図1はこの発明の第1実施例に係る船外機の制御装置を船体も含めて全体的に示す概略図、図2は図1に示す船外機の部分断面拡大側面図、図3は船外機の拡大側面図である。
図1から図3において、符号1は船外機10が船体(艇体)12に搭載されてなる船舶を示す。船外機10は、図2に良く示すように、スイベルケース14、チルティングシャフト16およびスターンブラケット18を介して船体12の後尾(船尾)12aに取り付けられる。
スイベルケース14の上部には、スイベルケース14の内部に鉛直軸回りに回転自在に収容されるシャフト部20を駆動する転舵用電動モータ(アクチュエータ)22が配置される。転舵用電動モータ22の回転出力は減速ギヤ機構24、マウントフレーム26を介してシャフト部20に伝達され、よって船外機10はシャフト部20を転舵軸として左右に(鉛直軸回りに)転舵される。
船外機10の上部には、内燃機関(以下「エンジン」という)30が搭載される。エンジン30は火花点火式の水冷ガソリンエンジンで、排気量2200ccを備える。エンジン30は水面上に位置し、エンジンカバー32によって覆われる。
エンジン30の吸気管34には、スロットルボディ36が接続される。スロットルボディ36はその内部にスロットルバルブ38を備えると共に、スロットルバルブ38を開閉駆動するスロットル用電動モータ(アクチュエータ)40が一体的に取り付けられる。
スロットル用電動モータ40の出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットルバルブ38に接続され、スロットル用電動モータ40を動作させることでスロットルバルブ38が開閉され、エンジン30の吸気量が調量されてエンジン回転数(機関回転数)が調節される。
船外機10は、水平軸回りに回転自在に支持されると共に、その一端にプロペラ42が取り付けられ、エンジン30の動力をプロペラ42に伝達するプロペラシャフト(動力伝達軸)44と、エンジン30とプロペラシャフト44の間に介挿されると共に、1速、2速、3速からなる複数の変速段を有する変速機(自動変速機)46を備える。
変速機46は、複数の変速段を切換自在な変速機構50と、シフト位置を前進位置、後進位置およびニュートラル位置に切換自在なシフト機構52からなる。
図4は変速機構50の油圧回路を模式的に示す油圧回路図である。
図2および図4に示す如く、変速機構50は、エンジン30のクランクシャフト(図において見えず)に接続されるインプットシャフト54と、インプットシャフト54にギヤを介して接続されるカウンタシャフト56と、カウンタシャフト56に複数のギヤを介して接続されるアウトプットシャフト58とが平行に配置された平行軸式の有段式の変速機構からなる。
カウンタシャフト56には、後述する変速用の油圧クラッチや潤滑部に作動油(潤滑油。オイル)を圧送する油圧ポンプ(ギヤポンプ。図2,4にのみ示す)60が接続される。シャフト54,56,58や油圧ポンプ60などは、ケース(図2にのみ示す)62に収容される。ケース62の下部は作動油を受けるオイルパン62aを構成する。
上記の如く構成された変速機構50においては、シャフト上に相対回転自在に配置されたギヤを変速クラッチでシャフト上に固定することで複数の変速段、詳しくは1速、2速、3速のうちのいずれかの変速段が選択(確立)され、エンジン30の出力は選択された変速段で変速され、シフト機構52、プロペラシャフト44を介してプロペラ42に伝達される。尚、各変速段の変速比は1速が最も大きく、2速、3速となるにつれて小さくなるように設定される。
変速機構50について具体的に説明すると、図4に良く示すように、インプットシャフト54には、インプットプライマリギヤ64が支持される。カウンタシャフト56には、インプットプライマリギヤ64に噛合するカウンタプライマリギヤ66、カウンタ1速ギヤ68、カウンタ2速ギヤ70、カウンタ3速ギヤ72が支持される。
また、アウトプットシャフト58には、カウンタ1速ギヤ68に噛合するアウトプット1速ギヤ74、カウンタ2速ギヤ70と噛合するアウトプット2速ギヤ76、カウンタ3速ギヤ72に噛合するアウトプット3速ギヤ78が支持される。
