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JP5651053B2 - 刃先交換型切削チップおよびそれを用いた切削加工方法、ならびに刃先交換型切削チップの製造方法 - Google Patents

刃先交換型切削チップおよびそれを用いた切削加工方法、ならびに刃先交換型切削チップの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、刃先交換型切削チップに関し、特に鋼高速切削加工用またはダイス鋼の切削工具に使用される刃先交換型切削チップに関する。
従来から、切削工具の先端部分(刃先)に刃先交換型切削チップを取り付けて、各種の被削材を切削加工することが行なわれている。切削工具を長期間使用することによって刃先交換型切削チップが寿命を迎えると、その時点で刃先交換型切削チップを交換して切削加工を継続する。
このような刃先交換型切削チップは、耐摩耗性、靭性、耐熱亀裂性等の切削性能が高いことが要求されることはもちろん、切り屑処理性に優れた工具形状であることも要求される。かかる要求性能を満たすために、硬質材料として知られる超硬合金が刃先交換型切削チップに用いられている。
上記の超硬合金は、WCを主体として含むWC粉末と、WC粉末同士を結合する結合相とを混合した後、プレス法や射出成型法や押し出し法で成型し、さらにそれを液相焼結して焼結体を作製する。そして、必要に応じて、焼結体の表面に対し、砥石による部分研磨または全面研磨を行ない、さらに刃先処理や、焼結体表面への硬質層被覆や、被覆後の表面処理等を行なう。
しかし、上記の液相焼結においては、成型体の部位による組成の疎密や、成型体の部位による焼結温度の高低に起因して、焼結が均一に進まずに、成型体の部位によって収縮率が異なることも多い。特に、超硬合金は、液相焼結によって50%程度の体積収縮があるため、部位による収縮量の差が顕著であり、焼結体の形状や寸法にバラツキが生じる場合がある。
このように焼結体の形状や寸法にバラツキがあると、刃先交換型切削チップの交換前後で、刃先位置が微妙にズレて、加工精度や加工面品位が低下するという問題がある。かかる問題は、複数の刃先交換型切削チップを同時に使用するミリング加工において特に顕著となる。
特に、昨今では刃先交換型切削チップの形状が複雑化しているため、たとえばプレス時の臼への給粉において、給粉が多い部位つまり成型体密度が高い部位は焼結による収縮量が小さく、給粉が少ない部位つまりプレス体密度が低い部位は焼結による収縮量が大きい。このように収縮量が部位によって異なることにより、結果として焼結体が完全な相似形から歪みを持った形となる。
このような焼結体の形状や寸法のバラツキを解消するために、焼結後に焼結体の表面の一部または全部を砥石で研磨して、焼結体の寸法を均一にすることも行なわれている。しかし、焼結体の表面が三次元的に複雑な形状をしている場合、研磨だけでは全ての焼結体の寸法を均一にできないこともある。
そこで、特許文献1〜8では、寸法精度を高めるために、成型体を形成するときに分散剤を混入して成型体の密度をなるべく均一にしている。また、特許文献9〜13では、複雑かつ高精度な刃先交換型切削チップを製造するために、研磨箇所をなるべく減らす努力がされたり、非研磨化の努力がされたりしている。
しかしながら、特許文献1〜13に開示されている技術をもってしても、依然として焼結時の成型体の部位による収縮のバラツキに起因する歪み(変形)を解決することができておらず、いずれの刃先交換型切削チップも、ユーザーが要求する切削性能および寸法精度を満たすレベルには達していないというのが現状である。
特開2006−176800号公報 特開2001−081525号公報 特開2003−293071号公報 特開2008−183708号公報 特開2008−126403号公報 特公昭62−056944号公報 特表2004−509773号公報 特表2009−519139号公報 特開2006−075913号公報 特開2006−088332号公報 特開平05−138447号公報 特公平07−002284号公報 特公平01−038602号公報
液相焼結 出版社:株式会社内田老鶴圃 ISBN 4−7536−5187−8
液相焼結時に焼結体が変形しないようにするためには、焼結体中の鉄系金属の質量比を減らすことが有効である。しかし、焼結体中の鉄系金属の質量比を減らすと、超硬合金の曲げ強度が低下するため、刃先交換型切削チップとして用いたときに必要とされる刃先強度を得ることができない。このように切削性能と寸法精度とはトレードオフの関係になっており、両者を両立する刃先交換型切削チップの登場が待ち望まれている。
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、切削性能に優れ、かつ寸法精度が高い刃先交換型切削チップを提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、超硬合金を構成する各成分の質量比に関して鋭意研究を重ねたところ、WCの質量比およびその平均粒子径、鉄系金属の質量比、ならびにTaCの質量比をある特定の数式を満たした場合に限り、刃先交換型切削チップの切削性能および寸法精度の両立を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の刃先交換型切削チップは、少なくとも基材を含むものであって、該基材は、8.5〜12.5質量%の鉄系金属と、0.55〜2.3質量%のTaCと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなり、超硬合金の組織中のWC粒子は、0.8〜3μmの平均粒子径であり、基材の抗磁力をHC(kA/m)とし、飽和磁束密度を4πσ(10-7Tm3/kg)とし、基材に含まれるCoの質量%をMCo(質量%)とすると、下記式(I)を満たし、かつ超硬合金の組織中にTaを主成分とする相が析出しており、該Taを主成分とする相は、0.4〜2.4μmの平均粒子径であることを特徴とする。
−0.7×4πσ÷MCo−0.9×MCo+39.15≧HC ・・・(I)。
上記基材は、0.2〜0.55質量%のCrを含むことが好ましい。
本発明の刃先交換型切削チップは、基材と、該基材上に形成された被膜とを備え、該被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、または該元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素との化合物からなる1層以上の層を含むことが好ましい。
被膜は、物理蒸着法および/または化学蒸着法により形成されることが好ましい。
被膜は、物理蒸着法により形成されるものであり、かつ超多層構造層または変調構造層を含み、超多層構造層は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される2種以上の単位層が、各々0.2nm以上20nm以下の厚みで周期的に繰り返して積層された構造を有し、変調構造層は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成され、その化合物の組成または組成比が厚み方向において0.2nm以上40nm以下の周期で変化する構造を有することが好ましい。
被膜は、0.1GPa以上の圧縮残留応力が付与されていることが好ましい。本発明の刃先交換型切削チップは、ミリング加工に用いられることが好ましい。本発明は、上記の刃先交換型切削チップを同時に2以上用いて切削加工を行なう切削加工方法でもある。
本発明の刃先交換型切削チップの製造方法は、8.5〜12.5質量%の鉄系金属と、0.55〜2.3質量%のTaCと、残部にWCとを少なくとも混合して原料粉末を作製するステップと、該原料粉末を成型することにより、成型体を作製するステップと、該成型体を1350〜1500℃に保持することにより、焼結体を作製するステップと、該焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で1150℃以上液相固化温度以下の温度まで冷却するステップと、焼結体を1150℃以上液相固化温度以下の温度に10分以上保持するステップと、焼結体を15℃/min以上の冷却速度で冷却するステップとをこの順に含むことを特徴とする。
本発明の刃先交換型切削チップの製造方法は、8.5〜12.5質量%の鉄系金属と、0.55〜2.3質量%のTaCと、残部にWCとを少なくとも混合して原料粉末を作製するステップと、該原料粉末を成型することにより、成型体を作製するステップと、該成型体を1350〜1500℃に保持することにより、焼結体を作製するステップと、該焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で液相固化温度以上1350℃以下の温度まで冷却するステップと、焼結体を液相固化温度以上1350℃以下の温度に10分以上保持するステップと、焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で1150℃以上液相固化温度以下の温度まで冷却するステップと、焼結体を1150℃以上液相固化温度以下の温度に10分以上保持するステップと、焼結体を15℃/min以上の冷却速度で冷却するステップとをこの順に含むことを特徴とする。
