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JP5524254B2 - ミラー駆動装置及びその制御方法 - Google Patents

ミラー駆動装置及びその制御方法 Download PDF

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JP5524254B2 JP2012029444A JP2012029444A JP5524254B2 JP 5524254 B2 JP5524254 B2 JP 5524254B2 JP 2012029444 A JP2012029444 A JP 2012029444A JP 2012029444 A JP2012029444 A JP 2012029444A JP 5524254 B2 JP5524254 B2 JP 5524254B2
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Description

本発明はミラー駆動装置及びその制御方法に係り、特に、光走査などに用いる光偏向器に好適なマイクロミラーデバイスの構造及びその駆動制御技術に関する。
シリコン(Si)の微細加工技術を用いて作製されたマイクロスキャナ(以下、「MEMS(Micro Electro Mechanical System)スキャナ」という。)は、従来の光走査モジュールであるポリゴンミラーなどと比べて小型かつ低消費電力であることが特徴である。このためMEMSスキャナは、レーザープロジェクタから光干渉断層計(OCT;Optical Coherence Tomography)のような光診断用スキャナなど、幅広い応用が期待されている。
MEMSスキャナの駆動方式は様々であるが、その中でも圧電体の変形を利用した圧電駆動方式は、他の方式に比べて単位面積あたりのトルクが大きく、かつ駆動回路も単純であるため、小型で大きなスキャン角度が得られる方式として有望視されている。
しかしながら、共振を用いない圧電アクチュエータは変位が小さいという問題がある。例えば、OCTなどの内視鏡光診断の分野では、測定対象上におけるスキャン長が最低1mm以上であることが求められる(非特許文献1参照)。例えば、直径5ミリ(5mmφ)の内視鏡プローブ内に内蔵されるMEMSスキャナがプローブ外0.5mmのポイントをラジアルスキャンする場合、1mm以上スキャンするためには最低20°以上の光学振れ角が必要となる。このような大きな光学振れ角は、圧電ユニモルフカンチレバー単体では実現が難しく、工夫を必要とする。
ミラーを大きく傾けるための手段として、例えば、カンチレバー自体を複数折り畳んだミアンダ状とし、ミラー部を挟みこむような構造で、かつ可動板を用いたジンバル構造とすることで非共振の二次元(2−D)駆動を実現する構造が提案されている(非特許文献2参照)。この方式では、圧電カンチレバーを折り畳み、交互に逆方向の曲げを誘起するように駆動することによって変位を拡大させ、共振を用いなくてもミラーを大きく傾けることができる。
しかしながら、この構造は、圧電カンチレバーを多く折り畳めばそれだけ大きな回転角が得られるが、同時にミラーの回転運動および並進運動の共振周波数が下がっていく。これは以下の問題を引き起こす。
(1)環境振動によってミラーの共振が容易に励起されてしまう。
(2)三角波・ノコギリ波でミラーを回転駆動した際、回転運動の共振振動(サイン波成分)が重畳し、駆動応答波形が変化してしまう。
特に(1)の問題は、車載用途や内視鏡用途などの環境振動が多く入る用途の場合において、スキャン中の光路長変動、スポットの位置ずれを引き起こすため、実際の使用では致命的な問題となる。
また、ジンバル構造を採用したことでデバイスサイズが大型化してしまうため、一般にデバイスサイズ3×3mm以下が求められる内視鏡用途への適用は難しい。デバイスの小型化の観点から、ジンバル構造を採用しない非共振の2次元(2−D)スキャナが望まれている。非特許文献3では、ジンバル構造を用いない熱バイモルフ型の非共振2次元(2−D)MEMSスキャナが試作されている。
しかし、非特許文献3に記載された構造では、例えばx軸周りでミラーを回転駆動させるときに、駆動に関与していない他の軸のアクチュエータによる反力が働くため、駆動の効率が著しく落ちる。
一方、特許文献1には、図26のような構造が提案されている。この図26は、特許文献1における図3として開示されたものを引用した。上述で述べたような隣りあうアクチュエータが逆方向の屈曲変位を行い、変位角を蓄積してミラーに伝えるものであり、かつ直交する2つの軸方向の周りで屈曲回転するカンチレバーをそれぞれ複数有していることで、これらの軸周りでの2次元回転が可能である。この構造によるとある軸周りで回転する際に、それ以外の軸周りでの駆動を司るアクチュエータによる反力は生じず、力を有効に利用できる。
しかし、図26に示す構造には以下のような問題がある。
・垂直方向の外部振動が生じると、慣性力によって、ミラーの角度変位が生じてしまう。
・十分な変位を得るために多数のカンチレバーを折り畳んでいるため、共振周波数が低く、外乱の影響を受けやすい。
・ミラーの中心がデバイスの中心と一致していないため、内視鏡のような円筒形のチューブ内にミラー中心が配置されるようにMEMSを設置する場合は、およそ倍のスペースを必要とする。
特開2008−40240号公報
D. McCormick et.al., ‘A ThreeDimensional Real-Time MEMS Based OpticalBiopsy System for In-VivoClinical Imaging’ in 'Solid-State Sensors, Actuators andMicrosystems Conference, 2007. TRANSDUCERS 2007. International', pp. 203 -208. M. Tani, M. Akamatsu, Y. Yasuda, H. Toshiyoshi., ‘A two-axis piezoelectric tilting micromirror with a newly developed PZT-meandering actuator’ in 'Micro Electro Mechanical Systems, 2007. MEMS. IEEE 20th International Conference (2007) pp. 699-702. Singh, J.; Teo, J. H. S.; Xu,Y.; Premachandran, C. S.; Chen, N.; Kotlanka, R.; Olivo, M. & Sheppard, C. J. R. (2008), 'A two axes scanning SOI MEMS micromirror for endoscopic bioimaging', Journal ofMicromechanics and Microengineering 18(2), 025001.
上述のように、従来のMEMSスキャナには、次のような課題がある。
<振れ角に関する課題>
[1]共振を利用しないMEMSスキャナは、一般に振れ角が小さい。
[2]圧電カンチレバーを折りたたむなどして振れ角を大きくしようとすると共振周波数が下がり、応答速度が落ちるとともに外乱振動によるノイズが飛躍的に大きくなる。
[3]また、スパッタ法などの薄膜製造技術を用いてPZT薄膜を形成し、圧電アクチュエータを製造する場合、PZT薄膜の残留応力によってアクチュエータの初期反りが生じ、それによってミラーに初期傾きが生じてしまう。特に、圧電性能が高いNbドープPZTを用いる場合、残留応力が高いためにこの問題は顕著である。
[4]圧電アクチュエータを作動させる際に、PZTの分極反転を防ぐためにDCオフセットを印加した駆動を行うと、ミラーの回転角度にオフセットが生じてしまう。特に、圧電性能が高いNbドープPZTを用いる場合、分極反転電界が小さいためにDCオフセット電圧の印加は必須であり、この問題は深刻である。
<2次元駆動に関する課題>
[5]回転可動板を用いて2つの軸周りで駆動する「ジンバル方式」の場合、素子サイズが大型化してしまう。
[6]ジンバル構造を用いない従来の構造の場合、x軸周り回転用アクチュエータによってミラーをx軸周りで回転させると、y軸周りで回転させるためのアクチュエータも変形してしまい、反発力を受ける。このため、ジンバル方式に比べて振れ角が落ちる。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、上述の課題を解決することができるミラー駆動装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために本発明に係るミラー駆動装置は、光を反射する反射面を有するミラー部と、ミラー部の対角部分に形成されたミラー支持部と、ミラー部の周囲を取り囲んで配置された第1アクチュエータ及び第2アクチュエータと、を備え、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータのそれぞれは、長手方向が第1軸の方向に向いた複数の第1圧電カンチレバーと、長手方向が前記第1軸と非平行の第2軸の方向に向いた複数の第2圧電カンチレバーとが折り畳まれるように連結された構造を有し、各アクチュエータの一方の端部はミラー支持部を介してミラー部に接続され、他方の端部は一方の端部が連結されているミラー支持部の近傍で固定部に接続されている構造を有し、一方の端部が連結されているミラー支持部と他方の端部が接続されている固定部とは、複数の第1圧電カンチレバーから構成される第2軸回転用アクチュエータ要素の第2軸方向の幅寸法の範囲内で近傍となるように、複数の第1圧電カンチレバーと複数の第2圧電カンチレバーとが折り畳まれるように連結された構造を有している
