以下、火花点火式ガソリンエンジンの制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、例示である。図1,2は、エンジン(エンジン本体)1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料が供給される火花点火式ガソリンエンジンである。エンジン1は、複数の気筒18(一つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面には、リエントラント形のようなキャビティ141が形成されている。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述する直噴インジェクタ67に相対する。シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とは、燃焼室19を区画する。尚、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、14以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。尚、幾何学的圧縮比は14以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
吸気弁21及び排気弁22をそれぞれ駆動する動弁系の内、排気側には、排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える、例えば油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVL(Variable Valve Lift)と称する)71が設けられている。VVL71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を一つ有する第1カムとカム山を二つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成されている。第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動する(図5(b)(c)(d)参照)のに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する(図5(a)参照)。VVL71の通常モードと特殊モードとは、エンジンの運転状態に応じて切り替えられる。具体的に、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。また、内部EGRの実行は、排気の二度開きのみによって実現されるのではない。例えば吸気弁21を二回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを気筒18内に残留させる内部EGR制御を行ってもよい。
VVL71を備えた排気側の動弁系に対し、吸気側には、図2に示すように、クランクシャフト15に対する吸気カムシャフトの回転位相を変更することが可能な位相可変機構(以下、VVT(Variable Valve Timing)と称する)72と、吸気弁21のリフト量を連続的に変更することが可能なリフト量可変機構(以下、CVVL(Continuously Variable Valve Lift)と称する)73とが設けられている。VVT72は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。また、CVVL73も、公知の種々の構造を適宜採用することが可能であり、その詳細な構造についての図示は省略する。VVT72及びCVVL73によって、吸気弁21は、図5(a)〜(d)に示すように、その開弁タイミング及び閉弁タイミング、並びに、リフト量をそれぞれ変更することが可能である。
シリンダヘッド12にはまた、気筒18毎に、気筒18内に燃料を直接噴射する直噴インジェクタ67と、吸気ポート16内に燃料を噴射するポートインジェクタ68とがそれぞれ取り付けられている。
直噴インジェクタ67は、図8に拡大して示すように、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されている。直噴インジェクタ67は、エンジン1の運転状態に応じた噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室19内に直接噴射する。この例において、直噴インジェクタ67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型のインジェクタである。これによって、直噴インジェクタ67は、燃料噴霧が放射状に広がるように、燃料を噴射する。ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動することにより、後述する点火プラグ25の周囲に到達するようになる。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている、と言い換えることが可能である。この多噴口型のインジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、点火プラグ25の周りに燃料噴霧が到達するまでの時間を短くすると共に、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。尚、直噴インジェクタ67は、多噴口型のインジェクタに限定されず、外開弁タイプのインジェクタを、直噴インジェクタに採用してもよい。
