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JP5713186B2 - レドックスフロー電池 - Google Patents

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Description

本発明は、レドックスフロー電池に関するものである。特に、高い起電力が得られるレドックスフロー電池に関するものである。
昨今、地球温暖化への対策として、太陽光発電、風力発電といった新エネルギーの導入が世界的に推進されている。これらの発電出力は、天候に影響されるため、大量に導入が進むと、周波数や電圧の維持が困難になるといった電力系統の運用に際しての問題が予測されている。この問題の対策の一つとして、大容量の蓄電池を設置して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化などを図ることが期待される。
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池がある。レドックスフロー電池は、正極電極と負極電極との間に隔膜を介在させた電池セルに正極電解液及び負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行う。上記電解液は、代表的には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が利用される。正極に鉄イオン、負極にクロムイオンを用いる鉄-クロム系レドックスフロー電池の他、正極及び負極の両極にバナジウムイオンを用いるバナジウム系レドックスフロー電池が代表的である(例えば、特許文献1)。
特開2006-147374号公報
バナジウム系レドックスフロー電池は、実用化されており、今後も使用が期待される。しかし、従来の鉄-クロム系レドックスフロー電池やバナジウム系レドックスフロー電池では、起電力が十分に高いとは言えない。今後の世界的な需要に対応するためには、更に高い起電力を有し、かつ、活物質に用いる金属イオンを安定して供給可能な、好ましくは安定して安価に供給可能な新たなレドックスフロー電池の開発が望まれる。
そこで、本発明の目的は、高い起電力が得られるレドックスフロー電池を提供することにある。
起電力を向上するためには、標準酸化還元電位が高い金属イオンを活物質に用いることが考えられる。従来のレドックスフロー電池に利用されている正極活物質の金属イオンの標準酸化還元電位は、Fe2+/Fe3+が0.77V、V4+/V5+が1.0Vである。本発明者らは、正極活物質の金属イオンとして、水溶性の金属イオンであり、従来の金属イオンよりも標準酸化還元電位が高く、バナジウムよりも比較的安価であって資源供給面においても優れると考えられるマンガン(Mn)を用いたレドックスフロー電池を検討した。Mn2+/Mn3+の標準酸化還元電位は、1.51Vであり、マンガンイオンは、起電力がより大きなレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。
しかし、正極活物質の金属イオンにマンガンイオンを用いた場合、充放電に伴って固体のMnO2が析出するという問題がある。
Mn3+は不安定であり、マンガンイオンの水溶液では、以下の不均化反応によってMn2+(2価)及びMnO2(4価)を生じる。
不均化反応:2Mn3++2H2O ⇔ Mn2++MnO2(析出)+4H+
上記不均化反応の式から、H2Oを相対的に減らす、例えば、電解液の溶媒を硫酸水溶液といった酸の水溶液とするとき、当該溶媒中の酸(例えば、硫酸)の濃度を高めることで、MnO2の析出をある程度抑制できることがわかる。ここで、上述したような大容量の蓄電池として実用的なレドックスフロー電池とするためには、エネルギー密度の点から、マンガンイオンの溶解度が0.3M以上であることが望まれる。しかし、マンガンイオンは、酸濃度(例えば、硫酸濃度)を高めると、溶解度が低下する特性を有する。即ち、MnO2の析出を抑制するために酸濃度を高めると、電解液中のマンガンイオンの濃度が高くできず、エネルギー密度の低下を招く。また、酸の種類によっては、酸濃度を高めることで電解液の粘度が増加して使用し難いという問題も生じる。
本発明者らは、正極活物質にマンガンイオンを用いても、Mn(3価)の不均化反応に伴う析出が生じ難く、Mn2+/Mn3+の反応が安定して行われ、実用的な溶解度が得られる構成を更に検討した。その結果、詳しいメカニズムは不明であるが、正極電解液に、マンガンイオンと共にチタンイオンを存在させることで、上記析出を効果的に抑制できることを見出した。特に、正極電解液の充電状態(SOC:State of Charge、充電深度と言うことがある。)を、マンガンイオンの反応を全て1電子反応(Mn2+→Mn3++e-)で計算した場合に90%超、更に130%以上という高い充電状態で充電を行っても上記析出が実質的に観察されない、という驚くべき事実を見出した。このようにマンガンイオンとチタンイオンとを共存させることで、上記析出を効果的に抑制できることから、溶媒の酸濃度を不必要に高くする必要が無く、マンガンイオンの溶解度を十分に実用的な値にすることができる。また、上記充電状態を100%以上に充電させた場合に充電過程で生成されたと考えられるMnO2(4価)は、析出物とならず、放電過程でMn(2価)に還元され得るという新たな事実も見出した。そして、正極活物質にマンガンイオンを用い、負極活物質に、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンの少なくとも一種の金属イオンを用いた、Ti/Mn系、V/Mn系、Cr/Mn系、Zn/Mn系、Sn/Mn系レドックスフロー電池は、高い起電力を有することができ、かつ上記金属イオンが高濃度に溶解された電解液を用いて、安定して良好に動作することができる、との知見を得た。本発明は、これらの知見に基づくものである。
本発明は、正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在される隔膜とを具える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池に係るものである。上記正極電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有し、上記負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する。
