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JP5499513B2 - 音響処理装置、音像定位処理方法および音像定位処理プログラム - Google Patents

音響処理装置、音像定位処理方法および音像定位処理プログラム Download PDF

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Description

この発明は、例えば、テレビジョン受像機や車載オーディオ機器等の音声信号を再生処理する装置に適用され、再生される音声による音像を移動させる装置、方法、プログラムに関する。
近年の大画面化されたテレビジョン受像機や車載のオーディオ機器では、スピーカがリスナーの頭部よりも下方に配置されることが多くなっている。このため、リスナーの頭部よりも下方に配置されたスピーカからそのまま再生音声を放音するようにした場合には、音像がリスナーの頭部よりも下方に展開し、不自然な音場感となってしまう。
そこで、このような状態を改善するため、音像の定位位置を上昇させ自然な音場感を得る機能が求められている。従来は、例えば、特許文献1(実開平5−43700号公報)おいて開示されているように、聴感上、頭上に音源方向を感じるような周波数帯域成分(8kHz付近)を強調するような処理が行われてきた。
このような音源方向とは関係なく刺激の中心周波数に依存して特定の方向性を知覚される周波数帯域は、Blauertにより方向決定帯域(Directional Band)として定義されている。これについては、例えば後に記す非特許文献1に記されている。
実開平5−43700号公報
Blauert,J.(1969/70)"Sound localization in the median plane" Acustica 22, 205-213
しかしながら、上述した頭上方向の方向決定帯域は、約8kHzを中心とした狭帯域なもののみであり、実際にこの帯域を強調する処理のみでは様々な周波数スペクトルを有する音声においては効果が不安定である。
このため、できるだけ広帯域に渡って音像上昇効果など、音像定位効果を得られるようにすることが望まれている。
以上のことに鑑み、この発明は、複雑な処理を行うことなく、広い周波数帯域に渡って、上方向、あるいは、下方向の音像定位効果を安定に得られるようにすることを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の音響処理装置は、リスナーに対して仮想音像位置と実音源位置との上下方向の位置関係は変化させずに方位角を変えて予め測定される方位角毎における仮想音像位置から放音される音声のリスナーの耳まで第1の頭部音響伝達関数と実音源位置から放音される音声の前記リスナーの耳まで第2の頭部音響伝達関数とのスペクトラム差分が示す周波数−ゲイン特性において、変化の傾向が共通する周波数区間について、当該スペクトラム差分に応じた周波数−ゲイン特性を、音声信号に対して付与して出力するフィルタ手段を備える。
この請求項1に記載の発明の音響処理装置によれば、フィルタ手段によって、音声信号に対して、仮想音像位置から放音される音声のリスナーの耳までの予め測定される第1の頭部音響伝達関数と実音源位置から放音される音声の耳までの予め測定される第2の頭部音響伝達関数とのスペクトラム差分に応じた周波数−ゲイン特性が付与される。
これにより、出力される音声信号について、実音源位置から放音される音声の耳までの予め測定される第2の頭部音響伝達関数に応じた影響を低減させて、当該第2の頭部音響伝達関数に応じた特性をフラットにさせることができる。その上で、仮想音像位置から放音される音声のリスナーの耳までの予め測定される第1の頭部音響伝達関数に応じた影響を付加することができる。これにより、再生音声の音像の定位位置を、仮想音像位置の方向に移動させることができる。
この発明によれば、複雑な処理を行うことなく、広い周波数帯域に渡って、上方、あるいは、下方の音像定位効果を安定に得られるようにすることができる。
