以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、本発明の実施形態にかかるクラッチケーブルの配策構造が適用された自動二輪車1の全体構成を説明する。説明の便宜上、本発明の実施形態にかかるクラッチケーブルの配策構造が適用された自動二輪車1を、「本自動二輪車」1と略して記すことがある。また、本発明の説明においては、本自動二輪車1の「上」「下」「右」「左」「前」「後」のそれぞれの向きは、本自動二輪車1に乗った運転者の向きを基準とする。
図1は、本自動二輪車1を右側から見た平面図であり、図2は、左側から見た平面図である。図1と図2のそれぞれに示すように、本発明の実施形態にかかるクラッチケーブルの配策構造は、典型的には、オフロードタイプの自動二輪車に適用される。本自動二輪車1は、車体フレーム11と、操舵装置12と、後輪懸架装置13と、エンジンユニット2と、排気装置14と、その他所定の装置や部材とを含む。
車体フレーム11は、ヘッドパイプ111と、左右一対のメインチューブ112と、ボディフレーム113と、ダウンチューブ114とを含む。ヘッドパイプ111は、後傾する管状の部分を有する。左右一対のメインチューブ112は、ヘッドパイプ111の後部から、それぞれ、後方斜め右下と後方斜め左下に向かって伸びる部分を有する。ボディフレーム113は、左右一対のメインチューブ112の後方に設けられる部分である。ダウンチューブ114は、ヘッドパイプ111の後部から左右一対のメインチューブ112の下方に向かって伸びる部分と、この部分の下端から後方に伸びてボディフレーム113に結合する部分とを有する。ボディフレーム113の上部にはシートレール(図1と図2においては隠れて見えない)が設けられる。そして、ボディフレーム114の上側には、着座シート707が、シートレールを介して取り付けられる。
操舵装置12は、ステアリングシャフト121と、ハンドル124と、左右一対のフロントフォーク122と、前輪123とを含む。そして、操舵装置12は、車体フレーム11の前部に、車体フレーム11に対して回転可能に配置される。ステアリングシャフト121は、ヘッドパイプ111に回転可能に支持される。ハンドル124は、ステアリングシャフト121の上端に設けられる。左右一対のフロントフォーク122は、それぞれ、ステアリングシャフト121の左右に配置される。前輪123は、左右一対のフロントフォーク122の下端に、回転自在に配置される。
また、ハンドル124は、左右のハンドルグリップを有する。右側のハンドルグリップには、スロットルグリップと、前輪のブレーキレバーとが設けられる。左側のハンドルグリップには、後述する多板式クラッチを操作するためのクラッチレバー125が設けられる。さらに、ハンドル124には、後述する始動装置4のスタータモータ41を起動するためのスイッチ(図略)が設けられる。
エンジンユニット2は、車体フレーム11のメインチューブ112とダウンチューブ114とボディフレーム113とにより形成される空間に配置される。エンジンユニット2は、シリンダアセンブリ21と、クランクケースアセンブリ26とを含む。クランクケースアセンブリ26の左側後部には、ドリブンシャフト(図においては隠れて見えない)の左端が突出しており、ドリブンシャフトの左端には、ドライブチェーンスプロケット134が設けられる。なお、エンジンユニット2の構成の詳細は後述する。
後輪懸架装置13は、スイングアーム131と、ショックアブソーバ(図においては隠れて見えない)と、後輪132とを含み、車体フレーム11のボディフレーム113の後部に設けられる。スイングアーム131の前端は、ボディフレーム113に対して上下方向に搖動可能に連結される。ショックアブソーバは、スイングアーム131とボディフレーム113との間に設けられ、スイングアーム131からボディフレーム113に伝達する振動や衝撃などを緩和する。後輪132は、スイングアーム131の後端に配置され、スイングアーム131により回転自在に支持される。後輪132の左側には、ドリブンチェーンスプロケット133が設けられる。後輪132とドリブンチェーンスプロケット133とは一体に回転する。そして、エンジンユニット2のドライブチェースプロケット134と、後輪132のドリブンチェーンスプロケット133とは、チェーン701により回転動力を伝達可能に連結される。