上記構成によれば、従来のレドックスフロー電池と同等、又は同等以上の高い起電力が得られる上に、比較的安価な金属イオン(マンガンイオン)を正極活物質に利用することで、活物質を安定して供給できると期待される。かつ、上記構成によれば、正極電解液にマンガンイオンとチタンイオンとを共存させることで、マンガンイオンを活物質に利用しながらも、MnO2を実質的に析出させることが無く、Mn2+/Mn3+の反応を安定して行えることから、良好に充放電動作を行うことができる。また、MnO2が生成された場合にも析出されず、MnO2を活物質として利用でき、より大きな電池容量を実現できる。そして、上記構成によれば、MnO2の析出を抑制できることから、溶媒の酸濃度を過剰に高くする必要が無いため、正極電解液におけるマンガンイオンの溶解度を高められ、実用的なマンガンイオン濃度を有することができる。従って、本発明レドックスフロー電池は、新エネルギーの出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化に好適に利用できると期待される。
上記正極電解液の具体的な形態として、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のチタンイオンとを含有する形態が挙げられる。上記いずれかのマンガンイオンを含有することで、放電時:2価のマンガンイオン(Mn2+)が存在し、充電時:3価のマンガンイオン(Mn3+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両マンガンイオンが存在する形態となる。正極活物質に上記二つのマンガンイオン:Mn2+/Mn3+を利用することで標準酸化還元電位が高いため、高い起電力のレドックスフロー電池とすることができる。また、上記マンガンイオンに加えて、4価のチタンイオンが存在することで、上述のようにMnO2の析出を抑制することができる。4価のチタンイオンは、例えば、硫酸塩(Ti(SO4)2、TiOSO4)を電解液の溶媒に溶解することで電解液に含有させることができ、代表的にはTi4+で存在する。その他、4価のチタンイオンは、TiO2+などを含み得る。なお、正極に存在するチタンイオンは、主としてMnO2の析出の抑制に作用し、活物質として積極的に作用しない。
本発明では、上述のようにチタンイオンの存在によりMnO2の析出の抑制を図るが、実際の運転では、充電状態によっては4価のマンガンが存在していると考えられる。従って、本発明の一形態として、正極電解液が2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンと、4価のチタンイオンとを含有する形態が挙げられる。4価のマンガンはMnO2と考えられるが、このMnO2は固体の析出物ではなく、電解液中に溶解したように見える安定な状態で存在していると考えられる。この電解液中に浮遊するMnO2は、放電時、2電子反応として、Mn2+に還元され(放電して)、即ち、MnO2が活物質として作用して、繰り返し使用できることで、電池容量の増加に寄与する。
一方、負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、スズイオンのうちの単一種の金属イオンを含有した形態、これら列挙する複数種の金属イオンを含有した形態とすることができる。これらの金属イオンのいずれも、水溶性であり、電解液を水溶液にできるため利用し易く、これらの金属イオンを負極活物質とし、正極活物質をマンガンイオンとするにあたり、起電力が高いレドックスフロー電池が得られる。
負極電解液が上記金属イオンのうち、単一種の金属イオンを含有する形態において、チタンイオンを負極活物質として含有するチタン-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、1.4V程度の起電力が得られる。また、充放電の繰り返し使用により、経時的に液移り(一方の極の電解液が他方の極に移動する現象)が生じても、上述のようにチタンイオンはMnO2の析出を抑制する効果がある上に、両極の電解液中に存在する金属イオン種が重複することで、液移りによる不具合が生じ難い。このようにMnO2の析出を抑制してMn3+を安定化することができ、充放電を十分に行えることから、負極活物質には、チタンイオンが好ましい。
負極電解液が上記金属イオンのうち、単一種の金属イオンを含有する形態において、バナジウムイオンを含有するバナジウム-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、起電力:1.8V程度、クロムイオンを含有するクロム-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、起電力:1.9V程度、亜鉛イオンを含有する亜鉛-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、起電力:2.2V程度という更に高い起電力を有するレドックスフロー電池とすることができる。スズイオンを含有するスズ-マンガン系レドックスフロー電池とした場合、起電力:1.4V程度とチタン-マンガン系レドックスフロー電池と同程度の起電力を有するレドックスフロー電池とすることができる。
負極電解液が上記金属イオンのうち、単一種の金属イオンを含有する形態として、負極電解液は、以下の(1)〜(5)のいずれか一つを満たす形態が挙げられる。
(1) 3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンを含有する。
(2) 2価のバナジウムイオン及び3価のバナジウムイオンの少なくとも一種のバナジウムイオンを含有する。
(3) 2価のクロムイオン及び3価のクロムイオンの少なくとも一種のクロムイオンを含有する。
(4) 2価の亜鉛イオンを含有する。
(5) 2価のスズイオン及び4価のスズイオンの少なくとも一種のスズイオンを含有する。
上記(1)を満たす場合、上記いずれかのチタンイオンを含有することで、放電時:4価のチタンイオン(Ti4+、TiO2+など)が存在し、充電時:3価のチタンイオン(Ti3+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両チタンイオンが存在する形態となる。但し、チタンイオンには、2価のものが存在し得る。従って、負極電解液として、2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンから選択される少なくとも一種のチタンイオンを含有する形態としてもよい。
