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JP5441035B2 - 試料解析装置 - Google Patents

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JP5441035B2 JP2009255527A JP2009255527A JP5441035B2 JP 5441035 B2 JP5441035 B2 JP 5441035B2 JP 2009255527 A JP2009255527 A JP 2009255527A JP 2009255527 A JP2009255527 A JP 2009255527A JP 5441035 B2 JP5441035 B2 JP 5441035B2
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Description

本発明は、多数の固体試料と液体試料との組み合わせを簡素な構造で解析できる試料解析装置に関し、具体的には、ガス透過性材料からなる基板、圧力調節機構、及び弁機構を利用した構造で解析できる試料解析装置に関する。好適な例示として、PDMS(ポリジメチルシロキサン)等のガス透過性材料からなる基板に、プライマーが予め塗布・乾燥された反応チャンバと、PDMSのガス透過性を利用して溶液を反応チャンバに一定量、導入する機構とが設けられた遺伝子解析用PCRチップに関する。
ポリメラーゼ・チェイン・リアクション(Polymerase chain reaction、以下、「PCR」と呼ぶ。)は核酸(例えば、DNA、RNA)の増幅に用いられる生体分子操作の一つである。配列に対する特異性と極微量の試料から非常に多くの核酸断片のコピーを得ることが可能であることから、生物、臨床診断、法医学検査等の多岐にわたる分野において、配列解析や遺伝子型解析に用いられている。
近年、マイクロ・エレクトロ・メキャニカル・システム(Micro electro mechanical system、MEMS)技術を利用して、従来のPCR装置を小型化することで、数センチ角のチップ上でPCRを行う技術の開発が盛んになってきている。この小型化されたPCRチップは、従来のPCR法に比べて、解析時間の短縮、加熱・冷却サイクル時間の短縮、必要なPCR溶液の量が微量で済む、PCRの対象となるゲノムを含む試料を前処理する機構を集積化できる等の利点を持つ。重要な利点として、チップ内に作製された多数の微小なPCR反応器を使って、極微量の試料に含まれる核酸から、多種の配列を標的として増幅できることが挙げられる。チップ上で流路を用いて定量PCRを並列処理することで、一つの微量な試料に含まれる多数の標的配列を効率良く検出することが期待される。しかし、このPCRチップの開発には、以下に記述するような解決すべき課題がある。
(PCRチップの複雑化)
PCRチップでは、プライマーと試料をチップ内で計量し、混合する必要がある。n個の試料に含まれるm種類の標的配列を解析するには、チップの中でm×nのマトリックスを作り、その交点で対応するPCRを行う方法が、大幅に実験の手間を省くことができるため有効である。しかし、これを実現するには、小さなチップ内の各交点でプライマーと試料サンプルを計量し、混合する必要がある。従来の技術では、多数の配管や流路、マイクロバルブやマイクロミキサー等が必要になり、大変複雑な構造になっていた(例えば、非特許文献1〜4を参照)。
そのため複雑な配管、マイクロバルブやポンプを集積化する代わりに、マイクロサイズの流路の特性を利用して毛細管現象でPCR試薬の送液を行い、計量した報告もある(例えば、非特許文献5)。この非特許文献5に記載の毛細管現象を利用した方法では、流路壁面とPCR溶液の接触角を最小限にして送液効率を上げるために、PCR反応液に界面活性剤を混ぜている。しかし、界面活性剤がPCR反応を阻害するため、極微量のゲノムを増幅するには向いていない。
(計量・気泡残留の問題)
また、従来のPCRチップでは、反応器内に気泡が残留してしまうことが多い。気泡の発生要因として、(1)液体試料を最初に導入する際の気体の混入が挙げられる。つまり、流路内での小さなゴミ、埃、突起物が原因となって液体試料中に気体が混入されるのである。これはストレートな流路でも発生する。また、(2)PCR反応工程に伴うチップの昇温中に液体試料内の溶存ガスが気化することでも発生する。これは、温度上昇に伴い、液体中のガスの溶解度が下がり、溶けきれないガスが気体として現われるからである。さらに、(3)チップ昇温中に樹脂基板(例えば、PDMS)内の溶存ガスが気化して流路壁を介して液体試料中に混入されることでも発生する。
