以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は第1実施形態で用いる作動角可変機構1の構成図である。
作動角可変機構1は、各気筒に排気バルブを2本備える排気2弁式の内燃機関に取り付けられ、一方の排気バルブを揺動カム8で、他方の排気バルブを固定カム9で開閉駆動するものである。
揺動カム8のバルブ駆動原理は、例えば特開2003−201868号公報等に開示されている作動角可変機構と同様なので、概要のみを説明する。
駆動軸2及び制御軸5は、それぞれ内燃機関の気筒列と略平行に配置されている。駆動軸2は、タイミングチェーン等を介して内燃機関のクランクシャフトに同期して回転する。
駆動軸2の外周には偏心カム3が圧入等により固定され、偏心カム3の外周には第1リンク4が偏心カム3に対して相対回転可能に外嵌されている。
また、駆動軸2の一方の端部付近にはギヤ13が圧入等により固定され、このギヤ13はアクチュエータ14のピニオンギヤ15と噛み合っている。すなわち、アクチュエータ14を駆動することで制御軸5を回転させることができる。このアクチュエータ14の制御は、エンジンコントロールユニット(ECU)16が、クランク角センサ17で検出するエンジン回転速度、エアフローメータ18で検出する機関負荷等に基づいて行う。制御の詳細については後述する。
制御軸5は、外周部が偏心カム状に形成された偏心カム部5aを備えており、そこにロッカーアーム6が相対回転可能に外嵌されている。
第1リンク4の一端は連結ピン等を介してロッカーアーム6の一端と相対回転可能に連結されている。ロッカーアーム6の他端には第2リンク7の一端が連結ピン10を介して相対回転可能に連結されている。第2リンク7の他端は、連結ピン11を介して揺動カム8に相対回転可能に連結されている。揺動カム8は駆動軸2の外周に相対回転可能に外嵌されている。
固定カム9は駆動軸2の外周に圧入等により固定されている。
なお、連結ピン10は、ロックボルト12と、連結ピン10を挟んでロックボルト12に対向する位置に配置されるアジャスタスクリュー(図示せず)とによって、ロッカーアーム6のピン孔内での位置決めがなされる。連結ピン10の位置が変化すると第2リンク7の位置も変化し、これに伴って揺動カム8の姿勢が変化する。そこで、作動角可変機構1を内燃機関に取り付ける際の適合では、アジャスタスクリュー等によって揺動カム8の姿勢を調整する。
上記のような構成により、駆動軸2が回転すると、偏心カム3を介して第1リンク4が並進移動し、これに応じてロッカーアーム6が制御軸5の偏心カム部分の軸心回りに揺動し、かつ第2リンク7を介して揺動カム8が駆動軸2回りに揺動する。これにより、揺動カム8は、バルブリフタ等を介して一方の排気バルブを内燃機関の回転に連動して開閉する。
そして、アクチュエータ14によって制御軸5を回転制御することで、ロッカーアーム6の揺動中心となる偏心カム部5aの軸心位置を変化させ、排気バルブのリフト特性を連続的に変化させることができる。例えば、偏心カム部5aの軸心と駆動軸2の軸心との距離が近づくと作動角が大きくなり、これに伴いリフト量も増大する。作動角及びリフト量が変化する際には、作動角の中心位置(中心角)は動かず、中心角から開弁及び閉弁のタイミングまでの大きさが変化する。揺動カム8の作動角の可変量やバルブタイミング等については後述する。
また、駆動軸2が回転すると、駆動軸2に固定された固定カム9も回転し、一般的な内燃機関と同様に固定カム9が他方の排気バルブを開閉する。すなわち、固定カム9には可変機構はなく、作動角等は固定されている。
以上説明したように、作動角可変機構1は、排気2弁式内燃機関の一方の排気バルブについてのみ、バルブリフト量及び作動角を可変制御するものである。2本ある排気バルブのうち一方のみを可変制御する構成なので、2本の排気バルブを可変制御する構成に比べて、ロッカーアーム6や第2リンク等に作用するバルブ反力等が半減する。このため、ロッカーアーム6等に要求される強度は低くなり、またアクチュエータ14に要求される出力は低くなるので、結果として部品の小型化、軽量化を図ることができる。
また、作動角可変機構1では、各部品の製造公差等のバラツキがバルブ開閉タイミングに与える影響が、特に小作動角時において固定カム9に比べて大きくなる。
これは、固定カム9と作動角可変機構1に駆動される揺動カム8が仮に同作動角だとしても、小作動角から大作動角まで調整可能な作動角可変機構1で作動角を小さくする場合は、固定カム9に比べてバルブ開閉タイミングのバラツキが大きくなるからである。つまり、リフト量の変化がリフト開始初期には急峻で、その後徐々に緩やかになるようにカム山が設定された揺動カム8を備える作動角可変機構1を小作動角に調整すると、カム山の、リフト量が急峻に変化する部分が主に使われるからである。
