以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(1)酸化物蒸着材
本発明の酸化物蒸着材は、酸化インジウムを主成分とし、かつ、ガドリニウムがGd/In原子数比で0.001〜0.070の割合で含有された組成を有する。そして、本発明の酸化物蒸着材を用いて真空蒸着法により製造された透明導電膜の組成は、酸化物蒸着材の組成に極めて近いため、製造される膜組成も、酸化インジウムを主成分としかつガドリニウムの組成が0.001〜0.070の割合だけ含有する組成となる。ガドリニウムを上記割合だけ含有させる理由としては、酸化インジウム膜の移動度を増加させることができるからである。膜組成、すなわち酸化物蒸着材組成のガドリニウム含有量(Gd/In原子数比)が0.001未満では、移動度増加の効果が小さくて低抵抗の膜を得ることができない。また、0.070を超えると、膜中のガドリニウム量が多過ぎて、電子移動の際の中性不純物散乱が大きくなってしまい、移動度が低下して低抵抗の膜が得られない。更に、より高い移動度を発揮して低抵抗の膜を得るためのより好ましいガドリニウムの含有量は、Gd/In原子数比で0.030〜0.050である。
ところで、酸化インジウムを主成分とする透明導電膜はn型の半導体であるが、高い導電性と高い光透過性を発揮させるためには適度な酸素欠損を必要とする。すなわち、膜中の酸素量が多くて酸素欠損量が少ない場合は、例えドーパントを含んでいても導電性を示さない。導電性を示すには膜中に酸素欠損を導入することが必要であるが、酸素欠損量が多過ぎると可視光の光吸収が多くなり着色の原因となる。よって、膜には最適な酸素欠損を持たせる必要がある。膜中の酸素は、原料である酸化物蒸着材から供給される他、成膜時に成膜真空槽に導入される酸素ガスが膜中に取り込まれることによっても供給される。そして、酸化物蒸着材からの供給分が少ないと、成膜真空槽に導入される酸素ガス量を多めにする必要があるが、成膜真空槽に導入される酸素ガス量を多くすると上述した問題が生じてしまう。よって、最適な酸素量を有する酸化物蒸着材が有用となる。
そして、本発明に係る酸化物蒸着材は、CIE1976表色系におけるL*値で規定していることが最大の特徴である。ここで、CIE1976表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間である。色を、明度L*とクロマネティックス指数a*、b*からなる均等色空間上の座標で表したものであることから、CIELABとも略記される。明度を示すL*は、L*=0で黒色、L*=100で白の拡散色を示す。またa*は、負の値で緑寄り、正の値でマゼンタ寄りを表し、b*は、負の値で青寄り、正の値で黄色寄りを表す。
そして、CIE1976表色系におけるL*値で規定した本発明に係る酸化物蒸着材の焼結体表面と焼結体内部の色味は同一であることが好ましいが、仮に最表面と内部で異なった酸化物蒸着材である場合、本発明では焼結体内部についてL*値を定めている。
発明者による実験によると、酸化物蒸着材の内部のL*値が60〜94のとき、成膜真空槽へ導入する酸素量が少なくても高い導電性と可視〜近赤外域の高い透過率を兼ね備えた透明導電膜を得ることができる。また、白っぽい色ほどL*値は高く、逆に黒っぽいほどL*値は低い。そして、酸化物蒸着材のL*値は、酸化物蒸着材内の含有酸素量と相関を有していると考えられ、L*値が大きいほど含有酸素量が多く、L*値が小さいほど含有酸素量が少ないと考えられる。本発明者は、製造条件を変えて、種々のL*値の酸化物蒸着材を用いて真空蒸着法で透明導電膜を作製する実験を試みたところ、L*値が大きいほど、成膜中に導入する最適酸素量(低抵抗で透明度の高い膜を得るための酸素量)は少なかった。これは、L*値が大きい酸化物蒸着材ほど、酸化物蒸着材自体から供給される酸素量が多くなるためである。また、膜と酸化物蒸着材の組成差は、酸素導入量が多いほど大きい傾向を示す。従って、L*値が大きいほど、組成差は小さくなる。
尚、本発明に係る酸化物蒸着材は導電性を有し、酸化物蒸着材の導電率は含有酸素量にも依存するが、密度、結晶粒径、ガドリニウムのドーパント効率にも依存する。従って、酸化物蒸着材の導電率とL*値は1対1には対応しない。
そして、酸化インジウムを主成分としかつガドリニウムを含む本発明に係る酸化物蒸着材からは、真空蒸着の際、主にIn2O3-x、Gd2O3-xの形態で蒸発粒子が発生し、チャンバー内の酸素と反応しながら酸素を吸収し、基板に到達して成膜される。また、蒸発粒子の持っているエネルギーは、基板に到達して基板上に堆積する際、物質移動の駆動源となっており、膜の緻密化と基板に対する付着力増強に貢献している。そして、酸化物蒸着材のL*値が小さいほど酸化物蒸着材内の酸素が少ないことから、蒸発粒子の酸素欠損が大きくなるため、真空槽へ多くの酸素を導入して基板に到達する前に酸化反応させる割合を多くする必要がある。しかし、蒸発粒子は、飛行中に酸化することでエネルギーが消費されるため、酸素を多く導入した反応性成膜では、緻密でかつ基板に対する密着力の高い膜を得ることが難しくなる。逆に、導入する酸素ガスを極力少なくした反応性蒸着成膜の方が、高密着で高密度の膜を得易く、本発明の酸化物蒸着材はこれを実現することができる。
ここで、上記L*値が60未満であると、酸化物蒸着材中の酸素量が少な過ぎるため、低抵抗で透明度の高い膜を得るための成膜真空槽へ導入される最適酸素導入量は多くなり、膜と酸化物蒸着材の組成差が大きくなるだけでなく、成膜中に基板へのダメージが大きくなる等の問題が生じてしまうため好ましくない。逆に、上記L*値が94を超えると、酸化物蒸着材中に含まれる酸素量が多過ぎるため、酸化物蒸着材から膜に供給される酸素が多くなり過ぎる結果、最適な酸素欠損を持つ高い導電性の膜が得られなくなる。
ところで、特開2005−290458号公報(特許文献3)には、上述したようにセリウムを含有する酸化インジウム焼結体のスパッタターゲットが紹介されているが、特許文献3に記載されている製法に従ってガドリニウムを含有する酸化インジウムの焼結体を製造した場合、ガドリニウムを含有する酸化インジウム焼結体のL*値は35〜55と低い値である。従って、このような焼結体を酸化物蒸着材として用いると、最適な膜を得るための成膜真空槽へ導入する酸素導入量を多くする必要があることから、上述した問題が生じてしまうため、本発明の目的を達成するものではなかった。
