JP5708319B2 - 冷延鋼板 - Google Patents
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Description
本発明は、そのような要請に応えるためになされたものである。具体的には、本発明の課題は、優れた延性、加工硬化性および伸びフランジ性を有する、引張強度が780MPa以上の高張力冷延鋼板を提供することである。
(A)熱間圧延直後に水冷により急冷するいわゆる直後急冷プロセスを経て製造された熱延鋼板、具体的には、熱間圧延完了から0.40秒間以内に720℃以下の温度域まで急冷して製造された熱延鋼板を、冷間圧延し焼鈍すると、焼鈍温度の上昇に伴い、冷延鋼板の延性および伸びフランジ性が向上するが、焼鈍温度が高すぎると、オーステナイト粒が粗大化し、焼鈍鋼板の延性および伸びフランジ性が急激に劣化する場合がある。
図3は、TS1.7×λと粒径1.2μm以上の粗大な残留オーステナイトの数密度(NR)との関係を示すグラフである。TSは引張強度、λは穴拡げ率であり、TS1.7×λは、強度と穴拡げ率のバランスから穴拡げ性を評価するための指標である。同図に示されているように、TS1.7×λはNRと相関関係を有し、NRが低いほど穴拡げ性が向上することが分かる。この理由は明らかではないが、(a)残留オーステナイトは、加工により硬質なマルテンサイトに変化するが、残留オーステナイト粒が粗大であるとマルテンサイト粒も粗大となり、応力集中が高まり、母相との界面にボイドが容易に発生し割れの起点となること、(b)粗大な残留オーステナイト粒は加工の初期段階でマルテンサイト化するため、微細な残留オーステナイト粒よりも割れの起点となりやすいこと、に起因すると推定される。
(1)質量%で、C:0.020%超0.30%未満、Si:0.10%超3.00%以下、Mn:1.00%超3.50%以下、P:0.10%以下、S:0.010%以下、sol.Al:2.00%以下およびN:0.010%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する冷延鋼板であって、主相が低温変態生成相で第二相に残留オーステナイトおよびポリゴナルフェライトを含む金属組織を備え、前記残留オーステナイトは、全組織に対する体積率が4.0%超25.0%未満、平均粒径が0.80μm未満であり、前記残留オーステナイトの内、粒径が1.2μm以上である残留オーステナイト粒の数密度が3.0×10−2個/μm2以下であり、前記ポリゴナルフェライトは、全組織に対する体積率が2.0%超27.0%未満、平均粒径が5.0μm未満であり、引張強度が780MPa以上である、ことを特徴とする冷延鋼板。
(2)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.050%未満、Nb:0.050%未満およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)に記載の冷延鋼板。
(3)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Mo:0.50%以下およびB:0.010%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)または上記(2)に記載の冷延鋼板。
(4)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.010%以下、Mg:0.010%以下、REM:0.050%以下およびBi:0.050%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)から上記(3)のいずれかに記載の冷延鋼板。
本発明の冷延鋼板は、主相が低温変態生成相であり、第二相に残留オーステナイトおよびポリゴナルフェライトを含み、該残留オーステナイトは、全組織に対する体積率が4.0%超25.0%未満、平均粒径が0.80μm未満であり、該残留オーステナイトのうち、粒径が1.2μm以上である残留オーステナイト粒の数密度が3.0×10−2個/μm2以下であり、前記ポリゴナルフェライトは、全組織に対する体積率が2.0%超27.0%未満、平均粒径が5.0μm未満であるという金属組織を有する。
残留オーステナイト粒の粒径および残留オーステナイトの平均粒径は、次のようにして測定する。すなわち、鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な縦断面を電解研磨し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置においてEBSPを備えたSEMを用いて金属組織を観察する。面心立方晶型の結晶構造からなる相(fcc相)として観察され母相に囲まれた領域を一つの残留オーステナイト粒とし、画像処理により、残留オーステナイト粒の数密度(単位面積あたりの粒数)および個々の残留オーステナイト粒の面積率を測定する。視野中で個々の残留オーステナイト粒が占める面積から個々のオーステナイト粒の円相当直径を求め、それらの平均値を残留オーステナイトの平均粒径とする。なお、EBSPによる組織観察では、板厚方向に50μm以上、圧延方向に100μm以上の大きさの領域において、0.1μm刻みで電子ビームを照射して相の判定を行う。得られた測定データの内、信頼性指数(Confidence Index)が0.1以上のものを有効なデータとして粒径測定に用いる。また、測定ノイズにより残留オーステナイトの粒径が過小に評価されることを防ぐため、円相当直径が0.15μm以上の残留オーステナイト粒のみを有効な粒として、平均粒径の算出を行う。
