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JP5621268B2 - 酸化ニッケル微粉末及びその製造方法 - Google Patents

酸化ニッケル微粉末及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関し、更に詳しくは、硫黄品位が300〜500質量ppmにコントロールされ、不純物品位、特に塩素品位及びナトリウム品位が低く、且つ微細であって、電子部品材料として好適な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法に関する。
一般に、酸化ニッケル粉末は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等のような連続炉、あるいはバーナー炉のようなバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成することによって製造される。これらの酸化ニッケル粉末は多様な用途に用いられており、例えば、電子部品材料としての用途では、酸化鉄、酸化亜鉛等の他の材料と混合された後、焼結されることによりフェライト部品等として広く用いられている。
上記フェライト部品のように、複数の材料を混合して焼成することにより、これらを反応させて複合金属酸化物を製造する場合には、生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、一般に使用する原料としては微細なものが好適に用いられている。これにより、他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温度且つ短時間の処理で反応が均一に進むことが知られている。従って、このような複合金属酸化物を製造する方法においては、原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが効率向上の重要な要素となる。
粉体が微細であることを測る指標としては、比表面積を用いることがある。粒径と比表面積には、下記の計算式1の関係があることが知られている。下記計算式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、計算式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、比表面積が大きいほど粒径が小さくなることが分る。
[計算式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
近年においては、フェライト部品の高機能化、並びに酸化ニッケル粉末のフェライト部品以外の電子部品等への用途の広がりに伴い、酸化ニッケル粉末に含有される不純物元素の低減が求められている。不純物元素の中でも特に塩素や硫黄は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることがあるため、できるだけ低減することが望ましいとされている。
一方で、特開2002-198213(特許文献1)には、原料段階におけるフェライト粉の硫黄成分の含有量がS換算で300ppm〜900ppm且つ塩素成分の含有量がCl換算で100ppmであるフェライト材料が提案されている。このフェライト材料は、低温焼成においても添加物を用いることなく高密度化を図ることができ、これにより構成されたフェライト磁心及び積層チップ部品は、耐湿性と温度特性の優れたものにすることができると記載されている。
以上のように、電子部品材料としての用途、特にフェライト部品の原料として用いられる酸化ニッケル粉末は、塩素や硫黄の含有量を単に低減するだけでなく、硫黄の含有量を所定の範囲内に厳密に制御することが要求されている。
従来、酸化ニッケル粉末を製造する方法としては、原料に硫酸ニッケルを用い、これを焙焼する方法が提案されている。例えば、特開2001−32002号公報(特許文献2)には、原料としての硫酸ニッケルを、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で焙焼温度950〜1000℃未満で焙焼する第1段焙焼と、焙焼温度1000〜1200℃で焙焼する第2段焙焼とを行って酸化ニッケル粉末を製造する方法が提案されている。この製造方法によれば、平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られると記載されている。
また、特開2004−123488号公報(特許文献3)には、450〜600℃の仮焼による脱水工程と、1000〜1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できると記載されている。
更に、特開2004−189530号公報(特許文献4)には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら、最高温度を900〜1250℃として焙焼する方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られると記載されている。
しかしながら、上記特許文献2〜4のいずれの方法においても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると粒径が粗大になり、また粒子を微細にするために焙焼温度を下げると硫黄品位が高くなるという欠点があり、粒径と硫黄品位を同時に最適値に制御することは困難である。更に、加熱する際に大量のSOxを含むガスが発生し、これを除害処理するために高価な設備が必要になるという問題を有している。
酸化ニッケル微粉末を合成する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケルを晶析させ、これを焙焼する方法も考えられる。かかる方法で水酸化ニッケルを焙焼する場合は、陰イオン成分由来のガスの発生が少ないため、排ガス処理は不要となるか若しくは簡易な設備でよく、低コストでの製造が可能になると考えられる。