他の発明態様については、明細書及び図面の記載により明らかにする。
本発明によれば、複数の圧電カンチレバーの組み合わせによって大きな振れ角でミラー部を傾けることができる。また、圧電定数が高いNbドープPZTなど、良好な圧電特性を持つ材料を用いると、比較的少ない折り畳み数で大きな振れ角が得られるため、共振周波数を高く設計できる。これにより高速応答が可能となり、外乱振動による影響を大幅に抑えることができる。さらに、圧電体の残留応力による初期撓みやオフセット駆動などによって全ての圧電カンチレバーに同方向の撓みが生じても、これらの変位は全体的にキャンセルされ、ミラー部の振れ角および垂直変位に影響を与えない。また、本発明によれば、アクチュエータ・ミラーをほぼ最密に配置できるため、素子サイズの小型化を実現できる。
第1実施形態に係るMEMSスキャナデバイスの平面図 図1の部分拡大図 図1のデバイス構造を模式的に示した図 圧電カンチレバーの断面図 x軸周りのミラー回転を説明するために用いた模式図 図5中のA−B線に沿った切断面をx軸の正方向から見た模式図 図5中のA’−B’線に沿った切断面をx軸の正方向から見た模式図 x軸周りのミラー回転の様子を示す斜視図 y軸周りのミラー回転を説明するために用いた模式図 図9中のA−B線に沿った切断面をy軸の負方向から見た模式図 図9中のA’−B’線に沿った切断面をy軸の負方向から見た模式図 y軸周りのミラー回転の様子を示す斜視図 ミラー部を駆動するためのアクチュエータに駆動電圧を供給する駆動回路の構成例を示した説明図 実施形態に用いた圧電体膜のPr−Eヒステリシス特性を示す図 14の特性を有する圧電体膜を備えた圧電アクチュエータの駆動電圧と変位の関係を示す図 全てのカンチレバーに同方向の屈曲変位が生じた際の変形状況の例を示した斜視図 一次共振モードによる動きを示す斜視図 二次共振モードによる動きを示す斜視図 第2実施形態に係るMEMSスキャナデバイスの構成を示す模式図 比較例に係るMEMSスキャナデバイスの構成を模式平面図 実施例1、実施例2、及び比較例によるそれぞれのデバイスの評価をまとめた図表 ミラー部の他の形状例を示す平面図 ミラー部の他の形状例を示す平面図 第3実施形態に係るMEMSスキャナデバイスの構成を示す模式平面図 圧電カンチレバーの折り畳み数を変えた他の実施形態を示す模式平面図 従来のMEMSスキャナデバイスの構造を示す斜視図
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。
〔第1実施形態〕
図1は第1実施形態に係るMEMSスキャナデバイスの平面図であり、図2は図1の部分拡大図である。また、図3は図1のデバイス構造を模式的に示した図である。これらの図面に示したように、本実施形態に係るMEMSスキャナデバイス10(「ミラー駆動装置」に相当)は、ミラー部12と、このミラー部12の周囲を取り囲むように配置された2つのアクチュエータ14、24と、これらアクチュエータ14、24を支持する固定枠30と、を備える。ミラー部12の対角位置にはミラー支持部15、25が形成されており、各アクチュエータ14、24の一方の端部はミラー支持部15、25に接続され、他方の端部は符号31、32で示す固定部に固定されている。
本例のミラー部12は、図示のように平面視で略矩形であり、光を反射する反射面12Bとなるミラー面(ミラー部12の上面)には、入射光の反射率を高めるために、Au(金)やAl(アルミ)等の金属薄膜が形成されている。ミラーコーティングに用いる材料や膜厚は特に限定されず、公知のミラー材料(高反射率材料)を用いて様々な設計が可能である。
ミラー部12の形状について「矩形」とは厳密な矩形(四角形)に限らず、全体的な基本形状として概ね矩形と把握できる形状であることを意味する。例えば、矩形の角部が面取りされたもの、角部が丸められたもの、辺の一部又は全部が曲線や折れ線で構成されるもの、ミラー部12とアクチュエータ14、24との接続部分(符号15、25で示すミラー支持部)に連結上必要な付加的形状が追加されたものなども含まれる。図1では最も単純な例として、平面視で正方形のミラー部12を例示するが、ミラー部12の形状は図示の例に限定されない。また、ミラー部12の平面視形状と反射面12Bの形状は一致してもいいし、異なっていてもよい。反射面12Bはミラー部12における上面の面積範囲内で形成することができる。
ミラー部12は、一対の対角の頂点付近(図1において左下の頂点付近と右上の頂点付近)でミラー支持部15、25を介してアクチュエータ14、24の連結されている。
ミラー部12を駆動するためのアクチュエータ14、24は、矩形のミラー部12における一対の対角の頂点付近(図1において左下の頂点付近と右上の頂点付近)でミラー支持部15、25を介してミラー部12に連結されている。なお、ミラー支持部15、25の形成位置は、目的の作用効果が達成できる範囲でミラー部12の対角位置付近であればよく、必ずしも厳密な意味での「対角」の頂点位置に限定されるものではない。
図1において、ミラー部12の左辺及び上辺に沿ってL字形に配置されるアクチュエータ(符号14)を「第1アクチュエータ」と呼び、ミラー部12の右辺及び下辺に沿ってL字形に配置されるアクチュエータ(符号24)を「第2アクチュエータ」と呼ぶ。また、図1中、紙面の水平方向(横方向)にx軸をとり、y軸を垂直方向(紙面の縦方向)にとる。また、紙面(xy平面)に対して垂直な方向にz軸をとる。このような直交3軸(xyz軸)を導入してデバイス構造やその動作を説明する。y軸が「第1軸」に相当し、x軸が「第2軸」に相当する。
第1アクチュエータ14は、複数の圧電カンチレバー(本例では4つの圧電カンチレバー16-1,16-2,17-1,17-2)を折り畳むようにつなぎ合わせて構成されている。第1アクチュエータ14を構成する複数の圧電カンチレバー(16-1,16-2,17-1,17-2)のうち、長手方向をy軸方向に向けてx方向に位置を変えて並ぶように配置された複数の(ここでは2本の)圧電カンチレバー16-1,16-2(「第1圧電カンチレバー」に相当)は、ミラー部12をx軸周りで回転させるための駆動に用いられる。
また、長手方向をx軸方向に向けてy方向に位置を変えて並ぶように配置された複数の(ここでは2本の)圧電カンチレバー17-1,17-2(「第2圧電カンチレバー」に相当)は、ミラー部12をy軸周りで回転させるための駆動に用いられる。
すなわち、第1アクチュエータ14は、ミラー部12をx軸周りで回転させるための複数の圧電カンチレバー16-1、16-2と、ミラー部12をy軸周りで回転させるための複数の圧電カンチレバー17-1、17-2から構成される。x軸回転用の複数の圧電カンチレバー16-1、16-2は、それぞれの長手方向がy軸方向に向き、これら複数の圧電カンチレバー16-1、16-2がミラー部12の第1辺(図1中で左辺)の外側においてx軸方向に隣り合うように並んで配置される。複数の圧電カンチレバー16-1、16-2によってx軸回転用アクチュエータ要素(「第2軸回転用アクチュエータ要素」に相当)が構成される。
y軸回転用の複数の圧電カンチレバー17-1、17-2は、それぞれの長手方向がx軸方向に向き、これら複数の圧電カンチレバー17-1、17-2がミラー部12の第2辺(図1中で上辺)の外側においてy軸方向に隣り合うように並んで配置される。複数の圧電カンチレバー17-1、17-2によってy軸回転用アクチュエータ要素(「第1軸回転用アクチュエータ要素」に相当)が構成される。
y軸回転用の複数の圧電カンチレバー17-1、17-2は、一方の端部同士(図1において左側の端部同士)が接続されており、x軸方向に折り返すよう連結されている(図2参照)。圧電カンチレバー17-1、17-2の折り返し連結部18と反対側の各圧電カンチレバー17-1、17−2の端部は、それぞれ連結部19-1,19-2を介してx軸回転用の圧電カンチレバー16-1、16-2の端部に接続されており、y軸回転用の圧電カンチレバー17-1,17-2と、x軸回転用の圧電カンチレバー16-1,16-2はL字形に(直角に折り曲がる形態で)互いに連結される。
x軸回転用の複数の圧電カンチレバー16-1、16-2のうち、ミラー部12に近い方の圧電カンチレバー16-2の一端(y軸回転用の圧電カンチレバー17-2との連結部19-2と反対側の端部)は、図1においてミラー部12の左下角部の付近でミラー支持部15を介してミラー部12に連結されている。
また、x軸回転用の複数の圧電カンチレバー16-1、16-2のうち、ミラー部12から遠い方の圧電カンチレバー16−1の基端部(y軸回転用の圧電カンチレバー17-1との連結部19-1と反対側の端部)は、図1においてミラー部12の左下角部の近くで、すなわち、ミラー支持部15の近傍で固定枠30の第1固定部31に固定されている。
第1固定部31から見ると、当該第1固定部31に圧電カンチレバー16-1の基端部が支持され、長手方向をy軸方向に向けた圧電カンチレバー16-1の先端部に圧電カンチレバー17-1がx軸方向に長手方向を向けて接続されている。この圧電カンチレバー17-1の先に圧電カンチレバー17-2がx軸方向に折り返すように連結され、さらに、圧電カンチレバー17-2の先に圧電カンチレバー16-2がy軸方向に折り畳むように接続される。最終的に圧電カンチレバー16-2の先端がミラー部12の角部付近(図1においてミラー部12の左下角部の近く)でミラー部12と連結され、ミラー支持部15によってミラー部12が支持されている。