ここで、上記L*値が60〜94である本発明の蒸着用酸化物焼結体(酸化物蒸着材)は、従来のスパッタリングターゲットを製造する技術では製造することができない。真空蒸着法で大量生産に使用するのに適した適度の酸素量(あるいは酸素欠損量)を有する酸化物蒸着材は、以下のような方法で製造することができる。
すなわち、酸化インジウムを主成分としかつガドリニウムを含む酸化物焼結体は、酸化インジウムと酸化ガドリニウムの各粉末を原料とし、これ等を混合しかつ成型して圧粉体を形成し、高温に焼成して、反応・焼結させて製造することができる。酸化インジウムと酸化ガドリニウムの各粉末は、特別なものでなく、従来から用いられている酸化物焼結体用原料でよい。また、使用する粉末の平均粒径は1.5μm以下であり、好ましくは0.1〜1.1μmである。
上記酸化物焼結体を製造する際の一般的な原料粉末の混合法として、ボールミル混合法が利用されているが、本発明の焼結体を製造する場合にも有効である。ボールミルは、セラミック等(主にジルコニア等)の硬質のボール(ボール径1〜5mm)と材料の粉を容器にいれて回転させることによって、材料をすりつぶしながら混合して微細な混合粉末を作る装置である。ボールミル(粉砕メディア)は、缶体として、鋼、ステンレス、ナイロン等があり、内張りとして、アルミナ、磁気質、天然ケイ石、ゴム、ウレタン等を用いる。ボールは、アルミナを主成分とするアルミナボール、天然ケイ石、鉄芯入りナイロンボール、ジルコニアボール等がある湿式と乾式の粉砕方法があり、焼結体を得るための原料粉末の混合・粉砕に広範に利用されている。
また、ボールミル混合以外の方法としては、ビーズミル法やジェットミル法も有効である。特に、大きな平均粒径の原料を用いる場合や、短時間で粉砕混合する必要がある場合は非常に有効である。ビーズミル法とは、ベッセルと呼ばれる容器の中に、ビーズ(粉砕メディア、ビーズ径0.005〜3mm)を70〜90%充填しておき、ベッセル中央の回転軸を周速7〜15m/秒で回転させることによりビーズに運動を与える。ここに、原料粉末等の被粉砕物を液体に混ぜたスラリーをポンプで送り込み、ビーズを衝突させることによって微粉砕・分散させる。ビーズミルの場合、被粉砕物に合わせてビーズ径を小さくすれば効率が上がる。一般的に、ビーズミルはボールミルの1千倍近い加速度で微粉砕と混合を実現することができる。このような仕組みのビーズミルは、様々な名称で呼ばれており、例えば、サンドグラインダー、アクアマイザイー、アトライター、パールミル、アベックスミル、ウルトラビスコミル、ダイノーミル、アジテーターミル、コボールミル、スパイクミル、SCミル等が知られており、本発明においてはいずれも使用できる。また、ジェットミルとは、ノズルから音速前後で噴射される高圧の空気あるいは蒸気を、超高速ジェットとして原料粉末等の被粉砕物に対し衝突させ、粒子同士の衝撃によって微粒子に粉砕する方法である。
上述したように、まず、酸化インジウム粉末と酸化ガドリニウム粉末を所望の割合でボールミル用ポットに投入し、乾式あるいは湿式混合して混合粉末を調製する。そして、本発明の酸化物焼結体を得るためには、上記原料粉末の配合割合について、インジウムとガドリニウムの含有量がGd/In原子数比で0.001〜0.070となるように調製する。
こうして調製された混合粉末に、水および分散材・バインダー等の有機物を加えてスラリーを製造する。スラリーの粘度は150〜5000cPが好ましく、より好ましくは400〜3000cPである。
次に、得られたスラリーとビーズとをビーズミルの容器に入れて処理する。ビーズ材としては、ジルコニア、アルミナ等を挙げることができるが、耐摩耗性の点でジルコニアが好ましい。ビーズの直径は、粉砕効率の点から1〜3mmが好ましい。パス数は1回でもよいが、2回以上が好ましく、5回以下で十分な効果が得られる。また、処理時間としては、好ましくは10時間以下、更に好ましくは4〜8時間である。
このような処理を行うことによって、スラリー中における酸化インジウム粉末と酸化ガドリニウム粉末の粉砕・混合が良好となる。
次に、このようにして処理されたスラリーを用いて成形を行う。成形方法としては、鋳込み成形法、プレス成形法のいずれも採用することができる。鋳込み成形を行う場合、得られたスラリーを鋳込み成型用の型に注入して成形体を製造する。ビーズミルの処理から鋳込みまでの時間は10時間以内とするのが好ましい。こうすることにより得られたスラリーがチクソトロピー性を示すことを防ぐことができるからである。また、プレス成形を行う場合、得られたスラリーにポリビニルアルコール等のバインダー等を添加し、必要に応じて水分調節を行ってからスプレードライヤー等で乾燥させて造粒する。得られた造粒粉末を所定の大きさの金型に充填し、その後、プレス機を用いて100〜1000kg/cm2の圧力で1軸加圧成形を行い成形体とする。このときの成形体の厚みは、この後の焼成工程による収縮を考慮して、所定の大きさの焼結体を得ることができる厚さに設定することが好ましい。
上述の混合粉末から作製した成形体を用いて酸化物焼結体を製造する場合、製造コストが低い常圧焼結法で製造することが好ましい。この常圧焼結法で焼成して酸化物焼結体を得る場合には以下のようになる。
まず、得られた成形体に対して300〜500℃の温度で5〜20時間程度加熱し、脱バインダー処理を行う。その後、昇温させて焼結を行うが、昇温速度は、効果的に内部の空孔を外部へ放出させるため、150℃/時間以下、好ましくは100℃/時間以下、更に好ましくは80℃/時間以下とする。焼結温度は、1150〜1300℃、好ましくは、1200〜1250℃とし、焼結時間は1〜20時間、好ましくは2〜5時間焼結する。脱バインダー処理〜焼結工程は、炉内容積0.1m3当たり5リットル/分以上の割合の酸素を炉に導入して行うことが重要である。上記焼結工程において酸素を導入して行うのは、焼結体は1150℃以上で酸素を解離し易く、過剰の還元状態に進み易いので、これを阻止するためである。酸素の解離は焼成温度が高くなるほど激しくなり、焼結体の中心に比べ表面側ほど酸素欠損が生じ易い。そのため、1300℃を超えた温度で焼成を行うと、焼結体における酸素欠損濃度にむらが発生し易くなる。酸素欠損濃度むらが大きいと、その後に続く酸素調整工程で、焼結体の最表面だけでなく焼結体内部においても酸素欠損濃度むらが解消されないことがあり、好ましくない。また、焼成温度が1150℃未満では、温度が低過ぎて焼結に乏しく、十分な強度の焼結体を得ることができないため好ましくない。
