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JP5553661B2 - 癌の再発リスク判定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、癌の再発リスクを判定する方法に関する。
癌の再発リスクを判定する方法として、癌患者から採取した細胞に含まれるKi67タンパク質を癌マーカーとして用いた病理学的評価方法が知られている。例えば非特許文献1には、測定細胞数に占めるKi67発現細胞数の割合と癌の組織病理学的等級とには相関があり、Ki67が発現している細胞数の割合が高いほど癌の再発リスクが高まることが記載されている。ここでは、細胞内のKi67を特異的に染色させる試薬を用いて、Ki67が発現している細胞のみを染色し、全細胞数に占めるKi67が発現している細胞数の割合を算出している。
また、非特許文献2には、ki67遺伝子を含む21の遺伝子群の発現の有無を解析して再発スコアを算出し、再発スコアの結果を3段階(再発リスクが高い、中程度、低い)に分類して、再発リスク判定を行う方法が記載されている。
この非特許文献2では、再発スコアによる分類結果の信頼性を示す指標として、統計学的手法を用いて算出されたハザードレシオ(hazard ratio:HR)が示されているが、HRの改善されたさらなる判定方法が求められている。
一方、特許文献1には、サイクリン依存性キナーゼ(以下CDKとも言う)を利用した癌の再発リスクを判定する方法が記載されている。この方法では、2種類のCDKの活性値と発現量に基づいて得られた再発リスクスコアと所定の閾値と比較することにより、癌の再発リスク判定を行っている。
特開2009−232815号公報
Mark J Beresford etal Breast Cancer Research 2006,8:216 N Engl J Med 2004; 351:2817-26
本発明は、2種類のCDKの活性値と発現量に基づいて得られた再発リスクスコアと所定の閾値と比較する癌の再発リスク判定方法を用いて、より信頼性の高い癌の再発リスク判定方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明によれば、
癌患者から摘出された組織に含まれる細胞のCDK1の活性値と発現量、CDK2の活性値と発現量、及びKi67タンパク質の発現細胞率又は発現量を取得し、
下記式(1)に基づいて再発リスクスコアを求め、再発リスクスコアと予め設定された第1の閾値とを比較し、Ki67タンパク質の発現細胞率又は発現量と予め設定された第2の閾値とを比較し、
再発リスクスコア≧第1の閾値かつKi67タンパク質の発現細胞率又は発現量≧第2の閾値であるとき、癌の再発リスクが高いと判定し、
再発リスクスコア<第1の閾値かつKi67タンパク質の発現細胞率又は発現量<第2の閾値であるとき、癌の再発リスクが低いと判定し、
前記Ki67タンパク質の発現細胞率が、下記式(2)に基づいて求められた値であることを特徴とする、癌の再発リスク判定方法が提供される。
再発リスクスコア=F(x)×G(y)・・・(1)
(式中、xはCDK1の比活性を表し、このCDK1の比活性は、CDK1の活性値/CDK1の発現量で示される:
式中、yは比活性比を表し、この比活性比は、CDK2の比活性/CDK1の比活性で示される)
Ki67タンパク質の発現細胞率=Ki67タンパク質が発現している細胞の数/測定対象の細胞の数×100・・・(2)


本発明によれば、2種類のCDKの活性値と発現量に基づいて得られた再発リスクスコアと所定の閾値と比較する癌の再発リスク判定方法を用いて、より信頼性の高い癌の再発リスク判定を行うことができる。
癌の再発リスク判定を実行するコンピュータにおける一実施形態を示す図である。 癌の再発リスク判定のフローを示す図である。 図3(a)は、複数の癌患者から得られたCDK1比活性と癌の再発率との関係を示したヒストグラムであり、図1(b)は、複数の癌患者から得られたCDK1とCDK2の比活性比と癌の再発率との関係を示したヒストグラムである。 CDK1により増殖速度を比較した結果を示すグラフである。 CDK2により増殖速度を比較した結果を示すグラフである。 CDK2/CDK1により増殖速度を比較した結果を示すグラフである。
癌患者から摘出された組織に含まれる細胞の第1のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性値と発現量、第2のCDKの活性値と発現量、及びKi67の発現細胞数又は発現量を取得し、取得した第1CDKの活性値と発現量、第2CDKの活性値と発現量、及びKi67の発現細胞率又は発現量に基づいて癌の再発リスクを判定することを特徴とする。
ここで、本明細書における「再発」とは、癌患者から悪性腫瘍を摘出するために臓器を部分切除した後、残存臓器に同じ悪性腫瘍が再現する場合、及び原発巣から腫瘍細胞が分離して遠隔組織(遠隔臓器)へ運ばれ、そこで自立的に増殖する場合(転移再発)をいうものとする。
また、本明細書における「再発リスク」とは、癌患者の身体に癌が再発する危険、または癌が再発することによって癌患者が死亡する危険を意味する。本明細書中で特に断らない限り、「再発リスク」はそのいずれも含むものとする。
癌患者から摘出した組織とは、癌患者の生体組織のうち、繊維性結合組織、軟骨組織、骨組織、血液やリンパ等の支持組織、上皮組織、筋組織、神経組織、外分泌組織、内分泌組織といった組織であればよく、好ましくは、乳房に存在する外分泌組織である乳腺組織である。また、これら組織は、個体としての調和を破り、増殖の制御機構に異常を来たしている腫瘍組織のように、病理的情報を得たい細胞を含む組織が好適である。例えば、癌患者から悪性腫瘍を取り除くために摘出された組織である。
