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JP5592818B2 - 疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材およびそのα−β型チタン合金押出材の製造方法 - Google Patents

疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材およびそのα−β型チタン合金押出材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、航空機部材をはじめ、自動車や二輪車の自動車用部材等としても用いることができる疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材と、そのα−β型チタン合金押出材の製造方法に関するものである。
α−β型チタン合金は、軽量、高強度、高耐食性であることに加え、熱処理によって容易に強度レベルを変化させることができることから、従来から航空機産業を中心に多用されてきた。これらの特性を更に活用すべく、近年では、自動車や二輪車のエンジン部材といった自動車部品、ゴルフ用品をはじめとしたスポーツ用品、土木建築用素材、各種工具類、眼鏡フレームなどの民生品分野や、深海やエネルギー開発用途などへの適用拡大も進んでいる。
これらα−β型チタン合金のうちでも、α−β型チタン合金押出材は、変形抵抗が小さくなるβ単相域で押出成形により加工されており、そのミクロ組織は、図3に示すように、様々な方向を向いた針状α相組織で形成されることになる。この針状α相組織が形成されたα−β型チタン合金押出材は、破壊靭性には優れるものの、一方では疲労強度が低く、軽量であるにかかわらず、航空機の機体部材のような高サイクル疲労特性が求められる部材として用いることができないという問題があった。
近年、航空機や自動車等の交通手段においては、燃費の向上やCOの排出抑制といった観点から、機体や車両の軽量化がますます求められている状況にあり、軽量でより疲労強度が高いα−β型チタン合金押出材の技術開発が、より一層求められているという状況にある。
従来からこのα−β型チタン合金押出材の製造方法に関する提案は種々なされているが、それら提案はいずれも疲労強度が低いか、或いは実用上問題があるα−β型チタン合金押出材の製造方法に関する提案に過ぎなないということができる。
特許文献1には、α+β組織のTi−6Al−4Vのビレットを850〜960℃の加工温度で熱間押出加工する方法が記載されている。しかしながら、このTi−6Al−4Vは変形抵抗が高いためにダイス寿命が短くなるという欠点を有しており、またプレス能力も大きなものが必要となり、未だに実用化に至っていないのが現状である。
特許文献2には、α+β型チタン合金に熱間押出加工を施した後、α+β領域に加熱、保持してから溶体化処理を行い、次いで400〜550℃で時効処理する方法が記載されている。しかしながら、この方法で製造される押出材の組織は微細な針状α相マトリックスとなり、伸びに加え、疲労強度が低くなるという問題がある。
特許文献3には、微細な等軸α+β組織とされたα+β型チタン合金ビレットをβ変態点〜(β変態点+159℃)に加熱して押出比10以上の押出加工を行った後、5℃/秒以上で急冷し、その後700〜850℃で焼鈍を行う方法が記載されている。しかしながら、この方法で製造される押出材の組織も微細な針状α相マトリックスとなり、伸びに加え、疲労強度が低くなるという問題がある。
特許文献4には、α+β型チタン合金ビレットをβトランザス以上に加熱した後、表面層をα+β2相領域にまで冷却してからビレットを押出すことで、製品の表面層を等軸α+β組織、内部をトランスフォームドβ組織とする方法が記載されている。しかしながら、この方法は温度制御が難しく、僅かな押出し温度の違いで変形の程度がばらつき、実用は困難であるという問題がある。
特許文献5には、α+β型チタン合金ビレットを、β変態点未満、且つ、TL(=Tβ−65+110/(R−5))以上の温度で加熱し、次いで、熱間押出成形を行う方法が記載されている。しかしながら、この方法で製造される押出材の組織は針状α相となり、疲労強度が低くなるという問題がある。
特開昭61−193719号公報 特開昭61−284560号公報 特開昭63−223155号公報 特公平5−2405号公報 特許第2932918号公報