例えば、特開2009−196870号公報(特許文献5)には、酸化ニッケルの粗大化抑制のためマグネシウム等の第2族元素を塩化ニッケルに少量添加した状態で中和し、得られた水酸化ニッケルを特定の温度で熱処理して酸化ニッケルとし、得られた酸化ニッケルを解砕メディアで湿式粉砕し、それを有機酸含有水溶液で洗浄することにより、硫黄品位及び塩素品位が低く、且つ微細な粒径の酸化ニッケル粉末を得る方法が提案されている。
特開2002−198213号公報 特開2001−032002号公報 特開2004−123488号公報 特開2004−189530号公報 特開2009−196870号公報
しかしながら、特許文献5の酸化ニッケル粉末の製造方法では、原料に塩化ニッケルを用いていることから硫黄がほとんど含まれておらず、よって硫黄品位を所定の範囲内に制御することは困難であった。また、微細な粒径を得るために解砕メディアで湿式粉砕しているため、解砕メディアから不純物が混入する虞があった。このように、従来の技術で得られた酸化ニッケル粉末では、微細な粒子径を有すると共に、塩素品位が低く且つ硫黄品位が所定の範囲内に制御された酸化ニッケル粉末としては十分と言えず、更なる改善が望まれていた。
本発明は、上記した問題点に鑑み、含有量の制御された微量の硫黄を含み、不純物品位、特に塩素品位及びナトリウム品位が低く、且つ粒径が微細であって、電子部品材料として好適な酸化ニッケル微粉末及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、上記目的を達成するため、熱処理時に大量の有害ガスが発生しない方法のうち、ニッケル塩水溶液を中和して得た水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケル微粉末を製造する方法に着目して鋭意研究を重ねた結果、塩化ニッケルと硫酸ニッケルを特定の割合で混合してなるニッケル塩水溶液をアルカリで中和し、得られた水酸化ニッケルを熱処理することで、硫黄品位が所定の範囲内に制御された微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明が提供する酸化ニッケル微粉末の製造方法は、全ニッケル塩の量に対する硫酸ニッケルの量の割合が1mol%以上、50mol%未満となるように塩化ニッケルと硫酸ニッケルとを混合してなるニッケル塩水溶液をアルカリによって中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において800℃以上、950℃未満で熱処理して酸化ニッケル粒子を形成する工程Bと、該熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程Cとを含むことを特徴とするものである。
上記工程Aにおけるニッケル塩水溶液中のニッケル濃度は、50〜180g/Lであることが好ましく、上記工程Cにおける解砕は、酸化ニッケル粒子同士を衝突させることによって行うことが好ましい。
また、本発明が提供する酸化ニッケル微粉末は、上記酸化ニッケル微粉末の製造方法で得られた酸化ニッケル微粉末であって、比表面積が3m/g以上、硫黄品位が300〜500質量ppm、塩素品位が100質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下であることを特徴とする。また、本発明の酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90が1μm以下であることが好ましい。
本発明によれば、硫黄品位が300〜500質量ppmに制御され、塩素品位が100質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下と低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末を容易に得ることができる。更に、本発明の酸化ニッケル微粉末は、不純物としてジルコニウム及び第2族元素を実質的に含まずに微細であり、フェライト部品などの電子部品材料として好適である。また、その製造の際に大量の塩素やSOxガスが発生しない上、溶解度の高い塩化ニッケル主体のニッケル塩溶液を使用するので生産性が高い。このように、本発明の酸化ニッケル微粉末及びその製造方法の工業的価値は極めて大きい。
本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法は、全ニッケル塩の量に対する硫酸ニッケルの量の割合(以降、硫酸ニッケルの混合割合とも称する)が0.1mol%以上、50mol%未満となるように塩化ニッケルと硫酸ニッケルとを混合してニッケル塩水溶液を調製し、このニッケル塩水溶液をアルカリによって中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において800℃以上、950℃未満で熱処理して酸化ニッケル粒子を形成する工程Bと、該熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程Cとを有している。
かかる本発明の製造方法においては、上記硫酸ニッケルの混合割合、即ち、全ニッケル塩である塩化ニッケルと硫酸ニッケルとの合計量に対する硫酸ニッケルの量の割合が0.1mol%以上、50mol%未満であることが特に重要である。かかる混合割合となるように硫酸ニッケルと塩化ニッケルとを混合してニッケル塩水溶液を調製することで、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の微細化と硫黄品位の制御が可能になると共に、熱処理温度を高温化することが可能となり、塩素品位の低減が可能となる。また、熱処理の高温化により塩素品位の低減が可能であるため、塩素品位を低減させるための熱処理後の洗浄が不要となり、従来の技術に比べて生産性を大幅に向上させることができる。
上記方法で微細な粒径の酸化ニッケル微粉末が得られる明確な理由は不明であるが、硫酸ニッケルの分解温度は848℃であって塩化ニッケルの分解温度よりも高いため、かかる分解温度の高い硫酸ニッケルを塩化ニッケルに混合することで、水酸化ニッケル中の表面や界面に硫酸塩として硫黄成分が巻きこまれ、これが酸化ニッケル粒子の焼結を高温まで抑制しているためと考えられる。
