JP5405736B2 - 透析用水溶液 - Google Patents
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Description
ところで、かかる電解液は強酸性水または強アルカリ水であり、強酸性水にあってはそのpHは2.7以下であり、強アルカリ水にあってはそのpHは11以上である。したがって、これらのpH領域においては細菌、微生物等が生存し得ないものであることから、医療分野においては医療用器材の消毒など、限られた範囲でしか応用性がない。
その上で、この中性電解水を透析用水溶液と使用した場合には、きわめて効果的なものであることを新規に見出した。
更には、かかる中性電解水、或いは別の生理食塩水と混合して得た生理食塩水は、腹膜透析におけるカテーテルないしカテーテル結合部の消毒液、或いは体腔内、皮下と皮膚の境界部及び皮膚の消毒液として極めて効果的なものであり、腹膜透析における腹膜炎の発症を良好に抑えることができることを見出した。
したがって、感染症への危険性がない透析液が得られれば、感染症という負の要因を回避した透析療法が可能となり、これらの患者に与える光明は多大なものとなる。
本発明者等は生理食塩水を、低周波振動攪拌機を備えた電解槽により電気分解して得た中性電解水がこれらの点を解決するものであることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
より詳細には、感染症に対する危険性のない、血液透析療法としての透析液、又は腹膜透析療法としての透析液として使用することができる透析用水溶液、或いは、透析液関連回路の清浄に使用することができる透析用水溶液、更には腹膜透析におけるカテーテルないしカテーテル結合部の消毒液、或いは体腔内、皮下と皮膚の境界部及び皮膚の消毒液を提供することを課題とする。
1.本発明により提供される透析用水溶液は極めて強力な殺菌作用を発揮することから、透析療法開始前にあっては、透析液関連回路の清浄化に使用することができ、そのため細菌や病原微生物、菌体毒素などの生体内への流入の危惧を払拭することが可能となる利点を有している。
2.本発明により提供される透析用水溶液は、生理食塩水を電気分解して得たものであることから、その残留塩素が段階的に減少することとなり、透析療法開始直前には極めて強力な殺菌効果を維持しつつ、人体には全く無害の濃度までに減少させることができ、従って、この透析用水溶液をそのまま透析液として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩素、重炭酸などの電解質成分、ブドウ糖等の糖質、アミノ酸などの栄養源の溶解液として使用した透析液として使用することができる。
3.本発明の透析用水溶液は、透析液のための電解質、アルカリ化剤、ブドウ糖溶解液として使用する場合には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの電解質成分を最初に溶解させ、続いて炭酸水素ナトリウムを溶解させるが、この場合にあっても、不溶性の重炭酸塩を形成することなくこれらの電解質成分を溶解させることができ、また、この時点においてもその溶液のpHは中性付近に維持されており、pH調節剤として酸の添加を必要としない利点を有している。
4.本発明の透析用水溶液を透析液関連回路の清浄化に使用する場合、或いは透析液としての溶解液として使用するいずれの場合にあっても、酸の添加を必要としないため、透析回路の配管を腐食させる危険性がない。
5.透析用の溶解液として使用する場合においても、生理食塩水を使用したことから、生体適合性に優れ、安全性の高いものであり、血液透析患者のQOLを損なうことが少ない利点を有している。
6.また、腹膜透析療法における腹膜カテーテルないしカテーテル結合部の消毒液として、或いは腹膜透析療法における体腔内、皮下と皮膚の境界部及び皮膚の消毒液として使用することにより、腹膜透析療法にみられる腹膜炎の発症を抑えることができるものであり、患者にとって極めて多大な光明を与えるものである。