以上のように、気泡の発生は、液体試料の導入時のみならず、PCR処理中にも確認されるものであり、残留した気泡はPCRによる計量(定量性)を著しく阻害してしまう。また、遺伝子有無の判定では大きな問題にならないが、ダウン症の診断のように定量性が厳密に要求される場合は致命的である。気泡は温度サイクル中に膨張・収縮を繰り返すので更なる計量誤差を生んでしまう。
(試料溶液の蒸発)
また、チップ内の小さい反応器内において極微量の試料を用いてPCRを実行するためには、反応液の蒸発を防ぐ工夫が必要不可欠である。特にDNAの変性には百度近い温度への昇温を必要とするため、溶液の蒸発は速く、標準的な大気圧下では試料は乾燥し、完全に無くなってしまうこともある(例えば、非特許文献6を参照)。
この蒸発の問題を回避するために、沸点が100℃より高く、密度も1.0g/cm以下であるミネラルオイルが、蒸発防止膜として良く用いられる(例えば、特許文献1、非特許文献7,8を参照)。これらの文献に記載の方法は、ピペッティングにより試料の導入を行う開放型のウェル反応器を用いたPCRに適している。しかし、多くの素子を集積化した遺伝子解析用PCRチップでは、密閉した反応器でPCRが行われるため、ミネラルオイル法で蒸発を防ぐのは難しい。
特開2007−175006号公報
BioMark Product、「リアルタイムqPCR用ダイナミックアレイ」、[online]、Fluidigm社、[平成21年10月28日検索]、インターネット〈URL:http://www.fluidigm.jp/biomark_qPCR.htm〉 Jian Liu, Carl Hansen,Stephen R. Quake; Solving the "world-to-chip" interface problem with amicrofluidic matrix; Ana.Chem, 75, 4718-4723 David S.Kong, PeterA.Carr, Lu Chen, Shuguang Zhang, Joseph M. Jacobson; Parallel gene synthesis inthe microfluidic device; Nucleic Acids Research, 2007, Vol.35, No.8 Chunsun Zhang, Da Xing,Yuyuan Li; Micropumps, microvalves, and micromixers within PCR microfluidicchips: Advances and trends; Biotechnology Advances 25 (2007) 483-514 N. Ramalingam, Hao-BingLiu, Chang-Chun Dai, Yu Jiang, Hui Wang, Quighui Wang, Kam M Hui, Hai-QingGong; Real-time PCR array chip with capillary-driven sample loading and reactorsealing for point-of-care applications; Biomed Microdevices; Doi 10.1007/s10544-009-9318-4 Chunsun Zhang, Da Xing;Miniaturized PCR chips for nucleic acid amplification and analysis: lastestadvances and future trends; Nucleic Acids Research, 2007, Vol.35, No 13(4233-4237) Neuzil P, Zhang C.Y,Pipper J, Oh S, Zhuo L; Ultra fast miniaturized real-time PCR: 40 cycles inless than six minutes ; Nucleic Acids Research, 2006, Vol.35, No 13 (4233-4237) Xiang Q, Xu B, Fu R, LiD; Real time PCR on disposable PDMS chip with a miniaturized thermal cycler;Biomed. Microdevices, 7, 273-279.
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、従来の遺伝子解析装置等が有する欠点(例えば、装置構造の複雑化)を排除した試料解析装置を提供することを目的とする。すなわち、多数の試料と標的との組み合わせを簡素な構造で解析できる試料解析装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、従来の遺伝子解析装置等が有する別の欠点(例えば、気泡の残留や試料溶液の蒸発)を排除し、試料溶液の厳密な計量が可能な試料解析装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、遺伝子解析分野に限らず、固体試料と液体試料との反応を簡素な構造で解析できる試料解析装置を提供することを目的とする。