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、軽量化に加え高サイクル疲労特性が求められる航空機の機体部材をはじめ、航空機のその他各種部材、或いは自動車や二輪車用の部材等として用いることができる疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材、およびそのα−β型チタン合金押出材の製造方法を提供することを課題とするものである。
請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.08%超、0.25%以下、Al:2.0〜8.5%を含有すると共に、V:5.0%以下、Cr:5.0%以下、Fe:2.5%以下、Mo:5.0%以下、Ni:5.0%以下、Nb:5.0%以下、Ta:5.0%以下のβ安定化型元素群の1種または2種以上を合計で2.0〜10.0%含有し、残部がTiおよび不可避的不純物であるチタン合金押出材であって、そのチタン合金押出材の任意の断面における一次α相の面積率が5〜80%であると共に、その一次α相のうち80%以上の一次α粒の長径の方向が、チタン合金押出材の押出方向に対して±15°以内の角度範囲内に収まっており、且つ、二次α相の平均短径が0.1μm以上であることを特徴とする疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材である。
請求項記載の発明は、前記チタン合金押出材の焼鈍後の任意の断面における、<0001>方向が押出垂直方向に対して±20°以内の角度範囲内に収まるα相の、全α相中に占める面積率が93%以上である請求項記載のα−β型チタン合金押出材である。
尚、押出垂直方向とは、チタン合金押出材の押出方向に対して直交する方向のことである。
請求項記載の発明は、請求項1または2に記載のα−β型チタン合金押出材を押出成形により製造するα−β型チタン合金押出材の製造方法であって、加熱温度T1を下記条件式に示す範囲内として押出成形を行うことを特徴とするα−β型チタン合金押出材の製造方法である。
92.6×lnR+635≦T1≦Tβ―20、R≧4
但し、上記条件式でRは押出比である。
本発明のα−β型チタン合金押出材は、疲労強度に優れており、軽量化に加え高サイクル疲労特性が求められる航空機の機体部材をはじめ、航空機の各種部材、或いは自動車や二輪車用の部材として用いることができる。
また、本発明のα−β型チタン合金押出材の製造方法によると、変形抵抗の小さい成分組成のチタン合金を用いて、特定の加熱温度の範囲内で押出成形を行うため、疲労強度に優れたα−β型チタン合金材を確実に製造することができる。
本発明のα−β型チタン合金押出材の断面組織を示す顕微鏡写真である。 α相の形態を説明するためのα相の模式図である。 従来のα−β型チタン合金押出材の断面組織を示す顕微鏡写真である。 実施例の室温引張試験で用いた引張試験片の形状および寸法を示す説明図である。 実施例の疲労試験で用いた引張試験片の形状および寸法を示す説明図である。
押出加工は、圧延や鍛造と比較して、一度の工程で被加工材に非常に大きな塑性変形を付与するために変形抵抗が大きいという反面、その特性を利用した組織制御が可能であるという特長を有している。従来、チタン合金材の押出加工では、この変形抵抗を抑制するために、β変態点(Tβ)以上の温度で押出加工をする方法がとられており、実用化されている現行のチタン合金押出材は、そのいずれもが針状α相組織を有している。しかしながら、この針状α相組織は、破壊靭性に優れているという特長を有する反面、疲労強度や伸びが低下するという欠点を併せ持っており、その結果、現行のチタン合金押出材は使用範囲が限定されていた。
本発明者らは、軽量化が可能で且つ組織制御が容易であるという特長を有するチタン合金材を、航空機の機体部材等に採用することを検討した。しかしながら、航空機の機体部材は高サイクル疲労特性が求められるため、現行のチタン合金押出材は適用範囲が限定される、或いは軽量化の阻害要因となるという問題があった。従って、押出加工により成形しても優れた疲労強度および伸びを有するチタン合金材を得ることができる製造方法並びにチタン合金押出材を見出すために、鋭意、実験、研究を重ねることとした。
その結果、チタン合金の成分組成を変形抵抗の低い合金系とし、特定の加熱条件で押出成形することにより、チタン合金押出材の組織を特定の組織とすることができ、その押出成形で製造されたチタン合金押出材は、極めて高い疲労強度を有し、伸びも優れるということを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
