本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
(構成および機能)
図1は本発明に係る超音波診断装置の実施の形態を示す構成図である。
超音波診断装置1は、超音波プローブ2、基準信号発生部3、送受信部4、データ生成部5、データ記憶部6、血流評価部7、表示部8、ECGユニット9およびPCG (phono cardiogram)ユニット10を備えている。また、データ生成部5は、Bモードデータ生成部11、ドプラ信号検出部12、カラードプラデータ生成部13およびスペクトラムデータ生成部14を備え、血流評価部7は、トレース波形生成部15、PS/ED検出部16およびパラメータ計測部17を備えている。
尚、データ生成部5、データ記憶部6および血流評価部7は、回路により構築する他、全部または一部をコンピュータにデータ処理プログラムを読み込ませて構築することもできる。
超音波プローブ2は複数の圧電振動子を備え、送受信部4から受けた電気信号を超音波パルスに変換して被検体に送信する一方、被検体内部において生じた超音波反射信号を受信して電気信号に変換し、受信データとして送受信部4に与える機能を有する。
基準信号発生部3は、超音波プローブ2から送信する超音波のタイミング等の条件を規定するための基準信号を発生させて送受信部4に与えることにより送受信部4を制御する機能を有する。
送受信部4は、基準信号発生部3から受けた基準信号に従って超音波プローブ2に電気信号を与えることにより超音波プローブ2から超音波を送信させる機能と、超音波プローブ2において受信された受信データを受けてデータ生成部5に与える機能を有する。
Bモードデータ生成部11は、送受信部4から受けた受信データに対して対数変換処理、包絡線検波処理、閾値処理、A/D (analog to digital)変換処理等の各種処理を行ってBモード画像データを生成する機能と、生成したBモード画像データをデータ記憶部6に与える機能を有する。
ドプラ信号検出部12は、送受信部4から受けた受信データに対して直交位相検波を行うことによりドプラ信号を検出する機能と、検出したドプラ信号をカラードプラデータ生成部13およびスペクトラムデータ生成部14に与える機能を有する。
カラードプラデータ生成部13は、ドプラ信号検出部12から受けたドプラ信号からクラッタ成分を除去することにより血流成分を抽出し、血流成分の自己相関値に基づいて血流の平均流速値や分散値といったカラードプラデータを生成する機能と、生成したカラードプラデータをデータ記憶部6に与える機能を有する。また、TDIを行う場合には、カラードプラデータ生成部13は、ドプラ信号から僧帽弁等の組織のクラッタ成分を抽出し、クラッタ成分に基づいて組織の移動速度データ等の組織ドプラデータを生成するように構成される。
スペクトラムデータ生成部14は、ドプラ信号検出部12から受けたドプラ信号に対してFFT分析を行なうことにより血流速度または組織速度の時間変化を示すスペクトラムデータを生成する機能と、生成したスペクトラムデータをデータ記憶部6に与える機能を有する。
トレース波形生成部15は、データ記憶部6から所望の期間におけるスペクトラムシネ画像データを抽出し、閾値等の制御パラメータに従って最大周波数fp(または最大流速Vp)や平均周波数fm(または平均流速Vm)を算出することにより、最大周波数fpや平均周波数fmの所定期間の時間変化を示すドプラスペクトラムエンベロープ波形をオートトレース波形データとして自動的に生成する機能と、生成したトレース波形データをデータ記憶部6に与える機能を有する。また、トレース波形生成部15は、トレース波形データ、ECGユニット9から取得したECG信号またはPCGユニット10から取得したPCG信号に基づいて心拍周期を検出する機能を備えている。このため、トレース波形生成部15において、複数心拍分のトレース波形データを自動的に生成することができる。
PS/ED検出部16は、トレース波形生成部15において生成されたトレース波形データを取得して、統計処理等の公知の処理を行うことによって心臓の収縮期を示すPSと拡張期を示すEDの位置を検出する機能を有する。尚、PSとEDの設定がトレース波形データのみからでは困難な場合には、ECGユニット9あるいはPCGユニット10から取得したECG信号またはPCG信号が利用される。
尚、最大周波数(最大流速)や平均周波数(平均流速)のトレース方法やPS/EDのピーク位置の検出方法は任意であるが、詳細例については、例えば特開2003−284718や米国特許5,628,321号明細書に開示されている。
パラメータ計測部17は、PS/ED検出部16において検出された所望の期間におけるPSとEDの位置情報およびトレース波形生成部15において作成された所望の期間におけるトレース波形データを取得する機能、所望の期間におけるトレース波形データに対して後述するCAB (Cut and Align Beats)処理を行うことによって心拍ごとの複数の波形データを血流診断データとして取得する機能、CAB処理後の複数の波形データの平均化処理および/またはCAB処理後の複数の波形データを用いたモデル化処理を行うことによって代表波形データを得る機能、代表波形データに基づいてLV InflowのE波、A波、DCT、PVのS波、D波、AR波等の診断パラメータの計測を行う機能、得られた血流診断データや診断パラメータ等の血流診断情報を表示部8に表示させる機能を有する。
ECGユニット9は、被検体のECG波形を計測し、得られたECG波形をトレース波形生成部15およびPS/ED検出部16に与える機能を有する。PCGユニット10は、被検体の心音波形(PCG波形)を計測し、得られたPCG波形をトレース波形生成部15およびPS/ED検出部16に与える機能を有する。
この結果、データ記憶部6には、Bモード画像データ、カラードプラデータ、スペクトラムデータ、トレース波形、PSとEDの位置情報およびE波、A波、DCT、S波、D波、AR波等の診断パラメータが記憶される。
