本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
尚、拍動を心拍情報として表すECG信号の代わりに拍動を脈波情報として表す脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、位相補正部43、画像再構成部44及び画像処理部46として機能する。また、記憶装置36は、k空間データベース42及び画像データベース45として機能する。
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ制御部41に与える機能を有する。
特に、撮像条件設定部40は、イメージングデータの収集タイミングにおいて着目する2つの組織からの信号の符号が互いに逆(正負の値)となるような撮像条件を設定する機能を備えている。2つの組織からの信号の符号を逆にするためには、2つの組織における縦磁化Mzの符号を逆にすればよい。そのために、撮像条件設定部40は、縦磁化プリパレーション(Mz preparation)部に続いてイメージングシーケンスを有するパルスシーケンスを設定する機能を備えている。
イメージングシーケンスは、画像再構成処理に用いるイメージングデータとしてNMRエコー信号を収集するパルスシーケンスである。イメージングシーケンスとしては、FE (field echo)シーケンス、FSE(fast spin echo)シーケンス、FFE(fast spin echo)シーケンス、SSFP(steady state free precession)シーケンス、EPI(echo planar imaging)シーケンス等の所望のシーケンスを用いることができる。縦磁化プリパレーション部は、T1, T2や動き等の組織の性質の違いを利用してイメージングデータの収集タイミングにおいて着目する2つの組織の縦磁化Mzの符号が逆となるように、イメージングシーケンスに先立って縦磁化Mzの大きさを調整する部分である。
図3は、データ収集タイミングにおいて2つの組織における縦磁化が正負の値となるように縦磁化プリパレーション部において1つのIRパルスの印加を設定した例を示す図である。
図3において横軸は時間tを、縦軸のRFはRF信号を示し、Mzは縦磁化を示す。また、縦磁化Mzの時間変化を示すプロットにおいて一点鎖線は強調対象となる組織(Enhanced tissue)の縦磁化を示し、二点鎖線は抑制対象となる組織(Suppressed tissue)の縦磁化を示す。
図3に示すように縦磁化プリパレーション部において少なくとも1つのIRパルスを印加し、IRパルスの印加タイミングからTI後にイメージングシーケンスが開始するパルスシーケンスを設定することができる。イメージングシーケンスでは、RF励起パルスの印加タイミングからエコー時間(TE: echo time)後にNMRエコー信号が収集される。
尚、図3はイメージングシーケンスがSEシーケンスである例を示している。イメージングシーケンスがFSEシーケンス、FFEシーケンス又はSSFPシーケンス等のシーケンスである場合には、k空間の中心部におけるエコー信号が収集される直前に印加されるRFパルスとIRパルスとの間における期間がTIとなる。
そして、イメージング用のNMRエコー信号の収集タイミングにおいて強調対象となる組織の縦磁化が正の値となる一方、抑制対象となる組織の縦磁化が負の値となるようにTI及びIRパルスのフリップ角(FA: flip angle)が調整される。例えば、IRパルスのFAを180°としてt=TIにおいて2つの組織の縦磁化が正負に分離するようにTIを設定することができる。
但し、IRパルスのFAが90°より大きければ組織の縦磁化は負値となるため、FA≠180°でもT1の異なる2つの組織の縦磁化が正負に分かれるようなTIは存在する。また、TIは繰り返し時間(TR: repetition time)等の撮像パラメータにも応じた値となる。この場合、IRパルスはT1緩和を利用してイメージングデータの収集タイミングにおいて2つの組織の縦磁化が正負の値となるように縦磁化を制御するプリパレーションパルス(T1 prepared pulse)として機能する。
図3に示す撮像条件でデータを収集すると、強調対象となる組織からは正値のエコー信号が収集される一方、抑制対象となる組織からは負値のエコー信号が収集される。このため、複素信号であるエコー信号の実部を用いて負の値をとる縦磁化も考慮するREAL画像再構成処理(Real Imaging)を行えば、エコー信号の絶対値を用いて画像再構成を行うMagnitude Imagingを行う場合に比べてコントラストを向上させることができる。例えば、Magnitude Imagingでは、符号が逆でも絶対値が同じエコー信号間に対応するコントラストはゼロとなるのに対して、Real Imagingでは、絶対値の2倍に相当するコントラストとなる。
強調対象となる組織の例としては背景となる静止組織が挙げられ、抑制対象となる組織の例としては、血液やCSF等の流体が挙げられる。CSFを抑制対象とする場合にはFLAIRが実施されることとなる。
図4は、図3に示すパルスシーケンスを実行した場合に収集される複素エコー信号の振幅及び位相の変化を示す図である。
図4において、(A)はt=TIにおいて収集される複素信号の振幅及び位相を示し、(B)はt=TI+TEにおいて収集される複素信号の振幅及び位相を示す。また、(A), (B)の各縦軸は回転座標系の虚軸を、各横軸は回転座標系の実軸を、実線で示すベクトルは強調対象となる背景信号を、点線で示すベクトルは抑制対象となる血液信号を、それぞれ示す。
t=TIにおいて90°RF励起パルスが印加されると、背景組織の縦磁化及び血液の縦磁化はそれぞれ横磁化となる。このため、図4(A)に示すように、背景信号Sbackを表すベクトルは実軸上で正方向となる一方、血液信号Svesselを表すベクトルは実軸上で負方向となる。また、血液信号Svesselの振幅は、動きやT2緩和の影響により背景信号Sbackの振幅より小さい。
従って、背景組織と血液間におけるコントラストCvessel-to-backは、血液信号Svesselの実部Re(Svessel)と背景信号Sbackの実部Re(Sback)との差|Re(Svessel)- Re(Sback)|、つまり血液信号Svesselの振幅と背景信号Sbackの振幅の和となる。
しかし、背景組織及び血液の縦磁化がRF励起により横磁化になった瞬間から磁場の不均一性及び血液の流れの影響によりボクセル内における位相がばらける。このため、t=TI+TEでは、図4(B)に示すように、血液信号Svesselの位相Φflow及び背景信号Sbackの位相Φbackはシフトする。また、T2緩和によって血液信号Svesselの振幅及び背景信号Sbackの振幅は小さくなる。従って、実際には背景組織と血液間におけるコントラストCvessel-to-backは、図4(B)に示すように、T2緩和によって振幅が小さくなった血液信号Svesselの実部Re(Svessel)と背景信号Sbackの実部Re(Sback)との差|Re(Svessel)- Re(Sback)|となる。