排気装置14は、消音器141と排気管142とを含む。消音器141は、エンジンユニット2の右後方であって、後輪132の右上方に配置される。排気管142の一方の端部は、エンジンユニット2のシリンダアセンブリ21の前側に接続される。他方の端部は、消音器141の前側のエグゾーストポート220(後述)に接続される。そして、排気管141は、エンジンユニット2のシリンダアセンブリ21の前側から前方に向かい、シリンダアセンブリ21の前方で右後方に向かって湾曲し、シリンダアセンブリ21の右側を通過し、消音器141の前側に到達する。また、排気管142には、運転者の右足に対応する位置に、排気管カバー706が設けられる。このように、消音器141は、後輪132のドリブンチェーンスプロケット133や、ドリブンチェーンスプロケット133に巻かれるチェーン701との干渉を避けるため、消音器141は、これらとは反対側、すなわち右側に配置される。そして、シリンダアセンブリ21と消音器141とを連結する排気管142は、エンジンユニット2の右側であって多板式クラッチ3の上方を通過するように設けられる。このような構成とすることにより、消音器141をできるだけ低い位置に配置して本自動二輪車1の重心を低くできる。
エンジンユニット2の上方には、燃料タンク709が配置される。さらに、本自動二輪車1の外部には、フロントサイドカバー704やリアサイドカバー705が取り付けられる。
次に、エンジンユニット2について説明する。図3は、エンジンユニット2を左側方から見た外観の側面図である。図4は、エンジンユニット2を左側方から見た側面図であり、ワンウェイクラッチカバー44とマグネトカバー265が外された状態を示した図である。図5は、エンジンユニット2を左後方から見た斜視図であり、スタータモータ41とレリーズ機構5の構成およびクラッチケーブル61とその他の装置や部材との位置関係を模式的に示した図である。図6は、図5の部分拡大図である。図7は、エンジンユニットを後方から見た平面図である。図8は、エンジンユニットの内部構造を示した断面模式図である。なお、図8は、説明のための模式図であり、現実の特定の切断面で切断した図ではない。
図3、図4、図8などに示すように、エンジンユニット2は、シリンダアセンブリ21と、クランクケースアセンブリ26と、多板式クラッチ3と、始動装置4とを含む。
シリンダアセンブリ21は、シリンダブロック211と、シリンダヘッド212と、シリンダヘッドカバー213とを含む。
図8を参照して、エンジンユニット2の内部構造について説明する。シリンダブロック211の頂部には、燃焼室214が形成される。そして、シリンダブロック211の内部には、ピストン215が往復動可能に配置される。ピストン215と後述するクランクシャフト261とは、コネクションロッド216により連結される。そして、ピストン215の運動は、コネクションロッド216によってクランクシャフト261に伝達される。シリンダブロック211の上側には、シリンダヘッド212が配置される。シリンダヘッド212には、燃焼室214とシリンダブロック211の外部とを連通するインテークポート219およびエグゾーストポート220が形成される。そして、シリンダヘッド212の内部には、インテークポート219の開閉を制御する吸気バルブ(図略)と、エグゾーストポート220の開閉を制御する排気バルブ(図略)とが配置される。吸気バルブは吸気側カム(図略)により駆動され、排気バルブは排気側カム(図略)により駆動される。シリンダヘッドカバー213は、シリンダヘッド212の上側に配置され、シリンダヘッド212の蓋となる部材である。
各図には、本自動二輪車1に水冷単気筒エンジンが適用される構成を示すが、本自動二輪車1に適用されるエンジンの種類は限定されるものではない。本自動二輪車1には、水冷式エンジンが適用される構成であってもよく、空冷式エンジンが適用される構成であってもよい。また、単気筒エンジンが適用される構成であってもよく、多気筒エンジンが適用される構成であってもよい。なお、水冷式エンジンが適用される場合には、本自動二輪車1は、冷却水を冷却するラジエータと、冷却水を循環させるポンプとを備える。