ポートインジェクタ68は、図1に示すように、吸気ポート16乃至吸気ポート16に連通する独立通路に臨んで配置されかつ、吸気ポート16内に燃料を噴射する。ポートインジェクタ68は、一つの気筒18に対して一つ設けてもよいし、一つの気筒18に対し二つの吸気ポート16が設けられているのであれば、二つの吸気ポート16のそれぞれに設けてもよい。ポートインジェクタ68の形式は特定の形式に限定されるものではなく、種々の形式のインジェクタを、適宜採用することが可能である。
図外の燃料タンクと直噴インジェクタ67との間は、高圧燃料供給経路によって互いに連結されている。この高圧燃料供給経路上には、高圧燃料ポンプ63とコモンレール64とを含みかつ、直噴インジェクタ67に、相対的に高い燃料圧力で燃料を供給する高圧燃料供給システム62が介設されている。高圧燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。直噴インジェクタ67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料が直噴インジェクタ67の噴口から噴射される。ここで、高圧燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、例えばクランク軸とカム軸との間のタイミングベルトに連結されることにより、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の高圧燃料供給システム62は、40MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、直噴インジェクタ67に供給することを可能にする。直噴インジェクタ67に供給される燃料の圧力は、後述するように、エンジン1の運転状態に応じて変更される。尚、高圧燃料供給システム62は、これに限定されるものではない。
同様に、図外の燃料タンクとポートインジェクタ68との間は、低圧燃料供給経路によって互いに連結されている。この低圧燃料供給経路上には、ポートインジェクタ68に対し、相対的に低い燃料圧力の燃料を供給する低圧燃料供給システム66が介設されている。低圧燃料供給システム66は、詳細な図示は省略するが、電動又はエンジン駆動の低圧燃料ポンプとレギュレータとを備えており、所定圧力の燃料を、各ポートインジェクタ68に供給するように構成されている。ポートインジェクタ68は、吸気ポートに燃料を噴射するため、低圧燃料供給システム66が供給する燃料の圧力は、高圧燃料供給システム62が供給する燃料の圧力に比べて、低い圧力に設定されている。
シリンダヘッド12にはまた、燃焼室19内の混合気に点火する点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通して配置されている。図8に示すように、点火プラグ25の先端は、燃焼室19の中央部分に配置された直噴インジェクタ67の先端近傍で、燃焼室19内に臨んで配置されている。
エンジン1の一側面には、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、空気を冷却又は加熱する、水冷式のインタークーラ/ウォーマ34と、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。吸気通路30にはまた、インタークーラ/ウォーマ34をバイパスするインタークーラバイパス通路35が接続されており、このインタークーラバイパス通路35には、当該通路35を通過する空気流量を調整するためのインタークーラバイパス弁351が配設されている。インタークーラバイパス弁351の開度調整を通じて、インタークーラバイパス通路35の通過流量とインタークーラ/ウォーマ34の通過流量との割合を調整することにより、気筒18に導入する新気の温度を調整する。
排気通路40の上流側の部分は、各気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのEGRクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設され、EGRクーラバイパス通路53には、EGRクーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのEGRクーラバイパス弁531が配設されている。
このように構成されたエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。