そこで、背景組織と血液間におけるコントラストCvessel-to-backを最大にするために背景信号Sbackの位相シフト分だけ信号を表すベクトルの向きを実軸上の正方向にシフトさせる背景位相補正処理及び血液信号Svesselを表すベクトルの向きのみを選択的に実軸上の負方向にシフトさせるCOS filter処理を行うことが好適である。背景位相補正処理及びCOS filter処理の詳細については後述する。
抑制対象となる組織が流体である場合、IRパルスの印加後に画像化領域に外部から流入する流体の縦磁化も反転する必要がある。そこで、IRパルスを印加するスラブ厚を十分に厚く設定するか、或いはIRパルスを領域非選択パルスとすれば、画像化の対象となるスラブ内に外部から流入する流体からの信号も負値にすることができる。IRパルスを領域選択パルスとする場合には、IRパルスの印加時からイメージングデータの収集時までに画像化領域に流入する流体を少なくとも含む空間領域をIRパルスの印加領域とすればよい。
図5は、画像化領域外部の血液の上流側に領域選択IRパルスを印加する例を示す図である。図6は、図5に示すIRパルスの印加による画像化領域における縦磁化の変化を示す図である。
図5の一点鎖線で示すように被検体Pの頭部に画像化領域としてイメージングスラブを設定し、イメージングスラブ内の血液をイメージングする場合には、イメージングスラブに流入する血液(Inflow blood)が流れる血管を含む二点鎖線で示す領域をIRパルスの印加領域とすればよい。この場合、IRパルスは、ASL (Arterial Spin Labeling)パルス(タグ付けパルスとも称する)として機能し、IRパルスの印加領域はラベリング領域(Labeled region)(タグ付け領域とも称する)ということになる。
図6(A)において横軸は時間tを、縦軸は縦磁化Mzを、一点鎖線はイメージングスラブ内における背景組織である脳実質の縦磁化を、二点鎖線はイメージングスラブ内に流入する血液の縦磁化を、点線はイメージングスラブ内に流入する血液の縦磁化の絶対値を、それぞれ示す。また、図6(B)において横軸は図5に示すイメージングスラブ内において血管を横切る位置xを、縦軸は縦磁化Mzを、実線は縦磁化Mzのプロファイルを、それぞれ示す。
イメージングスラブの上流において縦磁化M0の血液を180°IRパルス等のFA>90°のIRパルスを用いてラベリングすると、血液の縦磁化は最小でMz=-M0となる。その後、緩和により血液の縦磁化は時間とともにMz=M0に近づく。そこで、血液の縦磁化がゼロとなる前のMz<0となっている期間にTIを設定してイメージングデータを収集すれば血液からの信号は負値となる。一方、背景組織の位相はほぼゼロと考えられるため背景組織からの信号は正値となる。従って図6(B)に示すように、t=TIにおいて血管を横切る位置xにおける縦磁化のプロファイルは、背景組織部分において大きく、血管部分において小さくなる。
この場合、血液の縦磁化がゼロとなるTIlimitにおいてイメージングデータを収集し、信号の絶対値を用いて画像再構成を行う場合における背景組織と血液間のコントラストClimitよりも、血液の縦磁化が負値となる0≦TI<TIlimitにおいてイメージングデータを収集し、信号の実部を用いて画像再構成を行う場合における背景組織と血液間のコントラストCvessel-backの方が大きくなる。
そこで、磁気共鳴イメージング装置20では、0≦TI<TIlimitに設定してReal Imagingが行われる。特に、血液のT1は脳実質のT1より長いため、血液の縦磁化が反転してからゼロになるまでのTIlimitは比較的長くなる。このため、TIの設定が容易である。
信号の絶対値を用いて画像再構成を行う従来のMRAの場合には、血液をASLパルスでラベリングして収集されたイメージングデータData_labeledと血液をラベリングせずに同一のTIにおいて収集されたコントラスト制御用のイメージングデータData_controlとの間で複素差分処理が行われる。尚、血液をラベリングし、かつMTC (magnetization transfer contrast)効果をキャンセルするためのRFパルスを印加してコントラスト制御用のイメージングデータData_controlが収集される場合もある。そして、差分処理により、背景組織からの信号がキャンセルされ、血管流や組織血流のみならず、CSF等の流体のマップ画像を得ることができる。
このため、信号の絶対値を用いて画像再構成を行う場合には、図6の一点鎖線で示す背景組織からの信号と点線で示す血液からの信号の絶対値との差がコントラストとなる。従って、血液における縦磁化がゼロとなるTI= TIlimitに設定すれば、最大のコントラストを得ることができる。この場合、TIにおいて背景組織の縦磁化をほぼゼロにするために複数の非選択IRパルスを印加する手法も考えられる。
これに対して、磁気共鳴イメージング装置20のように、信号の実部を用いて画像再構成を行えば、差分処理や複数のIRパルスの印加を行うことなく背景組織と血液との間におけるコントラストを絶対値再構成を行う場合や複数のIRパルスを印加する場合に比べて良好にすることができる。すなわち、血管像を良好なコントラストでマッピングすることができる。加えて、差分処理を行って絶対値画像再構成を行う場合に比べて、撮像時間を理想的には半分程度まで短縮することができる。
ASLパルスによるラベリング領域は、画像化領域の外部ではなく、画像化領域を含む領域に設定することもできる。すなわち、ASLパルスによって、画像化する領域に流入する流体又は画像化領域の縦磁化を反転すれば、流体と背景組織とが良好なコントラスト差で描出される画像データを得ることができる。尚、イメージング対象が動きの小さいCSFや脂肪等の静止部しかない対象である場合には、少なくとも画像化領域を含む領域が領域選択的IRパルスの印加領域として設定される。
図7は、画像化領域を含む領域に領域選択IRパルスを印加する例を示す図である。図8は、図7に示すIRパルスの印加による画像化領域における縦磁化の変化を示す図である。
図7の一点鎖線で示すように被検体Pの頭部に画像化領域としてイメージングスラブを設定し、イメージングスラブ内の血液をイメージングする場合には、イメージングスラブを含む二点鎖線で示す領域を領域選択的IRパルスの印加領域、つまりASLパルスによるラベリング領域とすることができる。
図8(A)において横軸は時間tを、縦軸は縦磁化Mzを、一点鎖線はイメージングスラブ内における背景組織である脳実質の縦磁化を、二点鎖線はイメージングスラブ内に流入する血液の縦磁化を、点線はイメージングスラブ内における背景組織の縦磁化の絶対値を、それぞれ示す。また、図8(B)において横軸は図7に示すイメージングスラブ内において血管を横切る位置xを、縦軸は縦磁化Mzを、実線は縦磁化Mzのプロファイルを、それぞれ示す。