このため、作動角可変機構1には、上記バラツキによるバルブ開閉タイミングのずれを調整するための機構を設け、内燃機関組立時にバルブ開閉タイミングを調整する作業が必要になる。
しかし、本実施形態の構成では、小作動角時のバルブ開閉タイミングは固定カム9のカムプロフィールに支配されるため、2本の排気バルブを可変制御する構成に比べて、バラツキの影響は小さくなり、調整作業も容易になる。
なお、図1の作動角可変機構1はあくまでも一例として示したものであり、一方の排気バルブについてのみ作動角を可変制御できるものであれば、他の機構であってもよい。
次に、作動角可変機構1によるバルブリフト量及び作動角(リフト特性)について図2を参照して説明する。
図2は、本実施形態のリフト特性を示す図である。図中の実線Iは吸気バルブのリフト特性を示し、実線Efは固定カム9で駆動する排気バルブのリフト特性を示し、実線E11〜E13はそれぞれ揺動カム8で駆動する排気バルブの最小作動角、中間作動角、最大作動角におけるリフト特性を示している。また、図中の鎖線Cvは揺動カム8の中心角、鎖線Cfは固定カム9の中心角を示している。
固定カム9の作動角は、他の気筒との排気干渉が生じない大きさに設定する。具体的には、本実施形態を適用する内燃機関毎に、排気通路内の圧力波形に基づいて設定する。例えば、直列4気筒で排気行程がクランク角180度間隔で行われる場合には、作動角が200〜220度より小さい範囲であれば排気干渉を回避できる。
揺動カム8の作動角は、固定カム9の作動角よりも小さい最小作動角(リフト特性E11)と、固定カム9の作動角より大きい最大作動角(リフト特性E13)と、これらの中間の大きさの中間作動角(リフト特性E12)と、を切り替え可能である。
また、揺動カム8の中心角は固定カム9の中心角よりも進角側に設定し、揺動カム8が最小作動角時におけるリフト特性E11の開弁タイミングと、固定カム9のリフト特性Iの開弁タイミングをほぼ一致させる。
そしてリフト特性E11〜E13の排気バルブ開タイミングは、それぞれ、機関回転速度が低速回転、中速回転、高速回転の場合に適した膨張比となるタイミングに設定する。
気筒全体としてみると、リフト特性E11〜E13のいずれの場合でも、最後に閉じるのは固定カム9側の排気バルブである。つまり、当該気筒の排気バルブの閉タイミングは固定カム9側の排気バルブの閉タイミングである。一方、固定カム9側の排気バルブの開タイミングは、排気バルブの開タイミングが最も遅いリフト特性E11とほぼ同じなので、当該気筒の排気バルブの開タイミングは、揺動カム8側の排気バルブのリフト特性により決まる。
したがって、リフト特性E11〜E13を切り替えると、当該気筒の排気バルブの閉タイミングを変化させずに、開タイミングのみを変化させることになる。すなわち、クランクシャフトと駆動軸2の位相を変化させる位相可変機構を用いることなく、図1に示した作動角可変機構のみで、位相可変機構と同様に排気バルブの開タイミングを変化させることができる。
また、2本の排気バルブを同時に駆動する位相可変機構を用いる場合に比べると、オーバーラップ期間を長くした場合のポンプロスを小さくすることができる。すなわち、位相可変機構を用いる場合は、オーバーラップ期間を長くするために排気バルブ閉タイミングを遅らせると、開タイミングも遅れる。このため、オーバーラップ期間の長さによっては排気バルブ開タイミングが下死点後となり、排気を圧縮する仕事が発生してしまう。これに対して本実施形態の構成では、一方の排気バルブの閉タイミングを下死点後まで遅くしても、固定カム9側の排気バルブは下死点前に開弁するので、排気を圧縮する仕事は位相可変機構の場合に比べて小さい。
なお、作動角可変機構1の特性上、揺動カム8の作動角を小さくすればリフト量も小さくなり、作動角を大きくすればリフト量も大きくなる。
ここで、上述した各リフト特性について説明する。
揺動カム8の作動角が最小のリフト特性E11では、揺動カム8側及び固定カム9側の排気バルブがほぼ同時に開弁する。そして、先に揺動カム8側の排気バルブが閉弁し、固定カム9側の排気バルブのみが開弁している状態(片弁期間II)となる。その後、吸気バルブが開弁してオーバーラップ期間となり、固定カム9側の排気バルブが閉弁する。
上記のようなリフト特性E11では、両排気バルブの開タイミングがほぼ同時なので、固定カム9側の排気バルブよりも揺動カム8側の排気バルブが早く開弁するリフト特性12及びリフト特性13と比較して、燃焼ガスが筒内に滞在する時間が長くなる。したがって、筒内温度上昇及び筒内酸化が促進される。
