JP5879452B1 - プレキャスト床版システム、橋構造、プレキャスト床版システムの設計方法、及び橋構造の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
橋軸方向に隣接配置される一対のプレキャスト床版を、一方のプレキャスト床版の凸部が他方のプレキャスト床版の凹部に対向するように配置する。一方のプレキャスト床版の凹部が他方のプレキャスト床版の凸部に対向するように配置する。このとき、一方のプレキャスト床版の継手用鉄筋は、対向する他方のプレキャスト床版の凹部内に収まる。
プレキャスト床版は、床版設置の事前に、工場、又は施工現場も含む製造ヤード等の場所で予め製作される。このため、プレキャスト床版を、天候や道路橋の通行止め規制に関係無く製造することができる。
歩道橋を設計する際に考慮した設計概要として、プレキャスト床版とせん断キーとの間に樹脂材を注入し床版の連続を期待する、と記載されている。
ただし、プレキャスト床版同士を鉄筋等で確実に固定するため、連続構造の床版システムを構成(施工)するのに比較的時間がかかる。
しかし、MMA樹脂本体の引張強度や弾性率、プレキャスト床版とMMA樹脂の付着強度・付着せん断強度等については特に配慮されていない。非特許文献1では、設計概要に床版の連続を期待すると記載されている。この記載は床版間のせん断力の伝達を意図して記述されたものであり、曲げモーメントの伝達を意図するものではないことが確認されている。すなわち、非特許文献1の床版システムでは、MMA樹脂が引張破断したり、プレキャスト床版とMMA樹脂の間で剥離が生じたとしても支障の無い構成になっていると考えられる。この床版システムでは、一対のプレキャスト床版の継手部には、せん断力は発生するが曲げモーメントは発生しない。以下では、このような床版システムの接続構造を非連続構造と称する。
床版に橋軸方向に延びるひび割れが形成され、ひび割れが亀甲状になる。最終的には、床版が押抜きせん断破壊してしまう。
非連続構造のように橋軸方向に並んだプレキャスト床版間で曲げモーメントが伝達されなくなると、1つのプレキャスト床版に作用する輪荷重を、輪荷重が作用したプレキャスト床版で支持する割合が高くなる。また、輪荷重が作用したプレキャスト床版に橋軸方向で隣り合うプレキャスト床版でこの輪荷重を支持する割合が低くなる。すなわち、橋軸方向に平行な軸線周りの曲げモーメントが大きくなり、プレキャスト床版を厚くする必要がある。
本発明のプレキャスト床版システムは、板状に形成され、厚さ方向に交差する方向に並べて配置された一対のプレキャスト床版と、一対の前記プレキャスト床版の間に設けられるとともに一対の前記プレキャスト床版に付着され、一対の前記プレキャスト床版の間で曲げモーメントを伝達することで一対の前記プレキャスト床版を一体化する接続部と、を備え、前記接続部の弾性率は、一対の前記プレキャスト床版の弾性率よりも小さく、一対の前記プレキャスト床版の弾性率の10分の1以上であり、前記接続部の引張強度は、一対の前記プレキャスト床版の引張強度と同等程度であり、前記接続部が一対の前記プレキャスト床版に付着する付着強度は、一対の前記プレキャスト床版の引張強度と同等程度であることで、一対の前記プレキャスト床版の間を鉄筋及び間詰め材を用いて接続した場合よりも一対の前記プレキャスト床版の疲労耐久性が向上することを特徴としている。
また、接続部の引張強度及び付着強度がプレキャスト床版の引張強度と同等程度に設定されているため、接続部が破断することなく曲げモーメントを伝達する。このため、一対のプレキャスト床版間で伝達される曲げモーメントは、非連続構造の床版システムの曲げモーメントに比べて増加する。これにより、連続構造に比べてプレキャスト床版に橋軸直角方向に延びるひび割れが形成されにくくなるとともに、一対のプレキャスト床版間で一定量の曲げモーメントが伝達されるため、プレキャスト床版の厚さが抑えられる。プレキャスト床版に橋軸直角方向に延びるひび割れが形成されにくいと、プレキャスト床版の疲労耐久性が向上する。ひび割れが形成されにくくなると、すなわち床版の梁状化が起きにくくなると、せん断力に抵抗できるプレキャスト床版の有効幅が広くなるため、押抜きせん断耐力が向上する。
床版システムは、一対のプレキャスト床版に接続部を付着することで構成することができる。
この発明によれば、両プレキャスト床版の一方が厚さ方向に変位したときに、凹部と凸部との係合により両プレキャスト床版の他方も厚さ方向に変位する。
この発明によれば、凸部が厚さ方向の両側から第二プレキャスト床版により挟まれる。
