まず、図1を参照し、本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)を含むインクジェット式プリンタ101の全体構成について説明する。
プリンタ101は、図1に示すように、直方体形状の筐体101aを有する。筐体101aの天板上面には、排紙凹部(排紙部)15が設けられている。筐体101a内部の空間は、上空間、中空間、及び下空間に区分される。上空間では、用紙Pへの画像形成と、用紙Pの排紙凹部15への搬送が行われる。中空間では、用紙Pの収納と搬出が行われる。上空間と中空間との間には、用紙の収納部から排紙凹部15に至る用紙搬送経路(図1中太矢印に沿う経路)が形成されている。下空間は、上空間及び中区間から隔離されており、インクの貯留と供給が行われる。
上空間には、5つのインクジェットヘッド1a、1b、1c、1d、1e(互いの区別が必要ないときには、単にヘッド1と記載することがある。)、用紙Pを搬送する搬送機構16、用紙Pをガイドするガイド部、制御装置100等が配置されている。
5つのヘッド1は、無色の前処理液(P)、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)、シアンインク(C)、ブラックインク(B)の液体をそれぞれ吐出する。前処理液を吐出するヘッド1aは、用紙搬送方向に関して、一番上流にある。5つのヘッド1は、同一構造を有し、搬送方向に関して所定のピッチで配置され、枠状フレーム3に固定されている。フレーム3は、筐体101aに対し、相対移動可能に支持されている。
搬送機構16は、図1に示すように、ベルトローラ6、7及び搬送ベルト8に加え、搬送ベルト8の外側に配置されたニップローラ4及び剥離プレート5、搬送ベルト8の内側に配置されたプラテン18及びテンションローラ10を有する。
搬送ベルト8は、両ローラ6、7間に巻回された無端状のベルトであって、テンションローラ10によって下向きのテンションを受けている。プラテン18は、5つのヘッド1に対向して配置された平板であって、搬送ベルト8のループ上側部分を内側から支持している。ベルトローラ7は、駆動ローラであって、搬送モータ7Mの回転力で回転する。回転力は、複数のギアを介して伝達される。ベルトローラ7は、図1中時計回りに回転し、搬送ベルト8は矢印の方向に走行する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、搬送ベルト8の走行で回転する。ニップローラ6は、ベルトローラ6に対向配置され、用紙Pを搬送ベルト8に押さえ付ける。搬送ベルト8の外周面には、弱粘着性のシリコン層が形成されており、用紙Pは外周面に保持される。剥離プレート5は、ベルトローラ7に対向配置され、用紙Pを搬送ベルト8から剥離し、後段のガイド部に導く。
ガイド部は、搬送方向に関して上流側のガイド部と下流側のガイド部とから構成されている。上流側ガイド部と下流側ガイド部とは、搬送方向に関して搬送機構16を両側から挟んでいる。上流側ガイド部は、ガイド13a、13b及び送りローラ対14を有し、給紙ユニット101bと搬送機構16とを繋ぐ。画像形成用の用紙Pが、搬送機構16に向けて搬送される。下流側ガイドは、ガイド29a、29b及び2つの送りローラ対28を有し、搬送機構16と排紙凹部15とを繋ぐ。画像形成後の用紙Pが、排紙凹部15に向けて搬送される。
上空間には、筐体101aの天板下面部に、制御装置100が配置されている。制御装置100は、プリンタ101全体の動作を司る。制御装置100は、外部装置から受信した印字指令に基づいて、用紙Pの搬出、搬送、排出や搬送に同期した液体吐出動作を制御する。用紙Pが給紙ユニット101bから繰り出され、5つのヘッド1の下方を通過するとき、各ヘッド1から前処理液やインクが順に吐出されて、用紙P上に画像が形成されることになる。各ヘッド1からの吐出動作は、用紙センサ32からの用紙先端検出信号に基づいて行われる。用紙センサ32は、ヘッド1aの搬送方向上流側にある。さらに用紙Pは、排出口30から排紙凹部15に排出される。
中空間には、給紙ユニット101bが配置されている。給紙ユニット101bは、給紙トレイ11と給紙ローラ12とを有する。給紙トレイ11は、筐体101aに対し着脱可能で、上方に開口する箱である。給紙トレイ11には、複数の用紙Pは収容され、給紙ローラ12が最も上方の用紙Pを繰り出す。
