タンパク質およびmRNA発現レベルのデータ、すなわち、タンパク質の網羅的な発現変動量データ群と、mRNAの網羅的な発現変動量データ群とを、本発明に係る統合プロテオーム解析用データ群の生成方法にて整理・統合して作成したプログラム(iPEACH)で自動的に統合データマイニングする(図9)。
つまり、このプログラム(iPEACH)は、1p/19q LOHおよび1p/19q LOHAO/AOA 組織内で発現が確認された遺伝子 (DNA アレイ) とタンパク質群 (iTRAQ:ESI-Qq-TOF とMALDI-TOF-TOF による両解析データ、ならびに2D-DIGE: PI3−11のデータおよびPI4−7のデータ) のそれぞれの同定分子群の全ての情報を含むリストを、パールスクリプト(Perl Script)を用いて同一書式の一行区切りのテキスト形式に変換して読み込み、アクセッション番号を統合したファイルとして作成される。このファイルには、gene description(分子の定義や機能情報)、染色体位置情報、統合プロテオミクスにおける解析法(すなわち、DNA マイクロアレイ、iTRAQ(MALDI-MS)、iTRAQ(ESI-MS/MS)、2D-DIGE 等)、Gene Ontology annotation、タンパク質翻訳後修飾の有無と頻度(2D-DIGEで同定された修飾スポットの情報)などが付与されている。また、統合ファイルのデータの内、それぞれの分子に重み付けを行い、優先順位をつけ、同一タンパク質でもタンパク質の翻訳後修飾が併せて確認されるものを注目すべき分子として自動的に上位にランクするアルゴリズムを用いている。更に、自動的に有意と評価して閾値を設定し、閾値以下の変動分子を解析対象から外すようにマスクした後、GO解析やKeyMolnet 等の分子ネットワーク解析に直接用いることが出来るように整形済みテキストとして統合ファイルを出力することができる (特願2010-81525)。ここで説明している例においてのオリジナル解析データの一元化ファイルにおいては、約30,000 個の分子情報を対象とし、その中から統計学的に定量性が有意な分子を抽出する(図8参照)。このiPEACHプログラムにより、各データを瞬時に一元化することが可能となり、GO解析、パスウェイ解析等へ供することができるため、重要な分子群の抽出操作が容易にできる。
ここで、統合プロテオーム解析用データ群(iPEACH)の作成に際して、上記解析結果の生データからiPEACHに付加されるアノテーション(テーブルの列に記載される項目)としては、iTRAQ (ESI) ならびにiTRAQ (MALDI)についてはそれぞれfold change ならびにp-value、およびiTRAQ質量分析結果 (ESI) ならびにiTRAQ質量分析結果(MALDI)についてはそれぞれペプチド同定数、翻訳後修飾を受けたペプチドの数(冗長性あり)、翻訳後修飾の数(冗長性なし)、ならびに翻訳後修飾の種類などが挙げられる。また、2D-DIGEについては、fold changeならびにp-value、およびタンパク質毎の同定されたスポット数、total fold change(全てのスポットの変動の総和)、average fold change(全てのスポットの変動の平均)、representative fold change(全てのスポットの中で最も変動が大きかったものの値)ならびに質量分析結果 (ESI)の翻訳後修飾の種類(冗長性なし)などが挙げられる。さらに、DNAマイクロアレイについてはfold change およびp-valueなどが挙げられる。
また、NCBI (National Center for Biotechnology Information) からiPEACHに付加されるアノテーション(テーブルの列に記載される項目)としては、Entrez Gene ID、 Gene Symbol、Map location(染色体上の位置)、Description type of gene (遺伝子の名称・定義)、OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man) - MIM number (ID)、OMIM - Clinical Synopsis (CS) ならびにOMIM - Title Word (TI)(OMIM Recordの名称)が挙げられる。
さらに、KEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes) からiPEACHに付加されるアノテーション(テーブルの列に記載される項目)としては、Entry(KEGGデータベースのアクセッションNo。 KEGG Ortolhogy No。)、Gene Name(KEGGデータベース上の遺伝子名)、Definition(KEGGデータベース上の遺伝子定義)、KEGG Pathway(KO Systemに基づいたKEGG Pathwayの情報)ならびにClass(遺伝子機能の階層的定義と分類)が挙げられる。
さらにまた、EnsembleからiPEACHに付加されるアノテーション(テーブルの列に記載される項目)としては、UniProt (CC行:コメント) のCatalytic activity、UniProt (CC行:コメント) のCofactor、UniProt (CC行:コメント) のDisruption Phenotype、UniProt (CC行:コメント) のEnzyme Regulation、UniProt (CC行:コメント) のDevelopmental Stage、UniProt (CC行:コメント) のInteraction、UniProt (CC行:コメント) のPathway (翻訳後修飾情報)、UniProt (CC行:コメント) のSimilarity、UniProt (CC行:コメント) のSubcellular Location、UniProt (FT行:脚注) のCarbohyd (糖鎖修飾情報)、UniProt (FT行:脚注) のSignal (シグナルペプチド情報・Extent of a signal sequence)、UniProt (FT行:脚注) のTransmem (膜貫通領域情報)、UniProt (FT行:脚注) のDomain、UniProt (FT行:脚注) のCa Bind (カルシウムイオン結合情報)、UniProt (FT行:脚注) のZn Fing (Zinc finger)、UniProt (FT行:脚注) のDNA Bind (DNA結合領域)、UniProt (FT行:脚注) のMotif (motif of biological interest)、UniProt (FT行:脚注) のBinding (Binding site for any chemical group (co-enzyme、 prosthetic group、 etc。)、UniProt (FT行:脚注) のMod Res (翻訳後修飾情報2)、UniProt (FT行:脚注) のLipid (Covalent binding of a lipid moiety)、UniProt (FT行:脚注) のDisulfid、ならびにUniProt (FT行:脚注) のCrosslinkが挙げられる。
続いて、上記のようにして得られた統合プロテオーム解析データを用いて、G O 解析とネットワーク解析による活性シグナルの絞り込みの検討をする。つまり、1p/19q LOHおよび1p/19q LOHのAO/AOA 組織間でiPEACH 解析の後、有意に発現変動していると評価された分子群のリスト内で、1p/19q LOHで発現が亢進している分子群に焦点を当て解析を行った。mRNA の発現変動では、エフリン が最も大きく (1p/19q LOHの腫瘍で14.9 倍、p < 0.01) 発現していることが確認された。タンパク質の発現変動においては同様の比較でビメンチンが最も大きく発現が変動しており(1p/19q LOHで4.54 倍高発現、p < 0.01)、更に翻訳後修飾を受けた6個のビメンチンが発現変動の上位30位までに同定された。抗癌剤耐性である1p/19q LOHのグリオーマ 組織でのエフリンA4 とビメンチン の高い発現は、細胞膜表面レセプターのエフリンA4 を介したシグナル伝達と、細胞内中間径フィラメントのビメンチンの高い発現、またその翻訳後修飾の亢進に何らかの抗癌剤感受性に関わる分子機構が存在することが示唆されている。
そこで、一元化統合ファイル(iPEACH で作成)を用いたGO 解析および細胞内シグナルネットワーク解析を行い、これらの分子メカニズムの相互作用機序を推察した。この結果、1p/19q LOHのAO/AOA において特異的に発現が増加していた分子に注釈付けられているGO term の中で、GO 解析により統計的に有意に関連が見られたGO termは、Regulation of gene expression(p = 2.57E-08、Biological process)、Regulation of transcription(p = 5.36E-07、Biological process)、DNA binding(p = 2.86E-07、Molecular function)などの遺伝子の発現調節に関与するものが多く、抗がん剤抵抗性の細胞内で特異的に活性化しているシグナルが、抗がん剤感受性に関わる分子の転写活性を制御している可能性が示唆された。また、関連活性化分子ネットワークを抽出するためKeyMolnet ソフトウェアを用いて特にエフリンとビメンチン を始点終点として焦点をあてたネットワーク図を検索すると、興味深いことに、1p/19q のローカスに位置する分子群が多数ネットワーク上に抽出され、特にCdc42 や、その下流で活性化するビメンチンリン酸化に関わる p21 activated kinase (PAK) 、ビメンチンの断片化に関わる Calpain SS(calpain small subunit)等を介するエフリン-ビメンチン 間の分子ネットワークが グリオーマ組織における抗癌剤感受性に重要である可能性が高いことが示唆された(図11)。
つぎに、一元化統合ファイル(iPEACH で作成)を用いたGO 解析および細胞内シグナルネットワーク解析で抽出された分子ネットワークの生化学的検証実験を行った。GO 解析ならびにKeymolnet 解析にて有意に上昇した重要な分子としてビメンチンとエフリンとそれに関わる制御因子群のネットワークに注目し、それらの発現量を組織免疫染色法とウエスタンブロッテイング法により検証した。ビメンチンおよびエフリン に対するモノクローナル抗体を用い、患者由来組織(合計36検体、LOH:18検体、LOH:18検体)、LOH培養グリオーマ 細胞であるU373 細胞およびU251 細胞、LOHU87MG 細胞およびA172 細胞を用いてウエスタンブロッテイング解析を行った結果、ビメンチンとエフリン 両分子ともにLOH群の組織/細胞にて有意な上昇がみとめられた(図12A、B)。特に組織細胞のビメンチンの発現がLOH-群において顕著に上昇すると同時に、特徴的なビメンチン分解フラグメントにおいても有意な増加がみとめられた(図12A、B、図28)。
また、1p/19q のLOH/ LOHとビメンチン/エフリンの発現量の有無が生存に及ぼす影響を51人のAO/AOAサンプルについて統計的に解析したところ、ビメンチンおよびエフリン の高発現群の生存率がこれらの低発現群に比べて有意に低くなることが判明し、ビメンチンおよびエフリン の有無はLOH の有無と同様に予後判定の指標に成り得ることがわかった。さらに、ビメンチンの8分解フラグメントの上昇と生存率低下にも相関がみられ、ビメンチンの増加とその分解はAO/AOA における抗がん剤感受性低下と関連性があることが判明した(図13)。
そこで、2D−ウエスタンブロッテイングと2D−DIGE のデータからビメンチンのスポットデータを定量的かつ生化学的詳細に解析したところ、合計16個の修飾ビメンチン群が検出され、そのうち8個のスポットが有意にLOHで上昇していることが判明した。分子量の高い順からグループ番号(A〜E)とし、pI の高い順からスポット番号1〜16とした。これらすべてのスポットの一次構造を質量分析およびN末端配列解析にて詳細に検討したところ、すべてのビメンチンスポットのC 末端構造は保存されており、N末端部位の切断によって分子量が変動していることが判明した。また、19個のリン酸化部位が同定され、このうち、Tyr319、Tyr358、Tyr400および Thr449 は新規のリン酸化部位であり、他の Ser リン酸化部位の3つは、興味深いことに、LOHにて有意に発現上昇する PAK によるリン酸化部位であることが分かった。また、さらに興味深いことに、B群、C群およびD 群のN末端切断部位は全てLOHにて有意に上昇するカルパイン(Calpain SS は19qに座位している) による切断部位であった(図14)。
これらの事実から、1p/19q LOHのグリオーマ細胞の中で抗がん剤抵抗性に関連して、エフリン→Cdc42 活性化→PAK活性化→ビメンチンリン酸化→ビメンチンのカルパインによる切断というキャスケードが活性化していることが想像される。また、切断されたフラグメントビメンチン の細胞内局在を調べたところ、フラグメント化されたN末端側ビメンチン が特異的に核へ移行することが判明した( 図30、図31A,B,C)。さらに興味深いことに、このフラグメントN末端側ビメンチン は核に移行することによって、エフリン のmRNA 発現を上昇させていることが判明した。これらの所見から、抗がん剤抵抗性グリオーマ細胞内で、ビメンチン 特異的なリン酸化と分解修飾を活性化するエフリン を介した新規の活性化ループが存在することが考えられる(図15)。
