JP5850402B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、TiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着形成された酸化アルミニウム層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆工具が知られており、この被覆工具は、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工に用いられていることが知られている。
ただ、前記被覆工具は、切れ刃に大きな負荷がかかる切削条件では、チッピングや欠損等を発生しやすく、工具寿命が短命であるという問題があるため、これを解消するために、従来からいくつかの提案がなされている。
そこで、本発明者らは、硬質被覆層の下部層を構成するTiCN層について鋭意研究したところ、TiCN層の異方性を緩和し靭性および熱遮蔽効果を高めることによって、硬質被覆層の耐チッピング性、耐欠損性を向上させることができるという新規な知見を見出したのである。
(a)工具基体表面に、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:1.6〜2.0%、CH3CN:0.6〜1.0%、N2:20%、H2:残、として、反応雰囲気圧力を5〜10kPa、反応雰囲気温度を800〜940℃として、化学蒸着法を行うことにより、柱状縦長成長TiCN結晶組織を成膜し、
(b)次いで、前記(a)の成膜工程を停止し、その後、TDMAT(テトラキスジメチルアミノチタン):0.1〜0.2%、N2:5〜7%、H2:残、とした副層形成条件で1〜10分間化学蒸着法を行うことにより微粒TiCNの副層を形成し、
(c)次いで、前記(b)の工程後、前記(a)と同様の条件で化学蒸着法を行うことにより柱状縦長成長TiCN結晶組織を成膜し、
(d)前記(b)、(c)の工程を繰り返し行なうことによって、微粒TiCNの副層が少なくとも2層以上存在する柱状縦長成長TiCN結晶組織からなる下部層を得ることができる。
この時、副層により柱状縦長成長TiCN結晶組織が完全に分断されることなく、柱状組織のまま成長することを見出した。その結果、柱状縦長成長TiCN結晶組織が有する耐摩耗性を低下させることなく、靭性および熱遮蔽効果を向上させることができるため、耐チッピング性、耐欠損性が飛躍的に向上する。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が下部層と上部層とからなるとともに、
(a)前記下部層は、少なくとも1層のTiの炭窒化物層を含み、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有する1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)前記上部層は、2〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
からなり、
前記(a)の下部層を構成する少なくとも1層のTiの炭窒化物層は、柱状縦長成長TiCN結晶組織を有しており、その組織内に微粒TiCNからなる副層が少なくとも2層以上、柱状縦長成長TiCN結晶組織を完全に分断せずに存在しており、該微粒TiCNが粒状TiCN結晶相又はアモルファスTiCN相若しくは粒状TiCN結晶相とアモルファスTiCN相との混合相であり、前記柱状縦長成長TiCN結晶の最大粒子幅は50〜2000nm、前記最大粒子幅と膜厚方向の最大粒子長さとのアスペクト比が5〜50であり、前記微粒TiCNからなる副層の層厚が、5nm〜30nmであることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記下部層を構成する少なくとも1層のTiの炭窒化物層に存在する微粒TiCNからなる副層が層厚方向1μmあたり1〜5層存在することを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
少なくとも1層のTiの炭窒化物層を含み、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有する1層または2層以上のTi化合物層からなる下部層は、通常の化学蒸着条件で形成することができるが、少なくとも1層のTiの炭窒化物層については後述するような別の方法によって形成する。下部層を構成するTi化合物層は、それ自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と酸化アルミニウムからなる上部層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、特に合計平均層厚が3〜20μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、合計平均層厚が3μm未満では、層厚が薄いため前記作用を発揮させるには十分でなく、一方、その合計平均層厚が20μmを越えると、Ti化合物の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。したがって、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
