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JP5424331B2 - 肝疾患診断用バイオマーカー - Google Patents

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JP5424331B2 JP2009538198A JP2009538198A JP5424331B2 JP 5424331 B2 JP5424331 B2 JP 5424331B2 JP 2009538198 A JP2009538198 A JP 2009538198A JP 2009538198 A JP2009538198 A JP 2009538198A JP 5424331 B2 JP5424331 B2 JP 5424331B2
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Description

本発明は、肝疾患診断用バイオマーカー(以下、マーカーと云う。)、特に非アルコール性脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease;以下「NAFLD」と言う。)、慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリア(Asymptomatic Carrier;以下、「ASC」と云う。)の識別用マーカー、抗体、診断薬、及び検出方法に関するものである。
一般にNAFLDは、単純性脂肪肝(simple steatosis;以下、「SS」と云う。)と、SSから進展した非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis;以下、「NASH」と云う。)からなると云われている。NASHは、慢性肝炎、肝硬変や肝細胞がんなど予後不良な疾患へ進展するおそれがある。しかし、NAFLDの診断に関しては、今のところ、有用な診断用マーカーが存在しない。NAFLDは、超音波診断するのが普通であるが、正確な診断を期すには、肝生検の病理的所見が必要である。肝生検は、患者の負担が大きく簡便性を欠く。このため、生活習慣病検診には不向きである。NAFLDをより初期の病態で検出することが出来れば、速やかに進展抑制、治療することが出来るので大変有利であることは云うまでもない。
キニノーゲンに関しては、特開平04−110660号公報(特許文献1)によりキニノーゲン・カルバイン複合体からなる肝疾患診断用試薬が開示されている。この複合体診断薬は、慢性肝炎、肝硬変、肝がん,A型肝炎、劇症肝炎等の肝疾患に有用である、とされているが、NAFLDについての記載はない。キニノーゲン全長やキニノーゲン由来の特定生体物質をNAFLD診断用マーカーとして利用することに関する記載もない。
C Cordovaら(非特許文献1)は、健常者に比べて慢性肝炎や肝硬変でキニノーゲンが減少することを報告している。NAFLDを含めた脂肪肝とキニノーゲンの関連を示唆する記述はない。
一方、NAFLDから進展した慢性肝炎、肝硬変、肝がん等の識別マーカーが望まれている。この種のマーカーの一つとして、肝臓で生成され、血清に存在する蛋白であり、免疫反応や感染防御に関与する補体C4が知られている。C4を肝疾患マーカーとして利用した報告例として、特開2006−300689号公報(特許文献2)には、慢性肝炎と肝硬変の患者で検出され、健常者では検出されないマーカー、及び、健常者と慢性肝炎患者で検出され、肝硬変の患者では検出されないマーカーの一つとしてC4が挙げられているが、肝炎ウイルスのASCを含めて、健常者、NAFLD、慢性肝炎相互間を識別することは言及されていない。また、特開2006−308533号公報(特許文献3)には、健常者と肝がん患者において、存在の有無、存在量が異なるタンパク質およびその部分ペプチドとして、補体C4及びその部分ペプチドが検出用マーカーとして有用であると記されている。しかしながら、健常者、NAFLD、慢性肝炎及びASC相互間を識別することは言及されていない。
さらに、Dumestre-Perardら(非特許文献2)には、C型肝炎ウイルス由来の慢性肝炎をインターフェロン、リバビリンなどで治療する過程でC4とリュウマチ因子との相関をモニタリングすることにより、治療実績を判定する方法が報告されているが、健常者、NAFLD、慢性肝炎及びASC相互間を識別することは何ら言及されていない。
特開平04−110660号公報 特開2006−300689号公報 特開2006−308533号公報 C Cordova et al., ‘Hageman factor, highmolecular weight kininogen, and prekallikrein in chronic liver disease’, J ClinPathol , [39], 1003-1005(1986) Dumestre-Perard et al., Clin Exp Immunol, Vol 127, 131-136(2002)
本発明は、簡便に利用可能なNAFLDを識別するマーカー、抗体、診断薬、及び検出方法を提供することを目的としている。
本発明は、簡便に利用可能な慢性肝炎及びASCを識別するマーカー、抗体、診断薬、及び検出方法を提供することを目的としている。
本発明は、前記両者を組み合わせて使用する目的に好適な診断薬、及び検出方法を提供することを目的としている。
本発明は、前記目的を達成したもので、下記の項を含むことを特徴としている。
項1:高分子キニノーゲンの全長、及び/又は高分子キニノーゲン由来の部分ペプチドを含むマーカーであって、高分子キニノーゲン由来の部分ペプチドが下記配列A、B、及びCのいずれか一つである、NAFLDを識別するバイオマーカー。
配列A;Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln
配列B;His Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln
配列C;Lys His Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln
項2:高分子キニノーゲンの全長、及び/又は高分子キニノーゲン由来の部分ペプチドが修飾体を含む項1記載のバイオマーカー。
項3:項1又は2記載のバイオマーカーの少なくとも一つの抗原を認識し、NAFLDを識別する抗体。
項4:項3の抗体がポリクローナル抗体であって、キニノーゲン全長、配列A、配列B及び配列Cからなる部分ペプチドからなる群から選ばれた少なくとも一つをウサギに免疫して得られる抗体。
項5:項3の抗体がモノクローナル抗体であって、キニノーゲン全長、配列A、配列B及び配列Cからなる部分ペプチドからなる群から選ばれた少なくとも一つをマウスに免疫して得られる抗体。
項6:項1又は2記載のバイオマーカー、及び項3乃至5のいずれかに記載の抗体からなる群から選ばれた少なくとも一つを含むNAFLDを識別する診断薬。
項7:補体C4、及び/又はC4由来の部分ペプチドであって、C4由来の部分ペプチドがC4a、C4b、 C4c、下記配列D、及びEからなる群から選ばれた少なくとも一つである慢性肝炎及びASCを識別するバイオマーカー。
配列D;Asn Gly Phe Lys Ser His Ala Leu Gln Leu Asn Asn Arg Gln Ile
配列E;Asn Gly Phe Lys Ser His Ala Leu Gln Leu Asn Asn Arg Gln Ile Arg
項8:項7のバイオマーカーの少なくとも一つの抗原を認識し、慢性肝炎及びASCを識別する抗体。
項9:項8の抗体がポリクローナル抗体である、慢性肝炎及びASCを識別する抗体。
項10:項8の抗体がモノクローナル抗体である、慢性肝炎及びASCを識別する抗体。
項11:項7記載のバイオマーカー、及び項8乃至10のいずれかに記載の抗体からなる群から選ばれた少なくとも一つを含む慢性肝炎及びASCを識別する診断薬。
項12:項1乃至6いずれかに記載のバイオマーカー、抗体、診断薬の少なくとも一つと、項7乃至11のいずれかに記載のバイオマーカー、抗体、診断薬の少なくとも一つとの組み合わせからなる、NAFLD、慢性肝炎及びASCを識別する診断薬。
項13:項1乃至6のいずれかに記載のバイオマーカー、抗体、診断薬の少なくとも一つを用いて、NAFLDを識別する検出方法。
項14:項7乃至11のいずれかに記載のバイオマーカー、抗体、診断薬の少なくとも一つの診断薬を用いて、慢性肝炎及びASCを識別する検出方法。
項15:項13に記載の検出方法と項14に記載の検出方法とを組み合わせてなる、NAFLD、慢性肝炎及びASCを識別する検出方法。
項16:サンプル中の高分子キニノーゲンを認識し、配列A,B及びCの配列を有する高分子キニノーゲンの部分ペプチドのいずれのペプチドも認識しない抗体を用いることを特徴とする、項13乃至15のいずれかの検出方法。
項17:ELISA法により検出することを特徴とする、項16記載の検出方法。
項18:抗体が、サンプル中の高分子キニノーゲンを認識し、配列A,B及びCの配列を有する高分子キニノーゲンの部分ペプチドのいずれのペプチドも認識しない抗体であることを特徴とする、項6又は12記載の診断薬。
以下、本発明において、キニノーゲン系マーカーとは、特に断らない限り、キニノーゲン全長、前記配列A,B、Cをもつ部分ペプチド(以下、部分ペプチドA,B、Cと云う。)、及び後述のキニノーゲンD5領域に属する部分ペプチドを意味する。また、本発明において、C4系マーカーとは、特に断らない限り、C4A、C4Bを含む補体C4、C4a、C4b、及びC4c、並びに前記配列D、Eからなる部分ペプチド(以下、部分ペプチドD、Eと云う。)を意味する。
前記に加えて本発明では下記の態様を好適に含むことが出来る。
a)NAFLD患者生体試料中において、健常者生体試料中と比較し減少または消失する、項1又は2に記載の高分子キニノーゲン全長からなるキニノーゲン系マーカー。