上記硫酸ニッケルの混合割合が0.1mol%未満の場合、焼結の抑制効果が不十分となり、工程Bの熱処理によって得られる酸化ニッケルが十分微細にならず、工程Cで解砕しても良好な比表面積を持った酸化ニッケル微粉末が得られない。また、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位も300質量ppm未満となってしまう。
一方、硫酸ニッケルの混合割合が50mol%を超えると、ナトリウム品位が100質量ppm以上となる。また、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位が500質量ppmを超えることがある。硫酸ニッケルをニッケル塩水溶液に混合することによってナトリウム品位が上昇する理由としては、硫黄成分がナトリウムを含んだ難溶性の複塩の形態をとり、水酸化ニッケル中に存在するナトリウム量が、液中の硫酸イオン濃度と相関を持つためと考えられる。
酸化ニッケル微粉末の硫黄品位を300〜500質量ppmに制御し、塩素品位及びナトリウム品位を低減すると共に、比表面積を3m/g以上とするためには、上記硫酸ニッケルの混合割合は、全ニッケル塩に対して1〜30mol%とすることが好ましい。
次に、本発明の酸化ニッケルの製造方法を工程毎に詳細に説明する。先ず工程Aは、塩化ニッケルと硫酸ニッケルとを前述の割合で混合してニッケル塩水溶液を調製し、このニッケル塩水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを得る工程であり、濃度及び中和条件等は公知の技術が適用できる。原料として用いる塩化ニッケルと硫酸ニッケルは、特に限定されるものではないが、得られる酸化ニッケル微粉末が電子部品用に用いられることから、原料中に含まれる不純物が100質量ppm未満であることが望ましい。
中和に用いるアルカリとしては、特に限定されるものではないが、反応液中に残留するニッケルの量を考慮すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましく、コストを考慮すると、水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、アルカリは固体又は液体のいずれの状態でニッケル塩水溶液に添加してもよいが、取扱いの容易さから水溶液を用いることが好ましい。均一な特性の水酸化ニッケルを得るためには、反応槽内において十分に撹拌されている液に、ニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液とをダブルジェット方式で添加することが有効である。その際、反応槽内に予め入れておく液は、純水にアルカリを添加し、所定のpHに調整したものであることが好ましい。
中和反応時は、反応液のpHを8.3〜9.0とすることが好ましく、この範囲内でpHを一定とすることが特に好ましい。pHが8.3より低いと、水酸化ニッケル中に残存する塩素イオンや硫酸イオンといった陰イオン成分が増大し、これらは工程Bで焼成する際に、大量の塩酸やSOxとなって炉体をいためるため好ましくない。また、pHが9.0より高くなると得られる水酸化ニッケルが微細になりすぎ、濾過が困難になることがある。また、後に行われる工程Bで焼結が進みすぎ、微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが困難になることがある。
好適な中和条件であるpH9.0以下では水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、この場合は、中和晶析後、pHを10程度まで上げることによって、濾液中のニッケルを低減することができる。中和反応時のpHは、変動幅が設定値から絶対値で0.2以内となるように一定に制御することが好ましい。pHの変動幅がこれより大きくなると、不純物の増大や酸化ニッケル微粉末の低比表面積化を招く虞がある。
また、工程Aにおいて調製するニッケル塩水溶液中のニッケルの濃度は、特に限定されるものではないが、生産性を考慮すると、ニッケル濃度で50〜180g/Lが好ましい。この濃度が50g/L未満では生産性が悪くなる。一方、180g/Lを超えると水溶液中の陰イオン濃度が高くなり、生成した水酸化ニッケル中の塩素品位や硫黄品位が高くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の不純物品位が十分に低くならない場合がある。
中和反応時の液温は、通常の条件で特に問題なく、室温で行うことも可能であるが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるために、50〜70℃とすることが好ましい。水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることで、水酸化ニッケル中への硫黄の過度の含有を防止することができる。また、水酸化ニッケル中への塩素及びナトリウムなどの不純物巻き込みを抑制し、最終的に酸化ニッケル微粉末の不純物を低減させることができる。液温が50℃未満では水酸化ニッケル粒子の成長が十分ではなく、水酸化ニッケル中への硫黄及び不純物の巻き込みが多くなる。また、液温が70℃を超えると、水の蒸発が激しくなり、水溶液中の硫黄及び不純物濃度が高くなるため、生成した水酸化ニッケル中の硫黄品位及び不純物品位が高くなることがある。
上記中和反応の終了後、析出した水酸化ニッケルを濾過して回収する。回収した濾過ケーキは、次の工程Bに移る前に洗浄することが好ましい。洗浄はレパルプ洗浄とすることが好ましく、洗浄に用いる洗浄液としては水が好ましく、純水が特に好ましい。洗浄時の水酸化ニッケルと水の混合比は特に限定されるものではなく、ニッケル塩に含まれる陰イオン、特に塩素イオン及びナトリウムイオンが、十分に除去できる混合比とすればよい。尚、1回の洗浄で陰イオンが十分に低減されない場合は、複数回繰り返して洗浄することが好ましい。
水酸化ニッケルに対する洗浄液の具体的な量は、残留陰イオンが十分に低減でき且つ水酸化ニッケルを良好に分散させるために、水酸化ニッケル/処理液の混合比で50〜150g/Lとすることが好ましく、100g/L程度とすることがより好ましい。尚、洗浄時間については、処理条件に応じて適宜定めることができ、残留陰イオンが十分に低減される時間とすればよい。