焼結後、焼結体の酸素量調整工程を行う。酸素量調整工程は、900〜1100℃、好ましくは950〜1050℃の加熱温度で行い、加熱時間は10時間以上であることが重要である。上記酸素量調整工程の加熱温度までの冷却は、酸素導入を継続しながら行い、0.1〜20℃/分、好ましくは2〜10℃/分の範囲の降温速度で降温する。
焼結体の酸素量調整工程では、炉内雰囲気の制御も特に重要であり、炉への導入ガスは酸素とアルゴンの混合比(体積比)をO2/Ar=40/60〜90/10の範囲内で制御して、炉内容積0.1m3当たり5リットル/分以上の割合で炉内に導入することが重要である。このような温度と雰囲気、時間を精密に調整することで、酸化物蒸着材として使用する際に有用な本発明で規定する上記L*値を有する焼結体を得ることができる。
上記酸素量調整工程における加熱温度は、900℃未満では、酸素の解離・吸着の反応が鈍くて焼結体内部まで均一な還元処理に時間を要してしまうため好ましくなく、1100℃を超えた温度で行うと酸素の解離が激し過ぎて、上記雰囲気による最適な還元処理が不可能となってしまうため好ましくない。また、酸素量調整工程の加熱温度が10時間未満であると、焼結体内部まで均一な還元処理が行えないため好ましくない。また、炉への導入ガスの混合比(O2/Ar)が40/60未満であると、酸素の解離による還元化が優勢となり過ぎて、L*値が60未満の焼結体となってしまうため好ましくない。逆に、炉への導入ガスの混合比(O2/Ar)が90/10を超えると、酸化が優勢となり過ぎて、L*値が94を超えた焼結体となってしまうため好ましくない。
本発明の酸化物蒸着材を得るためには、上述したように酸素ガスをアルゴンガスで精密に希釈させたガス雰囲気下、すなわち、酸素量が精密に制御された雰囲気下にておいてアニール処理することが重要であるが、雰囲気ガスは必ずしも酸素とアルゴンとの混合ガスである必要はない。例えば、アルゴンの代わりにヘリウムや窒素等の他の不活性ガスを用いても有効である。また、アルゴンの代わりに大気を用いる場合でも、その全体の混合ガス中で酸素含有量が精密に一定制御されていれば有効である。しかし、従来の技術のように、大気にて焼成している炉に酸素ガスを導入するのでは、炉中の雰囲気の酸素含有量を精密に制御できないため有効ではない。本発明で提案しているように、酸素ガスの含有割合が精密に制御された不活性ガスとの混合ガスを導入して炉内を満たすことにより、最適な還元状態を有する酸化物蒸着材を得ることができる。
そして、酸素量調整工程を終えた後は10℃/分で室温まで降温し、室温にて炉から取り出すことができる。得られた焼結体は、所定の寸法に研削等により加工して酸化物蒸着材とすることができる。また、焼結の収縮率も考慮して、焼成後に所定の寸法となるような大きさの成形体を用いれば、焼結後の研削加工を行わなくても酸化物蒸着材として利用することができる。
ところで、スパッタリングターゲットの製造法の一つで、高密度の焼結体を得る方法として、ホットプレス法が有効であることが知られている。しかし、本発明の材料にホットプレス法を適用した場合、L*値が40以下の還元性が強過ぎる焼結体しか得られない。このような焼結体では本発明の目的を達成することはできない。
また、本発明の酸化物蒸着材については、例えば、直径10〜50mmで高さ10〜50mmの円柱形状のタブレット若しくはペレット形状で使用することも可能であるが、このような焼結体を粉砕した1〜10mm程度の顆粒形状でも利用することもできる。
また、本発明に係る酸化物蒸着材については、インジウム、ガドリニウム、酸素以外の他の元素として、例えば、スズ、タングステン、モリブデン、亜鉛、チタン、イットリウム等が含まれていても、本発明の特性が損なわれないことを条件に許される。但し、金属イオンの中でも、その酸化物の蒸気圧が酸化インジウムや酸化ガドリニウムの蒸気圧と較べて極めて高い場合には、各種真空蒸着法で蒸発させることが困難となるため含有されない方が好ましい。例えば、アルミニウム、チタン、シリコンのような金属は、これ等酸化物の蒸気圧が酸化インジウムや酸化ガドリニウムと較べて極めて高いため、酸化物蒸着材に含ませた場合、酸化インジウムや酸化ガドリニウムと共に蒸発させることが困難となる。このため、酸化物蒸着材に残存して高濃度化し、最終的には酸化インジウムと酸化ガドリニウムの蒸発の妨げになる等の悪影響を及ぼすことから含有させてはならない。
また、本発明に係る酸化物蒸着材において、ガドリニウムがインジウムサイトに置換した酸化インジウム相のみで形成されていてもよいし、ガドリニウムがインジウムサイトに置換した酸化インジウム相と酸化ガドリニウム相が混合された形態でもよく、更に、それらにガドリニウムとインジウムの酸化物化合物相が混在していてもよい。
そして、本発明の酸化物蒸着材を適用して各種真空蒸着法により透明導電膜を製造すると、上記酸化物蒸着材内の酸素含有量が最適に調整されているため、成膜真空槽への酸素導入量が少なくても最適な酸素欠損の透明導電膜を得ることができる。従って、透明導電膜と酸化物蒸着材間の組成差が小さく、酸素導入量の変動に伴う特性バラツキの影響も受け難い利点を有する。
(2)透明導電膜
酸化インジウムを主成分としかつガドリニウムを含む焼結体により構成され、ガドリニウムの含有量がGd/In原子数比で0.001〜0.070で、CIE1976表色系におけるL*値が60〜94である本発明に係る酸化物蒸着材を適用し、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法等の各種真空蒸着法により、ガドリニウムを含有する酸化インジウムの結晶膜を製造することができる。
結晶膜とすることで、ガドリニウムが酸化インジウムのインジウムサイトに置換固溶されたときに高い移動度を発揮させることができる。上記結晶膜は、成膜中の基板を180℃以上に加熱することで得られるが、基板を加熱しない非加熱の成膜にて得られた膜を180℃以上でアニールする方法でも得ることができる。