クランクケースアセンブリ26は、クランクケースの右半体と左半体とを含む。そして、クランクケースの右半体と左半体とが結合して、クランクケースアセンブリ26の筐体を構成する。クランクケースアセンブリ26の内部には、前側にクランク室262が形成され、後側にミッション室263が形成される。クランク室262の内部には、クランクシャフト261が回転可能に配置される。ミッション室263の内部には、カウンターシャフト267とドリブンシャフト268とが回転可能に配置され、トランスミッション装置269が構成される。このように、エンジンユニット2は、クランクシャフト261と、このクランクシャフト261の後方に設けられるカウンターシャフト267とを回転可能に収納するクランクケースアセンブリ26を備える。
クランクケースアセンブリ26の右側面には、クラッチカバー264が取り付けられる。そして、クラッチカバー264の内部には、多板式クラッチ3が配置される。クランクケースアセンブリ26の左側面には、マグネトカバー265が取り付けられる。マグネトカバー265の内部には、発電機であるマグネト266が配置される。さらに、クランクケースアセンブリ26の左側には、エンジンを始動させる始動装置4(図3〜図7を参照)が配置される。このように、多板式クラッチ3は、エンジンユニット2の左右方向の一側、すなわち右側に偏倚して設けられる。また、マグネト266およびスタータモータ41は、エンジンユニット2の左右方向の他方の一側(=多板式クラッチ3とは反対側の一側)、すなわち左側に偏倚して設けられる。したがって、多板式クラッチ3と、マグネト266および始動装置4とは、互いにエンジンユニット2の左右反対側に配置される。多板式クラッチ3は、エンジンユニット2に組み付けられる装置の中では、サイズおよび重量が大きいため、マグネト266および始動装置4を多板クラッチ3の反対側に配置することにより、エンジンユニット2の左右の重量バランスが不均一になることを防止または抑制している。
本自動二輪車1の多板式クラッチ3の構成は、次のとおりである。図8を参照して説明する。多板式クラッチ3は、プライマリドリブンギア31と、クラッチハウジング32と、クラッチスリーブハブ34と、プレッシャディスク35と、レリーズ機構5とを含む。
プライマリドリブンギア31は、クランクシャフト261の右端に設けられるプライマリドライブギア218と噛み合っており、クランクシャフト261の回転動力が伝達されて回転する。クラッチハウジング32は、右側が開口した略カップ状の部材である。クラッチハウジング32は、ベアリング33を介してカウンターシャフト267に回転自在に支持される。なお、カップの底面に相当する左側の面の中心にも、貫通孔である開口部が形成される。クラッチハウジング32の内部には、複数のドライブプレート36が、軸線方向(=左右方向)に所定の間隔をおいて配置される。ドライブプレート36は、リング状の部材である。これらの複数のドライブプレート36は、クラッチハウジング32の内側に固定されており、クラッチハウジング32と一体に回転する。プライマリドリブンギア31とクラッチハウジング32とは、ダンパ機構などを介して結合される。このため、プライマリドリブンギア31とクラッチハウジング32とは、回転方向に所定の角度だけ相対的に変位可能であるが、基本的には一体に回転する。
カウンターシャフト267は中空軸である。カウンターシャフト267は、クランクシャフト261の後方に、クランクシャフト261に平行に設けられる。そして、カウンターシャフト267は、プライマリドリブンギア31およびクラッチハウジング32に同軸に配置される。カウンターシャフト267は、プライマリドリブンギア31およびクラッチハウジング32を貫通している。カウンターシャフト267の右端には、クラッチスリーブハブ34が設けられる。クラッチスリーブハブ34は、クラッチハウジング32の内部に位置する。クラッチスリーブハブ34の外周には、複数のドリブンプレート37が設けられる。ドリブンプレート37は、リング状の部材である。複数のドリブンプレート37は、クラッチスリーブハブ37の外側に固定される。そして、クラッチスリーブハブ34はカウンターシャフト267に固定される。このため、カウンターシャフト267と、クラッチスリーブハブ34と、複数のドリブンプレート37とは、一体に回転する。また、クラッチスリーブハブ34の複数のドリブンプレート37と、クラッチハウジング32の複数のドライブプレート36とは、左右方向(=カウンタシャフトの軸線方向)に交互に並ぶ。
