JP5573635B2 - ダイヤモンド被覆切削工具 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1に示されるように、第1の層は、粒子径0.1〜10μmの多結晶ダイヤモンド層、第2の層は、粒子径0.05〜8μmの双晶ダイヤモンド層または非晶質ダイヤモンド層からなる積層構造でダイヤモンド皮膜を構成することにより、強度と靭性を高めたダイヤモンド被覆工具が知られている。
また、特許文献2に示されるように、ダイヤモンドの結晶成長の起点となる核を表面に付着させる核付着工程と、該核を起点としてCVD法によりダイヤモンドを結晶成長させる結晶成長工程とを繰り返すことにより、結晶粒径が2μm以下の微結晶ダイヤモンドの多層構造でダイヤモンド皮膜を構成することにより、皮膜の表面平滑性を高め、また、被削材の仕上げ面精度を高めたダイヤモンド被覆工具が知られている。
また、ダイヤモンド被覆工具ではないが、特許文献3に示すように、例えば、TiCN、TiN、(Ti,Al)N、(Al,Cr)N、(Al,Cr)CN等の硬質被膜を蒸着形成した被覆工具において、被膜表面から被膜の中間点までは圧縮応力が連続的に減少し、中間点において極小点を示し、中間点から被膜底面まで圧縮応力が連続的に増加するような圧縮応力分布を、硬質被膜内に形成することにより、靭性、耐チッピング性、耐摩耗性を改善した被覆工具が知られている。
「 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体表面に、5〜30μmの膜厚の結晶性ダイヤモンド膜からなる下部層と0.2〜3μmの膜厚の微結晶ナノダイヤモンド膜からなる上部層が被覆され、刃先稜線部は、上部層が除去されて下部層が露出しているダイヤモンド被覆切削工具において、
上記刃先稜線部に露出している下部層の上記結晶性ダイヤモンド膜について、その膜厚方向の圧縮残留応力分布を、下部層断面方向からラマン分光で測定した場合、上記露出している下部層の表面の残留応力値σsは1.5〜3GPaであって、しかも、刃先稜線部に形成されている下部層の膜厚の1/2の位置における残留応力値をσ1/2とした場合、σs/σ1/2の値は、0.8〜1.0であることを特徴とするダイヤモンド被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
また、微結晶ナノダイヤモンド膜からなる上部層(但し、刃先稜線部については上部層を除去することから、刃先稜線部には、上部層は存在しない)の膜厚については、0.2〜3μmと定めているが、上部層の膜厚が0.2μm未満では、特に、すくい面の表面平滑性を保持することができず、溶着、チッピングが発生しやすくなり、一方、上部層の膜厚が3μmを超えると耐摩耗性が低下することから、上部層の膜厚は、0.2〜3μmと定めた。
即ち、刃先稜線部の下部層を構成する結晶性ダイヤモンド膜について、その膜厚方向の圧縮残留応力分布を、下部層断面方向からラマン分光で測定した場合、上記露出している下部層の表面の残留応力値σsは1.5〜3GPaであって、しかも、刃先稜線部に形成されている下部層の膜厚の1/2の位置における残留応力値をσ1/2とした場合に、σs/σ1/2の値が0.8〜1.0となるような圧縮残留応力分布を形成させる。
ここで、ラマン分光法によるダイヤモンド膜の残留応力測定方法について、簡単に説明する。ラマン分光装置は波数分解能が0.1cm―1程度のものを用いる。標準試料として、天然ダイヤモンドを用い、1333cm―1付近のsp3構造起因のピークについて、天然ダイヤモンドによるラマンバンドのシフト量をΔνとすると、算出される応力は次式で与えられる。