表示部8は、データ記憶部6に保存された情報のうち、所望の情報を読み込んで表示する機能を有する。
図2は、図1に示すパラメータ計測部17の詳細機能を示すブロック図である。
パラメータ計測部17は、CAB処理部20、CAB条件設定部21、レンジ設定部22、平均化処理部23、平均化条件設定部24、数学モデル化部25、モデル化条件設定部26、パラメータ算出部27、データリジェクト部28、リジェクトデータ選択部29、リジェクト条件設定部30、表示処理部31、入力装置32を有する。
CAB処理部20は、所望の期間におけるトレース波形データに対してCAB処理を施すことにより心拍ごとの複数の波形データを作成する機能を有する。CAB処理は、トレース波形データを心拍ごとに切出して並べる処理である。このため、CAB処理によって時間軸、処理対象データの大きさ(速度または周波数)を表す軸および心拍軸を有する3次元データが得られる。但し、必要に応じて1心拍の期間を用いて心拍ごとの複数の波形データにおける時間を正規化することもできる。また、CAB処理部20は、CAB処理における波形データの切出しタイミングを決定するために、必要に応じてECGユニット9またはPCGユニット10からECG信号またはPCG信号を取得できるように構成されている。
CAB条件設定部21は、入力装置32からの情報に従ってCAB処理の条件を設定し、設定したCAB条件をCAB処理部20に与える機能を有する。例えば、波形データの切出しタイミングをECG信号、PCG信号およびトレース波形のいずれの同期信号に基づいて決定するのかという切出し条件(CabTrig)、同期信号上の基準位置と波形データの切出しタイミングとの間にオフセット時間を設定するか否か(CabOffset)、心拍ごとの複数の波形データにおける時間を正規化するか否か(CabType)をCAB処理条件として設定することができる。
レンジ設定部22は、CAB処理の入出力データの周波数レンジ(または速度レンジ)および原点位置等の座標系を自動的にまたは手動で設定する機能と、設定したレンジ情報および座標系情報をCAB処理部20に与える機能を有する。自動的に周波数レンジおよび座標系を設定する場合には、データ記憶部6から取得した最大周波数fpや平均周波数fmのトレース波形データのヒストグラムを用いて周波数レンジおよび座標系を最適化することができる。また、手動で周波数レンジおよび座標系を設定する場合には、入力装置32から周波数レンジおよび座標系の設定情報をレンジ設定部22に入力することができる。
平均化処理部23は、CAB処理後の複数の波形データの平均化処理を行うことによって1つの代表波形データを得る機能を有する。尚、平均化処理部23は、データリジェクト部28から通知された波形データを平均化処理の対象から除外するように構成されている。平均化条件設定部24は、入力装置32からの設定情報に従って平均化処理の条件を設定し、設定した平均化処理の条件情報を平均化処理部23に与える機能を有する。
数学モデル化部25は、CAB処理後の複数の波形データと数学モデルを用いたモデル化処理によって1つの代表波形データを得る機能を有する。尚、数学モデル化部25は、データリジェクト部28から通知された波形データをモデル化の対象から除外するように構成されている。モデル化条件設定部26は、入力装置32からの設定情報に従ってモデル化の条件を設定し、設定したモデル化の条件情報を数学モデル化部25に与える機能を有する。
データリジェクト部28は、平均化処理部23における平均化処理および/または数学モデル化部25におけるモデル化から除外すべき波形データを自動的にまたは手動で決定し、決定した波形データの情報を平均化処理部23および/または数学モデル化部25に通知する機能を有する。リジェクトすべき波形データの決定は、CAB処理後の波形データのPS位置、心拍期間、平均化処理またはモデル化によって作成された代表波形データからの乖離量等の特徴を示す量に基づいて行うことができる。このため、データリジェクト部28は、CAB処理部20から取得した波形データの特徴量または平均化処理部23や数学モデル化部25から取得した代表波形データからの波形データの乖離量が一定値を超えるか否かのエラー検出処理を行って、表示処理部31を通じてエラー検出の結果を表示部8に表示させることができるように構成される。
リジェクトデータ選択部29は、入力装置32からの情報に従って平均化処理および/またはモデル化から除外すべき波形データを選択する機能と、波形データの選択情報をデータリジェクト部28に通知する機能を有する。リジェクト条件設定部30は、入力装置32からの情報に従って平均化処理および/またはモデル化から除外すべき波形データを自動的に決定するための閾値等のリジェクト条件を設定する機能と、設定した波形データのリジェクト条件をデータリジェクト部28に通知する機能を有する。
パラメータ算出部27は、平均化処理部23および/または数学モデル化部25から取得した代表波形データに基づいてLV InflowのE波、A波、DCT、PVのS波、D波、AR波等の診断パラメータの計測を行う機能を有する。
表示処理部31は、パラメータ計測部17の各構成要素において生成された所望のデータを表示部8に出力させる機能と、GUI (Graphical User Interface)技術により表示部8に表示された画像を通じた入力装置32の操作によって各種指示情報をパラメータ計測部17に入力できるように電子キーを表示部8に表示させるための表示処理、特定のデータを選択できるようにデータを表示部8にサムネイル表示させるための表示処理、特定のデータを識別表示または抽出表示させる表示処理等の各種表示処理を行う機能を有する。
入力装置32は、GUI技術により必要な情報をパラメータ計測部17に入力するためのマウス、ハードキー、ソフトキー等の装置である。
(動作および作用)
次に超音波診断装置1の動作および作用について説明する。