本願の発明者らは、複数の反応チャンバを備えた基板(またはその一部)にガス透過性材料を選択すれば、圧力増減機構と反応チャンバを直に接続しなくても反応チャンバ内へ試料溶液を導入することができること、反応チャンバの内側に試料溶液の一部(PCR法では、各種プライマー)を予め塗布(スポット)して乾燥させておくようにすれば、貯蔵チャンバから各反応チャンバへの試料溶液の導入が簡素な構造で行うことが出来ること、及び、これらの点を組み合わせれば、従来の遺伝子解析装置での問題が一挙に解消され、信頼性の高い遺伝子解析が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本願発明者は、遺伝子解析に限らず、固体試料と液体試料とを反応させる解析にも上記発案点を応用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る試料解析装置は、
液体試料を収容可能な少なくとも一つ以上の貯蔵チャンバと、
固体試料が収容された少なくとも一つ以上の反応チャンバと、
貯蔵チャンバと反応チャンバとを連通する液体導入流路と、
反応チャンバ近傍に設けられた排出チャンバと、
を備え、かつ、
反応チャンバと排出チャンバとの間にはガス透過材料を含んだ壁が設けられ、
反応チャンバと排出チャンバとの間に生じた圧力差によって、液体導入流路及び反応チャンバ内のガス並びに液体試料中のガスが壁を通して排出チャンバに吸引されるとともに、貯蔵チャンバから反応チャンバに液体試料が導入・充填され
反応チャンバは円筒形を成し、
排出チャンバは反応チャンバを同心円状に囲繞した溝を成し、
壁の壁厚は10μm〜500μmの範囲にあり、
排出チャンバの圧力は、液体試料を反応チャンバへ導入するために、0.2〜0.9気圧に設定されることを特徴とするものである。
本発明の試料解析装置によれば、固体試料と液体試料との反応を簡素な構造で解析できる。
本発明によれば、特に遺伝子解析分野において従来の装置が有する欠点を排除した試料解析装置(例えば、PCRチップ)を提供することができる。具体的には、多数の試料と標的との組み合わせを簡素な構造で解析できるPCRチップを提供することができる。また、従来の遺伝子解析装置が有する気泡の残留や試料溶液の蒸発等の問題点を排除したPCRチップを提供することができる。さらに、気泡等の残留が発生しないことに加え、反応チャンバの容積一杯に(つまり定量)試料溶液を充填させることができるため、厳密に計量された溶液を用いてPCR処理が可能なPCRチップを提供することができる。
本発明の試料解析装置の発明概念(主な構造)を示した図である。 m種類の液体試料とn種類の固体試料とを含んだ試料解析装置を示した図である。 本発明の一実施例である遺伝子解析用PCRチップの分解斜視図を示した図である。(実施例1) 本発明のPCRチップの分解平面図を示した図である。 本発明のPCRチップに設けられた反応チャンバ及び排出チャンバを示した図である。 本発明の反応チャンバへ流入する試料溶液を示した図である。 本発明のPCRチップに設けられた弁機構を示した図である。 反応チャンバと排出チャンバとを画す壁の壁厚Dと試料溶液導入時間との関係を示したグラフである。 本発明の他の実施例であるPCRチップの断面構造を示した図である。 熱サイクル試験前後のPCRチップの様子を示した図である。 熱サイクル試験前後のPCRチップの反応チャンバを拡大して示した図である。 PCR実行後のPCRチップの様子を示した図である。 PCR実行後のPCRチップの反応チャンバを示した蛍光画像である。
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な
実施形態に何等限定されるものではない。
図1は本発明の試料解析装置1の発明概念(主な構造)を示した図である。試料解析装置1は、液体部分(液体試料)2と固体部分(固体試料)3とからなる試料を利用し、双方2,3を接触させることでその化学反応の評価を行うものである。ここで、液体試料2とは、例えば、PCR用の調整液から解析部位を特定するもの(プライマーやTaqMan(登録商標)プローブ等)を除いたもの(テンプレートDNA、ポリメラーゼ、dNTP等)、遺伝子検査用サンプル、RNA検査用サンプル等が挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。一方、固体試料3とは、上記のような解析部位を特定するもの、例えばDNAの標的となるプライマー、TaqManプローブ、基質特異的酵素、抗体等が挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。