本発明の疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材は、質量%で、C:0.08%超、0.25%以下、Al:2.0〜8.5%を含有すると共に、V:5.0%以下、Cr:5.0%以下、Fe:2.5%以下、Mo:5.0%以下、Ni:5.0%以下、Nb:5.0%以下、Ta:5.0%以下のβ安定化型元素群の1種または2種以上を合計で2.0〜10.0%含有し、残部がTiおよび不可避的不純物であるチタン合金押出材であって、そのチタン合金押出材の任意の断面における一次α相の面積率が5〜80%であると共に、その一次α相のうち80%以上の一次α粒の長径方向の、チタン合金押出材の押出方向に対する角度のずれが±15°以内であり、且つ、二次α相の平均短径が0.1μm以上であるものである。
まず、本発明の疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材の成分限定理由について説明する。以下、各元素の比率については単に%と記載するが、全て質量%を示す。
C:0.08%超、0.25%以下
Cは強度および疲労比を向上させるという作用があり、また、β温度域でTiCとして微細析出するため、β相結晶粒を微細化し、その微細化によって熱間加工性を向上させるという作用もある。その含有量が0.08%以下であるとその作用が不足する。一方、その含有量が0.25%を超えると、焼鈍を実施した後においても、室温でα相中に固溶されない平均円相当径が1μm超の粗大なTiCが残留するようになり、機械的特性が劣化して伸びおよび疲労比に悪影響を及ぼすようになる。従って、Cの含有量は、その下限を0.08%超とする。好ましくは0.085%以上、更に好ましくは0.090%以上である。その上限は0.25%、好ましくは0.20%、更に好ましくは0.17%とする。
Al:2.0〜8.5%
Alは、α安定化元素であり、α相を生成するために添加される元素である。その含有量が2.0%未満であればα相の生成が過少になり、また、十分な強度が発現せず、優れた引張強度(TS)が得られないようになる。一方、その含有量が8.5%を超えて過多になると、延性が劣化し、伸び(EL)が目標値を下回るようになる。従って、Alの含有量は、その下限を2.0%、好ましくは2.2%とし、その上限を8.5%、好ましくは7.0%とする。
V:5.0%以下、Cr:5.0%以下、Fe:2.5%未満、Mo:5.0%以下、Ni:5.0%以下、Nb:5.0%以下、Ta:5.0%以下の1種または2種以上を合計で2.0〜10.0%
これらの元素は全てβ安定化元素であり、β相を生成するために添加される元素である。これらの元素の合計の含有量が2.0%未満であればβ相の生成量が過少になる。従って、2.0%以上、好ましくは3.0%以上とすれば良い。これらの元素も強度を向上させる作用があるが、夫々の元素の含有量の上限を超えて添加すると、また、合計の含有量が10.0%を超えて添加すると、伸び(EL)の劣化を招くことになる。特に、Feの含有量が過多になると絞りも低下するようになる。従って、これら各元素の含有量の上限を上記のように規定し、これら元素の合計の含有量の上限を10.0%、好ましくは9.0%とする。
本発明のα−β型チタン合金押出材は、以上の元素のほかは、Tiと不可避的不純物で構成されるが、以下の元素を単独で、或いは複合して含有しても良い。
Si:1.0%以下
Siを添加することで更に強度が向上するが、1.0%を超えて添加すると、延性が劣化し、10%以上の伸び(EL)が得られないようになる。従って、Siを添加する場合は、その含有量の上限は1.0%とする。
Zr:5.0%以下、Sn:5.0%以下の1種または2種を合計で7.0%以下
ZrやSnを添加することでも更に強度が向上するが、Zr、Snを夫々単独で5.0%超、合計で7.0%超添加すると、延性が劣化し、10%以上の伸び(EL)が得られないようになる。従って、ZrやSnを添加する場合は、Zrの含有量、Snの含有量は、夫々単独で5.0%以下、合計で7.0%以下とする。