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)とは、サイクリンと結合して活性化される酵素群の総称で、単独では活性をもたないが、サイクリンと結合して活性型となる。CDKは、その種類に応じて、細胞周期の特定時期で機能している。CDKとしては、CDK1、CDK2、CDK4、CDK6、サイクリンA依存性キナーゼ、サイクリンB依存性キナーゼ、及びサイクリンD依存性キナーゼなどが挙げられる。
ここに挙げた複数種のCDKから第1のCDKと第2のCDKとを決定し、癌患者から摘出した組織に含まれる細胞の第1CDK及び第2CDKの活性値と発現量を測定する。
CDK活性値とは、特定のサイクリンと結合して、そのサイクリンをリン酸化する基質の量から算出されるキナーゼ活性のレベル(単位をU(ユニット)で表す)をいう。なお、前記CDKがリン酸化する基質としては、例えば、活性型CDK1及び活性型CDK2については、ヒストンH1が挙げられ、活性型CDK4及び活性型CDK6については、Rb(網膜芽細胞腫タンパク質)が挙げられる。CDK活性値は、慣用のCDK活性測定方法によって測定することができる。具体的には、測定試料の細胞溶解液から活性型CDKを含む試料を調製し、試料と、32P標識したATP(γ−〔32P〕−ATP)とを用いて、基質タンパク質に32Pを取り込ませ、32P標識されたリン酸化基質の標識量を測定し、標準品で作成された検量線をもとに定量する方法がある。また放射性物質の標識を用いない方法としては、特開2002−335997号に開示の方法が挙げられる。この方法は、検体の細胞可溶化液から、目的の活性型CDKを含む試料を調製し、アデノシン5'−O−(3−チオトリホスフェート)(ATP−γS)と基質を反応させて、該基質タンパク質のセリン又はスレオニン残基にモノチオリン酸基を導入し、導入されたモノチオリン酸基の硫黄原子に標識蛍光物質又は標識酵素を結合させることによって基質タンパク質を標識し、標識されたチオリン酸基質の標識量(標識蛍光物質を用いた場合には蛍光量)を測定し、標準品で作成された検量線に基づいて定量する方法である。
活性測定に供する試料は、測定対象となる細胞を含む組織の可溶化液から目的のCDKを特異的に採集することにより調製する。この場合、試料は目的のCDKに特異的な抗CDK抗体を用いて調製してもよいし、特定のサイクリン依存性キナーゼ(例えばサイクリンA依存性キナーゼ、サイクリンB依存性キナーゼ、サイクリンE依存性キナーゼ)活性測定の場合には、抗サイクリン抗体を用いて調製してもよい。いずれの場合も活性型CDK以外のCDKが試料に含まれることになる。例えばサイクリン・CDK複合体にCDKインヒビターが結合した複合体も含まれる。また、抗CDK抗体を用いた場合には、CDK単体、CDKとサイクリン及び/又はCDKインヒビターの複合体、CDKとその他の化合物との複合体などが含まれる。従って、活性値は、活性型、不活性型、各種競合反応が混在する状態下で、リン酸化された基質を定量することで活性型の存在量(U)として測定される。
CDK発現量とは、測定対象である細胞を緩衝液等に懸濁して作成された細胞可溶化液に含まれる目的のCDK量(分子個数に対応する単位)であって、タンパク質混合物から目的のタンパク質量を測定する従来公知の方法で測定できる。例えば、ELISA法、ウェスタンブロット法などを使用してもよいし、特開2003−130871号に開示の方法で測定することもできる。目的のタンパク質(CDK)は、特異的抗体を用いて捕捉すればよい。例えば、抗CDK1抗体を用いることにより、細胞内に存在するCDK1のすべて(CDK単体、CDKとサイクリン及び/又はCDKインヒビターの複合体、CDKとその他の化合物との複合体を含む)を捕捉できる。
再発リスクスコアとは、第1CDK及び第2CDKの活性値及び発現量から得られる値である。再発リスクスコアとしては、活性値及び発現量の何れかを単独で用いてもよいし、活性値と発現量とを加減乗除などして計算される値を用いても良いが、活性値と発現量との比を用いることが好ましい。活性値と発現量との比としては、活性値を発現量で除することにより得られる値(活性値/発現量=比活性)、発現量を活性値で除することにより得られる値(発現量/活性値=比活性の逆数)などを用いることができる。
例えば、再発リスクスコアとしては、下記式 (5)乃至(7)に基づいて得られた値を用いることができる。
再発リスクスコアRRS=F(x)×G(y)・・・(5)
F(x)=a/(1+Exp(−(x−b)×c))・・・(6)
G(y)=d/(1+Exp(−(y−e)×f))・・・(7)
(式中、a〜fは定数)
上記式において、xは第1CDKの比活性を表し、yは比活性比を表す。ここで、CDK比活性は、CDK活性値/CDK発現量で示され、比活性比は、第2CDK比活性/第1CDK比活性で示される。
ここで、上記式(5)乃至(7)によって再発リスクスコアを算出しうる根拠を説明する。 まず、CDK比活性と、比活性比の意義について説明する。
CDK比活性は、CDKの発現量に対する活性値の比である。CDK比活性は、試料に含まれる単位CDKタンパク質量あたりのCDK酵素活性を反映する値であって、細胞に存在しているCDKのうちの活性を示すCDKの割合に相当し、判定対象である腫瘍細胞の増殖状態に基づくCDK活性レベルを示す。
また、比活性比は、第1CDKの比活性に対する第2CDKの比活性の比である。CDK比活性比は、特定の細胞周期において活性を示す二種類のCDKの活性レベルの比であり、癌患者の細胞においていずれのCDK活性が優位であるか(細胞周期のいずれの時期にある細胞割合がどの程度であるか)を反映する値である。