また、上記のプレキャスト床版システムにおいて、前記凸部は、前記凸部が突出する方向の先端側に向かうにしたがって前記厚さ方向の長さが短くなるように形成されていてもよい。
また、本発明の橋構造の製造方法は、上記に記載のプレキャスト床版システムの設計方法を用いて前記プレキャスト床版システムを備える橋構造を製造することを特徴としている。
請求項2に記載のプレキャスト床版システムによれば、一方のプレキャスト床版が厚さ方向に荷重を受けたときに、両プレキャスト床版間に生じる厚さ方向の段差を抑えることができる。
請求項4に記載のプレキャスト床版システムによれば、凸部が突出する方向に両プレキャスト床版を相対的に移動させることで凹部内に凸部を配置することができる。
請求項7に記載の橋構造の製造方法によれば、プレキャスト床版の厚さの増加を抑えつつ疲労耐久性を向上させた橋構造を製造することができる。
図1及び2に示すように、本実施形態の道路橋1は、例えば自動車Cが走行する高速道路用の橋である。本道路橋1は、橋軸方向Xに間隔を開けて配置された橋脚10(図1では1本のみ示す)と、橋脚10により下方から支持された複数の橋桁15と、複数の橋桁15で下方から支持された複数のプレキャスト床版20とを備えている。
なお、図1には後述する防水層30及びアスファルト舗装層31は示していない。
橋桁15は、橋軸方向Xに延びるとともに橋軸方向Xに直交する橋軸直角方向Yに互いに間隔を開けて配置されている。例えば、これら橋軸方向X及び橋軸直角方向Yは、水平面に平行な方向である。
橋桁15には、I形鋼又はH形鋼等を用いることができる。橋桁15は、ウェブ16の上方及び下方にそれぞれフランジ17が位置するように配置されている。上側のフランジ17は、プレキャスト床版20に図示しないずれ止めで固定されている。ここで、ずれ止めとは、頭付きスタッドや孔あき鋼板ジベル等のことを意味する。下側のフランジ17は、図示はしないが、橋脚10上に設置された支承にずれ止めボルトや溶接で固定されている。
床版本体21は、床版本体21の厚さ方向Zに平行に見たときに矩形状に形成されている。厚さ方向Zは、橋軸方向X及び橋軸直角方向Yにそれぞれ直交(交差)する方向である。
凸部22は、側面21aの厚さ方向Zの中間部に側面21aから突出するように設けられている。すなわち、プレキャスト床版20が単体で配置された状態では、凸部22よりも厚さ方向Zの一方及び他方のそれぞれにおいて、側面21aが外部に露出している。凸部22は、凸部22が突出する方向の先端側に向かうにしたがって厚さ方向Zの長さが短くなる等脚台形状に形成されている。凸部22は、橋軸直角方向Yに延びている。なお、凸部22は、橋軸直角方向Yに断続的に延びるように形成されてもよい。
凸部22は、凹部23との間に一定の隙間Sを開けた状態で凹部23内に配置される。隙間Sは、例えば10mm程度であることが好ましい。これら凸部22及び凹部23は、いわゆる凹凸型のせん断キーとなる。
複数のプレキャスト床版20は、橋軸方向Xに並べて配置されている。床版本体21及び凸部22は、前述のRCやPCで一体に形成されている。プレキャスト床版20の橋軸方向Xの長さは、例えば2〜3mである。
充填材25の弾性率(弾性係数)は、プレキャスト床版20の弾性率よりも小さい。プレキャスト床版20がPCで形成されている場合には、プレキャスト床版20の弾性率は、例えば2×104〜4×104N/mm2(ニュートン毎平方ミリメートル)(2×104〜4×104MPa(メガパスカル))である。
充填材25の弾性率の下限値は、例えば1×10N/mm2である。この理由の1つとして、ゴムの弾性率が1×10〜10×10N/mm2程度であり、土木の分野においてゴムよりも弾性率が小さい材料を使うことは考えにくいためである。
この理由の他の1つとして、ゴムよりも弾性率が小さい材料を使った場合に、隣り合うプレキャスト床版の段差が大きくなるためである。
充填材25がプレキャスト床版20に付着する付着強度は、プレキャスト床版20の引張強度以上である。第一の材料と第二の材料との付着強度は、第一の材料と第二の材料との接触面に沿って第一の材料に対して第二の材料を相対的に移動させたときの引抜き力又は押抜き力の最大値を、前記接触面の面積で除した値のことを意味する。
凹部23は側面21bの厚さ方向Zの中間部に形成されるため、一方のプレキャスト床版20の凸部22が他方のプレキャスト床版20により厚さ方向Zに挟まれる。
凸部22は先端側に向かうにしたがって厚さ方向Zの長さが短くなるように形成されているため、一対のプレキャスト床版20を橋軸方向Xに近づけることで凹部23内に凸部22が配置される。
