本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、無加湿発電運転する燃料電池に適した高分子電解質膜、並びに該高分子電解質膜を用いた電解質膜/電極接合体及び燃料電池、及び該燃料電池を用いた燃料電池の無加湿運転方法の提供を課題とするものである。
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の通りである。
1.高分子電解質膜であって、該高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池に無加湿の水素と酸素を用いて発電を行ったときの、MRIによるスピンエコー法を用いて測定した高分子電解質膜内の水の信号強度が、数式1を満たすことを特徴とする高分子電解質膜。
(数式1において、I0は、電流密度が0A/cm2における水の信号強度を、I0.3は、電流密度が0.3A/cm2における水の信号強度を、それぞれ表す。)
2.高分子電解質膜が主として炭化水素系ポリマーから構成されていることを特徴とする上記1に記載の高分子電解質膜。
3.イオン交換容量が2〜4meq/gの範囲にあることを特徴とする上記1に記載の高分子電解質膜。
4.80℃、相対湿度95%における導電率が0.2S/cm以上であり、かつ80℃、相対湿度50%における導電率0.010S/cm以上であることを特徴とする上記1に記載の高分子電解質膜。
5.80℃の水に溶解しないことを特徴とする上記1に記載の高分子電解質膜。
6.スルホン酸基を含有し、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトンの少なくとも一種が共重合された芳香族系ポリマーから主として構成されていることを特徴とする上記1に記載の高分子電解質膜。
7.下記化学式1で表される構造を分子中に有する芳香族系ポリマーから主として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
[化学式1において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Arは二価の芳香族基を、それぞれ表す。]
8.Arが、下記化学式2で表される構造であることを特徴とする上記7に記載の高分子電解質膜。
[化学式2において、Z2は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基のいずれかを、n1は0以上の整数を表す。]
9.Z1及びZ2がいずれもO原子であり、かつ、n1が3以上であることを特徴とする上記8に記載の高分子電解質膜。
10.化学式3で表される構造をさらに含有することを特徴とする上記7に記載の高分子電解質膜。
[化学式3において、Ar1及びAr’は二価の芳香族基を、Z3はO又はS原子のいずれかを表す。]
11.Ar’が、下記化学式4で表される構造であることを特徴とする上記10に記載の高分子電解質膜。
[化学式4において、Z4は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基のいずれかを、n2は0以上の整数を表す。]
12.Z3及びZ4がいずれもO原子であり、かつ、n2が3以上であることを特徴とする上記11に記載の高分子電解質膜。
13.Ar1が、下記化学式5〜8で表される構造から選ばれる一種以上の基であることを特徴とする上記10に記載の高分子電解質膜。
14.Ar1が化学式8で表される構造であることを特徴とする上記13に記載の高分子電解質膜。
15.Arが下記化学式9A〜9Gのいずれかで表される構造であることを特徴とする上記7に記載の高分子電解質膜。
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を、rは0〜2の整数を、それぞれ表す。)
16.Arが下記化学式10で表される構造であることを特徴とする上記15に記載の高分子電解質膜。
17.Ar’が化学式9A〜9Gのいずれかで表される構造であることを特徴とする上記10に記載の高分子電解質膜。
18.Ar’が化学式10で表される構造であることを特徴とする上記17に記載の高分子電解質膜。
19.Ar及びAr’が化学式10で表される構造であり、Ar1が化学式(8)で表される構造であることを特徴とする上記10に記載の高分子電解質膜。
20.Xが−S(=O)2−基であり、YがH原子であり、Z1及びZ3がO原子であることを特徴とする上記19に記載の高分子電解質膜。
21.化学式1及び化学式3で表される構造のモル%が下記数式2を満たすことを特徴とする上記10に記載の高分子電解質膜。
(上記式中、n3は化学式1で表される構造のモル%を、n4は化学式3で表される構造のモル%を、それぞれ表す。)
22.下記化学式11で表される構造をさらに有することを特徴とする上記8に記載の高分子電解質膜。
[化学式11において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z5はO又はS原子のいずれかを表す。]
23.化学式12で表される構造をさらに有することを特徴とする上記11に記載の高分子電解質膜。
[化学式12において、Ar2は2価の芳香族基を、Z6はO又はS原子のいずれかを表す。]
24.Ar2が、化学式5〜8で表される構造から選ばれる一種以上の基であることを特徴とする上記23に記載の高分子電解質膜。
25.Ar2が化学式8で表される構造であることを特徴とする上記24に記載の高分子電解質膜。
26.Z1及びZ2がO又はS原子であり、かつ、n1が1であることを特徴とする上記22に記載の高分子電解質膜。
27.Z3及びZ4がO又はS原子であり、かつ、n2が1であることを特徴とする上記23に記載の高分子電解質膜。
28.(A)Arが化学式2で表される構造である化学式1、(B)Ar’が化学式4で表される構造である化学式3、(C)化学式11、(D)化学式12、の少なくとも4種類の構造で表される繰り返し単位を有し、それぞれの繰り返し単位のモル%、及びその他の繰り返し構造のモル%が数式3〜5を満たす芳香族系ポリマーから主として構成されていることを特徴とする上記1に記載の高分子電解質膜。
(上記式中、n5は化学式11で表される構造のモル%を、n6はArが化学式2で表される構造である化学式1で表される構造のモル%を、n7は化学式12で表される構造のモル%を、n8はAr’が化学式4で表される構造である化学式3で表される構造のモル%を、n9はその他の繰り返し構造のモル%を、それぞれ表す。)