さらに、これらの事実関係を生物学的に検証するため、抗がん剤を用いた活性化分子ネットワークの生物学的検証実験を行って、それぞれのキャスケードに関わる分子群の発現および活性阻害剤を用いて、悪性グリオーマの第一選択薬テモゾロミド(Temozolomide:TMZ)に対するグリオーマ細胞の感受性変化を解析した。
まず、ビメンチンsiRNAを用いて、グリオーマ細胞U373 (LOH-) とA172 (LOH+)に対するTMZヘの感受性を検討した。U373 は、A172 に比較してビメンチンの発現が高くTMZに抵抗性が高いが、siRNAによってビメンチンの発現を抑制することによって、有意にTMZへの感受性を上昇させることが判明した。一方、LOH+細胞のA172 は、ビメンチンの発現が比較的低く、TMZへの感受性が高いため、ビメンチンSiRNAの効果は顕著ではなかった。すなわち、細胞内でのビメンチン活性化ループ (vimentin activation loop) が活性化している抗がん剤抵抗性のグリオーマ細胞は、ビメンチンの発現を低下させることによって、TMZ への感受性を上昇させることが可能であることが判明した(図23)。
次に、その活性化ループの最上流に存在するエフリン の発現をsiRNAにてノックダウンし、そのTMZへの感受性を同様に検討した。その結果、ビメンチンと同様に有意にTMZへの感受性を上昇させることが判明した。さらに、その下流に存在して活性化する PAKの活性阻害剤を処理することによって、ビメンチンのリン酸化および分解が阻害されることを2D−ウエスタンブロッテイングにて確認した。また、この阻害効果は、U373 細胞のTMZ 感受性を上昇させることが判明した。すなわち、PAK の活性化は、ビメンチンのリン酸化を上昇させるのみならず、ビメンチンの分解をも促進し、その結果、TMZ の感受性を低下させていることが考えられる(図25、26)。次に、PAKの下流でビメンチンの分解に関わっているカルパイン(Calpain)に関して、カルパイン阻害剤、活性化剤、さらにカルパイン活性化サブユニットSS に対する siRNA によるカルパイン活性の阻害が抗がん剤感受性に与える影響について検討した。その結果、Calpain阻害剤両者はグリオーマ細胞U373 のTMZ に対する感受性を有意に上昇させた。さらに、カルシウムイノホア(Calcium ionophore)A23187 によってカルパインを活性化させることによって、抗がん剤感受性は顕著に阻害された。したがって、カルパインによるビメンチン のフラグメント化は明らかにグリオーマの抗がん剤感受性を低下させていることが判明した(図27、28)。
最後に、ビメンチン活性化ループの活性化で核移行したN末端側ビメンチンフラグメントは、エフリン の転写活性を上昇させることから、エフリンのリガンドである エフリンligand (Ephrin A1) を細胞に処理することによって、細胞内ビメンチン の活性化ループが活性化し、抗がん剤感受性に影響を与えるかどうかを検討した。無血清の培養条件で、U373細胞に、ビメンチンのsiRNAまたはコントロールsiRNAを処理した後、ephrin A1を加えて培養し、経時的にエフリンの転写活性をqRT-PCRにて測定した。その結果、ephrin A1 を処理することによって、コントロールsiRNA群では、エフリン の転写活性は経時的に上昇したが、ビメンチンsiRNA 処理によっては、その活性上昇は顕著に阻害された。さらに、ephrin A1 処理によって、U373 細胞のTMZに対する感受性は有意に減少することが判明した。
以上の所見に加えて、ephrin A1 処理は、PAK の活性を上昇させ、ビメンチンのフラグメント化によるN末端の核移行を上昇させたこと、この一連の反応がPZK 阻害剤、カルパイン阻害剤で阻害されたことなどを考え合わせると、エフリン→Cdc42 活性化→PAK活性化→ビメンチンリン酸化→ビメンチンのカルパインによる切断化→ビメンチンN末端側の細胞内核移行→エフリンの転写活性上昇→ビメンチン活性化ループの活性化、という一連のシグナルがLOHの悪性グリオーマ細胞内で活性化しており、これがTMZ などの抗がん剤の耐性機序のひとつであるということが、明らかとなった(図15)。
上述したように、本発明によれば、例えば、ヒト腫瘍組織細胞サンプルを用いた統合プロテオミクスの方法論を用いると、抗がん剤耐性などに関わって発現量と修飾構造を変動させるタンパク質群と、その機能変化に関わる責任分子群を介した細胞内シグナルネットワークを抽出することが可能になり、これによって、悪性腫瘍における抗がん剤治療抵抗性メカニズムの一端を明らかにするとともに、治療ターゲットや臨床マーカー、創薬への基礎情報を得ることが可能になるという大きな利点がある。
一般に、統合的なプロテオミクス解析の利点は、タンパク質自体の量的変動(iTRAQ など)と、タンパク質転写前のmRNA レベルでの発現変動(DNA マイクロアレイ、qRTPCR など)、およびタンパク質の翻訳後修飾を含めた変化(2D-DIGE など)が同時に情報として取得できることにある。一方で、従来の統合プロテオミクスの解析結果を扱う上での問題点としては、個別の複数のプロテオーム解析(2D-DIGE やiTRAQ)相互、およびトランスクリプトーム解析(DNA マイクロアレイ)の結果の書式に共通性がなく、比較や統合が困難であること、そして、膨大な数の分子を解析するため、解析結果から有意な情報を抽出する効率的な方法論が確立されていないこと等が挙げられる。これに対して、本発明に係るiPEACH およびMANGO などの統合プロテオーム解析ソフトウェアは、これらの従来の問題を解決するため、それぞれの生データから同定された分子のすべての言語を統一し、翻訳後修飾情報や定量値、染色体情報、GO などを紐づけした情報を網羅させ、重みづけと優先順位を付加した統合一元化ファイルを自動的に作成することができるという大きな利点がある。
本発明では、例えば、グリオーマ AO/AOA 組織サンプルを用いたオリジナル解析データの一元化ファイルにおいては、約3万個という膨大な量の分子情報を対象とし、その中から統計学的に有意な1万6千個以上の分子を抽出し、さらに、本発明において、1p/19q LOHおよび1p/19q LOHの腫瘍組織間で有意に発現変動していると評価された140個弱の分子群に焦点を当てて解析を行った結果、単独のプロテオミクスのみあるいはDNA アレイのみでは得ることのできなかった新規の細胞内シグナルが、全ての情報を統合マイニングし網羅的に評価して解析することではじめて有意に抽出できることが判明した。また、絞り込みを行ったシグナルに関しては、ひとつひとつ念入りに阻害剤や活性化剤やsiRNA などを用いて細胞レベルの検証を行う必要があるが、高い絞り込みを行っているため、これらが予想通りに証明できる可能性が高くなるという効果が期待できる。さらに、少なくとも、本発明において、抗がん剤抵抗性グリオーマの解析において抽出された新規の細胞内活性化シグナル(ビメンチン活性化ループ)に関しては、すべての検証実験に成功するとともに、患者の抗がん剤抵抗性を感受性に転ずるための方法論に対するアイデアの創出に有用であることが分かった。
その上、病態サンプルは量が限られているため、できる限りの情報を最大に生かす必要性があり、本発明は、iPEACH/MANGO によって統合したファイルをデータベース化することによって様々なメタ解析に再利用することも可能であるという大きな利点がある。
ここで、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を具体的に説明するために、単に例示的に記載するものであって、本発明を一切限定する意図で記載するものでないことは当然のことである。したがって、本発明は、下記実施例に一切限定されるものではなく、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
(融合プロテオミクスのストラテジー)
本実施例で使用するサンプルは、退形成乏突起膠腫 (Anaplastic oligodendroglioma/astrosystoma:AO/AOA) 患者から脳腫瘍組織を外科的手術によって切除したのち、病理学的検査を行い、LOHの有無による分類を行った。さらに、これらのサンプルよりタンパク質とmRNAを同時に抽出して、2種類のプロテオミクス、2D-DIGE法とiTRAQ法による解析、およびDNA arrayを行います。差異のあったすべての分子群を同定後、タンパク質、およびmRNA発現レベルをin silicoによって融合的にデータマイニングしたのち、それらの分子についてグリオーマにおける生物学的機能を検証した。
(LOH解析ステップ)
このLOH解析ステップは、本実施例の解析対象の脳腫瘍サンプルのそれぞれについて、LOHの有無により分類するステップである。
脳腫瘍サンプルは、乏突起神経膠腫患者から腫瘍を摘出した後、OCT compoundに凍結包埋し、溶解前にHE染色で適切なサンプルであることを確認した上で、LOH を有する群(LOH群)およびLOH を有しない群(LOH群)をそれぞれ4検体ずつ調製した。これらの検体からタンパク質とmRNAを抽出して以後のiTRAQ法ならびに2D-DIGE法による解析に供した。
(iTRAQ法による解析ステップ)
まず、腫瘍摘出後の脳腫瘍患者から採取した組織ライセートを調製した。組織は、9.8 M Urea、4% CHAPS、1.45μM pepstatin、2 mM Na2VO4、10 mM NaF、1μM Okadaic acid、1% (v/v) Protease Inhibitor Cocktail (GE Helthcare)、1% (v/v) Nuclease mix (GE helthcare)を含むライセートバッファーで可溶化し、乳棒で100倍にホモジネートした。さらに、得られたライセートに、1 mM DTT と 0.5 mM EDTAを添加し、乳棒で100倍にホモジネートした。得られたライセートは、4℃で20分間15、000 rpmで遠心分離し、Bio-Rad protein assay (Bio-Rad Laboratories)を用いて上清液のタンパク濃度を決定した。
次に、上記で調製したライセートをサンプルとして用いて、iTRAQ試薬でラベルした。各タンパク質サンプル100 μgを2-D Clean-Up Kit (GE Healthcare)で処理し、得られた沈殿物を9.8 M Urea (10 μl)で溶解した。iTRAQ試薬でのラベル化は、製造元のプロトコールを最小限変化させて8Plex法を用いて実施した。AO患者組織のLOH群およびLOH群から得たそれぞれ4サンプルをiTRAQ試薬で処理し、各サンプルに可溶化バッファー (20μl) と変性試薬 (1μl) を添加した。続いて、サンプルを還元剤(2μl)で還元アルキル化後、60℃で1時間反応させた。さらに、還元されたシステイン残基をシステイン・ブロッキング剤でブロックして10分間室温で反応させた後、1μg/μlトリプシン水溶液 (12.5 μl) を用いて37℃で16時間トリプシン分解を別個に行った。次に、それぞれのサンプルのペプチドを8種類のレポーターiTRAQ試薬(ラベル化試薬1バイアルを解凍し、エタノール80 μlに再構成した)でラベルした。その後、iTRAQラベルサンプル(試薬113、114、115および116をLOH群、117、118、119および121をLOH群)を消化物に添加し、1時間室温で反応させた。これらのラベル化したサンプルを混合した。得られた混合サンプルをバッファー(20% v/v ACN、10 mM リン酸カリウム、pH 3.0)で希釈し、同バッファーで平衡化したMono S column (GE Healthcare)に充填した。ペプチドは、solvent B 濃度勾配(10 mM リン酸カリウム、pH 3。0 and 1 M KCl in 20% v/v ACN): 0-2 min、0 to 7% B、at 6 min、to 14% B、at 8 min、to 32% B、at 13 min、to 70% B、at 21 min、to 100% B)で溶出した。上記のようにiTRAQラベルしたサンプルからの溶出液を陽イオン交換HPLCによって40フラクションに分画した。各フラクションは真空遠心分離で乾燥し、2% ACNと0.1% トリフルオロ酢酸(TFA) とを含む溶液で再水和し、ZipTipμ-C18 pipette tips (Millipore)で脱塩した。
