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JP5494568B2 - ガソリンエンジン - Google Patents

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Description

本発明は、少なくとも一部がガソリンからなる燃料と空気との混合気を燃焼室で燃焼させることによりピストンを往復運動させるガソリンエンジンに関する。
従来、ガソリンエンジンの分野では、点火プラグからの火花放電により強制的に混合気を着火させる燃焼形態が一般的であったが、近年、このような火花点火による燃焼に代えて、いわゆる圧縮自己着火燃焼をガソリンエンジンに適用する研究が進められている。圧縮自己着火燃焼とは、燃焼室に生成された混合気をピストンで圧縮し、高温・高圧の環境下で、火花点火によらず混合気を自着火させるというものである。圧縮自己着火燃焼は、燃焼室の各所で同時多発的に自着火する燃焼であり、火花点火による燃焼に比べて燃焼期間が短く、より高い熱効率が得られると言われている。
ここで、前記圧縮自己着火燃焼を安定して実現するためには、燃焼室内の混合気の温度をより確実に高温とする必要がある。これに対して、例えば、特許文献1に開示されているように、内部EGR量を増大させてこれにより混合気の温度を高める方法や、特許文献2に開示されているように混合気に点火エネルギーを供給して混合気の一部を燃焼させることにより混合気の温度を高めるいわゆる着火アシストを行う方法が検討されている。
特開2007−85241号公報 特開2011−021553号公報
前記着火アシストを行う場合において、点火エネルギーが加えられる混合気の状態によっては、SOOTやNOxが生成されて排気性能が悪化する、あるいは、点火後に適正な圧縮自己着火燃焼が実現しないおそれがある。
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、着火アシストにより混合気の温度を適性に高めて適正な圧縮自己着火燃焼が実現できるガソリンエンジンを提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、少なくとも一部がガソリンからなる燃料と空気との混合気を燃焼室で燃焼させることによりピストンを気筒内で往復運動させるガソリンエンジンであって、前記燃料を燃焼室内に噴射する複数の噴口が先端に形成されているとともに、当該先端部が前記燃焼室天井の径方向中央部分において前記燃焼室内に臨む状態で、前記燃焼室天井に配設されたインジェクタと、前記燃焼室天井のうち前記インジェクタよりも径方向外側の位置に配設されて、前記混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグと、前記インジェクタによる燃料の噴射動作および前記点火プラグによる点火動作を制御する制御手段とを備え、前記インジェクタの各噴口は、当該各噴口を通じて燃料が前記ピストンの冠面に近づくほど径方向外側に拡がって放射状に噴射されるように、その各軸線が前記ピストン冠面に近づくほど径方向外側に傾斜する形状を有し、前記ピストンは、その冠面の径方向中央部分に設けられて前記燃焼室天井から離間する方向に凹むキャビティを有し、前記点火プラグは、その点火点が、前記インジェクタの先端部に対して前記気筒の径方向外側に離間するとともに前記キャビティの外周縁よりも径方向内側に位置し、さらに平面視でインジェクタの互いに隣接する噴口の軸線と軸線の間に位置するように、配設されており、前記制御手段は、予め設定されたエンジンの特定運転領域において、前記燃焼室のうち前記キャビティよりも径方向外側の部分に混合気が偏在するような圧縮上死点前の所定のタイミングで燃料を噴射する前段噴射と、前記キャビティ内に混合気が偏在するような圧縮上死点以降の所定のタイミングで燃料を噴射する後段噴射とを、前記インジェクタに実施させるとともに、前記後段噴射が開始されてからこの後段噴射により噴射された燃料が前記燃焼室の壁面に到達するまでの間で、かつ、前記前段噴射に基づく混合気が自着火燃焼を開始した後に、前記点火プラグから前記キャビティ内に存在する混合気に点火エネルギーを供給させることを特徴とする(請求項1)。
本発明によれば、圧縮行程以降の少なくとも2回の噴射時期(前端噴射および後段噴射)に分けて燃料が噴射されることにより、燃焼室内の別々の空間(燃焼室の外周部およびキャビティ内部)に分離して混合気が形成されるため、これらの混合気を圧縮上死点付近で独立して自着火、燃焼させることができる。このため、分割噴射された燃料が混じりあって同時に燃焼する事態が回避され、燃焼室内の圧力の急上昇に伴う燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるSOOTの大量発生が効果的に防止される。しかも、前記点火プラグは、前記キャビティの径方向外側端よりも径方向内側に配置されて、後段噴射時に噴射された燃料に点火エネルギーを供給しており、この点火エネルギーが燃焼室の外周部の混合気に悪影響を及ぼすのが抑制される。具体的には、この点火エネルギーが燃焼室の外周部に存在する前段噴射の燃料と空気との混合気に供給されることで、この外周部で圧縮上死点よりも前に燃焼が開始して仕事量が減少する、あるいは、火炎伝播が開始して圧縮自着火燃焼が阻止される、という事態をより確実に抑制することができる。
しかも、インジェクタから噴射された燃料が燃焼室の壁面に到達する前にこの燃料を含む混合気に点火エネルギーが供給される。これにより、当量比が十分に小さく、かつ、燃料が十分に蒸気となった状態で点火エネルギーが供給されるため、NOxやSOOTの生成が抑制されるとともに、この点火点近傍の混合気のみが適正に燃焼して、燃焼室内の混合気が適正に昇温され、適正な圧縮自己着火燃焼が実現される。
また、点火プラグの先端等をキャビティ内に退避させて、点火プラグとピストン冠面との衝突をより確実に回避することができる。
本発明において、前記インジェクタは、その先端に8個以上の噴口を有するのが好ましい(請求項2)。
この構成によれば、燃料の霧化すなわち燃料の蒸発が促進されるため、NOxやSOOTの生成がより確実に抑制されつつ点火点近傍の適正な燃焼が実現される。
また、本発明において、前記点火プラグは、その点火点が側面視で前記インジェクタの特定の噴口の軸線近傍に位置するように、前記燃焼室天井から燃焼室内部に向かって突出しているのが好ましい(請求項3)。
このようにすれば、点火エネルギーが特定の噴口から噴射された燃料に効率よく伝達され、点火点近傍の適正な燃焼が実現される。
また、前記構成において、前記燃焼室天井の径方向中央部分には、前記ピストン冠面から離間する方向に凹むインジェクタ格納部が形成されており、前記インジェクタは、その先端部が前記インジェクタ格納部の径方向中央部分に位置する状態で、当該インジェクタ格納部内に臨んでおり、前記インジェクタ格納部の内周面は、前記インジェクタの各噴口から前記燃焼室の壁面に向かう燃料の通過領域から径方向外側に離間した位置で当該燃料の通過領域を囲む形状を有するのが好ましい(請求項4)。
このようにすれば、各噴口から噴射された燃料がインジェクタ格納部の内周面への衝突、付着することによる燃料の霧化の悪化を回避しつつ、点火プラグの燃焼室内への突き出し量を小さくすることができる。すなわち、前記インジェクタの先端部がピストン冠面からより離間する位置に配設されることに伴い、点火点の位置をピストン冠面から離間させることができる。そのため、点火プラグの突き出し量を小さくすることができる。
具体的には、前記インジェクタ格納部の内周面は、前記燃焼室天井の径方向中央部分を頂部とする略円錐面状を有しており、前記インジェクタの先端部は、前記頂部に位置している構成が挙げられる(請求項5)。
ここで、前記前段噴射は、圧縮行程中に実施され、前記後段噴射は、膨張行程初期までの間に実施されるのが好ましい(請求項)。
