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JP5317344B2 - 乳たんぱく質含有液体食品の沈殿発生を防止する殺菌方法 - Google Patents

乳たんぱく質含有液体食品の沈殿発生を防止する殺菌方法 Download PDF

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JP5317344B2 JP2009124725A JP2009124725A JP5317344B2 JP 5317344 B2 JP5317344 B2 JP 5317344B2 JP 2009124725 A JP2009124725 A JP 2009124725A JP 2009124725 A JP2009124725 A JP 2009124725A JP 5317344 B2 JP5317344 B2 JP 5317344B2
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Description

本発明は、液体食品、特に、加熱により沈殿や焦げ付きが非常に発生しやすい、乳たんぱく質含有液体食品を対象とした、沈殿発生や焦げ付き、製品の色調変化等を抑制ないし防止する加熱殺菌方法に関する。
詳細には、本発明は、従来の乳たんぱく質を含む液体食品の加熱殺菌により引き起こされる問題(沈殿発生、焦げ付き、製品の色調変化等)を抑制ないし防止する方法に関するものであり、さらに、重曹等の添加量も低減され、乳たんぱく質を含む液体食品の安全性、保存性を高め、品質を維持するのに特に有効な、連続的交流高電界処理殺菌方法に関するものである。
一般に、特に缶製品に対しては、充填・密封後に120〜125℃で20〜40分加熱殺菌するレトルト殺菌を用いることが多い。ところが、昨今、レトルト殺菌には適さない、樹脂等による容器を用いた製品の流通が増加しており、そのような製品に対しては、120℃で1〜3秒加熱する手法(UHT法)や72℃以上で15秒加熱する手法(HTST法)が採られることがある。しかし、上述の各方法では、殺菌時の温度変化が急速且つ非常に大きいため、乳成分を含む液体をこの方法で殺菌すると乳成分の熱変性が生じ、焦げ付き(スケール)が殺菌装置内部に発生、付着することで、安全的かつ連続的な安定処理を阻害し、また殺菌後の製品中に沈殿を生じさせたり、製品の色調を変化させることにより、製品の商品価値を失うことが問題点として挙げられる。
これら乳成分の熱変性を防止または抑制するためには、乳化安定性を向上させる目的で乳化剤を添加するほか、加熱時のpHの急激な変化を抑制する目的で重曹等のpH調整剤の添加を行うことが有効であるとされている(特許文献1)。
しかし、昨今の消費者志向からは添加物を含まない、もしくは可能な限り低減した食品が好まれるため、乳成分の焦げ付きや沈殿発生等を防止しつつ、かつ乳化剤あるいは重曹等のpH調整剤等に関しても添加量を低減する技術の開発が望まれている。
一方、液体食品の風味、品質の劣化防止や有効成分の減少などが防止できる殺菌方法として、近年、交流高電界処理による短時間昇温殺菌方法が提案されている(特許文献2、3)。しかし、これらに提案されている殺菌方法でも、連続処理中に電極間でスパークが発生する場合があり、電極等が焦げ付いて安定な連続殺菌ができなかったり、焦げ付きや沈殿発生等を防止するため殺菌前に処理液の精密な濾過が必要であったりするため(特許文献3)、液体食品の工業的殺菌方法として実用的とはいい難かった。
特に、乳たんぱく質を含む液体食品を殺菌する場合、乳成分は急激な昇温や長時間の高温状態により非常に焦げ付きやすくなるため、単に交流高電界処理を行っても電極等への焦げ付着や沈殿発生を防止、抑制することは非常に困難である。従って、乳たんぱく質を含む液体食品の殺菌処理については、焦げ付きや沈殿発生等を防止する実用的な方法、条件については見出されていないのが現状である。
特開2004−194680号公報 特開2006−238827号公報 特開2007−029013号公報
乳たんぱく質を含む液体食品は、これを従来技術で殺菌処理するに際して、加熱により変性した乳たんぱく質を含む乳成分が焦げ付き(スケール)として殺菌装置内部に付着することで連続的且つ安定的な殺菌処理に不具合をきたしたり、殺菌後に沈殿を生じる、色調が殺菌前と大きく変わるなどにより製品の品質を損なうという欠点は避けられない。
したがって、本発明は、乳たんぱく質を含む液体食品の連続殺菌の安定性を向上させ、加熱殺菌処理時に起こる乳成分の変性に伴う殺菌装置内での焦げ付き(スケール)や殺菌後の製品での沈殿の発生、製品の色調変化などの抑制ないし防止する技術の提供を目的とする。
本発明は、上記目的を達成するためになされたものである。乳たんぱく質含有液体食品は、加熱処理すると沈殿が生じたり、焦げ付き、色調変化が発生することは避けられない。つまり、加熱殺菌処理と沈殿、焦げ付き等の発生とは密接に関連している。換言すれば、乳たんぱく質含有液体食品において、殺菌処理と、沈殿、焦げ付き等の発生防止とは両立し得ないことと考えられている。これは、レトルト殺菌、UHT殺菌だけでなく、従来知られている交流高電界殺菌の処理条件においても同様である。
本発明は、このような当業界の技術の現状に敢えて挑戦したものであって、従来両立が困難ないし不可能とされていた殺菌処理と、沈殿発生や焦げ付き等の防止とを両立させるためになされたものである。つまり、本発明は、沈殿発生や焦げ付き等が発生しやすい乳たんぱく質含有液体食品において、沈殿や焦げ付き等を防止する殺菌方法、更には、沈殿や焦げ付き等を発生せしめることなく殺菌処理を実施するという方法を新たに開発する目的でなされたものである。
