JP5588619B2 - pH応答性リポソーム - Google Patents
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Description
しかし、酸性pH環境下で目的物質を保持し、塩基性pH環境下で目的物質を放出させるpH応答性分子集合体はこれまでに得られていない。
[1]カチオン性両親媒性分子と、アニオン性両親媒性分子及び両イオン性両親媒性分子の少なくとも1種と、を含むリポソームであって、前記リポソームを水性媒体中に分散させたとき、前記分散液のpHが6.5未満の酸性環境下でプラスのゼータ電位を有し、前記分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下でマイナスのゼータ電位を有する、pH応答性リポソーム。
[2]前記分散液のpHが6.5未満の酸性環境下で目的物質を保持し、前記分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下でと目的物質を放出するものである、[1]記載のpH応答性リポソーム。
[3]前記カチオン性両親媒性分子を、リポソームの構成脂質の合計モル数に対して5〜95モル%含み、前記アニオン性両親媒性分子及び両イオン性両親媒性分子を、リポソームの構成脂質の合計モル数に対して合計で5〜95モル%含むものである、[1]又は[2]記載のpH応答性リポソーム。
[4]前記分散液のpHが7.0以上8.0未満の範囲で、前記pH応答性リポソームのゼータ電位がpHの増加とともにプラスからマイナスに変化するものである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
[5]前記ゼータ電位がプラスからマイナスに変化すると、保持していた目的物質を放出するものである、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
[6]前記カチオン性両親媒性分子は、前記分散液のpHが6.5未満の酸性環境下でイオン化し易く、前記分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下でイオン化し難い、カチオン性官能基を含むものである、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
[7]前記カチオン性官能基は、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾール基及びこれらの誘導体からなる群より選ばれるものである、[6]記載のpH応答性リポソーム。
[8]次式で示されるカチオン性両親媒性分子の少なくとも1種を構成脂質として含む、[1]〜[7]のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
[9]次式で示されるアニオン性両親媒性分子又は両イオン性両親媒性分子の少なくとも1種を構成脂質として含む、[1]〜[8]のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
[10]コレステロール分子をリポソームの構成脂質の合計モル数に対して5〜50モル%含むものである、[1]〜[9]のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
[11]ポリエチレングリコール結合両親媒性分子をリポソームの構成脂質の合計モル数に対して0.01〜30モル%含むものである、[1]〜[10]のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
本発明のpH応答性リポソームは、カチオン性両親媒性分子と、アニオン性両親媒性分子及び両イオン性両親媒性分子の少なくとも1種とを含み、水性媒体中に分散させたとき、該分散液のpHが6.5未満の酸性環境下でプラスのゼータ電位を有し、該分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下でマイナスのゼータ電位を有するものである。すなわち、本発明のpH応答性リポソームは、該分散液のpHが6.5以上8.5未満の範囲で、pHの増加とともに、ゼータ電位がプラスからマイナスに変化するものである。本発明の好ましい態様では、本発明のpH応答性リポソームは、該分散液のpHが7.0以上8.0未満の範囲で、pHの増加とともに、ゼータ電位がプラスからマイナスに変化する。
本発明に用いられるカチオン性両親媒性分子は、カチオン性官能基を親水部に有する両親媒性分子であれば特に制限されない。カチオン性両親媒性分子は、前記分散液のpHが6.5未満の酸性環境下でイオン化し易く、前記分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下でイオン化し難い、カチオン性官能基を含むものであることが好ましい。例えば、該分散液のpHが6.5未満の酸性環境下で、膜成分に含まれるカチオン性官能基の90%以上がイオン化し、該分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下で、膜成分に含まれるカチオン性官能基の50%以下がイオン化するものが好ましい。