b)NAFLD患者生体試料中において、健常者と比較して増加する場合に、NAFLDに罹患していると判定する、項1又は2記載の部分ペプチドA、B、及びCからなる群から選ばれた少なくとも一つである、キニノーゲン系マーカー。
c)高分子キニノーゲン全長に、部分ペプチドA、B、及びCからなる群から選ばれた少なくとも一つを組み合わせ、健常者と比較して全長マーカーが減少し、部分ペプチドA、B、及びCからなる群から選ばれた少なくとも一つが増加していることをもって、NAFLD罹患しているとするキニノーゲン系マーカーによる検出方法。
d)慢性肝炎及びASC患者生体試料中において、健常者又は他の肝疾患患者の生体試料中と比較し減少または消失する、項7に記載の補体C4全長に含まれるC4系マーカー。
e)慢性肝炎及びASC患者生体試料中において、該マーカーが健常者と比較して多く存在する場合に、慢性肝炎、ASCに罹患していると判定する、項7に記載の補体C4由来のC4a、C4b、 C4c、及び部分ペプチドD、Eからなる群から選ばれた少なくとも一つであるC4系マーカー。
f)補体C4全長に、C4由来の部分ペプチドC4a、C4b、 C4c、D及びEからなる群から選ばれた少なくとも一つを組み合わせ、健常者と比較して全長に含まれるC4系マーカーが減少し、併せて、部分ペプチドC4a、C4b、 C4c、D及びEからなる群から選ばれた少なくとも一つが増加していることをもって、慢性肝炎、ASCに罹患しているとするC4系マーカーによる検出方法。
g)高分子キニノーゲン全長の減少若しくは消失、及び/又は部分ペプチドA、B、Cの少なくとも一つの増加若しくは発現を検出し、C4全長に含まれるC4系マーカーが減少し、C4由来の部分ペプチドC4a、C4b、 C4c、D、Eの少なくとも一つの増加若しくは発現を検出することにより、NAFLD、慢性肝炎及びASCを識別する項14に記載のキニノーゲン系マーカーとC4系マーカーとの併用による検出方法。
h)高分子キニノーゲン全長の増加若しくは発現の検出及び/又は部分ペプチドA、B、Cの少なくとも一つの減少若しくは消失を検出し、C4の増加若しくは検出及び/又は部分ペプチドC4a、C4b、 C4c、D、Eの少なくとも一つの減少若しくは消失を検出することにより、健常者、NAFLD、慢性肝炎及びASCを識別する項14に記載のキニノーゲン系マーカーとC4系マーカーとの併用による検出方法。
i)高分子キニノーゲン全長の増加若しくは発現の検出及び/又は部分ペプチドA、B、Cの少なくとも一つの減少若しくは消失を検出し、併せて、C4の減少若しくは消失及び/又は部分ペプチドD、Eの少なくとも一つの増加若しくは検出することにより、健常者、NAFLD、慢性肝炎及びASCを識別する項14に記載のキニノーゲン系マーカーとC4系マーカーとの併用による検出方法。
本発明によれば、NAFLDの診断のみならず、その後の進展診断の利点も期待できる。
(1)キニノーゲン系マーカーでは、NAFLD患者と健常者とでは発現量の差が大きいために、患者に負担の大きい肝生検によることなく、NAFLDを簡便かつ的確に診断できる。
(2)特に、キニノーゲンの部分ペプチドA、B、Cは、配列中に極性アミノ酸が多く抗原性に優れているために、有用な抗体の作出も容易で、キット化が可能である。とくに部分ペプチドCは、抗体の認識性に優れ、好ましい。
(3)結果的に、メタボリックシンドロームのごとき生活習慣病の予防を含め、未病の多数のヒトを対象とした保険診療が可能となる。
(4)キニノーゲン系マーカーとC4系マーカーの組み合わせからなるマルチマーカーシステムでは、NAFLD患者の慢性肝炎への診断、あるいはASCの検出が可能となり、肝疾患の進展に応じた早期の治療方針の決定が容易となる。
図1は、キニノーゲンにおけるアミノ酸配列のドメイン構成を示す模式的図である。 図2は、補体C4(C4A、C4B)、並びにその分解生成物のドメイン構成を示す模式的図である。 図3は、クリンプロットを用いたNAFLD患者と健常者のスペクトル比較を示すグラフである。(A)はAutoflexのリニアーモードにより測定したNAFLD患者と健常者の典型的なスペクトルパターン、(B)は(A)の1800〜2300m/z付近の拡大図である。NAFLD患者で見られる3本のピークは、左からそれぞれ1942m/z、2079m/z、2207m/zのピークである。(A),(B)のグラフにおいて、縦軸はピーク強度、横軸は分子量である。(C)はNAFLD患者と健常者のピーク強度をプロットしたグラフで、(a)は1942m/z、(b)は2079m/z、(c)2207m/zのピークである。 図4は、マーカー候補のペプチドのMS/MSスペクトルを示すグラフで、(A)は1942m/z、(B)は2079m/z、(C)は2207m/zである。 図5は、AbD Serotec社製 RABBIT ANTI HUMAN HMW-KININOGEN(抗キニノーゲンポリクローナル抗体)によるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。 図6は、シグマアルドリッチジャパン社製Rabbit-anti-human-kininogen(抗キニノーゲンポリクローナル抗体)によるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。 図7は、GeneTex社製 HMW KininogenLight Chain antibody [1.B.709](抗キニノーゲンモノクローナル抗体)によるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。 図8は、R&D Systems社製 Anti-human-kininogen/Kininostatin Antibody(抗キニノーゲンモノクローナル抗体)によるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。 図9は、抗キニノーゲンポリクローナル抗体(AbD Serotec社製、シグマアルドリッチジャパン社外注)の免疫沈降法による、1942m/z(a)、2079m/z(b)、(2207m/z(c)ピークの測定結果を示すグラフである。縦軸はピーク強度、横軸は分子量である。 図10は、抗キニノーゲンモノクローナル抗体(GeneTex社製、R&D Systems社製)の免疫沈降法による、1942m/z(a)、2079m/z(b)、2207m/z(c)ピークの測定結果を示すグラフである。縦軸はピーク強度、横軸は分子量である。 図11は、プロテインチップを用いたNAFLD患者と健常者のスペクトル比較を示すグラフである。(A)はSELDIで測定したNAFLD患者と健常者の典型的なスペクトルパターン、(B)は(A)の1800〜2300m/z付近の拡大図である。NAFLD患者で見られる3本のピークは、左からそれぞれ1942m/z、2079m/z、2207m/zのピークである。(C)はNAFLD患者と健常者のピーク強度をプロットしたグラフで、(a)は1942m/z、(b)は2079m/z、(c)は2207m/zのピークである。 図12は、プロテインチップを用いたACS患者と健常者のスペクトル比較を示すグラフである。(A)はSELDIで測定したACS患者と健常者の典型的なスペクトルパターン、(B)は(A)の1600〜2100m/z付近の拡大図である。ACS患者で見られる2本のピークは、左から1738m/z、1896m/zのピークである。(A)、(B)のグラフにおいて、縦軸はピーク強度、横軸は分子量である。(C)はASC患者と健常者のピーク強度をプロットしたグラフで、(a)は1738m/z、(b)は1896m/zのピークである。 図13は、スイスプロットのデータベースを用いてASC患者で同定したマーカー候補のペプチドのMS/MSスペクトルを示すグラフで、(A)は1738m/z、(B)は1896m/zである。 図14は、クリンプロットシステムを適用して1738及び1896m/zのピークの解析を行った結果を示すグラフである。(a)がMS-1738m/z、(b)がMS-1896m/zである。 図15は、ELISA法(BD OptEIA ELISA Kit)によるC4aの血清蛋白濃度の検出結果を示すグラフである。 図16は、クリンプロットを用いたASC患者と健常者のスペクトル比較を示すグラフである。(A)はAutoflexのリニアーモードにより測定したASC患者と健常者の典型的なスペクトルパターン、(B)は(A)の1600〜2000m/z付近の拡大図である。ASC患者で見られる2本のピークは、左から1738m/z、1896m/zのピークである。(C)はASC患者と健常者のピーク強度をプロットしたグラフで、(a)は1738m/z、(b)は1896m/zのピークである。 図17は、本発明のキニノーゲン系及びC4系マーカーを用いる、肝疾患識別のフローの模式図(マルチマーカー構成)である。 図18は、キニノーゲン系のELISA法によるNAFLD患者と健常者の鑑別を示すグラフである。
キニノーゲン全長又は部分ペプチドは、糖鎖付加体のごとき高分子キニノーゲン翻訳後修飾体を含む。即ち、高分子キニノーゲン全長は、配列表1に示す644のアミノ酸配列からなる蛋白質である。キニノーゲン遺伝子は11個のエクソン(E1〜E11)から構成されており、図1に示すように、転写の際のスプライシングの相違により、高分子キニノーゲンと低分子キニノーゲンに大別される(Robert W, Colman et al., ‘Contact System: A Vascular BiologyModulator With Anticoagulant, Profibrinolytic, Antiadhesive, and Proinflammatory Attributes’ Blood,Vol 90 [10], 3819-3833 (1997))。高分子キニノーゲンは、アクセッション番号がP01042(スイスプロット;エクスーパーシィ)のキニノーゲン(アミノ酸644個、約71KDa、その糖鎖付加体は約120KDa)で6個の機能ドメイン(D1〜D6)、低分子キニノーゲンは5個のドメイン(D1〜D5)で構成されている。両者は、D1〜D3までは同一のエクソン(E1〜E9)より転写翻訳されるため、同じアミノ酸配列を有するが、mRNAのスプライシングの違いによりD4からC末端側の配列が異なる。多くの場合、これらのキニノーゲンは、糖鎖付加体のごとき翻訳後修飾体を含む。本発明の部分ペプチドは、配列表2〜4に示すように、後述する配列A、B、Cからなり、これらは高分子キニノーゲンのD5領域に属するペプチドである。