また、片弁期間IIでは排気が固定カム9側の排気バルブからのみ排出されることで、両排気バルブから排出される場合と比較して排気ポート内の乱流強度が増すので、ポート内での酸化が促進される。
さらに、オーバーラップ期間には、吸気通路と排気通路の圧力差等に応じて、排気ポートから筒内へ排気が還流する内部EGRや、筒内に吸気が流入する勢いで排気が排気ポートへ押し出される掃気効果が得られる。
ここで、オーバーラップ期間中は片弁期間IIであり、内部EGRの場合には片方の排気ポートからのみ排気が導入されるので、両方の排気ポートから導入される場合と比較してEGRガスの乱流強度が増す。このためEGRガスは十分に攪拌された状態となり、EGR導入時の燃焼安定度を向上させることができる。また、掃気される場合は、一方の排気ポートからのみ排出されることによってポート内での酸化が促進される。
その他として、他気筒の排気干渉を低減することができる。すなわち、例えば直列4気筒内燃機関のようにクランク角180度間隔で爆発する内燃機関では、排気作動角を広くとると低速時に他気筒の排気干渉を受けるおそれがある。しかし固定カム9の作動角を、排気干渉を受けない大きさに設定すれば、リフト特性E11の揺動カム8の作動角は固定カム9の作動角より小さいので、排気干渉を回避できる。その結果、筒内の残留ガスが低減されて全開域での体積効率が向上し、全開性能が向上する。
なお、排気ポート内での酸化が促進されれば、未燃成分が燃焼して排気の熱エネルギが増大するので、ターボ過給機付きの内燃機関の場合には、ターボ過給機の応答遅れを解消できる。
揺動カム8の作動角が最大のリフト特性E13では、揺動カム8側の排気バルブが先に開弁し、揺動カム8側の排気バルブのみが開弁している状態(片弁期間I)となる。そして、固定カム9側の排気バルブが開弁した後は2つの排気バルブが開弁した状態となり、さらに吸気バルブが開弁してバルブオーバーラップ期間となった後、揺動カム8側及び固定カム9側の排気バルブがほぼ同時に閉弁する。
上記のようなリフト特性E13では、片弁期間Iにおいてリフト特性E11の片弁期間IIと同様にポート内酸化が促進される。また、作動角可変機構1の特性上、作動角を大きくするとバルブリフト量も大きくなるので、排気バルブが開いたときの排気の流路(排気間口)がリフト特性E11、E12に比べて広くなる。このため、排気ポートの通路抵抗が低下して排気損失が低減する。
さらに、排気バルブの閉タイミングはそのままに開タイミングのみを進角させることができるので、筒内残留ガスの増加を招くことなく、機関運転状態に適した膨張比となる排気バルブ開タイミングを設定することができる。機関運転状態に適した膨張比にすれば、排気損失を低減し、熱効率を向上させて全開性能の向上を図ることができる。
揺動カム8の作動角が最小と最大の中間のリフト特性E12にすると、揺動カム8側の排気バルブが先に開弁し、揺動カム8側の排気バルブのみが開弁している状態(片弁期間I)となる。なお、ここでの片弁期間Iは、作動角が最大であるリフト特性E3の片弁期間Iより短い。
そして、固定カム9側の排気バルブが開弁した後は、2つの排気バルブが開弁した状態となる。揺動カム8側の排気バルブは吸気バルブが開弁する前に閉弁し、その後は固定カム9側の排気バルブのみが開弁した状態(片弁期間II)でオーバーラップ期間となり、固定カム9側の排気バルブも閉弁する。なお、ここでの片弁期間IIは、作動角が最小であるリフト特性E11の片弁期間IIより短い。
上記のようなリフト特性E12では、片弁期間Iにおいてポート内の乱流強化によってポート内酸化が促進される。また、片弁期間II中のオーバーラップ期間において、内部EGRの攪拌効果が得られる。さらに、リフト特性E13と同様に機関運転状態に応じた排気バルブ開タイミングを設定して全開性能の向上を図ることができる。
次に、ECU16によるリフト特性E11〜E13の切り替え制御について図3を参照して説明する。図3は、ECU16が作動角可変機構の制御に用いる内燃機関の運転領域マップであり、縦軸は機関負荷、横軸はエンジン回転速度である。図中の実線は全負荷状態を示している。
領域Iは、始動時及びアイドル運転中(冷機時及び暖機時)の領域、領域IIは低回転低負荷で走行中の領域、領域IIIは低回転中負荷で走行中の領域、領域IVは低回転高負荷領域、領域Vは中回転高負荷領域、領域VIは高回転高負荷領域を示している。