そして、上記結晶性の透明導電膜は、膜と酸化物蒸着材との組成差を小さくできる本発明の酸化物蒸着材から製造できるため、Gd/In原子数比で0.001〜0.070のガドリニウムを含有する酸化インジウム膜である。膜のガドリニウム含有量(Gd/In原子数比)が0.001未満では、移動度増加の効果が小さくて低抵抗の膜を得ることができない。また、0.070を超えると、膜中のガドリニウム量が多過ぎて電子移動の際の中性不純物散乱が大きくなってしまい、移動度が低下して低抵抗の膜が得られない。更に高い移動度の透明導電膜を得るためのより好ましいガドリニウムの含有量は、Gd/In原子数比で0.030〜0.050である。このような組成範囲にすることで、ホール移動度が65cm2/V・s以上で、比抵抗が5×10-4Ωcm以下の透明導電膜を実現することができる。また、上記ガドリニウムの含有量がGd/In原子数比で0.030〜0.050である透明導電膜は、キャリア濃度が低いため、波長400〜1200nmにおける膜自体の平均透過率は85%以上と非常に高い。
(3)太陽電池
太陽電池は、上記透明導電膜を電極として用いている光電変換素子である。太陽電池素子の構造は特に限定されず、p型半導体とn型半導体を積層したPN接合型、p型半導体とn型半導体の間に絶縁層(I層)を介在させたPIN接合型等が挙げられる。
また、太陽電池は、半導体の種類によって大別され、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系半導体を光電変換素子として用いた太陽電池、CuInSe系やCu(In,Ga)Se系、Ag(In,Ga)Se系、CuInS系、Cu(In,Ga)S系、Ag(In,Ga)S系やこれらの固溶体、GaAs系、CdTe系等で代表される化合物半導体の薄膜を光電変換素子として用いた化合物薄膜系太陽電池、および、有機色素を用いた色素増感型太陽電池(グレッツェルセル型太陽電池とも呼ばれる)に分類され、上述した透明導電膜を電極として用いることで高効率を実現できる。特に、アモルファスシリコンを用いた太陽電池や化合物薄膜系太陽電池では、太陽光が入射する側(受光部側、表側)の電極には透明導電膜が必要不可欠であり、上記透明導電膜を用いることで高い変換効率の特性を発揮することができる。
上記シリコン系の太陽電池について概説すると、PN接合型の太陽電池素子は、例えば厚み0.2〜0.5mm程度、大きさ180mm角程度の単結晶や多結晶のシリコン基板が用いられ、素子のシリコン基板内部にはボロン等のP型不純物を多く含んだP層と、リン等のN型不純物を多く含んだN層が接したPN接合が形成される。
また、上記シリコン基板の代わりに、ガラス板、樹脂板、樹脂フィルム等の透明基板も使用される。この場合、基板に上記透明導電膜を電極として形成した後、アモルファスあるいは多結晶のシリコンが積層されて、薄膜シリコン系太陽電池として分類される。
アモルファスシリコンでは、PN接合の間に絶縁層(I層)が介在したPIN接合とされる。すなわち、図1に示すように、ガラス基板1の上に、表側(受光部側)透明電極膜2と、p型アモルファスシリコン膜または水素化アモルファスシリコンカーバイド膜3と、不純物を含まないアモルファスシリコン膜4と、n型アモルファスシリコン膜5と、裏側透明電極膜(接触改善層)6と、裏側金属電極すなわち裏面電極7が積層された構造を有している。尚、上記p型アモルファスシリコン膜または水素化アモルファスシリコンカーバイド膜3、不純物を含まないアモルファスシリコン膜4、および、n型アモルファスシリコン膜5は、通常、プラズマCVD法によって形成される。これ等のアモルファスシリコン膜と水素化アモルファスシリコン膜には、光吸収波長を制御するためにゲルマニウム、炭素、窒素、スズ等が含まれていてもよい。
尚、シリコン薄膜を用いた薄膜太陽電池は、シリコン薄膜を含む光電変換層(すなわちPIN接合層)が、アモルファスシリコン系薄膜で構成されたもの、微結晶シリコン系薄膜で構成されたもの、アモルファスシリコン系薄膜で構成された光電変換層と微結晶シリコン系薄膜で構成された光電変換層の積層で構成されたもの(タンデム型薄膜系光電変換層)に分類される。光電変換層の積層数が3層以上で構成された太陽電池も存在する。その他、単結晶シリコン板あるいは多結晶シリコン板の光電変換層と、上記薄膜系光電変換層が積層されたハイブリッド型の光電変換層を有するものも存在する。
次に、上記化合物薄膜系太陽電池について説明する。化合物薄膜を用いた太陽電池は、通常は広いバンドギャップを持つ化合物半導体薄膜(n型半導体の中間層)と狭いバンドギャップを持つ化合物半導体(p型半導体の光吸収層)のヘテロ結合で構成されている。一般的な構造は、表面電極(透明導電膜)/窓層/中間層/光吸収層/裏面電極(金属または透明導電膜)となる。
具体的には、図2に示すように、ガラス基板12の上に、上記透明導電膜から成る透明電極膜11と、窓層10と、半導体の中間層9と、p型半導体の光吸収層8と、裏面電極7が積層されている。また、図3には、ガラス基板12の上に、下部電極すなわち裏面電極13と、p型半導体の光吸収層8と、半導体の中間層9と、窓層10と、上記透明導電膜から成る透明電極膜11が積層されている。いずれの構造も、透明電極膜11側が太陽光線の入射方向となっている。
尚、基板としては、上記ガラス、樹脂、金属、セラミック等その材質によって特に限定されず、透明でも非透明でもよいが、透明基板が好ましい。樹脂の場合、板状、フィルム等様々な形状のものが使用でき、例えば150℃以下の低融点のものであってもよい。金属の場合、ステンレス鋼、アルミニウム等が挙げられ、セラミックとしては、アルミナ、酸化亜鉛、カーボン、窒化珪素、炭化珪素等を挙げることができる。アルミナ、酸化亜鉛以外の酸化物として、Ga,Y,In,La,Si,Ti,Ge,Zr,Sn,NbまたはTaから選ばれる酸化物を含んだものでもよい。これ等の酸化物としては、例えば、Ga2O3,Y2O3,In2O3,La2O3,SiO2,TiO2,GeO2,ZrO2,SnO2,Nb2O5,Ta2O5等を挙げることができる。本明細書においては、これ等ガラス、樹脂、セラミック製の基板を非金属基板と称する。基板表面は、少なくとも一方に山型の凹凸を設けること、エッチング等で粗面化することにより、入射する太陽光線を反射し易くしておくことが望ましい。