本発明の疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材には、図1に示すように、稠密六方晶(HCP)であるα相と体心立方晶(BCC)であるβ相が、組織中に混在するが、このα−β型チタン合金押出材の組織における特徴はα相にある。本発明のα−β型チタン合金押出材のα相には一次α相と二次α相があり、夫々その形態に特徴を有している。
一次α相は、高サイクル疲労特性を高めるために必要であり、チタン合金押出材の任意の断面における面積率が5%未満では、その効果が小さくなってしまう。従って、その下限を5%、好ましくは10%とする。一方、チタン合金押出材の任意の断面における面積率が80%を超えると、強度の異方性(押出方向と押出垂直方向の差)が大きくなりすぎるため、その上限を80%、好ましくは75%とする。
押出成形により伸長した一次α相は疲労強度の向上に寄与するが、図2に示すように、伸長した一次α相のうち80%以上の一次α粒の長径方向が、チタン合金押出材の押出方向に対して±15°以内の角度範囲内に収まっておれば、チタン合金押出材の押出方向の疲労強度が向上する。その角度範囲内に長径の方向が収まる一次α粒の分率(面積率)が80%未満になるとその効果が消失してしまう。
一方、押出成形後、或いはその後の熱処理(焼鈍後の冷却過程や溶体化時効)で生成する二次α相があまり微細になると、強度は向上するものの、伸びが低下して切欠感受性が高まることにより、実用上の疲労強度のばらつき原因となってしまう。従って、二次α相の平均短径(図2に示す針状α相の幅)を0.1μm以上とする必要がある。好ましくは0.2μm以上である。
また、チタン合金押出材の疲労強度は押出成形に起因する集合組織にも依存し、押出方向に対してα相の<0001>方向がなるべく垂直方向に集積した方が高い傾向にある。これは局部的な歪の集中が緩和されるためと考えられ、ある一定レベル以上に集積していること、具体的には、チタン合金押出材の焼鈍後の任意の断面を観察したとき、<0001>方向が垂直方向に対して±20°以内の角度範囲内に収まるα相の、全α相中に占める面積率が93%以上であることが好ましい。
次に、本発明のα−β型チタン合金押出材の製造方法について説明する。本発明のα−β型チタン合金押出材の製造方法では、押出成形時の加熱温度T1を、92.6×lnR+635≦T1≦Tβ―20という条件式で示される範囲内とすることを特徴とする。但し、前記条件式でRは押出比で4以上である。
通常、押出加工は加工炉から素材を取り出して、或いは高周波加熱で所定温度到達後、直ぐ(遅くても20sec以内)に成形加工されることから、加熱温度により押出開始温度がほぼ決定されることとなる。また、押出加工は圧延や鍛造と比較すると、成形時の歪量が大きく、加工発熱も顕著に起こりうる。従って、加熱温度T1を(Tβ−20)℃以下にして加工発熱が発生しても一次α相が固溶しないようにする。加熱温度T1を(Tβ−30)℃以下にすると、押出方向に対してα相の<0001>方向の垂直方向への集積がより進むので好ましい。
また、押出比Rが4以上と高い場合には変形抵抗も高くなるために、加熱温度T1を押出比Rに併せて高くする必要がある。従って、加熱温度T1は、(92.6×lnR+635)以上とする必要がある。好ましくは(118×lnR+590)以上である。
尚、本発明のα−β型チタン合金押出材の製造方法において、押出加工前のチタン合金ビレットの組織には特に制約はなく、全面針状α相組織であっても、等軸α相を含む組織であっても構わない。また、押出加工の方法は、直接押出と静水圧押出のいずれの方法であっても構わないが、静水圧押出は特に力量の小さいプレスで押出成形することが可能であり、また、押出加工後のチタン合金押出材の表面品質も良好で、曲がり、反り、捩れといった変形が小さいため、推奨することができる。また、押出加工後の熱処理は、一般的な温度条件等で行う焼鈍処理とすれば良い。
以下実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
本実施例では、まず、CCIM(コールドクルーシブル誘導加熱法)溶解により表1に示す各成分組成のチタン合金でなる約20kgの鋳塊を鋳造した。その鋳塊の形状は、直径150mm×高さ150mmの円柱状である。
この鋳塊を用いて以下に示す製造条件で熱間鍛造を行った。その熱間鍛造は、鋳塊を1200℃で加熱した後、鍛錬比約1.5でアプセット鍛造し、水冷した後に900℃まで加熱し、更に鋳塊の高さ方向に鍛伸して、直径80mm×長さ580mmの丸棒を得た。次に室温まで空冷した後に705℃で2時間の焼鈍を行い、前記丸棒から直径68mm×長さ270mmの押出ビレットを作製した。