図3に示す床版システム2Aのプレキャスト床版35は、プレキャスト床版20の凸部22、凹部23に代えて、凸部36、凹部37が設けられている。凸部36、凹部37は、それぞれ半円柱状に形成されている。なお、凸部36、凹部37の形状は半円柱状に限定されず、底面が楕円を半分にした形状であるものを柱状にした形状でもよい。
図4に示す床版システム2Bのプレキャスト床版40は、プレキャスト床版20において凸部22及び凹部23が設けられない構成である。側面21a及び側面21bは、床版本体21の厚さ方向Zの位置によらずそれぞれ平坦に形成されている。
図5に示す床版システム2Cのプレキャスト床版45は、プレキャスト床版20の凸部22に代えて凹部23と同形状の凹部46が形成されている。すなわち、床版本体21の互いに反対側となる側面にそれぞれ凹部23、46が形成されたものである。
凹部23、46内には、六角柱状に形成された接続部材48が配置されている。接続部材48は、断面が六角形の鋼管にモルタルを充填させたものを用いたり、RC又はPCで形成したりできる。接続部材48は、充填材25内に配置されている。なお、接続部材48の形状は六角柱状に限定されず、底面が矩形状やひし形状であるものを柱状にした形状でもよい。
一対のプレキャスト床版45及び接続部材48で、いわゆる3ピース型のせん断キーとなる。
床版システム3は、橋軸直角方向Yの両端部を橋桁15で下方から支持されている。
プレキャスト床版20の上面における橋軸方向Xの中心であって橋軸直角方向Yの中心となる位置P1に、荷重F2を下向きに作用させる。この場合、床版システム3の橋軸方向Xの各位置における曲げモーメントMyは図6(d)のようになる。床版システム3のプレキャスト床版20において橋軸直角方向Yの各位置における曲げモーメントMxは図6(e)のようになる。
充填材25はプレキャスト床版20よりも大きく変形するが、充填材25の引張強度はプレキャスト床版20の引張強度以上であり、充填材25がプレキャスト床版20に付着する付着強度は、プレキャスト床版20の引張強度以上である。このため、プレキャスト床版20よりも充填材25の方が破断しにくく、プレキャスト床版20よりもプレキャスト床版20と充填材25との界面2aの方が破断しにくい。
なお、本実施例の床版システム3における曲げモーメントMx、Myを比較例の曲げモーメントMx、Myと比較させた説明は、比較例の床版システムの構成及び2種類の曲げモーメントの分布の説明の後で行う。
プレキャスト床版110Aは、床版本体21と同様に構成された床版本体111を有している。床版本体111における橋軸方向Xのプレキャスト床版110B側の端部には、切欠き111aが形成されている。切欠き111aからは継手用鉄筋112が突出している。
プレキャスト床版110Bは、プレキャスト床版110Aの各構成に加えて、床版本体111における橋軸方向Xのプレキャスト床版110A側の端部に、切欠き111bが形成されている。切欠き111aからは継手用鉄筋113が突出している。
プレキャスト床版110Cは、プレキャスト床版110Bの各構成に対して、床版本体111に切欠き111aが形成されず、床版本体111に継手用鉄筋112が設けられない。
プレキャスト床版110Aの切欠き111a及びプレキャスト床版110Bの切欠き111bにモルタル等の間詰め材115を充填させることで、間詰め材115中に継手用鉄筋112、113が埋設され、プレキャスト床版110Aとプレキャスト床版110Bとが連結される。プレキャスト床版110Bとプレキャスト床版110Cについても同様である。
すなわち、比較例の床版システム100は、実施例の床版システム3に対して、充填材25に代えて、切欠き111a、111bを形成するとともに、継手用鉄筋112、113、及び間詰め材115を設けたものである。
なお、連続構造の床版システム100では、施工するのにプレキャスト床版間の配力鉄筋の配置等が必要である。このため、プレキャスト床版から床版システム100を施工するのに必要な作業時間が、本実施例の床版システム3の作業時間よりも増加する。
プレキャスト床版110Bの上面における橋軸方向Xの中心であって橋軸直角方向Yの中心となる位置P1に、荷重F2を下向きに作用させる。この場合、床版システム100の橋軸方向Xの各位置における曲げモーメントMyは図8(d)のようになる。
床版システム100のプレキャスト床版110Bにおいて橋軸直角方向Yの各位置における曲げモーメントMxは図8(e)のようになる。
連続構造の床版システム100では、プレキャスト床版同士が継手用鉄筋112、113、及び間詰め材115により確実に固定される。このため、図8(d)に示すように、プレキャスト床版110Bに作用した荷重F2により継手部に発生する曲げモーメントMyは、図6(d)に示した荷重F2により継手部に発生する曲げモーメントMyよりも大きい。