29.上記1〜28のいずれかに記載の高分子電解質膜を用いた電解質膜/電極接合体。
30.上記29に記載の電解質膜/電極接合体を用いた燃料電池。
31.上記30に記載の燃料電池を用いることを特徴とする、固体高分子形燃料電池の無加湿運転方法。
本発明の高分子電解質膜は、既存のパーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜に比べて、無加湿での発電特性に優れており、燃料電池として用いた場合に、より簡便なシステムで高出力を得ることができるという、優れた効果を有している。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子電解質膜は、該高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池に無加湿の水素と酸素を用いて発電を行ったときの、MRIによるスピンエコー法を用いて測定した高分子電解質膜内の水の信号強度が、数式1を満たすことを特徴とするものである。測定は、燃料電池セルをMRI測定装置内に設置することによって行うことができる。測定する核種は1H(水素)であり、画像を取得するためのシーケンスとしてはスピンエコー法を用いることができる。スピンエコー法における、エコー時間、繰り返し時間、画像平均化回数、スライス厚み、画像取得範囲、は測定するサンプルの大きさ、厚み、形状、測定の目的などによって適宜設定することができる。
水の信号強度は1Hの信号強度として得られ、測定セル内に基準物質を入れておくことによって、相対値として求めることができる。これによって、異なるサンプル間においても比較することができる。
無加湿発電は、5〜90℃の範囲で行うことが好ましいが、高温になるほど出力が低下することがかるので、10〜80℃の範囲がより好ましく、20〜60℃の範囲であることがさらに好ましい。
無加湿発電のときの高分子電解質膜の含水量は、電流密度が大きくなるほど、含水量が増えることが好ましく、電流密度が0.3A/cm2のときの電流密度が、電流密度が0A/cm2のときの1.5〜10倍の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜4倍の範囲である。1.5倍よりも少ないと、高電流密度まで発電できなかったり、出力電圧が低かったりして、得られる出力が低いので好ましくない。10倍よりも大きいと、出力面では好ましいものの、膜の膨潤性が大きくなりすぎて、耐久性に乏しくなるため好ましくない。
本発明の高分子電解質膜は高い含水率を必要とするため、より多くのイオン性基を導入することのできる、炭化水素系高分子電解質膜を用いることが好ましい。炭化水素系高分子電解質膜とは、ポリマー構造が部分的にフッ素化されていてもよいが、パーフルオロ化されておらず、芳香族又は脂肪族系の繰り返し単位と、スルホン酸やホスホン酸、リン酸などといったイオン性基からなるポリマーを主成分とする高分子電解質膜のことを表す。
高分子電解質膜を構成するポリマーは芳香族系のポリマーであることが好ましく、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトンの少なくとも一種が共重合された芳香族系ポリマーから主として構成されていることが好ましい。
高分子電解質膜を構成するポリマーの具体的な例としては、ポリアリーレン、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンエーテルスルフィド、ポリアリーレンエーテルニトリル、ポリアリーレンエーテルニトリルスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリベンザゾール、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなどの耐熱性ポリマーが好ましい例として挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
中でも、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンエーテルスルフィド、ポリアリーレンエーテルニトリル、ポリアリーレンエーテルニトリルスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンが、さらに好ましい例として挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
上記のようなポリマーに、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホンイミド基などのイオン性基を導入することにより、プロトン伝導性ポリマーとして用いることができる。イオン性基は、スルホン酸基であることが、プロトン伝導性が高くなるため好ましい。高分子電解質膜中のイオン性基の量は、1〜10meq/gの範囲にあればよいが、2〜4meq/gの範囲にあることがより好ましく、2.3〜3meq/gの範囲にあることがさらに好ましい。イオン交換容量が大きいとプロトン伝導性は増大するが膨潤性も増大し安定性が低下する傾向にある。イオン交換容量が少ないとプロトン伝導性が低下し、充分な性能が得られなくなる。
本発明の高分子電解質膜は、上記のようなプロトン伝導性ポリマーのみからなっていてもよいし、有機又は無機の多孔材料や、フィブリル、不織布、フィラーなどとの複合膜であってもよい。また、非プロトン伝導性ポリマーとのブレンドであってもよい。あるいは、構造の異なるプロトン伝導性ポリマーとのブレンドや、積層膜であってもよい。さらには、プロトン伝導性ポリマー間や、プロトン伝導性ポリマーと架橋剤との間に架橋を有していてもよい。
本発明の高分子電解質膜は、プロトン伝導性が高いことが望ましいが、具体的には80℃、相対湿度95%における導電率が0.2S/cm以上であり、かつ80℃、相対湿度50%における導電率0.010S/cm以上であると好ましく、80℃、相対湿度95%における導電率が0.3S/cm以上であり、かつ80℃、相対湿度50%における導電率0.015S/cm以上であるとさらに好ましい。
本発明の高分子電解質膜は、膨潤性が大きくない方が好ましいが、例えば、80℃の水に溶解しないような高分子電解質膜であると、より好ましい結果が得られる。
