JP5753874B2 - 細胞生存率低下抑制剤 - Google Patents
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Description
[1]精製された哺乳動物幹細胞を懸濁液中で保存するための、トレハロースを有効成分として含む、哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
[2]幹細胞が付着性幹細胞である、上記[1]記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
[3]付着性幹細胞が間葉系幹細胞又は多能性幹細胞である、上記[2]記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
[4]デキストランをさらに含む、上記[1]〜[3]のいずれか記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
[5]生理的水溶液をさらに含む、上記[1]〜[4]のいずれか記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
[6]哺乳動物幹細胞懸濁液中のトレハロースの濃度が4.53〜362.4mg/ml
の範囲内となるように使用される、上記[5]記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
[7]哺乳動物幹細胞懸濁液中のデキストランの濃度が30〜100mg/mlの範囲内
となるように使用される、上記[5]又は[6]記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
[8]精製された哺乳動物幹細胞を上記[5]〜[7]のいずれか記載の細胞生存率低下抑制剤に懸濁し、懸濁液中で保存することを特徴とする哺乳動物幹細胞移植用の細胞の生存率低下を抑制する方法。
本発明は、トレハロースを有効成分として含む、哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤を提供するものである。
本発明は、哺乳動物幹細胞をトレハロースを含む生理的水溶液(好ましくは、トレハロースを含む等張水溶液)に懸濁することを含む、哺乳動物幹細胞移植用の細胞の生存率低下を抑制する方法を提供するものである。2種又は3種の多糖類組み合わせて用いる場合、トレハロースとヒドロキシエチルデンプンの組み合わせ、トレハロースとデキストランの組み合わせ、又はトレハロースとヒドロキシエチルデンプンとデキストランの組み合わせにより、特に、懸濁液中の哺乳動物幹細胞(即ち、浮遊した哺乳動物幹細胞)の生存率の低下が抑制される。
1.ブタ皮下脂肪由来間葉系幹細胞(Pig AT−MSC)の調製
(1)ブタ組織の調製
ブタ皮下脂肪をそけい部より採取後、視認可能な血管や筋など脂肪組織と異なる組織をマイクロ鋏で除去し、その後、細切とHBSS(ハンクス溶液)での洗浄を数回繰り返した。視覚的に、血球(または血塊)の除去および筋などの膜状浮遊物質の除去が確認出来るまで洗浄作業を続けた。得られたブタ皮下脂肪をはさみにより細切した。
細切された組織を同量のHBSSと混ぜた。混合物を緩やかに振とう後、静置することにより2層に分離させた。上層のみを回収した。回収された上層に0.2%コラゲナーゼ(TypeI)/HBSSを加え、37℃下で緩やかに脂肪が完全に液状になるまで振とうした(最大90分間)。反応液に10%牛胎児血清(FBS)を含むαMEMをコラゲナーゼ反応液量に対して等量以上加えて混合後、混合物を遠心分離することにより3層に分離させた(下から有核細胞・溶液・脂肪)。下層のみを回収し、HBSSにて再懸濁した。この操作を3回繰り返し、最後に10%FBSを含むαMEMで懸濁した細胞懸濁液を培養皿へ移し、培養した。MSCは培養皿の底面へ接着した。
