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JP5706830B2 - 潤滑油の劣化・変質度測定方法及びその測定装置 - Google Patents

潤滑油の劣化・変質度測定方法及びその測定装置 Download PDF

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Description

本発明は、潤滑油の劣化・変質度測定方法等に関し、詳しくは、潤滑油の劣化・変質の程度を測定するとともに劣化・変質機構を予測することができる潤滑油の劣化・変質度測定方法及びその測定装置に関するものである。
潤滑油の劣化・変質度は、それを使用する機械・装置などの性能や耐久性、さらには省エネルギー性能などに大きな影響を与える。また、潤滑油の劣化・変質の進行速度は、潤滑油が使用される条件によって著しく異なる。したがって、潤滑油の劣化・変質状態は、簡易かつ正確に測定できる必要がある。
従来、エンジンオイルなどの潤滑油の劣化・変質度の測定は、潤滑油の使用時間を目安とする方法や、潤滑油の性状(例えば、動粘度、不溶解分、酸価、塩基価など)を測定し、その結果から判断する方法などが行われていた。しかしこれらの方法は、潤滑油の劣化・変質度を簡易かつ正確に測定できるものではなかった。
上記問題に対して、例えば特許文献1には、オイルパン中に抵抗センサーを取り付け、エンジンオイルの電気抵抗の変化により潤滑油の寿命を測定する方法が開示されている。また、オイルパン中にpHセンサーを設置し、オイルの酸性、塩基性度の変化に伴うpHの変化から潤滑油の寿命を測定する方法も多数開示されている。
これらの方法は、潤滑油における電気抵抗の変化やpHの変化を常時確認することができ、電気抵抗やpHの変化率が所定の値や状況に達した時点で寿命と判断することができる点で簡易な方法である。
しかしながら、前記電気抵抗は、潤滑油の劣化・変質にともなって発生する極性物質ではないスーツ(カーボン)の混入によっても変動するため、潤滑油の劣化・変質度が正確に測定できないことがある。また、前記pHは劣化・変質の程度を表しているとしても、これにより潤滑油が劣化・変質した原因(劣化・変質機構)を判断する手がかりを得ることができない。したがって潤滑油の劣化・変質を管理する上では問題があった。
近年、潤滑油のインピーダンスを測定することによって潤滑油の劣化・変質度を測定し、また、スーツ混入による影響についても究明しようとする研究が進められている。
例えば、非特許文献1では、周波数20Hz〜600kHzの広い領域における潤滑油のインピーダンスを測定し、スーツやディーゼルの混入によるインピーダンスの変化を、レジスタンス(抵抗成分)とリアクタンス(容量成分)とに分けて検討している。しかし、この検討結果からは、スーツやディーゼル濃度とインピーダンスとの関係は、明確には解明されていない。
また、特許文献2では、オイルの複素インピーダンスを測定し、その逆数の実部を抵抗成分とみなして導電率を求め、複素インピーダンスの逆数の虚部を容量成分とみなして誘電率を求めて、導電率と誘電率からオイルの劣化・変質を検出する装置が開示されている。
しかしながら、この特許文献2に記載の方法では、誘電率の測定値から劣化・変質度を正確に測定し、かつ潤滑油劣化・変質機構(劣化・変質原因)を解析することは困難である。
また、非特許文献1や特許文献2に開示されているインピーダンスを測定する装置は、測定回路が複雑になり、極めて高価な装置となるという問題もある。
特開平10−78402号公報 特開2009−2693号公報
Sensors and Actuators, B127(2007), 613-818