なお、連続構造の床版システム100では、半連続構造の床版システム3に比べて曲げモーメントMyが増加する分、半連続構造の床版システム3に比べて曲げモーメントMxが減少する。
プレキャスト床版120A、120B、120Cは、床版本体21と同様に構成されている。間詰め材125は、MMA樹脂で形成されている。
すなわち、比較例の床版システム101は、実施例の床版システム3に対して、充填材25に代えて間詰め材125を設けたものである。
プレキャスト床版120Bの上面における橋軸方向Xの中心であって橋軸直角方向Yの中心となる位置P1に、荷重F2を下向きに作用させる。この場合、床版システム101の橋軸方向Xの各位置における曲げモーメントMyは図9(d)のようになる。
床版システム101のプレキャスト床版120Bにおいて橋軸直角方向Yの各位置における曲げモーメントMxは図9(e)のようになる。
非連続構造の床版システム101では、プレキャスト床版同士が間詰め材125で接続される。この間詰め材125は、間詰め材125自身に生じる引張力やプレキャスト床版との剥離力に対して十分な強度を持つことを保証したものではない。このため、間詰め材125が引張破壊したり、プレキャスト床版と間詰め材125との間で剥離が生じたりする可能性がある。そうすると、図9(d)に示すように、プレキャスト床版120Bに作用した荷重F2が作用しても継手部には曲げモーメントMyが発生しない状態となる。非連続構造の床版システム101の曲げモーメントMyは連続構造の床版システム100の曲げモーメントMyに比べて大きく減少する。
本実施例の半連続構造の床版システム3では、非連続構造の床版システム101に比べて曲げモーメントMxを抑えられる。したがって、床版システム3は、非連続構造の床版システム101に比べてプレキャスト床版20、20C、20Dの厚さ(厚さ方向Zの長さ)の増加が抑えられる。すなわち、プレキャスト床版20、20C、20Dの厚さが厚くならない程度でのコントロールが可能になる。
実施例及び比較例の床版システムの充填材の弾性率による2種類の曲げモーメントの変化について解析した結果を図10及び11を用いて説明する。
なお、曲げモーメントMyはプレキャスト床版の橋軸方向Xの中心での値、曲げモーメントMxはプレキャスト床版の橋軸直角方向Yの中心での値とする。モーメントMy、Mx及びプレキャスト床版の橋軸方向Xの長さは、図中の矢印の先端側に向かうにしたがってそれぞれ値が大きくなる。
図10及び11中において●印で示した解析結果は、比較例の連続構造である床版システムの解析結果である。この比較例の床版システムは、図6において充填材25の弾性率をプレキャスト床版20、20C、20Dの弾性率と等しくし、事実上プレキャスト床版が橋軸方向Xに連続して連なっている状態にしたものである。
これに対して▲印、▼印、及び△印で示した解析結果は、図6において充填材25の弾性率をプレキャスト床版20、20C、20Dの弾性率よりも小さくしたモデルを用いたものである。解析結果のモデルで用いた充填材25の弾性率は、大きい順に▲印、▼印、△印となっている。
一方で、図11に示すプレキャスト床版に作用する曲げモーメントMxは、プレキャスト床版の橋軸直角方向Yの長さによらず、充填材の弾性率が小さくなるのにしたがって増加することが分かった。
実施例の床版システムにおいて輪荷重の橋軸方向Xの位置によるプレキャスト床版に作用する応力度の変化について解析した結果を図2、12及び13を用いて説明する。なお、この解析結果に基づいて、充填材、すなわち接続部として用いられる材料について説明する。
図12(a)は、図2に示すプレキャスト床版20の床版本体21の上面21c及び下面21dに作用する応力度の分布を表す図である。図12(b)は、図2に示す充填材25の上面25a及び下面25bに作用する応力度の分布を表す図である。図12(c)は、図2に示すプレキャスト床版20と充填材25との界面2aの上端2b及び下端2cに作用する応力度の分布を表す図である。
一方で、位置N1に輪荷重F1が作用すると、プレキャスト床版20の床版本体21の下面21dには、線L11で示したような分布の引張の応力度が作用する。すなわち、下面21dにおいて、位置N1における応力度の大きさが最も大きく、位置N1から橋軸方向Xに離間するにしたがって応力度は0に近づく。
輪荷重F1が作用する位置を、橋軸方向Xに位置N1、N2、‥、N8と移動させる。位置N4が、充填材が配置された位置A1に最も近い位置となる。