El=El0×(1.2/t0)0.2 ・・・ (1)
に基づいて板厚1.2mm相当の全伸びに換算した値であるEl、日本工業規格JIS Z2253に準拠して歪み範囲を5〜10%とし5%と10%の公称歪みおよびこれらに対応する試験力を用いて算出される加工硬化指数であるn値、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に準拠して測定される穴拡げ率λが、
・TS×Elの値が20000MPa%以上、
・TS×n値の値が160MPa以上、および
・TS1.7×λの値が5500000MPa1.7%以上、
を満たすことが好ましい。
C:0.020%超0.30%未満
C含有量が0.020%以下では上述した金属組織を得ることが困難となる。したがって、C含有量は0.020%超とする。好ましくは0.070%超、さらに好ましくは0.10%超、特に好ましくは0.14%超である。一方、C含有量が0.30%以上では鋼板の伸びフランジ性が損なわれるばかりか溶接性が劣化する。したがって、C含有量は0.30%未満とする。好ましくは0.25%未満、さらに好ましくは0.20%未満、特に好ましくは0.17%未満である。
Siは、焼鈍中のオーステナイト粒成長抑制を通じ、延性、加工硬化性および伸びフランジ性を改善する作用を有する。また、オーステナイトの安定性を高める作用を有し、上記の金属組織を得るのに有効な元素である。Si含有量が0.10%以下では上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、Si含有量は0.10%超とする。好ましくは0.60%超、さらに好ましくは0.90%超、特に好ましくは1.20%超である。一方、Si含有量が3.00%超では鋼板の表面性状が劣化する。さらに、化成処理性およびめっき性が著しく劣化する。したがって、Si含有量は3.00%以下とする。好ましくは2.00%未満、さらに好ましくは1.80%未満、特に好ましくは1.60%未満である。
Si+sol.Al>0.90 ・・・ (3)
Si+sol.Al>1.20 ・・・ (4)
ここで、式中のSiは鋼中でのSi含有量を、sol.Alは酸可溶性のAl含有量を質量%にて表したものである。
Mnは、鋼の焼入性を向上させる作用を有し、上記の金属組織を得るのに有効な元素である。Mn含有量が1.00%以下では上記の金属組織を得ることが困難となる。したがって、Mn含有量は1.00%超とする。好ましくは1.50%超、さらに好ましくは1.80%超、特に好ましくは2.10%超である。Mn含有量が過剰となると、熱延鋼板の金属組織において、圧延方向に展伸した粗大な低温変態生成相が生じ、冷延間圧延および焼鈍後の金属組織において粗大な残留オーステナイト粒が増加し、加工硬化性および伸びフランジ性が劣化する。したがって、Mn含有量は3.50%以下とする。好ましくは3.00%未満、さらに好ましくは2.80%未満、特に好ましくは2.60%未満である。
Pは、不純物として鋼中に含有される元素であり、粒界に偏析して鋼を脆化させる。このため、P含有量は少ないほど好ましい。したがって、P含有量は0.10%以下とする。好ましくは0.050%未満、さらに好ましくは0.020%未満、特に好ましくは0.015%未満である。
Sは、不純物として鋼中に含有される元素であり、硫化物系介在物を形成して伸びフランジ性を劣化させる。このため、S含有量は少ないほど好ましい。したがって、S含有量は0.010%以下とする。好ましくは0.005%未満、さらに好ましくは0.003%未満、特に好ましくは0.002%未満である。
Alは、溶鋼を脱酸する作用を有する。本発明においては、Alと同様に脱酸作用を有するSiを含有させるため、Alは必ずしも含有させる必要はない。すなわち、限りなく0%に近くてもよい。脱酸の促進を目的として含有させる場合には、sol.Alとして0.0050%以上含有させることが好ましい。さらに好ましいsol.Al含有量は0.020%超である。また、Alは、Siと同様にオーステナイトの安定性を高める作用を有し、上記の金属組織を得るのに有効な元素であるので、この目的でAlを含有させることができる。この場合、sol.Al含有量は好ましくは0.040%超、さらに好ましくは0.050%超、特に好ましくは0.060%超である。一方、sol.Al含有量が高すぎると、アルミナに起因する表面疵が発生しやすくなるばかりか、変態点が大きく上昇し低温変態生成相を主相とする金属組織を得ることが困難となる。したがって、sol.Al含有量は2.00%以下とする。好ましくは0.60%未満、さらに好ましくは0.20%未満、特に好ましくは0.10%未満である。
Nは、不純物として鋼中に含有される元素であり、延性を劣化させる。このため、N含有量は少ないほど好ましい。したがって、N含有量は0.010%以下とする。好ましくは0.006%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。
Ti:0.050%未満、Nb:0.050%未満およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Ti、NbおよびVは、熱間圧延工程で再結晶を抑制することにより加工歪みを増大させ、熱延鋼板の金属組織を微細化する作用を有する。また、炭化物または窒化物として析出し、焼鈍中のオーステナイトの粗大化を抑制する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、これらの元素を過剰に含有させても上記作用による効果が飽和して不経済となる。そればかりか、焼鈍時の再結晶温度が上昇し、焼鈍後の金属組織が不均一となり、伸びフランジ性も損なわれる。さらには、炭化物または窒化物の析出量が増し、降伏比が上昇し、形状凍結性も劣化する。
