JP5482603B2 - 炭化タングステン基超硬合金製切削インサートおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1、2に示すように、結合相成分としてのCoを2〜12重量%含有するWC基超硬合金製切削インサートの表面にショットピーニング処理を施し、インサート表面のWC硬質相に30〜80kg/mm2の圧縮残留応力を与えるとともに、WC基超硬合金のCo結合相について、面心立方晶構造(以下、“fcc”と記す)のCo相(以下、“fccCo”と記す)に対する、六方晶構造(以下、“hcp”と記す)のCo相(以下、“hcpCo”と記す)の積分強度比を0.2以上とすることによって、切削インサートの耐衝撃性、耐欠損性を改善することが提案されている。
特に、前記各提案の従来のインサートにおいては、化学蒸着被覆インサートに対し、硬質被覆層の上からショットピーニング処理またはサンドブラスト処理を施すことによって、インサート表面部の残留応力を制御するとともに結合相のhcp変態を生じさせることにより、耐衝撃性、耐欠損性を改善しようとしているが、これらの処理では、平均粒径0.1mm〜1mmの比較的大きな球状体の投射材を用いるため(特許文献1では飛翔物質と記述され、実施例において直径0.4mmの鋼球を使用)、加工エネルギが過大となり、製造時にインサート表面に粗大クラックや欠けが生じたり、また比較的大きな球状体の投射材を用いれば、研磨作用が弱いため、表面粗さの改善効果も小さく、インサートの表面粗さがカットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μmを超えたままの粗面となって、粗さ変化が小さくならざるを得ない。
すなわち、WC基超硬合金製切削インサートの表面、特に焼結肌の表面における結合相のCoは、その結晶構造が、通常はfccであることが知られているが、本発明者らが、WC基超硬合金製切削インサートの耐熱衝撃性を向上させる手段について、さらに研究を進めたところ、インサートの表面、特にすくい面のうち、焼結肌のチップブレーカ部の全部または一部を含む領域に、所定の条件でウエットブラスト処理を施すことにより、少なくとも前記領域を含む表面の結合相のCo(通常はfcc結晶構造)を、より耐熱亀裂性の大きいhcp結晶構造へ変態させ、同時に少なくとも前記領域を含む表面を、熱亀裂発生の起点とならないように平滑化することによって、熱亀裂が発生しにくくなり、また仮に熱亀裂が発生したとしても、その進展を遅らせることができることを見出したのである。
なお、結合相のCoをhcp構造へ変態させ、かつ表面を平滑させる領域を、上述のように“インサ−ト表面部のうち、逃げ面とホーニング部(切れ刃部)との交差稜線から、すくい面の内側に向けて少なくとも2mm以内の範囲内における、焼結肌をなすチップブレーカ部を構成する領域”と規定した理由は、インサートを切削で使用した際に排出される切り屑の擦過領域は、通常は逃げ面とホーニング部(切れ刃部)との交差稜線からすくい面の内側に向けて約2mm以内の範囲であり、この範囲内が熱亀裂の最も発生しやすい箇所であって、しかも通常は、その領域に、熱亀裂発生の起点となりやすい粗面である焼結肌のチップブレーカ部の少なくとも一部が位置しているからである。
硬質相がWCを主成分とし、かつ結合相成分としてCoを4〜15質量%含む炭化タングステン基超硬合金からなり、工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部、およびすくい面を備え、かつそのすくい面の少なくとも一部に、金型によって形成されたチップブレーカ部を有する炭化タングステン基超硬合金製切削インサートにおいて;
前記インサ−ト表面部の結合相CoについてX線回折を行った際の、六方晶構造のCo(以下“hcpCo”と記す)の(101)面から得られるピーク強度の値をhcp[101]とし、面心立方晶構造のCo(以下“fccCo”と記す)の(200)面から得られるピーク強度の値をfcc[200] として、hcpCoとfccCoとの合計ピーク強度に対するhcpCoのピーク強度の比率を、hcp変態率として下記の(1)式で定義し、
インサ−ト表面部のうち、逃げ面とホーニング部との交差稜線からすくい面の内側に向けて少なくとも2mm以内の範囲内における、焼結肌にウエットブラスト処理を施してなるチップブレーカ部を構成する領域内についてのhcp変態率が0.3以上であり、
しかも前記領域内における表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下であり、
さらに前記取り付け用貫通穴の内面のうち、少なくとも工具本体への取り付け手段としての支持具に接する支持具接触面が焼結肌で構成されるとともに、その支持具接触面の表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μmを超える値とされ、かつその支持具接触面のhcp変態率が0.1未満であることを特徴とするものである。
hcp変態率=hcp[101]/(hcp[101]+fcc[200])・・・(1)
硬質相がWCを主成分とし、かつ結合相成分としてCoを4〜15質量%含む炭化タングステン基超硬合金からなり、工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、切れ刃部、およびすくい面を備え、かつそのすくい面の少なくとも一部に、金型によって形成された焼結肌からなるチップブレーカ部を有する炭化タングステン基超硬合金製切削インサート基体を用いて、炭化タングステン基超硬合金製切削インサートを製造するにあたり;
前記炭化タングステン基超硬合金製切削インサート基体の表面部のうち、少なくとも、逃げ面とホーニング部との交差稜線からすくい面の内側に向けて少なくとも2mm以内の範囲内における、焼結肌をなすチップブレーカ部を構成する領域内であって、しかも前記取り付け用貫通穴の内面のうちの工具本体への取り付け手段としての支持具に接する支持具接触面を除く領域内に、ウエットブラスト処理を施すウェットブラスト工程と、