〔マーカー検出用の抗体〕
本発明のNAFLDの識別に際しては、前述の血清中のキニノーゲン全長、部分ペプチドA、B、Cをマーカーとして直接使用することもできるが、定法によりこれらのマーカーを認識する抗体を作成し、その抗体をもって診断するのが簡便で望ましい。かかる抗体は、公知技術を用いて作製することができる。なお、抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体、またはF(ab)フラグメントおよびFvフラグメント、一本鎖抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびFab発現ライブラリを含むがこれに限定されないその抗原結合タンパク質を包含する。キニノーゲンを特異的に認識するには、モノクローナル抗体が好ましい。
本発明のポリクローナルをつくるには、キニノーゲン全長、部分ペプチドA、B、Cをウサギ、マウス、ラット、モルモット、ヤギなどの宿主動物に免疫補助剤と共に投与して免疫する。必要に応じて、高分子物質をキャリアとして結合させ、免疫することも出来る。免疫法には、皮内多数個所に繰り返し投与する方法や、リンパ節に直接投与する方法などがある。免疫を行うと、一次免疫応答では主としてIgMクラスが産生される。二次免疫応答では主としてIgGクラスが産生される。産生された抗体を取り出すために、採取した血液から分離した血清に、必要に応じて硫安沈殿を施してから精製する。精製には、透析、ゲルろ過、Protein A/G カラムクロマトグラフィーや抗原カラムクロマトグラフィーを適用することが出来る。
本発明の方法に用いられるモノクローナル抗体は、常法に基づき、本発明のキニノーゲン全長あるいはペプチドCをマウスに免疫し、その抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させ、得られるハイブリドーマから抗キニノーゲンモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これを培養して生産されたモノクローナル抗体を回収することにより得ることができる。
モノクローナル抗体の代表的な作製方法を以下に記載する。抗原で免疫した動物から得られる抗体産生細胞と、ミエローマ(骨髄腫)細胞との細胞融合によりハイブリドーマを調製し、得られるハイブリドーマからこれらの抗原を特異的に認識する抗体を産生するクローンを選択することにより調製することができる。
動物の免疫に用いる抗原としてはキニノーゲン全長、あるいは上記の部分ペプチドA,B,Cを使用する。上記の抗原を哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウマ、サル、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどの宿主動物に投与する。他に免疫動物としては、ニワトリなどの鳥類を用いることもできる。免疫は、既存の方法であればいずれの方法を用いることもできるが、主として静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などにより行う。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間で、好ましくは4〜21日間隔で免疫する。
最終の免疫日から一定期間後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞が一般体である。抗原の免疫は、例えば、1回にマウス1匹当たり、100μg用いられる。
免疫した動物の免疫応答レベルを確認し、また、細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選択するため、免疫した動物の血中抗体価、又は抗体産生細胞の培養上清中の抗体価を測定する。抗体検出の方法としては、公知技術、例えばエンザイムイムノアッセイ(EIA )、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素連結イムノソルベントアッセイ(以下、「ELISA」と云う。)などが挙げられる。
抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウス、ラット、ヒトなど種々の動物に由来し、当業者が一般に入手可能な株化細胞を使用する。使用する細胞株としては、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT 培地)で生存できず、融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。一般的に8-アザグアニン耐性株が用いられことが多く、この細胞株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠損し、ヒポキサンチン・アミノプリテン・チミジン(HAT)培地に生育できないものである。
ミエローマ細胞としては、例えば、P3x63Ag8.653、P3x63Ag8U.1、NS-1、MPC-11、SP2/0 、F0、S194、R210などを挙げることが出来る。
抗体産生細胞は、脾臓細胞、リンパ節細胞などから得られる。即ち、前記各種動物から脾臓、リンパ節などを摘出又は採取し、これら組織を破砕する。得られる破砕物をPBS、DMEM、RPMI-1640などの培地又は緩衝液に懸濁し、ステンレスメッシュなどで濾過後、遠心分離を行うことにより、目的とする抗体産生細胞を調製する。
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、MEM、DMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用の培地中で、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを、例えば、混合比1:1〜1:10で融合促進剤の存在下、30〜37℃で1〜15分間接触させることによって行われる。細胞融合を促進させるためには、平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はセンダイウイルスなどの融合促進剤や融合ウイルスを使用することが出来る。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法などが挙げられる。即ち、細胞懸濁液を適切な培地で希釈後、マイクロタイタープレート上に撒き、各ウェルに選択培地(HAT 培地など)を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
ハイブリドーマのスクリーニングは、限界希釈法、蛍光励起セルソーター法などによって行い、最終的にモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを取得する。取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法や腹水形成法などが挙げられる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを、例えば、10〜20%ウシ胎児血清含有RPMI-1640、MEM、又は無血清培地などの動物細胞培養用培地中で、通常の培養条件(例えば37°C、5% CO)で2〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法においては、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種の動物の腹腔内にハイブリドーマを投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜4週間後に腹水又は血清を採取する。
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜に選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製する。
本発明の抗キニノーゲン抗体としては、市販あるいは報告されている公知のポリクローナル、あるいはモノクローナル抗体の中から、本発明のキニノーゲン、その生体分解性生物、例えば、部分ペプチドA、B、Cを認識するものの中から選抜することが出来る。また、上述の方法などで新たに調製することも出来る。
ポリクローナル抗体としては、キニノーゲン全長、部分ペプチドA、部分ペプチドB及び部分ペプチドCからなる群から選ばれた少なくとも一つをウサギに免疫して得られる抗体が好ましい。例えば、Rabbit-anti-human-HMW-kininogen(RABBIT ANTIHUMAN HMW-KININOGEN 5575−4957/AbDserotec社製)、及びK438-Q456peptidesに特異的なRabbit-anti-human-kininogen(シグマアルドリッチジャパンン社特注)が好ましい。モノクローナル抗体としては、キニノーゲン全長、部分ペプチドA、部分ペプチドB及び部分ペプチドCからなる群から選ばれた少なくとも一つをマウスに免疫して得られる抗体が好ましい。具体的には、(Mouse-monoclonal)HMW Kininogen Light Chainantibody [1.B.709]: Gene Tex,Inc.社製)及びK438-S531peptides に特異的な、(Mouse-monoclonal)Anti-human-kininogen/Kininostatin Antibody: R&D Systems社製)などが好ましい。