この構成によれば、圧縮行程以降の少なくとも2回の噴射時期(前端噴射および後段噴射)に分けて燃料が噴射されることにより、燃焼室内の別々の空間(燃焼室の外周部およびキャビティ内部)に分離して混合気が形成されるため、これらの混合気を圧縮上死点付近で独立して自着火、燃焼させることができる。このため、分割噴射された燃料が混じりあって同時に燃焼する事態が回避され、燃焼室内の圧力の急上昇に伴う燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるSOOTの大量発生が効果的に防止される。しかも、前記点火プラグは、前記キャビティの径方向外側端よりも径方向内側に配置されて、後段噴射時に噴射された燃料に点火エネルギーを供給しており、この点火エネルギーが燃焼室の外周部の混合気に悪影響を及ぼすのが抑制される。具体的には、この点火エネルギーが燃焼室の外周部に存在する前段噴射の燃料と空気との混合気に供給されることで、この外周部で圧縮上死点よりも前に燃焼が開始して仕事量が減少する、あるいは、火炎伝播が開始して圧縮自着火燃焼が阻止される、という事態をより確実に抑制することができる。
以上説明したように、本発明によれば、排気性能を向上させつつ適正な圧縮自己着火燃焼を実現することができる。
本発明の一実施形態に係るガソリンエンジンの全体構成を示す図である。 図1に示すガソリンエンジンの燃焼室周辺の概略図である。 図2の一部を拡大して示す概略図である。 点火点と燃料噴霧等との関係を説明するための概略図である。 (a)〜(c)は、点火時の当量比と排気性能との関係を説明するための図である。 (a)〜(c)は、点火時の当量比と排気性能との関係を説明するための図である。 燃料噴霧の当量比および状態を示した図である。 噴射圧および噴射後の経過時間と燃料噴霧の当量比および状態との関係を示した図である。 噴射圧および噴射後の経過時間と燃料噴霧の当量比および状態との関係を示した図である。 前記エンジンの制御系を示すブロック図である。 エンジンの運転状態に応じた燃焼形態を選択するための制御マップの一例を示す図である。 図11の第1運転領域(A1)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。 図11の第2運転領域(A2)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。 図11の第3運転領域(A3)における制御内容を説明するためのタイムチャートである。 (a)〜(f)は、前記第2運転領域(A2)で行われる燃料噴射とそれに基づく混合気の燃焼を模式的に説明するための図である。 本発明の他の実施形態に係るガソリンエンジンの燃焼室周辺を示した図である。 本発明の他の実施形態に係るガソリンエンジンの燃焼室周辺を示した図である。 本発明の他の実施形態に係るガソリンエンジンの燃焼室周辺を示した図である。 図18に示す本発明の他の実施形態に係るガソリンエンジンの燃焼室周辺を示した図である。
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行駆動用の動力源として車両に搭載される往復ピストン型の多気筒ガソリンエンジンである。このエンジンのエンジン本体1は、紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものである。なお、この燃料はガソリンが主成分であればよく、その中身は、全てガソリンであってもよいし、ガソリンにエタノール(エチルアルコール)等を含有させたものでもよい。前記シリンダブロック3のボア径は60mm〜100mmであって、本実施形態では、このボア径は86mmに設定されている。
前記ピストン5は、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。前記ピストン5の往復運動に応じて、前記クランク軸7はその中心軸回りに回転する。
前記ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。燃焼室6には、吸気ポート9および排気ポート10が開口している。前記シリンダヘッド4には、各ポート9,10を開閉する吸気弁11および排気弁12がそれぞれ設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンである。各気筒2につき前記吸気ポート9および排気ポート10が2つずつ設けられるとともに、前記吸気弁11および排気弁12も2つずつ設けられている。
ここで、「燃焼室」とは、狭義には、ピストン5が上死点にあるときにその上方に形成される空間のことを指すが、ここでいう燃焼室6とは、ピストン5の上下位置にかかわらずその上方に形成される空間のことを指す(広義の燃焼室)。
前記吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13,14によりクランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
前記吸気弁11用の動弁機構13には、CVVL15が組み込まれている。CVVL15は、連続可変バルブリフト機構(Continuous Variable Valve Lift Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11のリフト量を連続的に(無段階で)変更するものである。CVVL15は、エンジンの全ての吸気弁11のリフト量を変更できるように設けられており、このCVVL15が駆動されると、各気筒2において一対の吸気弁11のリフト量が同時に変更されるようになっている。
このような構成のCVVL15は既に公知であり、その具体例として、吸気弁11駆動用のカムをカムシャフトの回転と連動して往復揺動運動させるリンク機構と、リンク機構の配置(レバー比)を可変的に設定するコントロールアームと、コントロールアームを電気的に駆動することによって前記カムの揺動量(吸気弁11を押し下げる量)を変更するステッピングモータとを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
前記排気弁12用の動弁機構14には、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を有効または無効にするON/OFFタイプの可変バルブリフト機構(Variable Valve Lift Mechanism)であるVVL16が組み込まれている。すなわち、VVL16は、排気弁12を排気行程だけでなく吸気行程でも開弁可能にするとともに、この吸気行程中の排気弁12の開弁動作を実行するか停止するかを切り替える機能を有している。VVL16は、エンジンの全ての排気弁12に対応して設けられており、かつ、各気筒2の一対の排気弁12に対し、それぞれ個別に、吸気行程中の開弁動作を実行または停止できる。
このような構成のVVL16は既に公知であり、その具体例として、排気弁12駆動用の通常のカム(排気行程中に排気弁12を押し下げるカム)とは別に吸気行程中に排気弁12を押し下げるサブカムと、このサブカムの駆動力が排気弁12に伝達されるのを有効または無効にするいわゆるロストモーション機構とを備えたものを挙げることができる(例えば特開2007−85241号公報参照)。
このVVL16の作用により、排気弁12が排気行程中に加えて吸気行程中に開弁した場合には、排気行程において高温の排気が排気ポート10から燃焼室6に逆流して、燃焼室6内に大量の排気が残留する。すなわち内部EGRガス量が多く確保される。一方、排気弁12が排気行程中にのみ開弁した場合には、内部EGRガス量は少量あるいはない状態に抑えられる。
前記エンジン本体1の吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路28および排気通路29がそれぞれ接続されている。
前記吸気通路28は、単一の通路からなる共通通路部28cと、共通通路部28cの上流側端部に設けられたサージタンク28bと、気筒2ごとに分岐して設けられ、前記サージタンク28bと各気筒2の吸気ポート9とを接続する分岐通路部28aとを有している。
前記排気通路29は、単一の通路からなる共通通路部29cと、気筒2ごとに分岐して設けられ、前記共通通路部29cの上流側端部と各気筒2の排気ポート10とを接続する分岐通路部29aとを有している。
前記吸気通路28および排気通路29の間には、排気通路29を通過する排気ガスの一部を吸気通路28に還流させる外部EGR装置30が設けられている。外部EGR装置30は、吸気通路28および排気通路29の各共通通路部28c,29cどうしを連通するEGR通路31と、EGR通路31の途中部に設けられてEGR通路31を通過する排気の流量を制御するEGRバルブ32と、EGR通路31を通過する排気を冷却する水冷式のEGRクーラ33とを有している。