図3は、図1に示す超音波診断装置1によりドプラスペクトラムデータを収集し、収集したドプラスペクトラムデータに基づいて診断パラメータを自動的に計測して表示させる際の流れを示すフローチャートである。
まずステップS1において、シネ撮像によって時系列のドプラスペクトラムデータがBモード画像データやカラードプラデータとともに順次収集される。
すなわち、基準信号発生部3において発生された基準信号が送受信部4に与えられ、送受信部4から基準信号に従って電気信号が超音波プローブ2に与えられる。このため、超音波プローブ2から被検体に向けて超音波が送信され、被検体内部において生じた超音波反射信号が超音波プローブ2により受信されて電気信号に変換された受信データとして送受信部4に与えられる。受信データは送受信部4からBモードデータ生成部11、ドプラ信号検出部12に与えられ、Bモードデータ生成部11ではBモード画像データが生成される一方、ドプラ信号検出部12では、ドプラ信号が検出されてカラードプラデータ生成部13およびスペクトラムデータ生成部14に与えられる。
カラードプラデータ生成部13では、ドプラ信号から血流成分が抽出されてカラードプラデータが生成され、スペクトラムデータ生成部14ではスペクトラムデータが生成される。そして、Bモード画像データ、カラードプラデータおよびスペクトラムデータはデータ記憶部6に与えられて保存される。
次に、ステップS2において、トレース波形生成部15によりスペクトラムデータから最大周波数fpや平均周波数fmの複数心拍分の時間変化を示すトレース波形データが自動的に作成される。このとき、心拍同期トリガとして必要に応じてECGユニット9からのECG信号の基準波またはPCGユニット10からのPCG信号の基準波が利用される。ただし、トレース波形データ自身の値の変化に基づいて心拍同期トリガを作成することもできる。
次に、ステップS3において、PS/ED検出部16により、トレース波形データに基づいて心筋の収縮期を示すPSと拡張期を示すEDの位置が検出される。このとき、必要に応じてECGユニット9からのECG信号の基準波またはPCGユニット10からのPCG信号の基準波が利用される。
次に、ステップS4において、パラメータ計測部17のCAB処理部20により、トレース波形データに対してCAB処理が行われる。これにより、心拍ごとの複数の波形データが血流診断データとして作成される。
図4は、図2に示すパラメータ計測部17におけるCAB処理の対象となる入力データの例を示す図である。
図4(A), (B)において横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示す。図4(A)は、LV Inflowのドプラスペクトラムデータ上に重畳表示された最大周波数fpおよび平均周波数fmのトレース波形を示し、図4(B)は頸動脈(Carotid)のドプラスペクトラムデータ上に重畳表示された最大周波数fpおよび平均周波数fmのトレース波形を示す。
図4(A), (B)に示す曲線のようにトレース波形がドプラスペクトラムデータから自動的に検出される。また、マーカで示すようにトレース波形からPSおよびEDが自動検出される。そして、このように検出されたトレース波形、PSおよびEDをCAB処理の入力データとすることができる。
尚、図4においてドプラスペクトラムデータの縦軸を周波数としたが、対応する速度としてもよい。以下の図においても、スペクトラムデータや波形データの縦軸は、周波数スケールおよび速度スケールのいずれを用いてもよい。
図5は、図2に示すCAB処理部20におけるCAB処理の出力データの例を示す図である。
図5(A)おいて横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示す。また、図5(B)において右方向に向く軸は時間を、左方向に向く軸は心拍を、上方向に向く軸は最大周波数fpを、それぞれ示す。さらに、図5(C)において、右方向に向く軸は時間を、左方向に向く軸は心拍を、上方向に向く軸は平均周波数fmを、それぞれ示す。
図5(A)は、頸動脈のドプラスペクトラムデータ上において自動検出された18心拍分の最大周波数fpおよび平均周波数fmの各トレース波形を示す。このような所定心拍期間のトレース波形上において各ED位置をそれぞれ切出しタイミングとして心拍(HB: heart beat)ごとにトレース波形を切出すことができる。そして切出した最大周波数fpの波形データを心拍軸方向に並べると図5(B)に示すような3次元的な波形の配列情報としてCAB処理データが得られる。同様に、切出した平均周波数fmの波形データを心拍軸方向に並べると図5(C)に示すようなCAB処理データが得られる。
図5(B), (C)に示すようなCAB処理データは、自動的に作成して血流診断データとしてデータ記憶部6に保存したり、表示部8に表示させることができる。
尚、波形データの切出しタイミングは、ED位置のみならず、PSやECG信号やPCG信号等の同期信号に基づいて決定することもできるし、トレース波形自身に基づいてマニュアルまたは基準位置から自動的に決定することもできる。
また、PS, ED, ECG信号のR波等の基準波、PCG信号のS1波やS2波等の基準波、トレース波形上において自動または手動で設定された基準位置のいずれかをトリガとして所望のオフセット時間経過前またはオフセット時間経過後のタイミングで波形データを切出すようにすることもできる。例えば、PSをトリガとしてPSの直前においてマージンとしてオフセットを設定すれば切出された波形データの開始位置がPSとならないため切出される複数の波形データ上においてそれぞれPSを観測することが可能となる。一方、PS位置の直前におけるトレース波形上の極小点をトリガとすれば、オフセット値をゼロとしても複数の波形データ上においてそれぞれPSを観測することが可能となる。
さらに、時間方向の単位をSI単位系(International System of Units)を用いずに、時間を1心拍の期間で正規化して%単位で表すこともできる。従って、時間方向の単位が正規化される場合には、トリガから切出しタイミングまでのオフセット時間も正規化した値となる。