上記において、アウトプットシャフト58に相対回転自在に支持されたアウトプット1速ギヤ74を1速用クラッチC1でアウトプットシャフト58に結合すると、1速(ギヤ。変速段)が確立する。尚、1速用クラッチC1は、ワンウェイクラッチからなり、後述する2速または3速用油圧クラッチC2,C3に油圧が供給されて2速または3速が確立し、アウトプットシャフト58の回転数がアウトプット1速ギヤ74のそれより大きくなるとき、アウトプット1速ギヤ74を空転させるように構成される。
カウンタシャフト56に相対回転自在に支持されたカウンタ2速ギヤ70を2速用油圧クラッチC2でカウンタシャフト56に結合すると、2速(ギヤ。変速段)が確立する。また、カウンタシャフト56に相対回転自在に支持されたカウンタ3速ギヤ72を3速用油圧クラッチC3でカウンタシャフト56に結合すると、3速(ギヤ。変速段)が確立する。尚、油圧クラッチC2,C3は、油圧が供給されるとき各ギヤ70,72をカウンタシャフト56に結合する一方、油圧が供給されないとき各ギヤ70,72を空転させる。
このように、クラッチC1,C2,C3によるギヤとシャフトの結合は、油圧ポンプ60から油圧クラッチC2,C3に供給される油圧を制御することで行われる。
詳説すると、油圧ポンプ60がエンジン30により駆動されるとき、オイルパン62aの作動油は油路80a、ストレーナ82を介して汲み上げられて吐出口60aから油路80bを介して第1切換バルブ84aに、油路80c,80dを介して第1、第2電磁ソレノイドバルブ(リニアソレノイドバルブ)86a,86bに送られる。
第1切換バルブ84aには、油路80eを介して第2切換バルブ84bが接続される。第1、第2切換バルブ84a,84bの内部には移動自在なスプールがそれぞれ収容され、スプールは一端側(図で左端)でスプリングによって他端側に付勢される。その他端側には、前記した第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bが油路80f,80gを介して接続される。
従って、第1電磁ソレノイドバルブ86aが通電(オン)されると、その内部に収容されたスプールが変位させられ、油圧ポンプ60から油路80cを介して供給される油圧は第1切換バルブ84aのスプールの他端側に出力される。これにより、第1切換バルブ84aのスプールは一端側に変位させられ、よって油路80bの作動油が油路80eに送出される。
第2電磁ソレノイドバルブ86bも、第1電磁ソレノイドバルブ86aと同様、通電(オン)されるときにスプールが変位させられ、油圧ポンプ60から油路80dを介して供給される油圧は第2切換バルブ84bの他端側に出力される。これにより、第2切換バルブ84bはスプールが一端側に変位させられ、よって油路80eの作動油は油路80hを介して2速用油圧クラッチC2に供給される。一方、第2電磁ソレノイドバルブ86bが通電されず(オフされ)、第2切換バルブ84bの他端側に油圧が出力されないときは油路80eの作動油は油路80iを介して3速用油圧クラッチC3に供給される。
即ち、第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bが共にオフされるときは油圧クラッチC2,C3のいずれにも油圧が供給されないため、アウトプット1速ギヤ74とアウトプットシャフト58が1速用クラッチC1で結合されて1速が確立する。
また、第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bが共にオンされるときは2速用油圧クラッチC2に油圧が供給されるため、カウンタ2速ギヤ70とカウンタシャフト56が結合されて2速が確立する。さらに、第1電磁ソレノイドバルブ86aがオン、第2電磁ソレノイドバルブ86bがオフされるときは3速用油圧クラッチC3に油圧が供給されるため、カウンタ3速ギヤ72とカウンタシャフト56が結合されて3速が確立する。このように、第1、第2切換バルブ84a,84bのオン・オフを制御することで、変速機46の変速段が選択される(変速制御が行われる)。
尚、油圧ポンプ60からの作動油(潤滑油)は、油路80b,80j、レギュレータバルブ88やリリーフバルブ90を介して潤滑部(例えばシャフト54,56,58など)にも供給される。また、第1、第2切換バルブ84a,84bと第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bにはそれぞれ、圧抜き用の油路80kが適宜に接続される。