工程Bは、上記工程Aで得られた水酸化ニッケルを熱処理して酸化ニッケルとする工程である。この熱処理は、非還元性雰囲気中において、800℃以上、950℃未満の温度範囲で行う。この熱処理温度は、800〜900℃とすることがより好ましく、840〜860℃とすることが更に好ましい。
この熱処理により水酸化ニッケル結晶内の水酸基が脱離して酸化ニッケルの粒子が形成されるが、その際、熱処理温度を適切に設定することによって、粒径の微細化と硫黄品位の制御が可能であると共に、残存した塩素の多くの部分を揮発させることができる。即ち、800℃未満では硫黄や塩素の揮発が不十分となり、酸化ニッケル中の硫黄品位を所望の値に制御することができなくなる上、塩素も十分に低減させることができない。一方、950℃以上では酸化ニッケル粒子同士の焼結が顕著になり、後に行われる工程Cにおいてこの酸化ニッケル粒子の焼結体の解砕が困難になり、微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが困難になる。
熱処理の雰囲気は、非還元性雰囲気であれば特に限定されないが、経済性を考慮して大気雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理の際に水酸基の脱離により発生する水蒸気を効率よく排出するため、十分な流速を持った気流中で行うことが好ましい。尚、熱処理を行う装置には、一般的な焙焼炉を使用することができる。
熱処理時間は、処理温度及び処理量等の処理条件に応じて適宜設定することができるが、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積が3m/g以上となるように設定すればよい。最終的に粉砕して得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積は、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積に対して約1m/g増加する程度であるため、熱処理後の酸化ニッケルの比表面積で判断して処理条件を設定することができる。
工程Cは、上記工程Bの熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程である。上記工程Bでは水酸化ニッケル結晶中の水酸基が離脱して酸化ニッケルの粒子が形成されるが、その際、粒径の微細化が起こると共に、硫酸ニッケルにより抑制されてはいるものの、高温の影響で酸化ニッケル粒子同士の焼結がある程度進行する。そのため、工程Cにおいて、この焼結体を破壊して酸化ニッケル微粉末を得る。
一般的な解砕方法としては、ビーズミルやボールミル等の解砕メディアを用いたものやジェットミル等の解砕メディアを用いないものがあるが、本発明の製造方法においては、後者の解砕メディアを用いない解砕方法を採用するのが好ましい。なぜなら、解砕メディアを用いると解砕自体は容易となるものの、ジルコニア等の解砕メディアを構成している成分が不純物として混入するおそれがあるからである。
低減すべき不純物がジルコニウムのみであるならば、解砕メディアにジルコニア等のジルコニウムを含有しないものを用いて解砕することで対処することができるが、この場合であっても解砕メディアから他の不純物が混入し、結果的に低不純物品位の酸化ニッケル微粉末が得られないので好ましくない。また、ジルコニウムを含有しない解砕メディア、例えば、イットリア安定化ジルコニアを含有しない解砕メディアでは強度や耐摩耗性で十分でなく、この観点からも解砕メディアを用いることなく解砕を行う方法が望ましい。
解砕メディアを用いることなく解砕する方法としては、粉体の粒子同士を衝突させる方法や、液体などの溶媒により粉体にせん断力をかける方法、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いる方法等がある。粉体の粒子同士を衝突させる解砕装置としては、例えば湿式ジェットミルがあり、具体的にはアルティマイザー(登録商標)やスターバースト(登録商標)等が挙げられる。また、溶媒によりせん断力を与える解砕装置としては例えばナノマイザー(登録商標)等があり、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いた解砕装置としては例えばナノメーカー(登録商標)等が挙げられる。
上記解砕方法のうち、粉体の粒子同士を衝突させる方法が、不純物混入の虞が少なく、比較的大きな解砕力が得られることから特に好ましい。このように、解砕メディアを用いることなく解砕を行うことにより、解砕メディアからの不純物、特にジルコニウムの混入が事実上ない微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが可能となる。
解砕条件には特に限定がなく、通常の条件の範囲内での調整により容易に目的とする粒度分布の酸化ニッケル微粉末を得ることができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料として好適な分散性に優れた微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
以上の方法により製造される本発明の酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が所定の範囲内に制御され、塩素品位及びナトリウム品位が低く、比表面積も大きいので、電子部品用、特にフェライト部品用の材料として好適である。具体的には、硫黄品位が300〜500質量ppm、塩素品位が100質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下である。また、比表面積は3m/g以上である。尚、比表面積は5m/g以上であることが好ましく、その上限は8m/g程度である。
また、本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、マグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が不純物として含まれることは実質的にない。更に解砕メディアを使用せずに解砕する場合はジルコニアも含まれなくなるので、ジルコニア品位及び第2族元素品位を30質量ppm以下にすることができる。