上述したような、CAB処理条件はパラメータを用いて、予めステップS5において別途入力装置32の操作によってCAB条件設定部21において設定しておくことができる。例えば、波形データの切出しタイミングをECG信号、PCG信号、PS、EDおよびトレース波形上の基準位置のいずれの同期信号に基づいて決定するのかという切出し条件のパラメータCabTrigとしてECG, PCG, PS, ED, WAVEFORMから選択することができる。同様に、心拍ごとの複数の波形データにおける時間を正規化するか否かを示すパラメータCabTypeとして、secondか%を選択することができる。また、同期信号上の基準位置と波形データの切出しタイミングとの間のオフセット時間のパラメータCabOffsetとして所望の数値を設定することができる。尚、心拍ごとの波形データの時間を正規化しない場合には、パラメータCabOffsetの単位はmsとなり、心拍ごとの波形データの時間を正規化する場合には、パラメータCabOffsetの単位は%となる。
そして、このように設定されたCAB処理条件はCAB条件設定部21からCAB処理部20に与えられ、CAB処理部20は、CAB処理条件に従ってCAB処理を実行する。
尚、CAB処理の対象となるトレース波形の周波数レンジ(または速度レンジ)および原点位置等の座標系は、CAB処理に先だってレンジ設定部22において最適化される。座標系の最適化は、CAB処理の対象となる最大周波数fpや平均周波数fmのトレース波形データのヒストグラムに基づいてレンジ設定部22において自動的に行うことができる。また、入力装置32の操作によってレンジ設定部22において座標系の設定を手動で行うこともできる。
次に、ステップS6において、心拍ごとの複数の波形データの平均化処理および心拍ごとの複数の波形データの数学モデルを用いたモデル化の一方または双方が実行される。これにより、1つの安定した代表波形データを得ることができる。
図6は、平均化処理およびモデル化の対象となるCAB処理後における心拍ごとの複数の波形データの一例を示す図である。
図6において横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示す。図6に示すようにCAB処理によって異なる心拍にそれぞれ対応する最大周波数fpまたは平均周波数fmの複数の波形データが得られる。この複数の波形データに対して平均化処理および/またはモデル化を行うことができる。
まず、平均化処理を行う場合について説明する。
平均化処理は、平均化処理部23において行われる。式(1)は複数の波形データに対する平均化処理を示す式である。
式(1)においてnは離散的な時間、kは心拍、Nは平均化に用いる心拍(つまり波形データ)の数、CAB(n, k)はCAB処理によって切出された心拍kと時間nの配列データ、x(n)は平均化された代表波形データである。平均化に用いる心拍の数N等の平均化処理の条件は、入力装置32からの情報により平均化条件設定部24においてパラメータとして設定することができる。尚、精度向上のためED等の心拍同期用のトリガの検出が安定する所定心拍の経過後における複数の波形データを用いて平均化処理を行うようにしてもよい。この心拍の数も平均化処理の条件として設定することができる。設定された平均化処理の条件は平均化条件設定部24から平均化処理部23に与えられる。
平均化された代表波形データは、ドプラスペクトラムデータ、トレース波形およびCAB処理後の複数の波形データとともに表示部8に表示させることができる。この場合、ドプラスペクトラムデータ、トレース波形およびCAB処理後の複数の波形データが表示処理部31を通じて表示部8に出力される。また、平均化処理部23から代表波形データおよび代表波形データの作成に用いた波形データの識別情報等の付帯情報が表示処理部31に与えられる。そして、表示処理部31における表示処理によって代表波形データや複数の波形データを様々な表示方法で表示させることができる。
図7は、ドプラスペクトラムデータ、心拍ごとの波形データおよび平均化処理後の代表波形データを並列表示させた例を示す図である。
図7(A)において横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示す。また、図7(B)において横軸は心拍方向を、縦軸は更新方向を、各グラフの横軸は時間を、各グラフの縦軸は波形データの周波数値をそれぞれ示す。
図7(A)は、ドプラスペクトラムデータ上において自動的にトレースされた最大周波数fpおよび平均周波数fmのトレース波形を示す。このようなトレース波形に対するCAB処理によって図7(B)に示すような心拍ごとの波形データが順次得られる。換言すれば、図7(B)に示すようにCAB処理によって得られた複数の波形データを心拍ごとの複数の2次元データとして表示させることができる。
さらに、複数の心拍ごとの波形データの平均化処理を行うことにより図7(B)の右端に示すように平均化された代表波形データが得られる。尚、図7(B)の例では、代表波形データと直近の心拍に対応する波形データが重畳表示されている。そして、図7に示すようにトレース波形が重畳表示されたドプラスペクトラムデータとともに複数の波形データおよび代表波形データを並列表示させることができる。ただし、複数の波形データおよび代表波形データを別のウィンドウに切換表示させてもよい。
このような心拍ごとの波形データの切出しや代表波形データの計算は、拡張末期やPS等の所望のタイミングでリアルタイムに自動的に行うことができる。この場合、時系列の心拍ごとの複数の波形データおよび代表波形データは、拡張末期等の所望のタイミングで順次更新される。このようにリアルタイムに代表波形データ等の診断情報を自動更新させて表示させれば、循環器等の診断のスループットを大幅に改善することができる。