本発明は、このような状況下で、簡易かつ正確に潤滑油の劣化・変質の程度を測定することができると同時に、その劣化・変質機構を予測することができる潤滑油の劣化・変質度測定方法及びその測定装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、潤滑油の特定の低周波数領域における誘電率及び静電容量が、潤滑油の劣化・変質によって発生する極性物質の量に応じて変化すること、並びに潤滑油の周波数に対する誘電率又は静電容量の変化の状況が潤滑油の劣化・変質機構(劣化・変質原因)に関わる情報を与えていることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1] 2以上の異なる周波数における誘電率又は静電容量を求め、該誘電率又は静電容量の値に基づいて潤滑油の劣化・変質状態を判断する潤滑油の劣化・変質度測定方法であって、前記2以上の周波数のうちの一つの周波数(H1)が1〜100Hzの範囲であり、他の一つの周波数(H2)が(H1)を超え10,000Hz以下の範囲であることを特徴とする潤滑油の劣化・変質度測定方法、
[2]周波数(H1)が5〜80Hzの範囲であり、周波数(H2)が(H1)を超え1,000Hz以下の範囲であることを特徴とする上記[1]記載の潤滑油の劣化・変質度測定方法、
[3] 前記周波数(H1)における誘電率(ε1)又は静電容量(C1)と周波数(H2)における誘電率(ε2)又は静電容量(C2)とを求め、(ε1)若しくは(C1)又は(ε2)若しくは(C2)の値が設定値に到達した場合を潤滑油が劣化・変質したと判断し、前記周波数に対する誘電率の変化の割合〔(ε1−ε2)/(H2−H1)〕又は静電容量の変化の割合〔(C1−C2)/(H2−H1)〕に基づいて潤滑油の劣化・変質機構を予測することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の潤滑油の劣化・変質度測定方法、
[4]一対の電極、該電極間に100Hz以下の領域まで周波数を制御して交流電圧を印加する交流電源、及び前記一対の電極間の静電容量を測定する静電容量測定回路を有する静電容量測定部を具備する潤滑油の劣化・変質度測定装置、
[5]さらに、前記静電容量測定回路で得られた静電容量に基づき誘電率を算出する誘電率算出回路を有する誘電率測定部を具備する上記[4]記載の潤滑油の劣化・変質度測定装置、
[6]前記一対の電極が櫛型電極である上記[4]又は[5]記載の潤滑油の劣化・変質度測定装置、
[7]上記[4]〜[6]のいずれかに記載の潤滑油の劣化・変質度測定装置を用いてなることを特徴とする機械・装置における潤滑油監視システム、
を提供するものである。
本発明によれば、簡易かつ正確に潤滑油の劣化・変質の程度を測定することができると同時に、その劣化・変質機構を予測することができる潤滑油の劣化・変質度測定方法を提供することができる。
実施例で用いた潤滑油の容量成分(静電容量)と周波数の関係を示す図(グラフ)である。 比較例で用いた潤滑油の抵抗成分と周波数の関係を示す図(グラフ)である。 本発明の潤滑油の劣化・変質度測定装置(静電容量測定部及び誘電率算出部)の一例を示す概念図である。 本発明の潤滑油の劣化・変質度測定装置(静電容量測定部及び誘電率算出部)の他の一例を示す概念図である。
本発明は、2以上の異なる周波数における潤滑油の誘電率又は静電容量を測定し、該誘電率又は静電容量の値に基づいて潤滑油の劣化・変質状態を判断することを特徴とする潤滑油の劣化・変質度測定方法である。
本発明における「潤滑油の劣化・変質状態の判断」とは、潤滑油の劣化・変質の程度を測定すると同時に、劣化・変質機構(劣化・変質原因)を推定することを言う。この両者によって、使用されている潤滑油の寿命を正確に予測することができ、適切な潤滑油管理を行うことができる。
本発明では、上記潤滑油の劣化・変質状態を判断する手段として、2以上の異なる周波数における潤滑油の誘電率又は静電容量を測定する。
なお、上記における「2以上」には、「2」である場合及び「3以上である場合」が含まれ、その測定数の上限は特に制限はない。すなわち、周波数H1,H2・・・・Hnにおける静電容量C1,C2・・・Cnを測定し、それに基づいて誘電率ε1,ε2・・・εnを求める。