また、上記裏面電極7、13としては、Mo、Ag、Au、Al、Ti、Pd、Ni、これ等の合金等導電性電極材料が使用され、Mo、Ag、AuまたはAlのいずれかが好ましい。通常、0.5〜5μm、好ましくは1〜3μmの厚さとされる。その形成手段は、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ法、真空蒸着法やCVD法等が利用できる。
また、上記光吸収層8を構成するp型半導体としては、CuInSe2、CuInS2、CuGaSe2、CuGaS2、AgInSe2、AgInS2、AgGaSe2、AgGaS2およびこれ等の固溶体やCdTeが利用可能である。より高いエネルギー変換効率を得るために必要とされる条件は、より多くの光電流を得るための光学的な最適設計と、界面または特に吸収層においてキャリアの再結合のない高品質なヘテロ接合および薄膜を作ることである。通常、1〜5μm、好ましくは2〜3μmの厚さとされる。その形成手段としては特に限定されないが、例えば、真空蒸着法やCVD法等が利用できる。また、高品質なヘテロ界面は中間層/吸収層の組み合わせと関係が深く、CdS/CdTe系やCdS/CuInSe2系、CdS/Cu(In,Ga)Se2系、CdS/Ag(In,Ga)Se2系等において有用なヘテロ接合が得られる。
また、太陽電池を高効率化するには、より広いバンドギャップをもつ半導体、例えば、中間層9を構成する半導体薄膜としてCdSやCdZnS等が用いられる。これ等半導体薄膜によって、太陽光における短波長の感度向上を図ることができる。通常、10〜200nm、好ましくは30〜100nmの厚さとされる。上記中間層9の形成手段としては特に限定されないが、CdS薄膜の場合、溶液析出法で、CdI2、NH4Cl2、NH3およびチオ尿素の混合溶液を用いて形成される。更に、中間層9であるCdSや(Cd,Zn)Sの入射光側には、これ等の薄膜よりもバンドギャップの大きな半導体を窓層10として配置することができる。これにより、再現性の高い高性能な太陽電池となる。上記窓層10は、例えばZnOや(Zn,Mg)O薄膜等その導電率がCdS薄膜と同程度の薄膜で構成され、通常、50〜300nm、好ましくは100〜200nmの厚さとされる。また、窓層10の形成手段としては特に限定されないが、ZnO等のターゲットとスパッタガスとしてArを用いた直流マグネトロンスパッタ法等により形成される。
上記太陽電池は、化合物薄膜系太陽電池においてその太陽光が入射する側(表面および/または裏面)の電極に本発明の酸化物蒸着材を適用して形成された透明導電膜を用いたものであり、上記透明導電膜は従来の透明導電膜よりも低抵抗で透過率が高いため高い変換効率を実現できる。
ところで、上述したいずれの型の太陽電池素子でも、その受光面(表面)側および裏面側には、銀ペーストを用いたスクリーンプリント法等によりバスバー電極とフィンガー電極がそれぞれ形成され、かつ、これ等電極表面は、その保護と接続タブを取り付け易くするため、そのほぼ全面に亘りハンダコートされる。尚、太陽電池素子がシリコン基板の場合、受光面側に、ガラス板、樹脂板、樹脂フィルム等の透明な保護材が設けられる。
また、電極を構成する上記透明導電膜の厚さについては、特に制限されることはなく、材料の組成等にもよるが、150〜1500nm、特に200〜900nmであることが望ましい。そして、上記透明導電膜は、低抵抗であり、波長400nm〜1200nmの可視光線から近赤外線までを含む太陽光の透過率が高いため、太陽光の光エネルギーを極めて有効に電気エネルギーに変換することができる。
尚、上記透明導電膜は、太陽電池以外に、光検出素子、タッチパネル、フラットパネルディスプレイ(LCD、PDP、EL等)、発光デバイス(LED、LD等)の透明電極としても有用である。例えば、光検出素子の場合、ガラス電極、光入射側の透明電極、赤外線等の光検知材料層、裏面電極を積層させた構造を含んでいる。赤外線を検出するための上記光検知材料層には、GeやInGeAsをベースとする半導体材料を用いたタイプ[フォトダイオード(PD)やアバランシェフォトダイオード(APD)]、アルカリ土類金属元素の硫化物あるいはセレン化物に、Eu、Ce、Mn、Cuの中から選ばれる1種類以上の元素と、Sm、Bi、Pbの中から選ばれる1種類以上の元素を添加した材料等を用いるタイプがある。この他に、非晶質珪素ゲルマニウムと非晶質珪素との積層体を用いたAPDも知られており、いずれも使用できる。
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
[実施例1〜4]
酸化物蒸着材の作製
平均粒径が0.8μmのIn2O3粉末、および、平均粒径が1μmのGd2O3粉末を原料粉末とし、これ等のIn2O3粉末とGd2O3粉末を、Gd/Inの原子数比が0.030となるような割合で調合し、かつ、樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を20時間とした。
混合後、スラリーを取り出し、得られたスラリーにポリビニルアルコールのバインダーを添加し、スプレードライヤー等で乾燥させて造粒した。
この造粒物を用いて、1ton/cm2の圧力で1軸加圧成形を行なって直径30mm、厚み40mmの円柱形状の成形体を得た。
次に、得られた成形体を以下のようにして焼結した。
すなわち、焼結炉内の大気中、300℃の温度条件で10時間程度加熱して成形体の脱バインダー処理を行った後、炉内容積0.1m3当たり5リットル/分の割合で酸素を導入する雰囲気で、1℃/分の速度で昇温し、1250℃で2時間焼結した(常圧焼結法)。この際、焼結後における冷却の際にも、酸素を導入しながら、1000℃までを10℃/分で降温した。
次に、導入ガスを酸素とアルゴンの混合ガスに切り替え、1000℃にて15時間加熱保持(以後、この工程を焼結体酸素量調整工程と称する)した後、10℃/分で室温まで降温した。