前記吸気通路28の共通通路部28cには、吸気通路28を通過する吸入空気の量を調節するスロットル弁25が設けられている。ただし、本実施形態では、前記CVVL15により吸気弁11のリフト量が調整され、また、VVL16により燃焼室6の内部EGRガスの量が調整され、さらには、外部EGR装置30により吸気通路28に還流される排気ガスの量が調整される。したがって、これらの操作に基づいて、スロットル弁25を操作することなく、燃焼室6に導入される空気(新気)の量を調整することが可能である。このため、スロットル弁25は、エンジンの停止時等を除いて、全開もしくはそれに近い値に維持される。
前記排気通路29の共通通路部29cには、排気ガス浄化用の触媒コンバータ35が設けられている。触媒コンバータ35には例えば三元触媒が内蔵されており、排気通路29を通過する排気ガス中の有害成分は、前記三元触媒の作用により浄化される。
また、エンジン本体には、各種センサが取り付けられている。例えば、エンジン冷却水の温度を検出するための水温センサSW1、クランク軸7の回転角度(クランク角)ひいてはエンジン回転数を検出するためのクランク角センサSW2、前記カムシャフトの角度を検出して気筒判別(各気筒が吸気、圧縮、膨張、排気のいずれの行程にあるかの判別)用の信号を出力するカム角センサSW3が、エンジン本体に取り付けられている。
図2は、前記燃焼室6周辺を示した図である。この図2等に示すように、燃焼室6の内周面すなわち壁面の一部を構成するピストン5の冠面の径方向中央部分には、凹状のキャビティ40が設けられている。キャビティ40は、前記インジェクタ21と対向する上向きの開口部40aを上端に有しており、この開口部40aの面積(開口面積)は、キャビティ40の内部の最大断面積(キャビティ40の各高さ位置における水平方向断面積の最大値)よりも小さく設定されている。すなわち、キャビティ40は、その開口部40aから所定深さまでの範囲において、上方に至るほど内径が狭くなるように上窄まり状に形成されている。
前記キャビティ40よりも径方向外側に位置するピストン5の冠面には、平面視円環状の環状凹部41が、キャビティ40の周囲を取り囲むように設けられている。この環状凹部41は、径方向外側に至るほど高さが低くなるように形成されている。この環状凹部41の最大深さ(最外周部の深さ)は、キャビティ40の深さよりも浅く設定されている。
また、前記環状凹部41よりもさらに径方向外側に位置するピストン5の最外周部には、前記環状凹部41よりも上方に突出した円環状の立壁部42が設けられている。この立壁部42の突出高さは、前記キャビティ40上端の開口部40aを囲む部分(リップ部)と同一に設定されている。
前記シリンダヘッド4の底面で構成される燃焼室6の天井面60の径方向中央部分には、ピストン5の冠面から離間する方向に凹むインジェクタ格納部62が設けられている。以下、適宜、ピストン5の冠面側(図2の下側)を下側といい、インジェクタ格納部62側(図2の上側)を上側という。前記燃焼室6の天井面60のうち前記インジェクタ格納部62よりも径方向外側の部分63は、ピストン5の軸心と直交する平面となっている。すなわち、前記燃焼室6の天井面60は、いわゆるフラットヘッドの径方向中央部分に上方に凹む前記インジェクタ格納部62が形成された形状を有している。
前記インジェクタ格納部62は、燃焼室6の天井面60の径方向中央部分を頂部とする略円錐状を有し、その内周面62aは略円錐面状を有している。より詳細には、このインジェクタ格納部62の径方向中央部分には、シリンダヘッド4の内部に形成されて前記インジェクタ21が取り付けられる取り付け部66が開口しており、インジェクタ格納部62の内周面62aはこの取り付け部66の開口部66aから下方に向かって円錐台状に延びている。
前記シリンダヘッド4には、点火プラグ20およびインジェクタ21が、各気筒2につき1組ずつ設けられている。図3に、これら点火プラグ20およびインジェクタ21周辺の拡大図を示す。
前記インジェクタ21には燃料供給管23(図1参照)が接続されており、この燃料供給管23を通じて供給される燃料(ガソリンを主成分とする燃料)が前記インジェクタ21の先端部I1から噴射される。前記インジェクタ21は、いわゆる多噴口型のインジェクタである。本実施形態では、図4に示すように、前記インジェクタ21は、その先端部I1に12個の噴口21aを有している。
前記インジェクタ21は、その先端部I1が前記インジェクタ格納部62の頂部すなわち前記取り付け部66の開口部66aに位置し、その軸線u1がインジェクタ格納部62の頂部すなわち燃焼室6の天井面60の径方向中央を通り、このインジェクタ格納部62の頂部からインジェクタ格納部62内に臨む姿勢で、前記取り付け部66に取り付けられている。前記各噴口21aは、インジェクタ21の軸線u1を中心とする円周上に互いに等間隔に形成されており、各噴口21aの軸線u2すなわち各噴口21aの開口方向は、径方向外側に向かって斜め下方(ピストン4の冠面側)を向いている。すなわち、各噴口21aの軸線u2は、それぞれ、インジェクタ21の先端部I1を頂点としてインジェクタ21の軸線u1を中心軸とする円錐面の母線を構成している。前記インジェクタ21の各噴口21aから燃料が噴射された場合、その燃料は、ピストン5の冠面に近づくほど径方向外側に拡がるように放射状に噴射される。本実施形態では、各噴口21aの軸線u2は、インジェクタ21の軸線u1に対して45度傾斜している。すなわち、図3における角度α1が、45度に設定されている。
前記インジェクタ格納部62の内周面62aは、前記インジェクタ21から噴射された燃料がこの内周面62aに衝突しないように、この燃料の通過領域F1よりも径方向外側に位置している。本実施形態では、前記インジェクタ格納部62の内周面62aは、側面視で、前記燃料の通過領域F1よりも径方向外側においてインジェクタ21の噴口21aの軸線u2と平行に延びている。燃料の通過領域F1とは、各噴口21aから噴射された燃料が燃焼室6の壁面に到達する前に通過する領域であり、各噴口21aを頂点として各噴口21aの軸線u2を中心軸とした各噴口21aの噴霧角度α2(図3参照)を頂角とする円錐状の領域である。本実施形態では、噴霧角度α2は、15度に設定されている。
前記点火プラグ20は、図外の点火回路からの給電に応じてその先端から火花を放電して燃焼室6内の混合気に点火エネルギーを供給し、この混合気に点火する。本実施形態では、前記点火プラグ20は、前記燃焼室6の天井面60のうち前記インジェクタ格納部62よりも径方向外側の平面部分(以下、適宜、フラットヘッド面という)63から燃焼室6内を臨む状態で、取り付けられている。
本実施形態では、前記取り付け状態において、前記点火プラグ20の先端に設けられた外側電極と内側電極との中間部分すなわち点火点S1は、図4に示すように、平面視で前記インジェクタ21の互いに隣接する噴口21aの軸線u2_1、u2_2の中間に位置している。
また、前記取り付け状態において、前記点火点S1は、図3に示すように、側面視で点火プラグ20に最も近い位置にある噴口21aの軸線u2上に位置している。そして、この点火点S1とインジェクタ21の先端部I1との離間距離Lは、より詳細には、点火点S1とインジェクタ21の先端部I1の径方向中心部分との離間距離は、20mm以上25mm以下に設定されている。前記離間距離Lは、インジェクタ21の先端部I1から点火点S1に向かって延びる線であって、点火点S1に近い2つの噴口21aの軸線u2_1、u2_2の中間を通る線に沿った距離である。本実施形態では、この離間距離Lは20mmに設定されている。この離間距離Lの設定基準については後述する。
さらに、前記取り付け状態において、前記点火点S1は、前記キャビティ40の外周縁よりも径方向内側に位置している。換言すれば、前記キャビティ40の径は、前記点火点S1が、前記キャビティ40の外周縁よりも径方向内側に位置する寸法に設定されている。
(2)点火点S1の位置の設定基準
図5(a)〜(c)および図6(a)〜(c)は、燃焼室6内の混合気の温度と当量比の分布が、点火エネルギーの供給を受けて、時間とともにどのように変化するのかを示した図である。各図の(a)、(b)、(c)の順に時間が経過している。図5(a)および図6(a)は、それぞれ点火エネルギーが供給される前の混合気の状態を示している。図5および図6の(b)、(c)は、それぞれ、点火エネルギー供給後の時間変化に伴う混合気の状態の変化を示している。各図に示されるように、点火エネルギーが供給されると、混合気は燃焼を開始し、これに伴って混合気(既燃ガス含む)の温度は上昇していく。