このように複数本の圧電カンチレバー16-1,17-1,17-2,16-2を折り畳むような構造で順次繋ぎ合わせ、第1アクチュエータ14の第1固定部31とミラー支持部15が非常に近くになるような構造にする。
圧電カンチレバーの残留応力による初期撓み、オフセット駆動などの影響をキャンセルするためには、第1固定部31とミラー支持部15の距離は、なるべく近いほど好ましい。ただし、第1アクチュエータ14の構造的な制約から、両者の位置を一致させることはできない。図1の場合、第1固定部31とミラー支持部15の距離は、圧電カンチレバー16-2の短手方向の幅寸法(w)程度離れることになる(図3参照)。また、第1固定部31として、図3中の圧電カンチレバー16-1の下端面に代えて、当該圧電カンチレバー16-1の下端部の左側面部分を固定する態様も考えられるため、この場合は、固定部とミラー支持部15の距離は、2つの圧電カンチレバー16-1、16-2からなるx軸回転用アクチュエータ要素のx軸方向の幅寸法(w)程度離れることになる。
このような観点から、第1固定部31とミラー支持部15の近傍の程度は、複数の圧電カンチレバー16-1、16-2からなるx軸回転用アクチュエータ要素のx軸方向の幅寸法(w)の範囲内は許容されるものとなる。
第2アクチュエータ24は第1アクチュエータ14と同様の構造であり、第2アクチュエータ24と第1アクチュエータ14は、ミラー部12を挟んで対角の位置関係で配置される。すなわち、第2アクチュエータ24は、複数の圧電カンチレバー(本例では4つの圧電カンチレバー26-1,26-2,27-1,27-2)をつなぎ合わせて構成されている。第2アクチュエータ24は、ミラー部12をx軸周りで回転させるための複数の圧電カンチレバー26-1,26-2(「第1圧電カンチレバー」に相当)と、ミラー部12をy軸周りで回転させるための複数の圧電カンチレバー27-1,27-2(「第2圧電カンチレバー」に相当)から構成される。x軸回転用の複数の圧電カンチレバー26-1、26-2は、それぞれの長手方向がy軸方向に向き、これら複数の圧電カンチレバー26-1、26-2がミラー部12の第3辺(図1中で右辺)の外側においてx軸方向に隣り合うように並んで配置される。複数の圧電カンチレバー26-1、26-2によってx軸回転用アクチュエータ要素(「第2軸回転用アクチュエータ要素」に相当)が構成される。
y軸回転用の複数の圧電カンチレバー27-1、27-2は、それぞれの長手方向がx軸方向に向き、これら複数の圧電カンチレバー27-1、27-2がミラー部12の第4辺(図1中で下辺)の外側においてy軸方向に隣り合うように並んで配置される。複数の圧電カンチレバー27-1、27-2によってy軸回転用アクチュエータ要素(「第1軸回転用アクチュエータ要素」に相当)が構成される。
y軸回転用の複数の圧電カンチレバー27-1,27-2は、一方の端部同士が接続されており、x軸方向に折り返すよう連結されている。圧電カンチレバー27−1,27−2の折り返し連結部28と反対側の各圧電カンチレバー27-1、27−2の端部は、それぞれ連結部29−1,29−2を介してx軸回転用の圧電カンチレバー26-1,26-2の端部に接続されており、y軸回転用の圧電カンチレバー27-1,27-2と、x軸回転用の圧電カンチレバー26-1,26-2はL字形に(直角に折り曲がる形態で)互いに連結される。
x軸回転用の複数の圧電カンチレバー26-1,26-2のうち、ミラー部12に近い方の圧電カンチレバー26-2の一端(y軸回転用の圧電カンチレバー27-2との連結部29-2と反対側の端部)は、図1においてミラー部12の右上角部の付近でミラー支持部25を介してミラー部12に連結されている。
また、x軸回転用の複数の圧電カンチレバー26-1,26-2のうち、ミラー部12から遠い方の圧電カンチレバー26-1の基端部(y軸回転用の圧電カンチレバー27-1との連結部29-1と反対側の端部)は、図1においてミラー部12の右上角部の近くで、すなわち、ミラー支持部25の近くで固定枠30の第2固定部32に固定されている。
第2固定部32から見ると、当該第2固定部32に圧電カンチレバー26-1の基端部が固定され、長手方向をy軸方向に向けた圧電カンチレバー26-1の先端部に圧電カンチレバー27-1がx軸方向に長手方向を向けて接続されている。この圧電カンチレバー27-1の先に圧電カンチレバー27-2がx軸方向に折り返すように連結され、さらに、圧電カンチレバー27-2の先に圧電カンチレバー16-2がy軸方向に折り畳むように接続される。最終的に圧電カンチレバー26-2の先端がミラー部12の角部付近(図1においてミラー部12の右上角部の近く)でミラー支持部25を介してミラー部12と連結されている。このように複数本の圧電カンチレバー26-1,27-1,27-2,26-2を折り返すような構造で順次繋ぎ合わせ、第2アクチュエータ24の第2固定部32とミラー支持部25が非常に近くになるような構造にする。第2固定部32とミラー支持部25の近傍の程度については、第1固定部31とミラー支持部15の位置関係と同様である。
図1において、符号41,42,43,44は、第1アクチュエータ14を構成する各圧電カンチレバー16-1,16-2、17-1,17-2に駆動電圧を供給するためのドライブパッド(駆動電力供給端子)である。図1では図示を省略しているが、各ドライブパッド41,42,43,44は、細い配線51,52,53,54を介して、対応する圧電カンチレバー16-1,16-2、17-1,17-2の上部電極と接続されている。
また、符号61,62,63,64は、第2アクチュエータ24を構成する圧電カンチレバー26-1,26-2、27-1,27-2に駆動電圧を供給するためのドライブパッドである。図1では図示を省略しているが、各ドライブパッド61,62,63,64は、細い配線71,72,73,74を介して、対応する圧電カンチレバー26-1,26-2、27-1,27-2の上部電極と接続されている。
参考のために、図1の圧電カンチレバー17-1,17-2の連結部18付近の拡大図を図2に示した。圧電カンチレバー17-2の上部電極から引き出された配線53は、連結部18から圧電カンチレバー17-1の縁に沿って引き回され、図1の連結部19-1、圧電カンチレバー16-1を経由してドライブパッド43に繋がっている。また、圧電カンチレバー16-2の上部電極から引き出された配線54は、図1の連結部19-2から圧電カンチレバー17-2の縁に沿って引き回され、連結部18、圧電カンチレバー17-1、連結部19-1、圧電カンチレバー16-1を経由してドライブパッド44に繋がっている。
このように、各圧電カンチレバーの上部電極は、個別に(独立に)対応するドライブパット(41〜44,61〜64)に接続されており、各圧電カンチレバーを独立に駆動制御することができる。なお、各カンチレバーの下部電極については、複数のカンチレバーについて共通の(一体的に繋がった)電極として構成することができる。
図4は、圧電カンチレバーの断面構造を示す模式図である。各圧電カンチレバー16-1,16-2、17-1、17-2、26-1、26-2、27-1、27-2は、同様の構造であるため、これらを代表して、符号80を付して圧電カンチレバーの構造を説明する。本例の圧電カンチレバー80は、圧電ユニモルフカンチレバー構造からなる。なお、本発明の実施に際して、ユニモルフカンチレバー以外の構造を用いても良い。例えば、電極を挟んで圧電体を2層積層したバイモルフカンチレバーを用いても良い。
図4に示すように、圧電カンチレバー80は、振動板82上に下部電極83、圧電体86、上部電極88が積層形成された構造を有する。このような積層構造体は、例えば、シリコン(Si)基板上に、下部電極83、圧電体86、上部電極88の各層を順次に成膜することによって得られる。図4における右端(符号90)が圧電カンチレバー80の固定端となる支持部(固定部)である。図4に示す構成において、電極(83,88)間に駆動電圧が印加されることで圧電体86が変形し、この変形に伴い、振動板82が撓んで、レバー部が上下に動く。図4の破線はレバー部が上方に変位した様子を表している。
なお、図1で示した圧電カンチレバー16-1についての固定部90は、図1で説明した第1固定部31に相当する。圧電カンチレバー17-1についての固定部90は、連結部19-1に相当し、圧電カンチレバー17-2についての固定部90は図1で説明した連結部18に相当する。圧電カンチレバー16-2についての固定部90は図1で説明した連結部19-2に相当する。圧電カンチレバー26-1についての固定部90は図1で説明した第2固定部32に相当する。圧電カンチレバー27-1についての固定部90は、連結部29-1に相当し、圧電カンチレバー27-2についての固定部90は図1で説明した連結部28に相当する。圧電カンチレバー26-2についての固定部90は図1で説明した連結部29-2に相当する。
<ミラー部の回転動作の説明>
(1)x軸周りのミラー回転について