本発明者らは、このような解決困難な課題を解決するために鋭意各方面から検討した。そして、本発明者らが先に開発するのに成功した交流高電界殺菌処理システム(特許文献2)に改めて着目し、各種の飲料を当該殺菌処理システムにて処理し、各種の性質や性状、装置の状況等についてつぶさに研究を行い、その過程において、乳たんぱく質含有飲料の沈殿の発生が抑制ないし防止されるという作用が奏される殺菌条件をはじめて見いだした。つまり、当該殺菌処理システムにおいて、通電ユニットとして、金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造のユニットを用いて所定の条件で処理することで、沈殿の発生が抑制ないし防止されるだけでなく、更に焦げ付きや製品の色調変化も抑制ないし防止されるということをはじめて見いだした。
さらには、交流高電界殺菌処理前の工程に乳化処理工程を設け、乳たんぱく質を含む液体食品を殺菌処理したところ、パイプや電極へのスケールの付着がより防止、抑制されて、電圧が一定し、その結果、乳たんぱく質高含有液体食品でも安定的な殺菌が行われる効果が確認され、殺菌後の沈殿発生や色調変化が抑制された液体食品を、連続的に安定生産できることもはじめて見いだした。また、従来より沈殿防止のために添加使用されていた重曹も、その使用量を大幅に低減できることもはじめて見いだした。
本発明は、これらの新規有用知見に基づき、更に研究を行った結果、遂に完成されたものであって、本発明は、金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造の通電ユニットを用いて、所定の条件で電気伝導性を有する乳たんぱく質を含む液体食品を殺菌する方法を提供するものであって、さらには、この交流高電界殺菌処理に先立ち、乳たんぱく質を含む液体食品を1またはそれ以上の乳化処理をすること、を特徴とする乳たんぱく質を含む液体食品の殺菌方法も提供するものである。
このように本発明は、乳たんぱく質含有液体食品という特定の食品をこのシステムで所定の条件において処理すると、沈殿発生防止、焦げ付き防止、色調変化防止という全く予想もつかない作用効果が新たに奏される点できわめて特徴的である。また、その結果、食品添加物、特に重曹の添加使用量が大幅に低減される点でもきわめて特徴的である。
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造で、密閉系の、電極に接続された交流電源により電圧を印加された通電ユニットに、乳たんぱく質を含む液体食品を連続的に通液して、線速0.6m/s以上、昇温速度800〜2000℃/sの条件で交流高電界処理すること、を特徴とする乳たんぱく質を含む液体食品の沈殿発生を抑制ないし防止する殺菌方法。
(2)金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造で、密閉系の、電極に接続された交流電源により電圧を印加された通電ユニットを用いた殺菌システムに、乳たんぱく質を含む液体食品を連続的に通液して、線速0.6m/s以上、昇温速度800〜2000℃/sの条件で交流高電界処理すること、を特徴とする電極のスパーク及び/又は殺菌装置内部への焦げ付き抑制ないし防止方法。
(3)乳たんぱく質を含む液体食品が、1回又はそれ以上の回数の乳化処理(均質化処理)をしたものであること、を特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4)乳化処理が15MPa以上の圧力で行う高圧乳化処理であること、を特徴とする(3)に記載の方法。
(5)電極構造が、2枚の金属製平行平板電極で絶縁体を挟む構造であること、を特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)通電ユニット内部を0.6MPa以上、好ましくは0.7MPa以上に加圧してなること、を特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)電極に500V/cm以上の電圧を印加し、その電圧印加時間が1秒以内、好ましくは0.5秒以内、更に好ましくは0.1秒以内であり、乳たんぱく質を含む液体食品の殺菌温度を110℃以上とすること、を特徴とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)該液体食品に含まれる乳たんぱく質の由来が牛、山羊、羊の少なくともひとつであり、かつ0.2%以上液体食品に含有されるものであること、を特徴とする(1)〜(7)のいずれか1つに記載の方法。
(9)(1)〜(8)のいずれか1つに記載の方法を用いることを特徴とする、密閉容器入り飲料の製造方法
(10)脱酸素条件下で実施すること、を特徴とする(1)〜(9)のいずれか1つに記載の方法。
(11)(1)〜(10)のいずれか1つに記載の方法によって製造してなる、焦げ付き、沈殿の発生、色調変化がいずれも抑制ないし防止された殺菌済み乳たんぱく質含有液体食品。
(12)(9)又は(10)に記載の方法によって製造してなる、焦げ付き、沈殿の発生、色調変化がいずれも抑制ないし防止された殺菌済み密閉容器入り乳たんぱく質含有飲料。
(13)重曹の添加量が(例えば、1.6g/L以下まで)低減されたこと、を特徴とする(11)又は(12)に記載の殺菌済み乳たんぱく質含有液体食品又は殺菌済み密閉容器入り乳たんぱく質含有飲料。
(14)金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造で、密閉系の、電極に接続された交流電源により電圧を印加された通電ユニットに、乳たんぱく質を含む液体食品を連続的に通液して、線速0.6m/s以上、昇温速度800〜2000℃/sの条件で交流高電界処理すること、を特徴とする乳たんぱく質を含む液体食品の重曹添加量を低減する殺菌方法。