一般に、癌細胞は正常な増殖制御を逸脱して増殖が活発に行われていることから、DNAの複製期であるS期と、DNA合成の終了から有糸分裂の開始の間であるG2期にある細胞の割合が多い場合に、その細胞が癌化しているものと考えることができる。また、癌細胞に見られる異数倍体性は、細胞分裂期であるM期を異常な状態で経過した場合や、又はM期を経ずにG1期に進み、そのままS期に移行したときに発生するものと考えられるため、M期に存在する細胞割合が少ない場合にも、その細胞が癌化していると考えることができる。
そこで、例えば、第1CDKとして細胞周期のG2期からM期に移行する際に活性を示すCDK1を、第2CDKとして細胞周期のG1期からS期に移行する際に活性を示すCDK2を使用し、これらに基づいてCDK比活性比を求めた場合には、得られるCDK比活性比は、S期またはG2期にある細胞が、M期にある細胞に比べてどれだけ多く存在するかを反映する数値であり、細胞の増殖速度を示す指標となることがわかる。すなわち、再発リスクスコアは細胞の増殖速度を示す指標となる値である。
次に、再発リスクスコアを算出するための式(5)乃至(7)について説明する。
上記において例示したように、第1CDK比活性と、第2CDK比活性とに基づくCDK比活性比を得ることにより、細胞の増殖速度(癌の再発リスク)に相関する値を得ることができる。
しかし、CDK1比活性が異常に大きい場合には、CDK比活性比が細胞の増殖速度に相関しない場合がありうる。例えば、上記において例示したように、第1CDKとしてCDK1を、第2CDKとしてCDK2を用いてCDK比活性比を求めたとき、CDK1比活性が異常に大きい場合には、CDK比活性比の値は小さくなる。これは別の観点からみれば、CDK1と複合体を形成するサイクリンが高発現し、CDK1が異常に活性化されているとも考えられる。細胞は、ある細胞周期に活性化するCDKが少なくても、他の特定のCDKが代償的に働くことによって増殖することが可能であるとも考えられており、特定のCDKが異常に活性化されている場合にも、細胞動態に異常を来たしていると考えることができる。
そこで、癌の再発リスクが、(A)第1CDKの比活性、(B)第1CDKと第2CDKの比活性比の二つのリスク要素によって規定されるものと考え、これらのリスク要素に基づいて癌の再発リスクを評価する。上記(A)、(B)の各リスク要素に基づいて癌が再発する確率を、数値的に評価する尺度を用いて、それぞれリスクスコアRS(A)、リスクスコアRS(B)とする。さらに、上記(A)、(B)のリスク要素によって結果的に癌が再発する確率を、数値的に評価する尺度を用いて、再発リスクスコアRRSとする。結果的に癌が再発する確率、すなわち再発リスクは、上記(A)、(B)の二つのリスク要素によって癌が再発する確率の積によって与えられるので、再発リスクスコアRRSは、リスクスコアRS(A)とリスクスコアRS(B)の積に比例する値で与えられる。したがって、
RRS=RS(A)×RS(B)・・・(8)
が成り立つ。
リスクスコアRS(A)及びリスクスコアRS(B)は、以下のようにして求められる。
図3(a)は、複数の癌患者から得られたCDK1比活性と癌の再発率との関係を示したヒストグラムであり、図3(b)は、複数の癌患者から得られたCDK1とCDK2の比活性比と癌の再発率との関係を示したヒストグラムである。同図においては、複数の癌患者を、当該癌患者から得られたCDK1比活性、又はCDK1とCDK2の比活性比に基づいて階級分けし、各階級に含まれる症例の総数を白抜きの棒グラフで、各階級に含まれる再発症例を網掛けの棒グラフで示した。さらに、各階級における癌の再発確率(再発症例数/症例総数)を求め、折れ線で示した。
同図からも明らかなように、癌の再発確率は、CDK1比活性、又はCDK1とCDK2の比活性比に伴って単調に増加することがわかる。したがって、各階級ごとの癌の再発確率を近似することにより、CDK1比活性をリスク要素とするリスクスコアRS(A)、及びCDK1とCDK2の比活性比をリスク要素とするリスクスコアRS(B)を得ることができる。そこで、CDK1比活性の値をx、CDK1とCDK2の比活性比をyとして、各階級ごとの癌の再発確率をロジスティック関数によって近似し、リスクスコアRS(A)及びリスクスコアRS(B)を下記式として得た。
RS(A);F(x)=a/(1+Exp(−(x−b)×c))・・・(9)
RS(B);G(y)=d/(1+Exp(−(y−e)×f))・・・(10)
(式中、a〜fは定数)
以上より、再発リスクスコアRRSは、
RRS=F(x)×G(y)・・・(11)
によって表され、上記式(5)を導くことができる。
Ki67とは、細胞内において、細胞周期G0期では発現していないが、G1期、S期、G2期、M期では発現しているタンパク質である。このタンパク質が発現している細胞は、その細胞が増殖期(増殖状態)にあるということがわかる。癌患者から摘出した組織に含まれる細胞において、Ki67が発現している細胞の数が多いほど、その摘出した組織が癌化している可能性があるということが示唆される。このため、Ki67を細胞増殖と細胞周期のマーカーとして利用できることが知られている。
Ki67の発現細胞率は、癌患者から摘出された組織に含まれる細胞のうち、Ki67が発現している細胞数の割合から求めることができる。Ki67発現細胞数は、Ki67と特異的に結合する抗体に色素を結合させたものを用いて細胞内のKi67を染色し、染色された細胞を計数することにより求めることができる。
Ki67発現細胞数の割合から求められるKi67発現細胞率は、Ki67が発現している細胞の数を測定対象の細胞の数で除することにより求めることができる(下記式(12))。
Ki67発現細胞率=Ki67が発現している細胞の数/測定対象の細胞の数×100・・(12)