上記(2)を満たす場合、上記いずれかのバナジウムイオンを含有することで、放電時:3価のバナジウムイオン(V3+)が存在し、充電時:2価のバナジウムイオン(V2+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両バナジウムイオンが存在する形態となる。上記(3)を満たす場合、上記いずれかのクロムイオンを含有することで、放電時:3価のクロムイオン(Cr3+)が存在し、充電時:2価のクロムイオン(Cr2+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両クロムイオンが存在する形態となる。上記(4)を満たす場合、2価の亜鉛イオンを含有することで、放電時:2価の亜鉛イオン(Zn2+)が存在し、充電時:金属亜鉛(Zn)が存在し、充放電の繰り返しにより、2価の亜鉛イオンが存在する形態となる。上記(5)を満たす場合、上記いずれかのスズイオンを含有することで、放電時:4価のスズイオン(Sn4+)が存在し、充電時:2価のスズイオン(Sn2+)が存在し、充放電の繰り返しにより、両スズイオンが存在する形態となる。
負極電解液が複数種の金属イオンを含有する場合、充電時の電圧の上昇に伴って各金属イオンが一つずつ順番に電池反応を行うように、各金属の標準酸化還元電位を考慮して組合せることが好ましい。電位が貴な順に、Ti3+/Ti4+,V2+/V3+,Cr2+/Cr3+を組み合せて含む形態が好ましい。また、負極にもマンガンイオンを含有させることができ、例えば、チタンイオン及びマンガンイオン、クロムイオン及びマンガンイオン、などを含有する負極電解液とすることができる。負極電解液に含有するマンガンイオンは、活物質として機能させるのではなく、主として、両極の電解液の金属イオン種を重複させるために含有する。また、正極電解液にも上記マンガンイオン及びチタンイオンに加えて、活物質として機能しない金属イオンを含有することができる。例えば、上記負極電解液がクロムイオンと、マンガンイオン(代表的には2価のマンガンイオン)とを含有し、上記正極電解液は、上記マンガンイオン及びチタンイオンに加えて、クロムイオン(代表的には3価のクロムイオン)を含有する形態とすることができる。このように両極の電解液の金属イオン種が重複したり、金属イオン種が等しくなったりすることで、(1)液移りに伴って各極の金属イオンが相互に対極に移動することにより、各極で本来活物質として反応する金属イオンが減少して電池容量が減少する現象を抑制できる、(2)液移りにより液量がアンバランスになっても是正し易い、(3)電解液の製造性に優れる、といった効果を奏する。
本発明の一形態として、上記正極電解液のチタンイオンの濃度がマンガンイオンの濃度の50%以上である形態が挙げられる。
本発明者らが調べたところ、後述する試験例に示すように、正極電解液において、正極活物質として利用するマンガンイオンの濃度に対するチタンイオンの濃度の比:正極Ti/正極Mnが高いほど、エネルギー密度や起電力を高められる、との知見を得た。具体的には、上記形態のように、正極Ti/正極Mnを50%以上とすることでエネルギー密度などを向上できる。この理由は、正極Ti/正極Mnが上記範囲を満たすことで、正極のチタンイオンの濃度が相対的に高められて、MnO2の析出物(固体)の生成を効果的に抑制できると共に、正極のマンガンイオンが、充電時、2価→3価の1電子反応に加えて、3価→4価の反応も併せることで2電子反応も行えるようになり、1電子反応のみの場合と比較して、約1.5倍のエネルギー密度が得られるためである、と考えられる。上記イオン濃度の比:正極Ti/正極Mnが高いほど、エネルギー密度などを高められ、正極Ti/正極Mnが80%以上の場合、エネルギー密度をより高められる上に、マンガンの起電力をより高められ、正極Ti/正極Mnが100%以上の場合、即ち、正極のチタンイオンの濃度が正極のマンガンイオンの濃度と同等以上である場合、マンガンの起電力を最大にできる。上記イオン濃度の比:正極Ti/正極Mnの上限は特に設けないが、マンガンイオン及びチタンイオンの濃度は、後述する特定の範囲を満たすことが好ましい。なお、長期に亘り運転を行う場合は、各イオンの濃度を監視して、必要に応じて濃度の調整を行ってもよい。
本発明の一形態として、上記負極電解液がチタンイオンを含有し、上記負極電解液のチタンイオンの濃度が上記正極電解液のチタンイオンの濃度と同等以上である形態が挙げられる。
本発明者らは、正極電解液のチタンイオンが経時的に負極側に拡散して(液移りによりイオンが移動して)正極のチタンイオンの濃度が低下し、MnO2の析出物(固体)の生成を抑制し難くなる等の理由から、エネルギー密度の低下を招くことがある、との知見を得た。そこで、チタンイオンを負極活物質とすると共に、負極電解液のチタンイオンの濃度を正極電解液の濃度と同等、或いはそれ以上とすることを提案する。負極のチタンイオンの濃度と正極のチタンイオンの濃度とが同等である場合、即ち、正極のチタンイオンの濃度に対する負極のチタンイオンの濃度の比:負極Ti/正極Tiが100%の場合、正極電解液及び負極電解液の両極電解液におけるチタンイオンの濃度が均衡することで正極のチタンイオンが負極側に拡散することを抑制できる。負極のチタンイオンの濃度が正極のチタンイオンの濃度よりも高い場合、即ち、負極Ti/正極Tiが100%超の場合、負極のチタンイオンが正極側に拡散することはあるものの、この場合、正極のチタンイオンが増加するため、上述のようにエネルギー密度を高めたり、マンガンの起電力を高められる。従って、上記形態は、長期に亘り、エネルギー密度が高いなど、優れた電池特性を維持できる。負極Ti/正極Tiの上限は特に設けないが、両極のイオンの濃度は、後述する特定の範囲を満たすことが好ましい。なお、長期に亘り運転を行う場合は、各イオンの濃度を適宜監視しておき、必要に応じて濃度の調整を行ってもよい。
本発明の一形態として、隔膜がイオン交換膜である形態が挙げられる。
本発明者らは、上述のように経時的に正極電解液のチタンイオンが負極側に拡散することを抑制する別の手法として、イオン交換膜を隔膜に利用することが好ましい、との知見を得た。そこで、イオン交換膜を用いることを提案する。特に、このイオン交換膜は、チタンイオンやマンガンイオンの透過性が小さいものが好ましい。このようなイオン交換膜として、例えば、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との共重合体から構成されたものが挙げられる。市販品を利用してもよい。
本発明の一形態として、上記正極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの各濃度、及び上記負極電解液の各金属イオンの濃度がいずれも0.3M以上5M以下である形態が挙げられる(「M」:体積モル濃度)。