試料解析装置1は、液体試料2を収容可能な少なくとも一つ以上の貯蔵チャンバ32(図1では一つ)と、固体試料3が収容された少なくとも一つ以上の反応チャンバ(図1では一つ)と、貯蔵チャンバ32と反応チャンバ35とを連通する液体導入流路34と、反応チャンバ35近傍に設けられた排出チャンバ36と、を備える。試料解析装置1には、さらに、反応チャンバ35と排出チャンバ36との間にはガス透過材料を含んだ壁Wが設けられる。そして、試料解析装置1は、反応チャンバ35と排出チャンバ36との間に生じた圧力差によって、液体導入流路34及び反応チャンバ35内のガス並びに液体試料2中のガスが壁Wを通して排出チャンバ36に吸引されるとともに、貯蔵チャンバ32から反応チャンバ35に液体試料2を導入・充填することを特徴とする。
また、本発明の試料解析装置1は、反応チャンバ35と排出チャンバ36との間に圧力差を発生させる圧力差発生機構をさらに備えてもよい。この圧力差発生機構は、排出チャンバ36の圧力を減少させる減圧機構であってもよいし、反応チャンバ35の圧力を加圧する加圧機構であってもよい。なお、以下の実施形態及び実施例では、圧力差発生機構が減圧機構である場合について説明している。減圧機構は、図示のように、例えば、排出ポート33と、排出ポート33と排出チャンバ36とに連結された排出流路37と、を含み、排出ポート33から図示しないマイクロポンプ等によって排出チャンバ36内のガスを排出させることで排出チャンバ36の減圧を行う。減圧機構は、排出チャンバ36を減圧することで、壁Wを通して反応チャンバ35内のガスを吸引し、貯蔵チャンバ32から反応チャンバ35に液体試料2を導入・充填する。
ここで、壁W に使用可能なガス透過材料には、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル系ポリマー、シリコーンゴム、各種エラストマー等が挙げられる。ここで、PDMSは、透明性に優れた材料であるため光学解析手法による検知に適しており、生体適合性があるため生体試料分析にも適しており、また、柔軟性に富むことはもちろん、自己吸着性があるので特殊な接合プロセスが不要であり、優れた形状転写性を有し、さらには低価格でもあるため、PCRチップの構造、作製方法を低コストでより簡単・簡素にすることが可能である。また、耐熱性に優れるために多様な表面改質が可能である。また、反応チャンバ35、排出チャンバ36、壁Wが一枚の基板31に設けられ、この基板31自体がガス透過材料からなるものであってもよい(図3、図4を参照)。
図1では本発明の概念を説明するための便宜上、貯蔵チャンバ32と反応チャンバ35とを1つのみ示したが、図2に示すように、複数(図2ではm個)の貯蔵チャンバ32と、複数(図2ではn個)の反応チャンバ35とが試料解析装置1に設置されることが好ましく、液体導入流路34は、一つの貯蔵チャンバ32から複数の反応チャンバ35に分岐させる分岐流路34aを備えていることが好ましい。
このような構成にすることにより、固体試料(例えば、標的となるn種類のプライマー)3をn個の反応チャンバ35に一種類ずつ塗布させておき、m種類の液体試料(細胞や核酸を含んだ溶液)2を貯蔵チャンバ32に一種類ずつ収容しておけば、一つの試料解析装置1において、m種類×n種類の液体試料2と固体試料3との組み合わせ・反応の評価を簡素な流路構造で達成することが可能になる。
例えば、液体試料2に細胞を含んだ溶液を用いて解析する場合、貯蔵チャンバ32と反応チャンバ35との間を連通する液体導入流路34上に細胞培養チャンバを設けてもよく、これにより、全ての反応チャンバ35に塗布された固体試料3に対応する数以上の細胞を培養して、反応チャンバ35の各々に液体試料2を導入することが可能になる。
液体導入流路34には、流路を開閉する弁機構5が設けられることが好ましく、図2に示すように、それぞれの分岐流路34a上に弁機構5が設けられることが好ましい。このような構成を採用することにより、反応チャンバ35に一旦導入された液体試料2が、貯蔵チャンバ32や隣接した反応チャンバ35へ逆流したり、流出したりする危険性を排除することができる。また、PCR解析で必要な熱サイクルにおいて各々の反応チャンバ35の反応の独立性を担保することが可能になる。
(実施例1)
次に、実際に作製された本発明の試料解析装置1として、遺伝子解析用PCRチップを例示して説明する。図3はPCRチップ1の分解斜視図を示す。図示のように、PCRチップ1は、少なくとも一層の弁制御層10と、少なくとも一層の流路層30と、これらの間に挟持された薄膜層20と、を備える。以下に、各々層の構成・機能について詳述する。
(試料解析装置の構成)