PCM10には、図1,2に示すように、各種のセンサSW1〜SW16の検出信号が入力される。この各種のセンサには、次のセンサが含まれる。すなわち、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1及び新気の温度を検出する吸気温度センサSW2、インタークーラ/ウォーマ34の下流側に配置されかつ、インタークーラ/ウォーマ34を通過した後の新気の温度を検出する、第2吸気温度センサSW3、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置されかつ、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4、吸気ポート16に取り付けられかつ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5、シリンダヘッド12に取り付けられかつ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置されかつ、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8、直キャタリスト41の上流側に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13、吸気側及び排気側のカム角センサSW14,SW15、及び、高圧燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられかつ、直噴インジェクタ67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16である。
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じて直噴インジェクタ67、ポートインジェクタ68、点火プラグ25、吸気弁側のVVT72及びCVVL73、排気弁側のVVL71、高圧燃料供給システム62、並びに、各種の弁(スロットル弁36、インタークーラバイパス弁351、EGR弁511、及びEGRクーラバイパス弁531)のアクチュエータへ制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。
図3は、エンジン1の運転領域の一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッションの向上を目的として、エンジン1の暖機後は、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域では、点火プラグ25による点火を行わずに、圧縮自己着火によって燃焼を行う圧縮着火燃焼を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、例えば燃焼騒音等の問題を引き起こすことになる。そのため、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域では、圧縮着火燃焼を止めて、点火プラグ25を利用した火花点火燃焼に切り替える。従って、このエンジン1は、エンジン1の運転状態に応じて、圧縮着火燃焼を行うCI(Compression Ignition)モードと、火花点火燃焼を行うSI(Spark Ignition)モードとを切り替えるように構成されている。
詳しくは後述するが、CIモードでは基本的に、例えば吸気行程乃至圧縮行程中の、比較的早いタイミングで、直噴インジェクタ67が気筒18内に燃料を噴射することにより、比較的均質なリーン混合気を形成すると共に、その混合気を圧縮上死点付近において圧縮自己着火させる。このCIモードにおける相対的に負荷の低い領域では、気筒内温度を高めて圧縮着火燃焼を安定化させる観点から、内部EGR制御が併用される。一方、CIモードにおける相対的に負荷の高い領域では、エンジン負荷の増大に伴い、気筒内温度が高まり、圧縮着火燃焼が急峻になることから、内部EGR制御を止めて、外部EGR制御に切り替える。尚、この中負荷の領域では、その一部において、内部EGR制御と外部EGR制御とを併用してもよい。
これに対し、SIモードでは基本的に、例えば吸気行程乃至圧縮行程中に、直噴インジェクタ67が気筒18内に燃料を噴射することにより、均質乃至成層化した混合気を形成すると共に、圧縮上死点付近において点火を実行することによってその混合気に着火する。SIモードではまた、理論空燃比(λ=1)でエンジン1を運転する。これは、三元触媒の利用を可能にするから、エミッション性能の向上に有利になる。
このエンジン1の幾何学的圧縮比は、前述の通り、14以上(例えば18)に設定されている。高い圧縮比は、圧縮端温度及び圧縮端圧力を高くするため、CIモードでは、圧縮着火燃焼の安定化に有利になる。一方で、この高圧縮比エンジン1は、高負荷域においてはSIモードに切り替えるため、エンジン負荷が高くなればなるほど、過早着火やノッキング(以下、これらを総称してノッキングという場合がある)といった異常燃焼が生じやすくなってしまうという不都合がある。
そこでこのエンジン1では、エンジンの運転状態が高負荷域にあるときには、燃料の噴射形態を従来とは大きく異ならせたSI燃焼を実行することによって、異常燃焼を回避するようにしている。具体的に、この燃料の噴射形態は、従来と比較して大幅に高圧化した燃料圧力でもって、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけての大幅に遅角した期間(以下、この期間をリタード期間と呼ぶ)内で、直噴インジェクタ67によって、気筒18内に燃料噴射を実行するものである。この特徴的な燃料噴射形態を、以下においては「高圧リタード噴射」と呼ぶ。
図4は、前述した高圧リタード噴射によるSI燃焼(実線)と、吸気行程中に燃料噴射を実行する従来のSI燃焼(破線)とにおける、熱発生率(上図)及び未燃混合気反応進行度(下図)の違いを比較する図である。図4の横軸は、クランク角である。この比較の前提として、エンジン1の運転状態は共に低速域内の高負荷域であり、噴射する燃料量は、高圧リタード噴射によるSI燃焼と従来のSI燃焼との場合で互いに同じである。