頭部伝達関数の測定環境を説明するための図である。 頭部伝達関数の測定環境を説明するための図である。 方位角を変えながら測定した上方の頭部音響伝達関数と下方の頭部音響伝達関数との差分の特性を示す図である。 この発明の一実施の形態が適用された音響処理装置について説明するための図である。 音像定位処理フィルタの構成例を説明するための図である。 上方の頭部音響伝達関数と下方の頭部音響伝達関数との差分に応じた特性の付与と、8kHz付近の強調とを行うようにした場合について説明するための図である。 図6に示した8kHz部分を拡大して示した図である。 音像定位処理フィルタと8kHz付近を強調するための強調フィルタを有する音響処理装置について説明するための図である。
以下、図を参照しながら、この発明による装置、方法、プログラムの一実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態においては、実音源がリスナーの頭部よりも下方に位置し、当該実音源から放音される音声による音像を、実音源よりも上方に定位させるようにする場合を例にして説明する。
[8kHz帯以外の方向決定帯域の調査]
従来から用いられている頭上方向の方向決定帯域は約8kHzを中心とした狭帯域なもののみである。そこで、この帯域以外にある上方(もしくは下方)への音像定位のためのスペクトラルキュー(手がかり)の調査を行った。
図1、図2は、当該調査の調査条件について説明するための図である。図1において、点線で示したように、リスナー1の耳部を通る水平面を境とし、当該水平面から約30度の上昇角(正中面での仰角)方向に上方音源2uを設け、当該水平面から約30度の下降角(正中面での俯角)方向に下方音源2dを設ける。
これら上方音源2uと下方音源2dとを、図2に示すように、リスナー1に対して0度の位置(正中面)からリスナー1の周囲を30度刻みの方位角が示す位置に移動させる。そして、そのそれぞれの方位各の位置に、上方音源2u、下方音源2dがある場合において、頭部音響伝達関数(Head Related Transfer Function)を測定する。
具体的には、図2に示した30度刻みの方位角の示す位置において、リスナーの頭部の向きは変えずに、図1に示したように、上方頭部音響伝達関数(以下、上方HRTFと略称する。)と下方頭部音響伝達関数(以下、下方HRTFと略称する。)とを測定する。
なお、この頭部音響伝達関数の測定は、国際的人体寸法(HUMANSCALE1/2/3)に基づく世界中の人種の平均寸法で作製されているB&K社製のHATS(Head And Torso Simulator)を使用して行うようにした。
このようにして、方位角毎に測定した上方HRTFと下方HRTFとのスペクトラム差分(上方HRTF−下方HRTF)を取り、これをグラフ化する。
図3は、上述した調査条件にしたがって、水平面を境とした上方HRTFと下方HRTFのスペクトラム差分(上方HRTF−下方HRTF)を取った場合の周波数スペクトラムを示す図である。
なお、図3では、リスナー1の正面(0度)を基準にした30度刻みの方位角毎(0度、30度、60度、90度、120度、150度、180度のそれぞれ毎)に測定した上方HRTFと下方HRTFのスペクトラム差分を示している。また、図3において横軸は周波数(対数メモリ)であり、縦軸はゲイン(dB)である。
そして、図3において、符号aで示した周波数スペクトラムが、音源側の耳(図2の例の場合には右耳)におけるHRTFのスペクトラム差分(上方HRTF−下方HRTF)である。また、符号bで示した周波数スペクトラムが、音源逆側の耳(図2の例の場合には左耳)におけるHRTFのスペクトラム差分である。
図3(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)のそれぞれを比較して見ると、方位角に関係なく約200Hzから約1.2kHzの帯域において、低域側に比較してスペクトラム差分が凹んでいるという特徴的な共通構造が観察できる。
すなわち、下方HRTFに比較して、同一方位角の上方HRTFは同帯域のレベルが下がる傾向にあることが分る。そして、その傾向は方位角に関係なく成立していることが分る。