ECU16は、クランク角センサ17及びエアフローメータ18からの信号及びイグニッションスイッチ(図示せず)からの信号に基づいて、現在の運転領域がいずれの領域に該当するかを判断し、領域ごとにリフト特性を切り替える。
ECU16は、領域Iであると判断した場合にはリフト特性E11に設定する。領域Iはアイドル運転中であればHC排出量の低減が主な課題となる。さらに、始動時や冷機時のアイドル運転の場合には、燃料噴射量は増量されており、かつ筒内壁面の温度が低いので、筒内温度の昇温も課題となる。
そこで、筒内酸化の促進、筒内温度上昇のためにリフト特性E11に設定する。すなわち、筒内温度を速やかに暖機終了温度まで上昇させることで始動時燃料噴射量増量を終了させること、筒内酸化の促進、及び片弁期間IIにおける排気ポート内の乱流強度増大による排気ポート内酸化の促進によってHC排出量の低減を図る。
ECU16は、領域IIと判断した場合にもリフト特性E11に設定する。領域IIは低回転低負荷領域なので、主に燃費性能の向上が課題となる。
そこで、内部EGRの攪拌を促進するためにリフト特性E11にする。すなわち、オーバーラップ期間が片弁期間IIと重なるようにし、内部EGRの攪拌を促進して燃焼安定度の改善を図る。領域IIは燃焼が不安定になりがちなのでEGR量を増やすことが難しい領域であるが、上記のように燃焼安定性を改善すれば、より多くの内部EGRを導入することができ、その結果ポンプロスが低減し、比熱比が向上するので、燃費性能が向上するからである。
ECU16は、領域IIIであると判断した場合にはリフト特性E12に設定する。領域IIIは低回転中負荷領域であり、領域IIと同様に主に燃費性能の向上が課題となる。ただし、領域IIに比べて負荷が大きい分だけ吸気量が多くなるので、排出する燃焼ガス量も多くなる。なお、吸気量が多くなると燃焼速度が速くなるので、領域IIに比べれば燃焼安定性が高く、多くのEGRガスを導入できる。
そこで、片弁期間IIによる内部EGRの攪拌促進と、リフト特性E11よりも大きな作動角及びリフト量でより多くの燃焼ガスを排出するために、リフト特性E12に設定する。
ECU16は、領域IVであると判断した場合にはリフト特性E11に設定する。領域IVは、例えば加速の過渡状態のような低回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、膨張比の適正化及びオーバーラップ期間の掃気効果を得るためにリフト特性E11に設定する。すなわち、排気バルブの開タイミングを遅くして低回転領域に適した膨張比とすることで、筒内の残留ガス量及び排気損失を低減し、さらにオーバーラップ期間中の掃気効果も活用することで、熱効率を向上させて全開性能を向上させる。
また、気筒全体として見た場合の排気バルブ閉タイミングは固定カム9側の排気バルブの閉タイミングなので、他気筒との排気干渉を回避でき、さらに片弁期間II中のEGRガスの攪拌効果により燃焼安定性が改善するので、加速の過渡状態において加速性能を向上できる。
ECU16は、領域Vであると判断した場合にはリフト特性E12に設定する。領域Vは中回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、膨張比の適正化のためにリフト特性E12に設定する。すなわち、中速回転時に適した膨張比となるような排気バルブ開タイミングにすることで、筒内の残留ガス及び排気損失を低減して熱効率を向上させ、全開性能の向上を図る。
ECU16は、領域VIであると判断した場合にはリフト特性E13に設定する。領域VIは高回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、膨張比の適正化及び排気間口拡大のためにリフト特性E13に設定する。すなわち、高速回転時に適した膨張比となるような排気バルブ開タイミングにすることで、筒内の残留ガス及び排気損失を低減して熱効率を向上させ、さらにバルブリフト量を大きくして排気間口を拡大することで、全開性能の向上を図る。
なお、上述した領域以外の領域については、本実施形態を適用する車両に対して、その領域でどのような性能を重視するのか、例えば燃費性能、出力性能または排気性能のいずれを重視するのかに応じてリフト特性E11〜E13のいずれを選択するかを設定する。
以上により本実施形態では、次のような効果が得られる。