両極の活物質となる金属イオンの濃度が0.3M未満では、大容量の蓄電池として十分なエネルギー密度(例えば、10kWh/m3程度、好ましくはそれ以上)を確保することが難しい。エネルギー密度の増大を図るためには、上記金属イオンの濃度は高い方が好ましく、0.5M以上、更に1.0M以上がより好ましい。本発明では、正極電解液中にチタンイオンを存在させることで、マンガンイオンの濃度を0.5M以上、1.0M以上といった非常に高濃度としても、Mn(3価)が安定しており、析出物を抑制できるため、良好に充放電を行うことができる。但し、電解液の溶媒を酸の水溶液とする場合、酸濃度をある程度高めると上述のようにMnO2の析出を抑制できるものの、酸濃度の上昇により金属イオンの溶解度の低下、ひいてはエネルギー密度の低下を招くことから、上記金属イオンの濃度の上限は、5Mと考えられる。正極活物質として積極的には機能しない正極電解液中のチタンイオンも、濃度が0.3M〜5Mを満たすことで、MnO2の析出を十分に抑制することできる。正極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの濃度、及び負極電解液の金属イオンの濃度はいずれも、0.5M以上1.5M以下、更に0.8M以上1.2M以下がより好ましい。
本発明の一形態として、上記両極電解液の溶媒は、HSO、KSO、NaSO、HPO、H、K PO、NaPO、KPO、HNO、KNO、及びNaNOから選択される少なくとも一種の水溶液である形態が挙げられる。
上述のように両極の活物質となる金属イオンや析出抑制のための金属イオン、活物質として積極的に機能しない金属イオンがいずれも水溶性イオンであるため、両極の電解液の溶媒として、水溶液を好適に利用できる。特に、水溶液として、上記硫酸、リン酸、硝酸、硫酸塩、リン酸塩、及び硝酸塩の少なくとも一種を含有する場合、(1)金属イオンの安定性の向上や反応性の向上、溶解度の向上が得られる場合がある、(2)Mnのような電位が高い金属イオンを用いる場合でも、副反応が生じ難い(分解が生じ難い)、(3)イオン伝導度が高く、電池の内部抵抗が小さくなる、(4)塩酸(HCl)を利用した場合と異なり、塩素ガスが発生しない、といった複数の効果が期待できる。この形態の電解液は、硫酸アニオン(SO4 2-)、リン酸アニオン(PO4 3-)、及び硝酸アニオン(NO3 -)の少なくとも一種が存在する。但し、電解液中の上記酸の濃度が高過ぎると、マンガンイオンの溶解度の低下や電解液の粘度の増加を招く恐れがあるため、上記酸の濃度は5M未満が好ましいと考えられる。
本発明の一形態として、上記両極電解液が硫酸アニオン(SO4 2-)を含有する形態が挙げられる。このとき、上記両極電解液の硫酸濃度は5M未満が好ましい。
両極電解液が硫酸アニオン(SO4 2-)を含有する形態では、上述したリン酸アニオンや硝酸アニオンを含有する場合と比較して、両極の活物質となる金属イオンの安定性や反応性、析出抑制のための金属イオンの安定性、両極の金属イオン種を等しくすることを目的とし、活物質として積極的に機能しない金属イオンの安定性などを向上できるため好ましい。両極電解液が硫酸アニオンを含有するには、例えば、上記金属イオンを含む硫酸塩を利用することが挙げられる。更に、硫酸塩を用いることに加えて、電解液の溶媒を硫酸水溶液とすると、上述のように金属イオンの安定性や反応性の向上、副反応の抑制、内部抵抗の低減などを図ることができる。但し、硫酸濃度が高過ぎると、硫酸イオンが存在することで上記溶解度の低下を招くため、硫酸濃度は、5M未満が好ましく、1M〜4Mが利用し易く、1M〜3Mがより好ましい。
本発明の一形態として、上記正極電極及び上記負極電極は、以下の(1)〜(10)から選択される少なくとも一種の材料から構成された形態が挙げられる。
(1) Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属と、Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属の酸化物とを含む複合材(例えば、Ti基体にIr酸化物やRu酸化物を塗布したもの)、(2) 上記複合材を含むカーボン複合物、(3) 上記複合材を含む寸法安定電極(DSE)、(4) 導電性ポリマ(例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェンなどの電気を通す高分子材料)、(5) グラファイト、(6) ガラス質カーボン、(7) 導電性ダイヤモンド、(8) 導電性ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、(9) カーボンファイバからなる不織布、(10) カーボンファイバからなる織布
ここで、電解液を水溶液とする場合、Mn2+/Mn3+の標準酸化還元電位が酸素発生電位(約1.0V)よりも貴な電位であることで、充電時、酸素ガスの発生を伴う可能性がある。これに対し、例えば、カーボンファイバからなる不織布(カーボンフェルト)から構成される電極を利用すると、酸素ガスが発生し難く、導電性ダイヤモンドから構成される電極の中には、酸素ガスが実質的に発生しないものがある。このように電極材料を適宜選択することで、酸素ガスの発生をも効果的に低減又は抑制できる。また、上記カーボンファイバからなる不織布から構成される電極は、(1)表面積が大きい、(2)電解液の流通性に優れる、といった効果がある。
本発明の一形態として、上記隔膜は、多孔質膜、膨潤性隔膜、陽イオン交換膜、及び陰イオン交換膜から選択される少なくとも一種の膜である形態が挙げられる。膨潤性隔膜とは、官能基を持たず、かつ水を含む高分子(例えば、セロハン)で構成された隔膜を言う。イオン交換膜は、(1)正負極の活物質である金属イオンの隔離性に優れる、(2)H+イオン(電池内部の電荷担体)の透過性に優れる、といった効果があり、隔膜に好適に利用することができる。特に、イオン交換膜は、上述のようにマンガンイオンやチタンイオンの拡散防止効果を有するものが好ましい。
本発明レドックスフロー電池は、高い起電力が得られる上に、析出物の生成を抑制できる。