かかる中性電解水は、具体的には特許文献1に記載する方法、並びに装置により得られたものであり、詳細には、上記したように、生理食塩水を流動するように10〜200Hzの周期と0.01〜15mmの振幅振動で振動させながら、直流又はパルス電流により、1〜30Vの電圧と、5〜300A/dm2の電流密度で電気分解して得た1〜500ppmの残留塩素を含有する中性電解水からなる透析用水溶液である。
この透析用水溶液にあっては、残留塩素濃度が大気中への遊離が全く認められないことを特徴とするものである。
すなわち、イオン化塩素(揮発性塩素ガス)を水分子の固まりの中に閉じこめ、それにより、この透析用水溶液には塩素臭が濃度の割には無く、残留塩素の寿命が3年程度と長いものであると推察される。
本発明にあってはこの電気分解に供する水溶液として生理食塩水を採用するものであるが、生理食塩水とは一般的に、動物細胞の浸透圧と等張になるように調製した塩化ナトリウム水溶液をいう。ヒトを含む哺乳類の場合には、その食塩の濃度として約0.8〜0.9%程度の食塩水をいう。
かかる残留塩素の存在により、中性電解水は極めて強力な殺菌作用を発揮するが、本発明の透析用水溶液にあっては、20ppm程度の残留塩素を含有させれば、ほぼ完全な殺菌効果を発揮することができる。
残留塩素濃度が1〜5ppmの場合でも殺菌効果を発揮し、且つ人体にとっては、無害な濃度となることが判明した。
なお、5ppmまでの残留塩素を含有する中性電解水については、全体として含有塩化ナトリウム濃度を0.9%(9g/L)に調整した食塩水、すなわち生理食塩水を使用するのがよい。
このような溶液は、適宜中性電解水を別の生理食塩水と混合し得ることも可能である。
しかしながら、上記で調製された中性電解水は、そのままで極めて強力な殺菌作用を示し(後記する実施例を参照)、かかる殺菌作用のため、透析関連回路の清浄化に使用することができ、また他の応用として、消毒用の水溶液、或いはスプレー式消毒液としての応用も可能であることが判明した。
なお、このほかにも種々の応用が考えられており、これらは特許文献1に具体的に記載されているが、透析用水溶液としての応用は、本発明者によってはじめて提案されたものである。
通常、透析液としては蒸留水、精製水、逆浸透水が基本液として使用され、清浄化液は、熱水以外は消毒液として市販されているものが利用されている。この場合の熱水としては水道水などを使用している。
上記の電解質バランスを構成する電解質成分としては、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が使用される。
またブドウ糖としては50〜200mg/dLを含有するのがよい。
さらにアミノ酸としては、各種必須アミノ酸を含めた種々のアミノ酸が上げられ、トータルアミノ酸濃度として1〜7.5w/v%含有させるのが好ましい。
そのために使用される透析液は、血液透析療法には不可欠なものであり、一般的に、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の電解質成分の他に、体液に近似したpHを維持するために、アルカリ化剤として乳酸塩、酢酸塩、炭酸塩などが含有されている。また、透析除去による低血糖をさけるため、ブドウ糖も加えられている。
そのための透析液は、腹膜透析療法には不可欠なものであり、一般的に、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の電解質成分の他に、体液に近似したpHを維持するために、アルカリ化剤として乳酸塩、酢酸塩、炭酸塩などが含有されている。さらに、体内からの限外濾過による水分除去を回避するため、体液よりも浸透圧を高く保つための浸透圧物質としてのブドウ糖も加えられている。
その一方で、透析液中に含まれる有機酸にあっては、例えば、酢酸は透析低血圧、透析困難症、透析栄養障害などの原因となることが知られている。また、クエン酸は、低カルシウム血症、易出血性の原因となることが知られている。したがって、このような本来的に不必要な酸の含有がなければ、透析液の副作用は皆無となり、患者にとって安定した透析療法が受けられることとなる。