(1)排気2弁式内燃機関において、一方の排気バルブは排気干渉を回避し得るリフト特性の固定カム9により駆動し、他方の排気バルブは固定カム9の作動角より小さい小作動角から固定カム9の作動角より大きい大作動角の間で作動角を変化させ得る作動角可変機構1を備える揺動カム8により駆動する。そして、最小作動角時には揺動カム8の開閉タイミングはいずれも固定カム9の開タイミングから閉タイミングの間にある。これにより、最小作動角時には、固定カム9側の排気バルブが開弁し揺動カム8側の排気バルブが閉弁している期間が生じ、この期間中は排気ポート内の排気の乱流強度が強まる。その結果、排気ポート内酸化の促進または内部EGRの攪拌促進といった効果が得られる。また、揺動カム8が最小作動角の場合には、排気干渉を回避することができる。
(2)揺動カム8の中心角位置が固定カム9の中心角位置よりも進角側にあるので、揺動カム8側の排気バルブが閉じた後、固定カム9側の排気バルブのみが開いている片弁期間IIが生じ、排気ポート内での酸化が促進される。
(3)作動角可変機構1は、低回転高負荷領域の場合には、揺動カム8の作動角が固定カム9の作動角以下になるように、高回転高負荷領域の場合には揺動カム8の作動角を固定カム9の作動角よりも大きくなるようにリフト特性を変化させる。これにより、加速の過渡状態(低回転高負荷領域)において、気筒全体としてみたときの排気バルブ閉タイミングは固定カム9の閉タイミングなので、排気干渉を抑制できる。また、片弁期間II中の内部EGRの攪拌が促進されることで燃焼安定性が向上する。これら排気干渉の抑制及び燃焼安定性の向上により、加速性能の向上を図ることができる。さらに、最大作動角時の開タイミングを高回転高負荷領域に適した膨張比に設定すれば、当該領域では筒内残留ガスの低減、排気損失の低減等により全開性能が向上する。したがって、加速性能と全開性能を両立することができる。
(4)作動角可変機構1は、冷機運転中は固定カム9の開タイミングが揺動カム8の開タイミングより早く、高回転高負荷領域では揺動カム8の開タイミングが固定カム9の開タイミングより早くなるようにリフト特性を変化させる。そして、揺動カム8の中心角位置が固定カム9の中心角位置よりも進角側にある。これにより、冷機運転中には排気バルブ開タイミングが相対的に遅くなるので燃焼ガスの筒内酸化が促進され、これにより筒内温度の上昇が促進され、またHC排出量が低減する。一方、高回転高負荷領域では上記(3)と同様に全開性能が向上する。
なお、上記説明では、機関回転速度及び負荷をそれぞれ3つの領域に分け、領域に応じて3種類のリフト特性を切り替える構成であったが、領域をより細かく分けて、これに応じた3種類以上のリフト特性を切り替えるように、または連続的に変化させるようにしてもよい。
また、上述したように、本実施形態では位相可変機構を備えなくても排気バルブの開閉タイミングを変化させることができ、位相可変機構を備える場合と同様の効果が得られる。しかし、位相可変機構を設けて、排気バルブの開閉タイミングをより幅広く変化させるようにしてもよい。
第2実施形態について説明する。
本実施形態では、作動角可変機構1の構成は基本的に第1実施形態と同様の構成であるが、揺動カム8側と固定カム9側の排気バルブのリフト特性が異なる。
図4は本実施形態のリフト特性を示す図である。図中の実線Iは吸気バルブのリフト特性を示し、実線Efは固定カム9で駆動する排気バルブのリフト特性を示し、実線E21〜E23はそれぞれ揺動カム8で駆動する排気バルブの最小作動角、中間作動角、最大作動角におけるリフト特性を示している。また、図中の鎖線Cvは揺動カム8の中心角、鎖線Cfは固定カム9の中心角を示している。
固定カム9の作動角は、オーバーラップ期間がないように、かつ、他の気筒との排気干渉が生じない大きさに設定する。
揺動カム8の作動角は、固定カム9の作動角よりも小さい最小作動角(リフト特性E21)と、固定カム9の作動角より大きい最大作動角(リフト特性E23)と、これらの中間の大きさの中間作動角(リフト特性E22)と、を切り替え可能である。
揺動カム8の中心角は固定カム9の中心角よりも遅角側に設定し、揺動カム8が最小作動角時におけるリフト特性E21の閉弁タイミングと、固定カム9のリフト特性Iの閉弁タイミングをほぼ一致させる。
リフト特性E22、E23は、オーバーラップ期間を設けるように排気バルブの閉タイミングを設定する。
気筒全体としてみると、リフト特性E21〜E23のいずれの場合でも、最初に開くのは固定カム9側の排気バルブである。つまり、当該気筒の排気バルブの開タイミングは固定カム9側の排気バルブの開タイミングである。一方、固定カム9側の排気バルブの閉タイミングは、排気バルブの閉タイミングが最も早いリフト特性E21とほぼ同じなので、当該気筒の排気バルブの閉タイミングは、揺動カム8側の排気バルブのリフト特性により決まる。