図1は、レドックスフロー電池を具える電池システムの動作原理を示す説明図である。 図2は、試験例1で作製したV/Mn系レドックスフロー電池において、硫酸濃度を変化させた場合の充放電のサイクル時間(sec)と電池電圧(V)との関係を示すグラフである。 図3は、硫酸濃度(M)と、マンガンイオン(2価)の溶解度(M)との関係を示すグラフである。 図4は、試験例3で作製したTi/Mn系レドックスフロー電池において、正極電解液におけるマンガンイオンの濃度に対するチタンイオンの濃度の比:正極Ti/正極Mnと、正極マンガンの起電力、充電状態:SOCとの関係を示すグラフである。 図5は、試験例4-1で作製したTi/Mn系レドックスフロー電池において、負極電解液のチタンイオンの濃度が正極電解液のチタンイオンの濃度よりも小さい電解液を用いて充放電を行ったときの経時的な電流効率の変化、及び放電容量の変化を示すグラフである。 図6は、試験例4-2で作製したTi/Mn系レドックスフロー電池において、両極電解液のチタンイオンの濃度が等しい電解液を用いて充放電を行ったときの経時的な電流効率の変化、及び放電容量の変化を示すグラフである。 図7は、試験例5で作製したTi/Mn系レドックスフロー電池において、隔膜にイオン交換膜を用いて充放電を行ったときの充放電のサイクル時間(sec)と電池電圧(V)との関係を示すグラフである。
以下、図1を参照して、実施形態のレドックスフロー電池を具える電池システムの概要を説明する。図1に示すイオン種は例示である。また、図1において、実線矢印は、充電、破線矢印は、放電を意味する。その他、図1に示す金属イオンは代表的な形態を示しており、図示される以外の形態も含み得る。例えば、図1では、4価のチタンイオンとしてTi4+を示すが、TiO2+などのその他の形態も含み得る。
レドックスフロー電池100は、代表的には、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)と電力系統や需要家などの負荷とに接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。上記充放電を行うにあたり、レドックスフロー電池100と、この電池100に電解液を循環させる循環機構(タンク、配管、ポンプ)とを具える以下の電池システムが構築される。
レドックスフロー電池100は、正極電極104を内蔵する正極セル102と、負極電極105を内蔵する負極セル103と、両セル102,103を分離すると共に適宜イオンを透過する隔膜101とを具える。正極セル102には、正極電解液用のタンク106が配管108,110を介して接続される。負極セル103には、負極電解液用のタンク107が配管109,111を介して接続される。配管108,109には、各極の電解液を循環させるためのポンプ112,113を具える。レドックスフロー電池100は、配管108〜111、ポンプ112,113を利用して、正極セル102(正極電極104)、負極セル103(負極電極105)にそれぞれタンク106の正極電解液、タンク107の負極電解液を循環供給して、各極の電解液中の活物質となる金属イオンの価数変化反応に伴って充放電を行う。
レドックスフロー電池100は、代表的には、上記セル102,103を複数積層させたセルスタックと呼ばれる形態が利用される。上記セル102,103は、一面に正極電極104、他面に負極電極105が配置される双極板(図示せず)と、電解液を供給する給液孔及び電解液を排出する排液孔を有し、かつ上記双極板の外周に形成される枠体(図示せず)とを具えるセルフレームを用いた構成が代表的である。複数のセルフレームを積層することで、上記給液孔及び排液孔は電解液の流路を構成し、この流路は配管108〜111に適宜接続される。セルスタックは、セルフレーム、正極電極104、隔膜101、負極電極105、セルフレーム、…と順に繰り返し積層されて構成される。なお、レドックスフロー電池システムの基本構成は、公知の構成を適宜利用することができる。
特に、本発明では、上記正極電解液にマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有し、上記負極電解液にチタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有する(図1では、例としてチタンイオンを示す)。また、本発明では、マンガンイオンを正極活物質とし、上記金属イオンを負極活物質とする。以下、試験例を挙げて説明する。
[試験例1]
図1に示すレドックスフロー電池システムとして、正極電解液に、マンガンイオンおよびチタンイオンの双方を含有する電解液、負極電解液にバナジウムイオンを含有する電解液を用いたV/Mn系レドックスフロー電池システムを構築して充放電を行い、析出状態及び電池特性を調べた。
この試験では、正極電解液として、硫酸濃度が異なる二種類の硫酸水溶液(H2SO4aq)を用意し、各硫酸水溶液に硫酸マンガン(2価)及び硫酸チタン(4価)を溶解して、マンガンイオン(2価)の濃度が1M、かつチタンイオン(4価)の濃度が1M(正極Ti/正極Mn=100%)の電解液を用意した。以下、硫酸濃度を1Mとした正極電解液を電解液(I)、硫酸濃度を2.5Mとした正極電解液を電解液(II)と呼ぶ。負極電解液として、硫酸濃度が1.75Mの硫酸水溶液(H2SO4aq)に硫酸バナジウム(3価)を溶解して、バナジウムイオン(3価)の濃度が1.7Mの電解液を用意した。また、各極の電極には、カーボンフェルト、隔膜には、陰イオン交換膜を用いた。
この試験では、電極の反応面積が9cm2である小型の単セル電池を作製し、上記各極の電解液をそれぞれ6ml(6cc)ずつ用意して、これらの電解液を用いて充放電を行った。特に、この試験では、充電と放電とを切り替えるときの電池電圧:切替電圧を上限充電電圧とし、電解液(I),(II)のいずれを利用した場合も切替電圧を2.1Vとした。充電及び放電はいずれも、電流密度:70mA/cm2の定電流で行い、上記切替電圧に達したら、充電から放電に切り替えた。
各電解液(I),(II)を用いたレドックスフロー電池について、初期の充電時間の充電状態:SOCを測定した。充電状態は、通電した電気量(積算値:A×h(時間))が全て充電(1電子反応:Mn2+→Mn3++e-)に使用されたと想定して、以下のように算出した。この試験では、充電効率がほぼ100%であり、通電した電気量が全て充電に使用されたと想定しても誤差は小さいと考えられる。
充電電気量(A・秒)=充電時間(t)×充電電流(I)
活物質電気量=モル数×ファラデー定数=体積×濃度×96,485(A・秒/モル)
理論充電時間=活物質電気量/充電電流(I)
充電状態=充電電気量/理論充電電気量
=(充電時間×電流)/(理論充電時間×電流)
=充電時間/理論充電時間