前記炭化タングステン基超硬合金製切削インサート基体の表面の切れ刃部にホーニング加工を施すホーニング工程とを有してなり;
前記ウエットブラスト処理工程およびホーニング工程が終了した後の表面部の結合相CoについてX線回折を行った際の、六方晶構造のCo(以下“hcpCo”と記す)の(101)面から得られるピーク強度の値をhcp[101]とし、面心立方晶構造のCo(以下“fccCo”と記す)の(200)面から得られるピーク強度の値をfcc[200] として、hcpCoとfccCoとの合計ピーク強度に対するhcpCoのピーク強度の比率を、hcp変態率として上記の(1)式で定義し、
インサート表面部のうち少なくとも前記領域内についてのhcp変態率が0.3以上であり、
しかもインサート表面部のうち少なくとも前記領域内おける表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下であり、
さらに前記取り付け用貫通穴の内面の少なくとも前記支持具接触面が焼結肌で構成されるとともに、その取り付け用貫通穴の内面の少なくとも支持具接触面の表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μmを超える値とされ、かつその支持具接触面のhcp変態率が0.1未満である炭化タングステン基超硬合金製切削インサートを得ることを特徴とするものである。
本発明が適用されるインサート1は、従来から広く使用されているインサートと同様に、工具本体への取り付け用貫通穴8、逃げ面2、ホーニング部(切れ刃部)3、およびすくい面4を備え、かつそのすくい面4には、金型によって形成されたチップブレーカ部5が形成されてなるものである。ここで、チップブレーカ部5および取り付け用貫通穴内面8は主として焼結肌で構成されている。この焼結肌とは、インサート基体の製造過程において焼結したままの表面肌、すなわち、ダイヤモンド砥石などによる研削を行っていない粗面の表面肌を意味する。
ここで本発明は、主として、逃げ面が焼結肌で使用されることが多いISO分類のM級インサートに好適に適用されるが、逃げ面の少なくとも一部が研削加工されているK級インサートや、逃げ面が全面研削加工されているG級インサート等であっても、すくい面に、焼結肌のチップブレーカ部を有しているインサートであれば、特に限定することなく適用可能であり、またチップブレーカ部の全面が焼結肌でなくても、チップブレーカ部の少なくとも一部(特に切れ刃に近い部分)が焼結肌となっているインサートにも適用可能である。
また逆に、前記交差稜線6からすくい面4の内側に向けて2mm未満の位置までしか焼結肌のチップブレーカ部5が形成されていない場合、あるいは、前記交差稜線6からすくい面4の内側に向けて2mmを越える位置までチップブレーカ部5が存在していながらも、交差稜線6からすくい面4の内側に向けて2mm未満の位置までしか焼結肌となっていない場合には、その焼結肌の部分のみが前記領域Pに相当するのである。また、切れ刃部に相当するホーニング部3は、通常は焼結肌ではないから、そのホーニング部3は前記領域Pから除外される。さらに、ホーニング部3と、チップブレーカ部5との間のランド部7(すくい面4の一部)は、研削面とされることがあり、その場合には、その部分も焼結肌ではないため、前記領域Pからは除外される。但し、ここで説明した上記の除外部分は、必須領域Pではない、という意味で述べたものに過ぎない。すなわち、実際のウエットブラスト工程においては、上述のような除外部分についても、ウエットブラスト処理が施されてしまうのが通常であり、上述の除外部分のうち、ホーニング部3以外については、ウエットブラスト処理によって、hcp変態率及び表面粗さ(さらには残留応力)が本発明で規定する所定範囲内となってよいことはもちろんであり、またその方が望ましいのが通常である。但し本発明の場合、既に述べたように、少なくとも取り付け用貫通穴8の内面のうちの支持具接触面8Aについては除くことはもちろんである。
従来のインサートにおいては、ショットピーニング処理やサンドブラスト処理を行うことにより、インサート表面に圧縮残留応力を付与していたが、それらの方法では、直径0.1mm以上の比較的大きな球状体の投射材を用いることが多く、この場合、加工エネルギが過大になることにより、インサート製造時に粗大クラックや欠けが発生し、製品品質の低下や製品歩留まりを悪化させる要因になっていた。さらに、これらの比較的大きな球状体の投射材では、その研磨作用が弱いため、インサートの表面状態をより平滑に改善する効果が、ほとんど見られないという欠点もある。
また、上記の代わりに乾式ブラスト処理を用いた場合は、噴射研磨材のインサート表面へ食い込みによる不純物の残留現象が生じやすく、このようなインサート表面の残留物質は、切削中の熱亀裂発生の起点や、それ自体が異常欠損の原因となるため、結果として、耐チッピング性、耐欠損性が不十分となり、さらに、被削材の仕上げ面精度も残留物質によって低下し、白濁やムシレ、毛羽立ち等の発生を抑制することは困難であることに加え、粉流および気流の二種流体による乾式ブラストでは、インサートへの圧縮残留応力付与効果も小さいという問題があった。
ウエットブラスト処理を用いることにより、従来技術で生じていた製造時の粗大クラック等の表面欠陥をインサートに与えることなく、複雑な形状(例えば1つの面が複数の曲面の集合によって構成される形状)のインサートや、金型によって成型される三次元形状を持つチップブレーカ部に対しても、その形状を損なわずに、少なくとも取り付け用貫通穴内面の支持具接触面を除くインサート表面部について、結合相のCoをhcp構造へ変態させると同時に表面の平滑化を可能とした。また、圧縮残留応力を付与することにより、切削インサートの性能をさらに飛躍的に改善することができた。