各フラクションの10分の1量を用いて、ナノLC-ESI-Qq-TOFおよびナノLC-MALDI-TOF-TOFによる質量分析を行った。サンプルは、溶出フラクションをMALDIプレート上にスポットする装置を取り付けたDiNa Map (KYA Tech) を用いてC18 nano LCを行った。サンプルは、solvent A (2% ACN、0.1 % TFA)で平衡化した C18 column (0.5 mm I.D × 1 mm length、KYA Tech) に注入し、C18 nano-column (0.15 mm I.D × 100 mm length、KYA Tech) 中をsolvent B (70% ACN、0.1 % TFA)を300 nl/minのフロー率で90分濃度勾配(0-10分間: 0 to 20% B; 65分まで50% B; 75分まで100% B)により分離した。このカラム流出液をマトリックス(2 mg/ml α−シアノ−4−ヒドロキシケイヒ皮酸の50% ACN、0.1% TFA)と、フロー率(1.4μl/min)で混合した。フラクションはステンレススティールMALDIターゲットプレート(192 ウエル/プレート、Applied Biosystems)上に5秒間隔でスポットした。ペプチドの質量スペクトルは、4700 Proteomics Analyzer (Applied Biosystems) を用いて4000 Series Explorer software (v.3.6)で得られた。各フラクションに対する質量スペクトル(m/z 800-4000)は1500レーザーショット放射することで得た。存在量が少ないベブチドを分析するために、各質量スペクトルにおいて、S/N thresholdが50から75まで、ならびに75から100までである全てのピークを、それぞれ5000レーザーショットと4000レーザーショットでのMS/MS分析のために選択した。
次に、S/N 閾値が100である全てのピークを3000レーザーショットでのMS/MS分析のために選択した。ラベル化したペプチドの断片化は、衝突ガスの環境下で圧力1 x 10-6 Torrおよび衝突エネルギー1kVの条件下で発生させた。
(ナノLC-ESI MS/MSによる分析ステップ)
本分析ステップでは、上記実施例で用いたのと同じサンプルをナノLC-ESI MS/MSで分析した。サンプルは、5 mm RP C18プレカラム(LC Packings)に30μl/分の割合で充填し、10分間洗浄した。次に、ボアサイズ100ÅのC18 ビーズ(3μm)を充填した分離カラム(PepMap RP カラム(内径75μm、長さ150μm) from LC Packings)を用いて分離した。分離は、フロー率200 nl/分で、solvent B (85% ACN、0.1%ギ酸) の90分間濃度勾配(0-60分間は0 to 40% B;70分で100% B)を用いて行って、サンプルを2つのフラクションに分割した。
1つ目のフラクションについて、QSTAR Pulsar i mass spectrometer (Applied Biosystems/MDS SCIEX、CA)を用いて分析した。ソフトウエアとしては、初めに1 s MSスキャンをし、続いて最も存在量が多い3個のピークに対しては各ピークに対して5回3 s MS/MSスキャンするようにスキャンサイクルをセットしたAnalyst QS 1.1 (Applied Biosystems/MDS SCIEX) を用いて分析した。データ取得は、以前のターゲットイオンを60 s排除して行った。他方、2つ目のフラクションは、存在量の少ないペプチドを分析するために使用した。この分析は、上記で分析したペプチド分析を除いて最初の分析と同一条件で行った。ラベルしたペプチドは、iTRAQ レポーターイオンを発生するように設計されたCID条件下で断片化された。
MALDIまたはESIのデータ分析は、ProteinPilot (Applied Biosystems) を用いたデータマイニングによって行った。その結果、合計2103 タンパク質を比較定量的に同定した。その中でLOHで特異的に上昇しているものとして40個、減少しているものとして32個のタンパク質をリストアップした。上昇しているもののグループで一番変化の大きかったものがビメンチンであった(図17)。
(二次元蛍光ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)法による解析ステップ)
上記で調製したライセートをサンプルとして二次元蛍光ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)を行った。サンプルは上記のiTRAQで用いたサンプルと同じものを8種類用いた。LOH群(抗癌剤感受性)、LOH群(抗癌剤非感受性)および正常群をそれぞれ4検体ずつ50μgの可溶化タンパク質にCy2(全サンプルのタンパク質を混合)、Cy3(各LOH4サンプルずつおよびLOH4サンプルずつ)、Cy5 (各LOH4サンプルずつおよびLOH4サンプルずつ)のラベルを行い、順列くみあわせによる3種類(Cy2、3、5) のサンプルを混合し、2次元電気泳動を12枚(PI 3-10)と12枚(pH 4-7)で行った後、共焦点蛍光ゲルスキャナーによる解析をして、得られた48枚の画像をDeCyderによってマイニングした(図18)。同時に、未ラベルのサンプルにて2次元電気泳動を行い、リン酸化タンパク質を特異的に染色する蛍光試薬を用いて、リン酸化タンパク質の発現の差異を同一の2次元電軌泳動ゲルで行って、リン酸化タンパク質を検出した。その結果、紫色に染色されて見えるスポットが、非感受性のサンプルにおいて、リン酸化が特異的に亢進しているタンパクスポット群、また黄色に染色して見えるスポットが、正常のサンプルにおいて、リン酸化が亢進している、つまり、非感受性のサンプルでリン酸化が減少しているタンパクスポット群であった。
さらに、特異的なリン酸化タンパク質染色液であるProQ diamondによる染色により1719個のリン酸化タンパク質スポットが検出された。上記2D-DIGEで変動のあったタンパク質スポット92個のなかで、63個がリン酸化タンパク質であった。それらのスポットについてProQ Diamondを用いて質量分析装置にて同定をしたところ、それらのスポットは、GFAP、ビメンチン(ビメンチン)、tubulin、HSP70などであることが分かった。同定されたタンパク質の1つであるビメンチンを例に挙げると、15個のビメンチンスポットのいずれもLOH群に比べてLOH群の変動が増加していた。また、LOH群とLOH群において発現状態が大きく異なる分子として、中間径フィラメントのビメンチンが同定された(図19)。
同定された15種類すべてのビメンチンスポットの一次構造を質量分析とN末端分析により解析したところ、19箇所のリン酸化部位が同定され、分子量の変動はN末端の特異的切断であることが分かった(図14)。
さらに、ウエスタンブロッテイングで観察された複数のバンドが2D-DIGEでどのようなスポットとして検出されたかどうかについて検証した。検証方法は、2D-DIGE法でのビメンチンスポットの位置を観察し、その変動率を詳細に比較することによって行った。また、各スポットならびに各分子量の一次構造を質量分析ならびにN末端解析法により解明した。その結果、2D-DIGE法では、ビメンチンは合計16個のタンパク質スポットとして同定された。そこで、分子量の高い順、つまりpIの高い順から、グループ番号(A〜E)と番号をつけた。各グループには、2〜5個のスポットが検出され、その各スポットにも1〜16番と番号を付けた。このうちで、3、4、8、9、11、14、15、16番が有意に変動するスポットとして同定された。これら1〜16番スポットの一次構造を詳細に解析したところ、19個のリン酸化部位が同定された。このうち、Tyr319、Tyr358、Tyr400ならびにThr449はこれまでに報告のないリン酸化部位であった。また、Ser26、Ser39ならびにSer73はPAKによるリン酸化部位であった。さらに、N末端解析の結果、Aは全長のビメンチン、Bは42番目から、Cは54番目から、Dは72番目から、Eは93番目から始まるビメンチンであった。また、比較的分子量の小さくなったビメンチンが有意に変動していた。さらに、B、CおよびDの切断部位は全てカルパインによる切断部位であった。以上のことから、2D-DIGEでは16個のスポットとして同定されており、分子量とpIの変化はリン酸化修飾とカルパインによる切断によるものであった。さらに、ビメンチンに変化をもたらしたのは修飾責任酵素群の活性化が考えられる(図20)。
(全RNA抽出とマイクロアッセイステップ)
本実施例では、上記実施例で用いたのと同じサンプルを用いて全RNA抽出とマイクロアッセイを行った。サンプルは、上記プロテオミクスに用いたサンプルと同じ組織から抽出した合計8個(LOH、4: LOH、4)のmRNA、および追加2個(LOH、1: LOH、1)のサンプルを加えて合計10個の学習セットとした。
AO組織からの全RNA抽出はQiagen kit (Qiagen、 Inc.、Valencia、CA)を用いて行った。RNA の量と質は、RNA 6000 Nano Assay kitとAgilent 2100 BioAnalyzer (Agilent Technologies、CA)を用いて決定した。
マイクロアッセイの実験方法の概略は次の通りである。まず、RNAを2重鎖cDNAに変換し、In vitro転写してビオチン標識cRNA を作製した。このビオチン標識cRNAを断片化して、Affymetrix HG-U133 plus2.0 GeneChipsにハイブリダイズし、フィコエリスリン−ストレプトアビジンで染色してプローブレベル生データとセルファイルをGCOS (GeneChip Operating Software)を用いて得た。その結果は、提示されたプローブが24、567 プローブ、発現増加したプローブが2、241 プローブ(p<0.05、>1.5)、発現減少したプローブが 863 プローブ(p<0.05、>0.5)であった。データマイニングはGene SpringsGXによって行った。
これらの方法によりタンパク質の発現変動のみならずリン酸化タンパク質のプロファイリングProQが可能となった。全タンパク質スポットは各サンプル平均4000個であり、全てのプロファイルの定量的な統計解析結果より、タンパク質の発現に有意な変動があったスポットを電気泳動ゲルから抽出し、トリプシン分解を行ったのち、タンパクペプチドを抽出して質量分析装置により、タンパク質の同定を行った。その結果、LOH群にて特異的に上昇している分子が合計3922個のスポットのうち、LOH群において1.2倍以上に上昇したスポットとして合計106個、また、同様の群にて1.2倍以下に減少したスポットとして105個がリストアップされた。その中で最も等電点および分子量ともに変動しながら発現量の上昇が認められた分子として、ビメンチン(ビメンチン)が同定された。
(iPEACHによる統合データリスト化ステップ)
Entrez番号、SWNo、GeneNo、分子名、発現比、p-Value、修飾ありなし、GO、解析方法を表示し、解析方法によって異なるデータ行(同じ分子でも解析結果が異なる、2D-DIGEで複数個同定されているものは翻訳後修飾があるとしてその同定数を記載する)を含めてすべてリスト化した。このファイルからもう一度、このリストの表記法にformatされた分子を変動率のおおきいものから順に並び替えをして、統合up list、down listを作成する。又同時にこのフォーマットで書き直したプロテオミクスデータとトランスくりプトームデータを別個に抜き出した。今回の解析によるデータは定量的に解析できた分子リストとして30、000行におよび、また抽出されたプロテオミクスによる解析の最もup率が高かった分子がビメンチン(Vimentin)であり、DNAアレイで最も高かった分子がエフリンA4(EphrinA4)であった。
(Gene SpringsによるGO解析ステップ)
iTRAQ 法によるプロテオーム解析で同定されたタンパク質2103個のうち発現増加したタンパク質40個(p<0.05、 >1.2)と発現減少したタンパク質32個(p<0.05、 <0.83)、ならびに2D-DIGE 法によるプロテオーム解析で発現増加したと同定されたタンパク質106個(p<0.05、 >1.2)とタンパク質105個(p<0.05、 <0.83)のUniProt Accession Noと、DNAマイクロアレイによる解析で提示されたプロ−ブ24567個のうち発現増加したプローブ2241個(p<0.05、 >1.5)と発現減少したプローブ863個(p<0.05、 <0.5)Affymetrix IDとをEntrez Gene ID Noに変換して統合した結果、発現増加したタンパク質が1512個と発現減少したタンパク質846個の合計16287個のタンパク質が抽出された。このデータをもとに、Gene Springs GXによるGO解析を行った結果、Biological processにおいては、regulation of gene expression、regulation of transcriptionおよびMolecular functionにおいては、DNA binding、phosphotransferase activityおよびphosphate group as acceptorが有意に上昇していることが確認された。
(KeyMolnetによる分子ネットワーク解析ステップ)