σ(GPa)= 1.08 × Δν (1)
本願では、式(1)により、残留応力を算出した。
露出させた下部層の表面の圧縮残留応力値σsが1.5GPa未満では、耐摩耗性が十分でないために、比較的短時間で使用寿命に至り、一方、圧縮残留応力値σsが3GPaを超える場合には、残留応力が高いために、剥離や破壊などの損傷を生じやすくなる傾向を示すため、下部層の表面の圧縮残留応力値σsを1.5〜3GPaと定めた。
また、下部層の表面の圧縮残留応力値σsが上記範囲内であっても、刃先稜線部に形成されている下部層の膜厚の1/2の位置における残留応力値をσ1/2とした場合に、σs/σ1/2の値が0.8未満の場合には、耐摩耗性向上の効果が得られず、一方、σs/σ1/2の値が1.0を超える場合には、膜と基体の界面付近で剥離する挙動が見られる様になり、結果として工具寿命が短くなってしまうことから、σs/σ1/2の値は0.8〜1.0と定めた。
つまり、σs値およびσs/σ1/2の値が、上記数値範囲内である圧縮残留応力分布が形成されている場合に、刃先稜線部の耐摩耗性が一段と向上し、ダイヤモンド被覆工具の工具寿命の長寿命化が図られる。
(a)まず、所望組成のWC基超硬合金からなる工具基体の表面近傍を酸処理してCoのエッチングを行い、最表面のCoを除去した後、これを、5〜100nmの平均粒径のダイヤモンド粒子を分散させたイソプロピルアルコール(以下、IPA)溶液中に浸漬して超音波を付与し、種ダイヤモンドの付着処理を行う。
(b)次いで、種ダイヤモンドの付着処理を行った工具基体を、熱フィラメントCVD装置に装入し、下部層として、例えば、下記(イ)の条件で、5〜30μmの膜厚の結晶性ダイヤモンド膜を成膜し、また、上部層として、例えば、下記(ロ)の条件で、0.2〜3μmの膜厚の微結晶ナノダイヤモンド膜を成膜する。
(イ)結晶性ダイヤモンド膜の成膜条件
フィラメント温度 2300 ℃、
基板温度 800 ℃、
反応圧力 2 kPa、
反応ガス CH4:1.5 vol%,H2:残、
(ロ)微結晶ナノダイヤモンド膜の成膜条件
フィラメント温度 2200 ℃、
基板温度 700 ℃、
反応圧力 4 kPa、
反応ガス CH4:5 vol%,H2:残、
(c)次いで、刃先稜線部に向けて、ウエットブラスト処理(吐出圧力:1.2MPa、メディア:平均粒径40μmのアルミナ)を施し、刃先稜線部に被覆されていた上部層を除去し、下部層を露出させる。
上記(a)〜(c)の工程により、刃先稜線部の下部層が、本発明で規定する圧縮残留応力分布を有する本発明のダイヤモンド被覆工具を作製することができる。
図1に、本発明のダイヤモンド被覆工具の膜構造の概略模式図を示す。
また、図2には、本発明のダイヤモンド被覆工具の刃先稜線部の下部層に形成される圧縮残留応力分布の一例を示す。
また、ウエットブラスト処理を施すことによって、刃先稜線部の微結晶ナノダイヤモンド膜(上部層)を除去した場合には、下部層を露出時に、下部層表面の圧縮残留応力をさらに高めることができるとともに、すくい面の微結晶ナノダイヤモンド膜(上部層)の表面平滑化をも同時に行うことができるため、切屑排出性、耐溶着性が改善され、より一段と工具寿命の長寿命化を図ることができる。
刃先稜線部に向けて(即ち、すくい面に対してほぼ45度の噴射角度)、平均粒径40μmのアルミナ、吐出圧力1.2MPaでウエットブラスト処理を施し、約1μmの上部層の除去を行った場合には、刃先稜線部の下部層表面には、ほぼ1200MPaの圧縮残留応力が付与され、また同時に、すくい面表面は、表面粗さRa0.05μmにまで平滑化される(ウエットブラスト処理前のすくい面表面粗さRa0.3μm)。