ここで、リスナーの頭部に対して下方に音源(下方スピーカ)を設け、これで音声を放音しながら、その放音される音声が形成する音像を、リスナーの頭部に対して上方に定位させるフィルタを頭部音響伝達関数(HRTF)に基づいて考えてみる。
ここでは、説明を簡単にするために、両耳の頭部音響伝達関数(HRTF)が略等しくなる正中面(図2に示した0度)の方向に下方音源2dと上方音源2uを設けた場合を例にして説明する。
図4は、この実施の形態の音響処理装置について説明するための図であり、リスナーと音源及び音像の関係をも説明するための図である。図4に示すように、この例の音響処理装置は、音声信号処理部11、音像定位処理フィルタ12、スピーカ13、レベル指示部14を備えたものである。
この例の音響処理装置は、例えば、テレビジョン受像機、車載オーディオ機器、ゲーム機などのオーディオ信号(音声信号)を処理して出力する種々のオーディオ機器に適用可能なものである。
そして、図4に示すように、この例の音響処理装置は、スピーカ(音源)13がリスナー1の下方に位置する場合に、スピーカ13から放音される再生音声による音像が、仮想音像位置20もしくはそれに近い位置に知覚できるようにする。
すなわち、図4において、スピーカ(音源)13の位置が、実際に音声が放音される実音源位置であり、音像20が示す位置が、ユーザーが音像を知覚する仮想音像位置(仮想音源)となる。
音声信号処理部11には、例えば、種々の記録媒体から読み出されたデジタル音声信号や、受信されたデジタル放送信号から分離されたデジタル音声信号などが供給するようにされる。
音声信号処理部11は、これに供給されたデジタル音声信号から所定の形式の再生対象のデジタル音声信号を形成し、これを音像定位処理フィルタ12に供給する。
例えば、供給されたデジタル音声信号が、データ圧縮されたものである場合には、音声信号処理部11は、圧縮伸張処理を行って、データ圧縮前のデジタル音声信号を復元する。また、供給されたデジタル音声信号が、所定の変調方式で変調されたものであるときには、これを復調して、元のデジタル音声データを復調するなどの処理を行う。
音像定位処理フィルタ12は、図4に示すように、予め測定される仮想音像位置20からリスナー1の耳元までの頭部音響伝達関数(上方HRTF)とスピーカ13からリスナー1の耳元までの頭部音響伝達関数(下方HRTF)とのスペクトラム差分に応じた周波数−ゲイン特性を付与する。ここで、スペクトラム差分は、(上方HRTF−下方HRTF)で与えられる。
このように、(上方HRTF−下方HRTF)に応じた特性を、再生音声に対して付与することは、スピーカ13から放音される音声について、以下に示す(1)、(2)の2つの処理を施すことを意味する。すなわち、
(1)スピーカ13からリスナー1の耳元までの特性(下方HRTF)で、スピーカ13から放音されリスナーの耳元に到達する音声のリスナー1の耳元における特性をフラットに補正する。
(2)その上で、スピーカ13から放音されリスナーの耳元に到達する音声に対して、目的とする位置の音像(仮想音像位置)20からリスナー1の耳元までの特性(上方HRTF)を与える。ということを意味する。
そして、音像定位処理フィルタ12で、(上方HRTF−下方HRTF)なる特性が付与された後のデジタル音声信号は、アナログ音声信号に変換された後に、スピーカ13に供給され、当該スピーカ13から再生音声が放音される。
このように、この実施の形態の音響処理装置においては、スピーカ13から放音される音声は、音像定位処理フィルタ12において、(上方HRTF−下方HRTF)なる特性が付与されている。これにより、スピーカ13からの放音音声による音像は、仮想音像位置20もしくはそれに近い位置に定位しているように再生音声を聴取することができるようにされる。
なお、図4に示した例の場合には、スピーカ13と仮想音像位置20とがリスナー1に対して正中面にある場合を例にして示した。しかし、この場合に限るものではない。スピーカ13と仮想音像位置20とがリスナー1に対して正中面でない方位に存在する場合にも、基本は、再生対象の音声信号について、下方HRTFで補正し、上方HRTF特性を与えるという考え方になる。
このとき、両耳のHRTFにおいて、
上方HRTF(左耳)−下方HRTF(左耳)