図2の説明に戻ると、シフト機構52は、変速機構50のアウトプットシャフト58に接続されると共に、鉛直軸と平行に配置されて回転自在に支持されるドライブシャフト(バーチカルシャフト)52aと、シャフト52aに接続されて回転させられる前進ベベルギヤ52bと後進ベベルギヤ52cと、プロペラシャフト44を前進ベベルギヤ52bと後進ベベルギヤ52cのいずれかに係合自在とするクラッチ52dなどからなる。
エンジンカバー32の内部にはシフト機構52を駆動するシフト用電動モータ(アクチュエータ)92が配置され、その出力軸は、減速ギヤ機構94を介してシフトロッド52eの上端に接続自在とされる。従って、シフト用電動モータ92を駆動することにより、シフトロッド52eとシフトスライダ52fが適宜に変位させられ、それによってクラッチ52dを動作させてシフト位置が前進位置、後進位置およびニュートラル位置の間で切り換えられる。
シフト位置が前進位置あるいは後進位置のとき、変速機構50のアウトプットシャフト58の回転はシフト機構52を介してプロペラシャフト44に伝達され、よってプロペラ42は回転させられ、船体12を前進または後進させる方向の推力(推進力)を生じる。
また、図3に示す如く、エンジン30には発電機(ACG(交流発電機))96が接続される。発電機96はエンジン30で駆動されて発電し、その発電量はエンジン30の回転数に比例する、即ち、エンジン回転数が増加するにつれて発電量も増加する。発電機96で生じた交流電流は整流された後、バッテリ(図示せず)に供給されてバッテリを充電する。そして、バッテリから各電動モータ22,40,92、および船体12に設置された電気負荷(例えば照明器具、GPS(Global Positioning System)や魚群探知機など)98などに動作電源が供給される。
発電機96には電流センサ(発電電流検出手段)100が接続され、発電機96の発電電流を示す信号を出力する。また、スロットルバルブ38の付近にはスロットル開度センサ(スロットル開度変化量検出手段)102が配置され、スロットルバルブ38の開度(スロットル開度)THを示す出力を生じる。
エンジン30のクランクシャフトの付近にはクランク角センサ104が取り付けられ、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。また、プロペラシャフト44の付近には、電磁ピックアップからなるプロペラ回転数センサ106が取り付けられ、プロペラ42の回転数NPに応じた信号を出力する。
上記した各センサやスイッチの出力は、船外機10に搭載された電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)110に入力される。ECU110はCPUやROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなり、船外機10のエンジンカバー32の内部に配置される。
図1に示す如く、船体12の操縦席112の付近には、操船者(図示せず)によって回転操作自在なステアリングホイール114が配置される。ステアリングホイール114のシャフト(図示せず)には操舵角センサ116が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール114の操舵角に応じた信号を出力する。
操縦席112付近にはリモートコントロールボックス120が配置され、そこには操船者の操作自在に配置されるシフト・スロットルレバー(以下、単に「レバー」という)122が設けられる。レバー122は、初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からの前進/後進指示と、エンジン30の加速/減速指示を含むエンジン回転数NEの調節指示を入力する。リモートコントロールボックス120の内部にはレバー位置センサ124が取り付けられ、レバー122の位置に応じた信号を出力する。
操縦席112の付近にはメータ126が取り付けられ、例えばNMEA(National Marine Electronics Association。米国船舶用電子機器協会)で規格された通信方式で送信される電流センサ100の信号などに基づき、現在の発電機96の発電量を表示する。
さらに、操縦席112の付近には、発電量増加スイッチ(スイッチ)130と燃費低減スイッチ132とが操船者に手動操作自在に設けられる。