Cr、MoおよびBは、鋼の焼入性を向上させる作用を有し、上記の金属組織を得るのに有効な元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、これらの元素を過剰に含有させても上記作用による効果が飽和して不経済となる。したがって、Cr含有量は1.0%以下、Mo含有量は0.50%以下、B含有量は0.010%以下とする。Cr含有量は好ましくは0.50%以下であり、Mo含有量は好ましくは0.20%以下であり、B含有量は好ましくは0.0030%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには、Cr:0.20%以上、Mo:0.05%以上およびB:0.0010%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
Ca、MgおよびREMは介在物の形状を調整することにより、Biは凝固組織を微細化することにより、ともに伸びフランジ性を改善する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、これらの元素を過剰に含有させても上記作用による効果が飽和して不経済となる。したがって、Ca含有量は0.010%以下、Mg含有量は0.010%以下、REM含有量は0.050%以下、Bi含有量は0.050%以下とする。好ましくは、Ca含有量は0.0020%以下、Mg含有量は0.0020%以下、REM含有量は0.0020%以下、Bi含有量は0.010%以下である。上記作用をより確実に得るには、Ca:0.0005%以上、Mg:0.0005%以上、REM:0.0005%以上およびBi:0.0010%以上のいずれかを満足させることが好ましい。なお、REMとは希土類元素を意味し、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REM含有量はこれらの元素の合計含有量である。
上述した化学組成を有する鋼は、公知の手段により溶製された後に、連続鋳造法により鋼塊とされるか、または、任意の鋳造法により鋼塊とした後に分塊圧延する方法等により鋼片とされる。連続鋳造工程では、介在物に起因する表面欠陥の発生を抑制するために、鋳型内にて電磁攪拌等の外部付加的な流動を溶鋼に生じさせることが好ましい。鋼塊または鋼片は、一旦冷却されたものを再加熱して熱間圧延に供してもよく、連続鋳造後の高温状態にある鋼塊または分塊圧延後の高温状態にある鋼片をそのまま、あるいは保温して、あるいは補助的な加熱を行って熱間圧延に供してもよい。本明細書では、このような鋼塊および鋼片を、熱間圧延の素材として「スラブ」と総称する。熱間圧延に供するスラブの温度は、オーステナイトの粗大化を防止するために、1250℃未満とすることが好ましく、1200℃以下とすればさらに好ましい。熱間圧延に供するスラブの温度の下限は特に限定する必要はなく、後述するように熱間圧延をAr3点以上で完了することが可能な温度であればよい。
実験用真空溶解炉を用いて、表1に示される化学組成を有する鋼を溶解し鋳造した。得られた各鋼塊を、熱間鍛造により厚さ30mmの鋼片とした。鋼片を、電気加熱炉を用いて1200℃に加熱し60分間保持した後、表2に示される条件で熱間圧延を行った。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.020%超0.30%未満、Si:0.10%超3.00%以下、Mn:1.00%超3.50%以下、P:0.10%以下、S:0.010%以下、sol.Al:2.00%以下およびN:0.010%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する冷延鋼板であって、主相が低温変態生成相で、第二相に残留オーステナイトおよびポリゴナルフェライトを含む金属組織を備え、前記残留オーステナイトは、全組織に対する体積率が4.0%超25.0%未満、平均粒径が0.80μm未満であり、前記残留オーステナイトのうち、粒径が1.2μm以上である残留オーステナイト粒の数密度が3.0×10−2個/μm2以下であり、前記ポリゴナルフェライトは、全組織に対する体積率が2.0%超27.0%未満、平均粒径が5.0μm未満であり、引張強度が780MPa以上である、ことを特徴とする冷延鋼板。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.050%未満、Nb:0.050%未満およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有するものである請求項1に記載の冷延鋼板。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Mo:0.50%以下およびB:0.010%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有するものである請求項1または請求項2に記載の冷延鋼板。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.010%以下、Mg:0.010%以下、REM:0.050%以下およびBi:0.050%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有するものである請求項1から請求項3のいずれかに記載の冷延鋼板。
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