したがって、リフト特性E21〜E23を切り替えると、位相可変機構を用いることなく、当該気筒の排気バルブの開タイミングを変化させずに閉タイミングのみを変化させることになる。
次に、上述した各リフト特性について説明する。
揺動カム8の作動角が最小のリフト特性E21では、固定カム9側の排気バルブが先に開き、揺動カム8側の排気バルブが開くまでは片弁期間IIIとなる。その後両排気バルブが開いた状態となり、両排気バルブがほぼ同時に閉じる。このようなリフト特性E21では、片弁期間III中に排気ポート内の乱流強度が増すので、排気ポート内での酸化が促進される。
揺動カム8の作動角が最大のリフト特性E23では、固定カム9側の排気バルブと揺動カム8側の排気バルブがほぼ同時に開く。そして、固定カム9側の排気バルブが先に閉じて片弁期間IVとなり、片弁期間IVの途中で吸気バルブが開きオーバーラップ期間となる。このようなリフト特性E23では、内部EGR導入時には片弁期間IVになっており、導入ガスの攪拌が促進される。なお、揺動カム8側の排気バルブの閉タイミングを、片弁期間IV中に他気筒との排気干渉を受けるようなタイミングに設定することで、内部EGR量の増大を図ることができる。
一方、オーバーラップ期間中に掃気される場合は、一方の排気ポートからのみ排出されることによってポート内での酸化が促進される。
また、作動角を大きくするとバルブリフト量も大きくなるので、排気間口が大きくなって排気の通路抵抗が低減する。
揺動カム8の作動角が最大と最小の中間であるリフト特性E22では、固定カム9側の排気バルブが先に開いて片弁期間IIIとなる。その後、両排気バルブが開いた状態を経て固定カム9側の排気バルブが先に閉じて片弁期間IVとなる。そして、オーバーラップ期間となってから揺動カム8側の排気バルブが閉じる。このようなリフト特性E22では、内部EGR導入時には片弁期間IVになっており、導入ガスの攪拌が促進される。また、リフト特性E23と同様に排気干渉による内部EGR量増大効果も得られる。
次に、ECU16によるリフト特性E21〜E23の切り替え制御について図3を参照して説明する。領域I〜領域VIは第1実施形態と同様である。
ECU16は、領域Iであると判断した場合には、リフト特性E21に設定する。領域Iは始動時またはアイドル運転中の領域なので、HC排出量の低減や筒内温度の昇温が主な課題となる。そこで、片弁期間III中の排気ポート内の乱流強度増大による酸化促進を図るためにリフト特性E21に設定する。
ECU16は、領域IIであると判断した場合には、リフト特性E22に設定する。領域IIは低回転低負荷領域であって、燃費性能の向上が主な課題となる。
そこで、内部EGR量の増加及び攪拌のためにリフト特性E22に設定する。すなわち、揺動カム8側の排気バルブの閉タイミングを遅らせることで排気干渉を起こさせて内部EGR量を増加させ、片弁期間IVにおける内部EGRの攪拌作用によって燃焼安定性を向上させる。これによりポンプロス低減及び比熱比向上による燃費性能向上を図る。
なお、リフト特性E23としてもよい。バルブオーバーラップ期間の長さ、つまり内部EGRの導入量に相違があるが、基本的に得られる効果は同様だからである。
ECU16は、領域IIIであると判断した場合には、リフト特性E23に設定する。領域IIIは低回転中負荷領域なので、燃費性能の向上が主な課題となる。
そこで、領域IIの場合と同様に、内部EGR量を増加させつつ燃焼安定性を確保することで燃費性能を向上させるためにリフト特性E23に設定する。なお、リフト特性E22としてもよい。バルブオーバーラップ期間の長さ、つまり内部EGRの導入量に相違があるが、基本的に得られる効果は同様だからである。
ECU16は、領域IVであると判断した場合には、リフト特性E23に設定する。領域IVは低回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、オーバーラップ期間の掃気効果による筒内残留ガス量の低減を図るため、リフト特性E23に設定する。すなわち、オーバーラップ期間による掃気効果で筒内残留ガスを低減することで、ノッキングが発生し難い条件にし、かつ吸入空気量を増加させて、より高い出力を発生させる。
なお、リフト特性E22としてもよい。バルブオーバーラップ期間の長さ、つまり内部EGRの導入量に相違があるが、基本的に得られる効果は同様だからである。
