JP5382518B2 - チタン材 - Google Patents
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Description
例えば、チタン製品を製造すべく、板状のチタン材(以下「チタン板」ともいう)は、幅広く用いられており、折り曲げ加工、張出し加工、絞り加工などといった塑性変形を伴う種々の加工が施されて各種の用途に用いられている。
このような加工が施されるチタン板には、優れた加工性が求められている。
しかし、従来、チタン板における加工性と強度とはトレードオフの関係にあり、これらを同時に満足させることが困難な状況となっている。
すなわち、従来のチタン板は、耐力が大きくなると、成形加工がしにくくなる(加工性が劣る)という問題を有している。
そして、下記特許文献1には、純チタン薄板の製造方法が開示されており、最終的な焼鈍を大気雰囲気下、(600〜800)℃×(2〜5)分の連続焼鈍で行い、さらに酸洗処理を施し、製品の平均結晶粒径(以下、粒径という)を3〜60μmに調整して表面の光沢をおさえた純チタン薄板を製造することが記載されている。
しかし、この特許文献1、2には、5μm以下の微小な結晶粒径のものが評価されたデータが殆ど示されてはおらず、特許文献2において、結晶粒径が3μmの実施例が示されてはいるものの同時に段落〔0026〕においては、「実生産上、下限は5μm程度となる。」と記載されており、結晶粒径を5μm以下とすることに対して否定的な記載がなされている。
これは、これらの文献が、光沢の抑制された建材用として優れたチタン材を得ることを目的としており、張出しや深絞り等における加工性については十分な検討がなされたものではないためであると考えられる。
たとえば、JIS1種に規定されているチタン材料では、酸素や鉄の含有量が少ないため、このJIS1種の材料を用いたチタン板は、一般に強度(耐力)は低いが延性は大きく加工性に優れている。
このJIS1種よりも酸素や鉄の含有量が多いJIS2種のチタン材料を用いると、JIS1種が用いられたチタン材よりも強度(耐力)が大きくなる一方で延性が低下して加工性が低下する傾向にある。
さらに酸素や鉄の含有量が多いJIS3種や4種は、さらに強度(耐力)が大きくなるが延性はさらに低下して加工性が大きく低下する。
すなわち、強度(耐力)と成形性はある一定の関係がある(以下、この関係を「強度(耐力)−加工性」バランスともいう)。
このような塑性変形を伴う加工が施された板材や線材は、通常、そのままの状態では内部に加工組織が形成されていることから、組織の再結晶化を行うべく仕上げ焼鈍と呼ばれる工程が実施されて二次加工用の部材として利用されている。
例えば、チタン板であれば、冷間圧延等の加工を行って所定の厚みに調整した後にバッチ焼鈍や連続焼鈍などを実施して、内部の加工組織を再結晶化させ等軸状の結晶粒(以下、「再結晶粒」という)を形成させることが行われている。
そして、この再結晶粒は、焼鈍の時間経過などに伴って大きく成長し、特に再結晶粒の粒径が小さな再結晶開始直後においては、再結晶粒の成長速度が大きく、比較的短時間に5μmを超える大きな粒径となってしまう。
そして、このような大きさにまで再結晶粒が成長すると、通常、未再結晶部(加工組織)が残存しておらず再結晶粒による等軸状の組織がチタン材内部に形成されることとなる。
具体的には、所定の厚みにまで冷延した工業用純チタン板を、電気炉を用いて真空中で仕上げ焼鈍し、その温度及び時間を変更して組織の異なる種々のチタン板を試作し、これらの強度(耐力)と加工性(延性)を引張試験及びエリクセン試験によって評価し本発明を見出した。
そして、このチタン板のミクロ組織を詳細に調査した結果、仕上げ焼鈍により再結晶した粒の他に、未再結晶部が多く認められた。
この未再結晶部の量に基づいて「強度(耐力)−加工性バランス」を検討したところ、特に、断面積に占める未再結晶部の面積率が30%を超えると加工性が極端に低下することを見出した。
なお、ここで未再結晶部とは、塑性加工による加工組織が残存している部分を意味する。
本実施形態におけるチタン板は、鉄(Fe)の含有量が0.60質量%以下、酸素(O)の含有量が0.15質量%以下、残部がチタン(Ti)および不可避不純物からなるチタン材料によって板状に形成されている。
