前述したように、HCCI燃焼を実行する上では、圧縮端温度が自着火条件を満足するようにしなければならない。例えば冷間始動時等においてエンジンの暖機が完了するまでの期間内は、気筒内の温度と気筒内の壁面温度との温度差が大きく、壁面への放熱量が増大してしまうから、圧縮端温度は当然に自着火条件を満足しなくなる。このため、エンジンの未暖機状態においては、HCCI燃焼を実行することができずに、SI燃焼をせざるを得ない。しかしながら、燃費改善や排気清浄化を図る上では、エンジンの暖機を早期に完了させて、HCCI燃焼を早期に実行することが望ましい。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、HCCI燃焼の実行可能な火花点火式エンジンにおいて、エンジンの暖機を早期に完了させて、HCCI燃焼の実行を早期に可能にすることにある。
ここに開示する技術は、エンジンが未暖機状態のときには、エンジンの暖機を促進する観点から、燃料噴射弁によって点火プラグ周りに燃料を噴射するプリ燃料噴射を実行しかつ、吸気弁閉弁後の圧縮行程前半に点火プラグにより当該点火プラグ周りの混合気に火花点火を行うことで、早期の火花点火燃焼(プリSI燃焼)を実行することにした。このような早期の火花点火燃焼は、燃焼により高温となった気筒内のガスを圧縮することになるから、気筒内の壁面への放熱量を増大させて冷却損失を増大させ、エンジンの暖機を促進する。同時に、早期の火花点火燃焼は、圧縮端温度の上昇にも寄与する。その結果、圧縮端温度は、エンジンが未暖機状態であっても自着火条件を満たし得るから、前記のプリ燃料噴射とは別のメイン燃料噴射によって気筒内に形成した予混合気を、前記火花点火燃焼後の圧縮上死点付近で圧縮着火燃焼(メインHCCI燃焼)をさせるようにした。
具体的に、ここに開示する火花点火式エンジンの制御装置は、ガソリンを含有する燃料が供給される火花点火式エンジンと、前記エンジンの気筒内に前記燃料を噴射する燃料噴射弁を含む燃料供給手段と、前記気筒内の混合気に火花点火をする点火プラグと、前記燃料供給手段及び前記点火プラグの制御を通じて、前記火花点火式ガソリンエンジンの作動を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記エンジンの運転領域に応じて、前記点火プラグによって前記気筒内の混合気に火花点火をするSI燃焼モードと、前記気筒内の混合気を圧縮着火燃焼させるHCCI燃焼モードとを切り換える。
そして、前記制御手段はさらに、前記エンジンの始動時に、所定条件が成立しているときには、触媒の活性化を図る運転モードとし、前記運転モードの終了後、前記エンジンが、暖機が完了する前の未暖機状態のときには、前記燃料噴射弁によって前記点火プラグ周りに燃料を噴射するプリ燃料噴射を実行しかつ、吸気弁閉弁後の圧縮行程前半に前記点火プラグにより当該点火プラグ周りの混合気に火花点火を行うことで火花点火燃焼を実行すると共に、前記のプリ燃料噴射とは別のメイン燃料噴射によって前記気筒内に形成した予混合気を、前記火花点火燃焼後の圧縮上死点付近で圧縮着火燃焼させる。
ここで、前記の「未暖機状態」は、例えば圧縮端温度が自着火条件を満足せずに、HCCI燃焼を実行することができない状態と定義してもよい。
また燃焼モードの切り換えは、例えば相対的に高回転高負荷の運転領域ではSI燃焼モードとし、相対的に低回転低負荷の運転領域ではHCCI燃焼モードとするように切り換えてもよい。
前記の構成によると、エンジンの未暖機状態においては、点火プラグ周りに燃料を噴射するプリ燃料噴射を実行しかつ、吸気弁閉弁後の圧縮行程前半に点火プラグにより火花点火を行うことで火花点火燃焼、つまりプリSI燃焼を実行する。ここで、プリ燃料噴射のタイミングは特に規定されず、圧縮行程前半に実行される前記の火花点火のタイミングにおいて、点火プラグ周りに混合気を形成し得るタイミングで、プリ燃料噴射を実行すればよい。
こうした早期の火花点火燃焼は、前述したように、燃焼により高温となった気筒内のガスを圧縮することになるから、気筒内の壁面への放熱量を増大させてエンジンの冷却損失を増大させる。つまり、エンジンの暖機を促進する上で有利になり、結果として、エンジンの暖機が完了するまでの時間が短縮されて、エンジンをHCCI燃焼モードに早期に移行し得る。
また、前述した早期のプリSI燃焼は、圧縮端温度の上昇にも寄与することから、圧縮端温度が自着火条件を満たし得るようになる。そこで前記の構成では、プリ燃料噴射とは別のメイン燃料噴射を実行することによって気筒内に形成した予混合気は、火花点火燃焼ではなく圧縮着火燃焼をさせる。つまりメインHCCI燃焼を実行する。ここで、メイン燃料噴射のタイミングも特に限定されるものではなく、圧縮上死点付近、例えばMBTにて圧縮着火燃焼が行われるように、適宜のタイミングで実行すればよい。プリSI燃焼は、前記のエンジンの暖機促進だけでなく、その後のメインHCCI燃焼をアシストする役目も有しており、エンジンの未暖機状態においても圧縮着火燃焼(HCCI燃焼)が可能になって、実質的にはHCCI燃焼を早期に開始し得ることになる。