(15)金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造で、密閉系の、電極に接続された交流電源により電圧を印加された通電ユニットに、乳たんぱく質を含む液体食品を連続的に通液して、線速0.6m/s以上、昇温速度800〜2000℃/sの条件で交流高電界処理すること、を特徴とする乳たんぱく質を含む液体食品の色調変化を抑制ないし防止する殺菌方法。
本発明によれば、金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造の通電ユニットを使用した交流高電界殺菌処理システムで、所定の条件によって乳たんぱく質を含有する液体食品を処理することにより、殺菌作用のほかに、乳たんぱく質含有液体食品の従来の加熱殺菌処理において不可避な欠点である焦げ付き、沈殿の発生、色調変化が抑制ないし防止できるという有用な作用効果が奏される。
また、交流高電界殺菌処理前の工程に乳化処理工程を設けて乳たんぱく質を含有する液体食品を殺菌することにより、電極のスパークやパイプや電極等の殺菌装置内部へのスケールの付着がより防止、抑制されて、電圧が一定し、その結果、乳たんぱく質高含有液体食品でも安定的な殺菌が行われる効果が確認され、殺菌後の沈殿発生、色調変化が抑制された液体食品を、連続的に安定生産できるという著効も奏される。
このように、本発明は、乳たんぱく質含有液体食品の殺菌処理に特有な沈殿の発生、焦げ付き、色調変化等を防止ないし抑制することができ、従来より用いられている重曹(重炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム)の添加量(使用量)を低減することができる。したがって、本発明によれば重曹の添加量を従来の添加量(通常、2〜3g/L)よりも少なくしても(例えば、1.6g/L以下まで低減しても)沈殿防止等ができるので、食品添加物の低減を指向する消費者のニーズにも本発明は大いに応えるものである。つまり、本発明は重曹の低減方法にも関するものである。
本発明に係る交流高電界殺菌システムを示す。 2枚の金属製平行平板電極で絶縁体が挟まれたタイプの電極構造の通電ユニットを示す(左側:模式図、右側:図面代用写真)。 その模式図を示す。 重曹の添加量による沈殿量の差を示す(図面代用写真)。図中、(A)、(B)、(C)は、それぞれ、重曹量1.0、1.2、1.4g/Lの場合を示し、且つ、それぞれの場合において、左から交流高電界、レトルト、UHTの各処理の結果を示す。
本発明は、乳たんぱく質を含む液体食品の焦げ付き、沈殿発生、色調変化等を防止する方法に関するものである。本発明において、乳たんぱく質を含む液体食品とは、牛乳、生乳、加工乳、脱脂乳、濃縮乳、クリームなどの液状の乳原料それ自体、又は全脂粉乳、脱脂粉乳などの粉末化された乳原料を液体に溶解したもの、さらにはそれらを他の原料と混合して作られた液状の食品を言う。乳たんぱく質としては、牛、山羊、羊、水牛、馬、ラクダ、ヤクの少なくとも一つを由来とする。
本発明においては、乳たんぱく質を0.2%以上含有する乳たんぱく質含有液体食品を処理することができ、0.3%以上、1.5%あるいはそれ以上(2〜3.5%でも充分可能)乳たんぱく質を含有する液体食品を処理することができる。本発明によれば、例えば、0.2〜5%といった乳たんぱく質含有液体食品であっても、沈殿及び焦げ付きを防止(なお、防止には完全に「防止」する場合はもちろんのこと、常法や対照に比して沈殿や焦げ付きの程度が低下する「抑制」も包含される)できるという特徴を有する。なお、乳たんぱく質含量が0.2%未満という低濃度の場合は、沈殿や焦げが発生しないあるいは発生しても問題にならない場合が多いので、本発明においては乳たんぱく質0.2%以上の場合を一応の対象としているが、低濃度の場合に本発明を適用しても何らさしつかえはない。
本発明は、金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造で、密閉系の、電極に接続された交流電源より電圧を印加された通電ユニットに、必要に応じて乳化処理を行った乳たんぱく質を0.2%以上含む液体食品を連続的に通液して交流高電界処理することにより、沈殿発生等を防止しながら乳たんぱく質を含有する液体食品を殺菌処理するものである。
本発明を実施するためには、例えば図1に示した液体食品殺菌装置(システム)を使用することができる。
図1に図示したように、本発明に係る液体食品の連続殺菌装置は、送液手段、(予備加熱装置)、通電ユニット(図面においては、高電界電極と表示)、冷却装置、保圧弁を備え、通電ユニットには金属製平板電極を配し、且つ、これらの電極には交流電源を接続し、少なくとも送液手段、通電ユニット、冷却装置、保圧弁は接続して内部を密閉系としてなるものである。殺菌するために予め加熱が必要な場合は、予備加熱装置を使用すればよい。
更に具体的には、例えば、送液手段としてはポンプが使用され、通常使用されるプランジャーポンプ、シリンダーポンプ、ロータリーポンプなどから適宜選択して使用し、予備加熱装置としては熱交換プレート(加熱用)が使用されるほか、第2実施例として、通電ユニットを設けてそのジュール熱を利用してもよい。
通電ユニットには、液体の供給口から供給される液体が流れる流路が形成され、この流路には交流電源(高周波交流電源)に接続される電極が臨んだ構成となっている。具体的には、この通電ユニットの電極には交流電源が接続され、接続される電極は、金属製平板電極で絶縁体を挟む構造の通電ユニット(平行平板電極型)により殺菌する。更に、通電ユニットは、加圧出来る様に密閉状態である。