下空間には、タンクユニット101cが配置されている。タンクユニット101cは、筐体101aに対して着脱可能で、5つのタンク17a、17b、17c、17d、17e(互いの区別が必要ないときには、単にタンク17と記載することがある。)が配置されている。タンク17aには、前処理液が収容されている。タンク17b、17c、17d、17eにはそれぞれイエローインク、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクが収容されている。各タンク17はチューブ(不図示)を介して対応するヘッド1と接続されている。
前処理液は、例えば、濃度向上作用(用紙Pに着弾したインクの濃度を向上させる作用)、インクの滲みや裏抜け(用紙Pに着弾したインクが用紙Pの層を貫通して裏面に滲み出す現象)の防止作用、インクの発色性や速乾性を向上させる作用、インク着弾後の用紙Pの皺やカールを抑制する作用等を有する、無色の液体である。前処理液の材料は、カチオン系高分子やマグネシウム塩等の多価金属塩を含有する液体等、適宜に選択可能である。ヘッド1aから吐出される前処理液は、ヘッド1b〜1eから吐出されるインクよりも先に、用紙Pに着弾する。
次に、図1〜図5を参照し、ヘッド1について説明する。なお、図3では、実線で描くべきアクチュエータユニット21を二点鎖線で描き、破線で描くべきアパーチャ112を実線で描いている。
各ヘッド1は、主走査方向(搬送方向に直交する方向)に長尺なライン式のヘッドであって、ヘッド本体2、液体分配部材、回路基板等が積層された積層体である。液体分配部材は、タンク17から供給された液体をヘッド本体2に均等分配する。回路基板は、制御装置100からの制御信号を調整し、アクチュエータユニット21に供給する。アクチュエータユニット21と回路基板とは、ドライバICが実装されたCOF(Chip On Film)により電気的に接続されている。
ヘッド本体2は、主走査方向に長尺な流路ユニット9、及び、流路ユニット9の上面9aに固定された4つのアクチュエータユニット21を含む。
流路ユニット9は、図4に示すように、9枚のステンレス製金属プレート122、123、124、125、126、127、128、129、130が積層されてなる導電性の積層体である。
流路ユニット9の上面9aには、図2に示すように、複数の圧力室110、2個の流入口105b、及び、流入口105bよりも主走査方向に細長い4個の流入口105cが開口している。4個の流入口105cは、流路ユニット9の長手方向に関して2個の流入口105bの間に設けられている。各流入口105b、105cには、上述の液体分配部材から供給された液体が流入する。流路ユニット9の内部には、各流入口105b、105cを入口とした鉛直方向に延在した流入流路が形成されている。流入流路は、4つのプレート122〜125に形成された貫通孔が接続されることによって構成されている。さらに、流路ユニット9の内部には、図3及び図4に示すように、流入流路に接続された共通インク流路としてのマニホールド流路(第1流路)105、マニホールド流路105から分岐して主走査方向に延在した共通インク流路としての複数の副マニホールド流路(第1流路)105a、及び、副マニホールド流路105aの出口から圧力室110を介して吐出口108に至る複数の個別インク流路(第2流路)132が形成されている。
圧力室110は、図4に示すように、アパーチャ(絞り部)112を介して副マニホールド流路105aに接続されている。流路ユニット9の下面は、液体を吐出する吐出面2aである。吐出面2aには、複数の吐出口108が主走査方向に等間隔で配置されるように二次元配列されている。個別インク流路132は、副マニホールド流路105aの出口であるインク供給口(第2口)115aから上方へ向かい、アパーチャ112において水平に延在し、それからさらに上方に向かい、圧力室110において再び水平に延在し、それからしばらくアパーチャ112から離れる方向に斜め下方に向かってから垂直下方に吐出口108へと向かう。
各アクチュエータユニット21は、図2に示すように、台形の平面形状を有する。4つのアクチュエータユニット21は、主走査方向に2列の千鳥に配列されている。詳細には、4つのうち端から1つ目と3つ目のアクチュエータユニット21は、台形の下底が上底よりも平面視矩形の流路ユニット9の一方の長辺に近くなるように、端から2つ目と4つ目のアクチュエータユニット21は下底が上底よりも他方の長辺に近くなるように配置されている。隣接する2つのアクチュエータユニット21の対向する2つの斜辺は、その大部分について主走査方向の位置が重複している。流入口105cは、アクチュエータユニット21ごとに設けられており、対応するアクチュエータユニット21の上底と平行に延在している。
