〔第1実施形態の概要〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る反射防止物品を示す図(概念斜視図)である。この反射防止物品1は、全体形状がフィルム形状により形成された反射防止フィルムである。この実施形態に係る画像表示装置では、この反射防止物品1が画像表示パネルの表側面に貼り付けられて保持され、この反射防止物品1により日光、電燈光等の外来光の画面における反射を低減して視認性を向上する。なお反射防止物品は、その形状を平坦なフィルム形状とする場合に限らず、平坦なシート形状、平板形状(相対的に厚みの薄い順に、フィルム、シート、板と呼称する)とすることもでき、また平坦な形状に代えて、湾曲形状、立体形状を呈したフィルム形状、シート形状、板形状とすることもでき、さらには各種レンズ、各種プリズム等の立体形状のものを用途に応じて適宜採用することができる。
ここで反射防止物品1は、透明フィルムの形状(形態)の基材2の表面に多数の微小突起5、5A、5Bを密接配置して作製される。尚、密接配置された複数の微小突起を総称して微小突起群とも呼称する。ここで基材2は、例えばTAC(Triacetylcellulose)、等のセルロース(纖維素)系樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等のアクリル系樹脂、PET(Polyethylene terephthalate)等のポリエステル系樹脂、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)等のビニル系樹脂、PC(Polycarbonate)等の各種透明樹脂フィルムを適用することができる。なお上述したように反射防止物品の形状はフィルム形状に限らず、種々の形状を採用可能である。基材2は、このような反射防止物品の形状に応じて、これらの材料の他に、例えばソーダ硝子、カリ硝子、鉛ガラス等の硝子、PLZT等のセラミックス、石英、螢石等の各種透明無機材料等を適用することができる。
反射防止物品1は、基材2上に、微小突起群からなる微細な凹凸形状の受容層となる未硬化状態の樹脂層(以下、適宜、受容層と呼ぶ)4を形成し、該受容層4を賦型処理して硬化せしめ、これにより基材2の表面に微小突起が密接して配置される。この実施形態では、この受容層4に、賦型処理に供する賦型用樹脂の1つであるアクリレート系紫外線硬化性樹脂が適用され、基材2上に紫外線硬化性樹脂層4が形成される。反射防止物品1は、この微小突起による凹凸形状により厚み方向に徐々に屈折率が変化するように作製され、モスアイ構造の原理により広い波長範囲で入射光の反射を低減する。
[隣接突起間距離]
なおこれにより反射防止物品1に作製される微小突起は、隣接する微小突起の間隔dが、反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長Λmin以下(d≦Λmin)となるよう密接して配置される。この実施形態では、画像表示パネルに配置して視認性を向上させることを主目的とするため、この最短波長は、個人差、視聴条件を加味した可視光領域の最短波長(380nm)に設定され、間隔dは、ばらつきを考慮して100〜300nmとされる。またこの間隔dに係る隣接する微小突起は、いわゆる隣り合う微小突起であり、基材2側の付け根部分である微小突起の裾の部分が接している突起である。反射防止物品1では微小突起が密接して配置されることにより、微小突起間の谷の部位を順次辿るようにして線分を作製すると、平面視において各微小突起を囲む多角形状領域を多数連結してなる網目状の模様が作製されることになる。間隔dに係る隣接する微小突起は、この網目状の模様を構成する一部の線分を共有する突起である。なお「隣り合う」或いは「隣接」の、より正確な定義は以下に基づく。
なお微小突起に関しては、より詳細には以下のように定義される。モスアイ構造による反射防止では、透明基材表面とこれに隣接する媒質との界面における有効屈折率を、厚み方向に連続的に変化させて反射防止を図るものであることから、微小突起に関しては一定の条件を満足することが必要である。この条件のうちの1つである突起の間隔に関して、例えば特開昭50−70040号公報、特許第4632589号公報等に開示のように、微小突起が一定周期で規則正しく配置されている場合、隣接する微小突起の間隔dは、突起配列の周期P(d=P)となる。これにより可視光線帯域の最長波長をλmax、最短波長をλminとした場合に、最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最小限の条件は、Λmin=λmaxであるため、P≦λmaxとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、P≦λminとなる。
なお波長λmax、λminは、観察条件、光の強度(輝度)、個人差等にも依存して多少幅を持ち得るが、標準的には、λmax=780nm及びλmin=380nmとされる。これらにより可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、d≦300nmであり、より好ましい条件は、d≦200nmとなる。なお反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、周期dの下限値は、通常、d≧50nm、好ましくは、d≧100nmとされる。これに対して突起の高さHは、十分な反射防止効果を発現させる観点より、H≧0.2×λmax=156nm(λmax=780nmとして)とされる。
しかしながらこの実施形態のように、微小突起が不規則に配置されている場合には、隣接する微小突起間の間隔dはばらつきを有することになる。より具体的には、図2に示すように、基材の表面又は裏面の法線方向から見て平面視した場合に、微小突起が一定周期で規則正しく配列されていない場合、突起の繰り返し周期Pによっては隣接突起間の間隔dは規定し得ず、また隣接突起の概念すら疑念が生じることになる。そこでこのような場合、以下のように算定される。
(1)すなわち先ず、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(以下、AFMと呼ぶ))又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope(以下、SEMと呼ぶ))を用いて突起の面内配列(突起配列の平面視形状)を検出する。なお図2は、実際に原子間力顕微鏡により求められた拡大写真である。AFMのデータには微小突起群の高さの面内分布データを付随するため、この写真は輝度により高さの面内分布を示す写真であると言える。尚、図2から図6の図(写真及び度数分布グラフ)は本発明の微小突起群とは異なる形態の微小突起群に対して計測及び算出されたものではあるが、ここでは、微小突起の突起間距離及び高さを算出する原理及び手法を説明する為に援用するものである。本発明の微小突起群については、図14から図24を参照して後述する。
(2)続いてこの求められた面内配列から各突起の高さの極大点(以下、単に極大点と呼ぶ)を検出する。極大点とは、高さが、其の近傍周辺の何れの点と比べても大(極大値)となる点を意味する。なお極大点を求める方法としては、平面視形状と対応する断面形状の拡大写真とを逐次対比して極大点を求める方法、平面視拡大写真の画像処理によって極大点を求める方法等、種々の手法を適用することができる。図3は、図2に示した拡大写真に係る画像データの処理による極大点の検出結果を示す図であり、この図において黒点により示す個所がそれぞれ各突起の極大点である。なおこの処理では4.5×4.5画素のガウシアン特性によるローパスフィルタにより事前に画像データを処理し、これによりノイズによる極大点の誤検出を防止した。また8画素×8画素による最大値検出用のフィルタを順次スキャンすることにより1nm(=1画素)単位で極大点を求めた。
(3)次に検出した極大点を母点とするドロネー図(Delaunary Diagram)を作製する。ここでドロネー図とは、各極大点を母点としてボロノイ分割を行った場合に、ボロノイ領域が隣接する母点同士を隣接母点と定義し、各隣接母点同士を線分で結んで得られる3角形の集合体からなる網状図形である。各3角形は、ドロネー3角形と呼ばれ、各3角形の辺(隣接母点同士を結ぶ線分)は、ドロネー線と呼ばれる。図4は、図3から求められるドロネー図(白色の線分により表される図である)を図3による原画像と重ね合わせた図である。ドロネー図は、ボロノイ図(Voronoi diagram)と双対の関係に有る。またボロノイ分割とは、各隣接母点間を結ぶ線分(ドロネー線)の垂直2等分線同士によって画成される閉多角形の集合体からなる網状図形で平面を分割することを言う。ボロノイ分割により得られる網状図形がボロノイ図であり、各閉領域がボロノイ領域である。
(4)次に、各ドロネー線の線分長の度数分布、すなわち隣接する極大点間の距離(以下、隣接突起間距離と呼ぶ)の度数分布を求める。図5は、図4のドロネー図から作製した度数分布のヒストグラムである。なお図2、図13に示すように、突起の頂部に溝状等の凹部が存在したり、あるいは頂部が複数の峰に分裂している場合は、求めた度数分布から、このような突起の頂部に凹部が存在する微細構造、頂部が複数の峰に分裂している微細構造に起因するデータを除去し、突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を作製する。