図5(a)において、WC基超硬合金製切削インサート基体10を、軸線(O)回りに回転可能な一対の回転軸12により挟み込んで保持しつつ、前記軸線回りに回転させながら、該回転軸(O)の軸線方向に対して、例えば、45度の噴射角θを有する相対向する2本のブラストガン14から前記インサート基体10の表面に研磨液Gを噴射して1個ずつウエットブラスト処理を行うことにより、少なくとも取り付け用貫通穴内面の工具接触面を除き、インサート基体10の全面を均一に処理することができる。
一方、インサート基体10のチップブレーカ表面(特に前記領域P:図2参照)および逃げ面の結合相のCoに関しては、ウエットブラスト処理によりhcp変態率が0.3以上となるようなhcp結晶構造への変態が誘起され、その表面も平滑化される。
耐熱亀裂性の向上に最も重要である前記領域Pを含むすくい面を中心にウエットブラスト処理を施す場合は、回転軸12の軸線方向に対するブラストガン14の噴射角θは0度以上45度以下に設定されるが、チップブレーカ形状やインサート逃げ角により、噴射角は調整される。また、使用するブラストガン14の本数については、図5(a)では2本の例であるが、加工するインサートの形状によって、1本または3本以上の複数のガンを用いても良い。
このように、上記のような構造を持つウエットブラスト処理装置を使用することによって、様々な形状やチップブレーカを有するインサート基体に対し、個々の噴射条件を適切に設定し、最適なウエットブラスト処理を施すことが可能となる。
hcpCoは、その結晶構造から熱亀裂の発生を抑制し、また仮に熱亀裂が発生した場合もその進展を抑制することにより、切れ刃への負荷が高い断続切削等においても、インサートの耐熱亀裂性を向上させ、工具寿命の延長を可能とする。
ここで、本発明では、hcpCoとfccCoとの合計ピーク強度に対するhcpCoのピーク強度の比率を、X線回析装置により測定したインサ−ト表面のhcpCoの(101)面における回折ピーク強度hcp[101]およびfccCoの(200)面におけるピーク強度fcc[200]から、
hcp変態率=hcp[101] /(hcp[101]+fcc[200])
という数式で、hcp変態率を定義している。そして少なくとも取り付け用貫通穴内面の支持具接触面を除くインサート表面のうち、少なくとも前記領域Pを含む表面のhcp変態率が0.3以上になるようにウエットブラスト処理条件を調整することによって、熱亀裂の発生・進展を確実に抑制して、断続切削加工等において優れた耐熱亀裂性を示すことができ、工具性能の顕著な改善が図られ、インサートの寿命を大幅に延長することができることを、本発明者らの詳細な実験により見出した。一方、前記領域P内のhcp変態率が0.3未満では、これらの効果が十分に現れないことが確認された。
なお、hcp変態率の上限については特に定めないが、通常のウエットブラストにおいては、hcp変態率を0.9程度以上に高めれば、ウエットブラスト処理が過処理となり、インサートの表面粗さが悪化するから、hcp変態率は、前記領域P、逃げ面のいずれにおいても、0.9程度以下とすることが適切である。
本発明では、少なくとも取り付け用貫通穴内面の支持具接触面を除くインサート表面にウエットブラスト処理を施すことにより、少なくとも取り付け用貫通穴内面の支持具接触面を除く表面部の、少なくとも前記領域P内の結合相のCoをhcpCoへ変態させると同時に、少なくともその領域P内の表面の平滑化を行うことができる。
このように、インサート表面のうち、少なくとも取り付け用貫通穴内面の支持具接触面を除く部分の、少なくとも前記領域P内の結合相のCoをhcp変態率で0.3以上にhcp変態させると同時に、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下になるように、前記領域Pの表面平滑度を高めれば、熱亀裂の発生起点となる表面欠陥が減少し、熱亀裂の発生自体を抑制する効果が得られる。また、逃げ面の表面粗さをも同時に低減した場合には、熱亀裂の成長を抑制することに加え、被削材の仕上げ面品位を改善する効果も付加されるため、すくい面に含まれる前記領域Pと逃げ面の両方において、表面粗さが改善されていることが好ましい。なお、逃げ面の表面粗さについても、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下とすることが望ましい。
このような場合、被膜上から測定したインサートの表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.25μm以下であれば、表面被覆WC基超硬合金製切削インサートの切削条件においても、耐熱亀裂性の改善効果があることが確認されている。
既に述べたように、切れ刃に対して著しく高い負荷が発生する断続切削やフライス加工の場合、切れ刃に対して絶え間ない変動負荷が作用することによって、工具本体に保持されたインサートが微小振動を発生し、耐欠損性や被削材の仕上げ面精度に悪影響を及ぼすことがある。さらに湿式切削では、切削による切削油剤の温度上昇のため、前記取り付け支持部に接触して、高い応力が作用している貫通穴内面の超硬合金が、短時間で腐食を起こし、取り付け手段としての支持具との接触面積が減少することにより、切削中のインサートが微小振動を起こし易くなる可能性が考えられる。