まず、x軸周りの回転について説明する。図5に示す第1アクチュエータ14の圧電カンチレバー16-1,16-2に対して、互いに逆方向の屈曲変位を行うように駆動電圧が印加される。また、第2アクチュエータ24の圧電カンチレバー26-1、26-2に対しても、互いに逆方向の屈曲変位が起こるように駆動電圧が印加される。さらに、第1アクチュエータの圧電カンチレバー16-1と第2アクチュエータ24の圧電カンチレバー26-1も互いに逆方向の屈曲変位が起こるように駆動され、第1アクチュエータ14の圧電カンチレバー16-2と第2アクチュエータ24の圧電カンチレバー26-2も互いに逆方向の屈曲変位が起こるように駆動される。つまり、第1アクチュエータ14と第2アクチュエータ24は互いに逆方向の変位を行い、ミラー部12の対角をそれぞれ逆方向に変位させることによってミラー部12を傾かせる。
図5中のA−B線の切断面をx軸の正方向から見た模式図を図6に示し、図5中のA'-B'線の切断面をx軸の正方向から見た模式図を図7に示す。
図6に示したように、隣り合う圧電カンチレバー16-1,16-2に対して互いに逆方向の屈曲変位を生じさせるように駆動電圧を印加することで、各圧電カンチレバー16-1、16-2の先端における角度変位θが加算されてミラー支持部15に伝えられる。同様に、図7に示したように、隣り合う圧電カンチレバー26-1,26-2に対して互いに逆方向の屈曲変位を生じさせるように駆動電圧を印加することで、各圧電カンチレバー26-1、26-2の先端における角度変位θが加算されてミラー支持部25に伝えられる。
また、図6、図7に示したように、第1アクチュエータ14と第2アクチュエータ24は互いに逆方向の角度変位をそれぞれのミラー支持部15、25に伝えるように駆動される。その結果としてミラー部12はx軸周りに2θの角度で傾く。参考のために、図8に、ミラー部12をx軸周りに回転させて傾けた様子を示す斜視図を示した。
(2)y軸周りのミラー回転について
次にy軸周りの回転について説明する。図9に示す第1アクチュエータ14の圧電カンチレバー17-1,17-2に対して、互いに逆方向の屈曲変位を行うように駆動電圧が印加される。また、第2アクチュエータ24の圧電カンチレバー27-1、27-2に対しても、互いに逆方向の屈曲変位が起こるように駆動電圧が印加される。さらに、第1アクチュエータ14の圧電カンチレバー17-1と第2アクチュエータ24の圧電カンチレバー27-1は互いに逆方向の屈曲変位が起こるように駆動され、第1アクチュエータ14の圧電カンチレバー17-2と第2アクチュエータ24の圧電カンチレバー27-2も互いに逆方向の屈曲変位が起こるように駆動される。つまり、第1アクチュエータ14と第2アクチュエータ24は互いに逆方向の変位を行い、ミラー部12の対角をそれぞれ逆方向に変位させることによってミラーを傾かせる。
図9中のA−B線の切断面をy軸の負方向から見た模式図を図10に示し、図9中のA'-B'線の切断面をy軸の負方向から見た模式図を図11に示す。
図10に示したように、隣り合う圧電カンチレバー17-1,17-2に対して互いに逆方向の屈曲変位を生じさせるように駆動電圧を印加することで、各圧電カンチレバー17-1、17-2の先端における角度変位θが加算されてミラー支持部15に伝えられる。同様に、図11に示したように、隣り合う圧電カンチレバー27-1,27-2に対して互いに逆方向の屈曲変位を生じさせるように駆動電圧を印加することで、各圧電カンチレバー27-1、27-2の先端における角度変位θが加算されてミラー支持部25に伝えられる。
また、図10、図11に示したように、第1アクチュエータ14と第2アクチュエータ24は互いに逆方向の角度変位をそれぞれのミラー支持部15、25に伝えるように駆動される。その結果としてミラー部12はy軸周りに2θの角度で傾く。参考のために、図12に、ミラー部12をy軸周りに回転させて傾けた様子を示す斜視図を示した。
図6〜図9で説明したx軸周りの回転駆動と、図10〜図12で説明したy軸周りの回転駆動とを組み合わせることで、ミラー部12を様々な方向に傾けることができ、2次元スキャンが可能である。ミラー部12に入射した光(例えば、図示せぬレーザ光源から発せられたレーザ光)はミラー部12の傾き(角度)に応じて反射され、反射光の進行方向(反射光の照射位置)が変わる。本実施形態に係るMEMSスキャナデバイス10によれば、大きな光振れ角で光走査することができる。
<駆動電圧の供給手段について>
図13は、第1アクチュエータ14及び第2アクチュエータ24に駆動電圧を供給する駆動回路の構成例を示した図である。第1アクチュエータ14を構成する各圧電カンチレバー16-1、16-2、17-1、17-2の上部電極はそれぞれドライバ回路102の対応する端子に接続される。また、第2アクチュエータ24を構成する各圧電カンチレバーの26-1、26-2、27-1、27-2の上部電極はそれぞれドライバ回路102の対応する端子に接続される。また、各圧電カンチレバーの下部電極はドライバ回路102の共通端子(V端子、例えば、GND端子)に接続される。
各圧電カンチレバーの上部電極に印加される電圧V11〜V24と、下部電極との電位差に応じてそれぞれの圧電カンチレバーの圧電体86が圧電変形し、カンチレバーが屈曲変位する。このように、各圧電カンチレバーに対して、個別に(独立に)駆動電圧を供給できる構成を採用してもよいし、駆動時に同じ駆動電圧が同位相で供給される複数のカンチレバーの端子同士をまとめてもよい。
制御回路104は、ドライバ回路102に対して制御信号を送り、各圧電カンチレバー(16-1、16-2、17-1、17-2、26-1、26-2、27-1、27-2)への駆動電圧の印加を制御する。
各圧電カンチレバーに供給する駆動波形は特に限定されない。例えば、正弦波の駆動電圧を供給してもよし、パルス波形信号を用いることもできる。図13に示したドライバ回路102、又は、ドライバ回路102と制御回路104の組み合わせが「駆動電圧供給回路」に相当する。
<圧電材料について>
本実施形態に好適な圧電体としては、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むものが挙げられる。
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
上記一般式で表されるペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、ビスマスフェライト等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
また、本実施形態の圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)を含むことが好ましい。
Aa(Zrx,Tiy,Mb−x−y)bOc・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V、Nb、Ta、及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0<b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
上述の一般式(P)及び(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜は、高い圧電歪定数(d31定数)を有するため、かかる圧電体膜を備えた圧電アクチュエータは、変位特性の優れたものとなる。なお、一般式(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物の方が一般式(P)で表されるものよりも圧電定数が高くなる。
また、一般式(P)及び(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜を備えた圧電アクチュエータは、駆動電圧範囲において、リニアリティの優れた電圧―変位特性を有している。これらの圧電材料は、本発明を実施する上で良好な圧電特性を示すものである。
本実施形態における圧電体86の一具体例として、例えば、Nbを12%ドープしたPZT薄膜を用いることができる。スパッタリング法によってNbを12%ドープしたPZTを成膜することにより、圧電定数d31=250pm/Vという高い圧電特性を持つ薄膜を安定的に作製できる。
なお、バルクの圧電体を基板に接合し、研磨してもよいが、この方法では圧電体を薄膜化するのが難しい(研磨では限界15μm程度である)ために変位量が小さくなる上に、研磨中における破壊などによる歩留まりが小さいといった問題がある。このようなことを鑑みると、気相成長法やゾルゲル法などにより基板上に圧電薄膜を直接成膜する構成が好ましい。特に、本実施形態の圧電体86としては、1μm以上10μm以下の厚さの薄膜であることが好ましい。後述する例では、圧電体86として、スパッタリング法によって成膜された4μm厚のPZT薄膜を使用しているが、これに限定されるものではない。
図14は、本実施形態に用いた圧電体膜(膜厚4μm)のPr−Eヒステリシス特性を示したものである。ここでは、Nbをドープした変性PZT膜を用いた。なお、図14の横軸は「駆動電圧(単位:ボルト[V])となっているが、電圧を膜厚で除算すると電界になる。抗電界はPr−Eヒステリシス特性のグラフにて、残留分極がゼロとなる点であり、本例における圧電体膜の抗電界は正電界側(Ec+)が約35kV/cm、負電界側(Ec)が約7.5kV/cmである。図14中のVc+は正電界側の抗電界(Ec+)に対応した電圧(抗電界Ec+と膜厚の積)、Vc−は負電界側の抗電界(Ec−)に対応した電圧(抗電界Ec−と膜厚の積)である。