ECU16が領域Vであると判断した場合には、リフト特性E22に設定する。領域Vは中回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、排気工程時間を確保するためにリフト特性E22に設定する。気筒全体としてみると、排気工程は固定カム9側の排気バルブが開いたときに始まり、揺動カム8側の排気バルブが閉じたときに終了する。したがって、揺動カム8側の排気バルブの閉タイミングが固定カム9側の排気バルブの閉タイミングより遅いリフト特性E22にすることで、排気工程時間をより長くすることができる。これにより、筒内残留ガス量を低減して全開性能の向上が図れる。
なお、リフト特性E22の閉タイミングは、チョーク時間を考慮して設定する必要がある。
ECU16が領域VIであると判断した場合には、リフト特性E23に設定する。領域VIは高回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、排気間口を拡大させるためにリフト特性E23に設定する。すなわち、排気間口を拡大することによって通路抵抗を低下させて排気損失を低減し、全開性能の向上を図る。
その他の領域については、第1実施形態と同様に、適用する車両に要求される性能に応じていずれかのリフト特性を選択する。
以上により本実施形態では、第1実施形態と同様の効果に加えて、さらに次のような効果が得られる。
(4)揺動カム8の中心角位置が固定カム9の中心角位置よりも遅角側にあるので、最小作動角時には固定カム9側の排気バルブのみが開いている片弁期間IIIが生じて排気ポート内の乱流強度が上昇し、これによりポート内酸化が促進されてHC排出量が低減する。また、最大作動角時には揺動カム8側の排気バルブのみが開いている片弁期間IVが生じるので、揺動カム8の閉タイミングを排気干渉が生じるタイミングに設定すれば、排気干渉によって内部EGR量が増加する。さらに、このとき一方の排気ポートから流入するので、EGRガスの攪拌が促進されて燃焼安定性が向上する。したがって、内部EGRによる燃費改善効果が望める。
第3実施形態について説明する。
本実施形態では、作動角可変機構1の構成は基本的に第1実施形態と同様の構成であるが、揺動カム8側と固定カム9側の排気バルブのリフト特性が異なる。
図5は本実施形態のリフト特性を示す図である。図中の実線Iは吸気バルブのリフト特性を示し、実線Efは固定カム9で駆動する排気バルブのリフト特性を示し、実線E31〜E33はそれぞれ揺動カム8で駆動する排気バルブの最小作動角、中間作動角、最大作動角におけるリフト特性を示している。また、図中の鎖線Cvは揺動カム8の中心角、鎖線Cfは固定カム9の中心角を示している。
固定カム9の作動角は、オーバーラップ期間が有るように、かつ、他の気筒との排気干渉が生じない大きさに設定する。
揺動カム8の作動角は、固定カム9の作動角よりも小さい最小作動角(リフト特性E31)と、固定カム9の作動角より大きい最大作動角(リフト特性E33)と、これらの中間の大きさの中間作動角(リフト特性E32)と、を切り替え可能である。
揺動カム8の中心角は固定カム9の中心角と一致するよう設定し、リフト特性E32の開閉タイミングと、固定カム9のリフト特性Iの開閉タイミングを一致させる。
気筒全体としてみると、リフト特性E33の場合には最初に開くのも最後に閉じるのも揺動カム8側の排気バルブである。リフト特性E32の場合には、両排気バルブは同じタイミングで開閉する。リフト特性E31の場合には、最初に開くのも最後に閉じるのも固定カム9側の排気バルブである。すなわち、リフト特性E31〜E33を切り替えることで、位相可変機構を用いることなく、当該気筒の排気バルブ開閉タイミングを変化させることができる。
次に、上述した各リフト特性について説明する。
揺動カム8の作動角が最小のリフト特性E31では、固定カム9側の排気バルブが先に開き、揺動カム8側の排気バルブが開くまでは片弁期間Vとなる。その後両排気バルブが開いた状態となり、揺動カム8側の排気バルブが先に閉じて固定カム9側の排気バルブのみが開いた片弁期間VIとなる。そして吸気バルブが開いてオーバーラップ期間となった後、固定カム9側の排気バルブは閉じる。
このようなリフト特性E31では、片弁期間V、VI中に排気ポート内の乱流強度が増すので、排気ポート内での酸化が促進される。また、オーバーラップ期間が小さいので筒内残留ガス量も少なくなり、例えば冷機始動時等における燃焼安定性を確保できる。さらに、内部EGR導入時には片弁期間VIになっており、導入ガスの攪拌が促進される。
揺動カム8の作動角が最大のリフト特性E33では、揺動カム8側の排気バルブが先に開いて片弁期間Vとなる。その後、両排気バルブが開いた状態となり、固定カム9側の排気バルブが先に閉じて、揺動カム8側の排気バルブのみが開いた片弁期間VIとなる。そして吸気バルブが開いてオーバーラップ期間となった後、揺動カム8側の排気バルブは閉じる。