HCCI燃焼はノンスロットリング乃至少ないスロットリングを伴って実行されるため、ポンピングロスが低減することから、エンジンの未暖機状態の際にスロットリングを伴うSI燃焼を実行することに比べて、燃費が向上し得る。
前記制御手段は、前記プリ燃料噴射によって前記気筒内に供給する燃料量を、前記メイン燃料噴射によって前記気筒内に供給する燃料量に比べて少なく設定すると共に、前記2回の燃料噴射を通じて前記気筒内に供給する総燃料量を、空気過剰率λが1以上となるように設定し、前記制御手段はまた、前記エンジンの負荷の増大に応じて、前記プリ燃料噴射によって前記気筒内に供給する燃料量を減量しかつ、前記メイン燃料噴射によって前記気筒内に供給する燃料量を増量する、としてもよい。
つまり、前記のプリ燃料噴射及び火花点火によるプリSI燃焼は圧縮行程の前半で行うため、逆トルクを発生し得る。このため、発生する逆トルクを可及的に小さくする上では、プリ燃料噴射により供給する燃料量は、メイン燃料噴射により供給する燃料量に比べて少なく設定することが望ましい。
また、メインHCCI燃焼を実行するため、熱効率の観点からは、プリ燃料噴射及びメイン燃料噴射の双方により供給する総燃料量を空気過剰率λが1よりも大きくなるように設定することが好ましい一方で、前述したエンジンの暖機を早期に完了する観点からは、総燃料量を空気過剰率λが1になるように、換言すればプリ燃料噴射により供給する燃料量を可及的に増やしてエンジンの冷却損失を増大することが好ましい。また、総燃料量を空気過剰率λが1になるように設定することは、排気エミッションの観点においても有利になり得る。
前記制御手段は、前記プリ燃料噴射及びメイン燃料噴射を共に、前記燃料噴射弁を通じて行うと共に、前記プリ燃料噴射を前記圧縮行程の前半に完了させると共に、前記メイン燃料噴射を当該圧縮行程の後半に完了させる、としてもよい。
これとは異なり、前記燃料供給手段が、前記エンジンの吸気ポート内に燃料を噴射する第2の燃料噴射弁をさらに含み、前記制御手段は、前記プリ燃料噴射を前記燃料噴射弁を通じて行うと共に、前記メイン燃料噴射を前記第2の燃料噴射弁を通じて行う場合は、前記プリ燃料噴射を前記圧縮行程の前半に完了させると共に、前記メイン燃料噴射を当該圧縮行程前の吸気行程において完了させる、としてもよい。
つまり、メイン燃料噴射を、第2の燃料噴射弁を通じて吸気ポート内に行う場合は、吸気行程においてメイン燃料噴射を完了することで、燃料噴霧を吸気と共に気筒内に流入させると共に、ピストンの下降に伴い容積の拡大する気筒内に広く分散させて概ね均一な予混合気を形成する。一方、プリ燃料噴射は、圧縮行程の前半において点火プラグ周りに燃料を噴射することによって行う。この場合は、点火プラグにより火花点火を行うことで、プリ燃料噴射によって形成された、点火プラグ周りの相対的にリッチな混合気が燃焼する(プリSI燃焼)一方で、前記気筒内の略均一な予混合気は圧縮行程の前半であることで全体として極めて希薄な状態であることから、火炎が伝播しない。気筒内の略均一な予混合気は、火花点火燃焼後の圧縮上死点付近で圧縮着火燃焼することになる(メインHCCI燃焼)。例えばメイン燃料噴射を吸気ポート内に行う場合、その噴射量は、例えば気筒内空気過剰率λが2以上の、リーンな状態となるように設定してもよい。
前記エンジンは、幾何学的圧縮比が16以上である、としてもよい。つまり、前記の制御は、幾何学的圧縮比が16以上の比較的高圧縮比で、同時に高膨張比のエンジンに適用することが特に有効である。
以上説明したように、前記火花点火式エンジンの制御装置は、エンジンの暖機が完了する前の未暖機状態において、点火プラグ周りに燃料を噴射するプリ燃料噴射を実行しかつ、吸気弁閉弁後の圧縮行程前半に火花点火燃焼(プリSI燃焼)を実行することで、エンジンの冷却損失を増大させてエンジンを早期に暖機させることにより、燃費及びエミッション性に優れたHCCI燃焼モードに早期に移行し得る。また、早期のプリSI燃焼によって圧縮端温度を上昇させて、エンジンの未暖機状態においても圧縮着火燃焼(メインHCCI燃焼)を実行可能にすることで、少なくともポンピングロスの低減に伴う燃費の向上に有利になる。