本発明の刃先交換型切削チップは、上記のような構成を有することにより、切削性能に優れ、かつ寸法精度が高いという効果を示す。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<刃先交換型切削チップ>
本発明の刃先交換型切削チップは、少なくとも基材を含み、該基材は、8.5〜12.5質量%の鉄系金属と、0.55〜2.3質量%のTaCと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなるものである。上記の超硬合金からなる基材上に形成された被膜とを備えていてもよい。このような基本構成を備える限り、その形状は特に限定されず従来公知のあらゆる形状を有し得る。
このような本発明の刃先交換型切削チップは、たとえばドリル加工用、エンドミル加工用、ミリング加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用等の用途に適用することが可能である。
上記の加工の中でも、同時に複数個の刃先交換型切削チップを用いるミリング加工に適用することが好ましい。なぜなら、本発明の刃先交換型切削チップを用いてミリング加工した場合、被削材の加工面品質(光沢や寸法精度)を良好にするだけでなく、切り屑の排出方向を安定化することができるからである。これにより切削時の切り屑咬み込みによる刃先の欠損を抑止するとともに、切り屑が衝突して被削材の加工面に傷が発生するのを抑制することができる。しかも、切り込みが安定化して切れ刃間の負荷バラツキが小さくなることから、刃先欠損が生じ難くなるというメリットもある。
<基材>
本発明の刃先交換型切削チップの基材は、8.5〜12.5質量%の鉄系金属と、0.55〜2.3質量%のTaCと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなり、該超硬合金の組織中のWC粒子は、0.8〜3μmの平均粒子径であり、基材の抗磁力をHC(kA/m)とし、飽和磁束密度を4πσ(10-7Tm3/kg)とし、基材に含まれるCoの質量%をMCo(質量%)とすると、下記式(I)を満たし、かつ金属組織中にTaを主成分とする相が析出しており、該Taを主成分とする相は、0.4〜2.4μmの平均粒子径であることを特徴とする。
−0.7×4πσ÷MCo−0.9×MCo+39.15≧HC ・・・(I)。
上記の超硬合金の抗磁力HCは、WC粒子の粒度や、組織における鉄系金属の厚みを表すことが知られているが、かかる抗磁力HCが上記式(I)を満たすことにより、焼結体の変形を抑止することができ、もって刃先交換型切削チップの寸法精度を高めることができる。なお、抗磁力HCは、「保磁力」と呼ばれることもあり、飽和磁束密度4πσは、「飽和磁気量」または「残留磁束密度」と呼ばれることもある。
このような基材として用いられる超硬合金は、組織中に遊離炭素やε相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。なお、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
上記の基材に含まれるCoの質量%(MCo)は、9〜12質量%であることが好ましく、より好ましくは9.5〜11.5質量%である。8.5質量%未満であると、刃先強度が不十分となる場合があるため好ましくなく、12.5質量%を超えると、焼結体の寸法精度が劣化するため好ましくない。
また、上記の基材は、0.2〜0.55質量%のCrを含むことが好ましい。基材にCrを添加することにより、超硬合金の抗折力を改善することができる。このようなCrは、基材に対し、0.2〜0.5質量%を含むことがより好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.45質量%である。上記のCrが0.2質量%未満であると、抗折力の改善効果を十分に得ることができず、0.55質量%を超えると、超硬合金が劣化することになるため好ましくない。なお、超硬合金中のCrは、超硬合金を作製するときの焼結時にCr金属粉末を添加することによって導入してもよいし、Cr32、Cr23などの原料粉末を添加することによって導入してもよい。
<WC粒子>
本発明において、基材の超硬合金の組織は、0.8〜3μmの平均粒子径のWC粒子を含む超硬合金であることを特徴とする。このような平均粒子径のWC粒子を含むことにより、超硬合金の耐摩耗性および刃先強度を向上させることができる。上記のWC粒子の平均粒子径は、1〜2μmであることが好ましく、より好ましくは1〜1.8μmである。上記のWC粒子の平均粒子径が0.8μm未満であると、耐摩耗性が低下することになり、3μmを超えると、刃先強度が低下するため好ましくない。
なお、上記のWC粒子の平均粒子径は、CIS019D−2005に記載された方法によって算出した値を採用するものとする。
本発明の基材は、鉄系金属とTaCと不可避不純物以外の残部としてWCを含むことを特徴とする。上記「残部」とは、具体的には84.65〜90.95質量%のWCを含むことになるが、好ましくは86〜90.5質量%のWCを含むことである。このような質量比でWCを含むことにより、刃先強度および耐摩耗性を向上させることができる。WCが90.95質量%を超えると、刃先強度が低下し、84.65質量%未満であると、耐摩耗性が低下するため好ましくない。
<Taを主成分とする相>
本発明において、基材は、0.55〜2.3質量%のTaCを含む超硬合金であることを特徴とする。TaCが0.55質量%未満であると、耐摩耗性が不足するため好ましくなく、2.3質量%を超えると、焼結時に焼結体が変形しやすくなることにより寸法精度が低下するため好ましくない。このようにTaCの質量比が多いときに寸法精度が低下する原因は必ずしも明確ではないが、おそらくTaCの熱伝導率がWCの熱伝導率よりも低いことに起因して、冷却時に焼結体の熱分布がバラつくことが一因と推測される。上記のTaCは、超硬合金の組織中にTaC相またはTaを主成分とする相として存在する。
なお、超硬合金中のTaCは、超硬合金を作製するときの焼結時にTa金属粉末を添加することによって導入してもよいし、TaC、TaN、Ta25などの原料粉末を添加することによって導入してもよい。上記のTa金属粉末を混入する場合は、Ta金属粉末と炭素とが反応してTaC相またはTaを主成分とする相となる。
本発明において、超硬合金の組織中にTaを主成分とする相が析出しており、該Taを主成分とする相は、0.4〜2.4μmの平均粒子径であることを特徴とする。このように超硬合金の組織中にTaを主成分とする相が析出していることにより、耐摩耗性を向上させることができる。Taを主成分とする相が超硬合金の組織中に単独相として析出していない場合、特に鋼の高速切削やダイス鋼の切削において、耐摩耗性の劣化が顕著となるため好ましくない。ここで、上記の「超硬合金の組織」とは、超硬合金中の硬質相(WC)および結合相(鉄系金属、Co等)の他に、第3成分(TaC、NbC、TiC、ZrC、ZrCN、TiCN等の1種以上の化合物または該化合物とWCとの固溶体)を含むものを意味する。また、「Taを主成分とする相」は、超硬合金の組織中のTaが、超硬合金の合計体積に対し、原子比で0.5を超えて含む領域をいい、(Ta1-xxz(C1-y、Ny1-z、0≦x≦0.5、0≦y≦1、0<z<1として表される化合物、またはTaC、TaN、TaCN等の複合炭化物または複合炭窒化物の形をとる場合が一般的である。なお、「超硬合金の組織中にTaを主成分とする相が析出する」という状態は、金属顕微鏡または電子顕微鏡を用いて観察することによって確認することができる。
上記のTaを主成分とする相の平均粒子径は、0.5〜2.0μmであることが好ましく、より好ましくは、0.6〜1.6μmである。Taを主成分とする相の平均粒子径が0.4μm未満であると、耐摩耗性の向上効果を十分に得ることができず、2.4μmを超えると、寸法精度が悪くなるため好ましくない。かかるTaを主成分とする相の平均粒子径は、上記のWC粒子の平均粒子径と同様の算出方法により算出することができる。
<鉄系金属>
本発明において、基材を構成する超硬合金は、8.5〜12.5質量%の鉄系金属を含むことを特徴とする。このような鉄系金属は、超硬合金中において、強度を維持する役割を示すものである。鉄系金属は、9〜12質量%であることが好ましく、より好ましくは9.5〜11.5質量%である。鉄系金属の質量比が8.5質量%未満であると、十分な刃先強度を得ることができなくなるため好ましくなく、12.5質量%を超えると、必要な刃先精度および/または耐摩耗性を得ることができなくなるため好ましくない。上記の鉄系金属としては、Co、Ni、Fe等を挙げることができる。なお、本発明の超硬合金は、Ti、Nb、Mo、またはZrの1以上の組成を1.0質量%程度含有しても、本発明の効果は失われない。