図7に示すようなイメージングスラブを含むラベリング領域にIRパルスを印加すると、背景組織及びIRパルスの印加時にラベリング領域内に存在する血液の双方の縦磁化が反転して負の値-M0となる。そして、図8(A)に示すように時間とともに背景組織及び血液の縦磁化が緩和する。一方、ラベリング領域に外部から流入する血液の縦磁化は、IRパルスの影響を受けていないため、正の値M0である。
従って、背景組織の縦磁化がゼロとなるTIlimitよりも前のTI (0≦TI<TIlimit)を設定すれば、t=TIにおける背景組織と血液間のコントラストCvessel-backは、t= TIlimitにおける背景組織と血液間のコントラストClimitよりも大きくなる。また、図8(B)に示すように、t=TIにおいて血管を横切る位置xにおける縦磁化のプロファイルは、背景組織部分において小さく、血管部分において大きくなる。そして、図8(B)に示す縦磁化のプロファイルが得られる場合にReal imagingを行うと、WB画像データが得られる。
このように、IRパルスは画像化領域の外部及び内部のいずれにも印加することができる。ただし、図6(A)及び図8(A)から分かる通り、流体のT1が背景組織のT1よりも長い場合には、画像化領域の外部にIRパルスを印加する方が、縦磁化の緩和がなだらかとなるためTIの設定が容易となる。
例えば、画像化領域の内部の脳組織に画像化領域の外部から血液が流入する場合には、TIの設定対象となる縦磁化が負値となる期間が長くなるように画像化領域の外部にIRパルスを印加することが望ましい。逆に、液体のT1が静止部分のT1よりも短い場合には、画像化領域を少なくとも含む領域にIRパルスを印加することが望ましい。
このようにASLパルスとしてIRパルスを印加する手法は、血液をイメージングするMRAのみならず、CSF等の流体のイメージングにも適用できる。また、ASLパルスにはパルス波、連続波及びパルス波と連続波とを組み合わせた波があるが、いずれの波であってもよい。
ただし、静止組織を含むボクセル内が血液で充満されることによる部分容積効果(partial volume effects)がないことが条件である。仮に、部分容積効果がある場合には正の信号と負の信号とが互いにキャンセルしあってコントラストが小さくなる。
また、縦磁化プリパレーション部において複数のIRパルスを印加することによって、異なるT1を有する3つ以上の組織の縦磁化を制御することもできる。具体的には、3つ以上の組織の縦磁化をt=TIにおいてゼロ、正の値及び負の値にすることもできる。実用的な例としては、脂肪の縦磁化をゼロ、筋組織の縦磁化を正の値、血液の縦磁化を負の値とするように複数のTIを設定する場合が挙げられる。IRパルスは、2〜3回程度印加することが適切な場合が多い。
ただし、複数のIRパルスを印加してもT1が異なる全ての組織の縦磁化をゼロにすることはできない。従って、イメージング対象となる臓器を構成する複数の組織のT1値が大きく異なる場合には、複数の組織からの信号を抑制するために多数のIRパルスが必要となる。しかし、IRパルスの数を多くするほど縦磁化の反転が不完全となり、結果としてSNRの劣化が生じる場合がある。従って、SNRを向上させる観点からは、複数のIRパルスを印加しない方がよい場合もある。
一方、背景組織に対して血液等の流体の縦磁化の絶対値が小さすぎるとReal imagingであっても流体の画像化が困難となる場合がある。そのような場合には、背景組織の縦磁化が正又は負となる一方、流体の縦磁化が負又は正となり(つまり、背景の縦磁化と流体の縦磁化が互いに異なる符号となり)、かつ背景組織の縦磁化が流体の縦磁化と同程度の大きさか又はそれ以下に低下するようにTIを設定して複数のIRパルスを印加してもよい。そうすることにより、単一のIRパルスを印加する場合に生じやすい上述した部分容積効果を軽減することができる。
複数のIRパルスを印加する場合、縦磁化を負値に反転するのは流体及び背景組織のいずれであってもよい。すなわち、単一又は複数のIRパルスを印加することによって、流体の縦磁化の符号及び背景組織の縦磁化の符号が互いに反転されればよい。画像化した場合に所望の輝度と逆になる場合には、画像データに対してモノクロ反転処理を実行することができる。例えば、図6(B)に示す縦磁化のプロファイルが得られる場合には、BB画像データが収集されるため白黒反転処理を行えば、WB画像データを生成することができる。
図9は、データ収集タイミングにおいて2つの組織における縦磁化が正負の値となるように縦磁化プリパレーション部において2つのIRパルスの印加を設定した例を示す図である。
図9において横軸は時間tを、RFはRF信号を示す。また、縦磁化Mzの時間変化を示すプロットにおいて一点鎖線は強調対象となる組織の縦磁化を示し、二点鎖線は抑制対象となる組織の縦磁化を示す。
図9に示すように縦磁化プリパレーション部において2つのIRパルスを印加し、最初のIRパルスの印加タイミングからTI後にイメージングシーケンスが開始するパルスシーケンスを設定することができる。イメージングシーケンスでは、RF励起パルスの印加タイミングからTE後にNMRエコー信号が収集される。
そして、イメージング用のNMRエコー信号の収集タイミングにおいて強調対象となる組織の縦磁化が正の値となる一方、抑制対象となる組織の縦磁化が負の値となるようにTI、最初のIRパルスと最後のIRパルスとの間隔ΔTI及び2つのIRパルスの各FAが調整される。尚、各IRパルスのFAは180°又は90°より大きい角度に設定される。FA>90°であれば、T1の異なる2つの組織の縦磁化が正の値及び負の値に分かれるTIが存在する。
また、縦磁化プリパレーション部は、IRパルス以外のパルスで構成することもできる。
図10は、データ収集タイミングにおいて2つの組織における縦磁化が正負の値となるように縦磁化プリパレーション部において3つのRFパルスの印加を設定した例を示す図である。
図10において横軸は時間tを、RFはRF信号を示す。また、縦磁化Mzの時間変化を示すプロットにおいて一点鎖線は強調対象となる組織の縦磁化を示し、二点鎖線は抑制対象となる組織の縦磁化を示す。
図10に示すように縦磁化プリパレーション部において90°(+X)RFパルス、180°(+Y)RFパルス又は180°(-Y)RFパルス、90°(+X)RFパルスをδtの間隔で順次印加し、最後の90°(+X)RFパルスの印加タイミングからTI後にイメージングシーケンスが開始するパルスシーケンスを設定することができる。尚、()内の記号X及びYはX軸及びY軸を回転軸として磁化を回転させることを意味しており、回転軸の正方向からみて時計周りを+方向と定義している。イメージングシーケンスでは、RF励起パルスの印加タイミングからTE後にNMRエコー信号が収集される。