下記するように、電極となる金属部と絶縁体である樹脂部には熱膨張率に差異があるため(下記の熱膨張率比較)、樹脂内部に金属電極を埋め込む従来の電極構造の場合、殺菌時の樹脂の熱膨張により、樹脂が反りやゆがみなどの変形を起こし、処理液体の流れが乱れ、均一な加熱ができなくなる結果、焦げ付きやスパークの発生が起こりやすい。一方、金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造(金属製平行平板電極)の場合、熱膨張により流路が乱れることがなく、安定して均一な連続処理が可能となる。したがって、この平行平板電極型通電ユニットを使用すれば、乳たんぱく質含有液体食品の沈殿の防止という作用、更には焦げの防止、色調変化防止という著効も奏されるほか、殺菌も行われる。
(熱膨張率比較)
金属
チタン: 9.0×10-6/℃
SUS304: 17.0×10-6/℃
樹脂
テフロン(登録商標)(PTFE): 10.0×105/℃
ポリカーボネート: 8.0×105/℃
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK): 5.0×105/℃
平行平板電極型通電ユニットは、2枚以上の金属製平板電極で1枚以上の絶縁体を挟む電極構造のものであればよく、例えば、平行1対(2枚)の電極板間に絶縁性のスペーサ板が挟まれ、スペーサ板に、板面を貫通しかつ板面に沿って伸びる流路区間用の長孔が形成され、一方の電極板に長孔の一方側の端部に対応する位置に流入口が、他方の電極板に長孔の他方側に流出口が、それぞれ開口形成された構造が例示される。
金属製平行平板電極型通電ユニットの実施例を図2(図面代用写真及び模式図)及び図3(模式図)にそれぞれ示す。
電極の種類としては、電気伝導性を有する金属であれば問題ないが、電極の腐食など劣化防止のためには、チタン製、白金製もしくはステンレススチール(SUS)製が望ましい。また、通電ユニットの電極は絶縁体を複数枚重ねる事により、電極を何枚も積層させることができる。
通電ユニットにおいて通電処理することによって、ジュール熱により液体食品が加熱されるため、風味や品質劣化が生じるのでそれを希望しない場合には、冷却手段を設ければよく、例えば、熱交換プレート(冷却用)を使用することができる。
このようにして殺菌処理された液体食品は、保圧弁(調圧弁)を介して系外に取り出される。圧力調整は送液手段と保圧弁とで調節し、通電ユニット内を適切な状態で維持する。
本発明に係る連続殺菌装置は、このようにポンプ〜保圧弁に至るまで配管(パイプ:図中、黒い矢印で示す)で接続されて、それ自体密閉系を構成している。したがって、予備加熱手段〜保圧弁、少なくとも通電ユニットは、加圧容器内に配設することなく、それ自体でその内部は加圧可能とすることができるので、本装置はオープンスペース内に設置しておいても、加圧交流高電界殺菌処理が可能となる。
本装置は、このような構成を採用したことにより、加圧容器内に収容した場合とは異なり、各装置、各手段はパイプで接続しているため、圧力のコントロールが容易であって、微調整も可能となる。なお、加圧手段としては、加圧ガスを使用してもよいし、液体食品自体の水圧(液圧)も利用可能であるので、ポンプ(及び必要あれば保圧弁)をコントロールすることによって格別な加圧手段を別途設けることなく、液体食品の水圧を利用することによって加圧状態とすることができ、本装置は自己完結型の装置ということができる。加圧手段として好ましくは水圧(液圧)であり、加圧ガスを利用する場合には、処理時の圧力を一定に保持できるようにする。また、加圧ガスは、溶解度の低いガスであれば良く、好ましくは蒸気、窒素、不活性ガス等を用いることができる。
液体食品を殺菌するには、まず、液体食品(未殺菌物)をポンプを介して通液し、予備加熱した後、通電ユニットにて処理した後に冷却し、保圧弁を介して殺菌物として系外に取り出せばよいが、以下において、内部を加圧した場合を例にとって本発明を詳しく説明する。
液体食品は(予備加熱処理した後)、通電ユニットにて加圧下において通電処理するが、その際、通電ユニット内の圧力が、液体食品へ電圧を印加したときの品温に40℃加算したときの飽和水蒸気圧以上の圧力であるのが望ましい。その理由として、通液する液体食品が電極に接触したときに起こりやすいスパーク(一時的に放電が発生する現象)を抑制し効率的に微生物殺菌を達成させること及び微小スパークを防止することにより電極の劣化を防止するためである。圧力としては、120℃で0.6MPa以上、好ましくは0.7MPa、例えば0.7〜1.5MPa、更に好ましくは0.8MPa以上、例えば0.8〜1.0MPaであるので、これにしたがって加算値をきめればよい。
通電ユニット内の電極の電圧印加時間は、きわめて短く、1秒以内とするのがよい。電圧の印加時間が長すぎると十分な印加電圧を確保することができないからである。このように、印加時間は、1秒以内、好ましくは0.5秒以内であり、実施例においては、0.029〜0.045秒のように0.05秒以内も例示されている。このように、本発明においては、電圧印加時間が1秒以内、例えば0.1秒以内であって、きわめて短い点でも非常に特徴的である。
また、電極間の距離と印加電圧と電圧印加時間との関係については、電極間距離1cmあたりの電極への印加電圧(V/cm)と液体食品への電圧印加時間(液体食品の電極通過時間)(秒)の積算係数が18以上となるのが望ましい。この関係は係数が18以上となると通常の加熱のみの殺菌(UHT殺菌やレトルト殺菌など)以上に微生物の殺菌を達成できるからである。この係数は18以上であればよく、線速及び昇温速度が所定の範囲内であれば格別の限界はないが、18〜200が例示され、18以上50未満の範囲がより好ましい。これらの関係を数式で表すと、次のとおりである。
電極間距離あたりの印加電圧(V/cm)×印加時間(秒)≧18
(式中、Vは電圧、cmは電極間の距離をあらわす。)
