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JP5772241B2 - 銀粉の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、銀粉製造方法に関するものであり、更に詳しくは電子機器の配線層、電極等の形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストの主成分である銀粉製造方法に関する。
電子機器の配線層や電極等の形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト等、銀ペーストが広く使用されている。配線層や電極等の導電膜は、銀ペーストを塗布又は印刷した後、加熱硬化又は加熱焼成することで形成される。
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤等からなる。樹脂型銀ペーストを用いる場合には、導電体回路パターン又は端子上に印刷した後、100℃〜200℃で加熱硬化させ導電膜とすることにより、配線や電極を形成する。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤などからなる。焼成型銀ペーストを用いる場合には、導電体回路パターン又は端子上に印刷した後、600℃〜800℃に加熱焼成させて導電膜とすることにより、配線や電極を形成する。銀ペーストを加熱して形成されたこれらの配線や電極の導電性は、銀粉の充填性と焼結性が重要となる。
導電性銀ペーストには、一般的に粒径が0.1μmから数μmの銀粉が用いられているが、使用する銀粉の粒径は、目的とする配線の太さや電極の厚さに合わせて、細かく選定されている。また、形成された配線の太さや電極の厚さには、高い均一性が求められており、それには銀粉のペースト中での分散性が重要となる。分散性の向上は充填性の向上にも繋がる。
導電性銀ペースト用銀粉に求められる特性は、用途及び使用条件により様々であるが、一般的には、安定した粒度分布とペースト中での高い分散性、及び焼結性である。粒度分布が不安定、又はペースト中での分散性が低い銀粉を用いた場合は、配線の太さや電極の厚さが不均一となるばかりか、硬化や焼成の処理も不均一となり、導電膜の抵抗の増大や導電膜の脆化を招くことになる。焼結性の悪化は、導電膜の抵抗の増大に直結する。しかし、これら3つの特性については、銀粉製造プロセスの安定性、銀粉の表面処理に拠る所が大きい。
近年、銀ペーストの低価格化の要望から、ペースト用銀粉の価格低下が強く求められている。これは、銀ペーストの主成分が銀粉であり、ペースト価格に占める割合が大きいことが理由である。銀ペーストの価格は、一般に重量単位であるため、銀ペーストの価格を下げるには銀粉の価格を下げる方法と、ペースト中の銀粉の比率を減らす方法とが考えられる。前者の銀粉の価格を下げる方法としては、製造コストの低減が考えられるが、元々銀粉の製造コストは銀価格よりも格段に低いため、大きな効果は望めない。後者のペースト中銀粉の比率を減らす方法としては、ペースト中の他の成分(樹脂、硬化剤、溶剤)を増加させることがまず考えられるが、ペースト特性に対する顧客ニーズの範囲内で行なわなければならないため、大きな効果を得ることは困難である。
例えば、特許文献1には、ペースト中銀粉の比率を減らす方法として、銀粉に空隙を作り、見かけ上の体積比は維持したまま質量比での銀粉使用量を低減することが提案されている。特許文献1には、銀粉の加工性向上の為に中心粒径(D50)が1〜50μm、タップ密度が1〜3g/cmで、かつ中空部の断面積合計の割合(中空部合計断面積/全断面積)が5〜50%である銀粉が開示されている。この銀粉を使用した導電ペーストは、抵抗の増大が少なく、かつ使用する銀量が削減できるため低コストであることが期待出来る。しかし、この銀粉の製造には、電解銅粉を銀に置換させる反応を用いているため、工数がかかる。また、製造された銀粉の形状も球状からは程遠いものとなる。
また、近年の電極配線に求められる低抵抗を満足するには、銀粉の粒径は数μm以下でかつ球形で充填しやすい事が重要となる。タップ密度では5g/cm程度が必要となるが、この特許文献1に開示されている銀粉はその半分程度にしか満たない。中空部の断面積割合について、好ましくは15〜25%とあるが、そこから見積られるタップ密度は4g/cm以下になることから、この銀粉の形状が充填しにくいものであることが推定される。従って、この特許文献1で開示された銀粉は、近年の顧客のニーズに対し未だ不十分である。