上述の本発明のマーカーを用いて定法により診断薬を調製することが出来る。さらに、上述の各種の抗体を用いてキット化して簡易な診断に利用することもできる。
本発明において、NAFLD診断用のマーカー候補は、健常者とNAFLD患者の血清プロテオーム解析スペクトルのピーク強度を比較し、統計学的検定値もしくはピーク強度の絶対値または両者の有意な差異に基づき選抜したものである。本発明におけるNAFLD診断用マーカーは、こうして選抜されたマーカー候補を同定した蛋白質・部分ペプチドである。測定方法は特に限定されず、当業者に公知の様々な蛋白質定性・定量法を用いることが出来る。例えば、二次元電気泳動を含むゲル電気泳動を組み込んだプロテオーム解析、LC-MSを利用したショットガン法、特定生体物質に対する抗体を利用する方法などを挙げることが出来る。具体的には、抗体を用いた免疫化学的検出法、例えば、ELISA法、ラジオイムノアッセイ(RIA)法、や抗体チップ(ガラスなどの固相表面に抗体を高密度にはったプロテインチップ)を用いる方法、ウエスタンブロット法、組織切片の免疫染色による方法などを用いることができる。また、マススペクトル(MS)分析検出法としては、例えば後に詳述する、チップ上あるいはカラムなどで分画後、チップ上あるいはカラムからの溶出液中のタンパク質をMSで分子量測定する方法による。さらに、液体クロマトグラフィー法やドットブロット法を採用することもできる。
本発明によるNAFLD診断用マーカーとなるキニノーゲン全長及びその部分ペプチドA、B、Cについて、その検出、選抜、同定について以下に述べる。
健常者またはNAFLD患者の血清は、採血の後、静置あるいは遠心分離などにより得る。これらの血清から血清蛋白質・部分ペプチドを検出するには、クリンプロットシステム(ブルカー・ダルトニクス社)やプロテインチップシステム(バイオラット社)を用いる。両システムでは、表面がさまざまな官能基で修飾された交換体、例えば陽イオン交換体、銅イオン交換体(IMAC-Cu)などを単独または併用できる。これらの交換体を使用することにより、官能基に親和性のある蛋白質・部分ペプチドが捕捉される。
クリンプロットシステムを用いる場合には、専用の陽イオン交換ビーズタイプのクリンプロット プロフィリング キット100MB-WCX、(ClinProt Profiling Kit 100MB-WCX、ブルカー・ダルトニクス社、以下「WCXビーズ」という)を使用するのが望ましい。捕捉された蛋白質・部分ペプチドは、被検試料として用い、質量分析計で測定してスペクトル上でのピークとピーク強度を得る。
WCXビーズの使用にあたっては、キットの処方に従い、まずWCXビーズと採取した血清とを混ぜ合わせる。キットを洗浄容器中、例えばPCRチューブで、付属のWCXバインディング溶液(WCX binding solution)とビーズを混合し、血清を加えて、一定時間静置(インキュベート)する。静置後に上清をピペット等で除去する。WCXビーズの洗浄は、通常複数回繰り返し、クリンプロット溶出液を得る。
得られたクリンプロット溶出液は、例えばα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(α-cyano-4-hyfroxycinamicacid、ブルカー・ダルトニクス社、以下「CCA」と云う。)と有機溶媒の混合溶液(以下「CCA溶液」と云う。)に加え、混合して、一定量を薄膜上に滴下、一定時間静置し、溶出液中の蛋白質、部分ペプチドとCCAを結晶化させて質量分析用の被検試料とする。被検試料の対象蛋白質には、精製等の困難な作業を必要とせず、MS/MSイオンサーチにより直接測定できる観点から、ピーク強度は3000m/z以下が望ましい。
他のプロテインチップシステムによる場合も、基本的にはその処方に従う。交換体には、陽イオン交換チップ、逆相チップ、金属修飾チップなどを単独または併用して用いることができる。プロテインチップで処理する血清の濃度としては、良質なMS/MSスペクトルを得るという観点から、1%(Vol/Vol)以上で処理することが好ましい。ピーク感度は、血清処理濃度を調整すれば改善できる。
質量分析計には、用いるイオン化の原理としては、サンプル調製の簡便さという観点から、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(以下、「MALDI」と云う。)を好適に使用する。用いる質量分離の原理としては、飛行時間型(以下、「TOF」と云う。)を好適に使用する。従って、質量分析計には、MALDI-TOF-MS、より具体的には Autoflex TOF-TOF(ブルカー・ダルトニクス社、以下「Autoflex」という)やUltraflex TOF-TOF装置 (ブルカー・ダルトニクス社)を好適に使用する。検出の手法としては、リニアモードとリフレクターモードのいずれを用いてもよいが、検出感度の観点からリニアモードで測定することが好ましい。また、プロテインチップと表面改良型飛行時間型質量分析計(バイオラット社、SELDI-TOF-MS、以下「SELDI」と云う。)からなるプロテインチップシステム(バイオラット社)を採用することもできる。
例えば、Autoflexの使用にあたっては、まずリニアーモードで測定して、マススペクトルを得る。リニアーモードで測定すると、後述の実施例1の表1に例示するように、健常者の血清とNAFLD患者の血清とでピーク強度の異なる多数のピークが見出される。本発明では、これらの多数のピークの中から、統計学的検定もしくはピーク強度の絶対値、またはその両者の組み合わせで、マーカー候補蛋白質・部分ペプチドを選抜する。複数のマススペクトルを比較する場合、m/z値が0.1%以内の誤差でマッチするピークは、同じ分子由来のピークとみなすことができる。本発明で同定された配列を有する下記の三つの部分ペプチドは、かかる基準により選抜された本発明のNAFLD診断用マーカー候補である:部分ペプチドA(約1942m/z)、部分ペプチドB(約2079m/z)、部分ペプチドC(約2207m/z)。
本発明では、これらのマーカー候補であるキニノーゲンを、例えばMS/MS解析により同定する。同定用の被検試料は、薄膜法により調製することができる。例えば、アンカーチップのアンカー表面に、予めCCAの飽和アセトン溶液を塗布し、CCA溶液の薄膜を作製する。次に、NAFLD患者血清のWCXビーズ溶出液約1μlを薄膜上に滴下し、約5分間静置して、溶出液中の蛋白質、部分ペプチドとCCAを結晶化させる。静置後、結晶を0.1%のトリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid(以下「TFA」という)3μlで3回程度洗浄し、脱塩する。
MS/MSスペクトルの取得にあっては、例えばAutoflexのリフレクターモードにより高精度で測定し、目的ピーク(親イオン)とその断片(部分ペプチドのイオン)の分子量を得る。分子量の補正(キャリブレーション)は、ペプチドキャリブレーションスタンダード2(peptide calibration standard 2、ブルカー・ダルトニクス社、以下「PCS-2」という)で行なうことができる。得られたMS/MSスペクトルより、バイオツール(ブルカー・ダルトニクス社)を用いて、親イオンとそのフラグメントイオンのピークリストを作成し、マスコットサーチ(マトリックスサイエンス社)のMS/MSイオンサーチによりピークの同定を行えばよい。
通常は、親イオンのピーク(1942、2079、2207m/z)と共に、図3に示すように多くの部分ペプチドのイオンのピークが検出される。このスペクトルからピークリストを作成し、MS/MSイオンサーチでピークに由来する部分ペプチドを同定する。その結果、本発明の3つのNAFLD診断用マーカー候補のピーク(A)1942m/z、ピーク(B)2079m/z、ピーク(C)2207m/zは、すべて高分子キニノーゲンの一部であるドメインD5に属する下記の部分ペプチドに相当することが判明した。
配列A;Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln(440〜456番目)
配列B;His Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln(439〜456番目)
配列C;Lys His Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln(438〜456番目)
本発明のマーカーによるNAFLDの診断は、次の方法により可能である。例えば、質量分析による場合は、健常者ピーク強度の平均値に標準偏差を足したカットオフ値を用いて閾値を設定し、NAFLDか否かを診断する。キニノーゲンの各部分ペプチドA、B、Cを、各々単独でNAFLD診断用のマーカーとして使用する場合には、定法によりその感度(陽性正答率)と特異度(陰性正答率)を求めることにより、高い感度と特異度で診断することができる。例えば、表1に示すように1942m/zのピークを用いると、NAFLD患者44例中40例をNAFLDと診断(感度90.99%)、健常者24例中21例を健常者と診断(特異度87.5%)することができる。
また本発明では、キニノーゲンの各部分ペプチドA、B、Cの2種以上を組み合わせたマルチマーカーとして、より的確なNAFLDの診断や病態把握を行うことができる。さらに本発明の部分ペプチドA、B、C以外のNAFLD診断用マーカーと組み合わせたマルチマーカー診断、あるいは他の血液もしくは血清検査値との組み合わせによる複合診断も可能である。