GO解析により抽出された分子群の関係性を解析するために、GO解析により抽出された重要な分子リストをもとに、上記一元化ファイルから各分子に紐づけられた発現変動量ならびにLocus情報を取り出してKeyMolnetによる解析に供した。。この解析により、これら分子群を含む経路を明らかにすることができた。つまり、KeyMolnet解析の結果、ビメンチンを中心にその修飾酵素分子群(PAK (p21 activated kinase)、P13K、PKC、Rho等のキナーゼやカルパイン等のプロテアーゼなど)が上昇しているのが認められた。また、その修飾酵素分子はChr1p19qに座位(Locus)していることが判明した。さらに、これらの酵素分子群の上流まで調べたところ、G proteinやEphA4などが上昇しているのが認められた(図11)。なお、これらのネットワークの最上流に存在する分子がEphA4てあって、その変動量は上流では一番大きかった(DNAマイクロアレイによる解析では発現増加したLOH細胞の14倍の発現増加)。この結果、GO解析のみによる分子群の抽出では不明であった分子群の関係性、どのようなパスウェイが活性化しているのかなどをKeyMolnet解析により供することで知ることが可能になった。
また、KeyMolnetによる分子ネットワーク解析では、EphrinA4とビメンチンを始点終点として、全てのデータからこれに関連するもののネットワークを抽出し、最終的に、EphrinA4→CDC42→p21 dependent protein kinase (PAK)→ビメンチンリン酸化→Calpain→ビメンチンの特異的切断、さらに、報告されていない所見として、ビメンチン→EphrinA4のネットワークが抽出できた(図24)。
このビメンチン−エフリンA4ネットワーク(ビメンチン−エフリン活性化ループともいう)は、新規でかつ化学療法耐性の悪性グリオーマ細胞中に異常に活性化していることが確認された。このネットワークは、EphA4−cdc42−PAKの活性化カスケードから構成され、ビメンチンのリン酸化ならびにカルパインによる断片化を生起し、そのN末端断片が核に転座する。この現象が、化学療法による治療を施した後の患者の癌の進行と余命に非常に関係していることが分かった。興味深いことに、ビメンチンのN末端断片は、エフリンA4の転写因子に変換され、エフリンA1またはsiRNA処理により発現の上昇または下降が観察された。、これらの現象は、抗がん剤であるTMZに対する感受性の増加または減少にそれぞれ関連していた。その結果、細胞ビメンチンの中間径フィラメントのN末端断片は、悪性グリオーマの化学療法耐性を、Eph4−cdc42−PAK1−vimentin活性化ループを経由して増加する転写因子となりうることを示していて、創薬の候補を探索する有用なツールとなりうることを示唆している。
本実施例では、実施例1で使用した組織ライセートを、2次元ゲル電軌泳動し、ボアサイズ0.2μmのボリビニリデンフルオライド(PVDF)メンブレンを用いて、1時間450 nmでブロッテイングした。このPVDFメンブレンをsimply blueで染色し、シークエンシングに用いるビメンチンスポットを切り出して空気乾燥した。N末端アミノ酸シークエンスは、エドマン(Edman)分解法で決定した。そのアミノ酸シークエンスは、BLASTプログラムを用いてNCBIデータベース中のビメンチンシークエンスと比較して決定した。
(ビメンチンの免疫組織化学的解析)
GO解析ならびにKeyMolnet解析にて有意に上昇した重要な分子としてビメンチンに注目して、その発現量を組織免疫染色法とウエスタンブロッテイング法により検証した。実験は、ビメンチンに対するモノクローナル抗体(V9)を用い、統合ロテオミクスに供したものと同じ患者由来組織を用いて組織免疫染色法およびウエスタンブロッテイング法で行った。また、LOHであると報告されているU373細胞およびU251細胞、ならびにLOHであると報告されているU87MG細胞およびA172細胞を用いて、ウエスタンブロッテイングを行った。さらに、統合プロテオミクスに供した以外の患者由来組織を用いてウエスタンブロッテイングを行った。
図12Aは、AO患者の組織とグリオーマ細胞株におけるビメンチン発現を示すビメンチンによる組織免疫染色法による解析結果を示している。なお核はヘマトキシリンで染色した。その結果、LOH群に比べてLOH群の組織において、細胞質と核周辺にビメンチンが強く発現しているのが確認された。
図21Bは、AO組織中のビメンチンのウエスタンブロット図である。ウエスタンブロッテイングは、LOHとLOHのAO患者の組織からの細胞ライセートサンプルをSDS−PAGE電気泳動で分離した後、PVDFメンブレン上でエレクトロブロットして、抗ビメンチン抗体でイムノブロットした。組織を用いたビメンチンのウエスタンブロッテイングにおいて、そのビメンチンの発現量はLOH群に比べてLOH群の組織において顕著に上昇していたことが分かった。また、約50KDaの分子量のビメンチンに加えて、約45kDa前後のバンド(ビメンチン)が3本観察され、それらのバンドについても増加がみられた。
図12Aは、LOHとLOHのAO患者の組織におけるビメンチン量を示している。本実験は、統合プロテオミクスに供した以外の患者由来の組織(合計39検体、LOH:18検体、LOH:18検体)も用いてビメンチンのウエスタンブロッテイングを行い、ビメンチンの定量を行ったところ、ビメンチンの発現量が有意に増加していたことが確認された。
図12Bは、グリオーマ細胞のビメンチン発現量をウエスタンブロッテイングで検証した結果を示している。本実験では、ウエスタンブロッテイングは、LOH患者とLOHのグリオーマ患者の組織からの細胞ライセートサンプルをSDS−PAGE電気泳動で分離した後、PVDFメンブレン上でエレクトロブロットし、抗ビメンチン抗体でイムノブロットした。対照としてActinを使用した。なお、グリオーマ細胞株としては、LOH群の細胞(U251、U373)、LOH群の細胞(A172およびU87 (ATCC)) を用いた。その結果、LOH群に比べ、LOH群の細胞においてより多くのビメンチンが発現し、かつビメンチンの切断が亢進しているのが観察された。
図12Cは、LOHとLOHのAO患者の組織およびグリオーマ細胞株におけるEphA4発現を示している。上段は、LOHとLOHのAO患者の組織におけるEphA4量を示し、下段は、グリオーマ細胞株(U251、U373、A172およびU87)中のEphA4のウエスタンブロット図である。ウエスタンブロッテイングは、LOH患者とLOHのグリオーマ患者の組織からの細胞ライセートサンプルをSDS−PAGE電気泳動で分離した後、PVDFメンブレン上でエレクトロブロットし、抗ビメンチン抗体でイムノブロットした。対照としてActinを使用した。
図22は、グリオーマ細胞(U373およびA172)の生長におけるsiRNAを用いたビメンチンのサイレンシングの効果を示す図である。本実験は、glioma細胞を1×10個/ウエルの割合で6ウエルプレートに播種し、24時間後にlipofectamin2000を用いてビメンチンsiRNAまたはcontrol siRNAを取り込ませた。siRNA導入48時間後に、ウエスタンブロッテイングでその発現量を評価した(図22A)。siRNA導入24時間後に、グリオーマ細胞を1000個/ウエルの割合で96ウエルプレートに播種し、さらに48時間後にウエスタンブロッテイングを用いて細胞生存を評価する(図22A)。また、ビメンチンsiRNA導入48時間後にグリオーマ細胞2×10個をマトリゲルインベージョンチャンバーに無血清状態で播種し、invasion assayを行った。24時間後にDiff-Quicを用いて染色し評価した(図22B)。その結果、グリオーマ細胞株においては、ビメンチンsiRNAにより細胞増殖ならびに浸潤能が低下したことが確認された。このことは、ビメンチンの発現増加は、細胞増殖と浸潤能を亢進し、予後を悪化させている可能性があることを示している。
図23は、グリオーマ細胞株(U373およびA172)の薬剤抵抗性の差異を示している。薬剤としては、抗がん剤であるTMZ(Temozolomide)を使用した。図23Aは、TMZ の濃度変化に対する薬剤抵抗性を示している。図23Bは、siRNAを用いたビメンチンのサイレンシングによるグリオーマ細胞株のTMZに対する抵抗性と、コントロールとのTMZに対する抵抗性を示している。
図23Aでの実験では、グリオーマ細胞株において、ビメンチンの発現量が抗癌剤抵抗性に及ぼす影響を調べた。実験は、グリオーマ細胞株を96ウエルプレートに100個/ウエルの割合で播種し、5時間後にTMZを0−20μMの濃度で加えた。6日間後にウエスタンブロッテイングを用い吸光度 (450nm) を測定し行った。 TMZ濃度が0μMの時をコントロールとして、その吸光度をそれぞれの基準とし、TMZの濃度ごとに生存細胞の割合を%で表示した。その結果、TMZ濃度5、10ならびに20μMそれぞれで、U373はA172よりも有意に抗癌剤に抵抗性を示した。つまり、グリオーマ細胞株では、ビメンチンの発現量が多いほど抗癌剤抵抗性が上昇していることが分かった。
図23Bでの実験では、グリオーマ細胞株において、ビメンチンのsiRNAによるビメンチン発現低下が抗癌剤抵抗性に及ぼす影響を調べた。実験は、グリオーマ細胞を6ウエルプレートに10個/ウエルの割合で播種し、24時間後にリポフェクタミン2000(lipofectamin 2000)を用いてビメンチンsiRNAまたはcontrol siRNAを取り込ませた。ビメンチンsiRNA導入24時間後に、グリオーマ細胞株を96ウエルプレートに100個/ウエルの割合で播種しなおし、5時間後にTMZを0−20μMの濃度で加えた。6日間後にウエスタンブロッテイングを用い吸光度 (450nm) を測定した。 TMZ濃度が0μMの時のコントロールの吸光度をそれぞれの基準とし、TMZの濃度ごとに生存細胞を%で表示した。その結果、TMZ濃度10ならびに20μMそれぞれで、U373においては、ビメンチンsiRNA処理の方がcontrol siRNA処理よりも有意に抗癌剤に感受性を示した。一方、A172では、ビメンチンsiRNA処理による抗癌剤感受性上昇は認められなかった。つまり、U373では、ビメンチンの発現量が減少すると抗癌剤感受性が上昇しているのに対し、A172では、この傾向は認めなかった。これは、ビメンチンの抗癌剤による影響が発現量だけによるものだけではなく、LOHの状態に備わっている細胞内環境によるビメンチンの修飾によるものでないかと考えられる。
図24は、ビメンチンを修飾する酵素群とそれら酵素群を制御する分子群の変動を検討すると同時に、それら分子群が1p19qに座位していることから、LOH群においてビメンチンの修飾が活性化しているかどうかを調べた結果を示している。
本実験でKeyMolnetによる解析と分子群の変動率ならびに有意差を再度見直したところ、次のような結果が得られた。まず、1p19qに座位している分子に注目すると、カルパインSS1、CaM、Cdc42、Rho、PI3K、Gタンパク質が座位していた。1p19qに座位し、かつビメンチンを切断する酵素として、カルパインSS1が有意に上昇していた。ビメンチンをリン酸化するキナーゼ群としてPAK、ROCK、CaMKIIがリストされたが、PAKの変動率が2。04倍(p<0.05)と最も高い変動率であった。また、そのPAKを活性化する分子群として、Cdc42が上昇(3.00倍、p<0.01)しており、1pに座位していた。さらに、Cdc42を活性化する分子として、G タンパク質とEphA4がリストされた。G タンパク質は1pに座位していた。また、EphA4はDNA マイクロアレイで最も上昇した分子(14.9倍、p<0.001)であった。
これらの結果から、ビメンチンを修飾する分子群であって、かつ1p19qに座位している分子をリストしたところ、カルパインSS1、CaM、Cdc42、Rho、PI3KならびにGタンパク質が1p19qに座位していたことが確認された。その中で、カルパインSS1とCdc42の関与が示唆され、さらにGタンパク質の関与も考えられた。さらに、最上流として変動率の大きかったEphA4の関与が示唆された。その結果、EphA4(Gprotein)→ Cdc42 → PAK → ビメンチン → phospho-ビメンチン → Calpain SS1 → ビメンチン断片化の経路が活性化していることが考えられた。
図25は、PAKインヒビターでグリオーマ細胞U373を処理した場合に、ビメンチンのPAKによるリン酸化が阻害されることによって起こるビメンチン2Dパターンの変化を示している。右図はPAKインヒビターでグリオーマ細胞U373を処理した図であり、内在性ビメンチンが観察されている。これに対して、左図はネガテイブコントロールを示す図であり、全長の内在性ビメンチンを加えて、切断を受けたビメンチンのスポットが観察されている。
本実験は、レポータータンパク質としてGFP-ビメンチン全長(1.4kbp)を導入したU373細胞を1×10個を6ウエルデイッシュに播種し、72時間後にPAK18 (PAK inhibitor) 10μMとそのネガテイブコントロール10μMを刺激した。タンパクを回収後、2D clean-up kitで脱塩処理し、Auto 2Dにてビメンチンの2D パターンを確認した。その結果、グリオーマ細胞U373において、GFP−ビメンチンと内在性ビメンチンは、PAK18によりリン酸化が阻害されていた。また内在性ビメンチンの切断は減少していた。つまり、ビメンチンは、PAKインヒビター刺激によるビメンチンのリン酸化によるspotの変化だけでなく、切断も減少していた。このことは、ビメンチンがリン酸化を受け、切断されやすくなっていると考えられる。