図11は図10に示すパルスシーケンスの実行による磁化の変化を示す図である。
図11の各XYZ座標系において(A)は、1番目の90°(+X)RFパルスの印加直前における2つの組織の磁化を、(B)は1番目の90°(+X)RFパルスの印加直後における2つの組織の磁化を、(C)は2番目の90°(+X)RFパルスの印加直前における2つの組織の磁化を、(D)は2番目の90°(+X)RFパルスの印加直後における2つの組織の磁化を、(E)はt=TIにおいてRF励起パルスが印加される直前における2つの組織の磁化を、それぞれ示す。尚、180°(+Y)RFパルス又は180°(-Y)RFパルスの印加による磁化の回転方向は、Y軸周りであるため磁化ベクトルの向きの変化はない。このため、図11では、180°(+Y)RFパルス又は180°(-Y)RFパルスの印加前後における磁化ベクトルの変化の図を省略している。
また、(A), (B), (C), (D), (E)において、実線で示すベクトルは強調対象となる組織の磁化を示し、点線で示すベクトルは抑制対象となる組織の磁化を示す。尚、実線で示すベクトルと点線で示すベクトルは実際には重なるが、説明容易化のためずらして表示してある。
図11(A)に示すように1番目の90°(+X)RFパルスの印加直前には、静磁場の作用によって強調対象となる組織の磁化及び抑制対象となる組織の磁化はいずれもZ軸の正方向を向いている。1番目の90°(+X)RFパルスが印加されると強調対象となる組織の磁化及び抑制対象となる組織の磁化はいずれもX軸を中心に90°だけ時計周りに回転する。そして、2δtの時間が経過すると、T2緩和によって磁化の絶対値が小さくなる。この結果、2番目の90°(+X)RFパルスの印加直前には図10(C)に示すように、強調対象となるT2の短い組織の磁化は、抑制対象となるT2の長い組織の磁化よりも絶対値が小さくなる。次に、2番目の90°(+X)RFパルスを印加すると図10(D)に示すように、強調対象となる組織の磁化及び抑制対象となる組織の磁化はいずれもX軸を中心に90°だけ時計周りに回転し、-Z方向を向く。
つまり、2番目の90°(+X)RFパルスの印加直後をt=0とすると、t=0では強調対象となる組織の縦磁化及び抑制対象となる組織の縦磁化はいずれも負の値となり、かつ強調対象となる組織の縦磁化の絶対値は抑制対象となる組織の縦磁化の絶対値よりも小さくなる。換言すれば、t=0において強調対象となる組織の縦磁化及び抑制対象となる組織の縦磁化がいずれも負の値となるように90°RFパルスの位相が制御される。
そして、t=TIでは、T1緩和によって強調対象となる組織の縦磁化が正値となる一方、抑制対象となる組織の縦磁化は負値となる。換言すれば、t=TIにおいて強調対象となる組織の縦磁化が正値となる一方、抑制対象となる組織の縦磁化は負値となるようにTIが調整される。
この場合、90°(+X)RFパルス、180°(+Y)RFパルス又は180°(-Y)RFパルス、90°(+X)RFパルスは、T1緩和及びT2を利用してイメージングデータの収集タイミングにおいて2つの組織の縦磁化が正負の値となるように縦磁化を制御するプリパレーションパルスであるT1&T2 prepared pulseとして機能する。そして、組織間におけるT1及びT2の双方の差を利用してコントラストを制御することができる。
例えば、強調対象となる組織が筋であり、抑制対象となる組織が血液である場合に縦磁化プリパレーション部においてT1&T2 prepared pulseを印加すれば、縦磁化プリパレーション部においてIRパルスのみを印加する場合に比べてコントラストの差を大きくすることができる。すなわち、筋のT2は血液のT2よりも短いため、t=0において筋の縦磁化の絶対値は血液の縦磁化の絶対値よりも小さくなる。従って、t=TIにおいて筋の縦磁化が大きい正の値となる一方、血液の縦磁化が負値となるようにTIを設定すれば、筋及び血液間のコントラスト差を大きくすることができる。
尚、T1&T2 prepared pulseには、90°(+X)RFパルス、180°(+X)RFパルス又は180°(-X)RFパルス、90°(-X)RFパルスで構成する場合のように、様々なバリエーションがある。
図12は、データ収集タイミングにおいて2つの組織における縦磁化が正負の値となるように縦磁化プリパレーション部において3つのRFパルス及び2つのMPGパルスの印加を設定した例を示す図である。
図12において横軸は時間tを、RFはRF信号を、Gは傾斜磁場を、それぞれ示す。また、縦磁化Mzの時間変化を示すプロットにおいて一点鎖線は強調対象となる組織の縦磁化を示し、二点鎖線は抑制対象となる組織の縦磁化を示す。
図12に示すパルスシーケンスは、図10に示すT1&T2 prepared pulseの2つのδtの間隔にそれぞれMPGパルスを印加するようにしたものである。従ってMPGパルスの作用以外については説明を省略する。
MPGパルスを印加するとスピンの拡散(diffusion)を強調することができる。すなわち、2δtの期間においてT2緩和に加えて動きによる緩和(dephase)が起こる。このため、流体のように動きが大きくかつT2が短い組織ほどt=0において縦磁化が小さくなる。そこで、T1緩和及びT2緩和に加えて拡散を利用するプリパレーションパルスとしてT1&T2 prepared pulseにMPGパルスを付加したT1&T2&Diffusion prepared pulseを用いることもできる。T1&T2&Diffusion prepared pulseを用いると、縦磁化プリパレーション部におけるパラメータを調整することによって流体の速度に応じて信号強度を制御することが可能となる。
例えば、強調対象となる組織が筋であり、抑制対象となる組織が血液である場合にMPGパルスを印加すれば、図10に示すようなMPGパルスを印加しない場合に比べて、t=TIにおける筋の縦磁化は変わらないが流速の速い血液の縦磁化の絶対値は小さくなる。このため、MPGパルスを印加した場合には、t=TIにおいて筋と流速の速い血液との間におけるコントラスト差が、MPGパルスを印加しない場合に比べて小さくなる。そこで、図12に示すようにt=TIにおいて、ある速度以上の血液からの信号の強度がほぼゼロとなるようにTIを設定することもできる。
さらに、T1&T2&Diffusion prepared pulseにおいてMPGパルスの強度を一定にしつつδtを小さくすれば、T2緩和の寄与度を小さくすることができる。一方、MPGパルスの強度を調整すれば、拡散の寄与度を調整することができる。これらのT1&T2&Diffusion prepared pulseのパラメータは、組織の種類、要求されるコントラスト、傾斜磁場強度特性等の条件に応じて経験的又はシミュレーション等の任意の手段によって決定することができる。