図12に示した解析結果の解析条件は、プレキャスト床版の弾性率を2×104N/mm2とし、充填材の弾性率を2×103N/mm2とした。すなわち、充填材の弾性率をプレキャスト床版の弾性率の10分の1とした。
線L1、L2、‥、L8は、輪荷重F1が作用する位置がN1、N2、‥、N8であるときの床版本体21の上面21cに作用する応力度の橋軸方向Xの分布をそれぞれ表す。線L11、L12、‥、L18は、輪荷重F1が作用する位置がN1、N2、‥、N8であるときの床版本体21の下面21dに作用する応力度の橋軸方向Xの分布をそれぞれ表す。
線L14が表す応力度の大きさも、線L11〜L18のうち線L14以外が表す応力度の大きさよりも小さくなることが分かる。
図12(a)の位置N1から橋軸方向Xの位置を変えずに図12(b)側に線を下ろし、線L21との交点に対応する図12(b)の縦軸の応力度を読む。これにより、位置N1に輪荷重F1が作用したときの充填材25の上面25aの応力度σ1が約0.3N/mm2(引張の応力度)であることが分かる。
同様に、図12(a)の位置N1から橋軸方向Xの位置を変えずに下ろした線と線L22との交点に対応する図12(b)の縦軸の応力度を読む。これにより、位置N1に輪荷重F1が作用したときの充填材25の下面25bの応力度σ11が約−0.3N/mm2(圧縮の応力度)であることが分かる。位置N4に輪荷重F1が作用したときの充填材25の上面25aの応力度σ4が約2.3N/mm2であることが分かる。位置N4に輪荷重F1が作用したときの充填材25の下面25bの応力度σ14が約−2.6N/mm2であることが分かる。
弾性率が2×103N/mm2に近い充填材として用いることが可能な材料として、アクリル樹脂モルタル及びエポキシ樹脂が挙げられる。例えば、アクリル樹脂モルタルの弾性率は0.8×103N/mm2であり、エポキシ樹脂の弾性率は3.0×103N/mm2である。アクリル樹脂モルタルの引張強度(σt)は5.0N/mm2であり、エポキシ樹脂の引張強度は9.0〜60N/mm2である。なお、アクリル樹脂モルタル及びエポキシ樹脂の圧縮強度は、−5N/mm2よりも十分に小さい。すなわち、図12(b)に示す範囲B1の充填材の応力度には、アクリル樹脂モルタル及びエポキシ樹脂は抵抗できる。
輪荷重F1により作用する充填材の応力度に、アクリル樹脂モルタル及びエポキシ樹脂が抵抗できることが分かった。
図12(a)の位置N1から橋軸方向Xの位置を変えずに図12(c)側に線を下ろし、線L26との交点に対応する図12(c)の縦軸の付着応力度を読む。これにより、位置N1に輪荷重F1が作用したときの界面2aの上端2bの付着応力度τ1が約0.3N/mm2であることが分かる。
同様に、位置N1から橋軸方向Xの位置を変えずに下ろした線と線L27との交点に対応する図12(c)の縦軸の付着応力度を読む。これにより、位置N1に輪荷重F1が作用したときの界面2aの下端2cの付着応力度τ11が約−0.3N/mm2であることが分かる。
位置N4に輪荷重F1が作用したときの界面2aの上端2bの付着応力度τ4が約2.4N/mm2であることが分かる。位置N4に輪荷重F1が作用したときの界面2aの下端2cの付着応力度τ14が約−2.8N/mm2であることが分かる。
輪荷重F1により作用する界面2aの付着応力度に、エポキシ樹脂が抵抗できることが分かった。
図13(a)、図13(b)、図13(c)は、図12(a)、図12(b)、図12(c)において充填材の弾性率を2×10N/mm2に代えた解析結果を示す図である。
図13(a)における線L31、L32、‥、L38は、輪荷重F1が作用する位置がN1、N2、‥、N8であるときの床版本体21の上面21cに作用する応力度の橋軸方向Xの分布をそれぞれ表す。線L41、L42、‥、L48は、輪荷重F1が作用する位置がN1、N2、‥、N8であるときの床版本体21の下面21dに作用する応力度の橋軸方向Xの分布をそれぞれ表す。
図13(a)の位置N4から橋軸方向Xの位置を変えずに図13(b)側に線を下ろし、線L51との交点に対応する図13(b)の縦軸の応力度を読む。これにより、位置N4に輪荷重F1が作用したときの充填材25の上面25aの応力度σ34が約0.3N/mm2(引張の応力度)であることが分かる。同様に、位置N4に輪荷重F1が作用したときの充填材25の下面25bの応力度σ44が約−0.3N/mm2(圧縮の応力度)であることが分かる。
図13(b)から、輪荷重F1が作用する位置が変化したときの充填材の応力度は、約−0.3〜0.3N/mm2の範囲で変化することが分かった。