ここで「誘導体」としては、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾール基に含まれる水素原子が、低級アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル等)、アミノアルキル基(アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチルなど)又は対応するオリゴアミノアルキル基、水酸基、ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピルなど)、オリゴオキシアルキル基(オリゴオキシメチル基、オリゴオキシエチル基、オリゴオキシプロピルなど)などの置換基で置換された化合物が挙げられる。置換基の数は特に制限されない。
カチオン性両親媒性分子に含まれるカチオン性官能基の数は、特に制限されなく、1個又は複数有していてもよいが、原料入手が容易であることから、1個又は2個が好ましい。カチオン性両親媒性分子にカチオン性官能基が複数含まれる場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
で示される化合物を用いることが好ましい。
R1は、カチオン性官能基を少なくとも一つ有していればよいが、カチオン性官能基を二つ以上有していることが好ましい。特にカチオン性官能基を二つ以上有している化合物は、生理的環境下にて生体組織又は細胞への静電的な相互作用が強い点で好ましい。カチオン性置換基を二つ以上有している場合は、カチオン性置換基の組み合わせは特に制限されない。
これらの鎖状炭化水素基の中でも、R2及びR3としては、置換基を有していてもよい、炭素数12〜22のアルキル鎖が好ましい。
また、上記式中、kは、1〜250の整数である。kは1〜120がより好ましく、1〜10がさらに好ましい。
を有する三官能性コア化合物に、鎖状炭化水素基の供給源及びカチオン性官能基を有する炭化水素基の供給源を順次反応させることによって製造することができる。なお、製造方法の詳細については、国際公開第2006/118327号パンフレットを参照されたい。
本発明に用いられるアニオン性両親媒性分子は、親水部にアニオン性官能基を有する両親媒性分子であれば特に制限されない。本発明において、「アニオン性官能基」は、水溶液中、塩基性pH環境下でアニオン性を示すものであれば特に制限されない。例えば、このようなアニオン性官能基としては、カルボキシル基及びリン酸基が好ましく挙げられる。
アニオン性両親媒性分子は1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明に用いられる両イオン性両親媒性分子は、親水部にカチオン性官能基及びアニオン性官能基を併有する両親媒性分子であれば特に制限されない。
両イオン性両親媒性分子としては、一般式(II)
アニオン性両親媒性分子及び両イオン性両親媒性分子を組み合わせて用いる場合、アニオン性両親媒性分子と両イオン性両親媒性分子の混合モル比(アニオン性両親媒性分子/両イオン性両親媒性分子)は、10/1〜1/10が好ましく、5/1〜1/5がより好ましく、2/1〜2/1がさらに好ましい
ステロイド類の含有量は、特に制限されるものではないが、リポソームの構成脂質の合計モル数に対して、0.01モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましく、0.1モル%以上がさらに好ましい。また、30モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましい。ステロイド類は、分子集合体の安定化剤として作用することができ、所望の放出速度および放出率などによって適宜調整することができる。ステロイド類は1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の好ましい態様によれば、本発明のpH応答性リポソームは、表面電荷がpH変化に応答してこのような挙動をもつために、リポソーム分散液のpHが6.5未満の酸性環境下で目的物質を保持し、該分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下で目的物質を放出することができる。本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明のpH応答性リポソームは、前記分散液のpHが7.0未満で目的物質を保持し、前記分散液のpHが8.0以上で目的物質を放出することができる。