そこで本発明者らは、取り付け用貫通穴の内面に関して、その表面粗さがカットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μmを超えるような粗面に形成し、工具の取り付け手段としての支持具外面とこれに接触する取り付け用貫通穴の内面との間の摩擦力を増大させ、かつ、取り付け用貫通穴内面の結合層Coについては、耐腐食性に優れるfccCoの比率を大きくする(hcp変態率を小さくする)ことにより、貫通穴の内表面の腐食を防ぎ、上記のような高負荷の切削条件下においても、WC基超硬製インサートが工具本体に強固かつ確実に保持され、その結果、欠損の発生をさらに確実に抑制することができると同時に、より仕上げ面精度が高い加工面を得ることが可能となることを見出したのである。ここで、取り付け用貫通穴内面のhcp変態率は、0.1より小さくなれば十分な耐食効果が得られるところから、本発明における取り付け用貫通穴内面のhcp変態率は0.1未満とした。
本発明においてはWC基超硬合金製切削インサート基体の表面のうち、少なくとも工具取り付け用貫通穴内面の支持具接触面を除くインサート表面にウエットブラスト処理をすることにより、インサート表面部(少なくとも取り付け用貫通穴内面の支持具接触面を除く、少なくとも前記領域P内の表面)の結合相のCoをhcpCoに変態させるとともに表面を平滑化すると同時に、インサート表面の少なくとも前記領域P内の表面のWC硬質相に850MPa以上の圧縮残留応力を付与することが望ましい。
すなわち、取り付け用貫通穴の支持具接触面を除くインサート表面、特に前記領域P内の表面のWC硬質相に付与される残留応力の値が、圧縮で850MPa未満では、耐熱亀裂性を含む耐欠損性の改善は十分ではないが、圧縮残留応力の値が850MPa以上になれば、断続切削等の熱衝撃のみならず機械的衝撃が切れ刃に作用する切削条件において、優れた耐欠損性を示すようになることから、本発明では、すくい面に含まれる少なくとも前記領域P内の表面部、より好ましくはそれに加えるに逃げ面の表面部におけるWC硬質相に付与する残留応力の値を、圧縮で850MPa以上と定めた。
すなわち、回析ピークとしてhcp構造を有するWC硬質相の(211)面を用い、sin2ψ法測定範囲に関しては0〜0.5ないし0〜0.75間で選択される範囲において等間隔に5ないし6点、並傾法にて展開し測定した。なお、WC硬質相のヤング率として706GPa、ポアソン比として0.190を使用して計算した。
WC基超硬合金製切削インサートの切れ刃部に相当するホーニング部における表面粗さは、加工される被削材の仕上げ面精度に特に大きな影響を及ぼし、インサートの切れ刃が平滑な表面となっていれば、さらに優れた仕上げ面精度を得ることができる。
具体的には、インサートの切れ刃における表面粗さがカットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.1μm以下であれば、更に良好な被削材仕上げ面を形成可能となる。
通常、インサートの切れ刃部は、弾性砥石、バレル、ブラシ等でホーニング加工されるが、特に湿式ブラシによるホーニングによれば、高品位な加工表面が得られ、かつ様々な形状のホーニングを比較的短時間で加工することができる。ただし、ホーニング加工後にウエットブラスト処理を行えば、ホーニング部がウエットブラスト処理により、再度加工され、その形状や大きさに変化が生じてしまい、本来の切削性能を発揮できないことがある。また、ウエットブラスト処理により、算術平均粗さRaで0.1μm以下を得るためには、使用する研磨材の粒径や噴射条件を変更する必要があり、この場合、結合相のhcp変態率が十分な値とならなかったり、また、十分な値が得られたとしても、処理時間の延長等、生産性に問題が生じてしまう。
本発明のインサートは、その表面のうち、少なくとも取り付け用貫通穴内面の支持具接触面を除くインサート表面に、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Y、Mn、NiおよびSの群から選ばれた少なくとも一種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とからなる化合物の少なくとも一層または複層からなる硬質被膜を、物理蒸着法によって被覆形成した表面被覆WC基超硬合金製切削インサートとして使用することも可能である。
硬質被膜を被覆形成した場合であっても、本発明の効果は損なわれることなく、熱衝撃が切れ刃に作用するような高負荷の切削条件においても、長期の使用にわたってすぐれた切削性能が発揮され、工具寿命の延長化が図られる。
平均粒径5μmのWC粉末を用い、質量組成でCo粉末9質量%、TiC粉末8質量%、TaC粉末8質量%、NbC粉末1質量%、残WCとなるように配合した原料粉末をプレス成型した後、焼結し、ISO規格・CNMG120408に規定する形状・寸法を有するインサート基体を製造した。
これらのインサート基体に対して、中心粒子径40μmを有する多角形状のアルミナを噴射研磨材とし、噴射圧力0.3MPa、0.2MPaおよび0.1MPaでウエットブラスト処理を行った。
ウエットブラスト処理では、噴射研磨材のアルミナを水と混合し研磨液中の研磨材の含有量が30質量%となるように噴射研磨液を調製し、図5(a)に示されるウエットブラスト処理装置を用い、噴射角は45°一定とし、一対の回転軸で挟み込んで保持した部分(工具本体への取り付け用貫通穴内面)を除いてほぼインサート基体全面が処理されるようウエットブラスト処理を行った。
その後、切れ刃部については、砥粒を含有したナイロンブラシを使用し、すくい面側から測定した幅が0.05mm、かつ逃げ面側から測定した幅が0.03mmのウォーターフォール型の曲面ホーニングを湿式処置で施してホーニング部とし、表1に示す本発明例1〜3のインサートを作製した。
表1にhcp変態率を示す。
次に、すくい面のうち、前記領域に相当するチップブレーカ部の底部、ホーニング部、および取り付け用貫通穴内面の表面粗さを、JIS B0601−1994(2001)にしたがい、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで測定した。
表1に、各部における表面粗さRaの測定値を示す。