(1)の操作で、培養皿へ接着したMSCは増殖を続け、5〜7日後に培養皿底面はぎっしり細胞で埋まった。コンフルエントに到達するとMSCは増殖停止または細胞死が誘導されるので、コンフルエント到達前に、MSCを培養皿からはがし、新しい培養皿へ低密度で播種した。培養皿の底面に接着しているMSCをPBSで3回洗浄後、トリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)を加え、MSCを培養皿からはがした後、細胞が低密度になるような量の10%のFBSを含むαMEMで懸濁し、新しい培養皿へ移した。この操作を6回繰り返した(6回継代=P6)。
(2)で得たPig AT−MSC P6を実験に用いた。
10cm ディッシュあたり、5mlのPBS(−)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞を15ml容量のファルコンチューブへ移し、遠心することにより細胞を回収し、PBS(−)にて2回洗浄後、各溶液{ET−kyoto(ET−K、大塚製薬工場社製)、HBSS、MSCM(DMEM+10%FBS)}にて再度、馴化洗浄を1回行った。なお、ET−K中には45.3mg/mlの濃度のトレハロースが含まれる。その後、各溶液を用いて2.5x105cells/50μLとなるように懸濁した。
懸濁液を各温度(0、25、37℃)にて静置し、0、30、60、120、240分後に20μLピペットマンにて数回ピペッティングし、10μLをディッシュに移した。
ディッシュ上の懸濁液の最下面に実体顕微鏡の焦点を合わせ、観察を行った。
顕微鏡下にて隣接し合う細胞塊を形成しているものを、細胞凝集塊とした。細胞凝集塊は、dishを顕微鏡のステージ上で揺らし、明らかに塊として動いている事を確認した。
各条件の細胞生存率への影響を検討した。
50μLあたりに生存している細胞数をトリパンブルー染色にて算出し、スタートの時点で50μL中に生存していた細胞数(2.5x105個)と比較することにより、細胞の生存率を算出した。結果を表1に示す。
MSCMを用いた場合には、25℃及び37℃においては、試験開始30分後から細胞凝集塊の形成が認められた。0℃においても、試験開始60分後から細胞凝集塊の形成が認められた。
HBSSを用いた場合には、25℃及び37℃においては、試験開始120分後から細胞凝集塊の形成が認められた。0℃においても、試験開始240分後には細胞凝集塊の形成が認められた。
一方、ET−Kを用いた場合には、25℃及び37℃においては、試験開始120分後までは細胞凝集塊の形成は認められず、試験開始240分後に若干の細胞凝集塊の形成が認められた。0℃においては、試験開始240分後でも細胞凝集塊の形成は認められなかった。いずれの温度においても、ET−Kを用いた場合には、細胞の浮遊状態が試験開始240分後まで維持されていた。
MSCMを用いた場合には、突起を出す細胞が若干確認された。膨張した細胞の出現率は低かった。
HBSSを用いた場合には、突起を出す細胞の割合が経時的に増加した。また、膨張した細胞の出現率が高かった。
一方、ET−Kを用いた場合には、突起を出す細胞の割合は、MSCM及びHBSSと比較して少なかった。膨張した細胞の出現率も、MSCM及びHBSSと比較して低かった。
一般に、付着性細胞は浮遊時間に依存してdishなどに接着しようと突起を出すことが知られている。これは、浮遊状態が細胞にストレスを与えるためである。また、細胞の膨張は、細胞質内外の浸透圧調節力が低下していることを示していると考えられる。以上の細胞形態の観察結果から、ET−Kは他の組成液と比較して細胞に与えるストレスが軽微であると考えられた。