以下、火花点火式エンジンの制御装置を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1は、この実施形態に係る火花点火式エンジン及びその制御装置の全体構成を示す。同図において符号1は、車両に搭載された多気筒ガソリンエンジンである。このエンジン1の本体は、複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)が設けられたシリンダブロック3上にシリンダヘッド4が配置されてなり、各気筒2内にはピストン5が嵌挿されて、その頂面とシリンダヘッド4の底面との間に燃焼室6が形成されている。ピストン5はコネクティングロッドによってクランク軸7に連結されている。ここでこのエンジン1は、詳しくは後述するが、予混合圧縮着火燃焼(HCCI燃焼)が可能なエンジン1であって、その幾何学的圧縮比が16以上の、比較的高い圧縮比、それと同時に比較的高い膨張比を有するエンジン1に構成されている。
前記シリンダヘッド4には、各気筒2毎に燃焼室6の天井部に開口するように吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。吸気ポート9はシリンダヘッド4の一側面に開口しており、排気ポート10は反対側の他側面に開口している。吸気ポート9及び排気ポート10は、それぞれ吸気弁11及び排気弁12によって開閉されるようになっており、これら吸排気弁11,12は、シリンダヘッド4に配設された動弁機構13のカム軸(図示せず)によりクランク軸7の回転に同期して駆動される。
前記動弁機構13には、吸気側及び排気側にそれぞれ、弁リフトのクランク回転に対する位相角を連続的に変更可能な公知の機械式位相可変機構15(以下、VVT(Variable Valve Timing)と略称する)が組み込まれており、その作動によって気筒2への吸気の充填量や残留既燃ガス(内部EGRガス)の量を調整することができる。尚、VVT15と共に、弁リフト量を連続的に変更可能なリフト可変機構(CVVL(Continuous Variable Valve Lift)を備えるようにしてもよく、また、排気弁12が吸気行程において再度開弁するように、2段カムと、吸気行程での排気弁12のリフトをオン・オフするロストモーション機構付きのリフト可変機構((VVL(Variable Valve Lift)を備えるようにしてもよい。
また、各気筒2の燃焼室6の天井部に電極を臨ませて点火プラグ16が配設され、点火回路17によって所定の点火タイミングにて通電されるようになっている。一方、この実施形態においては燃焼室6の吸気側の周縁部に先端を臨ませて、気筒2内に燃料直接、噴射する直噴インジェクタ18が配設されている。この直噴インジェクタ18は、例えば図3に概念的に示すように、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されており、点火プラグ16の電極近傍に指向して燃料を噴射可能である。つまり、このエンジン1は、いわゆるスプレーガイデッド式の直噴エンジン1として構成されている。但し、後述するように、圧縮行程の前半において、点火プラグ16の電極近傍に燃料噴霧を供給可能な構成であれば、直噴インジェクタ自体の構成や、その直噴インジェクタの配設位置等を含めた燃料噴射形態としては、どのような形態を採用してもよい。この直噴インジェクタ18、直噴インジェクタ18に接続される図示省略の燃料供給ライン及び燃料ポンプを含んで燃料供給手段が構成される。
前記エンジン1の一側面には、各気筒2の吸気ポート9に連通するように吸気通路20が接続されている。この吸気通路20は、エンジン1の各気筒2の燃焼室6に対して新気を供給するためのものであり、相対的に下流側の部分は、各気筒2毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒2の吸気ポート9にそれぞれ接続されている。一方、相対的に上流側の部分は全気筒に共通の共通通路であり、この共通通路には、その上流側から下流側に向かって順に、吸入空気を濾過するエアクリーナ21、電気式スロットル弁22、後述するターボ過給機61のコンプレッサ611、及び、該コンプレッサ611により圧縮された空気を冷却するインタークーラ23が配置されている。
一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒2の燃焼室6からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路30が接続されている。排気通路30の上流側の部分は、各気筒2毎に分岐して排気ポート10の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。排気通路30における排気マニホールドよりも下流側には、ターボ過給機61のタービン612、及び、排気中の有害成分を浄化するための触媒31が、上流側から下流側に向かって順に配設されている。