なお、Ki67発現細胞率は、癌患者から悪性腫瘍を取り除くために摘出した組織に含まれる細胞の数のうち、Ki67が発現している細胞の割合とすることが好ましい。
上記のKi67発現細胞率を求める方法の一例としては、まずKi67と特異的に結合するMIB抗体などを用いて、癌患者から摘出された組織に含まれる細胞に免疫学的染色を施す。この免疫学的染色は従来公知の方法で行うことができる。そして、染色された細胞をスライドグラス上に固定し、測定試料中の細胞数のうち染色された細胞数の割合を画像解析装置により算出して求めることができる。なお、上記測定試料は、癌患者から悪性腫瘍を取り除くために摘出した組織であることが好ましい。
Ki67の発現量としては、癌患者から摘出した組織に含まれる細胞に含まれるKi67量(分子個数に対応する単位)であって、タンパク質混合物からKi67に特異的な抗体を用いてKi67のタンパク質量を測定する従来公知の方法で測定できる。また、Ki67と特異的に結合する抗体に色素を結合させたものを用いて細胞内のKi67を染色し、染色された細胞の染色強度を測定することにより、Ki67の発現量を求めることもできる。さらに、細胞中のki67遺伝子の発現レベルをKi67の発現量とすることもできる。このKi67遺伝子の発現レベルは、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション分析、mRNAの発現を定量化するノーザンブロッティングやRT−PCR等といった従来公知の遺伝子発現分析法により測定できる。
上記において取得した、第1CDKの活性値と発現量、第2CDKの活性値と発現量、及びKi67の発現細胞率又は発現量とに基づいて癌の再発リスクを判定することができる。再発リスクを判定する方法としては、例えば、上記において説明した再発リスクスコア及びKi67発現細胞率と、予め設定された閾値とを比較することによって判定することができる。
具体的には、癌患者の再発リスクスコアと第1の閾値とを比較し、癌患者のKi67発現細胞率と第2の閾値とを比較して、癌患者の再発リスクスコアが第1の閾値より高い、かつKi67発現細胞率が第2の閾値より高い場合には、再発リスクが高いと判定することができる。
なお、再発リスクスコアが第1の閾値より低くかつKi67発現細胞率が第2の閾値より低い場合には、再発リスクが低いと判定するようにしてもよい。また、再発リスクスコアは第1の閾値より高いがKi67発現細胞率は第2の閾値より低い場合、及び再発リスクスコアは第1の閾値より低いがKi67発現細胞率は第2の閾値より高い場合には、再発リスクは中程度であると判定するようにしてもよい。
閾値は、種々の方法によって設定することができる。例えば、再発リスクスコアにおいては、癌の悪性度についての病理医の判定が既知である複数の癌患者から摘出された組織の腫瘍細胞のそれぞれについて、上記の再発リスクスコアRSSの式に基づいて再発リスクスコアを算出し、癌の再発が認められた患者群と、癌の再発が認められなかった患者群の2集団に分類しうるような値を閾値として設定することができる。あるいは、再発リスクが高い、中程度、低い等、異なる範囲ごとに閾値を複数設定し、癌の再発リスクを段階的に評価、判定するようにしてもよい。
Ki67発現細胞率においても同様に閾値を設定することができる。例えば、癌の悪性度についての病理医の判定が既知である複数の癌患者から摘出された組織の腫瘍細胞のそれぞれについて、上記(12)式に基づいてKi67発現細胞率を算出し、癌の再発が認められた患者群と、癌の再発が認められなかった患者群の2集団に分類しうるような値を閾値として設定することができる。
なお、Ki67発現量においても上記と同様に閾値を設定することができ、再発リスクスコア及びKi67発現量と、予め設定された閾値とを比較することによって癌の再発リスクを判定するようにしてもよい。
上記の実施形態の癌の再発リスク判定方法における各工程は、コンピュータにおいて実施させることができる。以下、本発明の癌の再発リスク判定方法を実施するための一実施形態であるコンピュータを図1に示す。
コンピュータ100は、本体110と、表示部120と、入力デバイス130とから主として構成されている。本体110は、CPU110aと、ROM110bと、RAM110cと、ハードディスク110dと、読出装置110eと、入出力インターフェイス110f、及び画像出力インターフェイス110hは、お互いにバス110iによってデータ通信可能に接続されている。
CPU110aは、ROM110bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAM110cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。
ROM110bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPU110aに実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
RAM110cは、SRAM又はDRAM等によって構成されている。RAM110cは、ROM110b及びハードディスク110dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU110aの作業領域として利用される。
ハードディスク110dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションシステムプログラム等、CPU110aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。後述するアプリケーションプログラム140aも、このハードディスク110dにインストールされている。