先ず、従来のSI燃焼では、吸気行程中に気筒18内に所定量の燃料噴射を実行する(上図の破線)。気筒18内では、その燃料の噴射後、ピストン14が圧縮上死点に至るまでの間に、比較的均質な混合気が形成される。そして、この例では、圧縮上死点以降の、白丸で示す所定タイミングで点火が実行され、それによって燃焼が開始する。燃焼の開始後は、図4の上図に破線で示すように、熱発生率のピークを経て燃焼が終了する。ここで、燃料噴射の開始から燃焼の終了までの間が未燃混合気の反応可能時間(以下、単に反応可能時間という場合がある)に相当し、図4の下図に破線で示すように、この間に未燃混合気の反応は次第に進行する。同図における点線は、未燃混合気が着火に至る反応度である、着火しきい値を示しており、従来のSI燃焼は反応可能時間が非常に長く、その間、未燃混合気の反応が進行し続けてしまうことから、点火の前後に未燃混合気の反応度が着火しきい値を超えてしまい、過早着火又はノッキングといった異常燃焼を引き起こす。
これに対し、高圧リタード噴射は反応可能時間の短縮を図り、そのことによって異常燃焼を回避することを目的とする。すなわち、反応可能時間は、図4にも示しているように、直噴インジェクタ67が燃料を噴射する期間((1)噴射期間)と、噴射終了後、点火プラグ25の周りに可燃混合気が形成されるまでの期間((2)混合気形成期間)と、点火によって開始された燃焼が終了するまでの期間((3)燃焼期間)と、を足し合わせた時間、つまり、(1)+(2)+(3)である。高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間をそれぞれ短縮し、それによって、反応可能時間を短くする。
つまり、気筒18内の乱れエネルギは、高い方が燃焼期間の短縮に有利である。前述の通り高い燃料圧力での燃料噴射は、気筒18内の乱れエネルギを高めるとしても、仮にその噴射タイミングが吸気行程中であれば、点火タイミングまでの時間が長いことや、吸気行程後の圧縮行程において気筒18内が圧縮されることに起因して乱れが減衰し、燃焼期間内における気筒内の乱れエネルギは、比較的低くなってしまう。すなわち、高い燃料圧力で気筒18内に燃料を噴射するとしても、噴射タイミングが吸気行程中である以上は、燃焼期間を、ほとんど短縮しない。
これに対し、リタード期間内のタイミング、つまり、比較的遅いタイミングでかつ、高い燃料圧力で気筒内に燃料を噴射することは、気筒内の乱れの減衰を抑制しつつ、燃焼を開始することを可能にする。このことから、燃焼期間内における気筒内の乱れエネルギが高くなる。これによって、燃焼期間は短くなり、燃焼の安定化が図られる。
また、高い燃料圧力は、単位時間当たりに噴射される燃料量を相対的に多くする。このため、同一の燃料噴射量で比較した場合に、高い燃料圧力は、噴射期間を、低い燃料圧力のときよりも短縮する。
さらに、高い燃料圧力は、気筒内に噴射する燃料噴霧の微粒化に有利になると共に、燃料噴霧の飛翔距離を、より長くする。このことから、高い燃料圧力は、混合気形成期間を短縮する。
従って、前述した噴射期間の短縮及び混合気形成期間の短縮は、燃料の噴射タイミング(より正確には、噴射開始タイミング)を、比較的遅いタイミングにすることを可能にする。つまり、高い燃料圧力は、リタード期間内における燃料噴射を可能にする。
こうして火花点火モードにおいては、高い燃料圧力でかつ、リタード期間内に気筒内に燃料噴射を実行することによって、燃焼期間の短い急速燃焼が実現し、それによって燃焼が安定化する。
このように高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間、及び、燃焼期間をそれぞれ短縮し、その結果、図4に示すように、燃料の噴射開始タイミングSOIから燃焼終了時期θendまでの、未燃混合気の反応可能時間を、従来の吸気行程中での燃料噴射の場合と比較して大幅に短くすることを可能にする。この反応可能時間を短縮する結果、従来の低い燃料圧力での吸気行程噴射では、燃焼終了時における未燃混合気の反応進行度が、着火しきい値を超えてしまい、異常燃焼が発生してしまうところ、高圧リタード噴射は、燃焼終了時における未燃混合気の反応の進行を抑制し、異常燃焼を回避することが可能になる。
次に、図5を参照しながら、エンジン1の運転状態に対応した、吸気弁21及び排気弁22の作動状態、並びに、燃料噴射タイミング及び点火タイミングの制御例について説明する。ここで、図5の(a)(b)(c)(d)はそれぞれ、(a)<(b)<(c)<(d)の順にエンジン負荷が高くなる。(a)(b)は、CIモードに対応する低、中負荷域であり、(c)は、SIモードに対応する高負荷域である。(d)は、SIモードに対応する全開負荷域である。
先ず、図5(a)は、エンジン1の運転状態が低負荷域にあるときを示す。この運転領域はCIモードであるため、VVL71の制御によって、排気弁22を吸気行程中に開弁する排気の二度開きを行い(同図のEx2の実線を参照。尚、実線は排気弁22のリフトカーブを、破線は吸気弁21のリフトカーブをそれぞれ示す)、そのことによって内部EGRガスを気筒18内に導入する。内部EGRガスの導入は圧縮端温度を高め、圧縮着火燃焼を安定化させる。但し、エンジン負荷の上昇に伴い気筒18内の温度が自然と高まることから、過早着火(つまり、ノッキング)を回避する観点から、内部EGR量は低下させる。図5に例示するように、CVVL73の制御によって、吸気弁21のリフト量を調整することにより、内部EGR量を調整してもよい。尚、図5には図示しないが、スロットル弁36の開度調整によって、内部EGR量を調整してもよい。燃料噴射のタイミングは吸気行程中に設定され、直噴インジェクタ67が気筒18内に燃料を噴射することによって気筒18内に均質なリーン混合気を形成する。尚、燃料噴射量は、エンジン1の負荷に応じて設定される。