このように2以上の異なる周波数における潤滑油の誘電率又は静電容量を測定すれば、周波数の変化に対する誘電率又は静電容量の変化の割合を測定することができ、後述するように、潤滑油の劣化・変質状態を予測することができる。また、3以上の異なる周波数で測定すれば、周波数に対する誘電率又は静電容量の変化をより広く正確に把握することができる。
前記2以上の異なる周波数H1,H2・・・・Hnのうち、少なくとも一つの周波数(通常最も低い周波数)(H1)が、1〜100Hzの範囲であることが必要である。この周波数(H1)が100Hzを越えると、潤滑油の劣化・変質によって生成する極性物質の濃度に応じて変化する誘電率又は静電容量の変化が充分でないことがあるため、潤滑油間の劣化・変質状態を正確に区別して判断することができない。したがって周波数(H1)は、80Hz以下であることが好ましく、60Hz以下であることがより好ましい。
これに対し、周波数(H1)が1Hz未満になると、測定する誘電率や静電容量の値が安定せず、測定にかなりの時間を要する上、ノイズも多いため再現性のある測定値が得られない。したがって、周波数(H1)は、5Hz以上であることが好ましく、10Hz以上であることがより好ましい。
また、上記から2以上の異なる周波数の少なくとも一つの周波数(H1)は、5〜80Hzの範囲であることが好ましく、10〜60Hzの範囲であることがより好ましい。
一方、(H1)以外の他の周波数(H2)は、前記(H1)より周波数が大きく、10,000Hz以下の範囲であることが必要である。周波数が10,000Hzを越えると潤滑油の劣化・変質によって生成する極性物質の濃度に応じて変化する誘電率又は静電容量の変化が充分でないことがあるため、潤滑油間の劣化・変質状態を正確に区別して判断することができない。したがって、(H2)の周波数は周波数が10,000Hz未満であることが好ましく、1,000Hz以下であることがより好ましく、500Hz以下であることがさらに好ましく、200Hz以下であることが特に好ましい。
なお、3以上の異なる周波数における誘電率等を測定する場合の周波数(H3)・・(Hn)の範囲は、(H2)を超え10,000Hz以下、好ましくは1,000Hz以下の範囲で選択すればよい。
本発明においては、2以上の異なる周波数における誘電率又は静電容量の値に基づいて潤滑油の劣化・変質状態を判断する。
例えば、2以上周波数のうち2つの周波数に着目し以下のように判断することができる。すなわち周波数が1〜100Hzの範囲の周波数(H1)における誘電率(ε1)又は静電容量(C1)と、10,000Hz以下の領域で、前記周波数(H1)より大きい周波数(H2)における誘電率(ε2)又は静電容量(C2)とを求め、(ε1)若しくは(C1)又は(ε2)若しくは(C2)の値、及び周波数に対する誘電率の変化の割合〔(ε1−ε2)/(H2−H1)〕又は静電容量の変化の割合〔(C1−C2)/(H2−H1)〕に基づいて潤滑油の劣化・変質状態を判断する。
前記のとおり、劣化・変質状態の判断とは、劣化・変質の程度を判断し、かつ劣化・変質機構(劣化・変質原因)を予測することであるが、劣化・変質の程度の判断は、通常(ε1)若しくは(C1)の値によって行うことが好ましい。通常、測定した周波数の中で最も小さい周波数における誘電率又は静電容量が最も大きい値を示し、誘電率又は静電容量の経時変化を正確に認識できるからである。しかし、場合によっては(ε2)や(Y2)であってもよいし、(ε2)・・(εn)や(C3)・・(Cn)であってもよい。
そして劣化・変質の程度は、(ε1)や(C1)の誘電率、静電容量の値が大きいほど潤滑油の劣化・変質が進んでいると判断する。誘電率又は静電容量の値は、潤滑油の劣化・変質によって生成及び混入した極性物質(主として酸化・熱劣化して生成した極性物質及び潤滑油中に混入した極性物質)の量に対応して変化するからである。