該チタン板は、塑性変形を伴う加工が施された後に焼鈍が施されて形成されたものであり、内部に前記加工に伴う加工組織と、前記焼鈍にともなう再結晶組織とを有し、しかも、該再結晶組織の結晶粒の平均粒径が1μm以上5μm以下であるとともにその断面積に占める未再結晶部の面積が0%を超え30%以下となるように形成されている。
なお、Feの含有量の上限値が0.60質量%であるのは、チタン材料において、Feはβ相安定化元素でありFeの含有量が0.60質量%を超えるとチタン板を構成する組織においてα相以外にβ相が多く生成されるおそれを有するためである。
すなわち、形成されるβ相の大きさによっては、延性を大きく低下させたり、耐食性を低下させたりするため、チタン材料に含まれるFeの含有量を0.60質量%以下とすることが高強度且つ加工性に優れたチタン板を形成させるという点において重要である。
したがって、チタン板のコストなどの観点からは、Feの含有量が0.01質量%以上0.60質量%以下とされることが好ましい。
したがって、本実施形態におけるチタン板は、その成分として鉄の含有量が、0.01〜0.60質量%とされることで、クロール法によるスポンジチタンの殆どの材料が利用可能であり、使用材料に殆ど制約が加えられないという点において成形品の形成に用いられる消費材として好適であるといえる。
本実施形態のチタン板を形成しているチタン材料中のO含有量が0.15質量%以下とされているのは、O含有量が0.15質量%以上になると、結晶粒を細かくして「強度−加工性バランス」の向上を図ろうとしても、強度が向上し過ぎるあまりに加工性の付与が十分なものとならないおそれを有し、張出しや深絞り等の加工に適したチタン板とすることが難しくなるためである。
したがって、O含有量は、0.015質量%以上0.15質量%以下であることが好ましい。
より具体的には、C、N、Hの含有量は、それぞれ、0.02質量%未満とされることが重要である。
さらに、好ましくは、Cの含有量を0.01質量%以下、Nの含有量を0.01質量%以下、Hの含有量を0.01質量%以下とすることが好ましい。
チタン板の加工性の観点からは、上記C、N、Hの含有量に下限を定めるものではないが、これらの含有量を極端に低下させようとするとチタン板の製造コストを大幅に増大させるおそれがある。
このコストアップ抑制の観点からは、C含有量を0.0005質量%以上、Nの含有量を0.0005質量%以上、Hの含有量を0.0005質量%以上とすることが好ましい。
また、下限値が1μmとされているのは実生産上(工業的に実施可能な方法)で加工(圧延、鍛造等)を行い、その後焼鈍する場合において平均結晶粒が1μmより小さくなると、後段において述べる未再結晶部(加工組織)の面積率が多くなり、強度が非常に大きくなるが、延性が大きく低下し、優れた「強度−成形性バランス」を実現させることが難しくなるためである。
冷延等によって形成された加工組織で構成されているチタン板は、高い強度を示す一方で延性が非常に小さい。
そのため、従来は焼鈍によって加工組織を等軸状の組織に再結晶化させることが行われており、チタン板に加工組織が残存されない程度に十分な焼鈍時間が設けられていた。
一方で、本実施形態におけるチタン板には、後段において述べるような焼鈍条件を採用することによって前記加工組織をチタン板中に残存されており、しかも、再結晶粒の粒径が上記のように調整されている。
この未再結晶部の面積率が30%より大きくなるとチタン板の強度は、より大きくなるが、延性が低下し、優れた加工性をチタン板に発揮させることが難しくなる。
その結果、優れた「強度−成形性バランス」を得ることができなくなるおそれを有する。
この優れた「強度−成形性バランス」をより確実にチタン板に付与させうる点においては、未再結晶部の面積率は10%以下であることが好ましい。
なお、下限値は、特に限定されるものではないが未再結晶部がなくなる(面積率が0%になる)と、再結晶粒の粒径が急速に大きくなる。
そのため、再結晶粒の粒径をより確実に先述の範囲内に調整させ得る点において未結晶部の面積率は0.1%以上とすることが好ましい。