実施例1で調製したブタ皮下脂肪由来間葉系幹細胞を2回継代して得られた細胞(Pig AT−MSC P2)を10cmディッシュ3枚に播いた。10cmディッシュあたり、5mlのPBS(−)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞(1.7x106個、生存率:94.1%)を15ml容量のファルコンチューブへ移し、遠心することにより細胞を回収し、PBS(−)にて2回洗浄後、5mLのET−kyoto(ET−K、大塚製薬工場社製)に懸濁した。ET−K中の細胞懸濁液を10本の15mLチューブに500μLずつ分注し、10分間室温(25℃)にて静置した。適量の生理食塩水を各チューブに加えることにより、ET−K中の細胞懸濁液を2〜10倍に希釈し、更に30分静置した。その後、実施例1と同様に、生存率を算出し、細胞凝集塊の有無を観察した。結果を表2に示す。
ET−Kの原液、その2倍希釈液及び3倍希釈液を用いた場合には、細胞凝集塊は観察されなかった。ET−Kを4倍以上希釈すると、細胞が2〜3個結合した凝集塊が僅かに認められた。従って、少なくとも15.1mg/ml以上のトレハロース濃度において、幹細胞の凝集抑制効果が発揮されることが示唆された。
細胞凝集性を観察後、細胞を再度懸濁し、室温(25℃)にて10分間静置後、顕微鏡下にて細胞の浮遊性を観察した。ET−Kの原液、その2倍希釈液及び3倍希釈液を用いた場合には、細胞は安定して浮遊していた。一方、ET−Kを8倍以上希釈すると、MSCMやHBSSとほとんど変化なく、細胞は沈殿した。従って、少なくとも15.1mg/ml以上のトレハロース濃度において、幹細胞が安定して浮遊することが示唆された。
ET−Kを生理食塩水により希釈しても、試験した希釈率の範囲内においては、細胞形態及び生存率の有意な変化は認められなかった。
実施例1で調製したブタ皮下脂肪由来間葉系幹細胞を10回継代して得られた細胞(Pig AT−MSC P10)を10cmディッシュに播いた。10cmディッシュあたり、5mlのPBS(−)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞(3.3x108個、生存率:98.5%)を15ml容量のファルコンチューブへ移し、遠心により細胞を回収し、PBS(−)にて2回洗浄後、5mLのET−Kyoto(ET−K、大塚製薬工場社製)に懸濁した。ET−K中の細胞懸濁液を、4℃にて5時間又は27時間静置した。その後、実施例1と同様に、生存率を算出し、細胞凝集塊の有無を観察した。結果を表2に示す。5時間又は27時間の静置後、更に細胞を24時間培養し、その後、細胞の形態を顕微鏡下で観察した。
ディッシュから剥離後、ET−Kに懸濁した状態で細胞を4℃にて静置した結果、5時間及び27時間後のいずれの時点でも細胞凝集の形成は起こらず、シングルセルの状態が維持されていた。従って、ET−Kによる細胞凝集抑制効果は4℃においても発揮されることが示された。
5時間後の生存率は78.7%であり、27時間後の生存率は65.9%であった。0時間から5時間までは3.96%/hr、5時間〜27時間までは0.58%/hrの生存率低下が確認された。
5時間又は27時間の静置後、更に細胞を24時間培養すると、生存率に一致してプレートに接着した細胞が確認された。しかし、27時間保存細胞では異形態の細胞が約10%確認された。5時間保存した細胞では異形態の細胞の割合は1%以下であった。
(1)ヒト骨髄由来MSC(hBM−MSC)の調製
20〜30mLの骨髄細胞を6000Unitヘパリンを含むシリンジによりヒト腸骨から採取した。骨髄細胞は、PBS(−)で一度洗浄し、900g、20分間の遠心により細胞を回収し、もう一度繰り返した。10%FBSを含むαMEMに懸濁し、培養皿に移して接着培養を行った。
(2)実験に用いる細胞(hBM−MSC P3)の調製
(1)の操作で、培養皿へ接着したMSCは増殖を続け、5〜7日後に培養皿底面はぎっしり細胞で埋まった。コンフルエントに到達するとMSCは増殖停止または細胞死が誘導されるので、コンフルエント到達前に、MSCを培養皿からはがし、新しい培養皿へ低密度で播種した。培養皿の底面に接着しているMSCをPBSで3回洗浄後、トリプシン−EDTA(0.05% トリプシン,0.53mM EDTA・4Na)を加え、MSCを培養皿からはがした後、細胞が低密度になるような量の10%のFBSを含むαMEMで懸濁し、新しい培養皿へ移した。この操作を3回繰り返した(3回継代=P3)。