前記吸気通路20におけるエアクリーナ21とスロットル弁22との間の部分と、前記排気通路30におけるターボ過給機61のタービン612と触媒31との間の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路20に還流するための排気ガス還流通路40によって接続されている。この排気ガス還流通路40には、排気ガスの吸気通路20への還流量を調整するための排気ガス還流弁41及び排気ガスを冷却するためのEGRクーラ42がそれぞれ介設されている。
ここで、前記のターボ過給機61の構成について簡単に説明すると、このターボ過給機61は、吸気通路20におけるスロットル弁22とインタークーラ23との間に配設されたコンプレッサ611と、排気通路30における排気マニホールドと触媒31との間に配設されたタービン612とを有している。排気通路30にはまた、タービン612をバイパスする排気バイパス通路62が接続されており、排気バイパス通路62には、この排気バイパス通路62へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ621が配設されている。
このように構成された火花点火式ガソリンエンジン1は、制御手段としてのパワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)50によって制御される。PCM50は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。PCM50は、吸気通路20における空気の流量及び吸気温度を計測するエアフローセンサ51、車両の走行速度を検出する車速センサ52、図示しないアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ53、クランク軸7の回転角(クランク角)を検出するクランク角センサ54、エンジン冷却水の温度を検出するエンジンの水温センサ55の各信号が少なくとも入力され、これらの信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じて、VVT15、点火回路17、直噴インジェクタ18、電気式スロットル弁22、排気ガス還流弁41、及び、ウエストゲートバルブ621を制御する。そうして、PCM50は、エンジン1の運転領域に応じて、エンジン1の燃焼状態を、HCCI燃焼とSI燃焼とに切り換える。
具体的には、相対的に低負荷かつ低回転側の運転領域においては、気筒2内に形成した予混合気に直接は点火することなく、これをピストン5の上昇により圧縮して自己着火させるHCCI燃焼モードを実行する。HCCI燃焼モードの実行中は、スロットル弁22を全開にすると共に、気筒2の排気行程乃至吸気行程において排気弁12が閉じてから吸気弁11が開くまでの期間(吸排気弁11,12の双方が閉じる負のオーバーラップ期間)を設け、多量の内部EGRガスによって気筒2内の温度を高めることにより、HCCI燃焼の安定化を図る。
HCCIによる燃焼は、図3の右下図に模式的に示すように、気筒2内の燃焼室6における多数の箇所で予混合気が略一斉に自己着火して燃焼を開始するものと考えられており、従来一般的な火炎伝播による燃焼(Spark Ignition:SI燃焼)に比べて燃焼期間が短くなって、熱効率が高くなる。また、燃焼温度は低いことから、窒素酸化物の生成は非常に少なくなるという特徴を有する。
一方で、HCCI燃焼はかなりリーンな予混合気か、或いは多量のEGRによって希釈した予混合気において実現されるものであり、本来、あまり高い出力は得られないものなので、相対的に高負荷乃至高回転側の運転領域においては、SI燃焼を行うようにしている。このときには気筒2内の空燃比が略理論空燃比(空気過剰率λ=1)になるように燃料噴射量を制御する。
そして、ここに開示するエンジン1の制御装置において最も特徴的な制御は、エンジン1の始動から暖機完了までにおける制御であり、以下、図面を参照しながら、この特徴的な暖機促進制御について説明する。
図2(b)は、エンジン1の始動から暖機完了までの期間における従来の制御に係り、エンジン1の始動時、特に冷間始動時等でAWS条件が成立しているときには、エンジン1の初爆後に、触媒31を早期に所定温度にまで早期に昇温するためのAWS運転モードを実行する。AWS(Accelerated Warm-up System) は、エンジン1の始動時に吸入空気量を増量するためのシステムであり、図示は省略するが、スロットル弁22をバイパスするバイパスエア通路と、バイパスエア通路上に配置されたAWSバルブとを含んで構成され、冷間始動時には、このAWSバルブを開いて吸入空気量を増量させると共に、点火プラグ16の点火時期を大幅にリタード(遅角)させることにより、排気ガスの温度を高めて触媒31の活性化を早めることで、排気ガスの浄化を促進する。従って、AWS運転モードではSI燃焼が実行される。
このAWS運転モードによって、図2(b)に示すように、触媒温度が急速に昇温し、所定の温度(例えば触媒31の活性温度)に到達すれば、AWS運転モードを終了し、その後、SI燃焼モードを実行する。