このように、抑制対象となる組織の拡散係数(ADC: apparent diffusion coefficient)が強調対象となる組織のADCよりも大きい場合には、横磁化が残る弱いMPGパルスを印加することによって、ある速度以上の血液等の流体からの信号を選択的に強調又は抑制することが可能となる。この場合、MPGパルスは、フローディフェーズパルス(flow dephase pulse)として機能している。
図13は、図12に示すパルスシーケンスにより収集される複素エコー信号の振幅及び位相の変化を示す図である。
図13において、(A)はt=TIにおいて収集される複素信号の振幅及び位相を示し、(B)はt=TI+TEにおいて収集された位相補正後の複素信号の振幅及び位相を示す。また、(A), (B)の各縦軸は回転座標系の虚軸を、各横軸は回転座標系の実軸を、実線で示すベクトルは強調対象となる背景信号を、点線で示すベクトルは抑制対象となる血液信号を、それぞれ示す。
t=TIでは、図4(A)と同様に図13(A)に示すように背景信号Sbackを表すベクトルは実軸上で正方向となる一方、血液信号Svesselを表すベクトルは実軸上で負方向となる。
t=TI+TEでは、磁場の不均一性及び血液の流れの影響により背景信号Sbackの位相及び血液信号Svesselの位相Φflowがばらける。そこで、磁場の不均一性による位相シフト分を補正する背景位相補正を行うと、背景信号Sbackを表すベクトルは実軸上の正方向に戻すことができる。しかし、MPGパルスによるdephasingが行われているため、図13(B)に示すように、血液の流れの影響によって血液信号Svesselを表すベクトルは実軸から依然としてシフトした状態となる。さらに、血液信号Svesselの振幅もボクセル内における血液の流れによる位相分散の影響を受けて小さくなる。
従って、背景組織と血液間におけるコントラストCvessel-to-backは、図13(B)に示すように、振幅が小さくなった血液信号Svesselの実部Re(Svessel)と背景信号Sbackの振幅に相当する実部Re(Sback)との差|Re(Svessel)- Re(Sback)|となる。そこで、血液信号Svesselを表すベクトルの向きを実軸上の負方向にシフトさせるCOS filter処理を行うことが好適である。
尚、図4及び図13は、抑制対象が血液である場合の例を示しているが抑制対象がCSFである場合にも同様となる。
また、T2緩和を利用せずにT1緩和及び拡散のみを利用するT1&Difusion preparationで縦磁化プリパレーション部を構成してもよい。
さらに、縦磁化プリパレーション部において、IRパルスのみでなく、T1&T2 prepared pulse及びT1&T2&Diffusion prepared pulseの一方又は双方を適切なタイミングで複数回印加することも可能である。例えば、MPGパルスの強度を変えて磁気モーメントが異なる2つのT1&T2&Diffusion prepared pulseを印加すると、速度が上限値と下限値との間にある流体のみを選択的に描出することが可能となる。すなわち、1番目に弱い強度のMPGパルスを付加したT1&T2&Diffusion prepared pulseを印加し、2番目に強い強度のMPGパルスを付加したT1&T2&Diffusion prepared pulseを印加すれば、ある速度範囲のみの流体を選択的に画像化することができる。つまり、MPGパルスの強度を2段階に変化させることによって流体イメージングにおける速度選択性を得ることができる。
ところで、イメージングシーケンスにおいて、1次以上のグラジエントモーメントヌリング(GMN: gradient moment nulling)を行うことが望ましい。GMNは、傾斜磁場を印加した場合に磁場不均一性、流速、加速、その他の運動によって生じるスピンの位相ずれが修正されるように傾斜磁場パルスの波形を決定することである。傾斜磁場を印加することによるスピンの位相シフト量ベクトルΦGは式(1)で表される。
ΦG=-γ{r0∫G(t)dt+ν0∫G(t)・tdt+(a0/2)∫G(t)・t2dt+ ...} (1)
式(1)においてγは磁気回転比、G(t)は傾斜磁場波形ベクトル、r0は時刻t=0におけるスピンの位置ベクトル、ν0は時刻t=0におけるスピンの速度ベクトル、a0は時刻t=0におけるスピンの加速度ベクトルである。∫G(t)dtの項は0次の磁気モーメント、∫G(t)・tdtの項は1次の磁気モーメント、∫G(t)・t2dtの項は2次の磁気モーメントと呼ばれる。
0次のGMNは、0次の磁気モーメントをゼロにして磁場不均一性に起因する位相ずれを修正すること、1次のGMNは1次の磁気モーメントをゼロにして組織の動きや流体の流速に起因する信号のスピンの位相ずれを修正すること、2次のGMNは2次の磁気モーメントをゼロにして流体の加速に起因する信号の位相ずれを修正することに相当する。1次のGMN用に印加される傾斜磁場パルスは、フローリフェーズ(flow rephrase)パルス又はフロー補償(flow compensation)パルスと呼ばれる。
図14は、0次のGMNを行う際のフローディフェーズパルスの一例を示す図である。また、図15は、1次のGMNを行う際のフローリフェーズパルスの一例を示す図である。
図14及び図15において横軸は時間を、RFはRF励起パルスを、G(X)は傾斜磁場波形を、ECHOはエコー信号を、それぞれ示す。
図14及び図15に示すようにRF励起パルスの印加後に傾斜磁場パルスG(t)が印加され、RF励起パルスの印加タイミング(パルス中心)からTE後にエコー信号が収集される。0次の磁気モーメントは傾斜磁場パルス波形の面積で表される。従って、図14及び図15に示す数字の面積比となるように傾斜磁場パルス波形を設定すれば、傾斜磁場パルスの0次の磁気モーメントはいずれもゼロとなる。一方、1次の磁気モーメントは、図14に示す傾斜磁場波形ではゼロとなるのに対して図15に示す傾斜磁場波形ではゼロとならない。従って、図14に示す傾斜磁場パルスは1次のGMNを行うフローリフェーズパルスとなり、図15に示す傾斜磁場パルスは0次のGMNのみを行うフローディフェーズパルスとなる。
図16は、フローリフェーズパルスを印加して収集される複素エコー信号の振幅及び位相の変化を示す図である。
図16において、(A)はt=TIにおいて収集される複素信号の振幅及び位相を示し、(B)はt=TI+TEにおいて収集された位相補正後の複素信号の振幅及び位相を示す。また、(A), (B)の各縦軸は回転座標系の虚軸を、各横軸は回転座標系の実軸を、実線で示すベクトルは強調対象となる背景信号を、点線で示すベクトルは抑制対象となる血液信号を、それぞれ示す。
t=TIでは、図4(A)及び図13(A)と同様に図11(A)に示すように背景信号Sbackを表すベクトルは実軸上で正方向となる一方、血液信号Svesselを表すベクトルは実軸上で負方向となる。つまり、背景組織及び血液の縦磁化がRF励起により横磁化になった直後では、背景信号Sbackの位相と血液信号Svesselの位相との差は180°である。従って、イメージングシーケンスの実行中において背景信号Sbackの位相と血液信号Svesselの位相との差を180°のまま維持させることができれば背景組織と血液とのコントラスト差を最大にすることができる。