具体的には、突起の頂部に凹部が存在する微細構造、頂部が複数の峰に分裂している多峰性微小突起に係る微細構造においては、このような微細構造を備えてい無い単峰性微小突起の場合の数値範囲から、隣接極大点間距離が明らかに大きく異なることになる。これによりこの特徴を利用して対応するデータを除去することにより突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を検出する。より具体的には、例えば図2に示すような微小突起(群)の平面視の拡大写真から、5〜20個程度の互いに隣接する単峰性微小突起を選んで、その隣接極大点間距離の値を標本抽出し、この標本抽出して求められる数値範囲から明らかに小さい方向に外れる値(通常、標本抽出して求められる隣接極大点間距離平均値に対して、値が1/2以下のデータ)を除外して度数分布を検出する。図5の例では、隣接極大点間距離が56nm以下のデータ(矢印Aにより示す左端の小山)を除外する。なお図5は、このような除外する処理を行う前の度数分布を示すものである。因みに上述の極大点検用のフィルタの設定により、このような除外する処理を実行してもよい。
(5)このようにして求めた隣接突起間距離dの度数分布から平均値dAVG及び標準偏差σを求める。ここでこのようにして得られる度数分布を正規分布とみなして平均値dAVG及び標準偏差σを求めると、図5の例では、平均値dAVG=158nm、標準偏差σ=38nmとなった。これにより隣接突起間距離dの最大値を、dmax=dAVG+2σとし、この例ではdmax=234nmとなる。
なお同様の手法を適用して突起の高さを定義する。この場合、上述の(2)により求められる極大点から、特定の基準位置からの各極大点位置の相対的な高さの差を取得してヒストグラム化する。図6は、このようにして求められる突起付け根位置を基準(高さ0)とした突起高さHの度数分布のヒストグラムを示す図である。このヒストグラムによる度数分布から突起高さの平均値HAVG、標準偏差σを求める。ここでこの図6の例では、平均値HAVG=178nm、標準偏差σ=30nmである。これによりこの例では、突起の高さは、平均値HAVG=178nmとなる。なお図6に示す突起高さHのヒストグラムにおいて、多峰性微小突起の場合は、頂点を複数有していることにより、1つの突起に対してこれら複数のデータが混在することになる。そこでこの場合は麓部が同一の微小突起に属するそれぞれ複数の頂点の中から高さの最も高い頂点を、当該微小突起の突起高さとして採用して度数分布を求める。
なお上述した突起の高さを測る際の基準位置は、隣接する微小突起の間の谷底(高さの極小点)を高さ0の基準とする。但し、係る谷底の高さ自体が場所によって異なる場合(例えば、図7に示すように、谷底の高さが微小突起の隣接突起間距離に比べて大きな周期でウネリを有する場合等)は、(1)先ず、基材2の表面又は裏面から測った各谷底の高さの平均値を、該平均値が收束するに足る面積の中で算出する。(2)次いで、該平均値の高さを持ち、基材2の表面又は裏面と平行な面を基準面として考える。(3)その後、該基準面を改めて高さ0として、該基準面からの各微小突起の高さを算出する。
突起が不規則に配置されている場合には、このようにして求められる隣接突起間距離の最大値dmax=dAVG+2σ、突起の高さの平均値HAVGが、規則正しく配置されている場合の上述の条件を満足することが必要であることが判った。具体的には、反射防止効果を発現する微小突起間距離の条件は、dmax≦Λminとなる。最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最短限の条件は、Λmin=λmaxであるため、dmax≦λmaxとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、dmax≦λminとなる。そして、可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、dmax≦300nmであり、更に好ましい条件は、dmax≦200nmである。また反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、通常、dmax≧50nmであり、好ましくは、dmax≧100nmとされる。また突起高さについては、十分な反射防止効果を発現する為には、HAVG≧0.2×λmax=156nm(λmax=780nmとして)とされる。しかしながら実用上十分な程度に反射防止機能を確保する観点からは、平均突起間距離daveを、dave≦λminとしても良い。
因みに、図2〜図6の例により説明するとdmax=234nm≦λmax=780nmとなり、dmax≦λmaxの条件を満足して十分に反射防止効果を奏し得ることが判る。また可視光線帯域の最短波長λminが380nmであることから、可視光線の全波長帯域において反射防止効果を発現する十分条件dmax≦λminも満たすことが判る。またdave≦dmaxであることから、dave≦λminの条件も満足していることが判る。また平均突起高さHAVG=178nmであることにより、平均突起高さHAVG≧0.2×λmax=156nmとなり(可視光波長帯域の最長波長λmax=780nmとして)、十分な反射防止効果を実現するための突起の高さに関する条件も満足していることが判る。なお標準偏差σ=30nmであることから、HAVG−σ=148nm<0.2×λmax=156nmとの関係式が成立することから、統計学上、全突起の50%以上、84%以下が、突起の高さに係る条件(178nm以上)の条件を満足していることが判る。なおAFM及びSEMによる観察結果、並びに微小突起の高さ分布の解析結果から、多峰性微小突起は相対的に高さの低い微小突起よりも高さの高い微小突起でより多く生じる傾向にあることが判明した。
[製造工程]
図8は、この反射防止物品1の製造工程を示す図である。この製造工程10は、樹脂供給工程において、ダイ12により帯状フィルム形態の基材2に微小突起形状の受容層を構成する未硬化で液状の紫外線硬化性樹脂を塗布する。なお紫外線硬化性樹脂の塗布については、ダイ12による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いてこの製造工程10は、押圧ローラ14により、反射防止物品の賦型用金型であるロール版13の周側面に基材2を加圧押圧し、これにより基材2に未硬化状態で液状のアクリレート系紫外線硬化性樹脂を密着させると共に、ロール版13の周側面に作製された微細な凹凸形状の凹部に紫外線硬化性樹脂を充分に充填する。この製造工程は、この状態で、紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂を硬化させ、これにより基材2の表面に微小突起群を作製する。この製造工程は、続いて剥離ローラ15を介してロール版13から、硬化した紫外線硬化性樹脂と一体に基材2を剥離する。製造工程10は、必要に応じてこの基材2に粘着層等を作製した後、所望の大きさに切断して反射防止物品1を作製する。これにより反射防止物品1は、ロール材による長尺の基材2に、賦型用金型であるロール版13の周側面に作製された微細形状を順次賦型して、効率良く大量生産される。
図9は、ロール版13の構成を示す斜視図である。ロール版13は、円筒形状の金属材料である母材の周側面に、陽極酸化処理、エッチング処理の繰り返しにより、微細な凹凸形状が作製され、この微細な凹凸形状が上述したように基材2に賦型される。このため母材は、少なくとも周側面に純度の高いアルミニウム層が設けられた円柱形状又は円筒形状の部材が適用される。より具体的に、この実施形態では、母材に中空のステンレスパイプが適用され、直接に又は各種の中間層を介して、純度の高いアルミニウム層が設けられる。なおステンレスパイプに代えて、銅やアルミニウム等のパイプ材等を適用してもよい。ロール版13は、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにより、母材の周側面に微細穴が密に作製され、この微細穴を掘り進めると共に、開口部に近付くに従ってより大きな径となるようにこの微細穴の穴径を徐々に拡大して凹凸形状が作製される。これによりロール版13は、深さ方向に徐々に穴径が小さくなる微細穴が密に作製され、反射防止物品1には、この微細穴に対応して、頂部に近付くに従って徐々に径が小さくなる多数の微小突起からなる微小突起群により微細な凹凸形状が作製される。その際に、アルミニウム層の純度(不純物量)や浴濃度、結晶粒径、陽極酸化処理及び/又はエッチング処理等の諸条件を適宜調整することによって、本発明特有の微小突起形状とする。
〔陽極酸化処理、エッチング処理〕
図10は、ロール版13の製造工程を示す図である。この製造工程は、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法によって母材の周側面を超鏡面化する(電解研磨)。続いてこの工程は、アルミニウム層形成工程において、母材の周側面にアルミニウムをスパッタリングし、純度の高いアルミニウム層を作製する。続いてこの工程は、陽極酸化工程A1、…、AN、エッチング工程E1、…、ENを交互に繰り返して母材を処理し、ロール版13を作製する。
