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JP5712667B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、変圧器などの鉄心材料に供して好適な変圧器特性に優れる方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
方向性電磁鋼板は、主にトランスの鉄心として利用され、その磁化特性が優れていること、特に鉄損が低いことが求められている。
そのためには、鋼板中の二次再結晶粒を(110)[001]方位(ゴス方位)に高度に揃えることや製品中の不純物を低減することが重要である。
さらに、結晶方位の制御や不純物の低減には限界があることから、鋼板の表面に対して物理的な手法で不均一性を導入し、磁区の幅を細分化して鉄損を低減する技術、すなわち磁区細分化技術が開発されている。
たとえば、特許文献1には、最終製品板にレーザーを照射し、鋼板表層に高転位密度領域を導入することにより、磁区幅を狭くして鉄損を低減する技術が提案されている。
また、特許文献2には、電子ビームの照射により磁区幅を制御する技術が提案されている。
しかしながら、上述したような磁区細分化処理を施した方向性電磁鋼板を、実機トランスに組上げた場合に、実機トランスの騒音が大きくなるという問題があった。
特公昭57-2252号公報 特公平6-72266号公報
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、磁区細分化処理に工夫を加えることによって、実機トランスに組上げた場合に、鉄損特性に優れるのはいうまでもなく、優れた騒音特性を得ることができる変圧器特性に優れる方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
さて、発明者等は、上記の問題を解決するために、磁区細分化処理を施した方向性電磁鋼板を使用したときに発生が懸念される、実機トランスにおける騒音増加の原因について調査した。
その結果、実機トランスにおける騒音の増加は、磁区細分化の際に導入される熱歪に起因した鋼板の形状劣化が原因であり、たとえば電子ビームを点状に照射することにより熱歪を導入する場合には、一点当たりの滞留時間および点間隔を制御してやれば、形状劣化を防止しつつ、大きな磁区細分化効果が得られることが明らかになった。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.最終仕上げ焼鈍後の方向性電磁鋼板に、張力コーティング処理を行い、前記最終仕上げ焼鈍後または前記張力コーティング処理後に、電子ビーム照射による磁区細分化処理を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、
電子ビームを点状に照射するものとし、その際、一点当たりの滞留時間tと点間隔Xとの関係を、ビーム出力に応じて
(1) ビーム出力が600W未満の場合には、
0.05 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 1.5
ここで、Da:熱拡散率(22.7mm 2 /s at 300K in Fe)
t:一点当たりの滞留時間(s)
X:点間隔(mm)
(2) ビーム出力が600〜1200Wの場合には、
0.03 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 0.8
(3) ビーム出力が1200W超の場合には、
0.01 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 0.2
の範囲となるように制御することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、電子ビーム照射により磁区を細分化して鉄損を低減した方向性電磁鋼板を製造する場合に、電子ビーム照射条件をビーム出力に応じて適正に制御することにより、方向性電磁鋼板を積層して変圧器に組上げた場合に、より低い騒音および鉄損を達成することができる。
電子ビーム照射における一点当たりの滞留時間と点間隔が、鋼板反り量と鉄損改善量に与える影響を示した図である。 本発明における一点当たりの滞留時間および点間隔の説明図である。
以下、本発明を具体的に説明する。
さて、本発明で解明した、電子ビーム照射により熱歪みを付与した磁区細分化鋼板を用いて組上げたときに懸念される実機トランス騒音および鉄損の増加を防止するためのポイントは、次の2点である。
(1) 一点当たりの電子ビーム滞留時間の制御
一点当たりの電子ビーム滞留時間が鋼板の反りおよび鉄損に影響を与える理由は、次のように考えられる。