図4(a)は、弁制御層10の平面図を示す。弁制御層10は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる平板状の基板11上に、ガス量調節ポート12と、複数(図4(a)では5個)の弁開口部14と、ガス量調節ポート12と各々の弁開口部14とを連通するガス量調節流路13と、が設けられている。
図4(b)は、流路層30の平面図を示す。流路層30は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる平板状の基板31上に、液体試料2が一時的に保管される貯蔵チャンバ32(又は、貯蔵チャンバ32に連結される液体試料供給ポート)と、液体導入流路34と、複数(図4(b)では5個)の反応チャンバ35と、複数(反応チャンバ35の数に対応した数、つまり5個)の排出チャンバ36と、排出流路37と、排出ポート33と、が設けられている。液体導入流路34は、貯蔵チャンバ32から反応チャンバ35へ液体試料2が供給されるように複数(図4(b)では5本)の分岐流路34aに分岐される。反応チャンバ35は、分岐流路34aの突き当たりにある空洞であり、この空洞の内側表面の一部には、液体試料2の標的となるプライマー3が予めスポットされ、乾燥処理されている(つまり、固体試料3が塗布されている)。PDMS基板31の一部である壁Wを介して反応チャンバ35を囲繞するように、排出チャンバ36が夫々、基板31上に設けられている。排出チャンバ36は排出流路37aに連結され、排出チャンバ36で取得されたガスが排出流路37a,37を介して排出ポート33から排出される。
(PCRチップの作製方法)
以上のような構成のPCRチップ1の作製方法の一例を示す。まず、シリコン基板にSU8−2100(MICRO CHEM社製)をスピンコート、ソフトベーク、及び露光等して、各層の所望形状に対応したモールドを作成する。その次に、PDMSをモールドに流し込み、75℃及び90分の条件でベークすると、弁制御層10、流路層30がそれぞれ完成する。PDMSは自己吸着性があるので、これを利用して、PDMSからなる各層10、20、30を結合してPCRチップ1を完成させることができる。なお、弁制御層10と薄膜層20との間は、単に物理的に接触させただけでは結合力が弱いため、表面の濡れ性を改質し、化学的に修飾を加えることができるOプラズマ処理をさらに追加して結合力を向上することが好ましい。
(反応チャンバの構造及びガス透過性を利用した液体試料の導入方法)
次に、一例として、PCRチップ1内の反応チャンバ35及びその周辺部の具体的な構造を、図5を参照しながら説明する。図5(a)は反応チャンバ35及びその周辺部の斜視図を示し、図5(b)は反応チャンバ35及びその周辺部の平面図を示す。
図示の反応チャンバ35は、基板31上に設けられ、底の有る円筒状を成している。また、液体試料2を各々の反応チャンバ35に運搬する分岐流路34aは矩形断面を有した溝形状をなし、反応チャンバ35の円筒中心に向かって延びている。また、排出チャンバ36は、円筒状の反応チャンバ35を同心円状に囲繞するように反応チャンバ35の外側に設けられ、矩形断面を有した溝形状を成している。反応チャンバ35と排出チャンバ36との間は、壁厚Dを有した壁Wによって区画されている。なお、排出チャンバ36に連結された排出流路37aは矩形断面を有した溝であり、反応チャンバ35から離れるように延びている。
なお、本実施例で説明した流路層30の基板31に形成された各要素(反応チャンバ35、排出チャンバ36、分岐流路34a等)の上側は、薄膜層20によって覆われ、密閉される。
排出チャンバ36は、通常、ガス(例えば空気)で満たされており、解析時には、排出ポート33に接続された図示しないマイクロポンプが排出チャンバ36内の空気を吸引することで、排出チャンバ36が減圧される。そうすると、壁Wはガス透過性があるため、反応チャンバ35及び分岐流路34a内のガス(例えば空気)を壁W、排出チャンバ36、排出流路37a、及び排出ポート33を介して、PCRチップ1の外側に排出される。これにより、内側表面の一部にプライマー3が予め塗布された反応チャンバ35に液体試料2が導入され、液体試料2内の気泡は除去され、液体試料2のみが反応チャンバ35に充填されることになり、より厳密に計量された極微量の液体試料2を反応チャンバ35に導入することができる。なお、図6は、実物の反応チャンバ35にメチルグリーンで染色した液体試料2が導入・充填されていく様子を示した画像である。