これは、前述したAWS運転モードでは、点火時期を大幅にリタードすることにより排気損失を増大させて触媒温度を早期に昇温し得るものの、冷却損失は相対的に減少しているからエンジン温度(エンジン水温)の上昇はその分、抑制され、エンジンの暖機が完了していない状態にあるためである。
例えば図4は、エンジン回転数を1000rpm、空気過剰率λ=2.4とした場合の、筒内温度Txと筒内圧力Pxとの関係におけるMBTでの自着火条件を示している。同図の一点鎖線よりも左側の領域では自着火条件を満足しないため、HCCI燃焼を実行することができず、右側の領域では自着火条件を満足するため、HCCI燃焼を実行することが可能になる。同図における実線は、エンジンの温間時における筒内温度及び筒内圧力の変化履歴の一例を示しており、圧縮端温度圧力(同図の白丸参照)がMBTでの自着火条件を満足しているため、エンジン1の温間時(例えばエンジン1の暖機完了後)には、HCCI燃焼を実行し得る。これに対し、同図に破線で示すエンジン1の冷間時には、筒内の壁面温度(壁温)が低く、気筒内で圧縮される混合気と壁温との温度差が、エンジン1の温間時の温度差に比べて大きくなる。このことにより、気筒2内の壁面への放熱量が増大して、圧縮端温度がエンジン1の温間時に比べて低くなり、自着火条件を満足しなくなる(同図の黒丸参照)。従って、エンジン1の冷間時(換言すれば未暖機状態)は、HCCI燃焼を実行し得ない。
そこで、従来の制御においては、エンジン1が未暖機状態にある期間は、SI燃焼を行うようにしている。ここにおけるSI燃焼モードでは、空気過剰率λ=1に設定する一方で、負荷調整のためにスロットリングを行うと共に、点火時期をMBT、又はエンジン1の暖機を促進するために若干アドバンス(進角)させる。このように従来の制御においては、HCCI燃焼が実行できないエンジン1の未暖機状態時にSI燃焼を実行することで、スロットリングによるポンピングロスを招いている。
そうして、エンジン水温が所定の温度に到達するようなエンジン1の暖機が完了した後は、HCCI燃焼が可能になるため、通常運転モードに移行する。つまり、前述したように、エンジンの運転領域に応じて、HCCI燃焼モードとSI燃焼モードとを切り換える。この内、HCCI燃焼モードにおいて、前述したように、スロットル弁22は全開にされると共に、燃料噴射量は、該気筒2内の空気過剰率λが1以上(空燃比がリーン)になるように制御されることで、燃費の点で大幅に効率が良くなると共に、排気エミッションの点でも有利になる。
この従来の制御に対し、ここに開示する制御装置が実行する制御は、前記エンジン1が未暖機状態であってHCCI燃焼を実行することができない期間において、エンジン1の暖機を促進するためのプリ燃焼を含む、暖機促進制御(暖機促進モード)を実行する。この暖機促進制御の実行に伴い、詳しくは後述するが、エンジン1が未暖機状態であってもHCCI燃焼が実行可能になることから、圧縮上死点付近(例えばMBT)で実行するメイン燃焼は、SI燃焼ではなく、HCCI燃焼とする。このことにより、暖機時間の短縮化による通常運転モード(HCCI燃焼モード)への早期の移行と、HCCI燃焼モードの実行可能な期間の実質的な拡大との双方を実現し、大幅な燃費改善を図る。
具体的には、図3に示すように、この暖機促進制御においては、メインの燃焼に先立って、圧縮行程の前半においてSI燃焼を実行する(プリSI燃焼、図3の左下図参照)。このプリSI燃焼は、エンジン1の冷却損失を増大させる。例えば図5は、燃焼開始時期に対する、エンジン1の冷却損失及び排気損失の関係を示しており、燃焼開始時期が遅くなればなるほど(図5における右にいけばいくほど)、冷却損失が減少する一方で、排気損失が増大する。これは、例えば触媒31の昇温には有利であり、前述したように、AWS運転モードにおいては、点火時期をリタードさせることに対応する。これに対し燃焼開始時期が早くなればなるほど(図5における左にいけばいくほど)、排気損失が減少する一方で、冷却損失が増大する。つまり、早期の燃焼により高温となった気筒2内のガスを圧縮することになるから、気筒2内の壁面への放熱量が増大してエンジン1の冷却損失が増大する。このことは、エンジン1の暖機を促進する上では有利になるため、暖機促進制御においては、燃焼開始時期を早くして冷却損失を増大させる観点から、圧縮行程の前半においてプリSI燃焼を実行する。これにより、図2(a)に示すように、エンジン1の温度(エンジン水温)の上昇が、従来の制御に比べて促進され(エンジン1の温度変化グラフの傾きが大きくなり)、エンジン1の暖機が完了するまでの時間が、従来の制御に比べて短縮する。つまり、通常運転モードへ早く移行して、燃費及び排気エミッションの点で優位性のあるHCCI燃焼モードを早期に実行することが可能になる。