また、特許文献2に記載のように、硝酸銀水溶液をアンモニア錯体とし、そこにアスコルビン酸水溶液を添加して分散性の高い銀粉を得る既知の方法がある。この方法で得られる銀粉には、非常に多数の極微細な空孔が観察され、空孔率が高いことが分かっている。特許文献2では、真密度が5g/cm以下(空孔率50%以上)、条件次第では3g/cm以下の銀粉も得られるが、このような銀粉を用いた場合、焼結体の強度が非常に低くなるため、導電性銀ペースト用銀粉としては不適切である。
特開2009−46708号公報 特開昭63−179009号公報
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、銀ペースト中の銀粉比率を低減させて、銀ペーストの低価格化を実現するとともに、配線層や電極に用いられた場合に低抵抗とすることができる略球状で充填性が良好な中空の銀粉を提供することを目的とする。
上述した目的を達成する本発明に係る銀粉の製造方法は、硝酸銀、酸化銀又はこれらの混合物に、純水と、アンモニア水又は他のアミン化合物とを添加し錯体化して、銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーを作製する工程と、銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーに、銀をキレートする添加剤を添加してキレート化銀溶液を作製する工程と、キレート化銀溶液に還元剤を添加し、該還元剤の添加後2〜10秒の間の酸化還元電位を−30mV〜170mVに制御して還元することにより銀粉を得る工程とを有し、平均粒径が0.4μm〜1.5μmであり、タップ密度が4.0g/cm〜6.0g/cmであり、FE−SEMで観察した300個以上の銀粒子の断面から計測した全空孔断面積及び空孔を含めた全断面積に基づき、(全銀粒子の全空孔断面積の合計)/(全銀粒子の空孔を含めた全断面積の合計)から求められる粒子断面の空孔率が5%〜20%である銀粉を製造することを特徴とする。
本発明では、従来よりも低密度で充填性にも優れた略球状で中空の銀粉を提供することが可能となり、ペーストに含有させた際の抵抗を低くでき、ペースト特性を変更せずに低価格のペーストを実現することができる。
実施例1において得られた銀粉の断面FE−SEM像である。 実施例2において得られた銀粉の断面FE−SEM像である。 比較例1において得られた銀粉の断面FE−SEM像である。 比較例2において得られた銀粉の断面FE−SEM像である。
以下に、本発明を適用した銀粉及び銀粉の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
銀粉は、硬化剤、樹脂、溶剤等から構成される樹脂型銀ペーストやガラス、溶剤等から構成される焼成型銀ペーストに含有される。銀粉が含有された樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストは、配線層や電極の形成に用いられる。銀粉は、銀ペーストの主成分であり、含有量を低減させることで銀ペーストを低価格にすることができる。また、銀粉は、銀ペーストで配線層や電極を形成した際に抵抗が高くならないように、球形で充填性が良いものが求められる。
そこで、本発明では、銀粉を略球状で中空に形成することで、銀ペースト中の見かけ上の体積比は従来と略同じように維持したまま質量比での銀粉の使用量を減らし、銀ペーストの価格を下げることができるものである。また、銀粉が略球状であることによって、充填性が良好であり、配線層や電極を低抵抗とすることができる。
具体的に、銀粉は、略球状であり、中空に形成された複数の銀粒子からなり、平均粒径が0.4μm〜1.5μmであり、タップ密度が4.0g/cm〜6.0g/cmであり、粒子断面の空孔率が5%〜20%である。更に、この銀粉は、比表面積がBET値で0.33m/g〜1.25m/gであることが好ましい。
銀粉の平均粒径が0.4μmよりも小さい場合には、銀ペースト中に含有させて配線層等を形成した場合に導電膜の抵抗が大きくなり、導電性が悪くなってしまう。また、銀粉の平均粒径が1.5μmより大きい場合には、分散性が悪化して混練の際に銀フレークが発生し、印刷性が悪くなってしまう。具体的に、銀粉の平均粒径としては、0.7μm程度が好ましい。
銀粉の平均粒径は、銀粉を倍率10000倍で撮影したFE−SEM(field emission scanning electron microscope)(日立製作所製、型式S−4700)像を用い、画像ソフト(SmileView)(日本電子製)で任意の1000個の粒子を測長した粒径の平均値とした。