図8は、反応チャンバ35と排出チャンバ36との間の壁Wの壁厚D(単位:mm)と、液体試料2が反応チャンバ35へ完全に導入されるまでの時間(単位:秒)と、の関係を示した図である。ここで、壁Wに生じる差圧ΔPは約0.5気圧に設定した。この図から分かるように、壁厚Dを大きくする程、導入時間が長くなり、D=0.6mmのときには約1400秒(約23分)程度が要することがわかる。なお、差圧ΔPの値を大きく取れば導入時間は減り(図示のプロットラインは全体的に下がり)、差圧ΔPの値を小さく取れば導入時間はさらに要する(図示のプロットラインは全体的に上がる)傾向となる。なお、現時点でPCRチップ1に通常使用されるマイクロポンプの吸引圧力は0.2〜0.9気圧であるため、壁厚Dは10μm〜500μmの範囲に設定することが好ましい。10μm未満にすると、減圧によって壊れやすくなる。
なお、実施例1の円筒状の反応チャンバ35の好適な直径φは、φ=20μm〜5mmの範囲が好ましい。直径φを下限未満にすると、液体試料2の蒸発の影響が顕著になるとともに蛍光等の信号が十分に検知されなくなり、直径φを上限より大きくすると、マイクロ流体用PCRチップにおいて多数の反応チャンバ35を搭載できなくなってしまう。
ところで、液体試料2の導入を促進するため、図4(b)に示すように、液体導入流路34に一端が連結された分岐流路34b、分岐流路34bの他端が連結された分岐チャンバ34c、分岐チャンバ34cを囲繞する排出チャンバ36b、排出チャンバ36bと排出流路37とを連通する排出流路37bをさらに設けるようにしてもよい。これにより、反応チャンバ35へ連結する分岐流路34aの夫々の入口まで、液体試料2をより早く、より均一に牽引することが可能になる。
(弁機構の構成・動作)
次に、本発明のPCRチップ1の弁機構5の一例を具体的に説明する。弁機構5は、弁制御層10と、薄膜層20と、流路層30と、に設けられた構造によって所望の機能が達成される(図3、図4(a)、図7を参照)。図7に示すように、例えば立方空間を成す弁開口部14が弁制御層10に形成されており、この弁開口部14の下方には、薄膜層20及び分岐流路34aが敷設されている。分岐流路34a上には、弁開口部14の対応位置に、弁開口部14より面積が小さい中実立体状の突起34が設けられている。
例えば、PCR解析前、反応チャンバ35への液体試料2の導入・充填後、又はPCR熱サイクルの時点では、図示しない流量調節手段によって、ガス量調節ポート12及びガス量調節流路13を通って弁開口部14内へガス(例えば空気)が流入され、薄膜層20で蓋をされた弁開口部14は加圧される。これによって、図7(b)に示すように、薄膜層20は流路層30側に撓んで突起34の上面で固定され、ひいては、分岐流路34aを突起34の位置にて閉じることになる。
一方、液体試料2を反応チャンバ35へ導入する際には、図示しない流量調節手段によって、弁開口部14内のガスを、ガス量調節流路13及びガス量調節ポート12を介して、PCRチップ1から排出され、薄膜層20で蓋をされた弁開口部14は減圧される。これによって、図7(a)に示すように、薄膜層20は弁制御層10側に撓んで弁開口部14の内側上面で固定され、ひいては、分岐流路34aを開放することになる。
なお、弁制御層10、薄膜層20、流路層30を例えば図4に示すように平面が同寸法の基板を用いれば、容易に弁開口部14と分岐流路34との位置合わせが行え、弁機構5を形成することが可能になる(図4(c)を参照)。
以上、具体的な構成を示しながらガス透過性を利用した反応チャンバ35への液体試料2の導入方法を説明したが、反応チャンバ35、排出チャンバ36、弁開口部14等の要素の形状や構造は上記例示に限定されるものではない。例えば、排出チャンバ36は、反応チャンバ35を同心円状に囲繞する溝形状に限定されず、反応チャンバ35を上下に所定距離だけ離れた空間であってもよい。
(実施例2)
次に本発明の他の実施例を説明する。図9(a)は実施例1のPCRチップ1の断面構造を示し、図9(b)は実施例2のPCRチップ1の断面構造を示す。弁制御層10と流路層30がそれぞれ二層に分かれていること、及び、ガスバリア層40a,40b,40c,40d,40e,40fが層間に挿入されている以外の構成は実施例1と同様であり、その他の構成の説明は省略する。
実施例1の各層10,20,30は上述の通りPDMSからなりガスを透過させるものであるが、例えば弁機構5によって圧縮されたガスが基板11や薄膜層20を透過して、分岐流路34a、反応チャンバ35等を流れる液体試料2に気泡を混入させる場合や、PCR熱サイクル時に液体試料2が蒸発し、反応チャンバ35に導入される前に上下の基板11,31からガスがリークしてしまう場合がある。従って、ガスバリア層40(図では40a,40b,40c,40d,40e,40f)のいずれかを図示のような各層間の位置に敷設している。ガスバリア層40の材料として、例えば、パリレン、PVA、不飽和ポリエステル、HDPE、ガラス等が挙げられる。図9の符号40fに示すように、PCRチップ1の外側にガスバリア層40を設ける場合には硬いガラスを使用するのが好ましい。なお、PVAは柔らかい材料であるためPVAをガスバリア層40として用いる場合は、弁制御層10の基板11a,11b間や流路層30の基板31a,31b間に配置することが好ましい(図の符号40a、40e)。なお、ガスバリア層40を他の層10、20、30に結合させる際には、Oプラズマ処理を施すことが好ましい。