アクチュエータユニット21は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなり、図5(a)に示すように、3枚の圧電層141、142、143を含む。圧電層141〜143は、同じ形状及びサイズを有し、アクチュエータユニット21の外形を画定している。圧電層141だけに、上下両面に電極(上面に個別電極135、下面に共通電極134)が形成されている。個別電極135は、図5(b)に示すように、圧力室110と相似な略菱形の平面形状を有する。個別電極135は、主要部分が圧力室110に対向しており、菱形の一方の鋭角部が圧力室110外に延出されている。延出方向の先端には、平面視で円形のランド136が形成されている。共通電極134は、2つの圧電層141、142に挟まれており、圧電層141の下面(圧電層142の上面)のほぼ全体に形成されている。圧電層143は、下面が流路ユニット9の上面9aに固定され、圧力室110の開口を封止している。なお、圧電層141の上面には、共通電極134と電気的に接続された共通電極用のランド(図示せず)も形成されている。個別電極用のランド136には駆動信号が選択的に与えられ、共通電極用ランドには基準電位のグランド電位が与えられる。
圧電層141のみが分極されており、活性層として機能する。圧電層141における個別電極135と共通電極134とで挟まれた部分は、分極方向の電界が印加されると、面方向の圧電歪み(d31の振動モードでの変位)が生じる。一方、圧電層142、143には自発的な変位が生じない。このとき、圧電層141との圧電層142、143との間で面方向に歪みの差が生じることにより、圧電層141〜143における個別電極135と圧力室110とで挟まれた部分が、面方向と直交する方向に変形(ユニモルフ変形)し、圧力室110の容積を変化させる。即ち、アクチュエータユニット21における個別電極135と圧力室110とで挟まれた部分は、それぞれ、圧力室110内の液体に吐出口108からの吐出エネルギーを付与する圧電アクチュエータとして働く。つまり、アクチュエータユニット21には、圧力室110と同数の圧電アクチュエータが作り込まれている。各圧電アクチュエータは、互いに独立して変形可能である。本実施形態では、ドライバICから個別電極135に駆動信号が供給されると、圧電アクチュエータが圧力室110に向けて凸となるように変形し、圧力室110の容積を減少させる。これより、圧力室110内の液体に圧力(吐出エネルギー)が付与され、吐出口108から液体が吐出される。
インクジェットヘッド1を製造する過程においては、アクチュエータユニット21及び流路ユニット9を構成する複数枚のプレート122〜130は、接着剤により接着されて積層されている。即ち、各プレートの一方の面の全域に接着剤が、ロールコータやバーコータ等により、一方向に沿って(本実施形態では、流路ユニット9の長手方向と平行な方向に沿って)転写された後に、そのプレートに接着される他のプレートが貼り合わされる。このとき、プレート122〜130にそれぞれ形成された、個別インク流路132の一部を構成する孔又は凹部(本実施形態では孔だけが存在している)に接着剤が流れ込むのを防止するために、積層される隣接した2枚のプレートの接着面には、余分な接着剤が流れ込む複数の逃し溝がハーフエッチングによって形成されている。
ここでは、複数枚のプレート122〜130のうち、特に、マニホールド流路105及び副マニホールド流路105aの上壁を構成するサプライプレート125について、図6を参照して説明する。図6は、サプライプレート125の部分底面図であって、吐出面2aと同じ方向を向いたサプライプレート125の裏面(下面)の一部を示している。なお、図2及び図3には1つのマニホールド流路105が主走査方向に延在した4つの副マニホールド流路105aに分岐している例を示しているが、説明を簡略化するために、図6には1つのマニホールド流路105が分岐せずに主走査方向に延在した1つの副マニホールド流路105aだけに連結されている例を示している。図6の例では、副マニホールド流路105aに接続された複数の圧力室110が、流路ユニット9の長手方向にそれぞれ延在した4つの圧力室列を構成している。