輪荷重F1により作用する充填材の応力度に、ゴムが抵抗できることが分かった。
図13(a)の位置N4から橋軸方向Xの位置を変えずに図13(c)側に線を下ろし、線L56との交点に対応する図13(c)の縦軸の付着応力度を読む。これにより、位置N4に輪荷重F1が作用したときの界面2aの上端2bの付着応力度τ34が約0.3N/mm2であることが分かる。
同様に、位置N4に輪荷重F1が作用したときの界面2aの下端2cの付着応力度τ44が約−0.3N/mm2であることが分かる。
図13(c)から、輪荷重F1が作用する位置が変化したときの界面2aの付着応力度は、約−0.3〜0.3N/mm2の範囲で変化することが分かった。
接続部の弾性率がプレキャスト床版の弾性率よりも小さいことは、第一接続部の弾性率及び第二接続部の弾性率のそれぞれがプレキャスト床版の弾性率よりも小さいことに相当する。
接続部の引張強度がプレキャスト床版の引張強度以上であることは、第一接続部の引張強度及び第二接続部の引張強度のそれぞれがプレキャスト床版の引張強度以上であることに相当する。
そして、接続部の付着強度がプレキャスト床版の引張強度以上であることは、第一接続部がプレキャスト床版に付着する付着強度、及び第一接続部が第二接続部に付着する付着強度のそれぞれがプレキャスト床版の引張強度以上であることに相当する。
なお、エポキシ樹脂とゴムとの付着強度は、6.0N/mm2である。
エポキシ系の材料として、合成樹脂の熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、エポキシ樹脂モルタル、エポキシ樹脂グラウト等を挙げることができる。
アクリル系の材料として、合成樹脂の熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂、アクリル樹脂モルタル等を挙げることができる。
その他、天然樹脂であるゴム等を挙げることができる。
橋軸方向Xに隣り合うプレキャスト床版の段差及び目開きについて解析した結果を図14及び15を用いて説明する。
図14は、実施例及び比較例のプレキャスト床版の段差の解析結果を示す。
線L61で示したものが図2に示す実施例の床版システム2での解析結果である。なお、荷重F4は、図中に示すプレキャスト床版の位置A1側の端部に作用させている。
比較例として、プレキャスト床版が継ぎ目無く橋軸方向Xに連なるとしたもの(連続構造の床版システムに相当する)の解析結果を線L62で示す。比較例として、非連続構造の床版システムの解析結果を線L63で示す。
非連続構造では、橋軸方向Xに隣り合うプレキャスト床版間に長さD1の大きな段差が生じる。連続構造では段差は生じない。
これに対して、実施例の床版システム2での段差は、長さD2に抑えられることが分かった。
線L66で示したものが図2に示す実施例の床版システム2での解析結果である。線L67で示したものが図3に示す実施例の床版システム2Aでの解析結果である。
比較例として、プレキャスト床版が継ぎ目無く橋軸方向Xに連なるとしたものの解析結果を線L68で示す。比較例として、非連続構造の床版システムの解析結果を線L69で示す。
床版システム2の水平変位の長さD4、及び床版システム2Aの水平変位の長さD5は、非連続構造の床版システムの水平変位の長さD6と同程度であることが分かった。なお、連続構造では水平変位は生じない。
プレキャスト床版に凸部及び凹部が形成されたことによる効果について解析した結果を図16、17、及び表1を用いて説明する。
図16に示すように、床版システム2の床版本体21の上面21cに荷重F5を作用させた。同様に、図17に示すように、床版システム2Bの床版本体21の上面21cに荷重F5を作用させた。両解析モデル間の違いは、凸部22及び凹部23が形成されているか否かだけである。
解析結果を、凸部22及び凹部23が形成されていない床版システム2Bを基準にして整理したものを、表1に示す。
プレキャスト床版の橋軸方向Xの変位は、目開きの長さに相当する。凸部22及び凹部23が形成されても、目開きに与える影響は小さいことが分かった。
プレキャスト床版の橋軸方向Xの応力度は、プレキャスト床版の下面における応力度を示している。凸部22及び凹部23が形成されても、応力度に与える影響は小さいことが分かった。
充填材の橋軸直角方向Yの応力度は、凸部22及び凹部23が形成されてもあまり影響を受けないことが分かった。
プレキャスト床版と充填材との界面の付着応力度は、凸部22及び凹部23が形成されてもあまり影響を受けないことが分かった。
プレキャスト床版と充填材との界面のせん断応力度は、凸部22及び凹部23が形成されることで、最大15%程度小さくなることが分かった。