<基材の製造方法>
本発明において、刃先交換型切削チップを構成する基材の製造方法は、8.5〜12.5質量%の鉄系金属と、0.55〜2.3質量%のTaCと、残部にWCとを少なくとも混合して原料粉末を作製するステップと、該原料粉末を成型することにより、成型体を作製するステップと、該成型体を1350〜1500℃に保持することにより、焼結体を作製するステップと、該焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で1150℃以上液相固化温度以下の温度まで冷却するステップと、焼結体を1150℃以上液相固化温度以下の温度に10分以上保持するステップと、焼結体を15℃/min以上の冷却速度で冷却するステップとをこの順に含むことを特徴とする。
上記の製造方法以外の刃先交換型切削チップの製造方法としては、上記の焼結体を作製するステップまでは上記と同様として、その後に、該焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で液相固化温度以上1350℃以下の温度まで冷却するステップと、焼結体を液相固化温度以上1350℃以下の温度に10分以上保持するステップと、焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で1150℃以上液相固化温度以下の温度まで冷却するステップと、焼結体を1150℃以上液相固化温度以下の温度に10分以上保持するステップと、焼結体を15℃/min以上の冷却速度で冷却するステップとをこの順に含むものであってもよい。このような製造方法で基材を製造することにより、焼結体の変形を抑止することができる。
本発明に用いる基材を作製する方法としては、粉末冶金プロセスを用いることが好ましい。このようなプロセスを用いて基材を作製することにより、切削性能および寸法精度を両立した刃先交換型切削チップを作製しやすいからである。
上記の原料粉末を成型するステップにおいては、従来公知のいかなる方法をも用いることができ、たとえばプレス法、射出成形法、押し出し法、CIP法等を挙げることができる。
<焼結体を冷却するステップ>
従来は、液相が固化する温度以下では焼結体の寸法は変化しないと考えられていたが、本発明者は、超硬合金の液相固化温度以下でも、焼結体の寸法に大きな影響を与えることを見い出した。かかる温度で焼結体の寸法が変化することの原因は定かではないが、おそらく液相が固化する温度以下に冷却した直後の鉄系金属は、その硬度が低いことに起因して、結合相中で移動することによるものと推察される。
このような推察に基づくと、成型体の焼結を終えた直後の冷却条件が寸法精度を高めるポイントになると考えられた。このため、本発明は、従来技術では着目していなかった焼結直後の冷却条件を鋭意研究することで完成したものである。上述のような冷却条件で、焼結直後の冷却を行なうことにより、所望の合金組織、切削性能、および変形抑止を達成することができる。上記の液相固化温度は、合金に含まれる炭素量やCo量、焼結条件等によって変化するが、特に合金に含まれる炭素量の影響が大きく、たとえば書籍「超硬合金と焼結硬質材料(丸善)」のP97には、低炭素合金の液相固化温度が1298℃と示されており、高炭素合金の液相固化温度が1357℃と示されている。
上記のように液相固化温度は、合金中に含まれる炭素量によって異なるため一律に規定することは困難であるが、液相固化温度が多少上下したとしても、焼結直後の焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で1150℃以上液相固化温度以下の温度まで冷却するステップと、焼結体を1150℃以上液相固化温度以下の温度に10分以上保持するステップとを含むことが必須である。このような冷却条件を満たすことにより、上述の式(I)を満たす性質を示す超硬合金を作製することができ、もって基材の切削性能に優れ、かつ寸法精度を高めることができる。
上記の冷却速度が10℃/minを超えると、結晶粒が微細化して、目的とする合金組織が得ることができないため好ましくなく、0.5℃/min未満であると、焼結時間が長くなるため工業的に不利であるとともに、結晶粒の成長が激しくなり、WC粒径およびTaC粒径が粗大化して目的とする合金組織を得ることができない可能性がある。
また、上記の「1150℃以上液相固化温度以下の温度」に関し、液相固化温度を敢えて特定すると、1150〜1320℃であることが好ましく、より好ましくは1200〜1310℃である。また、「液相固化温度以上1350℃以下の温度」に関しても同様に温度を特定すると、1310〜1350℃であることが好ましく、より好ましくは1320〜1350℃である。
そして、上記の1150℃以上液相固化温度以下の温度に保持するステップの後は、15℃/minよりも速い速度で少なくとも1000℃まで冷却する必要がある。1000℃まで冷却するときの冷却速度は、50℃/min以上の冷却速度であることが好ましく、より好ましくは100℃/min以上の冷却速度である。冷却速度が15℃/min未満であると、WC粒子の粗大化が起こるとともに、TaC集合体等の異常相が発生する場合があるため好ましくない。
<被膜>
本発明の刃先交換型切削チップは、上記の基材上に被膜を形成することが好ましい。かかる被膜は、基材の全面を覆うようにして形成されていても良いし、基材の一部分のみを覆うようにして形成されていても良いが、その形成目的が切削工具の諸特性の向上(すなわち切削性能の向上)にあることから、基材の全面を覆うかもしくは一部分を覆う場合であっても切削性能の向上に寄与する部位の少なくとも一部分を覆うことが好ましい。
このように被膜によって基材を覆うことにより、刃先交換型切削チップの耐摩耗性、耐酸化性、靭性、および使用済み刃先部の識別のための色付き性等の諸特性を向上させる作用を付与するものであり、その組成は特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。
このような被膜の各層は、周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素によって構成されるか、または該元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることが好ましい。
上記のような元素または化合物としては、たとえばTiCN、TiN、TiCNO、TiO2、TiNO、TiB2、TiBN、TiSiN、TiSiCN、TiAlN、TiAlCrN、TiAlSiN、TiAlSiCrN、AlCrN、AlCrCN、AlCrVN、TiAlBN、TiBCN、TiAlBCN、TiSiBCN、AlN、AlCN、Al23、ZrN、ZrCN、ZrN、ZrO2、HfC、HfN、HfCN、NbC、NbCN、NbN、Mo2C、WC、W2C、Cr、Al、Ti、Si、V等である。また、上記の元素または化合物に対し、他の元素が微量にドープされたものであってもよい。これらの組成中、各原子比は上記一般式に倣うものとする。なお、本発明において上記のように化合物を化学式で表わす場合、原子比を特に限定しない場合は従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば単に「TiCN」と記す場合、「Ti」と「C」と「N」の原子比は50:25:25の場合のみに限られず、また「TiN」と記す場合も「Ti」と「N」の原子比は50:50の場合のみに限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする。また、TiCNには、公知のCVD法を用いたMT−TiCNも含まれる。
そして、このような被膜は、少なくともその1層が圧縮残留応力を有していることが特に好ましい。これにより、被膜の靭性が飛躍的に向上し切削加工時に発生する亀裂の伝播を効果的に防止することが可能になるという極めて優れた効果が示される。このように被膜の少なくとも1層が圧縮残留応力を有し、かつ被膜が後述する超多層構造層または変調構造層を含むことによりこれらが相乗的に作用し極めて高度に耐摩耗性と靭性とを両立させることができる。
本発明の被膜は、従来公知の物理蒸着法、化学蒸着法、真空蒸着法、スパッタ法、プラズマCVD法等によって形成することができるが、化学蒸着法または物理蒸着法により形成されることがより好ましく、圧縮残留応力を導入しやすく、かつ切削性能を改善することができるという点で、物理蒸着法がさらに好ましい。
このような物理蒸着法としては、従来公知の物理蒸着法をいずれも採用することができ特に限定されることはない。このような物理蒸着法としては、たとえばマグネトロンスパッタリング法、アーク式イオンプレーティング法、ホロカソード法、イオンビーム法、電子ビーム法、バランストマグネトロンスパッタリング法、アンバランストマグネトロンスパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法等を挙げることができる。