また、前述した早期のプリSI燃焼は、圧縮端温度の上昇にも寄与することから、圧縮端温度が自着火条件を満たし得るようになる。そこで暖機促進制御においては、プリ燃料噴射とは別のメイン燃料噴射を実行することによって気筒2内に形成した予混合気を、MBT付近において、SI燃焼ではなくHCCI燃焼させる(メインHCCI燃焼、図3の中央下図及び右下図参照)。エンジン1の未暖機状態においてもHCCI燃焼を実行することで、実質的にはHCCI燃焼を早期に開始することと等価になる。メインHCCI燃焼の実行に伴い、暖機促進制御の実行期間においては、スロットル弁22を基本的に全開にするため、ポンピングロスの低減が図られる。つまり、前記の暖機促進制御は、従来の制御と比較して、少なくともポンピングロスの低減分、燃費を向上させ得る。
このように、プリSI燃焼は、エンジン1の暖機を促進する役目だけでなく、その後のHCCI燃焼をアシストする役目も有しており、暖機促進制御は、HCCI燃焼を実行しながらエンジン1の暖機を促進する制御ということができる。
次に図3を参照しながら、暖機促進制御における直噴インジェクタ18及び点火プラグ16の制御について説明する。先ず、プリSI燃焼に係る燃料噴射(プリ燃料噴射)は、直噴インジェクタ18によって行われ、直噴インジェクタ18が点火プラグ16の電極近傍に指向して燃料を噴射することにより、点火プラグ16の電極近傍に成層化した混合気が形成される。また、プリSI燃焼は、冷却損失を増大させる観点からは、その燃焼開始時期は、吸気弁11の閉弁後の圧縮行程前半において、可及的に早く設定することが好ましいが、エンジン1の運転状態(例えば圧縮端温度、吸気量、エンジン負荷等)に応じて、適宜、変更設定してもよい。プリ燃料噴射のタイミングは、プリSI燃焼が圧縮行程前半の所望のタイミングで行い得るように、吸気行程乃至圧縮行程中において、適宜設定される。一例として、プリ燃料噴射のタイミングは、例えば吸気弁11の閉弁直後に設定してもよい。そうして、点火プラグ16によって、所定のタイミングで、当該点火プラグ16周りの成層化した混合気に火花点火をし、着火燃焼させることにより、プリSI燃焼が実行される。
次に、メインHCCI燃焼に係る燃料噴射(メイン燃料噴射)も、直噴インジェクタ18によって行われる。メイン燃料噴射のタイミングは、この実施形態では、プリSI燃焼の終了後の圧縮行程の後半に設定されている。メイン燃料噴射のタイミングは、メインHCCI燃焼が所望のタイミング(例えばMBTで)で行い得るように、適宜設定すればよく、エンジン1の運転状態(例えば圧縮端温度、吸気量、エンジン負荷等)に応じて、適宜、変更設定してもよい。直噴インジェクタ18によって、所定のタイミングでメイン燃料噴射が実行されることにより、気筒2内に略均一な予混合気が形成され、その予混合気が圧縮上死点付近において圧縮着火することにより、メインHCCI燃焼が実行されることになる。
次に、図6のフローチャートを参照しながら、前記PCM50が実行する、エンジン1の始動時の制御について説明する。このフローチャートはエンジン1の初爆後にスタートをし、ここでは、前記AWSの実行条件が成立しているものとする。先ずスタート後のステップS61では、AWS運転モードの実行中であるとして、積算AWS実行時間(つまり、現時点までのAWS運転モードの実行継続時間)を読み込み、続くステップS62において、積算AWS実行時間が所定値以上であるか否かを判定する。所定値に満たない場合、つまりAWS運転モードを継続する場合には、ステップS63に移行して、AWS運転モードを継続する。一方、AWS積算時間が所定値以上であり、AWS運転モードを終了する場合にはステップS64に移行する。尚、このステップS62における所定値は、例えばエンジン水温や外気温に応じて変更される。
AWS運転モードを終了するとして移行したステップS64においては、アクセル開度センサ53及びクランク角センサ54からアクセル開度及びエンジン回転数を読み込み、続くステップS65では、エアフローセンサ51からの信号に基づいて吸気量を導出する。尚、気筒2内の圧力を検出するCPS(Cylinder Pressure Sensor)を取り付け、当該CPSの検出値も利用して吸気量を導出してもよい。また、ステップS66では、水温センサ55及びエアフローセンサ51からエンジン水温及び吸気温度をそれぞれ読み込むと共に、予め設定されてPCM50に保存されている圧縮端温度マップから、圧縮端温度を算出する。圧縮端温度マップは、例えば図7に示すように設定されており、エンジン水温及び吸気温度に対する圧縮端温度が設定されている。この圧縮端温度に基づいて、圧縮端温度が自着火条件を満たしHCCI燃焼が実行可能な通常運転モードを実行し得るか(同図において、相対的に右上の領域であるか)、圧縮端温度圧力が自着火条件を満足せず、HCCI燃焼が実行不可能な暖機促進モードを実行すべきか(同図において、相対的に左下の領域であるか)、を判別可能である。ステップS67では、算出した圧縮端温度に基づいて通常運転モードに移行可能であるか否かを判定し、移行可能であるとき(YESのとき)にはステップS616に進む一方、移行不可能であるとき(NOのとき)にはステップS68に進む。尚、ここでは圧縮端温度マップを用いて圧縮端温度を算出しているが、例えばモデル化により、エンジン水温及び吸気温度から圧縮端温度を算出してもよい。