発電量増加スイッチ130は、例えば操船者が電気負荷98を多く使用したい場合、即ち、発電機96の発電量の増加を要求する場合に操作され(押され)、操作されるとき発電量増加要求を示す信号(オン信号)を出力する。また、燃費低減スイッチ132は、操船者が燃費を重視して走行することを所望する際に操作され、操作されるとき燃費低減要求を示す信号(オン信号)を出力する。これら各センサ116,124およびスイッチ130,132の出力もECU110に入力される。
ECU110は、入力されたセンサ出力に基づいて各電動モータ22,40,92の動作を制御すると共に、変速機46の変速制御を行う。このように、この実施例に係る船外機の制御装置は、操作系(ステアリングホイール114やレバー122)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の装置である。
図5は、ECU110の変速制御動作とエンジン制御動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、ECU110によって所定の周期(例えば100msec)ごとに実行される。尚、詳しくは後述するが、エンジン30が始動した後の通常運転時、変速機46では2速が選択されているものとする。
以下説明すると、先ずS10において、発電量増加スイッチ130がオン信号を出力しているか否か、即ち、操作者によって発電機96の発電量の増加が要求されているか否か判定する。S10で肯定されるときはS12に進み、プロペラ回転数センサ106の出力からプロペラ42の回転数NPを検出(算出)する。
次いでS14に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86b(図で「第1SOL」「第2SOL」と示す)を共にオフして変速機46の変速段を2速から1速に変速(シフトダウン)する。これにより、例えば650rpmであったエンジン30の回転数NEが750rpm程度まで上昇し、それに伴って発電機96の発電量も増加する。
次いでS16に進み、変速される前(即ち、2速時)のプロペラ42の回転数NPを維持するようにエンジン30の動作を制御する。具体的には、エンジン30のスロットル用電動モータ40を介してスロットル開度THを調整し、エンジン回転数NEを増減させることで、変速される前のプロペラ回転数NPを維持する、換言すれば、変速前と後のプロペラ回転数NPを同一または略同一となるようにする。これにより、発電機96にあっては増加後の発電量(発電出力)で一定に保たれると共に、船速は変速前と後で変わることはない。
次いでS18に進み、スロットル開度THをスロットル開度センサ102の出力から検出(算出)し、S20に進んで検出されたスロットル開度THの所定時間(例えば500msec)当たりの変化量(変動量)DTHを算出(検出)する。
次いでS22に進み、操船者によってエンジン30の加速(正確には急加速)が指示されたか否か、換言すれば、エンジン30が船舶1を加速(正確には急加速)させる運転状態にあるか否か判定する。この判定は、具体的にはスロットルバルブ38が開弁方向に急速に駆動されているか否か判断することで行う。
詳しくは、S20で検出されたスロットル開度の変化量DTHと加速判定用の所定値DTHaとを比較し、変化量DTHが所定値DTHa以上のとき、スロットルバルブ38が開弁方向に急速に駆動されている、即ち、加速が指示されたと判定する。従って、所定値DTHaは加速の指示がなされたと判定できるような値(正値)、例えば0.5degに設定される。
S22で否定されるときはS24に進み、発電機96の発電量(出力)が発熱などに起因して低下したか否か判定する。具体的には、発電量の所定時間(例えば500msec)当たりの変化量を監視すると共に、変化量が負値になった場合、発電機96の発電量が低下したと判定する。
S24で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS26に進み、S14での変速直後の発電量となるようにエンジン30の動作を制御する。具体的には、エンジン30のスロットル開度THを開方向に調整してエンジン回転数NEを上昇させ、発電機96の発電量を増やすことで、低下した分の発電量を補うようにする。このようにして発電機96の出力を安定化させる。