上記に例示した方法の中でも、特にアーク式イオンプレーティング法を採用することが好ましい。被膜に対して極めて有効に圧縮残留応力を付与することができるからである。なお、物理蒸着法を実行する装置としては、上記のような方法に用いられる各イオン源を併設したものを採用することが好ましい。なお、被膜を形成した後に、ブラシ、バレル、ブラスト、ダイヤモンド砥石、レーザ加工等によって被膜の一部を除去したり、被膜の表面に対し、平滑化加工等の表面処理を施しても本発明の効果は失われない。また、被膜に対し、乾式ショットブラスト処理、湿式ショットブラスト処理、ブラシ処理、バレル処理、レーザー加工等の表面処理方法を用いて被膜に圧縮残留応力を付与してもよい。
ここで、圧縮残留応力とは、このような被膜に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「−」(マイナス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、また、圧縮残留応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す。因みに、引張残留応力とは、被膜に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「+」(プラス)の数値で表される応力をいう。なお、単に残留応力という場合は、圧縮残留応力と引張残留応力との両者を含むものとする。
そして、このような圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、上記のような優れた効果を得ることができない場合がある。一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が6GPaを超えると該層自体が破壊したり剥離したりすることがあり好ましくない。
なお、このような圧縮残留応力(残留応力)は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。そしてこのような圧縮残留応力は化学蒸着層中の圧縮残留応力が付与される層に含まれる任意の点(1点、好ましくは2点、より好ましくは3〜5点、さらに好ましくは10点(複数点で測定する場合の各点は当該層の応力を代表できるように互いに0.1mm以上の距離を離して選択することが好ましい))の応力を該sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
このようなX線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられているものであり、たとえば「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜67頁に詳細に説明されている方法を用いれば良い。
また、上記圧縮残留応力は、ラマン分光法を用いた方法を利用することにより測定することも可能である。このようなラマン分光法は、狭い範囲、たとえばスポット径1μmといった局所的な測定ができるというメリットを有している。このようなラマン分光法を用いた残留応力の測定は、一般的なものであるがたとえば「薄膜の力学的特性評価技術」(サイぺック(現在リアライズ理工センターに社名変更)、1992年発行)の264〜271頁に記載の方法を採用することができる。
さらに、上記圧縮残留応力は、放射光を用いて測定することもできる。この場合、被膜の厚み方向で残留応力の分布を求めることができるというメリットがある。
なお、本発明の被膜の厚み(2層以上で形成される場合はその全体の厚み)は、1μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは2μm以上20μm以下である。その厚みが1μm未満の場合、耐摩耗性の向上作用が十分に示されないためであり、一方、30μmを超えてもそれ以上の諸特性の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは30μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば表面被覆切削工具を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)または透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により測定するものとする。また、被覆膜の組成は、エネルギー分散型X線分析装置(EDS:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により測定するものとする。
そして、本発明の被膜は、超多層構造層または変調構造層を含むことが好ましい。以下、これらについて説明する。
<超多層構造層>
本発明の超多層構造層は、周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される2種以上の単位層が、各々0.2nm以上20nm以下の厚みで周期的に繰り返して積層された構造を有する。
ここで、周期的に繰り返して積層させるとは、たとえば2種の単位層を上下交互に積層させる場合や、3種の単位層を上中下と繰り返して積層させる場合など、一定の周期性をもって積層させることをいう。なお、各単位層の厚みが0.2nm未満となる場合や20nmを超える場合には、超多層構造層による耐摩耗性の向上効果が示されない場合がある。各単位層の厚みは、それを構成する組成や成膜条件により適宜調整することができる。なお、各単位層は、実質的に同じ厚みを有していても良いし、異なる厚みを有していても良い。
このような単位層を構成する周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物としては、たとえばTiC、TiN、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB2、TiO2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、TiAlCrN、TiZrN、TiCrN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、Al23、AlN、AlCN、ZrN、TiAlC、NbC、NbN、NbCN、Mo2C、WC、W2C等を挙げることができる。
なお、超多層構造層を構成する単位層の積層数(合計積層数)は、特に限定されるものではないが通常10層以上5000層以下とすることが好ましい。10層未満の場合は、各単位層における結晶粒が粗大化することから被膜の硬度が低下する場合があり、5000層を超えると各単位層が薄くなり過ぎ各層が混合する傾向を示すためである。
このような超多層構造層は、従来公知の物理蒸着法により形成されその製造方法は特に限定されない。以下、物理蒸着法としてアークイオンプレーティング法を採用する場合を例示する。
まず、アークイオンプレーティング成膜装置において、形成する単位層の種類に対応する複数の蒸発源にターゲットをセットする。そして、該装置のチャンバー内の基材ホルダーに基材をセットし、この基材ホルダーを上記蒸発源に対向するように回転させながら該蒸発源のターゲットを蒸発、イオン化させることにより超多層構造層を形成する。より具体的な条件の一例は以下の通りである。
すなわち、チャンバー内に設置されているヒーターにより基材を加熱する。その後、アルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を1〜10Paに維持しつつ、基材にバイアス電圧を印加することにより、アルゴンイオンによる基材表面のクリーニング処理を1〜120分間行なう。
続いて、チャンバー内のアルゴンガスを排出した後、反応ガスを導入し、チャンバー内の圧力を2〜10Paに維持しつつ、基材をセットした基材ホルダーを回転させながら基材にバイアス電圧(−20〜−200V)を印加することにより、蒸発源にセットしたターゲットをイオン化させ単位層を逐次周期的に積層することにより超多層構造層を形成することができる。
<変調構造層>
本発明の変調構造層は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成され、その化合物の組成または組成比が厚み方向において0.2nm以上40nm以下の周期で変化する構造を有する。このように被膜として変調構造層を形成することにより、上記の超多層構造層の形成と相俟って、極めて優れた耐摩耗性を付与することができる。
ここで、化合物の組成または組成比が厚み方向において0.2nm以上40nm以下の周期で変化するとは、たとえば構成元素が同一でその組成比が異なるA、B2種の状態を例にとると、変調構造層の基材側から表面側への厚み方向において、まず地点Xで状態Aであったものが、徐々に変化して地点Yで状態Bとなり、再度徐々に変化して地点Zにおいて状態Aとなる場合、地点XとZの距離が周期(0.2nm以上40nm以下)となり(この場合地点Yは地点XとZとのほぼ中点に位置する)、かつこのような状態A−B−Aの変化が同様の周期で繰り返されることをいう。なお、上記周期が0.2nm未満となる場合や40nmを超える場合には、変調構造層による耐摩耗性の向上効果が示されない場合がある。上記周期のより好ましい範囲は、その上限が35nm以下、さらに好ましくは30nm以下であり、その下限が0.5nm以上、さらに好ましくは1nm以上である。