読出装置110eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記憶媒体140に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記憶媒体140には、コンピュータに判定に係るアプリケーションプログラム140aが格納されており、CPU110aが可搬型記憶媒体140から当該アプリケーションプログラム140aを読み出し、アプリケーションプログラム140aをハードディスク110dにインストールすることも可能である。
また、ハードディスク110dには、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインターフェイス環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。以下の説明においては、上述した判定に係るアプリケーションプログラム140aは、当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
入出力インターフェイス110fは、例えばUSB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインターフェイス、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインターフェイス、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインターフェイス等から構成されている。入出力インターフェイス110fには、キーボード及びマウスからなる入力デバイス130が接続されており、ユーザが当該入力デバイス130を使用することにより、コンピュータ本体110にデータを入力することが可能である。
また、入出力インターフェイス110fには、CDKの活性値と発現量、Ki67の発現細胞数、及び測定対象の細胞数を測定する測定装置200が接続されている。これにより、コンピュータ本体110は、測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して、CDK1比活性及びCDK2比活性/CDK1比活性から算出された再発リスクスコアと、測定対象の細胞の数及びKi67が発現している細胞の数から算出されたKi67発現細胞率を取得することができる。
画像出力インターフェイス110hは、LCDまたはCRT等で構成された表示部120に接続されており、CPU110aから与えられた画像データに応じた映像信号を表示部120に出力するようになっている。表示部120は、入力された映像信号にしたがって、画像データを出力する。また、表示部120は、後述するCPU110aから与えられた判定結果を出力する。
図2は、上記の癌の再発リスク判定を実行するためのアプリケーションプログラム140aの動作を示すフローチャートである。
まず、測定装置200から入出力インターフェイス110fを介してCDK1の活性値と発現量、CDK2の活性値と発現量、Ki67が発現している細胞数、及び測定対象の細胞数が取得されると、CPU110aがCDK1の活性値と発現量、CDK2の活性値と発現量、Ki67が発現している細胞数、及び測定対象の細胞数をそれぞれRAM110cに記憶させる。そして、CPU110aは、RAM110cに記憶されているCDK1の活性値と発現量、CDK2の活性値と発現量、Ki67が発現している細胞数、及び測定対象の細胞数から再発リスクスコア及びKi67発現細胞率を算出する。(ステップS1)。
CPU110aは、予めアプリケーションプログラム140aのデータとしてメモリ110dに記憶させていた第1の閾値及び第2の閾値を呼び出して、第1の閾値と再発リスクスコア、及び第2の閾値とKi67発現細胞率との比較を実行する。
再発リスクスコアが第1の閾値以上かつKi67発現細胞率が第2の閾値以上の場合、癌の再発リスクが「高い」と判定する(ステップS2)。再発リスクスコアが第1の閾値未満またはKi67発現細胞率が第2の閾値未満の場合、ステップS3へ進む。
ステップS3では、再発リスクスコアが第1の閾値未満かつKi67発現細胞率が第2の閾値未満であるか否かが判断され、再発リスクスコアが第1の閾値未満かつKi67発現細胞率が第2の閾値未満の場合には、癌の再発リスクが「低い」と判定され、それ以外の場合には、癌の再発リスクが「中程度」と判定する。
そして、CPU110aは、上記の判定結果を、RAM110cに格納するとともに画像出力インターフェイス110hを介して、表示部120に出力する(ステップS4)。
なお、本実施形態において、CDK1の活性値と発現量、CDK2の活性値と発現量、Ki67が発現している細胞数、及び測定対象の細胞数は、測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して取得するようにしていたが、これに限定されるものではなく、例えば、CDK1の活性値と発現量、CDK2の活性値と発現量、Ki67が発現している細胞数、及び測定対象の細胞数を入力デバイス130により入力しインターフェイス110fを介して取得するようにしてもよい。
本実施形態において、再発リスクスコア及びKi67発現細胞率は、RAM110cに記憶されているCDK1の活性値と発現量、CDK2の活性値と発現量、Ki67が発現している細胞数、及び測定対象の細胞数から、CPU110aによって算出されるようにしていたが、これに限定されるものではなく、再発リスクスコア及びKi67発現細胞率を測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して取得するようにしてもよい。また、再発リスクスコア及びKi67発現細胞率を入力デバイス130により入力し、入出力インターフェイス110fを介して取得するようにしてもよい。