上記周波数(H1)における誘電率(ε1)又は静電容量(Y1)の値から得られた潤滑油の劣化・変質度(劣化・変質の程度)に基づいて、潤滑油の寿命を予測する方法としては、例えば、(ε1)や(Y1)の値が予め規格エンジン試験の前後油での測定のような予備実験で定めた設定値に達した時点で劣化・変質したと推定し、また使用される潤滑油の周波数(H1)における誘電率(ε1)又は静電容量(Y1)の経時変化を外挿し前記設定値までの期間を残存寿命として推定してもよい。
次に、2以上の異なる周波数における誘電率又は静電容量の値に基づいて潤滑油の劣化・変質機構(劣化・変質原因)を予測する方法について説明する。
2以上の異なる周波数における誘電率又は静電容量の値に基づいて潤滑油の劣化・変質機構(劣化・変質原因)を予測する方法としては、周波数に対する誘電率又は静電容量の変化の割合(大きさ)に基づいて潤滑油の劣化・変質状態を判断する方法が挙げられる。
具体的には、例えば、周波数に対する誘電率の変化の割合〔(ε1−ε2)/(H2−H1)〕又は静電容量の変化の割合〔(C1−C2)/(H2−H1)〕に着目する。
〔(ε1−ε2)/(H2−H1)〕や〔(C1−C2)/(H2−H1)〕が通常よりかなり大きい(通常に比べ200%を超える)場合は、潤滑油の劣化・変質によって生成される極性物質には酸化劣化して生成されたもの以外に他の要因により発生した極性物質が混入したと推測される(劣化・変質状態I)。このような劣化・変質機構は、ガソリンエンジンに使用されるガソリンエンジン油に認められることが確かめられている。
これに対し、〔(ε1−ε2)/(H2−H1)〕や〔(C1−C2)/(H2−H1)〕が通常よりそれほど大きくはない(通常より200%以内)が、潤滑油の粘度上昇や色相の悪化が認められる場合は、潤滑油の劣化・変質による極性物質には酸化劣化して生成されたもの以外に他の非極性物質又は弱極性物質が混入したことが予測される(劣化・変質状態II)。このような劣化・変質機構による劣化・変質は、ディーゼルエンジンに使用されるディーゼルエンジン油にスーツが混入した場合に認められる。このような場合は、エンジン内の燃焼状態の調整やスーツの捕捉装置の改善などを含めて対策を講ずる必要があることを示している。
なお、周波数に対する誘電率又は静電容量の変化の割合が大きいか否かの判断基準は、異なる種類の規格エンジン試験の前後油からの計算値を比較するような、予備実験を行って設定すればよい。また、このような場合は、測定装置中に粘度計や色相計を備えておくことが好ましい。
このようにして、潤滑油の劣化・変質機構を判断することができる。なお、本発明においては、上記潤滑油の劣化・変質機構を判断するために前記誘電率又は静電容量以外の特性を測定し、それらの特性を加味して劣化・変質機構を判断してもよい。
次に、本発明の誘電率又は静電容量を測定するのに好適な測定装置について説明する。
図3は、本発明の潤滑油の劣化・変質度測定方法に用いられる潤滑油の劣化・変質度測定装置の一例を示す概念図である。
この潤滑油の劣化・変質度測定装置は、一対の電極1、該一対の電極間に周波数を100Hz以下の領域まで制御できる交流電圧を印加する交流電源2a、及び当該電極間の静電容量を測定する静電容量測定回路2bを有する静電容量測定部2を具備する潤滑油の劣化・変質度測定装置であり、この測定装置は、さらに前記静電容量測定部2で得られた静電容量に基づいて誘電率を算出する誘電率算出回路3aを有する誘電率算出部3を具備していてもよい。
前記交流電源2aは、10Hz以下の領域まで制御できるものが好ましく、1Hzまで制御できるものがより好ましい。
潤滑油の静電容量の測定方法や誘電率の算出方法としては、まず一対の電極1を潤滑油に浸漬し、静電容量測定部2の交流電源2aにより目的の周波数H1の交流電圧を電極間に印加し、静電容量測定回路2bで電極間の静電容量C1を測定する。次いで必要に応じて誘電率算出回路3aにて静電容量C1を誘電率ε1に変換する。同様にして異なる周波数H2における静電容量C2を測定し、同様に誘電率ε2を算出する。なお、誘電率εと静電容量Cは、下記(I)式の関係にある。
ε=C × d/s ・・・(I)
(式中、dは一対の電極間の距離、sは電極の表面積を示す。)
また、上記静電容量の測定における測定電圧は、0.1〜10Vp-pの範囲とすることが好ましい。