= 上方HRTF(右耳)−下方HRTF(右耳)…(1)
と言う(1)式で示す関係が成立するのであれば、正中面でない場合も、図4を用いて説明した仮想音像処理フィルタ12により、再生音声の音像上昇させることができることになる。
ここで、図3の上方HRTFと下方HRTFとの差分の特性を再び確認する。図3において、正中面でない場合の差分の特性は(b)〜(f)である。これらを見ると、高域側ほど上述の(1)式が成立しなくなっている傾向が見える。
しかし、(1)式にはやや不完全ながら、約1.2kHz程度までの低域〜中域では差が小さく、形状も似ているのでマクロには(1)式に近似していると言える。
ここまでをまとめると、「上方HRTF−下方HRTF」と言う特性には以下のような特徴が見られる。
(A)方位角に関係なく約200Hzから約1.2kHzの帯域において、低域側に比較してスペクトラム差分が凹んでいる。
(B)方位角に関係なく約1.2kHz程度までの低域〜中域では(1)式がマクロに成立している。
これら(A)、(B)に示した特徴から考えると以下のことが言える。すなわち、約1.2kHz以下の帯域については、約200Hzから約1.2kHzの帯域において低域側に比較してゲインが凹むようなフィルタとすれば、固定フィルタ構成で方位角に関係なく音像を上昇させることができる。前述した8kHz付近の狭帯域の方向決定帯域に比べ、広帯域かつ様々な音声に対応できるようになるため、音像上昇効果も安定する。
なお、この実施の形態においては、図4を用いて説明したように、リスナー1の下方に位置するスピーカ13から放音される音声による音像を、仮想音像位置20もしくはそれに近い位置に知覚できるようにした。
しかし、図4を用いて説明した音像定位処理フィルタ12を、正負逆形状のゲインフィルタとする場合を考える。この場合には、リスナー1の上方(例えば仮想音像位置20の位置)に位置するスピーカから放音される音声による音像を、リスナー1の下方(例えばスピーカ13の位置)もしくはそれに近い位置に位置する仮想音像位置の方向に知覚できるようにすることができる。
このように方位角に対し安定した傾向があるという事は、スピーカとリスナーとの位置関係において、その方位角に関係なく固定フィルタ構成でリスナーの耳位置を通る水平面よりも下(上)に位置するスピーカからの放音音声の音像を、上側(下側)に定位させられることを意味する。
すなわちサービスエリアの広い音像位置の上下への移動フィルタの可能性を示しており、固定されたフィルタであるにも関わらず、様々なリスナー位置でロバストな音像移動効果を実現することができる。
したがって、上述もしたように、音像定位処理フィルタ(音像上下移動フィルタ)は、音像上昇させる場合、例えば所謂パラメトリックイコライザ(PEQ)で、上述した200Hz〜1.2kHzの帯域の音声信号を凹ませればよい。なお、逆に、音像下降させる場合は、同帯域のゲインを上げるようにすればよい。
図5は、音像定位処理フィルタ12の構成例を説明するための図である。音像定位処理フィルタ12は、例えば、図5(a)に示すように、1つのデジタルフィルタによって実現することができる。当該デジタルフィルタ12は、例えば、前述したPEQといったIIR(Infinite Impulse Response)フィルタやFIR(Finite Impulse Response)フィルタによって実現可能である。
また、音像定位処理フィルタ12は、図5(b)に示すように、多段のデジタルフィルタ12(1)、12(2)、…、12(n)によって、構成することもできる(シリアル構成)。このようにした場合には、きめ細かに周波数範囲を指定して所望のゲインを付与することができる。
また、図5(c)に示すように、減算成分生成部121と、演算器122とによって構成することもできる(パラレル構成)。
この場合、減算成分生成部121は、これに入力されたアナログ音声信号に基づいて、200Hz〜1.2kHzの中域の音声信号に対して、(上方HRTF−下方HRTF)に応じた特性を付与するための信号(減算成分信号)を生成するものである。減算成分生成部121において生成された信号は、演算器122に供給される。