なお、hcp変態率および表面粗さについては、逃げ面の値も測定しているが、すくい面(ブレーカ底部)の測定値とほぼ同じ値となった(表示省略)。これはウエットブラスト処理時の噴射角を45°としたことから、基本的に逃げ面とすくい面に同様な作用が加わるようにウエットブラスト処理されたためと考えられる。
測定には、X線回析装置として、スペクトリス(株)製のPANalytical X’ Pert PRO MPDを用い、X線源としては、CuKα線を使用し、測定に用いた残留応力計算ソフトウェアはX’ Pert High Score Plusで計算した。
本発明例1〜3のインサートでは、前記領域Pを含むすくい面が、チップブレーカを有する曲面となっているため、前記領域PについてはX線回析測定に必要な平坦面を確保できず、その残留応力を直接測定することはできないが、本実施例1では、ウエットブラスト処理時の噴射角を45°として、基本的に逃げ面とすくい面に同様な作用が加わるように処理を行っているので、すくい面、特に前記領域P、すなわち逃げ面とほぼ直角に位置する切れ刃近傍のランド部分やブレーカ底部(機械的衝撃により欠損が発生している場合、すくい面では切れ刃に近いランド部分や凹状に湾曲した最も深いブレーカ底部の残留応力値が、耐欠損向上に重要である)の残留応力は、逃げ面で測定された残留応力と概略同等であると考えられることからインサートの残留応力は、逃げ面について測定した残留応力で代替させることとする。
表1に測定した残留応力値を示す。
最後に、本発明例1〜3、比較例1〜5の全てのインサートに対し、光学顕微鏡を用いて外観表面状態を観察した。付着物の面積比については,付着物が観察された場合に、200×200μmの観察領域3箇所を画像解析にて測定し、その平均値を面積比とした。
結果を表1中に記す。
本発明例1〜3は、乾式ブラスト処理による比較例3に対して、大きなhcp変態率となったが、これは、三種流体(粉流、気流、水流)を使用するウエットブラスト処理は、二種流体(粉流、気流)の乾式ブラスト処理と比較し、噴射研磨液に含まれる水の質量によって、hcp変態がより促進されるためと考えられる。
また、本発明例1〜3については、ウエットブラストの噴射圧力を上げれば、hcp変態率が大きくなる傾向が見られた。
本発明例1〜3の貫通穴内面のhcp変態率は、ウエットブラスト処理がされていないため、0となっている。比較例2、3においても、本発明1〜3と同様に穴内部にショットピーニングおよび乾式ブラストが施されないように処理したため、hcp変態率は0となった。
これらに対し、貫通穴内部へもウエットブラスト処理を施して、その噴射圧力がインサート表面に対する噴射圧力と同じである比較例4では、貫通穴内部もすくい面とほぼ同じhcp変態率となっていた。
貫通穴内部の表面粗さは、穴内面にウエットブラスト処理を施していない本発明例1〜3、比較例1〜3および比較例5が焼結肌の値を維持している。
また、ウエットブラスト処理を貫通穴内面に噴射圧力0.3MPaで行った比較例4では、焼結肌の例と比較して算術平均粗さで1/2以下にまで平滑度が増している。
また、インサートの表面状態に関して、本発明例1〜3、および比較例4、5は、付着物やクラック等の欠陥は見られなかったが、比較例2に関しては、製造した約2割のインサートの表面にショットピーニング処理時に生じたと思われる大きめの欠けやクラックが観察された。これらのインサートを、切削に使用した場合、破損する可能性が極めて高く、また、発生した欠け、クラックの程度は、通常の生産では不良と判定される大きさであったため、次に述べる切削試験には使用しないこととした。比較例3に関しては、乾式ブラスト時のアルミナ研磨材がインサート表面に付着し食い込んで存在している現象が確認された。
《切削試験1》
被削材:JIS−SNCM439の丸棒、
切削速度:160m/min、
送り速度:0.5mm/rev、
切込み:2mm
の条件にて湿式連続切削を行い、実加工時間6分後の逃げ面摩耗幅、切れ刃の状態および被削材の仕上げ面精度を評価した。
《切削試験2》
被削材:JIS−SNCM439の溝入り丸棒(溝は長手方向に6溝)、
切削速度:160m/min、
送り速度:0.2〜0.4mm/rev、
切込み:3mm
送り速度0.2mm/rev
の条件にて2分間を上限に湿式断続切削を行い、切れ刃に欠損が発生するまで、送り速度を0.02mm/revづつ上げ、同様の切削を繰り返した。送り速度の上限は0.4mm/revとした。
仕上げ面精度については、本発明例1〜3がいずれも光沢のある良好な仕上げ面を得られたのに対し、比較例はいずれも良好な仕上げ面を得られなかった。
比較例1および2に関しては、インサートの表面粗さが粗く、比較例1はhcp変態率も0(零)であるため、切れ刃にチッピングが生じて仕上げ面を悪化させ、比較例3については、インサート表面の残留物質自体やそれが原因と考えられるチッピングが発生しやはり仕上げ面を悪化させたものと考えられる。
また、比較例4に関しては、切削時の負荷により、インサートが微小振動した結果、微小チッピングを生じ、ムシレ等仕上げ面の悪化を招いたと考えられる。さらに、hcp変態率が低い比較例5は、やはり切れ刃にチッピングが生じ、良好な仕上げ面を得られなかった。
一方、ウエットブラストを行っていない比較例1では、切削初期の送り速度0.2mm/revで切れ刃に熱亀裂によると見られる欠損が発生し、切削を終了させた。またショットピーニング処理を施した比較例2は、0.28mm/revで欠損が生じた。これは、hcp変態率は高いものの、すくい面の表面粗さが粗いことから、微小な熱亀裂が切れ刃に発生し、欠損に至ったものと考えられる。
また、前述のように比較例2については、ショットピーニング処理時にインサート表面に欠け、クラックを生じた個体が多く、仮にこれらのインサートで同様の切削を行ったとすれば、初期の送り速度にて欠損を発生したと予想される。