本発明の高分子電解質を構成するポリマーの好ましい態様の一つは、下記化学式1で表される構造を有する芳香族系ポリマーである。
[化学式1において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Arは2価の芳香族基を、それぞれ表す。]
Xは−S(=O)2−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、電解質膜に光架橋性を付与することができるため好ましい。高分子電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子電解質膜を得ることもできる。Z1はOであるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z1がSであると耐酸化性が向上するため好ましい。
Arは2価の芳香族基であるが、公知の任意の基であってよい。中でもArが、下記化学式2で表される構造であると、高分子電解質膜のプロトン伝導性及び電極との接合性や、燃料電池に用いた場合の発電出力などを向上させることができ、好ましい。
[化学式2において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Z2は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基のいずれかを、n1は0以上の整数を表す。]
Z2はOであるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z2がSであると耐酸化性が向上するため好ましい。n1が3以上であると、高分子電解質膜の軟化点を下げる効果があり、電極との接合性を向上させるため好ましい。n1が1の場合は、Z2は、O原子、S原子、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基であることが好ましく、O原子、S原子であることがより好ましい。
化学式1におけるArが化学式2で表される構造の場合には、Z1及びZ2がいずれもO原子であり、かつ、n1が3以上であると、電極との接合性が良好な高分子電解質膜となり好ましい。
また、Arは下記化学式9A〜9Gのいずれかで表される構造であってもよく、中でも化学式9Aの構造が好ましく、化学式10の構造がさらに好ましい。Rはメチル基が好ましい。rは0であることが高分子量ポリマーを得やすいため好ましい。rが1又は2であると、ポリマーに架橋性を付与することが可能になり好ましい。
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を、rは0〜2の整数を、それぞれ表す。)
本発明の高分子電解質を構成するポリマーの好ましい態様の一つは、化学式1で表される構造と共に、下記化学式3で表される構造を有する芳香族系ポリマーである。
[化学式3において、Ar1及びAr’は二価の芳香族基を、Z3はO又はS原子のいずれかを表す。]
Ar1は、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
Ar1の好ましい構造は、下記化学式5〜8で表される構造である。化学式5の構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式6の構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式7又は8の構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式8の構造がより好ましい。化学式5〜8の中でも化学式8の構造が最も好ましい。
Ar’は2価の芳香族基であるが、公知の任意の基であってよい。中でもAr’が、下記化学式4で表される構造であると、高分子電解質膜のプロトン伝導性及び電極との接合性や、燃料電池に用いた場合の発電出力などを向上させることができ、好ましい。
[化学式4において、Z4は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基のいずれかを、n2は0以上の整数を表す。]
Z4はOであるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z4がSであると耐酸化性が向上するため好ましい。n2が3以上であると、高分子電解質膜の軟化点を下げる効果があり、電極との接合性を向上させるため好ましい。n2が1の場合は、Z4は、O原子、S原子、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基であることが好ましく、O原子、S原子であることがより好ましい。
化学式3におけるAr’が化学式4で表される構造の場合には、Z3及びZ4がいずれもO原子であり、かつ、n2が3以上であると、電極との接合性が良好な高分子電解質膜となり好ましい。
また、Ar’は下記化学式9A〜9Gのいずれかで表される構造であってもよく、中でも化学式9Aの構造が好ましく、化学式10の構造がさらに好ましい。Rはメチル基が好ましい。rは0であることが高分子量ポリマーを得やすいため好ましい。rが1又は2であると、ポリマーに架橋性を付与することが可能になり好ましい。
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を、rは0〜2の整数を、それぞれ表す。)
上記の態様において、Ar及びAr’が化学式10で表される構造であり、Ar1が化学式8で表される構造であると、プロトン伝導性に優れ、膨潤性の小さい高分子電解質膜となり好ましい。また、Xが−S(=O)2−基であり、YがH原子であり、Z1及びZ3がO原子であると、さらに特性が向上するためより好ましい。
上記の態様において、化学式1及び化学式3で表される構造のモル%は下記数式2を満たすことが好ましい。
(上記式中、n3は化学式1で表される構造のモル%を、n4は化学式3で表される構造のモル%を、それぞれ表す。)
[n3/(n3+n4)]は0.4〜0.7の範囲であることがより好ましく、0.5〜0.7の範囲であることがさらに好ましい。0.3より小さいと、高分子電解質膜のプロトン伝導性が低下し燃料電池の出力が低下しやすくなる。また、0.7よりも大きいと、高分子電解質膜の膨潤性が著しく大きくなって破損しやすくなる場合がある。