本実施形態で用いるPZTN膜は、スパッタリング法等の気相成長により成膜されたものであり、当該膜のPr−Eヒステリシスは図14のように、正電界側に偏った、すなわちy軸に対して非対称なものである。負電界側の抗電界Ec−の絶対値と正電界側の抗電界Ec+の絶対値が異なり、|Ec+|>|Ec−|の関係がある。このように正電界側に偏った非対称Pr−Eヒステリシスを有する圧電体膜では、正電界を印加した場合は抗電界Ec+が大きいため分極されにくく、負電界を印加した場合は抗電界Ec−の絶対値が小さいため分極されやすい。
つまり、抗電界値の絶対値が小さい側の極性の電界印加(この場合、マイナス駆動)により駆動させることにより、大きな圧電性能を得ることができる。
なお、本実施形態では、正電界側に偏ったPr−Eヒステリシスを有する圧電体を例に説明するが、負電界側に偏ったPr−Eヒステリシスを有する圧電体においてもその符号が異なるだけで同様の作用効果を得ることができる。
図15は、図14のPr−Eヒステリシス特性を有する圧電体膜を備えた圧電アクチュエータを駆動した場合の駆動電圧と変位の関係を示す図である。図15では、ダイアフラム型の圧電アクチュエータを作成して、「電界―変位ヒステリシス特性」を調べたものである。ここでは、下部電極を基準電位(グランド)として、駆動電圧の正負符号を定義した。なお、非駆動時における当該圧電アクチュエータにおける圧電体膜の分極状態は、上部電極側が+、下部電極側が−である(分極ベクトルが上向き)。また、変位量については、振動板が下に凸の方向に変位する量を「+方向」の変位、上に凸の方向に変位する量を「−方向」の変位と定義した。
駆動電圧としてマイナスの電圧を印加する場合に注目すると、0Vからマイナス電圧の絶対値を大きくしていく(図14の左側の負電界側)と、印加電圧の絶対値の増加に応じて、略リニアな関係(比例関係)で変位量が増加していく。ここでは、振動板が下に凸の方向に変位する量を「+方向」の変位量とした。また、逆に、印加するマイナス電圧の絶対値を次第に小さくしていくと、印加電圧の絶対値の減少に応じて、上記同様の比例関係で変位量が減少していく。図示のとおり、負電界側において殆ど履歴がなく、かつ、リニアリティの高いものとなっている(図15中の符号Aで示す領域)。なお、図15において、履歴によるリニアリティの誤差は1%以下である。
さらに、マイナス電圧から0Vを超えてプラス電圧に転じても、しばらくはリニアな領域がある(図15中の符号Bで示す領域)。すなわち、正電界側において、駆動電圧が0〜約10Vの範囲は、印加電圧(電界)の強さに略比例して、逆方向の変位量が得られる。このように、プラス電圧を印加したとき、逆方向(上に凸の方向)に変位するリニア領域がある。
先に述べた負電界側のリニア領域(図15中の符号A)と、この正電界側のリニア領域(図15中の符号B)が連続しており、負電圧側と正電圧側とにまたがる連続した範囲で略比例の関係となるリニア領域(領域A+Bの区間)が形成される。このように負電界側のリニア領域(符号A)から連続する正電界側のリニア領域(符号Bの領域)が存在する。このような特性を持つ圧電薄膜を用いたアクチュエータを安定的に利用するため、上部電極に加える駆動電圧は、+側の抗電界以下であることが好ましい。また、抗電界を超える電圧を印加すると、逆方向に分極が反転してしまうため、これを防ぐために、例えば、マイナス方向にオフセットDC電圧を印加し、このオフセットDC電圧を基準にして抗電界以下の範囲でプラス/マイナスの電圧を掛けることが好ましい。
<実施例1;MEMSスキャナデバイスの製造方法の一例>
実施例1として以下の手順によりMEMSスキャナデバイス10を作製した。
(工程1)ハンドル層350μm、ボックス層1μm、デバイス層10μmのSOI(Silicon On Insulator)基板上に、スパッタ法で基板温度350℃にて、Ti層を30nm、Ir電極層を150nm形成した。これらTi層及びIr電極層が図4の下部電極83に相当する。
(工程2)上記得られた基板上に、高周波(RF;radio frequency)スパッタ装置を用いてPZT層を2μm成膜した。成膜ガスは97.5%Arと2.5%Oの混合ガスを用い、ターゲット材料としてはPb1.3((Zr0.52 Ti0.48)0.88 Nb0.12)O3の組成のものを用いた。成膜圧力は2.2mTorr、成膜温度は450℃とした。
(工程3)上記で得られた基板を、シリコン加工プロセスに基づいて加工し、図1〜図3のような構成のMEMSスキャナデバイスを作成した。上部電極は、Pt/Ti層をリフトオフ法によってパターニングし、PZT/Irのパターニング及びSiのパターニングは、ICP(inductively coupled plasma;誘導結合プラズマ)ドライエッチングによって行った。
なお、圧電カンチレバーは、バルクセラミックの研磨・貼り付けプロセスを用いて作成することも可能である。ただし、スパッタリング法に代表される直接成膜プロセスでPZT薄膜を形成した方が、歩留まりやコストの面で有利である。
本発明の実施に際しては、上記の実施例1に限定されず、基板の材料、電極材料、圧電材料、膜厚、成膜条件などは、目的に応じて適宜選択することができる。
<変形例1>
第1実施形態では、1つのアクチュエータが4つのカンチレバーで構成されているが、1つのアクチュエータを構成するカンチレバーの個数は、本例に限らず、さらに個数を増やしてもよい。ただし、カンチレバーを増やすと共振周波数が増加して外乱に弱くなる傾向にあるため、必要な設計に応じて(使用環境などを考慮した共振周波数の設計に応じて)、カンチレバーの組み合わせ個数を選択する必要がある。また、後に述べる同方向屈曲変位の相殺(残留応力による初期撓みやDCオフセットによる同一方向の変位の相殺)という観点から、各アクチュエータの固定部と、ミラー支持部とは近傍となるように、複数の圧電カンチレバーを折り畳んで繋ぎ合わせることが必要である。
(同方向の屈曲変位の相殺について)
図16は、初期撓みやオフセット駆動などによって、全てのカンチレバーに同方向の屈曲変位が生じた際の変形状況の例を示した斜視図である。ここでは、第1実施形態に係るMEMSスキャナデバイス10の全てのカンチレバーについて、レバー部が下に凸に撓む屈曲変位が生じている状況を示している。既に説明したように、ミラー部12を取り囲んで配置される2つのアクチュエータ14、24はそれぞれ、複数の圧電カンチレバーを折り畳むように連結した構造を有し、各アクチュエータの固定部(31,32)と、ミラー支持部(15,25)が近傍になるように、カンチレバーが折り畳まれるように接続されている。このような構造により、同方向の屈曲変位はほぼキャンセルされ、ミラー部12に傾き変位は生じない。これは、DCオフセット印加の波形を入力した場合や、圧電薄膜の形成時の残留応力による初期撓みがカンチレバーに生じた際に、ミラーの傾き変位影響がないことを示している。
NbドープPZTは、ノンドープPZT(真性PZT)に比べて約2倍の圧電定数を有しており(一例として、NbドープPZTのd31圧電定数は約250pm/V)、大きな変位を生じさせることができるが、分極反転が起こりやすく抗電界が低い(この点については、「Solid State Communications 149 (2009) 1799 1802)を参照)。このため、NbドープPZTを駆動させるためには、DCオフセットを印加した交流波形を入力し、逆方向の抗電界を超えないように工夫される。また、NbドープPZTは、ノンドープPZTに比べて高い残留応力を示し、初期撓みが大きい。
以上のことから、第1実施形態で説明した構造は、変位量の大きいNbドープPZTを用いるのに都合のよい構造である。
(共振モードについて)
ここで本実施形態のMEMSスキャナデバイス10の共振モードによる動きについて説明する。第1実施形態で説明した構造の共振モードによる動きを図17,図18に図示する。図17は一次共振モード、図18は二次共振モードの図である。一次共振モード(共振周波数fとする)は、ミラー部12が垂直方向(z軸方向)に並進運動するモードである。二次共振モード(共振周波数fとする)は、ミラー部が回転運動するモードである。
ミラー部12の傾き運動の応答速度は、二次共振モードの共振周波数(f)が上限となる。また、一次共振モードに見られるようなミラー部12の並進運動が外乱振動によって励振されると、光路長にばらつきを生じる原因となるため、実際の使用においては、目的の用途環境における外乱振動の周波数よりもfが十分高くなるようにデバイスの設計を行う。例えば、一般的に自動車用途においては、共振周波数が500Hz以上となるように設計される。また、内視鏡の内部に設置されるスキャナ(内視鏡内光スキャナ)などの用途においては、外乱は主に人の手の振動によるものと考えられるため、自動車用途よりも低い周波数でよく、例えば、約300Hz以上で設計するのが望ましい。なお、外部からの振動に対する応答は、共振周波数の2乗に反比例するため、共振周波数は高ければ高いほど外乱振動に対して安定となる。
〔第2実施形態〕
図19は、第2実施形態に係るMEMSスキャナデバイスの構成を示す模式図である。図19中、図1〜図3で説明した第1実施形態の構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図19に示した構造は、図3の構造と比較して、第1アクチュエータ14及び第2アクチュエータ24における圧電カンチレバーの接続順序が変更されている。図19に示すように、この第1アクチュエータ14におけるx軸回転用の圧電カンチレバー16-1、16-2が連結部19-3を介してy軸方向に折り返すように接続され、圧電カンチレバー16-2とy軸回転用の圧電カンチレバー17-1とが連結部19-4を介して接続され、圧電カンチレバー17-2の一端がミラー支持部15を介してミラー部12に接続されている。