なお、以下ではダイヤモンド被覆ドリルについて説明するが、ドリルに何ら限定されるものではない。
(b)ついで、種ダイヤモンドの付着処理を行った工具基体を、熱フィラメントCVD装置に装入し、表2に示す条件で、まずは、結晶性ダイヤモンド膜(下部層)を所定膜厚になるように成膜し、次いで、同じく表2に示す条件で、微結晶ナノダイヤモンド膜(上部層)を所定膜厚になるように成膜する。
(c)この後、表3に示す条件で、刃先稜線部に向けて、アルミナ懸濁液を所定の圧力でブラストガンから吹き付けてウエットブラスト処理を施し、刃先稜線部から上記成膜した微結晶ナノダイヤモンド膜(上部層)を除去する。
上記(a)〜(c)の工程によって、図1に示される膜構造を有する本発明のダイヤモンド被覆工具1〜10(以下、本発明1〜10という)を作製した。
なお、上記σs、σ1/2は、5点測定による平均値を用いた。
表4に、本発明1〜10について、下部層の膜厚、上部層の膜厚、すくい面の表面粗さRaおよび上記σs、σ1/2、σs/σ1/2の値を示す。
図2には、本発明例1の刃先稜線部の下部層の圧縮残留応力分布グラフを示す。
さらに、上記工具基体8〜10に対して、前記(a)の工程で、Co成分の除去および種ダイヤモンドの付着処理を行った後、前記(b)の工程で、表2に示す条件で、所定膜厚の結晶性ダイヤモンド膜(下部層)と微結晶ナノダイヤモンド膜(上部層)を成膜した参考例のダイヤモンド被覆工具8〜10(以下、参考例8〜10という)を作製した。(つまり、参考例8〜10では、刃先稜線部の上部層の除去を行っていない。)
なお、上記σs、σ1/2は、5点測定による平均値を用いた。
表5に、比較例1〜7、参考例8〜10について、下部層の膜厚、上部層の膜厚、すくい面の表面粗さRaおよび上記σs、σ1/2、σs/σ1/2の値を示す。
図3には、比較例1の刃先稜線部の下部層の圧縮残留応力分布グラフを示す。
《切削条件A》
被削材:厚さ10mmのグラファイト板、
切削速度:200 m/min.、
送り:0.12 mm/rev.、
穴深さ:10 mm(貫通穴)、
エアブロー、
《切削条件B》
被削材:厚さ30mmの高アルミニウム合金AC9Aの板、
切削速度:350 m/min.、
送り:0.24 mm/rev.、
穴深さ:20 mm、
切削油剤使用、
《切削条件C》
被削材:厚さ20mmのCFRP板、
切削速度:135m/min.、
送り:0.07mm/rev.、
穴深さ:20mm(貫通穴)、
エアブロー、
いずれの穴あけ切削加工試験でも、切削不能になるまでの穴あけ加工数を測定した。
これらの測定結果を表6に示す。
これに対して、比較例1〜7、参考例8〜10では、ダイヤモンド皮膜の耐摩耗性が十分でないため、短時間で使用寿命に至ることは明らかである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された工具基体表面に、5〜30μmの膜厚の結晶性ダイヤモンド膜からなる下部層と0.2〜3μmの膜厚の微結晶ナノダイヤモンド膜からなる上部層が被覆され、刃先稜線部は、上部層が除去されて下部層が露出しているダイヤモンド被覆切削工具において、
上記刃先稜線部に露出している下部層の上記結晶性ダイヤモンド膜について、その膜厚方向の圧縮残留応力分布を、下部層断面方向からラマン分光で測定した場合、上記露出している下部層の表面の残留応力値σsは1.5〜3GPaであって、しかも、刃先稜線部に形成されている下部層の膜厚の1/2の位置における残留応力値をσ1/2とした場合、σs/σ1/2の値は、0.8〜1.0であることを特徴とするダイヤモンド被覆切削工具。
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