表面より電子ビームが鋼板に照射され、熱歪が導入されるとその熱は周辺に拡散する。この熱拡散量の増加は、歪導入領域の増大を意味しており、磁区細分化効果が増大し、鉄損改善量は大きくなる。一方、歪導入領域の増大は鋼板反り量の増加を招く。この熱拡散量は、後述するように時間の平方根に比例する。従って、一点当たりの滞留時間は、鋼板反り量と鉄損改善量に大きな影響を与える。
また、鋼板反り量が変圧器騒音および鉄損に影響を与える理由については、次のように考えている。鋼板反り量は、鋼板自体の特性には大きな影響を与えないが、変圧器では鋼板を積層させるため、鋼板一枚当たりの反り量が小さくても積層体としての反り量は非常に大きくなる。大きな反りがある状態で締結した場合、強制的に形状が矯正されるため、大きな歪が導入され、鋼板の鉄損および磁歪特性の劣化を招き、変圧器特性も悪くなる。
(2) 点間隔の制御
点間隔が鋼板の反りおよび鉄損に影響を与える理由は、次のように考えている。
点間隔が狭くなってくると、歪導入面積が拡大するために鋼板反り量が増加する。一方、点間隔が広くなってくると、歪導入面積が小さくなるので鋼板反り量は減少するが、磁区細分化効果が不十分となるため鉄損改善量は低下する。以上より、一点当たりの電子ビーム滞留時間と同様、点間隔に応じて歪導入領域が変化するために、鋼板反り量および鉄損改善量が変化する。
図1に、電子ビーム出力:900Wで、一点当たりの滞留時間および点間隔を種々に変更した場合における鋼板反り量と鉄損改善量との関係について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、ある特定の範囲では、鋼板反り量が小さくかつ鉄損改善量が良好であることが分かる。
ここで、本発明における一点当たりの滞留時間および点間隔について説明する。
図2に、模式図を示すが、電子ビーム照射は、圧延方向を横切る方向、好適には圧延方向に対し60°〜90°の方向にドット状(点状)で行う。電子ビームが各点を照射している時間が一点当たりの滞留時間、各点の中心間距離が点間隔である。
また、鋼板反り量と電子ビーム照射による鉄損改善量の求め方は、次のとおりである。
まず、鋼板反り量について述べる。対象鋼板から、圧延方向の反りを測定する場合は圧延方向:280mm×圧延直角方向:30mm、また圧延直角方向の反りを測定する場合は圧延直角方向:280mm×圧延方向:30mmのサンプルをそれぞれ切り出し、反り量を測定する。本発明では、圧延方向および圧延直角方向の反りを測定し、大きい方の値を採用する。
また、鉄損改善量は、電子ビーム照射の前後で鉄損測定を行い、その差(照射前鉄損値−照射後鉄損値)を示している。
上記(1),(2)で述べた考え方では、滞留時間の増加により反り量:増加、鉄損改善量:増加となる一方、点間隔の増加により反り量:減少、鉄損改善量:減少となり、2つのパラメーターによる反り量と鉄損改善量の変化は反対の傾向を示す。この考え方と実験により求めた鋼板反り量と鉄損改善量が両立している領域(図1)との関係を調査した結果、鋼板反り量と鉄損改善量が両立する条件は、ビーム出力によって上下限が変化し、下記式の範囲を満足させればよいことが判明した。なお、ビーム出力によって上下限が変動するのは、ビーム出力も鋼板の歪分布に影響を与えるためである。
(1) ビーム出力が600W未満の場合には、
0.05 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 1.5
ここで、Da:熱拡散率(22.7mm 2 /s at 300K in Fe)
t:一点当たりの滞留時間(s)
X:点間隔(mm)
(2) ビーム出力が600〜1200Wの場合には、
0.03 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 0.8
(3) ビーム出力が1200W超の場合には、
0.01 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 0.2

歪の導入処理としては、電子ビーム照射およびレーザ光照射が考えられるが、本発明では、歪導入処理は電子ビーム照射に限定する。というのは、レーザ光照射の場合は、レーザ光をスキャナーで走査しているが、今回のような不規則な動きはスキャナーに過度な負担がかかり、長時間・安定的に照射するのが困難なためである。
本発明において、一点当たりの滞留時間tは、1.0×10-7〜1.0×10-3s、点間隔Xは0.01〜0.64mmとするのが好ましい。この滞留時間および点間隔について、ともに上下限を拡げるためには高性能の設備を導入する必要があり、設備コストの上昇を招く。上記範囲の滞留時間および点間隔は一般的な電子ビーム加工機で容易に実現可能な範囲である。
電子ビームの照射方向は、圧延方向を横切る方向、好適には60°〜90°の方向であり、また照射間隔は3〜15mm程度とするのが好ましい。