このようなリフト特性E33では、内部EGR導入時には片弁期間VIとなっており、EGRガスの攪拌が促進される。また、揺動カム8側の排気バルブの開タイミングを機関回転速度に適した膨張比となるタイミングに設定することで、筒内残留ガスを低減し、かつ排気損失を低減することができる。
揺動カム8の作動角が最大と最小の中間であるリフト特性E32では、両排気バルブがほぼ同様のタイミングで開閉する。このようなリフト特性E32では、オーバーラップ期間の長さを掃気効果が高くなるように設定することで、筒内残留ガス量を低減し、かつ吸気の充填効率を高めることができる。また、排気バルブの開タイミングを機関回転速度に適した膨張比となるタイミングに設定することで、筒内残留ガスを低減し、かつ排気損失を低減することができる。
次に、ECU16によるリフト特性E31〜E33の切り替え制御について図3を参照して説明する。領域I〜領域VIは第1実施形態と同様である。
ECU16は、領域Iであると判断した場合には、リフト特性E31に設定する。領域Iは始動時及びアイドル運転中の領域なので、HC排出量の低減が主な課題となる。
そこで、片弁期間VI中の排気ポート内の乱流強度増大を図るために、リフト特性E31に設定する。すなわち、乱流強度を増大させることで外気ポート内での酸化を促進してHC排出量を低減させる。また、リフト特性E31はリフト特性E31〜E33でオーバーラップ期間が最も短いので、筒内残留ガス量が最も少なくなる。このため、始動性が向上する。
ECU16は、領域IIであると判断した場合には、リフト特性E31に設定する。領域IIは低回転低負荷領域低回転低負荷領域であって、燃費性能の向上が主な課題となる。
そこで、内部EGRの攪拌のためにリフト特性E31に設定する。すなわち、片弁期間VI中にEGRガスの攪拌を促進することで、燃焼安定性を向上させてより多くのEGRガスの導入を可能にして、ポンプロスを低減し比熱比を向上させて燃費性能の向上を図る。
なお、ここでは片弁期間VIの長さがリフト特性E31と同じリフト特性E32に設定してもよい。また、リフト特性E33に設定してもよい。同様に内部EGRの攪拌効果が得られるからである。
ECU16は、領域IIIであると判断した場合には、リフト特性E33に設定する。
領域IIIは低回転中負荷領域なので、燃費性能の向上が主な課題となる。
そこで、内部EGR量を増加させつつ燃焼安定性を確保するためにリフト特性E33に設定する。すなわち、揺動カム8側の排気バルブの閉タイミングを遅らせることで排気干渉を起こさせて内部EGR量を増加させ、片弁期間IVにおける内部EGRの攪拌作用によって燃焼安定性を向上させる。これによりポンプロス低減及び比熱比向上による燃費性能向上を図ることができる。
ECU16は、領域IVであると判断した場合には、リフト特性E32に設定する。領域IVは、低回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、オーバーラップ期間の掃気効果による筒内残留ガス量の低減を図るため、リフト特性E32に設定する。すなわち、オーバーラップ期間による掃気効果で筒内残留ガスが低減すれば、ノッキングが発生しにくくなり、かつ吸入空気量も増加するので、より高い出力を発生することができるからである。
ECU16は、領域Vであると判断した場合には、リフト特性E32に設定する。領域Vは中回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、膨張比の適正化のためにリフト特性E32に設定する。すなわち、中速回転時に適した膨張比となる排気バルブ開タイミングにすることで、筒内の残留ガス及び排気損失を低減して熱効率を向上させ、全開性能の向上を図る。
ECU16は、領域VIであると判断した場合には、リフト特性E33に設定する。領域VIは高回転高負荷領域なので、全開性能の向上が主な課題となる。
そこで、膨張比の適正化及び排気間口拡大のためにリフト特性E33に設定する。すなわち、高速回転時に適した膨張比となる排気バルブ開タイミングにすることで、筒内の残留ガス及び排気損失を低減して熱効率を向上させ、さらにバルブリフト量を大きくして排気間口を拡大することで、全開性能の向上を図る。
以上により本実施形態でも第1実施形態と同様の効果が得られる。
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。例えば、上述した説明では、揺動カム8の作動角を最小作動角、中間作動角、及び最大作動角に切り替える制御について説明したが、作動角を連続可変的に制御するようにしてもよい。