プレッシャディスク35は、略円板状の部材であり、クラッチハウジング32およびクラッチスリーブハブ34の右側に設けられる。プレッシャディスク35とクラッチスリーブハブ34との間には、コイルばねなどの付勢部材が設けられる。たとえば、プレッシャディスク35とクラッチスリーブハブ34との間に、付勢部材としてのコイルばねが架設される。そして、プレッシャディスク35は、付勢部材の付勢力によって、クラッチハウジング32に設けられるドライブプレート36と、クラッチスリーブハブ34に設けられるドリブンプレート36とを、互いに圧力がかかった状態で接触させる。具体的には、付プレッシャディスク35は、勢部材の付勢力によって、クラッチスリーブハブ34のドリブンプレート37を左側に向かって付勢する。そうすると、クラッチハウジング32に設けられるドライブプレート36と、クラッチスリーブハブ34に設けられるドリブンプレート37とが、互いにカウンターシャフト267の軸線方向、すなわち左右方向に圧力がかかった状態で接触し、いわゆる「クラッチがつながった」状態となる。
次いで、図5〜図8を参照して、レリーズ機構5について説明する。レリーズ機構5は、プッシュロッド51(図8を参照)と、レリーズロッド52(図5〜図7を参照)と、レリーズレバー53(図5〜図7を参照)とを含む。なお、図5〜図7においては、レリーズロッド52は隠れて見えないため、その軸線を一点鎖線で示す。
まず、図8を参照して説明する。プッシュロッド51は、略棒状の部材である。プッシュロッド51は、カウンターシャフト267の内部に、軸線方向(すなわち左右方向)に往復動可能に配置される。プッシュロッド51の右端は、プレッシャディスク35の直近に位置する。そして、プッシュロッド51の右端には、押圧部材54が設けられる。一方、プッシュロッド42の左端は、カウンターシャフト267の左端から突出する。
次いで、図5〜図7を参照して説明する。レリーズロッド52は、略棒状の部材である。そして、略上下方向に起立して配置されるとともに、クランクケースアセンブリ26に対して回転自在に設けられる。レリーズロッド52の下端は、プッシュロッド51の左端近傍に位置する(図略)。レリーズロッド52の上端は、クランクケースアセンブリ26の上側外部に突出する。なお、カウンターシャフト267およびプッシュロッド51は、クランクシャフト267の後方に位置し、レリーズロッド52の下端はプッシュロッド51の左端近傍に位置する。このため、レリーズロッド52の上端は、シリンダアセンブリ21の後方で、かつ、クランクケースアセンブリ26の左端近傍に位置する。
レリーズロッド52の上端には、レリーズレバー53が設けられる。レリーズレバー53は、略棒状または略板状の部材であり、水平方向略右側に向かって伸びる。レリーズレバー53の基端部は、レリーズロッド52の上端に結合されており、レリーズレバー53の先端には、クラッチケーブル61の一方の端部が連結される。このように、レリーズレバー53は、エンジンユニット2のクランクケースアセンブリ26の上方に、左右方向の一側に偏倚して設けられる。レリーズロッド52の下端または下端近傍には、カム(図略)が設けられる。カムは、プッシュロッド51を、右向き(すなわち、クラッチを解除する向き)に移動させる部材である。カムは、上方または下方から見て略半円または略楕円に成形される。レリーズレバー42およびカムは、レリーズロッドに一体に結合しており、一体に回転できる。
そして、レリーズレバー53の先端が前方に向かって引っ張られると、リレーズレバー53とレリーズロッド51とカムとが一体となって、上から見て反時計回りに回転する。そして、カムがプッシュロッド51の左端を右側に向かって押す。カムに押されたプッシュロッド51は、カウンターシャフト267の内部を右側に移動する(図8参照)。