表1に示した各混合脂質をt-ブチルアルコールに溶解した後、凍結乾燥し、混合脂質粉末を調製した。カチオン性両親媒性分子として1,5-Dihexadecyl N-lysyl-L-glutamate (Lys-Glu2C16)、アニオン性両親媒性分子としてCholesteryl Hemisuccinate (CHEMS)又はパルミチン酸(PA)を用いた。PEG5000-GLu2C18の修飾量は、総脂質の0.3mol%とした。用いた脂質の化学構造を以下に示す。
各混合脂質20 mgを20 mMリン酸緩衝液(1 mL, pH6.5)に分散し、6時間攪拌後、高圧押出法(最終孔径0.22μm)にて粒子径200‐300 nmのリポソームを調製した。調製したリポソームの脂質濃度は、リポソーム分散液中のDPPC濃度より算出した。
調製したリポソーム(10μL, [lipid]=10 mg/ml)を20 mM Tris-buffer 990μl(pH 7.0, 7.5, 8.0, 8.5, 9.0)に添加し、終濃度[lipid]=1 mg/mLとして37℃におけるゼータ電位測定を行った(Marvern Zetasizer)。その結果を図1に示す。
一方、DPPC/Lys-Glu2C16/PA/chol/PEG-Glu2C18又はDPPC/Lys-Glu2C16/CHEMS/PEG-Glu2C18からなる本発明のpH応答性リポソームは、pH値が7.4または7.5以下でプラスのゼータ電位を示し、それらの値よりもpHが高くなるとゼータ電位がマイナスの値に変化した。このpH上昇に伴うゼータ電位のプラスからマイナスへの変化は、膜成分に含有するLys-Glu2C16の脱プロトン化に伴う現象であると考察される。またアニオン性脂質の種類によってゼータ電位の変化挙動が異なることが示された。
調製したリポソーム(10μL, [lipid]=10 mg/ml)を20 mM Tris-buffer 990μl(pH 7.0, 7.5, 8.0, 8.5, 9.0)にそれぞれ添加し、終濃度を[lipid]=1 mg/mLとして粒子径測定を、動的光散乱法を用いて測定した(BECKMAN COULTER N4 PLUS)。その結果を図2に示す。
図2に示されるとおり、調製した4種のリポソームの粒子径は200-300 nm程度であり、測定したすべてpHにおける粒子径の変化は見られず、pH変化に対して安定であった。従って、各pHにおけるリポソームの粒子径はpH6.5で調製した時の粒子径にほぼ一致しており変化していなかった。
4種類の混合脂質20 mgに1 mMのカルセイン水溶液(2 mL, pH6.5)を添加し、6時間水和攪拌を行った。その後エクストルージョン法(最終孔径: 0.22μm)により粒子径約200 nmのカルセイン内包リポソームを調製した。未内包カルセインはゲルろ過(Sephadex G-75)にて除去した。
調製した4種類のカルセイン内包リポソーム([lipid]=1 mg/mL, 30μL)を570μLの20 mM Tris-buffer(pH 7.0, 7.5, 8.0, 8.5, 9.0)に添加し、37oCで1時間静置した。その混合液100μLを1.9 mLの20 mM Tris-buffer(pH6.5)にて希釈し蛍光測定(λex: 490 nm, λem: 520 nm)を行った。カルセインの放出率は以下の式にて算出した。その結果を図3に示す。
一方、DPPC/Lys-Glu2C16/PA/chol/PEG-Glu2C18又はDPPC/Lys-Glu2C16/CHEMS/PEG-Glu2C18からなるリポソームでは、pH6.5でのカルセイン放出率は10%未満であるのに対し、pH上昇に伴いカルセインの放出が促進した。カルセインの放出率は、DPPC/Lys-Glu2C16/PA/chol/PEG-Glu2C18では、pH7.0で約10%、pH8.0で約35%、pH9.0で60%であった。またDPPC/Lys-Glu2C16/CHEMS/PEG-Glu2C18のリポソームでは、pH7.0で20%、pH8.0で約40%、pH9.0で60%であった。pH変化による粒子径の変化がないことから、カルセインの放出はリポソームのゼータ電位変化に伴って膜透過性が増し、カルセインが放出しやすくなったと考察される。またDPPC/cholesterol/PEG-Glu2C18からなるリポソームではカルセイン放出が起きないことから、内包カルセインの放出にはゼータ電位がプラスからマイナスに変化して二分子膜を構成する脂質分子の充填状態が変化する挙動が必要であることが明らかとなった。
次に、pH6.5、pH7.5、pH8.0におけるカルセインの放出速度に関する評価を行った。調製したそれぞれのカルセイン内包リポソーム([lipid]=1 mg/mL, 30μL)を570μLの20 mM Tris-buffer(pH 6.5, 7.5, 8.5)に添加し、37℃で混合した。各pHにおける所定時間経過後の放出率は、次式により算出した。その結果を図4に示す。