ステップS68以降は、エンジン1が未暖機状態であるため、エンジン1の暖機を促進する暖機促進モードを実行する。具体的には、ステップS69で、ベースとなるプリ噴射量及びメイン噴射量をそれぞれ設定する。このベースプリ噴射量及びベースメイン噴射量は、例えば図8(a)に示すように設定してもよく、ここでは、圧縮端温度の高低に拘わらず、ベースプリ噴射量及びベースメイン噴射量をそれぞれ一定に設定している。尚、圧縮端温度の高低に応じてベースプリ噴射量及びベースメイン噴射量を変更してもよい。また、詳しくは後述するが、エンジン1の暖機完了後は、同図に示すように、プリSI燃焼の実行が終了するため、ベースプリ噴射量は0(ゼロ)に設定される。一方、この暖機促進モードにおいて行われるプリSI燃焼は、圧縮行程の前半において実行されることで逆トルクとなり得ることから、ベースメイン噴射量は、エンジン1の暖機完了前は、その逆トルクの発生分を考慮して比較的大に設定される。これに対し、エンジン1の暖機完了後はプリSI燃焼の実行が終了して逆トルクが発生しないことから、ベースメイン噴射量(エンジン1の暖機完了後に、HCCI燃焼モードに移行する場合)は、同図に示すように、エンジン1の暖機完了前よりも小に設定される。
ここで、暖機促進モードでは、プリ噴射量とメイン噴射量との総量が、気筒2内の空気過剰率がλ=1となるように設定される。これは、エンジン1の冷却損失を増大してエンジン1の暖機を促進し、エンジン1の暖機を早期に完了するためである。つまり、メインHCCI燃焼を実行することから、熱効率の観点からは、プリ噴射量とメイン噴射量との総量を、空気過剰率λが1よりも大きくなるように設定してもよい。しかしながらこの場合は、プリ噴射量が相対的に減少するため、エンジン1の冷却損失の増大が抑制されて、エンジン1の暖機完了までの時間が長くなる虞がある。そのため、暖機促進モードにおいて、エンジン1の暖機を早期に完了することを最優先とするならば、プリ噴射量とメイン噴射量との総量を、気筒2内の空気過剰率がλ=1となるように設定することが望ましい。また、暖機促進制御は、AWS運転モード終了後の、触媒31が活性した後に実行される制御であるため、気筒2内の空気過剰率がλ=1となるように設定することは、排気エミッションの点でも有利になり得る。
また、前述した逆トルクが大きくなりすぎないように、プリ噴射量は、メイン噴射量に対して、例えば1/3以下の量となるように制限してもよい。
続くステップS610では、エンジン1の運転状態に応じてプリ噴射量の補正係数(1)(2)及びメイン噴射量の補正係数(1)(2)をそれぞれ設定する。具体的には、図8(b)に示すように、吸気量に応じてプリ噴射量の補正係数(1)及びメイン噴射量の補正係数(1)を設定する。前述したように、暖機促進モードでは、プリ噴射量及びメイン噴射量の総量が、気筒2内の空気過剰率がλ=1となるように設定されるため、吸気量の増大に応じてプリ噴射量及びメイン噴射量を増量させる必要がある。そこで、プリ噴射量の補正係数(1)及びメイン噴射量の補正係数(1)はそれぞれ、吸気量の増大に応じてプリ噴射量及びメイン噴射量が増量されるように、設定される。
また、図8(c)に示すように、エンジン負荷(アクセル開度)に応じてプリ噴射量の補正係数(2)及びメイン噴射量の補正係数(2)を設定する。つまり、エンジン負荷の増大に伴い、メインHCCI燃焼により発生させるエンジントルクを増大させる必要性から、メイン噴射量は増量される。一方、前述したように、暖機促進モードでは、プリ噴射量及びメイン噴射量の総量が、空気過剰率λ=1となるように設定されるため、メイン噴射量の増量に伴いプリ噴射量は減量される。従って、プリ噴射量の補正係数(2)は、エンジン負荷の増大に応じてプリ噴射量が減量するように設定され、メイン噴射量の補正係数(2)は、エンジン負荷の増大に応じてメイン噴射量が増量するように設定される。
こうして、プリ噴射量及びメイン噴射量それぞれの補正係数(1)(2)を設定すれば、ステップS611においてベースプリ噴射量が、設定した補正係数(1)(2)に従って、例えばベースプリ噴射量に補正係数(1)(2)を乗算することにより補正されると共に、ステップS612においてベースメイン噴射量が、設定した補正係数(1)(2)に従って、例えばベースプリ噴射量に補正係数(1)(2)を乗算することにより補正される。