サプライプレート125には、流入流路の下端域を構成する貫通孔及びその出口開口151(第1口:図6参照)が設けられている。さらに、サプライプレート125には、図4に示すように、個別インク流路132の一部を構成し、副マニホールド流路105aとアパーチャ112とを連通させる複数のインク供給孔115と、同じく個別インク流路132の一部を構成し、圧力室110と吐出口108とを連通させるための複数の連絡孔114が形成されている。図6では図示を省略した複数の連絡孔114は、副マニホールド流路105aとの平面的な位置関係が図3に示す吐出口108とほぼ同じとなるように、流路ユニット9の長手方向にそれぞれ延在した4つの連絡孔列を構成している。複数のインク供給孔115の下端にそれぞれ設けられた複数のインク供給口115aは、図6に示すように、副マニホールド流路105aに面するように、流路ユニット9の長手方向に延在した4つの供給口列を形成している。
複数の連絡孔114を含み且つ出口開口151及び複数のインク供給孔115を含まない領域は、下側に隣接するプレート126に接着剤によって接着される接着領域161である。そのため、接着領域161には、接着剤の塗布時及びプレート積層・加圧時に余分な接着剤が連絡孔114に流れ込むのを防止するために、連絡孔114をそれぞれ個別に取り囲む複数の環状の逃し溝170(図4参照、図6においては図示省略)が形成されている。
接着領域161内であって、下側に隣接したプレート126に接着されない非接着領域162との境界付近には、それぞれ、3つの内側包囲溝171と、3つの外側包囲溝172とが形成されている。内側包囲溝171及び外側包囲溝172は、後述する逃し溝群174同様、余分な接着剤が出口開口151及び複数のインク供給口115aに流れ込むのを抑制する機能を有している。共に環状である3つの内側包囲溝171と3つの外側包囲溝172とによって囲まれた環状の領域が、出口開口151及び複数のインク供給口115aが形成された非接着領域162となっている。図6に示す例では、非接着領域162は、出口開口151の主走査方向中心を通って副走査方向に延びる軸(以下、「対称軸」と称する)Sに対して左右対称形状を有している。
非接着領域162において、複数のインク供給口115aが設けられた領域は、副マニホールド流路105aに面しており、主走査方向に延在している。複数のインク供給口115aが設けられた領域は、出口開口151から副走査方向にシフトした位置にあって、主走査方向に関して複数のインク供給口115aの一部が出口開口151と重複している。出口開口151と複数のインク供給口115aが設けられた領域の両端とをそれぞれ接続する2つの領域は、マニホールド流路105に面している。これら2つの領域の延在方向は、主走査方向及び副走査方向の両方の成分を有する斜め方向である。
接着領域161には、広い接着領域161を小面積の多数の格子状領域に分割する格子溝173が形成されている。格子溝173は、接着面にエアが残留することを防いで、プレート間の確実な接着を確保する働きがある。
インク供給口115aの周辺部分は、下側に隣接したプレート126に接着されない非接着領域162であり、この部分には接着剤を塗布する必要がない。しかし、サプライプレート125の裏面にはロールコータ又はバーコータといった転写装置を用いて接着剤が塗布されるので、サプライプレート125の裏面全域に接着剤を塗布するのが効率的である。そして、本実施形態のヘッド1を製造するに当たっては、接着剤の転写方向は、転写の容易性を考慮して、流路ユニット9の長手方向に平行(図6中左から右方向)となっている。このとき、サプライプレート125の裏面上を転写方向の上流側から下流側へ接着剤が流れることになるが、接着剤が塗布される必要がない非接着領域162にも接着剤が流れて、出口開口151から流入流路内に、及び、インク供給口115aからインク供給孔115内に接着剤が流れ込む虞がある。
そこで、サプライプレート125の非接着領域162には、サプライプレート125の裏面(共通インク流路の上壁面)に転写される接着剤を逃す2つの逃し溝群174が設けられている。2つの逃し溝群174は、対称軸Sに関して左右対称形状を有している。各逃し溝群174は、4つの逃し溝174a、174b、174c、174dからなる。各逃し溝の深さは、サプライプレート125の厚みの半分程度又はそれ以下である。逃し溝174aは、4つの逃し溝の中で出口開口151を通過する対称軸Sから最も遠くにあって「く」の字曲線状に形成されており、上流端が出口開口151近傍に、下流端が最も出口開口151から離れた供給口列の上流端近傍に位置するように延在している。逃し溝174bは、逃し溝174aに隣接して「U」の字曲線状に形成されており、一端部が2番目に出口開口151から離れた供給口列の上流端近傍に位置し、他端部が2番目に出口開口151に近い供給口列の上流端近傍に位置するように延在している。そして、「U」字の頂点が出口開口151の近傍に位置している。逃し溝174cは、逃し溝174bに囲まれるように配置された環状溝である。逃し溝174dは、逃し溝174cに囲まれるように配置された環状溝である。