各図5と図6の各図には、SOOTとNOxが生成される領域が合わせて示されている。具体的には、燃焼室6内の混合気の当量比が高く(リッチ状態であり)、かつ、所定温度以上の領域E1が、SOOTが主に生成される領域であり、燃焼室6内の温度が高い領域E2がNOxが主に生成される領域である。
図5と図6とは、燃焼室6内のうち点火エネルギーが付与される部分(点火点)の位置が互いに異なっている。図5は、点火点が、当量比2付近の混合気が存在する位置(図5(a)の点S1)に設定された際の結果である。図6は、点火点が、当量比1付近の混合気が存在する位置(図6(a)の点S2)に設定された際の結果である。図5(b)と図6(b)とを、また、図5(c)と図6(c)とを比べると、NOx生成領域E2に含まれる混合気の量はほぼ同一である一方、当量比2付近の混合気が存在する位置に点火点が設定された場合の方が、当量比が高く、かつ、温度の高い混合気の量が多い、すなわち、SOOT生成領域E1に含まれる混合気の量が多くSOOTがより多く生成されている。このように、当量比が2付近といった高い領域に点火エネルギーが供給されると、空気不足の領域で燃焼が開始してこの領域の温度が高くなる結果、多量のSOOTが生成される。
そのため、SOOTの生成量をより小さく抑えて排気性能を高めるためには、点火エネルギーが供給される領域の混合気の当量比を1よりも十分に小さくする必要がある。
ここで、燃焼室6内に燃料が噴射された時期から燃焼室6内の混合気に点火エネルギーが供給される時期までの期間が長い場合には、混合気の予混合化が進むことで混合気全体の当量比は小さくなる。しかしながら、このように十分に混合されて当量比が非常に小さくなった混合気を燃焼させるためには、点火エネルギーを大きくする必要がある。そして、このように十分に予混合化された混合気に大きな点火エネルギーを供給すると、混合気の温度上昇にとどまらずに、火炎伝播が開始してしまうおそれがあり、適度に当量比の小さい混合気に点火エネルギーを供給する必要がある。
また、液体燃料に点火エネルギーを供給した場合は、SOOTが発生しやすいことが分かっており、燃料の多くが蒸気となっている領域に点火エネルギーを供給する必要がある。
以上より、排気性能を高めつつ、火炎伝播にいたることなく混合気の温度を圧縮時着火温度にまで適正に高めるためには、噴射された燃料が燃焼室6内全体に拡散して予混合化する前、すなわち、噴射された燃料が燃焼室6の壁面に到達する前であって、混合気の当量比が1よりも十分に小さく、かつ、燃料の多くが蒸気となっている領域に点火エネルギーを供給する必要があるといえる。
そこで、本発明者らは、前記のような条件を満足する領域を点火点に設定するべく、燃料噴射後の燃焼室6内の混合気の当量比の分布および燃料噴霧の状態(液体であるか蒸気であるか)を調べた。具体的には、図7に示すように、燃料が液体の状態で含まれている混合気の当量比の分布と、燃料が蒸気の状態で含まれている混合気の当量比の分布とをそれぞれ調べた。図7の左側のグラフは、液体燃料が含まれる混合気の当量比の分布を示している。このグラフにおいて、横軸rは、インジェクタ21の軸線u1からこの軸線u1と直交する方向の距離を示しており、左側ほどインジェクタ21の軸線u1からの距離が遠いことを示している。一方、図7の右側のグラフは、燃料蒸気が含まれる混合気の当量比の分布を示している。このグラフにおいて、横軸rは、インジェクタ21の軸線u1からこの軸線u1と直交する方向の距離を示しており、右側ほどインジェクタ21の先端からの距離が遠いことを示している。左右両グラフにおいて、縦軸Zは、いずれもインジェクタ21の先端部I1から、インジェクタ21の噴口21aの軸線u2方向の距離であり、下側ほどインジェクタ21の先端からの距離が遠いことを示している。また、左右両グラフ中の各数値は、指し示した領域の当量比の範囲を示している。例えば、0.1〜0.5と記された領域は、当量比が0.1以上0.5未満の領域であり、1.0〜と記された領域は、当量比が1.0以上の領域である。
図7に示すような液体燃料が含まれる混合気の当量比の分布と燃料前記が含まれる混合気の当量比の分布の時間変化を、複数の噴射圧に対して調べた。その結果を図8および図9に示す。図8および図9には、噴射圧がそれぞれ120、80、40、20MPaの場合における当量比の分布および燃料噴霧の状態が示されている。図8には、燃料噴射後の経過時間がそれぞれ0.2ms、0.5ms、1.0msの場合の当量比の分布および燃料噴霧の状態が示されている。図9には、燃料噴射後の経過時間がそれぞれ1.5ms、2.0ms、2.5msの場合の当量比の分布および燃料噴霧の状態が示されている。
図8に示されるように、噴射圧が高いほど、燃料噴霧は早期に蒸発し、かつ、この燃料蒸気は早期にインジェクタ先端から遠い範囲に移動している。しかしながら、図8および図9に示されるように、いずれの噴射圧においても、噴射後1.0msおよび1.5msにおいて、Zの値すなわち噴口21aの軸線u2に沿ってインジェクタ21の先端からの距離が20mm以上25mm以下となる領域では、燃料噴霧の多くが蒸気となり、かつ、この蒸気を含む混合気の当量比が0.2程度となっている。そのため、点火エネルギーが供給される領域すなわち点火点S1を、インジェクタ21の先端部I1からの距離が20mm以上25mm以下の領域に設定すれば、噴射圧によらず、適正に混合気を燃焼させることができる。このようにして、本エンジンでは、点火点S1が、この点火点S1とインジェクタ21の先端部I1との離間距離Lが20mm以上25mm以下となる位置に設定されている。
(3)制御系
図10は、エンジンの制御系を示すブロック図である。本図に示されるECU50は、エンジンの各部を統括的に制御するための装置であり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
前記ECU50には、エンジン本体に設けられた前記水温センサSW1、クランク角センサSW2、およびカム角センサSW3等の各種センサから種々の情報が入力される。また、ECU50には、車両に設けられた各種センサからの情報も入力される。例えば、運転者により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサSW4から、アクセル開度の情報がECU50に入力される。
前記ECU50は、その主な機能的要素として、判定手段51、インジェクタ制御手段52、吸気制御手段53、内部EGR制御手段54、外部EGR制御手段55、および点火制御手段56を有している。
前記判定手段51は、クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW4の各検出値から特定されるエンジンの回転数Neおよび負荷T(目標トルク)に基づいて、現在のエンジンの運転領域が図11の制御マップにおけるいずれの運転領域であるかを判定する。
具体的に、図11の制御マップにおいて、負荷Tが比較的低い領域には、全ての回転数域にわたって第1運転領域A1が設定されている。また、この第1運転領域A1よりも負荷Tが高くかつ回転速度Neが所定値よりも低い領域には、第2運転領域A2が設定されているとともに、前記第1運転領域A1よりも負荷Tが高くかつ回転速度Neが前記所定値よりも高い領域には、第3運転領域A3が設定されている。さらに、前記第1運転領域A1と第2運転領域A2と間、および、第1運転領域A1と第3運転領域A3との間には、それぞれ、第4運転領域A4および第5運転領域A5が設定されている。なお、これら第1〜第5運転領域A1〜A5からなる制御マップは、基本的に、エンジン水温センサSW1により検出された冷却水温が所定値(例えば80℃)以上となる温間状態のときのものである。エンジンが冷間状態にあるときの制御マップについては、ここでは説明を省略する。
前記インジェクタ制御手段52は、前記インジェクタ21から燃焼室6に噴射される燃料の噴射量や噴射時期を制御するものである。具体的に、このインジェクタ制御手段52は、負荷Tやエンジン回転数Ne等に基づいて、目標とする燃料の噴射量および噴射時期を演算し、その演算結果に基づいてインジェクタ21を駆動する。
前記吸気制御手段53は、前記CVVL15を駆動して吸気弁11のリフト量(開弁量)を変更する。例えば、吸気制御手段53は、エンジンの負荷Tが高い場合には、燃焼室6に多量の空気(新気)を導入すべく、吸気弁11のリフト量を増大させる。一方、吸気制御手段53は、エンジンの負荷Tが低い場合には、吸気弁11のリフト量を低減する。