この内、連続式の仕上げ焼鈍は、冷延コイルを展開して焼鈍炉内にチタン板を一定速度で通板させることにより焼鈍する方法であり、通板速度によって加熱温度の保持時間を制御できる。
従来のチタン板における仕上げ焼鈍では、連続式の場合、加熱温度は700〜800℃で、加熱時間は数十秒から2分間程度とされている。
一方でバッチ式の仕上げ焼鈍は、チタン板のコイルをコイルの状態のまま焼鈍炉内で加熱する方法であり、コイルの表層部と内部との熱の加わり方の差を小さくするためにゆっくりと加熱され、冷却速度も非常に遅い。
従来のチタン板における仕上げ焼鈍では、バッチ式の場合、加熱温度は550〜650℃で、加熱時間は3時間から30時間程度とされている。
この好ましい加熱条件として、10秒以上の時間が選択されているのは、加熱温度の保持時間が10秒間より短いと、所定の焼鈍をチタン板に実施するために、通板速度や加熱温度等の操業条件の適正な範囲が非常に狭くなって、装置やその操作に精度の高い管理が要求されることになるためである。
一方で、加熱時間として、10分以下の条件が好ましいのは、10分間以上の時間を掛けると、通板速度を遅くしなければならず、生産性が低下するためである。
さらに、650℃以下の加熱温度が選択されているのは、650℃よりも高い温度では10秒間の加熱時間でもチタン板の再結晶が完了してしまって、再結晶粒が5μm以上の平均粒径にまで成長するおそれを有するためである。
この加熱時間として、3時間以上の条件が好ましいのは、加熱時間が3時間より短いと、コイルの大きさにもよるが、コイルの内部の温度が所定の温度まで到達しない可能性があるためである。
一方で、加熱時間として、50時間以下の条件が好ましいのは、50時間以上の時間を掛けると、焼鈍に要する時間が長くなりすぎてチタン板の生産性が低下するためである。
あるいは、所定の生産量を確保するには、焼鈍炉(加熱設備)を何基も保有しなければならず設備費が高価になるとともに設置のための広いスペースも必要なるためである。
なお、バッチ式ではコイル状態のままで加熱するため、コイルの表層部と内部で温度の上昇速度が異なり、目標とする温度に到達するまでの時間も異なる。
コイルの大きさ、加熱温度や焼鈍炉の加熱能力によるが、一般には、目標温度に到達する時間には数十分から数時間もの差がある。
このため、加熱時間が多少異なっても、再結晶した粒径にあまり差が生じない、すなわち、再結晶粒の成長速度が遅い温度範囲に加熱することが重要である。
以上のようにして、再結晶の平均粒径と、未再結晶部(加工組織)の残存割合を焼鈍条件によって調整することによって、優れた「強度−成形性バランス」を有するチタン板を得ることができる。
また、本実施形態においては、チタン材の例としてチタン板を挙げているが、優れた「強度−成形性バランス」が発揮される点においては、チタン板に限らず、例えば、線材、棒材、管材等種々の形態のチタン材においても同じであり、これらのチタン材も本発明が意図する範囲のものである。
(サンプルNo.1〜45)
(テストピースの作製)
小型真空アーク溶解によって鋳塊(φ140mm)を作製し、該鋳塊を1050℃に加熱後、鍛造して厚さ50mmのスラブを作製した。
該スラブを850℃で厚さ5mmまで熱延した後、750℃で焼鈍し、ショット、酸洗し表面のスケールを除去して板材を作製した。
さらに、この板材を冷延して厚さ0.5mmの板状試料(チタン板)を作製した。
この厚さ0.5mmのチタン板に対して、400〜800℃の温度で、48時間以下の仕上げ焼鈍をアルゴンガス雰囲気中で実施し結晶粒の調整されたテストピースを作製した。
表面のスケールが除去された熱延後の板材を用いて、チタン板に含有される鉄量と酸素量とを測定した。
鉄含有量は、JIS H1614に準じて測定し、酸素含有量は、JIS H1620に準じて測定した。
また、上記のごとく結晶粒度が調整されたテストピース(チタン板)の引張強度をJIS Z 2241に準じて測定をした。
また、上記のごとく結晶粒度が調整されたテストピース(チタン板)の加工性を評価した。
評価は、JIS Z2247に準じて、潤滑剤としてグラファイトグリースを用いたエリクセン値の測定により実施した。
チタン板のミクロ組織を観察して結晶粒(再結晶したα粒)や未再結晶部(加工組織)の組織写真を得た。