ヒト骨髄細胞由来MSCを10cmディッシュに播き培養した。10cmディッシュあたり、5mlのPBS(−)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞を15ml容量のファルコンチューブへ移し、遠心することにより細胞を回収し、PBS(−)にて2回洗浄後、以下の組成液に懸濁し、240分及び480分静置後、細胞の凝集の有無を観察した。
NS:生理食塩水(大塚製薬工場)
H:ヘスパンダー(杏林製薬)
1×T&NS:45.3mg/mL D−(+)−トレハロース(和光純薬)を含有する生理食塩水
1×T&H:45.3mg/mL D−(+)−トレハロース(和光純薬)を含有するヘスパンダー(杏林製薬)
1×T&H&TRase:45.3mg/mL D−(+)−トレハロース(和光純薬)及びトレハラーゼ(SIGMA)(2Unit/mL)を含有するヘスパンダー(杏林製薬)
(1)ヒト脂肪由来MSC(hBM―MSC)の調製
ヒト皮下脂肪を採取後、視認可能な血管や筋など脂肪組織と異なる組織をマイクロ鋏で除去し、その後、細切とHBSS(ハンクス溶液)での洗浄を数回繰り返した。視覚的に、血球(または血塊)の除去および筋などの膜状浮遊物質の除去が確認出来るまで洗浄作業を続けた。得られたヒト皮下脂肪をはさみにより細切した。
細切された組織を同量のHBSSと混ぜた。混合物を緩やかに振とう後、静置することにより2層に分離させた。上層のみを回収した。回収された上層に0.05%コラゲナーゼ(TypeI)/HBSSを加え、37℃下で緩やかに脂肪が完全に液状になるまで振とうした。反応液に10%牛胎児血清(FBS)を含むαMEMを混合後、混合物を遠心分離することにより2層に分離させた。下層のみを回収し、HBSSにて再懸濁した。この操作を3回繰り返し、最後に10%FBSを含むαMEMで懸濁した細胞懸濁液を培養皿へ移し、培養した。MSCは培養皿の底面へ接着した。
(2)実験に用いる細胞(hAT−MSC P3)の調製
(1)の操作で、培養皿へ接着したMSCは増殖を続け、5〜7日後に培養皿底面はぎっしり細胞で埋まった。コンフルエントに到達するとMSCは増殖停止または細胞死が誘導されるので、コンフルエント到達前に、MSCを培養皿からはがし、新しい培養皿へ低密度で播種した。培養皿の底面に接着しているMSCをPBSで3回洗浄後、トリプシン−EDTA(0.05% トリプシン,0.53mM EDTA・4Na)を加え、MSCを培養皿からはがした後、細胞が低密度になるような量の10%のFBSを含むαMEMで懸濁し、新しい培養皿へ移した。この操作を3回繰り返した(3回継代=P3)。
hAT−MSC及びhBM−MSCを3回継代して得られた細胞(hAT−MSC P3及びhBM−MSC P3)を10cm ディッシュに播いた。10cm ディッシュあたり、5mlのPBS(−)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン, 1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞(hAT−MSC P3:1.0x105個、生存率:98.4%/hBM−MSC P3:1.25x105個、生存率:96.8%)を15ml容量のファルコンチューブへ移し、遠心することにより細胞を回収し、PBS(−)にて2回洗浄後、以下の組成液100μLに懸濁し、室温(約25℃)にて240分又は24時間静置後、細胞の生存率を測定し、細胞の凝集及び形態を観察した。更に、240分又は24時間静置後、更に細胞を12時間培養し、細胞の形態を観察した。
0.1×T&H:4.53mg/mL D−(+)−トレハロース(和光純薬)を含有するヘスパンダー(杏林製薬)
0.1×T&NS:4.53mg/mL D−(+)−トレハロースを含有する生理食塩水(大塚製薬工場)
1×T&H:45.3mg/mL D−(+)−トレハロースを含有するヘスパンダー