本発明の中性電化水を透析液として使用する場合には、酢酸、氷酢酸、クエン酸などの有機酸の添加が無くても炭酸カルシウムの沈殿物を生成することなく、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の電解質成分、炭酸水素ナトリウム、ブドウ糖を含有する透析液の調製が可能となるものである。
また、透析液の調製方法は上記の3方法に限定されず、種々の変法があることはいうまでもない。
なお、この消毒液としての使用に際しては、適宜別の生理食塩水混合し、希釈して使用することができる。
したがって、本発明は、また別の態様として、かかる中性生理食塩水からなる消毒液をも提供するものである。
この抗生物質に頼るという現状が菌交代現象を生み、バンコマイシン抵抗性菌株、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌の出現にともなう院内感染症の温床になっている。本発明が提供する消毒液は、抗菌性を有した中性生理食塩液なので、生体のあらゆる部分への応用が可能となる利点を有するものである。
[試験方法]
トリプチソースソイブロス培地にて増殖培養した大腸菌(E. coli:JCM 1649)、サルモネラ菌(S. enterica:JCM 1652)、緑膿菌(P. aeruginosa:JCM 5516)及び黄色ブドウ球菌(S. aureus:JCM 2413)のそれぞれの菌体を、滅菌蒸留水を用いて遠沈洗浄後、滅菌蒸留水に再懸濁して菌懸濁液を調製した。
各菌体について、上記で調製した菌懸濁液0.4mLずつを滅菌蒸留水39.6mL、及び本発明の透析液である中性電解水(以下、「αトリノ−ST水」と記載する;残留塩素濃度5ppm)39.6mLにそれぞれ添加し、攪拌した。滅菌蒸留水中の生菌数は、滅菌リン酸緩衝生理食塩水を用いて段階希釈を行い、またαトリノ−ST水中の生菌数は一定時間静置処理した後希釈せずに処理原液として直ちにトリプチソースソイ寒天培地を用いた平板希釈法(35℃、48時間、好気培養)により測定した。
下記表1にまとめて示した。
表中に示した結果からの明らかなように、αトリノ−ST水を用いた場合には、生菌数はいずれも30個/mL以下、すなわち測定感度以下に減少していた。
また、備考欄に「注1」として記載したが、本液1mLを用いた測定(2連)において、コロニー形成は確認できなかった。
αトリノ−ST水(残留塩素濃度:3ppm)1Lに、塩化ナトリウム6.25g、塩化カリウム0.18g、塩化カルシウム二水和物0.37g、塩化マグネシウム六水和物0.34g及びブドウ糖200gを加えて溶解を確認した後、さらに炭酸水素ナトリウム2.52gを加え溶解後、浮遊反応物の生成の有無を目視により観察した。
対象液としてイオン交換水1Lにそれぞれ同じ成分を溶解させ、溶解後、浮遊反応物、沈殿物の生成の有無を目視により観察した。
また、何も溶解させないイオン交換水を用意した。
その結果、下記表2に示すように、αトリノ−ST水に各成分を溶解した溶液では浮遊反応物、沈殿物の生成は認められなかったが、イオン交換水にあっては、混和後まもなく反応性の浮遊物及び沈殿物の生成が認められた。
なお、何も溶解させないイオン交換水には何らの変化も認められなかった。
αトリノ−ST水(残留塩素濃度:3ppm、5ppm、7ppm及び10ppmの4液)1Lに、塩化ナトリウム6.25g、塩化カリウム0.18g、塩化カルシウム二水和物0.37g、塩化マグネシウム六水和物0.34g及びブドウ糖1.26g、炭酸水素ナトリウム2.52gを加え溶解した透析液を調製した。
一方、対照透析液として蒸留水に同様の透析液成分を溶解させた。
各試験液のpHと浸透圧を堀場社製pHメーター、プレシジョンシステムズ社製透析液メーターにて測定した。
それらの結果を、下記表3に示した。
[方法]