(実施例3)
液体試料2に蒸発抑制剤4を添加させた以外の点は、実施例1の構成と同様である。蒸発抑制剤4としてグリセロール、エチレングリコール、ショ糖、トレハロースが挙げられる。PCRにおける熱サイクルでは、95℃前後に過熱するステップが存在し、このとき、液体試料2が蒸発してしまい、PCR検知に必須の量の液体試料2が得られない場合がある。しかしながら、上記のような蒸発抑制剤4を液体試料2に添加させておくことで液体試料2の沸点を数℃上げることが可能になり、熱サイクルを終えても十分な量の液体試料2を反応チャンバ35内に残留させることができる。
(実施例4)
実施例2のガスバリア層40を実施例1の装置構成に追加するとともに、実施例3の蒸発抑制剤4を液体試料2に添加したものである。
(熱サイクル試験結果)
図10に実施例1のPCRチップ1を用いた熱サイクル試験結果を示す。図10(a)は熱サイクル試験前のPCRチップ1の反応チャンバ35の画像を示す。液体試料2には、着色されていない水を用いた。この図から明らかなように、液体試料2が反応チャンバ35に夫々、完全に満たされていることがわかる。図10(b)は熱サイクル試験後の反応チャンバ35の画像を示す。ここで、熱サイクル試験とは、PCRチップ1を95℃で10分間保持するステップ1と、PCRチップ1を95℃で15秒間保持した後、65℃で60秒間保持するステップ2と、4℃で維持するステップ3からなり、ステップ2を30回繰り返す試験である。図10(b)の画像から、液体試料2は反応チャンバ35に残留するものの、半分近い量の液体試料2が無くなっていることが確認できる。
図11は、実施例4のPCRチップ1を用いた熱サイクル試験結果を示す。図11(a)及び(b)は、熱サイクル試験前及び試験後のPCRチップ1の反応チャンバ35の画像を示す。熱サイクル試験の内容は上述した実施例1の試験内容と同様である。なお、液体試料2にはメチルグリーンで着色された水を用いた。これらの図を比較して明らかなように、熱サイクル試験を終えても液体試料2は蒸発しておらず、気泡も確認されなかった。
(PCR試験結果)
図12は、実施例2のPCRチップ1を用いたPCR試験後の反応チャンバ35の
画像を示す。液体試料2として、10xBuffer(5μl)、各2mM(なお、M=mol/l)のdNTP(5μl)、25mMのMgCl(7μl)、5U/μl(なお、U=units)のDNAポリメラーゼ(Ampli Taq Gold(登録商標))(1.25μl)、10ng/μlのヒト遺伝子DNA(1μl)、及び水(30.75μl)を含んだ溶液を用意し、PCRチップ1に供給した。このPCRチップ1の反応チャンバ35には、固体試料3として、3μMのフォワードプライマー、3μMのリバースプライマー、及び2μMのTaqManプローブ(Beta Actin Probe)とを含んだ溶液が予めスポットされている。(実施例2に係る液体試料2の各成分についての詳細は以下の表1を参照)。このPCRチップ1に以下のPCR処理を行った。PCR処理は、具体的には、95℃で10分間保持するステップ1と、PCRチップ1を95℃で15秒間保持した後、60℃で60秒間保持するステップ2と、25℃で維持するステップ3からなり、ステップ2を30回繰り返す試験である。図12の画像から明らかなように、PCR処理後に液体試料2が反応チャンバ35内に残留するもののPCR処理中に多少蒸発していることがわかる。
図13は、実施例4に係るPCRチップ1を用いてPCR試験を行った後の反応チャンバ35の蛍光画像を示す。なお、実施例4に係る液体試料2として、図13(b)の液体試料2には、実施例2で説明した液体試料2とほぼ同様の成分であるが、実施例2に係る液体試料2において添加されていた水(30.75μl)に替えて、グリセロール(つまり蒸発抑制剤4)と水とを含んだ溶液(水:15μl、グリセロール:15.75μl、計30.75μl)が添加されている点のみ異なる。一方、図13(a)の液体試料2は、図13(b)との比較のため実施例2に係る液体試料2(表1参照)に含まれていたヒト遺伝子DNA(1μl)を除去し、その除去した分量も水に置換したものである(従って、実施例2における水との比較において、図13(a)では、水:16μl、グリセロール:15.75μl、計31.75μl)。なお、PCR処理は図12で説明した内容と同様である。図13(a)(b)ともに、PCR処理後も反応チャンバ35がその容積全体に液体試料2で満たされていることがわかる。なお、図13(a)は液体試料2が蛍光発光していないが、図13(b)は液体試料2が蛍光発光している。これは、図13(a)に示した反応チャンバ35には、ベータアクチン遺伝子を含むヒト遺伝子DNAが存在していなかった為にPCRが行われず、図13(b)に示した反応チャンバ35には、ベータアクチン遺伝子を含むヒト遺伝子DNAが存在し、PCR反応が起こって特定の遺伝子領域が増幅され、その結果としてTaqmanプローブにより蛍光物質の反応が蛍光画像に現われたのである。これにより、特定の遺伝子配列の有無を本発明の試料解析装置1を用いて解析できることが分かる。