1×T&NS:45.3mg/mL D−(+)−トレハロースを含有する生理食塩水
2×T&H:90.6mg/mL D−(+)−トレハロースを含有するヘスパンダー
2×T&NS:90.6mg/mL D−(+)−トレハロースを含有する生理食塩水
ET−K:ET−Kyoto(大塚製薬工場)
H:ヘスパンダー
NS:生理食塩水
MSCM:10%FBSを含有するαMEM
結果を表3に示す。
0.1×T&NSにおいては、試験開始から240分後に細胞凝集塊の形成がAT及びBMの双方について若干認められたが、組成液中にトレハロースを含むその他の群(0.1×T&H、1×T&H、1×T&NS、2×T&H、2×T&NS及びET−K)においては、細胞凝集塊の形成は認められなかった。組成液中にトレハロースを含む群においては、細胞の変形は認められなかった。
組成液中にトレハロースもヒドロキシエチルデンプンも含まない群(NS、MSCM)においては、顕著に細胞凝集塊及び細胞変形が認められた。ヒドロキシエチルデンプンのみを含む群(H)においては、細胞凝集塊が認められたが、細胞変形はわずかであった。
トレハロース添加の有無に関係なく、生存率に一致した接着細胞数の増減が確認された。0.1×Tを含む群及びトレハロース無添加群の一部では、細胞形態の異常が確認された。一方、NSと比較してHでは細胞形態が良好であり、生存率に一致した細胞接着数の増減が確認された。
hAT−MSC及びhBM−MSCを3回継代して得られた細胞(hAT−MSC P3及びhBM−MSC P3)を10cmディッシュに播いた。10cmディッシュあたり、5mlのPBS(−)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞(hAT−MSC P3:4.25x105個、生存率:97.5%/hBM−MSC P3:5.0x105個、生存率:98.2%)を15ml容量のファルコンチューブへ移し、遠心することにより細胞を回収し、PBS(−)にて2回洗浄後、以下の組成液100μLに懸濁し、室温(約25℃)にて8時間又は36時間静置後、細胞の生存率を測定し、細胞の凝集を観察した。
1×T&H:45.3mg/mL D−(+)−トレハロース(和光純薬)を含有するヘスパンダー(杏林製薬)
2×T&H:90.6mg/mL D−(+)−トレハロースを含有するヘスパンダー
4×T&H:181.2mg/mL D−(+)−トレハロースを含有するヘスパンダー8×T&H:362.4mg/mL D−(+)−トレハロースを含有するヘスパンダーET−K:ET−Kyoto(大塚製薬工場)
H:ヘスパンダー
1×T&H&TRase:45.3mg/mL D−(+)−トレハロース及びトレハラーゼ(SIGMA)(2Unit/mL)を含有するヘスパンダー
組成液中にトレハロースを含む群(1×T&H、2×T&H、4×T&H、8×T&H及びET−K)においては、hAT−MSC及びhBM−MSCの双方について、試験開始から8時間後の細胞凝集塊の形成は認められなかった。一方、トレハロースを含まないヘスパンダー(H)を用いた場合には、hAT−MSC及びhBM−MSCの双方について、試験開始から8時間後に細胞凝集塊の形成が認められた。更に、トレハラーゼによりトレハロースを分解すると、細胞凝集塊の形成が認められた(1×T&H&TRase)。以上の結果から、トレハロースが細胞凝集抑制効果を有することが示された。
試験開始36時間後の細胞生存率を表4に示す。
hAT−MSC及びhBM−MSCを6又は8回継代して得られた細胞(hAT−MSC P8及びhBM−MSC P6)を10cmディッシュに播いた。10cmディッシュあたり、5mlのヘスパンダー(杏林製薬)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞(hAT−MSC P8:2.4x106個/hBM−MSC P6:2.3x106個)を15ml容量のファルコンチューブへ移し、遠心することにより細胞を回収し、以下の組成液に懸濁し、室温(約25℃)にて1時間静置後、細胞の生存率を測定し、細胞の凝集を観察した。