図3における一対の電極1としては、櫛型電極が好ましく、特に櫛型微小電極が好適である。また、静電容量測定部2、誘電率算出部3としては、LCRメーター,又はCメーターを用いることができる。
このように潤滑油の静電容量Cを直接測定し、またその静電容量Cの値から誘電率εを算出する方法であれば、簡素な装置であるから、安価かつ簡易に、しかも高い精度で潤滑油の静電容量や誘電率を測定、算出することができる。
特に、一対の電極1として、櫛型電極を用いた場合は評価装置が極めて小型化できるため、試料油(潤滑油)を微量採取するのみで潤滑油の劣化・変質度を測定できる効果があり、また測定に際し、試料油を観察することが容易であるため、試料油の外観(色)や臭いからも、潤滑油の劣化・変質程度や劣化・変質機構に関する補足情報を得ることができる効果もある。
図4は、本発明の劣化・変質度測定方法を実施するために用いる潤滑油の劣化・変質度測定装置の他の例を示す概念図である。
当該測定装置は、一対の電極11、周波数を1Hz域まで制御できる交流電源12、電流計13、電圧計14、並びに複素インピーダンス算出回路15aと静電容量算出回路15bを有する静電容量測定部15を具備する潤滑油の劣化・変質度測定装置であり、この測定装置は、さらに誘電率算出回路16aを有する誘電率算出部16を具備していてもよい。
静電容量又は誘電率を測定、算出する方法としては、まず一対の電極11を潤滑油に浸漬させ、周波数を1Hzまで制御できる交流電源12により、電極間に周波数H1の交流電圧を印加する。次いで、電流計、電圧計で測定した電流I、電圧V及び電流と電圧の位相差から複素インピーダンス算出回路15aにて潤滑油の複素インピーダンスを算出し、静電容量算出回路15bでそのインピーダンスを構成する実数部分(抵抗成分)ZRと虚数部分(リアクタンス)ZCのうち、虚数部分(リアクタンス)ZCの値から容量成分(すなわち静電容量)C1を算出する(下記式(II)参照)。次いで必要に応じて誘電率算出回路16aにて静電容量C1の値から誘電率ε1を算出する。また、同様にして周波数H2におけるは静電容量C2を測定する。
Z = V/I
=ZR + ZC = R + 1/jωC ・・・(II)
(式中、Zはインピーダンス、ZRは抵抗成分、ZCはインピーダンスの虚数部分、Rは抵抗値、jは虚数単位、ωは交流の角振動数、Cは静電容量を表す。)
上記静電容量の測定における測定電圧は0.1〜10Vp-pの範囲とすることが好ましい。
本発明の実施に用いる上記のような潤滑油の劣化・変質度測定装置は、エンジンなどの機械・装置の運転監視システムの一部に組み込んで、潤滑油の劣化・変質状態を常時監視することができる。したがって機械・装置における潤滑油監視システムとして用いることができる。
本発明の実施例をさらに説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
〔実施例〕
図4に示す潤滑油の劣化・変質度測定装置(静電容量測定部及び誘電率算出部)を用い、下記の測定条件にて、下記の試料油(i)〜(v)(新油、及び劣化・変質油)について周波数が40、100、150,1000、及び10,000Hzにおける容量成分〔静電容量(pF)〕を測定した。その結果を、周波数に対する容量成分(静電容量)の変化として図1に示す。
(測定条件)
・電極:櫛型微小電極
・測定電圧:1Vp-p
(測定試料)
(i)潤滑油A新油(無灰エンジン油)
(ii)潤滑油B新油(CDクラスディーゼルエンジン油)
(iii)潤滑油A劣化油(GE)〔ガソリンエンジン(GE)に使用し劣化させたもの:極性物質混入〕
(iv)潤滑油A劣化油(DE)〔ディーゼルエンジン(DE)に使用し劣化させたもの:すす混入〕
(v)潤滑油B劣化油(DE)〔ディーゼルエンジン(DE)に使用し劣化させたもの:すす混入〕
また、周波数40Hz及び100Hzにおける容量成分(静電容量)を(C40)及び(C100)としたとき、周波数に対する容量成分の変化の割合を下記の式で計算した。