プッシュロッド51が右側に向かって移動すると、プッシュロッド51の右側に取り付けられた押圧部材54が、プレッシャディスク35を右側に向かって押す。押されたプレッシャディスク35は、付勢部材の付勢力に抗して、右側に向かって移動する。プレッシャディスク35が右側に移動すると、クラッチハウジング32のドライブプレート36と、クラッチスリーブハブ34のドリブンプレート37とを付勢している付勢力が無くなる。そうすると、ドライブプレート36とドリブンプレート37とが離れ、クランクシャフト261の回転動力が、カウンターシャフト267に伝達されない状態となる。すなわち、「クラッチが切れた」状態となる。このように、レリーズ機構5は、レリーズレバー53の先端部が前方に向かって移動する態様で回転することにより、「クラッチが切れた」状態にすることができる(図8参照)。
なお、前記多板クラッチ3およびレリーズ機構5の構成は一例であり、本自動二輪車1に適用されるクラッチの種類およびレリーズ機構の構成は限定されるものではない。要は、回転可能なレリーズロッド52と、このレリーズロッド52に取り付けられるレリーズレバー53を備え、レリーズレバー53の先端が前方に向かう態様で回転した場合に、クラッチが動力が伝達されない状態に移行する構成であればよい。
次いで、図4、図5を参照して、始動装置4について説明する。始動装置4は、エンジンを始動させる装置であり、図4,5などに示すように、スタータモータ41と、スタータモータ41の回転動力をクランクシャフト261に伝達する伝達機構とを含む。伝達機構は、ワンウェイクラッチ42とアイドルギア43とを含む。そして、クランクケースアセンブリ26の左側には、伝達機構が収容される容器であるワンウェイクラッチカバー44が取り付けられる。ワンウェイクラッチ42およびアイドルギア43は、ワンウェイクラッチカバー44の内部に配置される。そして、スタータモータ41が発生させた回転動力は、伝達機構、すなわち、ワンウェイクラッチ42とアイドルギア43とを介して、クランクシャフト261に伝達される。
スタータモータ41とクランクシャフト261の間の伝達機構における動力の伝達の損失を少なくするため、スタータモータ41は、クランクシャフト261にできるだけ近接した位置に配置される。さらに、エンジンユニット2の左右の重量バランスを保つため、スタータモータ41は、多板式クラッチ3の反対側、すなわちクランクケースアセンブリ26の左端に配置される。したがって、スタータモータ41が設けられる位置は、前後方向については、シリンダアセンブリ21の直後であってレリーズロッド52およびレリーズレバー53の前方である。換言すると、シリンダアセンブリ21と、レリーズロッド52およびレリーズレバー53の間である。上下方向については、クランクケースアセンブリ26の上面である。左右方向については、クランクケースアセンブリ26の左端近傍である。すなわち、スタータモータ41は、前後方向においてはレリーズレバー53の前方であって、クランクケースアセンブリ26の上方に、レリーズレバー53と同じ一側に偏倚して設けられる。
スタータモータ41とクランクケースアセンブリ26の上面との間には、隙間62が形成される。換言すると、スタータモータ41の一部、少なくともレリーズレバー53の直前に位置する部分は、クランクケースアセンブリ26の上面から浮いている。クランクケースアセンブリ26およびスタータモータ41の左側には、伝達機構を収容する部材であるワンウェイクラッチカバー44が設けられる。ワンウェイクラッチカバー44は、内部が空洞で所定の厚さを有する円板形状を有する。そして、ワンウェイクラッチカバー44の上部右側がスタータモータ41の左側下部とつながっており、ワンウェイクラッチカバー44の右側下部が、クランクケースアセンブリ26の左側上部とつながっている。換言すると、ワンウェイクラッチカバー44は、スタータモータ41の左側下部と、クランクケースアセンブリ26の左側上部との間に跨って配置される。さらに換言すると、ワンウェイクラッチカバー44の上部は、クランクケースアセンブリ26の上面左端から上方に向かって突出しており、この突出した部分に、スタータモータ41の左端が、クランクケースアセンブリ26の上面から浮いた状態でつながっている。
換言すると、ワンウェイクラッチカバー44とスタータモータ41とクランクケースアセンブリ26とは、略門型の配置関係を有する。そして、この門型の内部空間が、隙間62となる。