図26は、PAKインヒビター処理がグリオーマ細胞U373の薬剤感受性を増加していることを示す図である。本実験では、グリオーマ細胞株において、PAKが関与しているビメンチンのリン酸化が抗癌剤感受性に与える影響を調べた。本実験は、グリオーマ細胞株を96ウエルプレートに100個/ウエルの割合で播種し、5時間後にPAKインヒビター刺激とTMZを0−20μMの濃度で加え、6日間後にウエスタンブロッテイングを用い吸光度 (450nm) を測定した。 TMZ濃度が0μMの時をコントロールとして、PAKインヒビター刺激の吸光度をそれぞれの基準とし、TMZの濃度ごとに生存細胞の割合を%で表示した。TMZ濃度ごとのコントロールとPAKインヒビター刺激とを比べた。その結果、TMZ濃度5、10μMでPAKインヒビターで刺激したグリオーマ細胞は抗癌剤抵抗性が有意に低下した。このことは、グリオーマ細胞は、PAKによりビメンチンがリン酸化を受け、断片化されることでTMZに対する抵抗性を獲得していることを示している。
図27は、グリオーマ細胞株U373中でのビメンチンの断片化を示す図である。実験は、カルパインは、CaiインヒビターおよびA23187 (Calcium ionophor: Cai) によって活性化される。グリオーマ細胞株U373をカルパインインヒビターおよびA23187で刺激した後、ウエスタンブロッテイングで確認した。その結果、カルパインインヒビターはビメンチンの断片化を抑制し、A23187はビメンチンの断片化を促進することが分かった。つまり、ビメンチンはカルパインで切断されることが確認された。
図28は、AO/AOAのサンプルでのLOHの有無とビメンチンの切断についての評価結果を示している。本実験では、AO/AOAの38サンプルのビメンチンをウエスタンブロッテイングで調べた。ビメンチンのバンドを上からグループA〜Eに分け、LOHの有無による発現の違いを調べた。その結果、LOHでは、ビメンチンは、全体の発現だけでなく、切断を受けたそれぞれのバンドでも発現が増加していたことが確認された。このことから、LOHでは、ビメンチンの発現量だけでなく、ビメンチンが切断を受けることによって、予後が悪化している可能性があることを示唆している。
図29は、ビメンチンの断片化がグリオーマ細胞株U373の薬剤抵抗性を増加させることを示している。この実験では、グリオーマ細胞株において、カルバイン阻害剤(Calpi)による刺激ならびにカルシウムイオノフォア(Cai: A23187)による刺激が、抗癌剤抵抗性に及ぼす影響を調べた。
実験は、グリオーマ細胞株を96ウエルプレートに100個/ウエルの割合で播種し、5時間後にCalpi 1μMまたはA23187 1μM刺激とTMZを0−40μMの濃度で加えた。6日間後にウエスタンブロッテイングを用い吸光度 (450nm) を測定した。TMZ濃度が0μMの時をコントロールとして、 Calpi刺激およびA23187刺激の吸光度をそれぞれの基準とし、TMZの濃度ごとに生存細胞を%で表示した。TMZ濃度ごとのコントロールとCalpi刺激およびA23187刺激を比べた。その結果、TMZ濃度5、10、20μMでCai刺激したグリオーマ細胞は抗癌剤抵抗性が有意に低下し、TMZ濃度20、40μMでA23187刺激により抗癌剤抵抗性が有意に増加した。このことは、グリオーマ細胞においては、ビメンチンがカルバインにより断片化を受けることでTMZに対する抵抗性を獲得していることを示している。
フラグメント化したビメンチンの生物学的役割を検証するために、まず、フラグメントの局在をU373細胞およびA172細胞を用いて検証した。6ウェルガラスプレートにて培養したU373細胞ならびにA172細胞をPBSで洗浄した加後、4%パラフォルムアルデヒドで固定した。PBSで3回洗浄後、0.1%Triton X-100・PBSで5分間処理した後、3%BSA・PBSで20分間(一晩)ブロッキングした。ついで、PBSで2回洗浄後、3%BSA・PBSで希釈した抗N末端ビメンチン抗体および抗C末端ビメンチン抗体を添加して室温で60分間反応させた。さらに、PBSで2回洗浄後、3%BSA・PBSで希釈したAlexa488標識抗マウス二次抗体およびAlexa546標識抗ウサギ二次抗体を添加して室温で60分間反応させた。反応終了後、PBSで2回洗浄して共焦点顕微鏡にてビメンチンの細胞内局在を観察した。その結果、抗C末端ビメンチン抗体を用いた場合、U373細胞およひA172細胞はともに細胞質のみが染色されていた。抗N末端ビメンチン抗体を用いて場合、U373細胞およびA172細胞はともに細胞質の染色像に加えて、興味深いことに、核内がスポット状に染色されているのが観察された(図30)。抗N末端ビメンチン抗体にて細胞の核内が染色されたことから、切断されたビメンチンのN末端切片の核への移行が示唆された。
図31Aは、ビメンチンのN末端断片がグリオーマ細胞の核中へ移行していることを、図31Bは、ビメンチンのN末端断片が悪性グリオーマ細胞の核に局在していることを、また図31Cは、ビメンチンのN末端断片がグリオーマ細胞の核に移行していることを示している。
グリオーマ細胞株およびAO/AOA組織でビメンチンN末端の局在を調べた。グリオーマ細胞をビメンチンC末抗体およびビメンチンN末端抗体で同時染色したところ、グリオーマ細胞にN末端抗体で核内部が粒状に染色されたことが確認された。このことは、ビメンチンのN末端が核に移行していることを示している(図30、図31A)。また、LOH組織では核内のN末端抗体による強い反応が見られた(図31B)。
次に、グリオーマ細胞にレポータータンパク質としてGFP−ビメンチン(全長)、GFP−N末端ビメンチン(71a.a)、ビメンチン(全長)−GFP、およびN末端ビメンチン(71a.a)−GFPを発現させて観察したところ、GFPタンパク質を融合させたN末端ビメンチンが特異的に核に移行したことが確認された(図31C)。
図32Aは、グリオーマ細胞株において、N末端ビメンチンにより、EphA4 mRNAの発現が上昇するかどうかを確認した結果を示している。U373細胞にGFP−N末端ビメンチン(71a.a) 発現ベクターをエレクトロポレーションにより導入した。細胞1×105 個当たり0.5μgのベクターを導入し、細胞1×10個/ウエルで12ウェルに播種した。播種後、0、1、3、6、9、12、18、24時間後にmRNAを回収して、qRT-PCRにてEphA4のmRNAの発現量を定量した。その結果、N末端ビメンチンがEphA4mRNAを上昇させていることが確認された。
図32Bは、U373を用いたEphrinA1(EphA4レセプターのリガンド)刺激によるEphA4mRNAへの影響を示している。U373細胞を2×10個/ウエルで12ウエルに播種し、一晩培養後、EphrinA1(終濃度:3 μg/mL)を添加した。0、1、3、24時間後にmRNAを回収して、qRT-PCRにてEphA4およびビメンチンのmRNAの発現量を定量した結果、EphA4がEphA4mRNAを上昇させていることが確認された。
図33は、グリオーマ細胞株において、エフリンならびにセロトニン刺激が、抗癌剤抵抗性に及ぼす影響を調べた結果、エフリンとセロトニンがグリオーマ細胞U373の薬剤抵抗性を増加することを示している。
グリオーマ細胞株を96ウェルプレートに100個/ウェルの割合で播種し、5時間後にエフリン3μg/mlまたはセロトニン30μM刺激とTMZを0−40μMの濃度で加えた。6日間後にウエスタンブロッテイングを用い吸光度 (450 nm) を測定した。 TMZ濃度が0μMの時をコントロールとして、ephrin A1刺激、セロトニン刺激の吸光度をそれぞれの基準とし、TMZの濃度ごとに生存細胞を%で表示した。TMZ濃度ごとのコントロールとephrin A1刺激、セロトニン刺激を比べた。その結果、図示するように、TMZ濃度5、10、20、40μMそれぞれでephrin A1刺激、セロトニン刺激により抗癌剤抵抗性が有意に増加したことが確認できた。つまり、グリオーマ細胞株ではエフリン刺激ならびにセロトニン刺激により抗癌剤感受性が上昇していることが確認された。
図15および図16に示すように、TMZのグリオーマ細胞中での代謝で得られる代謝産物の中でも、特にビメンチンの修飾部位が同定されたPAK (p21 activated kinase) とCalpainSS1に注目した。このPAKの活性化因子で上流につながる分子として、今回の解析からCdc42ならびにEphA4が有意に発現上昇しており、それぞれのシグナルにつながる分子の活性化カスケードは、インヒビターを用いたウェスタンブロッティングの検証実験によりグリオーマ細胞内で有意に活性化していることが確認された。最終的に、フィラメントフォームのビメンチンはリン酸化されることによって、安定なsoluble formとなって特異的に切断されやすくなること、さらには、その切断責任酵素はカルパイン(calpain)であることが判明した。さらに興味深いことに、この特異的に切断されたビメンチンN末端断片は、グリオーマ細胞内で核移行を示すことが判明した。
本発明の統合プロテオミクス解析によって、グリオーマ細胞の薬剤耐性機構が明らかになった。抗がん剤のTMZを例にとって説明すると、TMZ は、5-(3-methyltriazen-1-yl)imidazole-4-carboxamide (MTIC) に先ず代謝されて、次に5-aminoimidazole-4-carboxamide (AIC) とmethylhydrazineに代謝される。この代謝産物により、核内ビメンチンN末端断片に多数存在するアルギニン(R)がメチル化されることで、TMZ によるDNAメチル化(グアニン)修飾を拮抗的に阻害すると考えられる。また、ビメンチンN末端断片は、DNAのグアニンに富む領域に直接結合することができるので、その結果、構造的にTMZによるDNAのメチル化が阻害されることも予想される(図16)。
さらに、EphA4−ビメンチン分子ネットワークにより、ビメンチンのN末端断片は、核内のビメンチンのN末端断片量を自立的に増加させる。それによって抗がん剤耐性を増大させることが分かった。
今回の解析によって、抗癌剤耐性のグリオーマ細胞内で活性化しているビメンチンシグナルが判明した。特に、細胞外からのEphA4を介してのCdc42の活性化、それによって活性化したPAKによるビメンチンのリン酸化、さらにリン酸化によってsoluble formとなったビメンチンのカルパインによる切断が起こっていることが確認された。また、切断されたビメンチンN末端側の核への移行も確認された。
それぞれのシグナルにつながる分子の活性化カスケードは、インヒビターを用いたウェスタンブロッティングの検証実験によりグリオーマ細胞内で有意に活性化していることが確認された。最終的に、フィラメントフォームのビメンチンはリン酸化されることによって、安定な可溶化フォーム(soluble form)となって特異的に切断されやすくなること、さらには、その切断責任酵素はカルパインであることが確認された。さらに興味深いことに、この特異的に切断されたN末端断片は、グリオーマ細胞内で核移行を示すことが分かった。つまり、グリオーマ細胞にGFP−ビメンチン全長およびGFP−N末端側ビメンチンを発現させた場合、全長は細胞質全体に繊維状に発現するのに対して、GFP−N末端側ビメンチンは有意に核へ移動していることが判明した。グリオーマの臨床切片においても、LOHの患者組織においてN末端ビメンチンが有意に核に蓄積していることが確認された(図31B、31C)。
本実施例は、日本人女性舌癌患者の舌癌局所再発部位組織から得た性質の異なる2種類の細胞(SQUU−A細胞およびSQUU−B細胞)を株化した細胞株を使用した。SQUU−A細胞は、膨張性増殖も脈管内浸潤もなく、低転移性癌細胞であり、SQUU−B細胞は、浸潤性増殖も、脈管内浸潤もある高転移性癌細胞である。SQUU-B細胞はSQUU-A細胞との混合培養条件下で優勢に発育する。
SQUU−B細胞において、発現が高くなっている分子、すなわち転移能やSQUU-A細胞との混合条件でも優勢発育に関与していると考えられる分子をプロテオーム解析とDNAアレイを用いて解析した。このプロテオーム解析の結果、41個のタンパク質の発現が、またDNAアレイを用いた解析の結果、2665個のmRNAの発現が有意に高くなっていることを確認した。これらのデータを、上記に従ってMANGOおよびiPEACHによる解析をして、SQUU−B細胞において発現が上昇したタンパク質が関係している経路を分子ネットワーク解析(KeyMolnet)によりランク付けをした。その結果、HIF (Hypoxia Inducibe Factor)を介する経路が明らかになった。つまり、SQUU−B細胞の高転移株で高発現が認められた41分子のうち32分子がHIFのシグナルネットワーク系に含まれていることが確認された。さらに、多くのSQUU−B細胞においてHIF-1の上流にある多くの高発現タンパク質からのシグナルがネットワークでHIF-1に結ばれているとともに、下流に存在する多くの高発現タンパク質がHIF-1からシグナルを受けているのが確認された(図34、35)。
HIF-1が、in vivoで見られた癌細胞集団での転移性癌細胞の優勢発育に影響を及ぼしているかどうかを調べるために、転移性細胞であるSQUU−B細胞の発現および活性化について検討した。そのために、in vivoで見られた現象がin vitroでも見られるかどうかを3-DCCシステム (3-Dimensional Cell Culture) を用いて検証した。3-DCCシステムは、96ウェルプレートの各ウェルに2%マトリゲル(Matrigel)を注入した実験系であって、各ウエルにそれぞれ細胞数2 x 10個ずつSQUU−A細胞単独、SQUU−B細胞単独、ならびに細胞混合を播種して培養した。