本発明の高分子電解質を構成するポリマーの好ましい態様の一つは、Arが化学式2で表される構造である化学式1で表される構造と共に、下記化学式11で表される構造をさらに有するポリマーである。化学式11で表される構造は、高分子電解質膜にプロトン伝導性を付与し、高分子電解質膜の膨潤を抑制する機能を有している。
[化学式11において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z5はO又はS原子のいずれかを表す。]
Xは−S(=O)2−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、電解質膜に光架橋性を付与することができるため好ましい。高分子電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子電解質膜を得ることもできる。Z5はOであるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z5がSであると耐酸化性が向上するため好ましい。
上記の態様において、Z1及びZ2がO又はS原子であり、かつ、n1が1であると、プロトン伝導性、電極との接合性、耐膨潤性をそれぞれ向上することができるため好ましい。
本発明の高分子電解質を構成するポリマーの好ましい態様の一つは、化学式1で表される構造と、Ar’が化学式4で表される構造である化学式3で表される構造とに加え、下記化学式12で表される構造をさらに有するポリマーである。化学式12で表される構造は、高分子電解質膜の膨潤を抑制する機能を有している。。
[化学式12において、Ar2は2価の芳香族基を、Z6はO又はS原子のいずれかを表す。]
Ar2は、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
Ar2の好ましい構造は、下記化学式5〜8で表される構造である。化学式5の構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式6の構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式7又は8の構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式8の構造がより好ましい。化学式5〜8の中でも化学式8の構造が最も好ましい。
上記の態様において、Z3及びZ4がO又はS原子であり、かつ、n2が1であると、プロトン伝導性、電極との接合性、耐膨潤性をそれぞれ向上することができるため好ましい。
本発明の高分子電解質を構成するポリマーの好ましい態様の一つは、(A)Arが化学式2で表される構造である化学式1、(B)Ar’が化学式4で表される構造である化学式3、(C)化学式11、(D)化学式12、の少なくとも4種類の構造で表される繰り返し単位を有し、それぞれの繰り返し単位のモル%、及びその他の繰り返し構造のモル%が数式3〜5を満たす芳香族系ポリマーである。
(上記式中、n5は化学式11で表される構造のモル%を、n6はArが化学式2で表される構造である化学式1で表される構造のモル%を、n7は化学式12で表される構造のモル%を、n8はAr’が化学式4で表される構造である化学式3で表される構造のモル%を、n9はその他の繰り返し構造のモル%を、それぞれ表す。)
(n5+n6+n7+n8)/(n5+n6+n7+n8+n9)は0.95〜1.0の範囲であることが好ましい。(n5+n6)/(n5+n6+n7+n8)は0.4〜0.7の範囲にあることがより好ましく、0.5〜0.7の範囲にあることがさらに好ましい。0.3よりも小さいとプロトン伝導性が低下し燃料電池の出力が低下する場合がある。0.7よりも大きいと膜の膨潤性が大きくなり破損などの問題が起こりやすくなる場合がある。(n6+n8)/(n5+n6+n7+n8)は0.01〜0.30の範囲であることが好ましく、5〜20の範囲であることがより好ましい。0.01よりも小さいと、電極との接合性の改良効果を得ることができない場合がある。0.95よりも大きいと膜の膨潤性が大きくなりすぎる場合がある。
本発明の高分子電解質膜は、上記のポリマーを、適当な溶媒に溶解、分散した組成物から得ることもできる。用いることのできる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミド、N−モルフォリンオキサイドなどの非プロトン性有機極性溶媒や、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などの極性溶媒、及びこれらの有機溶媒の混合物、並びに水との混合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
ポリマー溶液の濃度は0.1〜50重量%の範囲が好ましい。溶液から、膜、繊維などを成型する場合には、濃度が5〜50重量%の範囲にあることがより好ましく、10〜40重量%の範囲がさらに好ましい。
本発明の高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性ポリマーは、例えば、電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物や芳香族ジニトロ化合物と、ビスフェノール化合物及び/又はビスチオフェノール化合物とを芳香族求核置換反応により重合することができる。
電子吸引性基で活性化された芳香族ジハロゲン化合物のうち、イオン性基を有するものとしては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジアルキルスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジアルキルスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジアルキルスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジアルキルスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限されるわけではない。スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができ、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンが好ましい。