また、前記下部層の少なくとも1層のTiの炭窒化物層は、柱状縦長成長TiCN結晶組織を有しており、その組織内に微粒TiCNからなる副層が少なくとも2層以上、柱状縦長成長TiCN結晶を完全に分断せずに存在する構成とする。このような構成にすることによって、TiCN層の異方性が緩和されるため靭性および熱遮蔽効果が向上し、すぐれた耐チッピング性および耐欠損性を示すようになる。
上部層を構成する酸化アルミニウム層が、高温硬さと耐熱性を備えることは既に良く知られているが、特にその平均層厚が2〜25μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、平均層厚が2μm未満では、層厚が薄いため長期の使用に亘っての耐摩耗性を確保するには十分でなく、一方、平均層厚が25μmを越えると酸化アルミニウム結晶粒が粗大化し易くなり、高温硬さ、高温強度の低下に加え、高速断続切削加工時の耐チッピング性、耐欠損性が低下するようになる。したがって、その平均層厚を2〜25μmと定めた。
前記副層の層厚は、5〜30nmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、副層の層厚が5nm未満であると副層の微粒TiCN層の異方性を緩和し、靭性および熱遮蔽効果を高めるという副層の持つ作用が十分に発揮されない。一方、副層の層厚が30nmを超えると柱状縦長成長TiCN結晶組織を完全に分断させてしまい、その結果、柱状縦長成長TiCN結晶組織が有する高い耐摩耗性を維持できなくなる。したがって、副層の層厚は、5〜30nmと定めた。
さらに、前記副層は層厚方向1μmあたりの最も好ましい層数を鋭意研究したところ1〜5層であることを見出した。その理由について解析すると、1層未満であると、前述した少なくとも1層のTiの炭窒化物層の異方性を緩和し、靭性および熱遮蔽効果を高めるという効果が十分に発揮されず、一方、5層を超えると柱状縦長成長TiCN結晶組織が有する高い耐摩耗性を維持できなくなる。したがって、副層は層厚方向1μmあたり1〜5層存在するように構成することが好ましい。
また、前述のような本発明の下部層を構成する柱状縦長成長TiCN結晶の形状・サイズについても硬質被膜層の耐チッピング性、耐欠損性の向上という観点から鋭意研究した。その結果、最大粒子幅を50〜2000nmとするとともに、前記最大粒子幅と膜厚方向の最大粒子長さとのアスペクト比を5〜50とすることによって、前記の効果が著しく向上することを見出した。その理由を解析すると次のように説明することができる。すなわち、最大粒子幅が50nmよりも小さいと、長期間使用した際に耐摩耗性が低下する傾向があり、一方、2000nmを超えると、粒子の粗大化により耐チッピング性、耐欠損性が低下する傾向がある。したがって、柱状縦長成長TiCN結晶の最大粒子幅は、50〜2000nmとすることがより好ましい。さらに、最大粒子幅と膜厚方向の最大粒子長さの比として定義されるアスペクト比が5より小さいと、柱状縦長成長TiCNの特徴である耐摩耗性が低下する傾向があり、一方、50を超えると、かえって靭性が低下し、耐チッピング性、耐欠損性が低下する傾向がある。したがって、柱状縦長成長TiCN結晶の最大粒子幅と膜厚方向の最大粒子長さとのアスペクト比は5〜50とすることがより好ましい。
ここで、本発明における最大粒子幅と最大粒子長さとは、柱状縦長成長TiCN結晶の1つの粒子を計測したとき、粒子の幅(短辺)で最も大きい値を最大粒子幅と呼び、一方、粒子の高さ(長辺)で最も大きい値を最大粒子長さと呼ぶ。
本発明の副層を構成する微粒TiCNは、通常の化学蒸着条件で成膜した下部層の形成過程の間に原料としてTDMATを用いた副層形成条件で化学蒸着法を行うことによって形成することができる。
すなわち、下記に示すような、通常の柱状縦長成長TiCNの化学蒸着条件と副層形成条件を交互に行うことにより、柱状縦長成長TiCN結晶組織に微粒TiCNからなる少なくとも2層以上の副層が形成される。
化学蒸着条件:
反応ガス組成(容量%):
TiCl4:1.6〜2.0%、
CH3CN:0.6〜1.0%、
N2:20%、
H2:残、
反応雰囲気圧力:5〜10kPa、
反応雰囲気温度を:800〜940℃、