なお、観察には、光享顕微鎮あるいは透過型電子顕微鏡を用いた。
透過型電子顕微鏡により観察した組織写真の例を図1(サンプルNo.28のミクロ組織)に示す。
この組織写真においては、再結晶したα粒と未再結晶部が写っている。
この写真を、画像解析ソフトを用いて未再結晶部以外の面積を求めて、再結晶しているα粒の平均面積を求め、該平均面積と同じ面積を有する円の直径を計算により求めて再結晶粒の平均粒径とした。
また、未再結晶都の面積より、未再結晶部の面積率を求めた。
以上の結果を、表1に示す。
また、サンプルNo.43〜45は、未再結晶部をあえて残存させるように焼鈍条件を調整したものであるが、未再結晶部をその面積率が30%を超える状態で残存させたものである。
この表1からもわかるように未再結晶部が含まれることにより平均粒径を小さく抑えることができ、大きな耐力が発揮されるようになっている。
上記の評価においては、総じて、耐力が大きくなるほど、加工性(エリクセン値)は低下する傾向にあるが、同程度の加工性(エリクセン値)で比較すると、未再結晶部を存在させることで耐力が大きくなっており、高強度であることがわかる(例えば、サンプルNo.1と31、9と34、15と39との比較参照)。
すなわち、結晶粒が5μm以下の大きさで未再結晶部が30%以下であれば、「耐力−加工性バランス」が良好であることがわかる。
一方で、サンプルNo.43〜45に示したように、仕上げ焼鈍後に未再結晶部の面積が30%よりも多いと、加工性(エリクセン値)が大きく低下している。
このNo.1〜45の耐力とエリクセン値との関係を図2に示す。
図中に黒丸の凡例で示されるものがNo.1〜30の結果を表すものであり、白丸の凡例で示されるものがNo.31〜42の結果を表すものであり、バツ印の凡例で示されるものがNo.43〜45の結果を表している。
この図2からも、本発明によれば高強度であり、しかも、加工性に優れたチタン板が提供され得ることがわかる。
(サンプルNo.A〜H)
(実機試験)
(テストコイルの作製)
真空アーク溶解によって鋳塊(φ750mm)を作製し、該鋳塊を850〜1000℃
に加熱後、鍛造して厚さ170mmのスラブを作製した。
該スラブを850℃の温度になるまで加熱した後、厚さ3.5mmまで熱延し、該熱延されたものを750℃の温度で焼鈍した後、ショット、酸洗して表面のスケールを除去し熱延コイルを作製した。
この熱延コイルを冷延して厚さ0.4〜0.8mmの冷延コイルとした。
この冷延コイルは、冷延油等の油脂類を洗浄除去した後、真空焼鈍炉に挿入した。
冷延コイルを収容させた真空焼鈍炉の炉内を真空にした後、アルゴンガスで置換して450〜650℃に加熱して4〜36時間保持するバッチ式の焼鈍(表2「焼鈍条件」参照)を実施して再結晶粒の大きさを調整した。
得られたチタン板から「成分測定」、「引張強度測定」、「加工性評価」、「組織調査」を上記の評価1と同様に評価すべく必要な大きさの試料を採取し、前記評価を実施した。結果を、表2に示す。
上記サンプルNo.A、B、Cでは耐力が200MPa以上でエリクセン値が13mm程度の加工性に優れたチタン板が得られている。
また、サンプルNo.D、Eでは、耐力が400MPa程度の高強度でありながら、エリクセン値が10mm程度の加工性の良いチタン板が得られている。
一方で、サンプルNo.F〜Hでは、加工性が優れているものの耐力が200MPaよりも小さく強度が十分でない。
このことからも、本発明によれば高強度であり、しかも、加工性に優れたチタン板が提供され得ることがわかる。
Claims (1)
- 鉄の含有量が0.60質量%以下、酸素の含有量が0.15質量%以下であり、残部がチタンおよび不可避不純物からなるチタン材料によって形成されたチタン材であって、
塑性変形を伴う加工が施されて形成された加工組織と、前記加工後に焼鈍が施されて形成された再結晶組織とを有し、該再結晶組織の結晶粒の平均粒径が1μm以上5μm以下であり、断面積に占める未再結晶部の面積が0%を超え30%以下となるように形成されていることを特徴とするチタン材。
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