更に、本発明の酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90(粒度分布曲線における粒子量の体積積算90%での粒径)が1μm以下であることが好ましい。尚、レーザー散乱法で測定したD90は、電子部品等の製造時に他の材料と混合されるときに解砕されて小さくなるが、この解砕によって比表面積が大きくなる可能性は低いため、酸化ニッケル微粉末自体の比表面積が大きいことがより重要である。
更に、本発明による酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、湿式法により製造した水酸化ニッケルを熱処理するため、有害なSOxが大量発生することがない。従って、これを除害処理するための高価な設備が不要であることから、製造コストを低く抑えることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例及び比較例における塩素品位の分析は、酸化ニッケル微粉末を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、得られた沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって行った。また、硫黄品位の分析は、硝酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(セイコー社製 SPS−3000)によって行い、ナトリウム品位の分析は、硝酸に溶解した後、原子吸光装置(日立ハイテク社製 Z−2300)により評価することによって行った。
酸化ニッケル微粉末の粒径は、レーザー散乱法により測定し、その粒度分布から体積積算90%での粒径D90を求めた。また、比表面積の分析は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
[実施例1]
10Lのビーカーに、純水と水酸化ナトリウムとからなるpH8.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液1500mLを準備した。一方、塩化ニッケル99mol%、硫酸ニッケル1mol%の割合で混合したニッケル塩を、ニッケル濃度が120g/Lとなるように純水に溶解することによってニッケル水溶液を調製した。更に12.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用意し、これと上記ニッケル水溶液とをpH8.5で変動幅が絶対値で0.2以内となるように調整しながら前述のビーカー内の水溶液に連続的に添加混合した。このようにして、水酸化ニッケルの沈殿を生成させた。
その際、ニッケル水溶液は24mL/分の速度で添加した。また、液温は60℃とし、攪拌羽により200rpmで撹拌した。3Lのニッケル水溶液を添加した後、3時間ほど攪拌を続けながら熟成させた。
その後、濾過と30分の純水レパルプを4回繰り返して、水酸化ニッケル濾過ケーキを得た。この濾過ケーキを送風乾燥機を用いて大気中にて110℃で24時間乾燥し、水酸化ニッケルを得た(工程A)。得られた水酸化ニッケル500gを大気焼成炉に供給して、850℃で3時間熱処理して酸化ニッケルを得た(工程B)。次に、得られた酸化ニッケル300gをジェットミル粉砕機(栗本鉄工製)にてセパレーター回転数18000rpm、エア圧0.6MPaにて粉砕した(工程C)。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が310質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリム品位が35質量ppmであった。また、比表面積は3.6m/g、D90は0.62μmであった。
[実施例2]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を10mol%とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が410質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が50質量ppmであった。また、比表面積は5.0m/g、D90は0.53μmであった。
[実施例3]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を10mol%としたこと、工程Bの熱処理温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が490質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が49質量ppmであった。また、比表面積は5.3m/g、D90は0.61μmであった。
[実施例4]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を10mol%としたこと、工程Bの熱処理温度を900℃としたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が360質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が52質量ppm未満であった。また、比表面積は3.0m/g、D90は0.51μmであった。
[実施例5]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を10mol%とし、ニッケル濃度を50g/Lとした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が420質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が50質量ppmであった。また、比表面積は5.2m/g、D90は0.51μmであった。
[実施例6]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を30mol%とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が420質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が98質量ppm未満であった。また、比表面積は5.0m/g、D90は0.57μmであった。