演算器122は、これに供給された音声信号の200Hz〜1.2kHzの帯域成分から、減算成分生成部121から供給される信号(減算成分信号)を減算する。これにより、再生対象の音声信号に対して、図3に示したように、200Hz〜1.2kHzの帯域の信号のゲインを低下させ、リスナーの下方に位置するスピーカから放音される音声による音像を、リスナーの正面方向やそれよりも上方に定位させることができる。
なお、上述した実施の形態においては、デジタル音声信号を処理する場合を例にして説明したが、アナログ音声信号を処理する場合にもこの発明を適用できる。
このように、音像定位処理フィルタ12は、種々の構成のイコライザの形態で実現できるものである。
[レベル指示に応じたレベル調整]
また、図4に示したように、レベル指示部14を設け、ユーザーからのレベル指示入力を受け付けて、これを音像定位処理フィルタ12に供給するように構成する。そして、音像定位処理フィルタ12において、ユーザーからの指示に応じて、200Hz〜1.2kHzの帯域のゲインを調整することができるようにされる。
この場合、音像定位処理フィルタ12をパラメトリックイコライザの構成とし、例えば、10Hz単位、100Hz単位と言うように、きめ細かくゲインを調整できるようにすることにより、ユーザーの意図に応じた細かい調整が可能となる。
また、例えば、中心周波数について、ゲインの調整を行うようにすることによって、これに応じて、200Hz〜1.2kHzの範囲のゲインを、中心周波数に対するゲインに応じて自動的に調整するようにすることも可能である。
このように、音像の移動に関与する200Hz〜1.2kHzの範囲の音声信号のゲインを調整できるようにしておくことにより、ユーザー自身が、仮想音像20の位置が上がりすぎたり、下がりすぎたりした場合に、これを迅速かつ的確に調整することができる。
[多チャンネルへの対応]
なお、ここでは、説明を簡単にするため、1つのスピーカから音声を放音する場合を例にして説明した。しかし、テレビジョン受像機や車載オーディオ機器においては、少なくともステレオ音声を再生する場合が多い。
そして、例えばステレオ音声を、リスナーに対してリスナーの耳部を通る水平面よりも下側に配置されたステレオスピーカで再生する場合は、各チャネルの信号に対して図4、図5を用いて説明した音像定位処理フィルタを左右のチャンネル毎に個別に施す。
このようにして構成したステレオ音声を再生する音響処理装置について、図4、図5を用いて説明した音像定位処理フィルタを適用してステレオ音声での試聴試験を行った結果、不特定多数の被験者で、音像移動効果が認められた。
なお、K.Genuitは、人間の体の各パーツ(各部位)の頭部音響伝達関数(HRTF)への幾何学的影響について言及している。それによると頭部は400Hz以上、肩部は200Hz〜10kHz、胴体は100Hz〜2kHzでそれぞれ影響するということが言われている。
そして、この実施の形態の音響処理装置において用いているのは、上述もしたように、上方HRTFと下方のHRTFとの差分であり、HRTFそのものではないが、少なからず、人間の体のパーツの影響を受けている。
すなわち、上方HRTFはその音の伝達経路から、人間の体のパーツの中では頭部の影響を大きく受けているものと考えられる。また、下方HRTFは頭部のみならず肩部、胴体の影響を受けているものと考えられる。
人間の体の各パーツ(部分)には確かに個人差はある。しかしながら、人間の体の各パーツは、体に対する位置やその大きさの割合、また、形状などが大きく異なるものではない。
したがって、頭部音響伝達関数(HRTF)が人間の体の各パーツの影響を受けているにしても、結果としてそれらが反映された上方HRTFと下方のHRTFとの差分に基づいて、再生対象の音声信号に対してフィルタ処理が施されることになる。これにより、多くの異なるリスナーにとって、スピーカから放音される音声の音像を、自己の頭部の正面や上方、あるいは、下方に移動させる(定位させる)ことができる。
このことは、上述もしたように、図4、図5を用いて説明した音像定位処理フィルタを適用してステレオ音声での試聴試験を行った結果、不特定多数の被験者で、音像移動効果が認められたことからも明らかである。