1×T&H:45.3mg/mL D−(+)−トレハロース(和光純薬)を含有するヘスパンダー
0.5×T&H:22.65mg/mL D−(+)−トレハロースを含有するヘスパンダー
0.1×T&H:4.53mg/mL D−(+)−トレハロースを含有するヘスパンダー
1×T&F&H:45.3mg/mL D−(+)−トレハロース及び10μg/ml フコイダン(焼津水産化学工業)を含有するヘスパンダー
0.5×T&F&H:22.65mg/mL D−(+)−トレハロース及び10μg/ml フコイダンを含有するヘスパンダー
0.1×T&F&H:4.53mg/mL D−(+)−トレハロース及び10μg/ml フコイダンを含有するヘスパンダー
F&H:10μg/ml フコイダンを含有するヘスパンダー
ET−K:ET−Kyoto(大塚製薬工場)
H:ヘスパンダー
MSCM:10%FBSを含有するαMEM
いずれの濃度のトレハロースを添加しても、細胞の生存率はヘスパンダー単独(H)と比較して上昇した。一方、フコイダンを添加すると、細胞生存率が低下したことから、フコイダンは細胞毒性を有することが示唆された。トレハロースは、フコイダンの細胞毒性を抑制する傾向を示した。
hAT−MSC及びhBM−MSCの双方について、トレハロースの添加により、細胞浮遊効果及び細胞凝集抑制効果が観察された。一方、フコイダンは、細胞浮遊を阻害する傾向が認められ、細胞凝集抑制効果は認められなかった。ヘスパンダーのみよりも、トレハロースを添加した方が、細胞の突起形成が抑制され、細胞の形態がよかった。0.5×T&Hによる細胞凝集抑制効果はET−Kと同程度であった。細胞浮遊効果は、ET−Kの方が0.5×T&Hよりも若干優れていた。0.1×T&Hでは、若干細胞表面に突起が観察された。
実施例1で調製したブタ皮下脂肪由来間葉系幹細胞を7回継代して得られた細胞(Pig AT−MSC P7)を10cmディッシュ上で培養した。10cmディッシュあたり、5mlのPBS(−)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にし、ET−K液に懸濁した。得られた細胞懸濁液を以下の試験に用いた。
ソルデム3AG輸液バッグ(TERUMO)を細断し、断片を50mlチューブの壁面に設置した。細胞懸濁液でチューブを満たし、チューブを横にしてクリーンベンチ内で室温(25℃)にて30分静置した。その後、輸液バッグ断片をPBSにより洗浄し、輸液バッグ内壁への細胞の接着の有無を、顕微鏡観察により評価した。
CVカテーテルキット(日本シャーウッド)を用いた。18G注射針をカテーテル先端に接続した。5mLシリンジで細胞懸濁液を吸入した。カテーテルにシリンジをセットし、細胞懸濁液を押し出した。この操作を規定回数繰り返した後に、細胞生存率を測定し、また顕微鏡下で観察した。顕微鏡観察の前に、5mLのPBSでカテーテルを洗浄した。
ブタ間葉系幹細胞を10cmディッシュ上で培養した。トリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞を、以下の組成液に懸濁し、室温(約25℃)にて360分間静置後、細胞の生存率を測定し、細胞の凝集を観察した。
NS:生理食塩水
MSCM:10%FBSを含有するαMEM
ET−K:ET−Kyoto(大塚製薬工場)
Saviosol:サヴィオゾール(大塚製薬工場)
Dextran:低分子デキストランL注(大塚製薬工場)
試験開始30分後及び360分後の細胞生存率を表6に示す。
試験開始から360分後に顕微鏡下で細胞凝集の有無を観察した。生理食塩水又はMSCM中で保存した場合には、大きな細胞凝集塊の形成が観察されたが、ET−K、Saviosol又はDextranにおいては、細胞凝集塊の形成が抑制され、細胞の分散状態が維持されていた。
(1)ラット組織の調製