ステップS613では、設定されたプリ噴射量に従って、前述したように、所定のタイミングでプリ燃料噴射が実行され、ステップS614で、所定のタイミングで点火プラグ16による火花点火が実行される。こうして、プリSI燃焼が実行されることになる。一方、ステップS615では、設定されたメイン噴射量に従って、所定のタイミングでメイン燃料噴射が実行され、これによって気筒2内に形成された予混合気は、MBT付近で圧縮着火燃焼(メインHCCI燃焼)する(図3も参照)。
こうして暖機促進モードの実行により、エンジン1の暖機が促進されて暖機完了に至れば、ステップS67の判定において通常運転モードに移行可能と判定されるようになるから、ステップS616に移行をして、エンジン1の運転領域に応じて、HCCI燃焼モード及びSI燃焼モードを切り換える通常運転モードを実行する。
ここで、図6のフローにおける各ステップの順番は、説明の便宜上のものであり、その順番を適宜入れ替えたり、また、各ステップの実行を時間的に並列に行ったりするような変更等は、勿論可能である。
このように前記の構成では、エンジン1の未暖機状態、特にAWS運転モードの終了後でエンジン1の暖機完了前の期間においては、プリSI燃焼とメインHCCI燃焼との双方を行う暖機促進モードを実行する。プリSI燃焼を圧縮行程の前半に実行することにより、図5に示すようにエンジン1の冷却損失が増大し、エンジン1の暖機を促進することが可能になる。図2(a)に例示するように、AWS運転モードでは、点火時期をリタードさせて排気損失を増大させているため、触媒温度の上昇が促進される一方で、エンジン1の温度上昇は相対的に緩慢になるのに対し、暖機促進モードにおいては、エンジン1の冷却損失を増大させていることで、エンジン1の温度上昇が、AWS運転モードのときに比べて急峻になり、エンジン1の暖機が促進される。その結果、こうしたプリSI燃焼を実行しない従来の制御(同図の(b)参照)と比較して、エンジン1の暖機が早期に完了し、暖機時間を短縮し得る。
また、プリSI燃焼の実行は、圧縮端温度を高めることにも寄与するため、エンジン1が未暖機状態であってもHCCI燃焼を実行可能にする。こうして、暖機促進モードにおいては、メインの燃焼としてHCCI燃焼を実行することにより、スロットル弁22を全開にしてポンピングロスを低減し得る。特に、従来の制御においては、エンジン1の暖機が完了するまでの期間は、スロットリングを伴うSI燃焼を実行しており、ポンピングロスが発生するため、前記の暖機促進モードは燃費の面で有利になる。また、メインHCCI燃焼を実行することによって、排気エミッションの面でも有利になる。
従って、エンジン1の暖機を促進することで通常運転モードに早期に移行をして、HCCI燃焼モードを早期に実行することと、エンジン1の暖機中にHCCI燃焼の実行を可能にすることと、が組み合わさることにより、大幅な燃費向上が図られる。
尚、例えば図9に示すように、前記の直噴インジェクタ18の他に、吸気ポート9に臨んで燃料を噴射するようにポートインジェクタ(第2の燃料噴射弁)19を配設し、メインHCCI燃焼用のメイン燃料噴射を、このポートインジェクタ19によって実行するようにしてもよい。この場合は、図10に示すように、ポートインジェクタ19によるメイン燃料噴射のタイミングは、前記のプリ燃料噴射を実行する圧縮行程より前の吸気行程において完了させればよい。こうすることで、噴射された燃料噴霧は吸気と共に気筒2内に流入し、ピストン5の下降に伴い容積の拡大する気筒2内に広く分散して、概ね均一な予混合気を形成する(図10の左下図も参照)。例えば図6に示すフローにおいては、ステップS615が、ステップS613よりも前に実行されることになる。
尚、この場合は、概ね均一な予混合気が既に形成されている気筒2内において、前記のプリ燃料噴射によって点火プラグ16の電極近傍に成層化した混合気が形成されると共に、点火プラグ16によってこの混合気に火花点火をしプリSI燃焼を実行することになる。このときに、前記のプリSI燃焼は圧縮行程の前半に実行されるため、このタイミングでは、気筒2内の予混合気は、全体として極めて希薄な状態であることから火炎は伝播せず、その気筒2内の略均一な予混合気は、プリSI燃焼後の圧縮上死点付近でHCCI燃焼することになる。このポートインジェクタ19によるメイン噴射量は、例えば気筒内空気過剰率λが2以上となるように設定してもよい。
また、メイン燃料噴射を直噴インジェクタ18によって実行する場合においても、そのメイン燃料噴射のタイミングを、プリ燃料噴射を実行する圧縮行程より前の吸気行程において完了させてもよい。こうすることで、前述したポートインジェクタ19によりメイン燃料噴射を実行する場合と同様に、噴射された燃料噴霧はピストン5の下降に伴い容積の拡大する気筒2内に広く分散して、概ね均一な予混合気を形成するようになり得る。