前記内部EGR制御手段54は、前記VVL16を駆動して排気弁12の吸気行程中の開弁を実行または停止することにより、燃焼室6に残留する内部EGRガス量を調整する。なお、本実施形態において、VVL16付きの排気弁12が1気筒あたり2つ設けられているので、吸気行程中に開弁する排気弁12の数を0,1,2の間で切り替えることにより、内部EGRガス量を段階的に変化させることが可能である。
前記外部EGR制御手段55は、前記EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度を変更して、排気通路29から吸気通路28に還流する排気ガス量すなわち外部EGR量を調整する。
前記点火制御手段56は、前記点火プラグ20が火花放電を行うタイミング(点火時期)等を制御する。
(4)各運転領域の具体的制御手順
次に、前記ECU50が、前記第1運転領域A1、第2運転領域A2で、それぞれどのような制御を実施するのかを具体的に説明する。
まず、ECU50は、エンジンの運転が開始されると、前記クランク角センサSW2およびアクセル開度センサSW4の各検出値に基づいて、エンジンの運転点(負荷Tおよび回転数Ne)が図11の制御マップにおけるどの運転領域に該当するかを逐次判定する。そして、判定された運転領域に応じて、それぞれ以下のような制御を実行する。
なお、この説明の前提として、エンジンの冷却水温は充分に暖まっている(つまり温間時の運転である)ものとする。そして、本実施形態では、ECU50は、温間時において、エンジンの運転点が前記運転領域A1〜A5のいずれにあっても、圧縮自己着火燃焼が実現される制御を実施する。ただし、適切な圧縮自己着火燃焼を行わせるには、インジェクタ21からの燃料噴射時期や、内部EGRまたは外部EGRの有無や、点火プラグ20からの点火の有無等を、運転領域A1、A2によって変化させる必要がある。そのため、ECU50は、前記インジェクタ21、点火プラグ20、CVVL15、VVL16、およびEGRバルブ32等を、エンジンの運転点を逐次判定しながら制御する。
(i)第1運転領域A1
図12は、エンジンが第1運転領域A1で運転されている場合の燃料噴射時期と吸排気弁11,12のリフト特性、およびそれに基づく燃焼により生じる熱発生率(J/deg)を示す図である。本図に示すように、第1運転領域A1では、圧縮行程の前に噴射された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮作用によって自着火させる、一般的な予混合圧縮自己着火燃焼が実行される。具体的に、この第1運転領域A1では、吸気行程中の所定時期にインジェクタ21から燃焼室6に燃料が噴射(P)され、この燃料噴射Pにより噴射された燃料と、吸気通路28から燃焼室6に導入される空気(新気)との混合気が、ピストン5の圧縮作用により高温、高圧化し、圧縮上死点(圧縮行程と膨張行程の間のTDC)付近で自着火する。すると、このような自着火に基づき、波形Qaに示すような熱発生を伴う燃焼が生じることになる。
ただし、第1運転領域A1は、負荷Tが比較的低く、インジェクタ21から噴射される燃料の量が少ないため、筒内温度を意図的に上昇させないと、失火が起きるおそれがある。そこで、前記第1運転領域A1では、VVL16を駆動して排気弁12を吸気行程中に開弁させることにより、燃焼室6で生成された排気ガスを燃焼室6に逆流させて、燃焼室6内の内部EGRを多量に確保する。すなわち、排気弁12は、排気行程に加えて(図12のリフトカーブEX)、吸気行程でも開弁する(リフトカーブEX’)。このように、高温の内部EGRガス量が多く確保されると、燃焼室6内の混合気の温度は高温となり、混合気の自着火が促進される。なお、内部EGRガス量は、低負荷側ほど多く、高負荷側ほど少なく設定される。そのための制御として、例えば、第1運転領域A1における低負荷域(無負荷に近い領域)では、吸気行程中に開弁する排気弁12の数が2つとされ、それよりも負荷が高くなると、開弁数が1つに減らされる。
前記のように、第1運転領域A1では、排気弁12の再開弁(吸気行程中の開弁)に基づく内部EGRガス量が増大されるのに伴い、外部EGRガスの導入は停止される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32の開度が全閉に設定されることにより、排気通路29から吸気通路28への排気ガスの還流が停止される。また、点火プラグ20による混合気への点火は停止される。
なお、前記第1運転領域A1では、燃焼室6内の混合気の空燃比(実空燃比)を理論空燃比(14.7)で割った値である空気過剰率λが、約2〜2.4程度という大幅にリーンな値に設定される。そのため、CVVL15の駆動により吸気弁11(リフトカーブIN)のリフト量を増減する制御が実行され、燃焼室6に導入される新気の量が、前記インジェクタ21からの燃料噴射量に対しかなり過剰になるように制御される。このように大幅にリーンに設定された混合気を燃焼させた場合、燃焼温度が大幅に低下するため、冷却損失を低減して熱効率(燃費)を向上させることができる。なお、λ=2〜2.4までリーンになると、三元触媒によるNOxの浄化作用はほとんど期待できなくなるが、λ=2〜2.4であれば、燃焼により生じるNOx量(生のNOx量)が大幅に少なくなるため、三元触媒以外に特別な触媒(例えばNOxトラップ触媒)を設けなくても、排気ガス中に含まれるNOxの量を十分に小さい値に抑制することができる。
(ii)第2運転領域A2
前記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ回転速度Neが比較的低い領域に設定された第2運転領域A2では、図13に示すような制御が実行される。すなわち、第2運転領域A2では、圧縮上死点を挟んだ2回(P1,P2)に分けてインジェクタ21から燃料を噴射させる分割噴射が実行される。以下では、圧縮行程中に実行される1回目の燃料噴射P1を前段噴射、それより後の圧縮上死点付近(図例では膨張行程のごく初期)に実行される2回目の燃料噴射P2を後段噴射と称する。
具体的に、上記第2運転領域A2において、前段噴射P1のタイミングは、圧縮上死点(TDC)を基準として、その上死点前(BTDC)50〜60°CA(CAはクランク角を表す)程度の期間内に設定され、後段噴射P2のタイミングは、上死点後(ATDC)0〜10°CA程度の期間内に設定される。また、前段噴射P1および後段噴射P2による各噴射量の割合については、前段噴射P1が10%以下で後段噴射P2が90%以上に設定されるパターンから、前段噴射P1が60%程度で後段噴射P2が40%程度に設定されるパターンまで、運転条件等により適宜の割合に設定される。
前記前段噴射P1および後段噴射P2によるトータルの噴射量は、第2運転領域A2に対応する高い負荷に合わせて、第1運転領域A1のとき(燃料噴射Pによる噴射量)よりも増大される。また、このように増大設定される燃料噴射量に応じた多量の新気を燃焼室6に導入すべく、CVVL15が駆動されて吸気弁11のリフト量が増大される(リフトカーブIN)。そして、前記のように分割噴射された燃料と空気(新気)との混合気が圧縮上死点付近で自着火することにより、図中の波形Qbに示すように、時期の異なる2つのピークを有するような熱発生を伴う燃焼が生じる。なお、このような波形Qbの形状はあくまで概念的なものであり、実際には2つのピークが明確に現れない場合も当然にあり得る。
前記のように前段噴射P1および後段噴射P2に分けて燃料を噴射するようにしたのは、燃焼騒音等の問題を考慮してのものである。すなわち、燃料噴射量の多い前記第2運転領域A2では、燃料を1回で噴射してしまうと、噴射された多量の燃料が短時間で全て燃焼する急激な燃焼が起きることにより、筒内圧力が急上昇し、燃焼騒音が著しく増大する等の事態を招くおそれがある。そこで、前記のように燃料を分割噴射することにより、比較的マイルドな燃焼が継続的に起きるようにして、前記のような燃焼騒音の増大等を回避するようにしている。
ただし、たとえ燃料噴射を複数回に分割しても、インジェクタ21の配置やピストン5の形状によっては、各回に噴射された燃料どうしが混じり合い、その混じり合った燃料がほとんど同時に燃焼することがある。このように、噴射タイミングが異なる燃料どうしが混じり合った状態で燃焼が起きると、燃焼騒音が過大になるばかりでなく、燃焼時に必要な酸素が局所的に著しく不足し、多量のスート(炭素質粒子)が発生するおそれがある。