このような変調構造層を構成する周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物としては、上記超多層構造層において例示した化合物と同様の化合物を挙げることができる。
なお、このような変調構造層は、上記で説明した超多層構造層の製造方法と同様の製造方法により形成することができ、特に組成比が厚み方向において変化する構造の変調構造層の場合は、組成比の異なるターゲットを蒸発源にセットし、基材ホルダーの回転数等を制御することにより形成することができる。
また、組成が厚み方向において変化する場合は、この変調構造層と上記超多層構造層との間で明確な差異が存在しない場合があるが、そのような差異を明確に区別する必要はなくいずれのものも本発明の範囲を逸脱するものではない。
<寸法精度の評価>
刃先交換型切削チップの寸法精度を検証するための方法としては、たとえば刃先交換型切削チップ単体を汎用のマイクロメーター等の計測器で寸法を測定してもよいし、レーザーを用いた非接触法によって形状を測定してもよい。また、刃先交換型切削チップを複数個(たとえば100個)準備して、チップ保持具(たとえば旋削用途の場合はバイト、ミリング用途の場合はカッター)に取り付けて刃先位置を測定した後、刃先交換型切削チップを取り外して刃先の位置を複数回測定して刃先位置のバラツキを検証してもよいし、複数のチップを同時に用いるカッターに複数の刃先交換型切削チップを取り付けて刃振れ精度を測定することを繰り返して刃振れ精度を用いてもよいし、他のあらゆる方法を用いてもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
本実施例では、以下のようにして刃先交換型切削チップNo.101を作製した。基材の質量比が86.74質量%のWCと、2質量%のTaCと、0.26質量%のCrと、11質量%のCoとなるように、平均粒子径1.3μmのWC粒子と、TaC粉末と、Cr32粉末と、Co粉末とを配合した。そして、エタノール溶媒にてアトライターで7時間粉砕混合した後に、造粒乾燥することにより、造粒粉末を準備した。なお、配合時の炭素添加量を変化させた2種の造粒粉末(高炭素量および低炭素量)を準備した。そして、刃先交換型切削チップNo.101では低炭素量のものを用い、刃先交換型切削チップNo.102では高炭素量のものを用いた。
次に、得られた造粒粉末をプレス成形し、2kPaのアルゴン雰囲気において1380℃で1時間保持した。その後、−2.5℃/minの速度で1280℃まで冷却して、1280℃で30分間保持し、最後に炉内にArガスを導入して−100℃/minの速度で少なくとも1000℃まで冷却を行なった。
そして、刃先稜線に対し、SiCブラシホーニング処理を行なうことにより、すくい面と逃げ面との交差部に対し、半径が約0.05mmのアール(R)を付与する刃先処理を行なった。そして、刃先交換型切削チップの底面に対し、平坦研磨処理を行なった。以上のようにして、SEMT13T3AGSN−G(住友電気工業株式会社製)形状の刃先交換型切削チップNo.101の基材を作製した。
このようにして作製した基材に対し、公知のイオンプレ−ティング法を用いて3μmの超多層構造層と、0.5μmのTiSiCN層とを有する被膜を成膜することにより、刃先交換型切削チップNo.101を作製した。上記の超多層構造層は、8nmの厚みのAlTiSiN層と、6nmの厚みのTiSiN層とを交互に積層することにより形成した。このようにして成膜した被膜の圧縮残留応力をX線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定したところ、圧縮応力の絶対値が0.1GPa以上であることを確認した。作製した刃先交換型切削チップの寸法精度を評価するために、敢えて刃先交換型切削チップの側面は研磨しなかった。
上記の刃先交換型切削チップNo.101に対し、炭素配合量を増加させたことが異なる他は、刃先交換型切削チップNo.101と同様の方法によって、刃先交換型切削チップNo.102を作製した。なお、超硬合金においては一般に、炭素配合量を増加させることにより、飽和磁束密度4πσは増加する傾向にあり、抗磁力HCは減少する傾向にある。
また、上記の刃先交換型切削チップNo.101に対し、以下のように焼結条件を変えたことが異なる他は、刃先交換型切削チップNo.101と同様の方法によって、刃先交換型切削チップNo.103を作製した。すなわち、刃先交換型切削チップNo.103では、プレス成形した後に、2kPaのアルゴン雰囲気において1380℃で1時間保持し、その後、−2.5℃/minの速度で1330℃まで冷却して、1330℃で30分間保持し、さらに−2.5℃/minの速度で1280℃まで冷却して、1280℃で30分間保持し、最後に炉内にArガスを導入して−100゜C/minの速度で少なくとも1000℃まで冷却を行なった。
上記の刃先交換型切削チップNo.103に対し、炭素配合量を増加させたことが異なる他は、刃先交換型切削チップNo.103と同様の方法によって、刃先交換型切削チップNo.104を作製した。
また、上記の刃先交換型切削チップNo.101に対し、以下のように焼結条件を変えたことが異なる他は、刃先交換型切削チップNo.101と同様の方法によって、刃先交換型切削チップNo.105を作製した。すなわち、刃先交換型切削チップNo.105は、プレス成形した後に、2kPaのアルゴン雰囲気において1380℃で1時間保持した。その後、炉内にArガスを導入して−100゜C/minの速度で少なくとも1000℃まで冷却を行なった。
上記の刃先交換型切削チップNo.105に対し、炭素配合量を増加させたことが異なる他は、刃先交換型切削チップNo.105と同様の方法によって、刃先交換型切削チップNo.106を作製した。
上記のようにして作製した刃先交換型切削チップNo.101〜106を切断し、その切断面を鏡面研磨した後に、村上試薬でその表面をエッチングした。そのエッチング面をFE−SEMにて1500倍の倍率において、30枚の写真を撮影した。該写真によると、金属組織中には全てTaを主成分とする単独相が存在していることが確認された。また、CIS019D−2005によりWC粒子およびTaを主成分とする相の平均粒子径を測定した。その結果を表1の「平均粒子径」の「WC」および「Ta相」の欄に示す。なお、WC粒子は、1.3μmの平均粒子径のものを原料として用いているが、その平均粒子径は粉砕によって減少したり、焼結によって粒成長したりして表1の「WC」に示す平均粒子径となる。
Figure 0005651053
また、上記のようにして作製した基材の飽和磁束密度(10-7Tm3/kg)を測定し、その結果を表1の「4πσ」の欄に示した。このようにして得られた各値を以下の式(I)に代入することにより、基材の抗磁力の上限(HC上限)を算出した。一方、基材の抗磁力を表1の「HC」の欄に示した。
−0.7×4πσ÷MCo−0.9×MCo+39.15≧HC ・・・(I)。
表1に示される評価結果から明らかなように、刃先交換型切削チップNo.101〜104は、基材の超硬合金の抗磁力が式(I)によって算出されるHC上限を下回るものであった。これに対し、刃先交換型切削チップNo.105および106は、基材の超硬合金の抗磁力が式(I)によって算出されるHC上限を上回るものであった。
(性能評価)
実施例1の刃先交換型切削チップNo.101〜106について次に示す寸法精度評価および切削性能評価を行なった。寸法精度の評価は、複数の刃先交換型切削チップをカッター(刃先交換型切削チップの保持具)に取り付けて刃振れを評価することにより行なった。その評価結果を以下の表2に示す。
Figure 0005651053
(1)寸法精度評価
上記で作製した刃先交換型切削チップNo.101〜106を用いて寸法精度評価を行なった。まず、刃先交換型切削チップNo.101〜106をそれぞれ50個ずつ作製し、そのうちから7個の刃先交換型切削チップを選択して、それらを全て7つのポケットを有する型番WGC4160R(住友電気工業株式会社製)のカッターに取り付けた。該カッターに刃先交換型切削チップを取り付けるポケットをNo.1〜No.7まで定めておき、No.1のポケットに取り付けた刃先交換型切削チップの位置(刃先の高さ)を基準として、No.2〜No.7のポケットに取り付けた刃先交換型切削チップの位置との高低差を刃振れ幅とし、その最大値および平均値を算出した。
上記と同様の方法によって刃先交換型切削チップの刃振れ幅の最大値および平均値を10回測定し、その高低差の最大値を表2の「寸法精度評価」の「最大」の欄に示し、高低差の平均値を表2の「平均」の欄に示した。なお、刃振れ幅が小さいほど、刃先交換型切削チップの寸法精度が高いことを示し、寸法精度が高いことにより、表面面粗度が低くなり、被削材の面光沢も優れることになる。