逃し溝174aの外形線、及び、逃し溝174bの「U」字の頂点を挟んで出口開口151に近い方の領域の外形線は、ほとんどの部分において(変形例としてその全域において)、接着領域161と非接着領域162との境界であるマニホールド流路105を画定する側壁面(プレート126、127、128に形成された貫通孔を画定する面)と実質的に平行になっている。また、残り2つの逃し溝174c、174dの外形線、及び、逃し溝174bの「U」字の頂点を挟んで出口開口151から遠い方の領域の外形線は、ほとんどの部分において(変形例としてその全域において)、接着領域161と非接着領域162との境界であるマニホールド流路105を画定する側壁面に近いものほど当該側壁面に平行な形状に近く、当該側壁面から離れたものほど当該側壁面よりも曲率が小さく直線に近い形状となっている。なお、「ほとんどの部分」とした理由については後述する。
4つの逃し溝174a、174b、174c、174dの副走査方向に関する形成範囲(逃し溝群174を副走査方向に延びた仮想線上に主走査方向から射影してできた範囲)は、出口開口151の副走査方向に関する形成範囲を包含している。また、逃し溝174aの副走査方向に関する形成範囲は、3つの供給口列に属するすべてのインク供給口115aの副走査方向に関する形成範囲を包含している。加えて、逃し溝174bの副走査方向に関する形成範囲は、出口開口151に近い方の3つの供給口列に属するインク供給口115aの副走査方向に関する形成範囲を包含している。したがって、図6中左から右へと向かう方向に沿ってプレート125に塗布された接着剤が出口開口151及び複数のインク供給口115aから流路に流れ込むのを、逃し溝群174が効果的に抑制する。なお、当該効果は、対称軸Sより上流に形成された逃し溝群174において顕著であるが、対称軸Sよりも下流に形成された逃し溝群174においても限定的ながら得られることが確認されている。
図7には、マニホールド流路105内におけるインクの流動線Rが描かれている。出口開口151からマニホールド流路105に流れ込んだインクは、マニホールド流路105を画定する側壁面の形状によって規制されつつ、出口開口151から副マニホールド流路105aに向かって流れる。その結果、マニホールド流路105内における流動線Rは、マニホールド流路105を画定する側壁面の付近では当該側壁面と実質的に平行になっており、側壁面から離れるほど当該側壁面よりも曲率が小さく直線に近づいた形状となっている。副マニホールド流路105a内におけるインクの流動線は、副マニホールド流路105aの延在方向(流路ユニット9の長手方向)に平行となっている。
4つの逃し溝174a、174b、174c、174dの外形線と流動線Rとの関係について、図8を参照しつつ逃し溝174aを例に説明する。上述したように、逃し溝174aの外形線は、そのほとんどの部分において、接着領域161と非接着領域162との境界であるマニホールド流路105を画定する側壁面と平行になっている。また、逃し溝174aの位置を通過する流動線Rも、マニホールド流路105を画定する側壁面と実質的に平行になっている。つまり、逃し溝174aの外形線と流動線Rは互いに実質的に平行となっている。なお、「ほとんどの部分」としたのは、鋭角となっている逃し溝174aの上流端X1及び下流端X2の近傍(後述する区域178、179、180、181:流動線Rに対して鋭角をなしている)が除かれるためである。
図8に示すように、逃し溝174aの外形線は、互いに平行な2つの主区域176、177を有している。そして、主区域176、177の任意位置における接線方向は、当該位置を通過する流動線Rの接線方向と平行となっている。例えば、主区域176の位置X3における接線方向D1は、主区域177の位置X4(主区域177上で位置X3に最も近い位置)における接線方向D2、及び、位置X3、X4を通過する流動線Rの接線方向D3と平行である。言い換えると、主区域176、177は、流動線Rの当該主区域176、177に対応した位置(微小領域)における接線方向と平行な平行部分だけからなる。