この製造工程において、陽極酸化工程A1、…、ANでは、陽極酸化法により母材の周側面に微細な穴を作製し、さらにこの作製した微細な穴を掘り進める。ここで陽極酸化工程では、例えば負極に炭素棒、ステンレス板材等を使用する場合のように、アルミニウムの陽極酸化に適用される各種の手法を広く適用することができる。また溶解液についても、中性、酸性の各種溶解液を使用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ(蓚)酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。この製造工程A1、…、ANは、液温、印加する電圧、陽極酸化に供する時間等の管理により、微細な穴をそれぞれ目的とする深さ及び微小突起形状に対応する形状に作製する。
続くエッチング工程E1、…、ENは、金型をエッチング液に浸漬し、陽極酸化工程A1、…、ANにより作製、掘り進めた微細な穴の穴径をエッチングにより拡大し、深さ方向に向かって滑らか、かつ徐々に穴径が小さくなるように、これら微細な穴を整形する。なおエッチング液については、この種の処理に適用される各種エッチング液を広く適用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。なお陽極酸化処理に用いる溶解液と同じ液を、電圧印加無しで用いることにより、溶解液をエッチング液としても兼用してもよい。これらによりこの製造工程では、陽極酸化処理とエッチング処理とを交互にそれぞれ複数回実行することにより、賦型に供する微細穴を母材の周側面に作製する。
図11は、図10に係る陽極酸化処理、エッチング処理をより詳細な説明に供する図である。陽極酸化処理により微細穴を作製する場合、陽極酸化時の印加電圧と微細穴のピッチとは、比例する関係にある。これにより陽極酸化処理、エッチング処理との繰り返しにおいて、陽極酸化処理の印加電圧を可変すれば、種々のピッチによる微細穴を混在させてその比率を制御することができ、これにより微小突起のピッチの分布を制御することができる。
またこのように陽極酸化処理における印加電圧を可変する場合にあっては、太さの大きな微細穴の底面に、複数の微細穴を作製して多峰性微小突起に係る微細穴とすることができ、この太さ(径)の太い微細穴の高さの制御、底面に作製する微細穴の深さの制御等により、多峰性微小突起についても、ピッチ、高さの分布等を制御することができる。これらによりこの実施形態では、多峰性微小突起に係る突起間距離の分布等を制御する。
なお陽極酸化処理の印加電圧と作製される微細穴のピッチとの関係は比例関係であると言うものの、実際上、処理に供するアルミニウムの粒界等により微細穴のピッチは種々にばらつく。しながらこの図11においては、このようなばらつきが無いものとして、また微細穴が規則正しい配列により作製されるものとして説明する。なお図11(a)〜(e)は、それぞれ各工程により作製される微細穴を平面視した図、及びa−a線により切り取って示す対応する断面図である。
ここで始めにこの実施形態では、低い印加電圧V1により第1の陽極酸化処理を実行した後、エッチング処理を実行し、これにより図11(a)に示すように、この低い印加電圧V1に係る基本ピッチによる微細穴f1を作製する(以下、適宜、第1工程と呼ぶ)。ここでこの第1の陽極酸化処理は、アルミニウムのフラット面に、後続する陽極酸化のきっかけを作製するものである。なおこの場合、必要に応じてこの第1工程のエッチング処理を省略してもよい。
続いてこの実施形態では、第1の陽極酸化時より高い印加電圧V2(V2>V1)により第2の陽極酸化処理を実行した後、エッチング処理を実行する(以下、適宜、第2工程と呼ぶ)。ここでこの場合、図11(b)に示すように、印加電圧を上昇させたことにより、第1の陽極酸化処理により作製された微細穴f1のうち、この第2の陽極酸化処理に係る印加電圧に対応する微細穴のみ深さ方向に掘り進められ(符号f2により示す)、エッチング処理されることになる。これによりこの第2の工程により、例えば2段階により印加電圧を可変すれば、深さの異なる分布を呈する微細穴を混在させることができる。
続いてこの実施形態では、第2の陽極酸化時より高い印加電圧V3(V3>V2)により第3の陽極酸化処理を実行した後、エッチング処理を実行する(図11(c))(以下、適宜、第3工程と呼ぶ)。ここでこの第3工程は、ピッチの異なる微細穴を作製するための工程である。このためこの工程では、第2の陽極酸化工程における印加電圧V2から徐々に印加電圧を上昇させる。ここでこの印加電圧の上昇を離散的に(段階的に)実行すると、微小突起の高さ分布を離散的に設定することができ、深さの分布が異なる微細穴を混在させることができる。またこの印加電圧の上昇を連続的に変化させると、深さ分布を正規分布に設定することができる。
さらにこの第3の工程において、陽極酸化に係る特定電圧の印加時間、エッチング処理の時間が、第1、第2工程よりも長く設定され、これにより符号f3により示すように、第1工程、第2工程で作製された微細穴f1、f2を飲み込むように、これら微細穴f1、f2と合体して底部の略平坦な微細穴が作製される。
続いてこの実施形態では、第3の陽極酸化時より高い印加電圧V4(V4>V3)により第4の陽極酸化処理を実行した後、エッチング処理を実行する(図11(d))(以下、適宜、第4工程と呼ぶ)。ここでこの第4工程は、目的とする突起間間隔によるピッチにより微細穴を作製するための工程であり、これによりこの印加電圧V4はこのピッチに対応する電圧である。この第4工程において、印加電圧を徐々に上昇させることにより、第3工程により大きく掘り進められた微細穴の一部がさらに一段と掘り進められて単峰性の微小突起に対応する微細穴f4が作成される。
続いてこの実施形態では、第1工程における印加電圧V1により第5の陽極酸化処理を実行した後、エッチング処理を実行する(図11(e))(以下、適宜、第5工程と呼ぶ)。ここでこの第5の工程において、第3工程により底面が平坦面とされた微細穴であって、第4の工程の陽極酸化処理の影響を受けていない微細穴について、底面に微細な穴が複数個形成され、これにより多峰突起用の微細穴f5が作製される。ここでこの第5工程の印加電圧V1の大きさを調整することによって、底面に形成される微細な穴f5の数を増やしたり、減らしたりすることができる。
ここでこの一連の工程では、第1及び第2の工程により作製された深さの異なる微細穴f1、f2を、第3の工程で掘り進めて底面の略平坦な微小突起f3を作製し、第4の工程において、単峰性微小突起に係る微細穴を作製し、また第5の工程において、底面が平坦な微小突起f3の底面を加工して単峰性微小突起に係る微細穴を作製していることにより、これら第1〜第4の工程に係る陽極酸化処理の印加電圧、処理時間、エッチング処理の処理時間等を制御して各工程で作製される微細穴の深さ等を制御することにより、微小突起の高さの分布、多峰性微小突起の高さの分布を制御することができる。なおこれら第1〜第5の工程は、必要に応じて省略したり、繰り返したり、工程を一体化してもよいことは言うまでも無い。
図12は、図11との対比により、微小突起の高さ分布の制御に係る深さの異なる微細穴が形成される過程の説明に供する図である。
(第1の工程)
ここで図12(a)に示すように、第1の工程において、先ず、賦型用金型の表面のアルミニウム層に、電圧V1を印加して陽極酸化工程A1を実行した後に、エッチング工程E1を実行し、微細な穴f1を形成する。ここで、陽極酸化工程A1は、アルミニウムのフラット面に後続する陽極酸化処理のきっかけを作製するものである。なお、この場合、エッチング工程を適宜省略してもよい。
(第2の工程)
次に、電圧V1よりも高い電圧V2(V2>V1)を印加して陽極酸化工程A2を実行した後に、エッチング工程E2を実行する。これにより、陽極酸化工程A2では、図12(b)に示すように、先の陽極酸化工程A1により形成された微細な穴f1のうち、陽極酸化工程A2に対応する間隔の微細な穴f1を更に掘り下げる。
ここで印加電圧V2をV2=2×V1に設定すると、陽極酸化工程A2によって、先の陽極酸化工程A1で形成された微細な穴f1を一つ置きに掘り進める処理が行われる。従って、賦型用金型の表面には、一つ置きに広くかつ深く掘り下げられた微細な穴f2が形成され、成形型の表面には、微細な穴f1と微細な穴2とが混在する状態となる。
(第3の工程)
続いて、電圧V1と電圧V2の間の電圧V3(V2>V3>V1)を印加して陽極酸化工程A3を実行した後に、エッチング工程E3を実行する。この工程では、ピッチの異なる微細な穴を作製する。具体的には、印加する電圧を、電圧V3として、縦横に面内に配列した微細な穴f2の間に存在する図示の如くの特定の微細な穴f1を一つ置きに広く且つ深く掘り下げる。ここで印加電圧V3をV3=(V1)1/2に設定すると、陽極酸化工程A3における印加電圧の印加時間、エッチング工程の処理時間を上述の第1の工程よりも長く設定することにより、図11(c)に示すように、最初の陽極酸化工程A1において形成された微細な穴f1のうち、4個の微細な穴f2で囲まれる最小の四角形の中心に位置する微細な穴f1が選択的に深く掘り下げられる。且つ同時に、第2の陽極酸化工程A2形成された微細な穴f2のうちで図12(c)で図示される位置関係に有る一部のものが更に掘り下げられ、微細な穴f3となる。
その結果、図12(c)に示すように、微細な穴f1(これが最も高さの低い微小突起に対応する穴となる)の周囲をf1よりも深い微細な穴f2及びf3(それぞれ中程度及び高程度の高さの微小突起に対応する穴となる)によって周囲を包囲された穴群が面内に配列した表面構造を有する成形型が得られる。
このように複数回の陽極酸化処理における印加電圧の切り替えにより掘り進める微細穴が異なることにより、微細穴の深さを大きく異ならせることができ、これにより意図する分布により微小突起の高さを制御することができる。