同様に、第2アクチュエータ24におけるx軸回転用の圧電カンチレバー26-1、26-2が連結部29-3を介してy軸方向に折り返すように接続され、圧電カンチレバー26-2とy軸回転用の圧電カンチレバー27-1とが連結部29-4を介して接続され、圧電カンチレバー27-2の一端がミラー支持部25を介してミラー部12に接続されている。このような形態であっても、第1実施形態と同様のミラー駆動動作が可能である。
第2実施例として第2実施形態(図19)の構造のMEMSスキャナデバイスを、第1実施例と同様の製造方法によって作成した。
〔比較例〕
比較例として、図20のような構造のデバイスを作成した。図20に示した構造は、図26に示したデバイス構造(特許文献1の図3に開示されたデバイス構造)によるものである。このMEMSスキャナデバイス310は、ミラー部312の片側の側面部にy軸回転用アクチュエータ部314と、x軸回転用アクチュエータ部316とをつなぎ合わせて配置した構造となっている。各アクチュエータ部(314,316)は、複数の圧電カンチレバーを折り畳むように連結した構造を有する。
図20のような構造は、アクチュエータの固定部331とミラー支持部115とが遠く離れているため、カンチレバーの初期撓み等により、ミラー部312に初期傾きが発生している。素子サイズは全体で横3mm×縦2mmとなっているが、ミラー部312がデバイスの端に位置しているため、例えば、円筒の中心にミラー部を配置して使う内視鏡用途などでは、必要な空間がデバイスサイズの2倍程度になってしまう。さらに、図20の構造ではy軸周りの回転によってミラーの中心が移動するという問題がある。
<デバイスの評価結果のまとめ>
第1実施形態、第2実施形態及び比較例の構造において、デバイスの寸法を変化させたときの駆動特性、共振特性を調べた結果を図21に示した。ここでは、内視鏡用途での特性評価を行った。内視鏡用途の要求仕様は以下のとおりであり、4つの仕様項目を全て満たした場合は「AA」、3つのみ満たした場合は「A」、2つのみ満たした場合は「B」、1つ以下の場合は「C」として評価した。
(要求仕様)
[1]素子サイズが3×3mmよりも小さいこと。これは、直径5ミリ(5mmφ)の内視鏡プローブに入る大きさとして要求される。
[2]±10Vの駆動電圧(電位差)の印加による光学振れ角が20°を超えるものであること。
[3]共振周波数が300Hzよりも高いものであること。
[4]ミラーの初期角度が2°よりも小さいこと。
なお、図21の表中におけるパラメータLは、平面視で正方形のミラー部12の1辺の長さを表す(図3、図20参照)。パラメータtは圧電薄膜の厚みを表す。パラメータwは圧電カンチレバーの太さ(短手方向の幅)を表す。
表中の比較例における「※」は、比較例の構造は、ミラー中心からデバイス端までの距離が最大で2.3mm離れているため、実際にデバイスを格納(収容)するのに要する空間は4mm以上となり、「5mmφの内視鏡プローブ」に収納するという観点から仕様を満たさないと評価した。
高い圧電定数を持つNbドープPZTと、第1実施形態、第2実施形態で説明した構造とを組み合わせることで、カンチレバーの折り畳み数を抑えつつ高い角度変位を実現できる。カンチレバーの折り畳み数が減ることと、ミラーの対角を支持する2つのアクチュエータを採用することで、素子が小型化すると同時に高い共振周波数が得られ、外乱に強い構造となる。
<本発明の実施形態による利点>
(1)圧電性能が高いNbドープPZTと、圧電カンチレバーを折り畳む構造を併用することによって、少ない折り畳み数で高い振れ角を得ることができる。これによって共振周波数が高くなり、高速応答が可能となり、かつ外乱振動による影響を大幅に抑えることができる。
(2)ミラー部12を取り囲むように配置された2つのアクチュエータ14,24がミラー部12の略対角端付近を支持するため、ミラーに垂直な方向の外乱振動が起こっても、ミラーに対してモーメントがかからないのでミラーは回転しない。
(3)各アクチュエータ14,24を構成するそれぞれ4つの圧電カンチレバーは、アクチュエータの固定部(31、32)と、ミラー部12との接続部(ミラー支持部15,25)が近傍に来るように折り畳まれて接続されている。このため、圧電薄膜の初期撓みやDCオフセット駆動によって全てのカンチレバーに同位相の撓みが生じても、ミラー部12との接続部(ミラー支持部15,25)においては、変位がすべてキャンセルされ、ミラーの振れ角に影響を与えない。
(4)ジンバル構造ではなく、ミラー以外の部分はすべてアクチュエータとして駆動力を有しているため空間の利用効率が良く、素子サイズが小さい。また、駆動軸のアクチュエータの動きを他軸のアクチュエータが阻害しないため、力の利用効率が良い。
(5)ミラー部を中心にして、その周囲を囲むように第1アクチュエータ14、第2アクチュエータ24が配置され、ミラー中心軸に対し、略180度回転対称(2回対称)の形状であるため、内視鏡用途などにも好適であり、外部からの振動に対してミラーが傾き難い。
(6)固定部、圧電アクチュエータ部、ミラー部並びにこれらの接続部(連結部)等をシリコン加工により一体的に形成することができる。
(7)従来のポリゴンミラーやガルバノミラーと比べて小型化が可能であり、耐久性も高い。
(8)実施例1、2で説明したように、基板上にPZT薄膜を直接成膜し、これをドライエッチング加工することでMEMSスキャナデバイスを形成することができる。このように、圧電体を薄膜化することでより細かいパターニングを容易に行うことができるため、歩留まりが大幅に向上するとともにデバイスのさらなる小型化に対応することができる。
<ミラー部の形状について>
ミラー部12の形状としては、矩形以外でもよく、例えば、図22、図23に示すような形状も可能である。これらの図面に例示したように、ミラー支持部15,25以外の対角の角部を丸めたり(図22)、角部を切り落としたり(図23)する形状を採用することによって、ミラー部の軽量化を行ってもよい。このように、矩形よりも軽い形状にすることによって、共振周波数をある程度上昇させることができる。
ただし、直交する2軸(x軸とy軸)の周りで駆動する場合は、アクチュエータとミラーとの接合部であるミラー支持部15,25は、ミラーを矩形形状としたきの対角に近いことが望ましい。
<2軸の回転軸について>
図24は、第3実施形態に係るMEMSスキャナデバイス200の構成を模式的に示した平面図である。図24中、図1〜3で説明した第1実施形態の構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付した。第1実施形態及び第2実施形態では、回転軸として互いに直交するx軸、y軸を例示したが、2つの回転軸は必ずしも直交する必要はなく、例えば、図24のように第1軸と第2軸は適宜の角度で交差する(非平行の)軸とすることができる。すなわち、図24のように、第2軸回転用アクチュエータ要素211、212を構成する圧電カンチレバー16-1、16-2、26-1、26-2と第1軸回転用アクチュータ要素221、222を構成する圧電カンチレバー17-1、17-2、27-1、27-2の長手方向を直交させずに、カンチレバー同士を接続させれば、直交しない2軸(第1軸、第2軸)の周りでのミラー部12の回転が可能である。
ただし、第1実施形態や第2実施形態で説明したように、互いに直交する2軸周り(x軸、y軸)でミラーを回転させることができれば、回転軸は合成できるので、x-y平面内の全ての軸周りでの回転が可能である。
<圧電カンチレバーの折り畳み数について>
一つのアクチュエータに含まれる折り畳み圧電カンチレバーの数はいくつでもよいが、アクチュエータの固定部とミラー支持部とが近傍となるように折り畳む必要がある。例えば、図25のように、折り畳み数を変更することができる。図25において、図19の構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
アクチュエータの固定部(31,32)とミラー支持部(15,25)とが近傍になるようにカンチレバーを折り畳むためには、x軸(第2軸)回転用アクチュエータ要素を構成する圧電カンチレバーの数と、y軸(第1軸)回転用アクチュエータ要素を構成する圧電カンチレバーの数が、それぞれ偶数個であればよい。x軸(第2軸)回転用アクチュエータ要素を構成する圧電カンチレバーの数と、y軸(第1軸)回転用アクチュエータ要素を構成する圧電カンチレバーの数は、必ずしも一致する必要はない。
圧電カンチレバーの数が多いと、変位角度は大きくなる一方で共振周波数が低下してしまうため、必要な角度と共振周波数に応じて折り畳み数を決める必要がある。外乱振動の影響を受けにくい共振周波数の目安は300Hz以上である。圧電定数が高いNbドープPZTを用いれば、比較的少ない圧電カンチレバーの数で大きな変位が得られるので、共振周波数も高めることができる。
第1実施形態及び第2実施形態で説明したように、x軸(第2軸)回転用アクチュエータ要素を構成する圧電カンチレバーの数と、y軸(第1軸)回転用アクチュエータ要素を構成する圧電カンチレバーの数をそれぞれ2本ずつとする構成が最も簡単な構成である。
<応用例>