一方、S22で肯定、即ち、エンジン30の加速が指示されたと判定されるときは、エンジン回転数NEが上昇して発電機96の発電量が自ずと増加するような状態であるため、S28に進み、発電量増加スイッチ130の操作の有無に拘らず、スイッチ130をオフした状態にすると共に、S30に進み、発電量増加要求に基づいた変速機46の制御(変速制御)を停止(中止)してプログラムを終了する。
S10で否定、即ち、発電量増加要求がなされていないときはS32に進み、変速機46の1速から3速のうちいずれの変速段を選択すべきか判定する変速段判定処理を行う。
図6は、その変速段判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。同図を参照して説明すると、S100において、加速終了後に3速に変速されたことを示す加速後3速変速済みフラグ(後述。以下「3速変速フラグ」という)のビットが0か否か判断する。3速変速フラグは初期値が0とされるため、最初のプログラムループにおいてS100の判断は通例肯定されてS102に進み、スロットル開度THを検出し、S104に進んでスロットル開度THの変化量DTHを算出する。
次いでS106に進み、操船者からエンジン30の減速が指示されたか否か、換言すれば、エンジン30が船舶1を減速させる運転状態にあるか否か判定する。この判定は、スロットルバルブ38が閉弁方向に駆動されているか否か判断することで行い、具体的にはスロットル開度の変化量DTHが負値に設定された減速判定用の所定値DTHb(例えば−0.5deg)未満の場合、スロットルバルブ38が閉弁方向に駆動されている、即ち、減速が指示されたと判定する。
S106で否定されるときはS108に進み、クランク角センサ104の出力パルスをカウントしてエンジン回転数NEを検出(算出)し、S110に進んでエンジン回転数NEの変化量(変動量)DNEを算出する。変化量DNEは、前回のプログラムループで検出されたエンジン回転数NEから今回検出されたそれを減算して求める。
次いでS112に進み、加速後2速変速済みフラグ(以下「2速変速フラグ」という)のビットが0か否か判断する。このフラグのビットは、後述する如く、加速終了後に1速から2速に変速されるとき1にセットされる一方、それ以外のとき0にリセットされる。
2速変速フラグも初期値が0とされるため、最初のプログラムループにおいてS112の判断は通例肯定されてS114に進み、エンジン回転数NEが2速変速用の所定回転数NEa以上か否か判断する。この所定回転数NEaについては後に説明する。
エンジン始動直後のプログラムループにおいては通例、エンジン回転数NEは所定回転数NEa未満であるため、S114の判断は否定されてS116に進む。S116では、加速中判定フラグ(後述)のビットが0か否か判断する。加速中判定フラグも初期値が0とされるため、最初のプログラムループにおいてここでの判断は通例肯定されてS118に進む。
S118では、操船者からエンジン30の加速が指示されたか否か判定、具体的には前述したS22と同様、スロットル開度の変化量DTHが加速判定用の所定値DTHa以上か否か判定する。
S118で否定、即ち、エンジン30の加速または減速の指示がないときはS120に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bを共にオンして変速機46において2速の変速段を選択し、次いでS122に進み、加速中判定フラグのビットを0にリセットする。
他方、S118で肯定されるときはS124に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bを共にオフして変速機46の変速段を2速から1速に変速(シフトダウン)する。これにより、エンジン30の出力トルクは1速にシフトダウンさせられた変速機46(正確には、変速機構50)によって増幅させられてプロペラシャフト44を介してプロペラ42に伝達され、よって加速性が上昇する。
次いでS126に進み、加速中判定フラグのビットを1にセットする。即ち、このフラグは、スロットル開度の変化量DTHが加速判定用の所定値DTHa以上で、変速段が2速から1速に変速されるとき1にセットされる一方、それ以外のときは0にリセットされる。尚、このフラグのビットが1にセットされると、次回以降のプログラム実行時はS116で否定されてS118の処理をスキップする。