尚、図5(a)においては、吸気行程中における排気弁22の開弁期間を、その吸気行程の前半に設定している例を示している。排気弁22の開弁期間は、吸気行程の後半に設定してもよい。また、開弁期間を吸気行程の前半に設定する場合は、排気上死点を挟んだ排気行程から吸気行程の前半にかけて、排気弁22を開弁したままに構成してもよい。
図5(b)は、エンジン1の運転状態が、同図(a)よりもエンジン負荷が高い、中負荷域にあるときを示す。この運転領域もまた、CIモードであるが、エンジン負荷が高く、気筒内温度が比較的高いことから、内部EGRガスを気筒18内に導入したのでは、気筒内温度が高くなりすぎてしまう。そこで、エンジン負荷が中負荷域にあるときには、排気弁22の二度開きを中止して内部EGRガスの導入を止め、代わりに外部EGRガスを気筒18内に導入する。燃料噴射のタイミングは、吸気行程乃至圧縮行程中の適宜のタイミングに設定される。このタイミングで、直噴インジェクタ67が気筒18内に燃料を噴射することにより、気筒18内に均質乃至成層化したリーン混合気を形成する。燃料噴射量がエンジン1の負荷に応じて設定される点は、図5(a)と同様である。
図5(c)は、エンジン1の運転状態が高負荷域にあるときを示す。この運転領域はSIモードであり、この運転領域においては、排気弁22の二度開きを中止する。また、SIモードでは、空燃比λ=1となるように充填量が調整される。充填量の調整は、スロットル弁36を全開にする一方で、VVT72及びCVVL73の制御によって、吸気弁21の閉弁タイミングを吸気下死点以降に設定する、吸気弁21の遅閉じによって行ってもよい。これは、ポンプ損失の低減に有利である。充填量の調整はまた、スロットル弁36を全開にする一方で、EGR弁511の開度調整により、気筒18内に導入する新気量と外部EGRガス量とを調整することによって行ってもよい。これは、ポンプ損失の低減と共に、冷却損失の低減にも有効である。また、外部EGRガスの導入は、異常燃焼の回避に寄与すると共に、Raw NOxの生成を抑制するという利点もある。さらに、充填量の調整として、吸気弁21の遅閉じ制御と、外部EGRの制御とを組み合わせてもよい。特に、高負荷域内における低負荷側においては、EGR率が高すぎてしまうことを抑制すべく、外部EGRを気筒18内に導入しつつ、吸気弁21の遅閉じ制御によって充填量を調整してもよい。
また、燃料噴射の形態は、前述した高圧リタード噴射である。従って、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけてのリタード期間内に、高い燃料圧力でもって、直噴インジェクタ67が燃料を気筒18内に直接、噴射する。高圧リタード噴射は、一回の噴射によって構成してもよい(つまり、一括噴射)が、図5(c)に示すように、第1噴射と、その後の第2噴射との二回の噴射を、リタード期間内において行うように構成してもよい(つまり、分割噴射)。第1噴射は、相対的に長い混合気形成期間を確保することができるため、燃料の気化霧化に有利である。第1噴射によって十分な混合気形成期間が確保される分、第2噴射の噴射タイミングは、より一層遅角したタイミングに設定することが可能になる。このことは、気筒内の乱れエネルギの向上に有利になり、燃焼期間の短縮に有利になる。分割噴射を行う場合は、第2噴射の燃料噴射量を、第1噴射の燃料噴射量よりも大に設定することが好ましい。こうすることで、気筒18内の乱れエネルギが十分に高まり、燃焼期間の短縮、ひいては異常燃焼の回避に有利になる。尚、こうした分割噴射は、高負荷域内において、燃料噴射量が多くなる相対的に高負荷側でのみ行い、燃料噴射量が比較的少ない、高負荷域内の低負荷側では、一括噴射を行うようにしてもよい。また、分割回数は2回に限定されず、3回以上に設定してもよい。
そうして、SIモードでは、燃料噴射終了後の、圧縮上死点付近において、点火プラグ25による点火が実行される。
図5(d)は、エンジン1の運転状態が全開負荷域にあるときを示す。この運転領域は、図5(c)と同様に、SIモードであり、排気弁22の二度開きを中止する。また、全開負荷域であるため、EGR弁511を閉弁することにより、外部EGRも中止する。
燃料噴射の形態は、基本的には高圧リタード噴射であり、図に示すように、第1噴射と第2噴射との、リタード期間内における、気筒18内への二回の噴射によって構成される。尚、高圧リタード噴射は、一括噴射であってもよい。また、この全開負荷域においては、吸気充填効率の向上を目的として、吸気行程中の噴射が追加される場合がある。この吸気行程噴射は、燃料噴射に伴う吸気の冷却効果によって吸気充填効率が向上し、トルクの向上に有利になる。従って、エンジン1の運転状態が全開負荷域にあるときは、吸気行程噴射と、第1及び第2噴射との三回の燃料噴射が実行される、又は、吸気行程噴射と、一括噴射との二回の燃料噴射が実行される。