ここで、イメージングシーケンスにおいて0次のGMNのみを行うものとすると、静止している背景組織の位相ずれのみが修正される。このため、背景組織及び血液の縦磁化が横磁化になった直後からは時間の経過とともに背景組織の動き、拍動による動き、血液の流れ等の要因によってスピンの位相シフトが生じる。
そこで、イメージングシーケンスにおいてフローリフェーズパルスを印加して1次以上のGMNを行えば、組織の動きや血液の流れによる横磁化の位相シフトを低減させることができる。従って、背景信号Sbackの位相と血液信号Svesselの位相との差を180°に維持することができる。更に、背景信号Sbackの位相シフト分だけ信号の位相をシフトさせる背景位相補正を背景信号Sback及び血液信号Svesselに施せば、背景信号Sbackの位相を0°にする一方、血液信号Svesselの位相を180°にすることができる。
すなわち、t=TI+TEにおいて図16(B)に示すように、背景信号Sbackを表すベクトルの向きを実軸上の正方向に、1次以上のGMNにより位相シフトが修正されている血液信号Svesselを表すベクトルの向きを実軸上の負方向に、それぞれ戻すことができる。この場合、背景信号Sback及び血液信号Svesselの振幅は、動きや流れによっては低下せず、T2緩和又はT2*緩和により低下するのみとなる。従って、背景組織と血液との間におけるコントラストを最大にすることができる。
特に、イメージング対象となる組織が血液やCSF等の流体を含む場合には、動きが大きいため、1次以上のGMNは効果的である。例えば、脳梗塞や心筋梗塞の原因として近年重要視されている血管内プラークのイメージングを行う場合には、筋等の血管壁と血液との分離が重要である。このため、リフェーズパルスを印加することにより、血管壁の情報をより高精度で得ることが期待できる。
また、撮像部位が頚部や心臓である場合には、血液以外の血管壁や周囲の実質組織であっても心拍や呼吸性の拍動による動きが大きいため、リフェーズパルスの印加は良好なコントラストで画像を収集するために有効である。特に頚部の頚動脈や心臓の冠状動脈などに蓄積される血管内のプラークイメージングを行う場合にリフェーズパルスを印加すれば、拍動に依らず血液の信号抑制効果を安定的に得ることができる。
尚、イメージングシーケンスがFSEシーケンス、FFEシーケンス、SSFPシーケンス又はEPIシーケンス等の複数のエコー信号を収集するシーケンスである場合には、少なくともコントラストに支配的である低周波領域におけるエコー信号を収集するための傾斜磁場波形をリフェーズ波形とすることが好適である。
このように、着目する2つの組織からの信号がk空間の中心におけるエコー信号の収集タイミング(TI+TE)において正の値と負の値となるように、縦磁化プリパレーション部の種類、数、FA及びTI並びにイメージングシーケンスのGMN、TR及びTE等の撮像パラメータを設定する機能が、撮像条件設定部40に備えられる。
抑制すべき組織のTIが強調すべき組織のTIよりも短い場合には、TIは、抑制又は分離すべき組織の縦磁化がゼロとなる時間よりも短く、かつ強調すべき組織の縦磁化がゼロとなる時間よりも長くなるように設定することが望ましい。更に、TIは縦磁化が正の値となる組織と縦磁化が負の値となる組織とのコントラスト差がより大きくなるように設定されることが望ましい。従って、分離すべき2つの組織のT1の差が大きい場合には縦磁化の符号が互いに逆となるようなTIを容易に決定することができる。
縦磁化プリパレーション部が1つのT1 prepared pulse (IRパルス)である場合には、抑制すべき組織の縦磁化がゼロとなる時間が、静磁場強度やIRパルスのFAによって変化する。例えば、静磁場強度が1.5テスラでTR=3000msである場合に抑制すべき組織が脂肪であればTI=100-150ms、血液であればTI=500-600ms、CSFであればTI=1800-2000ms程度となる。また、TRが短い程又はIRパルスのFAが180°より浅い程、IRパルスの印加タイミングt=0において負値となる縦磁化の絶対値が小さくなるため最適なTIは短くなる。
一方、分離すべき2つの組織のT1の差が小さい場合には、t=TIにおいて縦磁化が同符号とならざるを得ない場合がある。そのような場合には、縦磁化の符号が同符号となるTIが撮像条件として設定される。この場合、2つの組織から得られる信号を用いてReal imagingを行って画像を再構成すると、2つの組織間におけるコントラストは、Magnitude Imagingを行って再構成した画像のコントラストと差異がなくなる。しかし、SNR (signal to noise ratio)が低い部位においてSNRがMagnitude Imagingの場合よりも改善されたり、T1値及びT2値と信号強度との間における線形性が維持されるといったReal Imagingの特長を画像に反映させることができる。
縦磁化プリパレーション部の種類の決定方法の例としては、T1 prepared pulseを用いた場合に適切なTIを設定することが困難な場合にT1&T2 prepared pulse、T1&T2&Diffusion prepared pulse又は複数のプリパレーションパルスの組み合わせを用いるという決定法が挙げられる。例えば、TIを固定値にすることが望ましい場合にはT1 prepared pulseを用いるとTIが適切な値とならない恐れがある。そこで、T1&T2 prepared pulseのδtやT1&T2&Diffusion prepared pulseにおけるMPGパルスの強度等のパラメータを調整して用いることができる。
また、静磁場強度、T1値、T2値及びプロトン密度等の組織パラメータ並びに流体の速度等の諸条件が既知であれば、シミュレーションによる解析によって組織別の信号強度を予測することができる。このため、撮像条件設定部40が、組織ごとの信号強度を予測し、予測した組織ごとの信号強度に基づいてFA、TR及びTI等のパルスシーケンスの設定パラメータを自動的に設定するようにすることもできる。
次に、コンピュータ32の他の機能について説明する。
シーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33からの情報に基づいて、シーケンスコントローラ31にパルスシーケンスを含む撮像条件を与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部41は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能を有する。