一方で、逃し溝174aの上流端X1で接続された2つの直線状の区域178、179は、流動線Rの当該区域178、179に対応した位置(微小領域)における接線方向と非平行な非平行部分だけからなる。そして、区域178、179の下流端は、それぞれ、主区域176、177の上流端と鈍角θ1、θ2をなすように接続されている。同様に、逃し溝174aの下流端X2で接続された2つの直線状の区域180、181は、流動線Rの当該区域180、181に対応した位置における接線方向と非平行な非平行部分だけからなる。そして、区域180、181の上流端は、それぞれ、主区域176、177の下流端と鈍角θ3、θ4をなすように接続されている。逃し溝174b、174c、174dについても、流動線Rとの関係は逃し溝174aと同様であるが、逃し溝174c、174dには非平行部分がなく平行部分だけを有している。
上述したように逃し溝群174は、プレート125への接着剤の塗布時に図6中左から右へと流れてくる接着剤が出口開口151及び複数のインク供給口115aから流路に流れ込むのを効果的に抑制するという機能を有している。しかしながら、インク内に存在していたエアが気泡となって時間の経過に従って逃し溝174a、174b、174c、174dに除々に蓄積されていく。その結果、インク吐出が阻害されるおそれが高くなる。これを解消するために、プリンタ101では、ヘッド1に接続されたポンプ(図示せず)を駆動してヘッド1内のエアをインクと共に強制的に排出するパージ動作を定期的に行う必要がある。本実施形態では、逃し溝群174が図8を参照して詳述したような形状を有しているために、各逃し溝174a、174b、174c、174d内でのエアの流動性が高くなる。これは、平行部分では流動線Rに沿ってエアが動きやすいこと、及び、平行部分と非平行部分とが接続されてなる角部が鈍角となっているために当該角部にエアが蓄積されにくいことによる。したがって、逃し溝174a、174b、174c、174dに蓄積されたエアをパージ時にマニホールド流路105及び複数の副マニホールド流路105aから個別インク流路132を介して効率的に外部へと排出することが可能である。よって、通常よりもパージ時間を長くする又はパージ圧を増加させる必要がなく、パージ時に廃棄されるインク量を最小限に抑えることができる。
なお、製造時に逃し溝174a、174b、174c、174dに接着剤が流れ込むことがあるが、パージ時においてエアは逃し溝内に流れ込んだ接着剤を乗り越えて逃し溝外に排出されるため、逃し溝内に流れ込んだ接着剤がエアの流動を阻害することはない。
また、本実施形態では、図6中左側の逃し溝群174の逃し溝174aの形成範囲が、複数のインク供給口115aのうち最も上流(図6において最も左)にあるものよりもさらに上流に、副走査方向に関してこれら複数のインク供給口115aを包含するように形成されている。したがって、パージ時にエアをより確実にインク供給口115aから個別インク流路132に送出することができる。
さらに、本実施形態では、副走査方向が流路ユニット9の長手方向と直交しており、複数のインク供給口115aが設けられた副マニホールド流路105aが主走査方向に延在している。これによって、逃し溝群174を構成する各逃し溝の長さを最小限に抑えつつ複数のインク供給口115aへの接着剤の流れ込みを抑制することができる。また、逃し溝174a、174b、174c、174dに落ち込んだエアをインクの流動方向D(図7参照)に配列された複数のインク供給口115aからパージ時に効果的に排出することができる。
加えて、複数のインク供給口115aが副走査方向に関して出口開口151からシフトした位置にあると共に、主走査方向に関して複数のインク供給口115aの一部が出口開口151と重複した位置にあり、逃し溝174a、174b、174c、174dが、主走査方向の成分及び副走査方向の成分の両方を有するように延在している。したがって、吐出口108の数を担保しつつ流路ユニット9が長くなるのを抑制することができる。
また、非平行部分である区域178、179の下流端は、それぞれ、平行部分である主区域176、177の上流端と鈍角θ1、θ2をなすように接続されている。これによって、区域178、179に沿って存在するエアが平行部分である主区域176、177に送出され易くなる。
しかも、本実施形態では、逃し溝174a、174b、174c、174dが形成されたサプライプレート125の裏面(共通インク流路の上壁面)が、吐出口108が形成された吐出面2aと同じ方向を向いている。これによって、エアが付着しやすいサプライプレート125の裏面のエアを効率的に排出することができる。