以上のように、床版システムのプレキャスト床版に凸部22及び凹部23を形成することで、プレキャスト床版間の段差が小さくなり、充填材のせん断応力度及びプレキャスト床版と充填材との界面の付着せん断応力度が小さくなることが分かった。
まず、図18に示すように、損傷した床版130を図示しないコンクリートカッター等で切断し、除去する。
図19に示すように、プレキャスト床版20に設けた図示しない埋め込み型アンカー等に、クレーン等の起重機W1のワイヤW2を取付ける。起重機W1で橋桁15上にプレキャスト床版20を運び、橋桁15上にプレキャスト床版20を設置する。このとき、橋軸方向Xに隣り合うプレキャスト床版20の凸部22と凹部23とを、図20に示すように一定の隙間Sを開けて配置する。
プレキャスト床版20の隙間Sの側方及び下方を覆うように、図示しない型枠を取付ける。図示しないノズルから、型枠内に固化する前の充填材を注入する。充填材が固化したら、プレキャスト床版20から型枠を取外す。
このように、橋軸方向Xに隣り合うプレキャスト床版20間に充填材25を設けることで、一対のプレキャスト床版20を一体化した床版システム2が施工できる。
すなわち、本道路橋1の製造方法は、本実施形態の床版システム2の設計方法を用いて床版システム2を備える道路橋1を製造する方法である。
充填材25の弾性率はプレキャスト床版20の弾性率よりも小さいため、プレキャスト床版20間で伝達される曲げモーメントMyは連続構造の床版システムの曲げモーメントMyに比べて減少する。しかし、充填材25の引張強度及び付着強度がプレキャスト床版20の引張強度以上に設定されているため、充填材25が破断することなく曲げモーメントMyを伝達する。このため、プレキャスト床版20間で伝達される曲げモーメントMyは、非連続構造の床版システムの曲げモーメントMyに比べて増加する。
また、床版システム2は、一対のプレキャスト床版20の間に充填材25を設けることで構成することができる。
したがって、本床版システム2によれば、床版システム2をプレキャスト床版20から容易に構成でき、プレキャスト床版20の厚さの増加を抑えつつ疲労耐久性を向上させることができる。また、本床版システム2の設計方法によれば、プレキャスト床版20の厚さの増加を抑えつつ疲労耐久性を向上させることができる。
充填材25の弾性率が小さいことで、曲げモーメントMyを確実に伝達させつつも、充填材25の応力度を緩和することができる。その上で、充填材25の引張強度及び付着強度がプレキャスト床版20の引張強度以上であるため、充填材25の破壊が生じない。よって、一対のプレキャスト床版20を確実に一体化することができる。
凹部23は側面21bの厚さ方向Zの中間部に形成されるため、凸部22が厚さ方向Zの両側からプレキャスト床版20により挟まれる。したがって、両プレキャスト床版20間に生じる厚さ方向Zの段差をより効果的に抑えることができる。
また、本実施形態の道路橋1によれば、構成を容易にするとともに疲労耐久性を向上させることができる。
本実施形態の道路橋1の製造方法によれば、プレキャスト床版20の厚さの増加を抑えつつ疲労耐久性を向上させた道路橋1を製造することができる。
図21及び22に示すように、床版システム3Aが複数のプレキャスト床版を備えてもよい。なお、図22、及び後述する図23、24、25では、橋桁15、橋脚、及び後述する支承50は示していない。
床版システム3Aは、前述のプレキャスト床版20D、複数のプレキャスト床版20、及びプレキャスト床版20Cが橋軸方向Xに並べて配置される。床版システム3Aでは、プレキャスト床版20D、複数のプレキャスト床版20、及びプレキャスト床版20Cのうち橋軸方向Xに隣り合うものの間に充填材25が設けられている。
床版システム3Aは、一対の橋桁15により支持されている。各橋桁15は、支承50により支持されている。支承50は、図示しない橋脚上に設置されている。
この例では、プレキャスト床版同士を接続する全ての継手に凹凸型のせん断キーが配置されている。
一対のプレキャスト床版20C及び複数のプレキャスト床版45のうち橋軸方向Xに隣り合うものの間には、充填材25が設けられている。充填材25内には、接続部材48が配置されている。接続部材48は、凹部23、46内に配置されている。
この例では、プレキャスト床版同士を接続する全ての継手に3ピース型のせん断キーが配置されている。
プレキャスト床版45は、一方のプレキャスト床版20Cに隣り合うとともに、プレキャスト床版45の凹部46とプレキャスト床版20Cの凹部23が対向するように配置されている。