本発明は、レーザー光等の光を反射して光の進行方向を変える光学装置として様々な用途に利用できる。例えば、光偏向器、光走査装置、レーザープリンタ、バーコード読取機、表示装置、各種の光学センサ(測距センサ、形状測定センサ)、光通信装置、レーザープロジェクタ、OCT画像診断装置などに広く適用することができる。
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有するものにより、多くの変形が可能である。
<開示する発明の態様について>
上記に詳述した発明の実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は少なくとも以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
(第1態様):光を反射する反射面を有するミラー部と、ミラー部の対角部分に形成されたミラー支持部と、ミラー部の周囲を取り囲んで配置された第1アクチュエータ及び第2アクチュエータと、を備え、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータのそれぞれは、長手方向が第1軸の方向に向いた複数の第1圧電カンチレバーと、長手方向が第1軸と非平行の第2軸の方向に向いた複数の第2圧電カンチレバーとが折り畳まれるように連結された構造を有し、各アクチュエータの一方の端部はミラー支持部を介してミラー部に接続され、他方の端部は前記一方の端部が連結されているミラー支持部の近傍で固定部に接続されているミラー駆動装置。
かかる態様によれば、複数の圧電カンチレバーの変位を累積することによって大きな振れ角でミラー部を傾けることができる。
さらに、アクチュエータを構成する圧電体の残留応力による初期撓みやオフセット駆動などによって全ての圧電カンチレバーに同方向の撓みが生じても、これらの変位は相殺され、ミラー部の振れ角に殆ど影響を与えない。また、本発明によれば、空間の利用効率がよく、素子サイズの小型化を実現できる。
(第2態様):第1態様に記載のミラー駆動装置において、一方の端部が連結されているミラー支持部と他方の端部が接続されている固定部は、複数の第1圧電カンチレバーから構成される第2軸回転用アクチュエータ要素の第2軸方向の幅寸法の範囲内で近傍となるように、前記複数の第1圧電カンチレバーと複数の第2圧電カンチレバーとが折り畳まれるように連結された構造を有する構成とすることができる。
固定部とミラー支持部はできるだけ近い位置になることが望ましいが、複数の圧電カンチレバーを組み合わせてなるアクチュエータの構造的制約などから、近傍の範囲にはある程度の許容範囲がある。
(第3態様):第1態様又は第2態様に記載のミラー駆動装置において、第1圧電カンチレバー及び第2圧電カンチレバーは、それぞれ圧電体に電圧を印加することによる圧電変形によって屈曲変位を行うものであり、複数の第1圧電カンチレバーはミラー部を第2軸の周りに回転させる第2軸回転用アクチュエータ要素として機能し、複数の第2圧電カンチレバーはミラー部を第1軸の周りに回転させる第1軸回転用アクチュエータ要素として機能する構成とすることができる。
(第4態様):第1態様から第3態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、複数の第1圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーは互いに逆方向の屈曲変位が発生するように駆動され、複数の第2圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーは互いに逆方向の屈曲変位が発生するように駆動され、かつ、第1アクチュエータと第2アクチュエータは、それぞれが接続されている各ミラー支持部に対して互いに逆方向の角度変位を伝えるように駆動される構成とすることができる。
このような態様により、各カンチレバーの変位が加算され、大きな角度変位を得ることができる。
(第5態様):第1態様から第4態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、第1圧電カンチレバー及び第2圧電カンチレバーに対して駆動電圧を供給する駆動電圧供給回路であって、複数の第1圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーに対して互いに逆方向の屈曲変位を発生させ、複数の第2圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーに対して互いに逆方向の屈曲変位を発生させ、かつ、第1アクチュエータと第2アクチュエータのそれぞれが接続されている各ミラー支持部に対して、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータが互いに逆方向の角度変位を伝えるように、複数の第1圧電カンチレバー及び複数の第2圧電カンチレバーの各カンチレバーに駆動電圧を供給する駆動電圧供給回路を備える構成とすることができる。
かかる態様によれば、共振を利用しなくても大きな変位を得ることが可能である。
(第6態様):第1態様から第5態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、第1圧電カンチレバー及び第2圧電カンチレバーは、振動板、下部電極、圧電体、上部電極の順に積層された積層構造を持つユニモルフカンチレバー構造を有している構成とすることができる。
圧電カンチレバーは、ユニモルフ構造に限らず、バイモルフ構造も可能であるが、ユニモルフ構造が最も簡単な構成である。
(第7態様):第1態様から第6態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに用いられる圧電体は、下記式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物とすることができる。
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
(第8態様):第1態様から第6態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに用いられる圧電体は、下記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物とすることが好ましい。
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0<b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
かかる圧電体は良好な圧電特性を有し、圧電アクチュエータ部として好ましいものである。良好な圧電特性を持つ材料を用いることで、カンチレバーの折り畳み数が少なくても大きな振れ角が得られるため、共振周波数を高く設計できる。これにより高速応答が可能となり、外乱振動による影響を大幅に抑えることができる。
(第9態様):第1態様から第8態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに用いられる圧電体は、1〜10μm厚の薄膜であり、振動板となる基板上に直接成膜された薄膜である構成とすることができる。
薄膜圧電体を用いて圧電アクチュエータを構成することが好ましい。スパッタリング法に代表される気相成長法やゾルゲル法などの直接成膜法を用いることにより、所要の圧電性能を持つ圧電体薄膜を得ることができる。
(第10態様):第9態様に記載のミラー駆動装置において、前記圧電体は、スパッタリング法で成膜された薄膜である構成とすることができる。
(第11態様):第1態様から第10態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、第1圧電カンチレバー及び第2圧電カンチレバーのそれぞれの上部電極に加える駆動電圧は、プラス側の抗電界以下の電圧である構成とすることが好ましい。
これにより、圧電体の分極反転を回避して、安定した駆動が可能である。
(第12態様):第1態様から第11態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、最も低い共振周波数が300Hz以上である構成とすることが好ましい。
これにより、外乱による振動の影響を受けにくい構成となる。
(第13態様):第1態様から第12態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置において、第1アクチュエータと前記第2アクチュエータのぞれぞれは、2つの第1圧電カンチレバーと2つの第2圧電カンチレバーとが連結された構造とすることができる。
かかる態様は、最も単純な構成であり、しかも共振周波数を高い値に設計することが可能である。
(第14態様):第1態様から第13態様のいずれか1項に記載のミラー駆動装置の制御方法であって、複数の第1圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーに対して互いに逆方向の屈曲変位を発生させ、複数の第2圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーに対して互いに逆方向の屈曲変位を発生させ、それぞれのカンチレバー端における角度変位が加算されてミラー支持部に伝えられ、かつ第1アクチュエータと第2アクチュエータが互いに逆方向の角度変位をそれぞれのミラー支持部に伝えるように、各アクチュエータの第1圧電カンチレバー及び第2圧電カンチレバーに対して駆動電圧を供給する制御を行うミラー駆動装置の制御方法。