一方、心拍ごとの波形データの切出しや代表波形データの計算は、トレース波形の抽出やPSおよびEDの検出と同様に、ドプラスペクトラムデータの生成動作のフリーズ後におけるシネ画像データの再生時においても行うことができる。
リアルタイムまたはフリーズ後において平均化処理によって代表波形データを算出する場合には、平均化処理に用いた複数の波形データを識別表示させることができる。図7(B)の例では、移動平均に用いられた4つの連続した心拍に対応する波形データがハイライト表示されている。ハイライト表示は、例えば、特定の波形データの表示色、輝度、ラインの太さ等の要素を変えることによって行うことができる。このため、ユーザはどの波形データから代表波形データが得られたのかを容易に視認できる。
同様に、平均化処理に用いられた複数の波形データに対応するドプラスペクトラムデータ上のトレース波形の部分や最新の心拍に対応するトレース波形の部分をハイライト表示させることもできる。これにより、ドプラスペクトラムデータ上においてどの心拍領域が計測対象となっているのかの対応付けが容易となり、操作性を向上させることができる。
また、複数の波形データをドプラスペクトラムデータ用のウィンドウとは別のサブウィンドウに表示させる場合には、ドプラスペクトラムデータのスィープ速度と複数の波形データの更新速度とを独立に設定することができる。例えば、ドプラスペクトラムデータのスィープ速度が速い場合には、1心拍から2心拍程度のドプラスペクトラムデータしか表示部8に表示されない場合がある。そこで、複数の波形データの更新速度をドプラスペクトラムデータのスィープ速度に依存させずに数十秒程度に設定すれば、ドプラスペクトラムデータのスィープ速度が速くてもサブウィンドウにおいてハイライト表示された、代表波形データの作成に用いられた複数の波形データの範囲を視認することが可能となる。このため操作性の向上に繋がる。
さらに、ドプラスペクトラムデータの収集動作のフリーズ直後においてデータ記憶部6に記録されたシネ画像データをレトロスペクティブに読み出して最寄りのEDや拡張末期等の所望の時相まで自動的にドプラスペクトラムデータをスクロールバックさせることができる。このため、代表波形データの計測範囲を示す計測カーソルを所望の時相のトレース波形上に自動的に設定して代表波形データを計測するようにすることもできる。
このような代表波形データの計測範囲の自動設定により、ドプラスペクトラムデータの収集時においてユーザが計測カーソルのマニュアル設定を行うことなく常に最新の時相に対応する代表波形データを固定的に作成して表示させることができる。このような平均化処理の範囲を規定する計測カーソルの自動設定についても平均化処理の条件として予め設定しておくことができる。
図8は、平均化処理後の代表波形データを時系列に並列表示させた例を示す図である。
図8の各グラフにおいて横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示す。図8に示す各グラフは、直近の4心拍分の波形データを用いて平均化処理して得られた代表波形データと最新の瞬時波形データとを比較した図であり、各グラフは心拍方向に並べられている。図8に示すように平均化処理によって、代表波形データと瞬時波形データとを比較することにより瞬時波形データの平均値からのシフト量を容易に確認することが可能となる。
次に、CAB処理によって得られた複数の波形データに基づくモデル化について説明する。
モデル化は、数学モデル化部25において行われる。モデル化は、Burg (MEM)法、幾何学的ラティス法、Yule-Walker 法、修正共分散処理法等の一般的な方法で行うことができる。モデル化に用いる数学モデルの具体例としては、AR (auto regressive)モデル、ARX (auto regressive exogenous)モデル、FIR (finite impulse response)モデル、ARMAX (auto regressive moving average exogenous)モデル、ARARXモデル、ARARMAXモデル、OE (output error)モデル、BJ (Box and Jenkins)モデル等のパラメトリック(parametric)モデルが挙げられる。
ARモデルを用いたモデル化計算処理は、式(2)のように表される。
式(2)においてnは離散的な時間、x(n)は代表波形データ、u(n)は残差、αiはARモデルの係数系列、pはモデルの次数である。x(n)の観測時間は、ARモデル化条件のパラメータとして設定することができる。モデル化条件は、入力装置32からの情報によりモデル化条件設定部26においてパラメータとして設定することができる。設定されたモデル化条件はモデル化条件設定部26から数学モデル化部25に与えられる。
数学モデルを用いて複数の波形データのモデル化を行うと、より少ないパラメータ数を用いた数式として単純化された代表波形データを得ることができる。このため、数式により代表波形データを予測することも可能となる。モデル化によって作成された代表波形データは、診断情報として表示処理部31を通じて表示部8に表示させることができる。
ところで、心拍期間や平均化またはモデル化された代表波形データからのシフト量等の波形を表す特徴量が一定の値を超えるような特異値をとる波形データは、代表波形データを作成するための平均化処理やモデル化から除外することが代表波形データの精度向上の観点から望ましい。そこで、必要に応じてデータリジェクト部28において、異常値を示す波形データの平均化処理および/またはモデル化からのリジェクト処理が実行される。このリジェクト処理は、自動的または手動で行うことができる。
リジェクト処理を行う場合には、ステップS7において、リジェクト条件設定部30により除外すべき波形データを決定するための閾値等のリジェクト条件が設定される。リジェクト条件としての閾値は、特異値を有する波形データを識別するための計測パラメータに対して設定される。