ちなみに、寸法精度が極めて高い検査用のマスターチップを用いて、カッターの7つのポケットのそれぞれに取り付けて、刃先交換型切削チップの位置を測定し、その後に取り外すという動作を7回繰り返した。この7回の測定によって算出された刃振れ幅は2μm以下であった。このことから、カッターのポケット間の刃振れの影響は2μm以下とみなすことができる。
次に、寸法精度が極めて高い検査用のマスターチップ7個を用いて、それぞれを寸法精度評価に用いるカッターの7つのポケットに取り付けて刃先交換型切削チップの位置および刃振れ幅を算出したところ、刃振れ幅が4μm以下であった。このことから、カッターのポケットのそれぞれにほぼ同一の寸法の刃先交換型切削チップを取り付けたときに、刃先交換型切削チップの刃振れの影響は4μm以下とみなすことができる。
(2)切削性能評価(耐摩耗性試験:鋼の高速フライス加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの1つを型番WGC4160R(住友電気工業株式会社製)のカッターにセットし、これを用いて鋼の高速フライス試験を行なった。本性能評価は、7つの刃先交換型切削チップではなく、1つの刃先交換型切削チップのみをカッターに取り付けるという点で、上記の寸法精度評価とは異なる。高速フライス切削の条件は、被削材として、SCM435ブロック材(300mm×100mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=310m/min、送り=0.28mm/刃、切込み量=1.5mm、センターカット、切削油なしで12分間切削加工を行なった。このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(V)を測定した。その結果を表2の「耐摩耗性試験」の「鋼」の欄に示す。なお、摩耗幅が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
(3)切削性能評価(耐摩耗性試験:ダイス鋼のフライス加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの1つを型番WGC4160R(住友電気工業株式会社製)のカッターにセットし、これを用いてダイス鋼のフライス試験を行なった。本性能評価も、上記の鋼の高速フライス加工と同様に、1つの刃先交換型切削チップのみをカッターに取り付けて行なった。フライス切削の条件は、被削材として、SKD11生材 ブロック材(300mm×100mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=170m/min、送り=0.31mm/刃、切込み量ap=3.0mm、ae=30mm、センターカット、水溶性油で5分間切削加工を行なった。このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(V)を測定した。その結果を表2の「耐摩耗性試験」の「ダイス」の欄に示す。なお、摩耗幅が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
(4)切削性能評価(靭性試験:鋼の断続切削加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの7つを型番WGC4160R(住友電気工業株式会社製)のカッターの7つのポケットにそれぞれセットし、これを用いて鋼の断続切削加工を行なった。本性能評価は、上記の7つの刃先交換型切削チップの刃振れが、該刃振れの平均値の±3μm以下となる条件で行なった。鋼の断続切削加工の条件は、被削材として、S50C φ10穴空き材ブロック材(300mm×100mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=180m/min、送り=0.45mm/刃、切込み量2.0mm、センターカット、切削油なしで、2分間切削加工を行なった。この条件で断続切削加工を4回行ない、全28の刃先交換型切削チップのうちの破損が生じた刃先交換型切削チップの割合を破損率(%)として算出した。その結果を表2の「破損率(%)」の欄に示す。破損率が低いほど、刃先強度が優れていることを示している。
(5)切削性能評価(被削材加工面試験)
上記で作製した刃先交換型切削チップの7つを型番WGC4160R(住友電気工業株式会社製)のカッターの7つのポケットにそれぞれセットし、これを用いて炭素鋼の切削加工を行なった。本性能評価は、上記の7つの刃先交換型切削チップの刃振れが、該刃振れの平均値の±3μm以下となる条件で行なった。炭素鋼の切削加工の条件は、被削材として、S15Cブロック材(300mm×100mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=175m/min、送り=0.3mm/刃、切込み量1.5mm、センターカット、切削油なしで1パス行なった。このようにして切削加工した被削材の加工面の表面粗度(Ra)をJIS B 0601−1994規定の方法で測定し、その結果を表2の「表面粗度Ra」の欄に示した。表面粗度の値が小さいほど加工面が滑らかであり、寸法精度が優れていることを示している。また、このようにして加工した被削材の加工面の目視評価を行ない、その結果を表2の「加工面光沢」の欄に示した。
表2に示す結果から明らかなように、刃先交換型切削チップNo.101〜104は、刃先交換型切削チップNo.105〜106に比して、寸法精度および切削性能が著しく向上している。これは、刃先交換型切削チップNo.101〜104が式(I)の条件を満たすものであるのに対し、刃先交換型切削チップNo.105および106が式(I)の条件を満たさないものであることによるものと考えられる。
<実施例2>
本実施例では、以下のようにして刃先交換型切削チップNo.201を作製した。組成比が89.27質量%のWCと、2質量%のTaCと、0.23質量%のCrと、8.5質量%のCoとなるように、平均粒子径1.5μmのWC粒子と、TaC粉末と、Cr32粉末と、Co粉末とを配合した。そして、エタノール溶媒にてアトライターで7時間粉砕混合した後に、造粒乾燥することにより、造粒粉末を準備した。なお、配合時の炭素添加量を変化させた2種の造粒粉末(高炭素量および低炭素量)を準備した。
次に、得られた造粒粉末をプレス成形した後に、2kPaのアルゴン雰囲気において1380℃で1時間保持し、その後、−2.5℃/minの速度で1330℃まで冷却して、1330℃で30分間保持し、さらに−2.5℃/minの速度で1280℃まで冷却して、1280℃で30分間保持し、最後に炉内にArガスを導入して−100゜C/minの速度で少なくとも1000℃まで冷却を行なった。そして、刃先稜線に対し、SiCブラシホーニング処理を行なうことにより、すくい面と逃げ面との交差部に対し、半径が約0.05mmのアール(R)を付与する刃先処理を行なったとともに、チップ底面に対し、平坦研磨処理を行なった。以上のようにして、SOMT120408PDER−G(住友電気工業株式会社製)形状の刃先交換型切削チップの基材を作製した。かかる基材上に、実施例1と同様の方法によって被膜を形成した。
上記の刃先交換型切削チップNo.201に対し、以下の表3に示すように、TaC、Cr、Co、およびWCの質量比を変えたことが異なる他は、刃先交換型切削チップNo.201と同様の方法によって、刃先交換型切削チップNo.203、205、207、209〜217を作製した。
また、上記の刃先交換型切削チップNo.201、203、205、207に対し、炭素配合量を増加したことが異なる他は、刃先交換型切削チップNo.201、203、205、207と同様の方法によって、刃先交換型切削チップNo.202、204、206、208を作製した。
上記のようにして作製した刃先交換型切削チップNo.201〜217の超硬合金を加圧成型したときの加圧方向に平行な面で切断し、その切断面を♯250の砥石で鏡面研磨した後に、村上試薬でその表面をエッチングした。そのエッチング面をFE−SEMにて1500倍の倍率で30枚の写真を撮影した。該写真によると、金属組織中には全てTaを主成分とする単独相が存在していることが確認された。また、同写真を用いてCIS019D−2005に記載された方法によりWC粒子およびTaを主成分とする相の平均粒子径を測定した。その結果を表3の「平均粒子径」の「WC」および「Ta相」の欄に示す。
上記のようにして作製した基材の飽和磁束密度(10-7Tm3/kg)を測定し、その結果を表3の「4πσ」の欄に示した。このようにして得られた各値を以下の式(I)に代入することにより、基材の抗磁力の上限(HC上限)を算出した。一方、基材の抗磁力を測定し、これを表3の「HC」の欄に示した。
−0.7×4πσ÷MCo−0.9×MCo+39.15≧HC ・・・(I)。
Figure 0005651053
表3に示される評価結果から明らかなように、刃先交換型切削チップNo.201〜215、217は、基材の超硬合金の抗磁力が式(I)によって算出されるHC上限を下回るものであった。これに対し、刃先交換型切削チップNo.216は、基材の超硬合金の抗磁力が式(I)によって算出されるHC上限を上回るものであった。