周波数に対する容量成分(静電容量)の変化の割合(%)
=〔(C40−C100)/(100−40)〕×100
また同様に、周波数40Hz及び100Hzにおける容量成分から求めた誘電率をε40及びε100としたとき、周波数に対する誘電率の変化の割合は下記の式により計算することができる。
周波数に対する誘電率の変化の割合(%)
=〔(ε40−ε100)/(100−40)〕×100
ここでは、前記周波数に対する容量成分の変化の割合の結果を表1に示す。
Figure 0005706830
図1及び表1より、以下のことがわかる。
試料油(i)及び試料油(ii)は、組成が異なるが、その容量成分(静電容量)は周波数40〜10,000Hzに亘って差異がなく、いずれの劣化・変質油より小さい。
また、同じ潤滑油Aであってもガソリンエンジンで劣化・変質させることによって、劣化・変質生成物である極性物質が混入した試料油(iii)と、ディーゼルエンジンで劣化・変質させることによる劣化・変質生成物である極性物質以外にすすが混入した試料油(iv)とは、周波数に対する容量成分(静電容量)の変化の割合が異なり、前者が大きく、後者が小さい。また、試料油(ii)である潤滑油B新油を試料油(iv)と同様のディーゼルエンジンで劣化・変質した試料油(v)の潤滑油B劣化・変質油も、試料油(iv)と同様の周波数に対する容量成分(静電容量)の変化の割合を示す。
したがって、周波数の変化に対する容量成分(静電容量)の変化の割合から、潤滑油の劣化・変質機構(劣化・変質原因)を予測することができる。
また、図1に示した、40Hz及び100Hz以外の2以上の周波数における容量成分(静電容量)の変化の割合の相違からも、潤滑油の劣化・変質機構(劣化・変質原因)を予測することができることがわかる。
〔比較例〕
実施例で用いた試料油について、実施例の容量成分(静電容量)に代えて、インピーダンスの抵抗成分(Ω)を測定した。その結果を周波数に対する抵抗成分の変化として図2に示す。測定装置、電圧、測定した周波数、及び用いた試料油は実施例と同じである。
図2に示すように、試料油(i)〜試料油(v)の潤滑油の新油、劣化・変質油とも周波数に対する抵抗成分の変化に明確な差異は認められない。したがって、この方法によっては潤滑油の劣化・変質機構を予測することができないことがわかる。
さらに実施例の図1及び比較例の図2から、以下のことがわかる。
(1)潤滑油の劣化・変質の程度は、その潤滑油について測定したインピーダンスの容量成分(静電容量)に表れるが、抵抗成分には表れない。
(2)潤滑油の劣化・変質の程度は、より低周波数領域の前記容量成分(静電容量)、特に1〜100Hzの範囲の領域における前記容量成分(静電容量)に明確に表れる。
(3)潤滑油の新油についての前記容量成分(静電容量)では、潤滑油の違いによる差は殆ど認められない。
(4)同じ潤滑油であっても、劣化・変質条件が異なれば各々の前記容量成分(静電容量)の挙動(静電容量の大きさや周波数の変化による静電容量の変化)が異なる。
(5)同じ劣化・変質条件でも、潤滑油によって劣化・変質状態が異なる。
以上のことから、2以上の異なる特定の周波数における容量成分(静電容量)又は該静電容量から算出される誘電率を測定することによって、潤滑油の劣化・変質の程度及び劣化・変質機構の予測をすることができる。
本発明の潤滑油の劣化・変質度測定方法によれば、簡易かつ正確に潤滑油の劣化・変質の程度を測定することができると同時に、その劣化・変質機構(劣化・変質原因)を予測することができる。また、本発明の潤滑油の劣化・変質度測定装置は、微量の試料油でも劣化・変質状態を判断でき、さらに、自動車エンジンなど機械・装置に設置して潤滑管理システムとしても有効に利用することができる。

Claims (6)

  1. 2以上の異なる周波数における誘電率又は静電容量を求め、該誘電率又は静電容量の値に基づいて前記潤滑油の劣化・変質状態を判断
    前記2以上の周波数のうちの一つの周波数(H)が1〜100Hzの範囲であり、他の一つの周波数(H)が(H)を超え10,000Hz以下の範囲における誘電率又は静電容量を求め前記誘電率又は静電容量の値に基づいて前記潤滑油の劣化状態を判断し、