乾式ブラスト処理を施した比較例3では、送り速度0.24mm/revと比較的初期に欠損を生じた。これは、hcp変態率が0.24と低く、インサート表面の残留研磨材を起点として熱亀裂が発生、進行したためと推測される。
貫通穴内部にも噴射圧力0.3MPaにてウエットブラスト処理を施した比較例4については、比較例1〜3より改善されたが、本発明1〜3と比較すれば劣る結果となった。これは切削時のインサート微小振動により発生したチッピングが成長し、欠損に至ったためと考えられる。
さらに、比較例5では、送り速度0.26mm/revにおいて、熱亀裂から成長した欠損により切削を終了した。この比較例5は、hcp変態率が0.3未満と低く、熱亀裂の発生・成長の抑制効果が十分では無かったためと考えられる。
平均粒径1μmのWC粉末を用い、質量組成でCo粉末10質量%、Cr3C2粉末1質量 %、残WCとなるように配合した原料粉末をプレス成型した後、焼結し、三菱マテリアル社製正面削り用カッタ(三菱マテリアル製工具型番:ASX445R12506E)に使用するインサート(三菱マテリアル製インサート型番:SEMT13T3AGSN−JM)に規定する形状・寸法を有するインサート基体を製造した。
次に表3に示す条件にてウエットブラスト処理を行った。
ウエットブラスト処理では、噴射研磨材の中心粒子径40μmの多角形状のアルミナを水と混合し、研磨液中の研磨材の含有量が30質量%となるように噴射研磨液を調製し、ウエットブラスト噴射角を15°とし、インサートすくい面側のブラストガンのみを使用し、取り付け貫通穴内面を除く少なくとも前記領域Pを含むインサートすくい面が処理されるようウエットブラスト処理を行った。
その後、砥粒を含有したナイロンブラシを使用し、すくい面側から測定した幅が0.06mm、かつ逃げ面側から測定した幅が0.03mmのウォーターフォール型の曲面ホーニングを湿式処置で施した。
また、比較のため、ウエットブラスト処理を行わない従来インサート(比較例6)、ウエットブラストの噴射圧力を下げたインサート(比較例7)、および本発明例6の取り付け貫通穴内面のみを再度ウエットブラスト処理を施したインサート(比較例8)を作成した。
表3に、測定したhcp変態率、表面粗さ値および残留応力値を示す。
また、ウエットブラスト処理により、インサートの表面粗さが向上していることがわかるが、ウエットブラスト処理後にブラシホーニングを行った本発明例4〜6は、ウエットブラスト処理を施していない比較例6と比較し、ホーニング部の表面粗さも改善されていることがわかる。これは、ウエットブラスト処理により、予めインサート表面粗さが改善されている箇所にブラシホーニングを行ったため、通常の焼結肌に直接ブラシホーニングを行うよりも、より平滑な面を得られたと推測される。
一方、貫通穴内面の表面粗さについては、本発明例4〜6および比較例6,7のインサートは焼結肌の状態を維持した粗面となったが、穴内部にウエットブラスト処理を行った比較例8は、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.16μmと0.2μmより小さい値となった。
《切削試験3》
被削材:JIS−SUS304、
切削速度:160m/min、
一刃あたりの送り速度:0.3mm/tooth、
切込み:3mm
の条件により湿式正面フライス加工を行い、2.5m切削後の主切れ刃における逃げ面の摩耗幅および発生した熱亀裂の本数とその状態を評価した。
表4に主切れ刃の逃げ面摩耗幅および熱亀裂の本数とその状態を示す。
また、本発明例4〜6のいずれにおいても、発生した熱亀裂は浅く口元の開いていない軽度のもので、比較例6が大きく開いた、深い熱亀裂を発生したことと比較して、熱亀裂の進展も抑制されていることがわかる。
ウエットブラスト処理の噴射圧力を下げた比較例7では、熱亀裂本数は6本で、その形態については口元が大きく開いた深い熱亀裂であり、hcp変態率が小さいことに起因し、耐熱亀裂性が不十分であると言える。
主切れ刃の逃げ面摩耗幅はウエットブラスト処理を施していない比較例6や噴射圧力の小さい比較例7と比較し、本発明例4〜6ではその幅が小さく、工具寿命の改善が見られる。これは前述の切れ刃に発生した熱亀裂の本数、幅、深さに起因したものである。
さらに、貫通穴内部にもウエットブラスト処理を行った比較例8は、切削途中で切れ刃が大きく欠損し、使用後の熱亀裂を確認できなかった。切削中の負荷により、インサートが振動し、最終的に欠損に至ったと考えられる。
ホーニング加工は、砥粒を含有したナイロンブラシを使用し、幅0.05mmの丸ホーニングを湿式処置で施した。ウエットブラスト処理は、中心粒子径50μmの多角形状のアルミナを研磨材とした研磨液で噴射角45°にて、取り付け用貫通穴内面を除くほぼインサート全面が処理されるよう処理を行った。
また、比較のため、ウエットブラスト処理を施さない従来インサート(比較例9)も作製した。
これらのインサートに関し、表面粗さ(すくい面およびホーニング部)および表面部のWC硬質相の残留応力(逃げ面)を測定した。
また、前述の条件でエッチング処理を行い、基体のWC硬質相を除去した後、すくい面ブレーカ底のほぼ平坦箇所にて、前述のピーク強度をX線回析装置により測定し、hcp変態率を算出した。
表5に測定結果を示す。
これらインサートに関し、表面粗さおよび被膜下のインサート基体部におけるWC硬質相の残留応力を再度測定した。
また、エッチング処理により硬質被膜および基体のWC硬質相を除去した後、すくい面ブレーカ底のほぼ平坦箇所にて、X線回析装置によりピーク強度を測定し、hcp変態率を再度算出した。
表5に、測定した表面粗さ、残留応力値およびhcp変態率を示す。
インサート表面粗さについて、ウエットブラスト処理によりインサート基体の平滑度は向上しているが、硬質被膜の被覆後は、いずれのインサートも表面粗さが悪化した。しかしながら、本発明例7〜10と、ウエットブラスト処理を施していない比較例9とを比較すれば、被覆後においてもウエットブラストの効果が持続していることが認められた。