以上説明したように、本発明の試料解析装置によれば、固体試料と液体試料との反応を簡素な構造で解析できる。
本発明によれば、特に遺伝子解析分野において従来の装置が有する欠点を排除した試料解析装置(例えば、PCRチップ)を提供することができる。具体的には、多数の試料と標的との組み合わせを簡素な構造で解析できるPCRチップを提供することができる。また、従来の遺伝子解析装置が有する気泡の残留や試料溶液の蒸発等の問題点を排除したPCRチップを提供することができる。さらに、気泡等の残留が発生しないことに加え、反応チャンバの容積一杯に(つまり定量)試料溶液を充填させることができるため、厳密に計量された溶液を用いてPCR処理が可能なPCRチップを提供することができる。
本発明は、固体試料と液体試料とを反応させる種々の化学反応の解析の他、マイクロ流体チップ、例えばPCRチップ、を用いた遺伝子解析の研究や臨床診断分野において利用することができる。特に、有核赤血球を用いた胎児診断への適用が期待される。
1 試料解析装置(遺伝子解析装置、PCRチップ)
2 液体試料
3 固体試料(プライマー)
4 蒸発抑制剤
5 弁機構
10 弁制御層
11 基板
12 ガス量調節ポート
13 ガス量調節流路
14 弁開口部
20 薄膜層
30 流路層
31 基板
32 貯蔵チャンバ
33 排出ポート
34 液体導入流路
34a 分岐流路
34 分岐流路上の突起
35 反応チャンバ
36 排出チャンバ
37 排出流路
40(40a,40b,40c,40d,40e,40f) ガスバリア層

Claims (8)

  1. 液体試料を収容可能な少なくとも一つ以上の貯蔵チャンバと、
    固体試料が収容された少なくとも一つ以上の反応チャンバと、
    前記貯蔵チャンバと前記反応チャンバとを連通する液体導入流路と、
    前記反応チャンバ近傍に設けられた排出チャンバと、
    を備え、かつ、
    前記反応チャンバと前記排出チャンバとの間にはガス透過材料を含んだ壁が設けられ、
    前記反応チャンバと前記排出チャンバとの間に生じた圧力差によって、前記液体導入流路及び前記反応チャンバ内のガス並びに前記液体試料中のガスが前記壁を通して前記排出チャンバに吸引されるとともに、前記貯蔵チャンバから前記反応チャンバに前記液体試料が導入・充填され
    前記反応チャンバは円筒形を成し、
    前記排出チャンバは反応チャンバを同心円状に囲繞した溝を成し、
    前記壁の壁厚は10μm〜500μmの範囲にあり、
    前記排出チャンバの圧力は、前記液体試料を前記反応チャンバへ導入するために、0.2〜0.9気圧に設定されることを特徴とする試料解析装置。
  2. 前記反応チャンバと前記排出チャンバとの間に圧力差を発生させる圧力差発生機構をさらに備え、前記圧力差発生機構は、前記排出チャンバの圧力を減少させる減圧機構であることを特徴とする請求項1に記載の試料解析装置。
  3. 前記液体導入流路は、一つの前記貯蔵チャンバから複数の前記反応チャンバに分岐させる分岐流路を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の試料解析装置。
  4. 前記液体導入流路は、流路を開閉する弁機構を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の試料解析装置。
  5. 前記液体試料には、蒸発抑制剤が添加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の試料解析装置。
  6. 前記液体導入流路と前記反応チャンバの近傍にガスバリア層が設けられ、前記壁にはガスバリア層が設けられていないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の試料解析装置。
  7. 前記ガス透過性材料がポリジメチルシロキサンであることを特徴する請求項1〜6のいずれかに記載の試料解析装置。
  8. 前記液体試料は、核酸溶液を含み、
    前記固体試料は、前記反応チャンバに予め塗布・乾燥されたプライマーを含み、
    PCR解析に用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の試料解析装置。
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