(性能評価)
上記のようにして作製した実施例2の刃先交換型切削チップNo.201〜No.217について次に示す寸法精度評価および切削性能評価を行なった。その評価の結果を以下の表4に示す。
Figure 0005651053
(1)寸法精度評価
上記で作製した刃先交換型切削チップを用いて寸法精度評価を行なった。まず、50個の刃先交換型切削チップを作製し、そのうちから5個の刃先交換型切削チップを選択して、それらを全て5つのポケットを有する型番WFX12100R(住友電気工業株式会社製)のカッターに取り付けた。該カッターに刃先交換型切削チップを取り付けるポケットをNo.1〜No.5まで定めておき、No.1のポケットに取り付けた刃先交換型切削チップの位置(刃先の高さ)を基準として、No.2〜No.5のポケットに取り付けた刃先交換型切削チップの位置との高低差を刃振れ幅とし、その最大値および平均値を算出した。上記と同様の方法によって刃先交換型切削チップの刃振れ幅の最大値および平均値を10回測定し、その高低差の最大値を表4の「最大」の欄に示し、高低差の平均値を表4の「平均」の欄に示した。
ちなみに、寸法精度が極めて高い検査用のマスターチップを用いて、カッターの7つのポケットのそれぞれに取り付けて、刃先交換型切削チップの位置を測定し、その後に取り外すという動作を7回繰り返した。この7回の測定によって算出された刃振れ幅は2μm以下であった。このことから、カッターのポケット間の刃振れの影響は2μm以下とみなすことができる。
次に、寸法精度が極めて高い検査用のマスターチップ7個を用いて、それぞれを寸法精度評価に用いるカッターの7つのポケットに取り付けて刃先交換型切削チップの位置および刃振れ幅を算出したところ、刃振れ幅が4μm以下であった。このことから、カッターのポケットのそれぞれにほぼ同一の寸法の刃先交換型切削チップを取り付けたときに、刃先交換型切削チップの刃振れの影響は4μm以下とみなすことができる。
(2)切削性能評価(耐摩耗性試験:鋼の高速フライス加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの1つを型番WFX12100R(住友電気工業株式会社製)のカッターにセットし、これを用いて鋼の高速フライス試験を行なった。本性能評価は、5つの刃先交換型切削チップではなく、1つの刃先交換型切削チップのみをカッターに取り付けるという点で、上記の寸法精度評価とは異なる。高速フライス切削の条件は、被削材として、SCM440ブロック材(300mm×200mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=220m/min、送り=0.15mm/刃、切込み量ap=5.0mm、ae=30mm、切削油なしで10分間切削加工を行なった。
このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(V)を測定し、その結果を表4の「耐摩耗性試験」の「鋼」の欄に示す。なお、摩耗幅が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
(3)切削性能評価(耐摩耗性試験:ダイス鋼のフライス加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの1つを型番WFX12100R(住友電気工業株式会社製)のカッターにセットし、これを用いてダイス鋼のフライス試験を行なった。本性能評価も、上記の鋼の高速フライス加工と同様に、1つの刃先交換型切削チップのみをカッターに取り付けて行なった。フライス切削の条件は、被削材として、SKD11生材 ブロック材(300mm×200mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=160m/min、送り=0.15mm/刃、切込み量ap=5.0mm、ae=30mm、切削油なしで10分間切削加工を行なった。このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(V)を測定した。その結果を表4の「耐摩耗性試験」の「ダイス」の欄に示す。なお、摩耗幅が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
(4)切削性能評価(靭性試験:鋼の断続切削加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの5つを型番WFX12100R(住友電気工業株式会社製)のカッターの5つのポケットにそれぞれセットし、これを用いて鋼の断続切削加工を行なった。本性能評価は、上記の5つの刃先交換型切削チップの刃振れが、該刃振れの平均値の±3μm以下となる条件で行なった。鋼の断続切削加工の条件は、被削材として、S50C φ10穴空き材ブロック材(300mm×200mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=200m/min、送り=0.40mm/刃、切込み量ap=5.0mm、ae=50mm、切削油なしで、2分間切削加工を行なった。この条件で断続切削加工を4回行ない、全20の刃先交換型切削チップのうちの破損が生じた刃先交換型切削チップの割合を破損率(%)として算出した。その結果を表4の「破損率(%)」の欄に示す。破損率が低いほど、刃先強度が優れていることを示している。
(5)切削性能評価(被削材加工面試験)
上記で作製した刃先交換型切削チップの5つを型番WFX12100R(住友電気工業株式会社製)のカッターの5つのポケットにそれぞれセットし、これを用いてダイス鋼の切削加工を行なった。本性能評価は、上記の5つの刃先交換型切削チップの刃振れが、該刃振れの平均値の±3μm以下となる条件で行なった。ダイス鋼の切削加工の条件は、被削材として、SKD11ブロック材(300mm×400mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=200m/min、送り=0.15mm/刃、切削油なしで、切込み量ap=8.0mm、ae=20mmを3パス行なった。このようにして切削加工した被削材の加工面の表面粗度(Ra)をJIS B 0601−1994規定の方法で測定し、その結果を表4の「表面粗度Ra」の欄に示した。表面粗度の値が小さいほど加工面が滑らかであり、寸法精度が優れていることを示している。また、このようにして加工した被削材の加工面の目視評価を行ない、その結果を表4の「加工面光沢」の欄に示した。
表4に示す結果から明らかなように、刃先交換型切削チップNo.201〜213は、刃先交換型切削チップNo.214〜217に比して、寸法精度および切削性能が著しく向上している。これは、刃先交換型切削チップNo.201〜213が式(I)の条件を満たし、かつWC粒子の平均粒子径およびTaを主成分とする相の平均粒子径が所定の数値範囲を満たすものであるのに対し、刃先交換型切削チップNo.214の超硬合金はTaを主成分とする相の平均粒子径が0.4μmを下回るものであり、刃先交換型切削チップNo.215の超硬合金はTaを主成分とする相の配合量が0.55質量%を上回るものであり、刃先交換型切削チップNo.216が式(I)の条件を満たさないものであり、刃先交換型切削チップNo.217の超硬合金は、WC粒子の平均粒子径が3μmを超えるものであったことによるものと考えられる。
<実施例3>
本実施例では、実施例1の刃先交換型切削チップNo.101の基材の炭素配合量が異なる他は同様の方法によって作製した基材に対し、化学蒸着法(CVD法)または物理蒸着法(PVD法)を用いて該基材上に被膜を形成した。実施例1と同様の方法によってWC粒子の平均粒子径およびTaCの平均粒子径を測定したところ、それぞれ1.14μmおよび0.83μmであった。
上記の基材の飽和磁束密度(10-7Tm3/kg)を測定したところ、182(10-7Tm3/kg)であった。このようにして得られた各値を以下の式(I)に代入することにより、基材の抗磁力の上限(HC上限)を算出したところ、18.17(10-7Tm3/kg)であった。一方、基材の抗磁力を測定したところ、HCは16.09であった。刃先交換型切削チップNo.302〜303においては、CVD法を用いて被膜を形成し、刃先交換型切削チップNo.304〜309においては、PVD法を用いて被膜を形成した。このようにして成膜した被膜の圧縮残留応力をX線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定したところ、0.1GPa以上であり、CVD法で成膜した被覆層は引張残留応力が発生していることを確認した。
Figure 0005651053
(性能評価)
実施例3の刃先交換型切削チップNo.301〜No.309について次に示す切削性能評価を行なった。その評価の結果を表6に示す。なお、本実施例では、被膜の性能を評価するために、寸法精度評価および被削材加工面試験は行なわなかった。