そして、上記混合ガスの酸素とアルゴンの混合割合を変化させることで種々のL*値の酸化物焼結体(酸化物蒸着材)を得ることができた。
すなわち、実施例1に係る酸化物蒸着材は酸素ガス/アルゴンガス流量比(すなわち体積比)が「40/60」の条件で製造され、実施例2に係る酸化物蒸着材は上記体積比が「60/40」の条件で製造され、実施例3に係る酸化物蒸着材は上記体積比が「80/20」の条件で製造され、および、実施例4に係る酸化物蒸着材は上記体積比が「90/10」の条件で製造されている。
尚、得られた酸化物焼結体(酸化物蒸着材)の体積と重量を測定して密度を算出したところ、4.3〜5.0g/cm3であった。また、上記酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、何れも2〜7μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計で表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、1kΩcm以下であった。更に、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成を有することが分った。また、焼結体表面と焼結体内部について、色差計(BYK−GardnerGmbH社製スペクトロガイド、E−6834)を用いて、CIE1976表色系におけるL*値を測定したところ、殆んど同じ値を示した。
焼結体酸素量調整工程において導入した混合ガスの酸素ガス/アルゴンガス流量比(すなわち体積比)と、得られた酸化物焼結体(酸化物蒸着材)のL*値を表1に示す。
[透明導電膜の作製と膜特性評価、成膜評価]
(1)透明導電膜の作製には磁場偏向型電子ビーム蒸着装置を用いた。
真空排気系はロータリーポンプによる低真空排気系とクライオポンプによる高真空排気系から構成されており、5×10-5Paまで排気することが可能である。電子ビームはフィラメントの加熱により発生し、カソード−アノード間に印加された電界によって加速され、永久磁石の磁場中で曲げられた後、タングステン製の坩堝内に設置された酸化物蒸着材に照射される。電子ビームの強度はフィラメントへの印加電圧を変化させることで調整できる。また、カソード−アノード間の加速電圧を変化させるとビームの照射位置を変化させることができる。
成膜は以下の条件で実施した。
真空室内にArガスとO2ガスを導入して圧力を1.5×10-2Paに保持した。この際、真空室内に導入するArガスとO2ガスの混合割合を変化させて得られる透明導電膜の特性を評価した。タングステン製坩堝に実施例1〜4の円柱状酸化物蒸着材を立てて配置し、酸化物蒸着材の円形面の中央部に電子ビームを照射して、厚み1.1mmのコーニング7059ガラス基板上に膜厚200nmの透明導電膜を形成した。電子銃の設定電圧は9kV、電流値は150mAとし、基板は250℃に加熱した。
(2)得られた薄膜(透明導電膜)の特性は以下の手順で評価した。
まず、薄膜(透明導電膜)の表面抵抗は、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で測定し、かつ、薄膜(透明導電膜)の膜厚は接触式表面粗さ計(テンコール社製)を用いて未成膜部分と成膜部分の段差測定から評価し、比抵抗を算出した。また、ホール効果測定装置(東陽テクニカ社製 ResiTest)を用いて、Van der Pauw法による膜の室温におけるキャリア濃度、ホール移動度を測定した。
次に、分光光度計(日立製作所社製、U−4000)でガラス基板を含めた膜(膜L付ガラス基板B)の透過率[TL+B(%)]を測定し、同様の方法で測定したガラス基板のみ(ガラス基板B)の透過率[TB(%)]から、[TL+B÷TB]×100(%)で膜自体の透過率を算出した。
また、膜の結晶性はX線回折測定で評価した。X線回折装置は、X‘PertPROMPD(PANalytical社製)を用い、測定条件は広域測定で、CuKα線を用い、電圧45kV、電流40mAで測定を行った。X線回折ピークの有無から膜の結晶性を評価した。この結果も表1の「膜の結晶性」欄に示す。
次に、膜の組成(Gd/Inの原子数比)はICP発光分析法で測定した。また、膜の基板に対する付着力は、JIS C0021に基づき評価した。評価は膜剥がれがない場合は良好(強い)とし、膜剥がれがあるものは不十分(弱い)とした。これ等の結果も表1の「Gd/Inの原子数比」と「膜の基板に対する付着力」の各欄に示す。
各薄膜(透明導電膜)の比抵抗と透過率は、成膜中に成膜真空槽に導入するArガスとO2ガスの混合割合に依存した。O2ガスの混合割合[O2/(Ar+O2)(%)]を0〜50%まで1%刻みで変化させて、最も低い比抵抗を示したO2ガスの混合割合を最適酸素混合量として決定した。この結果を表1の「最適酸素混合量」欄に示す。
最適酸素混合量より少ない酸素量で作製した薄膜(透明導電膜)は、導電性が悪いだけでなく可視域の透過率も低かった。最適酸素混合量で作製した薄膜(透明導電膜)は、導電性が良好なだけでなく、可視〜近赤外における透過率も高かった。
(3)実施例1〜4の酸化物蒸着材を用いて、上記成膜評価を実施したときの、最適酸素混合量と、そのときの膜の比抵抗、可視域(波長400〜800nm)と近赤外域(波長800〜1200nm)における膜自体の平均透過率を求めた。
これらの評価結果を表1の「比抵抗」と「膜自体の透過率」欄にそれぞれ示す。
実施例1〜4の酸化物蒸着材を用いた成膜では、最も低抵抗で高透過性の透明導電膜を得るために成膜真空槽に導入すべき最適酸素混合量は非常に少なかった。これは、各酸化物蒸着材内に最適な酸素量を含んでいたからである。また、最適酸素混合量において製造された膜は、酸化物蒸着材と同じ組成を示し、非常に低い比抵抗を示すだけでなく、可視〜赤外域においても高い透過率を示した。また、膜はビックスバイト型構造の酸化インジウムの結晶膜であることが確認され、基板に対する付着力も強くて実用的には十分であった。
更に、電子銃の設定電圧は9kV、電流値は150mAとした。60分間の電子ビーム照射後の酸化物蒸着材を観察し、酸化物蒸着材に割れやクラックが入っていないか目視観察した(酸化物蒸着材耐久テスト)。実施例1〜4の酸化物蒸着材は、連続で使用してもクラックが発生(「割れなし」の評価)することがなかった。