αトリノ−ST水(残留塩素濃度:3ppm及び5ppmの2溶液)1Lに、塩化ナトリウム6.25g、塩化カリウム0.18g、塩化カルシウム二水和物0.37g、塩化マグネシウム六水和物0.34g及びブドウ糖1.26g、及び炭酸水素ナトリウム2.52gを加え溶解した透析液を調製した。
一方、対照透析液として蒸留水に同様の透析液成分を溶解させた。
各試験液を、体重200〜232gの雄性ラットに腹腔内注射をした。腹腔内注射は連続6日間行い、第4日目或いは第7日目に腹腔液を採取し、センシメディア(登録商標:ニプロ社製)にて細菌の繁殖状況を観察した、
また、ラットの全般状態を体重変化により推察し、臨床病態の代用とした。
なお、7日目には腹腔内注射は行わず、腹腔内液の採取のみとしている。
1.細菌繁殖状況の観察
対照透析液である蒸留水を用いた透析液にあっては、腹腔内液にコロニーの形成が認められ、顕著な細菌の繁殖が観察された。
これに対して、本発明のαトリノ−ST水(残留塩素濃度:3ppm及び5ppmの2溶液)を用いた透析液にあっては、いずれも細菌の繁殖を示すコロニー形成は認められず、良好な抗菌作用を示していることが観察された。
体重変化を下記表4に示した。
一方、本発明のαトリノ−ST水を用いた透析液を腹腔内注射したラットにおいてはラットの体重は増加し、ラットの健康が維持されているものと推定された。すなわち、本発明のαトリノ−ST水を用いることにより、透析液の調製にクエン酸、酢酸、乳酸等を含有させる必要がないため、これらによる副作用(低血圧、心筋抑制、蛋白異化、貧血、出血傾向、低カルシウム血症など)の出現を防止できただけでなく、その優れた殺菌作用により感染症の発生を予防しているため、ラットの全身状態を良好に維持できたものと思われる。
また、塩化カルシウムを不溶性の炭酸カルシウムを生成することなく溶存させることができ、透析液のpHを有機酸に頼ることなく中性に維持しており、優れた透析液を提供できるものと判断された。
[方法]
(1)実験動物とその飼育
実験動物には、平均100gの5週齢雄性SD(Sprague-Dawley)系ラット(日本クレア)を用いた。飼料(CE-2、日本クレア)及び水は自由摂取とし、室温23℃、湿度55±5%で12時間の明暗周期(明期7〜19時)の空調動物室にて飼育した。ラットは飼育開始後2週目に5/6腎摘手術を行い、その4週間後に群分けを行い、4週間の介入実験実施後に解剖した。
ラットをソムノペンチル0.5mL/100g(共立製薬株社製)麻酔下に、腹部正中線より開腹し、左腎動脈上、中、下枝のうち上下枝2本に対し、7−0針付きプローリン糸(ETHICON:J&J社製)を用いて結紮した。次いで、右腎動脈全体を5−0針付き絹糸(ETHICON)を用いて結紮後、右腎を全摘して、腹筋を5−0針付き絹糸(ETHICON)、皮膚を4−0針付きバイクリル糸(ETHICON)にて縫合した。
5/6腎摘手術後4週目のラット17匹をコントロール群(n=8)、本発明のαトリノ−ST水群(残留塩素濃度:3ppm溶液)(n=9)の2群に分けた。
粉末飼料(タンパク質:24.9g/100g;エネルギー:346.8kcal/100g、CE-2、日本クレア)、飲用水は水道水を与えた。全ラットを同じ飼育条件で4週間維持した後、コントロール群はこれらの条件を継続し、αトリノ−ST水群は水道水からαトリノ−ST水に変更し、介入開始とした。
なお、本実験に使用したαトリノ−ST水は、0.2%塩化ナトリウム水溶液の処理液である。
粉末飼料、飲用水の摂取方法は、いずれの時期も自由摂取とした。なお、群分けは5/6腎摘手術後4週目における尿蛋白、尿量、収縮期血圧、5/6腎摘手術時の腎不全の程度をもとに、各群均等になるように行った。
5/6腎摘手術前を0Wとし、5/6腎摘手術後4週間後を4W、5/6腎摘手術後8週間後(介入開始4週間後)を8Wとし、それぞれ0、4、8Wに体重、収縮期血圧測定、採血、24時間蓄尿を行った。