(1)切削性能評価(耐摩耗性試験:鋼の高速フライス加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの1つを型番WGC4160R(住友電気工業株式会社製)のカッターにセットし、これを用いて鋼の高速フライス試験を行なった。本性能評価は、1つの刃先交換型切削チップのみをカッターに取り付けて行なった。高速フライス切削の条件は、被削材として、SCM440ブロック材(300mm×100mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=320m/min、送り=0.28mm/刃、切込み量1.5mm、センターカット、水溶性油で10分間切削加工を行なった。このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(V)を測定した。その結果を表6の「耐摩耗性試験」の「鋼」の欄に示す。なお、摩耗幅が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
(2)切削性能評価(耐摩耗性試験:ダイス鋼のフライス加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの1つを型番WGC4160R(住友電気工業株式会社製)のカッターにセットし、これを用いてダイス鋼のフライス試験を行なった。本性能評価も、上記の鋼の高速フライス加工と同様に、1つの刃先交換型切削チップのみをカッターに取り付けて行なった。フライス切削の条件は、被削材として、SKD11生材 ブロック材(300mm×100mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=185m/min、送り=0.30mm/刃、切込み量ap=2.0mm、ae=40mm、センターカット、切削油なしで3分間切削加工を行なった。このようにして切削加工を行なった後に、コンパレーターを用いて刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量(V)を測定した。その結果を表6の「耐摩耗性試験」の「ダイス」の欄に示す。なお、摩耗幅が少ないほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
(3)切削性能評価(靭性試験:鋼の断続切削加工)
上記で作製した刃先交換型切削チップの1つを型番WGC4160R(住友電気工業株式会社製)のカッターにセットし、これを用いて鋼の断続切削加工を行なった。鋼の断続切削加工の条件は、被削材として、S45C φ10穴空き材ブロック材(300mm×100mm)を用い、この被削材に対し、切削速度=170m/min、送り=0.50mm/刃、切込み量2.0mm、センターカット、切削油なしで3分間切削加工を行なった。この条件で断続切削加工を20回行ない、全20の刃先交換型切削チップのうちの破損が生じた刃先交換型切削チップの割合を破損率(%)として算出した。その結果を表6の「破損率(%)」の欄に示す。破損率が低いほど、刃先強度が優れていることを示している。本実施例の刃先交換型切削チップNo.301〜309の刃振れは、最大で27μmであり、平均で23μmであった。
Figure 0005651053
表6に示す結果から明らかなように、刃先交換型切削チップNo.301〜309は、寸法精度および切削性能が著しく向上している。これは、刃先交換型切削チップNo.301〜309が式(I)の条件を満たすものであることによるものと考えられる。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (9)

  1. 少なくとも基材を含む刃先交換型切削チップであって、
    前記基材は、8.5〜12.5質量%のCoと、0.55〜2.3質量%のTaCと、0.2〜0.55質量%のCrと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなり、または11.0質量%のCoと、2.0質量%のTaCと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなり、
    前記超硬合金の組織中のWC粒子は、0.8〜3μmの平均粒子径であり、
    前記基材の抗磁力をHC(kA/m)とし、飽和磁束密度を4πσ(10-7Tm3/kg)とし、前記基材に含まれるCoの質量%をMCo(質量%)とすると、下記式(I)を満たし、かつ前記超硬合金の組織中にTaを主成分とする相が析出しており、
    前記Taを主成分とする相は、0.4〜2.4μmの平均粒子径である、刃先交換型切削チップ。
    −0.7×4πσ÷MCo−0.9×MCo+39.15≧HC ・・・(I)
  2. 前記刃先交換型切削チップは、前記基材と、該基材上に形成された被膜とを備え、
    前記被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、または該元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素との化合物からなる1層以上の層を含む、請求項1に記載の刃先交換型切削チップ。
  3. 前記被膜は、物理蒸着法および/または化学蒸着法により形成される、請求項に記載の刃先交換型切削チップ。
  4. 前記被膜は、物理蒸着法により形成されるものであり、かつ超多層構造層または変調構造層を含み、
    前記超多層構造層は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される2種以上の単位層が、各々0.2nm以上20nm以下の厚みで周期的に繰り返して積層された構造を有し、
    前記変調構造層は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成され、その化合物の組成または組成比が厚み方向において0.2nm以上40nm以下の周期で変化する構造を有する、請求項2または3に記載の刃先交換型切削チップ。
  5. 前記被膜は、0.1GPa以上の圧縮残留応力が付与されている、請求項2〜4のいずれかに記載の刃先交換型切削チップ。
  6. 前記刃先交換型切削チップは、ミリング加工に用いられる、請求項1〜のいずれかに記載の刃先交換型切削チップ。
  7. 請求項1〜のいずれかに記載の刃先交換型切削チップを同時に2以上用いて切削加工を行なう、切削加工方法。
  8. 少なくとも基材を含む刃先交換型切削チップの製造方法であって、
    前記基材が、8.5〜12.5質量%のCoと、0.55〜2.3質量%のTaCと、0.2〜0.55質量%のCrと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなるように、または11.0質量%のCoと、2.0質量%のTaCと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなるように、前記基材の原料粉末を作製するステップと、
    前記原料粉末を成型することにより、成型体を作製するステップと、
    前記成型体を1350〜1500℃に保持することにより、焼結体を作製するステップと、
    前記焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で1150℃以上液相固化温度以下の温度まで冷却するステップと、
    前記焼結体を1150℃以上液相固化温度以下の温度に10分以上保持するステップと、
    前記焼結体を15℃/min以上の冷却速度で冷却するステップとをこの順に含む、刃先交換型切削チップの製造方法。
  9. 少なくとも基材を含む刃先交換型切削チップの製造方法であって、
    前記基材が、8.5〜12.5質量%のCoと、0.55〜2.3質量%のTaCと、0.2〜0.55質量%のCrと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなるように、または11.0質量%のCoと、2.0質量%のTaCと、不可避不純物とを含み、残部がWCである超硬合金からなるように、前記基材の原料粉末を作製するステップと、
    前記原料粉末を成型することにより、成型体を作製するステップと、
    前記成型体を1350〜1500℃に保持することにより、焼結体を作製するステップと、
    前記焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で液相固化温度以上1350℃以下の温度まで冷却するステップと、
    前記焼結体を液相固化温度以上1350℃以下の温度に10分以上保持するステップと、
    前記焼結体を0.5〜10℃/minの冷却速度で1150℃以上液相固化温度以下の温度まで冷却するステップと、
    前記焼結体を1150℃以上液相固化温度以下の温度に10分以上保持するステップと、
    前記焼結体を15℃/min以上の冷却速度で冷却するステップとをこの順に含む、刃先交換型切削チップの製造方法。
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