その押出ビレットを用いて押出成形を実施した。押出成形は400トン静水圧プレスを用いることで実施し、加熱温度をTβ−170℃からTβ+20℃まで変化させて、直径22mm(押出比9.6)と直径32mm(押出比4.2)の丸棒状のチタン合金押出材を得た。試験に用いた各チタン合金押出材の製造条件を表2に示す。
<組織観察試験>
前記したチタン合金押出材から採取した組織観察試験片用基材の表面を、エメリー研磨紙により湿式研磨した後、S−OPS(シリカ、過酸化水素、アンモニアの混合液)を用いてバフ研磨し、鏡面状態とした。その後更に、水:硝酸:フッ酸=80:15:1でエッチング処理をして組織観察試験片とした。
この組織観察試験片の表面(1/4D部)の10視野を2000倍の倍率で写真撮影し、その画像データから画像解析ソフト(Image−Pro)を用いて、α相の定量化を実施し、一次α相の面積率、チタン合金押出材の押出方向に対して±15°以内の角度範囲内に長径の方向が収まっている一次α粒面積率の割合を求めた。また、20000倍の写真からマトリックス中の二次α相を任意に30個抽出してその短径を測定し、短径の平均が0.1μm以上であるか否かを判別した。尚、二次α相の短径の平均が0.1μm以上であったものを○、0.1μm未満であったものを×と表2に表記した。
更に、組織観察試験片の押出方向に対するα相の<0001>方向のなす角度を測定した。測定エリアは1箇所の測定において、1mm×1mmの平面内とし、測定ピッチは1μmとした。測定箇所は1断面につき、偏りのないように5箇所を選定し、押出方向に対するα相の<0001>方向のなす角度を測定して、<0001>方向が押出垂直方向に対して±20°以内の角度範囲内に収まるα相の、全α相中に占める面積率を求めた。試験結果を表2に示す。
尚、組織観察試験では、電界放出型走査顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)(日本電子社製、JSM5410)に、後方錯乱電子回析像(Electron Back Scattering(Scattered) Pattern:EBSP)システムを搭載した結晶方位解析法によって集合組織の観察・測定を実施した。この測定方法を用いたのは、EBSP法は他の測定方法と比較して高分解能であり、高精度な測定ができるためである。まず、測定原理について説明する。
EBSP法は、FE−SEMの鏡筒内にセットした試料に電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。この画像を解析して、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、結晶の方位が決定される。算出された結晶の方位は3次元オイラー角として、位置座標(x、y)などと共に記録される。このプロセスが全測定点に対して自動的に行われるので、測定終了時には数万〜数十万点のデータを得ることができる。
このように、EBSP法には、X線回析法や透過電子顕微鏡を用いた電子線回析法よりも、観察視野が広く、数百個以上の多数の結晶粒に対する各種情報を、数時間以内で得ることができる利点がある。また、結晶粒毎の測定ではなく、指定した領域を一定間隔で走査して測定するために、測定領域全体を網羅した上記多数の測定ポイントに関する、上記各情報を得ることができる利点もある。尚、これらFESEMにEBSPシステムを搭載した結晶方位解析法の詳細は、神戸製鋼技報/Vol.52 No.2(Sep.2002)P66−70などに詳細に記載されている。
<室温引張試験>
前記したチタン合金押出材を705℃×2hr後空冷の焼鈍処理を実施してから引張試験片を採取した。引張試験はASTM規格のE8に準拠して実施した。引張試験片の形状、寸法については図4に示す。試験温度は室温(25℃)である。試験結果から、引張強度(TS)が820MPa以上で、伸び(EL)が10%以上のものを合格とし、高強度のチタン合金であると判断した。この試験で求められた各試料の引張強度(TS)と伸び(EL)を、表2に示す。
<疲労試験>
前記したチタン合金押出材を705℃×2hr後空冷の焼鈍処理を実施してから疲労試験片を採取した。疲労試験はASTM規格のE466に準拠して実施した。疲労試験片の形状、寸法については図5に示す。試験温度は室温(25℃)であり、応力比は0.1(引張−引張)、周波数は10Hz、1.00E+7回(10回)で未破断の最大負荷応力を疲労強度とした。疲労試験の結果を表2に示す。強度レベルの異なる合金の優劣を判断する必要があるため、疲労比(=疲労強度/引張強度)が0.760を合格とした。