収縮期血圧は、無麻酔下でTail cuff法にて測定し、平均値を求めた。採血は、0及び4Wはエーテル麻酔下に大腿部静脈より、8Wは解剖時に腎動脈より行い、その一部を用いてヘマトクリットを測定し、残りを遠心分離後、血清のみを採取し−20℃にて保存した。24時間蓄尿は、代謝ゲージを用いて行い、採取した尿は遠心分離し、上澄みを−20℃で保存した。
8週目に屠殺し、左残腎を取り出し、4%PFA/PBSにて固定し、パラフィン包埋後3μmの厚さの切片を作製し、periodic acid shiff(PAS)染色を行い、400倍の光学顕微鏡にて観察した。
各糸球体硬化の程度を、以下の5段階での評価点で行い、全糸球体の平均を計算しSIとした。
0:半定量的に硬化のないもの
1:硬化の程度が25%以下のもの
2:硬化の程度が26〜50%のもの
3:硬化の程度が51〜75%のもの
4:硬化の程度が76%以上のもの
まず、下記の表5〜7に示すように、コントロール群、αトリノ−ST水群の2群に分けた時点、すなわち、実験週第4週の体重、血圧、尿量、クレチニンクリアランスは同程度であり、この2群がほぼ同程度の慢性腎不全になっていることがあらかじめ確認されている。尿素窒素値はαトリノ−ST水群で若干、高めであった。
次に、このような条件下に慢性腎不全モデルのコントロール群、αトリノ−ST水群の比較実験が遂行された。その結果、表の実験週第8週に示すように、体重はαトリノ−ST水群が456.4±23.0gと順調な生育を示し、コントロール群と比較して血圧は148.5±19.8mmHgとより低く維持され、尿量は36.2±8.2mLと多く、尿素窒素値は、49.40±6.22mg/dLと低く、クレチニンクリアランスは0.31±0.21ml/minと高く、腎糸球体硬化指数は50〜75%、76%以上硬化が16.68、12.31と低く維持されていた。
すなわち、αトリノ−ST水群の腎不全ラットはαトリノ−STを飲用していいないラットと比較して腎障害が軽度に留まっているものと判断された。
結論的にはαトリノ−STは組織障害の軽減あるいは機能回復をもたらす作用があると推察された。
そのバランスはNa代謝や酸塩基平衡により維持されている。それにもかかわらず、その生理的な役割は未だ、解明されていないのが現状である。
今回の成績は、後記する実施例6として述べるストレプトゾトシン(STZ)糖尿病ラットの実験デ−タと同様、10〜200Hzの周期と0.01〜15mmの振幅振動で振動させながら、直流又はパルス電流により、1〜30Vの電圧と、5〜300A/dm2の電流密度で電気分解して得た中性電解水に溶存した1〜5ppmの残留塩素であれば、これまでの概念を打ち破る作用を有している可能性を示唆したものといえる。
腹膜カテーテルの出口部ならびにトンネル部感染症を合併したCAPD(持続的携帯型腹膜透析)患者への塩化ナトリウム濃度0.9%の生理食塩液αトリノ−ST水(以後、『生食ST』と記載する)使用成績をまとめる。
5名に使用し、全例が有効と判断された。そのいくつかを以下に概説する。
多発嚢胞腎による慢性腎臓病にてCAPDを開始した。
出口部周囲の発赤、掻痒感が認められ、出口部感染症と診断された。直ちに、ステリハイド消毒液にて出口部消毒を行い、併せて自己消毒を行って貰った。
1ヶ月経過しても出口部感染症は治癒傾向が見られず、むしろ、一部、自壊した表面に膿性分泌物を伴う不良肉芽を認めるようになった。このため、不良肉芽を全て切除し、ゲンタシン(抗生物質)軟膏を塗布しかつ、ヨードホルムガーゼにて被覆した。これらの効力が消失するとおもわれる3日からは毎日、自宅にてステリハイド消毒液による出口部の自己消毒を行って貰った。
1週間後において、出口部感染部位の発赤は軽減するも、不良肉芽は再発し、易出血性で、膿性の分泌物も認められるため、当該部の消毒を『生食ST』に変更した。
1週間後の来院を申し渡していたが、3週間後に来院した。この理由として、『生食ST』を使用し始めて発赤、掻痒が完全に消失したため自己判断してこの間に来院しなかったとのことであった。但し、テフロン(登録商標)製鈍針のついた注射筒に『生食ST』を20mL程度入れ、出口部およびカテーテル周囲皮下を自己洗浄していたとのことであった。実際、当日は不良肉芽、発赤も認められず、ほぼ健常皮膚の外見と判断された。