ウエットブラスト処理後にブラシホーニングを行った本発明例9,10は、ブラシホーニング後にウエットブラスト処理を施した本発明例7,8と比較し、ホーニング部の表面粗さが更に改善され、平滑な刃先を有しており、被覆後においても同じ傾向となった。
WC硬質相の残留応力については、本発明例7〜10は、比較例9に比べ大きな圧縮残留応力が付与されているが、硬質被膜被覆前と比較し、被覆後は、圧縮残留応力値自体は小さくなっている。これは、一般に圧縮残留応力を持つ物理蒸着法による硬質被膜がインサート基体に対して引張の作用を与えたためと考えられる。
《切削試験4》
被削材:JIS−SNCM439の溝入り丸棒(溝は長手方向に6溝)、
切削速度:240m/min、
送り速度:0.6mm/rev、
切込み:3mm
の条件により湿式断続切削を行い、切れ刃交換までの実切削時間を評価した。切れ刃交換までの時間は、使用切れ刃にチッピングや欠損が発生し、実切削が継続できなくなるまでの時間とした。また、正常な切削が行われた場合は、逃げ面摩耗幅0.3mmに達するまでの時間とした。
《切削試験5》
被削材:JIS−SUS304の丸棒、
切削速度:240m/min、
送り速度:0.4mm/rev、
切込み:2mm
の条件で湿式連続切削を行い、実加工時間10分後の逃げ面摩耗幅および被削材仕上げ面精度を評価した。
表6に、前記切削試験4における切れ刃交換までの実切削時間と切れ刃交換理由および切削試験5における逃げ面摩耗幅と被削材仕上げ面精度を示す。
また、貫通穴内面も被覆処理を行った比較例10については、切削開始後2.4分で割損を生じ、切削終了になった。これは、断続切削による高い負荷のため、工具との取り付け手段(取り付け支持部)が接している貫通穴内面を起点に割損を起こしたものと思われる。
ウエットブラスト後にブラシホーニングを行った本発明例9,10は、これらの工程順序を入れ替えた本発明例7,8と比較して、同じウエットブラスト噴射圧力同士を比べても、逃げ面摩耗幅が小さい傾向がある。これはブラシホーニングを後工程としていることにより、切削性能に大きな影響をもつホーニング部について、適正な形状・大きさ、良好な表面粗さを維持していることが大きな要因と考えられる。
これに対し、ウエットブラスト処理が施されていない比較例9では、切削初期においては白濁の無い仕上げ面を得られていたが、切削開始1.5分後より、被削材表面が白濁し始めた。これは、ウエットブラスト処理が施されていない比較例9では、工具摩耗が進行した場合、平滑度の劣るインサート表面部が切れ刃となるため、被削材の溶着が発生しやすいこと等が原因と考えられる。
また、比較例10については、切削試験5の湿式連続切削では、本発明7〜10と明確な差は認められなかったが、切削試験4の結果から考察すれば、切れ刃への負荷がさらに高い切削条件では切削中のインサート割損が容易に発生すると考えられる。
2 逃げ面
3 ホーニング部
4 すくい面
5 チップブレーカ部
6 交差稜線
7 ランド部
8 取り付け用貫通穴
8A 支持具接触面
9 工具本体
9A (工具本体への取り付け手段としての支持具)
9B (工具本体への取り付け手段としての支持具)
10 インサート基体
12 回転軸
14 ブラストガン
G 研磨液
P 領域
θ 傾斜角
Claims (13)
- 硬質相がWCを主成分とし、かつ結合相成分としてCoを4〜15質量%含む炭化タングステン基超硬合金からなり、工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、ホーニング部、およびすくい面を備え、かつそのすくい面の少なくとも一部に、金型によって形成されたチップブレーカ部を有する炭化タングステン基超硬合金製切削インサートにおいて;
前記インサ−ト表面部の結合相CoについてX線回折を行った際の、六方晶構造のCo(以下“hcpCo”と記す)の(101)面から得られるピーク強度の値をhcp[101]とし、面心立方晶構造のCo(以下“fccCo”と記す)の(200)面から得られるピーク強度の値をfcc[200] として、hcpCoとfccCoとの合計ピーク強度に対するhcpCoのピーク強度の比率を、hcp変態率として下記の(1)式で定義し、
インサ−ト表面部のうち、逃げ面とホーニング部との交差稜線からすくい面の内側に向けて少なくとも2mm以内の範囲内における、焼結肌にウエットブラスト処理を施してなるチップブレーカ部を構成する領域内についてのhcp変態率が0.3以上であり、
しかも前記領域内における表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下であり、
さらに前記取り付け用貫通穴の内面のうち、少なくとも工具本体への取り付け手段としての支持具に接する支持具接触面が焼結肌で構成されるとともに、その支持具接触面の表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μmを超える値とされ、かつその支持具接触面のhcp変態率が0.1未満であることを特徴とする、炭化タングステン基超硬合金製切削インサート。
hcp変態率=hcp[101] /(hcp[101]+fcc[200])・・・(1) - 前記インサート表面部のうち、少なくとも前記領域における硬質相の残留応力が、圧縮で850MPa以上であることを特徴とする、請求項1に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサート。
- 前記インサート表面部のうち、逃げ面における前記hcp変態率が0.3以上で、かつその逃げ面の表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサート。
- 前記インサート表面部の逃げ面の表面における硬質相の残留応力が、圧縮で850MPa以上であることを特徴とする、請求項2に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサート。