銀粉のタップ密度は、4.0g/cm〜6.0g/cmである。タップ密度が4.0g/cmより小さい場合には、銀ペースト中における充填性が悪く、配線層や電極とするために形成した導電膜の抵抗が高くなってしまう。一方、タップ密度が6.0g/cmよりも大きい場合には、分散性が悪化して混練の際に銀フレークが発生し、印刷性が悪くなってしまう。したがって、銀粉のタップ密度を4.0g/cm〜6.0g/cmとする。
タップ密度は、振とう比重測定器(蔵持科学器械製作所製、KRS−409)を用い、強化ガラス製の20mlメスシリンダーに銀粉20gを投入し、振とう幅2cmにおいてタップ回数500回後の銀粉のかさ密度を用いた。
銀粉には、例えば図1に示すように、銀粒子の内部が中空状となった空孔が形成されている。銀粉の粒子断面の空孔率は、5%〜20%である。銀粒子に空孔を形成することによって、銀ペーストに銀粉を含有させる際に、見かけ上の体積比を従来と略同じように維持したまま質量比での銀粉の使用量を減らすことができる。銀ペーストは、銀粉の質量比における使用量が減っても、充填性が良好であるため導電性を得ることができる。
銀粒子の空孔率については、以下の手順で算出した。まず、作製した銀粉を樹脂埋めし、CP(クロスセクションポリッシャ)加工を行なった後、断面のFE−SEM(field emission scanning electron microscope)(日立製作所製、型式S−4700)像を得た。
次に、銀粒子のFE−SEM像の空孔断面積と空孔を含めた銀粒子の全体の断面積を、空孔が見られない銀粒子も含めて、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアであるMac−View(マウンテック社製)で測定した。1つの銀粒子に多数の空孔が見られた場合も、全ての空孔断面積を測定した。
ここで断面積の測定に使用したFE−SEM像は、個々の銀粒子に対して任意の断面を与えている。空孔の位置と切断部位によっては、粒子内部に存在する空孔が全く観察されないこともある。しかし、そういう場合も含めて、(その視野に含まれる全銀粒子の全空孔断面積の合計)/(その視野に含まれる全銀粒子の空孔を含めた全断面積の合計)から算出した場合に得られる値は、測定する視野を限りなく広くした場合における、体積空孔率[=(銀粒子1つあたりの空孔体積)/全体積]となる。
このことから、各実験条件に付き銀粒子300個以上が含まれるように、FE−SEM像の撮影視野数を設定し、空孔と断面積を測定し、その合計値から上記面積比を得た。この明細書内に於いては、この値を空孔率とする。なお、Mac−Viewの測定値の精度を考慮し、FE−SEM像は、30,000〜50,000の倍率で撮影した。
上記手法で求めた銀粉の空孔率は、銀ペースト中で銀粉の占める割合を従来と略同じように維持したままで使用する銀粉量の減少割合を示す。つまり、この空孔率は、銀ペーストの製造及び銀ペーストのコスト削減効果の程度を示すこととなる。
この空孔率が20%よりも大きい場合では、コストを大幅に削減できるものの、焼結体の強度が不十分となってしまう。一方、空孔率が5%よりも小さい場合では、コスト削減の効果が不十分となってしまう。このため、空孔率は、5%〜20%とすることが好ましく、10%〜20%とすることが更に好ましい。焼結性が良好な銀粉であれば、空孔率5%〜20%であっても抵抗の増大が非常に少ないものとなる。
また、銀粉は、比表面積がBET値で0.33m/g〜1.25m/gであることが好ましい。銀粉の比表面積が0.33m/gよりも小さい場合には、凝集などの影響により銀粉の平均粒径が1.5μmを超えていることを示すものであり、混練の際に銀フレークが発生し、印刷性が悪くなってしまう。比表面積が1.25m/gよりも大きい場合には、0.4μm以下の微粒が多く、銀粉の平均粒径が低下していることを示すものであるから、銀ペースト中に含有させて配線層等を形成した場合に導電膜の抵抗が大きくなる。したがって、銀粉の比表面積は、0.33m/g〜1.25m/gであることが好ましい。また、このBET値から、平均粒径が0.4μm〜1.5μmの銀粉が中空になっていると考えられる。
BET値は、銀粉1gを常温で十分に真空脱気した後、比表面積測定装置(Quantachrome社製、QUADRASORB SI)を用いて、窒素吸着によるBET法で得られた値を用いた。