このように、エンジン30が始動させられてから加速が指示されるまでの通常運転時は、変速段を2速にするように構成したため、急加速以外での船外機10の使い勝手を、変速機を備えない船外機と同等とすることができる。
変速機46の変速段を1速に変速した後、エンジン回転数NEが徐々に上昇し、そして1速でのトルク増幅を利用した加速が終了すると(加速領域が飽和すると)、エンジン回転数NEは2速変速用の所定回転数NEaに到達し、よってS114の判断で肯定されてS128以降の処理に進む。従って、所定回転数NEaは、比較的高い値に設定され、詳しくは1速での加速が終了したと判断できる値(例えば6000rpm)とされる。
S128では、エンジン回転数NEが安定しているか否か判断、換言すれば、エンジン30が安定した運転状態であるか否か判断する。ここでは、エンジン回転数の変化量DNEの絶対値が第1の既定値DNE1未満の場合にエンジン回転数NEが安定していると判断する。従って、既定値DNE1は、エンジン回転数NEが安定して、変化量DNEが比較的少ないと判定できるような値、例えば500rpmに設定される。
S128で否定されるときは1速のままプログラムを終了する一方、肯定されるときはS130に進んで第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bを共にオンして変速機46の変速段を1速から2速に変速(シフトアップ)する。これにより、ドライブシャフト52aおよびプロペラシャフト44の回転数が上昇し、結果として船速が(エンジン性能上の)最高速度に到達し、速度性が向上する。
次いでS132に進んで2速変速フラグのビットを1にセットし、S134に進んで3速変速フラグのビットを0にリセットする。S132で2速変速フラグのビットが1にセットされると、次回以降のプログラム実行時はS112で否定されてS136に進む。このように、S136以降の処理は、2速変速フラグのビットが1にセットされるとき、換言すれば、1速での加速が終了した後に2速に変速される場合に実行される。
S136では、燃費低減スイッチ132がオン信号を出力しているか否か、即ち、操作者によってエンジン30の燃費低減が要求されているか否か判断する。S136で否定されるときは前述したS130からS134の処理に進む一方、肯定されるときはS138に進み、エンジン回転数NEが3速変速用の所定回転数NEb以上か否か判断する。所定回転数NEbは、2速変速用の所定回転数NEaに比して僅かに低い値であって、後述する如く3速に変速可能と判断できるような値、例えば5000rpmに設定される。
S138で肯定されるときはS140に進み、S128と同様、エンジン回転数NEが安定しているか否か判断する。具体的には、エンジン回転数の変化量DNEの絶対値が第2の既定値DNE2未満の場合にエンジン回転数NEが安定していると判断する。従って、第2の既定値DNE2は、変化量DNEが比較的少なくエンジン回転数NEが安定していると判定できるような値、例えば500rpmとされる。
S140で否定、またはS138で否定されるときはS130に進む一方、S140で肯定されるときはS142に進み、第1電磁ソレノイドバルブ86aをオン、第2電磁ソレノイドバルブ86bをオフして変速機46の変速段を2速から3速に変速(シフトアップ)する。これにより、エンジン回転数NEが低下するため、エンジン30の燃料消費量は低減、換言すれば、燃費が向上する。
次いでS144に進み、2速変速フラグのビットを0にリセットし、S146に進んで3速変速フラグのビットを1にセットする。このように、3速変速フラグは、加速終了後に2速から3速に変速されるとき1にセットされる一方、それ以外のとき0にリセットされるフラグである。尚、3速変速フラグのビットが1にセットされた後のプログラム実行時は、S100で否定されて、S142からS146の処理を実行する。
また、S106で肯定されるときはS148に進み、第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bを共にオンして変速機46の変速段を2速に変速する。その後、S150,S152,S154に進んで2速変速フラグ、3速変速フラグおよび加速中判定フラグのビットを全て0にリセットする。