本実験の結果、SQUU−A細胞単独およびSQUU−B細胞単独を培養した実験系では、経時的観察をしたところ、いずれの細胞も大きな細胞塊を形成したが、SQUU−B 細胞の方が、SQUU−A細胞よりも細胞同士が固く接着し球状の細胞塊を形成した(図36)。SQUU−A細胞およびSQUU−B細胞を混合して培養した実験系では、SQUU−A細胞が経時的に減少するとともに、細胞塊の中心部から辺縁部へ局在が変化した。一方、SQUU−B細胞は優勢発育をしているのが観察された(図37)。
そこで、SQUU−A細胞およびSQUU−B細胞を混合して培養した実験系において、SQUU−A細胞とSQUU−B細胞との細胞隗の体積比率を共焦点レーザー顕微鏡を使用して測定した。その結果、SQUU−B細胞の割合が経時的に増加し、SQUU−A細胞の割合が減少しているのか分かった(図38)。
一方、HIF-1が癌細胞の転移能に影響を及ぼす分子について検討した。そのために、3-DCCにおけるマトリゲル内細胞塊のHIF-1の活性化状態を評価するために、HIF-1によってGFPを発光する遺伝配列を持つGFPリポーター遺伝子(GFP-HRE)を持つベクターを細胞に組み込んで、細胞内HIF-1の活性化状態を評価した。その結果、SQUU−B細胞の細胞隗では、その中心部においてGFPの発現が認められたが、SQUU−A細胞ではGFPの発現は認められなかった。SQUU−A細胞とSQUU−B細胞とのHIF-1に対する応答性の違いがSQUU−B細胞の優勢発育に関与しているのではないかと考えられる(図39)。
つぎに、SQUU−A細胞とSQUU−B細胞との転移能の違いを評価するために、HIF-1とカドヘリン(E-Cadherin)のICCによる発現の比較ををした。この実験で、塩化コバルトを用いてHIF-1の分解を抑制したところ、HIF-1が蓄積/活性化されている部位でカドヘリンの発現が抑制されていることが分かった。
上記の実験結果から、高転移性癌細胞(SQUU-B)では腫瘍増殖に伴い次第にHIF-1が発現するのに対し、低転移性癌細胞(SQUU-A)ではHIF-1の発現は見られなかった。また、SQUU-A細胞は徐々に細胞数を減らし、細胞塊の中心部から辺縁部へと局在を変えてゆく一方で、SQUU-B細胞は発育に伴いその数が増加することが確認された。さらに、SQUU-B細胞では、HIF-1の発現に伴いカドヘリン(E-cadherin)の発現が低下した。このことは、高転移性癌細胞(SQUU-B)の優勢発育と低転移性癌細胞(SQUU-A)の減少にHIF-1が関与しているのではないかと考えられる。その上、転移能の高い細胞は環境の変化によって接着分子の発現を制御することでEMT (Epithelial Mesenchymal Transformation) を引き起こすことができるのではないか考えられる。
上述したように、iPEACHプログラムによって、KeyMolnetを用いてシグナルネットワークを解析した。図11に示すように、LOH細胞群の発現増加タンパク質データから抽出したネットワークは、 LOH細胞群よりも非常に密集していることが確認されている。このネットワークから、発現が最大増加をしかつ修飾されているコアとなるタンパク質はビメンチンであることが同定された。つまり、2D−DIGE解析によって2〜12個のスポットが検出され、それらの発現増加率は1.6倍〜2.84倍であった。また、34種類の修飾を持つ発現増加した12タンパク質スポットには、5つのfold changeが質量分析で同定された(ESI で4.5倍、またMALDIで2.6倍)。さらに、上流の責任修飾酵素群は、いくつかのキナーゼやキナーゼアクチベータ(例えば、PAK, P13K, PKC, Rho, cdc42等)やプロテアーゼ(例えば、カルパイン (calpain) 等)に連結していることが分かった。興味深いことは、発現増加したこれらの責任修飾酵素群の染色体上の遺伝子座が1pと19qにあったことである。さらに、これらのネットワークの最も上流の分子がエフリンA4(EphA4) であることが同定された(DNAマイクロアレイ解析でLOH組織中で14倍もの発現増加が認められた)。このエフリンA4は、cdc42の発現増加に連結し、続いてPAK 1 (p21 activated kinase 1) の活性化を促進し、ビメンチンのリン酸化を生起する。リン酸化ビメンチンは、カルパインによるタンパク質分解の標的であることが知られている。ビメンチンのタンパク質分解酵素であると知られるカルパインの抑制サブユニットであるcalpain small subunit 1 (CAPNS1/calpain 4) がLOH組織中で有意に発現増加したタンパク質群中に同定され、このタンパク質もまた染色体19q上に座位していた。
ビメンチン−エフリンA4ネットワークの1p/19q LOHのAO/AOA組織ならびにグリオーマ細胞株中における活性化について説明する。
1p/19q LOHのAO/AOA組織中の発現増加したある特定のネットワークで抽出・同定された、エフリンA4、cdc42、PAK1、カルパインならびにビメンチンからなる分子ネットワークについて調べた。1p/19q LOHのAO/AOA組織 (1p/19q LOH:検体;LOH:検体) ならびにグリオーマ細胞株(1p/19q LOH:U−251MGならびにU−373MGおよび1p/19q LOH:A172 ならびにU−87MG) 中のエフリンA4とビメンチンの発現レベルは、これらに対する特定の抗体を用いたウエスタンブロッテイングにより定量した。LOH組織中のエフリンA4発現の平均レベルは、LOH組織中よりも2.5倍も高かった(図40a,b)。また、U−251ならびにU−373細胞中のエフリンA4発現の平均レベルは、A172 ならびにU−87細胞中よりも2.3倍高かった(図40c、d)。同様に、LOH組織中のビメンチン発現の平均レベルは、LOH組織中よりも3.1倍も高かった(図40e,f)。また、LOHグリオーマ細胞中のビメンチン発現の平均レベルは、LOH細胞中よりも2.7倍高かった(図40g、h)。興味深いことに、ビメンチンの高い発現増加に加えて、特定のビメンチンタンパク質分解フラグメントが1p/19q LOH組織の細胞株中に観察された(図40e、g)。
また、cdc42の平均発現レベルは、1p/19q LOH組織中で1.2倍、また1p/19q LOHグリオーマ細胞株中で1.4倍高かった(図40i,j)。さらに、1p/19q LOHグリオーマ細胞中において、cdc42の活性化がエフリンA4を経由して増加するかどうかを調べるために、エフリンA4のリガンドであるエフリンA1による刺激後にcdc42活性化レベルを解析した。その結果、エフリンA1による刺激後、cdc42活性化レベルは、U373 細胞では、A172細胞に対して、平均1.6倍有意に増加した(図40i,l)。
上記の結果は、cdc42が、1p/19q LOHグリオーマ細胞株中のエフリンA4シグナルを経由して特異的に発現増加して活性化されることを示唆している。同時に行った実証実験で、カルパインSS1 CAPNS1 (calpain small subunit 1 (calpain 4)) もまた1p/19q LOHグリオーマ細胞株中で発現増加した(図40m,n,o,p)。さらに、これらのことは、エフリンA4、cdc42、カルパインならびにビメンチンが1p/19q LOHグリオーマ細胞株中で特異的に発現増加することを示唆している。
つぎに、1p/19q LOHAO/AOA組織中でPAK1ならびにカルパインが活性化することによってビメンチンのリン酸化と断片化が発生することを確認するために、ProQ Diamond を用いた2D−DIGE法で同定されたビメンチンタンパク質スポットを2Dウエスタンブロッテイング法で解析した。二次元ゲル(pI 4−7) 上に現れた4000個のスポットのうち、全体で16個のスポット(pI 4.7−5.1かつMW 37−51 KDa)をビメンチンとして同定した(図41a、図42)。16のビメンチンスポットのうち、1p/19q LOHAO/AOA組織群の9スポットの強度が1p/19q LOHAO/AOA組織よりも高かった(図41b)。興味深いことに、酸性側に移動した16ビメンチンスポットのうち、13スポットがProQ Diamondに対して陽性であり、それらのスポットはリン酸化されたビメンチンであることを示していた(図42)。これらのスポットを、分子量別に5つのグループに分類した:グループAは51 kDa、グループBは48 kDa、グループCは45 kDa、グループDは41 kDaならびにグループEは37−39 kDa(図41a、b)。また、神経膠芽腫(glioblastoma:GBM)組織由来のビメンチンスポットは、AO/AOA組織と同様に、質量分析解析とN末端アミノ酸配列分析によって解析した。その解析結果から、16ビメンチンスポットの全ての一次構造は、GBM組織でもAO/AOA組織でもほとんど同じであった(図41d)。GBM組織ならびにAO/AOA組織中で検出された16ビメンチンスポットは、2D−PAGEならびにウエスタンブロッテイングによるパターンは完全に同じであった(図43a−c)。したがって、AO/AOA組織中でのビメンチンのリン酸化ならびに断片化は、GBM組織中とほとんど同じであることを確認した。それに加えて、PAK1による修飾部位として知られるSer26、Ser27、Ser39ならびにSer73を含むビメンチンの21個の異なるリン酸化部位がMS/MS分析によって同定された(図44)。
グループAのN末端セリン残基はアセチル化されるが、グループB、グループCならびにグループDのビメンチンフラグメントのN末端アミノ酸配列は、カルパインで切断可能であることが知られている(図41d、図45)。そこで、ビメンチンのリン酸化とN末端切断がPAK1ならびにカルパインによって生起されることを確認するために、GFP−ビメンチン(1−464.aa全長)が過発現増加したU373グリオーマ細胞株におけるビメンチンスポットのパターンをC末抗ビメンチン抗体を用いた2Dウエスタンブロッテイング法を用いて分析した。この結果、興味深いことに、PAK のインヒビターペプチドてあるPAK18がGFP−ビメンチンのリン酸化ばかりではなく、過発現増加したビメンチンと内在性ビメンチンの両者のタンパク質分解による断片化をも抑制することが分かった(図25)。また、このビメンチンの特定の断片化はカルパインインヒビターによっても抑制される(図27)。これらの結果は、ビメンチンがPAK1によってリン酸化され、続いてカルパインで断片化されることを示唆している。
続いて、N末端ビメンチンフラグメントが1p/19q LOHAO/AOAグリオーマ細胞の核に移行することを説明する。
2D−DIGEによる分析によって、D11番のビメンチンフラグメント(Vim; 72−464)のスポットの強度比のp値が、LOH細胞とLOH細胞の間の全ビメンチンスポット (A1−E16) の中でも最低であることが観察された。そこで、LOH細胞中のビメンチンフラグメントの機能変化についてN末端ビメンチン(H84:1−84のアミノ酸端末) を認識可能でかつD11−E16とは反応しないビメンチン抗体およびC末ビメンチン抗体(V6: 417近辺;抗C末Vim)を使用して調べた結果、ビメンチンフラグメントがLOHU373グリオーマ細胞の細胞質および核に局在していることを確認した。両方の抗体はいずれも細胞質中のビメンチン骨格線維を認識したが(図46a−d)、抗N末端ビメンチン抗体(H84)だけが細胞の核領域を認識した(図46b−d)。これらの結果は、ビメンチンが断片化した後、ビメンチンのN末端フラグメントが核に移行することを示唆している。このことを確認するために、GFP−N末端ビメンチンフラグメント (1−71)、GFP−C末ビメンチンフラグメント (72−464) ならびに GFP融合全長ビメンチンを含むビメンチン過発現プラスミドベクター(図46e)を構築して、このプラスミドをU373グリオーマ細胞に誘発させた。その結果、予想通りに、GFP−C末ビメンチンフラグメントとGFP融合全長ビメンチンは、細胞質領域に過発現し、内在性ビメンチンと同様に線維形成をした(図46f、g)。しかしながら、GFP−N末端ビメンチンフラグメントは細胞核領域に有意に移行していた(図46h)。さらに生化学的に検証するために、GFP−全長ビメンチンを過剰発現させた後にU373細胞から核タンパク質を作製し、抗N末端ビメンチン抗体H84ならびに抗GFP抗体を用いて2Dウエスタンブロッテイングを行った。その結果、図46i−nに示すように、N末端ビメンチンフラグメントに対するスポットが両抗体によって核フラクション(pI 7.6−8.3;MW 33 KDa)に同定された(図46o−t;矢印で示した)。更に興味深いことに、核フラクション中に同定されたN末端ビメンチンフラグメントは、ephA1−Fcによる刺激によって増加し(図46j,k,m,n)、PAK18 による刺激(図46p、s)およびカルパインインヒビターによる刺激(図46q、t)によって消失した。これらの結果は、LOHグリオーマ細胞においてPAKによってリン酸化されたビメンチンのカルパインによる断片化が増加し、次いでビメンチンN末端フラグメントが、LOHグリオーマ細胞の細胞核中に容易に移行したことを示している。