そこで、診療費請求の事情もあり、従来からのステリハイド消毒液による出口部の自己消毒に切り替えた。
1ヶ月半後に定期来院した。この間、時に、腹膜カテーテルの出口部の発赤、掻痒を感じるときがあるが、その時は『生食ST』で自己洗浄するとのことであり、洗浄して12時間程度で軽快するとのことであった。
腎硬化症による慢性腎臓病にてCAPDが導入された。
CAPD腹膜炎を合併し、1ヶ月間入院した。腹膜排液からはStreptococccuas vestibularis, salivariusが検出されたが、これらは抗生物質使用でおさまっていた。
腹膜カテーテルの出口部からカテーテル第2カフまでの皮下カテーテルトンネル部の5cm強にわたって疼痛を訴え、腹膜カテーテル出口部兼トンネル部感染症と診断された。出口部からは排膿を認め、培養にてCandida albicansなどの真菌が(++)と強陽性に検出された。ミノマイシンなどの抗生物質が使用された。
その後、腹膜カテーテル出口部からの分泌物の培養からはCandida albicans以外にもCorynebacterium Sp(++)、Gram positive coccus(+)が検出された。第2カフ直上のトンネル部の圧痛は著明であった。ジフルカンも併用された。従来からのステリハイド消毒に加え、塩素ガス添加の炭酸液による洗浄消毒も実施されたが、しかし、軽快傾向にはなく、常に出口部からは分泌物が認められた。
8ヶ月後に腹膜カテーテル出口部兼トンネル部感染症は再発し、腹膜カテーテルの出口部からカテーテル第2カフまでの皮下カテーテルトンネル部の前回より強くかつ広範囲に疼痛を訴えた。
腹膜カテーテル出口部からの分泌物の培養からはStaphylococcus lugdunosis (++)が出され、クラビット200mg(経口)、ロセフィン1g(経静脈)が5日間、使用され、更にはCandida albicans(++)も認められた。腹膜カテーテル出口部の洗浄消毒はステリハイド液が用いられ、真菌症に対してジフルカン100mgの点滴静注も開始された。
その後、トンネル部の圧痛は、軽減傾向はあっても消失には至らず、抗生物質はバンコマイシン1gの使用へと進んだ。なお、ジフルカン100mgの点滴静注も継続された。
しかし、依然、Candida albicans(++)に検出されるため、消毒液は『生食ST』に切り替えた。また、皮下トンネル部内を第二カフ近傍までテフロン(登録商標)製の鈍針を挿入するとともに、本剤が生理食塩液を基本としていることを応用して、皮下カテーテル周辺に200mLの液量で圧入洗浄した。
皮下トンネル部の圧痛は軽減傾向が見られ、第2カフ直上に限局的となった。そこで、全ての抗生物質は使用中止とし、『生食ST』を容れたボトル500mLを本人渡しとして、連日自己洗浄していただいた。それまで連日の自己洗浄に使用していたステリハイドも中止とした。この時点で炎症の指標であるCRPは0.1から0.22に僅かながら上昇していた。
その後、出口部からの分泌物は全く認められなくなり、トンネル部上層の圧痛は更に限局的となった。
『生食ST』による洗浄は中止し、出口部の『生食ST』による消毒のみとして現在に至っている。CRPは0.08と、更に低下していた。
慢性糸球体腎炎による慢性腎臓病にてCAPD療法を開始した。
6ヶ月後、腹膜カテ−テル出口部感染症として紹介されてきた。Staphylococcua epidermidisを(++)に認め、バンコマイシン0.5gの点滴静脈注射、バクトロバンの塗布が開始された。
その結果、腹膜カテーテル出口部からの排膿は認められなくなっているが、依然、漿液性の分泌物の交換ガーゼへの付着は観察された。付着物からはNeisseria mucosa、Alcligenes xylosoxidase、Staphylococcus caraeが検出された。このため、クロールヘキシジン100mL、0.05%ステリクロンW 100mLによる洗浄が開始され、抗生剤はメロペン1g、バクタ2T内服に変更された。