通常、本発明においては、電極に500V/cm以上の電圧を印加し、その電圧印加時間が1秒以内、好ましくは0.5秒以内、更に好ましくは0.1秒以内であり、乳たんぱく質を含む液体食品の殺菌温度を110℃以上、例えば120℃〜150℃となるように処理すればよい。
また、本発明においては、更に、通電ユニットを2回以上通液したり、予め熱交換プレート等を用い予備加熱を行ったものを通電ユニットに通液しても問題無い。なお、図1には本発明装置は横型のものを図示したが、縦型のものも使用可能である。
交流電源としては、電極の腐食を防止するために、高周波電源を用いることが好ましく、15kHz以上、より好適には20kHzから25kHzである。ただし、エネルギー変換ロスを多く生じるために、50kHz以下とすることが望ましい。
本発明においては、既述のように、より安定的な殺菌、沈殿防止等の目的で、交流高電界殺菌処理に先立ち、乳たんぱく質を含む液体食品を乳化処理(均質化処理)を行っても良い。乳化処理は、殺菌前であればどの工程段階で実施しても良く、例えば乳原料単体を乳化処理した後に他の原料と調合してから殺菌しても良いし、乳原料と他の原料を調合した後に乳化処理を行い、殺菌をしても良い。また、乳化処理の回数は、1回又はそれ以上の複数回(例えば2〜5回)実行してもかまわない。また、乳のみに乳化処理を行い、その後交流高電界処理を実施しても良い。
乳化処理に用いる乳化装置としては、高速回転型乳化装置、コロイドミル型乳化装置、ロールミル型乳化装置、超音波式乳化装置、膜乳化装置などが使用できるが、好ましくは高圧乳化装置を使用する。更に好適には、乳化処理時の圧力が15MPa以上の高圧ホモジナイザーを使用することができる。
また乳化処理に際して、乳化剤の配合は必ずしも要しないが、より安定的な連続殺菌処理を求めるのであれば、乳化剤を含む内容液を乳化処理することが望ましい。本発明に用いる乳化剤としては、食品に使用できるものであれば特に限定はされないが、レシチン、多価アルコール脂肪酸エステル類などが例示される。これらは単用あるいは混合使用してもよく、更には乳化安定に関与する物質(カゼイン類、増粘多糖類等)を添加してもよい。
殺菌処理時の急激な温度変化は、乳成分の変性を起こしやすく、焦げ付き及び沈殿発生の抑制の程度が弱まる懼れがあるため、殺菌処理前に予備昇温をするのが望ましい。予備昇温の方法としては、既知のあらゆる方法が可能であるが、好適にはプレート、チューブラーなど熱交換装置によるライン内での連続昇温である。送液用のポンプは、脈流の少ないポンプを選択することが望ましい。
本発明においては、殺菌時のパイプや電極への焦げ付き(スケール)を抑制して安定的な連続殺菌を行うために、交流高電界殺菌時の処理速度として線速(単位時間当たりの液体の管通過速度)0.6m/s以上とすることが重要である。線速が0.6m/s以上の場合、電極内部で液体自体が混合(乱流)され、電極内部の温度分布が均一となる。一方、線速が0.6m/s未満の場合、電極内部で液体が層流となり電極の内部での温度分布のバラツキが大きくなり、焦げ付き等の発生を十分に抑制することが困難となる。また、昇温速度として2000℃/s以上になると電極通過時の電極負荷(投入エネルギー)が大きくなり殺菌温度の安定性が低下する。すなわち、昇温速度としては、800〜2000℃/sでの範囲が好ましく、更に好ましくは1000℃〜1800℃/sの範囲である。一方、昇温速度800℃/s未満の場合では、十分な印加電界強度を得ることが難しくなる。
更に、本方法は、脱酸素条件下で実施すると、酸化が防止され、風味、品質の劣化が防止されたすぐれた液体食品を得ることができる。脱酸素条件下とは、例えば液状部、容器空間部(ヘッドスペース)、あるいは製造ライン全体を脱酸素条件下にすることをいう。具体的には、例えば(イ)液体中の溶存酸素を低減させたり、及び/又は(ロ)これら液体を入れた容器のヘッドスペースの酸素を低減したり脱酸素処理や脱気処理をすればよい。
(イ)の場合、インラインミキサーにより不活性ガスを混入する方法がある。具体的には、スタティックミキサー(株式会社 ノリタケカンパニーリミテッド製)を用いることができる。
液体中の溶存酸素濃度は、可及的低濃度が好適であって、0.5mg/L以下、例えば0.1mg/L以下が好ましく、0.05mg/L以下がより好ましい。
(ロ)の場合、ヘッドスペースを脱気したり、不活性ガス(例えば、炭酸ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)で置換したりして、ヘッドスペースの酸素を可及的に低減させればよく、例えば酸素濃度を0.1%以下、好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.01%以下とするのがよい。また、製造設備、製造装置等の製造プラント全体を不活性ガス置換や脱気処理して低酸素状態とすればそのうえ更に有効である。
このようにして、高品質の殺菌済み乳たんぱく質含有液体食品が得られる。この液体食品はビンや缶等の容器に入れて密閉し、密閉容器入り飲料とすることができる。本発明によれば、長期間にわたって沈殿の発生が抑制されるので、密閉容器入り飲料とするのに好適である。特に乳たんぱく質含有液体食品は沈殿が発生しやすいために長期保存が困難であったが、本発明によってこの点を改良するのに成功したものである。また、容器のヘッドスペースを脱酸素状態にすれば、液体食品の酸化が防止ないし抑制され、高品質が更に保持される。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下実施例ではすべて20kHzの高周波電源を用いた。