なお、上述もしたように、従来から用いられている上方の方向決定帯域の場合の問題点としては、強調する周波数帯域が、高域(8kHz付近)かつ狭帯域であるため、様々な周波数帯域を含む音声信号を処理対象とする場合も安定感に問題があるところである。
この実施の形態の音響処理装置において用いられるスペクトラルキューは、200Hz〜1.2kHzと言う音声の主要な帯域をカバーしていることから、様々な音声に対しわかりやすい効果をより安定的に提供できるというメリットがある。
[従来の方向決定帯域の利用]
ところで、従来から用いられている上方の方向決定帯域は、上述もしたように、高域かつ狭帯域であるために安定感に問題がある。しかしながら、8kHz付近の高域の周波数成分を含む音声信号を処理する場合には、ある程度の効果が期待できる。
そこで、この実施の形態の音響処理装置においては、上述もしたように、200Hz〜1.2kHzにおいて、ゲインを低くすると共に、8kHz付近の信号についてはゲインを上げて強調する。
すなわち、以下に説明するこの実施の形態の音響処理装置においては、新たに用いるスペクトラルキューと、従来から用いられている上方の方向決定帯域とを組み合わせて音声信号を処理する。これにより、図4に示したように、リスナー1の下方に位置するスピーカ13からの放音音声の音像を、リスナー1の正面方向や、それよりも上方に定位させるようにする。
図6は、200Hz〜1.2kHzにおいてゲインを低くすると共に、8kHz付近の信号についてはゲインを上げて強調する場合の処理について説明するためのゲインの特性を示す図である。
この例においては、図6において、符号Aで示した部分のように、200Hz〜1.2kHzの帯域の音声信号については、例えば、750Hzを中心周波数として、ゲインを低くするように調整する。すなわち、この部分は、上述した「上方HRTF−下方HRTF」に基づいてゲインを低減させるように調整を行う部分である。
さらに、図6において、符号Bで示した部分のように、8kHz付近の音声信号については、例えば、8kHzを中心周波数として、ゲインを高くするように調整する。この部分は、上述もしたように、従来から用いられている上方の方向決定帯域に応じた部分である。
このように、200Hz〜1.2kHzの音声信号と、8kHz付近の音声信号とを処理対象とすることにより、より広帯域な信号処理となる。このため、様々な音声に対してより効果が安定し、音像位置の上方への移動の効果がよりわかりやすくなるメリットがある。
ところで、8kHz近傍の上方の方向決定帯域を強調するに当たり、従来は、8kHz付近をイコライザで単純に強調するようにしている。しかし、この方式では通常、強調したい帯域の裾野部分も強調されてしまうので、周波数マスキングにより肝心の帯域の強調感がやや薄れてしまうと言う問題がある。
このため、方向決定帯域前後端の帯域を抑圧することが考えられる。しかし、この方式では周波数マスキングは低減されるが、強調感が薄いと言う問題がある。そこで、この実施の形態の音響処理装置においては、低域側から急峻に方向決定帯域を強調するようにしている。
図7は、図6において符号Bが示した8kHz付近を拡大して示した図である。8kHzを中心周波数として、左右対称にする場合には、図7に示すように、低域側は点線で示したようになる。
しかし、図7において実線で示したように、周波数が低い側から8kHzに向っては、ゲインを急峻に上昇させるように制御し、8kHzを中心として左右非対称となるようにゲインを調整する。
このようにすることによって、方向決定帯域を強調すると共に、影響の大きいと言われる低域側の周波数マスキングを抑制し、より大きな感覚レベルの強調効果が得られるようにしている。
図8は、図6、図7を用いて説明したように、200Hz〜1.2kHzにおいてゲインを低くすると共に、8kHz付近の信号についてはゲインを上げて強調する処理を行う音響処理装置について説明するためのブロック図である。
図8に示すように、この例の場合には、音像定位処理フィルタ12とスピーカ13との間に8kHz帯強調フィルタ15を設けたものである。