〔耐擦傷性の向上〕
ところでこの陽極酸化処理及びエッチング処理の交互の繰り返しにより微細穴を作製して反射防止物品を作製したところ、上述したように耐擦傷性に改善の余地が見られた。そこで反射防止物品を詳細に観察したところ、従来のこの種の反射防止物品のように、多角錘形状や回転放物面形状のような1つの頂点のみを持つ単峰性微小突起のみからなり、各頂点の高さも一様に作製されている場合には、例えば他の物体が接触した場合に、広い範囲で微小突起の形状が一様に損なわれ、これにより反射防止機能が局所的に劣化し、また接触個所に白濁、傷等が発生して外観不良が発生することが判った。しかしながらロール版の製造条件を変更すると、このような耐擦傷性が改善されることが判った。
このような耐擦傷性が改善された反射防止物品の表面形状をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)及びSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察したところ、多数の微小突起の中に、頂点を複数有する多峰性微小突起が存在することが判った。なおここで微細形状の観察のために、種々の方式の顕微鏡が提供されているものの、微細構造を損なわないようにして反射防止物品の表面形状を観察する場合には、AFM及びSEMが適している。
ここで多峰性微小突起は、単に頂点を複数有するだけでなく、微小突起を先端側より平面視した場合に、ほぼ中央より外方に向かって形成された溝により複数の領域に分割され、この複数の領域の各領域が、それぞれ各頂点に係る峰であるように形成される。またこの多峰性微小突起は、対応する形状を備えた微細穴の賦型処理により作製され、このような多峰性微小突起に係る微細穴は、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにおいて、上述したように極めて近接して作製された微細穴が、エッチング処理により、一体化して土台が作製される。これにより多峰性微小突起は、微小突起を先端側より平面視した場合の周囲長が、単峰性の微小突起に比して長く形成されている。この点については、後述する図14等より見て取ることができる。なおこれら多峰性微小突起の形状は、特開2012−037670号公報に開示の賦型処理時の樹脂の充填不良により生じる多峰性微小突起とは異なる特徴である。
図13は、この頂点を複数有する多峰性微小突起の説明に供する断面図(図13a))、斜視図(図13b))、平面図(図13c))である。なおこの図13は、理解を容易にするために模式的に示す図であり、図13(a)は、連続する微小突起の頂点を結ぶ折れ線により断面を取って示す図である。この図13(b)及び(c)において、xy方向は、基材2の面内方向であり、z方向は微小突起の高さ方向である。反射防止物品1において、多くの微小突起5は、基材2より離れて頂点に向かうに従って徐々に断面積(高さ方向に直交する面(図13おいてXY平面と平行な面)で切断した場合の断面積)が小さくなって、頂点が1つにより作製される。しかしながら中には、複数の微小突起が結合したかのように、先端部分に溝gが形成され、頂点が2つになったもの(5A)、頂点が3つになったもの(5B)、さらには頂点が4つ以上のもの(図示略)が存在した。
図14は、この多峰性微小突起の写真であり、図14(a)は、AFMによるものであり、図14(b)及び(c)は、SEMによるものである。図14(a)では、溝g及び3つの頂点を有する微小突起、及び溝g及び2つの頂点を有する微小突起を見て取ることができ、図14(b)では、溝g及び4つの頂点を有する微小突起、及び溝g及び2つの頂点を有する微小突起を見て取ることができ、図14(c)では、溝g及び3つの頂点を有する微小突起、溝g及び2つの頂点を有する微小突起を見て取ることができる。
ここで単峰性微小突起5の形状は、概略、回転放物面の様な頂部の丸い形状、或いは円錐の様な頂点の尖った形状で近似することができる。一方、多峰性微小突起5A、5Bの形状は、概略、単峰性微小突起5の頂部近傍に溝状の凹部を切り込んで、頂部を複数の峰に分割したような形状で近似される。多峰性微小突起5A、5Bの形状は、或いは、複数の峰を含み高さ方向(図13ではZ軸方向)を含む仮想的切断面で切断した場合の縦断面形状が、極大点を複数個含み各極大点近傍が上に凸の曲線になる代数曲線Z=a2X2+a4X4+・・+a2nX2n+・・で近似されるような形状である。
このような頂点を複数有する多峰性微小突起は、単峰性微小突起に比して、頂点近傍の寸法に対する裾の部分の太さが相対的に太くなる(周囲長が長くなる)。これにより、多峰性微小突起は、単峰性微小突起に比して機械的強度が優れていると言える。これにより頂点を複数有する多峰性微小突起が存在する場合、反射防止物品では、単峰性微小突起のみによる場合に比して耐擦傷性が向上するものと考えられる。さらに、具体的に反射防止物品に外力が加わった場合、単峰性微小突起のみの場合に比して、外力をより多くの頂点で分散して受ける為、各頂点に加わる外力を低減し、微小突起が損傷し難いようにすることができ、これにより反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらに外観不良の発生を低減することができる。また仮に微小突起が損傷した場合でも、その損傷個所の面積を低減することができる。更に、多峰性微小突起は、外力を先ず各峰部分が受止めて犠牲的に損傷することによって、該多峰性微小突起の峰より低い本体部分、及び該多峰性微小突起よりも高さの低い微小突起の損耗を防ぐ。これによっても反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらに外観不良の発生を低減することができる。
なお上述した図5について上述した測定結果では、隣接突起間距離d(横軸の値)について、20nm及び40nmの短距離の極大値と120nm及び164nmの長距離の極大値との2種類の極大値が存在する。これらの極大値のうちの長距離の極大値は、微小突起本体(頂部よりも下の中腹から麓にかけての部分)の配列に対応し、一方、短距離の極大値は頂部近傍に存在する複数の頂点(峰)に対応する。これにより極大点間距離の度数分布によっても、多峰性微小突起の存在を見て取ることができる。
なお多峰性微小突起は、その存在により耐擦傷性を向上できるものの、充分に存在しない場合には、この耐擦傷性を向上する効果を十分に発揮できないことは言うまでもない。係る観点より、表面に存在する全微小突起中における多峰性微小突起の個数の比率は10%以上とすることが好ましく、特に多峰性微小突起による耐擦傷性を向上する効果を十分に奏する為には、該多峰性微小突起の比率は30%以上、好ましくは50%以上とする。又、多峰性微小突起の比率を増やすに伴い製造工程の管理の難度が増す為、当該比率は好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下とする。
さらにこのような多峰性微小突起5A、5Bを含む微小突起群(5、5A、5B、・・)を有する反射防止物品は、その高さを制御して分布を設けることができ、さらには高さをばらつかせることができる(図6、図13(a)参照)。なおここで各微小突起の高さとは、上述したように、麓(付け根)部を共有するある特定の微小突起について、その頂部に存在する最高高さを有する峰(最高峰)の高さを言う。図13(a)の微小突起5の如くの単峰性微小突起の場合は、頂部における唯一の峰(極大点)の高さが該微小突起の突起高さとなる。また図13(a)の微小突起5A、5Bのような多峰性微小突起の場合は、頂部に在る麓部を共有する複数の峰のうちの最高峰の高さをもって該微小突起の高さとする。また麓部を共有する全峰が同一高さの場合は、其の同一の高さを以って該微小突起の高さとする。このように微小突起の高さが種々に異なる場合には、例えば物体の接触により高さの高い微小突起の形状が損なわれた場合でも、高さの低い微小突起においては、形状が維持されることになる。これによっても反射防止物品では、反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらには外観不良の発生を低減することができ、その結果、耐擦傷性を向上することができる。
また反射防止物品表面の微小突起群と物体との間に塵埃が付着すると、当該物品が反射防止物品に対して相対的に摺動した際に、該塵埃が研磨剤として機能して微小突起(群)の磨耗、損傷が促進されることになる。この場合に、微小突起群を構成する各微小突起間に高低差が有ると、塵埃は高さの高い微小突起に強く接触し、これを損傷させる。一方で低高さの微小突起との接触は弱まり、高さの低い微小突起については損傷が軽減され、無傷ないしは軽微な傷で残存した高さの低い微小突起によって反射防止性能が維持される。
またこれに加えて、各微小突起の高さに分布(高低差)の有る微小突起群は、反射防止性能が広帯域化され、白色光のような多波長の混在する光、あるいは広帯域スペクトルを持つ光に対して、全スペクトル帯域で低反射率を実現するのに有利である。これは、かかる微小突起群によって良好な反射防止性能を発現し得る波長帯域が、隣接突起間距離dの他に、突起高さにも依存する為である。