図2(I)に電解液(I)、図2(II)に電解液(II)を用いた場合の充放電サイクル時間と電池電圧との関係を示す。電解液(I)を用いたレドックスフロー電池の充電状態は118%(18min)、電解液(II)を用いたレドックスフロー電池の充電状態は146%である。そして、このように充電終了時の正極電解液の充電状態が100%を超えるまで、更には130%を超えるまで充電を行った場合でも、析出物(MnO2)が実質的に全く観察されず、2価のマンガンイオンと3価のマンガンイオンとの酸化還元反応が可逆に生じて、電池として問題なく機能することが確認できた。この結果から、正極電解液にチタンイオンを含有することで、Mn3+が安定化されていると共に、MnO2が生成されても析出物とならず安定して電解液中に存在して、充放電反応に作用していると推測される。
また、電解液(I),(II)を用いた場合のそれぞれについて、上記充放電を行った場合の電流効率、電圧効率、エネルギー効率を調べた。電流効率は、放電電気量(C)/充電電気量(C)、電圧効率は、放電電圧(V)/充電電圧(V)、エネルギー効率は、電流効率×電圧効率で表わされる。これらの各効率は、通電した電気量の積算値(A×h(時間))、充電時の平均電圧及び放電時の平均電圧をそれぞれ測定して、これら測定値を利用して算出する。
その結果、電解液(I)を用いた場合、電流効率:98.4%、電圧効率:85.6%、エネルギー効率:84.2%、電解液(II)を用いた場合、電流効率:98.3%、電圧効率:87.9%、エネルギー効率:86.4%であり、いずれの場合も優れた電池特性を有することが確認できた。
ここで、体積:6ml、マンガンイオン(2価)の濃度:1Mの電解液における1電子反応(Mn3++e-→Mn2+)の理論放電容量(ここでは電流値が一定であるため放電時間で記載する)は15.3分である。これに対して、電解液(I),(II)を用いた場合、放電容量はそれぞれ16.8min,19.7minであり、上記理論放電容量に対してそれぞれ110%,129%に相当する。放電容量がこのように増加した理由は、充電時に生成されたMnO2(4価)が2電子反応によりマンガンイオン(2価)に還元されたためと考えられる。また、この理由は、後述する試験例に示すように正極電解液のイオン濃度の比:正極Ti/正極Mnが50%以上であったことが考えられる。このことから、2電子反応(4価→2価)に伴う現象を利用することで、エネルギー密度が高められ、より大きな電池容量が得られると考えられる。
このように正極活物質としてマンガンイオンを含有する正極電解液を用いたレドックスフロー電池であっても、チタンイオンを存在させることで、MnO2といった析出物の析出を効果的に抑制し、良好に充放電を行えることが分かる。特に、この試験例に示すバナジウム-マンガン系レドックスフロー電池では、約1.8Vといった高い起電力を有することができる。更に、カーボンフェルト製の電極を利用することで、酸素ガスの発生は、実質的に無視できる程度であった。
上記硫酸バナジウム(3価)に代えて、硫酸クロム(3価)、硫酸亜鉛(2価)、硫酸スズ(4価)を用いた場合も、正極電解液にマンガンイオンと共にチタンイオン(4価)を共存させておくことで、析出物の析出を抑制することができる。
[試験例2]
硫酸(H2SO4)に対するマンガンイオン(2価)の溶解度を調べた。その結果を図3に示す。図3に示すように硫酸濃度の増加に従って、マンガンイオン(2価)の溶解度が減少し、硫酸濃度が5Mの場合、溶解度は0.3Mとなることが分かる。逆に、硫酸濃度が低い領域では、4Mという高い溶解度が得られることが分かる。この結果から、電解液中のマンガンイオン濃度を高めるためには、特に、実用上望まれる0.3M以上の濃度を得るためには、電解液の溶媒に硫酸水溶液を用いる場合、硫酸濃度を5M未満と低くすることが好ましいことが分かる。
[試験例3]
図1に示すレドックスフロー電池システムとして、正極電解液に、マンガンイオンおよびチタンイオンの双方を含有する電解液、負極電解液にチタンイオンを含有する電解液を用いたTi/Mn系レドックスフロー電池システムを構築して充電試験を行い、エネルギー密度、正極マンガンの起電力、充電状態を調べた。
この試験では、正極電解液として、硫酸濃度が2Mの硫酸水溶液に、硫酸マンガン(2価):MnSO4及び硫酸チタン(4価):TiOSO4を溶解して、マンガンイオン(2価)及びチタンイオン(4価)が種々の濃度の正極電解液を用意した。マンガンイオンの濃度に対するチタンイオンの濃度の比(=モル比):正極Ti/正極Mnが表1に示す値となるように、添加する硫酸マンガン及び硫酸チタンの量を調整した。試料No.2-1は、硫酸チタンを添加しておらず、硫酸マンガンのみを溶解した電解液である。
Figure 0005713186
負極電解液として、硫酸濃度が2Mの硫酸水溶液に、硫酸チタン(4価)を溶解して、チタンイオン(4価)の濃度が1Mの電解液を用意した。各極の電極には、カーボンフェルト、隔膜には、陰イオン交換膜を用いた。
この試験では、電極の反応面積が9cm2である小型の単セル電池を作製し、正極電解液9ml(9cc)、負極電解液を正極電解液量よりも十分に多い量となるように25ml(25cc)用意した。そして、用意した電解液を用いて、電流密度:50mA/cm2の定電流で充電末電圧:2.0Vまでの充電試験を行った。充電後、充電状態:SOC、エネルギー密度、正極マンガンの起電力を調べた。
充電状態(SOC)は、試験例1と同様にして求めた。エネルギー密度(kWh/m3)は、以下のように求めた。正極のマンガンイオンのイオン濃度及び負極のチタンイオンのイオン濃度をいずれも1モル/リットルとし、放電平均電圧を1.3Vとした場合のエネルギー密度を[{放電(平均)電圧(V)×イオン濃度(モル/リットル)×ファラデー定数(A・秒/モル)}÷3600(sec/h)÷2(正負)]から算出した値(1電子反応のみとする。SOC:100%の状態):17.4kWh/m3を基準密度とし、各試料のエネルギー密度は、上記基準密度×各試料の充電状態(SOC)とした。正極マンガンの起電力は、標準水素電極:SHEに対する電位とした。この試験では、別途作製したモニタセルを利用して起電力を測定した。具体的には、上記単セル電池と同じ構造のモニタセル(単セル)を作製して上記単セル電池に電気的に直列に接続し、電圧を印加しない状態におけるモニタセルの正極と別途正極電解液に挿入した参照電極(Ag/AgCl電極)との電圧を測定し、この電圧を正極マンガンの起電力とした。その結果を図4及び表2に示す。
Figure 0005713186