特に、本発明のキニノーゲン部分ペプチドA、B、Cは、NAFLDの進展とともに、後述の実施例1[3]NAFLD患者血清におけるキニノーゲンの分解パターンの解明結果が示すように、キニノーゲンの全長が分解して生成したものと推定できる。このことから、キニノーゲン全長との組み合わせにより、部分ペプチドA、B、Cの少なくともいずれか一つの増加と、キニノーゲン全長の減少とで、NAFLDの的確な診断、病態の進展把握の可能性もある。また、NAFLDは、肝硬変、肝癌に進行する初期段階とも言えることから、肝癌の早期診断マーカーとしての可能性もある。
キニノーゲン全長は、またC Cordovaら(非特許文献1)が示すように、肝硬変や肝癌が進展すると低下する傾向にあることから、本発明の部分ペプチドA、B、C、あるいは他のマーカー、他の検査値との組み合わせにより、NAFLDから肝硬変や肝癌への進展度合いを診断することも可能である。
本発明において、マーカーとして上記キニノーゲン全長および部分ペプチドのうち少なくとも一つのタンパク質及び/又は部分ペプチドを用いることができるが、好ましくは2種類以上、さらに好ましくは3種類以上、4種類のタンパク質及び/又は部分ペプチドを用いるとより高精度でNAFLDと健常者を識別することができる。この場合全長と部分ペプチドあるいは部分ペプチドのみの組み合わせであってもよい。このように、全長及び/又は部分ペプチドをマーカーとして用いることにより、NAFLDをより正確に検出することができ、またその進行状態を的確に判断することができる。
なお、本発明において、マーカーを定量してもよいし、定性により存在、非存在を決定してもよい。キニノーゲン全長または部分ペプチドをマーカーとして用いる場合、各マーカーを定量し、正確な濃度を得た上で、タンパク質/部分ペプチドプロファイルを得た方が正確な判断をし得るが、マーカーの種類が増える場合、それぞれのマーカーの存在または非存在を定性的に測定し、存在または非存在に関するタンパク質/部分ペプチドプロファイルを得れば正確な判断が可能になる。
上述のように近年、各種の疾患に対するマルチマーカーシステムによる確度の高い検出方法が提唱されている。本発明においても、これらの抗体を用いて、ヒトの血液または血清中のNAFLD診断用マーカーの有無あるいは量を検出する血液または血清の検定や測定にも、広く適用可能である。その意味でキニノーゲン系のマーカーの少なくとも一つに、他の系統のマーカーを組み合わせることが有利である。例えば、本発明者がマーカーとして見出したC4関連の一連の特定生体物質も含めた後述するC4系マーカーを組み合わせることにより、健常者、NAFLD、慢性肝炎及びASCを識別するマルチマーカーによって判定することが出来る。
「C4」とは、補体第4成分(C4 fraction of complement)を指し、分子量19.8万の糖蛋白で、翻訳後のプロセッシングにより3本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合で結合した構造をしている。血中補体成分の中ではC3についで多い。C4のイソフォームには、C4A、アクセッション番号がP0C0L4(スイスプロット;エクスーパーシィ)、及びC4B、アクセッション番号がP0C0L5(スイスプロット;エクスーパーシィ)等が知られている。C4遺伝子は、C2、factorBの遺伝子とともに第6染色体のHLA領域に位置し、肝細胞や単球、マクロファージで1本鎖のproC4として合成され、糖鎖の結合、3本鎖への切断を受けC4として分泌される。C4Aは病原体の除去などに関与し、C4Bは主として殺菌および細胞破壊(例えば、溶血)に関与しているとされている。本発明の説明において、とくに断らない限り、C4はこれら二つのアイソフォームも包括して述べる。図2(C4の分解過程)に示すように、C4(C4A、C4B)、並びにその分解生成物である、C4A及びC4Bの配列を各々配列表5、6に示す。C4は古典経路の中で、C1、C2とともに初期反応補体成分と呼ばれ、C1の活性をC3に伝達するうえで重要な役割を果たしている。まずC1が活性化されると、ついでC4はC4a、C4bに分解される。C4はC1以外にも、種々のセリンプロテアーゼにより同様に分解される。C4活性化の結果生じたC4bは、(1)C2と結合しC4bC2の形成、(2)C4b binding protein(C4bp)との結合、(3)C4b receptor(CR1と同一)との結合、などが起こる。C4aは液相に放出されるが、これはアナフィラトキシン活性を示す。(1)の機序により活性の伝達が生じ、幾つか反応を経て、C4bは液相中に切り離されるC4cと、細胞膜上に残るC4dに分解される。その結果C4b活性は失われる。
本発明では、キニノーゲン系のマーカーに組み合わせて、これらC4系のマーカーであるC4又は前記の部分ペプチドについて、患者における濃度を、健常者における濃度と比較することにより健常者、NAFLD、慢性肝炎及びASCを判定する。判定の為の具体的な測定方法としては、従来公知の種々の方法を挙げることが出来る。即ち、C4、C4a、C4b、及びC4cの測定は、タンパク質・ペプチドを定量する場合、上述した種々の検出法を採用することが出来る。
本発明によるC4由来の部分ペプチドD、Eは、キニノーゲンの部分ペプチドの場合と同様に、同定用の被検試料を調製した後、MS/MS解析により同定された(後述の実施例2)。
かくして、健常者、NAFLD、慢性肝炎、ASCの血清でピーク強度の異なる多数のピークが見出された。本発明では、これらの多数のピークの中から、統計学的検定もしくはピーク強度の絶対値、またはその両者の組み合わせで、マーカー候補となる蛋白質・部分ペプチドを選抜する。複数のマススペクトルを比較する場合、m/z値が0.1%以内の誤差でマッチするピークは、同じ分子由来のピークとみなすことができる。下記の部分ペプチドは、かかる基準により選抜された本発明の肝疾患識別用マーカー候補である。
配列D;Asn Gly Phe Lys Ser His Ala Leu Gln Leu Asn Asn Arg Gln Ile
配列E;Asn Gly Phe Lys Ser His Ala Leu Gln Leu Asn Asn Arg Gln Ile Arg
本発明によれば、図16に示すように先ずキニノーゲン系マーカーを用いて、健常者とNAFLDを識別し、次いでC4系のマーカーを組み合わせことにより、NAFLD の患者における慢性肝炎とASC患者を簡便に識別することが出来る。とくに慢性肝炎の進展を簡便に判別し、適切な治療方針を早期に適切に立てることが出来る。
〔実施例1〕(キニノーゲン)
[1]クリンプロットシステムによる血清ペプチドの検出
(1)材料と方法
血清試料として、NAFLD患者44例、及び健常者血清24例を用いた。血清5μlをWCXビーズに添加し、WCXビーズに血清蛋白質のペプチドを吸着させた。未吸着のペプチドを洗浄除去した後、溶出液を加え、WCXビーズに吸着したペプチドを溶出した。
次いで、ペプチドとマトリックスの結晶を調製した。調製では、CCA1mgにアセトン1mlを加え、その300μlとエタノール600μlをよく混合した。調製したCCA溶液18μlにクリンプロット溶出液2μlを加えて混合し、そのうちの1μlを薄膜上に滴下、風乾させペプチドとCCAを結晶化させた。
ピークの検出は、Autoflexのリニアーモード測定により行い、マススペクトルを得た。健常者とNAFLD患者のマススペクトルをクリンプロツール(ブルカー・ダルトニクス社)で比較し、NAFLD患者で増加するピークをNAFLDのマーカー候補とした。診断マーカー候補の探索は、3000m/z値以下の質量範囲で行った。複数のマススペクトルの比較では、m/z値が0.2%以内の誤差でマッチするピークは、同じ分子由来のピークとみなした。また、NAFLD患者群と健常者群で有意差があるのかどうかの検定は、スチューデントのt検定で行い、P<0,05のピークを有意と判定した。
(2)結果
NAFLD患者群と健常者群のスペクトルから、さらにNAFLD患者群で有意に増加しているピーク(P<0,05)を検出し、さらに、ピーク強度50以上のピークを選抜した。ピークのリストを表1に示す。また、NAFLD患者と健常者の典型的なスペクトルパターンを図3(A)に示す。これらのピークの内、1942m/z、2079m/z、及び2207m/zのピーク(図3(B))は、他のピークと比べ特にピーク強度が高かった(表1)。
Figure 0005424331
これら3本のピークは、サンプル毎にピーク強度をプロットしても、図3(C)中の(a)、(b)、(c)のようにNAFLD患者で著しく高値を示した。次に診断のカットオフ値を(健常者の平均ピーク強度+2×標準偏差)と設定し、カットオフ値以上をNAFLD、それ未満を健常者とし、NAFLD患者44例、健常者24例の診断を行った。まず、1942m/zのピークで診断を行ったところ、NAFLD患者44例中40例をNAFLDと診断(感度90.9%)、健常者24例中20例を健常者と診断(特異度87.5%)した。2079m/zのピークでは、NAFLDの診断感度72.7%、特異度87.5%であった。また、2207m/zのピークでは、NAFLDの診断感度70.5%、特異度91.7%であった。以上の結果、1942m/z、 2079m/z、及び2207m/zのピークをNAFLDのマーカー候補とし、これらのピークに由来するペプチドを同定することにした。
[2]NAFLDマーカーとしてのキニノーゲンの同定
1942m/z、2079m/z、及び2207m/zのピークに由来するペプチドを同定するため、MS/MSイオンサーチ法を行った。詳細を以下に記す。
(1)材料と方法
MS/MSスペクトルの取得は、次のように行った。まず、ペプチドとマトリックスの結晶を薄膜法で調製した。アンカーチップのアンカー表面に、予めCCAの飽和アセトン溶液を塗布し、CCAの薄膜を作製した。次に、NAFLD患者血清のクリンプロット溶出液1μlを薄膜上に滴下し、5分間静置して、溶出液中のペプチドとCCAを結晶化させた。静置後、結晶を0.1%TFA3μlで3回洗浄した。