ビーム出力の下限については、特に規定しないが、あまりにも低い出力で照射した場合、その他の操業条件(たとえば真空度)のわずかな変動でも歪導入量が変化し、安定度が悪くなるので、安定度の観点からは50W以上とすることが好ましい。一方、上限については、高出力によって得られる特性が格段に向上するわけではなく、また建設費も割高になることから、好ましくは1800Wである。加速電圧およびビーム電流については、好ましいビーム出力50〜1800Wになるように設定すればよい。ビーム径は0.01〜0.30mm程度とするのが効果的である。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法において、最終仕上げ焼鈍までの工程は、従来公知の製造工程いずれもが適合する。そして、最終仕上げ焼鈍後に張力コーティング処理を行い、その最終仕上げ焼鈍後、もしくは張力コーティング後に上記の条件で電子ビーム照射を行う。
本発明の方向性電磁鋼板の表面に形成される張力コーティングは、従来公知の張力コーティングで構わないが、リン酸アルミニウムやリン酸マグネシウム等のリン酸塩とシリカを主成分とするガラス質の張力絶縁コーティングであることが好ましい。また、張力コーティング処理は、平坦化焼鈍を行なう場合は、平坦化焼鈍と兼ねて行うことが好ましい。
C:0.075質量%、Si:3.4質量%、Mn:0.06質量%、Ni:0.05質量%、Al:270質量ppm、N:80質量ppm、Se:200質量ppm、S:18質量ppmおよびO:30質量ppmを含有し、残部は実質的にFeの組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造し、1450℃に加熱後、熱間圧延により板厚:1.8mmの熱延板としたのち、1050℃で120秒の熱延板焼鈍を施した。ついで、冷間圧延により中間板厚:1.0 mmとし、雰囲気酸化度〔P(H2O)/P(H2)〕=0.32、温度:1000℃、時間:60秒の条件で中間焼鈍を実施した。その後、塩酸酸洗により表面のサブスケールを除去したのち、再度、冷間圧延を実施して、最終板厚:0.23mmの冷延板とした。ついで、雰囲気酸化度〔P(H2O)/P(H2)〕=0.48、均熱温度:820℃、均熱時間:180秒の条件で脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶・フォルステライト被膜形成および純化を目的とした最終仕上げ焼鈍を1250℃、100hの条件で実施した。そして、60質量%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁コーティング処理液を塗布し、800℃にて焼付けた。この張力コーティング処理は、平坦化焼鈍も兼ねている。
その後、圧延方向と直角の向きに照射間隔:5.0mmにて電子ビームを照射する磁区細分化処理を片面に施して製品としたのち、製品としての磁気特性および鋼板反り量を評価した。電子ビーム照射条件において、ビーム出力、一点当たりの滞留時間および点間隔は表1に示すように種々の条件で行った。ついで、各製品を斜角せん断し、500kVAの三相トランスを組み立て、50Hz、1.7Tで励磁した状態での鉄損W17/50および騒音を測定した。本トランスにおける鉄損W17/50および騒音の設計値は、それぞれ0.87W/kg,58dB である。
得られた結果を表1に示す。
Figure 0005712667
表1から明らかなように、本発明に従い得られた方向性電磁鋼板を用いて実機トランスを組立てた場合は、鉄損・騒音ともに設計値を満足する特性が得られている。
しかしながら、本発明の製造条件を逸脱して製造された方向性電磁鋼板を用いた実機トランスは、設計どおりの特性が得られていない。

Claims (1)

  1. 最終仕上げ焼鈍後の方向性電磁鋼板に、張力コーティング処理を行い、前記最終仕上げ焼鈍後または前記張力コーティング処理後に、電子ビーム照射による磁区細分化処理を行う方向性電磁鋼板の製造方法において、
    電子ビームを点状に照射するものとし、その際、一点当たりの滞留時間tと点間隔Xとの関係を、ビーム出力に応じて
    (1) ビーム出力が600W未満の場合には、
    0.05 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 1.5
    ここで、Da:熱拡散率(22.7mm 2 /s at 300K in Fe)
    t:一点当たりの滞留時間(s)
    X:点間隔(mm)
    (2) ビーム出力が600〜1200Wの場合には、
    0.03 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 0.8
    (3) ビーム出力が1200W超の場合には、
    0.01 ≦ 2(Da・t)1/2/X ≦ 0.2
    の範囲となるように制御することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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