図5フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS34に進み、変速機46で3速が選択されている場合において、2速へ減速(シフトダウン)すべき条件が成立しているか否か判定する3速時減速変速判定処理を行う。
図7は、その3速時減速変速判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。図7に示す如く、先ずS200において3速変速フラグのビットが1か否か判断する。S200で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS202に進んでエンジン回転数NEを検出する。
次いでS204に進み、エンジン回転数NEが3速から2速への減速用の所定回転数NEc未満に減少したか否か判断する。所定回転数NEcは、3速変速用の所定回転数NEbより低い値に設定され、3速から2速に変速すべきと判断できるような値(例えば3000rpm)とされる。
S204で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS206に進んで第1、第2電磁ソレノイドバルブ86a,86bを共にオンして変速段を3速から2速に変速する。S206の処理後はS208,S210,S212に進み、2速変速フラグ、3速変速フラグおよび加速中判定フラグのビットを全て0にリセットしてプログラムを終了する。
図8は図5フロー・チャートでの処理の一部を説明するタイム・チャートである。
図8に示すように、先ず時刻t0からt1の通常運転時においては、変速機46で2速が選択される。時刻t1で操船者によって発電量増加スイッチ130が操作されて発電機96の発電量の増加が要求されると(S10で肯定)、変速機46を2速から1速に変速する(S14)。
これにより、エンジン回転数NEは時刻t1からt2に亘って上昇し、それに伴って発電機96の発電量(出力)も増加する。そして、エンジン回転数NEが上昇し終えた時刻t2以降にあっては、変速される前のプロペラ42の回転数NPを維持するようにエンジン30の動作を制御、詳しくはエンジン回転数NEを制御する(S16。プロペラ回転数制御)。
その後、時刻t3において発電機96の発電量の低下が検知されると(S24で肯定)、変速直後の発電機96の発電量Aとなるようにエンジン30の動作を制御する(S26)。具体的には、エンジン回転数NEを上昇させて発電量を増やし、低下分を補うようにする。
以上の如く、この発明の第1実施例にあっては、エンジン30で駆動されて発電する発電機96と変速機46とを備えると共に、発電機96の発電量の増加が要求されているか否か判定し、変速機46において2速が選択されていると共に、発電量の増加が要求されていると判定されるとき、2速から1速に変速するように変速機46の動作を制御し、1速に変速されたとき、変速される前のプロペラの回転数NPを維持するようにエンジン30の動作を制御するように構成、即ち、2速から1速に変速することでエンジン回転数NEを上昇させて発電量を増加させつつ、変速前のプロペラ回転数NPを維持するように構成したので、発電機96の発電量の増加が要求されているとき、船速を変化させることなく(上昇させることなく)、発電量を増加させることができる。また、新たな発電源などの設置も不要であるため、装置の大型化を招くこともない。
また、操船者によってエンジン30の加速が指示されたか否か判定し、加速が指示されたと判定されるとき、詳しくは加速が指示されてエンジン回転数NEが上昇し、結果として発電量が増加するような状態のとき、変速制御手段による変速機の制御を停止するように構成したので、発電量の増加要求に基づいた変速機46の動作の制御を不要なとき停止(中止)できる、逆に言えば、必要な時期に限って行うことができる。
また、エンジン30のスロットル開度THの変化量DTHを検出し、検出されたスロットル開度THの変化量DTHが所定値DTHa以上のとき、エンジン30の加速が指示されたと判定するように構成したので、前記加速の指示がなされたことを正確に判定することができる。
また、操船者に手動操作自在に設けられる発電量増加スイッチ130を備えると共に、スイッチ130が操作されるとき、発電量の増加が要求されていると判定するように構成したので、簡易な構成でありながら、発電量の増加が要求されていることを正確に判定することができる。