粉砕したコーヒー焙煎豆3kgを熱水95℃にてドリップ抽出し、24Lの抽出液を回収した後にpH調整剤として重曹を37.5g添加した。その後に砂糖2.5kgを添加し、水にてコーヒー液が30Lとなるようにゲージアップし、これをA液とした。次に、牛乳6kgに乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)120gの熱水溶解液を添加、pH調整剤として重曹を37.5g添加した後に水にて牛乳液が20Lとなるようにゲージアップし、20MPa条件下で高圧ホモジナイザーに通し、これをB液とした。最終的にA液とB液を調合し、50Lの未殺菌液を得た。
このようにして得たミルク入りコーヒー(乳たんぱく質含量0.35%)20Lを、図1に示す交流高電界殺菌処理システム(平行平板電極型通電ユニット(図2、図3)使用)にて連続的に殺菌処理を行った。電極には6mm(幅)×32mm(高さ)×電極間間隔5mmの平行平板電極を用い、90℃まで予備昇温を行った後に流速1500ml/minにて、通電ユニット内圧0.9MPa、殺菌温度135℃、線速0.83m/s、昇温速度1172℃/sにて実施した。
粉砕したコーヒー焙煎豆3kgを熱水95℃にてドリップ抽出し、24Lの抽出液を回収した後にpH調整剤として重曹を37.5g添加した。その後に砂糖2.5kgを添加し、水にてコーヒー液が30Lとなるようにゲージアップし、これをA液とする。次に、牛乳6kgに乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)120gの熱水溶解液を添加、pH調整剤として重曹を37.5g添加した後に水にて牛乳液が20Lとなるようにゲージアップし、B液とする。A液とB液を混合して50Lの未殺菌液を得た後、それを20MPa条件下で高圧ホモジナイザーに通した。
このようにして得たミルク入りコーヒー(乳たんぱく質含量0.35%)20Lを、実施例1と同様にして、連続殺菌処理をした。
(比較例1)
粉砕したコーヒー焙煎豆3kgを熱水95℃にてドリップ抽出し、24Lの抽出液を回収した後にpH調整剤として重曹を37.5g添加し、その後に砂糖2.5kgを添加し、水にてコーヒー液が30Lとなるようにゲージアップし、これをA液とする。次に、牛乳6kgに乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)120gの熱水溶解液を添加、pH調整剤として重曹を37.5g添加した後に水にて牛乳液が20Lとなるようにゲージアップし、これをB液とする。最終的にA液とB液を調合し、50Lの未殺菌液を得た。
このようにして得たミルク入りコーヒー(乳たんぱく質含量0.35%)20Lを、実施例1と同様にして、連続殺菌処理をした。
(実施例1、2及び比較例1の結果)
実施例1、2および比較例1を行ったところ、比較例1においてミルク入りコーヒーを8.3L処理した時点で明らかなスケールの付着が確認された(表1)が、実施例1および2では全量処理を行ってもスケールの付着は確認されなかった(表1)。上記結果から、交流高電界殺菌システムにて殺菌処理を行う以前に、乳たんぱく質を含む液体食品の乳化処理を行うことにより、電極内部での乳成分変性とそれにともなう焦げ付きを抑制し、安定した連続殺菌が可能となることが確認された。
Figure 0005317344
粉砕したコーヒー焙煎豆3kgを熱水95℃にてドリップ抽出し、24Lの抽出液を回収した後にpH調整剤として重曹を37.5g添加する。その後に砂糖3.3kgを添加し、水にてコーヒー液が30Lとなるようにゲージアップし、これをA液とする。次に、牛乳30kgにpH調整剤として重曹を37.5g添加し、水にて牛乳液が45Lとなるようにゲージアップし、これをB液とする。最終的にA液とB液を調合し、20MPa条件下で高圧ホモジナイザーに通し、75Lの未殺菌液を得た。
このようにして得たミルク入りコーヒー(乳たんぱく質含量1.20%)20Lを、実施例1と同様にして、連続殺菌処理をした。
(比較例2)
実施例3と同様の工程にてミルク入りコーヒー(乳たんぱく質含量1.20%)を20L調製し、実施例1と同様に処理した。ただし、交流高電界処理条件について、流速1000ml/min、線速0.56m/s、昇温速度781℃/sとし、予備昇温温度、通電ユニット内圧、殺菌温度については実施例1と同じ条件で連続殺菌処理を行った。
(実施例3及び比較例2の結果)
実施例3および比較例2を行った結果、比較例2においてミルク入りコーヒーを5.6L処理した時点で明らかなスケールの付着が確認されたが、実施例3では全量処理を行ってもスケールの付着は確認されなかった(表2)。
Figure 0005317344
上記結果から、交流高電界殺菌処理時の線速を0.6m/s以上、及び昇温速度を800℃/s以上とすることにより、殺菌処理時の電極内部での乳成分変性とそれにともなう焦げ付き(スケール)を抑制できることが確認された。
粉砕したコーヒー焙煎豆3kgを熱水95℃にてドリップ抽出し、24Lの抽出液を回収した後にpH調整剤として重曹を48g添加する。その後に砂糖3kgを添加し、水にてコーヒー液が30Lとなるようにゲージアップし、これをA液とする。次に、牛乳7.2kgに乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)135gの熱水溶解液を添加、pH調整剤として重曹を48g添加した後に水にて牛乳液が30Lとなるようにゲージアップし、20MPa条件下で高圧ホモジナイザーに通し、これをB液とした。最終的にA液とB液を調合し、60Lの未殺菌液を得た。
このようにして得たミルク入りコーヒー(乳たんぱく質含量0.36%)20Lを、図1に示す交流高電界殺菌処理システム(平行平板電極型通電ユニット(図2、図3)使用)にて連続的に殺菌処理を行った。電極には6mm(幅)×32mm(高さ)×電極間間隔4mmの平行平板電極を用い、通電ユニット内圧0.7MPa、殺菌温度135℃の条件は統一し、下記表3に示す5種の条件で連続殺菌処理を実施した。