またこの場合には、多数の微小突起のうちの高さの高い微小突起のみが、例えば反射防止物品1と対向するように配置された各種の部材表面と接触することになる。これにより高さが同一の微小突起のみによる場合に比して格段的に滑りを良くすることができ、製造工程等における反射防止物品の取り扱いを容易とすることができる。なおこのように滑りを良くする観点から、ばらつきは、標準偏差により規定した場合に、10nm以上必要であるものの、50nmより大きくなると、このばらつきによる表面のざらつき感が感じられるようになる。従ってこの高さのばらつきは、10nm以上、50nm以下であることが好ましい。
またこのように多峰性微小突起が混在する場合には、単峰性微小突起のみによる場合に比して反射防止の性能を向上することができる。すなわち図2、図11、及び図13等に示すような多峰性微小突起5A、5B等は、隣接突起間距離が同じ場合であっても、また突起高さが同じ場合であっても、単峰性微小突起と比べて、より光の反射率が低減することになる。その理由は、多峰性微小突起5A、5B等は、頂部より下(中腹及び麓)の形状が同じ単峰性微小突起よりも、頂部近傍における有効屈折率の高さ方向の変化率が小さくなる為である。
すなわち図11において、z=0を高さH=0とおき、高さ方向(Z軸方向)に直交する仮想的切断面Z=zで微小突起5、5A等を切断したと仮定した場合の面Z=zにおける微小突起と周辺の媒質(通常は空気)との屈折率の平均値として得られる有効屈折率nefは、切断面Z=zにおける周辺媒質(ここでは空気とする)の屈折率をnA=1、微小突起5、5A、・・の構成材料の屈折率をnM>1とし、又周辺媒質(空気)の断面積の合計値をSA(z)、微小突起5、5A、・・の断面積の合計値をSM(z)としたとき、
nef(z)=1×SA(z)/(SA(z)+SM(z))+nA×SM(z)/(SA(z)+SM(z))(式1)
で表される。これは、周辺媒質の屈折率nA及び微小突起構成材料の屈折率nMを、各々周辺媒質の合計断面積SA(z)及び微小突起の合計断面積の合計値SM(z)の比で比例配分した値となる。
ここで、単峰性微小突起5を基準にして考えたときに、多峰性微小突起5A、5B、・・は、頂部近傍が複数の峰に分裂している。そのため、頂部近傍を切断する仮想的切断面Z=zにおいて、多峰性微小突起5A、5B、・・は、単峰性微小突起5、・・に比べて相対的に低屈折率である周辺媒質の合計断面積SA(z)の比率が、相対的に高屈折率である微小突起の合計断面積SM(z)の比率に比べて、より増大することになる。
その結果、仮想的切断面Z=zにおける有効屈折率nef(z)は、多峰性微小突起5A、5B、・・の方が単峰性微小突起5、・・に比べて、より周辺媒質の屈折率nAに近くなる。面Z=zにおける多峰性微小突起の有効屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|multi、単峰性微小突起の有効屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|monoとすると、
|nef(z)−nA(z)|multi<|nef(z)−nA(z)|mono(式2)
となる。ここでnA(z)=1とすると、
|nef(z)−1|multi<|nef(z)−1|mono(式2A)
となる。
これにより頂部近傍において、多峰性微小突起を含む微小突起群(各微小突起間に周辺媒質を含む)については、単峰性微小突起のみからなる突起群に比べて、その有効屈折率と周辺媒質(空気)の屈折率との差、より詳細に言えば、微小突起の高さ方向の単位距離当たりの屈折率の変化率をより低減化すること、換言すれば、屈折率の高さ方向変化の連続性をより高めること)が可能になることが判る。
一般に、隣接する屈折率n0の媒質と屈折率n1の媒質との界面に光が入射する場合に、該界面における光の反射率Rは、入射角=0として、
R=(n1−n0)2/(n1+n0)2(式3)
となる。この式より界面両側の媒質の屈折率差n1−n0が小さいほど界面での光の反射率Rは減少し、(n1−n0)が値0に近づけばRも値0に近づくことになる。
(式2)、(式2A)及び(式3)より、多峰性微小突起5A、5B、・・を含む微小突起群(各微小突起間に周辺媒質を含む)については、単峰性微小突起5、・・のみからなる突起群に比べて光の反射率が低減する。
なお単峰性微小突起5のみからなる微小突起群を用いても、隣接突起間距離の最大値dmaxを反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長λmin以下の十分小さな値にすることによって、十分な反射防止効果を発現することは可能である。但し、その場合、隣接峰間の距離と隣接微小突起間距離とが同一となる為、隣接微小突起間が接触、一体複合化する現象(いわゆるスティッキング)が発生し易くなる。スティッキングを生じると、実質上の隣接突起間距離dは一体複合化した微小突起数の分だけ増加する。
例えば、d=200nmの微小突起が4個スティッキングすると、実質上、スティッキングして一体化した突起の大きさは、d=4×200nm=800nm>可視光線帯域の最長波長(780nm)となり、これにより局所的に反射防止効果を損なうことになる。
一方、多峰性微小突起5A、5B、・・からなる微小突起群の場合、頂部近傍の各峰間の隣接突起間距離dPEAKは、麓から中腹にかけての微小突起本体部の隣接突起間距離dBASEよりも小さくなり(dPEAK<dBASE)、通常、dPEAK=dBASE/4〜dBASE/2程度である。その為、各峰間の隣接突起間距離dPEAK≪λminとすることで十分な反射防止性能を得ることができる。但し、多峰性微小突起の各峰部は、麓部の幅に対する峰部の高さの比が小さく、単峰性微小突起の麓部の幅に対する頂点の高さの比の1/2〜1/10程度である。従って、同じ外力に対して、多峰性微小突起の峰部は単峰性微小突起に比べての変形し難い。且つ、多峰性微小突起の本体部自体は峰部よりも隣接突起間距離は大であり、且つ強度も大である。その為、結局、多峰性微小突起からなる微小突起群は、単峰性微小突起からなる突起群に比べて、スティッキングの生じ難さと低反射率とを容易に両立させることができる。
なお可視光の反射防止用途の他の用途であっても、又は可視光環境下であっても、当該反射防止材料が設置、使用される環境条件に応じて、想定する反射防止波長に応じたモスアイ構造を形成し、高さ分布を持たせる事により、前記の通り、従来のものより耐擦性があり、かつ、プロセス要件などで低硬度の材料を使用した場合においても互いのスティッキングを防止し、光学的必要性能を合わせ持つ反射防止材料を作製する事が可能となる。例えば、380nm前後の紫外領域について反射防止性能を得たい場合はモスアイの高さが約50nmでも可能であり、同様に700nm前後の赤外領域については約150nm〜実用上を考慮し400nmであれば可能である。なお、前記の通りモスアイの配置ピッチについては高さについて飽和するような製作条件を見出し、モスアイの反射率を効果的に操作する事が可能である。さらに、モスアイの頂部構造についても、従来の単峰から改良を加える事で高さと反射率を両立し、かつ物理的にスティッキングを起こしにくく、効果的に反射率を低減する事が可能となっている。
またさらにこの実施形態のように、単峰性の微小突起と多峰性微小突起とを混在させる場合には、アスペクト比の異なる単峰性の微小突起を混在させた場合と同様に、広い波長帯域で反射率を低減することができる。
すなわち陽極酸化処理により微細穴を作製する場合、特開2003−43203号公報等で既に知られている様に、隣接微細穴間距離(一定値で分布の無い場合はピッチに相当)と微細穴の深さとは比例する関係になる。これにより陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにより賦型用金型を作製し、この賦型用金型を使用した賦型処理によりこの種の反射防止物品を作製する場合、作製される単峰性の微小突起は、付け根部分の幅と高さとの比であるアスペクト比がほぼ一定に保持される。なおアスペクト比とは、微小突起の高さHを谷底における径W(幅又は太さと言う事もできる)で除した比、H/Wとして定義される。ここで、谷底における径とは、微小突起の谷底近傍の形状が円柱であれば、該円柱の(底面の)直径と一致する。微小突起の谷底近傍形状が円柱では無く、谷底を連ねた仮想的平面と微小突起とが交叉して得られる底面の径の大きさが面内方向によって異なる場合は、その最大値を該微小突起の径とする。例えば、微小突起の底面形状が楕円の場合は、径はその長径となる。又、微小突起の底面形状が多角形の場合は、径はその最大の対角線長となる。又、谷底部(高さの極小点からなる領域)の幅が径に比べて小さく2割以下の場合には、各微小突起のアスペクト比H/Wの平均値(H/W)aveは、設計上は実質、Have/daveと見做すことができる。
反射防止物品の反射防止機能は、微小突起の間隔だけでなく、アスペクト比にも依存し、アスペクト比が一定である場合、例えば可視光域では十分に小さな反射率を確保できる場合でも、紫外線域では可視光域に比して反射率が増大して反射防止機能が不足する。なお隣接突起間距離を一段と小さくして紫外線域で十分な反射防止機能を確保できるように設定することも考えられるものの、この場合は、赤外線域で反射率が増大することになる。
しかしながら多峰性微小突起を含む微小突起群では、同一微小突起の頂部近傍に存在する峰間距離が隣接突起間距離(通常100〜200nm程度)よりも小さい(通常10〜50nm程度)。かかる峰間距離の寄与によって、同一隣接突起間距離の単峰性微小突起のみからなる微小突起群に比べて、実効的な隣接突起間間隔を低下させたと同等の反射防止機能を確保することができ、これにより多峰性微小突起と単峰性微小突起との混在により広い波長帯域で低い反射率を確保することができる。なお可視光域を中心にした広い波長帯域で十分に小さな反射率を確保する場合、可視光域に係る波長480〜660nm帯域の光に対する反射防止性能に寄与する隣接突起間間隔、すなわち、d≦400nm、好ましくはd≦300nmとなる微小突起において、多峰性の微小突起と単峰性の微小突起とを混在させることが望ましい。