以上のような銀粉は、銀粒子に中空の空孔が形成され、低密度となっており、銀ペーストに含有させるにあたって、見かけ上の体積比は従来と略同じように維持したまま質量比での銀粉使用量を少なくすることができ、銀ペースト中の銀粉の比率を低下させることができる。これにより、この銀粉を使用することで、銀ペーストの製造コスト、銀ペーストの価格を削減できる。また、銀粉は、銀粒子が略球状に形成され、適度な平均粒径及びタップ密度を有しているため、分散性及び充填性がよく、配線層や電極を低抵抗とすることができる。即ち、従来よりも銀粉の質量比による使用量が少ないながらも、分散性や充填性が良好であるため、銀ペーストの特性を変更することなく、配線層や電極を形成する導電膜の抵抗を低抵抗とすることができる。
このような銀粉は、次のようにして製造することができる。
銀粉の製造方法は、硝酸銀、酸化銀又はこれらの混合物に、純水と、アンモニア水又は他のアミン化合物とを添加し錯体化して、銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーを作製する工程と、銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーに、銀をキレートする添加剤を添加してキレート化銀溶液を作製する工程と、キレート化銀溶液に還元剤を添加し、還元剤の添加後2〜10秒の間の酸化還元電位を−30mV〜170mVに制御して還元することにより銀粉を得る工程とを有する。そして、必要に応じて、得られた銀粉に表面平滑化処理や分級処理等を行う。
具体的に、銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーを作製する工程では、硝酸銀、酸化銀又はこれらの混合物を純水と混合し、錯化剤を添加して、銀錯体を含む銀錯体溶液又は酸化銀残留スラリーを作製する。錯化剤としては、特に限定されるものではないが、硝酸銀等と錯体を形成しやすく且つ不純物として残留する成分が含まれていないアンモニア水やメチルアミン、エタノールアミン等のアミン化合物を用いることが好ましい。銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーの硝酸銀等の濃度は、特に限定されないが、銀濃度で好ましくは0.1mol/l〜0.50mol/l、より好ましくは0.1mol/l〜0.35mol/lとする。錯化剤の添加量は、銀が錯体化し、安定な状態が保てれば、特に制限されないが、上記錯化剤であればmol比で銀量の4倍以上であることが好ましい。
次に、キレート化銀溶液を作製する工程では、得られた銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーに、銀をキレート化する添加剤を添加してキレート化銀溶液を作製する。この工程では、銀をキレート力の弱い添加剤でキレートする。銀をキレート化する添加剤としては、ジカルボン酸、ベンゾトリアゾール等の銀に対するキレート力の弱いものを1種又は複数種用いることが好ましい。キレート力が強い添加剤を用いた場合には、後に行う還元反応に影響が生じてしまう。添加剤の添加量は、銀に対してmol比で0.0001〜0.1倍である。添加量が0.0001倍より少ない場合には、効果が見られず、0.1倍よりも多い場合には、添加剤が銀化合物を形成してしまう。
次に、銀粉を得る工程では、添加剤によってキレート化された銀を含有するキレート化銀溶液を撹拌しつつ、還元剤を添加し、還元剤の添加後2〜10秒の間の酸化還元電位を−30mV〜170mVに制御して還元することにより銀粉を得る。
還元剤としては、銀をキレート化する添加剤により還元速度が調整できるものが好ましい。グルコースのように還元速度の低すぎるものは避けるべきであり、L−アスコルビン酸やホルマリン、ヒドラジン、これらと同程度の還元力のあるものを1種又は複数種用いることが好ましい。また、反応の均一性又は反応速度を制御するために、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いてもよい。還元剤の添加量は、銀の含有量に対して十分に還元が終了するだけの添加量であれば特に限定されない。上記還元剤を用いる場合には、還元時間を考慮して実際には銀量に対し、反応式から導かれる理論量の1.6等量以上であることが好ましい。