ここで、前述の通り、直噴インジェクタ67によって気筒18内に燃料を直接噴射する高圧リタード噴射は、燃料圧力が極めて高い。そのため、そうした高い燃料圧力でもって、吸気行程中に、気筒18内に直接燃料を噴射してしまうと、気筒18内の壁面に燃料が大量に付着して、オイル希釈等の問題を引き起こす可能性がある。そこで、この吸気行程噴射は、直噴インジェクタ67ではなく、相対的に低い燃料圧力でもって燃料を噴射するポートインジェクタ68を通じて、吸気ポート16内に燃料を噴射する。こうすることで、前述したオイル希釈等の問題が回避される。
図6は、負荷の変動に対するエンジン1の各パラメータ、つまり、(b)スロットル弁36の開度、(c)EGR弁511の開度、(d)排気弁22の二度開きの閉弁タイミング、(e)吸気弁21の開弁タイミング、(f)吸気弁21の閉弁タイミング、及び、(g)吸気弁のリフト量それぞれの制御例を示している。
図6(a)は、気筒18内の状態を示している。同図は、横軸をトルク(言い換えるとエンジン負荷)、縦軸を気筒内の混合気充填量として、気筒内の混合気の構成を示している。前述の通り、相対的に負荷の低い、図の左側の領域はCIモードとなり、所定負荷よりも負荷が高い、図の右側の領域はSIモードとなる。燃料量(総括燃料量)は、CIモード及びSIモードに拘わらず、負荷の増大に従って増量される。この燃料量に対して、理論空燃比(λ=1)となるための新気量が設定されることとなり、この新気量は、負荷の増大に対し、燃料量の増量に伴って増量することになる。
CIモードにおいては、前述の通り、その低負荷側では、内部EGRガスが気筒18内に導入されることから、充填量の残り分は、内部EGRガスと余剰の新気とによって構成される。また、CIモードにおける高負荷側(つまり、中負荷)では、内部EGRガスの導入が中止される一方で、外部EGRガスが気筒18内に導入され、充填量の残り分は、外部EGRガスと余剰の新気とによって構成される。従って、CIモードでは、リーン混合気となる。一方、SIモードにおいてはλ=1となるようにエンジン1が運転されると共に、外部EGRガスが気筒18内に導入される。
スロットル弁36は、同図(b)に示すように、基本的には、エンジン1の負荷の高低に拘わらず全開に設定される。また、EGR弁511は、同図(c)に示すように、内部EGRガスを導入している間は全閉に設定される一方、CIモードにおいて外部EGRガスを導入する際には全開に設定される。また、それよりも高負荷のSIモードにおいては、エンジン1の負荷が高まるに従って、EGR弁511は次第に閉じられ、全開負荷では、全閉にされる。このスロットル弁36とEGR弁511との開度調整により、外部EGR率は、図7(c)に示すように、CIモードの低負荷側では0(ゼロ)となる一方、高負荷側では最大となり、SIモードにおいてはエンジン1の負荷が高まるに従って、EGR率が次第に低下して、全開負荷において再び0になる。
図6(d)は、排気弁22の二度開き時の閉弁タイミングを示している。CIモードで内部EGRガスを気筒18内に導入するときには、その閉弁タイミングが排気上死点と吸気下死点との間の、所定タイミングに設定される。一方、CIモード及びSIモードにおいて、内部EGRガスを導入しないときには、その閉弁タイミングが排気上死点に設定される。
このように、内部EGRの実行のために所定の閉弁タイミングに設定される排気弁22の二度開きに対して、図6(e)に示すように、吸気弁21の開弁タイミングが、エンジン1の負荷が高くなるほど排気上死点に近づくように進角される。従って、エンジン1の負荷が低いほど、気筒18内に導入される内部EGRガスが増量するのに対し、エンジン1の負荷が高くなればなるほど、気筒18内に導入される内部EGRガスは減少する。エンジン1の負荷が低いほど、大量の内部EGRガスによって気筒18内の圧縮端温度が高まるため、安定した圧縮着火燃焼を実現する上で有利になる。一方、エンジン1の負荷が高いほど、内部EGRガスを抑制することで気筒18内の圧縮端温度の上昇を抑制するため、過早着火を抑制する上で有利になる。また、エンジン負荷が高まり、内部EGR制御を中止するに伴い、吸気弁21の開弁タイミングは、排気上死点に設定される。また、図6(f)に示すように、吸気弁21の閉弁タイミングは、吸気下死点で一定にされる。
さらに、図6(g)に示すように、吸気弁21のリフト量は、内部EGRの制御中は、エンジン負荷の増大に伴い、最小リフト量から次第に大きくなるのに対し、内部EGRの制御を行わないときには、エンジン負荷の高低に拘わらず、最大リフト量で一定に設定される。
従って、SIモードでは、スロットル弁36が全開で一定にされ(図6(b))、吸気弁21の開弁タイミング及び閉弁タイミングが一定にされる(図6(e)(f))と共に、リフト量が最大で一定にされる(図6(g))。このことから、EGR弁511の開度調整によって、気筒18内の導入される新気量と、外部EGRガス量との割合が調整されることになる。このような制御は、ポンプ損失の低減に有利である。
尚、図6では、CIモードの低負荷側において、スロットル弁36を全開にする一方、エンジン負荷の増大に伴い、吸気弁21の開弁タイミングを排気上死点に近づくように進角しかつ、吸気弁21のリフト量を次第に大きくしているが、これとは異なり、CIモードの低負荷側において、スロットル弁36の開度がエンジン負荷の増大に伴い次第に大きくなるように制御する一方で、エンジン負荷の高低に拘わらず、吸気弁21の開弁タイミングを排気上死点で一定にしかつ、吸気弁21のリフト量を所定のリフト量で一定にしてもよい。こうすることによって、内部EGR制御を実行しているときには、スロットル弁36の開度に応じて、気筒18内に導入される内部EGRガス量が調整されることになる。