このような構成であれば、レリーズロッド52およびレリーズレバー53の前方、特にレリーズレバー53の先端の直前に、クランクケースアセンブリ26の上面と、スタータモータ41の下面と、ワンウェイクラッチカバー44の右面とに囲まれる隙間62を形成することができる。この隙間62は、前後方向に貫通する貫通孔である。そして、レリーズレバー53の先端とクラッチレバー125とを連結するクラッチケーブル61は、この隙間62を通過する。クラッチケーブル61の配策経路については後述する。
クランクケースアセンブリ26の左側には、マグネトカバー265が取り付けられる。そして、マグネトカバー265の内部、すなわちマグネト室には、マグネト266が配置される。マグネト266は、エンジンの点火プラグに供給する電気を発生させる発電機である。
次に、図8を参照して、クランクケースアセンブリ26のミッション室263の構成について説明する。図8に示すように、クランクケースアセンブリ26のミッション室263には、カウンターシャフト267とドリブンシャフト268とが配置される。カウンターシャフト267とドリブンシャフト268は平行であり、ドリブンシャフト268はカウンターシャフト267の後方に配置される。そして、カウンターシャフト267とドリブンシャフト268の間に、トランスミッション装置269が構築される。トランスミッション装置269の種類は限定されるものではないが、たとえば、一般的な常時噛み合い式のトランスミッション装置が適用される。トランスミッション装置269を操作するシフトペダル(図略)は、クランクケースアセンブリ26の左側に設けられる。ドリブンシャフト268の左端は、クランクケースアセンブリ26の左側外部に突出しており、ドライブチェーンスプロケット134が設けられる。ドライブチェーンスプロケット134は、後輪132の左側に配置されるドリブンチェーンスプロケット133と、チェーン701により連結される(図1、図2参照)。
このような構成であると、クランクシャフト261の回転は、プライマリドライブギア218とプライマリドリブンギア31を介してクラッチハウジング32に伝達される。クラッチハウジング32の回転は、ドライブプレート36とドリブンプレート37とを介してカウンターシャフト267に伝達される。カウンターシャフト267の回転は、トランスミッション装置269を介してドリブンシャフト268に伝達される。ドリブンシャフト268の回転は、ドライブチェーンスプロケット134とチェーン701とドリブンチェーンスプロケット133を介して後輪132に伝達される。
次に、図2〜図7を参照して、クラッチケーブル61の配策経路について説明する。クラッチケーブル61は、レリーズレバー53とクラッチレバー125(図2を参照)とを連結し、クラッチレバー125の動きをレリーズレバー53に伝達する。クラッチレバー125は、スタータモータ41よりも前方に設けられる。一方、レリーズレバー53は、スタータモータ41よりも後方に設けられる。そして、クラッチケーブル61の中間の一部が、隙間62を通過する。具体的には、次のとおりである。特に図5と図6に示すように、クラッチケーブル61の一端は、レリーズレバー53の先端に連結される。そして、クラッチケーブル61は、レリーズレバー53の先端から前方に向かい、隙間62を通過する。隙間62の前方においては、エンジンユニット2のシリンダアセンブリ21の左側を通過し、斜め上方に向かう(図3、図4参照)。そして、ヘッドパイプ111の近傍において左側に向かって湾曲し、クラッチレバー125に至る。そして、クラッチケーブル61の他方の端部は、クラッチレバー125に連結される。クラッチケーブル61の配策経路を上方から見ると、クラッチケーブル61は、隙間62を通過することにより、レリーズレバー53の先端からほぼ直線的に前方に向かう。すなわち、クラッチケーブル61には、急激に屈曲する箇所が形成されない。
このようなクラッチケーブルの配策構造を有する自動二輪車における多板式クラッチ3の動作は、次のとおりである。クラッチレバー125が操作されていない状態においては、プレッシャディスク35が、付勢部材の付勢力によって、クラッチハウジング32のドライブプレート36とクラッチスリーブハブ34のドリブンプレート37とを、所定の圧力をもって接触している状態に維持する。このため、クランクシャフト261の回転が、プライマリドライブギア218と、プライマリドリブンギア31と、クラッチハウジング32と、ドライブプレート36と、ドリブンプレート37と、クラッチスリーブハブ34とを通じて、カウンターシャフト267に伝達される。