図8において、音像定位処理フィルタ12は、図4、図5を用いて説明した音像定位処理フィルタ12と同様のものである。そして、音像定位処理フィルタ12は、図6において、符号Aが示した部分のように、200Hz〜1.2kHzの帯域の音声信号のゲインを低減させる処理を行う。
また、8kHz帯強調フィルタ15は、図6において符号Bが示した部分、あるいは、図7に示したように、8kHz付近の音声信号のゲインを上げる処理を行う。この8kHz帯強調フィルタ15もまた、デジタルフィルタやDSPの構成として実現可能である。また、図5(c)に示した例の場合とは逆に、加算成分生成部と加算器とによって、8kHz帯強調フィルタ15を構成することも可能である。
これら、音像定位処理フィルタ12と8kHz帯強調フィルタ15とによって、図6に示したように、再生対象の音声信号に対してゲイン調整を施し、リスナーの下方に位置するスピーカから放音される音声の音像を、上方に定位させることができる。
[周波数帯域の微調整とゲイン特性の調整]
なお、上述した実施の形態においては、音像定位処理フィルタ12においては、図6の符号Aが示す部分のように、750Hzを中心周波数とした場合を例にして説明した。しかし、これに限るものではない。
例えば、中心周波数は、800Hzや1kHzなどとすることが可能である。また、例えば、中心周波数を1kHzとし、低域側から1kHzに向う方向には、なだらかにゲインを低くなるようにし、1kHzから1.2kHzに向う部分では、比較的に急峻にゲインを上昇させるようにするなど種々の態様とすることができる。
つまり、音声信号に与えるべきゲイン特性の詳細は調整することが可能である。このように、200Hz〜1.2kHzの範囲におけるフィルタリングにおいては、ゲインのボトムやピークとなる周波数を変えたり、周波数ごとのゲインを変えたりすることが可能である。
なお、上述した実施の形態においては、図3に示した(上方HRTF−下方HRTF)を取った場合の周波数スペクトラムに基づいて、200Hz〜1.2kHzの帯域を、音像の移動に関与する帯域とした。
しかし、必ずしも、この帯域のみに限るものではない。例えば、リスナーに対するスピーカまでの距離や、リスナーの耳部を含む水平面とスピーカ方向とのなす角度等に応じて、若干の周波数帯域の移動は可能である。
例えば、下限は200Hzとし、上限は、例えば、1.2〜2kHzの範囲で決めるようにすることも可能である。また、上限を高い方向に移動させるようにした場合には、下限についても周波数の高い方向にスライドさせるようにしても良い。なお、いずれにしても、重要な基準として、1.2kHzを含む帯域となるようにする。
[実施の形態の効果]
上述した実施の形態の音響処理装置によれば、従来知られる方向決定帯域(8kHz近傍)とは異なる、より音声の主帯域側にある音像の移動に関与するスペクトルを操作する。すなわち、頭部音響伝達関数の上方方向と下方方向との差分に現れる、音像の移動に関与する安定的なゲイン構造を、音声信号に対して施すフィルタ処理に反映させる。
これにより、音像の移動効果を、安定的に実現することができると共に、そのサービスエリアを拡大させることができる。すなわち、音像の移動効果の安定性とサービスエリアの拡大とを両立させることができる。
[この発明の方法、プログラム]
なお、上述もしたように、音像定位処理フィルタ12や8kHz帯強調フィルタ15は、DSPなどのコンピュータによって構成することも可能なものである。
このため、仮想音像位置から放音される音声のリスナーの耳までの予め測定される第1の頭部音響伝達関数と実音源位置から放音される音声の耳までの予め測定される第2の頭部音響伝達関数との差分に応じた特性を、フィルタ手段が音声信号に対して付与する音像定位処理方法が、この発明による方法である。
すなわち、図4、図8に示した音像定位処理フィルタ12において行う処理が、この発明による方法が適用されて行われるものである。更に、図8に示した8kHz帯強調フィルタ15の機能を盛り込むようにすることも可能である。
また、音声データを処理するコンピュータが、仮想音像位置から放音される音声のリスナーの耳までの予め測定される第1の頭部音響伝達関数と実音源位置から放音される音声の耳までの予め測定される第2の頭部音響伝達関数との差分に応じた特性を、音声信号に対して付与する、コンピュータ読み取り可能な音像定位処理プログラムが、この発明によるプログラムである。