イオン性基を含有しない、活性化芳香族ジハロゲン化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。中でも好ましいのは、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリルであり、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリルがさらに好ましい。
ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’−ビフェノール、4,4’−ジメルカプトビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4−ヘキシルレゾルシノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、4,4’−チオジフェノール、4,4’−オキシジフェノール、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド、両末端にヒドロキシ基を有するポリフェニレンエーテル等が挙げられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は芳香族ジチオールを使用することもでき、上記の化合物に限定されるものではない。併用する化合物の中の好ましい例として、4,4’−ビフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、4,4’−チオジフェノール、4,4’−オキシジフェノール、4,4’−チオビスベンゼンチオールが挙げられる。複数の種類のビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物を用いる場合は、4,4’−ビフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタンからなる群より選ばれる一種以上の化合物と、4,4’−チオジフェノール、4,4’−オキシジフェノール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンからなる群より選ばれる一種以上の化合物とを組み合わせることが、高分子電解質膜の接合性や耐久性を向上させることができ、好ましい。
本発明における高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性ポリマーを芳香族求核置換反応により重合する場合、活性化芳香族ジハロゲン化合物や活性化ジニトロ芳香族化合物と、ビスフェノール化合物やビスチオフェノール化合物を加えて、塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。モノマー中の、反応性のハロゲン基又はニトロ基と、反応性のヒドロキシ基又はメルカプト基のモル比は任意のモル比にすることで、得られるポリマーの重合度を調整することができるが、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは0.9〜1.1であり、0.95〜1.05であるとさらに好ましく、1であると最も高重合度のポリマーを得ることができる。
重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
また、上記重合反応において、塩基性化合物を用いずに、ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物を、フェニルイソシアネートなどのイソシアネート化合物と反応させてカルバモイル化したものと、活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物とを直接反応させることもできる。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類や芳香族ジメルカプト化合物を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。塩基性化合物は、ビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物に対して100モル%以上の量を用いると良好に重合することができ、好ましくはビスフェノール化合物及びビスチオフェノールに対して105〜125モル%の範囲である。塩基性化合物の量が多くなりすぎると、分解などの副反応の原因となるので好ましくない。
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。また副生する塩類を濾過によって取り除いてポリマー溶液を得ることもできる。
本発明の高分子電解質膜に用いることのできるポリマー構造の例を以下に示すが、これらに限定されるものではなく、他の公知のポリマーも用いることができる。これらのポリマーを用いた高分子電解質膜の中で、該高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池に無加湿の水素と酸素を用いて発電を行ったときの、MRIによるスピンエコー法を用いて測定した高分子電解質膜内の水の信号強度が、数式1を満たすものが本発明の高分子電解質膜である。
また、本発明における高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性ポリマーは、後で述べる方法により測定した対数粘度が0.1dL/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.1dL/gよりも小さいと、高分子電解質膜として成形したときに、膜が脆くなりやすくなる。対数粘度は、0.3dL/g以上であることがさらに好ましい。一方、対数粘度が5dL/gを超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
本発明における高分子電解質膜は任意の厚みにすることができるが、10μm以下だと所定の特性を満たすことが困難になるので10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、300μm以上になると製造が困難になるため、300μm以下であることが好ましい。