- 前記インサートのホーニング部の表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.1μm以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のうちのいずれかの請求項に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサート。
- 請求項1〜5のうちのいずれかの請求項に記載された炭化タングステン基超硬合金製切削インサートにおける前記取り付け用貫通穴の内面の前記支持具接触面を除く表面に、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Y、Mn、NiおよびSの群から選ばれた少なくとも一種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とからなる化合物により構成される一層または二層以上の硬質被膜が、物理蒸着法(PVD法)により形成されていることを特徴とする、表面被覆炭化タングステン基超硬合金製切削インサート。
- 硬質相がWCを主成分とし、かつ結合相成分としてCoを4〜15質量%含む炭化タングステン基超硬合金からなり、工具本体への取り付け用貫通穴、逃げ面、切れ刃部、およびすくい面を備え、かつそのすくい面の少なくとも一部に、金型によって形成された焼結肌からなるチップブレーカ部を有する炭化タングステン基超硬合金製切削インサート基体を用いて、炭化タングステン基超硬合金製切削インサートを製造するにあたり;
前記炭化タングステン基超硬合金製切削インサート基体の表面部のうち、少なくとも、逃げ面とホーニング部との交差稜線からすくい面の内側に向けて少なくとも2mm以内の範囲内における、焼結肌をなすチップブレーカ部を構成する領域内であって、しかも前記取り付け用貫通穴の内面のうちの工具本体への取り付け手段としての支持具に接する支持具接触面を除く領域内に、ウエットブラスト処理を施すウェットブラスト工程と、
前記炭化タングステン基超硬合金製切削インサート基体の表面の切れ刃部にホーニング加工を施すホーニング工程とを有してなり;
前記ウエットブラスト処理工程およびホーニング工程が終了した後の表面部の結合相CoについてX線回折を行った際の、六方晶構造のCo(以下“hcpCo”と記す)の(101)面から得られるピーク強度の値をhcp[101]とし、面心立方晶構造のCo(以下“fccCo”と記す)の(200)面から得られるピーク強度の値をfcc[200] として、hcpCoとfccCoとの合計ピーク強度に対するhcpCoのピーク強度の比率を、hcp変態率として上記の(1)式で定義し、
インサート表面部のうち少なくとも前記領域内についてのhcp変態率が0.3以上であり、
しかもインサート表面部のうち少なくとも前記領域内おける表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μm以下であり、
さらに前記取り付け用貫通穴の内面の少なくとも前記支持具接触面が焼結肌で構成されるとともに、その取り付け用貫通穴の内面の少なくとも支持具接触面の表面粗さが、カットオフ値0.08mmにおける算術平均粗さRaで0.2μmを超える値とされ、かつその支持具接触面のhcp変態率が0.1未満である炭化タングステン基超硬合金製切削インサートを得ることを特徴とする、炭化タングステン基超硬合金製切削インサートの製造方法。
hcp変態率=hcp[101]/(hcp[101]+fcc[200])・・・(1) - 前記ウエットブラスト工程において、前記インサート基体を、軸線回りに回転可能な一対の回転軸により挟み込んで保持しつつ、前記軸線回りに回転させながら、少なくとも一つ以上のブラストガンから研磨液を噴射して、少なくとも前記取り付け用貫通穴内面の前記支持具接触面を除くインサート表面に、ウエットブラスト処理を施すことを特徴とする、請求項7に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサートの製造方法。
- 前記ウエットブラスト工程において、前記インサート基体を、回転可能に挟み込む前記回転軸の軸線方向に対して、0度以上60度以下の噴射角でブラストガンから研磨液を噴射してウエットブラスト処理を施すことを特徴とする、請求項8に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサートの製造方法。
- 前記ウエットブラスト工程において、前記噴射角が40度以上50度以下であることを特徴とする、請求項9に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサートの製造方法。
- 前記ホーニング工程を、前記ウエットブラスト工程の後に行うことを特徴とする、請求項7〜請求項10のうちのいずれかの請求項に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサートの製造方法。
- 前記ホーニング工程におけるホーニング加工を、湿式ブラシホーニングにより施すことを特徴とする、請求項7〜請求項11のうちのいずれかの請求項に記載の炭化タングステン基超硬合金製切削インサートの製造方法。
- 請求項7〜請求項12のうちのいずれかの請求項に記載の製造方法によって製造した炭化タングステン基超硬合金製切削インサートの少なくとも前記取り付け用貫通穴の前記支持具接触面を除くインサート表面に、物理蒸着法(PVD法)により、硬質被膜を被覆することを特徴とする、表面被覆炭化タングステン基超硬合金製切削インサートの製造方法。
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