なおこれらこの実施形態に係る多峰性微小突起の特徴は、賦型用金型の対応する形状を備えた微細穴により作製される多峰性微小突起に固有の特徴であり、特開2012−037670号公報に開示の樹脂の充填不良により生じる多峰性微小突起によっては得ることができない特徴である。すなわち樹脂の充填不良による多峰性微小突起は、本来、単峰性の微小突起として作製される微細穴に十分に樹脂が充填されないことにより作製されるものであることにより、頂点間の間隔が極めて微小であり、これにより耐擦傷性の向上に殆んど寄与することができず、また上述したような光学特性の向上も困難である。
また充填不良による多峰性微小突起にあっては、再現性が乏しく、これにより均一な製品を量産できない欠点もあり、これに対してこの実施形態に係る多峰性微小突起は、いわゆる金型を使用した高い再現性により作製される金型由来の多峰性微小突起であり、均一かつ高い量産性を確保することができる。また後述の実施形態について詳述するように、この実施形態に係る多峰性微小突起は、高さ分布を制御できるのに対し、充填不良の多峰性微小突起については、このような制御が困難である。
〔白味の低減〕
ところで反射防止物品では、斜め方向より目視した場合に、表面が白味を帯びて(いわゆる白ちゃけである)観察され、この白味を低減することが望まれる。この白味は、多峰性微小突起に係る隣接突起間距離の制御により、より具体的には、多峰性微小突起に係る隣接突起間間隔の分布が、微小突起全体の隣接突起間間隔の分布に一致するように設定することにより、低減することができる。このためこの実施形態では、賦型用金型であるロール版に作成する微細穴のピッチを制御する。
より具体的に、隣接する前記微小突起間距離の分布において、平均値、標準偏差及びサンプル総数がそれぞれP、σ、Ntであるものとする。ここで平均値Pから標準偏差σだけ変位した範囲P±σ以内に属し、かつ微小突起間距離に係る2つの微小突起の少なくとも1つが多峰性微小突起である場合のサンプル数がNs1であり、この範囲P±σ以内に属していない場合であって、かつ微小突起間距離に係る2つの微小突起の少なくとも1つが多峰性微小突起である場合のサンプル数がNs2であるものとする。この実施形態では、比率Ns1/Ntが、比率Ns2/Ntより大きくなるように、単峰性の微小突起、多峰性微小突起の分布を設定する。
またよりさらに、より具体的に、多峰性微小突起に係る隣接突起間距離に係るサンプル総数(Ns1+Ns2)の55%以上が範囲P±σ以内に属し、さらにサンプル総数(Ns1+Ns2)の90%以上が範囲P±2σ以内に属するように設定する。
ここでこの分布の設定にあっては、上述の第1〜第5の工程における陽極酸化処理の印加電圧、印加時間、エッチング処理条件の制御により設定することができる。図15及び図16は、この設定により作製されたロール版を使用して生産された微小突起の高さの分布を示す図である。
図15は、第2工程、第3工程、第4工程で陽極酸化処理の印加電圧を連続的に変化させたものであり、また第5工程では、第4工程の印加電圧から印加電圧を低下させたものである。
より具体的に、図13の例は、陽極酸化工程とエッチング工程とを5回繰り返した場合であり、第1回目の陽極酸化工程の印加電圧をV1(15V〜35Vの範囲の一定電圧である)とした場合に、第2回目、第3回目、第4回目、第5回目の陽極酸化工程の印加電圧をそれぞれ2V1、3.5V1、5V1、V1とした例である。なお陽極酸化処理は、濃度0.02Mのシュウ酸水溶液を使用して100秒実施した。エッチング工程は、濃度0.02Mのシュウ酸水溶液を使用して45秒間エッチング処理した後、濃度1.0Mのリン酸水溶液を使用して110秒間エッチング処理した。
この図15に示す反射防止物品では、微小突起の高さ分布が正規分布を示しており、微小突起が作製されてなる面の鉛直線を中心とした比較的狭い範囲で、良好な反射防止物品防止機能を確保することができる。またこのときこのような高さ分布において、多峰性微小突起(頂点数が2つ及び3つのものをそれぞれ二峰、三峰により示す)についても、ほぼ平均値が一致した正規分布とすることができ、これにより効率良く多峰性微小突起の耐擦傷性の機能を発揮させることができ、また可視光域を中心とした広い波長帯域で十分に反射率を低減する等の、光学特性の機能向上を図ることができる。これにより携帯電話機や携帯ゲーム機等に使用される小型ディスプレイに使用することができる。
なおこの図15の例では、微小突起の高さHの平均値mが145.7nmであり、その標準偏差σが22.1nmであった。またこの平均値m及び標準偏差σにより低高度領域をH<m−σ、中高度領域をm−σ≦H≦m+σとなり、高高度領域をH>m+σを定義したとき、総数Nt(264個)の微小突起のうち、多峰性微小突起は、中高度領域、中高度領域、高高度領域にそれぞれ2個、23個、5個の分布が得られ、これによっても多峰性微小突起が概ね微小突起全体と同一の高さ分布を示していることが判る。
図16は、実施例2の反射防止物品を製造する賦型用金型は、徐々に印加電圧を可変して陽極酸化処理を実行し、第4工程では、図13の例による最高電圧に比して一段とより高い電圧により陽極酸化処理を実行ものである。
より具体的に図14の例は、図13の例と同一の繰り返し回数、溶液及び処理時間により陽極酸化工程、エッチング工程を実行した。この図14の例では、第1回目の陽極酸化工程の印加電圧をV1(15V〜35Vの範囲の一定電圧である)とした場合に、第2回目、第3回目、第4回目、第5回目の陽極酸化工程の印加電圧をそれぞれ2.5V1、4V1、6V1、V11/2〜V1とした例である。2回目から4回目の陽極酸化工程では、2回目の陽極酸化処理の開始電圧及び4回目の陽極酸化処理の終了電圧がそれぞれ2.5V1及び6V1となるように設定して、徐々に印加電圧を増大させた。
この図16の例では、高さの高い側と低い側とに分布のピークを有する双方性の特性による度数分布が得られ、高さの高い微小突起の分布を増大させることができ、さらに各分布に対応して多峰性微小突起の分布を形成することができる。これにより斜め方向からの光学特性を向上して広い視野角特性を向上することができる。また可視光域を中心とした広い波長帯域で十分に反射率を低下させることができる。
図17及び図18は、図15及び図16の例による反射防止物品について、隣接する微小突起間距離の分布を示す図である。この実施形態では、図2から図6について上述したと同様にして、各微小突起の頂点を検出した後、ドロネー図を作成して頂点間の隣接関係を定義し、ドロネー辺の長さにより隣接突起間の距離を計測した。但し、この図17及び図18の例では、多峰性微小突起に係る突起間距離の計測基準位置(頂点)は、当該多峰性微小突起の複数の頂点座標の平均値座標に設定した。図17及び図18は、この計測結果をヒストグラム化したものである。この実施形態では、さらにこの計測結果より平均値P及び標準偏差σを計測した。なお図17の例では、平均値P及び標準偏差σは、それぞれ120.4nm、25.1nmであった。また図18の例では、平均値P及び標準偏差σは、167.2nm、37.0nmであった。
このようにして求められた分布に係る突起間距離を、多峰性微小突起に係るものと、単峰性の微小突起に係るものとに分類した。なお微小突起間距離に係る2つの微小突起の少なくとも1つが多峰性微小突起である場合、多峰性微小突起に係る突起間距離に分類した。また多峰性微小突起に分類した突起間距離については、頂点数が多いものから順次、三峰、二峰に分類した。ここで図14等について上述したように、多峰性微小突起は周囲長が長いことにより、このようにして分類された突起間距離にあっては、突起間距離の長い側に分布が偏っていると予測されるものの、実際に計測した結果によれば、平均値近傍に分布が集中していることが判った。
具体的に、図17の例では、サンプル総数Ntが264個であり、平均値P±σ以内の範囲に属する多峰性突起に分類されるサンプル数Ns1が183個であり、範囲P±σ以内に属していない多峰性微小突起に分類されるサンプル数Ns2が81個であり、これにより比率Ns1/Nt(=0.69)が、比率Ns2/Nt(=0.31)より大きいように設定されていることが確認された。
なおこの図17の例では、平均値P±σ以内の範囲に属する多峰性突起に分類されるサンプル数Ns1は、多峰性微小突起の総数(Ns1+Ns2)の69.4%であり、さらに平均値P±2σの範囲に、総数(Ns1+Ns2)の多峰性微小突起の全てが属していた。これによりこの図17の例では、サンプル総数(Ns1+Ns2)の55%以上が範囲P±σ以内に属し、さらにサンプル総数(Ns1+Ns2)の90%以上が範囲P±2σ以内に属するとの条件も満足しており、これによっても多峰性微小突起に係る隣接突起間間隔の分布が、微小突起全体の隣接突起間間隔の分布に一致するように設定されていることが判る。
また図18の例では、サンプル総数Ntが135個であり、平均値P±σ以内の範囲に属する多峰性突起に分類されるサンプル数Ns1が88個であり、範囲P±σ以内に属していない多峰性微小突起に分類されるサンプル数Ns2が47個であり、これにより比率Ns1/Nt(=0.65)が、比率Ns2/Nt(=0.35)より大きいように設定されていることが確認された。