10…MEMSスキャナデバイス、12…ミラー部、12B…反射面、14…第1アクチュエータ、15…ミラー支持部、16-1,16-2…圧電カンチレバー(第1圧電カンチレバー)、17-1,17-2…圧電カンチレバー(第2圧電カンチレバー)、18…連結部、24…第2アクチュエータ、25…ミラー支持部、26-1,26-2…圧電カンチレバー(第1圧電カンチレバー)、27-1,27-2…圧電カンチレバー(第2圧電カンチレバー)、28…連結部、30…固定枠、31…第1固定部、32…第2固定部、80…圧電カンチレバー、82…振動板、83…下部電極、86…圧電体、88…上部電極、90…固定部、102…ドライバ回路、104…制御回路、211,212…第2軸回転用アクチュエータ要素、221,222…第1軸回転用アクチュエータ要素

Claims (15)

  1. 光を反射する反射面を有するミラー部と、
    前記ミラー部の対角部分に形成されたミラー支持部と、
    前記ミラー部の周囲を取り囲んで配置された第1アクチュエータ及び第2アクチュエータと、を備え、
    前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータのそれぞれは、長手方向が第1軸の方向に向いた複数の第1圧電カンチレバーと、長手方向が前記第1軸と非平行の第2軸の方向に向いた複数の第2圧電カンチレバーとが折り畳まれるように連結された構造を有し、各アクチュエータの一方の端部は前記ミラー支持部を介して前記ミラー部に接続され、他方の端部は前記一方の端部が連結されている前記ミラー支持部の近傍で固定部に接続されている構造を有し、
    前記一方の端部が連結されている前記ミラー支持部と前記他方の端部が接続されている前記固定部とは、前記複数の第1圧電カンチレバーから構成される第2軸回転用アクチュエータ要素の第2軸方向の幅寸法の範囲内で前記近傍となるように、前記複数の第1圧電カンチレバーと複数の第2圧電カンチレバーとが折り畳まれるように連結された構造を有するミラー駆動装置。
  2. 前記第1圧電カンチレバー及び前記第2圧電カンチレバーは、それぞれ圧電体に電圧を印加することによる圧電変形によって屈曲変位を行うものであり、前記複数の第1圧電カンチレバーは前記ミラー部を前記第2軸の周りに回転させる第2軸回転用アクチュエータ要素として機能し、前記複数の第2圧電カンチレバーは前記ミラー部を前記第1軸の周りに回転させる第1軸回転用アクチュエータ要素として機能する請求項1に記載のミラー駆動装置。
  3. 前記複数の第1圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーは互いに逆方向の屈曲変位が発生するように駆動され、
    前記複数の第2圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーは互いに逆方向の屈曲変位が発生するように駆動され、
    かつ、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータは、それぞれが接続されている各ミラー支持部に対して互いに逆方向の角度変位を伝えるように駆動される請求項1又は2に記載のミラー駆動装置。
  4. 前記第1圧電カンチレバー及び前記第2圧電カンチレバーに対して駆動電圧を供給する駆動電圧供給回路であって、
    前記複数の第1圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーに対して互いに逆方向の屈曲変位を発生させ、
    前記複数の第2圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーに対して互いに逆方向の屈曲変位を発生させ、
    かつ、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータのそれぞれが接続されている各ミラー支持部に対して、前記第1アクチュエータ及び第2アクチュエータが互いに逆方向の角度変位を伝えるように、前記複数の第1圧電カンチレバー及び前記複数の第2圧電カンチレバーの各カンチレバーに駆動電圧を供給する駆動電圧供給回路を備える請求項1からのいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
  5. 前記第1圧電カンチレバー及び前記第2圧電カンチレバーは、振動板、下部電極、圧電体、上部電極の順に積層された積層構造を持つユニモルフカンチレバー構造を有している請求項1からのいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
  6. 前記第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに用いられる圧電体は、下記式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物である請求項1からのいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
    一般式ABO・・・(P)
    (式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
    B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
    O:酸素元素。
    Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
  7. 前記第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに用いられる圧電体は、下記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物である請求項1からのいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
    (Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
    (式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
    Mが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
    0<x<b、0<y<b、0<b−x−y。
    a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
  8. 前記第1アクチュエータ及び第2アクチュエータに用いられる圧電体は、1〜10μm厚の薄膜であり、振動板となる基板上に直接成膜された薄膜である請求項1からのいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
  9. 前記圧電体は、スパッタリング法で成膜された薄膜である請求項に記載のミラー駆動装置。
  10. 前記第1圧電カンチレバー及び前記第2圧電カンチレバーのそれぞれの上部電極に加える駆動電圧は、プラス側の抗電界以下の電圧である請求項1からのいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
  11. 最も低い共振周波数が300Hz以上である請求項1から10のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
  12. 前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータのぞれぞれは、2つの第1圧電カンチレバーと2つの第2圧電カンチレバーとが連結された構造である請求項1から11のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
  13. 前記ミラー部は、前記ミラー支持部が形成されていない角部を有し、前記ミラー支持部が形成される角部と隣り合う角部は前記ミラー支持部が形成されていない角部となる構造を有する請求項1から12のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
  14. 前記ミラー部は、アクチュエータとして駆動力を発生させる機能を有していない請求項1から12のいずれか1項に記載のミラー駆動装置。
  15. 請求項1から14のいずれか1項に記載のミラー駆動装置の制御方法であって、
    前記複数の第1圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーに対して互いに逆方向の屈曲変位を発生させ、
    前記複数の第2圧電カンチレバーのうち隣り合うカンチレバーに対して互いに逆方向の屈曲変位を発生させ、それぞれのカンチレバー端における角度変位が加算されて前記ミラー支持部に伝えられ、かつ前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータが互いに逆方向の角度変位をそれぞれのミラー支持部に伝えるように、各アクチュエータの前記第1圧電カンチレバー及び前記第2圧電カンチレバーに対して駆動電圧を供給する制御を行うミラー駆動装置の制御方法。
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