(実施例4の結果)
実施例4を行ったところ、条件2でスパークの発生が、条件3及び5でスケールの付着及びそれに伴う異味発生が確認されたが、条件1及び4では全量処理を行ってもスケールの付着は確認されなかった(表3)。上記結果から、交流高電界殺菌処理時の昇温速度を2000℃/s以下とすることにより、殺菌処理時の電極内部での乳成分変性とそれにともなう焦げ付き(スケール)を抑制し、安定した連続殺菌が可能となることが確認された。
Figure 0005317344
全脂粉乳をミキサーで温水に溶解し、12.8W/W%の全脂粉乳溶液を調整したのち、高圧ホモジナイザーにて20MPaの均質化処理を行った。この全粉乳溶液を、図1に示す交流高電界殺菌処理システム(平行平板電極型通電ユニット(図2、図3)使用)にて連続的に殺菌処理を行った。電極には6mm(幅)×32mm(高さ)×電極間間隔4mmの平行平板電極を用い、通電ユニット内圧0.85MPa、殺菌温度117℃の条件は統一し、下記表4に示す2種の条件で連続殺菌処理を実施した。未殺菌の試料、ならびに殺菌後の試料は、すべて容器に受け取り均一にしたのち、測色色差計ZE−2000(日本電色工業株式会社製)で未殺菌液をコントロールとしたときの色差(ΔE値)の測定を行った。
(実施例5の結果)
実施例5を行ったところ、条件2でスパークの発生が確認されたが、条件1では全量処理を行ってもスパーク発生、スケールの付着は確認されなかった(表4)。また、条件1は未殺菌液と比較して、色調の変化が非常に少なかった(表4)。上記結果から、交流高電界殺菌処理時の昇温速度を2000℃/s以下とすることにより、殺菌処理時の電極内部での乳成分変性とそれにともなう焦げ付き(スケール)、溶液の殺菌後の色調変化を抑制し、安定した連続殺菌が可能となることが確認された。
Figure 0005317344
市販の普通牛乳を用い、図1に示す交流高電界殺菌処理システム(平行平板電極型通電ユニット(図2、図3)使用)にて連続的に殺菌処理を行った。電極には6mm(幅)×32mm(高さ)×電極間間隔4mmの平行平板電極を用い、下記表5の各条件で、通電ユニット内圧0.85MPa、殺菌温度125℃の条件にて実施した。均質化処理(ホモ処理)を行う条件では、高圧ホモジナイザーにて20MPaで処理を行った。未殺菌の試料、ならびに殺菌後の試料は、すべて容器に受け取り均一にしたのち、測色色差計ZE−2000(日本電色工業株式会社製)で未殺菌液をコントロールとしたときの色差(ΔE値)の測定を行った。
(実施例6の結果)
実施例6を行ったところ、殺菌前に均質化処理を行わない場合にはスパークの発生が確認されたが、均質化処理を行うと全量処理を行ってもスパーク発生、スケールの付着は確認されなかった(表5)。また、殺菌前に均質化処理を行うことで、未殺菌液と比較して色調の変化が非常に少なかった(表5)。上記結果から、乳たんぱく質を多く含有する液体の場合には、殺菌前に均質化処理することにより、殺菌処理時の電極内部での乳成分変性とそれにともなう焦げ付き(スケール)、溶液の殺菌後の色調変化を抑制し、安定した連続殺菌が可能となることが確認された。
Figure 0005317344
重曹添加量の異なる3種類のミルク入りコーヒーを調整した。粉砕したコーヒー焙煎豆3kgを熱水95℃にてドリップ抽出し、24Lの抽出液を回収した後にpH調整剤として重曹をXg添加した。その後に砂糖3kgを添加し、水にてコーヒー液が34.5Lとなるようにゲージアップし、これをA液とする。次に、牛乳3.5kg、脱脂粉乳375g、全粉乳40gを温水溶解させ、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)120gの熱水溶解液を添加、pH調整剤として重曹を21.8g添加した後に水にて牛乳液が20Lとなるようにゲージアップし、20MPa条件下で高圧ホモジナイザーに通し、これをB液とする。最終的にA液とB液を調合し、54.5Lの未殺菌液を得た。
重曹添加量Xgは、調整後のミルク入りコーヒーの重曹濃度が1.0、1.2、1.4g/Lとなるよう、それぞれ32.7、43.6、54.5gとした。
調整した重曹濃度の異なる三種のミルク入りコーヒーは、それぞれ実施例1と同じく、図1の交流高電界殺菌システムにて連続的に殺菌処理を行った後に、無菌的に飲料用スチール缶に充填、巻締めを行った。電極には6mm(幅)×32mm(高さ)×電極間間隔4mmの平行平板電極を用い、下記表6の各条件で、85℃まで予備昇温を行った後に流速1500ml/min、通電ユニット内圧0.9〜0.95MPa、殺菌温度135℃、線速1.04m/s、昇温速度1628℃/s、充填温度20℃にて実施した。
Figure 0005317344
(比較例3)
実施例7と同様に調整した重曹濃度の異なる3種のミルク入りコーヒーをそれぞれ、90℃に温浴昇温した後に飲料用スチール缶に充填、巻締めを行い、レトルト殺菌システムにて殺菌処理を行った。殺菌条件は123.7℃にて19分であり、F0値は38.1であった。レトルト殺菌には日阪製作所製高温高圧調理殺菌装置RCS−60を用いた。
(比較例4)
実施例7と同様に調整した重曹濃度の異なる3種のミルク入りコーヒーをそれぞれ、超高温滅菌システム(UHT)にて連続的に殺菌処理を行った後に、無菌的に飲料用スチール缶に充填、巻締めを行った。殺菌は流速1500ml/min、殺菌温度139℃、ホールディング時間60秒、充填温度20℃にて実施した。UHT機種としてMicro Thermics社製Model 25HV Hybrid UHT/LTST殺菌機を用いた。
(実施例7及び比較例3、4の結果)
殺菌後の試料は、70℃恒温槽で2週間および3週間の保管を行った後、室温で1週間放置後に性状の確認を行った。