さらに、本実施形態では、逃し溝群174に4つの逃し溝174a、174b、174c、174dが含まれているため、各逃し溝174a、174b、174c、174dの幅を細くできる。したがって、逃し溝をハーフエッチングなどで比較的簡易に形成することができるため、ヘッド1の製造を容易とすることができる。
さらに加えて、本実施形態では、主走査方向に出口開口151を挟むように2つの逃し溝群174が設けられている。したがって、上述したように、出口開口151への接着剤の入り込みをより効果的に抑制することができる。
また、本実施形態では、図8を用いて説明したように、逃し溝174a、174bの上流端及び下流端が鋭角をなしているので、逃し溝内へのエアの導入及び逃し溝からのエアの排出がし易くなる。
次に、本発明の一変形例について、図9を参照して説明する。図9は、図6と同様、サプライプレートの裏面を示す部分底面図である。本変形例は、サプライプレートに形成された逃し溝以外に図6からの変更はないので、上述した実施形態と同じ部材には同じ符号を用いてその説明を省略する。
図9に示すように、サプライプレートの裏面には、出口開口151と、複数のインク供給口115aとが開口している。接着領域161には、3つの内側包囲溝171と、3つの外側包囲溝172と、格子溝173とが形成されている。
本実施形態のヘッド1を製造するに当たっては、接着剤の転写方向は、転写の容易性を考慮して、流路ユニット9の長手方向に平行(図6中左から右方向)となっている。したがって、サプライプレートの裏面上を転写方向の上流側から下流側へ接着剤が流れることになるが、接着剤が塗布される必要がない非接着領域162にも接着剤が流れて、出口開口151から流入流路内に、及び、インク供給口115aからインク供給孔115内に接着剤が流れ込む虞がある。
そこで、サプライプレートの非接着領域162には、サプライプレートの裏面に転写される接着剤を逃す2つの逃し溝274が設けられている。2つの逃し溝274は、対称軸Sに関して左右対称形状を有している。逃し溝274の幅は、マニホールド流路105の最大幅Wの1/2以上となっている。逃し溝274の深さは、サプライプレートの厚みの半分程度又はそれ以下である。逃し溝274は、上流端が出口開口151近傍に、下流端が4つの供給口列の上流端近傍に位置するように延在している。
逃し溝274の外形線を、図10に示す4つの区域a、b、c、dに区分して考察する。区域aは、逃し溝274の上流端から、外側を通って左側下流端に至る。区域bは、逃し溝274の上流端から、内側を通る直線形状を有している。区域cは、区域bの下流端から右側下流端に至る。区域dは、右側下流端と左側下流端との間であって直線形状を有している。区域a及びcは、その全域において、接着領域161と非接着領域162との境界であるマニホールド流路105を画定する側壁面(プレート126、127、128に形成された貫通孔を画定する面)と実質的に平行になっている。また、区域b及びdは、マニホールド流路105を画定する側壁面と平行になっていない。
逃し溝274の副走査方向に関する形成範囲(逃し溝274を副走査方向に延びた仮想線上に主走査方向から射影してできた範囲)は、出口開口151の副走査方向に関する形成範囲を包含している。また、逃し溝274の副走査方向に関する形成範囲は、複数のインク供給口115aの副走査方向に関する形成範囲を包含している。したがって、図9中左から右へと向かう方向に沿ってサプライプレートに塗布された接着剤が出口開口151及び複数のインク供給口115aから流路に流れ込むのを、逃し溝274が効果的に抑制する。なお、当該効果は、対称軸Sより上流に形成された逃し溝274において顕著であるが、対称軸Sよりも下流に形成された逃し溝274においても限定的ながら得られることが確認されている。本変形例において、マニホールド流路105内におけるインクの流動線Rは、図7で説明したのと同様である。
逃し溝274の外形線と流動線Rとの関係について説明する。上述したように、逃し溝274の外形線の区域a及びcは、その全域において、接着領域161と非接着領域162との境界であるマニホールド流路105を画定する側壁面と平行になっている。また、区域a及びcの位置(微小領域)を通過する流動線Rも、マニホールド流路105を画定する側壁面と実質的に平行になっている。つまり、区域a及びcと流動線Rは互いに実質的に平行となっており、区域a及びcは、流動線Rの当該区域a及びcに対応した位置(微小領域)における接線方向と平行な平行部分だけからなる。