[実施例7]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を10mol%とし、ニッケル濃度を180g/Lとした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が450質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が58質量ppmであった。また、比表面積は5.2m/g、D90は0.55μmであった。
[比較例1]
工程Aにおいて硫酸ニッケルを混合しなかった(硫酸ニッケルの混合割合0mol%)こと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が53質量ppmであった。また、比表面積は2.5m/g、D90は0.75μmであった。
[比較例2]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を10mol%としたこと、工程Bの熱処理温度を700℃としたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が3400質量ppm、塩素品位が200質量ppm、ナトリウム品位が100質量ppmであった。また、比表面積は5.3m/g、D90は0.65μmであった。
[比較例3]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を10mol%としたこと、工程Bの熱処理温度を950℃としたこと以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が300質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が65質量ppmであった。また、比表面積は1.8m/g、D90は0.68μmであった。
[比較例4]
工程Aの硫酸ニッケルの混合割合を50mol%とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が560質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリム品位が140質量ppmであった。また、比表面積は3.5m/g、D90は0.57μmであった。
[比較例5]
工程Aのニッケル塩を硫酸ニッケルのみ(硫酸ニッケルの混合割合100mol%)とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が600質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリム品位が300質量ppmであった。また、比表面積は3.0m/g、D90は0.61μmであった。
[比較例6]
工程Aにおいて硫酸ニッケルを混合せず(硫酸ニッケルの混合割合0mol%)、ニッケル濃度を180g/Lとした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共にその分析を行った。
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が50質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が56質量ppmであった。また、比表面積は2.6m/g、D90は0.58μmであった。
上記実施例1〜7及び比較例1〜6について、ニッケル濃度、硫酸ニッケル混合割合、熱処理温度(焙焼温度)と得られた酸化ニッケル微粉末の比表面積、塩素品位、硫黄品位、ナトリム品位とD90を下記の表1にまとめて示す。
Figure 0005621268
上記表1の結果から分るように、全ての実施例において、硫黄品位が300〜500質量ppmに制御されている上、塩素品位は50質量ppm未満、ナトリウム品位は100質量ppm未満となっている。また、比表面積が3.0m/g以上と非常に大きくなっており、微細な酸化ニッケル微粉末が得られていることが分る。
これに対して、比較例1、4、5及び6では、硫酸ニッケルの混合割合が適切でないため硫黄品位あるいはナトリウム品位が好適な範囲内となっていない。特に、比較例1及び6では、硫酸ニッケルが混合されていないため、熱処理時の焼結抑制効果がなく、比表面積が小さい値となっている。比較例2は、熱処理温度が低いため、硫黄品位及び塩素品位が好適な範囲を大幅に超えている。一方、比較例3は、熱処理温度が高いため、比表面積が小さい値となっている。

Claims (5)

  1. 全ニッケル塩の量に対する硫酸ニッケルの量の割合が1mol%以上、50mol%未満となるように塩化ニッケルと硫酸ニッケルとを混合してなるニッケル塩水溶液をアルカリによって中和して水酸化ニッケルを得る工程Aと、得られた水酸化ニッケルを非還元性雰囲気中において800℃以上、950℃未満で熱処理して酸化ニッケル粒子を形成する工程Bと、該熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程Cとを含むことを特徴とする酸化ニッケル微粉末の製造方法。
  2. 前記工程Aにおけるニッケル塩水溶液中のニッケル濃度が50〜180g/Lであることを特徴とする、請求項1に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
  3. 前記工程Cにおける解砕が、前記酸化ニッケル粒子同士を衝突させることにより行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかの製造方法で得られた酸化ニッケル微粉末であって、比表面積が3m/g以上、硫黄品位が300〜500質量ppm、塩素品位が100質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm以下であることを特徴とする酸化ニッケル微粉末。
  5. レーザー散乱法で測定したD90が1μm以下であることを特徴とする、請求項4に記載の酸化ニッケル微粉末。
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