このような問題に対し、当実施形態では、インジェクタ21が燃焼室6天井の径方向中央部分に配置されるとともに、ピストン5の冠面がキャビティ40等を有する特殊な形状に形成されているため、分割噴射された燃料が同時に燃焼してしまうことがなく、前記のような燃焼騒音の増大やスートの大量発生を回避することが可能である(その詳細なメカニズムについては後述する)。
また、前記第2運転領域A2では、前記のような燃料の分割噴射制御に加えて、吸気行程中に排気弁12を押し下げる機能を無効にするようにVVL16が駆動され、排気弁12の吸気行程中の開弁が停止される。これにより、排気ガスが燃焼室6に逆流することがほとんどなくなり、内部EGRが禁止される。
一方、第2運転領域A2では、前記のように禁止された内部EGRに代わり、外部EGRが実行される。すなわち、EGR通路31に設けられたEGRバルブ32が所定開度まで開かれることにより、排気通路29から吸気通路28へ排気ガスを還流させる操作が実行される。
このように、内部EGRから外部EGRへと切り替えるのは、燃焼室6内の新気の量を確保するため、および、異常燃焼を回避するためである。すなわち、第2運転領域A2は、第1運転領域A1よりもエンジン負荷Tが高く、より多くの新気量が必要になるとともに、噴射されるトータルの燃料が多いことに伴ってプリイグニッションやノッキング等の異常燃焼が起きるおそれがある。そこで、内部EGRから外部EGRに切り替えて、EGRクーラ33付きのEGR通路31を通過した(つまりEGRクーラ33により冷却された)排気ガスを吸気通路28に還流させることにより、EGRガスの体積を減少させて燃焼室6内の新気の量を確保するとともに、燃焼室6の高温化を防ぎ、前記のような異常燃焼を回避するようにしている。ただし、第2運転領域A2であっても、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは停止される。
ここで、以上のような制御に基づき実現される第2運転領域A2での燃焼形態について、図15(a)〜(f)を参照しつつより具体的に説明する。図15(a)は、インジェクタ21から前段噴射P1が行われたときの状態を示している。このときのピストン5は、上述したように、圧縮上死点前(BTDC)50〜60°CA程度に位置している。このような位置にあるピストン5の冠面に向けて、前記インジェクタ21の先端部I1に備わる複数(12個)の噴口から放射状に燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、ピストン5の冠面の径方向外側寄りに設けられた環状凹部41に向かうことになる。
前記ピストン5の環状凹部41に向けて噴射された燃料(噴霧)は、その後、ピストン5の最外周部に設けられた立壁部42により上方にガイドされながら分散し、その分散した燃料に基づき、図15(b)に示すように、燃焼室6の外周部(主に環状凹部41の内部およびその上方空間)に混合気X1が形成される。ここで形成される混合気X1の空燃比は、燃焼室6の外周部だけの局所的な空燃比として、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。すなわち、理論空燃比程度の濃さの混合気X1が燃焼室6の外周部に局所的に形成されるように、前記前段噴射P1の噴射時期および噴射量が設定されている。
もちろん、前記前段噴射P1によって、燃焼室6の外周部以外(例えばキャビティ40の内部)にも微量の燃料が存在し得るが、その燃料の濃度は、前記燃焼室6の外周部に比べれば極めて薄いものである。言い換えれば、前段噴射P1が実行された時点で、燃焼室6の外周部には、キャビティ40の内部より極めてリッチな混合気X1が形成されていることになる。
前記のように燃焼室6の外周部に形成された混合気X1は、ピストン5の上昇により圧縮されて高温・高圧化し、圧縮上死点付近までピストン5が達したところで、図15(c)に示すように自着火により燃焼する(圧縮自己着火)。なお、同図では、混合気X1が燃焼している領域を黒またはグレーに着色して示している。この混合気X1が燃焼する領域Y2は、前記混合気X1が形成された領域に対応して、燃焼室6の外周部分に限られる。
前記のような前段噴射P1に基づく燃焼が始まると、それとほぼ同時、もしくはわずかな期間をあけて、図15(d)に示すような後段噴射P2が実行される。この後段噴射P2のタイミングは、上述したように、ピストン5が降下を始めて間もない上死点後(ATDC)0〜10°CA程度である。このようにピストン5が上死点に近いタイミングでインジェクタ21から燃料が噴射されると、その燃料の噴霧は、ピストン5の冠面の径方向中央部分に設けられたキャビティ40の内部へと向かうことになる。すると、このキャビティ40の内部に向けて噴射された燃料(噴霧)は、キャビティ40の周壁に沿って上方にガイドされながら分散し、その分散した燃料に基づき、図15(e)に示すように、燃焼室6の径方向中央部分(主にキャビティ40の内部)に混合気X2が形成される。この混合気X2の局所的な空燃比も、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1と同様、理論空燃比(空気過剰率λ=1)程度に設定される。言い換えれば、前記後段噴射P2により、キャビティ40の内部には、前段噴射P1の実行時よりもリッチな混合気X2が形成されていることになる。
前記のような後段噴射P2に基づく混合気X2は、ピストン5が圧縮上死点に近く、しかも前段噴射P1に基づく混合気X1の燃焼が既に起きている状態で形成されるものである。このため、前記混合気X2は、図15(f)に示すように、後段噴射P2の後、ごく短時間で自着火に至り、燃焼する。この混合気X2が燃焼する領域Y2は、前記混合気X2が形成された領域に対応して、燃焼室6の径方向中央部分に限られる。すなわち、上述した前段噴射P1に基づく混合気X1が、環状凹部41の設置部に対応する燃焼室6の外周部分(燃料領域Y1)で燃焼するのに対し、後段噴射P2に基づく混合気X2は、キャビティ40の設置部に対応する燃焼室6の径方向中央部分(燃焼領域Y2)で燃焼することになる。
以上のように、第2運転領域A2では、負荷Tに応じた比較的多量の燃料を複数回(前段噴射P1および後段噴射P2)に分けて噴射することで、別々の空間に混合気(X1,X2)を形成し、それらを独立して自着火、燃焼させるようにしている。このような制御が行われる前記第2運転領域A2では、分割噴射された燃料が混じり合って同時に燃焼してしまうことがないため、筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの大量発生が起きる心配がない。しかも、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2は、それぞれ局所的にλ=1程度の空気過剰率に設定されるので、そのような環境下の燃焼により生成された排気ガスであれば、三元触媒のみによって十分に有害成分の浄化が可能である。
特に、キャビティ40よりも径方向外側に位置するピストン5の冠面に、径方向外側に至るほど高さが低くなる平面視円環状の環状凹部41が形成されている。そのため、前記前段噴射P1によって噴射された燃料が前記環状凹部41に受け入れられることにより、その環状凹部41の設置部に対応する燃焼室6の外周部に、前記前段噴射P1に基づく混合気X1を確実に留めておくことができる。この結果、当該前段噴射P1に基づく混合気X1を、その後の後段噴射P2に基づきキャビティ40内に形成される混合気X2から明確に分離することができ、それらの混合気X1,X2の燃焼独立性をより確実に担保することができる。
また、前記環状凹部41よりもさらに径方向外側に、前記前段噴射P1により噴射された燃料を上方にガイドする立壁部42が設けられている。そのため、前記環状凹部41に向けて噴射された前段噴射P1の燃料を立壁部42に沿って上方に巻き上げることにより、燃料を十分に分散および気化・霧化させ、燃焼室6の外周部における混合気X1の形成を効果的に促進することができる。
また、キャビティ40が上窄まり状に形成され、その上端の開口部40aの面積がキャビティ40内部の最大断面積よりも小さく設定されている。そのため、後段噴射P2により噴射された燃料に基づく混合気X2を、前記キャビティ40の内部に確実に留めておくことができ、当該後段噴射P2に基づく混合気X2を、それ以前の前段噴射P1に基づく混合気X1から明確に分離して形成することができる。