さらに、N末端ビメンチンフラグメントのグリオーマ組織の細胞核中への移行を確認するために、AO/AOAグリオーマ腫瘍組織(n=30)について、抗N末端ビメンチン抗体(H84)およびC末ビメンチン抗体(V9)を用いて 免疫組織学的分析を行った。図47a、bに示すように、LOHAO/AOA患者(n=16)の組織中のN末端ビメンチンフラグメントは有意な核染色がされていることが観察された。抗N末端ビメンチン抗体によって高核染色がされたLOHAO/AOA患者の全生存(OS) 期間ならびに非進行性の生存(PFS) 期間の平均は、抗N末端ビメンチン抗体によって高核染色がされたLOHAO/AOA患者の方が、抗N末端ビメンチン抗体によって低核染色がされたLOHAO/AOA患者に比べて非常に短かいことが分かった(OS; P=0.014, PFS; P=0.0059)。これらの結果は、LOHAO/AOA患者とLOHAO/AOA患者のOS でも、PFSでもほとんど同じであることが分かった(OS; P=0.0092, and PFS; P=0.0066)(図47c−f)。このことから、AO/AOAグリオーマ腫瘍組織中のN末端ビメンチンフラグメントの核内移行と蓄積は、患者生存の良好な診断マーカーとして有用であると言える。
さらに、AO/AOAグリオーマ細胞中の核内に移行したN末端ビメンチンフラグメントが転写因子制御剤となりりうるかどうかを調べた。統合プロテオーム解析のデータから、LOH組織の抽出ネットワークシグナル内の発現もしくは活性化により増加したエフリンA4、cdc42、PAKおよびカルパインCAPNS1は、核内のN末端ビメンチンフラグメントの転写標的遺伝子の候補となりうることが分かった。A172グリオーマ細胞を用いて、GFP−N末端ビメンチンフラグメント (1−71) (GFP−N−Vim) の過剰発現の後に、エフリンA4、cdc42、PAKおよびカルパインCAPNS1のRT−PCRを行った。その結果、GFP−N−Vim細胞中のエフリンA4mRNAだけが時間依存的に増殖した(図48a)。一方、他は変化がなかった(図48b−d)。このことは、エフリンA4がGFP−N末端ビメンチン(N−Vim) の責任遺伝子の候補となりうることを示唆している。
さらにエフリンA4遺伝子がN−Vimの転写候補となりうるかどうかを確認するたるに、U373細胞中でのエフリンA1による刺激後のエフリンA4mRNAの発現を解析し、siRNAによってビメンチンをノックダウンした細胞と比較した。エフリンA1刺激後、エフリンA4mRNAの時間依存的な発現増加がコントロールsiRNA処理U373細胞で観察されたが、エフリンA4mRNAで処理したU373細胞では、エフリンA4mRNAの発現は完全に抑制された(図48e)。そこで、N末端ビメンチンフラグメントがエフリンA4の転写因子となりうるかどうかを解明するために、N−VimのエフリンA4プロモーター中のコンセンサス部位への結合活性をクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイにより分析した。その結果、U373細胞中の内在性ビメンチンも、抗N末端ビメンチンフラグメント抗体(H84)ならびにGFP抗体でそれぞれ免疫沈降させたU373細胞中で一時的に過剰発現したビメンチンもエフリンA4プロモーターDNAを有意に増幅することができた。このことは、N−VimがエフリンA4遺伝子のプロモーター部位に結合することができ、その転写を活性化したことを示唆している(図48f、g)。
その上、N−VimによるエフリンA4の転写活性化とグリオーマ細胞の化学療法感受性との関係を検討するために、ephrin A1による刺激またはsiRNAによるエフリンA4ノックダウン後における悪性グリオーマ患者の治療に最も臨床で適用されているアルキル化剤であるTMZに対するU373細胞の感受性を分析した。その結果、ephrin A1による刺激によりU373細胞のTMZに対する感受性が低下した(図48h)。一方、エフリンA4siRNAによる形質導入後は、U373細胞のTMZに対する感受性は増加した(図48i)。これらの結果は、エフリンA4の活性化はグリオーマ細胞の化学療法耐性を増加することを示している。
このことをビメンチンをノックダウンしたグリオーマ細胞がTMZに対する化学療法耐性を増加するとの本発明者らの研究結果と合わせると、ビメンチン活性化ループ(図15)によるエフリンA4の活性化に伴ったcdc42ならびにPAKの活性化、この活性化によるカルパインの活性化によるビメンチンのリン酸化、さらに核内移行によるエフリンA4の転写活性化が生起されることから、N末端ビメンチンフラグメントは、グリオーマ細胞の化学療法に対する耐性を増強する転写因子となりうる。
上述したように、本発明は、アプリケーションソフトiPEACHを構築することによって腫瘍特異的な活性化ネットワーク解析のための統合プロテオミクスを確立した。本ソフトウエアは、DNAマイクロアレイ法、iTRAQ法、2D−DIGE法などの数種類のmRNAデータ、プロテオーム発現データならびに修飾データから別個に得られた分子リストを同一プラットフォーム上に統合可能である。また、このソフトウエアは、GO解析やネットワーク解析などの機能解析のための新規なデータセットを処理するために有用である。これらの連続的な解析によって、膨大な全ての分子情報から更なる研究のために容易に焦点を合わせたりまたは絞り込んだりすべき重要な分子の情報を抽出することも可能である。
本発明では、これらのストラテジーを利用して、悪性腫瘍、特に1p/19q LOHならびに1p/19q LOHAO/AOAの化学療法に対する感受性について分析した。また、これらの染色体の腕に存在する関連遺伝子や1p/19q欠失の診断上の重要性に関連する分子機構はまだ不明である。
本発明では、本発明者らが確立したデータマイニングソフトウエアiPEACHを使用した包括的な分子解析によりAO/AOAを分析して悪性腫瘍の化学療法に対する感受性に関連する異常に活性化した新規ネットワークであるEphA4−ビメンチン活性化ループを同定した。上述したように、このネットワークは、EphA4−cdc42−PAKからなる連続的な活性化カスケード、そのN末端フラグメントが核中に移行するビメンチンのリン酸化ならびにカルパインによる断片化からなり、EphA4転写を活性化している。興味深いことに、化学療法耐性の1p/19q LOH群にて発現増加するcdc42、PAKならびにCalpain small subunit CAPNS1の遺伝子は、染色体1pまたは19q上に局在し、cdc42、PAKならびにカルパインの発現増加によるEphA4−ビメンチン活性化ループが1p/19qの片アレル欠失に有意に関連しているとともに、化学療法による治療後の患者の非進行性の余命に深く関わっていることである。
本発明により、グリオーマ細胞ならびに患者のグリオーマ組織中のN末端ビメンチンフラグメントの核移行の証拠が、核抽出物のウエスタンブロッテイングにより特定のN末端ビメンチン抗体を用いて免疫細胞学的ならびに免疫組織学的、さらには生化学的に初めて示された。興味深いことに、ChIPならびにRT−PCR分析により、移行したN末端ビメンチンフラグメントは、EphA4の転写因子として作用していた。グリオーマ細胞においては、EphA4 mRNAの発現は、N末端ビメンチンフラグメントの過発現によって強化されていて、このEphA4はEphA1刺激によりその発現が増加し、またEphA4 mRNAでの処理により抑制された。
その上、EphA1刺激によるEphA4の発現増加または化学療法剤TMZ処理によるEphA4の発現低下は、TMZ処理に対する感受性の低下または増加にそれぞれ強く関連している。これらの結果を合わせると、新規なEphA4−ビメンチン活性化ループが化学療法剤の感受性に関連していることは明らかである。このループは、cdc42−PAK−カルパイン活性化カスケード(cdc42のビメンチン活性化、PAKによるビメンチンのリン酸化、カルパインによるビメンチンの断片化、ならびにEphA4転写の発現増加をするN末端ビメンチンフラグメントの核内移行からなる一連の反応)の発現増加をするN末端ビメンチンフラグメントの核移行の発現を増加している。本発明によって、細胞内フィラメントタンパク質であるN末端ビメンチンフラグメントが悪性グリオーマに対する化学療法耐性を増加する転写因子として作用することが初めて示された。
タイプIII中間径フィラメント(IF)タンパク質であるビメンチンは、間葉細胞中の主要なIFタンパク質であり、細胞ならびに組織のマーカーとして汎用されている。ビメンチンは、種間で高度な配列相同性を有していることから、重要な生理学的な役割を有していることを示唆している。最近、ビメンチンは、胚形成および転移中に発生する上皮間葉転換(epithelial to mesenchymal trasition: EMT)の因子として注目されているが、その機能はまだ詳細には解明されていない。IFタンパク質で見られるような典型的なヘッドとテールの関係にあるN末端とC末ビメンチンは、種々の構造およびシグナル分子と相互反応をし、またビメンチンのリン酸化は、ビメンチン依存IFダイナミックスのキーレギュレーターであり、IFネットワークの構成ならびにIFタンパク質の細胞内分布をを調整している。
また、ビメンチンは、非常に複雑なリン酸化パターンを持っていることが知られている。cAMP依存性プロテインキナーゼ、プロテインキナーゼC、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII (CaMキナーゼII)、PAK、Cdk1/Cdc2キナーゼ、Rhoキナーゼ、Aurora-Bならびにポロ様キナーゼ1 (Plk−1) は、有糸分裂、分化、ストレスなどの異なる細胞状態に特異的な部位やキナーゼを持っている。ホスホキナーゼ、PAKならびにCdc42/Racの標的は、デスミン。つまり筋肉特異的タイプIII IFタンパク質であるビメンチンに対するカギとなるキナーゼであることが分かった。生化学的には、アミノ酸端末ヘッドドメイン中のビメンチンのSer25、Ser38、Ser50、Ser65ならびにSer72は、PAKによる主要なリン酸化部位であり、またリン酸化ビメンチンは10 nmフィラメントを生成する能力を喪失していて、それでこの可溶性形(soluble form)はフィラメント精製能力が消失するとともに、フィラメント再構築、可溶性ならびに安定性を生起しているとの報告がある。
IFタンパク質のリン酸化は、その平衡を可溶性形の方に移動させ、タンパク質分解から保護することによって大きなプールを維持し、IFタンパク質の再生成を促進している。ビメンチンの場合は、GFAPの場合と同様に、ビメンチンのリン酸化は、その分解を遅延させるが、別の細胞機能に関連するであろう特異的タンパク質切断の可能性を増加させている。カルパイン−1およびカスパーゼは、ビメンチンの切断酵素として報告されている。本発明者らは、血管平滑筋細胞に対して報告されているビメンチン切断部位71Rを悪性グリオーマで観察した。これらの結果を合わせると、カルパインによるビメンチン特異的断片化は、PAKによるビメンチンのリン酸化によって抑制できることを示唆している。
ビメンチンは、専門化されたDNA構造、例えばサテライトDNA、テロメアDNAレトロポゾン、ミトコンドリアDNAなどとの相互反応力を有すると示唆する報告がある。また、ビメンチンのN末端ヘッドは、in vitroでのDNA結合の責任領域であるとして同定されている。さらに、ビメンチンは、核マトリックス付着領域 (MAR) 結合タンパク質に関連していて、DNAを含むMARモチーフと顕著に関連していることが明らかになっている。本発明は、in vivoで初めて、グリオーマ細胞核DNAにin vivo で結合しているN末端ビメンチンフラグメントを化学療法に関連する転写因子として同定した。
エフリンレセプター(Eph)は、レセプター型チロシンキナーゼという最大のファミリーを表していて、そのリガンドであるエフリン(ephrin)と相互作用している。Eph−ephrinシグナル伝達は、細胞骨格構築ならびに細胞接着を規制することによって主に細胞の形態ならびに運動能に影響するとともに、細胞増殖ならびに細胞運命の決定に影響を及ぼしている。したがって、Ephシグナル伝達は、腫瘍発生に何らかの役割を果たしていると考えられる。最近になって、Ephレセプターならびにephrinの遺伝子が、様々なヒト腫瘍、例えば、悪性メラノーマ、グリオーマ、前立腺がん、乳がん、肺小細胞がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、直腸結腸がんに分化的に発言しているのが認められた。発現パターンの重大な歪曲は、侵襲性の増加や転移力の増加などの腫瘍の挙動の変化による患者の予後の悪化に関連していると考えられる。Ephレセプターの過剰発現において広く観察されている減少にもかかわらず、その悪性表現型の過程における役割については完全には解明されていない。しかしながら、最近の証拠では、Ephシグナル伝達経路が腫瘍進行に関与していることを示している。遺伝子発現解析研究では、高度なアストロサイト腫瘍におけるEphA4レセプターの異常な発現が示唆されていて、FGFR1(fibroblast growth factor receptor1)との相互作用による増殖および移入増進によって過剰発現したEphA4が腫瘍細胞の悪性表現型に影響していることが示唆されている。それに加えて、活性型のRac−1および Cdc42がEphA4過剰発現細胞中に増加したという報告もある。しかしながら本発明は、グリオーマに対する化学療法耐性に関与するビメンチンを介した活性化ループによって規制される最も有力な候補であることを示す最初の報告である。