またさらにこの図18の例では、平均値P±σ以内の範囲に属する多峰性突起に分類されるサンプル数Ns1は、多峰性微小突起の総数(Ns1+Ns2)の65.2%であり、さらに平均値P±2σ以内の範囲に属する多峰性突起に分類されるサンプル数は、総数(Ns1+Ns2)の95.7%であった。これによりこの図18の例でも、サンプル総数(Ns1+Ns2)の55%以上が範囲P±σ以内に属し、さらにサンプル総数(Ns1+Ns2)の90%以上が範囲P±2σ以内に属するとの条件も満足しており、これによっても多峰性微小突起に係る隣接突起間間隔の分布が、微小突起全体の隣接突起間間隔の分布に一致するように設定されていることが判る。
図19及び図20は、本実施形態における実際の微小突起の形状を示す斜視図(図19)、平面図(図20(a))、正面図(図20(b))及び側面図(図20(c))である。これら図19及び図20は、等高線図である。上述したように、複数回の陽極酸化処理における印加電圧を切り替えることにより、この図19及び図20による微小突起においては、高さの大きく異なる3つの峰が合体して1つの微小突起が形成されており、ほぼ中央より外方に向かって形成された3本の放射状の溝(沢状の極小部)によりこの3つの峰に係る領域に分割されて微小突起が作製されていることが判る。なおこの図19及び図20は、AFMによる計測結果によるデータを部分的に選択して詳細に示したものである。またこの図19及び図20における数字の単位はnmである。X座標及びY座標は、所定の基準位置からの座標値である。
図21及び図22は、図19及び図20との対比により、3本の放射状の溝(沢状の極小部)微小突起の他の計測結果を示す図である。この図21及び図22の微小突起においては、ほぼ高さの等しい3つの峰が合体して1つの微小突起が作製され、該3つの峰は、頂部のほぼ中央部より外方に向かって延びた3本の放射状の溝によって区分されていることが判る。
図23及び図24は、図19〜図22と比により、同様の本実施形態における他の微小突起の計測結果を示す図である。この図23及び図24の微小突起においては、横に一列に並んだ複数の微小突起が結合したかのような形状により形成され、この並び方向と、並び方向と直交する方向とでアスペクト比が異なるように作成されている。このような方向によってアスペクト比が異なる微小突起により反射防止物品にあっては、その反射防止特性に方向性を持たせることができる。なおこの微小突起においては、各峰間の溝は該並び方向と直行する方向に伸びている。
なおこのようにして観察される結果によれば、各峰の内側にあっては、各峰の外側に比して表面の粗さが荒いように観察され、このように峰の内側と外側との粗さの相違により、賦型処理時の樹脂の充填不良により生じる多峰性微小突起との相違を見て取ることができる。なおこれらの斜視図等において、等高線が表されていない箇所は、計測の都合上、データが得られていない箇所である。
〔耐擦傷性の評価〕
表1は、耐擦傷性の評価結果を示す図である。図13の例による反射防止物品を単峰性微小突起のみによる同様の突起高さ分布による反射防止物品との比較によるものである。なお単峰性微小突起のみの反射防止物品は、繰り返しの陽極酸化処理の印加電圧を第2の工程以降においても第1の工程と同一の一定電圧として作製した。また単峰性微小突起のみによる双峰特性の分布による反射防止物品は、繰り返しの陽極酸化処理の印加電圧を2段階の切り替えにより実行して作製した。
この表1において、スチールウールの欄は、押し付け力100g及び200gによりスチールウールを押し付けて往復させた後の表面の変化を目視により確認した結果である。二重丸の印は、目視上傷、濁りは見られないとの評価が得られたものであり、三角の印は、目視上、1〜5本の傷を見る事ができるものであり、×の印は、目視上、6本以上の傷が観察されるものである。なお評価の範囲は、1辺5cmの矩形の領域である。これにより多峰性微小突起により充分に耐擦傷性が向上していることが判る。
また乾拭きの欄は、指紋を付着させた後、不織布を用いて溶剤を含まない乾いた状態での拭きを50往復させた時の、5°正反射率である。指紋を付着させた状態で、5°正反射率が4%となるように設定した。なお不織布は、KBセーレン社製、ザヴィーナミニマックス(登録商標)150mm□を使用した。また何ら指紋による汚れを付着させない状態における5°正反射率の初期値は、0.5%であった。この検討結果によれば、多峰性微小突起により付着した汚れがふき取り易くなって反射防止性能を指紋付着前に近い状態にまで回復していることが判り、このことは多峰性微小突起を設けた場合には、微小突起の付け根側に汚れが深くもぐり込まないことによるものと考えられる。これにより指紋に対する耐汚染性(易拭取り性)にも向上が見られる。
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態を組み合わせ、上述の実施形態の構成を種々に変更し、さらには従来構成と組み合わせることができる。
すなわち上述の実施形態では、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返し回数をそれぞれ3(〜5)回に設定する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、繰り返し回数をこれ以外の回数に設定してもよく、またこのように複数回処理を繰り返して、最後の処理を陽極酸化処理とする場合にも広く適用することができる。
また上述の実施形態では、反射防止物品を液晶表示パネル、電場発光表示パネル、プラズマ表示パネル等の各種画像表示パネルの表側面に配置して視認性を向上する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば液晶表示パネルの裏面側に配置してバックライトから液晶表示パネルへの入射光の反射損失を低減させる場合(入射光利用効率を増大させる場合)にも広く適用することができる。尚、ここで画像表示パネルの表面側とは、該画像表示パネルの画像光の出光面であり、画像観察者側の面でもある。又、画像表示パネルの裏面側とは、該画像表示パネルの表面の反対側面であり、バックライト(背面光源)を用いる透過型画像表示裝置の場合は、該バックライトからの照明光の入光面でもある。
また上述の実施形態では、賦型用樹脂にアクリレート系の紫外線硬化性樹脂を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、エポキシ系、ポリエステル系等の各種紫外線硬化性樹脂、或いはアクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電子線硬化性樹脂、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂を使用する場合にも広く適用することができ、さらには例えば加熱したアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性の樹脂を押圧して賦型する場合等にも広く適用することができる。
また、上述の実施形態では、図1に図示の如く、基材2の一方の面上に受容層(紫外線硬化性樹脂層)4を積層してなる積層体の該受容層4上に微小突起群5、5A、5B、・・を賦形し、該受容層4を硬化せしめて反射防止物品1を形成している。層構成としては2層の積層体となる。但し、本発明は、かかる形態のみに限定される訳では無い。本発明の反射防止物品1は、図示は略すが、基材2の一方の面上に、他の層を介さずに直接、微小突起群5、5A、5B、・・を賦形した単層構成であっても良い。或いは、基材2の一方の面に1層以上の中間層(層間の密着性、塗工適性、表面平滑性等の基材表面性能を向上させる層。プライマー層、アンカー層等とも呼称される。)を介して受容層4を形成し、該受容層表面に微小突起群5、5A、5B、・・を賦形した3層以上の積層体であっても良い。
更に、上述の実施形態では、図1にも図示の如く、基材2の一方の面上にのみ(直接或いは他の層を介して)微小突起群5、5A、5B、・・を形成しているが、本発明はかかる形態には限定され無い。基材2の両面上に(直接或いは他の層を介して)各々微小突起群5、5A、5B、・・を形成した構成であっても良い。基材2の両面上に微小突起群5、5A、5B、・・を有する形態の場合、該微小突起群を一方の面上にのみ該微小突起群を有する形態に比べ、反射防止性能が大きく向上する。例えば、空気と基材2自体との界面に於ける光の反射率が4%であり、微小突起群と空気との界面に於ける光の反射率が0.2%である場合、基材2の表(又は裏)面から裏(又は表)面に透過する光に対する表裏両面を合計した反射率は、微小突起群を有する層(受容層4)と基材2との界面の反射率の寄与を0%と見做すと、
(1)基材の表裏両面上に微小突起群が無い場合は、8%。
(2)基材の一方の面上にのみ微小突起群を有する場合は、4.2%。
(3)基材の表裏両面上に微小突起群を有する場合は、0.4%。
となる。
また、図示は略すが、図1等に図示の如き本発明の反射防止物品1において、基材2の微小突起群形成面とは反対側の面(図1においては基材2の下側面)に各種接着剤層を形成し、更に該接着剤層表面に離型フィルム(離型紙)を剥離可能に積層してなる接着加工品の形態とすることも出来る。かかる形態においては、離型フィルムを剥離除去して接着剤層を露出せしめ、該接着剤層により所望の物品の所望の表面上に本発明の反射防止物品1を貼り合わせ、積層することが出来、簡便に所望の物品に反射防止性能を付与することが出来る。接着剤としては、粘着剤(感圧接着剤)、2液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、熱熔融型接着剤等の公知の接着形態のものが各種使用出来る。