表1の合金No.2はAlの含有量が1.95%と低すぎる比較例、合金No.12はAlが含有されない比較例、合金No.13はAlの含有量が9.0%と高すぎる比較例である。また、合金No.6はCの含有量が0.05%と低すぎる比較例、合金No.17はCの含有量が0.3%と高すぎる比較例である。また、合金No.14はCrの含有量が6.0%と高すぎる比較例、合金No.15はVの含有量が6.0%と高すぎる比較例、合金No.16はFeの含有量が3.0%と高すぎる比較例である。更には、合金No.18はV、Cr、Fe、Mo、Ni、Nb、Taのβ安定化型元素群の合計含有量が1.5%と低すぎる比較例、合金No.19はV、Cr、Fe、Mo、Ni、Nb、Taのβ安定化型元素群の合計含有量が11.5%と高すぎる比較例である。尚、この合金No.19はMoの含有量も7.0%と高すぎる。一方で合金No.1、3〜5、7〜11、20は本発明で規定する成分組成を満足する。
前記したように、組織観察試験、室温引張試験、疲労試験の試験結果を表2に示すが、実施例No.2、12、18〜25は、成分組成が本発明で規定する要件を満足しないチタン合金押出材を用いた比較例である。
また、実施例No.7〜9は、チタン合金押出材の成分組成は本発明で規定する要件を満足するが、製造要件が、92.6×lnR+635≦T1≦Tβ―20、R≧4という条件式を満足しない比較例である。これら実施例No.7〜9は、この条件式を満足しないため、組織観察試験の試験結果が、一次α相の面積率が5〜80%、チタン合金押出材の押出方向に対して±15°以内の角度範囲内に長径の方向が収まる一次α粒の面積率の割合が80%以上、二次α相の平均短径が0.1μm以上という本発明で規定する要件のいずれか1つ以上を満足することができなかった。
室温引張試験、疲労試験の試験結果は、本発明の要件を満足する実施例No.1、3〜5、10、11、13〜17、26は全て合格判定基準を満足したのに対し、本発明の要件を満足しない実施例No.2、7〜9、12、18〜25は、引張強度、伸び、疲労比のうち少なくとも1つの要件で合格判定基準を満足することができなかった。
尚、実施例No.6は、製造要件が、92.6×lnR+635≦T1≦Tβ―20、R≧4という条件式を満足するものの、加熱温度(T1)がTβ−25℃と比較的高めの温度であったため、同じ合金No.4を用いて、より低い加熱温度(T1)で製造した実施例No.4、5に比較して、<0001>方向が押出垂直方向に対して±20°以内の角度範囲内に収まるα相の、全α相中に占める面積率が低く、その結果、疲労比も実施例No.4、5に比較して若干低くなっている。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.08%超、0.25%以下、Al:2.0〜8.5%を含有すると共に、V:5.0%以下、Cr:5.0%以下、Fe:2.5%以下、Mo:5.0%以下、Ni:5.0%以下、Nb:5.0%以下、Ta:5.0%以下のβ安定化型元素群の1種または2種以上を合計で2.0〜10.0%含有し、残部がTiおよび不可避的不純物であるチタン合金押出材であって、
    そのチタン合金押出材の任意の断面における一次α相の面積率が5〜80%であると共に、その一次α相のうち80%以上の一次α粒の長径の方向が、チタン合金押出材の押出方向に対して±15°以内の角度範囲内に収まっており、
    且つ、二次α相の平均短径が0.1μm以上であることを特徴とする疲労強度に優れたα−β型チタン合金押出材。
  2. 前記チタン合金押出材の焼鈍後の任意の断面における、<0001>方向が押出垂直方向に対して±20°以内の角度範囲内に収まるα相の、全α相中に占める面積率が93%以上である請求項記載のα−β型チタン合金押出材。
  3. 請求項1または2に記載のα−β型チタン合金押出材を押出成形により製造するα−β型チタン合金押出材の製造方法であって、
    加熱温度T1を下記条件式に示す範囲内として押出成形を行うことを特徴とするα−β型チタン合金押出材の製造方法。
    92.6×lnR+635≦T1≦Tβ―20、R≧4
    但し、上記条件式でRは押出比である。
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