本発明の高分子電解質膜は、上記のようなスルホン酸基含有ポリマーと単体と他のポリマーとを混合されたものであってもよい。これらのポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの樹脂組成物は、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせといえる、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。本発明の高分子電解質膜中には、上記のプロトン伝導性ポリマーが、樹脂組成物全体の50質量%以上100質量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。プロトン伝導性ポリマーの含有量が樹脂組成物全体の50重量%未満の場合には、この樹脂組成物を含む高分子電解質膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なイオン伝導性が得られない傾向にあり、また、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明の組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
上記プロトン伝導性ポリマーは、適当な溶媒に溶解して、溶液組成物とすることもできる。この溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール類から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。溶液中の化合物濃度は0.1〜50重量%の範囲であることが好ましい。溶液中の化合物濃度が0.1重量%未満であると良好な成形物を得るのが困難となる傾向にあり、50重量%を超えると加工性が悪化する傾向にある。
本発明の高分子電解質膜は、上記プロトン伝導性ポリマーを含む組成物から、押し出し、圧延又はキャストなど任意の方法で得ることができる。中でも適当な溶媒に溶解した溶液から成形することが好ましい。溶液から成形体を得る方法は従来から公知の方法を用いて行うことができる。例えば、加熱、減圧乾燥、化合物を溶解する溶媒と混和することができる化合物非溶媒への浸漬等によって、溶媒を除去し成形体を得ることができる。溶媒が、有機溶媒の場合には、加熱又は減圧乾燥によって溶媒を留去させることが好ましい。この際、必要に応じて他の化合物と複合された形で成形することもできる。溶解挙動が類似する化合物と組み合わせた場合には、良好な成形ができる点で好ましい。このようにして得られた成形体中のスルホン酸基は陽イオン種との塩の形のものを含んでいても良いが、必要に応じて酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換することもできる。
本発明における高分子電解質膜を、上記プロトン伝導性ポリマー又はその組成物から成形する手法として最も好ましいのは、溶液からのキャストであり、キャストした溶液から上記のように溶媒を除去して高分子電解質膜を得ることができる。当該溶液としてはN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を用いた溶液や、場合によってはアルコール系溶媒等も挙げることができる。溶媒の除去は、乾燥によることが高分子電解質膜の均一性からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下できるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いと高分子電解質膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、2000μmよりも厚いと不均一な膜ができやすくなる傾向にある。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にしたりして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。高分子電解質膜として使用する場合、膜中のスルホン酸基は金属塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸、等の水溶液中に加熱下あるいは加熱せずに膜を浸漬処理することで行うことも効果的である。
本発明の電解質膜/電極接合体は、本発明の高分子電解質膜を電極と接合することによって得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法又は高分子電解質膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。この中でも、高分子電解質膜を構成するプロトン伝導性ポリマーと同種のプロトン伝導性ポリマー及びその樹脂組成物を主成分とした接着剤を電極表面に塗布して接着する方法が好ましい。高分子電解質膜と電極との接着性が向上し、また、高分子電解質膜のプロトン伝導性を損なうことが少なくなると考えられるためである。その場合には、上記化学式におけるXがHであって、スルホン酸基が酸型であることが好ましい。スルホン酸基が陽イオンと塩を形成している状態で用いる場合には、接合後、酸処理によってスルホン酸基を酸型にすることもできる。
本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質膜又は電解質膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明の高分子電解質膜は、無加湿運転する固体高分子形燃料電池に適している。本発明の燃料電池は、例えば酸素極と、燃料極と、それぞれの極に挟まれて配置された本発明の高分子電解質膜と、酸素極側に設けられた酸化剤の流路と、燃料極側に設けられた燃料の流路を有するものである。このような一つの単位セルを導電性のセパレーターで連結することによって燃料電池スタックを得ることができる。
本発明における燃料電池の無加湿運転とは、燃料や酸化剤に水分を含ませる操作を行うことなく燃料電池に供給して発電を行う運転を表す。燃料としては水素を用いることができる。水素はボンベや貯蔵タンクから得られる水素を用いたり、都市ガス、石油などの改質によって得られる水素を用いたりすることができる。また、酸化剤としては、酸素や空気などを用いることができる。無加湿運転することができる燃料電池であると、燃料や酸化剤の加湿設備を必要とせず、より簡素で安価な燃料電池を得ることができる。