目的ピークの分子量は、Autoflexのリフレクターモード測定により、高精度に測定した。MS/MSスペクトルの取得はリフトモード測定により行い、目的ピーク(親イオン)とその断片(部分ペプチドのイオン)の分子量を得た。分子量の補正(キャリブレーション)は、peptide calibration standard 2 (ブルカー・ダルトニクス社)で行った。得られたMS/MSスペクトルより、バイオツール(ブルカー・ダルトニクス社)を用いて、親イオンとそのフラグメントイオンのピークリストを作成し、マスコットサーチ(マトリックスサイエンス社)のMS/MSイオンサーチによりピークの同定を行った。なお、同定には、スイスプロットのデータベースを用いた。
(2)結果
図4に、(A)1942m/z、(B)2079m/z、及び(C)2207m/zのMS/MSスペクトルを示す。これらのスペクトルのピーク情報とマッチするペプチドを検索したところ、3本のピークすべてが高分子キニノーゲンの一部であることが分かった。高分子キニノーゲンのアクセッション番号とペプチド配列を表2に示す。
Figure 0005424331
いずれのペプチドも高分子キニノーゲンのドメイン5に属し、1942m/zは440〜456番目、2079m/zは439〜456番目、2207m/zは438〜456番目のアミノ酸配列であることが分かった。
[3]NAFLD患者血清における全長キニノーゲンの分解
同定されたペプチドは高分子キニノーゲンのドメイン5の一部である。なお、キニノーゲン蛋白質の全長は分子量約120kDaである。同定された3つのピークは、全長の一部であるため、NAFLD発症に伴い、キニノーゲンの分解が亢進している可能性がある。なお、NAFLDとキニノーゲンとの関連はこれまで知られていない。そこで、抗キニノーゲン抗体を用いたウエスタンブロッティングを用いて、NAFLD患者において、全長キニノーゲンが分解されているのかどうかを調べた。
(1)材料と方法(ポリクローナル抗体)
電気泳動サンプルの調製は以下のように行った。まず、NAFLD患者と健常者の血清5μlとPBS45μlを混合し、ここにアセトン400μl添加した。-80℃で一晩放置することで血清蛋白質をアセトン沈殿した。沈殿した蛋白質を遠心分離で回収し、電気泳動用サンプルバッファーに溶解後、100℃で5分処理することで、蛋白質を完全に変性、還元し、8%アクリルアミドゲルでSDS-PAGEを行い、蛋白質を分離した。分離した蛋白質をPVDF膜に転写し、5%スキムミルク/0.05% Tween20/PBSでブロッキング後、夫々、キニノーゲン全長には、RABBITANTI HUMAN HMW-KININOGEN Catalog Number 5575−4957(AbD serotec社製)、一方、同定した部分ペプチドCを特異的に認識する抗体には、K438-Q456 peptidesに特異的な Rabbit-anti-human- kininogen(シグマアルドリッチジャパン社に外注)を用いて1時間反応させた。続いて、HRP標識2次抗体で処理した後、ECLWestern Blotting Detection System(GEヘルスケア社)で特異的バンドを検出した。
(2)結果
抗キニノーゲンポリクローナル抗体(上記のAbD Serotec社製 RABBIT ANTI HUMANHMW-KININOGEN)によるウエスタンブロッティングの結果を図5に示す。健常者において、19例中18例で約120kDaの全長の高分子キニノーゲンが検出された。また、約65kDaの高分子キニノーゲンの重鎖のバンドと約45kDaの軽鎖のバンドが検出された。これに対し、NAFLD患者では、37例中36例で全長の高分子キニノーゲンのバンドが消失していた。同様に同定ペプチドを特異的に認識するRabbit-anti-human- kininogen(シグマアルドリッチジャパン社に外注)の結果を図6に示す。健常者において、4例中4例で約120kDaの全長の高分子キニノーゲンが検出された。NAFLD患者では、8例中8例で全長の高分子キニノーゲンのバンドが消失していた。以上の結果、NAFLD患者において、全長の高分子キニノーゲンが減少していることが分かった。
(3)材料と方法(モノクローナル抗体)
電気泳動サンプルの調製は以下のように行った。まず、NAFLD患者と健常者の血清5μlとPBS45μlを混合し、ここにアセトン400μl添加した。-80℃で一晩放置することで血清蛋白質をアセトン沈殿した。沈殿した蛋白質を遠心分離で回収し、電気泳動用サンプルバッファーに溶解後、100℃で5分処理することで、蛋白質を完全に変性、還元し、8%アクリルアミドゲルでSDS-PAGEを行い、蛋白質を分離した。分離した蛋白質をPVDF膜に転写し、5%スキムミルク/0.05% Tween20/PBSでブロッキング後、抗キニノーゲンモノクローナル抗体と反応させた。抗キニノーゲン抗体としては、(Mouse-monoclonal)HMW Kininogen Light Chainantibody [1.B.709]:Catalog Number:GTX14514(Gene Tex,Inc.社製)を使用した。一方、同定ペプチドCを含む部位を特異的に認識する抗キニノーゲンモノクローナル抗体には、K438-S531 peptides に特異的な(Mouse-monoclonal) Anti-human-kininogen/Kininostatin Antibody:Catalog Number:MAB1569(R&D Systems社製)を使用した。抗体を加えて1時間反応させた。続いて、HRP標識2次抗体で処理した後、ECL Western Blotting Detection System(GEヘルスケア社)で特異的バンドを検出した。
(4)結果
抗キニノーゲンモノクローナル抗体(上記Gene Tex, Inc.社製 HMW Kininogen Light Chainantibody [1.B.709])を用いたウエスタンブロッティングの結果を図7に示す。約45kDaの軽鎖のバンドが検出されたが、健常者とNAFLDの有意差は確認できなかった。一方、同定した部分ペプチドCを含む部位を特異的に認識する抗キニノーゲンモノクローナル抗体(上記のR&D Systems社製Anti-human-kininogen/Kininostatin Antibody)の結果を図8に示す。健常者において、16例中15例で約120kDaの全長の高分子キニノーゲンが検出された。NAFLD患者では、40例中36例で全長の高分子キニノーゲンのバンドが消失していた。以上の結果、NAFLD患者において、全長の高分子キニノーゲンが減少していることが分かった。
[5]抗キニノーゲン抗体によるキニノーゲンペプチドの検出
これらのマーカーを診断に利用することを考えると、マーカーに対する抗体を用いてより特異的にピークを検出する必要がある。そこで次に、抗キニノーゲン抗体を用いてキニノーゲンを免疫沈降法で検出することを試みた。
(1)材料と方法
キニノーゲン部分ペプチドの特異的な検出は抗キニノーゲン抗体を用いた免疫沈降法で行った。NAFLD患者血清10μlにPBS40μlを混合した後、上記のポリクローナル抗体としては、RABBIT ANTI HUMAN HMW-KININOGEN(AbD Serotec社製)又はRabbit-anti-human- kininogen(シグマアルドリッチジャパン社に外注)を、モノクローナル抗体としてはHMW Kininogen LightChain antibody [1.B.709](GeneTex,Inc.社製)又は、Anti-human-kininogen/KininostatinAntibody: Catalog Number:MAB1569(R&D Systems社製)10μlを添加し、1時間氷浴上(4℃)で静置することで、血清中の抗原と抗体を反応させた。続いて、50%プロテインAセファロースビーズ30μlを添加し、10分毎に転倒混和しながら、1時間氷浴上で静置した後、遠心分離操作によって沈殿と上清に分けた。沈殿ビーズをPBS400μlで5回洗浄して未吸着の蛋白質・ペプチドを除去した後、50%アセトニトリル30μlを添加してビーズに結合した蛋白質・ペプチドを遠心分離によって溶出した。溶出液20μlを50mM酢酸ナトリウム(pH4.5)80μlで希釈した後、CM10に30分間震盪処理した。スポットを洗浄、風乾した後、20%飽和CCA/50%アセトニトリル/0.5% TFA0.5μLを2回添加した。SELDIで測定し、同定したキニノーゲン部分ペプチドが検出されるのかどうかを調べた。
(2)結果
ポリクローナル抗体による免疫沈降の結果を図9に示す。AbD Serotec社製RABBIT ANTI HUMAN HMW-KININOGENに比べて、シグマアルドリッチジャパン社製Rabbit-anti-human- kininogenで処理したNAFLD患者血清のほうが、ピーク強度が大きかった。
同様にモノクローナル抗体による免疫沈降の結果を図10に示す。GeneTex社製 HMW Kininogen Light Chain antibody [1.B.709]に比べて、R&D Systms社製Anti-human-kininogen/Kininostatin Antibodyのピーク強度が大きかった。つまり、同定部位を特異的に認識する抗体の方が、同定キニノーゲンペプチド部位とより反応していることが分かった。
[6]プロテインチップシステムを用いたキニノーゲン由来ピークの検出(SELDI)
プロテインチップシステム(バイオラッド社)は、プロテインチップとSELDIらなり、クリンプロット同様血清診断マーカーの探索に有用である。チップ表面が様々な官能基で標識されており、ここに血清を処理することで蛋白質・ペプチドを捕捉し、SELDIで測定することでピークを検出する。そこで次に、キニノーゲン由来の部分ペプチドピーク(1942m/z、 2079m/z、及び2207m/z)がプロテインチップシステムでも検出されるのかどうかを調べた。
(1)材料と方法