ここで、この還元工程では、粒子の形状が決定する間の反応を安定化させるため、還元剤投入直後、実際には還元剤添加後2〜10秒までの間の酸化還元電位(ORP)の変動を抑制することが重要となる。ORPの変動としては、−30mV〜170mVである。この還元工程では、主にキレート力の弱い添加剤でキレート化された銀を含有するキレート化銀溶液に、銀をキレート化する添加剤により還元速度を調整できる還元剤を添加することにより、ORPが−30mV〜170mVに制御され、粒子の密度を制御することができる。このように、銀粒子の密度は、銀を添加剤でキレート化すること、及び還元反応における酸化還元電位(ORP)即ち錯化剤、硝酸銀、還元剤の濃度の調整により決定される。銀粒子の密度をより細かく調整するためには、アンモニアや水酸化ナトリウムの塩である炭酸ナトリウムや硝酸アンモニウム等を添加したり、反応温度を調整するようにしても良い。
また、この還元工程では、必要に応じて還元剤の他に分散剤を添加してもよい。分散剤としては、通常使用される脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸又は脂肪酸塩のエマルジョン、界面活性剤、保護コロイドのいずれであっても良いが、金属塩は避けるべきである。分散剤の添加量については、還元反応を阻害しない程度であれば特に限定されない。実際には銀に対して1質量%以下で十分に効果がある量とすることが好ましい。
なお、分散剤等を添加する場合には、還元剤を添加した後、分散剤等を添加してもよく、逆に、分散剤等を添加した後、還元剤を添加してもよい。
また、この工程で得られた銀粉を洗浄してもよい。銀粉の表面には多量の塩素イオン及び余剰の分散剤が吸着している場合があり、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極の導電性を十分なものとするために洗浄を行う。
次に、得られた銀粉の水分を蒸発させて乾燥させる乾燥工程を行い、銀粉を得る。なお、必要に応じて、乾燥後の銀粉に対して、表面平滑化処理や分級処理等を行ってもよい。表面の平滑化処理としては、例えば、ブレンダーミルやジェットミル等を用いて行う。分級処理は、例えば篩いにより行う。
以上のような銀粉の製造方法では、硝酸銀、酸化銀又はこれらの混合物の銀に対してキレートする添加剤を添加して、この添加剤によりキレートされた銀を含有するキレート化銀溶液に還元剤を添加して還元剤の添加後2〜10秒の間の酸化還元電位を−30mV〜170mVに制御することにより、略球状で充填性が良好な中空の銀粒子からなる低密度の銀粉を得ることができる。即ち、この銀粉の製造方法により得られる銀粉は、略球状であり、平均粒径が0.4μm〜1.5μmであり、タップ密度が4.0g/cm〜6.0g/cmであり、粒子断面の空孔率が5%〜20%である。
したがって、この銀粉の製造方法では、粒子に中空を形成することによって、銀ペーストに含有させるにあたって、見かけ上の体積比は従来と略同じように維持したまま質量比での銀粉使用量を低減することができる銀粉を得ることができる。このため、この銀粉の製造方法では、銀ペーストの特性を変更することなく、銀ペースト中の銀粉の質量比における使用量を少なくでき、銀ペーストの製造及び銀ペーストのコストを削減することができる。
また、この銀粉の製造方法では、略球状に形成された銀粒子から構成され、適度な平均粒径及びタップ密度を有し、分散性がよく、配線層や電極を低抵抗とすることができる銀粉を得ることができる。したがって、上述した銀粉は、銀ペースト中で偏りなく分散されるため、銀ペーストで配線層や電極を形成した際には電気的接続を良好にすることができる。
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1では、40℃の温浴中で液温38℃に加温した純水700mLに硝酸銀50g(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を溶解し、25%トリエタノールアミン200mLを撹拌しながら添加し硝酸銀錯体溶液を作製した。
次に、アスコルビン酸130g(関東化学株式会社製、試薬)を、25℃の純水1.0Lに溶解して還元剤溶液とした。
硝酸銀錯体溶液に、銀をキレート化するベンゾトリアゾール1.0gを添加し、3分間攪拌保持することでキレート化した。そこにステアリン酸0.01g(関東化学株式会社製、鹿1級)をエタノールに溶解して添加し、アスコルビン酸水溶液を添加することにより還元した。30分間攪拌保持した後に吸引濾過を行ない60℃で真空乾燥することで銀粉を得た。
アスコルビン酸水溶液添加後2秒から10秒までのORPの変化は、0〜100mVの範囲であった。
実施例1では、図1に示す銀粉が得られ、比表面積のBET値は1.20m/gであり、空孔率は19%であり、平均粒径は0.43μmであり、タップ密度は4.2g/cmであり、基準ペースト必要銀量は6.5gであり、分散性及び充填性が良く、良好なペースト特性が得られた。