一対のプレキャスト床版20C、複数のプレキャスト床版20、及びプレキャスト床版45のうち橋軸方向Xに隣り合うものの間には、充填材25が設けられている。
接続部材48は、一方のプレキャスト床版20Cとプレキャスト床版45との間、他方のプレキャスト床版20Cとプレキャスト床版20との間にそれぞれ配置されている。
この例では、床版システム3Cの橋軸方向Xの両端部の継手のみに3ピース型のせん断キーが配置されている。
一対のプレキャスト床版20C、プレキャスト床版20、プレキャスト床版45のうち橋軸方向Xに隣り合うものの間には、充填材25が設けられている。
プレキャスト床版20Cとプレキャスト床版20との間、プレキャスト床版45とプレキャスト床版20との間、プレキャスト床版45とプレキャスト床版20Cとの間における充填材25内には接続部材48が配置されている。
この例では、3ピース型のせん断キーと凹凸型のせん断キーとが橋軸方向Xに交互に配置されている。
2、2A、2B、2C、3A、3B、3C、3D 床版システム(プレキャスト床版システム)
20、20C、20D、35、40、45 プレキャスト床版
20A 第一プレキャスト床版
20B 第二プレキャスト床版
21a、21b 側面
22、36 凸部
23、37、46 凹部
25 充填材(接続部)
Z 厚さ方向
Claims (7)
- 板状に形成され、厚さ方向に交差する方向に並べて配置された一対のプレキャスト床版と、
一対の前記プレキャスト床版の間に設けられるとともに一対の前記プレキャスト床版に付着され、一対の前記プレキャスト床版の間で曲げモーメントを伝達することで一対の前記プレキャスト床版を一体化する接続部と、
を備え、
前記接続部の弾性率は、一対の前記プレキャスト床版の弾性率よりも小さく、一対の前記プレキャスト床版の弾性率の10分の1以上であり、
前記接続部の引張強度は、一対の前記プレキャスト床版の引張強度と同等程度であり、
前記接続部が一対の前記プレキャスト床版に付着する付着強度は、一対の前記プレキャスト床版の引張強度と同等程度であることで、一対の前記プレキャスト床版の間を鉄筋及び間詰め材を用いて接続した場合よりも一対の前記プレキャスト床版の疲労耐久性が向上することを特徴とするプレキャスト床版システム。 - 一対の前記プレキャスト床版の一方をなす第一プレキャスト床版の側面には、前記第一プレキャスト床版の側面から突出するように形成された凸部が設けられ、
一対の前記プレキャスト床版の他方をなす第二プレキャスト床版の側面には、前記第二プレキャスト床版の側面から凹み、内部に前記凸部が配置される凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャスト床版システム。 - 前記凹部は、前記第二プレキャスト床版の側面の前記厚さ方向の中間部に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のプレキャスト床版システム。
- 前記凸部は、前記凸部が突出する方向の先端側に向かうにしたがって前記厚さ方向の長さが短くなるように形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のプレキャスト床版システム。
- 請求項1に記載のプレキャスト床版システムを備えることを特徴とする橋構造。
- 板状に形成され、厚さ方向に交差する方向に並べて配置された一対のプレキャスト床版と、一対の前記プレキャスト床版の間に設けられるとともに一対の前記プレキャスト床版に付着された接続部と、を備えるプレキャスト床版システムにおいて、前記プレキャスト床版と前記接続部とを一体化するプレキャスト床版システムの設計方法であって、
前記接続部の弾性率を、一対の前記プレキャスト床版の弾性率よりも小さく、一対の前記プレキャスト床版の弾性率の10分の1以上に設定し、
前記接続部の引張強度を、一対の前記プレキャスト床版の引張強度と同等程度に設定し、
前記接続部が一対の前記プレキャスト床版に付着する付着強度を、一対の前記プレキャスト床版の引張強度と同等程度に設定し、
前記接続部により一対の前記プレキャスト床版の間で曲げモーメントを伝達させることで、一対の前記プレキャスト床版の間を鉄筋及び間詰め材を用いて接続した場合よりも一対の前記プレキャスト床版の疲労耐久性を向上させることを特徴とするプレキャスト床版システムの設計方法。 - 請求項6に記載のプレキャスト床版システムの設計方法を用いて前記プレキャスト床版システムを備える橋構造を製造することを特徴とする橋構造の製造方法。
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