血清のプロテインチップへの処理は次のようにして行った。血清5μlにウレアバッファー(7Mウレア、2Mチオウレア、4% CHAPS、1% DTT、2% アンフォライト)を45μl添加し、氷浴上で10分間静置することで、血清蛋白質を変性させた。次いで450μlの50mM酢酸ナトリウムpH4.5で希釈し、冷却状態(4℃)で、10,000rpmで5分間遠心操作をかけた。上清をチューブに移して氷浴上で保存した。この希釈上清100μlを予め平衡化した陽イオン交換チップCM10(バイオラッド社)に添加した。室温で30分浸透処理した後、50mM 酢酸ナトリウムpH4.5の100μlで3回洗浄、更に超純水で2回洗浄した。風乾後、スポットに50%飽和CCA 0.5μlを2回添加し、ペプチドとCCAの混合結晶を調製した。ピークの検出はSELDIで行なった。
NAFLD患者群と健常者群のピーク強度は、マーカーウィザードソフトウェア(バイオラッド社)で調べた。複数のマススペクトルの比較では、m/z値が0.3%以内の誤差でマッチするピークは、同じ分子由来のピークとみなした。両群間の有意差はマンホイットニーのU検定で行い、P<0,05のピークを有意と判定した。
(2)結果
NAFLD患者群と健常者群のスペクトルから、さらにNAFLD患者群で有意に増加しているピーク(P<0,05)を検出し、さらに、ピーク強度5以上のピークを選抜した。ピークのリストを表3に示す。また、NAFLD患者と健常者の典型的なスペクトルパターンを図11(A)に示す。実施例1と同様、高分子キニノーゲン由来ピークである、1942m/z、2079m/z、及び2207m/zのピーク(図11(B))は、健常者と比べNAFLD患者で有意に増加することが分かった(表3)。サンプル毎にピーク強度をプロットしても、NAFLD患者で著しく高値を示すことは明らかであった(図11(C))。
Figure 0005424331
〔実施例2〕(補体C4)
[1]クリンプロットシステムによる血清ペプチドの検出
(1)材料と方法
血清試料として、ASC19例、健常者24例を用いた。血清5μlをWCXビーズに添加し、WCXビーズに血清蛋白質のペプチドを吸着させた。未吸着のペプチドを洗浄除去した後、溶出液を加え、WCXビーズに吸着したペプチドを溶出した。
次いで、ペプチドとマトリックスの結晶を調製した。調製では、CCA1mgにアセトン1mlを加え、その300μlとエタノール600μlをよく混合した。調製したCCA溶液18μlにクリンプロット溶出液2μlを加えて混合し、そのうちの1μlを薄膜上に滴下、風乾させペプチドとCCAを結晶化させた。
ピークの検出は、Autoflexのリニアーモード測定により行い、マススペクトルを得た。健常者とASCのマススペクトルをクリンプロツール(ブルカー・ダルトニクス社)で比較し、ASCで増加するピークをASCのマーカー候補とした。診断マーカー候補の探索は、3000m/z値以下の質量範囲で行った。複数のマススペクトルの比較では、m/z値が0.2%以内の誤差でマッチするピークは、同じ分子由来のピークとみなした。また、ASC群と健常者群で有意差があるのかどうかの検定は、スチューデントのt検定で行い、P<0,05のピークを有意と判定した。
(2)結果
ASC患者群と健常者群のスペクトルから、さらに有意に増加しているピーク(P<0,05)を検出し、さらに、ピーク強度50以上のピークを選抜した。ピークのリストを表4に示す。また、ASCと健常者の典型的なスペクトルパターンを図12(A)に示す。これらのピークの内、1738m/z及び1896m/z(図12(B))は、他のピークと比べ特にピーク強度が高かった(表4)。
Figure 0005424331
これら2本のピークは、サンプル毎にピーク強度をプロットしても、ASCで著しく高値を示すことは明らかであった(図12、(C))。次に診断のカットオフ値を(健常者の平均ピーク強度+2×標準偏差)と設定し、カットオフ値以上をASC、それ未満を健常者とし、ASC19例、健常者24例の診断を行った。
まず1738m/zのピークで診断を行なったところ、ASC19例中15例をASCと診断(感度78.9%)、健常者24例中21例を健常者と診断(特異度87.5%)であった。1896m/zも同様の診断結果になった。以上の結果より、1738m/z、及び1896m/zのピークをASCのマーカー候補とし、これらのピークに由来するペプチドを同定することにした。
[2]肝疾患マーカーとしての配列D及びEの同定
1738m/z、及び1896m/zのピークに由来するペプチドを同定するため、MS/MSイオンサーチ法を行った。詳細を以下に記す。
(1)材料と方法
MS/MSスペクトルの取得は、次のように行なった。まず、ペプチドとマトリックスの結晶を薄膜法で調製した。アンカーチップのアンカー表面に、予めCCAの飽和アセトン溶液を塗布し、CCAの薄膜を作製した。次に、ASC患者血清のクリンプロット溶出液1μlを薄膜上に滴下し、5分間静置して、溶出液中のペプチドとCCAを結晶化させた。静置後、結晶を0.1%TFA3μlで3回洗浄した。
目的ピークの分子量は、Autoflexのリフレクターモード測定により、高精度に測定した。MS/MSスペクトルの取得はリフトモード測定により行い、目的ピーク(親イオン)とその断片(部分ペプチドのイオン)の分子量を得た。分子量の補正(キャリブレーション)は、peptide calibration standard 2(ブルカー・ダルトニクス社)で行った。得られたMS/MSスペクトルより、バイオツール(ブルカー・ダルトニクス社)を用いて、親イオンと部分ペプチド配列イオンのピークリストを作成し、マスコットサーチ(マトリックスサイエンス社)のMS/MSイオンサーチによりピークの同定を行った。なお、同定には、スイスプロットのデータベースを用いた。
(2)結果
図13に、1738m/z(A)、及び1896m/z(B)のMS/MSスペクトルを示す。これらのスペクトルのピーク情報とマッチするペプチドを検索したところ、2本のピークすべてがC4由来の分解生成物であることが分かった。それらのペプチド配列を表5に示す。
Figure 0005424331
1738m/zは1337〜1351番目、1896m/zは1337〜1352番目のアミノ酸配列であることが分かった。
前記1738及び1896m/zのピークについて、このクリンプロットシステムを適用して解析を行った。試料として、ASC30例、肝炎患者(CH)30例、肝硬変患者(LC)2例、肝がん患者(HCC)5例、SS12例、NASH 25例、健常者25例の血清を用いた。結果を、図14に示す。ASC・慢性肝炎(CH)間の有意差は定かではないが、これらと健常者又は他の疾患との間は有意差が認められた。
[3]ELISA法による血清蛋白濃度の検出
肝がんや肝硬変などで補体系が活性化されることは公知である。しかしながら、比較的初期の肝疾患とも云うべき、ASC、NAFLD(SS、NASH)のC4aや活性化経路に特異的な因子を定量することで初期の肝疾患の新規マーカーが見出される可能性があり、本発明の課題である(初期の)肝疾患マーカーをより多く提供する目的にも適う。そこで次に、かかるキャリアや肝疾患患者において、C4aの活性化の指標となる因子を定量することにした。
(1)材料と方法
C4aの血清濃度の測定には、C4a Enzyme Immunoassay BD OptEIA Set(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社、以下、BD社と略す。)を用いた。試料として、ASC30例、肝炎患者(CH)30例、肝硬変患者(LC)2例、肝がん患者(HCC)5例、SS12例、NASH 25例、健常者25例の血清を用いた。本キットの96穴プレートの各ウェルには、C4a モノクローナル抗体が固定化されている。
まず血清各2μlをPBS(137mM NaCl、8.1mM NaHPO、2.68mM KCl、1.47mM KHPO)600μlで希釈した。この希釈血清2μlを分取して、これにDiluent 200μlを加えることにより最終的に30000倍に希釈した。その100μlをwellに添加し、室温で2時間インキュベートした。その後、洗浄液(Wash buffer300μl/well)を用いて吸引と洗浄を5回行った。なお、Wash buffer組成は、Wash buffer100ml/超純水1900ml;20倍希釈であった。準備しておいたWorking Detector(enzyme concentrate 48μlとペルオキシダーゼ標識抗C4a ポリクローナル抗体12ml)の100μlを加えて、室温で1時間インキュベートした。同様に吸引と洗浄を7回繰り返し、続いてTMB基質100μlを加えて、5秒しんとうした後、室温で30分インキュベート(暗室)した。発光を見ながら、Stop Solution 50μlを加えた。呈色反応後、570nmの波長の吸光度を測定し、標準物質の検量線から、血清中のC4a濃度を算出した。統計解析は、マン・ホイットニーのU検定で行い、P<0,05を統計的に有意であると判断した。
(2)結果
C4aの血清中の蛋白質濃度を図15に示す。健常者に比べ、ASCでは高値(P<0,05)を示した。従って、血中のC4a濃度を測定することで、ASCの診断マーカーとして、他の疾病との差別化が可能となる。以上の結果、C4a濃度は、ASCの高値マーカーとなることが示唆された。
更に血清中のC4a 濃度を算出した結果、ASC、肝炎患者、肝硬変患者、肝がん患者と症状が悪化するごとに、C4aの蛋白質濃度が減少していった。特にASCと肝炎患者の2群間でも有意差を確認した。(P<0,05)。サンプル毎にピーク強度をプロットしても、ASCで著しく高値を示すことは明らかであった(図15)。更に、図15に示すように、NASHと慢性肝炎(CH)はp<0.05で有意差あり、SSと慢性肝炎(CH)はp<0.05で有意差が認められた。
[4]プロテインチップシステムを用いたC4由来の部分ペプチドの検出