70℃恒温槽で2週間保管後室温で1週間保管した試料を、よく振ってから開缶し、試料液10mlを採取し、3100rpmで10分間遠心分離を行った際の沈殿状態を図4に、70℃恒温槽で3週間保管後室温で1週間保管した試料の沈殿発生率を表7に示す。なお、沈殿発生率は、調合液と比した70℃で3週間保管後のBx減少分を不溶化して発生した沈殿とみなし、次の計算式より算出した。なお、図4中(A)(B)(C)は、それぞれ、重曹添加量が1.0、1.2、1.4g/Lの場合の沈殿状態((A)、(B)、(C)のいずれにおいても、左から、交流高電界、レトルト、UHT殺菌処理)を示す図面代用写真である。
P = Q × 100
但し、 Q = (R − S)/R
P:沈殿発生率(%)
R:調合液Bx
S:70℃、3週間保管後Bx
Bx:Brix(水溶性固形分%:通常、屈折計にて計測)
Figure 0005317344
表7及び図4に示すように、70℃恒温槽で2週間又は3週間保存後の沈殿発生状態において、交流高電界殺菌で処理したものは、いずれの重曹添加区分においてもほとんど沈殿の発生が見られないが、UHT殺菌およびレトルト殺菌では全ての区分に沈殿が生じている。特に、UHT殺菌では重曹量に係わらず非常に著しい沈殿を生じ、且つ重曹量が減るにつれてそれが増加している。
実際に工業的に飲料製造を行う場合のスケールでの殺菌条件確認のため、次の試験を実施した。
実施例4で得られた未殺菌ミルク入りコーヒーについて、時間当たり90Lの処理をラボスケール、時間当たり3000Lの処理を工業的飲料製造スケールにスケールアップしたものとして、それぞれ表8に示す条件で交流高電界処理を行った。
Figure 0005317344
時間当たり3000L処理までスケールアップする場合、電極の大きさをラボスケールより大きくすることで、線速0.6m/s以上、昇温速度800〜2000℃/sの範囲において殺菌温度135℃となり、ラボスケールと同様に殺菌処理時の電極内部での乳成分変性とそれにともなう焦げ付き(スケール)を抑制し、安定した連続殺菌が可能となることが確認された。
これらの結果から、本発明の交流高電界殺菌方法を用いることで、従来の加熱殺菌技術と比して加熱殺菌時、加熱殺菌後の乳成分変性に伴う沈殿発生等を抑制し、高い保存安定性を維持しながら重曹添加量を低減した、乳を含む液体食品の提供を可能にするといえる。特に、紙又は樹脂容器入り飲料など、従来UHT殺菌でしか対応できない仕様の製品に関して、大きな効果を与えることが出来る。
本発明は、所定の方法、条件での交流高電界処理が乳たんぱく質含有液体食品の沈殿発生、焦げ付き等を防止するという新規殺菌方法をはじめて見出したことに基づくものであり、本発明によれば、乳たんぱく質を含む液体食品の沈殿発生、焦げ付き、色調変化等を防止もしくは減少させ、連続的に安定に殺菌を行うことが出来る。また、pH調整剤等の添加物を低減させた状態でも、製品中乳成分の沈殿発生を防止し、品質を向上させることが可能となる。また、レトルトによる殺菌に不向きなPETボトル等を含む樹脂製容器に製品を殺菌、充填密封する際にも極めて有効な技術であると言える。

Claims (9)

  1. 交流高電界処理に先立ち、乳たんぱく質を含む液体食品を1回又はそれ以上の回数の乳化処理(均質化処理)を行い、金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造で、密閉系の、電極に接続された交流電源により電圧を印加された通電ユニットに、乳たんぱく質を含む液体食品を連続的に通液して、線速0.6m/s以上、昇温速度800〜2000℃/sの条件で交流高電界処理すること、を特徴とする乳たんぱく質を含む液体食品の沈殿発生を抑制ないし防止する殺菌方法。
  2. 交流高電界処理に先立ち、乳たんぱく質を含む液体食品を1回又はそれ以上の回数の乳化処理(均質化処理)を行い、金属製平板電極で絶縁体を挟む電極構造で、密閉系の、電極に接続された交流電源により電圧を印加された通電ユニットを用いた殺菌システムに、乳たんぱく質を含む液体食品を連続的に通液して、線速0.6m/s以上、昇温速度800〜2000℃/sの条件で交流高電界処理すること、を特徴とする電極のスパーク及び/又は殺菌装置内部への焦げ付き抑制ないし防止方法。
  3. 乳化処理が、15MPa以上の圧力で行う高圧乳化処理であること、を特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
  4. 電極構造が、2枚の金属製平行平板電極で絶縁体を挟む構造であること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 通電ユニット内部を0.6MPa以上に加圧してなること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 電極に500V/cm以上の電圧を印加し、その電圧印加時間が1秒以内であり、乳たんぱく質を含む液体食品の殺菌温度を110℃以上とすること、を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 該液体食品に含まれる乳たんぱく質の由来が牛、山羊、羊の少なくともひとつであり、かつ0.2%以上液体食品に含有されるものであること、を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法を用いることを特徴とする、密閉容器入り飲料の製造方法。
  9. 脱酸素条件下で実施すること、を特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
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