一方で、区域b及びdは、流動線Rの当該区域b、dに対応した位置における接線方向と非平行な非平行部分だけからなる。そして、区域bの下流端は、区域cの上流端と鈍角θ5をなすように接続されている。区域dの一端は、区域cの下流端と鈍角θ6をなすように接続されている。
上述したように逃し溝274は、サプライプレートへの接着剤の塗布時に図9中左から右へと流れてくる接着剤が出口開口151及び複数のインク供給口115aから流路に流れ込むのを効果的に抑制するという機能を有している。しかしながら、インク内に存在していたエアが気泡となって時間の経過に従って逃し溝274に除々に蓄積されていく。その結果、インク吐出が阻害されるおそれが高くなる。これを解消するために、プリンタ101では、ヘッド1に接続されたポンプ(図示せず)を駆動してヘッド1内のエアをインクと共に強制的に排出するパージ動作を定期的に行う必要がある。本変形例では、逃し溝274が図10を参照して詳述したような形状を有しているために、逃し溝274内でのエアの流動性が高くなる。これは、平行部分では流動線Rに沿ってエアが動きやすいこと、及び、平行部分と非平行部分とが接続されてなる角部が鈍角となっているために当該角部にエアが蓄積されにくいことによる。したがって、逃し溝274に蓄積されたエアをパージ時にマニホールド流路105及び複数の副マニホールド流路105aから個別インク流路132を介して効率的に外部へと排出することが可能である。よって、通常よりもパージ時間を長くする又はパージ圧を増加させる必要がなく、パージ時に廃棄されるインク量を最小限に抑えることができる。
また、本実施形態では、マニホールド流路105を画定する側壁面と平行な外形線を有する逃し溝274が1つだけ形成されており、その幅がマニホールド流路105の最大幅Wの1/2以上であるので、逃し溝274内のエアをより排出し易くなる。
なお、本変形例においては、外形線の区域dの全域がインク流動の下流端となっているが、区域dに沿って蓄積されるエアをより少なくするために、例えば図8に示す下流端X2のように流動線に沿って下流に向かう方向に突出した鋭角部を区域dに設けることがより好ましい。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更を上述の実施形態に施すことが可能である。例えば、上述した実施形態には接着剤の塗布方向が流路ユニット9の長手方向に平行な例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、接着剤の塗布方向が流路ユニット9の幅方向に平行な場合には、図6において、出口開口151よりも塗布方向上流に出口開口151を包含する逃し溝を設けるか、2つの逃し溝174aを出口開口151よりも塗布方向上流において接続すればよい。
また、図6及び図9で説明した例では逃し溝の外形線が平行部分と非平行部分とから構成されているが、前記一又は複数の溝の外形線が平行部分だけからなっていてもよい。これによって、溝内でのエアの流れがより円滑となる。
第1流路が共通インク流路で第2流路が個別インク流路である例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、それ以外の部分に適用することも可能である。
上述した実施形態において、2つの逃し溝群174のうち、出口開口151及び複数のインク供給口115aよりも接着剤の塗布方向に関して上流にある図6中左側にあるものだけが形成されていてもよい。また、逃し溝群174の中で、逃し溝174aだけが形成されていてもよい。なぜなら、逃し溝174aの副走査方向に関する形成範囲は、出口開口151及び複数のインク供給口115aの副走査方向に関する形成範囲を包含しており、逃し溝174aの外形線は、流動線Rの逃し溝174aに対応した位置(微小領域)における接線方向と平行な平行部分(主区域176、177)を有し、且つ、非平行部分(区域178、179)がそれぞれ平行部分(主区域176、177)と鈍角θ1、θ2をなすように接続されているからである。
さらに、逃し溝の形状は、(1)プレート面内の任意の一方向に関して、逃し溝の形成範囲が出口開口(第1口)の形成範囲を包含していること、(2)逃し溝の外形線が、流動線Rの逃し溝に対応した位置における接線方向と平行な平行部分を有していること、(3)逃し溝の外形線が非平行部分を有する場合には、非平行部分が平行部分と鈍角をなすように接続されていること、という条件を満たす限り、どのように変更してもよい。なお、(1)において「任意の一方向」としたのは、ヘッドの製造過程において、接着剤の塗布方向を(1)を満たす一方向と直交する方向に変更すればよいからである。