プロテインチップシステム(バイオラッド社)は、プロテインチップとSELDIらなり、クリンプロット同様血清診断マーカーの探索に有用である。チップ表面が様々な官能基で標識されており、ここに血清を処理することで蛋白質・ペプチドを捕捉し、SELDIで測定することでピークを検出する。そこで次に、C4の部分ペプチド由来のピーク(1738m/z、1896m/z)がプロテインチップシステムでも検出されるのかどうかを調べた。
(1)材料と方法
試料としては、ASC患者及び健常者の血清を用いた。血清のプロテインチップへの処理は次のように行った。血清5μlにウレアバッファー(7M ウレア、2M チオウレア、4% CHAPS、1% DTT、2% アンフォライト)を45μl添加し、氷浴上で10分間静置することで、血清蛋白質を変性させた。これに450μlの50mM 酢酸ナトリウムpH4.5を加えて希釈し、この希釈液100μlを予め平衡化した陽イオン交換チップCM10(バイオラッド社)に添加した。室温で30分浸透処理した後、50mM 酢酸ナトリウムpH4.5で3回洗浄、更に超純水で2回洗浄し、風乾後、スポットに50%飽和CCA0.5μlを2回添加し、ペプチドとCCAの混合結晶を調製した。ピークの検出はSELDIで行った。
ASC、健常者群のピーク強度は、バイオマーカーウィザードソフトウェア(バイオラッド社)で調べた。複数のマススペクトルの比較では、m/z値が0.3%以内の誤差でマッチするピークは、同じ分子由来のピークとみなした。両群間の有意差はマンホイットニーのU検定で行い、P<0,05のピークを有意と判定した。
(2)結果
ASC群と健常者群のスペクトルから、特にASC群で有意に増加しているピーク(P<0,05)を検出し、さらに、ピーク強度5以上のピークを選抜した。ピークの同定結果を表6に示す。また、ASCと健常者の典型的なスペクトルパターンを図16に示す。図16(A)に示すように、クリンプロットシステムと同様、C4由来ピークである、1738m/z、1896m/zのピークは、健常者と比べASCで有意に増加することが分かった(表6)。図16(C)に示すように、サンプル毎にピーク強度をプロットしても、ASCで著しく高値を示すことは明らかであった。
Figure 0005424331
〔実施例3〕(抗キニノーゲン抗体を用いたELISA法による診断)
キニノーゲン系マーカーとしてキニノーゲンに対する抗体を用いて健常者とNAFLDを識別した例を示す。
(1)材料と方法
血清試料として健常者11例、NASH5例、単純性脂肪肝5例を用いた。
New ELISA Plate B (住友ベークライト)のプレートに対して、Anti-human kininogen monoclonal Antibody(R&D社製、Catalog Number: MAB1569)を固定化用バッファー(住友ベークライト)で1マイクロg/mLに希釈後、100マイクロL/ウェル加え、室温で1〜2時間静置した。300マイクロLのPBSx(0.05%Triton-X100含有PBS(phosphate buffered saline))で3回洗浄した。 次に、血清試料をPBSで200倍希釈し、100マイクロL/ウェル加え、室温で1時間静置した。ついで、300マイクロLのPBSxで3回洗浄した。Anti-KIG1抗体(Sigma社製、Catalog Number: HAP001616)をPBSで1000倍希釈し、100マイクロL/ウェル加え、室温で1時間静置した。更に、300マイクロLのPBSxで3回洗浄した。続いてGoat-Anti-Rabbit IgG HRP conjugate Antibody (Santa Cruz Biotechnology社製、Catalog Number: sc-2004)をPBSで1000倍希釈し、100マイクロL/ウェル加え、室温で1時間静置した。洗浄のために300マイクロLのPBSx(0.05%Triton-X100含有PBS)で3回処理した。最後にUltra-TMB-ELISA(PIERCE社製、Catalog Number: 34028)、100マイクロL/ウェル加えて、15-50分静置後、50マイクロLの2M硫酸を加えて反応を停止し、450nmで比色定量を行った。
(2)結果
以上の結果より、H1からH11は健常者の血清、平均値±標準偏差=0.937 ±0.117。また、N4からS42はそれぞれN:NASH患者、S:単純性脂肪肝を意味し、平均値±標準偏差=0.383 ±0.224であった。図18から、健常者のキニノーゲンは1付近を示し、NAFLD患者は0.5付近以下であると判定された。
本発明のキニノーゲン系の全長、及び部分ペプチドA、B、及びCは、いずれも健常者の血清に比べてNAFLD患者の血清に有意に差異が認められるところから、NAFLDの診断に有用なマーカーとして利用できる。これらは、また医師の診断はもとより、血液または血清の測定、検定にも利用できる。更に、図17に示すように、キニノーゲン系マーカーとC4系のマーカーを組み合わせことにより、ASC、肝炎患者、肝硬変患者、肝がん患者、NAFLD、健常者を簡便に識別することが出来る。本発明のマーカーによる簡便な検出手段の提供は、未病の多数の被験者検診が可能となり、健常者とNAFLD患者あるいはCH患者、またはASC患者とを区別する早期診断に好ましく適用でき、これら生活習慣病もしくはそれに起因する肝疾患の早期検出に利用できる。

Claims (12)

  1. 高分子キニノーゲンの全長、及び/又は高分子キニノーゲン由来の部分ペプチドを含むマーカーであって、高分子キニノーゲン由来の部分ペプチドが下記配列A、B、及びCのいずれか一つである、非アルコール性脂肪肝疾患を識別するバイオマーカー。
    配列A;Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln
    配列B;His Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln
    配列C;Lys His Asn Leu Gly His Gly His Lys His Glu Arg Asp Gln Gly His Gly His Gln
  2. 高分子キニノーゲンの全長、及び/又は高分子キニノーゲン由来の部分ペプチドが修飾体を含む請求項1記載のバイオマーカー。
  3. 請求項1又は2記載のバイオマーカー、及び請求項1又は2記載のバイオマーカーの少なくとも一つの抗原を認識し、非アルコール性脂肪肝疾患を識別する抗体からなる群から選ばれた少なくとも一つを含む非アルコール性脂肪肝疾患を識別する診断薬。
  4. 補体C4、及び/又はC4由来の部分ペプチドであって、C4由来の部分ペプチドがC4a、C4b、 C4c、下記配列D、及びEからなる群から選ばれた少なくとも一つである慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリアを識別するバイオマーカー。
    配列D;Asn Gly Phe Lys Ser His Ala Leu Gln Leu Asn Asn Arg Gln Ile
    配列E;Asn Gly Phe Lys Ser His Ala Leu Gln Leu Asn Asn Arg Gln Ile Arg
  5. 請求項記載のバイオマーカー、及び請求項4記載のバイオマーカーの少なくとも一つの抗原を認識し、慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリアを識別する抗体からなる群から選ばれた少なくとも一つを含む慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリアを識別する診断薬。
  6. 請求項1又は2に記載のバイオマーカー、請求項1又は2記載のバイオマーカーの少なくとも一つの抗原を認識し、非アルコール性脂肪肝疾患を識別する抗体、請求項3記載の診断薬の少なくとも一つと、請求項記載のバイオマーカー、請求項4のバイオマーカーの少なくとも一つの抗原を認識し、慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリアを識別する抗体、請求項5記載の診断薬の少なくとも一つとの組み合わせからなる、非アルコール性脂肪肝疾患、慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリアを識別する診断薬。
  7. 請求項1又は2に記載のバイオマーカー、請求項1又は2記載のバイオマーカーの少なくとも一つの抗原を認識し、非アルコール性脂肪肝疾患を識別する抗体、請求項3記載の診断薬の少なくとも一つを用いて、非アルコール性脂肪肝疾患を識別する検出方法。
  8. 請求項記載のバイオマーカー、請求項4のバイオマーカーの少なくとも一つの抗原を認識し、慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリアを識別する抗体、請求項5記載の診断薬の少なくとも一つ用いて、慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリアを識別する検出方法。
  9. 請求項に記載の検出方法と請求項に記載の検出方法とを組み合わせてなる、非アルコール性脂肪肝疾患、慢性肝炎及び無症候性ウイルスキャリアを識別する検出方法。
  10. サンプル中の高分子キニノーゲンを認識し、配列A,B及びCの配列を有する高分子キニノーゲンの部分ペプチドのいずれのペプチドも認識しない抗体を用いることを特徴とする、請求項乃至のいずれかの検出方法。
  11. ELISA法により検出することを特徴とする、請求項10記載の検出方法。
  12. 非アルコール性脂肪肝疾患を識別する抗体が、サンプル中の高分子キニノーゲンを認識し、配列A,B及びCの配列を有する高分子キニノーゲンの部分ペプチドのいずれのペプチドも認識しない抗体であることを特徴とする、請求項又は記載の診断薬。
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