(iii)第3運転領域A3
前記第1運転領域A1よりも負荷Tが高く、かつ第2運転領域A2よりも回転速度Neが高い第3運転領域A3では、図14に示すような制御が実行される。すなわち、第3運転領域A3では、インジェクタ21からの燃料が、吸気行程から圧縮上死点付近にかけた3回の時期に分けて噴射される(P0,P1,P2)。このうち、圧縮行程中に実行される2回目の燃料噴射P1と、それより後の圧縮上死点付近(図例では膨張行程のごく初期)に実行される3回目の燃料噴射P2とは、それぞれ、先に説明した第2運転領域A2における前段噴射P1および後段噴射P2(図13)にそれぞれ対応している。一方、吸気行程中に実行される1回目の燃料噴射P0は、第2運転領域A2では行われない噴射であり、第3運転領域A3に特有のものである。以下では、第3運転領域A3における1回目の燃料噴射P0を予備噴射、2回目の燃料噴射P1を前段噴射、3回目の燃料噴射P2を後段噴射と称する。
前記第3運転領域A3で実行される前段噴射P1および後段噴射P2は、第2運転領域でのそれと同様の役割を果たすものである。すなわち、圧縮行程中に実行される前段噴射P1により、図15(b)に示したような、燃焼室6の外周部に偏在する混合気X1が形成され、圧縮上死点付近で実行される後段噴射P2により、図15(e)に示したような、燃焼室6の径方向中央部分に偏在する混合気X2が形成される。
ただし、第3運転領域A3では、第2運転領域A2のときよりもエンジン回転速度Neが高く、ピストンスピードが速いため、インジェクタ21からの噴射燃料がピストン5の冠面付近に達するまでの間にピストン5が比較的大きく移動する。このことを考慮して、前記前段噴射P1および後段噴射P2の時期は、第2運転領域A2のときよりも若干早めに設定される。これにより、エンジン回転速度Neの相違にかかわらず、前記各噴射P1,P2に基づく混合気X1,X2が図15(b),(e)に示したのと同様の場所に別々に形成される(図15(c),(f))。
一方、前記第3運転領域A3で、前段噴射P1および後段噴射P2に加えて、吸気行程中に実行される予備噴射P0を追加しているのは、エンジン回転速度Neが比較的高い第3運転領域A3では、短期間のうちに所要量の燃料を噴射し切ることが困難だからである。すなわち、エンジン回転速度Neが高い第3運転領域A3では、相対的に回転速度Neが低い第2運転領域A2のときと異なり、ピストンスピードが速いため、同じ時間をかけて所要量の燃料を噴射しようとしても、その間にピストン5の位置が大きく変化してしまい、ピストン5と燃料の噴霧との位置関係が崩れてしまうおそれがある。
例えば、前記第3運転領域A3において、第2運転領域A2のときと同量の燃料を前段噴射P1によって噴射しようとすれば、インジェクタ21からの燃料噴射動作(インジェクタ21の噴口を開いてそこから燃料を噴射させる動作)を、第2運転領域A2のときと同じ期間だけ継続させる必要があるが、ピストンスピードの速い第3運転領域A3では、燃料の吹き始めから吹き終わりまでの間にピストン5の位置が大きく上昇することにより、図15(a)に示したような適正な位置関係が崩れ、噴霧の方向がピストン5の環状凹部41から外れてしまうおそれがある。このような事態が生じると、前記環状凹部41の設置部に対応する燃焼室6の外周部分に混合気X1を確実に偏在させることができず、その後の圧縮上死点以降において、前段噴射P1および後段噴射P2に基づく混合気X1,X2を十分に独立して燃焼させることができなくなると考えられる。
そこで、前記のような事態を確実に回避すべく、第3運転領域A3では、まず吸気行程中に予備噴射P0を実行して少量の燃料を噴射し、その後の圧縮行程中および圧縮上死点付近において、前段噴射P1および後段噴射P2をそれぞれ実行するようにしている。これにより、前段噴射P1および後段噴射P2により噴射すべき燃料の量が減るので、その燃料の噴射に要する時間も減り、上述したような不具合(燃料噴射中にピストン5の位置が大きく変化することによる不具合)が回避される。
前記のように予備噴射P0、前段噴射P1、および後段噴射P2の3回に分けて燃料を噴射した場合、予備噴射P0によって予め燃焼室6に形成された極めてリーンな混合気中に、前段噴射P1および後段噴射P2による燃料が追加的に噴射されることとなる。すると、燃焼室6では、その外周部および径方向中央部分(キャビティ40の内部)に、予備噴射P0、前段噴射P1、および後段噴射P2に基づくλ=1程度のリッチな混合気が形成される一方、それ以外の領域では、予備噴射P0のみに基づく極めてリーンな混合気(例えばλ=2を大幅に超えるような混合気)が形成される。
ここで、後段噴射P2は、上死点後(ATDC)0〜10°CA程度の期間内に噴射されている。そのため、燃費性能の面から、この後段噴射P2で噴射された燃料は、噴射後、早期(クランク角度での早期)に燃焼開始および終了するのが好ましい。これに対して、第3運転領域A3は、エンジン回転数が高い。そのため、自着火可能になるまで燃料が十分に吸熱されるのを待っていると、燃焼開始角度が上死点から非常に遅角側になり、燃費性能が悪化するという問題がある。さらに、第3運転領域A3は、負荷Tが高く、燃焼室6内に吸入される新気の量が多い。そのため、燃焼室6内の温度が低くなり、圧縮自着火が困難な傾向にある。そこで、この第3運転領域A3では、後段噴射P2の噴射後に点火プラグ20により混合気に火花点火を行う。前述のように、排気性能を高めつつ混合気の温度を適正に高めるためには、噴射された燃料が燃焼室の壁面に到達する前に、点火エネルギーが混合気に供給される必要がある。そのため、第3運転領域A3では、後段噴射P2が噴射された直後に点火プラグ20により混合気に火花点火が行われる。
前述のように、前記点火プラグ20の点火点S1の位置は、インジェクタ21の先端部I1からの離間距離Lが20mmとなる位置に設定されている。そのため、点火点S1に加えられた点火エネルギーは、当量比が十分に小さく、かつ、蒸気を多く含む燃料噴霧に供給され、SOOT等の生成が抑制されつつこの燃料噴霧を含む混合気が燃焼して、混合気が適正に昇温される。また、前記点火点S1は、平面視で前記インジェクタ21の互いに隣接する噴口21aの軸線u2_1、u2_2の中間に位置している。そのため、点火エネルギーは、点火点S1の両隣を通過する2つの噴口21aから噴射された燃料噴霧に効率よく供給され、混合気はより確実に燃焼する。
また、前述のように、前記点火プラグ20の点火点S1の位置は、前記キャビティ40の外周縁よりも径方向内側に位置している。そのため、点火プラグ20により燃焼室内に供給された点火エネルギーは、燃焼室6の外周部に存在する前段噴射P1により形成された混合気に加えられることなく、後段噴射P2により形成された混合気にのみ加えられる。従って、この第3運転領域A3でも、第2運転領域A2と同様に、前記前段噴射P1により噴射された燃料と、後段噴射P2により噴射された燃料とは、別々の場所で(燃焼室6の外周部およびキャビティ40の内部で)独立して燃焼する。具体的には、前段噴射P1により形成された混合気は圧縮上死点近傍で自着火燃焼を開始し、後段噴射P2により形成された混合気は、点火エネルギーを受けて昇温した後、自着火燃焼する。これにより、燃焼室6全体としては、図8の波形Qcに概念的に示すように、時期の異なる2つのピークを有するような熱発生を伴う燃焼が生じる。また、前記のような空燃比の混合気が燃焼した場合、生成される排気ガスは、三元触媒により十分に浄化可能なものか、もしくはNOx生成量の極めて少ないものとなるので、エミッション性については問題なくクリアされる。
なお、図14に示すように、前記第3運転領域A3では、前記のような燃料の分割噴射に関する制御を除けば、第2運転領域A2のときとほぼ同様の制御が実行される。例えば、第3運転領域A3では、排気弁12を吸気行程中に開弁させる(排気ガスを燃焼室6に逆流させる)内部EGRが禁止されるとともに、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。ただし、エンジンの全負荷近傍では、多量の新気を確保するために、外部EGRは禁止される。
(iv)第4運転領域A4および第5運転領域A5
前記第4運転領域A4および第5運転領域A5は、第1運転領域A1と第2運転領域A2との間、または第1運転領域A1と第3運転領域A3との間に位置する領域であるから、上述の(i)〜(iii)で説明した各制御内容の中間的な制御が実行される。