位相補正部43は、k空間データベース42に保存されたk空間データに必要に応じて位相補正処理を行う機能を有する。位相補正処理には、背景位相補正処理とCOS filter処理とがある。背景位相補正処理は、磁場不均一性によるスピンの位相シフト分を補正する処理である。COS filter処理は、血液やCSF等の流体からの信号の位相を等価的に最大で180°に強調するフィルタ処理である。
イメージングシーケンスがGRE系のシーケンスである場合には、静磁場によるスピンの位相シフトや分散がある。スピンの分散を補正することはできないが、位相シフトについては補正することが良好なコントラストを得るために望ましい。このため、背景位相補正を行うことが好適である。背景位相補正は、k空間データの位相から背景信号の位相を差し引くことによって行うことができる。
イメージング対象が実質臓器と血管である場合には、homodyne filter等の空間フィルタをk空間データに掛けることにより、背景信号と血液信号とを周波数的に分離することができる。そして、低周波成分である背景信号の位相をk空間データの位相から差し引くことにより、高周波成分である血液信号からも静磁場による位相シフト分を補正することができる。
一方、2つの組織からの信号を周波数的に分離することが困難である場合には、予め任意の手段で取得した背景信号の位相分布をk空間データから差し引くことにより背景位相補正処理を行うことができる。背景信号の位相分布マップは、例えば、静磁場のシミング用のプレスキャンにおいてシミング用シーケンスを実行して磁場の空間分布を測定することによって取得することができる。すなわち、測定した磁場の空間分布に基づいて公知の方法でTEに応じた背景位相分布を求めることができる。
また、イメージングシーケンスがSE系のシーケンスである場合には、傾斜磁場に由来するMaxwell term分の位相シフト分布は比較的小さい。このため、撮影視野(FOV: field of view)が十分に小さい場合には背景位相補正を省略することができる。一方、背景位相補正を行う場合には、1次〜2次の位相シフト分布を補正すれば精度上十分と考えられる。位相補正処理に必要な位相シフト分布は、エンコードを行わないシーケンスを用いたプレスキャンによって十分な精度で予め測定することができる
そしてこのような背景位相補正処理によって図13(B)及び図16(B)に示すように、背景信号の位相を0°(in-phase)にすることができる。
一方、リフェーズパルスを印加せずに0次のGMNのみを行う場合には、背景位相補正処理を行っても流体信号の位相が図13(B)に示すように実軸上とならない。そこで、位相が0°(in-phase)以外の信号成分の位相を選択的に180°に近づける強調処理、すなわちCOS filter処理を行うことがコントラスト改善に繋がる。例えば、位相が+90°から+270°の範囲にある血液信号成分を表すベクトルの向きを実軸の負方向に向けるCOS filter処理によって血液信号の実部成分を最大値である血液信号の振幅と同じ値にすることができる。
画像再構成部44は、位相補正部43から位相補正後のk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データを画像データベース45に書き込む機能を有する。特に、画像再構成部44は、複素データであるk空間データの実部を用いて負値も考慮するREAL画像再構成を行うように構成されている。
画像処理部46は、画像データベース45から画像データを取り込んで必要な画像処理を行って表示用の画像データを生成する機能と、生成した表示用の画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。
例えば、画像処理部46では2つの組織が描出された画像データを組織ごとの画像データに分離する組織分離処理を行うことができる。組織別の画像を表示させることが撮像目的である場合には、信号値に閾値を設定し、閾値を用いて二つの組織が描出されている画像データを各組織が描出されている2つの画像データに分離することができる。
2つの組織からの信号が正と負に分かれるように撮像条件を設定した場合には、ゼロや中間値を閾値にして画像データを分離することができる。閾値Sthを2つの組織からの信号S1, S2の中間値とする場合には、Sth=(S1+S2)/2となる。2つの組織からの信号S1, S2は、例えば任意に設定したROI内において測定すればよい。或いは、同一の撮像部位を同一の撮像条件で撮像する場合には、予め決定した閾値を経験的に用いることもできる。尚、閾値の経験値を用いる場合には、撮像間における信号強度のばらつきを補正するゲイン補正を信号に対して行うことが望ましい。
分離後の画像データの輝度値は、T1Wのコントラストの大小関係と一致する。更に必要に応じて信号値が負値となる側の画像データに対して輝度値反転処理を施すこともできる。これにより、2種類の組織を別々に描出した2フレーム分の画像データが生成される。
一方、特定の組織を抑制した1フレームの画像データを生成することもできる。この場合でも閾値を用いた分離処理や輝度値反転処理を行うことが望ましい場合がある。例えば脂肪と脳実質等の実質臓器を含む画像データにおいて脂肪のT1は実質臓器のT1よりも短いため脂肪が高信号部位として描出される。このため、脂肪を抑制する場合には、輝度値を反転して表示させることが有効である。或いは、T1Wのコントラストに対応させた画像データにおいて脂肪を抑制する場合には、閾値を用いて脂肪を含む高信号値側の信号を抽出し、高信号値側の信号をゼロにする処理を行って白黒反転させずに表示させればよい。
また、CSF又は血液と実質臓器とを含む画像データにおいてCSF又は血液を抑制する場合には、CSF及び血液のT1が実質臓器のT1より長いため、輝度値を反転させずにそのまま表示させればよい。或いは、閾値を用いて信号値の小さい側の信号をゼロにする処理を行って画像データを表示させることもできる。
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
図17は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により被検体Pのイメージングを行う際の流れを表すフローチャートを示す図である。
まずステップS1において、撮像条件設定部40は、例えば図3、図10又は図12に示すような縦磁化プリパレーション部に続いてイメージングシーケンスを有するパルスシーケンスを撮像条件として設定する。すなわち、イメージングデータの収集タイミングにおいて強調対象となる組織からの信号が正の値となる一方、抑制対象となる組織からの信号が負の値となるようにTI等の撮像条件が設定される。
また、ディフェーズパルス又はリフェーズパルスの印加が設定される。例えば、ある速度以上の血液又はCSF等の流体からの信号を選択的に強調又は抑制する場合には、ディフェーズパルスとしてMPGパルスの印加が設定される。一方、流体と背景組織とのコントラスト差を向上させる場合には、リフェーズパルスの印加が設定される。