次に、図7は、低速域内における負荷の変動に対するエンジン1の各制御パラメータ、すなわち、(b)G/F、(c)外部EGR率、(d)噴射タイミング、(e)燃料圧力、(f)燃料噴射パルス幅(つまり、噴射期間)、及び、(g)点火タイミングの変化を示している。
先ず、気筒内の混合気の状態は、図7(a)に示すような構成となる。このため、G/Fは、図7(b)に示すように、燃料量の増大に伴いリーンから次第に理論空燃比に近づくようになり、SIモードにおける全開負荷において、G/F=14.7となる。
図7(c)は、外部EGR率を示しており、前述したように、外部EGR率は、CIモードにおける内部EGR制御の実行中は0(ゼロ)となり、CIモードにおいて外部EGRの制御中は最大となる。そうして、SIモードにおいては、エンジン1の負荷が高まるに従ってEGR率が次第に低下して、全開負荷において再び0になる。つまり、SIモードにおいても、全開負荷では、外部EGR制御を中止する。
図7(d)に示すように、燃料噴射タイミングは、CIモードにおいては、一例として、排気上死点と吸気下死点との間の吸気行程中に設定される。燃料噴射タイミングは、エンジン1の負荷に応じて変更してもよい。これに対し、SIモードにおいては、燃料噴射タイミングは、圧縮行程後半から膨張行程初期にかけてのリタード期間に設定される。つまり、高圧リタード噴射である。また、SIモードでは、エンジン負荷の増大に伴い、その噴射タイミングは次第に遅角側に変更される。これは、エンジンの負荷が増大するに伴い、気筒18内の圧力及び温度が高まって異常燃焼が発生しやすくなることから、これを効率的に回避するためには、噴射タイミングを遅角側に設定する必要があるためである。ここで、図7(d)の実線は、高圧リタード噴射を一回の燃料噴射によって行う、一括噴射の場合の、燃料噴射タイミングの一例を示している。これに対し、図7(d)の一点鎖線は、高圧リタード噴射を、第1噴射と第2噴射との二回の燃料噴射に分割した場合の、第1噴射及び第2噴射それぞれの燃料噴射タイミングの一例を示している。これによると、分割噴射における第2噴射は、一括噴射を行う場合よりも、遅角側で実行することになるため、異常燃焼の回避により有利になる。これは、前述したように、比較的早期に第1噴射を実行して燃料の気化霧化時間を確保していること、第2噴射の燃料噴射量が相対的少なくなるため、必要な気化霧化時間が短くなることに起因する。
さらに図7(d)に点線で示すように、全開負荷域においては、総燃料噴射量が多くなることから、燃料噴射量の増量分を、吸気充填効率の向上を目的として、吸気行程噴射を実行するようにしてもよい。
図7(e)は、直噴インジェクタ67に供給される燃料圧力の変化を示しており、CIモードでは最小燃料圧力で一定に設定される。これに対し、SIモードでは、最小燃料圧力よりも高い燃料圧力に設定されると共に、エンジン負荷の増大に伴い、燃料圧力が増大するように設定される。これは、エンジン負荷が高くなるにつれて異常燃焼が発生しやすくなることから、噴射期間のさらなる短縮や、噴射タイミングのさらなる遅角化が求められるためである。
図7(f)は、一括噴射を行う場合の噴射期間に相当する噴射パルス幅(インジェクタの開弁期間)の変化を示しており、CIモードにおいては、燃料噴射量の増大に伴いパルス幅も大きくなり、SIモードにおいても同様に、燃料噴射量の増大に伴いパルス幅も大きくなる。しかしながら、同図(e)に示すように、SIモードでは、CIモードよりも燃料圧力が大幅に高く設定されているため、SIモードにおける燃料噴射量は、CIモードにおける燃料噴射量よりも多いにも拘わらず、そのパルス幅は、CIモードのパルス幅よりも短く設定される。これは、未燃混合気反応可能時間を短縮し、異常燃焼の回避に有利になる。
また、図7(g)は、点火タイミングの変化を示しており、SIモードでは、燃料噴射タイミングがエンジン負荷の増大と共に遅角されることに従って、点火タイミングもまた、エンジン負荷の増大と共に遅角される。これにより、少なくとも全開負荷域においては、膨張行程において燃焼が開始するようになる。これは、異常燃焼の回避に有利である。また、CIモードでは、基本的には点火を実行しないものの、点火プラグ25のくすぶりを回避する目的で、同図に一点鎖線で示すように、例えば排気上死点付近で点火を行ってもよい。
そうして、このエンジン1においては、CIモード時の圧縮着火燃焼の安定化を目的として、図8及び図9に拡大して示すように、排気ポート17のスロートに、加熱手段としてのセラミックヒータ81が配設されている。より詳細に、セラミックヒータ81は、図例では無端環状に構成されており、気筒18毎に2つ形成された排気ポート17のそれぞれにおけるスロートに、その一部がポート壁面に埋め込まれるようにして取り付けられている。
各セラミックヒータ81は、その詳細な構造の図示は省略するが、発熱体をセラミックに内蔵して構成されている。発熱体は、通電により発熱し、通電停止によりその発熱が停止する。セラミックヒータ81に対する通電及び通電停止の切り替えは、PCM10によって行われる。また、セラミックは、蓄熱体としても機能し、後述するように、気筒18内から排気ポート17に排出される既燃ガスの熱を吸熱する一方、排気ポート17から気筒18内に導入される既燃ガスに放熱する。