ラット皮下脂肪をそけい部より採取後、視認可能な血管や筋など脂肪組織と異なる組織をマイクロ鋏で除去し、その後、細切とHBSS(ハンクス溶液)での洗浄を数回繰り返した。視覚的に、血球(または血塊)の除去および筋などの膜状浮遊物質の除去が確認出来るまで洗浄作業を続けた。得られたラット皮下脂肪をはさみにより細切した。
細切された組織を同量のHBSSと混ぜた。混合物を緩やかに振とう後、静置することにより2層に分離させた。上層のみを回収した。回収された上層に0.2%コラゲナーゼ(TypeI)/HBSSを加え、37℃下で緩やかに脂肪が完全に液状になるまで振とうした(最大90分間)。反応液に10%牛胎児血清(FBS)を含むαMEMをコラゲナーゼ反応液量に対して等量以上加えて混合後、混合物を遠心分離することにより3層に分離させた(下から有核細胞・溶液・脂肪)。下層のみを回収し、HBSSにて再懸濁した。この操作を3回繰り返し、最後に10%FBSを含むαMEMで懸濁した細胞懸濁液を培養皿へ移し、培養した。MSCは培養皿の底面へ接着した。
(1)の操作で、培養皿へ接着したMSCは増殖を続け、5〜7日後に培養皿底面はぎっしり細胞で埋まった。コンフルエントに到達するとMSCは増殖停止または細胞死が誘導されるので、コンフルエント到達前に、MSCを培養皿からはがし、新しい培養皿へ低密度で播種した。培養皿の底面に接着しているMSCをPBSで3回洗浄後、トリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)を加え、MSCを培養皿からはがした後、細胞が低密度になるような量の10%のFBSを含むαMEMで懸濁し、新しい培養皿へ移した。この操作を6回繰り返した(6回継代=P6)。
(2)で得たRat AT−MSC P6を実験に用いた。
10cm ディッシュあたり、5mlのPBS(−)で3回洗浄後、1mlのトリプシン−EDTA(0.25% トリプシン,1mM EDTA・4Na)で20秒処理することにより細胞をはがし、シングルセルの状態にした。得られた細胞を15ml容量のファルコンチューブへ移し、遠心することにより細胞を回収し、PBS(−)にて2回洗浄後、以下の各溶液にて再度、馴化洗浄を1回行った。
Saline:生理食塩水
Medium:10%FBSを含有するαMEM
ET−K:ET−Kyoto(大塚製薬工場)
Saviosol:サヴィオゾール(大塚製薬工場)
HES70K:6(w/v)% ヒドロキシエチルデンプン(重量平均分子量70000)+0.9(w/v)% NaCl(ドイツ・ブラウン社)
HES200K:6(w/v)% ヒドロキシエチルデンプン(重量平均分子量200000)+0.9(w/v)% NaCl(ドイツ・フレゼニウス・カビー社)
ET−K+Saviosol:ET−KとSaviosolの混合液(体積比で1:1)。
その後、各溶液を用いて2.5x105 cells/50μLとなるように懸濁した。
懸濁液を各温度(0、25、37℃)にて静置し、30〜360分後に20μLピペットマンにて数回ピペッティングし、10μLをディッシュに移した。
ディッシュ上の懸濁液の最下面に実体顕微鏡の焦点を合わせ、観察を行った。
顕微鏡下にて隣接し合う細胞塊を形成しているものを、細胞凝集塊とした。細胞凝集塊は、dishを顕微鏡のステージ上で揺らし、明らかに塊として動いている事を確認した。
試験開始30〜360分後の細胞生存率を図3及び4に示す。これらの図に示されるように、いずれの組成物を使用した場合であっても、細胞の生存率は生理食塩水を使用した場合と比較して顕著に高かった。細胞の生存率低下を抑制する効果はHES200KよりもHES70Kの方が高かった。
試験開始から360分後に顕微鏡下で細胞の凝集性を観察した。結果を表7に示す。