上述したように、定量的プロテオミクスストラテジーは、生物学的現象の網羅的特長を示すために強力で有効である。これらの手法は、腫瘍バイオマーカーならびに創薬標的探索に応用されてきたが、生物学的な解明や機能解明の方法に使用する場合には、実験によって得られる膨大なデータを処理する際に生じる技術的問題のために、その処理方法が限定されていた。その技術的問題点しては次の4つが挙げられる。
(1)LCショットガンをベースにしたMSシステムや2Dゲルをベースにした解析のような1つの形のプロテオミクスによる定量的同定は、解析方法の特異性に起因する分子同定範疇の違いによって全体のプロテオームを網羅することができないため、プロテオーム適用範囲に理論的な制限があること;(2)公共のタンパク質データベースは、そのアクセッション番号や同義語が独自のものであったり、入手できる遺伝子情報が限定されていたり、サーチエンジンが実験から得られるオリジナルデータ(Raw data)を効率的/網羅的に解析するのに適していない場合が多く、更に一括して膨大な量の分子情報を探索するのに使い勝手が悪くかつ複雑すぎること;(3)数千種類ものタンパク質の発現解析結果に関する情報処理は、GO、ゲノム遺伝子座、OMIM、インタラクトームなどのアノテーション付与を自動化するための単純で使い勝手が良いソフトウエアがないために膨大な量の仕事が要求されることと同時に、遺伝子情報が完全に解明されていない生物種の解析結果をヒトオルソログに変換して自動的に機能情報を得るなどの工夫がなされていないこと。;(4)DNAアレイなどによるトランスクリプトームデータは、それらの定量法ならびに解析結果の様式がプロテオームデータと相違があるために、その元となる材料が同一サンプルから入手されたにもかかわらず、プロテオームデータと統合することが容易でないこと。
したがって、本発明に係るプロテオーム解析用データ群ならびにプログラム (iPEACH/ MANGO)は、(a) 翻訳後修飾を含む網羅的プロテオームデータ、(b) 網羅的トランスクリプトームデータ、および (c) 数種類の公共データベースから選別した分子機能情報を、オリジナルデータ(Raw data)の情報を損なうことなく統合するとともに、それらのデータを再構築し、補強し、かつ分類(データマイニング)して、他の処理に関連する候補分子を明示するための単純でかつ迅速なツールを備えている。この発明により、このプロテオーム解析用データ群を利用することによって、はじめて、グリオーマのような悪性腫瘍組織や細胞の化学療法耐性についての機序の研究を完成させることが可能となった。
このように生成された本発明の統合プロテオミクス用データ群(iPEACH)は次のような効果を発揮することができる。つまり、本発明の統合プロテオミクス用データ群(iPEACH)は、(1)翻訳後修飾を含むディファレンシャルプロテオミクスデータの提供;(2)ディファレンシャルトランスクリプトミクスデータの提供;および(3)各種公共データベースからの有用なアノテーション付与と、上記データ群の統合による、網羅的解析結果の組織化、強化ならびに分類して他の方法に関連する候補分子を明示するための迅速なツールとして利用できるという効果がある。
本発明は、ヒト脳腫瘍組織・細胞を用いた分子シグナルネットワーク解析例の一部を示したが、この方法論はすべての疾患・病態の解析はもとより、細胞生物学における基礎的な分子情報を得るためのアプローチにも応用できる。現状では、一つの方法論だけですべてのプロテオームの情報を網羅することは不可能であり、出来る限りで解析を推し進めていくしかないが、いくつかの方法論を組み合わせて得られた情報を次々とデータベースに放り込みながら、これらの情報を統合マイニングすることによって、興味深い分子シグナルネットワークをシミュレーション的に浮き彫りにしていくことが可能になってきた。これらの方法によって、新しい病態メカニズムの解明や診断や治療のマーカー・創薬開発にも応用できるアイデアが得られる可能性がある。これらのデータベースを統合して上流に吸い上げるような統合ソフトに関しては開発が最も遅れているが、基本情報としての組織や細胞のゲノム情報や、トランスクリプトーム情報は非常に有用である。また、病理学的・形態学的・臨床医学的な所見は最も高いモチベーションを呼ぶことから、プロテオミクスはこれらの情報の上に立つことによって、より高度な情報を生み出すことができる。そういう観点から言うと、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオミクス、細胞生物学、病理学、情報工学、医学、薬学、理学、農学、生命工学などなど、すべての生命科学に関わる人々が、共同で構築し情報をシェアできるような有用な生体生命分子機能に関する大規模な統合データベースと、その解析システム構築は必要不可欠である。
本発明によって、プロテオミクスの高感度かつハイスループットな新技術の融合的アプローチによるプロテオーム解析データ、およびDNA アレイによるトランスクリプトーム解析データを統合するアルゴリズム(iTPEACH/MANGO) を開発することによって、腫瘍組織細胞内で活性化しているシグナル分子群が有効に抽出できることが証明された。また、本発明の統合プロテオーム解析法によって、悪性グリオーマの抗がん剤感受性に関わる分子シグナルを詳細に解析したところ、ビメンチンとその翻訳後修飾に関わる責任分子群、およびその活性化シグナル分子群による新規のビメンチン活性化ループが抽出され、siRNA および阻害剤、活性化剤等の検証実験の結果、これに関わる分子群の発現変動と構造変化が悪性グリオーマの治療抵抗性に大きく関わっていることを明らかにした。また、その病態サンプルにおける発現パターンの解析から本分子群の治療予後予測マーカーおよび治療ターゲットとしての可能性を示すとともに、本発明は脳腫瘍のみならず、数々の疾患メカニズムの解析に応用可能であることを示唆していることを示した。

Claims (17)

  1. 2つの異なるサンプル群間のタンパク質の網羅的な発現変動量データ群と、前記2つの異なるサンプル群間の遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とに基づいて、統合プロテオーム解析に供するデータ群を生成する統合プロテオーム解析用データ群の生成方法であって、
    前記タンパク質の網羅的な発現変動量データ群を構成する各タンパク質毎の発現変動量データに、そのタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号と、そのタンパク質をコードする遺伝子の第2のデータベースにおける固有番号と、そのタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号と同タンパク質をコードする遺伝子の第2のデータベースにおける固有番号との両者に紐付けされた共通固有番号と、を付与するタンパク質固有番号共通化ステップと、
    前記遺伝子の網羅的な発現変動量データ群を構成する各遺伝子毎の発現変動量データに、その遺伝子の第3のデータベースにおける固有番号と、その遺伝子より発現するタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号と、その遺伝子の第3のデータベースにおける固有番号と同遺伝子より発現するタンパク質の第1のデータベースにおける固有番号との両者に紐付けされた共通固有番号と、を付与する遺伝子固有番号共通化ステップと、
    前記タンパク質固有番号共通化ステップを経たタンパク質の網羅的な発現変動量データ群と、前記遺伝子固有番号共通化ステップを経た遺伝子の網羅的な発現変動量データ群とを結合して、各タンパク質毎の発現変動量データと各遺伝子毎の発現変動量データとにより構成される結合データ群を生成するデータ結合ステップと、
    結合データ群を構成する各発現変動量データのうち、2つの異なるサンプル群間のタンパク質の発現変動量または遺伝子の発現変動量の有意差検定により得られたp値が所定値以上、または分散分析によるF値が所定値以下のデータを棄却するデータ棄却ステップと、
    前記データ棄却ステップを経た結合データ群のうち、タンパク質発現変動量データと遺伝子発現変動量データとで同じ共通固有番号が付与されているデータに対し、所定の条件に基づいていずれかのデータを採用して、タンパク質機能解析に供するデータ群を生成するデータ採用ステップと、を有することを特徴とする統合プロテオーム解析用データ群の生成方法。
  2. 前記タンパク質の網羅的な発現変動量データ群は、液体クロマトグラフィーとマススペクトロメトリーとによる網羅的タンパク質発現解析により得られたデータ群および/または蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動とマススペクトロメトリーとにより得られたタンパク質の翻訳後修飾情報を含むデータ群であることを特徴とする請求項1に記載の統合プロテオーム解析用データ群の生成方法。
  3. 前記遺伝子の網羅的な発現変動量データ群は、DNAマイクロアレイ解析により得られたデータ群であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の統合プロテオーム解析用データ群の生成方法。
  4. 前記データ採用ステップにおける前記所定の条件は、タンパク質発現変動量データであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の統合プロテオーム解析用データ群の生成方法。
  5. 前記2つの異なるサンプル群は、いずれも病理学的所見が同じであるが、その動態が互いに異なることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の統合プロテオーム解析用データ群の生成方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の統合プロテオーム解析用データ群の生成方法にて生成した統合プロテオーム解析用データ群を、統合プロテオーム解析に供して解析を行う統合プロテオーム解析方法。
  7. 前記統合プロテオーム解析用データ群を構成する各発現変動量データの発現変動量の値に応じて、統合プロテオーム解析にて可視化された前記各発現変動量データに対応する分子表示の色を変更することを特徴とする請求項6に記載の統合プロテオーム解析方法。
  8. 請求項1〜5のいずれか1に記載の統合プロテオーム解析用データ群の生成方法にて生成した統合プロテオーム解析用データ群を、GO解析およびネットワーク解析に供して互いに紐付けられて探索されるタンパク質のうち、最大変動量のタンパク質を原因タンパク質として同定することを特徴とする原因タンパク質同定方法。
  9. 請求項6または7に記載の統合プロテオーム解析方法によって互いに紐付けられて探索されるタンパク質のうち、最大変動量のタンパク質を原因タンパク質として同定することを特徴とする原因タンパク質同定方法。
  10. 前記原因タンパク質にネットワーク解析により上流もしくは下流に近接して紐付けられるタンパク質または前記原因タンパク質の翻訳後修飾されたタンパク質を原因タンパク質として同定することを特徴とする請求項7または8に記載の原因タンパク質同定方法。
  11. 前記原因タンパク質が生体内における動態に関連するタンパク質を同定することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の原因タンパク質同定方法。
  12. 前記動態が、薬剤に対する動態であって、細胞増殖、細胞分化または細胞死に関わる異常に関わる動態であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の原因タンパク質同定方法。
  13. 前記原因タンパク質がビメンチン、リン酸化ビメンチン、ビメンチンフラグメント、エフリンまたはハイポキシア関連タンパク質(Hypoxia-inducible factor-1: HIF-1)およびこれらをコアとするネットワーク構成因子群であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の原因タンパク質同定方法。
  14. 請求項8〜13のいずれか1項に記載の原因タンパク質同定方法によって同定された原因タンパク質をマーカーとして薬剤に対する動態の探索に使用することを特徴とする原因タンパク質の使用方法。
  15. 前記原因タンパク質を腫瘍マーカーとして使用することを特徴とする請求項13に記載の原因タンパク質の使用方法。
  16. 前記原因タンパク質がビメンチン、リン酸化ビメンチン、ビメンチンフラグメント、エフリンまたはハイポキシア関連タンパク質(Hypoxia-inducible factor-: HIF-1)およびこれらをコアとするネットワーク構成因子群であることを特徴とする請求項14または15に記載の原因タンパク質の使用方法。
  17. 請求項8〜13のいずれか1項に記載の原因タンパク質同定方法によって同定された原因タンパク質の発現を抑制することにより原因タンパク質に起因して発生する事象を処理または予防することを特徴とする原因タンパク質の発現抑制方法。
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