計測パラメータは、上述したようにPS位置、HR値、平均化された代表波形データからのシフト量、モデル化された代表波形データからのシフト量等の波形データが特異値を有するか否かを判断することが可能な任意のパラメータとすることができる。従って、計測パラメータは、PRD (Percent Root Mean Square Difference)や残差平方和等の基準値からの乖離量を評価するパラメータとして定義することもできる。
図9は、波形データのリジェクト条件として設定される閾値の例を示す図である。
図9において、横軸は計測パラメータの値を示し、縦軸は度数を示す。計測パラメータの値をプロットすると、一般に、図9に示すような確率密度関数で示される分布が得られる。そこで、図9に示すように計測パラメータに対する閾値をリジェクト条件として可変設定することができる。例えば、計測パラメータのPRDが10%を超える場合に対応する波形データの値が異常値または特異値であると判断する場合には、閾値としてPRD=10%を設定すればよい。
ただし、処理簡易化の観点から統計処理を行わずにPS位置等の特徴量の値自体に対する閾値をリジェクト条件として設定してもよい。
そして、設定されたリジェクト条件は、リジェクト条件設定部30からデータリジェクト部28に通知される。
次に、ステップS8において、データリジェクト部28においてリジェクト条件に従ってエラー検出処理を行うことによって平均化処理および/またはモデル化から除外すべき波形データが決定される。
リジェクト処理を自動的に行う場合には、閾値を用いたエラー検出処理によって除外すべき特異値を有する波形データが自動検出される。すなわち、波形データの特徴を表すPS位置やHR等の計測パラメータが閾値を超えた場合には、除外すべき波形データとして自動検出される。また、モデル化によって得られた代表波形データを用いれば、数式の残差を評価することによって数学モデルとかけ離れた非定常な波形データを自動検出することもできる。
尚、リジェクト処理を自動的に行う場合には、ステップS6における平均化処理およびモデル化の前にリジェクト処理を行うようにしてもよい。
一方、リジェクト処理を手動で行う場合には、閾値を用いたエラー検出処理によって除外すべき特異値を有する波形データの候補が自動検出される。この場合にも代表波形データを用いて波形データの特徴量を求めることができる。ただし、リアルタイムで代表波形データを作成する場合には、リジェクト処理は自動で行われることとなる。フリーズ後においてリジェクト処理を手動で行う場合において、リジェクトすべき波形データの候補がデータリジェクト部28において検出されると、検出された波形データの候補が表示部8に表示される。
図10は、リジェクトすべき波形データの候補を識別表示した例を示す図である。
図10(A)は、ドプラスペクトラムデータ上において自動的にトレースされた最大周波数fpおよび平均周波数fmのトレース波形を示す。すなわち、図10(A)において縦軸は周波数を示し、横軸は時間を示す。図10(B)は、CAB処理によって得られた複数の波形データをプレビュー用の縮小画像としてサムネイル表示させた例を示す。
図10(B)に示すように、閾値処理によってエラー検出されたリジェクトすべき波形データの候補を識別表示することができる。例えば、図10(B)の例では、フリーズ直前の10心拍の波形データを用いて平均化処理を行う場合に、1、2、4、6心拍の不安定な波形データがリジェクトの候補としてハイライト表示されている。そして、ユーザはドプラスペクトラムデータおよびトレース波形とともにサムネイル表示された波形データを参照しながら、識別表示された波形データの候補からリジェクトすべき波形データをマニュアル選択することができる。
具体的には、入力装置32の操作によってリジェクトすべき波形データの選択情報がリジェクトデータ選択部29に入力される。リジェクトすべき波形データが選択されると、波形データの選択情報がリジェクトデータ選択部29からデータリジェクト部28に通知される。そして、データリジェクト部28において選択情報に対応する波形データが除外すべき波形データとして決定される。
除外すべき波形データが決定されると、除外すべき波形データの識別情報がデータリジェクト部28から平均化処理部23および/または数学モデル化部25に通知される。そうすると、ステップS6においてデータリジェクト部28から通知された波形データを除外して再び平均化処理および/またはモデル化処理が実行される。これにより代表波形データが再計算される。
図11は、特異値を有する波形データのリジェクト処理による効果を示す図である。
図11(A), (B)において横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示す。図11(A)は、10心拍分の波形データの平均化処理によって得られた代表波形データを示し、図11(B)は、不安定な4心拍分の波形データをリジェクトして平均化処理を行うことによって得られた代表波形データを示す。
図11(B)に示すように不安定な波形データをリジェクトして平均化処理を行うことによって、より安定した代表波形データが得られることが確認できる。
そして、波形データをリジェクトして再計算された代表波計データが表示部8に表示される。尚、リジェクト処理を自動で行って平均化処理またはモデル化処理を実行した場合には、除外した波形データを識別表示させることができる。これにより、ユーザは、平均化処理またはモデル化処理から除外された波形データを容易に確認することができる。
さらに、サブウィンドウを用いて平均化処理に用いた波形データを任意の更新速度で識別表示させる場合には、サブウィンドウ上の識別表示もリジェクトされた波形データに連動して変化させることができる。例えば、リジェクトされた波形データのハイライト表示がオフ状態となる。