一方、DPPC/Lys-Glu2C16/PA/chol/PEG-Glu2C18では、48時間後にpH6.5で約40%、pH7.5で約65%、さらにはpH8.5で80%の放出率であったことから、DPPC/Lys-Glu2C16/CHEMS/PEG-Glu2C18のリポソームと比較して、各pHにおいて放出速度が高いことが示された。これはパルミチン酸(PA)が1本鎖の脂質であることから、二分子膜の分子充填状態が悪く膜透過性が高いためと考えられる。
各混合脂質20 mgを20 mM クエン酸(pH2.2)に水和し、その後分散液をエクストルージョン法(最終孔径: 0.22μm)にて粒子径200-300 nmのリポソームを調製した。また必要に応じてこのリポソーム分散液([lipid]=55 mg/mL, 10μL)又はクエン酸(20 mM, 10μL)を4 mLの300μM水酸化ナトリウム水溶液(pH10.5)に添加した直後からのpH変化挙動をpHメーターにて測定した。その結果を図5に示す。
次に、DPPC/Lys-Glu2C16/PA/chol/PEG-Glu2C18からなるリポソームを添加すると、6時間後にpH7.5まで低下した。これはこのリポソームが外水相の弱塩基性環境に応答してクエン酸を放出するためにDPPC/cholesterol/PEG-Glu2C18やPhytopresomeよりも素早くpHが低下したものと考えられる。これらの結果から、pH変化に伴う内包クエン酸のリポソームからの放出挙動が示された。またDPPC/Lys-Glu2C16/PA/chol/PEG-Glu2C18リポソームが弱塩基性環境下で内包するクエン酸を放出しやすいことが示唆された。
弱塩基性環境下でのリポソームからのクエン酸の放出挙動を検討した。まず、リポソーム分散クエン酸水散液([lipid]=250μM, 4 mL)又はクエン酸水溶液(30 mM, pH2.2、4 mL)に2M 水酸化ナトリウム水溶液170μLを加え、混合液のpHを6.5に調製した。その後、300 mMの水酸化ナトリウム水溶液60μLを添加し、混合液のpHを7.5-8.5に変化させた。その後のpH変化挙動をpHメーターにて経時的に測定した。その結果を図6に示す。
他方、pH応答性リポソームDPPC/Lys-Glu2C16/PA/chol/PEG-Glu2C18では、pHが8.0となると混合液のpHが低下した。pH変化に伴い内包されていたクエン酸がリポソーム内水相から放出し、分散液のpHが制御されたものと考えられる。
Claims (5)
- カチオン性両親媒性分子と、アニオン性両親媒性分子及び両イオン性両親媒性分子の少なくとも1種と、を含むリポソームであって、
前記カチオン性両親媒性分子が、次式で示される化合物から選択される少なくとも1種であり、
[式中、nは、それぞれ独立して、8〜22の整数であり、m又はkは、それぞれ独立して、1〜14の整数である。]
前記アニオン性両親媒性分子又は両イオン性両親媒性分子が、次式で示される化合物から選択される少なくとも1種であり、
[式中、nは、それぞれ独立して、8〜22の整数である。]
前記リポソームが、ポリエチレングリコール結合両親媒性分子をリポソームの構成脂質の合計モル数に対して0.1〜50モル%含むものであり、
前記リポソームを水性媒体中に分散させたとき、前記分散液のpHが6.5未満の酸性環境下でプラスのゼータ電位を有し、前記分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下でマイナスのゼータ電位を有し、前記分散液のpHが6.5未満の酸性環境下で水溶性の目的物質を保持し、前記分散液のpHが8.5以上の塩基性環境下で水溶性の目的物質を放出するものである、pH応答性リポソーム。 - 前記カチオン性両親媒性分子を、リポソームの構成脂質の合計モル数に対して5〜95モル%含み、前記アニオン性両親媒性分子及び両イオン性両親媒性分子を、リポソームの構成脂質の合計モル数に対して合計で5〜95モル%含むものである、請求項1記載のpH応答性リポソーム。
- 前記分散液のpHが7.0以上8.0未満の範囲で、前記pH応答性リポソームのゼータ電位がpHの増加とともにプラスからマイナスに変化するものである、請求項1又は2に記載のpH応答性リポソーム。
- 前記ゼータ電位がプラスからマイナスに変化すると、保持していた水溶性の目的物質を放出するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
- コレステロール分子をリポソームの構成脂質の合計モル数に対して0.01〜30モル%含むものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
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