また、図示は略すが、図1等に図示の如き本発明の反射防止物品1において、微小突起群5、5A、5B、・・形成面上に剥離可能な保護フィルムを仮接着した状態で保管、搬送、売買、後加工乃至施工を行い、しかる後に適時、該保護フィルムを剥離除去する形態とすることも出来る。かかる形態においては、保管、搬送等の間に微小突起群が損傷乃至は汚染して反射防止性能が低下することを防止することが出来る。
また、上述の実施形態では、図1、図11(a)に示すように、各隣接微小突起間の谷底(高さの極小点)を連ねた面は高さが一定な平面であったが、本発明はこれに限らず、図7に示すように、各微小突起間の谷底を連ねた包絡面が、可視光線帯域の最長波長λmax以上の周期D(すなわちD>λmaxである)でうねった構成としてもよい。又該周期的なうねりは、基材2の表裏面に平行なXY平面(図11、図7参照)における1方向(例えばX方向)のみでこれと直交する方向(例えばY方向)には一定高さであっても良いし、或いはXY平面における2方向(X方向及びY方向)共にうねりを有していても良い。D>λmaxを満たす周期Dでうねった凹凸面6が多数の微小突起からなる微小突起群に重畳することによって、微小突起群で完全に反射防止し切れずに残った反射光を散乱し、殘留反射光、とくに鏡面反射光を更に視認し難くし、以って、反射防止効果を一段と向上させることができる。
尚、係る凹凸面6の周期Dが全面に亙って一定では無く分布を有する場合は、該凹凸面について凸部間距離の度数分布を求め、その平均値をDAVG、標準偏差をΣとしたときの、
DMIN=DAVG―2Σ
として定義する最小隣接突起間距離を以って周期Dの代わりとして設計する。即ち、微小突起群の殘留反射光の散乱効果を十分奏し得る条件は、
DMIN>λmax
又、該凹凸の高低差に相当するJIS B0601(1994年)規定のRz値(10点平均粗さ)は、
Rz≧λmin
である。通常、D又はDMINは1〜600μm、好ましくは10〜300μmとされる。又、通常、Rzは0.4〜5μmとされる。
各微小突起の谷底を連ねた包絡面形が、D(又はDMIN)>λmax、なる凹凸面6を呈する樣な微小突起群を形成する具体的な製造方法の一例を挙げると以下の通りである。即ち、ロール版13の製造工程において、円筒(又は円柱)形状の母材の表面にサンドブラスト又はマット(つや消し)メッキによって凹凸面6の凹凸形状に対応する凹凸形状を賦形する。次いで、該凹凸形状の面上に、直接或いは必要に応じて適宜の中間層を形成した後、アルミニウ層を積層する。その後、該凹凸形状表面に対応した表面形状を賦形されたアルミニウム層に上述の実施形態と同様にして陽極酸化処理及びエッチング処理を施して微小突起5、5A、5Bを含む微小突起群を形成する。
また上述の実施形態では、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにより賦型処理用の金型を作製する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、フォトリソグラフィーの手法を適用して賦型処理用の金型を作製する場合にも広く適用することができる。
また上述の実施形態では、ロール版を使用した賦型処理によりフィルム形状による反射防止物品を生産する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、反射防止物品の形状に係る透明基材の形状に応じて、例えば平板、特定の曲面形状による賦型用金型を使用した枚葉の処理により反射防止物品を作製する場合等、賦型処理に係る工程、金型は、反射防止物品の形状に係る透明基材の形状に応じて適宜変更することができる。
また上述の実施形態では、画像表示パネルの表側面、或いは照明光の入射面にフィルム形状による反射防止物品を配置する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の用途に適用することができる。具体的には、画像表示パネルの画面上に間隙を介して設置されるタッチパネル、各種の窓材、各種光学フィルタ等による表面側部材の裏面(画像表示パネル側)に配置する用途に適用することができる。なおこの場合には、画像表示パネルと表面側部材との間の光の干渉によるニュートンリング等の干渉縞の発生の防止、画像表示パネルの出光面と表面側部材の入光面側との間の多重反射によるゴースト像の防止、さらには画面から出光されてこれら表面側部材に入光する画像光について、反射損失の低減等の効果を奏することができる。
或いは、タッチパネルを構成する透明電極を、フィルム或いは板状の透明基材上に本発明特定の微小突起群を形成し、更に該微小突起群上にITO(酸化インジウム錫)等の透明導電膜を形成したものを用いることが出来る。この場合には、該タッチパネル電極とこれと隣接する対向電極又は各種部材との間での光反射を防止して、干渉縞、ゴースト像等の発生を低減させる効果を奏することが出来る。
また店舗のショウウインドウや商品展示箱、美術館の展示物の展示窓や展示箱等に使用する硝子板表面(外界側)、或いは表面及び裏面(商品又は展示物側面)の両面に配置するようにしても良い。なおこの場合、該硝子板表面の光反射防止による商品、美術品等の顧客や観客に対する視認性を向上することができる。
また眼鏡、望遠鏡、写真機、ビデオカメラ、銃砲の照準鏡(狙撃用スコープ)、双眼鏡、潜望鏡等の各種光学機器に用いるレンズ又はプリズムの表面に配置する場合にも広く適用することができる。この場合、レンズ又はプリズム表面の光反射防止による視認性を向上することができる。またさらに書籍の印刷部(文字、写真、図等)表面に配置する場合にも適用して、文字等の表面の光反射を防止し、文字等の視認性向上することができる。また看板、ポスター、其の他各種店頭、街頭、外壁等における各種表示(道案内、地図、或いは禁煙、入口、非常口、立入禁止等)の表面に配置して、これらの視認性を向上することができる。またさらに白熱電球、発光ダイオード、螢光燈、水銀燈、EL(電場発光)等を用いた照明器具の窓材(場合によっては、拡散板、集光レンズ、光学フィルタ等も兼ねる)の入光面側に配置するようにして、窓材入光面の光反射を防止し、光源光の反射損失を低減し、光利用効率を向上することができる。またさらに時計、其の他各種計測機器の表示窓表面(表示観察者側)に配置して、これら表示窓表面の光反射を防止し、視認性を向上することができる。
またさらに、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の乗物の操縦室(運転室、操舵室)の窓の室内側、室外側、あるいはその両側の表面に配置して窓における室内外光を反射防止して、操縦者(運転者、操舵者)の外界視認性を向上することができる。またさらに、防犯等の監視、銃砲の照準、天体観測等に用いる暗視装置のレンズないしは窓材表面に配置して、夜間、暗闇での視認性を向上することができる。
またさらに、住宅、店舗、事務所、学校、病院等の建築物の窓、扉、間仕切、壁面等を構成する透明基板(窓硝子等)の表面(室内側、室外側、あいはその両側)の表面に配置して、外界の視認性、あるいは採光効率を向上することができる。またさらに、各種店舗、美術館、博物館等で用いる商品乃至展示品を収納し、展示する各種の展示箱乃至ショウケースの透明窓(又は扉)部の表面、裏面、又は表裏両面に配置して、展示する商品乃至展示品の視認性向上することができる。またさらに、温室、農業用ビニールハウスの透明シート、ないしは透明板(窓材)の表面に配置して、太陽光の採光効率を向上することができる。さらにまた、太陽電池表面に配置して、太陽光の利用効率(発電効率)を向上することができる。
またさらに、上述の実施形態においては、反射防止を図る電磁波の波長帯域を、専ら、可視光線帯域(の全域又は一部帯域)としたが、本発明はこれに限らず、反射防止を図る電磁波の波長帯域を赤外線、紫外線等の可視光線以外の波長帯域に設定しても良い。その場合は前記の各条件式中において、電磁波の波長帯域の最短波長Λminを、それぞれ、赤外線、紫外線等の波長帯域における反射防止効果を希望する最短波長に設定すれば良い。例えば、最短波長Λminが850nmの赤外線帯域の反射防止を希望する場合は、隣接突起間距離d(乃至は其の最大値dmax)を850nm以下、例えば、d(dmax)=800nmと設計すれば良い。尚、この場合は、可視光線帯域(380〜780nm)に於いては反射防止効果は期待し得ず、專ら波長850nm以上の赤外線に対しての反射防止効果を奏する反射防止物品が得られる。
以上例示の各種実施形態において、硝子板等の透明基板の表面、裏面、或いは表裏両面に本発明のフィルム状の反射防止物品を配置する場合、該透明基板の全面に亙って配置、被覆する以外に、一部分の領域にのみ配置することも出来る。かかる例としては、例えば、1枚の窓硝子について、其の中央部分の正方形領域において、室内側表面にのみフィルム状の反射防止物品を粘着剤で貼着し、その他領域には反射防止物品を貼着し無い場合を挙げることが出来る。透明基板の一部分の領域にのみ反射防止物品を配置する形態の場合は、特別な表示や衝突防止柵等の設置無しでも、該透明基板の存在を視認し易くして、人が該透明基板に衝突、負傷する危険性を低減する効果、及び室内(屋内)の覗き見防止と該透明基板の(該反射防止物品の配置領域における)透視性とが両立出来ると言う効果を奏し得る。