また、波形データをリジェクトして再計算された代表波形データを表示部8に表示させ、入力装置32の操作によって代表波形データの確定指示情報が平均化処理部23および/または数学モデル化部25に入力されるまで、ステップS8におけるリジェクトすべき波形データの選択およびステップS6における代表波形データの再計算を繰り返すようにしてもよい。この場合には、入力装置32の操作によって代表波形データの確定指示情報が平均化処理部23および/または数学モデル化部25に入力されることによって代表波形データの計測が完了する。
このような波形データのリジェクト機能により、ユーザはインタラクティブに代表波形データの作成に用いる波形データを選択またはリジェクトすることが可能となり操作性が向上する。
代表波形データが確定すると、ステップS9において、パラメータ算出部27により代表波形データに基づくLV InflowのE波等の血流に関する診断パラメータの自動計測が行われる。
図12は、代表波形データに基づいてLV InflowのE波、A波およびDCTを計測した例を示す図である。
図12において、横軸は時間を、ECGはECG信号を、PCGはPCG信号を、ED TRIGGERはトレース波形からトリガとして自動検出されたEDを、ED/PS PAIRはトレース波形から順次自動検出されるEDとPSのペアを、VELOCITY OF LV INFLOWは、LV Inflowの速度を表す代表波形データを、それぞれ示す。
図12に示すようにECG信号のR波、PCG信号のS1波またはS2波、ED、PS、マニュアル設定された基準位置等の任意のトリガから時間方向にEDとPSのペアをサーチすることによってE波およびA波の座標およびデータ値並びにDCTを計測することができる。
また、同様な方法で任意のトリガを用いてPV inflowの速度を表す代表波形データからS波、D波、AR波の座標およびデータ値を計測することもできる。
図13は、代表波形データに基づいてPV InflowのS波、D波およびAR波を計測した例を示す図である。
図13において右上の画像は、走査範囲、走査方向およびレンジゲートを重畳表示したカラードプラ断層像である。また、図13の下部の画像において横軸は時間を示し、縦軸は相対速度(相対周波数)を示す。
図13の下部の画像は、PV inflowの最大速度を表す代表波形データからECG信号のR波をトリガとして選択してS波のピーク位置およびピーク値を自動計測し、計測されたS波をドプラスペクトラムデータ上の最大流速Vpのトレース波形に重畳表示させた図である。図13の画像には、参照用にECG信号も表示されている。
さらに、血流速を表す代表波形データと別途TDIによって収集された弁尖部の移動速度を表す組織ドプライメージング波形データ(TDI WAVE)を用いて診断パラメータを計測することもできる。TDIを行う場合には、スペクトラムデータ生成部14においてドプラ信号の組織のクラッタ成分に基づいて組織のドプラスペクトラムデータが求められる。
具体例としては、LV inflowの速度を表す代表波形データと僧帽弁(MV: mitral valve)の弁輪の速度を表すTDI WAVEとを用いてLV InflowのE波の振幅とTDI WAVEのピークであるe’波の振幅の比E/e’を自動計測することができる。このE/e’は有用な血流診断パラメータの1つとして知られている。
尚、E波とe’波の比E/e’は、LV inflowの代表波形データのE波の最大値Veと僧帽弁のTDI WAVE Vmaの最大値の比であるから[Ve]max/[Vma]maxと表される場合もある。また、時間軸を1心拍の期間で正規化して%単位で表すとE/e’の計測が簡易となる。
図14は、代表波形データと僧帽弁のクラッタ成分に相当する速度データに基づいて診断パラメータE/e’を計測する方法を説明する図であり、図15は、図14に示す方法で自動計測された代表波形データVeのピーク[Ve]maxと僧帽弁のTDI WAVE Vmaのピーク[Vma]maxとを表示させた例を示す図である。
図14において、横軸は時間を、ECGはECG信号を、PCGはPCG信号を、VELOCITIES OF LV INFLOW AND MVは、LV inflowの速度の代表波形データおよび僧帽弁の移動速度を表すTDI WAVEを、それぞれ示す。
図14に示すように、ECG信号のR波、PCG信号のS1波またはS2波、血流速のトレース波形から得られるEDやPS等の基準位置をトリガとしてLV inflowの代表波形データと僧帽弁のTDI WAVEとを重ね合わせることができる。そして、LV inflowのE波Veのピーク[Ve]maxと僧帽弁のTDI WAVEのe’波Vmaのピーク[Vma]maxを検出してそれぞれ図15のように表示させることができる。尚、図15は、ECG信号をトリガとしてLV inflowのE波Veのピーク[Ve]maxと僧帽弁のTDI WAVEのe’波Vmaのピーク[Vma]maxを検出した例を示す。
このように検出されたLV inflowの代表波形データのE波Veのピーク[Ve]maxと僧帽弁のTDI WAVEのe’波Vmaのピーク[Vma]maxとの比を計算することによりE/e’を求めることができる。
尚、ドプラスペクトラムデータ用のドプラ信号と組織ドプラデータ用のドプラ信号は、共通のレンジで収集することが可能である。この場合、LV inflowの最大流速Vpを表す代表波形データと僧帽弁のTDI WAVEは共通の速度レンジを用いて重畳表示されることとなる。
図16は、LV inflowの最大流速Vpを表す代表波形データと僧帽弁のTDI WAVEを共通の速度レンジを用いて重畳表示した例を示す図である。
図16において横軸は時間を示し、縦軸は速度に対応する周波数を示す。図16に示すように、LV inflowの最大周波数fpを表す代表波形データと僧帽弁のTDI WAVEは共通の周波数レンジ(または速度レンジ)を用いて重畳表示される。
しかし、より良好な精度でE波の振幅とe’波の振幅を求めるためには、E波およびe’波のそれぞれ適した周波数レンジまたは速度レンジで表示させることが望ましい。そこで、代表波形データとTDI WAVEが重畳されたデータからそれぞれE波の振幅とe’波の振幅を求めるために適した互に異なるフィルタで代表波形データとTDI WAVEを抽出することができる。