本実施形態において、癌の再発リスクを「高い」「低い」「中程度」と判定しているが、これに限定されるものではなく、癌の再発リスクを「高い」「低い」と判定してもよい。例えば、再発リスクスコアが閾値以上、かつKi67発現細胞率が閾値以上である場合には癌の再発リスクが「高い」と判定し、再発リスクスコアが閾値未満、またはKi67発現細胞率が閾値未満である場合には、癌の再発リスクが「低い」と判定するようにしてもよい。
実施例1:CDKの活性値を用いた癌細胞の増殖速度の測定
乳癌細胞株をヌードマウスの皮下に移植し、担癌マウスを作成した。移植後、16日〜42日目に腫瘍を摘出し、各腫瘍の重量と、CDK1及びCDK2の比活性比(SA)を測定した。
(1)担癌マウスの作成
19種類の乳癌細胞株を、37度のCOインキュベーターで培養し細胞を回収した(Ca.70%Confliency)。各細胞株の培養条件については下記の表1に示す。
回収した各細胞株を1×10個/mLになるように懸濁し、高濃度マトリジェルで2倍希釈したのち、100uLずつヌードマウスの皮下に移植した。
各細胞株を移植後、16日〜42日後に摘出して重量を測定した後に液体窒素にて凍結保存した。このとき、下記の表1に示すHCC1806については増殖速度が速く16日目に摘出したが、その他の細胞株については、28日〜42日の間で腫瘍細胞が十分な大きさに達したものから摘出した。
Figure 0005553661
摘出した腫瘍細胞の重量をマウスに移植してから細胞を採取するまでの日数で除した値を増殖速度として算出した。また、各培養細胞株における、再発リスクスコアRRSも同時に算出した。
算出した値を下記の表2に示す。
Figure 0005553661
(2)CDK1、及びCDK2の活性値と発現量の測定
摘出した各腫瘍細胞のCDK1及びCDK2の活性値と発現量を測定した。
「測定用試料の調製」
摘出した腫瘍細胞と、緩衝液A(0.1w/v%のノニデットP−40(カルビオケム社)、50mMのトリス塩酸(pH7.4)、5mMのEDTA、50mMのフッ化ナトリウム、1mMのオルトバナジン酸ナトリウム及び100μl/mlのプロテアーゼ阻害剤カクテルを含む)を、腫瘍細胞の濃度が約150mg/mlとなるように懸濁し、チューブに収容した。
そしてチューブ内の腫瘍細胞を電動ホモジナイザを用いてホモジナイズし、腫瘍細胞を破砕して細胞可溶化液を調製した。次に、細胞可溶化液を4℃で15000rpm、5分間遠心分離し、上清を測定用試料として用いた。
「CDK1及びCDK2発現量の測定」
PVDFメンブレン(ミリポア社製)をセットしたブロッターの各ウェルに、測定用試料を50μlずつ収容し、ウェルの底面、すなわちメンブレンの裏面から負圧約250mmHgで約30秒間吸引してメンブレンに測定用試料中のタンパク質を吸着させた。ウェルに洗浄液B(25mMのトリス塩酸(pH7.4)及び150mMのNaClを含む)を100μl収容し、負圧500mmHgで15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。洗浄後、ブロッキング試薬B(4%のBSA、25mMのトリス塩酸(pH7.4)及び150mMのNaClを含む)を各ウェルに40μl収容し、15分間静置した後、負圧500mmHgで15秒間吸引してメンブレンをブロッキングした。
ブロッキング後、ウェルにCDK1に特異的に結合するウサギ抗CDK1抗体(一次抗体)溶液40μlを収容し、室温で約30分間静置してメンブレンのCDK1と一次抗体とを反応させた後、ウェル底面から負圧500mmHgで15秒間吸引した。ウェルに洗浄液Bを100μl収容し、負圧500mmHgで15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。ウェルにビオチン化した抗ウサギIgG−B抗体(二次抗体)溶液40μlを収容し、室温で約30分間静置してメンブレンの一次抗体と二次抗体とを反応させた後、ウェル底面から負圧500mmHgで15秒間吸引した。ウェルに洗浄液Bを100μl収容し、負圧500mmHgで15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。ウェルにFITCで標識したストレプトアビジンを含む標識溶液50μlを収容し、室温で30分間静置して、メンブレンの二次抗体をFITCで標識した後、ウェル底面から負圧500mmHgで15秒間吸引した。
ウェルに洗浄液Bを50μl収容し、負圧500mmHgで15秒間吸引した。これを5回繰り返し、メンブレンを洗浄した。
メンブレンをブロッターからとりはずし、20%メタノールで5分間濯ぎ、20分間室温で乾燥させた後、メンブレンに吸着されたタンパク質の蛍光強度を、蛍光イメージアナライザによって分析、測定した。測定値は、検量線をもとに算出した。
検量線は、0.005%のノニデットP−40及び50μg/mlのBSAを含む洗浄液B中に、5種類の濃度の組換えCDK1を溶解した溶液を、上記と同様に処理したウェルに50μlずつ注入し、上記と同様の実験手順でFITC標識し、蛍光強度を測定して、蛍光強度とCDK1発現量との関係を表したものである。
そして、CDK2発現量の測定は、一次抗体としてウサギ抗CDK1抗体ではなくウサギ抗CDK2抗体を用いること以外は上述のCDK1の発現量測定と同様の実験手順で行なった。
「CDK1及びCDK2の活性測定」