具体的に、第4運転領域A4では、インジェクタ21からの燃料噴射時期が、第1運転領域A1での燃料噴射時期よりもリタードされ、例えば圧縮行程中の1回に設定される。そのときの噴射量は、第1運転領域A1のときと同様、空気過剰率λがλ=2〜2.4程度になるように設定される。また、EGR通路31を通じて排気ガスを吸気通路28に還流させる外部EGRが実行される。
一方、第5運転領域A5では、圧縮行程中の所定時期およびそれより後の圧縮上死点付近の2回に分けて燃料を噴射する制御が実行される。そのときの噴射量は、空気過剰率λが局所的にλ=1程度になるように設定される。また、吸気行程中の排気弁12の開弁により排気ガスを燃焼室6に逆流させる内部EGRが実行される。
(5)作用効果等
以上説明したように、当実施形態のガソリンエンジンでは、点火点S1とインジェクタ21の先端部I1との離間距離Lが20mmとなる位置に設定されているとともに、噴射された燃料が燃焼室の壁面に到達する前にこの燃料に点火エネルギーが供給されている。そのため、SOOT等の生成が抑制されつつ混合気が適正に昇温されて、その後の圧縮自己着火燃焼を適正に実現することができる。
特に、前記点火点S1が、平面視で前記インジェクタ21の互いに隣接する噴口21aの軸線u2_1、u2_2の中間に位置している。そのため、点火エネルギーが、点火点S1の両隣を通過する2つの噴口21aから噴射された燃料噴霧に効率よく供給され、混合気をより確実に適正に燃焼させることができる。
また、本実施形態では、ピストン5の冠面の径方向中央部分に凹状のキャビティ40が設けられるとともに、キャビティ40と対向する燃焼室6天井の径方向中央部分から放射状に燃料(ガソリンを主成分とする燃料)を噴射する多噴口型のインジェクタ21がシリンダヘッド4に設けられている。また、前記キャビティ40の径は、前記点火点S1が、前記キャビティ40の外周縁よりも径方向内側に位置する寸法に設定されている。そして、高負荷域を含む第3運転領域A3(特定運転領域)において、燃焼室6内の別々の空間(燃焼室6の外周部およびキャビティ40の内部)に分離して混合気X1,X2が形成されるよう、圧縮行程中に設定された前段噴射P1と、それより後の圧縮上死点付近に設定された後段噴射P2との少なくとも2回に分けて燃料を噴射する制御が実行されるとともに、キャビティ40の内部に形成される混合気X2に対してのみ点火エネルギーが供給される。そのため、これらの混合気X1,X2を圧縮上死点付近で独立して自着火、燃焼させることができ、これら燃料が混じり合って同時に燃焼することに伴う筒内圧力の急上昇による燃焼騒音の増大や、局所的な酸素不足によるスートの大量発生を効果的に防止することができる。
ここで、点火アシストを行う運転領域は、前記に限らない。また、点火アシストを行う運転領域において実施される燃料噴射の制御は前記に限らない。例えば、燃焼室内の温度が比較的低い、エンジン回転数が低く、かつ、エンジン負荷が小さい低負荷低速領域において点火アシストを実施してもよい。
また、前記インジェクタ格納部62は省略可能である。すなわち、図16に示すように、燃焼室6の天井面全体を略平面としてもよい。ただし、前記実施形態のように、燃焼室6の天井面にインジェクタ格納部62を設け、インジェクタ21の先端部I1の位置をより上方(ピストン冠面から離間する方向)に配置すれば、点火点S1を側面視でインジェクタ21の各噴口21aの軸線上に配置しつつ点火プラグ20の燃焼室6内への突出量を小さく抑えることができる。
また、燃焼室6の天井面60は、インジェクタ格納部62よりも径方向外側の面が水平面であるものに限らない。例えば、図17に示すように、燃焼室6の天井面60は、インジェクタ格納部62の外周縁から径方向外側に向かうに従って下方(ピストン冠面に近づく方向)に傾斜する形状を有していてもよい。
また、インジェクタ21の噴口の数は12個に限られず、12個より多くても少なくてもよい。ただし、噴口の数があまりに少ないと、インジェクタ21から噴射された燃料の濃度が周方向に大きくばらつくことになる。このため、噴口の数は8個以上とすることが望ましい。噴口の数が8個以上であれば、前記前段噴射P1および後段噴射P2を実行した後、ごく短時間で、周方向にほぼ均一な空燃比をもった混合気を形成することができ、その後の自着火による燃焼(圧縮自己着火燃焼)を適正に行わせることができる。
5 ピストン
6 燃焼室
21 インジェクタ
21a 噴口
40 キャビティ
50 ECU(制御手段)
60 天井面
62 インジェクタ格納部
A3 第3運転領域(特定運転領域)
I1 インジェクタの先端部
S1 点火点

Claims (6)

  1. 少なくとも一部がガソリンからなる燃料と空気との混合気を燃焼室で燃焼させることによりピストンを気筒内で往復運動させるガソリンエンジンであって、
    前記燃料を燃焼室内に噴射する複数の噴口が先端に形成されているとともに、当該先端部が前記燃焼室天井の径方向中央部分において前記燃焼室内に臨む状態で、前記燃焼室天井に配設されたインジェクタと、
    前記燃焼室天井のうち前記インジェクタよりも径方向外側の位置に配設されて、前記混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグと、
    前記インジェクタによる燃料の噴射動作および前記点火プラグによる点火動作を制御する制御手段とを備え、
    前記インジェクタの各噴口は、当該各噴口を通じて燃料が前記ピストンの冠面に近づくほど径方向外側に拡がって放射状に噴射されるように、その各軸線が前記ピストン冠面に近づくほど径方向外側に傾斜する形状を有し、
    前記ピストンは、その冠面の径方向中央部分に設けられて前記燃焼室天井から離間する方向に凹むキャビティを有し、
    前記点火プラグは、その点火点が、前記インジェクタの先端部に対して前記気筒の径方向外側に離間するとともに前記キャビティの外周縁よりも径方向内側に位置し、さらに平面視でインジェクタの互いに隣接する噴口の軸線と軸線の間に位置するように、配設されており、
    前記制御手段は、予め設定されたエンジンの特定運転領域において、前記燃焼室のうち前記キャビティよりも径方向外側の部分に混合気が偏在するような圧縮上死点前の所定のタイミングで燃料を噴射する前段噴射と、前記キャビティ内に混合気が偏在するような圧縮上死点以降の所定のタイミングで燃料を噴射する後段噴射とを、前記インジェクタに実施させるとともに、前記後段噴射が開始されてからこの後段噴射により噴射された燃料が前記燃焼室の壁面に到達するまでの間で、かつ、前記前段噴射に基づく混合気が自着火燃焼を開始した後に、前記点火プラグから前記キャビティ内に存在する混合気に点火エネルギーを供給させることを特徴とするガソリンエンジン。
  2. 請求項1に記載のガソリンエンジンにおいて、
    前記インジェクタは、その先端に8個以上の噴口を有することを特徴とするガソリンエンジン。
  3. 請求項1または2に記載のガソリンエンジンにおいて、
    前記点火プラグは、その点火点が側面視で前記インジェクタの特定の噴口の軸線近傍に位置するように、前記燃焼室天井から燃焼室内部に向かって突出していることを特徴とするガソリンエンジン。
  4. 請求項3に記載のガソリンエンジンにおいて、
    前記燃焼室天井の径方向中央部分には、前記ピストン冠面から離間する方向に凹むインジェクタ格納部が形成されており、
    前記インジェクタは、その先端部が前記インジェクタ格納部の径方向中央部分に位置する状態で、当該インジェクタ格納部内に臨んでおり、
    前記インジェクタ格納部の内周面は、前記インジェクタの各噴口から前記燃焼室の壁面に向かう燃料の通過領域から径方向外側に離間した位置で当該燃料の通過領域を囲む形状を有することを特徴とするガソリンエンジン。
  5. 請求項4に記載のガソリンエンジンにおいて、
    前記インジェクタ格納部の内周面は、前記燃焼室天井の径方向中央部分を頂部とする略円錐面状を有しており、
    前記インジェクタの先端部は、前記頂部に位置していることを特徴とするガソリンエンジン。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のガソリンエンジンにおいて、
    前記前段噴射は、圧縮行程中に実施され、
    前記後段噴射は、膨張行程初期までの間に実施されることを特徴とするガソリンエンジン。
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