図17は、LV inflowの最大周波数fpを表す代表波形データと僧帽弁の速度を表すTDI WAVEが重畳されたデータから互に異なるフィルタ処理を伴って抽出されたLV inflowの最大周波数fpおよび僧帽弁のTDI WAVEから診断パラメータE/e’を計測した例を示す図である。
図17において横軸は時間を、(A)の縦軸はLV inflowの最大周波数の代表波形データfpを、(B)の縦軸は僧帽弁の速度に対応する周波数ftdiを、(C)の縦軸はE波およびe’波の振幅を、(D)の縦軸は診断パラメータE/e’の値を、それぞれ示す。
図17(A)に示すようにHPF (high pass filter)を用いたフィルタリングにより図16に示す重畳データから低周波成分が除去された適切な周波数レンジのLV inflowの最大周波数の代表波形データfpを抽出することができる。一方、図17(B)に示すようにLPF (low pass filter)を用いたフィルタリングにより図16に示す重畳データから高周波成分が除去された適切な周波数レンジの僧帽弁の周波数データftdiを抽出することができる。
次に、図17(A)に示すLV inflowの最大周波数の代表波形データfpにおいてピークfpmaxを検出する。また、図17(B)に示す僧帽弁の周波数データftdiにおいてピークftdimaxを検出する。そして、LV inflowの最大周波数の代表波形データfpのピークfpmaxおよび僧帽弁の周波数データftdiのピークftdimaxを速度スケールに換算することにより、図17(C)に示すようにE波およびe’波の振幅を求めることができる。さらに、E波の振幅をe’波の振幅で除することにより図17(D)に示すように診断パラメータE/e’の値を算出することができる。
また、血流診断パラメータの1つとして知られているTei-Indexを自動計測することもできる。
図18は、診断パラメータTei-Indexの定義を示す図である。
図18において横軸は時間を、ECGはECG信号を、LV INFLOWはLV Inflowのスペクトラム波形データを、LV OUTFLOWはLV Outflowのスペクトラム波形データを、それぞれ示す。
Tei-Indexは、図18に示すように、LV Inflowのスペクトラム波形データのある心拍のA波の終端と次の心拍のE波の先端との間における時間をaとし、LV Outflowのスペクトラム波形データのピークの先端から終端までの時間をbとすると、式(3)のように表される。 [数3]
Tei-Index = (a-b)/b (3)
そこで、LV OutflowのスペクトラムデータおよびLV Outflowのスペクトラムデータの代表波形データからaおよびbの一方または双方を計算すれば、aおよび/またはbの代表値が得られる。この代表値は、複数の心拍について複数回測定したaやbの平均的な値となる。このため、aおよび/またはbの代表値を用いてTei-Indexを計算すれば、ばらつきが少なく安定したTei-Indexを容易に得ることができる。このため、ユーザは、Tei-Indexを心機能の評価に用いることができる。
このようなE波等の診断パラメータは、PS, ED, HR等のパラメータと同様にリアルタイムまたはフリーズ後にパラメータ算出部27において算出することができる。算出された診断パラメータの値はパラメータ算出部27から表示処理部31を通じて数値として表示部8に表示させることができる。
リアルタイムに診断パラメータの値を表示させる場合には、PS等のトリガが検出される度に所望の遅延時間を伴って診断パラメータの値を更新させることができる。従って、最新のPSが検出された心拍に対応する診断パラメータを表示させずに、所望の時間が経過したPSが検出された心拍に対応する診断パラメータを表示させてもよい。
また、フリーズ直後に診断パラメータの値を表示させる場合には、最寄りの心拍または所望の時間が経過した心拍に対応する診断パラメータを表示させることができる。この場合、上述したように、診断パラメータの算出に用いられた心拍のトレース波形の部分、心拍ごとの波形データ、ドプラスペクトラムデータの部分が容易に確認できるように自動的にスクロールバックして表示させたり、識別表示させることができる。
つまり以上のような超音波診断装置1は、ドプラスペクトラムデータから得られるトレース波形に対してCAB処理を施すことによって心拍ごとの複数の波形データを診断情報として作成するものである。さらに、超音波診断装置1は、心拍ごとの複数の波形データから平均化処理やモデル化処理によって代表波形データを作成し、作成した代表波形データから診断パラメータを自動計測できるようにしたものである。
(効果)
このため超音波診断装置1によれば、血流量を表す診断情報をより簡易かつ短時間で画一的なデータとして取得することができる。
特に、従来は、診断パラメータの計測範囲を設定するためのタイムカーソルが自動設定できればHR, PS, ED, PI, RI等の診断パラメータを自動計測することが可能であったが、波形のパターン認識が必要となるE波等の診断パラメータの自動計測は困難であった。
これに対して、超音波診断装置1によれば、LV InflowのE波、A波、DCT、PVのS波、D波、AR波等の診断パラメータを自動計測できる。このため、検査のスループットを向上させることができる。
また、仮にトレース波形から検出したPSやEDをトリガとして単にトレース波形の所定のサーチ範囲においてE波等の診断パラメータを自動計測しようとするとノイズが大きくなり十分な精度で診断パラメータを得ることができない。
これに対して、超音波診断装置1では、CAB処理によって得られた複数の波形データから作成された代表波形データを用いてE波等の診断パラメータを自動計測するため、十分な精度でE波等の診断パラメータを得ることができる。