図4及び表2に示すように、正極電解液におけるマンガンイオンとチタンイオンとのイオン濃度の比:正極Ti/正極Mnが高いほど、エネルギー密度が高く、高い起電力が得られることが分かる。特に、正極Ti/正極Mnを0.5(50%)以上、更に0.8(80%)以上、特に1.0(100%)以上とすることで、エネルギー密度及び起電力をより高くできることが分かる。従って、正極活物質をマンガンイオンとし、チタンイオンを共存させた正極電解液を用いるレドックスフロー電池では、正極電解液のマンガンイオンの濃度とチタンイオンの濃度とを特定の範囲とすることで、エネルギー密度や起電力を高められることが分かる。また、エネルギー密度を高められることで、レドックスフロー電池システムの中で、大きな体積を占めている電解液の貯留タンクを小型にでき、システムの小型化に寄与することができる。エネルギー密度及び起電力を考慮すると正極Ti/正極Mnが1.0(100%)以上が最も好ましいと言える。また、充電状態が130%を超えた場合、放電平均電圧を1.4Vとした場合の理想エネルギー密度:18.8kWh/m3よりもエネルギー密度が高い。この理由は、1電子反応に加えて2電子反応も生じているためであると考えられる。
[試験例4-1]
試験例3と同様にTi/Mn系レドックスフロー電池システムを構築して充放電を数日間行い、電池特性(放電容量、電流効率、電圧効率、エネルギー効率)を調べた。
この試験では、正極電解液として、硫酸濃度が2Mの硫酸水溶液に、硫酸マンガン(2価):MnSO4及び硫酸チタン(4価):TiOSO4を溶解して、マンガンイオン(2価)の濃度が1M、チタンイオン(4価)の濃度が0.8M(正極Ti/正極Mn=0.8(80%))の電解液を用意し、負極電解液として、硫酸濃度が2Mの硫酸水溶液に、硫酸チタン(4価):TiOSO4を溶解して、チタンイオン(4価)の濃度が0.4M(負極Ti/正極Ti=0.5(50%))の電解液を用意した。
この試験では、正極電解液:2L(リットル)程度、負極電解液:6L程度、隔膜:陰イオン交換膜を用い、各極の電極:カーボンフェルト、各電極の面積:500cm2とし、出力50W程度が得られる電池セルを具えるTi/Mn系レドックスフロー電池システムを構築した。
上記レドックスフロー電池を電流密度:70mA/cm2の定電流で充放電を約4日間行った(切替電圧:1.5V)。運転中の電流効率及び放電容量を図5に示す。電流効率、電圧効率、エネルギー効率は、試験例1と同様にして求めた。放電容量(Ah)は、放電時間(h)×電流(A)(電流=電流密度×電極面積)により求めた。その結果、抵抗が大きく変化しなかったため電圧効率が85%とほぼ一定であったが、電流効率が99.7%から98.2%に低下した。この試験では、図5に示すように0.5日ぐらいで急激に低下していることが分かる。この電流効率の低下により、エネルギー効率も84.7%から83%に低下した。また、放電容量も41Ahから31Ahに低下した。この原因を検討したところ、約4日間の充放電試験後、正極電解液のチタンイオンの濃度がマンガンイオンの濃度の50%未満になっていた。このことから、正極電解液のチタンイオンが経時的に負極電解液に拡散したと考えられる。
[試験例4-2]
そこで、負極電解液のチタンイオンの濃度の割合が上記試験例4-1と異なる電解液、具体的には、硫酸濃度:2M、チタンイオン(4価)の濃度が0.8M(負極Ti/正極Ti=1(100%))の電解液を用意した。正極電解液は、上記試験例4-1と同様のもの(硫酸濃度:2M、マンガンイオン(2価)の濃度:1M、チタンイオン(4価)の濃度:0.8M)とし、各極電解液をそれぞれ3L(リットル)程度用意した。そして、上記試験例4-1と同様の出力50W程度が得られるレドックスフロー電池システム(陰イオン交換膜、カーボンフェルト電極、電極面積:500cm2)を構築して、電流密度:70mA/cm2の定電流で充放電を約4日間行った(切替電圧:1.5V)。運転中の電流効率及び放電容量を図6に示す。
図6に示すように、両極電解液のチタンイオンの濃度が等しい場合、電流効率や放電容量が殆ど低下せず一定であり、電流効率:99.7%、放電容量:30Ahであった。このような結果となったのは、負極電解液のチタンイオンの濃度を正極電解液のチタンイオンの濃度と同等以上としたことで、正極のチタンイオンが負極側に拡散することを抑制できたためであると考えられる。また、図6に示すようにこのレドックスフロー電池は、約2週間に亘り充放電を持続しても、電流効率や放電容量にほとんど低下が見られなかった。従って、Ti/Mn系レドックスフロー電池では、両極電解液のチタンイオンの濃度を同等、或いは負極電解液のチタンイオンの濃度を高めることで、長期に亘り、優れた電池特性を維持できる、即ち、長期に亘り、安定した性能を有すると言える。
[試験例5]
試験例3と同様にTi/Mn系レドックスフロー電池システムを構築して、試験例1と同様に充放電サイクル時間と電池電圧との関係を調べた。
この試験では、隔膜に、試験例4で用いた陰イオン交換膜に比べてマンガンイオンやチタンイオンの透過性が十分に小さい特性を有するイオン交換膜を用いた。具体的には、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との共重合体から構成された市販品(Nafion(登録商標)PFSA隔膜:N-117)を用いた。
また、この試験では、正極電解液について、硫酸濃度:2M、マンガンイオン(2価)の濃度:1M、チタンイオン(4価)の濃度:0.8M(正極Ti/正極Mn=0.8(80%))、正極電解液量:7ml(7cc)とし、負極電解液について、硫酸濃度:2M、チタンイオン(4価)の濃度:0.4M(負極Ti/正極Ti=0.5(50%))、負極電解液量:21ml(21cc)とした。そして、各極電極:カーボンフェルトとし、各極電極の面積:9cm2の小型の単セル電池を作製し、電流密度:70mA/cm2の定電流で充放電を行った(切替電圧:1.7V)。図7に充放電サイクル時間と電池電圧との関係を示す。また、試験例1と同様にして、初期の充電時間から算出した充電状態:SOC及び9サイクル後の充電状態:SOC、電池特性(電流効率、電圧効率、エネルギー効率)を調べた。
その結果、電流効率:100%、電圧効率:82.1%、エネルギー効率:82.1%であり、優れた電池特性を有することが確認できた。また、この試験では、9サイクルの充放電において、電流効率がほぼ100%であり、一定に維持されていた。更に、電解液量とイオン濃度とから放電容量(ここでは放電時間とする)を求めたところ、初期の放電容量:13.5minであり、9サイクル後の放電容量も13.5minと変化しておらず、電池容量の低下も実質的に見られなかった。このような結果となった理由は、チタンイオン及びマンガンイオンの透過性の小さいイオン交換膜を利用することで、正極電解液のチタンイオンが負極側に拡散することを防止できたため、と考えられる。従って、Ti/Mn系レドックスフロー電池では、チタンイオン及びマンガンイオンの透過を十分に抑制できるイオン交換膜を利用することで、長期に亘り、優れた電池特性を維持できると言える。