クラッチレバー125が操作されると、レリーズレバー53の先端は、クラッチケーブル61によって前方に引っ張られ、レリーズロッド52は、上から見て反時計回りに回転する。レリーズロッド52が回転すると、レリーズロッド52の下端に設けられたカムが、プッシュロッド51の左端を、右側に向かって押す。プッシュロッド51が右側に向かって移動すると、プッシュロッド51の右端に設けられる押圧部材54が、プレッシャディスク35を右側に向かって押す。押されたプレッシャディスク35は、付勢部材の付勢力に抗して右側に向かって移動する。プレッシャディスク35が右側に移動すると、ドライブプレート36とドリブンプレート37とを付勢している付勢力が無くなる。そうすると、ドライブプレート36とドリブンプレート37とが離れ、クランクシャフト261の回転が、カウンターシャフト267に伝達されない状態となる(図8参照)。
本発明の実施形態にかかる自動二輪車のクラッチケーブルの配策構造は、次のような作用効果を奏する。
クラッチケーブル61は、レリーズレバー53の先端から、スタータモータ41とクランクケースアセンブリ26とワンウェイクラッチカバー44とに囲まれる隙間62(=貫通孔)を通過して前方に向かう。そして、クラッチケーブル61は、シリンダアセンブリ21の左側を通過して、スタータモータ41よりも前方に設けられるクラッチレバー125に至る。このように、レリーズレバー53の前方に、前後方向に貫通する貫通孔状の隙間62が形成され、クラッチケーブル61がこの隙間62を通過する構成であると、クラッチケーブル61が、エンジンユニット2の右側に引き回される必要が無くなる。この結果、クラッチケーブル61の屈曲箇所を減少させることができる。すなわち、レリーズ機構の至近を含め、クラッチケーブル61全体として滑らかに湾曲する配策構造が得られる。さらに、シリンダアセンブリ21の右側を迂回させる構成と比較して、クラッチケーブル61を短くできる。このため、クラッチレバー125を操作する際のクラッチケーブル61の摩擦抵抗が小さくなる。したがって、多板式クラッチ3の操作が容易またはスムーズになる。
そして、クラッチケーブル61の長さを短くできるから、クラッチケーブル61の部品コストの削減を図ることができる。さらに、クラッチケーブル61が短くなると、クラッチケーブル61を車体フレーム11などに固定するためのクリップなどの数を減少させることができる。このため、クリップなどの部品コストの削減を図ることができる。
また、エンジンユニット2の右側に排気管142が設けられる場合には、クラッチケーブル61を排気管に接近させなくてもよい。このため、クラッチケーブル61に要求される耐熱性の程度を低くすることができる。したがって、耐熱性の高いクラッチケーブルよりも安価なクラッチケーブルを適用できるから、部品コストの削減を図ることができる。
ところで、スタータモータを有しない自動二輪車は、レリーズレバーの前方にスタータモータが配置されないため、クラッチケーブルが、レリーズレバーから前方に伸びているものがある。このため、本自動二輪車におけるクラッチケーブルの配策経路は、スタータモータを備えない自動二輪車におけるクラッチケーブルの配策経路と類似する経路にすることができる。したがって、スタータモータを備える自動二輪車(=本自動二輪車1)と、備えない自動二輪車とで、クラッチケーブルおよびクラッチケーブルの配策に必要な部品の共通化を図ることができる。このため、生産効率の向上を図ることができる。
さらに、本発明の実施形態にかかる自動二輪車のクラッチケーブルの配策構造によれば、クラッチケーブル61は、シリンダヘッドアセンブリ21の左側に配策され、シリンダヘッドアセンブリ21の後方には配策されない。このため、シリンダヘッドアセンブリ21の後方のスペースの有効利用を図ることが可能になる。たとえば、オイルの攪拌抵抗の低減を目的としたセミドライサンプ方式のエンジンにおいて、シリンダヘッドアセンブリの後方に、リザーバタンクを、クランクケースアセンブリに一体に設けることが可能となる。