このような透明導電膜は、太陽電池の透明電極として非常に有用といえる。
[比較例1〜2]
実施例1〜4において、焼結体酸素量調整工程における導入ガスの混合比のみを変えて酸化物焼結体を製造した。すなわち、比較例1では、O2/Ar流量比で30/70とし、比較例2では100/0とした。得られた焼結体について、密度、比抵抗、結晶粒経、組成を同様に評価したが実施例1〜4と同等であった。得られた酸化物焼結体の表面と内部の色身は同等であり、そのL*値を測定したところ表1のような値を示した。
次に、実施例1〜4と同様、成膜評価を実施した。
その結果も上記表1に示した。
比較例1は、L*値が本発明の規定範囲(60〜94)よりも小さい値(55)を示した酸化物蒸着材であり、実施例1〜4の酸化物蒸着材と較べて成膜時における最適酸素混合量が多い(16)特徴を有していた。最適酸素混合量における膜の特性は、実施例1〜4と較べて透過率は同等だったが、比抵抗は若干高かった。これは、膜の組成ズレが大きかったことが要因と思われる。更に、比較例1の膜は、基板に対する付着力が実施例1〜4と較べて弱かった。これは、成膜時に酸素を多めに導入した成膜であったことによると思われる。このような酸化物蒸着材は、得られる膜の組成ズレが大きいため、膜組成を設計し難い。また、酸素を多めに成膜真空槽に導入する必要があるため、成膜の量産工程で使用すると、真空槽内の酸素濃度変動の影響を受けて組成や特性の変動が大きくなる。従って、比較例1の酸化物蒸着材は、成膜量産には不向きであることが確認される。
また、比較例2は、L*値が本発明の規定範囲よりも大きい値(98)を示した酸化物蒸着材の例である。成膜時の最適酸素混合量は0%であったが、膜の比抵抗は実施例1〜4と較べて高かった。これは、酸化物蒸着材から膜に供給される酸素が多過ぎて膜中の酸素量が多く、最適な酸素欠損量を導入することができなかったためと思われる。従って、このような酸化物蒸着材を用いて成膜しても、この蒸着材の組成が本来有している高い導電性を発揮する膜を得ることができないことが確認される。
[比較例3]
次に、特開2005−290458号公報(特許文献3)に紹介されたスパッタターゲットの焼結体作製技術に従って、ガドリニウムを含有する酸化インジウム焼結体を製造した。
まず、平均粒径が0.8μmのIn2O3粉末および平均粒径が1μmのGd2O3粉末を原料粉末とし、Gd/Inの原子数比が0.030となるような割合でIn2O3粉末とGd2O3粉末を調合し、かつ、樹脂製ポットに入れて湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を20時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥後、造粒した。そして、得られた造粒粉を用い、3t/cm2の圧力を加えて冷間静水圧プレスで成形を実施した。
得られた成形体を、焼結炉に入れて、炉内容積0.1m3当たり5リットル/分の割合で酸素を導入して雰囲気を作り、1450℃で8時間焼結した。この際、1000℃までを1℃/分、1000〜1450℃を2℃/分で昇温した。その後、酸素導入をとめて、1450〜1300℃を5℃/分で降温した。そして、炉内容積0.1m3当たり10リットル/分の割合でアルゴンガスを導入する雰囲気で、1300℃を3時間保持した後、放冷した。
得られた焼結体を、直径30mm、厚み40mmの大きさの円柱形状に加工した。焼結体の密度は6.6g/cm3、比抵抗は1.1mΩcmであった。また、結晶粒経は10〜15μmであり、組成は仕込み組成とほぼ同じであった。得られた焼結体の表面と内部の色身は同等であり、そのL*値を測定したところ、表1に示すように極めて低い値(49)であった。これは、酸化物蒸着材中の酸素量が非常に少ないことを示している。
また、実施例1〜4と同様、成膜評価を実施した。
その結果も上記表1に示した。
比較例3は、L*値が本発明の規定範囲(60〜94)と較べて著しく小さい値(49)を示している。同じ組成の実施例1〜4の酸化物蒸着材と較べて、成膜時の最適酸素混合量が非常に多い(35)。最適酸素混合量における膜の特性は、実施例1〜4と較べて透過率は同等だったが、比抵抗は高かった。これは、膜の組成ズレが大きかったことが要因と思われる。更に、比較例3の膜は、基板に対する付着力が実施例1〜4と較べて弱かった。これは、成膜時に酸素を多めに導入した成膜であったことによると思われる。このような酸化物蒸着材は、得られる膜の組成ズレが大きいため膜組成を設計し難い。また、酸素を多めに成膜真空槽に導入する必要があるため、成膜の量産工程で使用すると、真空槽内の酸素濃度変動の影響を受けて組成や特性の変動が大きくなる。また、実施例1〜4と同様の条件で酸化物蒸着材耐久テストを行なったところ、連続成膜後の酸化物蒸着材にはクラックが発生(「割れ」の評価)していた。このようなクラックの入った酸化物蒸着材を用いて連続的に成膜を行なうと、成膜速度が大きく変動する等の問題が生じて安定に成膜することができない。
従って、比較例3の酸化物蒸着材は成膜量産には不向きであることが確認された。
[実施例5〜8]
In2O3粉末とGd2O3粉末を調合する際、Gd/Inの原子数比が0.050となるような割合で調合した以外は、焼結体酸素量調整の条件も含めて実施例1〜4と全く同様の条件で実施例5〜8の酸化物焼結体(酸化物蒸着材)を作製した。
すなわち、実施例5に係る酸化物蒸着材は酸素ガス/アルゴンガス流量比(すなわち体積比)が「40/60」の条件で製造され、実施例6に係る酸化物蒸着材は上記体積比が「60/40」の条件で製造され、実施例7に係る酸化物蒸着材は上記体積比が「80/20」の条件で製造され、および、実施例8に係る酸化物蒸着材は上記体積比が「90/10」の条件で製造されている。
そして、得られた実施例5〜8の酸化物焼結体(酸化物蒸着材)について、密度、比抵抗、結晶粒経、組成を同様に評価したところ、いずれも実施例1〜4と同等であった。また、得られた酸化物焼結体の表面と内部の色身は同等であった。そのL*値を測定した結果を上記表1に示した。
また、実施例1〜4と同様、成膜評価を実施した。
その結果も上記表1に示した。