副層形成条件:
反応ガス組成(容量%):
TDMAT(テトラキスジメチルアミノチタン):0.1〜0.2%、
N2:5〜7%、
H2:残、
反応雰囲気圧力:5〜10kPa、
反応雰囲気温度を:800〜940℃、
ここで、微粒TiCNからなる副層はTDMATを用いた副層形成条件により形成されるので、成膜中に副層形成条件による工程を行った回数が副層の層数に対応している。したがって、副層の層数、すなわち副層形成条件による工程を行った回数を下部層全体の層厚(μm)で除した値が、層厚方向1μmあたりに存在する副層となる。
本発明の下部層を構成するTi化合物層中の柱状縦長成長TiCN結晶組織の成長状態を模式的に表した図を図1に示す。
前記化学蒸着条件で形成された本発明の下部層を構成する柱状縦長成長TiCN結晶組織内に存在する前記副層形成条件で形成された微粒TiCNからなる副層の存在形態の概略模式図を図2に示す。
(a)硬質被覆層の下部層として、表3および表4に示される条件かつ表6に示される目標層厚(μm)でTi化合物層を蒸着形成する。
(b)この時、表4に示される条件でTiCN層を成膜する際に、表4に示される反応ガス種別欄上段側の柱状縦長成長TiCN結晶組織形成条件と下段側の副層形成条件を交互に行いながらTiCN層を蒸着形成することにより本発明被覆工具1〜15を製造した。そして、下部層成膜中にTDMATを用いた副層形成条件による工程を行った回数を下部層の合計平均層厚(μm)で割ることによって、下部層における層厚方向1μmあたりの副層の層数を求めた。
(c)次いで、表3に示される条件かつ表6に示される目標層厚(μm)の酸化アルミニウム層からなる上部層を蒸着形成することにより、表6の本発明被覆工具1〜15を作製した。
さらに、前記本発明被覆工具1〜15の下部層を構成するTiCN層について、透過型電子顕微鏡(倍率200000倍)を用いて複数の視野に亘って観察したところ、前記微粒TiCNは、粒状TiCN結晶相又はアモルファスTiCN相若しくは粒状TiCN結晶相とアモルファスTiCN相の混合相であることが確認された。
また、本発明被覆工具1〜15および比較被覆工具1〜15については、同じく走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて、上部層のTiCN層を構成する柱状縦長成長TiCN結晶の最大粒子幅及び膜厚方向の最大粒子長さを、工具基体と水平方向に長さ合計10μmの範囲に存在する柱状縦長成長TiCN結晶について測定し、最大粒子幅及び膜厚方向の最大粒子長さの比からアスペクト比を求めた。
また、本発明被覆工具1〜15については、同じく走査型電子顕微鏡(倍率50000倍)を用いて、下部層のTiCN層に存在する微粒TiCNからなる副層を工具基体と垂直方向はTiCN層の層厚分の厚さに亘って、一方、工具基体と水平方向は長さ合計10μmに亘って測定し、下部層中に存在する全ての副層について層厚を求め、その平均値として副層の平均層厚を求めた。
表9に、この測定結果を示した。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が下部層と上部層とからなるとともに、
(a)前記下部層は、少なくとも1層のTiの炭窒化物層を含み、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有する1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)前記上部層は、2〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層、
からなり、
前記(a)の下部層を構成する少なくとも1層のTiの炭窒化物層は、柱状縦長成長TiCN結晶組織を有しており、その組織内に微粒TiCNからなる副層が少なくとも2層以上、柱状縦長成長TiCN結晶組織を完全に分断せずに存在しており、該微粒TiCNが粒状TiCN結晶相又はアモルファスTiCN相若しくは粒状TiCN結晶相とアモルファスTiCN相との混合相であり、前記柱状縦長成長TiCN結晶の最大粒子幅は50〜2000nm、前記最大粒子幅と膜厚方向の最大粒子長さとのアスペクト比が5〜50であり、前記微粒TiCNからなる副層の層厚が、5nm〜30nmであることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記下部層を構成する少なくとも1層のTiの炭窒化物層に存在する微粒TiCNからなる副層が層厚方向1μmあたり1〜5層存在することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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