ここで、空孔率、比表面積のBET値、平均粒径、タップ密度、基準ペースト必要銀量は、次のようにして測定した。
空孔率は、得られた銀粉0.03gをエポキシ樹脂0.03gに混合して硬化させた樹脂体の断面を切断し、断面に銀粉300個以上が含まれるようにFE−SEM像の撮影視野数を設定して、FE−SEM像を得た。次に、銀粒子のFE−SEM像の空孔断面積と空孔を含めた銀粒子の全体の断面積を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェアであるMac−View(マウンテック社製)で測定した。測定した結果に基づいて、(その視野に含まれる全銀粒子の全空孔断面積の合計)/(その視野に含まれる全銀粒子の空孔を含めた全断面積の合計)から空孔率を算出した。
比表面析のBET値は、得られた銀粉1gを常温で十分に真空脱気した後、比表面積測定装置(Quantachrome社製、QUADRASORB SI)を用いて、窒素吸着によるBET法で得られた値とした。
平均粒径は、得られた銀粉を倍率10000倍で撮影したFE-SEM像を用い、画像ソフト(SmileView)で任意の1000個の粒子を測長した粒径の平均値とした。
タップ密度は、振とう比重測定器(蔵持科学器械製作所製、KRS−409)を用い、強化ガラス製の20mlメスシリンダーに得られた銀粉20gを投入し、振とう幅2cmにおいてタップ回数500回後の銀粉のかさ密度とした。
基準ペースト必要銀量は、平均粒径0.9μm、タップ密度5.6g/cm、BET値0.45m/gである銀粉(空孔率0%)を8g使用し、太陽電池用導電ペーストを作製した場合のペースト粘度を基準とし、銀量以外の組成や混練条件を変更せずに同じ粘度のペーストを得るために必要であった銀粉量(g)を求めて評価した。
<実施例2>
実施例2では、60℃の温浴中で液温58℃に加温した純水900mLに酸化銀40g(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を加え、25%アンモニア水100mLを撹拌しながら添加しアンモニア性酸化銀錯体溶液を作製した。
次に、35wt%ホルマリン60mL(関東化学株式会社製、試薬特級)に、25℃の純水340mLを添加して還元剤溶液とした。
次に、アンモニア性硝酸化銀スラリーに、銀をキレート化するグルタル酸0.01g(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を添加し、3分間攪拌保持することでキレート化した。そこにステアリン酸0.01g(関東化学株式会社製、鹿1級)をエタノールに溶解して添加し、ホルマリン水溶液を添加することによって還元した。30分間攪拌保持した後に吸引濾過を行ない60℃で真空乾燥することで銀粉を得た。
アスコルビン酸水溶液添加後2秒から10秒までのORPの変化は、130mV〜140mVの範囲にあった。
実施例2では、図2に示す銀粉が得られた。この銀粉について、実施例1と同様にして、比表面積のBET値、空孔率、平均粒径、タップ密度、基準ペースト必要銀量を求めた。実施例2の銀粉は、比表面積のBET値は0.63 /g、空孔率は11%であり、平均粒径は0.71μmであり、タップ密度は5.8g/cmであり、基準ペースト必要銀量は7.1gであり、分散性及び充填性が良く、良好なペースト特性が得られた。
<比較例1>
比較例1では、60℃の温浴中で液温58℃に加温した純水900mLに酸化銀40g(和光純薬工業株式会社製)を加え、25%アンモニア水100mLを撹拌しながら添加しアンモニア性酸化銀錯体溶液を作製した。
次に、35wt%ホルマリン60mL(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)に、25℃の純水340mLを添加して還元剤溶液とした。
次に、アンモニア性酸化銀水溶液に、銀に対するキレート力がないエチレングリコールを0.01g添加した後、ステアリン酸0.01g(関東化学株式会社製、鹿1級)をエタノールに溶解して添加し、ホルマリン水溶液を添加することによって還元した。30分間攪拌保持した後に吸引濾過を行ない60℃で真空乾燥することで銀粉を得た。
ホルマリン水溶液添加後2秒から10秒までのORPの変化は、−200〜100mVの範囲にあった。