次にステップS2において、シーケンスコントローラ31や静磁場用磁石21等のスキャンを実行するための磁気共鳴イメージング装置20の構成要素は、設定された撮影条件に従ってデータ収集を行う。
そのために予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41にスキャン開始指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は撮像条件設定部40から取得したパルスシーケンスを含む撮像条件をシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、シーケンスコントローラ制御部41から受けたパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
k空間データは、強調対象となる組織からの信号が正の値となる一方、抑制対象となる組織からの信号が負の値となるタイミングで収集されている。しかし、磁場の不均一性により強調対象となる組織及び抑制対象となる組織からの信号の位相シフト量が無視できない場合がある。また、1次以上のGMNが実行されない場合には、組織の動きによる位相シフトが生じる。
そこで、ステップS3において、必要に応じて位相補正部43は、k空間データベース42からk空間データを読み込んで位相補正処理を行う。すなわち、k空間データに対して静止している組織の位相シフト量をキャンセルする背景位相補正が実行される。更に、組織の動きによる位相シフト量が無視できない場合には、動きのある抑制対象となる組織からの信号の位相を選択的に180°とするCOS filer処理が実行される。
尚、リフェーズパルスが印加される場合には、組織の動きや流れによる信号の位相シフトが低減されるため、COS filter処理を省略できる場合が多い。従って、信号処理の簡易化及びSNRを向上させる観点からリフェーズパルスを印加することが効果的である。
そして、このような位相補正処理によって強調対象となるエコー信号を表すベクトルの向きは実軸上の正方向となる一方、抑制対象となるエコー信号を表すベクトルの向きは実軸上の負方向となる。つまり、強調対象となる信号の位相と抑制対象となる信号の位相との差が概ね180°となる。
次にステップS4において、画像再構成部44は、位相補正後のk空間データの実部を用いるREAL PART画像再構成処理を実行することにより、画像データを生成する。このため、信号値が正の値をとる組織と信号値が負の値をとる組織とのコントラスト差が強調された画像データが生成される。生成された画像データは、画像データベース45に保存される。
次にステップS5において、画像処理部46は、画像データベース45から画像データを読み込んで必要な画像処理を行って表示用の画像データを生成する。例えば、強調対象となる組織が描出された画像データと抑制対象となる組織が描出された画像データを別々に生成すべき場合には、信号値に対する閾値処理によって画像データが2つの組織画像データに分離される。また、撮像目的に応じて画像データの輝度値反転処理や抑制対象となる信号をゼロとする処理が実行される。
この結果、組織抑制画像データ又は組織分離画像データが表示用の画像データとして生成される。
次にステップS6において、画像処理部46は、表示用の画像データを表示装置34に出力する。これにより、表示装置34は、表示用の組織抑制画像又は組織分離画像を表示させる。
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、イメージングデータの収集タイミングにおいて強調対象となる組織からの信号が正の値となる一方、抑制対象となる組織からの信号が負の値となるようにTI等の撮像条件を設定し、かつREAL-PART画像再構成を行うことによりコントラストが良好な2つの組織を含む画像を収集できるようにしたものである。さらに、磁気共鳴イメージング装置20は、ディフェーズパルス又はリフェーズパルスを印加することによって流体のコントラストを所望のコントラストに制御できるようにしたものである。
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、良好なコントラストで特定の組織を抑制した組織抑制画像のみならず組織ごとに分離した2つの組織分離画像を得ることができる。また、コントラストを改善するための適切な撮像条件の設定が容易となる。
すなわち、IR法において信号の絶対値を用いるMagnitude Imagingを行うと最小値がゼロとなる。このため、抑制対象となる組織の縦磁化Mzがゼロとなるタイミング(null point)で信号が収集されるようにTI等のパラメータを設定することが重要となる。従って、TIの設定が難しく、縦磁化Mzのnull point以外のタイミングにTIが設定されると信号の絶対値強度が正の値となる。このため、組織の抑制効果が不十分となる場合がある。特に、心電(ECG: electro cardiogram)同期イメージングや呼吸同期イメージングの場合には、TRがばらつくため、適切なTIが安定しない。このため、TIを一定にすると対象組織の抑制効果が不十分となる場合がある。
また、位相強調技術であるSWI位相マスクを用いると、抑制対象となる組織からの信号がゼロとなる。このため、抑制対象となる組織を観察することができず、観察するためには別途スキャンが必要になる。つまり、SWI位相マスクを用いてもT1値が異なる複数の組織を識別表示させることができず、特定の組織を選択的に抽出できるに過ぎない。
これに対して、磁気共鳴イメージング装置20では、Real Part Imagingを行うため抑制対象となる組織の縦磁化が負値となるようにTIを設定すればよい。このため、撮像条件の設定が容易であるのみならず、TRや最適なTIが変動してもロバストに組織抑制画像や組織分離画像を生成することができる。
また、磁気共鳴イメージング装置20では、抑制対象となる組織からの信号がゼロではないため、1回のイメージングでT1, T2及び動きの少なくとも1つが異なる2つの組織が描出された画像を得ることができる。このため、異なる組織が選択的に描出された2つの組織分離画像を得ることができる。更に、組織抑制画像が生成対象である場合には、抑制対象となる不要な組織の信号抑制効果(CNR: contrast to noise ratio)が向上する。
更に、磁気共鳴イメージング装置20では、フローリフェーズパルスを印加することによって動きや流れがある組織からの信号強度を最大化するとともに動きによるアーチファクトを抑制することができる。
また、磁気共鳴イメージング装置20では、CSFからの信号を負値として収集することができるため、1回の撮像で脳表の表示手法であるSAS (Surface Anatomical Scanning)とFLAIRを実施することができる。