上記治療が続けられていたが、漿液性の分泌物の排出も変わりなく認められた。このため、『生食ST』100mLによるカテーテル出口部からトンネル部にいたる皮下部分の洗浄を行った。抗生剤の注射は中止とし、化学療法剤の内服も中止とした。
その結果、カテーテル出口部からの、漿液性分泌物の排出は認められなくなり、転院した。
参考のために、それらの点を記載する。
(1)糖尿病モデル動物の作成
Iar:Long-Evansラット(体重:180〜200g)にストレプトゾトシン(STZ)65mg/kgを投与液量1mL/体重kgにて尾静脈経由にて1回静脈内投与し、糖尿病モデル(n=10)を作成した。
(2)方法
粉末飼料(タンパク質:24.9g/100g;エネルギー:346.8kcal/100g、CE-2、日本クレア)、飲用水は水道水の摂取方法は、実験終了まで自由摂取とした。
対照群は実験終了までこれを継続し、αトリノ−ST水(0.2%塩化ナトリウム水溶液からの処理水)群は、実験モデル作成2週目から当該αトリノ−ST水に変更し4週目(実験はここで終了)まで継続した。
投与後1週間目、2週間目に尾静脈より採血し、血糖を測定した。血糖値の測定にはグルコカードおよびダイアセンサー(サノフィ・アベンティス社製)を使用した。
STZ投与後1週間で、401.7±54.2mg/dLと高血糖が確認できたため、対照群(n=5)とαトリノ−ST水群(n=5)に分けた。
群分け後の血糖は、対照群が348.5±180.2mg/dL、αトリノ−ST水群が385.4±39.9mg/dLと両群にほとんど差が無く、αトリノ−ST水群で若干高値であることを確認した。
これらに対して、介入実験後は、対照群は2週後(実験開始4週後)538.8±81.35mg/dL、αトリノ−ST水群は405.2±24.1mg/dLと、αトリノ−ST水群の血糖は対照群と比較して有意に低値であり、介入開始時点2週目と殆ど同程度の値に留まっていた。
このことから、本発明のαトリノ−ST水には、ストレプトゾトシンによる膵臓障害の進展を抑制し、さらには組織の回復作用があるものと推察した。
(1)透析療法なしには生命の存続が困難な末期慢性腎不全患者に、無菌的、かつ細菌や病原微生物、菌体毒素などの菌体成分を含まない透析液を提供することができる。
(2)一切の生体にとって不都合な物質を含まない、中性透析液を慢性腎不全患者に提供できる。
(3)簡便で安価に調製される中性電解水を溶解液とする透析液を提供できることから、医療従事スタッフの要望に応じた透析液を容易に調製し得ることができ、また残留塩素の濃度の異なる中性電解水を完全自動化で調製できる点で、医療従事スタッフの労力を軽減できる。
(4)抗菌的な生理食塩水を提供できることから、幅広い応用性のある中性電解水が提供できる。
Claims (8)
- 生理食塩水を流動するように10〜200Hzの周期と0.01〜15mmの振幅振動で振動させながら、直流又はパルス電流により、1〜30Vの電圧と、5〜300A/dm2の電流密度で電気分解して得た1〜500ppmの残留塩素を含有する中性電解水からなることを特徴とする透析用水溶液。
- 血液透析療法としての透析液、又は腹膜透析療法としての透析液として使用することを特徴とする請求項1に記載の透析用水溶液。
- 電解質成分、ブドウ糖、アミノ酸を溶解する透析液として使用することを特徴とする請求項1に記載の透析用水溶液。
- アルカリ化剤として炭酸水素ナトリウムを使用する請求項3に記載の透析用水溶液。
- 透析液関連回路の清浄に使用することを特徴とする請求項1に記載の透析用水溶液。
- 腹膜透析療法における腹膜カテーテルないしカテーテル結合部の消毒液として使用することを特徴とする請求項1に記載の透析用水溶液。
- 腹膜透析療法における体腔内、皮下と皮膚の境界部及び皮膚の消毒液として使用することを特徴とする請求項1に記載の透析用水溶液。
- 別の生理食塩水と混合してなる請求項6又は7に記載の透析用水溶液。
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