ヒトから分離精製された骨髄由来間葉系幹細胞(継代回数8回目)と脂肪組織由来間葉系幹細胞(継代回数8回目)の各細胞を、Nunc社製の細胞皿の底面を約90%覆うまで培養した。TaKaRa社製のPBS(−)で培養皿を3回洗浄し、GIBCO社製のトリプシン溶液にて各間葉系幹細胞を培養皿より剥離し、アシスト社製の15mL遠心チューブに細胞を回収した。1000rpm、5分間の遠心操作により、遠心チューブの底に細胞塊を形成させ、アスピレーターにて上澄み液を破棄した。指で弾いて細胞塊を解し、TaKaRa社製のPBS(−)を加え、数回ピペット操作にて更に細胞を解し、1000rpm、5分間遠心した。遠心チューブの底に細胞塊が形成されたことを確認し、アスピレーターにて上澄み液を破棄した。このPBS(−)による洗浄操作を後2回繰り返した。血球計算盤で細胞数を測定し、アシスト社製の1.5mLチューブに1.0x106個/チューブの条件で細胞を移した。1000rpm、5分間の遠心操作により、チューブの底に細胞塊を形成させ、上澄み液をマイクロピペットにて除去した。各チューブに
(1)生理食塩水(大塚製薬工場社製) 1mL
(2)サヴィオゾール(大塚製薬工場社製) 500μLとデキストランL注(大塚製薬工場社製) 500μLの混合液(デキストラン40 6.5(w/v)%)
(3)サヴィオゾール(大塚製薬工場社製) 250μLとデキストランL注(大塚製薬工場社製) 750μLの混合液(デキストラン40 8.25(w/v)%)
(4)デキストランL注(大塚製薬工場社製)(デキストラン40 10(w/v)%) 1mL
の計4種類の液をそれぞれ加え、ボルテックスミキサーにて数秒間、混合した。テルモ製の30G注射針と1mLのシリンジを用いて、細胞のシングル化操作を行い、室温(約25℃)にてチューブ立てを用いて静置した。静置30分後と60分後に、各チューブより、10μLの液を取り、GIBCO製のトリパンブルー液と等量混合した液を血球計算盤にて細胞数と生存率を測定した。尚、評価した液は、各チューブの液面中心(上)、液中間中心(中)及びチューブの底中心(下)の3箇所から静かに分取した。上、中、下の各細胞数の合計値を100%とし、それぞれの細胞数を分子に、合計細胞数を分母として割合で細胞の分布状況を算出した。また、細胞全体の生存率を別途算出した。
更に、本発明を用いれば、懸濁液中の幹細胞の生存率の低下を抑制することができる。従って、より状態のよい幹細胞により治療を実施することができるので、治療効果の向上が期待できる。
従って、本発明は幹細胞を利用した移植医療分野で有用である。
Claims (8)
- 精製された哺乳動物幹細胞を懸濁液中で保存するための、トレハロースを有効成分として含む、哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
- 幹細胞が付着性幹細胞である、請求項1記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
- 付着性幹細胞が間葉系幹細胞又は多能性幹細胞である、請求項2記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
- デキストランをさらに含む、請求項1〜3のいずれか記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
- 生理的水溶液をさらに含む、請求項1〜4のいずれか記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
- 哺乳動物幹細胞懸濁液中のトレハロースの濃度が4.53〜362.4mg/mlの範囲内となるように使用される、請求項5記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
- 哺乳動物幹細胞懸濁液中のデキストランの濃度が30〜100mg/mlの範囲内となるように使用される、請求項5又は6記載の哺乳動物幹細胞移植用の細胞生存率低下抑制剤。
- 精製された哺乳動物幹細胞を請求項5〜7のいずれか記載の細胞生存率低下抑制剤に懸濁し、懸濁液中で保存することを特徴とする哺乳動物幹細胞移植用の細胞の生存率低下を抑制する方法。
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