そうしてこのセラミックヒータ81は、前述したCIモードにおける低負荷側の領域、言い換えると、排気弁22の二度開きによって内部EGR制御を実行しているときに、通電される。これにより、図10の左図に示すように、排気行程中に開弁される排気弁22を通じて、気筒18内から排気ポート17に既燃ガスが排出されるときに、その既燃ガスの熱が、セラミックヒータ81の蓄熱体に吸熱される。その後、図10の右図に示すように、吸気行程中に排気弁22が開弁されて、排気ポート17から気筒18内に既燃ガスが導入されるときに、セラミックヒータ81の蓄熱体の放熱と発熱体の発熱とによって、既燃ガスが加熱され、排気ポート17内で温度が低下していた既燃ガスが昇温される。こうして、より高温の既燃ガスが気筒18内に導入されることにより、気筒内温度がより一層高くなる。このことによって、圧縮着火燃焼は、より一層安定化する。
また、エンジン1の負荷が高まり、内部EGR制御を中止したときには、セラミックヒータ81への通電も停止される。これによりエネルギーロスが抑制される。一方、セラミックヒータ81への通電が停止された後も、セラミックヒータ81の余熱が存在しているが、排気弁22の二度開きが中止されるため、セラミックヒータ81の余熱によって加熱された既燃ガスが気筒18内に導入されることはない。このことは、気筒18内の温度を不要に高めることを回避して、ノッキングの発生を回避する上で有利になる。
例えば、セラミックヒータ81を、排気ポート17のスロートに配置する代わりに、又は、排気ポート17のスロートに配置することに加えて、吸気ポート16のスロートに配置してもよい。吸気ポート16のスロートに配置したセラミックヒータは、吸気行程時に吸気ポート16から気筒18内に導入されるガス(つまり、新気)を加熱して昇温する。従って、気筒内温度を高めて圧縮着火燃焼の安定化に寄与する。一方で、エンジン1の負荷が高まって、通電を停止した後も、吸気ポート16のスロートに配置したセラミックヒータは、その余熱によって新気を加熱してしまう。従って、吸気ポート16に加熱手段を配設することは、気筒内温度を不要に高めてしまう虞があり、この点で、加熱手段は、排気ポート17にのみ配設することが好ましい。
排気ポート17のスロートは、ガス流速が最も高まる箇所であり、ここにセラミックヒータ81を配置することは熱伝達率を高めて、既燃ガスからの吸熱、及び、既燃ガスへの放熱及び発熱体による加熱を、効率よく行うことが可能である。
また、発熱体と蓄熱材との組み合わせは、既燃ガスの昇温に必要なエネルギ(消費電力)を可及的に低減する上で有利になる。特に、スロートに蓄熱材(セラミックヒータ81)を配置することにより、その蓄熱材と気筒18内から排出された直後の高温の既燃ガスとの温度差が大きくなって吸熱効率が高まる上に、既燃ガスの導入時には、排気ポート17内で温度が低下した既燃ガスと蓄熱材との温度差が大きくなって放熱効率が高まり、既燃ガスの昇温に、より有利になる。
また、そうしたセラミックヒータ81を、排気ポート17内に配置し、気筒18内には露出させないことにより、燃焼室内に熱源が設けられることが回避され、ノッキングの回避に有利になる。
また、前述したように、このエンジン1は、CIモードにおける圧縮着火燃焼の安定化を目的の一つとして、その幾何学的圧縮比を比較的高く設定しているが、セラミックヒータ81によって、圧縮着火燃焼の安定化が十分に図られるのであれば、エンジン1の幾何学的圧縮比を、その分低くすることも可能になる。このことは、機械抵抗損失の低減や冷却損失の低減といったメリットを得ることを可能にする。また、エンジン1の幾何学的圧縮比を低くすることは、例えば直噴インジェクタ67の配置を、図例に示すセンター噴射からサイド噴射に変更することも可能にする。
尚、セラミックヒータ81の形状は、図例に示すように無端の環状とする以外にも、図示は省略するが、その一部が切り離された有端の環状、又は、半円状としてもよい。また、図11に示すように、2つの排気ポート17それぞれに対応して配置された、概略半円状(「C」の字を左右反転させた形状)のヒータ同士を互いに連結することによって、全体として「3」の字をなすように形成してもよい。この形状のセラミックヒータ82は、点火プラグ25が配置される排気ポート17,17同士の間の狭い領域や、排気ポート17と吸気ポート16との間の狭い領域にヒータが配置されることを回避する上で有利であると共に、セラミックヒータ82によって吸気側を加熱してしまうことを回避する上でも有利である。
尚、前記の構成では、排気ポートに、通電による発熱するセラミックヒータ81を配置しているが、これに代えて蓄熱材(つまり、発熱体を含まない)を排気ポートに配置してもよい。また逆に、発熱体(つまり、蓄熱材を含まない)を排気ポートに配置してもよい。
また、前記の構成では、2つの排気ポート17,17のそれぞれに、セラミックヒータ81、82を配置しているが、例えば2つの排気ポート17,17のいずれか一方にのみ、セラミックヒータ81、82を配置してもよい。また、例えば排気弁22の二度開きにおいて、2つの排気弁22の内の一弁のみを開弁する構成においては、当該二度開きをする排気弁22に対応する排気ポート17にセラミックヒータ81を配置することが好ましい。