1.5mlエッペンドルフチューブに緩衝液Aを500μl収容し、さらに測定用試料を添加した。測定用試料は、チューブに収容した混合液中の全タンパク質量が100μgとなるように調節して添加された。ここに抗CDK1抗体2μg及び20μlのプロテインAをコートしたセファロースビーズを加えて4℃、1時間静置してCDK1と抗CDK1抗体とを反応させた。反応後、ビーズをビーズ洗浄用緩衝液(0.1w/v%のノニデットP−40及び50mMのトリス塩酸(pH7.0)を含む)で三回洗浄し、15μlの溶解緩衝液A中に再懸濁させて、抗CDK1抗体を介してCDK1が結合したセファロースビーズを含む試料を得た。
この試料に、CDK1の基質溶液(10μgヒストンH110μg、5mMのATP−γS(シグマ社)、20mMのトリス塩酸(pH7.4)及び0.1%のTritonX−100を含む)を添加した。基質溶液は、チューブに収容した混合液の総量が50μlとなるように調節して添加された。これを37℃で10分間震蕩してキナーゼ反応を行ない、ヒストンH1にモノチオリン酸基を導入した。
キナーゼ反応後、2000rpmで20秒間遠心分離してビーズを沈殿させ、上清18μlを採取した。この上清に、結合緩衝液(150mMのトリス塩酸(pH9.2)及び5mMのEDTAを含む)15μlと、10mMのヨードアセチルビオチン溶液(100mMのトリス塩酸(pH7.5)及び1mMのEDTAを含む)とを添加して90分間、室温、暗所で静置することにより、モノチオリン酸基を導入された基質(モノチオリン酸化基質)の硫黄原子にヨードアセチルビオチンを結合させた。尚、ヨードアセチルビオチンとモノチオリン酸基との反応の停止は、2−メルカプトエタノールの添加により行なった。ヨードアセチルビオチンが結合したモノチオリン酸化基質0.4μgを含む試料を、スロットブロッターを用いてPVDFメンブレン上にブロットした。
このPVDFメンブレンを1w/v%のBSAを含む溶液でブロッキングし、ストレプトアビジン−FITC(ベクター社)を添加して37℃で一時間反応させた。反応後、PVDFメンブレンを50mMの洗浄液Bで三回洗浄した。洗浄後、蛍光イメージアナライザを用いてPVDFメンブレンの蛍光分析を行なった。活性値は、検量線に基づいて算出された。
ここで検量線は、活性型CDK1リコンビナント分子の段階希釈を試料とし、上記測定方法を用いて作成することができる。従って、測定されるCDK1の活性1U(ユニット)は、活性型リコンビナント分子(約1ng)のときに与えられるリン酸化基質量蛍光量と同等である。
CDK2の活性値は、抗CDK1抗体、及び活性型CDK1リコンビナント分子ではなく、抗CDK2抗体及び活性型CDK2リコンビナント分子を用いること以外はCDK1の活性値の測定と同様にして測定された。
測定後得られたCDK1及びCDK2の活性値と発現量からCDK1の比活性比、CDK2の比活性比、及びCDK2の比活性比/CDK1の比活性比(以降、比活性比をSAとも言う)を算出した。各細胞株を各パラメータ(CDK1のSA、CDK2のSA、CDK2のSA/CDK1のSA)の中央値で2群に分類し、増殖速度(腫瘍細胞重量/移植後の日数)を比較した。比較した結果を表3に示す。また、表3の各パラメータの結果をグラフ化したものをそれぞれ図2(CDK1)、図3(CDK2)、及び図4(CDK2/CDK1)に示す。
Figure 0005553661
この結果、表1、及び図1〜3に示すように、各パラメータにおいて、パラメータ高値群の方がパラメータ低値群と比較して腫瘍の増殖速度が有意に早いことが示された。このことから、腫瘍のCDK1のSA、CDK2のSA、及びCDK2のSA/CDK1のSAは、腫瘍の増殖速度を反映することが強く示唆された。
実施例2:Ki67の発現細胞数とCDKの発現量及び活性値に基づく、癌の再発リスク判定方法の検証
本実施形態による判定方法を用いた癌患者の再発リスク判定について検証した。
(1)CDK1、CDK2の活性値及び発現量の測定
表4に示す条件を満たした乳癌患者133名から摘出された各乳腺組織に含まれる細胞のCDK1、CDK2の発現量と活性値を測定した。なお、細胞のCDK1及びCDK2の発現量と活性値については、腫瘍細胞の代わりに各乳腺組織を用いた以外は、実施例1と同様の方法で測定した。
Figure 0005553661
得られたCDK1、CDK2の発現量及び活性値を用いて、下記式(13)乃至(15)に基づいて再発リスクスコアRRSを算出した。
RS1;F(x)=0.15/(1+Exp(−(x−1.6)×7) ・・・(13)
RS2;G(y)=0.25/(1+Exp(−(y−1.0)×6) ・・・(14)
RRS=3000×F(x)×G(y)・・・(15)
x=CDK1活性値/CDK1発現量
y=(CDK2活性値×CDK1発現量)/(CDK2発現量×CDK1活性値)
次に、各症例から得られた再発リスクスコアRRSを下記の条件と比較して、癌患者を再発率リスクの高い群(Highグループ)、再発リスクの低い群(Lowグループ)の2つの患者群に分類した。分類した結果、Highグループに該当した患者数は30人、Lowグループに該当した患者数は103人であり、各患者群において5年以内に癌が再発した患者数はそれぞれ7人、4人であった(表5)。
Highグループ: RRS≧3.0
Lowグループ: RRS<3.0
Figure 0005553661
(2)Ki67が発現している細胞の数の測定
上記の乳癌患者133人から摘出された各乳腺組織に含まれる細胞を用いて、Ki67が発現している細胞数の割合を測定した。
測定は、上記採取された細胞をKi67抗原に対するMIB抗体を用いて標識し、自動免疫装置によって染色し、全細胞における染色された細胞数の数を画像解析装置で測定する方法を用いた。