すなわち、図4、図8に示した音像定位処理フィルタ12を構成するコンピュータにおいて実行されるプログラムが、この発明によるプログラムが適用されたものである。更に、図8に示した8kHz帯強調フィルタ15の機能を盛り込むようにすることも可能である。
このように、この発明による音響処理装置において説明した内容の音響処理方法、音響処理プログラムが、この発明による方法、プログラムである。
[その他]
なお、上述した実施の形態において、音像定位処理フィルタ(音像上下移動フィルタ)12に対する入力音声は、通常の音声のみならず、様々な信号処理を経た(もしくは以降に経る)音声信号にも適用できる。
また、この発明は、テレビジョン受像機、車載オーディオ機器、ゲーム機、その他、音声信号を再生する種々のオーディオ機器にこの発明を適用することができる。
特に、テレビジョン受像機や家庭用ゲーム機などに適用した場合には、例えば、表示画面の下側にスピーカが設置されている場合であっても、当該スピーカから放音される音声を、スピーカの上方に位置する表示画面方向に音像を定位させるようにすることができる。
同様に、例えば、表示画面の上側にスピーカが設置されている場合であっても、当該スピーカから放音される音声を、スピーカの下方に位置する表示画面方向に音像を定位させるようにすることができる。
1…リスナー(聴取者)、11…音声信号処理部、12…音像定位処理フィルタ、13…スピーカ、14…レベル処理部、15…8kHz帯強調フィルタ

Claims (5)

  1. リスナーに対して仮想音像位置と実音源位置との上下方向の位置関係は変化させずに方位角を変えて予め測定される方位角毎における前記仮想音像位置から放音される音声の前記リスナーの耳まで第1の頭部音響伝達関数と、前記実音源位置から放音される音声の前記リスナーの耳まで第2の頭部音響伝達関数とのスペクトラム差分が示す周波数−ゲイン特性において、変化の傾向が共通する周波数区間について、当該スペクトラム差分に応じた周波数−ゲイン特性を、音声信号に対して付与して出力するフィルタ手段を備える音響処理装置。
  2. 請求項1記載の音響処理装置であって、
    前記実音源位置が前記リスナーに対して下方に位置し、前記仮想音像位置が前記リスナーに対して上方にある場合に、入力音声信号に対し周波数の8kHz付近を強調する強調手段を備える音響処理装置。
  3. 請求項1記載の音響処理装置であって、
    前記フィルタ手段は、前記スペクトラム差分に応じた周波数−ゲイン特性のレベル調整を行うことができるものであり、
    ユーザーから前記スペクトラム差分に応じた周波数−ゲイン特性のレベル調整の指示情報を受け付けて、これを前記フィルタ手段に対して供給するレベル指示手段を備える音響処理装置。
  4. リスナーに対して仮想音像位置と実音源位置との上下方向の位置関係は変化させずに方位角を変えて予め測定される方位角毎における前記仮想音像位置から放音される音声の前記リスナーの耳まで第1の頭部音響伝達関数と、前記実音源位置から放音される音声の前記リスナーの耳まで第2の頭部音響伝達関数とのスペクトラム差分が示す周波数−ゲイン特性において、変化の傾向が共通する周波数区間について、当該スペクトラム差分に応じた周波数−ゲイン特性を、フィルタ手段が音声信号に対して付与して出力する音像定位処理方法。
  5. 音声データを処理するコンピュータが、
    リスナーに対して仮想音像位置と実音源位置との上下方向の位置関係は変化させずに方位角を変えて予め測定される方位角毎における前記仮想音像位置から放音される音声の前記リスナーの耳まで第1の頭部音響伝達関数と、前記実音源位置から放音される音声の前記リスナーの耳まで第2の頭部音響伝達関数とのスペクトラム差分が示す周波数−ゲイン特性において、変化の傾向が共通する周波数区間について、当該スペクトラム差分に応じた周波数−ゲイン特性を、音声信号に対して付与する、コンピュータ読み取り可能な音像定位処理プログラム。
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