実施例5〜8の酸化物蒸着材を用いた成膜では、最も低抵抗で高透過性の透明導電膜を得るために成膜真空槽に導入すべき最適酸素混合量は、実施例1〜4と同様、非常に少なかった。これは、酸化物蒸着材内に最適な酸素量を含んでいたからである。また、最適酸素混合量において製造された膜は、酸化物蒸着材と同じ組成を示し、非常に低い比抵抗を示すだけでなく、可視〜赤外域においても高い透過率を示した。また、全ての膜は、酸化インジウムのビックスバイト型結晶構造の結晶膜となっており、膜の基板に対する付着力も強くて実用的には十分であった。更に、実施例5〜8の酸化物蒸着材は連続で使用してもクラックが発生することもなかった。
このような透明導電膜は、太陽電池の透明電極として非常に有用といえる。
[比較例4〜5]
比較例1〜2において、In2O3粉末とGd2O3粉末を調合する際のGd/Inの原子数比を0.050とした以外は、比較例1〜2と同様の条件で酸化物蒸着材を作製した。すなわち、焼結体酸素量調整の条件が、比較例4では、O2/Ar流量比で30/70とし、比較例5では100/0とした。得られた焼結体について、密度、比抵抗、結晶粒経、組成を同様に評価したが、実施例5〜8と同等であった。また、得られた焼結体の表面と内部の色身は同等であり、そのL*値を測定したところ、表1のような値を示した。
次に、実施例1〜4と同様、成膜評価を実施した。
その結果も表1に示した。
比較例4は、L*値が本発明の規定範囲よりも小さい値(56)を示した酸化物蒸着材であり、実施例5〜8の酸化物蒸着材を使用したとき較べて、成膜時の最適酸素混合量が多かった。最適酸素混合量における膜の特性は、実施例5〜8と較べて透過率はほぼ同等だったが、比抵抗は若干高かった。この原因は、膜の組成ズレが大きく、膜中にガドリニウムが過剰に含まれていたからと思われる。更に、比較例4の膜は、基板に対する付着力が実施例5〜8と較べて弱かった。このような大きな組成ズレと低付着力の要因は、何れも成膜時に酸素を多めに導入した成膜であったからである。このような酸化物蒸着材は、得られる膜の組成ズレが大きいため膜組成を設計し難い。また、酸素を多めに成膜真空槽に導入する必要があるため、成膜の量産工程で使用すると、真空槽内の酸素濃度変動の影響を受けて組成や特性の変動を顕著に受け易くなる。従って、比較例4の酸化物蒸着材も成膜量産には不向きであることが確認された。
また、比較例5は、L*値が本発明の規定範囲よりも大きい値(98)を示した酸化物蒸着材の例である。成膜時の最適酸素混合量は0%であったが、膜の比抵抗は実施例5〜8と較べて高かった。これは、酸化物蒸着材から膜に供給された酸素が多過ぎて膜中の酸素量が多く、最適な酸素欠損量を導入することができなかったためと思われる。従って、このような酸化物蒸着材を用いて成膜しても、この酸化物蒸着材の組成が本来有する高い導電性を発揮する膜を得ることができないことが確認される。
[比較例6]
比較例3において、In2O3粉末とGd2O3粉末を調合する際のGd/Inの原子数比を0.050とした以外は、比較例3と同様の条件で酸化物蒸着材を作製した。得られた焼結体について、密度、比抵抗、結晶粒経、組成を同様に評価したが、比較例3と同等であった。また、得られた焼結体の表面と内部の色身は同等であり、そのL*値を測定したところ表1のような値を示した。
次に、実施例1〜4と同様、成膜評価を実施した。
その結果も表1に示した。
比較例6も、L*値が本発明の規定範囲と較べて著しく小さい値(48)を示している。同じ組成の実施例5〜8の酸化物蒸着材と較べて、成膜時の最適酸素混合量が非常に多い(40)。最適酸素混合量における膜の特性は、実施例5〜8と較べて透過率は同等だったが、比抵抗は高かった。これは、膜の組成ズレが大きかったことが要因と思われる。更に、比較例6の膜は、基板に対する付着力が実施例5〜8と較べて弱かった。これは、成膜時に酸素を多めに導入した成膜であったからである。このような酸化物蒸着材は、得られる膜の組成ズレが大きいため膜組成を設計し難い。また、酸素を多めに成膜真空槽に導入する必要があるため、成膜の量産工程で使用すると、真空槽内の酸素濃度変動の影響を受けて組成や特性の変動が大きくなる。また、実施例1〜4と同様の条件で酸化物蒸着材耐久テストを行なったところ、連続成膜後の酸化物蒸着材にはクラックが発生(「割れ」の評価)していた。このようなクラックの入った酸化物蒸着材を用いて連続的に成膜を行なうと、成膜速度が大きく変動する等の問題が生じて安定に成膜することができない。
以上のことから、比較例6の酸化物蒸着材も成膜量産には不向きであることが確認される。
[実施例9〜13]
In2O3粉末とGd2O3粉末を調合する際の配合割合が、Gd/In原子数比で0.001(実施例9)、0.005(実施例10)、0.010(実施例11)、0.060(実施例12)、0.070(実施例13)となるように変化させた以外は、実施例2と同じ条件(すなわち、酸素ガス/アルゴンガス流量比が「60/40」の条件)で実施例9〜13の酸化物焼結体(酸化物蒸着材)を作製した。
そして、得られた実施例9〜13の酸化物焼結体(酸化物蒸着材)について、密度、比抵抗、結晶粒経、組成を同様に評価したところ、いずれも実施例2と同等であった。また、得られた酸化物焼結体の表面と内部の色身は同等であった。そのL*値を測定した結果を上記表1に示した。
また、実施例1〜4と同様、成膜評価を実施した。
その結果も上記表1に示した。
実施例9〜13の酸化物蒸着材を用いた成膜では、最も低抵抗で高透過性の透明導電膜を得るために成膜真空槽に導入すべき最適酸素混合量は、実施例1〜4と同様、非常に少なかった。これは、酸化物蒸着材内に最適な酸素量を含んでいたからである。また、最適酸素混合量において製造された膜は、酸化物蒸着材と同じ組成を示し、非常に低い比抵抗を示すだけでなく、可視〜赤外域においても高い透過率を示した。また、全ての膜は、酸化インジウムのビックスバイト型結晶構造の結晶膜であることが確認され、膜の基板に対する付着力も強くて実用的には十分であった。また、実施例1〜4と同様の条件で酸化物蒸着材耐久テストを行なったが、実施例9〜13の酸化物蒸着材は連続で使用してもクラックが発生することがなかった。
このような透明導電膜は、太陽電池の透明電極として非常に有用といえる。