    前記周波数(H )における誘電率(ε )又は静電容量(C )と周波数(H )における誘電率(ε )又は静電容量(C )を求めたとき、周波数に対する誘電率の変化の割合〔(ε −ε )/(H −H )〕又は周波数に対する静電容量の変化の割合〔(C −C )/(H −H )〕に基づいて、
    〔(ε 1 −ε )/(H −H )〕や〔(C −C )/(H −H )〕が新油の当該値と比較して200%を超える場合は、潤滑油の劣化によって生成される極性物質以外に他の要因により発生した極性物質が混入した劣化状態Iであると予測され、
    〔(ε −ε )/(H −H )〕や〔(C −C )/(H −H )〕が新油の当該値と比較して200%以内であり、潤滑油の粘度上昇や色相の悪化が認められる場合は、潤滑油の劣化・変質により生成された極性物質以外に、他の非極性物質又は弱極性物質が混入した劣化状態IIであると予測されることを特徴とする潤滑油の劣化・変質度測定方法。
  2. 前記周波数(H)が5〜80Hzの範囲であり、周波数(H)が(H)を超え1,000Hz以下の範囲である請求項1記載の潤滑油の劣化・変質度測定方法、
  3. 一対の電極、該一対の電極間に100Hz以下の領域まで周波数を制御して交流電圧を印加する交流電源、及び前記一対の電極間の静電容量を測定する静電容量測定回路を有する静電容量測定部を具備し、
    前記静電容量測定部は、2つの周波数のうちの一つの周波数(H )が1〜100Hzの範囲、他の一つの周波数(H )が(H )を超え10,000Hz以下における静電容量を求め前記静電容量の値に基づいて前記潤滑油の劣化状態を判断し、
    前記周波数(H )における静電容量(C )と周波数(H )における静電容量(C )を求めたとき、周波数に対する静電容量の変化の割合〔(C −C )/(H −H )〕に基づいて、
    〔(C −C )/(H −H )〕が新油の当該値と比較して200%を超える場合は、潤滑油の劣化によって生成される極性物質以外に他の要因により発生した極性物質が混入した劣化状態Iであると予測され、
    〔(C −C )/(H −H )〕が新油の当該値と比較して200%以内であり、潤滑油の粘度上昇や色相の悪化が認められる場合は、潤滑油の劣化・変質により生成された極性物質以外に、他の非極性物質又は弱極性物質が混入した劣化状態IIであると予測されることを特徴とする潤滑油の劣化・変質度測定装置。
  4. さらに、前記静電容量測定部で得られた静電容量に基づき誘電率を算出する誘電率算出回路を有する誘電率算出部を具備し、
    前記誘電率算出部は、静電容量(C )及び(C )から誘電率(ε )及び(ε )を算出し、前記誘電率に基づいて前記潤滑油の劣化状態を判断し、
    前記周波数(H )における誘電率(ε )と周波数(H )における誘電率(ε )を求めたとき、周波数に対する誘電率の変化の割合〔(ε −ε )/(H −H )〕に基づいて、
    〔(ε −ε )/(H −H )〕が新油の当該値と比較して200%を超える場合は、潤滑油の劣化によって生成される極性物質以外に他の要因により発生した極性物質が混入した劣化状態Iであると予測され、
    〔(ε −ε )/(H −H )〕が新油の当該値と比較して200%以内であり、潤滑油の粘度上昇や色相の悪化が認められる場合は、潤滑油の劣化・変質により生成された極性物質以外に、他の非極性物質又は弱極性物質が混入した劣化状態IIであると予測される請求項記載の潤滑油の劣化・変質度測定装置。
  5. 前記一対の電極が櫛型電極である請求項又は記載の潤滑油の劣化・変質度測定装置。
  6. 請求項のいずれかに記載の潤滑油の劣化・変質度測定装置を用いてなることを特徴とする機械・装置における潤滑油監視システム。
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