MIB抗体による標識は、ダコ M7240,Monoclonal Mouse Anti−Human Ki−67 antigen(dako社製)を用い、染色検出については、免疫染色用検出キットとして、ダコ K4061,EnVision+DualLink(dako社製 )及びダコ K3468,DAB+(dako社製)を用いた。
また、自動免疫染色機は、S3400 Autostainer(dako社製)を用い、画像解析は、ScanScope CS system (Aperio社製)及び画像解析ソフト Nuclear v9 を用いた。なお、上記の標識、染色検出、及び解析に関しては、添付のプロトコールに沿って行った。
画像解析の結果、測定細胞数における染色された細胞数の割合(MIB陽性細胞率)が30%以上の検体をHighリスク群、MIB陽性率が30%未満の検体をLowリスク群として分類した。分類した結果、Highグループに該当した患者数は54人、Lowグループに該当した患者数は79人であり、各患者群において5年以内に再発した患者数はそれぞれ8人、3人であった(表6)。
Figure 0005553661
(3)再発リスク判定
上記で求めたCDKに基づく再発リスクスコアによる再発リスク判定と、Ki67発現細胞数に基づく再発リスク判定とを組み合わせて、検体をHighリスクとLowリスクに分類した。分類は、再発リスクスコアに基づく再発リスク判定とKi67発現細胞数に基づく再発リスク判定共にHighと判定された検体をHighリスク群とし、共にLowリスク群と判定された検体をLowリスク群とし、その他の検体をInt.リスク群として分類した。分類した結果を表7に示す。
Figure 0005553661
上記で算出した、CDKに基づく再発リスク判定(表5)、Ki67に基づく再発リスク判定(表6)、並びにCDK及びKi67に基づく再発リスク判定(表7)について、Highリスク群とLowリスク群に分類された2群間における累積再発確率(p value)をカプランマイヤー法により解析した。また、Coxの比例ハザードモデルによる多変量解析で得られるハザード比(Hazard Ratio)も算出した。なお、P値は、ログランク検定による2群間の有意確率である。
各判定における累積再発確率、及びハザード比を算出した結果を表8に示す。
Figure 0005553661
表8に示すように、CDK及びKi67に基づく再発リスク判定は、CDKに基づく再発リスク判定、及びKi67に基づく再発リスク判定に比べて、Lowリスクと判定された群の累積生存率が有意に高かった。
また、HR(ハザードレシオ)の値は、CDK及びKi67に基づく再発リスク判定は、CDKに基づく再発リスク判定、及びKi67に基づく再発リスク判定に比べて、顕著に高いことが分かる。このことから、CDK及びKi67に基づく再発リスク判定の結果は、CDKに基づく再発リスク判定、及びKi67に基づく再発リスク判定と比較して、非常に高い信頼性のある判定結果であることがわかる。

Claims (7)

  1. 癌患者から摘出された組織に含まれる細胞のCDK1の活性値と発現量、CDK2の活性値と発現量、及びKi67タンパク質の発現細胞率又は発現量を取得し、
    下記式(1)に基づいて再発リスクスコアを求め、再発リスクスコアと予め設定された第1の閾値とを比較し、Ki67タンパク質の発現細胞率又は発現量と予め設定された第2の閾値とを比較し、
    再発リスクスコア≧第1の閾値かつKi67タンパク質の発現細胞率又は発現量≧第2の閾値であるとき、癌の再発リスクが高いと判定し、
    再発リスクスコア<第1の閾値かつKi67タンパク質の発現細胞率又は発現量<第2の閾値であるとき、癌の再発リスクが低いと判定し、
    前記Ki67タンパク質の発現細胞率が、下記式(2)に基づいて求められた値であることを特徴とする、癌の再発リスク判定方法。
    再発リスクスコア=F(x)×G(y)・・・(1)
    (式中、xはCDK1の比活性を表し、このCDK1の比活性は、CDK1の活性値/CDK1の発現量で示される:
    式中、yは比活性比を表し、この比活性比は、CDK2の比活性/CDK1の比活性で示される)
    Ki67タンパク質の発現細胞率=Ki67タンパク質が発現している細胞の数/測定対象の細胞の数×100・・・(2)
  2. F(x)及びG(y)は、下記式()及び()である、請求項1に記載の癌の再発リスク判定方法。
    F(x)=a/(1+Exp(−(x−b)×c))・・・(
    G(y)=d/(1+Exp(−(y−e)×f))・・・(
    (式中、a〜cはxと癌の再発率との相関関係から定められた定数であり、d〜fはyと癌の再発率との相関関係から定められた定数である)
  3. 再発リスクスコア<第1の閾値かつKi67タンパク質の発現細胞率<第2の閾値であるとき、癌の再発リスクが低いと判定する、請求項1又は2に記載の癌の再発リスク判定方法。
  4. 再発リスクスコア<第1の閾値かつKi67タンパク質の発現細胞率又は発現量≧第2の閾値、又は、再発リスクスコア≧第1の閾値かつKi67タンパク質の発現細胞率又は発現量<第2の閾値であるとき、癌の再発リスクが中程度であると判定する、請求項1〜のいずれか1項に記載の癌の再発リスク判定方法。
  5. 前記Ki67タンパク質の発現細胞率又は発現量は、Ki67タンパク質の発現細胞率である、請求項1〜のいずれか1項に記載の癌の再発リスク判定方法。
  6. 癌患者から摘出された組織が乳腺組織である、請求項1〜のいずれか1項に記載の癌の再発リスク判定方法。
  7. 請求項1〜のいずれか1項に記載の癌の再発リスク判定方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
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