なお、試験例5では、正極電解液として、マンガンイオンの濃度に対するチタンイオンの濃度の比:正極Ti/正極Mnが50%以上の電解液を用いたが、50%未満のものを利用できる。また、試験例5では、負極電解液として、チタンイオンの濃度が正極電解液のチタンイオンの濃度と同等未満の電解液を用いたが、同等以上のものを利用できる。この場合、負極電解液のチタンイオン濃度の調整に加えて、上述の特定のイオン交換膜を使用することで、正極電解液のチタンイオンが負極側に拡散することをより効果的に抑制することができる。
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、正極電解液のマンガンイオンの濃度やチタンイオンの濃度、正極電解液の溶媒の酸濃度、負極活物質の金属イオンの種類や濃度、各極電解液の溶媒の種類や濃度、電極の材質、隔膜の材質などを適宜変更することができる。
本発明レドックスフロー電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした大容量の蓄電池に好適に利用することができる。その他、本発明レドックスフロー電池は、一般的な発電所に併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用することができる。
100 レドックスフロー電池 101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極 106 正極電解液用のタンク
107 負極電解液用のタンク 108,109,110,111 配管 112,113 ポンプ

Claims (9)

  1. 正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在される隔膜とを具える電池セルに正極電解液及び負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
    前記正極電解液は、マンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有し、
    前記負極電解液は、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、亜鉛イオン、及びスズイオンから選択される少なくとも一種の金属イオンを含有し、
    前記正極電解液のチタンイオンの濃度は、マンガンイオンの濃度の50%以上であり、
    前記正極電解液のマンガンイオン及びチタンイオンの各濃度、及び前記負極電解液の各金属イオンの濃度がいずれも0.3M以上5M以下であるレドックスフロー電池。
  2. 前記負極電解液は、チタンイオンを含有し、
    前記負極電解液のチタンイオンの濃度は、前記正極電解液のチタンイオンの濃度と同等以上である請求項1に記載のレドックスフロー電池。
  3. 前記隔膜は、イオン交換膜である請求項1または請求項2に記載のレドックスフロー電池。
  4. 前記正極電解液及び前記負極電解液の両極電解液は、硫酸アニオンを含有し、
    前記両極電解液の硫酸濃度が5M未満である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
  5. 前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のチタンイオンとを含有し、
    前記負極電解液は、以下の(1)〜(5)のいずれか一つを満たす請求項1に記載のレドックスフロー電池。
    (1) 3価のチタンイオン及び4価のチタンイオンの少なくとも一種のチタンイオンを含有する。
    (2) 2価のバナジウムイオン及び3価のバナジウムイオンの少なくとも一種のバナジウムイオンを含有する。
    (3) 2価のクロムイオン及び3価のクロムイオンの少なくとも一種のクロムイオンを含有する。
    (4) 2価の亜鉛イオンを含有する。
    (5) 2価のスズイオン及び4価のスズイオンの少なくとも一種のスズイオンを含有する。
  6. 前記正極電解液は、2価のマンガンイオン及び3価のマンガンイオンの少なくとも一種のマンガンイオンと、4価のマンガンと、4価のチタンイオンとを含有し、
    前記負極電解液は、以下の(I)〜(V)のいずれか一つを満たす請求項1に記載のレドックスフロー電池。
    (I) 2価のチタンイオン、3価のチタンイオン、及び4価のチタンイオンから選択される少なくとも一種のチタンイオンを含有する。
    (II) 2価のバナジウムイオン及び3価のバナジウムイオンの少なくとも一種のバナジウムイオンを含有する。
    (III) 2価のクロムイオン及び3価のクロムイオンの少なくとも一種のクロムイオンを含有する。
    (IV) 2価の亜鉛イオンを含有する。
    (V) 2価のスズイオン及び4価のスズイオンの少なくとも一種のスズイオンを含有する。
  7. 前記正極電解液は、更に、3価のクロムイオンを含有し、
    前記負極電解液は、クロムイオンと、2価のマンガンイオンとを含有する請求項1に記載のレドックスフロー電池。
  8. 前記正極電極及び前記負極電極は、
    Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属と、Ru,Ti,Ir,Mn,Pd,Au,及びPtから選択される少なくとも一種の金属の酸化物とを含む複合材、
    前記複合材を含むカーボン複合物、
    前記複合材を含む寸法安定電極(DSE)、
    導電性ポリマ、
    グラファイト、
    ガラス質カーボン、
    導電性ダイヤモンド、
    導電性ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、
    カーボンファイバからなる不織布、
    及びカーボンファイバからなる織布から選択される少なくとも一種の材料から構成されており、
    前記隔膜は、多孔質膜、膨潤性隔膜、陽イオン交換膜、及び陰イオン交換膜から選択される少なくとも一種の膜である請求項1または請求項2に記載のレドックスフロー電池。
  9. 前記正極電解液及び前記負極電解液の両極電解液の溶媒は、HSO、KSO、NaSO、HPO、KHPO、NaPO、KPO、H、HNO、KNO、及びNaNOから選択される少なくとも一種の水溶液である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
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