比較例1では、図3に示す銀粉が得られた。この銀粉について、実施例1と同様に、比表面積のBET値、空孔率、平均粒径、タップ密度、基準ペースト必要銀量を求めた。比較例1の銀粉は、BET値は0.53 /g、空孔率は2%であり、平均粒径は1.08μmであり、タップ密度は6.1g/cmであり、基準ペースト必要銀量は8.1gであり、低コスト化には繋がらないものであった。
<比較例2>
比較例2では、50℃の温浴中で液温47℃に加温した純水500mLに硝酸銀80g(和光純薬工業株式会社製)を溶解した。
次に、アスコルビン酸40g(関東化学株式会社製、試薬)を、50℃の純水500mLに溶解して還元剤溶液とした。
次に、ポリビニルピロリドン−K30(PVP−K30)(関東化学株式会社製、鹿1級)を0.5g添加し、アスコルビン酸水溶液を添加することによって還元した。30分間攪拌保持した後に吸引濾過を行ない60℃で真空乾燥することで銀粉を得た。
アスコルビン酸水溶液添加後2秒から10秒までのORPの変化は、340mV〜400mVの範囲にあった。
比較例2では、図4に示す銀粉が得られた。この銀粉について、実施例1と同様に、比表面積のBET値、空孔率、平均粒径、タップ密度、基準ペースト必要銀量を求めた。比較例2の銀粉は、BET値は0.18 /g、空孔率は1%であり、平均粒径は3.10μmであり、タップ密度は6.3g/cmであり、基準ペースト必要銀量は8.7gであり、低コスト化には繋がらないものであった。
下記の表1に、実施例及び比較例の材料を記載し、表2に、ORP、BET値、空孔率、低コスト化の評価について記載した。
低コスト化の評価は、基準銀粉8gに対する基準ペースト必要銀量の比率により行った。表2中、○は基準ペースト必要銀量の比率が90%未満であり、×は比率が90%超である。
表2に示す結果から、実施例1及び実施例2では、硝酸銀をベンゾトリアゾールでキレート化し、酸化銀をグルタル酸でキレート化した後、還元剤を添加して、還元剤添加後2秒から10秒までのORPの変化を−30mV〜170mVの範囲内に制御したことによって、略球状で中空となっており、空孔率が5%〜20%の範囲内であり、平均粒径が0.4μm〜1.5μmの範囲内であり、タップ密度が4.0g/cm〜6.0g/cmの範囲内である銀粉が得られた。この銀粉を用いることで、銀ペーストの製造コストを削減でき、低価格の銀ペーストを製造できる。
一方、比較例1では、銀に対するキレート力がないエチレングリコールを添加したため、還元剤添加後のORPを−30mV〜170mV内に制御することができなかった。このため、中空を有する銀粉を十分に作製することができず、空孔率が低くなった。したがって、添加剤としては、実施例1及び2において添加したベンゾトリアゾールやグルタル酸が適していることがわかる。
また、比較例2では、錯化剤及び添加剤を添加しなかったため、還元剤添加後のORPを−30mV〜170mV内に制御することができなかった。このため、中空を有する銀粉を十分に作製することができず空孔率が低くなるとともに平均粒径が大きくなった。
以上のように、比較例1及び2では、銀ペーストを作製する際に銀粉の使用量を十分に減らすことによる銀ペースト製造コストの削減ができず、低価格の銀ペーストを製造することができない。

Claims (3)

  1. 硝酸銀、酸化銀又はこれらの混合物に、純水と、アンモニア水又は他のアミン化合物とを添加し錯体化して、銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーを作製する工程と、
    上記銀錯体水溶液又は酸化銀残留スラリーに、銀をキレート化する添加剤を添加してキレート化銀溶液を作製する工程と、
    上記キレート化銀溶液に還元剤を添加し、該還元剤の添加後2〜10秒の間の酸化還元電位を−30mV〜170mVに制御して還元することにより銀粉を得る工程とを有し、
    平均粒径が0.4μm〜1.5μmであり、タップ密度が4.0g/cm〜6.0g/cmであり、FE−SEMで観察した300個以上の銀粒子の断面から計測した全空孔断面積及び空孔を含めた全断面積に基づき、(全銀粒子の全空孔断面積の合計)/(全銀粒子の空孔を含めた全断面積の合計)から求められる粒子断面の空孔率が5%〜20%である銀粉を製造することを特徴とする銀粉の製造方法。
  2. 上記添加剤がジカルボン酸及び/又はベンゾトリアゾールであることを特徴とする請求項記載の銀粉の製造方法。
  3. 上記還元剤がホルマリン及び/又はアスコルビン酸であることを特徴とする請求項又は請求項記載の銀粉の製造方法。
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